説明

生体情報処理装置及び生体情報処理方法

【課題】 被検体の吸収特性の分布を高解像度に測定することが可能な生体情報処理装置及び生体情報処理方法を提供する。
【解決手段】 本発明の生体情報処理装置は、生体に光を照射するための光源1と、生体の局所領域に対して超音波を照射するための超音波送信部としてのトランスデューサ5と、局所領域において超音波によって光源からの光が変調を受けた変調光を検出するための光検出部8と、光源からの光を受けて局所領域から発生した音響波を検出するための音響波検出部としてのトランスデューサ5と、を有する。そして、光検出部8の出力である変調信号から算出した局所領域での光強度に基づいて、音響波検出部5からの出力である音響信号から局所領域の吸収特性を算出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報処理装置及び生体情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザーなどの光源から生体に光を照射し、入射した光に基づいて得られる生体内の情報を画像化する光イメージング装置の研究が医療分野で積極的に進められている。
【0003】
この光イメージングの一つとして、光音響イメージングと呼ばれているPAT(Photo Acoustic Tomography)という技術がある。光音響イメージングは、光に比べて生体内での散乱が少ない超音波の特性を利用して、生体内の光学特性値分布を高解像度に求める手法である(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0004】
この方法では、光源から発生したパルス光を生体に照射し、生体内で伝播・拡散したパルス光のエネルギーを吸収した生体組織から発生した音響波を検出する。すなわち、腫瘍などの被検部位とそれ以外の組織との光エネルギーの吸収率の差を利用し、被検部位が照射された光エネルギーを吸収して瞬間的に膨張する際に発生する弾性波をトランスデューサで受信する。この検出信号を解析処理することにより、生体内の光学特性分布、特に、光エネルギー吸収密度分布を得ることができる。
【0005】
一方、PAT以外の光イメージングとして、拡散光イメージングと呼ばれているDOT(Diffuse Optical Tomography)という技術がある。拡散光イメージングは、光源から生体に光を照射して、生体内を伝播・拡散した微弱光を高感度な光検出器により検知し、その検知信号から生体内の光学特性値分布をイメージングする技術である。
【0006】
また、光と超音波を利用するイメージング技術として、音響光学トモグラフィ(AOT:Acousto−Optical Tomography)という技術がある。音響光学トモグラフィは、生体組織内部に光を照射すると共に局所領域に集束した超音波を照射し、超音波によって光が変調される効果(音響光学効果)を利用し、変調光を光検出器で検出する(特許文献2)。AOTやPATは光と超音波が相互作用した局所的な領域の信号を検出するために、DOTよりも解像度が高いことが知られている。
【特許文献1】米国特許第5840023号明細書
【特許文献2】米国特許第6957096号明細書
【非特許文献1】M,Xu,L.V.Wang“Photoacoustic imaging in biomedicine”,Review of scientific instruments,77,041101(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PATは、局所的な被検部位で吸収されて発生する音響波を測定することで、局所的な光の吸収情報を得ることができる。被検部位で発生する音響波の圧力pは、光照射点から被検部位までの距離zを用いて、下の(1)式のように表される。
P(z)=Γμ(z)Φ(z) ・・・(1)
ここで、
Γ:グリュナイゼン係数(熱−音響変換効率)
μ(z):距離zにおける位置での吸収係数
Φ(z):距離zにおける位置での光強度
である。弾性特性値であるグリュナイゼン(Grunesen)係数Γは、体積膨張係数βと音速cの二乗の積を比熱Cpで割ったものである。
【0008】
Γは生体組織が決まればほぼ一定の値をとることが知られているので、音響波の大きさである音圧Pの変化を時分割で測定することによりμとΦの積、すなわち、光エネルギー吸収密度分布Hを得ることができる(非特許文献1参照)。
【0009】
ここで、測定値である音圧Pに基づいて生体内の吸収係数μ(z)の分布を精度良く画像化するためには、被検部位zの位置における光強度Φ(z)を精度よく見積もる必要があることが(1)式よりわかる。
【0010】
光強度Φ(z)を推測する手法として、非特許文献1では、生体内部の平均的な光の減衰係数μeff(r)を用い、ランベルトベール則や拡散理論を使って光強度Φ(z)を求めている。そして、この光強度Φ(z)を用いて、音圧P(z)からμ(z)を得ることが記載されている。ここで減衰係数μeff(r)は下記の(2)式で表される。
【0011】
【数1】

【0012】
ここで、μ’は等価散乱係数である。しかし、被検体が光学的に均質な場合においては(2)式を適用できるが、不均質な場合については正しく光強度Φ(z)を推定することができない。例えば、被検体に光を照射して、被検体から放射される拡散光を測定することで、減衰係数μeff(r)を見積もることができる。しかし減衰係数μeff(r)は、被検体の表面付近の光学特性の影響が大きく、表面よりも比較的深い被検部位に到達する光強度は、その途中の不均質な光学特性の影響を受けるため、μeff(r)を用いて見積もった光強度から大きくずれてきてしまう。光強度Φ(z)を精度よく推定できないと、同被検部位の吸収係数μ(z)を高精度に求めることはできない。
