説明

生体材料を心臓に供給する装置および方法

鬱血性心不全を治療してあるいは防止するための生体適合材料が、患者の心臓の心膜内の空間に注入されて、緩やかな圧縮力を心臓上に負荷する。ある容量の生体適合材料が、注射針あるいはカテーテルにより少なくとも左心室に隣接して心膜内の空間に配置されると、この生体適合材料は心臓周期の少なくとも一部の間に心筋上に圧縮力を負荷して心臓壁の張力を軽減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は心臓を治療するための装置および方法に関する。より詳しくは、本発明は、患者の心臓の少なくとも一部を治療するための心膜内の空間への生体材料(biomaterial)の注入に関する。
【背景技術】
【0002】
鬱血性心不全(CHF)は、組織の代謝要求、特に酸素の要求を満たす充分な流量で血液をポンプ送りする心臓の不全によって特徴付けられる。CHFの1つの特徴は、患者の心臓の少なくとも一部のリモデリングである。リモデリングには心臓壁の寸法、形状および厚みの物理的な変化が含まれる。例えば損傷を受けた左心室は、心筋の一部の限局性の菲薄化および伸長を伴うことがある。心筋が薄くなった部分は多くの場合に機能が損なわれ、心筋の他の部分がそれを補償しようとする。その結果、心筋に障害がある領域にも関わらず心室の拍出量を保持するために、心筋の他の部分が膨張することになる。そのような膨張は、左心室にいくらか球形の形状を生じさせることになる。
【0003】
心臓のリモデリングは、多くの場合、心臓壁を増加した壁張力あるいは応力にさらし、心臓の機能的な性能をさらに損なわせる。多くの場合、心臓壁は、そのような増加した応力によって生じる障害を補償するためにさらに膨張する。したがって、膨張がさらなる膨張およびより大きな機能障害につながる悪循環が生じる。
【0004】
歴史的に、鬱血性心不全は様々な薬物によって治療されてきた。心送血量を改良するための装置もまた用いられてきた。例えば、左心室補助ポンプは、心臓による血液のポンプ送りを補助する。心室の鼓動を最適に同期させて心送血量を改良するマルチチャンバペーシングもまた利用されてきた。広背筋のような様々な骨格筋が、心室のポンプ送りを補助するために用いられてきた。研究者および心臓外科医はまた、心臓の周りに配設される人工「ガードル」を試験してきた。そのような設計の1つが、心臓に巻きつけられる人工「ソックス」あるいは「ジャケット」である。
【0005】
前述した装置のいくつかは将来性を有しているけれども、リモデリングした心臓がさらにリモデリングすることを防止しあるいはまた病んでいる心臓の逆リモデリングを助ける、CHFを治療するための改善された装置に対する必要性が存在している。
【0006】
従来技術の他の装置には、患者の心臓の周りにほぼフィットし、圧縮力を負荷することによって心臓の膨張に抵抗するように構成された心臓ハーネスが含まれる。そのような心臓ハーネス装置のひとつにおいては、ばねに似た要素あるいはヒンジの複数の列が患者の心臓の周りに形成され、列コネクタによって相互に接続される。ばねに似た要素は、心臓の心外膜表面上に緩やかな圧縮力を負荷して壁張力を軽減する。そのような心臓ハーネスは米国特許第6,702,732号、第5,595,912号、および第6,602,184号のいずれにも見出すことができる。
【0007】
従来技術の装置には、心臓の周りの少なくとも一部にフィットして、心臓周期の少なくとも一部の間に心臓上の略内側に向けられた力を作用させるように構成された、心臓壁張力低減装置を提供することがさらに含まれる。この従来技術の装置には、患者の身体による瘢痕組織の成長を制限するための薬物と組み合わせることができる生体吸収性の生体適合材料から形成された、壁張力低減装置が含まれる。この心臓壁張力低減装置は、その生体吸収性の生体適合材料が身体の内部に溶解するまで心臓の荷重を減少させるように心臓の周りに配置される。そのような装置は、共有に係る、2003年1月7日に出願されて係属中の米国出願第10/338,394号に見出すことができる。なお、その内容の全体がこの参照によって本願明細書に組み込まれるものとする。
