説明

生体情報測定装置

【課題】 尿の温度は1日を周期したリズム変化を有しており、また体内深部の温度を正確に示すパラメータである。継続的な尿温度の測定を行うことで、健康情報を使用者に提供する。
【解決手段】 被験者が排泄した尿の温度を測定する尿温度測定手段を有した生体情報測定装置において、前記尿温度測定手段によって所定期間に複数回測定された被験者の起床時の尿温度の複数の測定値を用いて所定の判定基準を作成する判定基準作成手段と、前記尿温度測定手段によって新たに測定される被験者の起床時の尿温度の測定値と前記所定の判定基準とを比較して被験者の今後の体調変化を予測する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体から排泄された尿の温度から使用者の健康情報を知ることができる生体情報測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトの生体現象には、身体の覚醒状態や血圧値、ホルモン分泌量など時系列的に周期性を示すものが少なくない。さらに体温もその一つであり、1日を周期としたサーカディアンリズムと呼ばれる日周期リズムを有している。即ち、1日の体温は一般的に、早朝3時から6時の間に最低となり、午後3時から6時の間に最高値に達するような周期的変化を示し、その変動幅は0.7℃から1.2℃ぐらであると言われている。サーカディアンリズムには各人の生活により決定される基準リズムがあり、体温も体調が健常の際には基準リズム通りに変化するが、体調が悪化している際には基準リズム通りに変化しないことが知られている。例えば、起床や就寝の時間が一定でない場合には基準となるリズム自体が生成されなかったり、風邪をひいた場合にはウイルスに感染し細胞内の免疫反応により発熱が生じ一時的にリズムから逸脱したり、さらに心理的ストレスを受けた場合には、高体温になることなどが知られている。
【0003】
一般的に体温を測定する方法として、腋下での体温測定があるが、体温計を腋下に挟んだ状態を一定時間以上保持し続ける必要があるが、普段の生活では測定時に身体の一部を静止状態に保つことが難しく、十分な測定精度を得られない可能性がある。
【0004】
そこで、腋下での体温測定の代わりに、尿による体温測定装置が提案されている。尿は体の核心にある膀胱に蓄積された後に放出されるものであるので、その温度値は体内核心の温度と呼ばれている核心温と密接な関係がある。この核心温は、人体の表面温度と異なり外部環境の影響のうけにくい人体本来の状態を示すパラメータであるので、サーカディアンリズムの測定や体調の確認には好適である。
尿温度を測定する測定装置として、便器内に検温部を設けて検温部を通過する尿の温度を計測するものがある。(例えば特許文献1参照)
【0005】
【特許文献1】特開昭63−171933号公報
【0006】
また、体調を尿温度で判断する装置が提案されている。(例えば特許文献2参照)
【0007】
【特許文献2】特開2004−117336号公報
【0008】
この装置は便器内に、温度によって色調の変化するシールを貼り付け、該シールに尿がかかることにより尿温度に応じた色調によって、体の状態を判定するものである。たとえば、35.5℃から36℃までを赤色としやや緊張状態と判断、36℃から36.5℃までを緑色とし平静・普通状態と判断、36.5℃から37℃までを青色とし、ノンストレス状態とするような分類をしており、色調によって使用者に現在の体の状態を告知するものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献2に記載のシール装置では、体調を把握できない恐れがある。尿温度はサーカディアンリズムを有しているので、測定する時間によって変化するためである。たとえば、体調がノンストレス状態であるのに測定時間によっては、緊張状態と誤判定していしまう恐れがあり、尿温度を計測した時間を考慮する必要がある。
【0010】
