生体材料、組成物及び方法
本発明の実施形態は、細菌のバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)の、規則的な形状及びマイクロメートルサイズを有するCry殺虫性プロトキシン結晶を産生する能力を活用する。様々な実施形態では、これらの結晶は、種々の用途に有用な様々な組成物を作製するためのプラットホームとして使用される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本PCT出願は、2009年6月5日に出願された米国特許仮出願第61/184,63号及び2010年3月12日に出願された米国特許仮出願第313,525号の優先権を主張するものである(両仮出願の開示内容全体は、参照により本明細書に援用されるものとする)。
【0002】
(連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載)
本発明は、国立衛生研究所による認可番号第1 R21 AI081291-01号の下で、米国政府の支援によりなされたものである。米国政府は、米国特許法第200条以下の下に、本発明において一定の権利を有し得る。
【0003】
(技術分野)
本発明は、多目的生体材料に関する。より具体的には、本発明は、Cryタンパク質またはその結晶形成断片を用いた生体材料、組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0004】
害虫を防除するための環境に優しい方法は、土壌細菌であるバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis:Bt)由来の殺虫性の結晶タンパク質(通常、「Cryタンパク質」と呼ばれる)の使用である。Cryタンパク質は、バチルス・チューリンゲンシスの芽胞形成期の後期に結晶形態のプロトキシンとして蓄積される球状タンパク質分子である。害虫が摂取すると、前記結晶は溶解され、幼虫のアルカリ性の中腸環境でプロトキシンを放出する。プロトキシン(約130kDa)は、腸プロテアーゼによって成熟毒性断片に変換される。これらのタンパク質の多くは、特定の標的昆虫に対して非常に有毒であるが、植物や他の非標的生物に対しては無害である。
【0005】
害虫抵抗性トランスジェニック植物を提供するために、いくつかのCryタンパク質を作物植物中で遺伝子組換え的に発現させることが行われてきた。とりわけ、Bt?トランスジェニック綿及びBt?トランスジェニックトウモロコシが広く栽培されてきた。様々な種類のCryタンパク質が単離され、特徴付けされ、アミノ酸配列の相同性に基づいて分類されてきた(Crickmore et al., 1998, Microbiol. Mol. Biol. Rev., 62: 807-813を参照されたい)。この分類体系は、新しく発見されたCryタンパク質を命名及び分類するための体系的な方法を提供する。Cry1クラスが最も良く知られており、現在の総数が130を超える最多のcry遺伝子を含む。
【0006】
これまで、Cryタンパク質の使用は、主に、害虫防除関連の用途に限られてきた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態は、細菌のバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)の、規則的な形状及びマイクロメートルサイズを有するCry殺虫性プロトキシン結晶を産生する能力を活用する。様々な実施形態では、これらの結晶は、種々の用途に有用な様々な組成物を作製するためのプラットホームとして使用される。
【0008】
従って、本発明の実施形態は、異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質またはその結晶形成断片を含んでなる複数の融合ポリペプチドから形成されたタンパク質結晶を含む培養細胞を含む。
【0009】
例示的な実施形態では、前記培養細胞は細菌性細胞である。別の実施形態では、前記培養細胞は、植物細胞などの真核細胞である。
【0010】
いくつかの実施形態では、前記異種ポリペプチドは免疫原性抗原である。他の実施形態では、前記異種ポリペプチドは画像形成物質である。いくつかの実施形態では、前記画像形成物質は蛍光タンパク質である。別の実施形態では、前記異種ポリペプチドは代用血液である。他の実施形態では、前記異種ポリペプチドは治療用タンパク質及び/または酵素である。さらなる別の実施形態では、前記異種ポリペプチドは工業用酵素である。
【0011】
様々な実施形態では、前記Cryタンパク質は、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)のゲノムに由来する、任意のCryタンパク質または短縮型の結晶形成Cryタンパク質成分であり得る。例えば、前記Cryタンパク質は、Cry1Aa、Cry1Ab、Cry2Aa、Cry3Aa、Cry4Aa、Cry4Ba、Cry11Aa、Cry11Ba、Cry19Aa、それらの相同体、またはそれらの結晶形成断片であり得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記免疫原性抗原は、fbpA、fbpB、fbpC、ESAT6、erp(pirG)、Rv1477、MPT53、OmpAtb、IiA、p60、MPT53、OspAから成る群より選択される。
【0013】
他の実施形態は、細菌から単離したタンパク質結晶であって、異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質を含んでなる融合ポリペプチドを含むタンパク質結晶を含む。いくつかの実施形態では、前記異種ポリペプチドは免疫原性抗原である。他の実施形態では、前記異種ポリペプチドは画像形成物質である。様々な他の実施形態では、前記画像形成物質は蛍光タンパク質である。別の実施形態では、前記異種ポリペプチドは代用血液である。さらなる別の実施形態では、前記異種ポリペプチドは治療用タンパク質及び/または酵素である。他の実施形態では、前記異種ポリペプチドは工業用酵素である。
【0014】
他の実施形態は、組成物であって、異種ポリペプチドに化学的に架橋したCryタンパク質結晶を含む組成物に関する。
【0015】
別の態様は、核酸であって、異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質結晶を含んでなり、細胞内でインビボで結晶を形成することができる融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含む。さらに、様々な実施形態は、融合ポリペプチドを発現する発現ベクターを含む。
【0016】
別の実施形態は、細菌内生胞子(芽胞)であって、異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質を含んでなる融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含む細菌内生胞子を含む。
【0017】
少なくとも1つの実施形態は、融合ポリペプチドであって、Cryタンパク質及び免疫原性抗原を含んでなる融合ポリペプチドを含む。
【0018】
本発明の実施形態は、医薬組成物であって、融合タンパク質結晶、及び/または異種ポリペプチドに化学的に架橋したCryタンパク質結晶を含む医薬組成物を含む。前記医薬組成物は、薬学的に許容可能な補形剤、担体、希釈剤または賦形剤を追加的に含むことが好ましい。
【0019】
様々な実施形態は、細菌から組換え型タンパク質結晶を単離する方法であって、異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質をコードする核酸発現ベクターで前記細菌を形質転換するステップと、自己融解時に前記細菌から芽胞/結晶混合体が放出されるまで、前記細菌を培養媒体中で成長させるステップと、密度勾配遠心法または親和性クロマトグラフィー法を用いて、前記芽胞/結晶混合体を遠心分離するステップと、融合タンパク質の精製された結晶を単離するステップとを含む方法を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、前記細菌は、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)または枯草菌(Bacillus subtilis)である。従って、いくつかの実施形態は、バチルス・チューリンゲンシス細胞から組換え型タンパク質結晶を単離する方法であって、Cryタンパク質及び異種ポリペプチドを含み、生細菌において結晶を形成することができる融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する核酸発現ベクターで前記バチルス・チューリンゲンシス培養物を形質転換するステップと、自己融解したバチルス・チューリンゲンシス細胞から芽胞/結晶混合体が放出されるまで、前記バチルス・チューリンゲンシス培養物を成長させるステップと、密度勾配遠心法を用いて、前記芽胞/結晶混合体を遠心分離するステップと、前記結晶をクロマトグラフィー分離するステップと、精製された融合タンパク質結晶を単離するステップとを含む方法を含む。
【0021】
本発明の実施形態は、抗原に対する対象の免疫応答を誘起する方法であって、異種免疫原性抗原に融合したCryタンパク質を含むタンパク質結晶を、前記対象に、前記抗原に対する免疫応答を誘導するのに有効な量で投与するステップを含む方法を含む。いくつかの実施形態では、前記投与ステップは、鼻腔内投与、経口投与、または腹腔内投与によって行われる。
【0022】
本発明の実施形態は、抗原に対する対象の免疫応答を誘導する方法であって、異種免疫原性抗原に融合したCryタンパク質を含むタンパク質結晶を、前記対象に、前記抗原に対する免疫応答を誘導するのに有効な量で投与するステップを含む方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下の詳細な説明及び添付の図面を参照することにより、本発明の実施形態をよりよく理解することができるであろう。
【0024】
【図1】胞子形成するバチルス・チューリンゲンシス細菌のCry1Abタンパク質結晶と融合したGFPの模式図。
【図2】N末端にGFPドメイン、C末端にCryドメインを有する発現融合タンパク質の模式図。
【図3A】pHT315融合Cry1Ab発現ベクターのプラスミドマップ。
【図3B】Cry3Aa遺伝子がmCherryの前に置かれている例示的な融合結晶発現ベクター。
【図3C】GFPが挿入されたpSB634−1Abのプラスミドマップ。
【図4】(A)及び(B)1つの例示的なGFP−Cry1Abクローンの2つの異なる領域を確認する配列データ。
【図5】Btからバイオ結晶を産出し、それを精製するための例示的な方法を示すフローチャート。例は、pSB6341Ab発現プラスミドを用いて蛍光バイオ結晶を精製する方法を示す。
【図6】図5に示した例示的な方法によって得られるCry1Ab結晶由来のタンパク質のSDS−PAGEゲル。
【図7】ニコン80i顕微鏡下の蛍光結晶の画像。(A)バチルス・チューリンゲンシス栄養細胞、胞子及びGFP1Ab結晶のサンプルの位相差画像。(B)バチルス・チューリンゲンシス栄養細胞、胞子及びGFP−Cry1Ab結晶のサンプルのGFP蛍光画像。(C)(A)と(B)とを1つにし、混合物中の蛍光結晶及び非蛍光胞子並びに栄養細胞を示したもの。(D)トリス−EDTA緩衝液中の、精製したGFPCry1Ab結晶から発する蛍光。(E)mCherry1Ab融合タンパク質の蛍光結晶。(F)融合タンパク質なしでCry1Abの胞子及び結晶を産出するバチルス・チューリンゲンシス細胞のバックグラウンド(蛍光なし)サンプル。
【図8】血管系中の結晶及び結晶と融合したGFPから発する局所的蛍光の流れの模式図。
【図9】(A)例示的なリシン−Cry1Abベクターから得た配列データ。(B)例示的なLcrV−Cry1Abベクターから得た配列データ。
【図10】例示的なESAT6−Cry1Abベクターから得た配列データ。
【図11】免疫応答を生じさせるために用いられる融合タンパク質の結晶の成長、単離及び精製のための例示的な方法のフローチャート。
【図12】(A)抗Cry抗体を用いたCry1Abタンパク質及び(B)抗リシン抗体を用いたリシン−Cry1Ab融合タンパク質で処理したプロテアーゼのウェスタンブロット。
【図13】成功したESAT6変異体の精製を示すSDS−PAGEゲル。
【図14】架橋の量を定量するための、抗ESAT6抗体を用いたドットブロット。
【図15】抗ESAT6抗体を用いたドットブロット。1=マイコバクテリウム・マリヌム(融合ESAT−1Ab発現)由来のESAT6、2=緩衝液対照(架橋に用いられるリン酸緩衝液)、3=結核菌(Cry1Ab結晶に架橋させた)由来のESAT6、4=結核菌(対照)由来のESAT6タンパク質、5=1Ab(架橋させていない対照)の結晶と混合したESAT6タンパク質、6=Cry1Ab(結晶対照)の結晶。
【図16】1時間(レーン2)及び2時間(レーン4)にわたって50mMのNa2CO3,pH10.5に可溶化したLcrV−Cry1Ab融合結晶で1:10,000で希釈した抗LcrV抗体を用いたウェスタンブロット。レーン1及び3の対照は、それぞれ1時間及び2時間にわたって可溶化したCry1Abの結晶を含む。
【図17】ESAT6及びESAT6−Cry1Ab結晶に対するBalb/cマウスの抗体反応を示すグラフ。0、2、4週目にマウス1匹当たり10μgのESAT6−Cry結晶またはマウス1匹当たり50μgの精製した組換えESAT6−TTP2/MVFPによりマウスを免疫化した。1:250の力価で希釈した血清を用いて比色定量ELISAアッセイ展開を展開した。
【図18】Cry結晶構造を説明する2次元模式図。(A)cry遺伝子はCry結晶を産出し、(B)cry−sod遺伝子融合はCry−SOD結晶を産出し、(C)cry−sod及びcry−GPxの二重発現はCry−SOD/GPx結晶を産出する。
【図19】ニコン80i顕微鏡下の蛍光結晶の画像。(A)トリス−EDTA緩衝液中の、精製したGFP−Cry1Ab結晶から発する蛍光。(B)mCherry−Cry1Ab融合タンパク質の蛍光結晶。
【図20】ルシフェリンで処理したCry−ルシフェラーゼ結晶の化学ルミネセンスを、ほとんど見えない非発光性対照とともに示す。
【図21】マクロファージの食作用に対するペグ化の効果。(A)Cry−GFP結晶対照、(B)ペグ化されたCry−GFP結晶。核は、DAPIで染色されている。
【図22】マクロファージによるCry−GFP結晶の短期取込みを示す蛍光顕微鏡写真画像。(A)15分後のマクロファージ、(B)4時間後のマクロファージ。
【図23】NIH3T3線維芽細胞がCry3Aa−mCherry結晶を取り込むことを確認する蛍光顕微鏡写真画像(赤い点がDAPI染色した核を取り囲んでいるのが分かる)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
別段の定義がなければ、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明の属する技術分野の当業者によって共通して理解されるのと同一の意味を有する。本発明の様々な実施形態の実施または試験においては本明細書に記載したものと同様または同等の方法及び材料を使用することができるが、好ましい方法及び材料は以下に記載する。本明細書で言及した全ての出版物、特許出願、特許及び他の参考文献の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用されるものとする。矛盾が生じる場合には、定義を含めて本明細書に従うものとする。さらに、材料、方法、及び実施例は、単に説明的なものであって、限定を意図したものではない。
【0026】
本明細書で使用するセクション見出しは、単なる構成上の目的のためのものであり、説明した対象事項を限定するものと解釈されるべきではない。若干の(わずかな)逸脱が本発明の範囲に含まれるように、本明細書に記載された温度、濃度及び時間などの測定基準の前には「約」が付けられていることに留意されたい。本願においては、特に断りがない限り、単数形の使用は複数を含む。また、「含む、含有する」及びそれらの全て活用形の使用も、限定を意図するものではない。上述の概略的な説明と以下の詳細な説明の両方は、単なる例示的及び説明的なものであり、本発明を限定するものではない。冠詞「a」及び「an」は、本明細書においては、該冠詞の文法上の目的語が1または1以上(すなわち、少なくとも1つ)であることを指すために使用される。例えば、「an element(要素)」は、1つの要素または1つ以上の要素を意味する。
【0027】
例示的な実施形態は、細胞内でインビボで産生されたタンパク質結晶を含む。好適な実施形態では、本発明のタンパク質結晶は細菌内で産生される。例示的な実施形態では、タンパク質結晶は、グラム陽性菌であるバチルス・チューリンゲンシス(Bt)によって産生される。インビボで結晶を産生するために様々な他の細菌を使用することができ、例えば、枯草菌(Bacillus subtilis)が異種Cryタンパク質結晶を産生することが分かっている。「Agaisse, H and Lereclus, D. (1994) 176 (15) Journal of Bacteriology, p. 4734-4741」を参照されたい。別の実施形態では、本発明の融合タンパク質結晶は、真核細胞内でインビボで産生され得る。例えば、緑葉体内でのBt結晶の成功的なインビボ発現が、タバコ植物において実証されている。「Cosa et al. (2001) Nature Biotechnology 19:71-74」を参照されたい。
【0028】
本明細書で使用される用語「Cryタンパク質」または「Cryポリペプチド」は、バチルス・チューリンゲンシスに由来するCryポリペプチドのいずれか1つを指す。本明細書で使用されるCryタンパク質は、完全長のタンパク質でもよく、またインビボでの結晶形成活性が保持される限りは短縮型のタンパク質でもよい。ハイブリッドまたは融合タンパク質においては、Cryタンパク質は、互いに異なるタンパク質の組み合わせでもよい。本明細書で使用される「cry遺伝子」または「cryDNA」は、Cryタンパク質をコードするDNA配列である。
【0029】
様々な実施形態では、生物学的に合成された結晶はサイズがほぼ均一であり、結晶サイズに応じて、1結晶あたり約150〜500個のタンパク質分子を有している。バチルス・チューリンゲンシスにおいては、本発明の結晶は前記細菌の芽胞形成期中に産生され、前記細菌内で芽胞に沿って形成される。Cryタンパク質は、ヒト及び他の哺乳類には無害である。本発明の実施形態は、Cry結晶を、生物学的及び工業的用途のための共通プラットフォームとして活用する。
【0030】
Cry結晶融合技術及び/またはCryタンパク質架橋技術が、ほぼ無限の範囲の異種ポリペプチドを示す結晶を産生するためのプラットフォームを提供することは容易に理解できるであろう。Cry融合タンパク質においては、異種タンパク質の各々は、結晶形成中に固有の折り畳み特性を保持し得る。結晶内に形成されたポケットのサイズは、結晶のサイズのみならず、結晶の形状によっても異なる。従って、融合結晶に組み込み可能なタンパク質のサイズの上限を特定することは難しい。
【0031】
本発明の実施形態は、バチルス・チューリンゲンシスCryポリペプチド(例えば、Cry1Aa、Cry1Ab、Cry2Aa、Cry3Aa、Cry4Aa、Cry4Ba、Cry11Aa、Cry11Ba、及びCry19Aa)に由来するCryポリペプチド及びCry融合ポリペプチドを含み、それらには、以下に限定しないが、配列ID番号:2、4、6、8、10、12、14、16及び18のCry由来ポリペプチドが含まれる(添付の配列表を参照のこと)。Cry由来ポリペプチドのポリペプチド配列に加えて、ポリペプチドはその変異体も本発明に含まれ、それらには、以下に限定しないが、任意の断片、類似体、相同体、天然型対立遺伝子、またはそれらの突然変異体が含まれることは容易に理解できるであろう。ポリペプチドは、Cry由来核酸によりコードされたポリペプチドも含む。様々な実施形態では、インビボで結晶を形成し、かつ、配列ID番号:2、4、6、8、10、12、14、16及び18またはそれらの変異体のいずれかのポリペプチド配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、88%、90%、95%、98%、99%または99.5%の同一性を有するシャッフルされたポリペプチドを含む。また、例えば組み換え手段を用いた、本発明のポリペプチドの製造方法も提供される。また、1以上の本発明のポリペプチドを含む組成物も本発明に含まれる。
【0032】
本発明の実施形態は、配列ID番号:1、3、5、7、9、11、13、15及び17のCry由来核酸分子を含む。また、少なくとも部分的には機能的に活性な、すなわち、生物学的に合成された結晶を形成可能なポリペプチドをコードする断片及び類似体も本発明に含まれる。一実施形態では、配列ID番号:1、3、5、7、9、11、13、15及び17またはそれらの相補体のいずれかと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または99.5%の同一性を有する単離されシャッフルされた核酸分子を含む。本発明の核酸を含むベクターも本発明に含まれる。本発明のベクターを含む細胞または植物も本発明に含まれる。
【0033】
いくつかの実施形態では、本発明のタンパク質結晶は、異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質またはある短縮型の結晶形成Cryタンパク質成分を含んでいる融合ポリペプチドを含む。例示的な実施形態では、本発明の融合ポリペプチドは細胞内でインビボで発現し、結晶を形成する。特定の実施形態では、本発明の融合ポリペプチドの結晶は、Bt細胞内で産生される。さらに、様々な実施形態が、Bt細胞から直接的に採取することができる。例示的な実施形態の融合ポリペプチド結晶は、安定的である。例示的な実施形態では、簡単な精製法により、前記結晶を比較的安価に得ることができる。様々な実施形態には、種々の用途のための物質及び方法が含まれ、それらには、以下に限定しないが、ワクチン、画像形成物質、分子標的質、治療用酵素またはタンパク質を特定の細胞または組織へ送達するための物質、代用血液、及び、生体分子を動物モデルまたはヒトモデルへ移送または送達するための物質が含まれる。
【0034】
例示的な実施形態は、タンパク質結晶学の標準的な方法により成長させた他のタンパク質結晶と区別できる。例示的な実施形態の結晶(例えばCry1Ab)は、バチルス・チューリンゲンシス細胞内で産生することが好ましい。その結果、生物学的に合成されたCry結晶はサイズがほぼ均一であり、非常に簡単な精製方法によって生体材料として直接的に採取することができる。
【0035】
様々な実施形態では、Cryタンパク質を含む融合ポリペプチドが提供される。様々な融合ポリペプチドをコードする核酸配列も提供される。
【0036】
様々な実施形態は、組換え型タンパク質の結晶を含む。例示的な実施形態では、前記結晶は、CryポリペプチドまたはCry融合ポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの物質、ポリペプチド、核酸、及び/または分子を前記結晶に結合または架橋してもよい。本明細書で使用される「結晶」は、その構成原子、分子またはイオンが3つの空間方向の全てに延びる規則的な繰り返しパターンで配列された固体物質を指す。結晶の測定は任意の手法によって行うことができ、それらには、とりわけ、光学顕微鏡法、電子顕微鏡法、X線粉末回折法、固体核磁気共鳴法または偏光顕微鏡法が含まれる。微鏡法を用いることにより、結晶の長さ、直径、幅、サイズ及び形状を測定したり、結晶が単一粒子として存在するかあるいは多結晶であるかを調べたりすることができる。
【0037】
本明細書で使用される「内生胞子」なる用語は、環境ストレス期間中に細菌内で産生された任意の胞子(芽胞)を指す。
【0038】
本明細書で使用される「融合ポリペプチド」なる用語は、2以上の互いに異なるタンパク質に由来するアミノ酸配列の一部を含むポリペプチドを指す。
【0039】
本明細書で使用される「核酸配列」なる用語は、別々の断片の形態の、またはより大きな構造体の一部としての、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドのポリマーを指す。目的の生成物を発現する核酸は、cDNA断片から、または、組換え転写単位中で発現可能な合成遺伝子を提供するオリゴヌクレオチドから構築することができる。ポリヌクレイオチドまたは核酸配列には、DNA、RNA及びcDNA配列が含まれる。
【0040】
本発明に用いられる核酸配列は、様々な方法によって得ることができる。例えば、DNAは、当該技術分野で周知のハイブリダイゼーション法を用いて単離することができる。これらには、以下に限定しないが、(1)ゲノム化するためのプローブまたは共通のヌクレオチド配列を検出するためのcDNAライブラリのハイブリダイゼーション、(2)共通する構造的特徴を検出するための発現ライブラリの抗体スクリーニング、及び(3)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による合成が含まれる。特定の遺伝子及びポリペプチドの配列は、米国国立衛生研究所のコンピュータデータベースである遺伝子バンクから入手することもできる。
【0041】
別の態様では、本発明の実施形態は、融合ポリペプチドを含む所望のタンパク質結晶を製造する方法であって、融合ポリペプチドをコードする核酸を含むホスト細胞を、前記核酸配列の発現を可能にする条件下で成長させるステップと、前記ホスト細胞内に形成された結晶を回収するステップとを含む方法を提供する。様々な実施形態の核酸配列は、原核生物または真核生物発現系内での発現のためのプロモータに対して作用可能に結合することができる。例えば、核酸は、発現ベクター内に組み込むことができる。
【0042】
核酸の送達は、当該技術分野で周知の様々な方法を用いて、核酸を細胞内に導入することによって達成することができる。例えば、核酸構造体を、コロイド分散系を用いて、細胞内へ送達してもよい。あるいは、核酸構造体を、適切なベクター内に組み込んでもよい(すなわちクローン化する)。発現を目的として、融合ポリペプチドをコードする核酸配列を、組換え型発現ベクター内に挿入してもよい。「組換え型発現ベクター」なる用語は、融合ポリペプチドをコードする核酸配列の挿入または組み込みにより操作された、プラスミド、ウイルス、または当該技術分野で周知の他の媒体を指す。この発現ベクターは、一般的に、複製起点、プロモータ、並びに、形質転換細胞の表現選択を可能にする特定の遺伝子を含む。本発明に使用するのに適したベクターには、以下に限定しないが、バチルス・チューリンゲンシス(Bt)内での発現のためのpSB6341Ab発現ベクター、バチルス・チューリンゲンシス(Bt)内での発現のためのpHT315発現ベクター、細菌内での発現のためのT7系発現ベクター(Rosenberg et al., Gene, 56:125, 1987)、哺乳動物細胞内での発現のためのpMSXND発現ベクター(Lee and Nathans, J. Biol. Chem., 263:3521, 1988)、及び昆虫細胞内での発現のためのバキュロウイルス由来ベクター、カリフラワー・モザイク・ウイルス、CaMV、タバコモザイクウイルス、及びTMVが含まれる。
【0043】
使用されるベクターに応じて、構成的プロモータ、誘導プロモータ、転写エンハンサー要素、転写ターミネータなどの様々な適切な転写要素または翻訳要素のいずれかを発現ベクターに使用し得る(例えば、Bitter et al., Methods in Enzymology, 153:516-544, 1987を参照されたい)。これらの要素は、当該技術分野では周知である。
【0044】
「作用可能に連結される」または「作用可能に結合される」という表現は、調節配列と、前記調節配列により調節される核酸配列との間の機能的な結合を意味する。作用可能に結合された調節配列は、核酸配列による産物の発現を制御する。あるいは、前記機能的な結合は、エンハンサー要素も含む。
【0045】
「プロモータ」は、転写を誘導するのに十分な最小ヌクレオチド配列を意味する。また、この定義には、プロモータ依存型核酸配列発現を、細胞型特異的、組織特異的、または外部信号または物質によって誘導できるように制御可能にするのに十分なプロモータ要素も含まれる。このようなプロモータ要素は、天然遺伝子の5´もしくは3´領域内に、またはイントロン内に配置され得る。