【0008】
冠状動脈疾患は、鬱血性心不全の約70%の原因となる。冠状動脈の閉塞に起因する急性心筋梗塞症(AMI)は、最終的に心臓病に至り得る共通の最初の出来事である。このことが出現するプロセスは、リモデリングと呼ばれており、Heart Disease, 5th ed., E. Braunwald, Ch. 37 (1997)に記載されている。心筋梗塞の後のリモデリングは、サイズ、形状および左心室の厚みにおける2つの異なったタイプの物理的な変化を伴う。第1のものは、梗塞膨張として公知な、梗塞領域の心筋の限局性の菲薄化および伸展を伴う。この心筋は、梗塞形成の厳しさに応じた進行性の機能損傷段階を経る。この段階は、その下に横たわっている心筋壁の動きの異常を反映したもので、初期の同期不全を含むとともに、運動機能減少症、無動症へと続き、最終的には左心室の動脈瘤、運動異常症に帰着する。この運動異常症は「奇異性」運動として説明されてきた。収縮期の間に梗塞ゾーンが外側に膨張し左心室の残りの部分が収縮するからである。その結果、運動障害性の心臓の収縮末期の容積は、非運動障害性の心臓に対して増大する。
【0009】
左心室のリモデリングの第2の物理的な特徴は、多動になりかつ激しく膨張することによって左心室がより球形な形状を呈するようにする、非梗塞性領域の心筋の梗塞性領域のための補償作用である。このことは、梗塞後における拍出量の維持を助ける。これらの変化は、左心室の心筋の壁応力を増大させる。壁張力は、左心室のリモデリングを促進する最も重要なパラメータの一つであると思われている(Pfeffer 他,190年)。壁張力あるいは応力が増大すると更なる心室の拡張が生じる。これにより、拡張が更なる拡張およびより大きな機能損傷に至る悪循環が起こり得る。本発明において用いる生体材料は、これらの問題を緩和して逆リモデリングを促進する。
【0010】
心臓に追従する生体材料の性能はまた、急性心筋梗塞症の後の拡張心不全の防止において理論的に重要である。それが収縮期、特に初期の収縮期の間に補強を提供するために重要であるからである。
【0011】
心臓周期のより大きな範囲にわたって心筋に援助を提供することに加えて、収縮期において心臓に圧縮状態で接触したままとなる生体材料は、収縮期の間に運動障害、動脈瘤の心臓に出現する梗塞領域の「奇異性膨隆」を相殺する。このことは、梗塞の拡大を減少させ、したがってさらにその後に続くリモデリングの延長を制限する。
【発明の開示】
【0012】
本発明の一態様によると、心不全を治療する方法は、心臓壁の張力を減少させるために患者の心臓の心膜内の空間に物質を導入することを含む。一つの実施形態においては、鬱血性心不全あるいは他の心臓病の治療において臨床的に測定可能な利益を達成するために、生体材料を心膜内の空間内に導入することができる。生体材料(biomaterial)は、生体適合性(biocompatible)、生体吸収性(bioresorbable)、生体非吸収性(non-bioresorbable)、液体、半固体、あるいは固体とすることができるが、適切な引張強さおよび弾性率を有するように構成される。生体材料が液体あるいは半固体である実施形態においては、生体材料は、心膜内の嚢に挿入された針あるいはカテーテルによって心膜内の空間に注入される。生体材料が固体である実施形態において、この固体は、心臓壁張力を減少させるために、最小限に侵襲的に心膜内の空間に移植することができる。生体材料は拍動する心臓によって連続する変形に絶えずさらされるので、心筋の弾性率と生体材料の弾性率との間の比率が重要である。一つの実施形態おいては、心筋の弾性率と生体適合物質の弾性率との間の比率は、心筋それ自身の実際のばね定数と20との間である。好ましい実施形態において、生体材料物質は、5mmHg未満、より好ましくは2mmHg未満の圧縮力を心筋上に負荷する。ある種の条件下においては、生体材料物質は、約1mmHgの圧縮力を心筋上に負荷することができる。生体材料によって心筋上に負荷される圧縮力の総計は、生体材料の組成および注入量の総計を含む数多くの要因によって左右される。一つの実施形態においては、心膜内の空間に注入される生体適合材料の容積は1ml〜1000ml、好ましくは50ml〜200mlの範囲である。
