説明

生体情報測定装置

【課題】 一般に排泄を行うトイレで溜水水位変化からリアルタイムで尿流率測定するにあたって、被験者の排尿状態に関する付帯情報を医療従事者が被験者に聞き取り調査することなく開示する生体情報測定装置を提供するものである。
【解決手段】 尿流率の測定結果を開示するだけでなく、医療従事者の診断活用を効率化するための管理情報、および、排尿状態に関する測定関連情報をも関連付けて共に開示することに係り、特に医療従事者が泌尿器系疾病に特有な判断指標をも併せて知ることに好適な、生体情報測定装置の付帯情報開示方法に関する発明である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿流率の測定結果を開示するだけでなく、医療従事者の診断活用を効率化するための管理情報、および、排尿状態に関する測定関連情報をも関連付けて共に開示することに係り、特に医療従事者が泌尿器系疾病に特有な判断指標をも併せて知ることに好適な、生体情報測定装置の付帯情報開示方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
尿流率は単位時間当たりの尿量を示す指標であり、尿量変動をリアルタイムで測定することによって得られる。この指標は前立腺肥大をはじめとする泌尿器系疾病を診断するために活用されている。
従来の尿流率測定装置としては、排泄された尿を容器で受け、その経時的な重量変化をを測定するというものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このような場合、トイレ以外で排泄を行わなければならないということが患者に精神的な圧迫を与えたり、排尿時の大便漏れに注意を払うあまりに、本来の排尿状態で採尿できなかったりすることがあった。また、尿量測定装置の操作を医療従事者や看護師が実施し、検査室から退出してから患者である被験者は脱衣を行い、具体的な排泄が行われるため、患者が排尿意思を持ってから具体的に排尿が起こるまでの時間であるためらい時間の測定が不可能であった。また排尿姿勢に関する情報は羞恥心を持つ患者からのヒアリング情報でしか得られず、正しい情報が医療従事者に伝えられない、等の問題が有り測定結果をと誤った医療判断を下す恐れがあるという問題があった。
【0004】
排尿に関する測定を検査室で実施するのではなく、トイレで実施しようとする取り組みもある(例えば、特許文献2参照。)。
このような場合、被験者が排泄した尿量を測定可能としているが、尿流率をはじめとする泌尿器系の疾病関連指標、及び、その関連情報を開示するものではなかった。
【特許文献1】特開2002−186601号公報
【特許文献2】特開平08−299348号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、一般に排泄を行うトイレで溜水水位変化から尿流率等の排尿データを測定するにあたって、被験者の排尿状態に関する情報等の、正確な診断のために必要とされる前記排尿データ以外の測定データに付帯する情報を、医療従事者が被験者に聞き取り調査することなく開示する生体情報測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、被験者の排尿を受けると共に溜水が形成されたボール面と、前記ボール面の溜水水位の変化から排尿量を測定する排尿量算出手段と、前記溜水水位の変化に基づいて尿の排泄される速度を表す尿流率を算出する尿流率算出手段と、少なくとも前記排尿量及び/又は尿流率を測定結果として開示する測定結果開示手段と、からなる生体情報測定装置において、前記ボール面近傍に被験者が測定場所に存在することを検知する人体検知手段と、前記ボール面に当接する便座への被験者の着座を検知する着座検知手段と、前記人体検知手段と前記着座検知手段の判断結果に基づいて被験者の姿勢を判断する排尿姿勢判断手段と、測定開始及び/又は測定終了を指示する操作手段と、排尿の有無を判断する排尿検知手段と、前記測定結果にに基づき被験者の排尿状態を判断する排尿状態判断手段と、を有するとともに、前記測定結果開示手段は、前記測定結果である測定情報に、少なくとも被験者の個人認証情報と測定日時を含む管理情報と、前記排尿状態判断手段によって得られる被験者の排尿状態及び/又は前記排尿姿勢判断手段によって得られる排尿姿勢に関する情報に関する測定関連情報とを関連付けて開示することを特徴とすることにより、
使用者の排尿状態や排尿姿勢といった排尿測定に関する付帯情報を医療従事者が使用者に聞き取り調査することなく知ることができ、使用者の羞恥心などの影響で隠蔽されてしまった情報により、医療従事者が誤った判断を下してしまうような恐れを無くすことを可能とした。
【0007】
また、請求項2記載の発明によれば、前記排尿姿勢に関する情報は、排尿姿勢が座位か立位かの判定結果であることを特徴とすることにより、
特に男性で起こりがちな腹筋の排尿に対する影響を誤りなく判断することを可能とした。
【0008】
また、請求項3記載の発明によれば、前記測定関連情報は、立位の場合において測定開始操作から尿流検知までの時間であることを特徴とすることにより、
特に男性が対象となるが被験者が立位で排尿をしたいという意思を持ってから、実際に排尿が開始されるまでの時間を正しく知ることが出来るため、診断時に測定結果の判断を正確に行なうことを可能とした。
【0009】
また、請求項4記載の発明によれば、前記測定関連情報は、座位の場合において着座検知から尿流検知までの時間であることを特徴とすることにより、
男女を問わず、被験者が座位で排尿をしたいという意思を持ってから、実際に排尿が開始されるまでの時間を正しく知ることが出来るため、診断時に測定結果の判断を正確に行なうことを可能とした。
【0010】
また、請求項5記載の発明によれば、前記測定関連情報は、測定中の大便排泄および/またはトイレットペーパー投入など、溜水水位の測定結果に対して想定以上の変動を受けたことを示す情報であることを特徴とすることにより、
