説明

生体安定コーティング物質からの遺伝情報の局所的放出

【課題】哺乳動物体内の標的部位に遺伝情報を局所的に送達すること。
【解決手段】哺乳動物体内の標的部位に遺伝情報を局所的に送達するための医用装置およびシステム。一実施形態として本システムは、体内に挿入可能な医用装置および該医用装置の少なくとも一部を覆う生体安定コーティングを含む。遺伝情報は医用装置が体内に設置される前に生体安定コーティングに組み込まれ、体内の標的部位で生体安定コーティングから放出される。また本発明は本発明の医用装置およびシステムを使って哺乳動物体内の標的部位に遺伝情報を局所的に送達する方法を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、哺乳動物体内の標的部位への遺伝情報の局所的送達に関し、より具体的には医用装置上にコーティングされた生体安定物質からの遺伝情報の送達に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
薬物療法による血管疾患などの疾患の処置は、全身性副作用を最小限に抑えつつ標的組織に治療薬を送達する手段を提供する。最近、例えば、血管反応を引き起こすための遺伝子コンストラクトの局所送達が多くの関心を集めている。しかしインビボの血管平滑筋細胞の遺伝子トランスフェクションは、導入効率が低いため(その原因は1つには非効率的な局所送達装置にあり、また1つには血管壁の障壁特性にあると考えられる)、多くの場合、困難である。
【0003】
治療剤の局所的送達の一例として、インビボアデノウイルス遺伝子導入が部位特異的送達カテーテルを使って達成されている。しかし遺伝物質は通例大分子の形をとっているので、体内での送達中は遺伝物質を保持することができ、次に標的部位に到達したら遺伝物質を放出することができるという生体安定送達物質を設計することは困難だった。むしろ、かかる送達は、生分解性の医用装置またはコーティングに遺伝情報を組み込んで、生分解性物質が体内で崩壊するにつれて遺伝情報が放出されるようにすることによって達成されている。しかし、生分解性物質を体内で使用すると、しばしば組織との有害な相互作用と、その結果としての炎症とが起こる。さらに生分解性物質は、通例、周囲雰囲気にさらされると分解するので、一般に貯蔵寿命が短いという特徴がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(発明の開示)
一側面として、本発明は、哺乳動物体内の標的部位に遺伝情報を局所的に送達するためのシステムに関する。一実施形態として本システムは、体内に挿入可能な医用装置および該医用装置の少なくとも一部を覆う生体安定コーティングからなる。遺伝情報は医用装置が体内に設置される前に生体安定コーティングに組み込まれ、体内の標的部位で生体安定コーティングから放出される。
【0005】
もう1つの側面として本発明は、哺乳動物体内の標的部位に遺伝情報を局所的に送達する方法に関する。一実施形態として本方法は、体内に挿入可能な医用装置を用意する工程、該医用装置の少なくとも一部を生体安定物質で被覆する工程、該生体安定物質に遺伝情報を組み込む工程、および該医用装置を標的部位に設置する工程を含む。遺伝情報は標的部位で生体安定物質から放出される。
【0006】
もう1つの側面として本発明は、遺伝情報の局所的送達を容易にする生体安定コーティングで少なくとも部分的に覆われた医用装置に関する。
【0007】
本発明の1つの利点は、本発明が遺伝情報を保持し放出するのに適した医用装置用の生体安定コーティングおよびかかるコーティングの作製方法を提供することである。
【0008】
本発明のもう1つの利点は、本発明が生体安定物質からの遺伝情報の局所的送達を可能にし、よって生分解性ポリマーからの送達に伴ないうる問題を回避することである。
本発明のさらにもう1つの利点は、本発明が制御された再現性ある方法での遺伝情報の局所的送達を可能にすることである。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)哺乳動物体内の標的部位に遺伝情報を局所的に送達するためのシステムであって、体内に挿入可能な医用装置、および 該装置の少なくとも一部を覆う生体安定コーティング、を含み、遺伝情報は該医用装置の体内への挿入に先立って該生体安定コーティングに組み込まれ、該標的部位で該生体安定コーティングから放出されるシステム。