【0013】
本明細書において用いる「心膜内の空間」は、幅広い意味を有し、心臓あるいは心筋の心外膜表面への生体適合材料の適用の精神および範囲と関連して用いられることが意図されている。より詳しくは、特定の状況下では、患者が以前に開胸手術を受けたことがあり、心膜が開かれたけれども閉じられておらず、心膜内の空間はそのようにものとして限られた実体を有している。これにより、「心膜内の空間」に言及する際には、生体適合材料が、心膜と心臓の心外膜表面あるいは心筋との間にあることを含めて、心筋に近接してあるいは心筋に接触して注入されあるいは配置されることが意図される。さらに、心膜が開胸手術の結果として開かれなかった状況においては、心膜と心臓あるいは心筋の心外膜表面との間にはごくわずかな空間しか存在し得ない。同様に、この状況下における「心膜内の空間」は、心膜の内側と心臓あるいは心筋の心外膜表面との間の空間を含むことが意図されている。
【0014】
本発明の一実施形態において、生体材料は、心膜内の空間の限局された場所において前駆物質、モノマーあるいはプレポリマーから形成することができるが、これらの前駆物質、モノマーあるいはプレポリマーは相転移、重合あるいは架橋を受ける。この実施形態においては、典型的に、前駆物質、モノマーあるいはプレポリマーは、溶液あるいは液体の状態で心膜内の空間に導入されるとともに、ある期間のうちに、送給された部位においてゲル、ヒドロゲル、エラストマ、半固体あるいは固体の生体適合材料に相転移する。一つの実施形態において、この相転移は、送給された部材において約1秒、最高でも約20分の範囲で生じる。異なる相転移の時間もまた、様々な条件および特定の患者の必要性に応じて可能である。
【0015】
他の実施形態においては、生体材料物質を予め形成し、ゲル化し、或いは合成することができるが、さもなければ心膜内の空間にこの生体材料を注入する前に前駆物質、モノマーあるいはプレポリマーから調製することができる。生体適合材料を予め形成し、ゲル化し、合成し、さもなければ前駆物質、モノマーあるいはプレポリマーから調製した後、この生体材料は最小限に侵襲性のあるいは心臓切開手術の間に心膜内の空間に注入される。
【0016】
本発明のために心膜内の空間に生体材料を形成するべく、ラジカル重合、マイケル付加重合、縮合反応、および求電子体と求核原子との間の架橋反応(求電子体および求核原子との間の添加あるいは縮合反応)を含む様々な重合および架橋反応を用いることができる。
【0017】
一つの実施形態において、この生体材料は、親水性および疎水性の合成ポリマー、少なくとも2つの炭素原子を有した低分子量の架橋剤、タンパク質、多糖類、脂質、DNAおよびそれらの誘導体を含むモノマー、オリゴマー、および合成されたあるいは自然に産出するポリマーのプレポリマーから形成することができる。本発明において有用な親水性ポリマーは、以下の物を含むが、それらには限定されない。ブロックおよびランダム共重合体を含む、ポリアルキレン酸化物、特にポリエチレングリコールおよびポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)コポリマー;ポリオール、グリセロール、ポリグリセリン(特に高度に分岐したポリグリセリン)、プロピレングリコール、例えばモノ−、ジ−、トリ−ポリオキシエチレングリセロール、モノ−およびジ−ポリオキシエチレンプロピレングリコール、モノ−およびジ−ポリオキシエチレントリメチレングリコールといった1つ若しくは複数のポリアルキレン酸化物によって置換されたトリメチレングリコール;ポリオキシエチレンソルビトール、ポリオキシエチレンブドウ糖;アクリル酸ポリマー、およびそれ自体はポリアクリル酸のようなそれらの類似体やコポリマー、ポリメタクリル酸、ポリ(ヒドロキシメチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸メチルアルキルスルホキシド)、ポリ(メチルアルキルスルホキシドアクリレート)、およびこれらのあるいはアミノアクリル酸エチルおよびモノ−2−(アクリルオキシ)−エチルスクシナートのような追加のアクリレート化学種との任意のコポリマー;ポリマレイン酸;それ自体はポリアクリルアミドのようなポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、およびポリ(N−イソプロピル−アクリルアミド);ポリ(ビニルアルコール)のようなポリ(オレフィンアルコール);ポリビニルピロリドンのようなポリ(N―ビニルラクタム))、ポリ(N―ビニルカプロラクタム)およびそのコポリマー;ポリ(メチルオキサゾリン)およびポリ(エチルオキサゾリン)を含むポリオキサゾニン;およびポリビニルアミン。
【0018】
親水性ポリマー成分は、合成あるいは自然に産出する親水性ポリマーとすることができる。自然に産出する親水性ポリマーは、以下の物を含むが、これらには限定されない。コラーゲンのようなタンパク質、フィブロネクチン、アルブミン、グロブリン、フィブリノーゲン、およびフィブリン。特に、コラーゲンが好ましい。;ポリマンヌロン酸酸およびポリガラクツロン酸のようなカルボキシ化された多糖類;アミノ化された多糖類、特にグリコサミノグリカン、例えば、ヒアルロン酸、キチン質、コンドロイチン硫酸A、BあるいはC、硫酸ケラチン、ケラト硫酸およびヘパリン;およびデキストランおよび澱粉誘導体のような活性化された多糖類。
【0019】
低分子量の多機能化学種を含む疎水性ポリマーもまた本発明の架橋性の成分に用いることができる。一般的に、本願明細書における疎水性ポリマーは、比較的小さい比率の酸素あるいはまた窒素原子を含んでいる。本発明に用いる好ましい疎水性ポリマーは、全般的に、約14の炭素より長くない炭素連鎖を有している。
【0020】
他の実施形態において、ポリマーは、ポリマーの分子構造の全体にわたって分配され、あるいはブロックコポリマーとしての単一ブロックとして存在する、生体分解性の部分およびブロックを含むことができる。生体分解性の部分は分解して共有結合を破壊する。典型的に、生体分解性の部分は、水の存在によって加水分解され、あるいはまた酵素処理によって限局された部位において分裂する部分である。生体分解性の部分は、エステル結合、無水物結合、オルトエステル結合、オルト炭酸結合、アミド連鎖、ホスホナート結合、その他といった低分子量の部分から構成することができる。より大きな生体分解性の「ブロック」は、親水性ポリマーの中に組み込まれたオリゴマあるいはポリマーの部分から構成される。実例となる生体分解性のオリゴマおよびポリマーの部分には、一例として、ポリ(アミノ酸)部分、ポリ(オルソエステル)部分、ポリ(オルト炭酸塩)部分他が含まれる。
【0021】
一つの実施形態において、心膜内の空間に供給される生体材料は、1日から12ヵ月におよぶ時間において半分に分解するような生体分解性となるように調製することができる。生体内分解の速度は、前述のパラグラフで言及した加水分解性あるいは生体分解性の化学結合および生体分解性の部分を、生体適合材料に組み込むことによって、調整することができる。典型的に、最高で30重量%の水を含む流体ゲル生体適合材料は、50重量%未満の水を含むエラストマ生体適合材料よりも早く生体分解される。CuMedica, Ltd. UKからの細胞ペルフルオロエラストマ、あるいはBoston Scientificからの非分解性生体適合材料(Enteryx(商標))のようなより長持ちするエラストマ生体材料は、より長持ちする生体材料移植物の一例である。
【0022】
他の実施形態において、非吸収性の生体材料成分は、典型的に、生理的液体に実質的に不溶性なポリマーから成る。適切な生体適合性のポリマーには、一例として、酢酸セルロース(二酢酸セルロースを含む)、エチレンビニルアルコールコポリマー、流体ゲル(例えばアクリル)、ポリ(C−C)アクリレート、アクリレートコポリマー、アルキル基がそれぞれ1〜6の炭素原子を含んでいるポリアルキルアルカクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアセテート、酢酸酪酸セルロース、ニトロセルロース、ウレタン/炭酸塩のコポリマー、スチレン/マレイン酸のコポリマー、およびそれらの混合物が含まれる。ウレタン/炭酸塩のコポリマーには、メチレン基ビスフェニルジイソシアナートのようなジイソシアナートと化学反応してウレタン/炭酸塩コポリマーをもらたす、ジオールが末端にあるポリカーボネートが含まれる。