測定情報を利用する医療従事者は測定結果に誤差の存在する可能性を想定した上で診療判断をおこなうことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、使用者の排尿状態に関する付帯情報を医療従事者が使用者に聞き取りヒアリングすることなく知ることができる。合わせて、尿量や尿流率等の測定結果と付帯情報を同時開示により、経日的な治療効果の把握を含めた効率的なデータ活用ができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の実施の形態に関し、以下に図を用いて詳説する。
【実施例】
【0013】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態による生体情報測定装置を説明する。
まず、図1乃至図5を参照して本発明の第1実施形態による生体情報測定装置を説明する。
図1は本発明の第1実施形態による生体情報測定装置の断面図である。図1に示すように、本発明の第1実施形態による大便器ユニット1は、洋風大便器2と、大便器ユニット1を作動させる種々の機能部4と、を有する。洋風大便器2は、ボール6と、洗浄水を吐水させるリム吐水ノズル7と、ボール6を水封するトラップ部8と、トラップ部8に向けて洗浄水を噴出するサイホン現象発生手段であるゼット吐水ノズル9と、を有する水道直圧式の洗浄を行う洋風大便器である。さらに、大便器ユニット1は、洋風大便器2のトラップ部8に接続された排水ソケット10と、洋風大便器2に取り付けられ、市水から供給された洗浄水を切替えて供給する給水バルブである水路切替手段16と、を有する。排水ソケット10の内部には、排出流路を開閉する開閉手段28が組み込まれている。
【0014】
また、機能部4は、ボール6底部の静水圧を測定する水位測定手段である圧力センサ18を有する。また、機能部4は、貯水タンク24と、貯水タンク24内の水を圧送して、尿量測定に使用される管路を洗浄するポンプ36と、を有する。さらに、機能部4は、水路を切替えする、第1開閉弁30、第2開閉弁32、第3開閉弁34、及び第4開閉弁26を有する。また、機能部4は、水路切替手段16、各三方弁、及び各開閉弁を制御するコントローラ38を有する。このコントローラ38は、圧力センサ18による測定値に基づいて、尿量又は尿流率を算出する尿量・尿流率算出手段40を内蔵している。
【0015】
トラップ部8の出口側端部は、排水ソケット10を介して下水管Dに接続されている。リム吐水ノズル7は、ボール6の上部から、リムの接線方向に洗浄水を吐出させ、ボール6の壁面を洗浄するように構成されている。ゼット吐水ノズル9は、ボール6の底部からトラップ部8に向けて洗浄水を噴出させ、トラップ部8内にサイホン現象を誘発するように構成されている。
水路切替手段16は、コントローラ38の制御信号に従って、市水から供給された洗浄水を、リム吐水ノズル7及びゼット吐水ノズル9から交互に吐水させるように構成されている。
【0016】
圧力センサ18は、ゼット吐水ノズル9と連通した圧力導管12によって導かれた、ボール6底部の静水圧を測定するように構成されている。図1に示すように、ゼット吐水ノズル9と連通した圧力導管12は、第3開閉弁34を介して圧力センサ18に接続されている。さらに、第3開閉弁34は、コントローラ38によって、圧力センサ18による水位測定を行う際には開放され、水位測定を行わない時には閉鎖されるように構成されている。
【0017】
また、図1に示すように、市水と貯水タンク24の間には、第4開閉弁26が設けられている。第4開閉弁26が連通すると、市水は貯水タンク24に導かれる。水路切替手段16とリム吐水ノズル7の間には、分岐路22が設けられている。第1開閉弁30が閉止した場合、市水は水路切替手段16から直接リム吐水ノズル7に吐水されるようになっている。
【0018】
図1に示すように、貯水タンク24は、洗浄用タンク24aが、水位設定手段である溜水タンク24bを取り囲む二重構造であり、溜水タンク24bから溢れた水が洗浄用タンク24aに流入するようになっている。溜水タンク24bの底部には、流出管24dが接続されており、溜水タンク24b内の水が、流出管24dに接続された第1開閉弁30を介してリム吐水ノズル7から吐水されるようになっている。
【0019】
また、洗浄用タンク24aには、給水管24cから溜水タンク24bの中に給水され、溜水タンク24bから溢れ出た水が流入するように構成されている。給水管24cと溜水タンク24bの間には吐水口間隙が確保されているため、溜水13が逆流しても、市水に連通することがなく、衛生面での問題もない。このため、溜水タンク24bに貯められる水の量は溜水タンク24bの容積によって決まり、溜水タンク24bには一定量の水が貯められることになる。
【0020】
さらに、洗浄用タンク24aには、オーバーフロー管24eが接続されている。このオーバーフロー管24eは、トラップ管25を介して排水ソケット10に接続されている。これにより、万一、溜水タンク24bへの給水が不具合等によって停止されなくなったとき、洗浄用タンク24aの水を排水ソケット10へ排出し、洗浄用タンク24aから水が溢れるのを防止している。オーバーフロー管24eは、トラップ管25を介して排水ソケット10接続されているので、下水管内の臭気が、オーバーフロー管24eを通って大気に漏れることがない。尚、トラップ管25の封水が切れないように、貯水タンク24への給水時間は常にオーバーフローによる補給水が発生するような時間を設定する。
【0021】
さらに、洗浄用タンク24aの底部には、流出管24fが接続されている。この流出管24fは、ポンプ36、第2開閉弁32を介して圧力導管12に接続されている。従って、第2開閉弁32を開放した状態でポンプ36を作動させると、洗浄用タンク24a内の水が圧力導管12に流入する。
【0022】
コントローラ38は、水路切替手段16、各三方弁、及び各開閉弁に制御信号を送って、洋風大便器2の洗浄機能及び尿量測定機能を実行するように構成されている。また、コントローラ38に内蔵された尿量・尿流率算出手段40は、圧力センサ18によって測定された圧力に基づいて、ボール6内の水位を求め、被験者の排尿量を計算するように構成されている。コントローラ38、及び尿量・尿流率算出手段40は、マイクロプロセッサ(図示せず)、及びこれを作動させるためのプログラムを記憶したメモリ(図示せず)等で構成することができる。
【0023】
次に、図2を参照して、本発明の第1実施形態による大便器ユニット1の作用を説明する。図2は大便器ユニット1の作用を時系列で表すグラフである。
図2に示すように、待機時においては、大便器ユニット1のボール6内の溜水13の水位は、図1にYで示すスタート水位になっており、また、操作・表示部(図示せず)には「測定可」と表示されている。本実施形態において、このスタート水位Yは、溢流水位Hの約36mm下方、トラップ部8の封水が破れる破封水位の約25mm上方に設定されている。
【0024】
排水ソケット10には、圧力センサー20が接続されている。圧力センサー20は下水配管内の圧力をモニターし、封水深である25mmを超えるような圧力変動を検知すると、水路切替手段16からリム吐水ノズル7に向けた吐水を行うことで、封水が切れて異臭や害虫などがトイレ内に拡散することを防止している。
【0025】
次に、大便器ユニット1の被験者が、操作・表示部(図示せず)の測定開始スイッチ又は個人認証のためのIDカード挿入などの所定の起動手段(図示せず)を操作すると、操作・表示部(図示せず)の表示は「準備中」になる。これと同時に、コントローラ38は、第2開閉弁34に制御信号を送る。これにより、圧力導管12と圧力センサ18が連通される。また、コントローラ38は、圧力センサ18に制御信号を送り、これらを作動させる。
【0026】
また、コントローラ38は、排水ソケット10に内蔵される開閉手段28に制御信号を送り、待機時には開放されている便器から下水配管へ連なる流路を閉止する。このように待機時には流路を開放状態としているのは、トイレの清掃時等に尿量測定を実施しないで便器にバケツの水を流すようなことがあったとしても、汚水溢れなどが発生することがないようにするためである。被験者の本大便器ユニットを使用して尿量測定を開始するという意思表示に従って流路が閉止されることにより、下水配管D内で発生した他の器具に由来する水の流れで発生する圧力変動が溜水13の水位に伝達されないようになる。
【0027】
以上のような測定準備動作が完了すると、操作・表示部(図示せず)の表示が「測定中」に変化する。表示が「測定中」に変化した後、被験者はボール6に排尿する。被験者が排尿すると、図2に示すように、ボール6内の水位は上昇し、排尿後、水位Zとなる。コントローラ38は、圧力センサ18によって測定される圧力変化がなくなるか、又は被験者が排尿を終えて操作・表示部(図示せず)の排尿終了スイッチ(図示せず)を操作すると、被験者の排尿が終了したと判定し、被験者の排尿量の計算を開始する。コントローラ38に内蔵された尿量・尿流率算出手段40は、圧力センサ18によって測定された圧力計測結果に基づいて、被験者の排尿量を計算して測定値としてその結果を表示する。
【0028】
また、排尿量の計算開始と同時に、コントローラ38は、圧力センサ18に制御信号を送り、これをOFFにし、第3開閉弁34に制御信号を送り、これを閉鎖する。また、コントローラ38は、排水ソケット10に内蔵される開閉手段28に制御信号を送り、流路を開放し、排泄された汚物が下水配管Dに排出できるよう準備する。
【0029】
また、コントローラ38は、第2開閉弁32を開放して、ポンプ36を作動させる。これにより、洗浄用タンク24a内の水は、ポンプ36、第2開閉弁32、圧力導管12を通ってゼット吐水ノズル9から吐水され、これらの経路が洗浄される。なお、尿に接したこれらの配管経路の洗浄は、毎回の測定毎に行っても良いし、或いは、所定の測定回数毎、又は所定時間毎に行っても良い。このように洗浄を毎回行わない場合には、1回の測定に要する全体の時間を短縮することができる。
【0030】
尿量測定終了後、被験者が、操作・表示部(図示せず)の便器洗浄スイッチ(図示せず)を操作すると、操作・表示部の表示が「準備中」に変化する。これと同時に、コントローラ38は、水路切替手段16に制御信号を送って、リム吐水ノズル7から所定時間吐水させ、図2に示すように、ボール6内の水位が溢流水位Hまで上昇する。次いで、コントローラ38は、リム吐水ノズル7からの吐水を停止し、ゼット吐水ノズル9から吐水させる。ゼット吐水ノズル9からの吐水により、サイホン現象が発生し、ボール6内の溜水はトラップ部8に吸引され、ボール6内の溜水量はほぼゼロの空水位Xになる。
【0031】
所定時間ゼット吐水を行った後、コントローラ38は、ゼット吐水を停止させる。これと同時に、コントローラ38は、第1開閉弁30に制御信号を送ってこれを開放し、溜水タンク24b内に貯められた所定量の水を、第1開閉弁30、リム吐水ノズル7を介してボール6内に吐水させる。所定時間第1開閉弁30を開放すると、溜水タンク24b内の水が全てボール6内に流入する。ここで、溜水タンク24bからの給水を行う前のボール6内の溜水量はほぼゼロの空水位Xであるので、所定量の水が貯められた溜水タンク24b内の水を全てボール6内に流入させた後のボール6内の溜水量は常にほぼ一定となり、この時の水位が、所定のスタート水位Yになる。従って、溜水タンク24bは水位設定手段として機能する。
【0032】
溜水タンク24b内の水が全てボール6内に流入すると、コントローラ38は、第1開閉弁30を閉鎖させる。同時に、コントローラ38は、第4開閉弁26に制御信号を送り、市水を貯水タンク24に連通させる。これにより市水は、第4開閉弁26を通って空になっていた溜水タンク24bに流入する。溜水タンク24bに水が流入すると、溜水タンク24b内の水位が上昇する。溜水タンク24bが満杯になると、水は溜水タンク24bから溢れて洗浄用タンク24aに流入する。洗浄用タンク24aの水位が上昇し、所定の水位に達すると、コントローラ38は、第4開閉弁26からの給水を停止させる。第4開閉弁26からの給水が停止すると、操作・表示部(図示せず)の表示が「測定可」に変化し、大便器ユニット1は待機状態に復帰する。
【0033】
また、万一、洗浄用タンク24aの水位が所定の水位に達しても給水が停止されなかった場合には、洗浄用タンク24a内の水は、トラップ管25を介して排水ソケット10に排水され、水が洗浄用タンク24aから溢れることがないようにしている。
【0034】