(項目2)該生体安定コーティングがポリウレタン、エチレンビニルアセテートポリマー、ヒドロゲル、架橋ゼラチン、デキストラン、セルロース、ならびにその配合物およびコポリマーからなる群より選択される物質からなる項目1のシステム。
(項目3)該生体安定コーティングが凍結乾燥法によって作製される項目1のシステム。
(項目4)該生体安定コーティングが、水溶性粒子を生体安定ポリマーからなる溶液に入れる工程、該医用装置を該溶液で被覆してコーティングを形成させる工程、該コーティングを乾燥する工程、および該コーティングを水性環境にばく露する工程、を含む方法によって作製される項目1のシステム。
(項目5)該生体安定コーティングが連結した細孔構造を特徴とする項目1のシステム。
(項目6)該連結した細孔構造が少なくとも約5ミクロンの平均細孔直径を有する項目5のシステム。
(項目7)該連結した細孔構造が少なくとも約10ミクロンの平均細孔直径を有する項目5のシステム。
(項目8)該遺伝情報が核酸、オリゴヌクレオチド、DNA凝縮剤、組換え核酸および遺伝子/ベクター系からなる群より選択される物質からなる項目1のシステム。
(項目9)該医用装置がステントからなる項目1のシステム。
(項目10)該医用装置がカテーテルからなる項目1のシステム。
(項目11)該医用装置が針からなる項目1のシステム。
(項目12)該医用装置が血液フィルターからなる項目1のシステム。
(項目13)該医用装置が組織クリップからなる項目1のシステム。
(項目14)哺乳動物体内の標的部位に遺伝情報を局所的に送達する方法であって、体内に挿入可能な医用装置を用意する工程、該装置の少なくとも一部を生体安定物質で被覆する工程、該生体安定物質に遺伝情報を組み込む工程、および該医用装置を標的部位に設置する工程、からなり、遺伝情報が標的部位で該生体安定物質から放出される方法。
(項目15)該装置の少なくとも一部を生体安定物質で被覆する上記工程が、該生体安定物質の水溶液を形成させる工程、該装置の少なくとも一部を該溶液と接触させて、該装置上に該生体安定物質のコーティングを形成させる工程、該コーティングが完全に乾燥する前に、該コーティングを0℃以下の温度にさらす工程、該コーティングを凍結乾燥する工程、を含む、項目14の方法。
(項目16)該生体安定物質に遺伝情報を組み込む上記工程が該遺伝情報を生体安定物質の該水溶液に入れる工程を含む項目15の方法。
(項目17)該生体安定物質に遺伝情報を組み込む上記工程が、該コーティングを凍結乾燥する上記工程の後で、該コーティングを該コーティングと接触させる工程を含む、項目15の方法。
(項目18)該コーティングを0℃以下の温度にさらす上記工程が、該装置の少なくとも一部を該溶液と接触させる上記工程から約60秒以内に行なわれる、項目15の方法。
(項目19)該コーティングを0℃以下の温度にさらす上記工程が、該装置の少なくとも一部を該溶液と接触させる上記工程から約30秒以内に行なわれる、項目15の方法。
(項目20)該温度が約−20℃以下である項目15の方法。
(項目21)該コーティングを凍結乾燥する上記工程が該コーティング内に連結した細孔構造の形成をもたらす項目15の方法。
(項目22)該装置の少なくとも一部を生体安定物質で被覆する上記工程が、生体安定物質からなる溶液に水溶性粒子を入れる工程、該医用装置を該溶液で被覆して、コーティングを形成させる工程、該コーティングを乾燥させる工程、および該コーティングを水性環境にばく露する工程、を含む、項目14の方法。
(項目23)該生物安定物質がポリウレタン、エチレンビニルアセテート、ヒドロゲル、ならびにその配合物およびコポリマーからなる群より選択される物質を含む項目14の方法。
(項目24)該遺伝情報が核酸、オリゴヌクレオチド、DNA凝縮剤、組換え核酸および遺伝子/ベクター系からなる群より選択される物質を含む項目14の方法。
(項目25)少なくとも一部に凍結乾燥されたコーティングを有する医用装置。
