説明

生体指標管理装置

【課題】健康状態の適切な評価に有益な生体指標を効率的に測定可能とするための技術を提供する。また、生体指標の測定負担の軽減を図るための技術を提供する。また、健康状態の変化や疾病の予兆をいち早く検知するための技術を提供する。
【解決手段】複数項目の生体指標について測定値を蓄積し、各生体指標の変動パターンや生体指標間の相関を求める。そして、ある生体指標に関して変動パターンから外れた値が測定された場合に、他の生体指標との相関に基づき、健康状態の評価に必要な生体指標の種類、その測定タイミング、測定回数などを決定する。この情報をユーザに提示(測定ガイド)することにより測定を促したり、あるいは、この情報に従って計測装置が自動で測定を実行するとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康な人または疾病予備軍に該当する人を主な対象とした、個人的かつ能動的な自己健康管理を支援するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、健康への関心が高まりをみせており、血圧や体重、摂取カロリーなどを日頃から管理したり、ジョギングやウォーキングなどの運動を積極的に行う人が増えはじめている。従来より、個人向け・家庭向けの健康関連機器としては血圧計、血糖計、体重計、体組成計、体温計などのさまざまな種類の計測装置が普及し、また運動を支援するための機器としては歩数計や活動量計などが提供されており、これらは健康管理ツールの一つとして活用されている。しかしながら、これらの機器で得ることができる情報は、あくまでも単なる数値(しかも測定した時点のスポット的な数値)でしかなく、その数値をどのように健康管理に生かすかはユーザ次第であるのが現状であった。
【0003】
上記のような実情に鑑み、本発明者らは、個人や家庭における健康管理のあるべき姿とそのために必要な要素技術について鋭意検討を重ねてきた。
【0004】
従来のシステムは、疾病管理や診断のために必要な数値情報(血圧値、血糖値など)を与えることを目的とするものが殆どであった。しかしながら、個人や家庭における健康管理の対象となるユーザには、疾病をもつ人だけでなく、健康な人や疾病予備軍(発症してはいないが身体のどこかに兆候が現れ得る状態)の人も多く含まれる。健康な人や疾病予備軍の人の場合は、計測装置で得られる測定値は正常範囲にあるため、そのような値だけでは自分の健康状態(疾病リスク度)を把握することはできない。また、どのような疾病を発症する虞があるかわからない段階では、ユーザは具体的に何の数値をどのように注意し管理すべきかを明確に特定することができない。つまり、各種の計測装置を利用すれば、家庭でも血圧値、血糖値、体重、体組成、体温など、さまざまな生体指標を計測できるものの、殆どのユーザは個別の測定値をどのように健康管理に役立てればよいかわからないのである。将来的には、さまざまな種類の計測装置が普及し、家庭で多種類の生体指標を日常的に計測する環境が実現するものと期待されるが、計測等により得られる生データの数が膨大になり情報過多になるほど、一般のユーザはそこから有意な情報、つまり自己の健康管理に有益な情報を得ることが難しくなるものと懸念される。
【0005】
健康な人や疾病予備軍の人が知りたい情報は、ある一時点における個別の測定値ではなく、たとえば、自分は人と比べて健康なのかどうなのか、健康であるとしてもどの程度健康なのか、あるいは健康でないとしたらどれくらい深刻なのか、といった総合的な評価であったり、さらには、その評価を維持するには又はその評価を改善するにはどのようなアクションを採るべきなのか、といった具体的な指針であると考えられる。
【0006】
また、個人や家庭における健康管理を支援するために欠くことのできない観点として「継続性」が挙げられる。健康な状態を保つため、あるいは、疾病の発症リスクを下げるためには、日常的に生体指標を計測し評価したり、定期的な運動を心がけたりといった習慣が最も効果的であるし、また長期の測定値が蓄積されるほど有益な情報を提供できるからである。このような継続性を実現するには、ユーザのモチベーションを向上し維持する仕掛けが必要であり、さらにその仕掛けを実現するには、納得性及び信頼性のある情報をいかに分かり易い形でユーザに提供できるかが一つの鍵になるものと思われる。なお別の見方をすれば、個人用・家庭用の計測装置は、一回だけのスポット的な計測というよりも、ユーザ本人が気軽に定期的・日常的に生体指標を計測し蓄積できるところにこそ存在意義