従って本発明の目的は、使用者が任意の時間で排尿した尿温度から健康情報へと展開する生体情報測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために請求項1記載の発明では、被験者が排泄した尿の温度を測定する尿温度測定手段を有した生体情報測定装置において、被験者の体調を判定するために所定の判定基準を作成する判定基準作成手段と、前記尿温度測定手段によって測定される被験者の起床時の尿温度と前記所定の判定基準とを比較して被験者の今後の体調変化を予測する体調変化予測手段と、を有し、前記判定基準作成手段は、前記尿温度測定手段によって所定期間に測定される複数の起床時の尿温度を用いて所定の判定基準を作成することを特徴としている。
【0012】
上記構成により、起床時の尿温度の変化量にて体調を把握することが可能である。尿温度は、体温と密接な相関があるので、体温の代替えとすることが可能である。また、起床した直後の尿温度は、体の余分な活動のない基底となる状態を示しており、毎日安定した健康状態の体調であれば、ほぼ一定値を取ることとなる。起床時の尿温度を連続的に測定し、判定基準と比較することで、今後、体調の変化(良いままか、悪化するか)を予測し、被験者の日々の生活の目安として活用することが可能である。
【0013】
また、請求項2記載の発明においては、前記所定の判定基準は、前記所定期間の複数のの測定値において、μを移動平均、σを標準偏差、aを所定の定数として、数式μ−aσで表される演算値とする生体情報測定装置であることを特徴としている。
【0014】
上記構成により、日々の尿温度の移動平均μと標準偏差σから求められる判定基準を設け、現在の尿温度を測定し、今後の体調を予測している。判定基準の作成は、被験者自身の測定済みの過去の尿温度の測定値であり、それをもって現在の尿温度との比較を行っている。全ての者に一律に決められない、被験者それぞれで基準の異なる体調の判断を、被験者それぞれで適切に実施することが可能である。
【0015】
また、請求項3記載の発明においては、前記尿温度測定手段によって新たに測定された測定値が前記演算値を下回った場合に、被験者の今後の体調が「悪化する」と判定する生体情報測定装置であることを特徴としている。
【0016】
上記構成により、今後、体調の変化を予測することを行うため、この予測を被験者の日々の生活の目安として活用することが可能である。
【0017】
また、請求項4記載の発明においては、前記移動平均μと前記標準偏差σとを求めるための前記複数回の測定値の一部が欠落した場合には、前記判定基準作成手段は欠落した測定値を補間して所定の判定基準を作成することを特徴としている。
【0018】
上記構成により、被験者の日常生活の都合により測定を行なえなかった日が発生したとしても、所定の判定基準を作成できるため、尿温による体調の判定を行なえる。
【0019】
また、請求項5記載の発明においては、被験者の尿温度の連続的な測定値から被験者毎の尿温度の日内変動基準曲線を作成し、起床時以外の時間に取得した尿温度を用いて、前記日内変動基準曲線から起床時尿温を推定算出する起床時尿温推定手段を有し、前記体調判定手段は前記起床時尿温推定手段が推定算出した値を起床時の尿温度として被験者の体調を予測することを特徴としている。
【0020】
上記構成により、起床時の尿温度測定を行なえなかった場合でもその日の別の時刻に測定することによって、1日の尿温度の変動を示した曲線より、欠落した起床時の尿温度データを適切に作成するため、毎日の体調判定を継続的に実施することが可能である。
【0021】
また、請求項6記載の発明においては、被験者が排泄した尿の温度を測定する尿温度測定手段と、前記尿温度測定手段が測定した時刻を記録する測定時刻記録手段とを有した生体情報測定装置において、前記尿温度測定手段によって測定される尿温度の複数回の測定値と夫々の測定時刻とのデータ群から尿温度の排尿時刻による日内変動基準曲線を被験者毎に作成する日内変動基準曲線作成手段と、前記尿温度測定手段によって新たに測定される測定値と前記日内変動基準曲線とを比較して被験者の現在の体調を判断する体調判定手段とを有し、前記体調判定手段は尿温度の測定値の前記判定基準からの乖離度合いによって体調を予測することを特徴としている。
【0022】
上記構成により、一定期間で作成される被験者それぞれに合致した尿温度の基準となる曲線から、今回の尿温度のかい離を算出し、かい離度合いにより体調を使用者に告知している。いったん基準となる曲線が作成されると、被験者は排尿時間を意識することなく排尿の度に、自らの健康状態を把握することが可能である。排尿時の現在の体調をその都度把握することで、それ以降の健康を保つための行動を促すことが可能となる。
