説明

生体情報処理装置及び生体情報処理方法

【課題】 被検体の吸収特性及び散乱特性の分布を分離して高解像度に測定することが可能な生体情報処理装置及び生体情報処理方法を提供する。
【解決手段】 本発明の生体情報処理装置は、生体に光を照射するための光源1と、生体の局所領域に対して超音波を照射するための超音波送信部としてのトランスデューサ5と、光源からの光が局所領域において超音波によって変調を受けた変調光及び非変調光を検出するための光検出部8と、光源からの光を受けて局所領域から発生した音響波を検出するための音響波検出部としてのトランスデューサ5と、を有する。そして、超音波トランスデューサ5の出力である音響信号から算出した局所領域での吸収特性を利用して、光検出部8の出力信号から局所領域の散乱特性を算出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報処理装置及び生体情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザーなどの光源から生体に光を照射し、入射した光に基づいて得られる生体内の情報を画像化する光イメージング装置の研究が医療分野で積極的に進められている。
【0003】
この光イメージングの一つとして、光音響イメージングと呼ばれているPAT(Photo Acoustic Tomography)という技術がある。光音響イメージングは、光に比べて生体内での散乱が少ない超音波の特性を利用して、生体内の光学特性値分布を高解像度に求める手法である(特許文献1、非特許文献1参照)。
【0004】
この方法では、光源から発生したパルス光を生体に照射し、生体内で伝播・拡散したパルス光のエネルギーを吸収した生体組織から発生した音響波を検出する。すなわち、腫瘍などの被検部位とそれ以外の組織との光エネルギーの吸収率の差を利用し、被検部位が照射された光エネルギーを吸収して瞬間的に膨張する際に発生する弾性波をトランスデューサで受信する。この検出信号を解析処理することにより、生体内の光学特性分布、特に、光エネルギー吸収密度分布を得ることができる。
【0005】
一方、PAT以外の光イメージングとして、拡散光イメージングと呼ばれているDOT(Diffuse Optical Tomography)という技術がある。拡散光イメージングは、光源から生体に光を照射して、生体内を伝播・拡散した微弱光を高感度な光検出器により検知し、その検知信号から生体内の光学特性値分布をイメージングする技術である。
【0006】
また、光と超音波を利用するイメージング技術として、音響光学トモグラフィ(AOT:Acousto−Optical Tomography)という技術がある。音響光学トモグラフィは、生体組織内部に光を照射すると共に局所領域に集束した超音波を照射し、超音波によって光が変調される効果(音響光学効果)を利用し、変調光を光検出器で検出する(特許文献2)。AOTやPATは光と超音波が相互作用した局所的な領域の信号を検出するために、DOTよりも解像度が高いことが知られている。
【特許文献1】米国特許第5840023号明細書
【特許文献2】米国特許第6957096号明細書
【非特許文献1】M,Xu,L.V.Wang“Photoacoustic imaging in biomedicine”,Review of scientific instruments,77,041101(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
DOTにおいては、生体内の拡散光を測定して得られたデータから、主に光拡散理論を用いて信号を解析する。そして、画像再構成を行うことで、生体内部の吸収特性と散乱特性とを分離してそれぞれの内部分布を推定してイメージングすることができる。例えば生体組織を測定すれば、吸収特性から主要な測定対象であるヘモグロビンや水、脂肪などの成分を見積もることができる。また血中における酸素飽和度など代謝情報を推定することができる。また、散乱特性から構造に起因する成分なども特定可能である。
【0008】
一方、AOTにおいては、吸収係数がバックグランドの媒質に比べて大きいような吸収物体や、散乱係数がバックグランドの媒質に比べて大きいような散乱物体に対しても、どちらでも信号のコントラストが得られる。AOTは、吸収物体でも散乱物体でも超音波集束領域とほぼ同等の解像度でイメージングできることが知られている。つまり、AOTで得られる信号は、吸収係数と散乱係数が合成されたものをコントラストとして得ている。しかし、AOTで得られた信号から吸収係数と散乱係数を分離する手法については開示されていない。吸収と散乱の特性が分離できていないと、DOTで推定が可能であったような上記項目を高精度に推定することができない。
【0009】
特許文献2では、吸収係数μと等価散乱係数μ’が合わさった(1)式で表現される減衰係数を用いて光拡散方程式をたて、その数学モデルを利用して、減衰係数の空間的な分布を画像再構成によって得ることができる。
【0010】
【数1】