(項目26)該コーティングが生体安定物質からなる項目25の医用装置。
(項目27)該生体安定物質がポリウレタン、エチレンビニルアセテート、ヒドロゲル、ならびにその配合物およびコポリマーからなる群より選択される物質を含む項目26の医用装置。
(項目28)さらに該コーティング中に遺伝情報が組み込まれている項目25の医用装置。
(項目29)該遺伝情報が核酸、オリゴヌクレオチド、DNA凝縮剤、組換え核酸および遺伝子/ベクター系からなる群より選択される物質を含む項目28の医用装置。
(項目30)該医用装置がステントを含む項目25の医用装置。
(項目31)該医用装置がカテーテルを含む項目25の医用装置。
(項目32)該医用装置が針を含む項目25の医用装置。
(項目33)該医用装置が血液フィルターを含む項目25の医用装置。
(項目34)該医用装置が組織クリップを含む項目25の医用装置。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に従って遺伝情報を局所的に送達するための多孔性コーティングで被覆された医用装置を表す図である。
【図2】本発明の一実施形態に従って連結した細孔構造を有するポリマー構造の通常図である。
【図3】本発明の一実施形態に従って連結した細孔構造を有するポリマー構造の横断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に従って放出実験で多孔性ポリマーコーティングから放出されるアルブミンのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(詳細な説明)
本発明は、体内の標的部位への遺伝情報の局所的送達を可能にする。本発明の送達システム、方法および医用装置は、それらが標的部位に遺伝情報を送達するために生体安定コーティング物質を利用する点で新規である。本明細書で使用する用語「生体安定物質」は、体液、組織などに長期間(すなわち最長6ヶ月、1年またはそれ以上)にわたってばく露しても有意な分解を受けない物質を指す。本発明のある実施形態の生体安定コーティング物質は、遺伝情報を細孔内に組み込み、その細孔から放出させるのに十分な孔径を持つ連結した細孔を特徴とする多孔性ポリマー物質である。
【0011】
本発明の生体安定多孔性ポリマー物質は、これまでに医用装置上にコーティングを形成させる目的で使用されたことのない方法によって形成され、したがって新規なコーティング特性を特徴とする。本多孔性物質は好ましくは少なくとも約5ミクロン、より好ましくは少なくとも約8ミクロン、さらに好ましくは少なくとも約10ミクロンの平均細孔直径を特徴とする。
【0012】
一実施形態として、大きい連結した細孔を持っているポリマーコーティングは、医用装置をポリマー水溶液で被覆し、そのポリマー水溶液をすばやく凍結した後、凍結乾燥するという凍結乾燥法によって形成される。凍結乾燥中に、コーティング内の氷はコーティングから昇華して、連結した細孔構造を残す。生成する細孔の孔径は、凍結乾燥加工中の凍結速度などの加工パラメーターおよびプレコーティング製剤の含水量によって制御される。この凍結乾燥法により、細孔内に遺伝情報を組み込んでおく能力を持つ連結した細孔構造を特徴とする生体安定ポリマーコーティングで被覆された医用装置が得られる。
【0013】
多孔構造が凍結乾燥によって得られる実施形態での使用に適したポリマーには、ポリウレタン(ポリウレタン分散系を含む)、エチレンビニルアセテートポリマー、架橋ゼラチンなどのヒドロゲル、デキストラン、ポリカルボン酸、セルロース系ポリマー、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸ポリマー、アクリルラテックス分散系、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、グリコサミノグリカン、多糖、ポリエステル、ポリアクリルアミド、ポリエーテル、ならびにその配合物およびコポリマーなどといった任意の適切な生体安定ポリマーが包含される。
【0014】