がある。したがって、継続という点に実現性及び付加価値がなければ、個人や家庭における健康管理は成立しないともいえる。
【0007】
健康状態をより正確に評価するためには、当然のことながら、様々な種類の生体指標をできるだけ多く測定することが望ましい。とはいえ、日常生活の中で生体指標の値を常にモニタすることは困難であるし、また30分に1回など高頻度の測定をユーザに強いることは現実的でない。しかしながら、ユーザが自発的に計測した測定値だけでは、評価結果の信頼性が低下してしまったり、健康状態の変化や疾病の予兆を適時に検知できなかったりする可能性がある。
【0008】
なお、特許文献1には、睡眠深度をトリガとして血圧測定を行うことで、睡眠中の血圧値を自動で測定する装置が提案されている。また特許文献1には、夜間に測定する血圧が心血管のリスクを管理する上で重要な指標となるという知見が開示されている。また特許文献2には、無呼吸頻度指標と血圧値の変化が相関を有しているという知見が開示されている。
【特許文献1】特開2007−229238号公報
【特許文献2】特開2008−5964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図11は、本発明者らが想定する健康管理システムのコンセプトモデルを示している。同システムは、大きく分けて、「CHECK」、「PLAN」、「ACTION」の3つのカテゴリの機能を備え、生体から情報を収集し(CHECK)、その情報に基づき健康を維持・改善するための計画を立て(PLAN)、その計画の実施を支援する(ACTION)というサイクル(以下、CPAサイクルという)を総合的にサポートするものである。このようなCPAサイクルの提供により、個人や家庭における能動的な自己健康管理の継続実施が実現されるものと期待できる。
【0010】
本出願に係る発明は、上記コンセプトモデルの中のCHECK機能に関わる要素技術を提供することを目的とするものである。具体的には、本発明の目的の一つは、健康状態の適切な評価に有益な生体指標を効率的に測定可能とするための技術を提供することにある。また本発明の目的の一つは、生体指標の測定負担の軽減を図るための技術を提供することにある。また本発明の目的の一つは、健康状態の変化や疾病の予兆をいち早く検知するための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らの採用する解決手段は概略次のようなものである。すなわち、複数項目の生体指標について測定値を蓄積し、各生体指標の変動パターンや生体指標間の相関を求める。そして、ある生体指標に関して変動パターンから外れた値が測定された場合に、他の生体指標との相関に基づき、健康状態の評価に必要な生体指標の種類、その測定タイミング、測定回数などを決定する。この情報をユーザに提示(測定ガイド)することにより測定を促したり、あるいは、この情報に従って計測装置が自動で測定を実行するとよい。
【0012】
生体指標の値が通常と異なるということは、身体になんらかの異常が発生している可能性がある。また一つの生体指標にそのような兆候が現れたときには、他の生体指標にも異常が現れる可能性がある。そこで、ある生体指標に異常が現れたことをトリガとして必要な生体指標の測定を行うことで、健康状態や疾病リスクの評価に必要な情報を効率良く収集することが可能となる。これにより、生体指標を常にモニタするのに比べて、測定回数を大幅に減らすことができ、ユーザの測定負担は小さくなる。しかも、健康状態の変化や疾病の予兆をいち早く検知することが可能となる。
【0013】
ここで「生体指標」とは、身体の生理的な状態を示す尺度、およびその数値である。例えば血圧値(最高血圧値、最低血圧値)、血糖値(空腹時血糖値、随時血糖値)、体重、体脂肪率、血清総コレステロール等が生体指標に該当する。
【0014】
具体的には、本発明に係る生体指標管理装置は、以下の構成を採用する。
【0015】
本発明に係る生体指標管理装置は、複数の計測装置のそれぞれで測定された複数項目の生体指標の測定値を記憶する記憶手段と、前記複数項目の生体指標のそれぞれについて、前記記憶手段に記憶された測定値から生体指標の変動パターンを作成する変動パターン作成手段と、変動パターン同士を比較することにより、相関のある生体指標の組み合わせを求める相関解析手段と、前記複数項目の生体指標のうちの第1の生体指標について新たな測定値が得られた場合に、前記新たな測定値と前記第1の生体指標の変動パターンとを比較することにより、前記新たな測定値が異常値か否かを判定する異常判定手段と、前記新たな測定値が異常値と判定された場合に、前記第1の生体指標と相関のある第2の生体指標を要測定項目として決定する要測定項目決定手段と、前記要測定項目に関する情報を出力する出力手段と、を備える。
