生体分解性金属を含むインプラントおよびその製造方法
【課題】生体分解性として生体分解速度が容易に制御され得、強度に優れ、骨組織との界面力に優れ、骨代替物または骨治療などに使うことができるインプラントおよびその製造方法の提供。
【解決手段】生体分解性マグネシウムまたはマグネシウム系合金(以下、マグネシウム系合金と通称する)からなる構成を有するインプラント。および、インプラント表面に生体分解性マグネシウム系合金からなるコーティング層を備えた構成を有するインプラントまたは一部にマグネシウム系合金が適用されたインプラントおよびそれらの製造方法。
【解決手段】生体分解性マグネシウムまたはマグネシウム系合金(以下、マグネシウム系合金と通称する)からなる構成を有するインプラント。および、インプラント表面に生体分解性マグネシウム系合金からなるコーティング層を備えた構成を有するインプラントまたは一部にマグネシウム系合金が適用されたインプラントおよびそれらの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインプラントおよびその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、生体分解性として生体分解速度が容易に制御され得、強度に優れ、骨組織との界面力に優れ、骨代替物または骨治療などに使うことができるインプラントおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療的治療を目的で用いられるインプラントの代表的材料は優れた機械的性質および加工性を有している金属材料である。しかし、金属の優れた性質にもかかわらず、金属性インプラントはいくつかの問題点を有しており、応力遮蔽現象(stress shielding)、イメージ歪み(image degradation)、インプラント移動(implant migration)などがそれらである。
【0003】
このような金属性インプラントの短所を克服するために生体分解性インプラントの研究開発が提起された。このような生体分解性材料の医学的適用は、1960年代半ばからポリ乳酸(polylactic acids、PLA)、ポリグリコール酸(polyglycolic acid、PGA)、またはこれらの共重合体(copolymer)であるPLGAなどの高分子を中心に既に研究し始めた。しかし、前述した生体分解性高分子は低い機械的強度、分解時の酸発生問題、生体分解速度制御の難しさなどによりその応用が制限され、特に機械的強度の低い高分子特性のために強い荷重を受ける整形外科分野や歯科分野のインプラントへの適用には困難があった。
【0004】
前記のような生体分解性高分子の短所を克服するためにいくつかの生体分解性材料が研究され、代表的なものとしてはトリカルシウムホスフェート(tri−calcium phosphate、TCP)のようなセラミックや、生体分解性高分子と生体分解性ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite、HA)の複合材料などがある。しかし、このような材料の機械的特性が生体分解性高分子に比べて著しく変わったことはなく、特にセラミック材料のぜい弱な耐衝撃性は生体材料としての致命的な短所として提起された。また、生体分解性物質などの制御方法は、依然として明らかになったことはなく、実効性に疑問がある。
【0005】
一方、金属性インプラントの短所を克服するために、インプラント材料そのものに対する研究の他に、コーティング方法によって金属性インプラントの表面を改質する方法が試みられている。コーティング技術を用いた金属性インプラントの表面改質の目的としては大きく2つがある。第1に、金属性インプラントと金属または非金属材料との界面の耐摩耗性や耐食性を改善するためであって、DLC(Diamond−Like Carbon)コーティングなどがその例である。第2に、金属性インプラントと骨組織との界面結合力を高めるためであって、骨組織との結合力の高い物質で金属インプラントをコーティングすることである。この時、主に用いられる材料としては骨成分と類似するヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite、HA)がある。また、骨組織との結合力を高めるために骨セメント(bone cement、PMMA)を利用してインプラントをコーティングしたりもする。
【0006】
その中、HAは、生体適合性に優れるだけでなく、骨組織と類似する成分および構造を有しており、化学的結合による骨組織との界面結合力に優れていると知られている。しかし、HAが骨組織との化学的結合力には優れる反面、インプラントとの界面結合力は落ちるため、インプラントの表面から脱落したHA微粒子が深刻な問題として台頭した。股関節置換術で脱落したHAがポリエチレン寛骨臼カップ(acetabular cup)から発見されており、HAによる寛骨臼カップの激しい摩擦性摩耗と磨耗したポリエチレンによる骨溶融が観察された。
【0007】
したがって、HAとインプラントとの結合力を高めるための多くの試みがなされており、そのうちの一つがコーティング方法を改善することである。HAコーティング時に最も普遍的に用いられる方法はプラズマ溶射(plasma spraying)技法である。この方法を利用すれば、HA粒子が噴射される過程で結晶状態のHAが非結晶相(amorphous)のカルシウムホスフェート(calcium phosphate)状態で付着され、インプラントとコーティング材が機械的に接合されるため、接着強度が低くて容易にHAカルシウムホスフェート粒子が脱落する。このような問題を解決するための様々な方法が試みられているが、現在としては実用性の面で疑問がある。また、結晶相の維持だけでなく、コーティング厚さ、均一性の維持などの多くの技術的問題がある。材料学的な観点において、HA粒子脱落の最も重要な理由は一種のセラミックであるHAコーティング材料と金属性インプラント材料との化学的不一致である。したがって、界面結合力はコーティング技術の改善努力にもかかわらず、一定の限界を有せざるを得ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、生体分解性を有しつつ、生体分解速度が容易に制御され得、強度に優れ、骨組織との界面力に優れたインプラントおよびその製造方法を提供することにより、既存の金属インプラントおよび生分解性高分子インプラントが有していた前述した従来技術の問題点を解決しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は生体分解性マグネシウム系合金を含むインプラントを提供する。本発明の一実現例に係るインプラントは、生体分解性マグネシウムまたはマグネシウム系合金(以下、マグネシウム系合金と通称する)からなる構成を有する。本発明のまた他の一実現例に係るインプラントは、インプラント表面に生体分解性マグネシウム系合金からなるコーティング層を備えた構成を有する。
【0010】
前記生体分解性マグネシウム系合金としては、一般式MgaCabXc(a、bおよびcは各成分のモル比として、0.5≦a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4であり、Xは微量添加元素である)で示されるものを用いることができる。前記Xは当技術分野でインプラントの製造時に添加される微量添加元素であれば特に限定されず、例えば、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、ニオビウム(Nb)、タンタル(Ta)、チタニウム(Ti)、ストロンチウム(Sr)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、珪素(Si)、リン(P)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)のうちから選択される1種以上が含まれ得る。但し、ニッケル(Ni)が添加される場合には、生体毒性減少および腐食速度制御のためにニッケル(Ni)の含有量は100ppm以下であることが好ましく、より好ましくは50ppm以下が好適である。鉄(Fe)が添加される場合には、鉄(Fe)はマグネシウム系合金の腐食速度増加に非常に大きい影響を及ぼし、微量の鉄(Fe)がマグネシウム(Mg)と共に含まれていても鉄(Fe)はマグネシウム(Mg)に取り込まれることができず独立した粒子で存在してマグネシウム(Mg)の腐食速度を増加させ、マグネシウム(Mg)が生体内で分解されながら、マグネシウム系合金内部に独立して存在する鉄(Fe)粒子が生体内部に流入され得る。したがって、鉄(Fe)は精密にその含量が決定されるべきであり、1,000ppm以下で制御されることが好ましく、より好ましくは500ppm以下が好適である。
【0011】
また、マグネシウム(Mg)にカルシウム(Ca)をはじめとする第2および第3の元素が多量に添加される場合、合金内部に脆性の強い析出相や中間化合物が形成される。したがって、インプラントの製造過程で合金素材が破壊されることもあり、押し出しおよび鍛造のような2次加工時にも材料が容易に破壊され、インプラント製品を製造するための旋盤加工時にも材料が容易に破壊され加工が容易ではない。図1は、不純物である鉄(Fe)が0.001%、ニッケル(Ni)が0.0035%含まれた純粋マグネシウム(Mg)にカルシウム(Ca)を33%添加して鋳造したMg−33%Ca合金素材の外観写真である。鋳造後に合金材の上端部が破壊されたことが分かり、その後の運搬および切断過程で合金材がいくつかの欠片に分離した。また、押し出し過程では押し出し温度を摂氏450度以上に上げてこそ作業が可能であった。したがって、現実的に第2および第3の添加元素を40%以上添加することは実効性がないと判断し、本発明では第2および第3の元素添加量b、cを0.4(40%)以下に限定しようとする。