【0023】
本発明の生体材料の強度を高めるために、接着剤組成物に「引張強さエンハンサ」を追加することが望ましい。一つの実施形態においては、そのような引張強さエンハンサは、ミクロンサイズの、好ましくは直径が5〜40ミクロン、長さが20〜5000ミクロンの、通常はガラス転移温度が37℃よりもかなり高い高引張強さの繊維から構成される。本発明に用いる適切な引張強さエンハンサには、なかでも、コラーゲン線維、ポリグリコリドおよびポリ乳酸繊維、絹繊維および他の有機引張強さエンハンサ、および無機の引張強さエンハンサが含まれる。特に有用な引張強さエンハンサは、VICRYL(商標)(グリコール酸とポリ乳酸との90:10のポリマー)である。適切な引張強さエンハンサは、固有の高い引張強さを有するとともに、重合させたゲル網状組織と共有結合あるいは非共有結合によって相互作用することができるものである。引張強さエンハンサは、引張力の支持を提供するために、機械的にあるいは共有結合によってゲルと結合しなければならない。
【0024】
本発明の目的のために生体適合材料を形成するに適したポリマー、架橋試薬、活性化化学的性質および反応条件の更なる例には、米国特許第6,312,725号、第6,352,710号、第6,217,894号、第6,818,018号、第6,833,408号、および米国出願公開2004/0219214号、2004/0225077号、2004/0009205号、2003/0162841号、2003/0104032号、2004/0002456号、および2002/0114775号に記載されているものが含まれる。なお、その全ては、この参照によって本願明細書に組み込まれるものとする。
【0025】
他の実施形態において、本発明の生体材料成分は、鬱血性心不全あるいは他の心臓治療に関連して、様々な薬物および他の生物活性物質の限局的な配送のためにも用いることができる。薬物、生物薬剤およびその他の生理的プロセスを改良する薬剤は、局部組織による吸収の後に、生体材料成分から局部組織あるいは全身循環へと供給することができる。生体材料により送給される薬物、生物薬剤、治療薬あるいは生理的プロセス改質剤は、抗感染薬、抗炎症剤、抗増殖性、反血管原性、抗悪性、坑麻痺、瘢痕誘起、組織再生、麻酔薬、鎮痛薬、免疫修飾剤、および神経調整剤とすることができる。薬物の更なる例には、米国特許第6,759,431号および米国出願公開2004/0219214号に記載されているものが含まれる。なお、その内容この参照によって本願明細書に組み込まれるものとする。
【0026】
本発明の一つの態様において、心膜内の空間に供給される生体材料は、鬱血性心不全を治療するための薬物を含む。鬱血性の心臓を治療するために使用する薬物の例には、フロセミド、ヒドロクロロチアジド、メトラゾン、ジゴキシン、ドーパミン、ドブタミン、イナムリノン、ミルリノン、カプトプリル、エナラプリル、リシノプリル、ニトロプルシド、アルプロスタジル、DITPA、あるいは3, 5-diiodothyropropionic acidが含まれる。
【0027】
本発明の更に他の態様において、心膜内の空間内に供給される生体材料は、心筋の表面上および心膜内の空間において線維性カプセル組織の形成を生じさせる線維症誘起薬剤を含む。線維症誘起試薬の例には、キトサン、フィブロネクチン、ブレオマイシン、ポリリジン、絹タンパク質、タルクパウダーが含まれる。他の線維症誘起薬剤の例には、米国出願公開2005/0169958号および2005/0169959号に記載されているものが含まれる。なお、それらはこの参照によって本願明細書に組み込まれるものとする。
【0028】