【0016】
ここで、前記相関解析手段は、2つの変動パターンを時間方向にずらしながら相関係数を算出し、閾値を超える相関係数が存在する場合に当該2つの生体指標のあいだに相関があると判断するとともに、閾値を超える相関係数が得られた時間ずれ量を当該2つの生体指標のあいだの相関情報として前記記憶手段に登録することが好ましい。
【0017】
前記要測定項目決定手段は、前記相関情報の時間ずれ量に基づいて前記要測定項目を測定するタイミングを決定し、前記出力手段は、前記要測定項目に関する情報として、前記タイミングも出力することが好ましい。さらに、前記要測定項目決定手段は、前記要測定項目を測定する回数を決定し、前記出力手段は、前記要測定項目に関する情報として、前記回数も出力することが好ましい。
【0018】
前記異常判定手段は、前記新たな測定値と、前記第1の生体指標の変動パターンにおける前記新たな測定値が測定された時刻に対応する値と、を比較することが好ましい。
【0019】
前記変動パターン作成手段は、前記記憶手段に蓄積された測定値の量が所定量に満たない場合に、前記記憶手段に予め用意されている初期値を利用して前記変動パターンを作成することが好ましい。
【0020】
前記変動パターン作成手段は、前記記憶手段に測定値が蓄積されるにしたがって前記変動パターンを更新することが好ましい。
【0021】
本発明は、上記手段の少なくとも一部を有する生体指標管理装置として捉えてもよいし、その生体指標管理装置と1以上の計測装置とを備えるシステムとして捉えてもよい。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む生体指標管理方法、または、かかる方法をコンピュータに実行させるためのプログラムやそのプログラムを記録した記録媒体として捉えることもできる。なお、上記手段および処理の各々は可能な限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、健康状態の適切な評価に有益な生体指標を効率的に測定可能とするための技術を提供することができる。また本発明は、生体指標の測定負担の軽減を図るための技術を提供することができる。また本発明は、健康状態の変化や疾病の予兆をいち早く
検知するための技術を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。
【0024】
(健康管理システムの全体像)
図1は、本発明に関わる健康管理システムの全体的な構成を示している。この健康管理システムは、前述したCPAサイクルをサポートするためのシステムである。「CHECK」に関わる機能として、日々の健康状態を測定するための「生体指標測定機能」と、測定で得られた情報から将来のリスクを推定するための「リスク推定機能」を備える。また、「PLAN」に関わる機能として、CHECKで得られた結果に基づきリスクの要因となる生活習慣等の因子を抽出するための「リスク因子抽出機能」と、改善目標の設定や改善計画の提案を行うための「改善計画支援機能」を備える。また、「ACTION」に関わる機能として、PLANで得られた改善目標・計画に従って生活改善活動(運動)の実施を支援するための「改善効果確認機能」と、必要に応じて計画・目標を修正するための「改善計画修正機能」を備える。これらのCHECK、PLAN、ACTIONの各機能が有機的に結びつき、そのサイクルを繰り返すことで、複数の生体指標に基づく総合的な健康状態の判断、将来的な健康リスクの評価、及び当該リスクと日常生活における活動との関係を可視化することができ、個人や家庭における能動的な自己健康管理の継続実施を支援することができるものと期待できる。
【0025】
以下に述べる総合健康状態判断システムは、上記健康管理システムの構成のうちのCHECK機能(より詳しくは生体指標測定機能)を担う要素技術として位置付けられるものである。
【0026】
(総合健康状態判断システム)
図2は、本発明の実施形態に係る総合健康状態判断システム(以下、単に「システム」ともいう。)の一構成例を示す図である。
【0027】