【0012】
本発明は生体分解性マグネシウム系合金を用いたインプラントの製造方法を提供する。本発明の一実現例に係るインプラントの製造方法は、生体分解性マグネシウム系合金を溶融させるステップ、および溶融された生体分解性マグネシウム系合金を成形するステップを含む。本発明のまた他の一実現例に係るインプラントの製造方法はインプラント表面にマグネシウム系合金をコーティングするステップを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る生体分解性マグネシウム系合金からなるインプラントは合金組成および製造工程によって差はあるが、高強度マグネシウム系合金の場合、既存の生体分解性高分子の強度より2倍以上の強度を有するため、強い荷重を受ける腰椎における骨融合材料や歯科用インプラントなどに適用する時、初期の安定性を維持するのに好適に用いられ得る。また、本発明に係るインプラントは、生体内で分解されると同時にインプラント内に骨組織が育って入ってきてインプラントと骨組織の界面力に優れ、生体分解速度が骨組織の形成程度と比例して進行するように容易に制御することができる。これにより、骨融合が起こる前に安定性を失わないようにし、生体内分解による急激なイオンの放出を制御することによって安定的に骨形成をすることができる。
【0014】
一方、本発明に係る生体分解性マグネシウム系合金からなるコーティング層を有するインプラントは、コーティング層によって強度、インプラントと骨組織との界面力および生体分解速度制御の面で優れた特性を示すだけでなく、インプラント母材として金属材料を用いる場合、マグネシウム系合金コーティング層と母材である金属インプラントの両方とも金属であるためにコーティング層とインプラントの界面接着力に優れる。
【0015】
したがって、本発明に係るインプラントは骨代替物または骨治療などへの応用に好適であり、整形外科用、歯科用、形成外科用または血管用などとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】Mg0.67Ca0.33鋳造材の外観写真である。
【図2】純粋Mg(Fe0.001−0.04%、Ni0.0035−0.001%)鋳造材の断面写真である。
【図3】Mg0.992Ca0.008合金の断面写真である。
【図4】Mg0.95Ca0.05合金の断面写真である。
【図5】Mg0.895Ca0.105合金の断面写真である。
【図6】Mg0.77Ca0.23合金の断面写真である。
【図7】Mg0.67Ca0.33合金の断面写真である。
【図8】Mg0.67Ca0.33合金をガスブローイング(gas blowing)法によって超急冷させた試片の断面写真である。
【図9】Mg0.95Ca0.05合金鋳造材を押し出しした後の長さ方向と水平方向の断面写真である。
【図10】Ca添加量を異にして製造したMg合金鋳造材の圧縮強度実験結果である。
【図11】Ca添加量を異にして製造したMg合金鋳造材を押し出しした後に測定した圧縮強度である。
【図12】不純物含量、Ca添加量、押し出し加工有無に応じたMg素材の腐食電流密度変化の測定結果である。
【図13】不純物含量、Ca添加量、押し出し加工有無に応じたMg素材の腐食電流密度変化と降伏強度を共に示す図である。
【図14】生体分解性マグネシウム系合金を用いた金属インプラントの表面改質とその効果を示す概略図である。
【図15】スパッタリング法によってTi合金インプラント表面に形成されたマグネシウム系合金コーティング層の断面の様子である。
【図16】スパッタリング法によってTi合金インプラント表面に形成されたマグネシウム系合金コーティング層をスクラッチした後に観察した様子である。
【図17】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した時、マグネシウム系合金が分解されたところに形成された骨を示す写真である。
【図18】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時のAST肝機能酵素の変化数値を示すものである。
【図19】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時のALT肝機能酵素の変化数値を示すものである。
【図20】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時のクレアチニン酵素の変化数値を示すものである。
【図21】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時の血液尿素窒素(BUN)の変化数値を示すものである。
【図22】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時のヘモグロビンの変化数値を示すものである。
【図23】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時の白血球の変化数値を示すものである。
【図24】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時のヘマトクリット(Hct)の変化数値を示すものである。
【図25】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時のアルカリ性ホスファターゼの変化数値を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0018】
本発明に係るインプラントは前述したような効果を有するため、整形外科用、歯科用、形成外科用または血管用インプラントとして用いることができる。
【0019】
具体的に、前記インプラントは移植(graft)を必要としない脊椎用インターボディースペーサー(interbody spacer)、ボーンフィラー(bone filler)、ボーンプレート(bone plate)、ボーンピン(bone pin)、スキャフォールド(scaffold)などのインプラントとして用いることができる。
【0020】
マグネシウム系合金およびそれを用いたインプラントの製造方法を具体的に説明すれば次の通りである。
【0021】
一般的にマグネシウムは非常に低い温度(約450℃)で発火するために溶融時に特別な措置が必要である。商業用マグネシウム系合金の製造工程では、マグネシウム系合金にBeを微量(10ppm以下)添加し、SF6、CO2、dry air混合ガスを用いて溶湯表面を覆う。このようにすると、溶湯表面にMgNx、BeO、MgO、MgF2、MgSなどからなる緻密な混合被膜が形成され、マグネシウム系合金溶湯が酸素と反応することを防止するために安定した作業が可能である。しかし、生体材料のように不純物の混入に慎重を期しなければならない場合には、マグネシウム系合金にBeのような酸化物形成元素を添加できないため、マグネシウム系合金と反応しないアルゴン(Ar)のような不活性ガス雰囲気または真空雰囲気でマグネシウム系合金を溶融することが好ましい。マグネシウム系合金を溶かすためには抵抗体に電気を加えて熱を発生させる抵抗加熱方式、誘導コーティングに電流を流して誘導加熱する方式、またはレーザや集束光による方法などの様々な方法を用いることができるが、抵抗加熱方式が最も経済的である。マグネシウム系合金の溶融時、構成元素がよく混合できるように溶融合金(以下、溶湯)を攪拌することが好ましい。
【0022】
本発明の一実現例によれば、前述した方式によって溶融されたマグネシウム系合金をインプラント形状に成形することによってインプラントを提供することができる。前記溶融されたマグネシウム系合金を用いたインプラント成形方法としては当技術分野に知られている方法を使うことができる。例えば、溶融された合金を冷却によって固体化することができる。
【0023】
前記冷却工程では、マグネシウム系合金の機械的強度を向上させる目的で、溶融されたマグネシウム系合金を急速に冷却させることができる。この時、ルツボを水に浸漬させる方法を利用することができる。また、前記冷却工程でマグネシウム系合金をアルゴンガスなどの不活性ガスを用いて噴霧する方法を利用することができ、この場合には遥かに高い速度で冷却され非常に微細な組織になり得る。しかし、このように小さい大きさにマグネシウム系合金を鋳造する場合、内部に多数の気孔(黒い部分)が形成され得る。
【0024】
また、前記溶融された合金を押し出し工程によって成形することができる。この場合、マグネシウム系合金の組織が均一になり、機械的性能が向上されることができる。マグネシウム系合金の押し出しは摂氏300−450度の範囲で行われることが好ましい。また、マグネシウム系合金の押し出しは、押し出し前後の断面積減少比率(押し出し比)を10:1〜30:1の範囲内にして行うことができる。押し出し比が大きくなるほど、押し出し材の微細組織が均一になり、鋳造時に形成された欠陥が容易に除去されるなどの長所があるが、この場合、押し出し装置容量を増加させることが好ましい。
【0025】
前記成形ステップにおいて、インプラントの形状に成形する方法としては当業界における公知の金属加工方法を使って行うことができる。例えば、最終製品に近い形態に加工されたモールドに前述したように溶融されたマグネシウム系合金を注いで直接鋳造する方法、棒状や板状などの中間材に製造した後、これを旋盤またはミル加工する方法、マグネシウム系合金を大きい力で加圧鍛造して最終製品の形状に製造する方法などにより、所望の形態と用途を有するインプラントを製造することができる。
【0026】
また、必要により、製造されたマグネシウム系合金製品に表面研磨やコーティングをさらに行うことによって製品の質を高めることができる。
【0027】