【0011】
この場合、吸収と散乱の双方の影響を分離することができない。散乱係数が空間的にほぼ一様と見なせる生体組織では、減衰係数の分布が吸収係数の分布とほぼ等価になる。これに対し、散乱分布が一様でない場合、特許文献2ではさらにDOTの測定を行うことで、減衰係数から吸収と散乱を分離することが開示されている。しかし、この方法では、得られる吸収特性と散乱特性の空間的解像度はDOTで決められてしまう。超音波の集束サイズで決められるAOTの空間解像度で吸収係数と散乱係数(等価散乱係数)を分離して測定する手法は開示されていない。
【0012】
本発明の目的は、AOTの信号から超音波集束領域である局所的な吸収特性と散乱特性と分離してそれぞれを高精度に算出することが可能な生体情報処理装置及び生体情報処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題に鑑み、本発明の生体情報処理装置は、生体に光を照射するための光源と、前記生体の局所領域に対して超音波を照射するための超音波送信部と、前記光源からの光が前記局所領域において前記超音波によって変調を受けた変調光及び非変調光を検出するための光検出部と、前記光源からの光を受けて前記局所領域から発生した音響波を検出するための音響波検出部と、
前記音響波検出部の出力である音響信号から算出した前記局所領域の吸収特性を利用して、前記光検出部の出力信号から前記局所領域の散乱特性を算出する演算部と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、上記課題に鑑み、本発明の生体情報処理方法は、生体の局所領域に対して光を照射すると共に超音波を照射したときに、該局所領域において前記超音波によって変調を受けた変調光及び非変調光を検出する工程と、生体に光を照射したときに前記局所領域から発生した音響波を検出する工程と、
前記音響波から得た音響信号から算出した前記局所領域の吸収特性を利用して、前記変調光及び前記非変調光から前記局所領域の散乱特性を算出する工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の生体情報処理装置及び生体情報処理方法によれば、AOTの信号から超音波集束領域である局所的な吸収特性と散乱特性と分離してそれぞれを高精度に算出することが可能となる。そのため、高解像度に生体内部の分光特性や主要構成成分、或いは代謝情報や散乱パワーなどの空間分布を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明をより詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。
【0017】
本発明の生体情報処理装置は、光音響イメージング(PAT)で得られた音響信号から算出した局所領域の吸収特性を利用して、音響光学トモグラフィ(AOT)で得た出力信号から上記局所領域での散乱特性を算出することを特徴とする。
【0018】
AOTから得られる出力信号としては、例えば、変調度がある。ここで、本明細書において「変調度」とは、超音波照射領域において音響光学効果により変調された変調光の光強度と、超音波照射領域において変調を受けなかった非変調光及び、超音波照射領域以外を通過した非変調光を合わせた非変調光の光強度との比と定義される。この変調度を初め、AOTで得られる出力信号は、各局所領域での吸収係数と散乱係数とが合成されたパラメータによるものである。
【0019】
そこで、PATにより該局所領域での吸収係数を算出することにより、AOTから独立して散乱特性を算出することが可能となる。このように、AOTとPATを融合して用いることで、DOTの解像度に縛られることなく、生体内の吸収係数分布と散乱係数分布とを高精度に得ることができる。
【0020】
(実施形態1)
本発明の実施形態1における生体情報処理装置及び生体情報処理方法について説明する。図1は、本実施形態の生体情報処理装置の構成例を示す模式図である。
【0021】
本実施形態の生体情報処理装置は、AOTとPATの両方によって生体である被検体7の組織内部の情報を測定可能な測定部19と、測定部19から得られた各種信号を処理するための演算部である信号処理装置9から構成される。また、信号処理の結果得られた生体内部の情報を画像化した画像を表示する表示装置14を有しても良い。
【0022】
測定部19は、以下の構成を有する。生体である被検体7に光を照射するための光源1、被検体7の局所領域(超音波集束領域6)に対して超音波を照射するための超音波送信部である超音波トランスデューサ5、超音波集束領域6において超音波によって光源1からの光が変調を受けた変調光及び非変調光を検出するための光検出部である光検出器8、が主な構成である。ここで、超音波トランスデューサ5は、光源1からの光を受けて局所領域から発生した音響波を検出するための音響波検出部としても機能する。すなわち、一つの弾性波トランスデューサによって、AOTにおける集束超音波の送信と、PATにおける音響波の受信が兼ねられている。また、正弦波などの信号を発生する信号発生器15と、入射光ファイバ2、検出光ファイバ3と、被検体固定板4と、を有する。
【0023】
光源1は、AOT測定においてもPAT測定においても使用される。また、超音波トランスデューサ5は、AOT測定において超音波を送信し、PAT測定において音響波を受信する。光検出器8は、AOT測定において変調光を検出する。
【0024】
演算部である信号処理装置9においては、PAT測定における超音波トランスデューサ5の出力である音響信号から算出した超音波集束領域6の吸収特性を利用して、AOT測定における光検出器8の出力信号から該局所領域での散乱特性が算出される。
【0025】
被検体7は、乳房などの生体組織であり、吸収散乱体である。被検体7は、被検体固定板4で2方向から軽く抑えて固定された状態にある。被検体固定板4は、光学的に透明であり、被検体7と音響インピーダンスが比較的近いもので構成されている。
【0026】
光源1はコヒーレンス長が長く(例えば、1m以上)、強度が一定の連続光(CW光:Continuous Wave光)と数nsのパルス光のいずれかを内部で切り替えられることが好ましい。光源1は、生体組織を構成する水、脂肪、タンパク質、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、などの吸収スペクトルに応じた複数の波長を選択することができる。一例としては、生体内部組織の主成分である水の吸収が小さいため光が良く透過し、脂肪、酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビンのスペクトルに特徴がある600乃至1500nm範囲が適当である。具体的な光源1の例としては、異なる波長を発生する半導体レーザー、波長可変レーザーなどで構成するとよい。なお、PAT測定で照射するパルス光、AOT測定で照射するCW光を、それぞれ発する2つの光源を設けても良い。光源としてはレーザーが好ましいが、レーザーのかわりに発光ダイオードなどを用いることも可能である。レーザーとしては、固体レーザー、ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど様々なレーザーを使用することができる。
【0027】
光ファイバ2は、光源1から発生した光を被検体7に導く。光ファイバ2の前段に光源1からの光を光ファイバ2の端部に効率良く導光する集光光学系を設けてもよい。被検体7内部に入射した光は、吸収と散乱を繰り返しながら被検体内部を伝播する。
【0028】
[AOT測定]