本発明によれば、凍結乾燥されたポリマーコーティングによって送達される遺伝情報は、コーティング形成中またはコーティング形成後にポリマー中に組み込まれる。前者の場合は、遺伝情報を例えばポリマーの水分散液に溶解(あるいは遺伝情報の水性溶液のエマルションまたは分散系を塩化メチレンなどの有機溶剤中のポリマーに溶解)した後、それをコーティングとして医用装置に適用する。後者の場合は、遺伝情報を吸収(例えば浸漬)によってコーティングに適用する。この場合、コーティングは好ましくは荷電ポリマーと中性軟質ポリマーとの配合物からなり、該荷電ポリマーは反対に荷電した遺伝情報と相互作用し、該軟質ポリマーは装置に必要な望ましい機械的性質を与える。荷電ポリマーは大量の遺伝情報の迅速な充填を可能にし、孔径ならびに遺伝情報と荷電ポリマーとの解離速度に依存する送達速度をもたらす。
【0015】
他の一部の実施形態では、ポリマーコーティングの作製中に水溶性粒子をポリマーコーティングに組み込むことによって、大きい連結した細孔を有するポリマーコーティングを形成させる。例えば溶解したポリマーの溶液に、安定な分散系が形成されるように、水溶性粒子を分散させる。この溶液を医用装置にコーティングし、乾燥する。次に、前記コーティングを水にばく露することで、水溶性粒子を溶解させ、コーティング外に拡散させる。その結果、孔径が水溶性粒子の分子量および/または水溶性粒子のポリマーに対する重量比などの因子に依存する大きい連結した細孔構造を特徴とするポリマーコーティングが得られる。次に遺伝情報は浸漬または吹付けなどの任意の適切な手段によってコーティングに充填される。水溶性粒子のコーティング外への拡散後に遺伝情報を充填する方法に代わる方法では、遺伝情報がコーティングの作製中にコーティングに組み込まれる。後者の場合、遺伝情報と水溶性粒子は共に、体内に送達されて放出されるまではコーティング中に存在し、水溶性粒子は不活性であるか、または生理活性添加剤である。
【0016】
本発明の生体安定コーティングを配する医用装置には、当技術分野で知られているカテーテル、ステント、針注射装置、血塊フィルター、血管移植片、ステント移植片、胆道ステント、結腸ステント、気管支/肺ステント、食道ステント、尿管ステント、動脈瘤閉塞用コイルおよび他の高次コイル装置、経心筋血行再建術(「TMR」)装置、経皮心筋血行再建術(「PMR」)装置、ならびに皮下針、軟組織クリップ、保持具、筋インプラントおよび他のタイプの医療上有用な装置などの装置を含む任意の適切な装置が包含される。これらの装置は、既知の技術によって標的部位に送達され、そして/または埋植される。送達は、所望により、遺伝情報が標的部位への到達前に放出されるのを抑制するのに役立つ被覆医用装置を覆う鞘を使って行なわれる。
【0017】
図1は本発明の被覆医用装置の一例として被覆血管ステント100を示す。被覆ステント100は、当技術分野で知られているように、任意の適切な金属材料またはポリマー材料で作られた支柱120を持つステント構造110を含む。ステント構造110の少なくとも一部は、遺伝情報の組み込みおよび放出を行なう能力を持つ生体安定コーティング130を含む。
【0018】
本発明を適用することができる有用な治療用途には、管腔または組織損傷(例えば管腔の内壁の裸出、すなわち血管、尿道、尿管、肺、結腸、尿道、胆道、食道、前立腺、ファロピウス管、子宮、血管移植片などの裏打ちを含む内皮裏打ち層の裸出をもたらす損傷)を処置、改善、軽減および/または防止する方法が包含されるが、これらに限らない。かかる損傷は、アテローム性動脈硬化症または尿道肥大(狭窄症)に見られるように疾患に起因し、そして/または、例えば管腔内ステントまたはカテーテル型装置(バルーン血管形成術およびそれに関連する装置を含む)の配置に伴なう機械的損傷に起因する。
【0019】
本明細書に開示する方法を使用することで利益が得られる血管治療には、心筋症、心および脳卒中、塞栓症、動脈瘤、アテローム性動脈硬化症ならびに末梢および心虚血が含まれるが、これらに限らない。側副血管形成を誘導する能力を持つタンパク質をコードする遺伝子の送達は、これらの障害の処置に効果的に使用することができる。また、新内膜(平滑筋)細胞増殖を妨害する能力を持つタンパク質をコードする遺伝子の送達は、再狭窄の処置に特に役立つ。
【0020】