本発明の一実施形態において、心膜内の空間に送給される生体材料成分は、心膜内の空間内において約1秒からの約20分の間でヒドロゲルあるいはエラストマを形成することができる、2つの反応性高分子から構成される。2つの反応性高分子は、生体材料成分を心膜内の空間に配送する間に、Y字形のコネクタおよびミキサーを用いて混合される。典型的に、可溶性の反応性試薬は、混合室を有したY字形のコネクタに接続された注射器内に配置される。反応性の試薬を注射器から押出すと、試薬は互いに混合し、目標とする組織部位に混合物が送給される。生体材料成分をエアゾールの形態で供給するときには、ガス供給源(窒素、二酸化炭素、圧搾空気)を選択的にY字形のコネクタに接続することができる。反応条件(pH、重合開始剤の濃度、反応性の試薬の濃度)は、生体材料の迅速な(10秒未満)重合あるいはゲル化、あるいは低速な(最高で20分)重合あるいはゲル化を可能とするために設定することができる。
【0029】
さらに他の実施形態において、反応性の試薬は、組織部位に対する混合物の適用の前に直ちに予備混合し、単一の試薬の形態で心膜内の空間に送給することができる。反応条件は、混合物を液体のままとし、数分間で押し出すことができるように設定することができるが、この時間は、典型的に、混合した生体適合材料の心膜内の空間への送給を完了させるために充分なものである。
【0030】
本発明の一つの態様において、一方あるいは両方の反応性試薬は、組織表面上の求核基(すなわち、細胞表面および細胞間マトリックス上のタンパク質のアミノおよび硫化物錯体群)に対して反応性とすることができる。送給されると、混ぜられた反応性の試薬は互いに化学反応し、生体材料の移植物(移植組織)を形成する。いくつかの親電子性のグループは、組織表面上の求核基と化学反応し、生体材料の移植物と組織表面との間に共有結合性の化学結合を形成する。例えば、そのような反応性の製剤が心膜内の空間に送給されて心筋と接触するように配置されると、植設された生体材料は、心筋の表面と共有結合的に連結することができる。CoSeal(登録商標)、DuraSeal(商標)およびBioGlue(商標)といった、移植可能なシール材および接着剤を含む生体手術(biosurgery)の分野におけるいくつかの商業的な製品は、架橋化学技術をベースとしたもので、移植物と組織表面との共有結合的な連結を可能にする。
【0031】
本発明の更に別の態様において、生体材料は、生体高分子の生物学的あるいは酵素的な架橋の結果として形成することができる。例えば、多くの外科的な線維素シール接着剤は、血液製剤に由来する成分の酵素架橋をベースとしている。典型的に、トロンビンおよびフィブリノーゲンを含んでいる製剤は、組織部位において互いに混合する。トロンビンは、フィブリノーゲンを線維素に変換するが、それは自然発生的に自ら線維素内に結集してヒドロゲル類似の再吸収可能な生体適合材料の形成を生じさせる。Tisseel(登録商標)、VitaGel(商標)およびFloSeal(商標)は、このカテゴリの商業的に入手可能な製品の一つである。
【0032】
本発明の一実施形態において、心膜内の空間への生体材料の注入は、蛍光X線透視検査、エコーあるいはMRI(核磁気共鳴映像法)の下で視覚化される。視覚化を改良するために、哺乳類の被検者への注入の間に例えばX線撮影によって監視することができる、典型的に生体適合性(非毒性)で放射線不透過性の生体材料である造影剤を、生体材料の処方に追加することができる。造影剤は、水に対して可溶性あるいは不溶性とすることができる。水可溶性の造影剤の例には、メトリザミド、イオパミドール、ヨータラム酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウムおよびメグルミンが含まれる。水不溶性の(すなわち、20℃において1mlにつき0.01ミリグラム未満の水溶性を有する)造影剤には、タンタル、タンタル酸化物および硫酸バリウムが含まれるが、それぞれ生体内での使用のために適切な形態で商業的に入手可能であり、かつ好ましくは10ミクロン以下の粒度を有している。他の水不溶性の造影剤には、金、タングステンおよび白金粉末が含まれる。
【0033】
