説明

生体加熱材料として用いられるMgFe2O4の製造方法及びこの製造方法により得られたMgFe2O4

【課題】単位量当たりの発熱特性を向上させることができる生体内に留置して交流磁場で発熱させ患部を焼灼する生体加熱材料として用いられるMgFeを提供する。
【解決手段】化学量論比のMg及びFeを溶解した水溶液中で有機ポリマーを重合し、それぞれの元素をポリマーに均一に分散させた前駆固体を作製し、次いで、上記前駆固体を1100℃以上で焼成することによって、MgFeを作製する。かくして製造されたMgFeは、一般的な固相反応法や共沈法で作製したMgFeより、交流磁場での発熱を大幅に増大させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌治療等で用いられる焼灼療法に用いることができるMgFeの製造方法及びこの製造方法により得られたMgFeに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フェライト材料を生体内に留置し、留置したフェライト材料を交流磁場で加熱し、癌等を焼灼する治療方法が記載されている。この方法は、ラジオ波焼灼療法やマイクロ波凝固療法に比べ、広範な焼灼が可能であること、点在する癌等に対応できること、焼灼範囲を厳密に制御できること等の点で有利である。
【0003】
フェライト材料の中でもMgFeは、非特許文献1〜3にあるように、優れた発熱特性を有する。このMgFeは、一般に、MgOやFe等を原料として、混合物を高温で焼成したものが市販されている。また、MgFeは、生体適合性に良いとされるMgと3価のFeのみを含んでいるため、様々なフェライト材料の中でも最も医療への応用が期待できる材料である。
【0004】
しかしながら、MgFeであっても生体内に留置する量は少ない方が良く、このためには、単位量当たりの発熱特性を向上させる必要がある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−89704号公報
【非特許文献1】Jpn. J.Appl. Phys., Vol,41(3), pp.1620-1621 (2002)
【非特許文献2】J. Mater. Sci., 40(1), p.135-138(2005)
【非特許文献3】Mat. Res. Bull., 40, pp.1126-1135(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、生体加熱材料として用いられるMgFeの単位量当たりの発熱特性を向上させることができる新規なMgFeの製造方法及びこの製造方法により得られたMgFeを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一般に、フェライト材料は、AB(Aは2価の金属元素、Bは3価の金属元素)で表すことができ、4配位のサイトと6配位のサイトが1:2の割合で存在し、4配位のサイトをA、6配位のサイトをBが占める正スピネル型、4配位のサイトをBが占めて、6配位のサイトにAとBとが1:1で占める逆スピネル型とがある。非特許文献4(ICSD Collection Code 24767.)によれば、MgFeの約16%のMg2+は正スピネル型の位置を占め、残りの約84%は、逆スピネル型の位置を占めている。
【0008】
一般に、フェライト材料は、フェリ磁性を持っており、4配位のサイトにある金属イオンの磁気モーメントは、6配位のサイトにある2つの金属イオンの磁気モーメントを打ち消すため、MgFeにおいて、磁気モーメントの大きいFe3+イオンが4配位のサイトに存在することは、フェライト材料の磁気モーメントを低下させる。したがって、4配位のサイトに磁気モーメントを持たないMg2+イオンが占めた正スピネル型の割合を増すことは、磁性材料の性能を高めることになる。
【0009】
本発明は、以上のような考えに基づいて完成されたものであって、化学量論比のMg及びFeとモノマー成分とを溶解した水溶液中でモノマー成分を重合させることにより、それぞれの元素を有機ポリマーに分散させた前駆固体を作製し、次いで、上記前駆固体を1100℃以上で焼成することによって、MgFeを作製する新規な製造方法及びこの製造方法によって得られたMgFeである。
【0010】
ここで、前駆固体の焼成温度の上限は、好ましくは、1400℃である。1500℃で焼成すると、前駆固体がるつぼに付着してしまい、MgFeを作製することができないからである。