【0013】
本発明の目的は、局所的な被検部位における光強度を精度良く推定することによって、PATの光音響信号から高精度に吸収係数を推定することができる生体情報処理装置及び生体情報処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題に鑑み、本発明の生体情報処理装置は、生体に光を照射するための光源と、前記生体の局所領域に対して超音波を照射するための超音波送信部と、前記局所領域において前記超音波によって前記光源からの光が変調を受けた変調光を検出するための光検出部と、前記光源からの光を受けて前記局所領域から発生した音響波を検出するための音響波検出部と、
前記光検出部の出力である変調信号から算出した前記局所領域での光強度に基づいて、前記音響波検出部からの出力である音響信号から前記局所領域の吸収特性を算出する演算部と、を有することを特徴とする。
【0015】
また、上記課題に鑑み、本発明の生体情報処理方法は、生体の局所領域に対して光を照射すると共に超音波を照射したときに、該局所領域において前記超音波によって変調を受けた変調光を検出する工程と、生体に光を照射したときに前記局所領域から発生した音響波を検出する工程と、
前記変調光から得た変調信号から算出した前記局所領域での光強度に基づいて、前記音響波から得た音響信号から前記局所領域の吸収特性を算出する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の生体情報処理装置及び生体情報処理方法によれば、AOTの手法を用いて局所的な被検部位における光強度を精度良く推定することによって、PATの光音響信号から高精度に吸収係数を推定することができる。その結果、生体内の吸収係数分布を高解像度で画像化することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明をより詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。
【0018】
本発明の生体情報処理装置は、音響光学トモグラフィ(AOT)から算出した局所領域での光強度に基づいて、光音響イメージング(PAT)で得た音響信号から上記局所領域での吸収特性を算出することを特徴とする。
【0019】
光音響イメージングは、上記の式(1)から分かるように、音圧(P)変化の計測から生体内の吸収係数(μ)分布を求めるためには、生体(吸収体)に照射された光量の分布(Φ)を何らかの方法で求める必要がある。
【0020】
しかし、複雑な生体内の場合、吸収体に照射された光量の推定が難しく、一般的な音響波の音圧測定だけでは、光エネルギー吸収密度分布(μ・Φ)しか画像化することができない。すなわち、音響波のみの測定から、吸収体に照射される光量の分布(Φ)を算出し、生体内の吸収係数分布(μ)を正確に分離・画像化することは困難である。この結果、PATだけでは、正確な吸収係数(μ)の分布を求めることができず、生体組織の構成物質特定や濃度測定を行うことができない。
【0021】
そこで、AOTにより得た光量データ(Φ)を用いて、PATから吸収係数を求めることができる。詳細は後述するが、PATでは直接測定することのできなかった光量(Φ)の分布をより高精度に決定することができる。そのため、AOTで求めた光量(Φ)と、PATで求めた光エネルギー吸収密度分布(μ・Φ)を利用すれば、吸収係数分布を定量的かつ、高解像度に求めることができる。このように、AOTとPATを融合して用いることで、吸収係数分布の定量性及び解像度を上げることができる。
【0022】
(実施形態1)
本発明の実施形態1における生体情報処理装置及び生体情報処理方法について説明する。図1は、本実施形態の生体情報処理装置の構成例を示す模式図である。
【0023】
本実施形態の生体情報処理装置は、AOTとPATの両方によって生体である被検体7の組織内部の情報を測定可能な測定部19と、測定部19から得られた各種信号を処理するための演算部である信号処理装置9から構成される。また、信号処理の結果得られた生体内部の情報を画像化した画像を表示する表示装置14を有しても良い。
【0024】
測定部19は、以下の構成を有する。生体である被検体7に光を照射するための光源1、被検体7の局所領域(超音波集束領域6)に対して超音波を照射するための超音波送信部である超音波トランスデューサ5、超音波集束領域6において超音波によって光源1からの光が変調を受けた変調光を検出するための光検出部である光検出器8、が主な構成である。ここで、超音波トランスデューサ5は、光源1からの光を受けて局所領域から発生した音響波を検出するための音響波検出部としても機能する。すなわち、一つの弾性波トランスデューサによって、AOTにおける集束超音波の送信と、PATにおける音響波の受信が兼ねられている。また、正弦波などの信号を発生する信号発生器15と、入射光ファイバ2、検出光ファイバ3と、被検体固定板4と、を有する。
【0025】
光源1は、AOT測定においてもPAT測定においても使用される。また、超音波トランスデューサ5は、AOT測定において超音波を送信し、PAT測定において音響波を受信する。光検出器8は、AOT測定において変調光を検出する。
【0026】
演算部である信号処理装置9においては、AOT測定における光検出器8の出力である変調信号から算出した超音波集束領域6での光強度に基づいて、PAT測定における超音波トランスデューサ5からの出力である音響信号から該局所領域での吸収特性が算出される。
【0027】
被検体7は、乳房などの生体組織であり、吸収散乱体である。被検体7は、被検体固定板4で2方向から軽く抑えて固定された状態にある。被検体固定板4は、光学的に透明であり、被検体7と音響インピーダンスが比較的近いもので構成されている。