【0046】
「遺伝子発現」または「核酸配列発現」は、機能的な生物学的効果が実現されるように、検出可能なレベルの送達ヌクレオチド配列が或る量で或る期間に渡って発現するように、ヌクレオチド配列が成功的に転写及び翻訳される過程を意味する。
【0047】
発現ベクターは、標的細胞を形質転換するのに使用することができる。「形質転換」は、新しいDNA(すなわち、細胞に対して外因性のDNA)を細胞に組み込んだ後に、前記細胞内において誘導された恒久的な遺伝子変化を意味する。前記細胞が哺乳類細胞である場合、恒久的な遺伝子変化は一般的に、前記細胞のゲノムへのDNAの導入によって実現される。「形質転換された細胞」は、Cryタンパク質またはその断片を含む融合タンパク質をコードするDNA分子が組換えDNA技術によって導入された細胞を意味する。組換え型DNAによるホスト細胞の形質転換は、当業者に周知の従来技術によって実施され得る。前記ホストが、大腸菌などの原核細胞である場合、指数増殖期後に採取し、当該技術分野で周知の手法を用いてCaCl2法によって処理した細胞から、DNA取り込み可能なコンピテント細胞を作り出すことができる。あるいは、MgCl2またはRbClを使用することもできる。形質転換は、ホスト細胞のプロトプラストの形成後に、または、エレクトロポレーション(電気穿孔)法によって行うこともできる。
【0048】
融合ポリペプチドを含んでいる結晶は、原核生物内での、タンパク質をコードする核酸の発現によって産生することができる。これらには、以下に限定しないが、融合タンパク質をコードする組換え型プラスミドDNA、バクテリオファージDNAまたはコスミッドDNAの発現ベクターにより形質転換された細菌(例えばBt)などの微生物が含まれる。ベクター構造体は、バチルス・チューリンゲンシス内で、大規模に発現させることができる。
【0049】
様々な実施形態では、所望の結晶の精製を、簡単かつコスト効率良く行うことができる。まず、Cryポリペプチドに融合した異種ポリペプチドまたはその結晶形成断片をコードするシャトルベクターを作製する。発現ベクターは、バチルス・チューリンゲンシス内で過剰発現するように最適化されることが好ましい。前記ベクター(例えば、pHT315−融合Cry1Ab)は、細菌(例えば、バチルス・チューリンゲンシス細胞)に形質転換され、前記細胞内で前記融合タンパク質が作製され、結晶が形成される。様々な実施形態では、所望の結晶が、前記細菌(例えば、バチルス・チューリンゲンシス細胞)の芽胞形成期中に前記細菌内で芽胞に沿って産生される。その後、芽胞/結晶混合物が、自己融解Btから放出される。レノグラフィン勾配遠心法を用いて密度勾配遠心分離を行い、芽胞と結晶を含んでいる帯域を分離する。最後のステップでは、芽胞粒子及び結晶粒子をCMセルロースクロマトグラフィー法によって互いに分離し、所望の融合ポリペプチドを含む精製された結晶を得る。
【0050】
別の実施形態では、発現配列が、例えばニッケルキレートクロマトグラフィー法による一段階精製のためのタグを含んでいる場合、細菌からのCry結晶の精製も実現され得る。前記構造体はまた、融合ポリペプチドの単離を簡便にするためのタグを含むこともできる。例えば、ヒスチジン6残基などのポリヒスチジンタグを、蛍光タンパク質のアミノ末端に組み込むことができる。ポリヒスチジンタグは、ニッケルキレートクロマトグラフィー法による一段階でのタンパク質の簡便な単離を可能にする。可能性がある他のタグしては、CBP、CYD(共有結合性だが解離可能なNorpDペプチド)、StrepII、FLAG、HPC(タンパク質Cの重鎖)ペプチドタグ、並びに、GST及びMBPタンパク質融合タグシステムがある。本発明の融合ポリペプチドはまた、タンパク質回収を助けるための開裂部位を含むように改変することもできる。あるいは、本発明の実施形態の融合ポリペプチドは、原位置での適用のために、所望のホスト細胞内で直接的に発現することもできる。
【0051】
他の実施形態では、本発明の結晶は、前記結晶の性質に関連する活性が依然として利用可能な精製されていないまたは部分的に精製された状態で使用することができる。そのような例としては、細胞成長後に得られた結晶含有細胞または溶融タンパク質、あるいは、遠心分離後に得られた結晶含有断片の使用が挙げられる。
【0052】
前記ホストが真核生物の場合、リン酸カルシウム共沈法、従来の物理的方法、例えば、微量注入法、電気穿孔法、リポゾームに包まれたプラスミドの挿入またはウイルスベクターなどの、DNAのトランスフェクション法が用いられ得る。真核細胞はまた、本発明の融合ポリペプチドをコードするDNA配列、及び、単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子などの選択可能な表現型をコードする第2の外来DNA分子を同時形質移入されることもできる。他の方法は、シミアンウイルス40(SV40)またはウシパピローマウイルスなどの真核生物ウイルスベクターを使用して、真核細胞を一過的に感染させるかまたは真核細胞を形質転換し、タンパク質を発現させる方法である(Eukaryotic Viral Vectors, Cold Spring Harbor Laboratory, Gluzman ed., 1982)。本明細書に記載したように、真核生物ホストをホスト細胞として利用することが好ましい。
【0053】
真核細胞系及び好ましくは哺乳類発現系は、発現した哺乳類タンパク質の適切な翻訳後修飾が起こるのを可能にする。一次転写産物の適切な処理、グリコシル化、リン酸化反応、及び遺伝性産物の好適な分泌のための細胞機構を有する真核細胞を、ポリペプチドの発現のためのホスト細胞として使用すべきである。そのようなホスト細胞株には、以下に限定しないが、CHO、VERO、BHK、HeLa、COS、MDCK、Jurkat、HEK−293、及びWI38が含まれる。
【0054】
微生物的または真核生物的に発現させたポリペプチドの単離または精製のための技術は、分取クロマトグラフィー分離法や免疫学的分離法(例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体または抗原の使用を伴う方法)などの任意の従来の手段であり得る。
【0055】
医薬組成物
【0056】
別の態様では、融合ポリペプチド、またはCryタンパク質結晶に対して結合もしくは架橋結合した他の分子、核酸、またはタンパク質かのいずれかを含んでなり、本明細書に記載されているように、薬学的に許容される担体と共に製剤化された、所望の結晶を含む組成物、例えば薬学的に許容される組成物が提供される。動物に適用する場合は、細菌分離株またはある部分精製された結晶断片の粘膜投与も可能である。
【0057】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」には、薬学的な適合性を有する、あらゆる溶媒、分散媒、等張及び吸収遅延剤などが含まれる。前記担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄、経口、経鼻、経皮投与(例えば、注射または点滴により)に適するものである。
【0058】
前記組成物は、様々な形態であり得る。それらには、液体、半固体及び固体の形態が含まれ、例えば、溶液(注射可能または点滴可能な液体)、分散系または懸濁液、リポソームまたは坐薬などが含まれる。好適な形態は、意図する投与方法及び治療用途に依存する。有用な組成物は、注射可能または点滴可能な溶液の形態であり得る。有用な投与方法は、非経口(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内)である。例えば、本発明のタンパク質または結晶は、静脈内点滴または注射により投与することができる。別の実施形態では、本発明のタンパク質または結晶は、筋肉内または皮下注射によって投与される。また、本発明のタンパク質または結晶組成物は、経口または経鼻投与によって投与することができる。例えば、鼻腔内(i.n.)に送達する場合、Cry1Acは、強力な粘膜免疫原及び補助剤である。「Rodriguez-Monroy (2010) Scand. J. of Immunology 71, pp: 159-168」を参照されたい。
【0059】
動物及びヒトへの投与用の組成物は、一般的に、製造及び貯蔵の条件下で安定的であるべきである。前記組成物は、溶液、マイクロエマルション、分散系、リポゾーム、または、高結晶濃度に適する他の秩序構造として製剤化することができ、そのようなものとしては、細胞培養物から直接的に単離された細菌性細胞集団またはある凍結乾燥形態がある。無菌注射溶液は、上記した成分の1つもしくは組み合わせと共に、活性化合物(例えば、Cry融合ポリペプチド、異種分子と架橋結合したCry結晶)を適切な溶媒中に所要量で組み込み、必要に応じてその後ろ過滅菌することによって調製することができる。一般的に、分散液は、塩基性分散媒及び上記した他の必要な成分を含有する無菌媒体中に活性化合物を組み込むことによって調製される。無菌注射溶液の調製に無菌粉末を使用する場合、好適な調製方法は、その予め滅菌ろ過した溶液から、活性成分と任意の所望の追加成分とを含む粉末を生成する真空乾燥及び凍結乾燥法である。溶液の適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散形態の場合には必要な粒径サイズを維持することにより、及び界面活性剤の使用により維持することができる。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる物質、例えばモノステアレート塩あるいはゼラチンを前記組成物内に含めることによってもたらすことができる。動物に投与する場合、細胞ペーストまたは部分的に精製された組成物を動物に、直接的に、凍結乾燥したものを、またはある分散形態で与えることが好適であり得る。
【0060】
前記組成物は、当該技術分野で公知の様々な方法によって投与することができ、様々な治療及び予防用途のために投与することができる。投与経路及び方法は、所望する結果に応じて異なることは、当業者には明らかであろう。
【0061】
例示的な実施形態では、組成物(例えば、Cry融合ポリペプチドを含む結晶、異種分子もしくは物質と架橋結合したCry結晶)は、例えば不活性希釈剤または吸収可能な可食性担体と共に経口投与され得る。本発明の化合物(所望に応じて他の成分)は、硬質または軟質のシェルゼラチンカプセル内に封入するか、あるいは、対象(ヒトや動物)の食べ物に直接的に組み込まれ得る。経口治療投与については、前記化合物は、賦形剤と組み合わせることができ、摂取可能なタブレット、口腔錠、トローチ、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁液、シロップ剤、オブラート剤などの形態で使用され得る。他の非経口投与以外の方法によって化合物を投与するためには、前記化合物をその不活性化を防ぐための材料で被覆するか、または、前記化合物をその不活性化を防ぐ材料と同時投与することが必要であり得る。治療用組成物は、当該技術分野で公知の医療デバイスによって投与することができる。
【0062】
投与計画は、最適な所望の応答(例えば、治療効果)を提供するために調節される。例えば、単回ボーラスで投与するか、複数回に分けた投与量で経時的に投与するか、または、治療状況の緊急性に応じて投与量を比例的に減少または増加させてもよい。投与を容易にするため及び投与量を均一にするために、非経口組成物を投与単位で製剤化することは特に有利である。本明細書で用いられる投与量単位は、治療される対象のための単位投与量として適した物理的離散単位を意味し、各単位は、必要な薬学的担体と組み合わせて所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含有する。投与量単位の形態の詳細は、(a)活性化合物のユニークな特徴及び達成すべき特定の治療効果、及び(b)個体の感受性の治療のために前記活性化合物を配合する技術に固有の限界によって決定され、また直接的に依存する。
【0063】
Cry融合ポリペプチドまたはその断片の治療的または予防的な有効量の非限定的な例示的範囲は、0.1〜100mg/kg、例えば1〜10mg/kgである。さらに、特定の対象については、個体のニーズ、及び前記組成物を投与する者または前記投与を監督している者の専門的判断に応じて特定の投薬計画を経時的に調節すべきであること、ならびに、本明細書中に記載された投与量範囲は例示的なものに過ぎず、本発明の組成物の範囲及び実施を制限することを意図していないことを理解すべきである。正確な投与量は、投与経路に応じて異なり得る。筋肉注射の場合、投与量範囲は、1回の注射あたり、100μg〜10mgであり得る。複数回の注射が必要とされ得る。
【0064】
本明細書中に説明した医薬組成物は、Cry融合ポリペプチド、及び/または異種分子と架橋結合したCry結晶(Cry融合ポリペプチドまたはCryポリペプチドのいずれかを含む)を含む所望のCry結晶を、治療効果がある量または予防効果のある量で含有することができる。Cry融合ポリペプチド、及び/または異種分子と架橋結合したCry結晶(Cry融合ポリペプチドまたはCryポリペプチドのいずれかを含む)を含む所望のCry結晶の治療効果がある量は、個体の病状、年齢、性別及び重量や、個体において所望の応答を励起するための組成物の性能などの因子に応じて異なる。治療効果がある量とは、有益な治療効果が医薬組成物の毒性または有害作用を上回る量でもある。化合物の、測定可能なパラメーターを抑制する性能は、標的対象(例えば、ヒト対象)における効果の動物モデル系予測で評価することができる。あるいは、組成物の特性は、化合物の調節能力、例えばインビトロでの調節能力を、当業者に公知のアッセイで検査することにより評価することができる。
【0065】
「予防的な有効量」は、所要の投与量及び/または期間で、所望の予防的な結果、例えば、病原体によるその後の影響に対する防御免疫を達成するための有効な量を指す。一般的に、予防的投与量は、疾病前にまたは疾病の初期段階で対象に使用されるため、予防的な有効量は、治療的な有効量よりも少ない量となる。
【0066】
また、本発明によれば、Cry融合ポリペプチドまたはその結晶形成成分をコードする1以上の核酸ベクター、所望のタンパク質結晶及びまたはCry融合ポリペプチドまたはその結晶形成成分を含む所望のCry結晶を含む組成物のインビボ発現のための細菌、及び/または、異種分子または物質と架橋結合したCry結晶(Cry融合ポリペプチドまたはCryポリペプチドのいずれかを含む)を含むキットが提供される。前記キットは、次のような、1以上の他の要素を含むことができる。使用説明書。他の試薬、例えば、ラベル、治療薬、または、Cryタンパク質を治療剤または診断用薬に架橋結合、組み換え操作または別の方法で結合または融合させるために有用な物質。投与用の組成物を調製するためのデバイスまたは他の材料。薬学的に許容可能な担体。対象に投与するためのデバイスまたは材料。
【0067】
使用説明書は、インビトロでの(すなわちサンプル、例えば患者の生検材料または細胞における)またはインビボでの、タンパク質結晶、ポリペプチド、核酸配列の診断用途のための指示を含むことができる。前記指示は、推奨されている投与投与量及び/または投与方法を含む、治療または予防用途のための指示を含むことができる。
【0068】
前記キットは、診断用薬剤または治療用薬剤などの少なくとも1つの追加的な試薬をさらに含むことができ、例えば、1以上の別個の製剤内に1以上の追加的な所望の結晶及び/または物質を含むことができる。
【0069】
治療的使用
【0070】
本明細書で説明した新規の核酸、融合ポリペプチド、及び架橋種(crosslinked species)は、インビトロ及びインビボでの診断的、治療的及び予防的な有用性を有する。例えば、様々な疾病を治療、予防及び/または診断するために、例えばインビトロまたはエクスビボで、あるいは対象内で(例えばインビボで)、ワクチン及び蛍光性マイクロドットを培養物内の細胞に対して投与することができる。
【0071】
本明細書において使用される「対象」なる用語は、ヒト及びヒト以外の動物を含むことを意図する。「ヒト以外の動物」には全ての脊椎動物が含まれ、例えば、ヒト以外の霊長類、ブタ、ニワトリや他の鳥、マウス、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ及び魚などの哺乳類及び非哺乳類が含まれる。
【0072】
融合ポリペプチドを含有するCry結晶、及び/または、異種分子及び/または物質と架橋結合したCry結晶の投与方法は上述した通りである。使用される分子の適切な投与量は、対象の年齢または体重、あるいは使用される特定の組成物に依存する。上記したワクチンは、予防接種を受けた対象において防御免疫を誘導することにより、様々な病状を予防するのに使用することができる。また、向上させた免疫応答が対象の現在の状に関連する病原体の制御に有用である場合、上記したワクチンは対象の現在の疾患を治療するのに使用することができる。例えば、特定の抗原に融合したCryポリペプチドを含んでなる融合タンパク質を含有するCry結晶を使用して、細菌性及び/または急性インフルエンザ感染を予防、減少または軽減することができる。
【0073】
他の実施形態では、Cry結晶に融合または架橋結合した抗原性ポリペプチドまたはその抗原性断片を免疫原的に有効な量で含有する免疫原性組成物及びワクチンが提供される。ポリペプチド配列における免疫原性エピトープは、当該技術分野で公知の方法に従って同定することができる。そのようなエピトープを含有するタンパク質または断片は、ワクチン組成物に含ませて、様々な手段によって送達することができる。
【0074】
適切な組成物には、例えば、リポペプチド(例えば、「Vitiello et al., J. Clin. Invest., 95:341, 1995」を参照されたい)、ポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)(PLG)ミクロスフェア中に封入されたペプチド組成物(例えば、「Eldridge et al., Molec. Immunol., 28:287-94, 1991」、「Alonso et al., Vaccine, 12:299-306, 1994」、「Jones et al., Vaccine, 13:675-81, 1995」を参照されたい)、免疫刺激複合体(ISCOM)に含有されたペプチド組成物(例えば、「Takahashi et al., Nature, 344:873-75, 1990」、「Hu et al., Clin. Exp. Immunol., 113:235-43, 1998」)、及び多抗原性ペプチド系(MAP)(例えば、「Tam, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 85:5409-13, 1988」、「Tam, J. Immunol. Methods, 196:17-32, 1996」を参照されたい)が含まれる。例えばアバント・イムノセラピューティクス社(Avant Immunotherapeutics, Inc.)(米国マサチューセッツ州ニーダム)の技術などの毒素標的送達技術(レセプター媒介標的化とも呼ばれる)を使用することもできる。
【0075】
免疫原性組成物及びワクチンと共に使用することができる有用な担体は周知であり、そのようなものには、例えば、サイログロブリン、アルブミン(ヒト血清アルブミンなど)、破傷風トキソイド、ポリアミノ酸(ポリL−リジンなど)、ポリL−グルタミン酸、インフルエンザ、B型肝炎ウイルスコア・タンパク質などが含まれる。組成物及びワクチンは、生理学的に耐容性のある(すなわち許容可能な)希釈剤、例えば、水または食塩水(典型的にはリン酸緩衝生理食塩水)を含有することができる。前記組成物及びワクチンは、結晶に加えて、追加的なアジュバントも含有し得る。不完全フロイントアジュバント、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、またはミョウバンなどのアジュバントが、当該技術分野で公知の材料の例である。さらに、インフルエンザまたは他のウイスル性ポリペプチド(または、その断片、誘導体または類似体)を、トリパルミトイル−S−グリセリルシステイニル−セリル−セリンなどの脂質と共有結合させることにより、CTL応答をプライミングすることができる。
【0076】
例えば、注射、エアロゾル、経口、経皮、経粘膜、胸膜腔内、髄腔内、または他の適切な経路による、タンパク質組成物を含有する組成物またはワクチンを用いた免疫付与は、CTL、及び/または所望の抗原に対して特異的な抗体を大量に生成することにより、組成物またはワクチンに対して応答するホストの免疫系を誘導する。従って、ホストは一般的に、その後の感染(例えば、結核菌(M. tuberculosis)に対して少なくとも部分的に免疫になるか、罹患中の慢性感染症の進行に対して少なくとも部分的に抵抗的になるか、あるいは、少なくとも何らかの治療効果を誘導する。例えば、対象を、標的ウイルスまたは細菌による続発性感染から保護する。
【0077】
核酸分子は、添付した配列表に記載のものを含む規定された分子に厳しく制限されない。それどころか、特定の実施形態は、置換、欠失、挿入、反転などの改変がなされたが、それでもなお、特定の実施形態のポリペプチドの結晶形成能力を実質的に有するタンパク質をコードするか、あるいは、核酸が開示した配列の1つであること同定するためのハイブリダイゼーションプローブとしての役割を果たすことができる核酸分子を包含する。規定されたヌクレオチド配列に対して少なくとも75%の同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸分子が含まれる。
【0078】
2つの配列間の同一性または相同性の割合の測定は、「Karlin and Altschul (1993) Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 90:5873-5877」に記載されているように改変した「Karlin and Altschul (1990) Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 87: 2264-2268」のアルゴリズムを用いて行うことができる。このようなアルゴリズムは、「Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410」に記載されているNBLAST及びXBLASTプログラムに組み込まれる。NBLASTプログラム(スコア=100、ワード長さ=12)を用いてBLASTヌクレオチド検索を実行することによって、本発明の核酸分子と相同なヌクレオチド配列を求めることができる。また、XBLASTプログラム(スコア=50、ワード長さ=3)を用いてBLASTタンパク質検索を行うことによって、本発明のタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を求めることができる。比較目的でギャップアラインメントを得るためには、「Altschul et al. (1997) Nucleic acids Res. 25: 3389-3402」に記載されているようにしてGapped BLASTを用いることができる。BLAST及びGapped BLASTを用いる場合、各プログラム(例えば、XBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメータが使用される(http://www/ncbi.nlm.nih.govを参照されたい)。
【0079】
本発明の実施形態はまた、例示的な実施形態の核酸によってコードされた単離されたポリペプチドを含む。「単離されたポリペプチド」は、自然に会合しているタンパク質及び他の天然型有機分子を実質的に含まないポリペプチドである。純度は、任意の当該技術分野で公知の方法、例えばカラム・クロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはHPLCなどによって測定することができる。単離されたポリペプチドは、例えば、天然源(例えばヒト細胞)から抽出することによって、前記ポリペプチドをコードする組換え核酸を発現させることによって、または前記ポリペプチドを化学的に合成することによって得ることができる。天然源から抽出することによって得られたポリペプチドにおいては、(自然に会合しているタンパク質及び他の天然型有機分子を)「実質的に含まない」は、前記ポリペプチドが調製物の乾燥重量の少なくとも30%(例えば、少なくとも35%、45%、85%など)を構成することを意味する。化学的に合成された、または天然タンパク質源とは異なる源から生成されたタンパク質は、当然ながら、その天然関連成分を実質的に含まない。従って、単離されたポリペプチドは、例えば、インビボ(例えばBt細胞内)、またはインビトロ(例えば、哺乳類細胞株、大腸菌もしくは他の単細胞微生物)、または昆虫細胞内で合成された組換型ポリペプチドを含む。
【0080】
例示的な実施形態では、Cry異種ポリペプチド融合ベクターがバチルス・チューリンゲンシス細胞に形質転換され、前記細胞において融合タンパク質が発現される。融合タンパク質を含有する結晶は、細菌の芽胞形成期中に産生され、細菌内の芽胞に沿って形成される。巨視的な芽胞及び結晶が放出されると、遠心分離(例えば、レノグラフィン法)による分離が可能となる。最終ステップでは、芽胞粒子及び結晶粒子は、クロマトグラフィー法(例えば、CMセルロース型)によって互いに分離される。
【0081】
様々な実施形態では、内生胞子(芽胞)は、融合ポリペプチドをコードする核酸で形質転換されたBt細胞を搬送またはパッケージングするための簡便な貯蔵媒体として使用され得る。内生胞子は、乾燥、温度、飢餓、及び他の環境ストレスに対して耐性がある。従って、融合ポリペプチドをコードする核酸を含有する内生胞子は、容易にパッケージングして搬送することができる。所望であれば、様々な実施形態の内生胞子は、活性化させるステップ、発芽させるステップ、及び増殖させて完全に機能的な植物性細菌細胞にするステップを含む方法によって再活性化することができる。このような細菌性細胞はその後、融合ポリペプチドを含有する結晶を形成する。
【0082】
様々な実施形態では、本発明のポリペプチドは、添付の配列表に記載された(または、アクセス番号によって提供された)配列のアミノ酸配列またはその断片を含む。なお、この例示的な実施形態のポリペプチドは、添付の配列表に記載された(または、アクセス番号によって提供された)配列の1つと同一のアミノ酸配列を有するものに限定されない。むしろ、本発明の実施形態は、開示した配列の保存的変異体も包含する。「保存的変異体」には次の基の置換体が含まれる。グリシン及びアラニン;バリン、アラニン、イソロイシン及びロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン、セリン及びトレオニン;リジン、アルギニン及びヒスチジン;フェニルアラニン及びチロシン。
【0083】
また、本発明の実施形態には、置換、欠失、挿入または反転などの改変がなされたが、それでもなお、Cryポリペプチドの結晶形成能力を実質的に有するポリペプチドも含まれる。従って、本発明の実施形態には、添付の配列表に記載したアミノ酸配列の1つと少なくとも60%一致する(例えば、少なくとも60%、70%、80%または90%一致する)アミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその結晶形成断面が含まれる。「同一度(パーセント)」は、上述したアルゴリズムに基づいて定義される。
【0084】
例
【0085】
本発明の実施形態を示すために以下の例を挙げる。以下の例において開示されている技術が、発明者によって実際に良好に機能することが発見された技術の典型となるものであることは、当業者に十分に理解されるはずである。しかし、本明細書の開示を踏まえて、本発明の概念、趣旨及び範囲から逸脱することなく、開示されている特定の実施形態に多くの変更を加えることができ、なおかつよく似ているかまたは同様の結果が得られることを、当業者は理解されたい。より具体的には、化学的にも生理学的にも関連する特定の物質を本明細書に記載の物質で代用しても、同じかまたは同様の結果を得ることができることが分かるであろう。当業者に明らかなそのような同様の置換形態及び変更形態は全て、本発明の趣旨、範囲及び概念に含まれるものと考えられる。
【0086】