このシステムは、総合健康状態判断装置(生体指標管理装置)1と、1以上の計測装置2〜5とから構成される。計測装置としては、人の身体から生体指標(生体情報ともいう)を測定するための装置や、人の活動や生活習慣などの生活指標を測定するための装置などを用いることができる。生体指標の計測装置としては、たとえば、体重、体組成(体脂肪、筋肉など)、BMIなどを測定可能な体重体組成計、血糖値を測定する血糖計、血圧及び脈拍数を測定する血圧計、体温を測定する体温計、心拍数を測定する心拍計などがある。また生活指標の計測装置としては、たとえば、身体活動量や運動強度を測定する活動量計、歩数を測定する歩数計、睡眠の状態を測定する睡眠センサ、食事のカロリー計算を行うカロリー計などがある。図2に示す本実施形態のシステムでは、体重体組成計(2)、血糖計(3)、血圧計(4)、及び活動量計(5)が用いられている。
【0028】
総合健康状態判断装置1と各計測装置2〜5とは、有線または無線によりデータ通信可能である。各計測装置で得られた測定値は、総合健康状態判断装置に送られ集約される。なお総合健康状態判断装置と計測装置とが常に接続されている場合には、測定が行われるたび若しくは予め決められたタイミングで、計測装置から総合健康状態判断装置へのデータ送信が行われるとよい。これにより両装置間のデータの同期が図られる。一方、総合健康状態判断装置と計測装置とが常時接続でない場合には、計測装置または総合健康状態判断装置が接続の有無を監視し、接続を検知したときに自動的にデータの同期をとるとよい。もちろん、ユーザ自身の操作により、測定値を健康状態判断装置に転送してもよい。
【0029】
(総合健康状態判断装置のハードウエア構成)
図3は、総合健康状態判断装置1のハードウエア構成を模式的に示すブロック図である。
【0030】
図3に示すように、総合健康状態判断装置1は、CPU(中央演算処理装置)101、ボタン102及びユーザI/F(インターフェイス)制御部103、通信コネクタ104及び機器通信制御部105、RTC(リアルタイムクロック)106及びRTC制御部107、パネル108及び表示制御部109、音源装置110及び音制御部111、ROM(リードオンリーメモリ)112・RAM(ランダムアクセスメモリ)113及び記憶媒体制御部114、電源115及び電源制御部116を備えている。この装置は、専用の機器として構成することもできるし、パーソナルコンピュータなどの汎用機器に必要なハードウエア(例えば計測機器との通信コネクタ)及び必要なプログラムを実装することで構成してもよい。
【0031】
ボタン102は、総合健康状態判断装置1に情報や指示を入力するための入力手段である。ボタン102の操作により入力された情報や指示はユーザI/F制御部103を介してCPU101に通知される。
【0032】
通信コネクタ104及び機器通信制御部105は、各種計測装置2〜5との間のデータ通信を実現するための通信手段である。通信方式としては、USB、IEEE1394などの有線通信でもよいし、Bluetooth、ZigBee、IrDA、無線LANなどの無線通信でもよい。
【0033】
RTC106及びRTC制御部107は、計時機能を提供する部分である。
【0034】
パネル108及び表示制御部109は、後述する各種の指標、その変動パターン、相関、測定ガイドなどを表示するための表示手段である。パネル108としては、たとえば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどを好適に用いることができる。
【0035】
音源装置110及び音制御部111は、アラートや音声ガイドなどを出力する出力手段である。
【0036】
ROM112は、総合健康状態判断装置1としての機能を提供するプログラム、各種設定値、各計測装置2〜5から取得した測定値、入力手段から入力された情報、後述する各種の指標などが格納される記憶媒体である。EEPROM(Erasable Programmable ROM
)のように書き換え可能なメモリで構成される。RAM113は、プログラム実行時のワークメモリとして利用される記憶媒体である。ROM112及びRAM113へのアクセスは記憶媒体制御部114によって制御される。なお、EEPROMに加えて、あるいはEEPROMの代わりに、ハードディスクなどの記憶媒体を設けてもよい。
【0037】
電源115及び電源制御部116は、総合健康状態判断装置1に電力を供給する機能である。電源115としては電池でもよいしAC電源でもよい。
【0038】
(総合健康状態判断装置の機能構成)
図4は、総合健康状態判断装置1の機能(特に、生体指標管理装置としての機能)を模式的に示す機能構成図である。
【0039】