【0028】
光源1はコヒーレンス長が長く(例えば、1m以上)、強度が一定の連続光(CW光:Continuous Wave光)と数nsのパルス光のいずれかを内部で切り替えられることが好ましい。光源1は、生体組織を構成する水、脂肪、タンパク質、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、などの吸収スペクトルに応じた複数の波長を選択することができる。一例としては、生体内部組織の主成分である水の吸収が小さいため光が良く透過し、脂肪、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンのスペクトルに特徴がある600乃至1500nm範囲が適当である。具体的な光源1の例としては、異なる波長を発生する半導体レーザー、波長可変レーザーなどで構成するとよい。なお、本明細書において「光源」は、PAT測定で照射するパルス光、AOT測定で照射するCW光を、それぞれ発する2つの光源であっても良い。勿論、パルス光とCW光を発生できる1つの光源であっても良い。光源としてはレーザーが好ましいが、レーザーのかわりに発光ダイオードなどを用いることも可能である。レーザーとしては、固体レーザー、ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど様々なレーザーを使用することができる。
【0029】
光ファイバ2は、光源1から発生した光を被検体7に導く。光ファイバ2の前段に光源1からの光を光ファイバ2の端部に効率良く導光する集光光学系を設けてもよい。被検体7内部に入射した光は、吸収と散乱を繰り返しながら被検体内部を伝播する。
【0030】
[AOT測定]
まず、AOT測定について説明する。超音波トランスデューサ5は、被検体7の内部の任意の位置(超音波集束領域6)に集束超音波を送信する。例えば超音波の周波数の範囲は、およそ1から数10MHzの範囲である。照射する超音波強度は、生体に照射可能な安全基準以下の強度の範囲内で調節される。
【0031】
超音波トランスデューサ5は、例えば、リニアアレイ探触子から構成される。アレイ探触子を用いた電子フォーカスによって被検体7の内部の任意の位置に超音波集束領域6を生成する。あるいは、円形凹面超音波振動子や音響レンズを用いたものを機械的に走査して超音波集束領域6を任意の位置に配置してもよい。弾性波トランスデューサとしては、圧電現象を用いたトランスデューサ、光の共振を用いたトランスデューサ、容量の変化を用いたトランスデューサなどを用いることができる。
【0032】
超音波集束領域(プローブ領域)6では、超音波トランスデューサ5で設定された超音波の周波数と振幅に応じた音場が生成される。この領域内部では、音圧による媒質の密度変化が生じ、媒質の屈折率変化や散乱体の変位が生じる。この領域に光源1から照射された光が入射すると、媒質の屈折率変化や散乱体の変位により、光の位相が超音波の周波数で変調される。ここでは、この現象を音響光学効果と呼ぶことにする。本明細書において「変調光」とは、局所領域に集束された超音波によって引き起こされる音響光学効果によって変調された光を意味する。
【0033】
超音波照射領域6において音響光学効果により変調された変調光と、超音波照射領域6において変調を受けなかった非変調光及び、超音波照射領域6以外を通過した非変調光を光ファイバ3を経由して光検出器8で検出する。光検出器8には、PMT(Photomultiplier Tube)やAPD(Avalanche Photodiode)のような単一検出器を用いることが好ましい。CCD、CMOSなどのマルチセンサを用いてもよい。
【0034】
信号処理装置9は、光検出器8や超音波トランスデューサ5からの信号解析や、被検体7内部の吸収特性などについて関連する情報を解析し、画像化する処理を行い、信号抽出部10、演算処理部11、画像生成部12及びメモリ13を有する。
【0035】
変調光測定において、信号抽出部10はフィルタとして機能し、変調光と非変調光を分離する。信号抽出部10には、特定周波数の信号を選択的に検出するバンドパスフィルタ、特定周波数の光を増幅して検出するロックインアンプが適用可能である。光検出器8から得られる信号に対して、信号抽出部10で変調光の光強度を得る。
【0036】
本明細書において「変調信号」とは、超音波によって変調された変調光が、光検出器8による光電効果によって変換された電気信号をいう。電気信号は、好ましくは交流成分の電気信号である。
【0037】
[PAT測定]
次に、PAT測定について説明する。光源1から数nsパルスの光を被検体7に照射し、プローブ領域6において吸収された光エネルギーが局所的な温度上昇を引き起こして、体積膨張する際に発生する音響波を検出する。AOT測定時と同じプローブ領域6からの音響波を測定するために、AOTで送信として使用した電子フォーカス設定を、受信用として使用する。円形凹面超音波振動子や音響レンズを用いて機械的に走査する場合は、AOTと同じ幾何配置にしておけばよい。プローブ領域6から得られる光音響信号の強度を信号抽出部10で測定する。
【0038】
本明細書において「音響波」とは、プローブ領域6から光音響効果によって発生した弾性波いう。また、「音響信号」とは、プローブ領域6から発生した弾性波を、超音波トランスデューサ5を用いて電気信号に変換し、得られる電気信号をいう。
【0039】
[他の装置構成]