一般的に、本明細書に記載の、細胞及び組織培養、分子生物学並びにタンパク質及びオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの化学及びハイブリダイゼーションに関連して用いられる命名法及び技術は、当分野で公知のよく使われるものである。標準的な技術を用いて、例えば、核酸の精製及び調製、化学分析、組換え核酸、オリゴヌクレオチド合成などが行われる。酵素反応及び精製技術は、製造者の仕様書に従って、または当分野で通常達成されるように、または本明細書に記載されているように、行われる。本明細書に記載の技術及び手順は、一般的に、当分野で公知の従来の方法に従って、並びに本明細書を通して引用されかつ説明されている様々な一般的及びより具体的な文献に記載されているように、行われる。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Third ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. 2000)を参照されたい。本明細書に関連して用いられる命名法並びに本明細書に記載の検査法及び技術は、当分野で公知かつよく使われているものである。
【0087】
(a)画像形成物質
【0088】
トレーサ分子、特に放射性核種を用いて、心臓の状態を含む細胞的事象をモニタすることは、10年以上前から確立されている。しかし、例えば精子数の減少及び妊娠中の母親の場合の放射能被爆の危険など、ヒトの健康に対する放射性同位元素の使用に関連する潜在的なリスク因子が存在する。本発明の実施形態には、代替トレーサ分子として用いられ得る低分子(micromolecular)バイオプローブが含まれる。
【0089】
例示的な実施形態は、Cryポリペプチドに融合させた蛍光タンパク質を含む融合タンパク質を含む画像形成可能な結晶を含む。例示的な実施形態では、細菌内でタンパク質が発現されたとき、融合ポリペプチドはCry融合タンパク質結晶を形成する。少なくとも1つの実施形態では、蛍光タンパク質は、オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)である。このタンパク質の発色団は、βバレルのタンパク質の核内のセリン、チロシン及びグリシンアミノ酸の自触媒結合(self-catalyzed coupling)から形成される。これらのタンパク質の、細胞の環境内での非毒性特性、外来遺伝子への結合の容易さ、及び獲得可能な多色は、インビボ研究への一般的適用につながった。
【0090】
様々な実施形態は、Cryタンパク質の結晶を形成するバチルス・チューリンゲンシス(Bt)の能力を利用することによって、画像形成物質を提供する。自然界において、Cryタンパク質は、害虫を死滅させることによってBt植物を保護する。昆虫は、植物を食べるときに細菌の消化も行う。細菌の消化は、結晶と、最終的にはCryタンパク質とを放出する。Cryタンパク質は昆虫の中腸膜内に入り、最終的に昆虫を死滅させる孔を形成する。様々な実施形態では、新規な生体材料のフレームワーク(図1)―すなわち、心臓弁における血流の迅速かつ容易な検出のための血液中の蛍光発光の動脈内モニタリングを含む様々な生物医学的応用で用いる生分解性蛍光マイクロドットとして、異常Cryタンパク質結晶が利用される。
【0091】
それにより、本発明の実施形態は、単離されたCryタンパク質のような結晶封入体を形成するが今やGFPドメインのおかげで蛍光性の高いGFP−Cry融合タンパク質(図2)を提供する。或る例示的な実施形態では、「GFP−マイクロドット」は、Cryタンパク質フレームワーク内に互いに離間した多くのGFP分子を有することができるので、1つのGFP分子よりもずっと大きな蛍光を呈することになる。また、提唱されているGFP−マイクロドットは、GFP分子に由来するが、GFP分子のように、吸収しかつ多種多様な波長の蛍光を発するように作られることができる。
【0092】
或る例示的な実施形態が提供する蛍光マイクロドットを用いて、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)により血流速度を測定し、それを用いて複雑な生物学的試料の3次元の画像を構築することができる。あるいは、光干渉断層法(Optical Coherence Tomography:OCT)が、干渉の原理を用いて表面下及び内部の不明瞭な組織のライブイメージングを可能にし得る。OCT法は、散乱光を分離し、コヒーレントすなわち「同相」光のみを抽出して、よりはっきりした画像の作成を可能にする。大部分の従来の蛍光画像技術を用いることにより、血管系における蛍光結晶をモニタして深さ方向の(in depth)画像を得ることができると予想される。他の同様の研究によれば、SPYイメージング・システム(カナダ国のノバダック・テクノロジーズ社(Novadaq Technologies))を用いて膵臓組織の画像が得られた。SPYシステムを用いた心臓の蛍光画像が既に示されている。しかし、これらのシステムでは、合成染料が利用されている。対照的に、例示的な実施形態のGFP−マイクロドットは、完全に生物学的な材料から構成することができる。
【0093】
例示的な実施形態は、概ね安定しているが、処理時にプロテアーゼに対して感受性があり、それによって、イメージング(画像化)工程が完了したら最終的にアミノ酸に分解されることができると予想される。しかし、様々な実施形態は、タンパク質の分解をより遅くする部位特異的突然変異体を持ち得る。例えば、Cry1Abタンパク質のC末端は、トリプシンに対して感受性があることが知られているので、この領域の配列を、結晶を形成する能力に実質的に影響を及ぼすことなく分解速度を低下させるように変更することができる。
【0094】
特定の実施形態では、認識ドメインまたは受容体を追加することができる。そのようなドメインを用いて、体内の特定の標的に色素を向けることができる。1つの具体的な例には、(組換え添加(recombinant addition)を行うかまたは認識ドメインを結晶に架橋させるかのいずれかによって)これらの結晶上に表示させたときに、GFP−マイクロドットを血管系内でガン細胞を同定するように誘導するために用いられることができる腫瘍血管のマーカであるような、CD117と呼ばれる腫瘍関連タンパク質の追加が含まれる。他の実施形態では、造影剤を分子標的剤に結合または架橋させることができる。様々な実施形態において、適切な分子標的剤には、ペプチド、レクチン、抗体(モノクローナル及びポリクローナル)、アプタマー、アビマー(avimer)などが含まれる。例示的な実施形態では、分子標的剤は、組織で発生する病状に関連付けられたマーカを選択的に結合する。
【0095】
(i)GFP−マイクロドットの構築
【0096】
Cryタンパク質(例えばCry1Ab)は、蛍光パートナー(例えばGFP、mCherryなど)と組換えで融合したとき、結晶を形成するように細菌によって誘導される特異的なコンピテントBt細胞において、タンパク質を発現する。マイクロドットと呼ばれるこれらの蛍光融合結晶は、細菌の自己分解(自己融解)によって培地内へ放出され得る。マイクロドットの単離及び精製は、造影剤を用いて密度勾配遠心分離し、続いてカルボキシメチルセルロースカラムでpH勾配精製を行い蛍光マイクロドット結晶から胞子(芽胞)を分離するという単純な二段階工程によって、行うことができる。
【0097】
可視スペクトルの緑色及び赤色領域において蛍光性を有する異なるGFP変異体の遺伝子の分子クローニングを、組換え操作してシャトルプラスミドベクターにした。図3A〜図3Cは、Cry融合タンパク質結晶を発現するための例示的な3つのベクターである。図3Aは、Cry融合結晶発現用の一般的なシャトルベクターである。図3Aの融合タンパク質発現ベクターは、Cry融合タンパク質結晶発現用プラットフォームとしてのpHT315シャトルベクターの使用を含む。クローニングベクターpHT315は、バチルス・チューリンゲンシスの結晶タンパク質の組換え発現を行うために既に開発されている「シャトル」ベクターである。ベクターは、大腸菌内での複製のための複製開始点(ori)及びBtのための別の複製開始点を持つ。さらに、ベクターは2つの抗生物質耐性遺伝子を有し、1つはアンピシリン(AmpR)耐性遺伝子であり、もう1つはエリスロマイシン(EryR)耐性遺伝子である。pHT315ベクターの構造に関する詳細な情報及びベクターの獲得に関する情報については、「Arantes, O. and Lereclus, D. Construction of Cloning Vectors for Bacillus thuringiensis, Gene 1991 v. 108; pp: 115- 119」を参照されたい。例においてシャトルベクターとして用いたpHT315ベクターは、フランス国パリのパスツール研究所のディディエ・レレクラス(Didier Lereclus)の研究室から入手した。再び図3Aを参照すると、ベクターは、所望の融合ポリペプチドに機能的に結合されたCry1プロモータをコードする配列を含む。融合ポリペプチドは、所望の結晶形成Cryポリペプチドまたはその結晶形成断片の上流に位置する所望の異種ペプチドをコードする配列(例えばGFP(SEQ ID NO: 19))を含む。従って、結果として得られるペプチドは、異種タンパク質−Cry融合ペプチドである。図3Aに示されている例示的な実施形態では、Cry1Abコード配列(SEQ ID NO: 3)をクローニングして例示的なシャトルベクターにした。
【0098】
pHT315ベクター、または類似のベクターを用いて、多種多様なCry融合結晶をインビボで発現することができる。図3Bでは、pHT315ベクターを用いてCry3Aa−mCherry融合結晶発現ベクターを作製した。この例では、Cry融合タンパク質ベクターは、バチルス・チューリンゲンシス変種テネブリオニス(Bacillus thuringiensis var tenebrionis)由来の1950bpのCry3Aaコード配列(SEQ ID NO: 7)に機能的に結合されたcry3Aプロモータ(SEQ ID NO: 32)によって駆動される。図3Bに示されているように、フルオロフォアに対する遺伝子mCherry(SEQ ID NO: 20)は、Cry3Aa遺伝子の下流に位置し、その後に停止コドンが続く。ここから理解できるように、多くの他の異種ポリペプチドをCryプラットフォームに融合させることができる。
【0099】
pHT315がCry−異種タンパク質融合ベクターの発現に適しているが、多くの他のベクターも可能である。代替発現ベクターpSB−GFP−1Abのマップを図3Cに示す。
【0100】
1つの例において、GFP(SEQ ID NO: 19)をコードする核酸及びCry1Ab(SEQ ID NO: 3)をコードする核酸をクローニングしてpHT315シャトルベクターにした。図4A及び図4Bは、GFPをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 19)(図4Aを参照)及びCry1Abをコードする配列(SEQ ID NO: 3)(図4A及び図4Bの確認を参照)の正しい取込みを確認する核酸配列データを示している。この例の発現ベクターでは、GFP配列(SEQ ID NO: 19)はCry1Ab配列の上流に位置する。或る例示的な実施形態では、リンカー領域をコードする短い配列を用いて、融合ポリペプチドの組成物を結合させることができる。代替実施形態では、様々な他のCryタンパク質(例えば、Cry3Aaを、様々な他の蛍光タンパク質(例えば、mCherry(SEQ ID NO: 20))に融合させることができる。
【0101】
例示的な実施形態の融合タンパク質をBt内で発現させ、細菌の胞子形成期に結晶を産出することができる。これらの結晶は、図5に概略的に示す手順のような確立された手順を用いて単離することができる。この方法によって得られるCry1Ab結晶由来のタンパク質のSDS−PAGEゲルを図6に示す。図6を参照すると、レーン1には精製したCry1Ab結晶を添加し、レーン2は対照レーンであり、レーン3にはMWマーカを添加した。
【0102】
例示的な実施形態は、上記の戦略を用いて、蛍光タンパク質(例えば、GFP及びmCherry)に融合させたCryポリペプチド(例えば、Cry1Ab)を含む生物学的結晶を産出する。図7は、ニコン80i顕微鏡下の蛍光結晶の画像を含む。(A)バチルス・チューリンゲンシス栄養細胞、胞子及びGFP1Ab結晶のサンプルの位相差画像。(B)バチルス・チューリンゲンシス栄養細胞、胞子及びGFP−Cry1Ab結晶のサンプルのGFP蛍光画像。(C)(A)と(B)とを1つにし、混合物中の蛍光結晶及び非蛍光胞子並びに栄養細胞を示したもの。(D)トリス−EDTA緩衝液中の、精製したGFPCry1Ab結晶から発する蛍光。(E)mCherry1Ab融合タンパク質の蛍光結晶。(F)融合タンパク質なしでCry1Abの胞子及び結晶を産出するバチルス・チューリンゲンシス細胞のバックグラウンド(蛍光なし)サンプル。
【0103】
蛍光共焦点顕微鏡画像(図7)に示されているように、バチルス・チューリンゲンシスにおいて発現されるGFP−Cry1Ab及びmCherry−Cry1Ab融合タンパク質は、サイズ及び形状が互いによく似た生物学的結晶を尚も産出した。とりわけ、GFPは適切に折り畳まれたときにのみ蛍光を発するので、その蛍光が観察されるということは、GFPのタンパク質の折り畳みが結晶内で保持されていることの証明である。従って、酵素及び他の生物学的タンパク質を含む様々な他の異種ポリペプチドも同様に適切な折り畳みを保持するはずである。
【0104】
(ii)GFP−マイクロドットの適用
【0105】
様々な実施形態が、生分解性イメージング色素として有用であり得る。とりわけ、Cry融合タンパク質結晶上に存在するGFP密度は高いので、低マイクロドット濃度で注射すると蛍光分子の可視化が成功するであろう。ヒトの血管系における可視化の簡略化した模式図を図8に示す。様々な実施形態において、対象には、GFP−マイクロドットが注射されることになるであろう。心臓及び心血管系を観察するために、青色の光線を集中させることによって、蛍光光の可視化を達成することができる。代替実施形態では、画像形成可能な結晶は、注射され、消化管を通り抜けることができるので、例えば結腸などのイメージングに有用であり得る。
【0106】
(b)対象における免疫応答を誘起するためのCry結晶種
【0107】
本発明の実施形態では、幅広い希少疾病に適用するための新たな対費用効果が高い戦略を生み出すことによって、伝統的なワクチンアジュバントの毒性及び他の有害な特性を克服する。上記したGFPマイクロドットと同様に、例示的な実施形態のアジュバントは、インビボで結晶を形成するタンパク質に依存している。結晶が、異種ポリペプチド抗原に融合させたCryタンパク質を含む融合ポリペプチドを含む実施形態もあるし、タンパク質結晶が、抗原性タンパク質、エピトープまたは分子を架橋または結合するためのプラットフォームとして機能する実施形態もある。タンパク質結晶をワクチンアジュバントとして用いる効果は、ヒト血清アルブミン(HSA)の架橋させたタンパク質結晶(CLPC)に対して既に調査されている。とりわけ、結晶化されたHSAの免疫原性は、HSAの可溶性形態よりも高いことが分かった。免疫原性の向上は、結晶化されたHSAが体液介在性反応及び細胞介在性免疫応答の両者を増強する能力がより良好であることから生じていた。恐らく、これは、結晶の巨視的サイズと、より長い寿命と、複数の抗原分子とに関連している。しかし、過去の技術の1つの弱点は、標準的なインビトロでのタンパク質結晶化法を用いて均一結晶(生物学的アジュバントとして適用するために望まれるであろうもの)を得ることが困難であったということである。さらに、タンパク質をインビトロで結晶化するための普及している確実な条件はない。よって、各抗原の結晶化条件を適切な架橋剤及び架橋条件と同じように選別する必要があるであろう。
【0108】
上記で実証したように、GFP−Cry1Ab融合タンパク質がインビボで結晶を形成する能力は、重要な発見である。Cry1Abプロトキシンタンパク質が、中でも注目すべきはそのシステインリッチC末端、すなわち結晶形成に重要であると考えられている領域においても、適切に折り畳み構造をとることは、重要な証拠である。現在、プロトキシンC末端領域によって形成されるイオン結合及びジスルフィド結合が結晶形成の原因だと考えられている。このことはまた、変性剤、プロテアーゼ及び高pHを必要とする可溶化の典型条件である生物学的Cry毒素結晶に著しい安定性を与える相互作用が尚も保持され得ることを意味する。この安定性が示唆していることは、例示的な結晶は、抗原そのものよりも長くヒトの血清または粘膜の環境内で分解に耐え、それによって抗原への反応を、より長い期間、より少ないブースター投与量でブースト(追加免疫)する際に役立つことになる安定なアジュバントを提供することができるはずであるということである。特に、結晶の表面上のタンパク質が緩徐な分解によって失われたことにより、新たな一連の抗原を持つ内層が露出することになった。
【0109】
本発明の実施形態には、Cry結晶上の抗原を表示する方法が含まれる。様々な実施形態は、Cryタンパク質−抗原,結晶形成タンパク質をコードするプラスミドベクターを含む。本実施形態のベクターは、画像形成物質に関して上記したように構築され得る。従って、少なくとも1つの実施形態では、Cry1Ab遺伝子のN末端ドメインに融合させた標的抗原を含みかつバチルス・チューリンゲンシスにおける過剰発現に最適化されたpHT315大腸菌バチルス・チューリンゲンシス・シャトルベクター(図3B)が利用される。
【0110】
図9及び図10は、Cryタンパク質−抗原結晶形成融合ポリペプチドをコードするかまたは含むプラスミドの正しい作成を確認する配列データを表している。図9Aは、リシンBサブユニット(抗原)をコードする核酸(SEQ ID NO: 21)をCry1AbのN末端に(リンカーペプチドにより)融合させた一実施形態の配列を示している。図9Bは、Cry1Cプロモータが、Cry1Ab(SEQ ID NO: 3)(Cry部分は図9Bに図示せず)のN末端に融合させた血小板LcrV抗原をコードする配列(SEQ ID NO: 22)に機能的に結合されている一実施形態を確認する配列データを示している。LcrVは、ペスト菌のV抗原である。同じpHT315ベクターにおいて、図10は、ESAT6抗原をコードする核酸配列(SEQ ID NO: 23)がCry1Abをコードする配列(SEQ ID NO: 3)に融合させた一実施形態の配列を示している。図10に示されているように、リンカー領域を用いてCry融合ポリペプチドの組成物を結合させることができる。
【0111】
Cryタンパク質−抗原,結晶形成融合ポリペプチドは、本明細書に記載の方法を用いて容易にかつ低価格で産出される。図11を参照すると、例示的な実施形態において、pHT315−融合Cry1Abベクターは、抗原−Cry1Ab融合タンパク質が産出されるバチルス・チューリンゲンシス細胞に形質転換され得る(図11)。バチルス・チューリンゲンシス細胞の存在を認めた後、巨視的な胞子及び結晶を放出させ、レノグラフィン遠心分離法による分離を可能にすることができる。最終ステップでは、胞子及び結晶粒子をCM−セルロースクロマトグラフィー法によって分離することができる。
【0112】
本発明の実施形態には、マイコバクテリア疾患及び内臓リーシュマニア症に関連する他の抗原−Cry毒素融合タンパク質も含まれる。より具体的には、様々な実施形態には、以下のマイコバクテリウム抗原、すなわち、fbpA、fbpB、fbpC、ESAT6、erp(pirG)、Rv1477、(同様に、MPT53、OmpAtb、IiA、p60、MPT53、OspA)のうちの1つを取り込むCryタンパク質結晶が含まれる。従って、様々な実施形態には、Cryタンパク質またはその結晶形成断片に融合させた、fbpAをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 24)、fbpBをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 25)、fbpCをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 26)、ESAT6をコードする核酸配列(SEQ ID NO: 23)、erp(pirG)をコードする核酸配列(SEQ ID NO: 27)、Rv1477をコードする核酸配列(SEQ ID NO: 28)を有するベクターが含まれる。リーシュマニア抗原には、リーシュマニア抗原とともにリーシュマニアA2が含まれる。
【0113】
本発明の実施形態には、非ヒト動物における免疫応答を誘起するための治療組成物も含まれる。例えば、伝染性サケ貧血伝染性サケ貧血(ISAV)は、感染性の強い太平洋サケ(Salmo salar)の病気である。本発明の実施形態には、ISAV由来のM1プロトンチャンネルをコードする異種配列(SEQ ID NO: 29)に融合させた(または代わりに架橋された)Cryタンパク質結晶をコードする発現ベクターが含まれる。
【0114】
(i)リシン−Cry結晶
【0115】
図12A及び図12Bを参照すると、リシン抗原のサブユニットAの非毒性断片をCry1Abに融合させ、融合タンパク質をバチルス・チューリンゲンシスにおいて発現させた。結果として得られたタンパク質を、トリプシンを用いて活性化させ、融合タンパク質のプロテアーゼ抵抗を試験した。抗リシン抗体を用いて、融合タンパク質結晶をpH10.5で可溶化して30分間トリプシン処理したときに、抗Cry抗体を用いて融合タンパク質なしのプロテアーゼ処理したCry毒素のバンドのみの65kDaの毒素(図12A)と比較して、融合タンパク質の80〜85kDaのバンドがブロット上で未変化(20kDaのリシン断片+65kDaのCry1A毒素)であるように見える(図12B)ことを示すことができた。とりわけ、これらの結果から、推定リシン−Cry1Ab融合タンパク質結晶がリシン断片を実際に含むことが確認される。
【0116】
(ii)Cry1Abの結晶に架橋させたESAT6の調製
【0117】
代替実施形態では、異種タンパク質をCry結晶に化学的に架橋させることができる。以下の例において、チオールベースの架橋剤:ビス−マレイミドエタン(BMOE)を用いて、Cry1Abの結晶を、結核抗原ESAT6の2つの異なる変異体に架橋させた。
1.ESAT6−S16C
2.T細胞ヘルパーペプチド(源=水疱性口内炎ウイルス)を持つESAT6−S16C
変異体1または2の被精製タンパク質を、ニッケル親和性精製法を用いて産出し、SDS−PAGEゲルで確認した(図13)。
以下の方法を用いて異種ESAT6抗原をCry1Ab結晶に架橋させた。
1.細胞を改変シェーファーズ胞子形成培地(modified Schaefers sporulation medium:SSM)内で成長させ、細菌を自己分解させることによって、バチルス・チューリンゲンシス内でCry1Abの結晶を産出した。
2.7000rpmで5分間遠心分離することによって結晶を収集し、ペレットを滅菌水に再懸濁した。
3.造影試薬(contrast enhancing reagent)の連続密度勾配媒体イオジキサノールを、勾配マーカを用いて水中で産出した。
4.収集したペレットを、ベックマンL7超遠心機でスイング型バケットロータを用いて5000rpmで70分間勾配遠心分離した。
5.結晶を含むバンド(位相差顕微鏡法を用いて調べられる)を勾配から抽出し、滅菌水で7〜10回洗浄してデブリ及びイオジキサノールを除去し、結晶を精製した。その後、結晶を3回洗浄し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)pH7.0に再懸濁した。
6.精製した結晶を、1mMのトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)を用いて4℃で1時間還元し、過剰なTCEPはPBS,pH7.0を用いて洗い落とした(洗浄を7〜10回繰り返した)。
7.還元した結晶を、2倍モル過剰のBMOE架橋剤で処理し、4℃で3時間インキュベートした。3時間後に、0.2M DDTを用いて反応を停止させ、結晶を5mlのPBS,pH7.0で10回洗浄した。
8.その後、洗浄した結晶をPBS中にてESAT6の変異体#1または変異体#2と混合し(変異体の説明については上記を参照)、4℃で一晩インキュベートして架橋された結晶と反応させた。
9.ESAT6変異体を持つ架橋させた結晶を10mlのPBS(pH8.0)で10回洗浄した。
10.架橋させた結晶(50ul)を、2%のb−メルカプトエタノールの存在下で50mMのNa2CO3(pH10.5)を用いて可溶化し、ESAT6のスタンダードに対してブロットした。
11.抗ESAT6抗体を用いたドットブロットを行い、架橋量を定量した(図14)。
【0118】
ESAT6抗原をCry結晶に架橋させるための代替方法には、以下のステップが含まれる。
1.純粋ESAT6タンパク質をモル比1:10でSIAとともにPBSに室温でインキュベートする。
2.PD10(セファデックスG25)カラムを用いて遊離標識体(free label)からESAT6タンパク質を精製する。
3.Cry1Abの結晶を1mM DTTとともに30分間インキュベートする。
4.4℃で10分間、21000gで遠心分離する。
5.1X PBSで洗浄する。21000gでの遠心分離を繰り返す。ステップ5を3回繰り返す。
6.Cry1Abの結晶を、SIA架橋させたESAT6と、モル比1:10で混合する。
7.室温で18〜20時間インキュベートする。
8.結晶を遊離ESATタンパク質から4℃で10分間、21000gで遠心分離する。
9.結晶を1X PBS(pH7.5)で洗浄し、4℃で10分間、21000gで遠心分離する。
10.ステップ6を3回繰り返す。
11.1:10000希釈の抗ESAT6一次抗体を用いたドットブロットを用いて架橋を試験する。
12.対照を用いて架橋特異性を測定した。
・サンプルと同じ方法でSIA処理していないCry1Abと混合したESAT6
・Cry1Abの結晶単独(陰性対照)
・ESAT6タンパク質単独(陽性対照)
エピトープがCry1Abに正しく架橋されたか否かを分析するために、ドットブロットを行った。図15(様々なESAT6/Cryタンパク質のドットブロット)に示されているように、ESAT6は、Cryタンパク質、例えば、Cry1Ab:ボックス1=マイコバクテリウム・マリヌム(融合ESAT−1Ab発現)由来のESAT6、ボックス2=緩衝液対照(架橋に用いられるリン酸緩衝液)、ボックス3=結核菌(Cry1Ab結晶に架橋させた)由来のESAT6、ボックス4=結核菌(対照)由来のESAT6タンパク質、ボックス5=1Ab(架橋させていない対照)の結晶と混合したESAT6タンパク質、ボックス6=Cry1Abの結晶(結晶対照)に首尾よく架橋され得ることが、ドットブロットにより確認された。
【0119】
(iii)LcrV/Cry融合タンパク質
【0120】
pHT315シャトルベクターの項で上記したようにLcrV抗原タンパク質とのCry融合を構築した。上記したように、LcrVは、病原体であるペスト菌のV抗原である。図16は、50mMのNa2CO3,pH10.5に1時間(レーン2)及び2時間(レーン4)可溶化したLcrV−Cry1Ab融合結晶で、1:10,000に希釈した抗LcrV抗体を用いたウェスタンブロットを示している。レーン1及び3の対照は、それぞれ1時間及び2時間可溶化したCry1Abの結晶を含む。
【0121】
(iv)Cry融合タンパク質に対する抗体反応
【0122】
Cry−ESAT6融合結晶の免疫原性をマイコバクテリウム・マリヌム単独から得られるESAT6タンパク質の免疫原性と比較するために、BALB/cマウスの初回抗体力価を測定した。固定免疫スケジュール通りにマウスに同量のESAT6及び結晶を注射した。図17は、ESAT6−TTP2/MVFP(「ESAT6」としてグラフに示されている)及びESAT6−Cry1Ab結晶(「ESAT6−Cry」としてグラフに示されている)に対するBalb/cマウスの抗体反応を比較するグラフである。簡単に言えば、0、2、4週目に、マウス1匹当たり10μgのESAT6−Cry結晶またはマウス1匹当たり50μgの精製した組換えESAT6−TTP2/MVFP(既知の免疫原)によりマウスを免疫化した。1:250の力価で希釈した血清を用いて比色定量ELISAアッセイを展開した。結晶に対する抗体反応は、免疫認識ヘルパーペプチドTTP2を追加した可溶性タンパク質のものと等価であることがわかった。このことは、結晶が免疫調節物質として働く潜在能力を示している。ESAT6の融合結晶は、可溶性タンパク質そのものよりも高力価に達するのに時間が掛かる。このことは、抗原が、最初は埋められている位置のせいで免疫系への提示から除外され得るが、プロテアーゼが結晶充填を開くと、免疫系へ提示される抗原の量がより多くなることを示唆している。
【0123】
(v)食用治療薬
【0124】