本発明のまた他の一実現例によれば、当技術分野に知られているインプラントを前述した方式で溶融されたマグネシウム系合金でコーティングすることにより、表面に生体分解性マグネシウム系合金からなるコーティング層を備えたインプラントを提供することができる。
【0028】
インプラント表面にマグネシウム系合金をコーティングする方法としては当技術分野に知られている様々な方法を使うことができる。例えば、コーティング方法としては、溶融されたマグネシウム系合金が入れられたルツボ(crucible)にインプラント母材を浸漬し、表面にマグネシウム系合金がコーティングされるようにする方法である浸漬コーティング法、インプラント母材より直径が若干大きいモールドにインプラント母材を入れ、その間の隙間にマグネシウム系合金を注入してマグネシウム系合金をコーティングする方法である固相/液相クラッディング法、この固相/液相クラッディング法を改良し、インプラント母材をこれより直径の大きいモールドの間を通過させ、その間にマグネシウム系合金を注入して連続してコーティングがなされるようにする方法である連続固相/液相クラッディング法、マグネシウム系合金ワイヤー(wire)を製造した後、インプラント母材とマグネシウム系合金ワイヤーを接近させながら電流を通し、マグネシウム系合金ワイヤーが溶けて母材表面にコーティングされるようにする方法であるTIGまたはMIG溶接法、マグネシウム系合金粉末をインプラント母材表面に置いておき、熱源、例えば、レーザ、光、イオンビームなどを加え、マグネシウム系合金粉末が溶けてインプラント母材表面にコーティングされるようにする方法であるレーザ、集束光またはイオンビーム溶接法、合金されたマグネシウム系合金素材にRF(Radio frequency)電流、直流電流またはイオンビームを加え、マグネシウム系合金の構成元素が原子単位で放出され、インプラント母材表面に蒸着されるようにする方法であるスパッタリング法などがある。本発明では前記で列挙していない他のコーティング方法も使用可能である。適正なコーティング方法は目的とするコーティング層の厚さ、コーティング材の清浄度、価格などに応じてそれぞれ異なるものを選択することができる。例えば、浸漬法は厚さ100μm以上の厚膜コーティング層を経済的にコーティングすることができる。その反面、スパッタリング法は1μm以下の薄膜を形成するのに有用であり、清浄コーティング層を形成できる長所がある。
【0029】
マグネシウムは非常に低い温度(約450℃)で発火するため、上記で列挙したコーティング方法はマグネシウム系合金が酸素と接触しないように真空雰囲気で作業を行うか、またはアルゴン(Ar)ガスなどのような不活性ガスでコーティングがなされる部分を遮へい(shielding)して作業を行うことが好ましい。
【0030】
本発明において、マグネシウム系合金でコーティングされるインプラントは金属性、生体分解性高分子または生体素材であり得るし、その材料に限定されない。インプラントとして金属性を用いる場合、マグネシウム系合金と金属性インプラントは金属−金属結合としてHA(セラミック)−金属結合より化学的結合力に優れ、マグネシウム系合金と骨組織との結合力は新しい骨組織の形成により界面結合力が向上する。本発明において、前記インプラントをマグネシウム合金でコーティングする前に表面を洗浄することが好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例によってマグネシウム系合金の製造およびそれを用いたインプラント製造を例示する。但し、以下の実施例は本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0032】
マグネシウム系合金の製造
実施例1
純粋マグネシウムを用いたインプラント素材の製造
不純物含量が低い高純度素材の場合にも、純度が高いほど、素材の製造単価が幾何級数的に増加して商業的価値が落ちる。本実施例においては、インプラント素材として使用可能なマグネシウムにおける不純物の濃度を決定するために、Fe、Niの含量を異にしてマグネシウムを製造し、その腐食特性を評価した(以下、不純物濃度が0.01%以下であるMgを純粋Mgまたは100%Mgという)。試薬用超高純度マグネシウム(99.9999%)にFeとNiを各々、1)400ppm(0.04%)、10ppm(0.001%)、2)70ppm(0.007%)、5ppm(0.0005%)、3)10ppm(0.001%)、35ppm(0.0035%)混ぜたマグネシウムをステンレス鋼(SUS410)で製作された内部直径50mmのルツボ(Crucible)に装入した。その次、ルツボの中のマグネシウムが空気と接触しないようにルツボ周囲にアルゴン(Ar)ガスを流しながら、抵抗加熱炉を利用してルツボの温度を約700℃から750℃の範囲に上げてマグネシウムを溶融した。溶融されたマグネシウムと不純物が互いによく混合されるようにルツボを揺さぶって攪拌させた。完全に溶融されたマグネシウムを冷却して固体状態のマグネシウムを製造した。また、冷却させる時には、マグネシウムの機械的強度を向上させる目的でルツボを水に浸漬させ、溶融されたマグネシウムが急速に冷却されるようにした。図2は、純粋Mg(Fe0.001−0.04%、Ni0.0035−0.001%)鋳造材の断面を研磨して光学顕微鏡で観察した写真である。
【0033】
実施例2
Mg−Ca合金の製造
マグネシウムとカルシウムを混合したマグネシウム系合金を製造した。不純物FeとNiが各々10ppm(0.001%)、35ppm(0.0035%)である99.995%純度の純粋MgにCaを0.8%、5%、10.5%、23%、33%混ぜた後、ステンレス鋼(SUS410)で製作された内部直径50mmのルツボ(Crucible)に装入した。その次、ルツボの中のマグネシウム系合金が空気と接触しないようにルツボ周囲にアルゴン(Ar)ガスを流しながら、抵抗加熱炉を利用してルツボの温度を約700℃から1000℃の範囲に上げてマグネシウム系合金を溶融した。完全に溶融されたマグネシウム系合金を冷却して固体状態のマグネシウム系合金を製造した。溶融されたマグネシウム系合金の構成元素が互いによく混合されるようにルツボを揺さぶって攪拌させた。また、冷却させる時には、マグネシウム系合金の機械的強度を向上させる目的でルツボを水に浸漬させ、溶融されたマグネシウム系合金が急速に冷却されるようにした。
【0034】
図3〜図7は、各々、Mg0.992Ca0.008、Mg0.95Ca0.05、Mg0.895Ca0.105、Mg0.77Ca0.23、Mg0.67Ca0.33合金を上記で記した方法で製造した後、その断面を研磨して光学顕微鏡で観察したものである。Mg0.992Ca0.008合金は灰色のMgが大部分の面積を占めており、一部濃い灰色のMg2Ca化合物とMgの混合領域が若干表れている。Ca量が増加するほど、濃い灰色部分(Mg2Ca化合物とMgの混合領域または工程領域という)の面積が増加する。また、製造されたMgCa合金試片全てには内部に気孔のような欠陥がなくて良好に製造されたことが分かる。
【0035】
実施例3
ガスブローイング(gas blowing)を用いた急速冷却によるMg−Ca合金の製造
マグネシウム系合金を加熱炉で溶かした後、直径約3mmの微細な穴に溶融されたマグネシウム系合金をアルゴンガスで噴霧する方法で強制注入して凝固させる方法によって急速冷却されたマグネシウム系合金素材を製造した。このような方法を使う場合、マグネシウム系合金素材は前記実施例1、2の場合より遥かに高い速度で冷却されて非常に微細な組織を示す。
【0036】
図8には前述した方法によって製造されたMg0.67Ca0.33合金の断面を光学顕微鏡で観察したものである。ルツボを水中に浸漬して冷却させる方法によって製造されたマグネシウム系合金素材の断面光学写真である図7と比較してみた時、構成相(phase)の大きさが非常に微細であることが分かる。
【0037】
実施例4
押し出しによるマグネシウム系合金の製造
不純物Fe含量が0.001%であり、Ni含量が0.0035%であり、Ca量が各々0%、0.8%、5%、10.5%、23%、33%であるマグネシウム系合金を前述した実施例1と同じ方法を利用して製造した後、これを押し出しした。押し出し温度はCa含量に応じて異にし、Ca量が増加するほど上げて押し出しが容易になされるようにした。押し出し温度は最低摂氏300度、最高450度の範囲で行い、押し出し前後の断面積減少比率(押し出し比)は15:1に固定した。押し出しによる微細組織の変化を図9に示す。図9は、図4のMg−5%Ca鋳造材を前述したように押し出しした後、押し出し材の長さ方向(左)と水平方向(右)の断面を光学顕微鏡で観察した写真である。図4の鋳造材から見られるバラの花びら模様の微細組織が押し出し時に変形されたことが確認できる。
【0038】
マグネシウム系合金の強度測定実験
本発明のマグネシウム系合金素材の強度実験のために、実施例1および2で製造されたマグネシウム系合金素材を放電加工して直径3mmと長さ6mm形態に加工した。放電加工された試片の下面と上面を1000番エメリー研磨紙(emery paper)で研磨して面の水平を合わせた。加工されたテスト用試片をタングステンカーバイドで製造されたジグ上に水平に立てた後、最大荷重20トンの圧縮試験機のヘッドを利用して試片の上方向から力を加えた。この時、ヘッドの垂直下降速度は10−4/sにした。試験途中、圧縮試験機に装着されたextensometer(変形量測定機)およびload cell(応力測定機)を利用してリアルタイムで変形量および圧縮応力変化量を記録した。この時、試片の大きさが小さくてextensometerは試片に装着せず、試片を押す試験機のジグに装着して、実際試片の変形量より大きく測定された。
【0039】