まず、AOT測定について説明する。超音波トランスデューサ5は、被検体7の内部の任意の位置(超音波集束領域6)に集束超音波を送信する。例えば超音波の周波数の範囲は、およそ1から数10MHzの範囲である。照射する超音波強度は、生体に照射可能な安全基準以下の強度の範囲内で調節される。
【0029】
超音波トランスデューサ5は、例えば、リニアアレイ探触子から構成される。アレイ探触子を用いた電子フォーカスによって被検体7の内部の任意の位置に超音波集束領域6を生成する。あるいは、円形凹面超音波振動子や音響レンズを用いたものを機械的に走査して超音波集束領域6を任意の位置に配置してもよい。弾性波トランスデューサとしては、圧電現象を用いたトランスデューサ、光の共振を用いたトランスデューサ、容量の変化を用いたトランスデューサなどを用いることができる。
【0030】
超音波集束領域(プローブ領域)6では、超音波トランスデューサ5で設定された超音波の周波数と振幅に応じた音場が生成される。この領域内部では、音圧による媒質の密度変化が生じ、媒質の屈折率変化や散乱体の変位が生じる。この領域に光源1から照射された光が入射すると、媒質の屈折率変化や散乱体の変位により、光の位相が超音波の周波数で変調される。ここでは、この現象を音響光学効果と呼ぶことにする。本明細書において「変調光」とは、局所領域に集束された超音波によって引き起こされる音響光学効果によって変調された光を意味する。
【0031】
超音波照射領域6において音響光学効果により変調された変調光と、超音波照射領域6において変調を受けなかった非変調光及び、超音波照射領域6以外を通過した非変調光を光ファイバ3を経由して光検出器8で検出する。光検出器8には、PMT(Photomultiplier Tube)やAPD(Avalanche Photodiode)のような単一検出器を用いることが好ましい。CCD、CMOSなどのマルチセンサを用いてもよい。
【0032】
信号処理装置9は、光検出器8や超音波トランスデューサ5からの信号解析や、被検体7内部の吸収特性などについて関連する情報を解析し、画像化する処理を行い、信号抽出部10、演算処理部11、画像生成部12及びメモリ13を有する。
【0033】
変調光測定において、信号抽出部10はフィルタとして機能し、変調光と非変調光を分離する。信号抽出部10には、特定周波数の信号を選択的に検出するバンドパスフィルタ、特定周波数の光を増幅して検出するロックインアンプが適用可能である。光検出器8から得られる信号に対して、信号抽出部10で変調光及び非変調光の光強度を得る。
【0034】
本明細書において「変調信号」とは、超音波によって変調された変調光が、光検出器8による光電効果によって変換された電気信号をいう。電気信号は、好ましくは交流成分の電気信号である。また、「非変調信号」とは、超音波によって変調を受けていない非変調光が、光検出器8による光電効果によって変換された電気信号をいう。電気信号は、好ましくは直集成分の電気信号である。
【0035】
[PAT測定]
次に、PAT測定について説明する。光源1から数nsパルスの光を被検体7に照射し、プローブ領域6において吸収された光エネルギーが局所的な温度上昇を引き起こして、体積膨張する際に発生する音響波を検出する。AOT測定時と同じプローブ領域6からの音響波を測定するために、AOTで送信として使用した電子フォーカス設定を、受信用として使用する。円形凹面超音波振動子や音響レンズを用いて機械的に走査する場合は、AOTと同じ幾何配置にしておけばよい。プローブ領域6から得られる光音響信号の強度を信号抽出部10で測定する。
【0036】
本明細書において「音響波」とは、プローブ領域6から光音響効果によって発生した弾性波をいう。また、「音響信号」とは、プローブ領域6から発生した弾性波を、超音波トランスデューサ5を用いて電気信号に変換し、得られる電気信号をいう。
【0037】
[他の装置構成]
入射光ファイバ2と検出光ファイバ3は同期して、被検体固定板4の表面を2次元的に走査できる機構をもつ。また、入射光ファイバ2と検出光ファイバ3の位置に応じて、超音波トランスデューサ5を制御してプローブ領域6を設定する。プローブ領域6を被検体7に対して走査して、AOT測定とPAT測定をそれぞれ行い、被検体7の空間的な測定分布を得る。また、被検体7内部の分光特性を取得するために、光源1の波長を切り替えて上記測定を行うこともできる。
【0038】
演算処理部11では、AOT測定における変調信号及び非変調信号とPAT測定における光音響信号とを利用して、後述する信号処理を実施する。或いは、複数波長によって得られた分光特性から、被検体7内部の構成要素の濃度及び成分比率を算出する。また、算出されたこれら分光特性に関するデータは全て、プローブ領域6の位置座標のデータと対応させて、被検体7内部の分光特性の分布データを作成する。
【0039】
画像生成部12は、演算処理部11で作成した被検体7内部の分光特性の分布データから被検体7の三次元断層像(画像)を生成する。
【0040】
メモリ13は、信号抽出部10で得られたAOT測定及びPAT測定の信号値や、演算処理部11が生成したデータや画像生成部12が生成した分光特性の画像などを記録する。メモリ13は、光ディスク、磁気ディスク、半導体メモリ、ハードディスク、などのデータ記録装置を用いることができる。
【0041】
表示装置14は、信号処理装置9で生成した画像を表示し、液晶ディスプレイ、CRT、有機EL、などの表示デバイスを用いることができる。
【0042】
[生体情報処理方法]
以下に、演算処理部11で実施される、PAT測定における光音響信号を利用して、AOT測定における変調信号から、プローブ領域6における吸収特性と散乱特性を分離して得る演算処理手法を示す。
【0043】
まず、PAT測定における光音響信号からプローブ領域6の吸収特性を得る演算処理手法を示す。PATは、局所的な被検部位で吸収されて発生する光音響波を測定することで、局所的な光の吸収情報を得ることができる。プローブ領域6で発生する弾性波の圧力Pは、光照射点からプローブ領域までの距離zを用いて、下の(2)式のように表される。
P(z)=Γμ(z)Φ(z) ・・・(2)
ここで、
Γ:グリュナイゼン係数(熱−音響変換効率)
μ(z):距離zにおける位置での吸収係数
Φ(z):距離zにおける位置での光強度
である。弾性特性値であるグリュナイゼン(Grunesen)係数Γは、体積膨張係数βと音速cの二乗の積を比熱Cpで割ったものである。
【0044】
(2)式より、発生する弾性波によって、局所的な被検部位の位置zの吸収係数μ(z)に比例した音圧が測定されることがわかる。吸収係数μ(z)を精度よく見積もるためには、位置zにおける光強度Φ(z)を見積もる必要がある。
【0045】
非特許文献1に開示してあるように、平均的な光の減衰係数μeffが得られれば、ランベルトベール則や拡散方程式を使って光強度Φ(z)を求めることができる。これにより、音圧P(z)からμ(z)を得ることができる。
【0046】
PAT測定時に、入射光ファイバ2から被検体7に照射されるパルス光が、被検体7内部で拡散し、後方散乱によって検出光ファイバ3を介して光検出器8で得られる光強度をモニタする。拡散理論を用いて、得られた光強度から、被検体7内部のパルス光が拡散された領域の平均的な減衰係数μeffを算出することができる。
【0047】
例えばランベルトベール則を用いれば、以下の(3)式のようにプローブ領域6における光強度Φ(z)を求める。
Φ(z)=Sexp(−μeffz) ・・・(3)
ここで、Sは被検体7に入射する光強度を表す。
【0048】
(2)式と(3)式より、被検体7内部の位置rにあるプローブ領域6における吸収係数μ(z)は下記のようにして求めることができる。音圧PがPAT測定における測定値となる。
【0049】
【数2】