【0023】
また、請求項7記載の発明においては、尿中のストレスホルモン量を測定するストレスホルモン測定手段と、ストレスホルモン量の多少によりストレスの有無を判定するストレス判定手段を有し、前記日内変動基準曲線は、前記ストレス判定手段によって尿中のストレス無しと判断された時の尿温度値で作成することを特徴としている。
【0024】
上記構成により、測定した尿温値が体調判断の基準となる日内変動基準曲線の作成に用いるべきか否かを、体調と関連のあるストレスホルモンを補助情報として用いることにより、基準となる曲線の作成を短期間で行うことが可能となる。
【0025】
また、請求項8記載の発明においては、尿温が高温となる高尿温期間と低温となる低尿温期間の2種類の期間のいずれの期間かを判定するを尿温モード判定手段を有し、前記判定基準作成手段は、前記尿温モード判定手段によって判定されたモードに応じた前記判定基準と前記日内変動基準曲線を作成することを特徴としている。
【0026】
上記構成により、被験者が月経周期を有する女性でも判定することが可能である。月経周期を有する女性は、排卵のタイミングに応じて基礎となる体温のレベルが上昇するため尿温度が上昇する高尿温期と、月経後基礎となる体温のレベルが下降するため高尿温期より一定温度低い低尿温期を有している。女性の月経周期にあわせて、判定基準を高尿温期の場合と低尿温期の場合の2モードを有することにより、現在の尿温度がどちらの期間の測定値であるかを判定に加味し、体調の判定を間違えなく行うことが可能である。
【0027】
また、請求項9記載の発明においては、前記尿温モード判定手段は、前記尿温度測定手段によって新たに測定される尿温度とそれ以前に測定された尿温度とから得られる尿温度の変動傾向によっていずれの前記モードかを判定することを特徴としている。
【0028】
上記構成により、測定する尿温度により高尿温期と低尿温期を判別することにより、測定した尿温度だけで簡便に2モードの判定基準を作成し体調の判定を行うことが可能となる。
【0029】
また、請求項10記載の発明においては、さらに、尿中の女性ホルモン量を測定する女性ホルモン測定手段を有し、前記尿温モード判定手段は、前記ホルモン測定手段によって測定された女性ホルモン量によっていづれの前記モードかを判定することを特徴としている。
【0030】
上記構成により、尿温度に加えて、ホルモン量を利用することにより、より精度を高くして2モードの判定基準の作成が可能となる。女性の月経周期は、一般的に低温期が2週間、高温期も2週間と言われている。ただし、それら期間は安定したものではなく、体調により、特に低温期の長短が発生するといわれている。例えば、低温期に風邪を引き発熱した場合には、その発熱による尿温度の上昇を高温期に突入したものなのかを尿温度の変化からは判別することは困難となる。このような場合に、月経周期に関わる女性ホルモンの量を測定することで、高温期と低温期の判定を行い、精度良く2モードの判定の基準を作成し、また、測定した尿温度による体調の判定を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、尿温度を測定することによって、使用者の今後の体調変化を予測、または現在の体調を判定し使用者に告知する生体情報測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を、図面により詳細に説明する。
【0033】
図1は本発明の生体情報測定装置をトイレに設置した斜視図であり、図2は図1に示した生体情報測定装置の便座部の内部構造を示す斜視図である。また、図3は図1に示した生体情報装置の尿サンプリング装置の構造を示す斜視図である。
【0034】
図1において、トイレ14には便器12が設置され、便器12には便座本体20が固定してあり、この便座本体20には本発明の生体情報測定装置22の主要部が収蔵してあると共に、便座24が回動可能に装着されている。また、この便座24には被験者の排泄する尿を採取して尿温度を測定する尿サンプリング装置26が収納可能に組み込んである。また、操作表示部10には、サンプリング装置を動作させる尿温度測定開始スイッチ11等の各種操作スイッチと測定した尿温度他の測定結果を表示する表示部15が設けられている。