図3は、本実施形態の大便器ユニット1を尿量測定ではなく、大便の用途で使用する場合の作用を示す。この場合には、被験者が操作・表示部(図示せず)の大便使用スイッチ(図示せず)を押してから、または、準備スイッチや個人認証のためのIDカード挿入などの所定の起動手段(図示せず)を操作せずに着座した場合である。尿量を測定するのではなく、大便を排泄する目的であることを認知すると、コントローラ38は、リム吐水ノズル7からリム給水を行い、ボール6内の溜水水位を、溢流水位Hまで上昇させる。リム給水は毎分20L程度の流量で行われるため、溢流水位Hにおいて溜水の全体量が2〜3Lの本実施例においては、水位を溢流水位Hまで上昇させるために要する時間は約10秒以内であり、被験者の使い勝手が悪くなることはない。また、水位を溢流水位Hまで上昇させることにより、十分な溜水面積を確保することができ、また、ゼット吐水によるサイホン現象を有効に発生させることができる。
【0035】
次に、図4を参照して、圧力センサ18による尿量の測定を説明する。図4は、ボール6の水位と、ボール6内に溜まっている溜水量の関係の一例を示すグラフである。圧力センサ18は、ボール6の底部に設けられたゼット吐水ノズル9に連通された圧力導管12によって伝達された圧力を測定するように構成されており、圧力センサ18によって測定される圧力は、ボール6の水位に比例する。コントローラ38に内蔵された尿量・尿流率算出手段40は、図4に一例を示す水位と溜水量の関係を予め記憶している。尿量・尿流率算出手段40は、被験者が排尿を終えた後の圧力センサ18の測定圧力から被験者の排尿後の溜水水位Zを求める。次に、尿量・尿流率算出手段40は、記憶している水位と溜水量の関係に基づいて、溜水水位Zにおけるボール6内の溜水量を計算する。この排尿後の溜水量から、予め設定され、既知である排尿前のスタート水位Yにおける溜水量を差し引くことによって、被験者の尿量が計算される。また、尿量・尿流率算出手段40は、同様にして、被験者の排尿中の水位変化を時々刻々測定することにより、単位時間当たりの排尿量である尿流率を計算する。
【0036】
なお、水位又は圧力測定値と溜水量の関係は、設計値として尿量・尿流率算出手段40に予め記憶させておいても良いが、陶器で形成される一般的な大便器においては、製品毎に個体差があるので、施工現場で所定の水量をボール6に投入することによって、水位又は圧力測定値と溜水量の関係を尿量・尿流率算出手段40に学習させ、記憶させるように構成することもできる。また、水位と溜水量の関係に基づいて尿量を換算するのであるからスタート水位はYであることが必須ではない。空水位Xから同様に水位変化を測定して尿量測定を実施しても良い。
【0037】
次に、図5を参照して、溜水13水位と下水配管D内の圧力変動の影響を説明する。排水ソケット10に内蔵される開閉手段28を作動させない場合で説明を行う。図5(a)は、下水管内の圧力が大気圧と等しい場合のボール6内及びトラップ部8内の水位を示す図であり、(b)は下水管内の圧力が負圧の場合、(c)は正圧の場合の水位を示す図である。
【0038】
図5(a)に示すように、下水管内の圧力が大気圧と等しい場合には、ボール6内の水位とトラップ部8内の水位は等しいので、圧力センサ18の圧力測定値から水位を求めることによって、精度良く尿量を演算することができる。これに対して、図5(b)のように、下水管内の圧力が負圧になると、トラップ部8内の溜水が下水管の方に吸引されるので、トラップ部8内の水位は上昇し、ボール6内の水位は下降する。逆に、図5(c)のように、下水管内の圧力が正圧になると、トラップ部8内の溜水が押され、トラップ部8内の水位が下降し、ボール6内の水位が上昇する。これら、図5(b)又は(c)の場合には、圧力センサ18の圧力測定値からそのまま水位を求め、溜水量を計算すると、溜水量の計算値に誤差を生じることになる。本実施例では、下水配管D内の圧力変動が溜水13に伝達されないため、常に図5(a)の状態で測定が実施されることになる。
【0039】
次に、図6乃至図8を参照して本発明の第2実施形態による生体情報測定装置を説明する。図6は本発明の第2実施形態による生体情報測定装置の断面図である。図6に示すように、本発明の第2実施形態による大便器ユニット1は、洋風大便器2と、大便器ユニット1を作動させる種々の機能部4と、を有する。洋風大便器2は、ボール6と、洗浄水を吐水させるリム吐水ノズル7と、ボール6を水封するトラップ部8と、トラップ部8に向けて洗浄水を噴出するサイホン現象発生手段であるゼット吐水ノズル9と、を有する水道直圧式の洗浄を行う洋風大便器である。さらに、大便器ユニット1は、洋風大便器2のトラップ部8に接続された排水ソケット10と、洋風大便器2に取り付けられ、市水から供給された洗浄水を切替えて供給する給水バルブである水路切替手段16と、を有する。排水ソケット10の内部には、排出流路を開閉する開閉手段28が組み込まれている。
【0040】
また、機能部4は、ボール6底部の静水圧を測定する水位測定手段である圧力センサ18を有する。さらに、機能部4は、水路を切替え又は開閉する、第2開閉弁32、第3開閉弁34を有する。また、機能部4は、水路切替手段16、及び各開閉弁を制御するコントローラ38を有する。このコントローラ38は、圧力センサ18による測定値に基づいて、尿量又は尿流率を算出する尿量・尿流率算出手段40を内蔵している。
【0041】
トラップ部8の出口側端部は、排水ソケット10を介して下水管Dに接続されている。 リム吐水ノズル7は、ボール6の上部から、リムの接線方向に洗浄水を吐出させ、ボール6の壁面を洗浄するように構成されている。ゼット吐水ノズル9は、ボール6の底部からトラップ部8に向けて洗浄水を噴出させ、トラップ部8内にサイホン現象を誘発するように構成されている。水路切替手段16は、コントローラ38の制御信号に従って、市水から供給された洗浄水を、リム吐水ノズル7及びゼット吐水ノズル9から交互に吐水させるように構成されている。
【0042】
圧力センサ18は、ゼット吐水ノズル9と連通した圧力導管12によって導かれた、ボール6底部の静水圧を測定するように構成されている。図6に示すように、ゼット吐水ノズル9と連通した圧力導管12は、第3開閉弁34を介して圧力センサ18に接続されている。さらに、第3開閉弁34は、コントローラ38によって、圧力センサ18による水位測定を行う際には開放され、水位測定を行わない時には閉鎖されるように構成されている。
【0043】
また、図6に示すように、水路切替手段16とゼット吐水ノズル9の間には分岐路22が設けられており、市水は第2開閉弁32、圧力導管12を経てゼット吐水ノズル9に洗浄用の水を導くようにしている。第2開閉弁32が閉止すると、市水は水路切替手段16から直接ゼット吐水ノズル9に吐水されるようになっている。