入射光ファイバ2と検出光ファイバ3は同期して、被検体固定板4の表面を2次元的に走査できる機構をもつ。また、入射光ファイバ2と検出光ファイバ3の位置に応じて、超音波トランスデューサ5を制御してプローブ領域6を設定する。プローブ領域6を被検体7に対して走査して、AOT測定とPAT測定をそれぞれ行い、被検体7の空間的な測定分布を得る。また、被検体7内部の分光特性を取得するために、光源1の波長を切り替えて上記測定を行うこともできる。
【0040】
演算処理部11では、AOT測定における変調信号とPAT測定における光音響信号とを利用して、後述する信号処理を実施する。或いは、複数波長によって得られた分光特性から、被検体7内部の構成要素の濃度及び成分比率を算出する。また、算出されたこれら分光特性に関するデータは全て、プローブ領域6の位置座標のデータと対応させて、被検体7内部の分光特性の分布データを作成する。
【0041】
画像生成部12は、演算処理部11で作成した被検体7内部の分光特性の分布データから被検体7の三次元断層像(画像)を形成する。
【0042】
メモリ13は、信号抽出部10で得られたAOT測定及びPAT測定の信号値や、演算処理部11が生成したデータや画像生成部12が生成した分光特性の画像などを記録する。メモリ13は、光ディスク、磁気ディスク、半導体メモリ、ハードディスク、などのデータ記録装置を用いることができる。
【0043】
表示装置14は、信号処理装置9で生成した画像を表示し、液晶ディスプレイ、CRT、有機EL、などの表示デバイスを用いることができる。
【0044】
[生体情報処理方法]
以下に、演算処理部11で実施される、AOT測定における変調信号を利用して、PAT測定における光音響信号からプローブ領域6の吸収特性を得る演算処理手法を示す。
【0045】
図2に示すようなAOTの測定条件において、特許文献2に記載されているように、被検体7内部の位置rにあるプローブ領域6で変調作用を受けて検出される変調光の光強度IAC(r)は、以下の(3)式によって表すことができる。
AC(r)=SΨ(r,r)ηΨ(r,r) ・・・(3)
ここで、Ψ(r,r)は被検体7における光入射位置rからプローブ領域6の位置rまでの光強度の伝達関数を、Ψ(r,r)はrから光検出位置rまでの光強度の伝達関数を表す。また、Sは被検体7に入射する光強度、ηはプローブ領域6において光が変調作用を受ける効率を表す。被検体7内部の光強度の伝達関数Ψは、光拡散方程式や輸送方程式、モンテカルロシミュレーションなどでモデル化することができる。
【0046】
ここで、本明細書において、入射光ファイバ2から照射された光が被検体内でプローブ領域6に至るまでに光が散乱して伝播する経路を入射光伝播領域と呼ぶ。また、プローブ領域6で変調を受けた光が検出光ファイバ3に至るまでに光が散乱して伝播する経路を検出光伝播領域と呼ぶ。
【0047】
図3に示すように、入射光ファイバ2と検出光ファイバ3の位置を近づけて配置すると
【0048】
【数2】

【0049】
、(3)式は(4)式のように書ける。
AC(r)=SΨ(r,rη ・・・(4)
ここで、図4に示すように、光入射位置rからプローブ領域6の位置rまでの光の伝播経路分布18とプローブ領域6から光検出位置rまでの光の伝播経路分布18はほぼ同じとなる。つまり、光源1から照射される光による入射光伝播領域と、検出器8により変調光を検出するときの検出光伝播領域とが重複し、同一とみなせるため、同じ伝播経路分布を往復して変調信号IACとして検出される。このため、前者の伝達関数Ψ(r,r)と後者の伝達関数Ψ(r,r)は等しくなり(Ψ(r,r)=Ψ(r,r))、また、伝達関数Ψ(r)は可逆であるので(4)式が得られる。
【0050】
従って、(4)式より光入射位置rからプローブ領域rまでの光伝達関数Ψは、
【0051】
【数3】

【0052】
となる。この伝達関数は、光照射位置rから局所的なプローブ領域6に至るまでの、被検体内部の光学特性を反映したものとなる。
【0053】
このように、入射光経路と検出光経路が同一であることから得られる関係式(4)を用いて、局所領域での変調光の光強度IAC(r)を算出することが好ましい。入射光経路と検出光経路が同一と見なせない場合は、AOTの測定による変調信号は、入射光経路だけでなく検出光経路にある被検体内部の光学特性を反映したものになる。一方、PATの測定で得られる光音響信号からプローブ領域6の吸収特性を得るには、入射光経路を伝播したときの光の減衰率、つまり、入射した光が入射光経路にある被検体内部の光学特性の影響を受けた結果プローブ領域6に到達する光の強度が必要になる。このとき、後述するように、入射光経路と検出光経路とは同一と見なせる条件では、測定したいある1点のプローブ領域6に対して1回のAOTの測定を実施すればよい。しかし、両者が同一と見なせない場合は、プローブ領域6に対して複数回のAOT測定を行って、入射光経路における被検体内部の光学特性分布を推定し、プローブ領域6での光強度を算出する必要がある。前者は後者よりもAOTの測定回数が少ないために効率的であり、且つ、後者における光学分布の推定による誤差の影響も受けないために高精度である。
【0054】
一方、PATの測定において、AOTの測定と同じプローブ領域6からの光音響信号を検出する場合を考える。PAT測定時における光入射強度をS’とすれば、プローブ領域6での光強度Φ(r)は(5)式を用いて、以下のように書ける。
Φ(r)=S’Ψ(r,r) ・・・(6)
(1)式と(5)式、(6)式を用いれば、発生する音響波の音圧P(r)は(7)式のように表すことができる。
【0055】
【数4】

【0056】
これより、プローブ領域6における吸収係数μ(r)は以下の式になる。
【0057】
【数5】

【0058】