【0050】
次に、AOTの測定において、光検出器8で測定される変調信号と非変調信号との強度の比を算出し、これを変調度Mとする。変調度Mは、Sava Sakadzic and Lihong V. Wang,“Ultrasoic modulation of multiply scattered coherent light:An analytical model for anisotropically scattering media”,Physical Review E 66,026603 (2002)に開示されているように、下記の(5)式で示される自己相関関数G(τ)をフーリエ変換し、0次と1次の比から計算することができる。
【0051】
【数3】

【0052】
ここで、以下の式が成立する。
【0053】
【数4】

【0054】
【数5】

【0055】
【数6】

【0056】
(7)式は超音波による相互作用による影響を示す項であり、(8)式はブラウン運動による影響を示す項である。
ここで、
【0057】
【数7】

【0058】
τは、光検出器8からの信号を信号処理装置9内部で相関をとることで測定することができる。(7)式におけるδやδは、それぞれプローブ領域6における屈折率変化や散乱体変位による効果を表し、散乱係数や超音波の周波数に関する関数である。
【0059】
(5)式は、超音波に関するパラメータ以外は、同じ測定条件に対しては、吸収係数と散乱係数とが変数に帰着する。(散乱係数は、拡散係数に依存している。)従って、上記のようにPAT測定から吸収係数が得られれば、(5)式のフーリエ変換から得られる変調度Mの測定値と比較することで等価散乱係数を一意的に求めることができる。
【0060】
このように、PATから(4)式のようにプローブ領域の吸収特性を算出し、この吸収特性を利用して、(5)式に示されるようなAOTの解析モデルから、同じプローブ領域の散乱特性を算出することができる。つまり、局所的なプローブ領域に対して、吸収特性と散乱特性を分離して測定することができる。
【0061】
図2に、本実施形態の生体情報処理方法を実施する場合の測定フローの一例を示す。S100で測定ターゲットとなる超音波集束領域(プローブ領域)6を設定する。
【0062】
S101で前述したPAT測定を行う。超音波トランスデューサ5から得られる光音響信号から音圧を測定する。同時に、前述したように、入射光ファイバ2から被検体7に照射されるパルス光が、被検体7内部で拡散し、後方散乱によって検出光ファイバ3を介して光検出器8で得られる光強度を測定する。
【0063】
S102において、PAT測定を終了し、S101で得られた後方散乱の光強度から、被検体7の平均的な減衰係数μeffを算出する。得られた減衰係数より、プローブ領域6における光強度を算出する。
【0064】
S103において、(4)式に基づき、S101で測定した音圧信号と、S102で得られた光強度を用いて、プローブ領域6の吸収係数を算出する。このように、PAT測定の工程において、生体の内部での散乱光も検出し、検出された散乱光から生体の内部の光減衰特性を算出する。そして、この光減衰特性から算出されるプローブ領域6での光強度に基づいて、プローブ領域6での吸収特性を算出することができる。
【0065】
S104において、前述したAOT測定を実施する。光検出器8から得られる変調光強度と非変調光強度とを測定し、これらの比をとって、変調度Mを算出する。このとき超音波の送信の設定は、PAT測定で設定した超音波受信の設定であるプローブ領域6と同じ位置に設定されている。
【0066】
S105において、前述の変調度Mの解析モデルを利用し、S104で得られた変調度MとS103で得られた吸収係数及び、超音波に関する主な測定条件を用いて、プローブ領域6の等価散乱係数を算出する。
【0067】
S100からS105までのフローを、プローブ領域6を被検体7内部でスキャンして実施することで、被検体7の内部の三次元的な吸収係数分布及び、等価散乱係数分布を得る。
【0068】
以上説明した手法により、プローブ領域6の吸収係数と散乱係数を高精度に分離して求めることができる。プローブ領域6を被検体7内部でスキャンして実施することで、被検体7の吸収分布及び、散乱分布を得る。画像生成部12で、各プローブ領域6の位置座標に対応させて、生体内部の吸収係数や散乱係数をマッピングすることで、吸収係数や散乱係数に関する三次元的な空間分布が得られる。このように形成された三次元断層像を画像化して表示装置14で表示する。
【0069】
また、光源1の波長を任意に複数用いて前述のフローを実行し、被検体7の構成要素、例えば、酸化ヘモグロビン・還元ヘモグロビン・水・脂肪・コラーゲンなどの成分比率や、酸素飽和指数などの代謝情報や下記(9)式で表される散乱パワーなどを演算処理部11で求めることも好ましい。
μ’=Bλ−sp ・・・(9)
ここで、Bは定数、λは光の波長、SPは散乱パワーである。これら機能情報を上述したのと同様にプローブ領域6の位置座標と対応させてマッピングし、これを画像生成部12で画像化し、表示装置14で表示することができる。
【0070】
ここで、A P Gibson et al,“Recent advances in diffuse optical imaging”,Phys.Med.Biol.50(2005)R1−R43で示されているように、光学特性が均質と見なせる媒質から発生する音圧は、被検体7の表面の光が照射された位置からの距離に応じて、指数関数的に光のエネルギーが損失する。このため、音響信号も指数関数で減衰していくという信号プロファイルが得られる。このバックグランド媒質からの音響信号の距離に応じた信号プロファイルを取得し、(3)式を用いてフィッティングすることによって、バックグランド媒質の減衰係数μeffを算出することができる。ここで得た減衰係数μeffを用いて、被検体表面から任意の深さzにおける光強度Φ(z)を(3)式から求めて、音響信号から吸収係数μ(z)を求めてもよい。
【0071】
ここで、PAT測定で得られた吸収係数μを用いて、AOT測定で得られた変調度から等価散乱係数μ’を算出する際に、前述の解析解でなく、前記のSava Sakadzic and Lihong V. Wang,“Ultrasoic modulation of multiply scattered coherent light:An analytical model for anisotropically scattering media”,Physical Review E 66,026603 (2002)に記載されているAOTの物理モデルを反映させたモンテカルロシミュレーションを実施して、計算結果と測定結果が一致するように等価散乱係数μ’を求めてもよい。
【0072】