【0011】
これまで、2種以上含むフェライトのような複合酸化物の合成方法としては、固相反応法や共沈法が用いられている。しかしながら、固相反応法は、粉砕、焼成を繰り返す方法であり、その作業が繁雑である。また、本発明で製造されたMgFeほどの発熱特性を得ることは困難である。また、共沈法でも、本発明で製造されたMgFeほどの発熱特性を得ることは困難である。本発明の製造方法によって製造されたMgFeでは、固相反応法や共沈法で作製されたMgFeより優れた発熱特性を得ることができる。本発明では、焼成時、有機ポリマーの分解による著しい発熱によって、瞬時にフェライト生成の段階に入り、結果として、作製されたMgFeの正スピネル型の割合が増えているためと考えられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、MgFeの単位量当たりの発熱特性を向上させることができ、生体への留置量を減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係るMgFeの製造方法及び製造されたMgFeについて更に説明する。
【0014】
先ず、ここで用いられるMgFeの用法について説明すると、本発明のMgFeは、生体内に留置して交流磁場で発熱させ患部を焼灼する生体加熱材料として用いられる。この本発明のMgFeは、例えば粉体又は粒状体の状態で、次のように使用することができる。すなわち、本発明のMgFeを患部表面に付着させ、及び/又は、本発明のMgFeを患部内部に分散又は取り込まる。また、患部が癌細胞の塊であるときには、カテーテルを用いて本発明のMgFeを送り込み、患部内に取り込ませる。この後、生体を交流磁場内に配置して本発明のMgFeを発熱させる。
【0015】
なお、MgFeは、針状に成形したり、更に、生体適合性のある針状のチタン管、ステンレス管等に充填して、患部に刺入して用いるようにしても良い。
【0016】
ここで、図1は、本発明のMgFe 1を患部10b内に分散又は取り込ませた状態を示している。
【0017】
交流磁場を発生させる加熱装置11は、患者等の生体10aの外部に配設され交流磁場を発生させる誘導コイル12を有している。この誘導コイル12は、電源装置に接続され、交流電流が供給されることによって、100kHz〜1MHz程度の低周波数の交流磁場を発生させる。この加熱装置11では、誘導コイル12で低周波数の交流磁場を発生させ、患部10bにある本発明のMgFe 1を発熱させることによって患部10bを焼灼する。具体的に、本発明のMgFe 1は、交流磁場中のヒステリシス損失が熱に変わって発熱する。ここで、発生させる交流磁場は、100kHz〜1MHz程度の低周波数であることから、患部10b以外への誘導加熱による影響を小さくすることができる。
【0018】
次に、本発明のMgFeの製造方法及びこの製造方法によって得られたMgFeの特徴を説明する。
【0019】
本発明のMgFeは、所謂、高分子化法によって作製される。すなわち、1:2のモル比のMg2+イオンとFe3+イオンを含む均一溶液を有機高分子化により固体化した前駆固体を、1100℃以上で焼成することによって作製することができる。
【0020】
具体的に、Mg(NO・6HO等のマグネシウム塩とFe(NO・9HO等のFe(III)塩を1:2の化学量論比で水等に溶解し、これにクエン酸とエチレングリコール等のモノマー成分を入れ、加熱することにより縮重合させて高分子化し、作製された前駆固体を、空気中で焼成し、有機高分子を燃焼させ、この反応熱によって結晶化度の高いMgFeを作製することができる。かくして得られたMgFeは、正スピネル型の割合が大きくなり、磁気モーメントが大きくなるため、従来より、発熱特性が良くなる。これは、焼成時、有機ポリマーの分解による著しい発熱によって、瞬時にフェライト生成の段階に入り、結果として、作製されたMgFeの正スピネル型の割合が増えているためと考えられる。
【0021】
すなわち、従来のMgFeは、MgOとFeを1:1で混合した後、熱処理を行って原料を合成する固相反応法やMg及びFeの原料となる硝酸塩等の混合溶液に水酸化ナトリウムを入れアルカリ性にし(又は水酸化ナトリウム溶液に混合溶液を入れ)、出来た水酸化物を濾過乾燥させ、焼成して原料を合成する共沈法又は逆共沈法によって作製されていた。しかしながら、固相反応法は、粉砕、焼成を繰り返す方法であり、その作業が繁雑であり、量産に適さず、また、得られたMgFeも本発明のMgFeほどの発熱特性を得ることはできない。また、共沈法で得られたMgFeも、本発明のMgFeほどの発熱特性を得ることはできない。本発明では、従来の製造方法と比較して、製造工程の簡素化を図りながら、発熱特性を、従来の固相反応法や共沈法で作製されたMgFeよりも高めることができる。