【0035】
次に図2から図3を参照しながら、便座24に組込まれた尿サンプリング装置26を説明する。尿サンプリング装置26は、被験者の排泄する尿を採取する採尿容器40を先端に備え便器12のボール内を回動するスイングアーム29と、このスイングアーム29を回動駆動させるためのモータ30とベルト31他からなる駆動制御部を収納するフレーム28を備えている。このフレーム28はビス等により便座24の下面に適宜取付けられる。スイングアーム29はモータ30とベルト31によって、矢印で示したように便器12のボール内を揺動するようになっている。
【0036】
図3に示すように、採尿容器40は浅い船底形を呈し、上面には所定のメッシュの網体44が全面に設けられ、その底部には尿溜まり41が形成されている。尿溜まり41に面して採尿容器40にはサーミスタ42が埋め込んであり、尿溜まり41内の尿の温度を検出するようになっている。また、採尿容器40の下底には、Φ10程度の大きさで開口した流出口51が開いており、採尿容器に入った尿はこの流出口51から便器ボールに流出するようになっている。サーミスタ42で検出した温度信号はスイングアーム29に内蔵された電線43を通じて生体情報測定装置22の信号処理部へと伝達されるようになっている。
【0037】
次に、図4の尿温度を測定するフローチャートを併せて参照しながら、生体情報測定装置22の作動の一態様を説明する。本装置の非使用時には、スイングアーム29はフレーム28内に収納されており、この状態では採尿容器40はフレーム28内に設けられた収納洗浄室50内に配置されている。この状態で被験者が便座に着座し、尿温度測定開始スイッチ11を押すと、制御部はスイングアーム駆動モータ30を回転させ、ベルト31によって採尿容器40を便器12のボール内の所定位置に移動し位置決めする。
【0038】
使用者は便器12のボール内の適切な位置に採尿容器40が進出した時に採尿容器40に向かって放尿する。採尿容器40に命中した尿の多くは採尿容器40の上面を覆うように設置された網体44を通過して尿溜まり41に集積する。尿溜まり41に集積された尿は後から入ってくる尿に押し出されるようにして、一部は、網体44から、もう一部は流出口51より採尿容器40外に排出される。この短時間に採尿容器40内に滞留する尿の温度をサーミスタ42で測定し、その信号は制御部で演算され、その結果が表示部15に表示される。表示部15には、尿温度の値や、表示形態を変えることで、今回の測定結果から一ヶ月前までの尿温度の変化を折れ線グラフ等で表示することが可能となっている。
【0039】
図5は本発明の生体情報測定装置を使用して、被験者として男性10名の任意時間の尿温度を測定した合計191ポイントの測定データのヒストグラムを示したものである。この例では、尿温度の平均36.82℃、標準偏差0.35℃という値となっている。
【0040】
図6は、ある被験者の尿温度の1日の変動(以下、このような一日単位の変動を本発明では「日内変動」と呼ぶ)を示したグラフである。これは、同一被験者が体調が良い時の尿温度を数日間にわたって測定し、1日単位で時間軸を共通にして累積してプロットしたものである。尿温度の測定結果を1日単位で累積すると、この図のように1日内であるリズムを有する近似曲線上にプロットされていくことが確認できる。この例における近似曲線は、測定した尿温度測定データを3次の多項式近似で近似させたもので、この近似曲線は規則的な生活を行なっている場合は個人毎に固有なリズムを示し、本発明においては、尿温度における日内変動基準曲線60としている。この日内変動基準曲線60は、測定データの蓄積数を増やすことによって、使用者の体内リズムをより精度よく表わすことができる。
【0041】