AOT測定における変調度Mは、プローブ領域6の吸収係数と散乱係数の双方のパラメータによって決まる値である。PAT測定から吸収係数を独立して測定し、この値を利用して散乱係数を得ることが本発明の本質である。本実施形態において、(5)式に示す解析解を用いて説明したが、前述の解析解に限定されない。相関関数の拡散方程式を用いたモデルなど、測定に応じてモデルは随時変更することができ、適用した計算モデルに応じて本実施例を適用することができる。
【0073】
ここで、図2のフローようにPAT測定を行ってからAOT測定を行っているが、順序を反対にして、AOT測定を行なってからPAT測定を行ってもよい。
【0074】
また、AOTの測定手法は、PMTなどの単一検出器を用いた検出手法やCCDなどのマルチセンサを用いたパラレル検出、或いはフォトリフラクティブ素子を用いたホログラム検出やスペクトルホールバーニングを用いた検出などいずれであってもよい。CCDなどのマルチセンサを用いた場合は、(5)式の代わりに、例えば、Jun Li,Geng Ku and Lihong V.Wang,“Ultrasound−modulated optical tomography of biological tissue by use of contrast of laser speckles”,APPLIED OPTICS,Vol.41,No.28 (2002)に記載されている変調度の解析式を用いてもよい。
【0075】
(実施形態2)
本発明の実施形態2における生体情報処理方法について説明する。本実施形態の装置構成は実施形態1と同様である。本実施形態における測定フローを図3に示す。まずS200において、入射光ファイバ2を被検体固定板4の表面に対して2次元的に走査しながらPAT測定を行い、被検体7の全領域でPATの測定値を得る。このとき、複数の波長で測定を行い、分光情報も取得することが好ましい。
【0076】
S201で、例えば非特許文献1などに開示されている公知の手法を用いて、S201で得られた信号を利用して画像再構成を行い、被検体7の内部における音圧の分布を得る。このとき、超音波が媒質を伝播する際の減衰や、測定部19や信号処理部9によるシステム誤差を除去し、パルス光照射時の発生音圧分布を再現する情報が得られている。
【0077】
得られた再構成画像に対して、S202で周囲よりもコントラストの高い領域を抽出する。このとき、予め閾値を設定しておく。全測定領域について、バックグランドの平均的な信号値よりも対象領域がこの閾値を超えるか否かを調べる。
【0078】
S203で、所定の閾値を超えるような高コントラスト領域が存在しない場合は、測定を終了する。高コントラスト領域が存在する場合は、その領域の位置座標をメモリ13に保存し、S204へ移る。
【0079】
S204では、高コントラスト領域の位置座標に合わせて超音波トランスデューサ5のプローブ領域6を設定し、AOT測定を行なう。S202で抽出された全ての高コントラスト領域についてAOT測定を実施する。また、高コントラスト領域以外のバックグランド領域の任意の位置について同様にAOT測定を行うことが好ましい。
【0080】
S205において、S204のAOT測定において得られた非変調光の強度を用いて、拡散方程式とフィッティングすることにより、被検体7の平均的な減衰係数μeffを得る。高コントラスト領域に対して、メモリ13からプローブ領域6の音圧信号などを読み出し、前述の減衰係数μeffを用いて、(3)式及び(4)式から、プローブ領域6の吸収係数を算出する。また、S204のAOT測定で得られた変調度Mと前述の吸収係数を利用して、実施例1で述べた手法を用いて、プローブ領域6の散乱係数を算出する。
【0081】
本実施形態においても、S205で高コントラスト領域に対して得られた吸収係数分布や散乱係数分布を画像化して、表示装置14で表示することができる。
【0082】
また、吸収係数画像から、酸化ヘモグロビン・還元ヘモグロビン・水・脂肪・コラーゲンなどの成分比率や、酸素飽和指数などの代謝情報が、散乱係数画像から散乱パワーの情報が演算処理部11で求められる。これら機能情報を画像化して、表示装置14で表示する。
【0083】
本実施形態では生体の内部の任意の局所領域に対してPAT特定を行い、得られた音響信号が所定の閾値よりも高いコントラストで得られる領域を特定する。このように、PAT測定から生体組織の異常が疑わしい領域を事前に特定し、同領域に対してAOT測定を実施することで、異常が疑わしい領域に対してのみ、吸収係数や散乱係数を定量的に測定することができる。被検体7の全領域に対してAOT測定を行う必要がなくなるので、測定時間を短縮でき、効率的に必要な情報を得る事ができる。実施例1では、プローブ領域6に対してAOT測定とPAT測定を連続して行うのに対して、本実施形態の場合は、AOT測定とPAT測定は全く独立に行う。
【0084】
また、本実施形態では、AOT測定で検出された非変調光の強度から生体の内部の光減衰特性を算出する。そして、この光減衰特性から算出される局所領域での光強度に基づいて当該局所領域での吸収特性を算出する。これにより、PAT測定用のパルス光ではなく、AOT測定用のCW光を用いて非変調(定常)光を測定できるので、繰り返しパルス光による光強度を測定するよりも高精度に光検出器8で測定することができる。
【0085】
(実施形態3)
本発明の実施形態3における生体情報処理装置及び生体情報処理方法について説明する。本実施形態の基本的な装置構成は実施形態1と同様である。本発明では、AOT測定において散乱特性を算出するためにPAT測定で求めた吸収特性を利用する。そして、(2)式からも明らかなように、PATで精度良く吸収特性を求めるには、局所領域での光強度Φ(r)をより高精度に算出する必要がある。本実施形態においては、AOT測定における光検出器8の出力信号から算出される光強度Φ(r)に基づいて、PAT測定における超音波トランスデューサ5の出力である音響信号から局所領域での吸収特性を算出する。
【0086】
図4に示すようなAOTの測定条件において、特許文献2に記載されているように、被検体7内部の位置rにあるプローブ領域6で変調作用を受けて検出される変調光の光強度IAC(r)は、以下の(10)式によって表すことができる。
AC(r)=SΨ(r,r)ηΨ(r,r) ・・・(10)
ここで、Ψ(r,r)は被検体7における光入射位置rからプローブ領域6の位置rまでの光強度の伝達関数を、Ψ(r,r)はrから光検出位置rまでの光強度の伝達関数を表し、Sは被検体7に入射する光強度、ηはプローブ領域6において光が変調作用を受ける効率を表す。被検体7内部の光強度の伝達関数Ψは、光拡散方程式や輸送方程式、モンテカルロシミュレーションなどでモデル化することができる。
【0087】
ここで、本明細書において、入射光ファイバ2から照射された光が被検体内でプローブ領域6に至るまでに光が散乱して伝播する経路を入射光伝播領域と呼ぶ。また、プローブ領域6で変調を受けた光が検出光ファイバ3に至るまでに光が散乱して伝播する経路を検出光伝播領域と呼ぶ。
【0088】
図3に示すように、入射光ファイバ2と検出光ファイバ3の位置を近づけて配置すると
【0089】
【数8】