本明細書に開示する方法を使用することで利益が得られる非血管治療には、胆管、尿管狭窄症、および尿生殖器への適用(例えば失禁、腎結石などの治療)が包含される。この場合、装置は通例、所定の期間にわたって埋植され、抗細菌、抗炎症または抗痂皮形成作用を誘導する能力を持つ遺伝物質の局所送達が有益である。他の応用例では、遺伝子抗炎症剤の送達が、前立腺炎、間質性膀胱炎および他の尿生殖器炎症性障害の処置に使用される。また遺伝子抗増殖剤を子宮内膜症治療に使用することもできる。さらにもう1つの応用例は、遺伝子抗癌剤の送達への応用である。本発明の方法は膀胱癌、前立腺癌および子宮癌の治療に応用することができる。
【0021】
本発明と共に使用される遺伝情報の具体例としては、例えば核酸(例えば組換え核酸;裸のDNA、cDNA、RNA;ペプチドターゲティング配列が結合されていてもよい非感染性ベクター中またはウイルスベクター中のゲノムDNA、cDNAまたはRNA;アンチセンス核酸(RNAまたはDNA);および遺伝子配列を含み、膜トランスロケーション配列(membranetranslocating sequence)(「MTS」)および単純疱疹ウイルス1(「VP22」)などのフェリータンパク質をコードするDNAキメラなどを含む)、オリゴヌクレオチド、リボザイム、アンチセンス遺伝子、DNA凝縮剤(DNAcompacting agent)、および遺伝子/ベクター系(すなわち核酸の取り込みおよび発現を可能にする任意の情報)が包含される。
【0022】
治療用ポリヌクレオチドの例には、アンチセンスDNAおよびRNA、アンチセンスRNAをコードするDNA、または欠損もしくは不足した内因性分子に代わるtRNAもしくはrRNAをコードするDNAが包含される。本発明のポリヌクレオチドは、治療用タンパク質または治療用ポリペプチドもコードすることもできる。抗アポトーシスBcl−2ファミリー因子およびAtkキナーゼなどの細胞死を防止する生存遺伝子、Fasリガンド、チミジンキナーゼ/ガンシクロビルなどの抗増殖遺伝子、ならびにCDK阻害剤、RbおよびE2Fなどの細胞周期阻害剤が含まれる。他の有用な因子には、再狭窄を抑制する因子、血管形成因子、例えばbFGF、aFGF、VEGF、HIF1、Del1、PIGF、PDGF、VEGF、血管内皮増殖因子、表皮増殖因子、トランスフォーミング増殖因子αおよびβ、血小板由来内皮増殖因子、血小板由来増殖因子、腫瘍壊死因子α、肝細胞増殖因子、インスリン様増殖因子など、単球化学誘引タンパク質(「MCP−1」)を含むポリペプチドをコードするDNA、ならびに骨形成タンパク質(「BPM」)のファミリーが包含される。既知のタンパク質にはBMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6(Vgr−1)、BMP−7(OP−1)、BMP−8、BMP−9、BMP−10、BMP−11、BMP−12、BMP−13、BMP−14、BMP−15およびBMP−16が包含される。現時点で好ましいBMPはBMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6およびBMP−7のいずれかである。これらの二量体タンパク質はホモ二量体、ヘテロ二量体またはそれらの組み合わせとして、単独で、または他の分子と共に提供することができる。これに代えて、またはこれに加えて、BMPの上流または下流作用を誘導する能力を持つ分子を提供することもできる。かかる分子には任意の「ヘッジホッグ」タンパク質またはそれらをコードするDNAが包含される。
【0023】
以下の非限定的実施例に関し、本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0024】
実施例1−連結した細孔構造の形成 本発明に従って、連結した細孔構造を特徴とするポリマーコーティングを、凍結乾燥法によって作製した。
【0025】