AOT測定において照射する超音波の音圧や周波数が一定であれば、変調効率ηはプローブ領域6の屈折率、吸収係数、散乱係数、散乱の異方性パラメータなどに依存する。しかし、一般的な生体軟組織においては、プローブ領域が十分小さい(〜mm)ときは変調効率ηの変化は小さくほぼ一定と見なせる。AOT測定やPAT測定において、それぞれ常に一定の光強度を生体に入射し、さらに、グリュナイゼン係数Γも位置に寄らずほぼ一定とすれば、(8)式から下記のような関係式が得られる。
【0059】
【数6】

【0060】
(9)式より、AOT測定とPAT測定において、同じプローブ領域6に対して、変調光強度信号IAC(r)と光音響波P(r)を測定することによって、プローブ領域rの吸収特性μ(r)を得ることができる。
【0061】
プローブ領域rを3次元領域でスキャンして測定することによって、被検体7の吸収係数の相対的な内部分布を可視化することができる。(9)式で定数とした各パラメータをキャリブレーションによって予め求めておけば、吸収係数を算出することもできる。
【0062】
PATの光音響信号から吸収係数μを求めるためには、光音響波の発生位置における光強度を推定する必要がある。これをAOT測定から得られた変調信号を利用して行うことが本発明の特徴である。本実施形態においては、入射光ファイバ2と検出光ファイバ3の位置をプローブ領域6に対してほぼ同じ位置と見なせるような配置に設定して、AOTの測定を行うことが好ましい。この場合、プローブ領域6の位置に応じた光伝達関数を、AOT測定の変調信号から得ることができる。AOT測定とPAT測定は同じプローブ領域の配置で測定を行うので、PATの測定条件に合わせた光強度を、(6)式のようにして推定することができる。
【0063】
このように、PAT測定から得られる光音響信号に対して、(1)式を用いて局所領域の吸収係数を算出する際に、AOT測定から得られる変調信号を利用して、(6)式のようにして光強度を算出し、最終的には(9)式のような形で吸収係数を算出することができる。
【0064】
前述した従来の平均的な光の減衰係数を利用して光強度を推定する手法は、理想的な均質媒質に対してのみ精度良く適用できる。しかし、本発明の解析方法では、被検体7内部が均質でも不均質でも適用可能である。不均質な場合でも、その不均質媒質を往復した変調光信号IACが得られ、IACを利用して不均質さを反映した伝達関数Ψを求め、これを利用して光強度を推定するからである。すなわち、媒質の不均質さが考慮された吸収係数を求めていることになるのである。
【0065】
図5に、本実施形態の生体情報処理方法を実施する場合の測定フローの一例を示す。S100でプローブ領域6を設定する。次のステップからAOTの測定を行う。S101でCW光を照射し、プローブ領域6にパルス超音波を照射する。S102において、プローブ領域6で変調された光を、光検出器8で検出し、信号処理装置9における信号抽出部10によって、超音波の周波数で変調された光信号のみを選択的に抽出し、変調光信号IAC測定する。測定した変調信号はメモリ13に保存される。AOT測定が終了するとS103でCW光、パルス超音波のスイッチをオフにする。
【0066】
次にPATの測定を行う。S104でパルス光を照射する。S105で、プローブ領域6で発生する光音響信号を超音波トランスデューサ5で検出する。このとき超音波の受信の設定は、AOT測定で設定したプローブ領域6と同じ位置に設定されている。信号抽出部10において、プローブ領域6の音響波を測定し、光音響信号をメモリ13に格納する。PAT測定が終了するとS106でパルス光のスイッチをオフにする。
【0067】
S107において、メモリ13からAOTの変調信号とPATの光音響信号を読み出し、(9)式を用いてプローブ領域6の吸収係数μ(r)を算出する。
【0068】
プローブ領域6を被検体7内部でスキャンしてS100からS107のフローを実施することで、被検体7の吸収分布を得る。被検体7内部の全領域をスキャンすれば、被検体7内部の全領域の吸収分布が得られる。画像生成部12で、各プローブ領域6の位置座標に対応させて吸収係数をマッピングすることで、吸収係数の三次元的な空間分布が得られ、これを画像化して表示装置14で表示する。
【0069】
また、光源1の波長を任意に複数用いて前述のフローを実行し、被検体7の構成要素、例えば、酸化ヘモグロビン・還元ヘモグロビン・水・脂肪・コラーゲンなどの成分比率や、酸素飽和指数などの代謝情報を演算処理部11で求めることもできる。これらの機能情報を上述したのと同様にプローブ領域6の位置座標と対応させてマッピングする。この情報から画像生成部12で三次元断層像を形成し、表示装置14で表示することができる。
【0070】
ここで、図5ではAOTの測定を行ってからPATの測定を行っているが、順序を反対にして、PATの測定を行ってからAOTの測定を行ってもよい。
【0071】
[装置構成の変形例]
図6〜8は、図1の測定部19について光ファイバを用いない他の構成例を示す模式図である。測定部19以外の信号処理装置9などは図1と同じ構成とする。
【0072】
図6の例において、光源1からのビームは、ビームスプリッタ20で反射して、照明/検出光学系21を経て、被検体7に対して比較的大きな面積で光を照射する。このとき、AOT測定における検出光は、照明時と同じ光学系21を通して光を集光し、ビームスプリッタ20を透過して光検出器8で信号光を検出する。光照射と光検出を同じ光学系を用いて開口面積を同一にすることで、図3と同じような幾何条件を設定することができる。
【0073】
或いは、被検体7に対してプローブ領域6が十分深く、拡散近似が成り立つ領域においては、図7のような構成でもよい。入射側と検出側で同じ光学系を用い、被検体7に対する開口部分を同じ領域に設定している。少し斜めから被検体7に入射した光は、被検体内部で散乱を繰り返すうちに等方的に拡散し、後方散乱光も等方的に拡散して被検体7から射出する光を検出する。このような構成でも、光照射領域と光検出領域をほぼ同じ領域とすることができる。