【0090】
、(10)式は(11)式のように書ける。
AC(r)=SΨ(r,rη ・・・(11)
ここで、図6に示すように、光入射位置rからプローブ領域6の位置rまでの光の伝播経路分布18とプローブ領域6から光検出位置rまでの光の伝播経路分布18はほぼ同じとなる。つまり、光源1から照射される光による入射光伝播領域と、検出器8により変調光を検出するときの光検出領域とが重複し、同一とみなせるため、同じ伝播経路分布を往復して変調信号IACとして検出される。このため、前者の伝達関数Ψ(r,r)と後者の伝達関数Ψ(r,r)は等しくなり(Ψ(r,r)=Ψ(r,r))、また、伝達関数Ψ(r)は可逆であるので(11)式が得られる。
【0091】
従って、(11)式より光入射位置rからプローブ領域rまでの光伝達関数Ψは、
【0092】
【数9】

【0093】
となる。この伝達関数は、光照射位置rから局所的なプローブ領域6に至るまでの、被検体内部の光学特性を反映したものとなる。
【0094】
このように、入射光経路と検出光経路が同一であることから得られる関係式(4)を用いて、局所領域での変調光の光強度IAC(r)を算出することが好ましい。入射光経路と検出光経路が同一と見なせない場合は、AOTの測定による変調信号は、入射光経路だけでなく検出光経路にある被検体内部の光学特性を反映したものになる。一方、PATの測定で得られる光音響信号からプローブ領域6の吸収特性を得るには、入射光経路を伝播したときの光の減衰率、つまり、入射した光が入射光経路にある被検体内部の光学特性の影響を受けた結果プローブ領域6に到達する光の強度が必要になる。このとき、後述するように、入射光経路と検出光経路とは同一と見なせる条件では、測定したいある1点のプローブ領域6に対して1回のAOTの測定を実施すればよい。しかし、両者が同一と見なせない場合は、プローブ領域6に対して複数回のAOT測定を行って、入射光経路における被検体内部の光学特性分布を推定し、プローブ領域6での光強度を算出する必要がある。前者は後者よりもAOTの測定回数が少ないために効率的であり、且つ、後者における光学分布の推定による誤差の影響も受けないために高精度である。
【0095】
一方、PATの測定において、AOTの測定と同じプローブ領域6からの光音響信号を検出する場合を考える。PAT測定時における光入射強度をS’とすれば、プローブ領域6での光強度Φ(r)は(12)式を用いて、以下のように書ける。
Φ(r)=S’Ψ(r,r) ・・・(13)
(2)式と(12)式、(13)式を用いれば、発生する光音響波の音圧P(r)は(14)式のように表すことができる。
【0096】
【数10】

【0097】
これより、プローブ領域6における吸収係数μ(r)は以下の式になる。
【0098】
【数11】

【0099】
AOT測定において照射する超音波の音圧や周波数が一定であれば、変調効率ηはプローブ領域6の屈折率、吸収係数、散乱係数、散乱の異方性パラメータなどに依存する。しかし、一般的な生体軟組織においては、プローブ領域が十分小さい(〜mm)ときは変調効率ηの変化は小さくほぼ一定と見なせる。AOT測定やPAT測定において、それぞれ常に一定の光強度を生体に入射し、さらに、グリュナイゼン係数Γも位置に寄らずほぼ一定とすれば、(15)式から下記のような関係式が得られる。
【0100】
【数12】

【0101】
(16)式より、AOT測定とPAT測定において、同じプローブ領域6に対して、変調光強度信号IAC(r)と光音響波P(r)を測定することによって、プローブ領域rの吸収特性μ(r)を得ることができる。
【0102】
プローブ領域rを3次元領域でスキャンして測定することによって、被検体7の吸収係数の相対的な内部分布を可視化することができる。(16)式で定数とした各パラメータをキャリブレーションによって予め求めておけば、吸収係数を推定することもできる。
【0103】
PATの光音響信号から吸収係数μを求めるためには、光音響波の発生位置における光強度を推定する必要がある。これをAOT測定から得られた変調信号を利用して行うことが本実施形態の特徴である。このとき、入射光ファイバ2と検出光ファイバ3の位置をプローブ領域6に対してほぼ同じ位置と見なせるような配置に設定して、AOT測定を行うことが好ましい。この場合、プローブ領域6の位置に応じた光伝達関数を、AOT測定の変調信号から得ることができる。
【0104】
前述した従来の平均的な光の減衰係数を利用して光強度を推定する手法は、理想的な均質媒質に対してのみ精度良く適用できる。しかし、本発明の解析方法では、被検体7内部が均質でも不均質でも適用可能である。不均質な場合でも、その不均質媒質を往復した変調光信号IACが得られ、IACを利用して不均質さを反映した伝達関数Ψを求め、これを利用して光強度を推定するからである。すなわち、媒質の不均質さが考慮された吸収係数を求めていることになるのである。
【0105】
このようにして得られた吸収特性を利用して、実施形態1に記載したのと同様にAOT測定から散乱特性を算出すればよい。
【0106】
(実施形態4)
本発明の実施形態4における生体情報処理装置及び生体情報処理方法について説明する。本実施形態の基本的な装置構成は実施形態1と同様である。
【0107】
実施形態1ではAOT測定において吸収係数と散乱係数が分離されてない変調度Mから両者を分離した。本実施形態では、AOT測定において両者が分離されていないパラメータとして減衰係数μeff(r)を算出し、その後PAT測定で得た吸収係数を使用して、散乱係数を分離する。
【0108】
減衰係数μeff(r)を用いて、多重散乱光の伝播を拡散方程式を用いて表せば、以下の(17)式のようになる。
(▽−μeff(r))U(r)=S(r) ・・・(17)
ここでU(r)は散乱光の強度、S(r)は光源の強度を表す。また、変調光強度分布は(10)式を用いて表される。
【0109】
これら(10)式や(17)式を用いて、特許文献2では、以下の(18)式の関係を導いている。
【0110】
【数13】