図10は、マグネシウム系合金中のカルシウムの濃度を変化させて製造した本発明のマグネシウム系合金に対する強度測定実験の結果を示すグラフである。図10の結果によれば、マグネシウム系合金において、カルシウムの含有量が増加するほど、合金の強度が増加することを確認することができた。一方、Ca添加量が22%から33%に増加すれば、マグネシウム系合金はむしろ低い応力で破壊されることが分かる。人体内部に適用され、力を多く受ける位置に適用されるインプラント素材としてはCa添加量が高いものが好ましいことが分かる。
【0040】
図11は鋳造材を押し出しした後に圧縮強度を測定した結果である。押し出しによって大部分のMg−Ca合金の降伏強度(直線から曲線に曲げられる時の強度)が増加したが、Ca量が23%で高い場合には降伏強度がむしろ大きく減少した。この理由は、Mgベース組織に多量分布していた脆性の強いMg2Caが押し出し過程で壊れるかMgベース組織から分離して欠陥として存在するためである。Ca量が33%で高くなる場合、合金素材のほぼ大部分が脆性の強いMg2Ca相からなっているために押し出し前後の強度変化は微々たるものである。
【0041】
マグネシウム系合金の腐食速度実験
マグネシウム系合金の腐食特性を評価するためにPotentio Dynamic Test法を利用した。先ず、鋳造法によって製造されたマグネシウム系合金素材を切断した後、表面を1000番エメリー研磨紙で研磨した。研磨されたマグネシウム系合金素材表面に1cm2の面積を除いた部分を絶縁物質で塗布した。その次、陽極にマグネシウム系合金を、陰極にPtと基準(reference)であるAg−AgClを連結した後、腐食液に陽極と陰極を浸漬した後、徐々に電圧を上げながら電流を測定した。前記腐食液は人体の体液と類似する構成物質からなっており、1リットルの水に下記表1に表示された物質を混合した溶液を使った。試験が進行される間、溶液温度は37℃が維持されるようにした。
【0042】
【表1】
【0043】
図12は様々な組成で製造したマグネシウム−カルシウム系合金の腐食実験結果を示すグラフである。図12において、Castは鋳造(Cast)した試片、Extrudedは押し出し(Extrusion)した試片、Hは不純物Feが0.04%で、Niが0.001%であり、Mは不純物Feが0.07%で、Niが0.0005%であり、Lは不純物Feが0.001%で、Niが0.0035%である素材を意味する。マグネシウム系合金はカルシウムの含有量が増加するにともない腐食速度も増加し、純粋Mgでは不純物Feの濃度が腐食速度を決める重要な要素であり、Fe量が増加すれば腐食速度も増加することが分かる。また、押し出しによって微細組織が微細化し、均質化することによって腐食速度が大きく減少することが分かる。したがって、押し出しなどによる加工、不純物濃度および添加元素であるCaの量を調整して所望の腐食速度を得ることができるということが分かる。参考に、耐食性高強度素材として開発され販売されているAZ91(Mg−9%Al−1%Zn)合金鋳造材および押し出し材の腐食速度を比較データで提示した。不純物制御、添加元素制御および2次加工(押し出しなど)により、既に知られたMg合金のうちの耐食性に非常に優れた材料であるAZ91に近接した腐食速度を得ることができることが分かる。
【0044】
図13はMg合金の腐食速度と強度を同時に示す図である。図13から、Mgに不純物の濃度、Ca添加量、押し出しのような2次加工により腐食速度および圧縮強度制御が可能であり、適用しようとするインプラントの種類、それにともなう要求特性に合わせて素材を選定することができる。例えば、ボーンフィラー(bone filler)、ボーンプレート(bone plate)のように外部応力が大きく与えられないインプラント製品の場合には低強度Mg素材から高強度Mg素材まで幅広く選択することができる。その反面、脊椎用インターボディースペーサー(interbody spacer)のように高い強度が要求される場合にはCaが一定程度添加された高強度Mgを選択することが妥当である。
【0045】
実施例5
実施例1、2で製造された合金を直径3インチ、厚さ5mmのディスク(ターゲット)に加工した後、これを真空チャンバー内部に設置し、RF電源を加えて、スパッタリング(sputtering)する方法により、Ti合金母材の表面にマグネシウム系合金コーティング層を形成した。これは、図14に示すように既存のインプラント表面にマグネシウム系合金をコーティングすることにより、本発明で得ようとする骨形成誘導機能を既存のインプラントに提供することができ、それと同時に既存の生体適合性コーティング材料、例えば、Hydroxyapatite(HA)のように生体適合性は良好であるものの金属インプラントとの結合力が低いために、人体に挿入した後にはインプラントから分離し生体組織壊死を誘発するという現象を防止することができる。図15は前記方法によってコーティング膜が形成された生体素材(Ti合金)を曲げ衝撃を加えてコーティング断面が現れるように切断した後、電子顕微鏡で観察したものである。コーティング層の厚さは約5μmであり、コーティング膜が垂直方向に成長したことが分かり、マグネシウム系合金コーティング表面に凹凸ができていることが確認できる。
【0046】
図16は生体用として用いられるTi6V4Al合金の上に前記実施例によって形成されたマグネシウム合金系コーティング膜表面をダイヤモンドチップ(tip)でスクラッチした後に電子顕微鏡で観察した写真である。図16において、上方の写真は表面洗浄なしでコーティングした試片であり、中間写真は約1分間プラズマ雰囲気で表面洗浄した後にコーティングした試片であり、下方の写真は約2分間プラズマ雰囲気で表面洗浄した後にコーティングした試片の写真である。表面洗浄なしでコーティングした場合には、コーティング膜が外部応力によってダイヤモンドチップが通過した周囲が若干剥離される現象が発生したが、表面をきれいに洗浄した後にコーティングした場合には、コーティング膜は外部応力によって剥離されないことが分かる。これにより、生体用金属インプラントにコーティングされたマグネシウム系合金は、人体内で外部応力により丸ごと剥離される現象は生じないということを予測することができる。
【0047】
生体実験
実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用し、2週後、マグネシウム系合金が分解されたところに形成された骨を確認することができた(図17)。また、実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をし、AST肝機能酵素、ALT肝機能酵素、クレアチニン酵素、血液尿素窒素(BUN)、ヘモグロビン、白血球、ヘマトクリット(Hct)、アルカリ性ホスファターゼの変化数値を2週後、4週後、6週後に測定し、測定された相対的数値を図18〜25に示す。図18〜25により、マグネシウム系合金が生体内に適用された場合とマグネシウム系合金が生体内に適用されない対照群(control)とを相対的に比較してみた時、全身反応においてほぼ差がないことが分かる。
【技術分野】
【0001】
本発明はインプラントおよびその製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、生体分解性として生体分解速度が容易に制御され得、強度に優れ、骨組織との界面力に優れ、骨代替物または骨治療などに使うことができるインプラントおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療的治療を目的で用いられるインプラントの代表的材料は優れた機械的性質および加工性を有している金属材料である。しかし、金属の優れた性質にもかかわらず、金属性インプラントはいくつかの問題点を有しており、応力遮蔽現象(stress shielding)、イメージ歪み(image degradation)、インプラント移動(implant migration)などがそれらである。
【0003】
このような金属性インプラントの短所を克服するために生体分解性インプラントの研究開発が提起された。このような生体分解性材料の医学的適用は、1960年代半ばからポリ乳酸(polylactic acids、PLA)、ポリグリコール酸(polyglycolic acid、PGA)、またはこれらの共重合体(copolymer)であるPLGAなどの高分子を中心に既に研究し始めた。しかし、前述した生体分解性高分子は低い機械的強度、分解時の酸発生問題、生体分解速度制御の難しさなどによりその応用が制限され、特に機械的強度の低い高分子特性のために強い荷重を受ける整形外科分野や歯科分野のインプラントへの適用には困難があった。
【0004】
前記のような生体分解性高分子の短所を克服するためにいくつかの生体分解性材料が研究され、代表的なものとしてはトリカルシウムホスフェート(tri−calcium phosphate、TCP)のようなセラミックや、生体分解性高分子と生体分解性ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite、HA)の複合材料などがある。しかし、このような材料の機械的特性が生体分解性高分子に比べて著しく変わったことはなく、特にセラミック材料のぜい弱な耐衝撃性は生体材料としての致命的な短所として提起された。また、生体分解性物質などの制御方法は、依然として明らかになったことはなく、実効性に疑問がある。
【0005】
一方、金属性インプラントの短所を克服するために、インプラント材料そのものに対する研究の他に、コーティング方法によって金属性インプラントの表面を改質する方法が試みられている。コーティング技術を用いた金属性インプラントの表面改質の目的としては大きく2つがある。第1に、金属性インプラントと金属または非金属材料との界面の耐摩耗性や耐食性を改善するためであって、DLC(Diamond−Like Carbon)コーティングなどがその例である。第2に、金属性インプラントと骨組織との界面結合力を高めるためであって、骨組織との結合力の高い物質で金属インプラントをコーティングすることである。この時、主に用いられる材料としては骨成分と類似するヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite、HA)がある。また、骨組織との結合力を高めるために骨セメント(bone cement、PMMA)を利用してインプラントをコーティングしたりもする。