【0022】
なお、重合するモノマーの重合は、上述の例に限定されるものではない。例えば、1:2のモル比のMg2+イオンとFe3+イオンを含む溶液に、テレフタル酸にエチレングリコールを1:1のモル比で入れて重合し、ポリエチレンテレフタラートの高分子固体を作製するようにしても良い。
【実施例】
【0023】
次に、本発明のMgFeの実施例を説明する。ここでは、本発明のMgFeを上述の高分子化法で作製し、発熱特性を調べた。
【0024】
<高分子化法>
(1−1) 先ず、Mg:Fe比が1:2となるように、Mg(NO・6HO(関東化学株式会社製)とFe(NO)・9HO(関東化学株式会社製)を、溶解して水溶液を作製した。
(1−2) 次に、この水溶液に、フェライトに対して15倍モル量のクエン酸(関東化学株式会社製)とエチレングリコール(関東化学株式会社製)を加え、よく攪拌した。重合は、100℃で24時間行い、完全に重合させるため、徐々に昇温させ、最大200℃で12時間以上保持し、重合を終了した。
(1−3) 以上のように作製された前駆固体を、電気炉で空気中600℃〜1500℃の各温度まで2℃/minで昇温し、1時間保持した後、炉内で自然冷却した。
(1−4) 以上のように作製された試料粉末(MgFe)を、交流磁場(370kHz、磁場強度1.77kA/m)中で20分間保持した。この場合における代表的な試料の経過時間と上昇温度ΔTとの関係を図1に示す。なお、上昇温度ΔTは、試料の温度から実験開始時の温度を減じた温度である。
【0025】
また、比較例として、MgFeを固相反応法と共沈法を用いて作製し、発熱特性を調べた。
【0026】
<固相反応法>
(2−1) 酸化マグネシウムMgO及びα−酸化鉄Feを1:1の割合(ここでは、0.1mol)で乳鉢を用いて十分混合する。
(2−2) 次に、電気炉内を900℃まで2℃/minの速度で上昇させ、2時間これを保持して仮焼を行う。
(2−3) 以上のように作製された試料粉末を、分散媒をメタノールとした湿式ボールミルにより2時間粉砕を行い、乾燥させ、再び1000℃で仮焼を行う(条件は同様に2℃/minで昇温しこれを2時間保持する。)。
(2−4) 以上のように作製された試料粉末を、湿式ボールミルにより2時間粉砕を行い乾燥させ、これを前駆固体とした。
(2−5) 以上のように作製した前駆固体を目的の温度まで2℃/minの速度で昇温させ、1時間保持して固相反応法によるMgFeを作製した。
【0027】
<共沈法>
(3−1) 硝酸マグネシウム6水和物0.1molと硝酸鉄(III)9水和物0.2molを混合し、純水200mlに溶解させる。
(3−2) 以上のように作製された混合溶液を湯浴上のNaOH水溶液(6mol/l、140ml、滴下開始温度は90℃以上)中に毎秒2滴(6ml/min)の速度で滴下する。
(3−3) 滴下終了後、100℃で1時間熟成させ、得られた水酸化物の沈殿を吸引濾過する。この際、pHが8になるまで純水で洗浄濾過する。
(3−4) 洗浄が終わり次第、試料粉末を100℃の乾燥機で1日乾燥させ、乳鉢で十分に粉砕し、得られた粉末を前駆固体とする。
(3−5) 以上のように作製された前駆固体を電気炉で焼成する。具体的に、目的とする温度まで2℃/minの速度で昇温させて1時間保持した後2℃/minの速度で冷却する。
(3−6) 焼成の後、乳鉢で十分粉砕し、共沈法によるMgFeを作製した。
【0028】
図2に、代表的なMgFe粉末1gを交流磁場(370kHz、磁場強度1.77kA/m)内に保持したときの上昇温度ΔTを示す。なお、ここで用いた固相反応法によるMgFeは、株式会社高純度化学研究所製の純度99.9%のMgFeであり(下記表1のサンプル11)、共沈法によるMgFeは、硝酸塩水溶液を水酸化物として共沈し1200℃で焼成した下記表1のサンプル18であり、本発明の高分子化法によるMgFeは、1200℃で前駆固体を焼成した下記表1のサンプル4である。図2から明らかなように、高分子化法で作製された本発明のMgFeは、比較例である固相反応法や共沈法で作製されたMgFeよりも格段に発熱特性が良いことを確認できる。
【0029】