【0111】
ここで、θは図4に示されている角度で、プローブ領域6の位置rから光入射位置rまでのベクトルと、プローブ領域6の位置rから光検出位置rまでのベクトルのなす角である。
【0112】
(18)式を用いれば、AOTの変調信号からプローブ領域rの減衰係数μeff(r)を求めることができる。
【0113】
減衰係数μeff(r)は、(1)式のように、吸収係数μと等価散乱係数μ’の関数である。AOTの変調信号から得られた減衰係数μeff(r)に対して、PATの光音響信号から実施形態3の(16)式を用いて得られた吸収係数μを利用して、(1)式から等価散乱係数μ’を算出することができる。
【0114】
本実施形態においては、好ましくはAOTの変調信号を利用して、PATの音響信号から、まず、プローブ領域の吸収特性を精度よく求める(実施形態3)。次に、AOTの変調信号から(18)式を利用してプローブ領域の減衰係数を得て、この減衰係数に対して、(1)式を利用して、PATの音響信号から得られた吸収特性から散乱特性を求めることができる。
【0115】
図7に本実施形態の生体情報処理方法を実施する場合の測定フローの一例を示す。S300で測定ターゲットとなる超音波集束領域(プローブ領域)6を設定する。
【0116】
S301において、AOT測定を行う。このとき、変調光信号IACを得る。S302において、(18)式を用いてプローブ領域6の減衰係数を求める。
【0117】
S303において、PAT測定を行い、光音響信号を得る。このとき超音波の受信の設定は、AOT測定で設定した超音波送信の設定であるプローブ領域6と同じ位置に設定されている。
【0118】
S304において、(16)式に基づき、S301で得られた変調光信号IACとS302で得られた光音響信号を用いて、プローブ領域6の吸収係数を算出する。
【0119】
S305において、S302で得られた減衰係数と、S304で得られた吸収係数を用いて、(1)式に基づき、プローブ領域6の等価散乱係数を算出する。
【0120】
S300からS305までのフローを、プローブ領域6を被検体7内部でスキャンして実施することで、被検体7の内部の3次元的な吸収係数分布及び、等価散乱係数分布を得る。
【0121】
ここで、実施例2で示したように、一度PAT測定と画像再構成を実行した上で、コントラストの高い領域に対して本実施例に示した手法を適用してもよい。
【0122】
[装置構成の変形例]
図8〜10は、図1の測定部19について光ファイバを用いない他の構成例を示す模式図である。測定部19以外の信号処理装置9などは図1と同じ構成とする。
【0123】
図8の例において、光源1からのビームは、ビームスプリッタ20で反射して、照明/検出光学系21を経て、被検体7に対して比較的大きな面積で光を照射する。このとき、AOT測定における検出光は、照明時と同じ光学系21を通して光を集光し、ビームスプリッタ20を透過して光検出器8で信号光を検出する。光照射と光検出を同じ光学系を用いて開口面積を同一にすることで、図5と同じような幾何条件を設定することができる。
【0124】
或いは、被検体7に対してプローブ領域6が十分深く、拡散近似が成り立つ領域においては、図9のような構成でもよい。入射側と検出側で同じ光学系を用い、被検体7に対する開口面積を同じ領域に設定されている。少し斜めから被検体7に入射した光は、被検体内部で散乱を繰り返すうちに等方的に拡散し、後方散乱光も等方的に拡散して被検体7から射出する光を検出する。このような構成でも、光照射領域と光検出領域をほぼ同じ領域とすることができる。
【0125】
或いは、基本的には図8と同じ構成だが、図10のように被検体7に対して、測定プローブ16を接触させて測定する構成でもよい。測定プローブ16の中に光検出器8や超音波トランスデューサ5及びビームスプリッタ20、光学系21が収められている。また、測定プローブ16と被検体7の間には、音響インピーダンスをマッチングさせるマッチング媒質が満たされている。図10においても、光照射領域と光検出領域をほぼ同じ領域とすることができる。
【0126】
(実施形態5)
本発明の実施形態5における生体情報処理方法について説明する。本実施形態の装置構成は実施形態1と同様である。まずAOT測定或いはPAT測定を行う前に、超音波トランスデューサ5を用いて、パルス超音波を送信し、反射波である超音波エコーを超音波トランスデューサ5で受信する。被検体7に対して、パルス超音波の送信方向を変えながら測定することで、被検体7内部の構造情報を取得し、メモリ13に保存する。
【0127】
演算処理部11において、メモリ13から超音波エコー測定で得られた、被検体7内部の構造データを読み出し、構造的な特徴を利用して、被検体7の内部を領域ごとに分割してメモリ13に保存する。また、構造データを表示装置14に表示する。構造的な特徴は、超音波エコー装置により得られたエコー信号が、事前に設定された閾値よりも高いコントラストで信号が得られる領域を特定する。このように超音波エコー信号を用いて、組織構造的に特徴のある領域を抽出する。
【0128】
次にAOT測定において、上記の分割された構造情報を利用する。例えば図11に示すように、分割された構造情報より、被検体内部の構造的に特異な領域A(17a)及び領域B(17b)と、それ以外の比較的均質な領域に分割される。
【0129】
この構造的に特異な領域A(17a)や領域B(17b)に対して、例えば実施形態4で述べた手法を用いて、図7のフローに従い、AOT測定とPAT測定を行い、同領域の吸収係数及び散乱係数を算出する。吸収係数、散乱係数それぞれの分布を構造データと重ねて表示装置14に表示する。
【0130】
本実施形態においては事前に超音波エコー測定を行い、構造情報データを利用して、構造的に不均質な領域に対して、吸収特性及び散乱特性を算出する。これにより、構造的な情報を利用して光学的に不均質な領域を効率的に抽出し、選択的にAOT測定とPAT測定を実施し、被検体内部の不均質な組織に対して効率的に吸収特性及び散乱特性を測定することができる。
【0131】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されずその要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】実施形態1の生体情報処理装置の構成例を示す模式図である。
【図2】実施形態1の生体情報処理方法を実施する場合の測定フローの一例を示すフローチャートである。