【0044】
また、測定中は溜水13をゼット吐水ノズル9からの吐水によって発生するサイホン現象で排出した後、排水ソケット10に内蔵される開閉手段28を閉止して、下水配管の臭気や圧力変動がボール面6に伝わらないようになっている。なおボール面6の断面積は下方になるほど小さくなる形状であるため、第一実施例に対して第二実施例は同一尿量に対する水位変化量が大きく、結果としてより高精度の測定が期待できることになる。
【0045】
コントローラ38は、水路切替手段16、各三方弁、及び各開閉弁に制御信号を送って、洋風大便器2の洗浄機能及び尿量測定機能を実行するように構成されている。また、コントローラ38に内蔵された尿量・尿流率算出手段40は、圧力センサ18によって測定された圧力に基づいて、ボール6内の水位を求め、被験者の排尿量を計算するように構成されている。コントローラ38、及び尿量・尿流率算出手段40は、マイクロプロセッサ(図示せず)、及びこれを作動させるためのプログラムを記憶したメモリ(図示せず)等で構成することができる。
【0046】
次に、図7を参照して、本発明の第2実施形態による大便器ユニット1の作用を説明する。図7は大便器ユニット2の作用を時系列で表すグラフである。
図7に示すように、待機時においては、大便器ユニット1のボール6内の溜水13の水位は、図6にHで示す溢流水位になっており、また、操作・表示部(図示せず)には「準備中」と表示されている。
【0047】
次に、大便器ユニット1の被験者が、操作・表示部(図示せず)の準備スイッチ又は個人認証のためのIDカード挿入などの所定の起動手段(図示せず)を操作すると、操作・表示部(図示せず)の表示は「準備中」を継続する。これと同時に、コントローラ38は水路切替手段16に制御信号を送って、リム吐水ノズル7から所定時間吐水させ、図7に示すように、ボール6内の水位が溢流水位Hのままボール6内を洗浄する。次いで、コントローラ38は、リム吐水ノズル7からの吐水を停止し、ゼット吐水ノズル9から吐水させる。ゼット吐水ノズル9からの吐水により、サイホン現象が発生し、ボール6内の溜水はトラップ部8に吸引され、ボール6内の溜水量はほぼゼロの空水位Xになる。本実施例では水位Xが測定開始のスタート水位である。
【0048】
溜水13は下水配管内の圧力変動規格値±40mmAqaを配慮して封水深50mm以上を確保しているため、下水配管内の圧力変動発生時に封水が切れる恐れがない。実施例1では下水配管内の圧力変動をモニターし、過大な圧力変動に対しては溜水を補給することで封水切れの防止を図っているが、その配慮が不要であるため機構構成を単純化することができる。測定準備にタイムラグが発生することを是認するかどうかで、機構構成は選択されればよい。
【0049】
次いで、コントローラ38は、排水ソケット10に内蔵される開閉手段28に制御信号を送り、流路を閉止する。待機時に流路を開放状態として、尿量測定を実施しない方が便器にバケツの水を流すようなことがあったとしても、汚水溢れなどが発生することがないよう配慮されている。被験者の測定を開始するという意思表示に従って流路が閉止されることにより、下水配管D内で発生した他の器具に由来する水の流れで発生する圧力変動や臭気がボール6の水位に伝達されないようになる。
【0050】
所定時間経過すると、溜水13の水位を測定すべく第3開閉弁34を開けて圧力センサー18を立ち上げ、操作・表示部(図示せず)の表示が「測定中」に変化する。表示が「測定中」に変化した後、被験者はボール6に排尿する。被験者が排尿すると、図7に示すように、ボール6内の水位は上昇し、排尿後、水位Zとなる。コントローラ38は、圧力センサ18によって測定される圧力変化がなくなるか、又は被験者が操作・表示部(図示せず)の排尿終了スイッチ(図示せず)を操作すると、被験者の排尿が終了したと判定し、被験者の排尿量の計算を開始する。コントローラ38に内蔵された尿量・尿流率算出手段40は、圧力センサ18によって測定された圧力に基づいて、被験者の排尿量を計算する。
【0051】
また、排尿量の計算開始と同時に、コントローラ38は、圧力センサ18に制御信号を送り、これをOFFにし、第3開閉弁34に制御信号を送り、これを閉鎖する。また、コントローラ38は、第2開閉弁32を開放して、水路切替手段16からのゼット吐水を実行する。ゼット吐水ノズル9に向けた吐水と同時に、圧力導管12を通ってゼット吐水ノズル9から吐水され、これらの経路が洗浄される。なお、尿に接したこれらの配管経路の洗浄は、毎回の測定毎に行っても良いし、或いは、所定の測定回数毎、又は所定時間毎に行っても良い。このように洗浄を毎回行わない場合には、1回の測定に要する全体の時間を短縮することができる。次いで、封水が確保されるタイミングで、コントローラ38は排水ソケット10に内蔵される開閉手段28に制御信号を送り、流路を開放し、排泄された汚物が下水配管Dに排出できるよう準備する。
【0052】
尿量測定終了後、被験者が、操作・表示部(図示せず)の便器洗浄スイッチ(図示せず)を操作すると、操作・表示部の表示が「準備中」に変化する。これと同時に、コントローラ38は、水路切替手段16に制御信号を送って、リム吐水ノズル7から所定時間吐水させ、図7に示すように、ボール6内の水位が溢流水位Hに上昇させながらボール6内を洗浄する。次いで、コントローラ38は、リム吐水ノズル7からの吐水を停止し、ゼット吐水ノズル9から吐水させる。ゼット吐水ノズル9からの吐水により、サイホン現象が発生し、ボール6内の溜水はトラップ部8に吸引され、ボール6内の溜水量はほぼゼロの空水位Xになる。
【0053】
所定時間ゼット吐水を行った後、コントローラ38は、ゼット吐水を停止させる。これと同時に、吐水をリム側に切り替え、リム吐水ノズル7を介して溢流水位Hとなるまでボール6内に吐水させる。所定の水位に達すると、コントローラ38は、水路切替手段16からの給水を停止させる。水路切替手段16からの給水が停止すると、操作・表示部(図示せず)の表示「準備中」を維持し、大便器ユニット1は待機状態に復帰する。
【0054】