【0006】
その中、HAは、生体適合性に優れるだけでなく、骨組織と類似する成分および構造を有しており、化学的結合による骨組織との界面結合力に優れていると知られている。しかし、HAが骨組織との化学的結合力には優れる反面、インプラントとの界面結合力は落ちるため、インプラントの表面から脱落したHA微粒子が深刻な問題として台頭した。股関節置換術で脱落したHAがポリエチレン寛骨臼カップ(acetabular cup)から発見されており、HAによる寛骨臼カップの激しい摩擦性摩耗と磨耗したポリエチレンによる骨溶融が観察された。
【0007】
したがって、HAとインプラントとの結合力を高めるための多くの試みがなされており、そのうちの一つがコーティング方法を改善することである。HAコーティング時に最も普遍的に用いられる方法はプラズマ溶射(plasma spraying)技法である。この方法を利用すれば、HA粒子が噴射される過程で結晶状態のHAが非結晶相(amorphous)のカルシウムホスフェート(calcium phosphate)状態で付着され、インプラントとコーティング材が機械的に接合されるため、接着強度が低くて容易にHAカルシウムホスフェート粒子が脱落する。このような問題を解決するための様々な方法が試みられているが、現在としては実用性の面で疑問がある。また、結晶相の維持だけでなく、コーティング厚さ、均一性の維持などの多くの技術的問題がある。材料学的な観点において、HA粒子脱落の最も重要な理由は一種のセラミックであるHAコーティング材料と金属性インプラント材料との化学的不一致である。したがって、界面結合力はコーティング技術の改善努力にもかかわらず、一定の限界を有せざるを得ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、生体分解性を有しつつ、生体分解速度が容易に制御され得、強度に優れ、骨組織との界面力に優れたインプラントおよびその製造方法を提供することにより、既存の金属インプラントおよび生分解性高分子インプラントが有していた前述した従来技術の問題点を解決しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は生体分解性マグネシウム系合金を含むインプラントを提供する。本発明の一実現例に係るインプラントは、生体分解性マグネシウムまたはマグネシウム系合金(以下、マグネシウム系合金と通称する)からなる構成を有する。本発明のまた他の一実現例に係るインプラントは、インプラント表面に生体分解性マグネシウム系合金からなるコーティング層を備えた構成を有する。
【0010】
前記生体分解性マグネシウム系合金としては、一般式MgaCabXc(a、bおよびcは各成分のモル比として、0.5≦a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4であり、Xは微量添加元素である)で示されるものを用いることができる。前記Xは当技術分野でインプラントの製造時に添加される微量添加元素であれば特に限定されず、例えば、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、ニオビウム(Nb)、タンタル(Ta)、チタニウム(Ti)、ストロンチウム(Sr)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、珪素(Si)、リン(P)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)のうちから選択される1種以上が含まれ得る。但し、ニッケル(Ni)が添加される場合には、生体毒性減少および腐食速度制御のためにニッケル(Ni)の含有量は100ppm以下であることが好ましく、より好ましくは50ppm以下が好適である。鉄(Fe)が添加される場合には、鉄(Fe)はマグネシウム系合金の腐食速度増加に非常に大きい影響を及ぼし、微量の鉄(Fe)がマグネシウム(Mg)と共に含まれていても鉄(Fe)はマグネシウム(Mg)に取り込まれることができず独立した粒子で存在してマグネシウム(Mg)の腐食速度を増加させ、マグネシウム(Mg)が生体内で分解されながら、マグネシウム系合金内部に独立して存在する鉄(Fe)粒子が生体内部に流入され得る。したがって、鉄(Fe)は精密にその含量が決定されるべきであり、1,000ppm以下で制御されることが好ましく、より好ましくは500ppm以下が好適である。
【0011】
また、マグネシウム(Mg)にカルシウム(Ca)をはじめとする第2および第3の元素が多量に添加される場合、合金内部に脆性の強い析出相や中間化合物が形成される。したがって、インプラントの製造過程で合金素材が破壊されることもあり、押し出しおよび鍛造のような2次加工時にも材料が容易に破壊され、インプラント製品を製造するための旋盤加工時にも材料が容易に破壊され加工が容易ではない。図1は、不純物である鉄(Fe)が0.001%、ニッケル(Ni)が0.0035%含まれた純粋マグネシウム(Mg)にカルシウム(Ca)を33%添加して鋳造したMg−33%Ca合金素材の外観写真である。鋳造後に合金材の上端部が破壊されたことが分かり、その後の運搬および切断過程で合金材がいくつかの欠片に分離した。また、押し出し過程では押し出し温度を摂氏450度以上に上げてこそ作業が可能であった。したがって、現実的に第2および第3の添加元素を40%以上添加することは実効性がないと判断し、本発明では第2および第3の元素添加量b、cを0.4(40%)以下に限定しようとする。
【0012】
本発明は生体分解性マグネシウム系合金を用いたインプラントの製造方法を提供する。本発明の一実現例に係るインプラントの製造方法は、生体分解性マグネシウム系合金を溶融させるステップ、および溶融された生体分解性マグネシウム系合金を成形するステップを含む。本発明のまた他の一実現例に係るインプラントの製造方法はインプラント表面にマグネシウム系合金をコーティングするステップを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る生体分解性マグネシウム系合金からなるインプラントは合金組成および製造工程によって差はあるが、高強度マグネシウム系合金の場合、既存の生体分解性高分子の強度より2倍以上の強度を有するため、強い荷重を受ける腰椎における骨融合材料や歯科用インプラントなどに適用する時、初期の安定性を維持するのに好適に用いられ得る。また、本発明に係るインプラントは、生体内で分解されると同時にインプラント内に骨組織が育って入ってきてインプラントと骨組織の界面力に優れ、生体分解速度が骨組織の形成程度と比例して進行するように容易に制御することができる。これにより、骨融合が起こる前に安定性を失わないようにし、生体内分解による急激なイオンの放出を制御することによって安定的に骨形成をすることができる。
【0014】
一方、本発明に係る生体分解性マグネシウム系合金からなるコーティング層を有するインプラントは、コーティング層によって強度、インプラントと骨組織との界面力および生体分解速度制御の面で優れた特性を示すだけでなく、インプラント母材として金属材料を用いる場合、マグネシウム系合金コーティング層と母材である金属インプラントの両方とも金属であるためにコーティング層とインプラントの界面接着力に優れる。
【0015】
したがって、本発明に係るインプラントは骨代替物または骨治療などへの応用に好適であり、整形外科用、歯科用、形成外科用または血管用などとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】Mg0.67Ca0.33鋳造材の外観写真である。
【図2】純粋Mg(Fe0.001−0.04%、Ni0.0035−0.001%)鋳造材の断面写真である。
【図3】Mg0.992Ca0.008合金の断面写真である。
【図4】Mg0.95Ca0.05合金の断面写真である。
【図5】Mg0.895Ca0.105合金の断面写真である。
【図6】Mg0.77Ca0.23合金の断面写真である。
【図7】Mg0.67Ca0.33合金の断面写真である。
【図8】Mg0.67Ca0.33合金をガスブローイング(gas blowing)法によって超急冷させた試片の断面写真である。
【図9】Mg0.95Ca0.05合金鋳造材を押し出しした後の長さ方向と水平方向の断面写真である。
【図10】Ca添加量を異にして製造したMg合金鋳造材の圧縮強度実験結果である。
【図11】Ca添加量を異にして製造したMg合金鋳造材を押し出しした後に測定した圧縮強度である。
【図12】不純物含量、Ca添加量、押し出し加工有無に応じたMg素材の腐食電流密度変化の測定結果である。
【図13】不純物含量、Ca添加量、押し出し加工有無に応じたMg素材の腐食電流密度変化と降伏強度を共に示す図である。
【図14】生体分解性マグネシウム系合金を用いた金属インプラントの表面改質とその効果を示す概略図である。
【図15】スパッタリング法によってTi合金インプラント表面に形成されたマグネシウム系合金コーティング層の断面の様子である。
【図16】スパッタリング法によってTi合金インプラント表面に形成されたマグネシウム系合金コーティング層をスクラッチした後に観察した様子である。
【図17】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した時、マグネシウム系合金が分解されたところに形成された骨を示す写真である。
【図18】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時のAST肝機能酵素の変化数値を示すものである。