日本の納豆、タイ/インドのキネマ、西アフリカのダワダワは、ダイズまたはアフリカのローカストビーンのいずれかの細菌発酵によって産出される食品である。発酵工程において0.3μmの抗原−結晶タンパク質封入体を作るように操作されたバチルス株を用いることによって、本発明の実施形態は、発展途上世界における感染症を治療するのに適した安価で食用のワクチンを提供することができる。
【0125】
産出。既に示したように、マイコバクテリウム結核由来のESAT6などの高い免疫抗原性を示す抗原のための遺伝子をcry遺伝子に融合させ、Cry−抗原融合タンパク質結晶の産出を可能にすることができる。日本の納豆の標準的な調理法に従って、100gのダイズを一晩浸し、調理して外因性細菌を死滅させることができる。結果として得られたダイズに、Cry−抗原融合結晶形成バチルスの培養液5mLを播種し、その後、37℃で24〜48時間発酵させるこおtにより、所望の納豆TB−ワクチンを得ることができる。
【0126】
Cry−抗原食品補充ワクチンの治療効果の検査。所望の抗原を、経口免疫化経路を用いてマウスに送達することができる。例えば、Cry−抗原結晶産生バチルスを用いて産出した発酵製品(例えば納豆)を、5匹のマウスからなる群に(1食当たり10μgの初回抗原刺激量(prime dose)で)与えることができる。対照マウスには、Cry結晶産生バチルス(抗原なし)またはCry欠損バチルス(結晶なし)のいずれかから産出した納豆を与えることができる。繰り返しのブースター投与を3週間毎に最大5回行うことになる。通常は抗原チャレンジ感染(challenge)に関連する特定のサイトカイン(例えばCD4及びTNFα)のレベルを測定するように設計されたELISAキットを用いて、一定時点において、ワクチン接種したマウス及び2つの対照群の免疫応答を比較することができる。
【0127】
免疫化から4〜6週間後に、マウスに、毒性のある病原体の少量のエアロゾル(50〜100CFU)をチャレンジ感染させることができる。チャレンジ感染から30日後に残っている生存桿菌の数を数えることにより、保護の有効性を判定することになる。本方法は、チャレンジ感染後30日目に臓器(肺及び脾臓)を均質化し、10倍段階希釈して7H11寒天プレート上に播いて、残留CFUを計算することになる。
【0128】
さらに、細胞傷害性Tリンパ球反応を評価するために、チャレンジ感染から30日後に採取する血液サンプルに基づいてインターフェロン・ガンマ(IFN−γ)及び/またはインターロイキン2(IL−2)酵素結合免疫吸着スポットアッセイを用いることになる。IFN−γ反応を分析するために、抗−IFN−γ抗体被覆プレートを用いてELISPOTアッセイを行うことになる。免疫マウスから採取したマウスの脾細胞またはリンパ細胞にESAT6抗原を加えて(COインキュベータ内で)37℃で24〜48時間インキュベートすることになる。細胞デブリを洗い落とした後、プレートを、ビオチン化抗−IFN−γ−一次抗体を用いて2時間インキュベートし、その後ストレプトアビジン−HRP複合体で2時間、さらに発色基質を加えてインキュベートすることになる。発生した色は、イムノスポットアナライザーを用いて読み取ることになる。
【0129】
(c)機能種(Functional Species)を送達及び運搬するための物質
【0130】
例示的な実施形態は、細菌バチルス・チューリンゲンシス内で産出される規則正しい形状の、マイクロメートルサイズのタンパク質結晶に基づく機能種(例えば、酵素またはタンパク質治療薬)の経口送達のための新規なプラットフォームを含む。或る例示的な実施形態では、これらの生物学的タンパク質結晶は、Cryタンパク質を含む。Cry−GFPまたはCry−ルシフェラーゼなどのレポータータンパク質に融合させたCryタンパク質のバチルス・チューリンゲンシスにおける過剰発現は、タンパク質結晶の形成をもたらす。図18に示されているように、Cry融合タンパク質結晶は、保護結晶フレームワーク内に標的タンパク質をカプセル化するための新規なプラットフォームとして機能する。この点に関して、これらの生物学的に産出されるCryタンパク質結晶の2つの重要な特徴は、(1)サイズが比較的均一であることと、(2)標準的な生理学的条件下で安定していることである。
【0131】
様々な実施形態において、Cryタンパク質結晶は、様々な活性酸素種(ROS)分解酵素(例えば、スーパーオキシド・ジスムターゼ、グルタチオンオキシダーゼ、カタラーゼなど)の送達を促進し得る。実施形態は、虚血再潅流傷害による損傷を抑制するための新規な経口療法を含む。様々な組成物は、認知機能低下を遅らせるかまたは寿命を延ばすための経口サプリメントとしても機能し得る。他の実施形態では、Cryタンパク質結晶は、神経ガス分解酵素(Transmembrane Biosciences)の送達を促進することができる。別の実施形態では、Cryタンパク質結晶は、コカイン分解酵素の送達を促進することができる。経口投与が好ましいが、機能種を持つ融合ポリペプチドを含む産出されたCry結晶を、上記以外の経路により投与してもよい。
【0132】
薬剤として酵素を投与することは、薬学における新しい領域の1つである。しかし、市場に出ているほとんどの酵素補充療法は、腹腔内注射を必要とするということが限界の1つである。さらに、血管系内での酵素の寿命は特に長いというわけではない。これらの特徴は、酵素療法を施すために極めて高い費用を生じさせることがある(ゴーシェ病患者の場合、一生にわたり毎年550,000米ドル)。本発明の実施形態は、これらの限界を、酵素治療薬の経口送達のための一般的なプラットフォームとして機能する生物学的タンパク質結晶により克服する。様々な実施形態において、標的酵素治療薬は、細菌バチルス・チューリンゲンシス内で自然に自己組織化して結晶になる結晶形成Cryタンパク質への融合タンパク質として産出されることになる。有利には、本発明の実施形態には、(1)経口または経鼻投与を促進することができ、(2)安価であり、(3)純粋でありかつサイズが均一で、(4)標的酵素をタンパク質分解から保護するような、一般的な酵素送達プラットフォームが含まれる。
【0133】
少なくとも1つの実施形態は、活性酸素種(ROS)(例えば、過酸化物及び過酸化水素の過剰産出)によって誘発される病態を治療するためのCry結晶融合タンパク質を含む。ヒト及び大部分の他の生物において、ROSを除去しかつ分解するために特異的な酵素がある。最もよく反応するROS種である過酸化物の分解は、スーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD)によって仲介される。これらの酵素は、過激な過酸化物を、より穏やかな酸化剤、二原子酵素及び過酸化水素に変える。過酸化水素は、今度は、カタラーゼによって不均化して分解されるか、または過酸化水素の酸化等価物を用いてグルタチオン(GSH)を酸化するグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)によって分解される。とりわけ、これらの酵素を用いた外部処理は、寿命の増加、加齢に起因する認知低下の遅延、酸化的細胞損傷からの保護を含む無数のメリットがあることを示した。有望であるにもかかわらず、酵素ベースのROS療法は現在市場にない。これを受けて、本発明の実施形態は、経口治療薬及びサプリメントとして用いるための、Cry−SOD及びCry−GPx結晶などのCry結晶−酵素融合タンパク質を含む。
【0134】
本発明の実施形態には、酵素治療薬を血管系に送達するための担体として新規なプラットフォームが含まれる。このプラットフォームは、グラム陽性細菌バチルス・チューリンゲンシスの細胞内で自然に産出されるマイクロメートルサイズのタンパク質結晶に基づく。これらの結晶は、特定のクラスのCryタンパク質と呼ばれる結晶形成タンパク質で構成される。結晶サイズにもよるが、各結晶は、150〜500個のCryタンパク質分子を含む。
【0135】
様々な実施形態は、標的タンパク質または酵素の遺伝子をcry遺伝子の5’末端または3’末端のいずれか一方に融合させることによって、標的異種タンパク質または酵素をCry結晶プラットフォーム内に取り込む。或る例示的な実施形態では、融合カセットをクローニングしてpHT315大腸菌バチルス・チューリンゲンシス・シャトルベクターなどの発現ベクターにすることができる。このベクターを形質移入して細菌にし、生きた細菌(例えば、バチルス・チューリンゲンシス)内でのCry−酵素融合結晶の産出に用いることができる。とりわけ、バチルス・チューリンゲンシスは胞子形成後に自己分解し、結晶は特徴的な密度を持つので、遠心分離によって結晶を容易に精製することができる。これらの結晶を細菌内で直接合成すると、精製の容易さと相まって、治療薬に基づくこれらのCry結晶の産出を非常に経済的なものにする。
【0136】
図19に示されているように、産出したCry−GFP及びCry−mCherry結晶は蛍光性であるが、これは、追加のタンパク質組成物の存在によって結晶形成が妨げられず、結晶中のGFPドメインが適切に折り畳まれていることを示している(図19)。さらに、同様の方法で活性酵素取り込むこともできる。pHT315発現ベクター(図3A)を用いて、酵素ルシフェラーゼをコードする遺伝子(SEQ ID NO: 31)を、Cry1Abをコードする遺伝子(SEQ ID NO: 3)に融合させた。このベクターを用いて、上記したようにCry−ルシフェラーゼ結晶を産出した。これらの融合結晶をルシフェリンで処理すると、活性ルシフェラーゼに期待される化学ルミネセンスが得られた(図20)。
【0137】
Cry結晶は、大部分の細胞に不活性であるが、マクロファージによって取り込まれることができる。様々な実施形態では、Cry結晶の食作用を妨げるためにペグ化手法が適用される。この目的に向かって、ペグ化されたCry−GFP結晶を調製し、これを用いてペグ化が予想通りに食作用を減少させることを実証した(図21)。例示的な実施形態では、マクロファージの食作用を最小にしかつさらに触媒化学に最適なPEGサイズが選択されるべきである。代替実施形態では、例えば治療酵素を送達するためにマクロファージにCry結晶融合タンパク質を取り込ませることが有利であり得る。よって、図22は、マクロファージによるCry−GFP結晶の短期取込みを示している。蛍光画像は、15分間後(A)及び4時間後(B)のマクロファージによる結晶の取込みを示している。これらの画像は、Cry3A−GFP結晶のものである。青色は核である。これらの画像において、緑色のドットは、マクロファージにより取り込まれている蛍光結晶である。
【0138】
マクロファージの他に、他の細胞型でもCry結晶融合タンパク質を容易に取り込むことができる。この能力を実証するために、NIH3T3線維芽細胞を、15uL 0.6ug/mLのCry3Aa−mCherry結晶を200uLのDMEM完全培地に添加したものを用いて、37℃/5%CO2で1.5時間インキュベートした。インキュベートした後に、細胞を1mLの1X PBSで3回洗浄して遊離Cry3Aa−mCherry結晶を取り除いた。その後、洗浄した細胞に200uLのDMEM完全培地を加え、パラホルムアルデヒドで固定する前にさらに1.5時間インキュベートした。図23の蛍光顕微鏡写真に見られるように、線維芽細胞は、明らかにCry3Aa−mCherry結晶を含んでいる(赤い点がDAPI染色した核を取り囲んでいるのが分かる)。
【0139】
Cry結晶融合タンパク質を含む例示的な実施形態は、Cry結晶そのもののように、驚異的な安定性を有するはずである。特定の実施形態は、Cry(例えばCry1Ab)結晶に融合させたタンパク質及び酵素を含む。多くのCry結晶は、プロテアーゼが存在する場合でさえ、結晶を可溶化するために高いpHを必要とする。ヒトの胃腸管が酸性に保たれているという性質を考えると、本実施形態の結晶は未変化のままであることが期待される。従って、Cry結晶は、その酵素カーゴをタンパク質分解から保護することができよう。代替実施形態では、Cry結晶を関連酵素に結合させるために架橋及び/または他の表面改質が用いられる。
【0140】
安定性に加えて、経口送達に関する別の考慮すべき事項は、取込みの機序である。この点において、Cry結晶の1つの重要な利点は、Cry結晶が、昆虫の中腸細胞の膜内に入るタンパク質であるCryタンパク質でできていることである。この役割のおかげで、本実施形態のCry結晶融合タンパク質は、腸壁を介して結晶を運搬するのに役立つように有益な特性を有し得る。代替実施形態では、タンパク質の傍細胞取込みに役立つことが証明されているキトサン誘導体などの様々な運搬エンハンサを加えることができる。
【0141】
本発明の実施形態には、酵素治療薬としてCry−SOD及びCry−SOD/GPx結晶が含まれる。様々な実施形態において、大腸菌Cu−Zn SOD(SEQ ID NO: 30)に対応する遺伝子を、バチルス・チューリンゲンシス発現ベクターpHT315のcry遺伝子(例えばSEQ ID NO: 3)に融合させることができる。大腸菌Cu−Zn SODは、比較的小さく(17kDa)、高活性であり、その結晶構造に基づいて単量体であることが確認されているので、理想的である。
【0142】
SOD酵素によって過酸化物を分解すると、より軽度であるが尚も強力なROSである過酸化水素を生じるので、少なくとも1つの実施形態には、Cry−SOD及びCry−GPx遺伝子の共発現によって産出されるCry−SOD/GPx共結晶が含まれる。グルタチオンペルオキシダーゼは、SODにより発生させた過酸化水素を捕らえ、それを用いて大量の血液代謝物であるグルタチオンの酸化を促進することになる。カタラーゼよりもGPxが選択されるのは、より小さなサイズと、DNAポリメラーゼの忠実度への作用のおかげでマンガン―変異原の必要性がないという事実とに起因する。様々な実施形態において、バチルス・チューリンゲンシス由来のGPxが用いられるが、その理由は、このGPxが、配列アラインメントに基づくセレノプロテインではないからであり、結晶が産出される生物から生じるので活性化状態で産出される絶好の機会があるからである。
【0143】
本実施形態の結晶は、心筋再潅流傷害、加齢、メタボリック症候群、及びその他の、ROSが関与する疾患を予防するために、Cry−SOD/GPx結晶を腹腔内注射及び/または経口投与することができる。
【0144】
様々な実施形態では、酵素治療薬の経口送達のためのユニークな方法においてCry結晶プラットフォームが用いられる。既に述べた技術革新の前には、タンパク質結晶技術は標的タンパク質を産出するために複数のステップを必要としていた。過去の方法及びシステムを使う場合、タンパク質を精製する必要があり、その後、結晶化状態を確認する必要があって、その末にやっとタンパク質を結晶化することができた。最後に、多くの過去の技術は、血管系内で安定性を維持するためにタンパク質を架橋する必要があった。有利には、本明細書に記載の様々な実施形態において、これらのステップ全てを、今では細菌ホストによってたった1つのステップで、すなわちショ糖密度勾配遠心分離法による結晶の精製により、行うことができる。
【0145】
(d)代用血液としてのCry結晶
【0146】
代用血液に関する研究は、多くの理由で重要であり、特に特定の外傷性の高い状況において、ヒトの輸血よりも多くの恩恵を与える。輸血された血液が全能力に到達するには24時間掛かる場合があるが、代用血液は速やかに全酸素運搬能力に到達する。酸素を運ぶ代用血液は、血液抗原を持たないので、外傷を負った犠牲者の迅速な治療のためにネガティブな免疫応答を引き起こすことなく全ての血液型に用いることができる。さらに、病原体を持たない(disease-free)酸素治療薬源は、人口の大部分にHIV/AIDSが発症し、血液供給が比較的危険であるような世界の地域に大いに利益をもたらすであろう。
【0147】
ミオグロビン(Mb)は、153個のアミノ酸残基及び1個のヘム分子からなる単鎖球状タンパク質である。この酸素結合タンパク質は、哺乳類の筋肉組織における酸素拡散を促進する。ミオグロビンの構造は、α及びβヘモグロビンサブユニットの構造に非常に類似している。しかし、ヘモグロビンと違い、ミオグロビンの酸素結合は、周囲組織における酸素の圧力に比較的影響を受けない。ミオグロビンは、高い親和性で酸素と結合するが、多量体ヘモグロビンができるように親和性を変えることはできない。従って、ミオグロビンは、酸素に対して双曲線酸素曲線を有し、通常は酸素運搬よりも酸素貯蔵によく適している。
【0148】
ミオグロビン(Mb)ベースの代用血液が成果を挙げるには、酸素に対する親和性を選択的に変化させ、ヘモグロビンが高次構造の変更により達成するO2親和性の多用途性を模倣することが必要になる。必要な、より低い酸素親和性は、ミオグロビンにおいて、結合酸素の立体障害を増加させるか、またはミオグロビンの極性鉄−酸素複合体における酸素結合を弱めるかのいずれかによって達成することができる。従って、本発明の実施形態は、ミオグロビンの二重変異体を、酸素親和性を増減させることができることになる代用血液に取り入れる。次に、バチルス・チューリンゲンシス細菌によって産出される結晶形成Cryタンパク質に、ミオグロビン変異体を融合させることができる。
【0149】
例示的な実施形態では、Cry−ミオグロビン融合タンパク質は、ミオグロビン変異体の酸素結合特性を示す結晶を形成する。本発明の実施形態では、結果として得られる結晶にカプセル化されたミオグロビン変異体は、酸素運搬に適した特性と、患者の血液レベルが回復している間に長期間使用するための安定性と、人体への低い毒性とを有し得る。とりわけ、本発明の実施形態に有用なCry結晶は、ヒトに対して非毒性で、かつサイズがヒトの血管系の静脈及び動脈の径より小さい約1μmである。
【0150】
代替実施形態では、代用血液として他の物質を用いることもある。例えば、様々な実施形態は、パーフルオロカーボン(PFC)及びヘモグロビンベース酸素担体(HBOC)に機能的に結合されたCryタンパク質を用いて、適切な酸素結合特性を示す結晶を形成することができる。PFCは、酸素を運搬しかつ放出することができる化合物であり、PFC粒子は、ヒトの赤血球(RBC)よりもかなり小さいので、RBCが到達できない損傷組織内の毛細管に到達することができる。
【0151】
(e)工業用酵素を安定化するためのCry結晶
【0152】
Cry結晶が、ルシフェラーゼなどのカプセル化されたタンパク質を調製することができるということは、一般の酵素をカプセル化することもできることを物語っている。精製の容易さを前提として、分子の化学合成のための容易な酵素のカプセル化、または市販の洗剤(タイド、チアーなど)におけるプロテアーゼなどの安定化変異体及び他の酵素の調製に利用することもできる。
【0153】
(f)細胞の再プログラミングのためのタンパク質送達
【0154】
様々な実施形態は、細胞内への細胞再プログラミングを目的とするタンパク質を送達するためのプラットフォームとして用いられ得る融合タンパク質結晶を含む。
【0155】
例示的な方法では、所定の細胞株(例えばマクロファージ)を、8ウェルチャンバースライドに1ウェル当たり5×104個播種し、37℃、5%CO2で一晩インキュベートすることができる。その後、細胞を1Xリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄して非接着細胞を除去し、続いて、10%ウシ胎児血清及びpen/strepを補充した200uLのダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's modified Eagle's medium:DMEM)中で120μg/mLのCry3Aa−標的融合タンパク質(例えばCry3Aa−AMP活性化タンパク質キナーゼ)結晶とともに37℃、5%CO2で24〜72時間インキュベートすることができる。インキュベーション期間の後で、遊離Cry3Aa−標的融合タンパク質結晶を除去するために細胞をPBSで3回洗浄し、その後、表現型特性を特徴付けることができる。
【0156】
機能性ペプチドを送達する能力は、多くの治療手段を提供する。例えば、生殖細胞系列特異転写因子Oct4の外因性発現は、成体マウスNSCから多能性幹細胞を産出するには不十分であることは、既に他の者によって示されている。「Kim, et al. Cell 136, 411-419, February 6, 200、Zhou et al. Generation of Induced Pluripotent Stem Cells Using Recombinant Proteins. Cell Stem Cell 4, May 8, 2009」を参照されたい。しかし、過去の方法は、遺伝子及びタンパク質の送達に対する技術的障害によって制限されていた。
【0157】
Cry結晶は、再プログラミングポリペプチドを送達するための効果的な手段を提供する。1つの理論実験例では、Cry融合結晶の形態でリプログラミング・タンパク質(例えばOct4タンパク質)を送達することによって限界を克服することができる。pHT315ベクターを用いて、Cry3Aa−Oct4融合結晶発現ベクターを作ることができる。図3Bに示した発現ベクターと同様に、バチルス・チューリンゲンシス由来のCry3Aaコード配列(SEQ ID NO: 7)をOct4遺伝子(SEQ ID NO: 33)の上流に融合させ、後に停止コドンを続けることができる。その後、タンパク質を神経幹細胞に接触させて再プログラミングを促進することができる。
【0158】
腫瘍抑制タンパク質p16INK4aの機能的不活性化は、膵管細胞及び造血細胞の形質転換における重要な側面であることが実証済みである。しかし、これまでは、関連する悪性腫瘍のターゲッティングは、新生細胞内の核酸及びペプチドの送達への技術的障害によって妨げられてきた。これを受けて、様々な実施形態は、p16INK4aなどの腫瘍抑制タンパク質に融合させたCryタンパク質を含む融合ポリペプチドを病気の細胞及び組織内に効果的に導入し得るタンパク質送達のための方法及び組成物を含む。代替実施形態では、タンパク質結晶をp16INK4aなどの腫瘍抑制タンパク質に架橋させるかまたは結合することができる。この例では、バチルス・チューリンゲンシス由来のCry3Aaコード配列(SEQ ID NO: 7)を、p16INK4aコード配列(SEQ ID NO: 34)の上流に融合させ、後に停止コドンを続けることができる。転移を抑制するために、p16INK4aタンパク質をその後悪性細胞に送達することができる。
【0159】
他の実施形態
【0160】
本発明の実施形態についてその詳細な説明とともに説明してきたが、上述の説明は、本発明を説明することを目的としており、本発明の範囲を限定するものではない。他の態様、利点及び変更形態も、以下の特許請求の範囲内にある。
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本PCT出願は、2009年6月5日に出願された米国特許仮出願第61/184,63号及び2010年3月12日に出願された米国特許仮出願第313,525号の優先権を主張するものである(両仮出願の開示内容全体は、参照により本明細書に援用されるものとする)。
【0002】
(連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載)
本発明は、国立衛生研究所による認可番号第1 R21 AI081291-01号の下で、米国政府の支援によりなされたものである。米国政府は、米国特許法第200条以下の下に、本発明において一定の権利を有し得る。
【0003】
(技術分野)
本発明は、多目的生体材料に関する。より具体的には、本発明は、Cryタンパク質またはその結晶形成断片を用いた生体材料、組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0004】
害虫を防除するための環境に優しい方法は、土壌細菌であるバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis:Bt)由来の殺虫性の結晶タンパク質(通常、「Cryタンパク質」と呼ばれる)の使用である。Cryタンパク質は、バチルス・チューリンゲンシスの芽胞形成期の後期に結晶形態のプロトキシンとして蓄積される球状タンパク質分子である。害虫が摂取すると、前記結晶は溶解され、幼虫のアルカリ性の中腸環境でプロトキシンを放出する。プロトキシン(約130kDa)は、腸プロテアーゼによって成熟毒性断片に変換される。これらのタンパク質の多くは、特定の標的昆虫に対して非常に有毒であるが、植物や他の非標的生物に対しては無害である。
【0005】
害虫抵抗性トランスジェニック植物を提供するために、いくつかのCryタンパク質を作物植物中で遺伝子組換え的に発現させることが行われてきた。とりわけ、Bt?トランスジェニック綿及びBt?トランスジェニックトウモロコシが広く栽培されてきた。様々な種類のCryタンパク質が単離され、特徴付けされ、アミノ酸配列の相同性に基づいて分類されてきた(Crickmore et al., 1998, Microbiol. Mol. Biol. Rev., 62: 807-813を参照されたい)。この分類体系は、新しく発見されたCryタンパク質を命名及び分類するための体系的な方法を提供する。Cry1クラスが最も良く知られており、現在の総数が130を超える最多のcry遺伝子を含む。
【0006】
これまで、Cryタンパク質の使用は、主に、害虫防除関連の用途に限られてきた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態は、細菌のバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)の、規則的な形状及びマイクロメートルサイズを有するCry殺虫性プロトキシン結晶を産生する能力を活用する。様々な実施形態では、これらの結晶は、種々の用途に有用な様々な組成物を作製するためのプラットホームとして使用される。
【0008】
従って、本発明の実施形態は、異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質またはその結晶形成断片を含んでなる複数の融合ポリペプチドから形成されたタンパク質結晶を含む培養細胞を含む。
【0009】
例示的な実施形態では、前記培養細胞は細菌性細胞である。別の実施形態では、前記培養細胞は、植物細胞などの真核細胞である。
【0010】
いくつかの実施形態では、前記異種ポリペプチドは免疫原性抗原である。他の実施形態では、前記異種ポリペプチドは画像形成物質である。いくつかの実施形態では、前記画像形成物質は蛍光タンパク質である。別の実施形態では、前記異種ポリペプチドは代用血液である。他の実施形態では、前記異種ポリペプチドは治療用タンパク質及び/または酵素である。さらなる別の実施形態では、前記異種ポリペプチドは工業用酵素である。
【0011】
様々な実施形態では、前記Cryタンパク質は、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)のゲノムに由来する、任意のCryタンパク質または短縮型の結晶形成Cryタンパク質成分であり得る。例えば、前記Cryタンパク質は、Cry1Aa、Cry1Ab、Cry2Aa、Cry3Aa、Cry4Aa、Cry4Ba、Cry11Aa、Cry11Ba、Cry19Aa、それらの相同体、またはそれらの結晶形成断片であり得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、前記免疫原性抗原は、fbpA、fbpB、fbpC、ESAT6、erp(pirG)、Rv1477、MPT53、OmpAtb、IiA、p60、MPT53、OspAから成る群より選択される。
【0013】
他の実施形態は、細菌から単離したタンパク質結晶であって、異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質を含んでなる融合ポリペプチドを含むタンパク質結晶を含む。いくつかの実施形態では、前記異種ポリペプチドは免疫原性抗原である。他の実施形態では、前記異種ポリペプチドは画像形成物質である。様々な他の実施形態では、前記画像形成物質は蛍光タンパク質である。別の実施形態では、前記異種ポリペプチドは代用血液である。さらなる別の実施形態では、前記異種ポリペプチドは治療用タンパク質及び/または酵素である。他の実施形態では、前記異種ポリペプチドは工業用酵素である。
【0014】
他の実施形態は、組成物であって、異種ポリペプチドに化学的に架橋したCryタンパク質結晶を含む組成物に関する。
【0015】
別の態様は、核酸であって、異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質結晶を含んでなり、細胞内でインビボで結晶を形成することができる融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含む。さらに、様々な実施形態は、融合ポリペプチドを発現する発現ベクターを含む。