図8は、本実施形態の大便器ユニット1を尿量測定ではなく、大便の用途で使用する場合の作用を示す。この場合には、被験者が操作・表示部(図示せず)の大便使用スイッチ(図示せず)を押してから、または、準備スイッチや個人認証のためのIDカード挿入などの所定の起動手段(図示せず)を操作せずに着座した場合である。尿量を測定するのではなく、大便を排泄する目的であることを認知すると、コントローラ38は、便器洗浄操作があるまで溜水13を排出することを禁止する。溜水水位は溢流水位Hで維持されていることにより、十分な溜水面積を確保することができ、また、ゼット吐水によるサイホン現象を有効に発生させることができるため、排泄物を高い信頼性で下水配管に排出することができる。
【0055】
図9は、ヒトの経時的な排尿状態と泌尿器疾病管理指標の内容を示す模式図である。
横軸は時間(秒)、および縦軸は単位時間当たりの尿量変化を示す尿流率(mL/秒)である。本発明の生体情報測定装置で経時的な水位変化を圧力変化で測定し、検量線で溜水量に変換し、溜水量の時間変動を一階微分することで、単位時間当たりの溜水量変化として尿流率は容易に得ることができる。
【0056】
次に臨床用途で使用される泌尿器疾病管理指標の各項目について説明する。ヒトが排泄によって図9に示すような尿流率の時間変動を示す排尿を行った場合を使用する。断続的な排尿が行われた場合、1回目に排泄された尿量がA、2回目に排泄された尿量がAである。全体としてN回に分けて排泄されたとすると、排泄された尿量R(mL)は、下式で表現されることになる。
【0057】
【数1】

最大尿流率B(mL/秒)は、1回目に排泄された尿量がA・尿流時間E、2回目に排泄された尿量がA・尿流時間E・・・のうち、最大ピークを迎えた尿流率である。また排尿開始からピークを迎えるまでの時間が、最大尿流率到達時間F(秒)である。
【0058】
最大尿流率の上限は50mL/秒程度で、一般的に20mL/秒程度、また5mL/秒を下回ると泌尿器系疾病の可能性が疑われる。尿道が短い女性より、尿道の長い男性の方が、加齢と共に尿流率が小さくなりがちとされている。平均尿流率C(mL/秒)は、1回目に排泄された尿量がA・尿流時間E、2回目に排泄された尿量がA・尿流時間E・・・を使用して下式で表現される。
【0059】
【数2】

排泄時間D(秒)は、途切れ途切れの状態を含めて排泄が終了した時間である。排泄時間が60秒を超えるようになると、前立腺肥大などの疾病が疑われるようになる。尿流時間E(秒)は、実際に排泄が行われた時間であり、下式で表現される。
【0060】
【数3】

ためらい時間G(秒)はまよい時間とも称されるもので、排尿の意志をもってから実際に排泄が起こるまでの時間である。
【0061】
後述のブロック図で追加説明を実施するが、本発明の生体情報測定装置は測定開始操作を行う操作部、被験者の近接を検知する人体検知センサー、および被験者が便座に座ったことを検知する着座センサーを有している。男性が立位で排泄する場合、人体検知センサーで被験者を検知し、加えて測定開始操作を行ったことを計時の起点としてためらい時間G(秒)を計測することができる。男性が立位で排尿を行う場合、ズボンのジッパーを降ろして陰茎を露出させて排尿準備が整ってから尿流率測定の測定開始操作を実施すると、最も高精度のためらい時間G(秒)を計測することが実施できることになる。
【0062】
女性が座位で排泄する場合、脱衣後に着座することになるため、排尿意思は着座センサーが被験者の便座への着座することを計時の起点としてためらい時間G(秒)を計測することができる。男性が排泄を行う場合、腹筋を使用できる立位の方が尿流率は高いとされている。例えば医療従事者が腹筋を使用しない座位での排泄を指示したとしても、トイレ内はパーソナルスペースであるため本当に指示を守っているかを開示できることになる。
【0063】
また女性が便座に肌を触れたくないがために中腰で排泄を行った場合、着座センサーが着座行為を検出しなかった場合、その排泄行為は普段の状態を表さない。本発明の生体情報測定装置は、医療従事者は患者が羞恥心を感じることのある排泄行為に関する質問をしなくても、排泄状態を容易に知ることができることになる。また患者が隠した情報を医療従事者は知ることができるため、治療方針決定に対して誤った判断をすることがない。
【0064】
同じ排泄は2度と起きないことにも注意が必要である。尿流率測定中に大便を排泄してしまったり、終了操作をする前にトイレットペーパーを投入してしまう誤使用が想定される。また生体情報測定装置側に対しても、例えば下水圧変動の伝達を遮断する開閉手段28に動作不良が発生した場合、尿量・尿流率の測定結果は誤差を有するものとなる。
【0065】
ヒトの尿流率は50mL/秒以下とされており、かつ、1Hz以下の動特性を持つものとされているから、それ以上の振幅・周波数が圧力センサー18で測定された場合は、その測定結果全体は前記誤差要因によって信頼性が無いものとなってしまう。しかし、医療従事者が、誤差要因があることを前提に尿流率の経時変動グラフを判読すれば、変動が発生するまでのデータで判断を実施でき、まったく測定に用を足さないということを防止することも可能である。
【0066】
図10は、本発明の第1実施形態による生体情報測定装置のブロック図である。
ブロックとしては便器部と機能部に大別される。便器部にはボールを洗浄する水を供給するためのリム吐水ノズルと、溜水中に水没して排水ソケットに接続されるトラップに対してサイホン現象を発生させるためのゼット吐水ノズルが構成され、各々機能部の水路切替手段から市水の供給を受けるようになっている。ゼット吐水ノズルと水路切替手段の間で水路は分岐され、溜水水位測定手段に接続されている。溜水水位測定手段はコントローラ内の尿量・尿流率算出手段に信号伝達している。コントローラは操作・表示部と連結されており、被験者からの操作を受け付けると共に、測定結果を被験者に開示するようになっている。なおコントローラは被験者が便器近傍に存在していることを検知するための人体検知手段と、便座に座っていることを検知する着座検知手段も接続されている。第2実施形態の場合は、定量給水手段がなく、下水圧変動保護手段を省略し、変わりに排水ソケットに開閉手段が組み込まれることになる。
【0067】
図11、図12は、本発明の生体情報測定装置のフローチャートである。