【0074】
或いは、基本的には図6と同じ構成だが、図8のように被検体7に対して、測定プローブ16を接触させて測定する構成でもよい。測定プローブ16の中に光検出器8や超音波トランスデューサ5及びビームスプリッタ20、光学系21が収められている。また、測定プローブ16と被検体7の間には、音響インピーダンスをマッチングさせるマッチング媒質が満たされている。図8においても、光照射領域と光検出領域をほぼ同じ領域とすることができる。
【0075】
ここで、AOTの測定手法は、PMTなどの単一検出器を用いた検出手法やCCDなどのマルチセンサを用いたパラレル検出、或いはフォトリフラクティブ素子を用いたホログラム検出やスペクトルホールバーニングを用いた検出などいずれであってもよい。
【0076】
(実施形態2)
本発明の実施形態2における生体情報処理方法について説明する。本実施形態の装置構成は実施形態1と同様である。本実施形態における測定フローを図9に示す。まずS200において、入射光ファイバ2を被検体固定板4の表面に対して2次元的に走査しながらPAT測定を行い、被検体7の全領域でPATの測定値を得る。このとき、複数の波長で測定を行い、分光情報も取得することが好ましい。
【0077】
S201で、例えば非特許文献1などに開示されている公知の手法を用いて、S201で得られた信号を利用して画像再構成を行い、被検体7の内部における音圧の分布を得る。このとき、超音波が媒質を伝播する際の減衰や、測定部19や信号処理部9によるシステム誤差を除去し、パルス光照射時の発生音圧分布を再現する情報が得られている。
【0078】
得られた再構成画像に対して、S202で周囲よりも局所的にコントラストの高い領域を抽出する。このとき、予め閾値を設定しておく。全測定領域について、バックグランドの平均的な信号値よりも対象領域がこの閾値を超えるか否かを調べる。
【0079】
S203で、所定の閾値を超えるような高コントラスト領域が存在しない場合は、測定を終了する。高コントラスト領域が存在する場合は、その領域の位置座標をメモリ13に保存し、S204へ移る。
【0080】
S204では、高コントラスト領域の位置座標に合わせて超音波トランスデューサ5のプローブ領域6を設定し、AOT測定を行う。S202で抽出された全ての高コントラスト領域についてAOT測定を実施する。また、高コントラスト領域以外のバックグランド領域の任意の位置について同様にAOT測定を行うことが好ましい。
【0081】
S205において、高コントラスト領域に対して、メモリ13からPAT測定結果、再構成後の情報など適宜必要な情報を引き出し、(9)式を用いて、音圧値を吸収係数値に変換する。同様に、バックグランド領域についても吸収係数値に変換して、吸収係数分布情報を取得し画像化する。得られた画像を表示装置14で表示する。これにより、バックグランド領域の吸収係数に対する高コントラスト領域の吸収係数を評価することができる。
【0082】
また、吸収係数画像から、酸化ヘモグロビン・還元ヘモグロビン・水・脂肪・コラーゲンなどの成分比率や、酸素飽和指数などの代謝情報を演算処理部11で求めることも好ましい。これら機能情報を画像化して、表示装置14で表示する。
【0083】
本実施形態では生体の内部の任意の局所領域に対してPAT特定を行い、得られた音響信号が所定の閾値よりも高いコントラストで得られる領域を特定する。このように、PAT測定から生体組織の異常が疑わしい領域を事前に特定し、同領域に対してAOT測定を実施することで測定時間を短縮でき、効率的に必要な情報を得る事ができる。実施形態1では、プローブ領域6に対してAOT測定とPAT測定を連続して行うのに対して、本実施形態の場合は、AOT測定とPAT測定は全く独立に行う。
【0084】
ここで、測定装置の構成としては、図6〜図8に示した構成でもよい。
【0085】
(実施形態3)
本発明の実施形態3における生体情報処理方法について説明する。本実施形態の装置構成は実施形態1と同様である。ただし、実施例1では、入射光ファイバ2と検出光ファイバ3の位置をプローブ領域6に対してほぼ同じ位置と見なせるように配置したが、本実施形態では両者の間隔を任意に設定する。一般的には数cmの間隔であることが好ましい。本実施形態では、AOTを利用した局所領域の光強度の算出方法が実施形態1とは異なる。
【0086】
図10に示すように、吸収係数を求めたいプローブ領域6に対して、AOT信号のみを取得する変調光測定領域6aを被検体7の表面から、プローブ領域6に対して任意に設けて変調光を測定する。
【0087】
変調光測定領域6aに対して、例えば特許文献2に記載されているように、AOTを用いて、それぞれの変調光測定領域6aの位置rにおける光の減衰係数μeff(r)を以下のようにして推定する。
【0088】
減衰係数μeff(r)を用いて、多重散乱光の伝播を拡散方程式を用いて表せば、以下の(10)式のようになる。
(▽−μeff(r))U(r)=S(r) ・・・(10)
ここでU(r)は散乱光の強度、S(r)は光源の光強度を表す。また、変調光強度分布は(3)式を用いて表される。
【0089】
これら(3)式や(10)式を用いて、特許文献2では、以下の(11)式の関係を導いている。
【0090】
【数7】

【0091】
ここで、θは図2に示されている角度で、プローブ領域6の位置rから光入射位置rまでのベクトルと、プローブ領域6の位置rから光検出位置rまでのベクトルのなす角である。
【0092】