【図19】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時のALT肝機能酵素の変化数値を示すものである。
【図20】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時のクレアチニン酵素の変化数値を示すものである。
【図21】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時の血液尿素窒素(BUN)の変化数値を示すものである。
【図22】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時のヘモグロビンの変化数値を示すものである。
【図23】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時の白血球の変化数値を示すものである。
【図24】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時のヘマトクリット(Hct)の変化数値を示すものである。
【図25】実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をした時のアルカリ性ホスファターゼの変化数値を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0018】
本発明に係るインプラントは前述したような効果を有するため、整形外科用、歯科用、形成外科用または血管用インプラントとして用いることができる。
【0019】
具体的に、前記インプラントは移植(graft)を必要としない脊椎用インターボディースペーサー(interbody spacer)、ボーンフィラー(bone filler)、ボーンプレート(bone plate)、ボーンピン(bone pin)、スキャフォールド(scaffold)などのインプラントとして用いることができる。
【0020】
マグネシウム系合金およびそれを用いたインプラントの製造方法を具体的に説明すれば次の通りである。
【0021】
一般的にマグネシウムは非常に低い温度(約450℃)で発火するために溶融時に特別な措置が必要である。商業用マグネシウム系合金の製造工程では、マグネシウム系合金にBeを微量(10ppm以下)添加し、SF6、CO2、dry air混合ガスを用いて溶湯表面を覆う。このようにすると、溶湯表面にMgNx、BeO、MgO、MgF2、MgSなどからなる緻密な混合被膜が形成され、マグネシウム系合金溶湯が酸素と反応することを防止するために安定した作業が可能である。しかし、生体材料のように不純物の混入に慎重を期しなければならない場合には、マグネシウム系合金にBeのような酸化物形成元素を添加できないため、マグネシウム系合金と反応しないアルゴン(Ar)のような不活性ガス雰囲気または真空雰囲気でマグネシウム系合金を溶融することが好ましい。マグネシウム系合金を溶かすためには抵抗体に電気を加えて熱を発生させる抵抗加熱方式、誘導コーティングに電流を流して誘導加熱する方式、またはレーザや集束光による方法などの様々な方法を用いることができるが、抵抗加熱方式が最も経済的である。マグネシウム系合金の溶融時、構成元素がよく混合できるように溶融合金(以下、溶湯)を攪拌することが好ましい。
【0022】
本発明の一実現例によれば、前述した方式によって溶融されたマグネシウム系合金をインプラント形状に成形することによってインプラントを提供することができる。前記溶融されたマグネシウム系合金を用いたインプラント成形方法としては当技術分野に知られている方法を使うことができる。例えば、溶融された合金を冷却によって固体化することができる。
【0023】
前記冷却工程では、マグネシウム系合金の機械的強度を向上させる目的で、溶融されたマグネシウム系合金を急速に冷却させることができる。この時、ルツボを水に浸漬させる方法を利用することができる。また、前記冷却工程でマグネシウム系合金をアルゴンガスなどの不活性ガスを用いて噴霧する方法を利用することができ、この場合には遥かに高い速度で冷却され非常に微細な組織になり得る。しかし、このように小さい大きさにマグネシウム系合金を鋳造する場合、内部に多数の気孔(黒い部分)が形成され得る。
【0024】
また、前記溶融された合金を押し出し工程によって成形することができる。この場合、マグネシウム系合金の組織が均一になり、機械的性能が向上されることができる。マグネシウム系合金の押し出しは摂氏300−450度の範囲で行われることが好ましい。また、マグネシウム系合金の押し出しは、押し出し前後の断面積減少比率(押し出し比)を10:1〜30:1の範囲内にして行うことができる。押し出し比が大きくなるほど、押し出し材の微細組織が均一になり、鋳造時に形成された欠陥が容易に除去されるなどの長所があるが、この場合、押し出し装置容量を増加させることが好ましい。
【0025】
前記成形ステップにおいて、インプラントの形状に成形する方法としては当業界における公知の金属加工方法を使って行うことができる。例えば、最終製品に近い形態に加工されたモールドに前述したように溶融されたマグネシウム系合金を注いで直接鋳造する方法、棒状や板状などの中間材に製造した後、これを旋盤またはミル加工する方法、マグネシウム系合金を大きい力で加圧鍛造して最終製品の形状に製造する方法などにより、所望の形態と用途を有するインプラントを製造することができる。
【0026】
また、必要により、製造されたマグネシウム系合金製品に表面研磨やコーティングをさらに行うことによって製品の質を高めることができる。
【0027】
本発明のまた他の一実現例によれば、当技術分野に知られているインプラントを前述した方式で溶融されたマグネシウム系合金でコーティングすることにより、表面に生体分解性マグネシウム系合金からなるコーティング層を備えたインプラントを提供することができる。
【0028】
インプラント表面にマグネシウム系合金をコーティングする方法としては当技術分野に知られている様々な方法を使うことができる。例えば、コーティング方法としては、溶融されたマグネシウム系合金が入れられたルツボ(crucible)にインプラント母材を浸漬し、表面にマグネシウム系合金がコーティングされるようにする方法である浸漬コーティング法、インプラント母材より直径が若干大きいモールドにインプラント母材を入れ、その間の隙間にマグネシウム系合金を注入してマグネシウム系合金をコーティングする方法である固相/液相クラッディング法、この固相/液相クラッディング法を改良し、インプラント母材をこれより直径の大きいモールドの間を通過させ、その間にマグネシウム系合金を注入して連続してコーティングがなされるようにする方法である連続固相/液相クラッディング法、マグネシウム系合金ワイヤー(wire)を製造した後、インプラント母材とマグネシウム系合金ワイヤーを接近させながら電流を通し、マグネシウム系合金ワイヤーが溶けて母材表面にコーティングされるようにする方法であるTIGまたはMIG溶接法、マグネシウム系合金粉末をインプラント母材表面に置いておき、熱源、例えば、レーザ、光、イオンビームなどを加え、マグネシウム系合金粉末が溶けてインプラント母材表面にコーティングされるようにする方法であるレーザ、集束光またはイオンビーム溶接法、合金されたマグネシウム系合金素材にRF(Radio frequency)電流、直流電流またはイオンビームを加え、マグネシウム系合金の構成元素が原子単位で放出され、インプラント母材表面に蒸着されるようにする方法であるスパッタリング法などがある。本発明では前記で列挙していない他のコーティング方法も使用可能である。適正なコーティング方法は目的とするコーティング層の厚さ、コーティング材の清浄度、価格などに応じてそれぞれ異なるものを選択することができる。例えば、浸漬法は厚さ100μm以上の厚膜コーティング層を経済的にコーティングすることができる。その反面、スパッタリング法は1μm以下の薄膜を形成するのに有用であり、清浄コーティング層を形成できる長所がある。
【0029】
マグネシウムは非常に低い温度(約450℃)で発火するため、上記で列挙したコーティング方法はマグネシウム系合金が酸素と接触しないように真空雰囲気で作業を行うか、またはアルゴン(Ar)ガスなどのような不活性ガスでコーティングがなされる部分を遮へい(shielding)して作業を行うことが好ましい。
【0030】
本発明において、マグネシウム系合金でコーティングされるインプラントは金属性、生体分解性高分子または生体素材であり得るし、その材料に限定されない。インプラントとして金属性を用いる場合、マグネシウム系合金と金属性インプラントは金属−金属結合としてHA(セラミック)−金属結合より化学的結合力に優れ、マグネシウム系合金と骨組織との結合力は新しい骨組織の形成により界面結合力が向上する。本発明において、前記インプラントをマグネシウム合金でコーティングする前に表面を洗浄することが好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例によってマグネシウム系合金の製造およびそれを用いたインプラント製造を例示する。但し、以下の実施例は本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0032】
マグネシウム系合金の製造
実施例1
純粋マグネシウムを用いたインプラント素材の製造