図4に示すように、総合健康状態判断装置1は、その機能として、生体指標収集部10、ユーザ情報DB(データベース)11、変動パターン作成部12、相関解析部13、異常判定部14、要測定項目決定部15、測定ガイド出力部16を備える。これらの機能は、CPU101がROM112に格納されたプログラムを読み込み実行することにより実
現されるものである。なおユーザ情報DB11はROM112内に構築される。
【0040】
(測定値の蓄積)
生体指標収集部10は、通信コネクタ104を介して、各種の計測装置から測定値を取得する機能である。取得した測定値は記憶手段であるユーザ情報DB11に蓄積される。このとき、測定値の測定日時又は取得日時を表すタイムスタンプとともに測定値が記録される。
【0041】
(変動パターンの作成)
変動パターン作成部(変動パターン作成手段)12は、ユーザ情報DB11に蓄積された測定値に基づいて、各生体指標の変動パターンを作成する機能である。変動パターンとは、生体指標の値が所定周期(例えば一日、一週間など)の中でどのように変動するかを表すデータである。例えば、変動パターン作成部12は、ある一定期間(数日、一週間、一ヶ月など)に蓄積された測定値から、最小二乗法などの回帰分析により、変動パターンを求めることができる。図5は、BMI、最高血圧値、空腹時血糖値それぞれの一ヶ月分の測定値から求めた日内変動パターンの一例を示している。求めた変動パターンはユーザ情報DB11に登録される。
【0042】
なお、装置の使用初期にはユーザ個人の測定値が十分に蓄積されておらず、変動パターンを作成するのに必要な量の測定値が存在しないことがある。そのような場合には、装置の出荷時よりROM112に予め用意されている初期値(好適には、ユーザと同性別・同世代の平均値)を利用して、仮の変動パターンを作成してもよい。そして、測定値が蓄積されるにしたがって変動パターンを更新することで、総合健康状態判断装置1がユーザ個人のパターンを学習していくことができる。測定値が多くなるほど、ユーザ個人のバイタルデータを反映した正確な変動パターンとなる。なお、変動パターンの作成に用いる測定値を収集するにあたり、医学的に推奨される測定時間帯や測定回数などをユーザにガイドすることも好ましい。
【0043】
(相関の解析)
相関解析部(相関解析手段)13は、変動パターン同士を比較することにより、相関のある生体指標の組み合わせを求める機能である。
【0044】
ある生体指標の値が変化した場合に、その影響が他の生体指標に現れることがある。例えば、血圧値が変化したときに空腹時血糖値も変化したり、血中酸素飽和度が変化したときに血圧値が変化したりすることが知られている。ただし、生体指標の変動傾向は人によって異なるため、影響の出方、影響の強さ、影響の現れるタイミング(タイムラグ)などは人によってばらつきがでる。また、相関のある生体指標の種類が人によって異なる可能性も否定できない。
【0045】
そこで相関解析部13は、生体指標のすべての組み合わせについて変動パターンの相関解析を行い、各組み合わせについて相関性の有無を判断する。
【0046】
図6および図7を参照して、相互相関係数を利用した相関解析の一例を説明する。図6は相関解析処理の流れを示すフローチャートであり、図7は相互相関係数を説明するための図である。相互相関係数とは、2つの時系列データを時間方向にずらしながら相関係数を算出する手法である。
【0047】
相関解析部13は、まず注目する2つの生体指標x、yの組み合わせを選択する(ステップS10)。次に、相関解析部13は、生体指標x、yそれぞれの変動パターンを正規化する(ステップS11)。図7の左側は、正規化された変動パターンを示している。こ
の例では、生体指標x、yはともに1つのピークを有しており、ピークの現れる時刻tがΔtaだけずれている。
【0048】
次に、相関解析部13は、時間ずれ量Δtを変えながら、各Δtについて生体指標x、y間の相互相関係数AC(Δt)を算出する(ステップS12)。なお相互相関係数AC(Δt)は、生体指標xのN個の値をxi、Δtだけずれた生体指標yのN個の値をyjとした場合に、下記式で与えられる。
AC(Δt)=(1/N)・Σ(xi・yj)
【0049】
図7の右側は、相互相関係数AC(Δt)をプロットしたグラフを示している。変動パターンのピーク間の時間ずれΔtaに対応する位置にACのピークが現れていることがわかる。これは、生体指標xの変化がΔtaだけ遅れて生体指標yに影響を与えることを意味している。
【0050】