また、下記表1には、MgFeの作成方法と焼成温度と得られたMgFeの上昇温度ΔTとの関係を示し、図3には、各作製方法で作製したMgFeの焼成温度と上昇温度ΔTとの関係を示す。なお、図3中の数字は、表1のサンプル番号を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
サンプル1〜サンプル10は、高分子化法で前駆固体を作製し1500℃〜600℃で焼成したサンプルであり、サンプル11〜サンプル15は、固相反応法で前駆固体を作製し1400℃〜1100℃で焼成したサンプルであり、サンプル16〜サンプル22は、共沈法で前駆固体を作製し1400℃〜800℃で焼成したサンプルである。また、サンプル2〜サンプル5が本発明の高分子化法で作製されたMgFeであり、その他のサンプルは、本発明の比較例である。また、表1の各サンプルは、全て結晶性の良いことを示す単一相のX線回析ピークを確認した。
【0032】
高分子化法について見ると、焼成温度が1100℃以上で上昇温度ΔTが格段に良くなっていることを確認することができる。また、焼成温度が1500℃以上では、前駆固体がるつぼに付着してしまい、MgFeを作製することができなかった。したがって、焼成温度を、1100℃以上とし、上限を1500℃未満、好ましくは1400℃以下にすることによって、発熱特性の優れたMgFeを得ることができることが分かる。
【0033】
また、サンプル2〜サンプル5は、固相反応法(サンプル11〜サンプル15)、共沈法(サンプル16〜サンプル22)で作製されたMgFeとを比較しても、上昇温度ΔTが格段に良くなっていることを確認することができる。これは、焼成時、有機ポリマーの分解による著しい発熱によって、瞬時にフェライト生成の段階に入り、結果として、作製されたMgFeの正スピネル型の割合が増えているためと考えられる。
【0034】
以上のように、MgFeを高分子化法で作製し前駆固体の焼成温度を1100℃以上とすると、交流磁場における単位面積当たりの発熱特性が優れたMgFeを作製することができ、本発明のMgFeを患部焼灼に用いると、単位面積当たりの発熱特性が優れていることから、生体内へ留置する量を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のMgFeの使用例を説明する図である。
【図2】MgFe粉末1gを交流磁場(370kHz、磁場強度1.77kA/m)内に保持したときの上昇温度ΔTを示す図である。
【図3】表1の各サンプルの焼成温度と上昇温度ΔTとの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 MgFe、10a 生体、10b 患部、11 加熱装置、12 誘導コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に留置して交流磁場で発熱させ患部を焼灼する生体加熱材料として用いられるMgFeの製造方法において、
化学量論比のMg及びFeとモノマー成分とを溶解した水溶液中でモノマー成分を重合させることにより、それぞれの元素を有機ポリマーに分散させた前駆固体を作製し、
次いで、上記前駆固体を1100℃以上で焼成することを特徴とするMgFeの製造方法。
【請求項2】
上記前駆固体の焼成温度は、1400℃以下であることを特徴とする請求項1記載のMgFeの製造方法。
【請求項3】
生体内に留置して交流磁場で発熱させ患部を焼灼する生体加熱材料として用いられるMgFeにおいて、
化学量論比のMg及びFeとモノマー成分とを溶解した水溶液中でモノマー成分を重合させることにより、それぞれの元素を有機ポリマーに分散させた前駆固体を作製し、
次いで、上記前駆固体を1100℃以上で焼成して得られたMgFe
【請求項4】
上記前駆固体の焼成温度は、1400℃以下であることを特徴とする請求項3記載のMgFe

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−238392(P2007−238392A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−64765(P2006−64765)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(504185935)株式会社アドメテック (9)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】