不純物含量が低い高純度素材の場合にも、純度が高いほど、素材の製造単価が幾何級数的に増加して商業的価値が落ちる。本実施例においては、インプラント素材として使用可能なマグネシウムにおける不純物の濃度を決定するために、Fe、Niの含量を異にしてマグネシウムを製造し、その腐食特性を評価した(以下、不純物濃度が0.01%以下であるMgを純粋Mgまたは100%Mgという)。試薬用超高純度マグネシウム(99.9999%)にFeとNiを各々、1)400ppm(0.04%)、10ppm(0.001%)、2)70ppm(0.007%)、5ppm(0.0005%)、3)10ppm(0.001%)、35ppm(0.0035%)混ぜたマグネシウムをステンレス鋼(SUS410)で製作された内部直径50mmのルツボ(Crucible)に装入した。その次、ルツボの中のマグネシウムが空気と接触しないようにルツボ周囲にアルゴン(Ar)ガスを流しながら、抵抗加熱炉を利用してルツボの温度を約700℃から750℃の範囲に上げてマグネシウムを溶融した。溶融されたマグネシウムと不純物が互いによく混合されるようにルツボを揺さぶって攪拌させた。完全に溶融されたマグネシウムを冷却して固体状態のマグネシウムを製造した。また、冷却させる時には、マグネシウムの機械的強度を向上させる目的でルツボを水に浸漬させ、溶融されたマグネシウムが急速に冷却されるようにした。図2は、純粋Mg(Fe0.001−0.04%、Ni0.0035−0.001%)鋳造材の断面を研磨して光学顕微鏡で観察した写真である。
【0033】
実施例2
Mg−Ca合金の製造
マグネシウムとカルシウムを混合したマグネシウム系合金を製造した。不純物FeとNiが各々10ppm(0.001%)、35ppm(0.0035%)である99.995%純度の純粋MgにCaを0.8%、5%、10.5%、23%、33%混ぜた後、ステンレス鋼(SUS410)で製作された内部直径50mmのルツボ(Crucible)に装入した。その次、ルツボの中のマグネシウム系合金が空気と接触しないようにルツボ周囲にアルゴン(Ar)ガスを流しながら、抵抗加熱炉を利用してルツボの温度を約700℃から1000℃の範囲に上げてマグネシウム系合金を溶融した。完全に溶融されたマグネシウム系合金を冷却して固体状態のマグネシウム系合金を製造した。溶融されたマグネシウム系合金の構成元素が互いによく混合されるようにルツボを揺さぶって攪拌させた。また、冷却させる時には、マグネシウム系合金の機械的強度を向上させる目的でルツボを水に浸漬させ、溶融されたマグネシウム系合金が急速に冷却されるようにした。
【0034】
図3〜図7は、各々、Mg0.992Ca0.008、Mg0.95Ca0.05、Mg0.895Ca0.105、Mg0.77Ca0.23、Mg0.67Ca0.33合金を上記で記した方法で製造した後、その断面を研磨して光学顕微鏡で観察したものである。Mg0.992Ca0.008合金は灰色のMgが大部分の面積を占めており、一部濃い灰色のMg2Ca化合物とMgの混合領域が若干表れている。Ca量が増加するほど、濃い灰色部分(Mg2Ca化合物とMgの混合領域または工程領域という)の面積が増加する。また、製造されたMgCa合金試片全てには内部に気孔のような欠陥がなくて良好に製造されたことが分かる。
【0035】
実施例3
ガスブローイング(gas blowing)を用いた急速冷却によるMg−Ca合金の製造
マグネシウム系合金を加熱炉で溶かした後、直径約3mmの微細な穴に溶融されたマグネシウム系合金をアルゴンガスで噴霧する方法で強制注入して凝固させる方法によって急速冷却されたマグネシウム系合金素材を製造した。このような方法を使う場合、マグネシウム系合金素材は前記実施例1、2の場合より遥かに高い速度で冷却されて非常に微細な組織を示す。
【0036】
図8には前述した方法によって製造されたMg0.67Ca0.33合金の断面を光学顕微鏡で観察したものである。ルツボを水中に浸漬して冷却させる方法によって製造されたマグネシウム系合金素材の断面光学写真である図7と比較してみた時、構成相(phase)の大きさが非常に微細であることが分かる。
【0037】
実施例4
押し出しによるマグネシウム系合金の製造
不純物Fe含量が0.001%であり、Ni含量が0.0035%であり、Ca量が各々0%、0.8%、5%、10.5%、23%、33%であるマグネシウム系合金を前述した実施例1と同じ方法を利用して製造した後、これを押し出しした。押し出し温度はCa含量に応じて異にし、Ca量が増加するほど上げて押し出しが容易になされるようにした。押し出し温度は最低摂氏300度、最高450度の範囲で行い、押し出し前後の断面積減少比率(押し出し比)は15:1に固定した。押し出しによる微細組織の変化を図9に示す。図9は、図4のMg−5%Ca鋳造材を前述したように押し出しした後、押し出し材の長さ方向(左)と水平方向(右)の断面を光学顕微鏡で観察した写真である。図4の鋳造材から見られるバラの花びら模様の微細組織が押し出し時に変形されたことが確認できる。
【0038】
マグネシウム系合金の強度測定実験
本発明のマグネシウム系合金素材の強度実験のために、実施例1および2で製造されたマグネシウム系合金素材を放電加工して直径3mmと長さ6mm形態に加工した。放電加工された試片の下面と上面を1000番エメリー研磨紙(emery paper)で研磨して面の水平を合わせた。加工されたテスト用試片をタングステンカーバイドで製造されたジグ上に水平に立てた後、最大荷重20トンの圧縮試験機のヘッドを利用して試片の上方向から力を加えた。この時、ヘッドの垂直下降速度は10−4/sにした。試験途中、圧縮試験機に装着されたextensometer(変形量測定機)およびload cell(応力測定機)を利用してリアルタイムで変形量および圧縮応力変化量を記録した。この時、試片の大きさが小さくてextensometerは試片に装着せず、試片を押す試験機のジグに装着して、実際試片の変形量より大きく測定された。
【0039】
図10は、マグネシウム系合金中のカルシウムの濃度を変化させて製造した本発明のマグネシウム系合金に対する強度測定実験の結果を示すグラフである。図10の結果によれば、マグネシウム系合金において、カルシウムの含有量が増加するほど、合金の強度が増加することを確認することができた。一方、Ca添加量が22%から33%に増加すれば、マグネシウム系合金はむしろ低い応力で破壊されることが分かる。人体内部に適用され、力を多く受ける位置に適用されるインプラント素材としてはCa添加量が高いものが好ましいことが分かる。
【0040】
図11は鋳造材を押し出しした後に圧縮強度を測定した結果である。押し出しによって大部分のMg−Ca合金の降伏強度(直線から曲線に曲げられる時の強度)が増加したが、Ca量が23%で高い場合には降伏強度がむしろ大きく減少した。この理由は、Mgベース組織に多量分布していた脆性の強いMg2Caが押し出し過程で壊れるかMgベース組織から分離して欠陥として存在するためである。Ca量が33%で高くなる場合、合金素材のほぼ大部分が脆性の強いMg2Ca相からなっているために押し出し前後の強度変化は微々たるものである。
【0041】
マグネシウム系合金の腐食速度実験
マグネシウム系合金の腐食特性を評価するためにPotentio Dynamic Test法を利用した。先ず、鋳造法によって製造されたマグネシウム系合金素材を切断した後、表面を1000番エメリー研磨紙で研磨した。研磨されたマグネシウム系合金素材表面に1cm2の面積を除いた部分を絶縁物質で塗布した。その次、陽極にマグネシウム系合金を、陰極にPtと基準(reference)であるAg−AgClを連結した後、腐食液に陽極と陰極を浸漬した後、徐々に電圧を上げながら電流を測定した。前記腐食液は人体の体液と類似する構成物質からなっており、1リットルの水に下記表1に表示された物質を混合した溶液を使った。試験が進行される間、溶液温度は37℃が維持されるようにした。
【0042】
【表1】
【0043】
図12は様々な組成で製造したマグネシウム−カルシウム系合金の腐食実験結果を示すグラフである。図12において、Castは鋳造(Cast)した試片、Extrudedは押し出し(Extrusion)した試片、Hは不純物Feが0.04%で、Niが0.001%であり、Mは不純物Feが0.07%で、Niが0.0005%であり、Lは不純物Feが0.001%で、Niが0.0035%である素材を意味する。マグネシウム系合金はカルシウムの含有量が増加するにともない腐食速度も増加し、純粋Mgでは不純物Feの濃度が腐食速度を決める重要な要素であり、Fe量が増加すれば腐食速度も増加することが分かる。また、押し出しによって微細組織が微細化し、均質化することによって腐食速度が大きく減少することが分かる。したがって、押し出しなどによる加工、不純物濃度および添加元素であるCaの量を調整して所望の腐食速度を得ることができるということが分かる。参考に、耐食性高強度素材として開発され販売されているAZ91(Mg−9%Al−1%Zn)合金鋳造材および押し出し材の腐食速度を比較データで提示した。不純物制御、添加元素制御および2次加工(押し出しなど)により、既に知られたMg合金のうちの耐食性に非常に優れた材料であるAZ91に近接した腐食速度を得ることができることが分かる。
【0044】
図13はMg合金の腐食速度と強度を同時に示す図である。図13から、Mgに不純物の濃度、Ca添加量、押し出しのような2次加工により腐食速度および圧縮強度制御が可能であり、適用しようとするインプラントの種類、それにともなう要求特性に合わせて素材を選定することができる。例えば、ボーンフィラー(bone filler)、ボーンプレート(bone plate)のように外部応力が大きく与えられないインプラント製品の場合には低強度Mg素材から高強度Mg素材まで幅広く選択することができる。その反面、脊椎用インターボディースペーサー(interbody spacer)のように高い強度が要求される場合にはCaが一定程度添加された高強度Mgを選択することが妥当である。
【0045】
実施例5