次に、相関解析部13は、相互相関係数ACの値が所定の閾値を超えるΔtが存在するか否かを調べる(ステップS13)。閾値を超えるΔtが少なくとも1つ存在する場合は(YES)、生体指標x、yのあいだに相関があると判断し、その旨および時間ずれ量の値(図7の例ではΔta)を相関情報としてユーザ情報DB11に記録する。閾値を超えるΔtが存在しない場合は(NO)、生体指標x、yの相関なしと判断し、その旨を相関情報としてユーザ情報DB11に記録する。
【0051】
ステップS10〜S15の処理を生体指標のすべての組み合わせについて行い(ステップS16)、各組み合わせについて相関の有無を判定する。
【0052】
なおここでは相関解析に相互相関係数を利用したが、他の手法を利用してもよい。たとえば時間遅れを考慮する必要がない場合には相関係数を利用することができる。
【0053】
以上述べた処理によって、各生体指標の変動パターンおよび相関情報がユーザ情報DB11に準備されると、異常検知に基づく測定ガイド機能が利用可能になる。以下、図8のフローチャートを参照して、異常検知に基づく測定ガイド機能について説明する。
【0054】
(異常の検知)
異常判定部(異常判定手段)14は、生体指標収集部10を介して取得される生体指標の測定値を監視し、異常を検知する機能である。具体的には、計測装置から新たな測定値が入力されると(ステップS20)、異常判定部14は、当該生体指標の変動パターンをユーザ情報DB11から読み込み、測定値と変動パターンにおける同時刻の値との差を求める(ステップS21)。そして、図9に示すように、測定値x1と変動パターンの値x0の差の絶対値と所定の許容値とを比較し(ステップS22)、差の絶対値が許容値を超えている場合に「異常」(ステップS23)、それ以外の場合に「正常」(ステップS24)と判定する。
【0055】
本実施形態では、図9のように、許容値を一定の値に設定し、「変動パターンの値±許容値」の範囲が正常と判定されるようにしている。許容値の値は、計測装置の測定ばらつきや臨床データなどを考慮して適宜設定すればよい。例えば、血圧計の測定ばらつきが±3mmHg、健常者の平均最高血圧値と高血圧症に該当する最高血圧値との差が15mmHg程度であれば、許容値は3mmHg〜15mmHgの間の10mmHg程度に設定するとよい。これにより、測定ばらつきの影響を受けずに、適切な異常検知が可能となる。
【0056】
なお、許容値を一定の値でなく、変動パターンの値に応じて決まる値に設定してもよい。例えば、「変動パターンの値×(1±0.1)」のように設定すれば、変動パターンの
値の±10%の範囲が正常と判定される。さらには、変動パターンを作成する際の測定値のばらつき(分布)を用いて、「変動パターンの値±Nσ」のように許容値を設定することもできる。
【0057】
このように本実施形態では、測定値の大小だけをみるのではなく、測定値がユーザ本人の変動パターンから大きく外れているか否かで判定を行うため、より適切な異常検知が可能となる。すなわち、140mmHgという血圧値が測定された場合、一般的に考えればその値は高血圧に該当するが、もしその人の通常の血圧値が約140mmHgなのであれば、その測定値は異常値とはいえない。逆に、120mmHgという血圧値は一般には正常範囲内であるが、もしその人の通常の最高血圧値が約90mmHgなのであれば、120mmHgという値は異常値と判断すべきである。本実施形態の方法によれば、いずれの場合も正しく判定される。しかも、新たな測定値との比較に、変動パターンにおける前記新たな測定値が測定された時刻に対応する値が用いられるので、生体指標の日内変動をも考慮した異常判定が可能である。
【0058】
(要測定項目の決定)
要測定項目決定部(要測定項目決定手段)15は、異常判定部14により異常値が検知された場合(ステップS23)に、追加で測定すべき生体指標の種類(測定項目)、その測定タイミング、測定回数などを決定する(ステップS25)。具体的には、要測定項目決定部15は、ユーザ情報DB11の相関情報を参照して、異常値が検知された生体指標と相関のある生体指標を特定する。さらに、異常値の測定時刻に、相関情報に含まれる時間ずれ量Δtを加算することで、測定タイミングを決定する。Δtがn個登録されていれば、各Δtについて測定タイミングが決定され、測定回数はn回となる。
【0059】
なお測定タイミングや測定回数については、相関情報から決めるのではなく、医学的に推奨されている測定手順に従って決めてもよい。例えば、血圧の測定手順として、10分間隔で3回測定することが推奨されているのであれば、異常値の測定時刻を基準に10分間隔で3回の測定が行われるようタイミングと回数を設定すればよい。これにより信頼性の高い測定値を得ることが期待できる。