S101はプログラムを起動するステップである。S102で被験者がトイレ内に入室する。S103で人体検知センサーが被験者を検知し、かつ、S104で尿量測定のための測定開始操作を実施すると、S105でためらい時間を測定するためのタイマー1の計時をスタートする。S106は排尿姿勢を判断するステップで、着座センサーの動作によって立位排尿か座位排尿かを判断する。
【0068】
S107は被験者が便座に着座したため座位排尿と判断される場合であり、脱衣が終わって排尿準備が整ったとみなしてタイマー1をリセットし、S108で改めてためらい時間の計時が開始される。S109は排尿の開始を検知するステップであり、圧力センサー18の信号によって溜水水位が変化したことを検知すると尿流有り、つまり排尿が開始されたと判断する。S110でためらい時間を測定していたタイマー1を停止し、S111で排尿が開始されたと判断した時刻を記憶する。S112は尿流時間、つまり実際に尿が溜水に落下していた時間を測定するためのタイマー2の計時をスタートする。S113は1人の被験者が連続して排尿をせずに複数回にわたって排尿する場合に、その回数をカウントする排尿カウンターにカウントする。
【0069】
S114は尿流率の変動状態をチェックするステップである。圧力センサー18が通常の排尿で想定される範囲を超える溜水の振幅・周波数の水位変動を検知した場合、測定結果を表示する時に測定結果に対する測定誤差の存在を関連付けて開示できるように、そのような変動があったことをS115で記憶する。原因としては尿流率の測定中に大便が排泄されたり、測定終了操作をする前にトイレットペーパーを投入されたことなどが想定されるが、測定結果を利用する医療関係者は測定値の信頼性に疑念があることを前提に尿流率の時間変動グラフを確認すれば、誤った判断を犯す恐れが少なくなる。
【0070】
ここで、測定誤差の存在の可能性を判断する方法として、トイレットペーパーや衛生洗浄装置の使用など、測定結果に影響を与える他器具の動作から得られる情報を組合せて判断してもよい。すなわち、トイレットペーパーホルダーの動作が行なわれてそのトイレットペーパー使用量が比較的に多い場合は小便だけではなく大便も測定中に排泄されたとみなしたり、測定中に衛生洗浄装置のスイッチが押された場合は排尿以外の水がボール面に排出されたとみなすことも可能である。

【0071】
このように、測定結果から直接にあるいは間接的に推定して得られる、測定結果に誤差を生じさせる要因の発生、言い換えれば測定の信頼性を低下させるような事象を記録して測定終了後に測定結果に適当な形で付記して出力するようにしても良い。
【0072】
S116は尿流がピークであるかどうかを判定するステップである。ピークと判断した場合、S116でその時の値と時刻とを最大尿流率と最大尿流率到達時刻として記憶する。なお排尿は複数に途切れて排泄されることがあるため、N回目のデータとして各々記憶され、後述のS127で測定値としてN回分の前記最大尿流率と最大尿流率到達時刻の中から最も値の大きかった尿流率と時刻とが被験者の最大尿流率と最大尿流率到達時間として求められる。
【0073】
S118は排尿の終了又は途切れを検知するステップで、尿流の検知がなくなったときにS119でタイマー2の計時を中断する。尿流がなくなった場合、複数回にわたって排泄された尿のN回目のデータとして、S120で排尿終了時刻が更新・記憶される。S121及びS122は被験者の終了操作の有無によって被験者が排尿をすべて終了したか否かを判定するステップである。S121で1人の被験者が排尿し終わり終了操作された場合は、前記N回目の更新データが排尿終了時刻ということになる。終了操作されずにS122で再び尿流を検知すると、S123で尿流時間を測定するタイマー2を再開して時間を積算させ、また、尿流の回数をカウントするカウンターを1つ上げたのち、S114に戻って尿流状態を測定しながら終了操作を待つことになる。
【0074】
S125では排尿開始前後の溜水量の差から、排泄された尿量を演算する。S126はタイマー1の値として、ためらい時間を演算するステップである。S127は最大尿流率と最大尿流率到達時間を演算するステップである。N回の尿流の各ピークの尿流率を比較し、最大となっている値を最大尿流率とする。またその時の時刻と排尿開始時刻との間隔が、最大尿流率到達時間として演算される。S128ステップでは、排尿開始時刻と排尿終了時刻の間隔が排尿時間として演算される。S129はタイマー2の積算値を、実際に尿が排泄されていた尿流時間とするステップである。S130では、S125で演算した尿量とS129で演算した尿流時間から平均尿流率を演算する。S131はそれらを出力するステップである。図13で示すように紙面で出力するほか、院内LANに電子情報として出力したり、記憶媒体に電子情報として出力する方法などが考えられる。S132では各タイマー及びカウンターがリセットされ、本プログラムは終了し次の測定まで待機することになる。
【0075】
図13は、前述したフローチャートでのS114で判断する本発明の溜水水位測定値が想定外の変動を受けた状態を示す模式図である。
ヒトの尿流は最大50mL/secであり、測定中の溜水量が1〜3Lおよび溜水断面積が15000〜30000mmであるとするため、尿のみが溜水に落下している時の溜水水位変化率は最大でも約0.5mm/秒である。また溜水部は、水力学的に尿流によって減衰振動を行うU字管とモデル化することができる。尿流に伴う溜水波立ちの振動周波数は、実測値によると10Hz以下であり、概ね3Hz程度であった。以上の結果より溜水に尿だけが落下している時と比較して、溜水水位変化率と溜水水位振幅が想定値以上であった時、例えば固形物としての大便などが落下した可能性があることが推定されることになる。
【0076】
図14は、本発明の生体情報測定装置の出力チャートの例である。
測定情報である尿流率は時間変動グラフとして表示されると共に、そのグラフの示す測定情報の解析結果として前述の排尿量(mL)、最大尿流率(mL)、平均尿流率(mL)、排尿時間(秒)、最大尿流率到達時間(秒)、及びためらい時間(秒)が開示されている。
【0077】
合わせて管理情報は測定されたデータを医療行為に対して効率的に活用するための管理情報として、担当医名、患者様名、患者様性別、測定年月日、及び測定時刻が開示されている。なお装置を個人認証データ記憶したIDカードやバーコードなどで起動した場合は、担当医名、患者様名、患者様性別は記載することが可能であるが、個人認証情報を含まないスイッチ操作による起動の場合は、医療従事者や看護師がカルテに貼付するときに空欄となっている部分に名前を手書きするような使い方も想定される。