図7は、一人の被験者の起床した直後の尿温度を約4ヶ月間にわたって連続測定してその変動(以下、このように複数の日にわたる変動を「日間変動」と呼ぶ)をグラフ化したものでこのグラフを本発明では日間変動曲線64と呼ぶ。またこの図では、測定時の体調の良し悪しも併せて表示している。。起床した直後の尿温度は、余分な活動のない基準となる身体状態の温度である前述の核心温を反映した被験者個人の体調に応じたの温度リズムを示すこととなる。尚、ここで体調不良と判定したのは、熱っぽい、風邪気味、だるいなどの不快な症状を被験者が感じたタイミングであり、グラフ中の日間変動曲線64に矢印61で示した時である。この時(体調不良時61)の尿温度を調べてみると、いづれの場合も通常の尿温度よりも0.7℃から1.2℃程度高く、体調不良と尿温度の上昇との相関が確認できる。また、この体調不良時61の3日から4日前に、尿温度が通常の尿温度よりも低温になる低尿温状態62が夫々発生していることが分かる。従って、日々変化する尿温度を測定し、この低尿温状態を検出することができれば、それ以降発生する体調の悪化を予測することが可能と考えられる。以下、その方法について説明する。
【0042】
図8は図7の測定グラフの一部を抜粋した拡大図である。図7に示した測定例のように3日から4日前に発生する低尿温状態62は、以下のような処理を行うことで検出することができる。
まず、判定を行なう任意の測定日を含み過去3日間の尿温度測定データを使用してそれらの移動平均:μと標準偏差:σとを求め、μー1.5σとなる値を演算で求めて測定日の判定基準値とする。この判定基準値が本発明における判定基準の一例である。
【0043】
図8の低尿温判定基準曲線65はこの判定基準値をグラフ化したもので、測定日の尿温度がこの判定基準値(μ−1.5σ)を下回るような温度を抽出すると、その後実際に体調の悪化が確認された前記の低尿温状態62だけでなく、体調の悪化が確認されなかった場合(低尿温状態66)も含まれることがわかる。即ち、判定基準値(判定基準曲線65)を下回る低尿温状態を検出したとしても、将来的に必ず体調の悪化が起きるわけではない。
【0044】
しかしながら、体温が低温になると免疫力が低下することが知られており、免疫力が低下した期間は、そうでない通常の期間よりもウィルスや細菌といった病原体の影響を受けやすくなるといわれている。従って、本実施例では低尿温状態62だけでなく低尿温状態66も含めて尿温が判定基準より低くなった場合は、尿温と密接な関係がある被験者の体温(核心温)が低下していると推定して体調が悪化する可能性があると判定し、表示部15に「体調悪化予測」といった旨の内容を表示することで使用者に告知するようにしている。この生体情報測定装置の表示部15の情報により体調の悪化を起こす可能性を知った被験者は、体調の悪化を起こさないような予防策を先だって具体的に立てることが可能となる。尚、この場合、表示部15に具体的な予防対策として、人ごみへと出歩かない、体が冷えないように余分に着衣を着る、マスクを付ける、早めに就寝するといったことをアドバイス情報として表示するようにしても良い。
【0045】
尚、本実施例では、移動平均値を求める日数を3日間、判定基準で処理する係数を1.5としたが、別の被験者では夫々4日、2.0といったように、観測期間の尿温度の動向によって各被験者毎に適切な値を選定しても良い。
【0046】
なお、起床時に尿温度の測定ができず、データが欠落した場合には、図6で示した尿温度の日内変動基準曲線60を用い補間することができる。たとえば、毎朝7時に起床して尿温度を測定している被験者が、たまたま起床時の測定ができなかった場合には、昼の11時に測定した尿温度を基準日内変動曲線60と照らし合わせて7時の温度を求めればよい。即ち、この場合の7時から11時までの基準日内変動曲線60の変化量が0.3℃上昇であり、11時の尿温度の測定値が36.8℃であれば、測定できなかった7時の尿温度は基準日内変動曲線60の変化量0.3℃を差し引いて36.5℃とする。
【0047】
図9は図6に示した尿温度による1日の変動を示したグラフに、体調が悪化したと感じた時の測定値を測定時刻を合わせて付加したグラフである。同一測定時刻にて体調が悪化した時の尿温度と日内変動基準曲線60での尿温度との比較を行うことで、体調が悪化した時の基準となる尿温度からのズレである変位温度63を得ることができる。 このグラフ自体を表示部15に表示することによって使用者は自分の健康状態が普段の基準尿温カーブから逸脱していることを確認することもできるが、さらに本実施例では変位温度63によって、例えば、0.5℃以上1.0℃未満であれば、「体調悪化レベル小」、1.0℃以上1.5℃未満であれば「体調悪化レベル中」、1.5℃以上であれば「体調悪化レベル大」といった旨の予想される体調悪化の程度を、表示部15を通じて使用者に告知している。