【0016】
別の実施形態は、細菌内生胞子(芽胞)であって、異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質を含んでなる融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含む細菌内生胞子を含む。
【0017】
少なくとも1つの実施形態は、融合ポリペプチドであって、Cryタンパク質及び免疫原性抗原を含んでなる融合ポリペプチドを含む。
【0018】
本発明の実施形態は、医薬組成物であって、融合タンパク質結晶、及び/または異種ポリペプチドに化学的に架橋したCryタンパク質結晶を含む医薬組成物を含む。前記医薬組成物は、薬学的に許容可能な補形剤、担体、希釈剤または賦形剤を追加的に含むことが好ましい。
【0019】
様々な実施形態は、細菌から組換え型タンパク質結晶を単離する方法であって、異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質をコードする核酸発現ベクターで前記細菌を形質転換するステップと、自己融解時に前記細菌から芽胞/結晶混合体が放出されるまで、前記細菌を培養媒体中で成長させるステップと、密度勾配遠心法または親和性クロマトグラフィー法を用いて、前記芽胞/結晶混合体を遠心分離するステップと、融合タンパク質の精製された結晶を単離するステップとを含む方法を含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、前記細菌は、バチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)または枯草菌(Bacillus subtilis)である。従って、いくつかの実施形態は、バチルス・チューリンゲンシス細胞から組換え型タンパク質結晶を単離する方法であって、Cryタンパク質及び異種ポリペプチドを含み、生細菌において結晶を形成することができる融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を有する核酸発現ベクターで前記バチルス・チューリンゲンシス培養物を形質転換するステップと、自己融解したバチルス・チューリンゲンシス細胞から芽胞/結晶混合体が放出されるまで、前記バチルス・チューリンゲンシス培養物を成長させるステップと、密度勾配遠心法を用いて、前記芽胞/結晶混合体を遠心分離するステップと、前記結晶をクロマトグラフィー分離するステップと、精製された融合タンパク質結晶を単離するステップとを含む方法を含む。
【0021】
本発明の実施形態は、抗原に対する対象の免疫応答を誘起する方法であって、異種免疫原性抗原に融合したCryタンパク質を含むタンパク質結晶を、前記対象に、前記抗原に対する免疫応答を誘導するのに有効な量で投与するステップを含む方法を含む。いくつかの実施形態では、前記投与ステップは、鼻腔内投与、経口投与、または腹腔内投与によって行われる。
【0022】
本発明の実施形態は、抗原に対する対象の免疫応答を誘導する方法であって、異種免疫原性抗原に融合したCryタンパク質を含むタンパク質結晶を、前記対象に、前記抗原に対する免疫応答を誘導するのに有効な量で投与するステップを含む方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0023】
以下の詳細な説明及び添付の図面を参照することにより、本発明の実施形態をよりよく理解することができるであろう。
【0024】
【図1】胞子形成するバチルス・チューリンゲンシス細菌のCry1Abタンパク質結晶と融合したGFPの模式図。
【図2】N末端にGFPドメイン、C末端にCryドメインを有する発現融合タンパク質の模式図。
【図3A】pHT315融合Cry1Ab発現ベクターのプラスミドマップ。
【図3B】Cry3Aa遺伝子がmCherryの前に置かれている例示的な融合結晶発現ベクター。
【図3C】GFPが挿入されたpSB634−1Abのプラスミドマップ。
【図4】(A)及び(B)1つの例示的なGFP−Cry1Abクローンの2つの異なる領域を確認する配列データ。
【図5】Btからバイオ結晶を産出し、それを精製するための例示的な方法を示すフローチャート。例は、pSB6341Ab発現プラスミドを用いて蛍光バイオ結晶を精製する方法を示す。
【図6】図5に示した例示的な方法によって得られるCry1Ab結晶由来のタンパク質のSDS−PAGEゲル。
【図7】ニコン80i顕微鏡下の蛍光結晶の画像。(A)バチルス・チューリンゲンシス栄養細胞、胞子及びGFP1Ab結晶のサンプルの位相差画像。(B)バチルス・チューリンゲンシス栄養細胞、胞子及びGFP−Cry1Ab結晶のサンプルのGFP蛍光画像。(C)(A)と(B)とを1つにし、混合物中の蛍光結晶及び非蛍光胞子並びに栄養細胞を示したもの。(D)トリス−EDTA緩衝液中の、精製したGFPCry1Ab結晶から発する蛍光。(E)mCherry1Ab融合タンパク質の蛍光結晶。(F)融合タンパク質なしでCry1Abの胞子及び結晶を産出するバチルス・チューリンゲンシス細胞のバックグラウンド(蛍光なし)サンプル。
【図8】血管系中の結晶及び結晶と融合したGFPから発する局所的蛍光の流れの模式図。
【図9】(A)例示的なリシン−Cry1Abベクターから得た配列データ。(B)例示的なLcrV−Cry1Abベクターから得た配列データ。
【図10】例示的なESAT6−Cry1Abベクターから得た配列データ。
【図11】免疫応答を生じさせるために用いられる融合タンパク質の結晶の成長、単離及び精製のための例示的な方法のフローチャート。
【図12】(A)抗Cry抗体を用いたCry1Abタンパク質及び(B)抗リシン抗体を用いたリシン−Cry1Ab融合タンパク質で処理したプロテアーゼのウェスタンブロット。
【図13】成功したESAT6変異体の精製を示すSDS−PAGEゲル。
【図14】架橋の量を定量するための、抗ESAT6抗体を用いたドットブロット。
【図15】抗ESAT6抗体を用いたドットブロット。1=マイコバクテリウム・マリヌム(融合ESAT−1Ab発現)由来のESAT6、2=緩衝液対照(架橋に用いられるリン酸緩衝液)、3=結核菌(Cry1Ab結晶に架橋させた)由来のESAT6、4=結核菌(対照)由来のESAT6タンパク質、5=1Ab(架橋させていない対照)の結晶と混合したESAT6タンパク質、6=Cry1Ab(結晶対照)の結晶。
【図16】1時間(レーン2)及び2時間(レーン4)にわたって50mMのNa2CO3,pH10.5に可溶化したLcrV−Cry1Ab融合結晶で1:10,000で希釈した抗LcrV抗体を用いたウェスタンブロット。レーン1及び3の対照は、それぞれ1時間及び2時間にわたって可溶化したCry1Abの結晶を含む。
【図17】ESAT6及びESAT6−Cry1Ab結晶に対するBalb/cマウスの抗体反応を示すグラフ。0、2、4週目にマウス1匹当たり10μgのESAT6−Cry結晶またはマウス1匹当たり50μgの精製した組換えESAT6−TTP2/MVFPによりマウスを免疫化した。1:250の力価で希釈した血清を用いて比色定量ELISAアッセイ展開を展開した。
【図18】Cry結晶構造を説明する2次元模式図。(A)cry遺伝子はCry結晶を産出し、(B)cry−sod遺伝子融合はCry−SOD結晶を産出し、(C)cry−sod及びcry−GPxの二重発現はCry−SOD/GPx結晶を産出する。
【図19】ニコン80i顕微鏡下の蛍光結晶の画像。(A)トリス−EDTA緩衝液中の、精製したGFP−Cry1Ab結晶から発する蛍光。(B)mCherry−Cry1Ab融合タンパク質の蛍光結晶。
【図20】ルシフェリンで処理したCry−ルシフェラーゼ結晶の化学ルミネセンスを、ほとんど見えない非発光性対照とともに示す。
【図21】マクロファージの食作用に対するペグ化の効果。(A)Cry−GFP結晶対照、(B)ペグ化されたCry−GFP結晶。核は、DAPIで染色されている。
【図22】マクロファージによるCry−GFP結晶の短期取込みを示す蛍光顕微鏡写真画像。(A)15分後のマクロファージ、(B)4時間後のマクロファージ。
【図23】NIH3T3線維芽細胞がCry3Aa−mCherry結晶を取り込むことを確認する蛍光顕微鏡写真画像(赤い点がDAPI染色した核を取り囲んでいるのが分かる)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
別段の定義がなければ、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明の属する技術分野の当業者によって共通して理解されるのと同一の意味を有する。本発明の様々な実施形態の実施または試験においては本明細書に記載したものと同様または同等の方法及び材料を使用することができるが、好ましい方法及び材料は以下に記載する。本明細書で言及した全ての出版物、特許出願、特許及び他の参考文献の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用されるものとする。矛盾が生じる場合には、定義を含めて本明細書に従うものとする。さらに、材料、方法、及び実施例は、単に説明的なものであって、限定を意図したものではない。
【0026】
本明細書で使用するセクション見出しは、単なる構成上の目的のためのものであり、説明した対象事項を限定するものと解釈されるべきではない。若干の(わずかな)逸脱が本発明の範囲に含まれるように、本明細書に記載された温度、濃度及び時間などの測定基準の前には「約」が付けられていることに留意されたい。本願においては、特に断りがない限り、単数形の使用は複数を含む。また、「含む、含有する」及びそれらの全て活用形の使用も、限定を意図するものではない。上述の概略的な説明と以下の詳細な説明の両方は、単なる例示的及び説明的なものであり、本発明を限定するものではない。冠詞「a」及び「an」は、本明細書においては、該冠詞の文法上の目的語が1または1以上(すなわち、少なくとも1つ)であることを指すために使用される。例えば、「an element(要素)」は、1つの要素または1つ以上の要素を意味する。
【0027】
例示的な実施形態は、細胞内でインビボで産生されたタンパク質結晶を含む。好適な実施形態では、本発明のタンパク質結晶は細菌内で産生される。例示的な実施形態では、タンパク質結晶は、グラム陽性菌であるバチルス・チューリンゲンシス(Bt)によって産生される。インビボで結晶を産生するために様々な他の細菌を使用することができ、例えば、枯草菌(Bacillus subtilis)が異種Cryタンパク質結晶を産生することが分かっている。「Agaisse, H and Lereclus, D. (1994) 176 (15) Journal of Bacteriology, p. 4734-4741」を参照されたい。別の実施形態では、本発明の融合タンパク質結晶は、真核細胞内でインビボで産生され得る。例えば、緑葉体内でのBt結晶の成功的なインビボ発現が、タバコ植物において実証されている。「Cosa et al. (2001) Nature Biotechnology 19:71-74」を参照されたい。
【0028】
本明細書で使用される用語「Cryタンパク質」または「Cryポリペプチド」は、バチルス・チューリンゲンシスに由来するCryポリペプチドのいずれか1つを指す。本明細書で使用されるCryタンパク質は、完全長のタンパク質でもよく、またインビボでの結晶形成活性が保持される限りは短縮型のタンパク質でもよい。ハイブリッドまたは融合タンパク質においては、Cryタンパク質は、互いに異なるタンパク質の組み合わせでもよい。本明細書で使用される「cry遺伝子」または「cryDNA」は、Cryタンパク質をコードするDNA配列である。
【0029】
様々な実施形態では、生物学的に合成された結晶はサイズがほぼ均一であり、結晶サイズに応じて、1結晶あたり約150〜500個のタンパク質分子を有している。バチルス・チューリンゲンシスにおいては、本発明の結晶は前記細菌の芽胞形成期中に産生され、前記細菌内で芽胞に沿って形成される。Cryタンパク質は、ヒト及び他の哺乳類には無害である。本発明の実施形態は、Cry結晶を、生物学的及び工業的用途のための共通プラットフォームとして活用する。
【0030】
Cry結晶融合技術及び/またはCryタンパク質架橋技術が、ほぼ無限の範囲の異種ポリペプチドを示す結晶を産生するためのプラットフォームを提供することは容易に理解できるであろう。Cry融合タンパク質においては、異種タンパク質の各々は、結晶形成中に固有の折り畳み特性を保持し得る。結晶内に形成されたポケットのサイズは、結晶のサイズのみならず、結晶の形状によっても異なる。従って、融合結晶に組み込み可能なタンパク質のサイズの上限を特定することは難しい。
【0031】
本発明の実施形態は、バチルス・チューリンゲンシスCryポリペプチド(例えば、Cry1Aa、Cry1Ab、Cry2Aa、Cry3Aa、Cry4Aa、Cry4Ba、Cry11Aa、Cry11Ba、及びCry19Aa)に由来するCryポリペプチド及びCry融合ポリペプチドを含み、それらには、以下に限定しないが、配列ID番号:2、4、6、8、10、12、14、16及び18のCry由来ポリペプチドが含まれる(添付の配列表を参照のこと)。Cry由来ポリペプチドのポリペプチド配列に加えて、ポリペプチドはその変異体も本発明に含まれ、それらには、以下に限定しないが、任意の断片、類似体、相同体、天然型対立遺伝子、またはそれらの突然変異体が含まれることは容易に理解できるであろう。ポリペプチドは、Cry由来核酸によりコードされたポリペプチドも含む。様々な実施形態では、インビボで結晶を形成し、かつ、配列ID番号:2、4、6、8、10、12、14、16及び18またはそれらの変異体のいずれかのポリペプチド配列と少なくとも80%、81%、82%、83%、84%、88%、90%、95%、98%、99%または99.5%の同一性を有するシャッフルされたポリペプチドを含む。また、例えば組み換え手段を用いた、本発明のポリペプチドの製造方法も提供される。また、1以上の本発明のポリペプチドを含む組成物も本発明に含まれる。
【0032】
本発明の実施形態は、配列ID番号:1、3、5、7、9、11、13、15及び17のCry由来核酸分子を含む。また、少なくとも部分的には機能的に活性な、すなわち、生物学的に合成された結晶を形成可能なポリペプチドをコードする断片及び類似体も本発明に含まれる。一実施形態では、配列ID番号:1、3、5、7、9、11、13、15及び17またはそれらの相補体のいずれかと少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または99.5%の同一性を有する単離されシャッフルされた核酸分子を含む。本発明の核酸を含むベクターも本発明に含まれる。本発明のベクターを含む細胞または植物も本発明に含まれる。
【0033】
いくつかの実施形態では、本発明のタンパク質結晶は、異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質またはある短縮型の結晶形成Cryタンパク質成分を含んでいる融合ポリペプチドを含む。例示的な実施形態では、本発明の融合ポリペプチドは細胞内でインビボで発現し、結晶を形成する。特定の実施形態では、本発明の融合ポリペプチドの結晶は、Bt細胞内で産生される。さらに、様々な実施形態が、Bt細胞から直接的に採取することができる。例示的な実施形態の融合ポリペプチド結晶は、安定的である。例示的な実施形態では、簡単な精製法により、前記結晶を比較的安価に得ることができる。様々な実施形態には、種々の用途のための物質及び方法が含まれ、それらには、以下に限定しないが、ワクチン、画像形成物質、分子標的質、治療用酵素またはタンパク質を特定の細胞または組織へ送達するための物質、代用血液、及び、生体分子を動物モデルまたはヒトモデルへ移送または送達するための物質が含まれる。
【0034】
例示的な実施形態は、タンパク質結晶学の標準的な方法により成長させた他のタンパク質結晶と区別できる。例示的な実施形態の結晶(例えばCry1Ab)は、バチルス・チューリンゲンシス細胞内で産生することが好ましい。その結果、生物学的に合成されたCry結晶はサイズがほぼ均一であり、非常に簡単な精製方法によって生体材料として直接的に採取することができる。
【0035】
様々な実施形態では、Cryタンパク質を含む融合ポリペプチドが提供される。様々な融合ポリペプチドをコードする核酸配列も提供される。
【0036】
様々な実施形態は、組換え型タンパク質の結晶を含む。例示的な実施形態では、前記結晶は、CryポリペプチドまたはCry融合ポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの物質、ポリペプチド、核酸、及び/または分子を前記結晶に結合または架橋してもよい。本明細書で使用される「結晶」は、その構成原子、分子またはイオンが3つの空間方向の全てに延びる規則的な繰り返しパターンで配列された固体物質を指す。結晶の測定は任意の手法によって行うことができ、それらには、とりわけ、光学顕微鏡法、電子顕微鏡法、X線粉末回折法、固体核磁気共鳴法または偏光顕微鏡法が含まれる。微鏡法を用いることにより、結晶の長さ、直径、幅、サイズ及び形状を測定したり、結晶が単一粒子として存在するかあるいは多結晶であるかを調べたりすることができる。
【0037】
本明細書で使用される「内生胞子」なる用語は、環境ストレス期間中に細菌内で産生された任意の胞子(芽胞)を指す。
【0038】
本明細書で使用される「融合ポリペプチド」なる用語は、2以上の互いに異なるタンパク質に由来するアミノ酸配列の一部を含むポリペプチドを指す。
【0039】
本明細書で使用される「核酸配列」なる用語は、別々の断片の形態の、またはより大きな構造体の一部としての、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドのポリマーを指す。目的の生成物を発現する核酸は、cDNA断片から、または、組換え転写単位中で発現可能な合成遺伝子を提供するオリゴヌクレオチドから構築することができる。ポリヌクレイオチドまたは核酸配列には、DNA、RNA及びcDNA配列が含まれる。
【0040】
本発明に用いられる核酸配列は、様々な方法によって得ることができる。例えば、DNAは、当該技術分野で周知のハイブリダイゼーション法を用いて単離することができる。これらには、以下に限定しないが、(1)ゲノム化するためのプローブまたは共通のヌクレオチド配列を検出するためのcDNAライブラリのハイブリダイゼーション、(2)共通する構造的特徴を検出するための発現ライブラリの抗体スクリーニング、及び(3)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による合成が含まれる。特定の遺伝子及びポリペプチドの配列は、米国国立衛生研究所のコンピュータデータベースである遺伝子バンクから入手することもできる。
【0041】
別の態様では、本発明の実施形態は、融合ポリペプチドを含む所望のタンパク質結晶を製造する方法であって、融合ポリペプチドをコードする核酸を含むホスト細胞を、前記核酸配列の発現を可能にする条件下で成長させるステップと、前記ホスト細胞内に形成された結晶を回収するステップとを含む方法を提供する。様々な実施形態の核酸配列は、原核生物または真核生物発現系内での発現のためのプロモータに対して作用可能に結合することができる。例えば、核酸は、発現ベクター内に組み込むことができる。
【0042】
核酸の送達は、当該技術分野で周知の様々な方法を用いて、核酸を細胞内に導入することによって達成することができる。例えば、核酸構造体を、コロイド分散系を用いて、細胞内へ送達してもよい。あるいは、核酸構造体を、適切なベクター内に組み込んでもよい(すなわちクローン化する)。発現を目的として、融合ポリペプチドをコードする核酸配列を、組換え型発現ベクター内に挿入してもよい。「組換え型発現ベクター」なる用語は、融合ポリペプチドをコードする核酸配列の挿入または組み込みにより操作された、プラスミド、ウイルス、または当該技術分野で周知の他の媒体を指す。この発現ベクターは、一般的に、複製起点、プロモータ、並びに、形質転換細胞の表現選択を可能にする特定の遺伝子を含む。本発明に使用するのに適したベクターには、以下に限定しないが、バチルス・チューリンゲンシス(Bt)内での発現のためのpSB6341Ab発現ベクター、バチルス・チューリンゲンシス(Bt)内での発現のためのpHT315発現ベクター、細菌内での発現のためのT7系発現ベクター(Rosenberg et al., Gene, 56:125, 1987)、哺乳動物細胞内での発現のためのpMSXND発現ベクター(Lee and Nathans, J. Biol. Chem., 263:3521, 1988)、及び昆虫細胞内での発現のためのバキュロウイルス由来ベクター、カリフラワー・モザイク・ウイルス、CaMV、タバコモザイクウイルス、及びTMVが含まれる。
【0043】
使用されるベクターに応じて、構成的プロモータ、誘導プロモータ、転写エンハンサー要素、転写ターミネータなどの様々な適切な転写要素または翻訳要素のいずれかを発現ベクターに使用し得る(例えば、Bitter et al., Methods in Enzymology, 153:516-544, 1987を参照されたい)。これらの要素は、当該技術分野では周知である。
【0044】
「作用可能に連結される」または「作用可能に結合される」という表現は、調節配列と、前記調節配列により調節される核酸配列との間の機能的な結合を意味する。作用可能に結合された調節配列は、核酸配列による産物の発現を制御する。あるいは、前記機能的な結合は、エンハンサー要素も含む。
【0045】
「プロモータ」は、転写を誘導するのに十分な最小ヌクレオチド配列を意味する。また、この定義には、プロモータ依存型核酸配列発現を、細胞型特異的、組織特異的、または外部信号または物質によって誘導できるように制御可能にするのに十分なプロモータ要素も含まれる。このようなプロモータ要素は、天然遺伝子の5´もしくは3´領域内に、またはイントロン内に配置され得る。
【0046】
「遺伝子発現」または「核酸配列発現」は、機能的な生物学的効果が実現されるように、検出可能なレベルの送達ヌクレオチド配列が或る量で或る期間に渡って発現するように、ヌクレオチド配列が成功的に転写及び翻訳される過程を意味する。
【0047】
発現ベクターは、標的細胞を形質転換するのに使用することができる。「形質転換」は、新しいDNA(すなわち、細胞に対して外因性のDNA)を細胞に組み込んだ後に、前記細胞内において誘導された恒久的な遺伝子変化を意味する。前記細胞が哺乳類細胞である場合、恒久的な遺伝子変化は一般的に、前記細胞のゲノムへのDNAの導入によって実現される。「形質転換された細胞」は、Cryタンパク質またはその断片を含む融合タンパク質をコードするDNA分子が組換えDNA技術によって導入された細胞を意味する。組換え型DNAによるホスト細胞の形質転換は、当業者に周知の従来技術によって実施され得る。前記ホストが、大腸菌などの原核細胞である場合、指数増殖期後に採取し、当該技術分野で周知の手法を用いてCaCl2法によって処理した細胞から、DNA取り込み可能なコンピテント細胞を作り出すことができる。あるいは、MgCl2またはRbClを使用することもできる。形質転換は、ホスト細胞のプロトプラストの形成後に、または、エレクトロポレーション(電気穿孔)法によって行うこともできる。
【0048】
融合ポリペプチドを含んでいる結晶は、原核生物内での、タンパク質をコードする核酸の発現によって産生することができる。これらには、以下に限定しないが、融合タンパク質をコードする組換え型プラスミドDNA、バクテリオファージDNAまたはコスミッドDNAの発現ベクターにより形質転換された細菌(例えばBt)などの微生物が含まれる。ベクター構造体は、バチルス・チューリンゲンシス内で、大規模に発現させることができる。
【0049】
様々な実施形態では、所望の結晶の精製を、簡単かつコスト効率良く行うことができる。まず、Cryポリペプチドに融合した異種ポリペプチドまたはその結晶形成断片をコードするシャトルベクターを作製する。発現ベクターは、バチルス・チューリンゲンシス内で過剰発現するように最適化されることが好ましい。前記ベクター(例えば、pHT315−融合Cry1Ab)は、細菌(例えば、バチルス・チューリンゲンシス細胞)に形質転換され、前記細胞内で前記融合タンパク質が作製され、結晶が形成される。様々な実施形態では、所望の結晶が、前記細菌(例えば、バチルス・チューリンゲンシス細胞)の芽胞形成期中に前記細菌内で芽胞に沿って産生される。その後、芽胞/結晶混合物が、自己融解Btから放出される。レノグラフィン勾配遠心法を用いて密度勾配遠心分離を行い、芽胞と結晶を含んでいる帯域を分離する。最後のステップでは、芽胞粒子及び結晶粒子をCMセルロースクロマトグラフィー法によって互いに分離し、所望の融合ポリペプチドを含む精製された結晶を得る。
【0050】
別の実施形態では、発現配列が、例えばニッケルキレートクロマトグラフィー法による一段階精製のためのタグを含んでいる場合、細菌からのCry結晶の精製も実現され得る。前記構造体はまた、融合ポリペプチドの単離を簡便にするためのタグを含むこともできる。例えば、ヒスチジン6残基などのポリヒスチジンタグを、蛍光タンパク質のアミノ末端に組み込むことができる。ポリヒスチジンタグは、ニッケルキレートクロマトグラフィー法による一段階でのタンパク質の簡便な単離を可能にする。可能性がある他のタグしては、CBP、CYD(共有結合性だが解離可能なNorpDペプチド)、StrepII、FLAG、HPC(タンパク質Cの重鎖)ペプチドタグ、並びに、GST及びMBPタンパク質融合タグシステムがある。本発明の融合ポリペプチドはまた、タンパク質回収を助けるための開裂部位を含むように改変することもできる。あるいは、本発明の実施形態の融合ポリペプチドは、原位置での適用のために、所望のホスト細胞内で直接的に発現することもできる。
【0051】
他の実施形態では、本発明の結晶は、前記結晶の性質に関連する活性が依然として利用可能な精製されていないまたは部分的に精製された状態で使用することができる。そのような例としては、細胞成長後に得られた結晶含有細胞または溶融タンパク質、あるいは、遠心分離後に得られた結晶含有断片の使用が挙げられる。
【0052】
前記ホストが真核生物の場合、リン酸カルシウム共沈法、従来の物理的方法、例えば、微量注入法、電気穿孔法、リポゾームに包まれたプラスミドの挿入またはウイルスベクターなどの、DNAのトランスフェクション法が用いられ得る。真核細胞はまた、本発明の融合ポリペプチドをコードするDNA配列、及び、単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子などの選択可能な表現型をコードする第2の外来DNA分子を同時形質移入されることもできる。他の方法は、シミアンウイルス40(SV40)またはウシパピローマウイルスなどの真核生物ウイルスベクターを使用して、真核細胞を一過的に感染させるかまたは真核細胞を形質転換し、タンパク質を発現させる方法である(Eukaryotic Viral Vectors, Cold Spring Harbor Laboratory, Gluzman ed., 1982)。本明細書に記載したように、真核生物ホストをホスト細胞として利用することが好ましい。
【0053】
真核細胞系及び好ましくは哺乳類発現系は、発現した哺乳類タンパク質の適切な翻訳後修飾が起こるのを可能にする。一次転写産物の適切な処理、グリコシル化、リン酸化反応、及び遺伝性産物の好適な分泌のための細胞機構を有する真核細胞を、ポリペプチドの発現のためのホスト細胞として使用すべきである。そのようなホスト細胞株には、以下に限定しないが、CHO、VERO、BHK、HeLa、COS、MDCK、Jurkat、HEK−293、及びWI38が含まれる。
【0054】
微生物的または真核生物的に発現させたポリペプチドの単離または精製のための技術は、分取クロマトグラフィー分離法や免疫学的分離法(例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体または抗原の使用を伴う方法)などの任意の従来の手段であり得る。
【0055】
医薬組成物
【0056】
別の態様では、融合ポリペプチド、またはCryタンパク質結晶に対して結合もしくは架橋結合した他の分子、核酸、またはタンパク質かのいずれかを含んでなり、本明細書に記載されているように、薬学的に許容される担体と共に製剤化された、所望の結晶を含む組成物、例えば薬学的に許容される組成物が提供される。動物に適用する場合は、細菌分離株またはある部分精製された結晶断片の粘膜投与も可能である。