【0078】
合わせて尿の排泄状態に関連する測定関連情報としては、被験者がパーソナルスペースであるトイレで排尿を行うということで測定可能になった排尿姿勢、及び測定の信頼度が開示されている。
【0079】
測定の信頼度の表示としては、問題あり/問題なしだけでなく、異物混入の恐れなど直接的な表現であっても良い。医療従事者は指示どおりの姿勢で排尿しているかどうかを、被験者にヒアリングすることなく知ることができる。また測定結果全てを信頼して判定を行ってよいか、あるいは信頼性に問題が起こる前までのデータで判定すべきか、あるいは誤差要因を含んだ結果として判断すべきかなどの情報を医療従事者に開示することになる。
【0080】
本測定結果は、診療室のプリンターから出力されて医療従事者や看護師が直接判読するケース以外に、患者がプリンターから出力された用紙を医療従事者や看護師のところに持っていくケースが考えられる。また院内LANによって、電子情報として医療従事者や看護師のパーソナルコンピューターやPDAなどの電子ツールに供給されても良い。なお患者が直接出力を見ることがある場合は、英語やドイツ語の表記とすることで測定結果に無用の心配を与えないようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の第1実施形態による生体情報測定装置の断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態による大便器ユニットの作用を時系列で表すグラフである。
【図3】本発明の第1実施形態による大便器ユニットを大便の用途で使用する場合の作用を示すグラフである。
【図4】ボールの水位と、ボール内に溜まっている溜水量の関係の一例を示すグラフである。
【図5】(a)下水管内の圧力が大気圧と等しい場合、(b)下水管内の圧力が負圧の場合、(c)下水管内の圧力が正圧の場合におけるボール内及びトラップ部内の水位を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態による生体情報測定装置の断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態による大便器ユニットの作用を時系列で表すグラフである。
【図8】本発明の第2実施形態による大便器ユニットを大便の用途で使用する場合の作用を示すグラフである。
【図9】ヒトの経時的な排尿状態と泌尿器疾病管理指標の内容を示す模式図である。
【図10】本発明の第1実施形態による生体情報測定装置のブロック図である。
【図11】本発明の生体情報測定装置のフローチャートの前半部分である。
【図12】本発明の生体情報測定装置のフローチャートの後半部分である。
【図13】本発明の溜水水位測定値が想定外の変動を受けた状態を示す模式図である。
【図14】本発明の生体情報測定装置の出力チャートの例である。
【符号の説明】
【0082】
1 本発明による大便器ユニット
2 洋風大便器
4 機能部
6 ボール
7 リム吐水ノズル
8 トラップ部
9 ゼット吐水ノズル
10 排水ソケット
12 圧力導管
13 溜水
16 水路切替手段
18 圧力センサ
20 圧力センサ
22 分岐路
24 貯水タンク
24a 洗浄用タンク
24b 溜水タンク
24c 給水管
24d 流出管
24e オーバーフロー管
24f 流出管
25 トラップ管
26 第4開閉弁
28 開閉手段
30 第1開閉弁
32 第2開閉弁
34 第3開閉弁
36 ポンプ
38 コントローラ
40 尿量・尿流率算出手段
D 下水配管
H 溢流水位
X 空水位
Y スタート水位
Z 排尿後水位


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の排尿を受けると共に溜水が形成されたボール面と、前記ボール面の溜水水位の変化から排尿量を測定する排尿量算出手段と、前記溜水水位の変化に基づいて尿の排泄される速度を表す尿流率を算出する尿流率算出手段と、少なくとも前記排尿量及び/又は尿流率を測定結果として開示する測定結果開示手段と、からなる生体情報測定装置において、前記ボール面近傍に被験者が測定場所に存在することを検知する人体検知手段と、前記ボール面に当接する便座への被験者の着座を検知する着座検知手段と、前記人体検知手段と前記着座検知手段の判断結果に基づいて被験者の姿勢を判断する排尿姿勢判断手段と、測定開始及び/又は測定終了を指示する操作手段と、排尿の有無を判断する排尿検知手段と、前記測定結果にに基づき被験者の排尿状態を判断する排尿状態判断手段と、を有するとともに、前記測定結果開示手段は、前記測定結果である測定情報に、少なくとも被験者の個人認証情報と測定日時を含む管理情報と、前記排尿状態判断手段によって得られる被験者の排尿状態及び/又は前記排尿姿勢判断手段によって得られる排尿姿勢に関する測定関連情報とを関連付けて開示することを特徴とする生体情報測定装置。
【請求項2】
前記排尿姿勢に関する情報は、排尿姿勢が座位か立位かの判定結果であることを特徴とする請求項1に記載の生体情報測定装置。
【請求項3】
前記測定関連情報は、立位の場合において測定開始操作から尿流検知までの時間であることを特徴とする請求項1に記載の生体情報測定装置。
【請求項4】
前記測定関連情報は、座位の場合において着座検知から尿流検知までの時間であることを特徴とする請求項1に記載の生体情報測定装置。
【請求項5】
前記測定関連情報は、測定中の大便排泄および/またはトイレットペーパー投入など、溜水水位の測定結果に対して想定以上の変動を受けたことを示す情報であることを特徴とする請求項1に記載の生体情報測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−94904(P2006−94904A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281357(P2004−281357)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】