【0048】
なお、本実施例では体調悪化のレベルを変位温度を0.5℃から0.5℃ステップで区切っているが、日内変動基準曲線60の変動は、使用者それぞれで異なるものであるため、変位温度の値やステップは使用者それぞれで異なる場合もあり、適切に設定出来るような構成としている。
【0049】
これにより、使用者は排尿という簡単な動作で、そのときの体調を明確に把握することが可能である。腋下体温計での体温測定は、測定時間に10分もの時間を要し、面倒であるので、本当に体調が悪化してからでないと測定しないことが多いが、本発明の生体情報測定装置を用いることで、排尿毎に体調を把握することが可能である。これにより、使用者は現在の体調の状態を本当に悪化する前から徐々に把握でき、これ以上体調が悪化しないよう対策を講じることが可能である。
【0050】
次に、被験者が女性の場合の尿温度変化の特徴について以下に説明する。
図10に女性の尿温度の日間変動測定結果に、尿中に分泌されるホルモンの模式的な日間変動を併せて示したグラフである。また図11は、女性の尿温度の日内変動が2パターンになる概念を模した図である。今回の調査ではこれらの図が示すように、月経周期を持つ女性では、月経から排卵前までの低尿温期と、排卵後から月経までの高尿温期を有しており、両者の温度差が0.7℃程度あることをを確認している。これは、異なる期間への遷移時には、3日程度の期間をかけて、基礎となる体温である前述した核心温自体が遷移するため、尿温度にその影響が反映されるためと推定される。そして、この期間の核心温遷移は、健常な女性に自然に発生するのもであるため、図6や図9で説明した尿温度の基準日内変動曲線60や判定基準値65の作成に際しては、被験者が女性の場合はその影響を除外するため、この両期間に対応して夫々2種類設ける必要があることが判明した。
【0051】
従って本実施例では、使用者が女性で、自分がいま低尿温期か高尿温期かどちらであるかを把握して本装置を使用する例として、どちらの期間かの情報を予め本装置に入力し、低温期であれば低温期の判定基準や日内変動基準曲線601を選択し、高温期であれば高温期の判定基準や日内変動基準曲線602を選択し、適宜切り替えることで、尿温度による体調判定を、低温期と高温期の影響を除去し判定することが可能としている。
【0052】
さらに本実施例の変形例として、分泌ホルモン量に関する情報を用いることで、判定基準や基準日内変動曲線の切り替えを精度よく実施することを可能とすることも出来る。以下に、それを説明する。
【0053】
一般に月経周期に関わるホルモンとして、子宮内膜増殖や頚管粘液の分泌を司るエストロゲンや、排卵の引き金になるLHとったホルモンが分泌されることが知られている。従って、これらのホルモン分泌量を測定してその変化を監視することによって前述した高尿温期と低尿温期との判別を精度よく行うことが考えられる。
例えばLHを利用する場合は、LHホルモンが一定量以上分泌された場合は24時間以内に排卵が発生することが一般に知られている。
したがってLHホルモンが一定量以上分泌されて測定結果が陽性反応になるまでを低尿温期とし、それから3日間程度の期間経過後から月経が発生するまでの期間を高尿温期と明確に判定することができる。
【0054】
ここで対象とするホルモンの測定は、図10に示したように起床時尿温との関係から遷移期を判断できる変化が判る精度が得られれば良いため、特に限定されるものではないが、本実施例では採尿容器26に溜まった尿を計測部(図示せず)に取り込み、ホルモンに対して特異的に結合する抗体をこの尿に加え、ホルモンと抗体との複合体を形成させ、このホルモンと結合した抗体の量を電気的に測定することでホルモンの量を求めるように構成されている。この測定されたホルモン量と予め求められたホルモン量と尿温周期(高尿温期または低尿温期)との関係からどちらの尿温期かを判断して、その尿温期に対応する判定基準や基準日内変動曲線を選択するように構成している。
【0055】