【0060】
また、異常値が検知された生体指標を要測定項目に加えることも好ましい。測定のばらつきなど何らかの外乱が原因で偶然的に異常値が検知されることもあるからである。このような場合は、同じ生体指標をもう一度測定しなおすことで、生理学的な異常が生じていたのか単なる測定ばらつきであったのかを検証することができる。
【0061】
(測定ガイドの出力)
測定ガイド出力部16は、ステップS25で決定された測定項目、測定タイミング、測定回数などの情報(測定ガイド)を出力する(ステップS26)。
【0062】
図10A〜図10Cは、総合健康状態判断装置1のパネルに表示された測定ガイドの一例を示している。図10Aの表示例では、血圧値、血糖値、BMIの3つの項目について、具体的な測定時刻が表示されている。図10Bと図10Cの例では、各項目の測定回数がインジケータ表示され、測定タイミングは図10Aよりも大まかな指定内容になっている。なお測定ガイドの出力態様はこれに限らず、ユーザに測定項目、測定タイミング、測定回数などの情報を提示できればどのようなものでもよい。例えば、LEDの点灯や点滅、色、音や音声、振動などで報知してもよい。また、測定ガイド出力部16が測定項目等の情報を、計測装置や携帯電話等の外部装置に送信し、外部装置でこれらの情報をユーザに提示したり、あるいはこの情報に従って計測装置が自動で測定を実行するようにしてもよい。
【0063】
測定ガイドに従って生体指標が測定されると、その測定値が総合健康状態判断装置1に集められる。そして、これらの測定値を用いて、健康状態の総合的な評価や疾病リスクの評価などが行われる。
【0064】
(本実施形態の利点)
生体指標の値が通常と異なるということは、身体になんらかの異常が発生している可能性がある。また一つの生体指標にそのような兆候が現れたときには、他の生体指標にも異常が現れる可能性がある。そこで、ある生体指標に異常が現れたことをトリガとして必要な生体指標の測定を行うことで、健康状態や疾病リスクの評価に必要な情報を効率良く収集することが可能となる。これにより、生体指標を常にモニタするのに比べて、測定回数を大幅に減らすことができ、ユーザの測定負担は小さくなる。しかも、健康状態の変化や疾病の予兆をいち早く検知することが可能となる。また、健康状態を評価するのに必要なデータのみを測定することで、データの保存容量を小さくできる。
【0065】
なお、総合健康状態判断装置1は、投薬効果のチェックにも利用できる。例えば、血圧値の異常が検知された場合に、「薬○○○を服用し、2時間後に血圧を測定してください。」というような測定ガイドを出力すれば、薬の効果が期待できる時刻の測定を促すことができる。2時間後の測定値において薬による改善がみられない場合には、警告を出力したり、病院への自動連絡を行うような機能を設けてもよい。
【0066】
また、総合健康状態判断装置1は、ABPM(24時間自由行動下血圧測定)検査にも利用可能である。例えば、ABPMでは、血圧の測定タイミングが一定の時間間隔に決められている(夜間は30分間隔)。そうすると、測定タイミングのインターバルのあいだに血圧変動が生じたときに、重要なデータを測定できないことになる。そこで、血圧値と相関のある他の生体指標もモニタリングし、他の生体指標が変動したことをトリガとして血圧値も測定するようにすれば、上記のようなデータの測定漏れを可及的に無くすことができる。このとき、他の生体指標としては、血圧値よりも測定負担の軽いものを選択することが望ましい。一例として血中酸素飽和度が挙げられる。なお血中酸素飽和度に変化がない場合は血圧測定を省略するようにすれば、夜間の測定負担をさらに軽減することが可能である。
【0067】
上述した実施形態の構成は本発明の一具体例を例示したものにすぎない。本発明の範囲は上記実施形態に限られるものではなく、その技術思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】図1は、本発明に関わる健康管理システムの全体的な構成を示す図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る総合健康状態判断システムの一構成例を示す図である。
【図3】図3は、総合健康状態判断装置のハードウエア構成を模式的に示すブロック図である。
【図4】図4は、総合健康状態判断装置の機能を模式的に示す機能構成図である。
【図5】図5は、変動パターンの一例を示す図である。