【0057】
本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」には、薬学的な適合性を有する、あらゆる溶媒、分散媒、等張及び吸収遅延剤などが含まれる。前記担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄、経口、経鼻、経皮投与(例えば、注射または点滴により)に適するものである。
【0058】
前記組成物は、様々な形態であり得る。それらには、液体、半固体及び固体の形態が含まれ、例えば、溶液(注射可能または点滴可能な液体)、分散系または懸濁液、リポソームまたは坐薬などが含まれる。好適な形態は、意図する投与方法及び治療用途に依存する。有用な組成物は、注射可能または点滴可能な溶液の形態であり得る。有用な投与方法は、非経口(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内)である。例えば、本発明のタンパク質または結晶は、静脈内点滴または注射により投与することができる。別の実施形態では、本発明のタンパク質または結晶は、筋肉内または皮下注射によって投与される。また、本発明のタンパク質または結晶組成物は、経口または経鼻投与によって投与することができる。例えば、鼻腔内(i.n.)に送達する場合、Cry1Acは、強力な粘膜免疫原及び補助剤である。「Rodriguez-Monroy (2010) Scand. J. of Immunology 71, pp: 159-168」を参照されたい。
【0059】
動物及びヒトへの投与用の組成物は、一般的に、製造及び貯蔵の条件下で安定的であるべきである。前記組成物は、溶液、マイクロエマルション、分散系、リポゾーム、または、高結晶濃度に適する他の秩序構造として製剤化することができ、そのようなものとしては、細胞培養物から直接的に単離された細菌性細胞集団またはある凍結乾燥形態がある。無菌注射溶液は、上記した成分の1つもしくは組み合わせと共に、活性化合物(例えば、Cry融合ポリペプチド、異種分子と架橋結合したCry結晶)を適切な溶媒中に所要量で組み込み、必要に応じてその後ろ過滅菌することによって調製することができる。一般的に、分散液は、塩基性分散媒及び上記した他の必要な成分を含有する無菌媒体中に活性化合物を組み込むことによって調製される。無菌注射溶液の調製に無菌粉末を使用する場合、好適な調製方法は、その予め滅菌ろ過した溶液から、活性成分と任意の所望の追加成分とを含む粉末を生成する真空乾燥及び凍結乾燥法である。溶液の適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散形態の場合には必要な粒径サイズを維持することにより、及び界面活性剤の使用により維持することができる。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる物質、例えばモノステアレート塩あるいはゼラチンを前記組成物内に含めることによってもたらすことができる。動物に投与する場合、細胞ペーストまたは部分的に精製された組成物を動物に、直接的に、凍結乾燥したものを、またはある分散形態で与えることが好適であり得る。
【0060】
前記組成物は、当該技術分野で公知の様々な方法によって投与することができ、様々な治療及び予防用途のために投与することができる。投与経路及び方法は、所望する結果に応じて異なることは、当業者には明らかであろう。
【0061】
例示的な実施形態では、組成物(例えば、Cry融合ポリペプチドを含む結晶、異種分子もしくは物質と架橋結合したCry結晶)は、例えば不活性希釈剤または吸収可能な可食性担体と共に経口投与され得る。本発明の化合物(所望に応じて他の成分)は、硬質または軟質のシェルゼラチンカプセル内に封入するか、あるいは、対象(ヒトや動物)の食べ物に直接的に組み込まれ得る。経口治療投与については、前記化合物は、賦形剤と組み合わせることができ、摂取可能なタブレット、口腔錠、トローチ、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁液、シロップ剤、オブラート剤などの形態で使用され得る。他の非経口投与以外の方法によって化合物を投与するためには、前記化合物をその不活性化を防ぐための材料で被覆するか、または、前記化合物をその不活性化を防ぐ材料と同時投与することが必要であり得る。治療用組成物は、当該技術分野で公知の医療デバイスによって投与することができる。
【0062】
投与計画は、最適な所望の応答(例えば、治療効果)を提供するために調節される。例えば、単回ボーラスで投与するか、複数回に分けた投与量で経時的に投与するか、または、治療状況の緊急性に応じて投与量を比例的に減少または増加させてもよい。投与を容易にするため及び投与量を均一にするために、非経口組成物を投与単位で製剤化することは特に有利である。本明細書で用いられる投与量単位は、治療される対象のための単位投与量として適した物理的離散単位を意味し、各単位は、必要な薬学的担体と組み合わせて所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含有する。投与量単位の形態の詳細は、(a)活性化合物のユニークな特徴及び達成すべき特定の治療効果、及び(b)個体の感受性の治療のために前記活性化合物を配合する技術に固有の限界によって決定され、また直接的に依存する。
【0063】
Cry融合ポリペプチドまたはその断片の治療的または予防的な有効量の非限定的な例示的範囲は、0.1〜100mg/kg、例えば1〜10mg/kgである。さらに、特定の対象については、個体のニーズ、及び前記組成物を投与する者または前記投与を監督している者の専門的判断に応じて特定の投薬計画を経時的に調節すべきであること、ならびに、本明細書中に記載された投与量範囲は例示的なものに過ぎず、本発明の組成物の範囲及び実施を制限することを意図していないことを理解すべきである。正確な投与量は、投与経路に応じて異なり得る。筋肉注射の場合、投与量範囲は、1回の注射あたり、100μg〜10mgであり得る。複数回の注射が必要とされ得る。
【0064】
本明細書中に説明した医薬組成物は、Cry融合ポリペプチド、及び/または異種分子と架橋結合したCry結晶(Cry融合ポリペプチドまたはCryポリペプチドのいずれかを含む)を含む所望のCry結晶を、治療効果がある量または予防効果のある量で含有することができる。Cry融合ポリペプチド、及び/または異種分子と架橋結合したCry結晶(Cry融合ポリペプチドまたはCryポリペプチドのいずれかを含む)を含む所望のCry結晶の治療効果がある量は、個体の病状、年齢、性別及び重量や、個体において所望の応答を励起するための組成物の性能などの因子に応じて異なる。治療効果がある量とは、有益な治療効果が医薬組成物の毒性または有害作用を上回る量でもある。化合物の、測定可能なパラメーターを抑制する性能は、標的対象(例えば、ヒト対象)における効果の動物モデル系予測で評価することができる。あるいは、組成物の特性は、化合物の調節能力、例えばインビトロでの調節能力を、当業者に公知のアッセイで検査することにより評価することができる。
【0065】
「予防的な有効量」は、所要の投与量及び/または期間で、所望の予防的な結果、例えば、病原体によるその後の影響に対する防御免疫を達成するための有効な量を指す。一般的に、予防的投与量は、疾病前にまたは疾病の初期段階で対象に使用されるため、予防的な有効量は、治療的な有効量よりも少ない量となる。
【0066】
また、本発明によれば、Cry融合ポリペプチドまたはその結晶形成成分をコードする1以上の核酸ベクター、所望のタンパク質結晶及びまたはCry融合ポリペプチドまたはその結晶形成成分を含む所望のCry結晶を含む組成物のインビボ発現のための細菌、及び/または、異種分子または物質と架橋結合したCry結晶(Cry融合ポリペプチドまたはCryポリペプチドのいずれかを含む)を含むキットが提供される。前記キットは、次のような、1以上の他の要素を含むことができる。使用説明書。他の試薬、例えば、ラベル、治療薬、または、Cryタンパク質を治療剤または診断用薬に架橋結合、組み換え操作または別の方法で結合または融合させるために有用な物質。投与用の組成物を調製するためのデバイスまたは他の材料。薬学的に許容可能な担体。対象に投与するためのデバイスまたは材料。
【0067】
使用説明書は、インビトロでの(すなわちサンプル、例えば患者の生検材料または細胞における)またはインビボでの、タンパク質結晶、ポリペプチド、核酸配列の診断用途のための指示を含むことができる。前記指示は、推奨されている投与投与量及び/または投与方法を含む、治療または予防用途のための指示を含むことができる。
【0068】
前記キットは、診断用薬剤または治療用薬剤などの少なくとも1つの追加的な試薬をさらに含むことができ、例えば、1以上の別個の製剤内に1以上の追加的な所望の結晶及び/または物質を含むことができる。
【0069】
治療的使用
【0070】
本明細書で説明した新規の核酸、融合ポリペプチド、及び架橋種(crosslinked species)は、インビトロ及びインビボでの診断的、治療的及び予防的な有用性を有する。例えば、様々な疾病を治療、予防及び/または診断するために、例えばインビトロまたはエクスビボで、あるいは対象内で(例えばインビボで)、ワクチン及び蛍光性マイクロドットを培養物内の細胞に対して投与することができる。
【0071】
本明細書において使用される「対象」なる用語は、ヒト及びヒト以外の動物を含むことを意図する。「ヒト以外の動物」には全ての脊椎動物が含まれ、例えば、ヒト以外の霊長類、ブタ、ニワトリや他の鳥、マウス、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ及び魚などの哺乳類及び非哺乳類が含まれる。
【0072】
融合ポリペプチドを含有するCry結晶、及び/または、異種分子及び/または物質と架橋結合したCry結晶の投与方法は上述した通りである。使用される分子の適切な投与量は、対象の年齢または体重、あるいは使用される特定の組成物に依存する。上記したワクチンは、予防接種を受けた対象において防御免疫を誘導することにより、様々な病状を予防するのに使用することができる。また、向上させた免疫応答が対象の現在の状に関連する病原体の制御に有用である場合、上記したワクチンは対象の現在の疾患を治療するのに使用することができる。例えば、特定の抗原に融合したCryポリペプチドを含んでなる融合タンパク質を含有するCry結晶を使用して、細菌性及び/または急性インフルエンザ感染を予防、減少または軽減することができる。
【0073】
他の実施形態では、Cry結晶に融合または架橋結合した抗原性ポリペプチドまたはその抗原性断片を免疫原的に有効な量で含有する免疫原性組成物及びワクチンが提供される。ポリペプチド配列における免疫原性エピトープは、当該技術分野で公知の方法に従って同定することができる。そのようなエピトープを含有するタンパク質または断片は、ワクチン組成物に含ませて、様々な手段によって送達することができる。
【0074】
適切な組成物には、例えば、リポペプチド(例えば、「Vitiello et al., J. Clin. Invest., 95:341, 1995」を参照されたい)、ポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)(PLG)ミクロスフェア中に封入されたペプチド組成物(例えば、「Eldridge et al., Molec. Immunol., 28:287-94, 1991」、「Alonso et al., Vaccine, 12:299-306, 1994」、「Jones et al., Vaccine, 13:675-81, 1995」を参照されたい)、免疫刺激複合体(ISCOM)に含有されたペプチド組成物(例えば、「Takahashi et al., Nature, 344:873-75, 1990」、「Hu et al., Clin. Exp. Immunol., 113:235-43, 1998」)、及び多抗原性ペプチド系(MAP)(例えば、「Tam, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 85:5409-13, 1988」、「Tam, J. Immunol. Methods, 196:17-32, 1996」を参照されたい)が含まれる。例えばアバント・イムノセラピューティクス社(Avant Immunotherapeutics, Inc.)(米国マサチューセッツ州ニーダム)の技術などの毒素標的送達技術(レセプター媒介標的化とも呼ばれる)を使用することもできる。
【0075】
免疫原性組成物及びワクチンと共に使用することができる有用な担体は周知であり、そのようなものには、例えば、サイログロブリン、アルブミン(ヒト血清アルブミンなど)、破傷風トキソイド、ポリアミノ酸(ポリL−リジンなど)、ポリL−グルタミン酸、インフルエンザ、B型肝炎ウイルスコア・タンパク質などが含まれる。組成物及びワクチンは、生理学的に耐容性のある(すなわち許容可能な)希釈剤、例えば、水または食塩水(典型的にはリン酸緩衝生理食塩水)を含有することができる。前記組成物及びワクチンは、結晶に加えて、追加的なアジュバントも含有し得る。不完全フロイントアジュバント、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、またはミョウバンなどのアジュバントが、当該技術分野で公知の材料の例である。さらに、インフルエンザまたは他のウイスル性ポリペプチド(または、その断片、誘導体または類似体)を、トリパルミトイル−S−グリセリルシステイニル−セリル−セリンなどの脂質と共有結合させることにより、CTL応答をプライミングすることができる。
【0076】
例えば、注射、エアロゾル、経口、経皮、経粘膜、胸膜腔内、髄腔内、または他の適切な経路による、タンパク質組成物を含有する組成物またはワクチンを用いた免疫付与は、CTL、及び/または所望の抗原に対して特異的な抗体を大量に生成することにより、組成物またはワクチンに対して応答するホストの免疫系を誘導する。従って、ホストは一般的に、その後の感染(例えば、結核菌(M. tuberculosis)に対して少なくとも部分的に免疫になるか、罹患中の慢性感染症の進行に対して少なくとも部分的に抵抗的になるか、あるいは、少なくとも何らかの治療効果を誘導する。例えば、対象を、標的ウイルスまたは細菌による続発性感染から保護する。
【0077】
核酸分子は、添付した配列表に記載のものを含む規定された分子に厳しく制限されない。それどころか、特定の実施形態は、置換、欠失、挿入、反転などの改変がなされたが、それでもなお、特定の実施形態のポリペプチドの結晶形成能力を実質的に有するタンパク質をコードするか、あるいは、核酸が開示した配列の1つであること同定するためのハイブリダイゼーションプローブとしての役割を果たすことができる核酸分子を包含する。規定されたヌクレオチド配列に対して少なくとも75%の同一性を有するヌクレオチド配列を有する核酸分子が含まれる。
【0078】
2つの配列間の同一性または相同性の割合の測定は、「Karlin and Altschul (1993) Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 90:5873-5877」に記載されているように改変した「Karlin and Altschul (1990) Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 87: 2264-2268」のアルゴリズムを用いて行うことができる。このようなアルゴリズムは、「Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410」に記載されているNBLAST及びXBLASTプログラムに組み込まれる。NBLASTプログラム(スコア=100、ワード長さ=12)を用いてBLASTヌクレオチド検索を実行することによって、本発明の核酸分子と相同なヌクレオチド配列を求めることができる。また、XBLASTプログラム(スコア=50、ワード長さ=3)を用いてBLASTタンパク質検索を行うことによって、本発明のタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を求めることができる。比較目的でギャップアラインメントを得るためには、「Altschul et al. (1997) Nucleic acids Res. 25: 3389-3402」に記載されているようにしてGapped BLASTを用いることができる。BLAST及びGapped BLASTを用いる場合、各プログラム(例えば、XBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメータが使用される(http://www/ncbi.nlm.nih.govを参照されたい)。
【0079】
本発明の実施形態はまた、例示的な実施形態の核酸によってコードされた単離されたポリペプチドを含む。「単離されたポリペプチド」は、自然に会合しているタンパク質及び他の天然型有機分子を実質的に含まないポリペプチドである。純度は、任意の当該技術分野で公知の方法、例えばカラム・クロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはHPLCなどによって測定することができる。単離されたポリペプチドは、例えば、天然源(例えばヒト細胞)から抽出することによって、前記ポリペプチドをコードする組換え核酸を発現させることによって、または前記ポリペプチドを化学的に合成することによって得ることができる。天然源から抽出することによって得られたポリペプチドにおいては、(自然に会合しているタンパク質及び他の天然型有機分子を)「実質的に含まない」は、前記ポリペプチドが調製物の乾燥重量の少なくとも30%(例えば、少なくとも35%、45%、85%など)を構成することを意味する。化学的に合成された、または天然タンパク質源とは異なる源から生成されたタンパク質は、当然ながら、その天然関連成分を実質的に含まない。従って、単離されたポリペプチドは、例えば、インビボ(例えばBt細胞内)、またはインビトロ(例えば、哺乳類細胞株、大腸菌もしくは他の単細胞微生物)、または昆虫細胞内で合成された組換型ポリペプチドを含む。
【0080】
例示的な実施形態では、Cry異種ポリペプチド融合ベクターがバチルス・チューリンゲンシス細胞に形質転換され、前記細胞において融合タンパク質が発現される。融合タンパク質を含有する結晶は、細菌の芽胞形成期中に産生され、細菌内の芽胞に沿って形成される。巨視的な芽胞及び結晶が放出されると、遠心分離(例えば、レノグラフィン法)による分離が可能となる。最終ステップでは、芽胞粒子及び結晶粒子は、クロマトグラフィー法(例えば、CMセルロース型)によって互いに分離される。
【0081】
様々な実施形態では、内生胞子(芽胞)は、融合ポリペプチドをコードする核酸で形質転換されたBt細胞を搬送またはパッケージングするための簡便な貯蔵媒体として使用され得る。内生胞子は、乾燥、温度、飢餓、及び他の環境ストレスに対して耐性がある。従って、融合ポリペプチドをコードする核酸を含有する内生胞子は、容易にパッケージングして搬送することができる。所望であれば、様々な実施形態の内生胞子は、活性化させるステップ、発芽させるステップ、及び増殖させて完全に機能的な植物性細菌細胞にするステップを含む方法によって再活性化することができる。このような細菌性細胞はその後、融合ポリペプチドを含有する結晶を形成する。
【0082】
様々な実施形態では、本発明のポリペプチドは、添付の配列表に記載された(または、アクセス番号によって提供された)配列のアミノ酸配列またはその断片を含む。なお、この例示的な実施形態のポリペプチドは、添付の配列表に記載された(または、アクセス番号によって提供された)配列の1つと同一のアミノ酸配列を有するものに限定されない。むしろ、本発明の実施形態は、開示した配列の保存的変異体も包含する。「保存的変異体」には次の基の置換体が含まれる。グリシン及びアラニン;バリン、アラニン、イソロイシン及びロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン、セリン及びトレオニン;リジン、アルギニン及びヒスチジン;フェニルアラニン及びチロシン。
【0083】
また、本発明の実施形態には、置換、欠失、挿入または反転などの改変がなされたが、それでもなお、Cryポリペプチドの結晶形成能力を実質的に有するポリペプチドも含まれる。従って、本発明の実施形態には、添付の配列表に記載したアミノ酸配列の1つと少なくとも60%一致する(例えば、少なくとも60%、70%、80%または90%一致する)アミノ酸配列を有するポリペプチドまたはその結晶形成断面が含まれる。「同一度(パーセント)」は、上述したアルゴリズムに基づいて定義される。
【0084】
例
【0085】
本発明の実施形態を示すために以下の例を挙げる。以下の例において開示されている技術が、発明者によって実際に良好に機能することが発見された技術の典型となるものであることは、当業者に十分に理解されるはずである。しかし、本明細書の開示を踏まえて、本発明の概念、趣旨及び範囲から逸脱することなく、開示されている特定の実施形態に多くの変更を加えることができ、なおかつよく似ているかまたは同様の結果が得られることを、当業者は理解されたい。より具体的には、化学的にも生理学的にも関連する特定の物質を本明細書に記載の物質で代用しても、同じかまたは同様の結果を得ることができることが分かるであろう。当業者に明らかなそのような同様の置換形態及び変更形態は全て、本発明の趣旨、範囲及び概念に含まれるものと考えられる。
【0086】
一般的に、本明細書に記載の、細胞及び組織培養、分子生物学並びにタンパク質及びオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの化学及びハイブリダイゼーションに関連して用いられる命名法及び技術は、当分野で公知のよく使われるものである。標準的な技術を用いて、例えば、核酸の精製及び調製、化学分析、組換え核酸、オリゴヌクレオチド合成などが行われる。酵素反応及び精製技術は、製造者の仕様書に従って、または当分野で通常達成されるように、または本明細書に記載されているように、行われる。本明細書に記載の技術及び手順は、一般的に、当分野で公知の従来の方法に従って、並びに本明細書を通して引用されかつ説明されている様々な一般的及びより具体的な文献に記載されているように、行われる。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Third ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. 2000)を参照されたい。本明細書に関連して用いられる命名法並びに本明細書に記載の検査法及び技術は、当分野で公知かつよく使われているものである。
【0087】
(a)画像形成物質
【0088】
トレーサ分子、特に放射性核種を用いて、心臓の状態を含む細胞的事象をモニタすることは、10年以上前から確立されている。しかし、例えば精子数の減少及び妊娠中の母親の場合の放射能被爆の危険など、ヒトの健康に対する放射性同位元素の使用に関連する潜在的なリスク因子が存在する。本発明の実施形態には、代替トレーサ分子として用いられ得る低分子(micromolecular)バイオプローブが含まれる。
【0089】
例示的な実施形態は、Cryポリペプチドに融合させた蛍光タンパク質を含む融合タンパク質を含む画像形成可能な結晶を含む。例示的な実施形態では、細菌内でタンパク質が発現されたとき、融合ポリペプチドはCry融合タンパク質結晶を形成する。少なくとも1つの実施形態では、蛍光タンパク質は、オワンクラゲ由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)である。このタンパク質の発色団は、βバレルのタンパク質の核内のセリン、チロシン及びグリシンアミノ酸の自触媒結合(self-catalyzed coupling)から形成される。これらのタンパク質の、細胞の環境内での非毒性特性、外来遺伝子への結合の容易さ、及び獲得可能な多色は、インビボ研究への一般的適用につながった。
【0090】
様々な実施形態は、Cryタンパク質の結晶を形成するバチルス・チューリンゲンシス(Bt)の能力を利用することによって、画像形成物質を提供する。自然界において、Cryタンパク質は、害虫を死滅させることによってBt植物を保護する。昆虫は、植物を食べるときに細菌の消化も行う。細菌の消化は、結晶と、最終的にはCryタンパク質とを放出する。Cryタンパク質は昆虫の中腸膜内に入り、最終的に昆虫を死滅させる孔を形成する。様々な実施形態では、新規な生体材料のフレームワーク(図1)―すなわち、心臓弁における血流の迅速かつ容易な検出のための血液中の蛍光発光の動脈内モニタリングを含む様々な生物医学的応用で用いる生分解性蛍光マイクロドットとして、異常Cryタンパク質結晶が利用される。
【0091】
それにより、本発明の実施形態は、単離されたCryタンパク質のような結晶封入体を形成するが今やGFPドメインのおかげで蛍光性の高いGFP−Cry融合タンパク質(図2)を提供する。或る例示的な実施形態では、「GFP−マイクロドット」は、Cryタンパク質フレームワーク内に互いに離間した多くのGFP分子を有することができるので、1つのGFP分子よりもずっと大きな蛍光を呈することになる。また、提唱されているGFP−マイクロドットは、GFP分子に由来するが、GFP分子のように、吸収しかつ多種多様な波長の蛍光を発するように作られることができる。
【0092】
或る例示的な実施形態が提供する蛍光マイクロドットを用いて、共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)により血流速度を測定し、それを用いて複雑な生物学的試料の3次元の画像を構築することができる。あるいは、光干渉断層法(Optical Coherence Tomography:OCT)が、干渉の原理を用いて表面下及び内部の不明瞭な組織のライブイメージングを可能にし得る。OCT法は、散乱光を分離し、コヒーレントすなわち「同相」光のみを抽出して、よりはっきりした画像の作成を可能にする。大部分の従来の蛍光画像技術を用いることにより、血管系における蛍光結晶をモニタして深さ方向の(in depth)画像を得ることができると予想される。他の同様の研究によれば、SPYイメージング・システム(カナダ国のノバダック・テクノロジーズ社(Novadaq Technologies))を用いて膵臓組織の画像が得られた。SPYシステムを用いた心臓の蛍光画像が既に示されている。しかし、これらのシステムでは、合成染料が利用されている。対照的に、例示的な実施形態のGFP−マイクロドットは、完全に生物学的な材料から構成することができる。
【0093】
例示的な実施形態は、概ね安定しているが、処理時にプロテアーゼに対して感受性があり、それによって、イメージング(画像化)工程が完了したら最終的にアミノ酸に分解されることができると予想される。しかし、様々な実施形態は、タンパク質の分解をより遅くする部位特異的突然変異体を持ち得る。例えば、Cry1Abタンパク質のC末端は、トリプシンに対して感受性があることが知られているので、この領域の配列を、結晶を形成する能力に実質的に影響を及ぼすことなく分解速度を低下させるように変更することができる。
【0094】
特定の実施形態では、認識ドメインまたは受容体を追加することができる。そのようなドメインを用いて、体内の特定の標的に色素を向けることができる。1つの具体的な例には、(組換え添加(recombinant addition)を行うかまたは認識ドメインを結晶に架橋させるかのいずれかによって)これらの結晶上に表示させたときに、GFP−マイクロドットを血管系内でガン細胞を同定するように誘導するために用いられることができる腫瘍血管のマーカであるような、CD117と呼ばれる腫瘍関連タンパク質の追加が含まれる。他の実施形態では、造影剤を分子標的剤に結合または架橋させることができる。様々な実施形態において、適切な分子標的剤には、ペプチド、レクチン、抗体(モノクローナル及びポリクローナル)、アプタマー、アビマー(avimer)などが含まれる。例示的な実施形態では、分子標的剤は、組織で発生する病状に関連付けられたマーカを選択的に結合する。
【0095】
(i)GFP−マイクロドットの構築
【0096】
Cryタンパク質(例えばCry1Ab)は、蛍光パートナー(例えばGFP、mCherryなど)と組換えで融合したとき、結晶を形成するように細菌によって誘導される特異的なコンピテントBt細胞において、タンパク質を発現する。マイクロドットと呼ばれるこれらの蛍光融合結晶は、細菌の自己分解(自己融解)によって培地内へ放出され得る。マイクロドットの単離及び精製は、造影剤を用いて密度勾配遠心分離し、続いてカルボキシメチルセルロースカラムでpH勾配精製を行い蛍光マイクロドット結晶から胞子(芽胞)を分離するという単純な二段階工程によって、行うことができる。