(11)式を用いれば、AOTの変調信号から減衰係数μeff(r)を算出することができる。図10において、変調光測定領域6aの減衰係数μeff(r)を(11)式を用いて、例えば、被検体7の表面からプローブ領域6に至るまで順に算出する。このとき、より表面付近で得た減衰係数μeff(r)の結果を(10)式の拡散方程式に反映させて、より深い領域の減衰係数μeff(r)を求めてもよい。
【0093】
図10のように空間的に離散的に得られた減衰係数μeffを用いて、変調光測定領域6a以外の領域を空間的に補間して減衰係数μeffの分布を求める。得られた減衰係数μeff(r)の空間分布に対して、例えばランベルトベール則や拡散方程式を用いるか、或いはモンテカルロシミュレーションを用いるなどして、プローブ領域6における光強度Φ(r)を求めることができる。
【0094】
PAT測定において、プローブ領域6から発生した光音響信号に対して、上記によって得られた光強度Φ(r)を(1)式に代入して、光音響信号からプローブ領域6における吸収係数μ(r)を求めることができる。
【0095】
このように、本実施形態では、生体の内部の複数の位置についてAOT測定を行い、その変調信号を利用して光照射位置からプローブ領域までの光減衰係数の空間分布を算出する。その空間分布を用いてプローブ領域における光強度を算出し、この光強度とPAT測定による音響信号に基づいて、(1)式を利用して吸収係数を求めるものである。本実施形態では、実施例1のようなプローブの配置の制約を受けることなく、AOT測定によって得られる変調信号を利用して、PAT測定におけるプローブ領域の吸収特性を求めることができる。
【0096】
ここで、実施例2で示したように、被検体7の全領域に対してPATで測定を行い、画像再構成を行った後に、コントラストの高い領域に対してのみ本手法を適用してもよい。このとき、複数測定して得られた変調光測定領域6aの位置rにおける光の減衰係数μeff(r)から、被検体7内部の全領域をプローブ領域サイズで分割して、各要素に対して減衰係数μeff(r)を仮定し、非特許文献1で開示されているような逆問題推定を、特許文献1などに記載されているAOTモデルについて実行して、より詳細な減衰係数μeff(r)の空間分布を得てもよい。
【0097】
或いは、実施例1のように被検体7の全領域でAOT測定及びPAT測定を行い、AOT測定から(11)式を利用して、被検体内部の全領域で測定した全てのプローブ領域6における減衰係数μeffを求める。ここで得られる減衰係数μeffの空間分布に対して、拡散方程式などを用いて、各プローブ領域6における光強度Φ(r)を算出し、既に各プローブ領域に対してPAT測定で得られている音圧から、光強度Φ(r)を用いて吸収係数に変換して画像化してもよい。
【0098】
本実施例においても、被検体7内部が不均質な場合に、減衰係数μeffの空間分布をAOT測定によって求めることで、プローブ領域6の局所的な光強度を算出することができ、PAT信号から高精度に吸収係数を求めることができる。
【0099】
(実施形態4)
本発明の実施形態4における生体情報処理方法について説明する。本実施形態の装置構成は実施形態1と同様である。まずAOT測定或いはPAT測定を行う前に、超音波トランスデューサ5を用いて、パルス超音波を送信し、反射波である超音波エコーを超音波トランスデューサ5で受信する。被検体7に対して、パルス超音波の送信方向を変えながら測定することで、被検体7内部の構造情報を取得し、メモリ13に保存する。
【0100】
演算処理部11において、メモリ13から超音波エコー測定で得られた、被検体7内部の構造データを読み出し、構造的な特徴を利用して、被検体7の内部を領域ごとに分割してメモリ13に保存する。構造的な特徴は、超音波エコー装置により得られたエコー信号が、事前に設定された閾値よりも高いコントラストで信号が得られる領域を特定する。このように超音波エコー信号を用いて、組織構造的に特徴のある領域を抽出する。
【0101】
次にAOT測定において、上記の分割された構造情報を利用する。例えば図11に示すように、分割された構造情報より、被検体内部の領域A(17a)や領域B(17b)、及びそれ以外の領域に分割される。それぞれの領域は組織的にも異なるものであるので、吸収係数や散乱係数などの光学特性も異なっている。従って、AOT測定において、例えば実施形態3の手法を用いて、それぞれの領域ごとに減衰係数μeffを求める。
【0102】
それぞれの領域内はほぼ光学的に均質であるとして減衰係数μeffを一定とし、この減衰係数の分布を用いて、プローブ領域6での光強度Φ(r)を算出し、PAT測定の音響信号に基づいて同領域の吸収係数μ(r)を求める。
【0103】
或いは、A P Gibson et al,“Recent advances in diffuse optical imaging”,Phys.Med.Biol.50(2005)R1−R43で示されているように、構造情報を利用して逆問題を解くことで複数のAOT測定から、被検体7の減衰係数μeffの内部分布を再構成してもよい。この場合においても、不均質な減衰係数の分布を利用して、PAT測定におけるプローブ領域の光強度を算出して吸収特性を求めることができる。
【0104】
本実施形態においては事前に超音波エコーに基づいて生体の内部を複数の領域に分割し、領域ごとに算出した光減衰係数の空間分布を用いて、局所領域の光強度を算出する。これにより、構造的な情報を利用して光学的に不均質な領域を効率的に抽出し、選択的にAOTの測定を実施することができるために、測定時間を短縮することができる。
【0105】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されずその要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】実施形態1の生体情報処理装置の構成例を示す模式図である。