他の実施形態において、非水可溶性ポリマーを送給するために用いることができる適切な生体適合性の溶剤には、一例として、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシドの類似体/同族体、エチルアルコール、乳酸エチル、アセトンなどが含まれる。体内に注入されると溶解したポリマーが沈殿するように、利用する水量が十分に少なければ、生体適合性の溶剤との水性混合物もまた用いることができる。好ましくは、生体適合性の溶剤は乳酸エチルあるいはジメチルスルホキシドである。
【0034】
本発明の一態様においては、ある種の成分が、心膜内の空間において物理的に架橋されたゲルを(非共有結合的に)形成するために適している。ポリマーは、物理的あるいは化学的な手段によって架橋させることができる。物理的な架橋は、典型的に結合がより弱く、エネルギーが低く、かつ多くの場合には可逆的である点において、化学的な架橋とは異なっている。これにより、物理的に架橋されたヒドロゲルは、多くの場合に機械的に変形可能である。4つの基本的な力が物理的な架橋を生み出す役割を果たすことが見出されている。イオン相互作用、疎水的相互作用、水素結合、およびファンデルワールス力である。
【0035】
[イオン相互作用ポリマー]
物理的な架橋は、分子内、あるいは分子間、場合によってはその両方である。例えば、ヒドロゲルは、(Ca+2およびMg+2といった)二価のカチオン金属イオンと、アルギン酸塩、キサンタンガム、天然ゴム、寒天、アガロース、カラゲナン、フコイダン、ファーセレラン、ラミナラン、カズノイバラ、キリンサイ、アラビアゴム、ガティゴム、カラヤゴム、トラガカントゴム、ローカストビーンガム、アラビノガラクタン、ペクチン、およびアミロペクチンといったイオン多糖類とのイオン相互作用によって形成することができる。これらの架橋は、例えばエチレンジアミン四酢酸といった、架橋している金属イオンをキレート化する化学種への露出によって容易に逆転させることができる。ポリ(l-リシン)、ポリ(アリルアミン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(グアニジン)、ポリ(ビニルアミン)といった骨格鎖に沿って複数のアミン官能基を含んでいる多機能カチオンポリマーは、イオン架橋をさらに誘起させるために用いることができる。
【0036】
[熱可逆的ポリマー]
疎水的相互作用は、特にポリマーにおいて、ポリマーの溶液の粘度、沈殿、あるいはゲル化の増加を誘起させる、物理的な絡み合いを誘起させることができる。例えば、ニュージャージー州Mount OliveのBASF CorporationからPLURONIC .RTM.の商品名で入手可能な、ポリ(オキシエチレン)-ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマーは、溶液内において温度可逆的な挙動を呈することが知られている。したがって、PLURONIC(商標) F-127の30%の水溶液は、4℃において比較的低い粘度の液体であるが、疎水的相互作用に起因して、生理的温度においてはペースト状のゲルを形成する。例えばポリ(スチレン)とポリ(オキシエチレン)のコポリマー、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ブタジエン)といった、水溶性および不溶性ポリマーの他のブロックおよびグラフト共重合体は、類似の効果を呈する。
【0037】
近年では、Jeong他は、生体分解性のpoly(ethylene glycol- b-(DL-lactic acid-co-glycolic acid)-b-ethylene glycol)、(PEG-PLGA-PEG)、トリブロックコポリマーを報告した(米国特許第6,117,949号を参照。この参照によって本願明細書に組み込まれるものとする)。それらは、注射可能な薬物送給システムとしての有望な特性を呈した。ネズミの生体内における研究は、このコポリマーゲルが1か月の後にもなお存在していることを証明した。分解の間、最初に透明であったゲルは、親水性のPEGリッチな部分の優先的な腐食減量に起因して不透明となった。形態の変化および境界部分あるいは相の発生は、組織工学における細胞悪化を生じさせ得る。形成されたゲルからの豚の成長ホルモン(PGH)およびインスリンの生体外への放出は、装填されたタンパク質の40〜50%を放出した後に止まった。