【0097】
可視スペクトルの緑色及び赤色領域において蛍光性を有する異なるGFP変異体の遺伝子の分子クローニングを、組換え操作してシャトルプラスミドベクターにした。図3A〜図3Cは、Cry融合タンパク質結晶を発現するための例示的な3つのベクターである。図3Aは、Cry融合結晶発現用の一般的なシャトルベクターである。図3Aの融合タンパク質発現ベクターは、Cry融合タンパク質結晶発現用プラットフォームとしてのpHT315シャトルベクターの使用を含む。クローニングベクターpHT315は、バチルス・チューリンゲンシスの結晶タンパク質の組換え発現を行うために既に開発されている「シャトル」ベクターである。ベクターは、大腸菌内での複製のための複製開始点(ori)及びBtのための別の複製開始点を持つ。さらに、ベクターは2つの抗生物質耐性遺伝子を有し、1つはアンピシリン(AmpR)耐性遺伝子であり、もう1つはエリスロマイシン(EryR)耐性遺伝子である。pHT315ベクターの構造に関する詳細な情報及びベクターの獲得に関する情報については、「Arantes, O. and Lereclus, D. Construction of Cloning Vectors for Bacillus thuringiensis, Gene 1991 v. 108; pp: 115- 119」を参照されたい。例においてシャトルベクターとして用いたpHT315ベクターは、フランス国パリのパスツール研究所のディディエ・レレクラス(Didier Lereclus)の研究室から入手した。再び図3Aを参照すると、ベクターは、所望の融合ポリペプチドに機能的に結合されたCry1プロモータをコードする配列を含む。融合ポリペプチドは、所望の結晶形成Cryポリペプチドまたはその結晶形成断片の上流に位置する所望の異種ペプチドをコードする配列(例えばGFP(SEQ ID NO: 19))を含む。従って、結果として得られるペプチドは、異種タンパク質−Cry融合ペプチドである。図3Aに示されている例示的な実施形態では、Cry1Abコード配列(SEQ ID NO: 3)をクローニングして例示的なシャトルベクターにした。
【0098】
pHT315ベクター、または類似のベクターを用いて、多種多様なCry融合結晶をインビボで発現することができる。図3Bでは、pHT315ベクターを用いてCry3Aa−mCherry融合結晶発現ベクターを作製した。この例では、Cry融合タンパク質ベクターは、バチルス・チューリンゲンシス変種テネブリオニス(Bacillus thuringiensis var tenebrionis)由来の1950bpのCry3Aaコード配列(SEQ ID NO: 7)に機能的に結合されたcry3Aプロモータ(SEQ ID NO: 32)によって駆動される。図3Bに示されているように、フルオロフォアに対する遺伝子mCherry(SEQ ID NO: 20)は、Cry3Aa遺伝子の下流に位置し、その後に停止コドンが続く。ここから理解できるように、多くの他の異種ポリペプチドをCryプラットフォームに融合させることができる。
【0099】
pHT315がCry−異種タンパク質融合ベクターの発現に適しているが、多くの他のベクターも可能である。代替発現ベクターpSB−GFP−1Abのマップを図3Cに示す。
【0100】
1つの例において、GFP(SEQ ID NO: 19)をコードする核酸及びCry1Ab(SEQ ID NO: 3)をコードする核酸をクローニングしてpHT315シャトルベクターにした。図4A及び図4Bは、GFPをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 19)(図4Aを参照)及びCry1Abをコードする配列(SEQ ID NO: 3)(図4A及び図4Bの確認を参照)の正しい取込みを確認する核酸配列データを示している。この例の発現ベクターでは、GFP配列(SEQ ID NO: 19)はCry1Ab配列の上流に位置する。或る例示的な実施形態では、リンカー領域をコードする短い配列を用いて、融合ポリペプチドの組成物を結合させることができる。代替実施形態では、様々な他のCryタンパク質(例えば、Cry3Aaを、様々な他の蛍光タンパク質(例えば、mCherry(SEQ ID NO: 20))に融合させることができる。
【0101】
例示的な実施形態の融合タンパク質をBt内で発現させ、細菌の胞子形成期に結晶を産出することができる。これらの結晶は、図5に概略的に示す手順のような確立された手順を用いて単離することができる。この方法によって得られるCry1Ab結晶由来のタンパク質のSDS−PAGEゲルを図6に示す。図6を参照すると、レーン1には精製したCry1Ab結晶を添加し、レーン2は対照レーンであり、レーン3にはMWマーカを添加した。
【0102】
例示的な実施形態は、上記の戦略を用いて、蛍光タンパク質(例えば、GFP及びmCherry)に融合させたCryポリペプチド(例えば、Cry1Ab)を含む生物学的結晶を産出する。図7は、ニコン80i顕微鏡下の蛍光結晶の画像を含む。(A)バチルス・チューリンゲンシス栄養細胞、胞子及びGFP1Ab結晶のサンプルの位相差画像。(B)バチルス・チューリンゲンシス栄養細胞、胞子及びGFP−Cry1Ab結晶のサンプルのGFP蛍光画像。(C)(A)と(B)とを1つにし、混合物中の蛍光結晶及び非蛍光胞子並びに栄養細胞を示したもの。(D)トリス−EDTA緩衝液中の、精製したGFPCry1Ab結晶から発する蛍光。(E)mCherry1Ab融合タンパク質の蛍光結晶。(F)融合タンパク質なしでCry1Abの胞子及び結晶を産出するバチルス・チューリンゲンシス細胞のバックグラウンド(蛍光なし)サンプル。
【0103】
蛍光共焦点顕微鏡画像(図7)に示されているように、バチルス・チューリンゲンシスにおいて発現されるGFP−Cry1Ab及びmCherry−Cry1Ab融合タンパク質は、サイズ及び形状が互いによく似た生物学的結晶を尚も産出した。とりわけ、GFPは適切に折り畳まれたときにのみ蛍光を発するので、その蛍光が観察されるということは、GFPのタンパク質の折り畳みが結晶内で保持されていることの証明である。従って、酵素及び他の生物学的タンパク質を含む様々な他の異種ポリペプチドも同様に適切な折り畳みを保持するはずである。
【0104】
(ii)GFP−マイクロドットの適用
【0105】
様々な実施形態が、生分解性イメージング色素として有用であり得る。とりわけ、Cry融合タンパク質結晶上に存在するGFP密度は高いので、低マイクロドット濃度で注射すると蛍光分子の可視化が成功するであろう。ヒトの血管系における可視化の簡略化した模式図を図8に示す。様々な実施形態において、対象には、GFP−マイクロドットが注射されることになるであろう。心臓及び心血管系を観察するために、青色の光線を集中させることによって、蛍光光の可視化を達成することができる。代替実施形態では、画像形成可能な結晶は、注射され、消化管を通り抜けることができるので、例えば結腸などのイメージングに有用であり得る。
【0106】
(b)対象における免疫応答を誘起するためのCry結晶種
【0107】
本発明の実施形態では、幅広い希少疾病に適用するための新たな対費用効果が高い戦略を生み出すことによって、伝統的なワクチンアジュバントの毒性及び他の有害な特性を克服する。上記したGFPマイクロドットと同様に、例示的な実施形態のアジュバントは、インビボで結晶を形成するタンパク質に依存している。結晶が、異種ポリペプチド抗原に融合させたCryタンパク質を含む融合ポリペプチドを含む実施形態もあるし、タンパク質結晶が、抗原性タンパク質、エピトープまたは分子を架橋または結合するためのプラットフォームとして機能する実施形態もある。タンパク質結晶をワクチンアジュバントとして用いる効果は、ヒト血清アルブミン(HSA)の架橋させたタンパク質結晶(CLPC)に対して既に調査されている。とりわけ、結晶化されたHSAの免疫原性は、HSAの可溶性形態よりも高いことが分かった。免疫原性の向上は、結晶化されたHSAが体液介在性反応及び細胞介在性免疫応答の両者を増強する能力がより良好であることから生じていた。恐らく、これは、結晶の巨視的サイズと、より長い寿命と、複数の抗原分子とに関連している。しかし、過去の技術の1つの弱点は、標準的なインビトロでのタンパク質結晶化法を用いて均一結晶(生物学的アジュバントとして適用するために望まれるであろうもの)を得ることが困難であったということである。さらに、タンパク質をインビトロで結晶化するための普及している確実な条件はない。よって、各抗原の結晶化条件を適切な架橋剤及び架橋条件と同じように選別する必要があるであろう。
【0108】
上記で実証したように、GFP−Cry1Ab融合タンパク質がインビボで結晶を形成する能力は、重要な発見である。Cry1Abプロトキシンタンパク質が、中でも注目すべきはそのシステインリッチC末端、すなわち結晶形成に重要であると考えられている領域においても、適切に折り畳み構造をとることは、重要な証拠である。現在、プロトキシンC末端領域によって形成されるイオン結合及びジスルフィド結合が結晶形成の原因だと考えられている。このことはまた、変性剤、プロテアーゼ及び高pHを必要とする可溶化の典型条件である生物学的Cry毒素結晶に著しい安定性を与える相互作用が尚も保持され得ることを意味する。この安定性が示唆していることは、例示的な結晶は、抗原そのものよりも長くヒトの血清または粘膜の環境内で分解に耐え、それによって抗原への反応を、より長い期間、より少ないブースター投与量でブースト(追加免疫)する際に役立つことになる安定なアジュバントを提供することができるはずであるということである。特に、結晶の表面上のタンパク質が緩徐な分解によって失われたことにより、新たな一連の抗原を持つ内層が露出することになった。
【0109】
本発明の実施形態には、Cry結晶上の抗原を表示する方法が含まれる。様々な実施形態は、Cryタンパク質−抗原,結晶形成タンパク質をコードするプラスミドベクターを含む。本実施形態のベクターは、画像形成物質に関して上記したように構築され得る。従って、少なくとも1つの実施形態では、Cry1Ab遺伝子のN末端ドメインに融合させた標的抗原を含みかつバチルス・チューリンゲンシスにおける過剰発現に最適化されたpHT315大腸菌バチルス・チューリンゲンシス・シャトルベクター(図3B)が利用される。
【0110】
図9及び図10は、Cryタンパク質−抗原結晶形成融合ポリペプチドをコードするかまたは含むプラスミドの正しい作成を確認する配列データを表している。図9Aは、リシンBサブユニット(抗原)をコードする核酸(SEQ ID NO: 21)をCry1AbのN末端に(リンカーペプチドにより)融合させた一実施形態の配列を示している。図9Bは、Cry1Cプロモータが、Cry1Ab(SEQ ID NO: 3)(Cry部分は図9Bに図示せず)のN末端に融合させた血小板LcrV抗原をコードする配列(SEQ ID NO: 22)に機能的に結合されている一実施形態を確認する配列データを示している。LcrVは、ペスト菌のV抗原である。同じpHT315ベクターにおいて、図10は、ESAT6抗原をコードする核酸配列(SEQ ID NO: 23)がCry1Abをコードする配列(SEQ ID NO: 3)に融合させた一実施形態の配列を示している。図10に示されているように、リンカー領域を用いてCry融合ポリペプチドの組成物を結合させることができる。
【0111】
Cryタンパク質−抗原,結晶形成融合ポリペプチドは、本明細書に記載の方法を用いて容易にかつ低価格で産出される。図11を参照すると、例示的な実施形態において、pHT315−融合Cry1Abベクターは、抗原−Cry1Ab融合タンパク質が産出されるバチルス・チューリンゲンシス細胞に形質転換され得る(図11)。バチルス・チューリンゲンシス細胞の存在を認めた後、巨視的な胞子及び結晶を放出させ、レノグラフィン遠心分離法による分離を可能にすることができる。最終ステップでは、胞子及び結晶粒子をCM−セルロースクロマトグラフィー法によって分離することができる。
【0112】
本発明の実施形態には、マイコバクテリア疾患及び内臓リーシュマニア症に関連する他の抗原−Cry毒素融合タンパク質も含まれる。より具体的には、様々な実施形態には、以下のマイコバクテリウム抗原、すなわち、fbpA、fbpB、fbpC、ESAT6、erp(pirG)、Rv1477、(同様に、MPT53、OmpAtb、IiA、p60、MPT53、OspA)のうちの1つを取り込むCryタンパク質結晶が含まれる。従って、様々な実施形態には、Cryタンパク質またはその結晶形成断片に融合させた、fbpAをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 24)、fbpBをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 25)、fbpCをコードする核酸配列(SEQ ID NO: 26)、ESAT6をコードする核酸配列(SEQ ID NO: 23)、erp(pirG)をコードする核酸配列(SEQ ID NO: 27)、Rv1477をコードする核酸配列(SEQ ID NO: 28)を有するベクターが含まれる。リーシュマニア抗原には、リーシュマニア抗原とともにリーシュマニアA2が含まれる。
【0113】
本発明の実施形態には、非ヒト動物における免疫応答を誘起するための治療組成物も含まれる。例えば、伝染性サケ貧血伝染性サケ貧血(ISAV)は、感染性の強い太平洋サケ(Salmo salar)の病気である。本発明の実施形態には、ISAV由来のM1プロトンチャンネルをコードする異種配列(SEQ ID NO: 29)に融合させた(または代わりに架橋された)Cryタンパク質結晶をコードする発現ベクターが含まれる。
【0114】
(i)リシン−Cry結晶
【0115】
図12A及び図12Bを参照すると、リシン抗原のサブユニットAの非毒性断片をCry1Abに融合させ、融合タンパク質をバチルス・チューリンゲンシスにおいて発現させた。結果として得られたタンパク質を、トリプシンを用いて活性化させ、融合タンパク質のプロテアーゼ抵抗を試験した。抗リシン抗体を用いて、融合タンパク質結晶をpH10.5で可溶化して30分間トリプシン処理したときに、抗Cry抗体を用いて融合タンパク質なしのプロテアーゼ処理したCry毒素のバンドのみの65kDaの毒素(図12A)と比較して、融合タンパク質の80〜85kDaのバンドがブロット上で未変化(20kDaのリシン断片+65kDaのCry1A毒素)であるように見える(図12B)ことを示すことができた。とりわけ、これらの結果から、推定リシン−Cry1Ab融合タンパク質結晶がリシン断片を実際に含むことが確認される。
【0116】
(ii)Cry1Abの結晶に架橋させたESAT6の調製
【0117】
代替実施形態では、異種タンパク質をCry結晶に化学的に架橋させることができる。以下の例において、チオールベースの架橋剤:ビス−マレイミドエタン(BMOE)を用いて、Cry1Abの結晶を、結核抗原ESAT6の2つの異なる変異体に架橋させた。
1.ESAT6−S16C
2.T細胞ヘルパーペプチド(源=水疱性口内炎ウイルス)を持つESAT6−S16C
変異体1または2の被精製タンパク質を、ニッケル親和性精製法を用いて産出し、SDS−PAGEゲルで確認した(図13)。
以下の方法を用いて異種ESAT6抗原をCry1Ab結晶に架橋させた。
1.細胞を改変シェーファーズ胞子形成培地(modified Schaefers sporulation medium:SSM)内で成長させ、細菌を自己分解させることによって、バチルス・チューリンゲンシス内でCry1Abの結晶を産出した。
2.7000rpmで5分間遠心分離することによって結晶を収集し、ペレットを滅菌水に再懸濁した。
3.造影試薬(contrast enhancing reagent)の連続密度勾配媒体イオジキサノールを、勾配マーカを用いて水中で産出した。
4.収集したペレットを、ベックマンL7超遠心機でスイング型バケットロータを用いて5000rpmで70分間勾配遠心分離した。
5.結晶を含むバンド(位相差顕微鏡法を用いて調べられる)を勾配から抽出し、滅菌水で7〜10回洗浄してデブリ及びイオジキサノールを除去し、結晶を精製した。その後、結晶を3回洗浄し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)pH7.0に再懸濁した。
6.精製した結晶を、1mMのトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)を用いて4℃で1時間還元し、過剰なTCEPはPBS,pH7.0を用いて洗い落とした(洗浄を7〜10回繰り返した)。
7.還元した結晶を、2倍モル過剰のBMOE架橋剤で処理し、4℃で3時間インキュベートした。3時間後に、0.2M DDTを用いて反応を停止させ、結晶を5mlのPBS,pH7.0で10回洗浄した。
8.その後、洗浄した結晶をPBS中にてESAT6の変異体#1または変異体#2と混合し(変異体の説明については上記を参照)、4℃で一晩インキュベートして架橋された結晶と反応させた。
9.ESAT6変異体を持つ架橋させた結晶を10mlのPBS(pH8.0)で10回洗浄した。
10.架橋させた結晶(50ul)を、2%のb−メルカプトエタノールの存在下で50mMのNa2CO3(pH10.5)を用いて可溶化し、ESAT6のスタンダードに対してブロットした。
11.抗ESAT6抗体を用いたドットブロットを行い、架橋量を定量した(図14)。
【0118】
ESAT6抗原をCry結晶に架橋させるための代替方法には、以下のステップが含まれる。
1.純粋ESAT6タンパク質をモル比1:10でSIAとともにPBSに室温でインキュベートする。
2.PD10(セファデックスG25)カラムを用いて遊離標識体(free label)からESAT6タンパク質を精製する。
3.Cry1Abの結晶を1mM DTTとともに30分間インキュベートする。
4.4℃で10分間、21000gで遠心分離する。
5.1X PBSで洗浄する。21000gでの遠心分離を繰り返す。ステップ5を3回繰り返す。
6.Cry1Abの結晶を、SIA架橋させたESAT6と、モル比1:10で混合する。
7.室温で18〜20時間インキュベートする。
8.結晶を遊離ESATタンパク質から4℃で10分間、21000gで遠心分離する。
9.結晶を1X PBS(pH7.5)で洗浄し、4℃で10分間、21000gで遠心分離する。
10.ステップ6を3回繰り返す。
11.1:10000希釈の抗ESAT6一次抗体を用いたドットブロットを用いて架橋を試験する。
12.対照を用いて架橋特異性を測定した。
・サンプルと同じ方法でSIA処理していないCry1Abと混合したESAT6
・Cry1Abの結晶単独(陰性対照)
・ESAT6タンパク質単独(陽性対照)
エピトープがCry1Abに正しく架橋されたか否かを分析するために、ドットブロットを行った。図15(様々なESAT6/Cryタンパク質のドットブロット)に示されているように、ESAT6は、Cryタンパク質、例えば、Cry1Ab:ボックス1=マイコバクテリウム・マリヌム(融合ESAT−1Ab発現)由来のESAT6、ボックス2=緩衝液対照(架橋に用いられるリン酸緩衝液)、ボックス3=結核菌(Cry1Ab結晶に架橋させた)由来のESAT6、ボックス4=結核菌(対照)由来のESAT6タンパク質、ボックス5=1Ab(架橋させていない対照)の結晶と混合したESAT6タンパク質、ボックス6=Cry1Abの結晶(結晶対照)に首尾よく架橋され得ることが、ドットブロットにより確認された。
【0119】
(iii)LcrV/Cry融合タンパク質
【0120】
pHT315シャトルベクターの項で上記したようにLcrV抗原タンパク質とのCry融合を構築した。上記したように、LcrVは、病原体であるペスト菌のV抗原である。図16は、50mMのNa2CO3,pH10.5に1時間(レーン2)及び2時間(レーン4)可溶化したLcrV−Cry1Ab融合結晶で、1:10,000に希釈した抗LcrV抗体を用いたウェスタンブロットを示している。レーン1及び3の対照は、それぞれ1時間及び2時間可溶化したCry1Abの結晶を含む。
【0121】
(iv)Cry融合タンパク質に対する抗体反応
【0122】
Cry−ESAT6融合結晶の免疫原性をマイコバクテリウム・マリヌム単独から得られるESAT6タンパク質の免疫原性と比較するために、BALB/cマウスの初回抗体力価を測定した。固定免疫スケジュール通りにマウスに同量のESAT6及び結晶を注射した。図17は、ESAT6−TTP2/MVFP(「ESAT6」としてグラフに示されている)及びESAT6−Cry1Ab結晶(「ESAT6−Cry」としてグラフに示されている)に対するBalb/cマウスの抗体反応を比較するグラフである。簡単に言えば、0、2、4週目に、マウス1匹当たり10μgのESAT6−Cry結晶またはマウス1匹当たり50μgの精製した組換えESAT6−TTP2/MVFP(既知の免疫原)によりマウスを免疫化した。1:250の力価で希釈した血清を用いて比色定量ELISAアッセイを展開した。結晶に対する抗体反応は、免疫認識ヘルパーペプチドTTP2を追加した可溶性タンパク質のものと等価であることがわかった。このことは、結晶が免疫調節物質として働く潜在能力を示している。ESAT6の融合結晶は、可溶性タンパク質そのものよりも高力価に達するのに時間が掛かる。このことは、抗原が、最初は埋められている位置のせいで免疫系への提示から除外され得るが、プロテアーゼが結晶充填を開くと、免疫系へ提示される抗原の量がより多くなることを示唆している。
【0123】
(v)食用治療薬
【0124】
日本の納豆、タイ/インドのキネマ、西アフリカのダワダワは、ダイズまたはアフリカのローカストビーンのいずれかの細菌発酵によって産出される食品である。発酵工程において0.3μmの抗原−結晶タンパク質封入体を作るように操作されたバチルス株を用いることによって、本発明の実施形態は、発展途上世界における感染症を治療するのに適した安価で食用のワクチンを提供することができる。
【0125】
産出。既に示したように、マイコバクテリウム結核由来のESAT6などの高い免疫抗原性を示す抗原のための遺伝子をcry遺伝子に融合させ、Cry−抗原融合タンパク質結晶の産出を可能にすることができる。日本の納豆の標準的な調理法に従って、100gのダイズを一晩浸し、調理して外因性細菌を死滅させることができる。結果として得られたダイズに、Cry−抗原融合結晶形成バチルスの培養液5mLを播種し、その後、37℃で24〜48時間発酵させるこおtにより、所望の納豆TB−ワクチンを得ることができる。
【0126】
Cry−抗原食品補充ワクチンの治療効果の検査。所望の抗原を、経口免疫化経路を用いてマウスに送達することができる。例えば、Cry−抗原結晶産生バチルスを用いて産出した発酵製品(例えば納豆)を、5匹のマウスからなる群に(1食当たり10μgの初回抗原刺激量(prime dose)で)与えることができる。対照マウスには、Cry結晶産生バチルス(抗原なし)またはCry欠損バチルス(結晶なし)のいずれかから産出した納豆を与えることができる。繰り返しのブースター投与を3週間毎に最大5回行うことになる。通常は抗原チャレンジ感染(challenge)に関連する特定のサイトカイン(例えばCD4及びTNFα)のレベルを測定するように設計されたELISAキットを用いて、一定時点において、ワクチン接種したマウス及び2つの対照群の免疫応答を比較することができる。
【0127】
免疫化から4〜6週間後に、マウスに、毒性のある病原体の少量のエアロゾル(50〜100CFU)をチャレンジ感染させることができる。チャレンジ感染から30日後に残っている生存桿菌の数を数えることにより、保護の有効性を判定することになる。本方法は、チャレンジ感染後30日目に臓器(肺及び脾臓)を均質化し、10倍段階希釈して7H11寒天プレート上に播いて、残留CFUを計算することになる。
【0128】
さらに、細胞傷害性Tリンパ球反応を評価するために、チャレンジ感染から30日後に採取する血液サンプルに基づいてインターフェロン・ガンマ(IFN−γ)及び/またはインターロイキン2(IL−2)酵素結合免疫吸着スポットアッセイを用いることになる。IFN−γ反応を分析するために、抗−IFN−γ抗体被覆プレートを用いてELISPOTアッセイを行うことになる。免疫マウスから採取したマウスの脾細胞またはリンパ細胞にESAT6抗原を加えて(COインキュベータ内で)37℃で24〜48時間インキュベートすることになる。細胞デブリを洗い落とした後、プレートを、ビオチン化抗−IFN−γ−一次抗体を用いて2時間インキュベートし、その後ストレプトアビジン−HRP複合体で2時間、さらに発色基質を加えてインキュベートすることになる。発生した色は、イムノスポットアナライザーを用いて読み取ることになる。
【0129】
(c)機能種(Functional Species)を送達及び運搬するための物質
【0130】
例示的な実施形態は、細菌バチルス・チューリンゲンシス内で産出される規則正しい形状の、マイクロメートルサイズのタンパク質結晶に基づく機能種(例えば、酵素またはタンパク質治療薬)の経口送達のための新規なプラットフォームを含む。或る例示的な実施形態では、これらの生物学的タンパク質結晶は、Cryタンパク質を含む。Cry−GFPまたはCry−ルシフェラーゼなどのレポータータンパク質に融合させたCryタンパク質のバチルス・チューリンゲンシスにおける過剰発現は、タンパク質結晶の形成をもたらす。図18に示されているように、Cry融合タンパク質結晶は、保護結晶フレームワーク内に標的タンパク質をカプセル化するための新規なプラットフォームとして機能する。この点に関して、これらの生物学的に産出されるCryタンパク質結晶の2つの重要な特徴は、(1)サイズが比較的均一であることと、(2)標準的な生理学的条件下で安定していることである。
【0131】
様々な実施形態において、Cryタンパク質結晶は、様々な活性酸素種(ROS)分解酵素(例えば、スーパーオキシド・ジスムターゼ、グルタチオンオキシダーゼ、カタラーゼなど)の送達を促進し得る。実施形態は、虚血再潅流傷害による損傷を抑制するための新規な経口療法を含む。様々な組成物は、認知機能低下を遅らせるかまたは寿命を延ばすための経口サプリメントとしても機能し得る。他の実施形態では、Cryタンパク質結晶は、神経ガス分解酵素(Transmembrane Biosciences)の送達を促進することができる。別の実施形態では、Cryタンパク質結晶は、コカイン分解酵素の送達を促進することができる。経口投与が好ましいが、機能種を持つ融合ポリペプチドを含む産出されたCry結晶を、上記以外の経路により投与してもよい。
【0132】
薬剤として酵素を投与することは、薬学における新しい領域の1つである。しかし、市場に出ているほとんどの酵素補充療法は、腹腔内注射を必要とするということが限界の1つである。さらに、血管系内での酵素の寿命は特に長いというわけではない。これらの特徴は、酵素療法を施すために極めて高い費用を生じさせることがある(ゴーシェ病患者の場合、一生にわたり毎年550,000米ドル)。本発明の実施形態は、これらの限界を、酵素治療薬の経口送達のための一般的なプラットフォームとして機能する生物学的タンパク質結晶により克服する。様々な実施形態において、標的酵素治療薬は、細菌バチルス・チューリンゲンシス内で自然に自己組織化して結晶になる結晶形成Cryタンパク質への融合タンパク質として産出されることになる。有利には、本発明の実施形態には、(1)経口または経鼻投与を促進することができ、(2)安価であり、(3)純粋でありかつサイズが均一で、(4)標的酵素をタンパク質分解から保護するような、一般的な酵素送達プラットフォームが含まれる。
【0133】
少なくとも1つの実施形態は、活性酸素種(ROS)(例えば、過酸化物及び過酸化水素の過剰産出)によって誘発される病態を治療するためのCry結晶融合タンパク質を含む。ヒト及び大部分の他の生物において、ROSを除去しかつ分解するために特異的な酵素がある。最もよく反応するROS種である過酸化物の分解は、スーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD)によって仲介される。これらの酵素は、過激な過酸化物を、より穏やかな酸化剤、二原子酵素及び過酸化水素に変える。過酸化水素は、今度は、カタラーゼによって不均化して分解されるか、または過酸化水素の酸化等価物を用いてグルタチオン(GSH)を酸化するグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)によって分解される。とりわけ、これらの酵素を用いた外部処理は、寿命の増加、加齢に起因する認知低下の遅延、酸化的細胞損傷からの保護を含む無数のメリットがあることを示した。有望であるにもかかわらず、酵素ベースのROS療法は現在市場にない。これを受けて、本発明の実施形態は、経口治療薬及びサプリメントとして用いるための、Cry−SOD及びCry−GPx結晶などのCry結晶−酵素融合タンパク質を含む。