また、図6や図9で示した日内変動基準曲線60は、体調の良い状態を前提とした時の尿温度のデータを使用して作成するものである。被験者それぞれの生活状態や健康状態に対応をした基準日内変動曲線を作成するためには、標準的な期間として例えば1ヶ月程度のデータの取得(サンプリング)を行い、統計的に発生する頻度の高いポイントをつなぐことが必要となる。被験者が健常者の場合、体調の良い期間が体調の悪い期間に比べて圧倒的に多いためこの程度のサンプリング期間で基準日内変動曲線の精度は十分に確保できるが、作成の期間に風邪などにより体調が悪化する期間が多かった被験者や持病をもった被験者等の場合には、十分な精度を確保することができない場合があり、その場合はより長期的な期間(3ヶ月程度以上)のデータを用い、十分な精度の基準日内変動曲線を得る必要がある。このように、基準日内変動曲線の作成が完了するまでは、生体情報測定装置を用いた体調の判定が行えないことになるが、ストレスホルモンを活用することで、基準日内変動曲線の作成期間を短くすることが可能である。
【0056】
尿温度を測定する際に、ストレスホルモンン測定手段によりストレスホルモンを測定し、ストレスホルモン量と既定値を比較することによって、被験者のそのときの体調の良し悪し判断する補助手段とする。ストレスホルモン量が既定値以下であれば、体調が良いと暫定判断し、基準日内変動曲線を作成するためのデータとして採用し、反対に、ストレスホルモン量が既定値以上であれば、体調が悪いと暫定判断し、採用しないといった処理を行う。このようにすることにより、十分な精度の基準日内変動曲線は短期間(2週間程度)で得ることが可能である。ストレスホルモンの特徴として、ストレスがある、つまり体調が良くないときには尿中の量が増えることが一般的には知られており、ストレスホルモンの一つであるアドレナリンでは2倍程度まで増えるとされている。
【0057】
なお、本発明の要旨は被験者が排泄した尿の温度を測定する尿温度測定手段を有した生体情報測定装置において、尿温度を測定して被験者の体調を判断あるいは予測することにあるため、尿温度測定手段の構成に依存するものではない。
即ち、本実施例では、尿の温度を測定する感温部としてサーミスタを用いたが、白金抵抗体でも熱電対でも実現可能である。また、採尿容器に尿を溜めなくとも放尿される尿を直接感温部に接触させることで尿温度を測定してもよい。さらに、感温部に直接尿を接触させなくとも、サーモパイルなどの熱線を検知する非接触タイプ方式でも問題ない。また、生体情報測定装置は、本実施例のように便座に組み込むタイプもあれば、それ自体がハンディタイプになっており、モータなどの駆動部を使う代わりに使用者が手動で直接尿をためる構造であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の生体情報測定装置をトイレに組み込んだ斜視図
【図2】本発明の生体情報測定装置を便座部に組み込んだ斜視図
【図3】本発明の生体体情報装置の尿サンプリング装置の斜視図
【図4】本発明の生体体情報装置における尿温度を測定するフローチャート
【図5】本発明の生体情報測定装置で測定した尿温度のヒストグラム
【図6】本発明の生体情報測定装置で測定した尿温度による1日の変動を示したグラフ
【図7】本発明の生体情報測定装置で測定した起床した直後の尿温度を連続測定したグラフ
【図8】図7を拡大したグラフ
【図9】図6に体調が悪化したデータを付加した尿温度による1日の変動(日内変動)を示したグラフ
【図10】女性の月経周期における尿温度、分泌ホルモンの日間変動を示したグラフ
【図11】女性被験者の尿温度の日内変動基準曲線が2パターンになる概念を示したグラフ
【符号の説明】
【0059】
10 操作表示部
11 尿温度測定開始スイッチ
12 便器
14 トイレ
15 表示部
20 便座本体
24 便座
26 尿サンプリング装置
28 フレーム
29 スイングアーム
30 モータ
31 ベルト
40 採尿容器
41 尿溜まり
42 サーミスタ
43 電線
44 網体
50 収納洗浄室
51 流出口
60 日内変動基準曲線
61 体調不良時
62 低尿温状態(体調悪化有)
63 変位温度
64 日間変動曲線
65 低尿温判定基準曲線
66 低尿温状態(体調悪化無し)
601 低温時の日内変動基準曲線