【図6】図6は、相関解析処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図7は、相互相関係数を説明するための図である。
【図8】図8は、異常検知に基づく測定ガイド機能の処理を示すフローチャートである。
【図9】図9は、異常の検知を説明するための図である。
【図10】図10A〜図10Cは、表示された測定ガイドの一例を示す図である。
【図11】図11は、健康管理システムのコンセプトモデルを示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 総合健康状態判断装置
2〜5 計測装置
10 生体指標収集部
11 ユーザ情報DB
12 変動パターン作成部
13 相関解析部
14 異常判定部
15 要測定項目決定部
16 測定ガイド出力部
101 CPU
102 ボタン
103 ユーザI/F制御部
104 通信コネクタ
105 機器通信制御部
106 RTC
107 RTC制御部
108 パネル
109 表示制御部
110 音源装置
111 音制御部
112 ROM
113 RAM
114 記憶媒体制御部
115 電源
116 電源制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の計測装置のそれぞれで測定された複数項目の生体指標の測定値を記憶する記憶手段と、
前記複数項目の生体指標のそれぞれについて、前記記憶手段に記憶された測定値から生体指標の変動パターンを作成する変動パターン作成手段と、
変動パターン同士を比較することにより、相関のある生体指標の組み合わせを求める相関解析手段と、
前記複数項目の生体指標のうちの第1の生体指標について新たな測定値が得られた場合に、前記新たな測定値と前記第1の生体指標の変動パターンとを比較することにより、前記新たな測定値が異常値か否かを判定する異常判定手段と、
前記新たな測定値が異常値と判定された場合に、前記第1の生体指標と相関のある第2の生体指標を要測定項目として決定する要測定項目決定手段と、
前記要測定項目に関する情報を出力する出力手段と、
を備えることを特徴とする生体指標管理装置。
【請求項2】
前記相関解析手段は、2つの変動パターンを時間方向にずらしながら相関係数を算出し、閾値を超える相関係数が存在する場合に当該2つの生体指標のあいだに相関があると判断するとともに、閾値を超える相関係数が得られた時間ずれ量を当該2つの生体指標のあいだの相関情報として前記記憶手段に登録することを特徴とする請求項1に記載の生体指標管理装置。
【請求項3】
前記要測定項目決定手段は、前記相関情報の時間ずれ量に基づいて前記要測定項目を測定するタイミングを決定し、
前記出力手段は、前記要測定項目に関する情報として、前記タイミングも出力することを特徴とする請求項2に記載の生体指標管理装置。
【請求項4】
前記要測定項目決定手段は、前記要測定項目を測定する回数を決定し、
前記出力手段は、前記要測定項目に関する情報として、前記回数も出力することを特徴とする請求項2または3に記載の生体指標管理装置。
【請求項5】
前記異常判定手段は、前記新たな測定値と、前記第1の生体指標の変動パターンにおける前記新たな測定値が測定された時刻に対応する値と、を比較することを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の生体指標管理装置。
【請求項6】
前記変動パターン作成手段は、前記記憶手段に蓄積された測定値の量が所定量に満たない場合に、前記記憶手段に予め用意されている初期値を利用して前記変動パターンを作成することを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の生体指標管理装置。
【請求項7】
前記変動パターン作成手段は、前記記憶手段に測定値が蓄積されるにしたがって前記変動パターンを更新することを特徴とする請求項6に記載の生体指標管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−57552(P2010−57552A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223565(P2008−223565)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
2.ZIGBEE
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】