【図3】実施形態2の生体情報処理方法を実施する場合の測定フローの一例を示すフローチャートである。
【図4】光の入射位置と検出位置とプローブ領域との位置関係の一例を示した模式図である。
【図5】光の入射位置と検出位置とプローブ領域との位置関係の別の一例を示した模式図である。
【図6】図5の場合において、光の入射・検出位置とプローブ領域との間の光の伝播経路分布を示した模式図である。
【図7】実施形態3の生体情報処理方法を実施する場合の測定フローの一例を示すフローチャートである。
【図8】図1の測定部19について他の構成例を示す模式図である。
【図9】図1の測定部19について他の構成例を示す模式図である。
【図10】図1の測定部19について他の構成例を示す模式図である。
【図11】実施形態5における生体内部のセグメントされた領域とプローブ領域との位置関係を示した模式図である。
【符号の説明】
【0133】
1 光源
5 超音波トランスデューサ
6 超音波集束領域(プローブ領域)
7 被検体
8 光検出器
9 信号処理装置
10 信号抽出部
11 演算処理部
12 画像生成部
17a、17b 被検体内部の領域
18 光の伝播経路分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体情報処理装置であって、
生体に光を照射するための光源と、
前記生体の局所領域に対して超音波を照射するための超音波送信部と、
前記光源からの光が前記局所領域において前記超音波によって変調を受けた変調光及び非変調光を検出するための光検出部と、
前記光源からの光を受けて前記局所領域から発生した音響波を検出するための音響波検出部と、
前記音響波検出部の出力である音響信号から算出した前記局所領域の吸収特性を利用して、前記光検出部の出力信号から前記局所領域の散乱特性を算出する演算部と、
を有することを特徴とする生体情報処理装置。
【請求項2】
前記超音波送信部と前記音響波検出部とは、一つの弾性波トランスデューサで兼ねられていることを特徴とする請求項1に記載の生体情報処理装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記光検出部の出力信号から算出される変調度から、前記局所領域の散乱特性を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の生体情報処理装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記光検出部の出力信号から算出される前記局所領域の光強度に基づいて、前記音響波検出部の出力である音響信号から前記局所領域の吸収特性を算出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の生体情報処理装置。
【請求項5】
前記光源から照射された光が前記生体の中で前記局所領域まで伝播する入射光伝播領域と、前記変調光が前記生体の中で前記局所領域から前記光検出部まで伝播する検出光伝播領域とが同一とみなせるように、入射光ファイバと検出光ファイバとを配置し、
前記演算部は、入射光伝播領域と検出光伝播領域が同一であることから得られる関係式を用いて、前記局所領域での光強度を算出することを特徴とする請求項4に記載の生体情報処理装置。
【請求項6】
生体情報処理方法であって、
生体の局所領域に対して光を照射すると共に超音波を照射したときに、該局所領域において前記超音波によって変調を受けた変調光及び非変調光を検出する工程と、
生体に光を照射したときに前記局所領域から発生した音響波を検出する工程と、
前記音響波から得た音響信号から算出した前記局所領域の吸収特性を利用して、前記変調光及び前記非変調光から前記局所領域の散乱特性を算出する工程と、
を有することを特徴とする生体情報処理方法。
【請求項7】
前記変調光及び前記非変調光の強度から算出される変調度から、前記局所領域の散乱特性を算出することを特徴とする請求項6に記載の生体情報処理方法。
【請求項8】
前記音響波を検出する工程において、前記生体の内部での散乱光も検出し、検出された前記散乱光から前記生体の内部の光減衰特性を算出する工程、
前記光減衰特性から算出される前記局所領域での光強度に基づいて前記局所領域での吸収特性を算出する工程、
を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の生体情報処理方法。
【請求項9】
検出された前記非変調光の強度から前記生体の内部の光減衰特性を算出する工程、
前記光減衰特性から算出される前記局所領域での光強度に基づいて前記局所領域での吸収特性を算出する工程、
を有することを特徴とする請求項6又は7に記載の生体情報処理方法。
【請求項10】
検出された前記変調光から得た変調信号から算出した前記局所領域での光強度に基づいて、前記音響波から得た音響信号から前記局所領域の吸収特性を算出する工程、
を有する請求項6又は7に記載の生体情報処理方法。
【請求項11】
照射される光による前記生体の中での入射光伝播領域と、前記変調光を検出するときの検出光伝播領域とが同一とみなせるように、前記光の入射及び検出を行い、
入射光経路と検出光経路が同一であることから得られる関係式を用いて、前記局所領域での光強度を算出することを特徴とする請求項10に記載の生体情報処理方法。
【請求項12】
前記音響波を検出する工程において、前記生体の内部の任意の前記局所領域において前記音響波を検出し、
前記生体の内部において前記音響信号が所定の閾値よりも高いコントラストで得られる領域を特定する工程を有し、
特定された前記領域に対して前記局所領域を設定し、前記変調光及び前記非変調光を検出することを特徴とする請求項6に記載の生体情報処理方法。
【請求項13】
前記局所領域に対して得られた前記吸収特性又は前記散乱特性を、前記局所領域の位置座標と対応づけることによって、前記生体の内部の吸収特性又は散乱特性に関する三次元断層像を形成することを特徴とする請求項6ないし12のいずれかに記載の生体情報処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−88499(P2010−88499A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258571(P2008−258571)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】