602 高温時の日内変動基準曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者が排泄した尿の温度を測定する尿温度測定手段を有した生体情報測定装置において、被験者の体調を判定するために所定の判定基準を作成する判定基準作成手段と、前記尿温度測定手段によって測定される被験者の起床時の尿温度と前記所定の判定基準とを比較して被験者の今後の体調変化を予測する体調変化予測手段と、を有し、前記判定基準作成手段は、前記尿温度測定手段によって所定期間に測定される複数の起床時の尿温度を用いて所定の判定基準を作成することを特徴とする生体情報測定装置。
【請求項2】
前記所定の判定基準は、前記所定期間の複数のの測定値において、μを移動平均、σを標準偏差、aを所定の定数として、数式μ−aσで表される演算値であることを特徴とする請求項1記載の生体情報測定装置。
【請求項3】
前記体調変化予測手段は、前記尿温度測定手段によって新たに測定された測定値が前記演算値を下回った場合に、被験者の今後の体調が「悪化する」と判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の生体情報測定装置。
【請求項4】
前記移動平均μと前記標準偏差σとを求めるための前記複数回の測定値の一部が欠落した場合には、前記判定基準作成手段は欠落した測定値を補間して所定の判定基準を作成することを特徴とする請求項1乃至3のいづれか1項に記載の生体情報測定装置。
【請求項5】
さらに、被験者の尿温度の連続的な測定値から被験者毎の尿温度の日内変動基準曲線を作成し、起床時以外の時間に取得した尿温度を用いて、前記日内変動基準曲線から起床時尿温を推定算出する起床時尿温推定手段を有し、前記体調判定手段は前記起床時尿温推定手段が推定算出した値を起床時の尿温度として被験者の体調を予測することを特徴とする請求項1乃至4のいづれか1項にに記載の生体情報測定装置。
【請求項6】
被験者が排泄した尿の温度を測定する尿温度測定手段と、前記尿温度測定手段が測定した時刻を記録する測定時刻記録手段とを有した生体情報測定装置において、前記尿温度測定手段によって測定される尿温度の複数回の測定値と夫々の測定時刻とのデータ群から尿温度の排尿時刻による日内変動基準曲線を被験者毎に作成する日内変動基準曲線作成手段と、前記尿温度測定手段によって新たに測定される測定値と前記日内変動基準曲線とを比較して被験者の現在の体調を判断する体調判定手段とを有し、前記体調判定手段は尿温度の測定値の前記判定基準からの乖離度合いによって体調を予測することを特徴とする生体情報測定装置。
【請求項7】
尿中のストレスホルモン量を測定するストレスホルモン測定手段と、ストレスホルモン量の多少によりストレスの有無を判定するストレス判定手段を有し、前記日内変動基準曲線は、前記ストレス判定手段によって尿中のストレス無しと判断された時の尿温度値で作成することを特徴とする請求項6記載の生体情報測定装置。
【請求項8】
尿温が高温となる高尿温期間と低温となる低尿温期間の2種類の期間のいずれの期間かを判定するを尿温モード判定手段を有し、前記判定基準作成手段は、前記尿温モード判定手段によって判定されたモードに応じた前記判定基準と前記日内変動基準曲線とを作成することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいづれかの1項に記載の生体情報測定装置。
【請求項9】
前記尿温モード判定手段は、前記尿温度測定手段によって新たに測定される尿温度とそれ以前に測定された尿温度とから得られる尿温度の変動傾向によっていずれの前記モードかを判定することを特徴とする請求項8記載の生体情報情報測定装置。
【請求項10】
さらに、尿中の女性ホルモン量を測定する女性ホルモン測定手段を有し、前記尿温モード判定手段は、前記ホルモン測定手段によって測定された女性ホルモン量によっていづれの前記モードかを判定することを特徴とする請求項8記載の生体情報測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−73314(P2008−73314A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257294(P2006−257294)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】