【図2】光の入射位置と検出位置とプローブ領域との位置関係の一例を示した模式図である。
【図3】光の入射位置と検出位置とプローブ領域との位置関係の別の一例を示した模式図である。
【図4】図3の場合において、光の入射・検出位置とプローブ領域との間の光の伝播経路分布を示した模式図である。
【図5】実施形態1の生体情報処理方法を実施する場合の測定フローの一例を示すフローチャートである。
【図6】図1の測定部19について他の構成例を示す模式図である。
【図7】図1の測定部19について他の構成例を示す模式図である。
【図8】図1の測定部19について他の構成例を示す模式図である。
【図9】実施形態2の生体情報処理方法を実施する場合の測定フローの一例を示すフローチャートである。
【図10】実施形態3における光の入射位置と検出位置と複数のプローブ領域との位置関係を示した模式図である。
【図11】実施形態4における生体内部のセグメントされた領域とプローブ領域との位置関係を示した模式図である。
【符号の説明】
【0107】
1 光源
5 超音波トランスデューサ
6 超音波集束領域(プローブ領域)
7 被検体
8 光検出器
9 信号処理装置
10 信号抽出部
11 演算処理部
12 画像生成部
17a、17b 被検体内部の領域
18 光の伝播経路分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体情報処理装置であって、
生体に光を照射するための光源と、
前記生体の局所領域に対して超音波を照射するための超音波送信部と、
前記局所領域において前記超音波によって前記光源からの光が変調を受けた変調光を検出するための光検出部と、
前記光源からの光を受けて前記局所領域から発生した音響波を検出するための音響波検出部と、
前記光検出部の出力である変調信号から算出した前記局所領域での光強度に基づいて、前記音響波検出部からの出力である音響信号から前記局所領域の吸収特性を算出する演算部と、
を有することを特徴とする生体情報処理装置。
【請求項2】
前記超音波送信部と前記音響波検出部とは、一つの弾性波トランスデューサで兼ねられていることを特徴とする請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項3】
前記光源から照射された光が前記生体の中で前記局所領域まで伝播する入射光伝播領域と、前記変調光が前記生体の中で前記局所領域から前記光検出部まで伝播する検出光伝播領域とが、重複するように入射光ファイバと検出光ファイバとを配置することを特徴とする請求項1又は2に記載の生体情報処理装置。
【請求項4】
前記入射光伝播領域と前記検出光伝播領域とが同一とみなせるように、前記入射光ファイバと前記検出光ファイバとを配置し、
前記演算部は、入射光伝播領域と検出光伝播領域が同一であることから得られる関係式を用いて、前記局所領域での光強度を算出することを特徴とする請求項3に記載の生体情報処理装置。
【請求項5】
生体情報処理方法であって、
生体の局所領域に対して光を照射すると共に超音波を照射したときに、該局所領域において前記超音波によって変調を受けた変調光を検出する工程と、
生体に光を照射したときに前記局所領域から発生した音響波を検出する工程と、
前記変調光から得た変調信号から算出した前記局所領域での光強度に基づいて、前記音響波から得た音響信号から前記局所領域の吸収特性を算出する工程と、
を有することを特徴とする生体情報処理方法。
【請求項6】
照射された光が前記生体の中で前記局所領域まで伝播する入射光伝播領域と、前記生体の中で前記局所領域から伝播する前記変調光を検出するときの検出光伝播領域とが、重複するように光の入射及び検出を行うことを特徴とする請求項5に記載の生体情報処理方法。
【請求項7】
前記入射光伝播領域と前記検出光伝播領域とが同一とみなせるように、前記光の入射及び検出を行い、
前記入射光伝播領域と前記検出光伝播領域が同一であることから得られる関係式を用いて、前記局所領域での光強度を算出することを特徴とする請求項6に記載の生体情報処理方法。
【請求項8】
前記音響波を検出する工程において、前記生体の内部の任意の前記局所領域において前記音響波を検出し、
前記生体の内部において前記音響信号が所定の閾値よりも高いコントラストで得られる領域を特定する工程を有し、
特定された前記領域に対して前記局所領域を設定し、前記変調光を検出することを特徴とする請求項5に記載の生体情報処理方法。
【請求項9】
前記変調光を検出する工程において、前記生体の内部の複数の位置から変調光を検出して、前記生体の内部の光減衰係数の空間分布を算出する工程、
前記空間分布を用いて前記局所領域での光強度を算出する工程、を有する請求項5に記載の生体情報処理方法。
【請求項10】
前記生体に超音波を照射して得た超音波エコーに基づいて前記生体の内部を複数の領域に分割する工程をさらに有し、
前記領域ごとに算出した前記光減衰係数の空間分布を用いて、前記局所領域での光強度を算出することを特徴とする請求項9に記載の生体情報処理方法。
【請求項11】
前記局所領域に対して得られた前記吸収特性を、前記局所領域の位置座標と対応づけることによって、前記生体の内部の吸収特性に関する三次元断層像を形成することを特徴とする請求項5ないし10のいずれかに記載の生体情報処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−88498(P2010−88498A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258570(P2008−258570)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】