実施例1、2で製造された合金を直径3インチ、厚さ5mmのディスク(ターゲット)に加工した後、これを真空チャンバー内部に設置し、RF電源を加えて、スパッタリング(sputtering)する方法により、Ti合金母材の表面にマグネシウム系合金コーティング層を形成した。これは、図14に示すように既存のインプラント表面にマグネシウム系合金をコーティングすることにより、本発明で得ようとする骨形成誘導機能を既存のインプラントに提供することができ、それと同時に既存の生体適合性コーティング材料、例えば、Hydroxyapatite(HA)のように生体適合性は良好であるものの金属インプラントとの結合力が低いために、人体に挿入した後にはインプラントから分離し生体組織壊死を誘発するという現象を防止することができる。図15は前記方法によってコーティング膜が形成された生体素材(Ti合金)を曲げ衝撃を加えてコーティング断面が現れるように切断した後、電子顕微鏡で観察したものである。コーティング層の厚さは約5μmであり、コーティング膜が垂直方向に成長したことが分かり、マグネシウム系合金コーティング表面に凹凸ができていることが確認できる。
【0046】
図16は生体用として用いられるTi6V4Al合金の上に前記実施例によって形成されたマグネシウム合金系コーティング膜表面をダイヤモンドチップ(tip)でスクラッチした後に電子顕微鏡で観察した写真である。図16において、上方の写真は表面洗浄なしでコーティングした試片であり、中間写真は約1分間プラズマ雰囲気で表面洗浄した後にコーティングした試片であり、下方の写真は約2分間プラズマ雰囲気で表面洗浄した後にコーティングした試片の写真である。表面洗浄なしでコーティングした場合には、コーティング膜が外部応力によってダイヤモンドチップが通過した周囲が若干剥離される現象が発生したが、表面をきれいに洗浄した後にコーティングした場合には、コーティング膜は外部応力によって剥離されないことが分かる。これにより、生体用金属インプラントにコーティングされたマグネシウム系合金は、人体内で外部応力により丸ごと剥離される現象は生じないということを予測することができる。
【0047】
生体実験
実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用し、2週後、マグネシウム系合金が分解されたところに形成された骨を確認することができた(図17)。また、実施例2で製造されたマグネシウム系合金をネズミを用いた生体実験に適用した後に血液検査をし、AST肝機能酵素、ALT肝機能酵素、クレアチニン酵素、血液尿素窒素(BUN)、ヘモグロビン、白血球、ヘマトクリット(Hct)、アルカリ性ホスファターゼの変化数値を2週後、4週後、6週後に測定し、測定された相対的数値を図18〜25に示す。図18〜25により、マグネシウム系合金が生体内に適用された場合とマグネシウム系合金が生体内に適用されない対照群(control)とを相対的に比較してみた時、全身反応においてほぼ差がないことが分かる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分解性マグネシウム系合金を含むインプラント。
【請求項2】
前記生体分解性マグネシウム系合金は、一般式MgaCabXc(a、bおよびcは各成分のモル比として、0.5≦a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4であり、Xは微量添加元素である)で示される、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記Xは、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、ニオビウム(Nb)、タンタル(Ta)、チタニウム(Ti)、ストロンチウム(Sr)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、珪素(Si)、リン(P)、ニッケル(Ni)および鉄(Fe)のうちから選択される1種以上を含む、請求項2に記載のインプラント。
【請求項4】
前記インプラントは、整形外科用、歯科用、形成外科用または血管用である、請求項1に記載のインプラント。
【請求項5】
前記インプラントは、その全体が生体分解性マグネシウム系合金からなる、請求項1に記載のインプラント。
【請求項6】
前記インプラントは、表面に生体分解性マグネシウム系合金からなるコーティング層を備える、請求項1に記載のインプラント。
【請求項7】
生体分解性マグネシウム系合金を用いたインプラントの製造方法。
【請求項8】
前記生体分解性マグネシウム系合金は、一般式MgaCabXc(a、bおよびcは各成分のモル比として、0.5≦a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4であり、Xは微量添加元素である)で示される、請求項7に記載のインプラントの製造方法。
【請求項9】
前記Xは、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、ニオビウム(Nb)、タンタル(Ta)、チタニウム(Ti)、ストロンチウム(Sr)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、珪素(Si)、リン(P)、ニッケル(Ni)および鉄(Fe)のうちから選択される1種以上を含む、請求項8に記載のインプラントの製造方法。
【請求項10】
a)生体分解性マグネシウム系合金を溶融させるステップ、およびb)溶融された生体分解性マグネシウム系合金を成形するステップを含む、請求項7に記載のインプラントの製造方法。
【請求項11】
前記b)ステップは押し出し工程を利用する、請求項10に記載のインプラントの製造方法。
【請求項12】
インプラント母材表面を前記マグネシウム系合金でコーティングするステップを含む、請求項7に記載のインプラントの製造方法。
【請求項1】
生体分解性マグネシウム系合金を含むインプラント。
【請求項2】
前記生体分解性マグネシウム系合金は、一般式MgaCabXc(a、bおよびcは各成分のモル比として、0.5≦a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4であり、Xは微量添加元素である)で示される、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記Xは、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、ニオビウム(Nb)、タンタル(Ta)、チタニウム(Ti)、ストロンチウム(Sr)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、珪素(Si)、リン(P)、ニッケル(Ni)および鉄(Fe)のうちから選択される1種以上を含む、請求項2に記載のインプラント。
【請求項4】
前記インプラントは、整形外科用、歯科用、形成外科用または血管用である、請求項1に記載のインプラント。
【請求項5】
前記インプラントは、その全体が生体分解性マグネシウム系合金からなる、請求項1に記載のインプラント。
【請求項6】
前記インプラントは、表面に生体分解性マグネシウム系合金からなるコーティング層を備える、請求項1に記載のインプラント。
【請求項7】
生体分解性マグネシウム系合金を用いたインプラントの製造方法。
【請求項8】
前記生体分解性マグネシウム系合金は、一般式MgaCabXc(a、bおよびcは各成分のモル比として、0.5≦a≦1、0≦b≦0.4、0≦c≦0.4であり、Xは微量添加元素である)で示される、請求項7に記載のインプラントの製造方法。
【請求項9】
前記Xは、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、ニオビウム(Nb)、タンタル(Ta)、チタニウム(Ti)、ストロンチウム(Sr)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、珪素(Si)、リン(P)、ニッケル(Ni)および鉄(Fe)のうちから選択される1種以上を含む、請求項8に記載のインプラントの製造方法。
【請求項10】
a)生体分解性マグネシウム系合金を溶融させるステップ、およびb)溶融された生体分解性マグネシウム系合金を成形するステップを含む、請求項7に記載のインプラントの製造方法。
【請求項11】
前記b)ステップは押し出し工程を利用する、請求項10に記載のインプラントの製造方法。
【請求項12】
インプラント母材表面を前記マグネシウム系合金でコーティングするステップを含む、請求項7に記載のインプラントの製造方法。
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図11】
【図12】
【図13】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−196461(P2012−196461A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−106764(P2012−106764)
【出願日】平成24年5月8日(2012.5.8)
【分割の表示】特願2009−529128(P2009−529128)の分割
【原出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(504080618)ユー アンド アイ コーポレーション (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年5月8日(2012.5.8)
【分割の表示】特願2009−529128(P2009−529128)の分割
【原出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(504080618)ユー アンド アイ コーポレーション (9)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]