10重量%のアルブミンと20重量%のBayhydrolとを溶解状態で混合することにより、アルブミンとBayhydrol(ポリウレタンの水性分散液)の水溶液を調製した。アルブミンは遺伝分子の代替物として使用した。およそ1cm×2cmのステンレス鋼試験片を上記の溶液に約30秒間浸漬して試験片上にコーティングを形成させた後、直ちに低温環境(すなわち−20℃および−80℃)にさらし、少なくとも部分的に液状のコーティングを凍結させた。次に、試験片を凍結乾燥器に入れて、コーティング中の凍結した水を昇華させた。
【0026】
上記の凍結乾燥法により、実質的に均一な連結した細孔構造を特徴とするポリウレタンコーティングを得た。最終的なコーティング組成は約33%アルブミン−67%Bayhydrolだった。図2は−80℃の凍結温度を使用する方法によって形成されるコーティングの上面を示す代表的な走査型電子顕微鏡像である。図3は図2に示すコーティングの破面を表す図であり、細孔構造の連結性を示している。一般に、凍結温度は低い方(すなわち−80℃)が、高い凍結温度(すなわち−20℃)よりも、細孔は小さくなり、細孔密度が高くなった。
【0027】
実施例2−細孔構造に対する乾燥時間の影響 実施例1に従って試験片上に多孔性ポリウレタンコーティングを形成させた。試験片をポリマー溶液に浸漬してから試験片を−80℃環境に入れるまでの乾燥時間に対する影響を観察するために、凍結乾燥に先立って被覆試験片を0、30、60および300秒間風乾した。
【0028】
上記の凍結乾燥法によって得られる孔径は乾燥時間と逆の関係にあった。細孔のおよその寸法の変動を乾燥時間の関数として表1に示す。
【表1】

【0029】
実施例3−多孔性コーティングからのアルブミンの放出 実施例1に従って形成させた被覆試験片をリン酸緩衝食塩水に最長60分間入れて、多孔性コーティングからのアルブミンの放出プロフィールを観察した。対照群として、試験片をポリウレタン−アルブミン溶液で被覆し、凍結を行なわずに風乾した。したがって対照試験片上のコーティングは、連結した細孔構造を特徴としていない。
【0030】
図4は試験した試料の典型的放出プロフィールを示す。図4からわかるように、実施例1に従って形成させた試料(すなわち−20℃および−80℃の凍結温度を使って凍結乾燥した試料)間に統計的に有意な相違はなかった。しかし、凍結乾燥試験片からの放出と、凍結乾燥されていない試験片からの放出との間には、明確な相違があった。凍結乾燥していない試験片からは充填したアルブミンの約40%が60分後に放出されたに過ぎなかったが、凍結乾燥試験片では充填したアルブミンの約90%が同じ時間中に放出された。さらに、凍結乾燥してない試験片からのアルブミンの放出は約10分後には実質的に終了したが、凍結乾燥試験片からの放出は60分の試験期間の全体にわたって持続した。
【0031】
この実施例は、本発明に従って作製された多孔性ポリマーコーティングが、遺伝分子などの巨大な分子物質の効率のよい放出に適していることを実証している。
【0032】
本発明は、生体安定コーティング送達物質で被覆された医用装置による体内の標的部位への遺伝情報の局所的送達を可能にする。この目的の達成を容易にするために、本発明のある実施形態の生体安定コーティング物質は、遺伝情報を細孔内に組み込み、その細孔から放出させるのに十分な孔径を持つ連結した細孔を特徴とする多孔性ポリマー物質である。いくつかの典型的な実施形態について本発明を説明したが、たとえ具体例として明示的には示していなくても当業者には明らかであろう変形が、上記の実施形態には他にも数多くある。これらの変更実施形態は、本願特許請求の範囲によってのみ限定されるべき本発明の教示内容に包含されると理解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−254871(P2009−254871A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182669(P2009−182669)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【分割の表示】特願2001−502903(P2001−502903)の分割
【原出願日】平成12年6月2日(2000.6.2)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】