【0134】
本発明の実施形態には、酵素治療薬を血管系に送達するための担体として新規なプラットフォームが含まれる。このプラットフォームは、グラム陽性細菌バチルス・チューリンゲンシスの細胞内で自然に産出されるマイクロメートルサイズのタンパク質結晶に基づく。これらの結晶は、特定のクラスのCryタンパク質と呼ばれる結晶形成タンパク質で構成される。結晶サイズにもよるが、各結晶は、150〜500個のCryタンパク質分子を含む。
【0135】
様々な実施形態は、標的タンパク質または酵素の遺伝子をcry遺伝子の5’末端または3’末端のいずれか一方に融合させることによって、標的異種タンパク質または酵素をCry結晶プラットフォーム内に取り込む。或る例示的な実施形態では、融合カセットをクローニングしてpHT315大腸菌バチルス・チューリンゲンシス・シャトルベクターなどの発現ベクターにすることができる。このベクターを形質移入して細菌にし、生きた細菌(例えば、バチルス・チューリンゲンシス)内でのCry−酵素融合結晶の産出に用いることができる。とりわけ、バチルス・チューリンゲンシスは胞子形成後に自己分解し、結晶は特徴的な密度を持つので、遠心分離によって結晶を容易に精製することができる。これらの結晶を細菌内で直接合成すると、精製の容易さと相まって、治療薬に基づくこれらのCry結晶の産出を非常に経済的なものにする。
【0136】
図19に示されているように、産出したCry−GFP及びCry−mCherry結晶は蛍光性であるが、これは、追加のタンパク質組成物の存在によって結晶形成が妨げられず、結晶中のGFPドメインが適切に折り畳まれていることを示している(図19)。さらに、同様の方法で活性酵素取り込むこともできる。pHT315発現ベクター(図3A)を用いて、酵素ルシフェラーゼをコードする遺伝子(SEQ ID NO: 31)を、Cry1Abをコードする遺伝子(SEQ ID NO: 3)に融合させた。このベクターを用いて、上記したようにCry−ルシフェラーゼ結晶を産出した。これらの融合結晶をルシフェリンで処理すると、活性ルシフェラーゼに期待される化学ルミネセンスが得られた(図20)。
【0137】
Cry結晶は、大部分の細胞に不活性であるが、マクロファージによって取り込まれることができる。様々な実施形態では、Cry結晶の食作用を妨げるためにペグ化手法が適用される。この目的に向かって、ペグ化されたCry−GFP結晶を調製し、これを用いてペグ化が予想通りに食作用を減少させることを実証した(図21)。例示的な実施形態では、マクロファージの食作用を最小にしかつさらに触媒化学に最適なPEGサイズが選択されるべきである。代替実施形態では、例えば治療酵素を送達するためにマクロファージにCry結晶融合タンパク質を取り込ませることが有利であり得る。よって、図22は、マクロファージによるCry−GFP結晶の短期取込みを示している。蛍光画像は、15分間後(A)及び4時間後(B)のマクロファージによる結晶の取込みを示している。これらの画像は、Cry3A−GFP結晶のものである。青色は核である。これらの画像において、緑色のドットは、マクロファージにより取り込まれている蛍光結晶である。
【0138】
マクロファージの他に、他の細胞型でもCry結晶融合タンパク質を容易に取り込むことができる。この能力を実証するために、NIH3T3線維芽細胞を、15uL 0.6ug/mLのCry3Aa−mCherry結晶を200uLのDMEM完全培地に添加したものを用いて、37℃/5%CO2で1.5時間インキュベートした。インキュベートした後に、細胞を1mLの1X PBSで3回洗浄して遊離Cry3Aa−mCherry結晶を取り除いた。その後、洗浄した細胞に200uLのDMEM完全培地を加え、パラホルムアルデヒドで固定する前にさらに1.5時間インキュベートした。図23の蛍光顕微鏡写真に見られるように、線維芽細胞は、明らかにCry3Aa−mCherry結晶を含んでいる(赤い点がDAPI染色した核を取り囲んでいるのが分かる)。
【0139】
Cry結晶融合タンパク質を含む例示的な実施形態は、Cry結晶そのもののように、驚異的な安定性を有するはずである。特定の実施形態は、Cry(例えばCry1Ab)結晶に融合させたタンパク質及び酵素を含む。多くのCry結晶は、プロテアーゼが存在する場合でさえ、結晶を可溶化するために高いpHを必要とする。ヒトの胃腸管が酸性に保たれているという性質を考えると、本実施形態の結晶は未変化のままであることが期待される。従って、Cry結晶は、その酵素カーゴをタンパク質分解から保護することができよう。代替実施形態では、Cry結晶を関連酵素に結合させるために架橋及び/または他の表面改質が用いられる。
【0140】
安定性に加えて、経口送達に関する別の考慮すべき事項は、取込みの機序である。この点において、Cry結晶の1つの重要な利点は、Cry結晶が、昆虫の中腸細胞の膜内に入るタンパク質であるCryタンパク質でできていることである。この役割のおかげで、本実施形態のCry結晶融合タンパク質は、腸壁を介して結晶を運搬するのに役立つように有益な特性を有し得る。代替実施形態では、タンパク質の傍細胞取込みに役立つことが証明されているキトサン誘導体などの様々な運搬エンハンサを加えることができる。
【0141】
本発明の実施形態には、酵素治療薬としてCry−SOD及びCry−SOD/GPx結晶が含まれる。様々な実施形態において、大腸菌Cu−Zn SOD(SEQ ID NO: 30)に対応する遺伝子を、バチルス・チューリンゲンシス発現ベクターpHT315のcry遺伝子(例えばSEQ ID NO: 3)に融合させることができる。大腸菌Cu−Zn SODは、比較的小さく(17kDa)、高活性であり、その結晶構造に基づいて単量体であることが確認されているので、理想的である。
【0142】
SOD酵素によって過酸化物を分解すると、より軽度であるが尚も強力なROSである過酸化水素を生じるので、少なくとも1つの実施形態には、Cry−SOD及びCry−GPx遺伝子の共発現によって産出されるCry−SOD/GPx共結晶が含まれる。グルタチオンペルオキシダーゼは、SODにより発生させた過酸化水素を捕らえ、それを用いて大量の血液代謝物であるグルタチオンの酸化を促進することになる。カタラーゼよりもGPxが選択されるのは、より小さなサイズと、DNAポリメラーゼの忠実度への作用のおかげでマンガン―変異原の必要性がないという事実とに起因する。様々な実施形態において、バチルス・チューリンゲンシス由来のGPxが用いられるが、その理由は、このGPxが、配列アラインメントに基づくセレノプロテインではないからであり、結晶が産出される生物から生じるので活性化状態で産出される絶好の機会があるからである。
【0143】
本実施形態の結晶は、心筋再潅流傷害、加齢、メタボリック症候群、及びその他の、ROSが関与する疾患を予防するために、Cry−SOD/GPx結晶を腹腔内注射及び/または経口投与することができる。
【0144】
様々な実施形態では、酵素治療薬の経口送達のためのユニークな方法においてCry結晶プラットフォームが用いられる。既に述べた技術革新の前には、タンパク質結晶技術は標的タンパク質を産出するために複数のステップを必要としていた。過去の方法及びシステムを使う場合、タンパク質を精製する必要があり、その後、結晶化状態を確認する必要があって、その末にやっとタンパク質を結晶化することができた。最後に、多くの過去の技術は、血管系内で安定性を維持するためにタンパク質を架橋する必要があった。有利には、本明細書に記載の様々な実施形態において、これらのステップ全てを、今では細菌ホストによってたった1つのステップで、すなわちショ糖密度勾配遠心分離法による結晶の精製により、行うことができる。
【0145】
(d)代用血液としてのCry結晶
【0146】
代用血液に関する研究は、多くの理由で重要であり、特に特定の外傷性の高い状況において、ヒトの輸血よりも多くの恩恵を与える。輸血された血液が全能力に到達するには24時間掛かる場合があるが、代用血液は速やかに全酸素運搬能力に到達する。酸素を運ぶ代用血液は、血液抗原を持たないので、外傷を負った犠牲者の迅速な治療のためにネガティブな免疫応答を引き起こすことなく全ての血液型に用いることができる。さらに、病原体を持たない(disease-free)酸素治療薬源は、人口の大部分にHIV/AIDSが発症し、血液供給が比較的危険であるような世界の地域に大いに利益をもたらすであろう。
【0147】
ミオグロビン(Mb)は、153個のアミノ酸残基及び1個のヘム分子からなる単鎖球状タンパク質である。この酸素結合タンパク質は、哺乳類の筋肉組織における酸素拡散を促進する。ミオグロビンの構造は、α及びβヘモグロビンサブユニットの構造に非常に類似している。しかし、ヘモグロビンと違い、ミオグロビンの酸素結合は、周囲組織における酸素の圧力に比較的影響を受けない。ミオグロビンは、高い親和性で酸素と結合するが、多量体ヘモグロビンができるように親和性を変えることはできない。従って、ミオグロビンは、酸素に対して双曲線酸素曲線を有し、通常は酸素運搬よりも酸素貯蔵によく適している。
【0148】
ミオグロビン(Mb)ベースの代用血液が成果を挙げるには、酸素に対する親和性を選択的に変化させ、ヘモグロビンが高次構造の変更により達成するO2親和性の多用途性を模倣することが必要になる。必要な、より低い酸素親和性は、ミオグロビンにおいて、結合酸素の立体障害を増加させるか、またはミオグロビンの極性鉄−酸素複合体における酸素結合を弱めるかのいずれかによって達成することができる。従って、本発明の実施形態は、ミオグロビンの二重変異体を、酸素親和性を増減させることができることになる代用血液に取り入れる。次に、バチルス・チューリンゲンシス細菌によって産出される結晶形成Cryタンパク質に、ミオグロビン変異体を融合させることができる。
【0149】
例示的な実施形態では、Cry−ミオグロビン融合タンパク質は、ミオグロビン変異体の酸素結合特性を示す結晶を形成する。本発明の実施形態では、結果として得られる結晶にカプセル化されたミオグロビン変異体は、酸素運搬に適した特性と、患者の血液レベルが回復している間に長期間使用するための安定性と、人体への低い毒性とを有し得る。とりわけ、本発明の実施形態に有用なCry結晶は、ヒトに対して非毒性で、かつサイズがヒトの血管系の静脈及び動脈の径より小さい約1μmである。
【0150】
代替実施形態では、代用血液として他の物質を用いることもある。例えば、様々な実施形態は、パーフルオロカーボン(PFC)及びヘモグロビンベース酸素担体(HBOC)に機能的に結合されたCryタンパク質を用いて、適切な酸素結合特性を示す結晶を形成することができる。PFCは、酸素を運搬しかつ放出することができる化合物であり、PFC粒子は、ヒトの赤血球(RBC)よりもかなり小さいので、RBCが到達できない損傷組織内の毛細管に到達することができる。
【0151】
(e)工業用酵素を安定化するためのCry結晶
【0152】
Cry結晶が、ルシフェラーゼなどのカプセル化されたタンパク質を調製することができるということは、一般の酵素をカプセル化することもできることを物語っている。精製の容易さを前提として、分子の化学合成のための容易な酵素のカプセル化、または市販の洗剤(タイド、チアーなど)におけるプロテアーゼなどの安定化変異体及び他の酵素の調製に利用することもできる。
【0153】
(f)細胞の再プログラミングのためのタンパク質送達
【0154】
様々な実施形態は、細胞内への細胞再プログラミングを目的とするタンパク質を送達するためのプラットフォームとして用いられ得る融合タンパク質結晶を含む。
【0155】
例示的な方法では、所定の細胞株(例えばマクロファージ)を、8ウェルチャンバースライドに1ウェル当たり5×104個播種し、37℃、5%CO2で一晩インキュベートすることができる。その後、細胞を1Xリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄して非接着細胞を除去し、続いて、10%ウシ胎児血清及びpen/strepを補充した200uLのダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's modified Eagle's medium:DMEM)中で120μg/mLのCry3Aa−標的融合タンパク質(例えばCry3Aa−AMP活性化タンパク質キナーゼ)結晶とともに37℃、5%CO2で24〜72時間インキュベートすることができる。インキュベーション期間の後で、遊離Cry3Aa−標的融合タンパク質結晶を除去するために細胞をPBSで3回洗浄し、その後、表現型特性を特徴付けることができる。
【0156】
機能性ペプチドを送達する能力は、多くの治療手段を提供する。例えば、生殖細胞系列特異転写因子Oct4の外因性発現は、成体マウスNSCから多能性幹細胞を産出するには不十分であることは、既に他の者によって示されている。「Kim, et al. Cell 136, 411-419, February 6, 200、Zhou et al. Generation of Induced Pluripotent Stem Cells Using Recombinant Proteins. Cell Stem Cell 4, May 8, 2009」を参照されたい。しかし、過去の方法は、遺伝子及びタンパク質の送達に対する技術的障害によって制限されていた。
【0157】
Cry結晶は、再プログラミングポリペプチドを送達するための効果的な手段を提供する。1つの理論実験例では、Cry融合結晶の形態でリプログラミング・タンパク質(例えばOct4タンパク質)を送達することによって限界を克服することができる。pHT315ベクターを用いて、Cry3Aa−Oct4融合結晶発現ベクターを作ることができる。図3Bに示した発現ベクターと同様に、バチルス・チューリンゲンシス由来のCry3Aaコード配列(SEQ ID NO: 7)をOct4遺伝子(SEQ ID NO: 33)の上流に融合させ、後に停止コドンを続けることができる。その後、タンパク質を神経幹細胞に接触させて再プログラミングを促進することができる。
【0158】
腫瘍抑制タンパク質p16INK4aの機能的不活性化は、膵管細胞及び造血細胞の形質転換における重要な側面であることが実証済みである。しかし、これまでは、関連する悪性腫瘍のターゲッティングは、新生細胞内の核酸及びペプチドの送達への技術的障害によって妨げられてきた。これを受けて、様々な実施形態は、p16INK4aなどの腫瘍抑制タンパク質に融合させたCryタンパク質を含む融合ポリペプチドを病気の細胞及び組織内に効果的に導入し得るタンパク質送達のための方法及び組成物を含む。代替実施形態では、タンパク質結晶をp16INK4aなどの腫瘍抑制タンパク質に架橋させるかまたは結合することができる。この例では、バチルス・チューリンゲンシス由来のCry3Aaコード配列(SEQ ID NO: 7)を、p16INK4aコード配列(SEQ ID NO: 34)の上流に融合させ、後に停止コドンを続けることができる。転移を抑制するために、p16INK4aタンパク質をその後悪性細胞に送達することができる。
【0159】
他の実施形態
【0160】
本発明の実施形態についてその詳細な説明とともに説明してきたが、上述の説明は、本発明を説明することを目的としており、本発明の範囲を限定するものではない。他の態様、利点及び変更形態も、以下の特許請求の範囲内にある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養細胞であって、
異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質またはその結晶形成断片を含んでなる複数の融合ポリペプチドから形成されたタンパク質結晶を含むことを特徴とする培養細胞。
【請求項2】
請求項1に記載の培養細胞であって、
当該細胞が細菌細胞であることを特徴とする培養細胞。
【請求項3】
請求項1に記載の培養細胞であって、
当該細胞が植物細胞であることを特徴とする培養細胞。
【請求項4】
請求項2に記載の培養細胞であって、
前記異種ポリペプチドが免疫原性抗原であることを特徴とする培養細胞。
【請求項5】
請求項2に記載の培養細胞であって、
前記異種ポリペプチドが画像形成物質であることを特徴とする培養細胞。
【請求項6】
請求項5に記載の培養細胞であって、
前記画像形成物質が蛍光タンパク質であることを特徴とする培養細胞。
【請求項7】
請求項2に記載の培養細胞であって、
前記異種ポリペプチドが代用血液であることを特徴とする培養細胞。
【請求項8】
請求項2に記載の培養細胞であって、
前記異種ポリペプチドが治療用酵素であることを特徴とする培養細胞。
【請求項9】
請求項2に記載の培養細胞であって、
前記Cryタンパク質が、Cry1Aa、Cry1Ab、Cry2Aa、Cry3Aa、Cry4Aa、Cry4Ba、Cry11Aa、Cry11Ba、Cry19Aa、それらの相同体、及びそれらの結晶形成断片から成る群より選択されることを特徴とする培養細胞。
【請求項10】
請求項4に記載の培養細胞であって、
前記免疫原性抗原が、fbpA、fbpB、fbpC、ESAT6、erp(pirG)、Rv1477、MPT53、OmpAtb、IiA、p60、MPT53、OspAから成る群より選択されることを特徴とする培養細胞。
【請求項11】
細菌から単離したタンパク質結晶であって、
異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質を含んでなる融合ポリペプチドを含むことを特徴とするタンパク質結晶。
【請求項12】
請求項11に記載のタンパク質結晶であって、
前記異種ポリペプチドが免疫原性抗原であることを特徴とするタンパク質結晶。
【請求項13】
請求項11に記載のタンパク質結晶であって、
前記異種ポリペプチドが画像形成物質であることを特徴とするタンパク質結晶。
【請求項14】
請求項13に記載のタンパク質結晶であって、
前記画像形成物質が蛍光タンパク質であることを特徴とするタンパク質結晶。
【請求項15】
請求項11に記載のタンパク質結晶であって、
前記異種ポリペプチドが代用血液であることを特徴とするタンパク質結晶。
【請求項16】
請求項11に記載のタンパク質結晶であって、
前記異種ポリペプチドが治療用タンパク質または酵素であることを特徴とするタンパク質結晶。
【請求項17】
組成物であって、
異種ポリペプチドに化学的に架橋したCryタンパク質結晶を含むことを特徴とする組成物。
【請求項18】
核酸であって、
異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質結晶を含んでなり、細胞内でインビボで結晶を形成することができる融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有することを特徴とする核酸。
【請求項19】
発現ベクターであって、
請求項17に記載の核酸を含むことを特徴とする発現ベクター。
【請求項20】
細菌内生胞子であって、
Cryタンパク質及び異種ポリペプチドを含んでなる融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含むことを特徴とする細菌内生胞子。
【請求項21】
融合ポリペプチドであって、
Cryタンパク質及び免疫原性抗原を含むことを特徴とする融合ポリペプチド。
【請求項22】
医薬組成物であって、
請求項11に記載のタンパク質結晶と、
薬学的に許容可能な補形剤、担体、希釈剤または賦形剤とを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項23】
医薬組成物であって、
請求項17に記載の組成物と、
薬学的に許容可能な補形剤、担体、希釈剤または賦形剤とを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項24】
細菌から組換え型タンパク質の結晶を単離する方法であって、
異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質をコードする核酸発現ベクターで、前記細菌を形質転換するステップと、
自己融解時に前記細菌から芽胞/結晶混合体が放出されるまで、前記細菌を培養媒体中で成長させるステップと、
密度勾配遠心法または親和性クロマトグラフィー法を用いて、前記芽胞/結晶混合体を遠心分離するステップと、
精製された融合タンパク質結晶を単離するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、
前記細菌がバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)または枯草菌であることを特徴とする方法。
【請求項26】
タンパク質結晶であって、
請求項24に記載の方法により得られたことを特徴とするタンパク質結晶。
【請求項27】
抗原に対する対象の免疫応答を誘起する方法であって、
請求項11に記載のタンパク質結晶を、前記対象に、前記抗原に対する免疫応答を誘導するのに有効な量で投与するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法であって、
前記投与するステップが、鼻腔内投与、経口投与、または腹腔内投与によって行われることを特徴とする方法。
【請求項1】
培養細胞であって、
異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質またはその結晶形成断片を含んでなる複数の融合ポリペプチドから形成されたタンパク質結晶を含むことを特徴とする培養細胞。
【請求項2】
請求項1に記載の培養細胞であって、
当該細胞が細菌細胞であることを特徴とする培養細胞。
【請求項3】
請求項1に記載の培養細胞であって、
当該細胞が植物細胞であることを特徴とする培養細胞。
【請求項4】
請求項2に記載の培養細胞であって、
前記異種ポリペプチドが免疫原性抗原であることを特徴とする培養細胞。
【請求項5】
請求項2に記載の培養細胞であって、
前記異種ポリペプチドが画像形成物質であることを特徴とする培養細胞。
【請求項6】
請求項5に記載の培養細胞であって、
前記画像形成物質が蛍光タンパク質であることを特徴とする培養細胞。
【請求項7】
請求項2に記載の培養細胞であって、
前記異種ポリペプチドが代用血液であることを特徴とする培養細胞。
【請求項8】
請求項2に記載の培養細胞であって、
前記異種ポリペプチドが治療用酵素であることを特徴とする培養細胞。
【請求項9】
請求項2に記載の培養細胞であって、
前記Cryタンパク質が、Cry1Aa、Cry1Ab、Cry2Aa、Cry3Aa、Cry4Aa、Cry4Ba、Cry11Aa、Cry11Ba、Cry19Aa、それらの相同体、及びそれらの結晶形成断片から成る群より選択されることを特徴とする培養細胞。
【請求項10】
請求項4に記載の培養細胞であって、
前記免疫原性抗原が、fbpA、fbpB、fbpC、ESAT6、erp(pirG)、Rv1477、MPT53、OmpAtb、IiA、p60、MPT53、OspAから成る群より選択されることを特徴とする培養細胞。
【請求項11】
細菌から単離したタンパク質結晶であって、
異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質を含んでなる融合ポリペプチドを含むことを特徴とするタンパク質結晶。
【請求項12】
請求項11に記載のタンパク質結晶であって、
前記異種ポリペプチドが免疫原性抗原であることを特徴とするタンパク質結晶。
【請求項13】
請求項11に記載のタンパク質結晶であって、
前記異種ポリペプチドが画像形成物質であることを特徴とするタンパク質結晶。
【請求項14】
請求項13に記載のタンパク質結晶であって、
前記画像形成物質が蛍光タンパク質であることを特徴とするタンパク質結晶。
【請求項15】
請求項11に記載のタンパク質結晶であって、
前記異種ポリペプチドが代用血液であることを特徴とするタンパク質結晶。
【請求項16】
請求項11に記載のタンパク質結晶であって、
前記異種ポリペプチドが治療用タンパク質または酵素であることを特徴とするタンパク質結晶。
【請求項17】
組成物であって、
異種ポリペプチドに化学的に架橋したCryタンパク質結晶を含むことを特徴とする組成物。
【請求項18】
核酸であって、
異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質結晶を含んでなり、細胞内でインビボで結晶を形成することができる融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有することを特徴とする核酸。
【請求項19】
発現ベクターであって、
請求項17に記載の核酸を含むことを特徴とする発現ベクター。
【請求項20】
細菌内生胞子であって、
Cryタンパク質及び異種ポリペプチドを含んでなる融合ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸を含むことを特徴とする細菌内生胞子。
【請求項21】
融合ポリペプチドであって、
Cryタンパク質及び免疫原性抗原を含むことを特徴とする融合ポリペプチド。
【請求項22】
医薬組成物であって、
請求項11に記載のタンパク質結晶と、
薬学的に許容可能な補形剤、担体、希釈剤または賦形剤とを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項23】
医薬組成物であって、
請求項17に記載の組成物と、
薬学的に許容可能な補形剤、担体、希釈剤または賦形剤とを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項24】
細菌から組換え型タンパク質の結晶を単離する方法であって、
異種ポリペプチドに融合したCryタンパク質をコードする核酸発現ベクターで、前記細菌を形質転換するステップと、
自己融解時に前記細菌から芽胞/結晶混合体が放出されるまで、前記細菌を培養媒体中で成長させるステップと、
密度勾配遠心法または親和性クロマトグラフィー法を用いて、前記芽胞/結晶混合体を遠心分離するステップと、
精製された融合タンパク質結晶を単離するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、
前記細菌がバチルス・チューリンゲンシス(Bacillus thuringiensis)または枯草菌であることを特徴とする方法。
【請求項26】
タンパク質結晶であって、
請求項24に記載の方法により得られたことを特徴とするタンパク質結晶。
【請求項27】
抗原に対する対象の免疫応答を誘起する方法であって、
請求項11に記載のタンパク質結晶を、前記対象に、前記抗原に対する免疫応答を誘導するのに有効な量で投与するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法であって、
前記投与するステップが、鼻腔内投与、経口投与、または腹腔内投与によって行われることを特徴とする方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公表番号】特表2012−529269(P2012−529269A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514228(P2012−514228)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/037650
【国際公開番号】WO2010/141953
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(510330415)ジ オハイオ ステイト ユニヴァーシティ リサーチ ファウンデーション (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【国際出願番号】PCT/US2010/037650
【国際公開番号】WO2010/141953
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(510330415)ジ オハイオ ステイト ユニヴァーシティ リサーチ ファウンデーション (3)
【Fターム(参考)】
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