【0038】
遷移温度を調整する技術、すなわち物理的な結鎖に起因して水溶液がゲルに移行する温度は公知である。例えば、遷移温度は、疎水性の融合鎖あるいは親水性のブロックに対するブロックの重合度を増大させることによって低下させることができる。全体的なポリマーの分子量を増加させつつ、親水性を保ち、疎水性比率を変化させないこともまたゲル転移温度の低下に結びつく。ポリマーの鎖が効果的により多くもつれるからである。ゲルは、低い分子量のポリマーに対して、より低い相対濃度において同様に得ることができる。
【0039】
ポリ(N−アクリルアルキルアミド)のような他の合成ポリマーの溶液もまた、温度可逆的な挙動および暖まると弱くなる物理的な架橋を呈する流体ゲルを形成する。温度可逆的な溶液を噴霧する間における、噴霧の間の蒸発による溶液の冷却を期待することができる。生理的な温度において目標組織に接触すると、物理的架橋の形成によって粘度が増大する。
【0040】
[pH反応性のポリマー]
同様に、酸性あるいは基本的なpHにおいて低い粘度を有するともに、例えば溶解度の減少に起因して中性のpHに到達すると粘度の増加を呈する、pH反応性ポリマーを利用することができる。これにより、架橋性水溶性ポリマーの安定性および反応性は、pH値の適切な選択によって制御することができる。例えば、分解可能なエステルはpH3〜5で安定しているが、親電子性の求核反応における反応性は高いpH値において最も高い。ポリ(アクリル酸)あるいはポリ(メタクリル酸)のようなポリアニオン重合体は、酸性のpH値で低い粘度を有するが、それはより高いpH値においてポリマーが溶媒化されると増加する。そのようなポリマーの溶解度およびゲル化は、ポリアニオン重合体と錯体化する他の水溶性ポリマーとの相互作用によってさらに制御することができる。例えば、2,000以上の分子量のポリ(エチレンオキシド)は、水に溶解して澄んだ溶液を形成することが良く知られている。しかしながら、これらの溶液がポリ(メタクリル酸)あるいはポリ(アクリル酸)の同様に澄んだ溶液と混ぜ合わせられると、濃縮、ゲル化、あるいは沈殿が特定のpH値および採用する条件に応じて発生する(例えば、Smith et al., "Association reactions for poly(alkylene oxides) and poly(carboxylic acids)," Ind. Eng. Chem., 51:1361 (1959)を参照)。したがって、2つの溶液が限局された場所において組み合わされると物理的な架橋に起因して即座に粘度が増加するように、第1の成分(他の成分間における)が8〜9の高いpH値においてポリ(アクリル酸)あるいはポリ(メタクリル酸)から成り、かつ他の成分(他の成分の間における)が酸性のpH値においてポリ(エチレングリコール)の溶液から成る、2成分水溶液システムを選択することができる。
【0041】
[自然に産出する環境に影響されやすいポリマー]
物理的なゲル化はまた、自然に存在しているいくつかのポリマーから得ることができる。例えば、ゼラチンは、コラーゲンを加水分解した形態であるが、高められた温度から冷却されるときに物理的な架橋を形成する、最も一般的な生理的に産出するポリマーの一つである。例えばヒアルロン酸といったグリコサミノグリカンのような他の天然高分子は、各ポリマー鎖に沿ってアニオン性およびカチオンの両方の官能基を含んでいる。このことは、分子内および分子間のイオン架橋の形成を可能にし、ヒアルロン酸の揺変性(あるいは、ずれ揺変)の原因となる。架橋は、剪断の間に一時的に崩壊し、低い見かけ粘度および流動性に結びつくが、剪断を除去すると再び形成され、それによってゲルが再び形成される。
【0042】
本発明の一実施形態においては、他の合成されたおよびより長く長持ちするゲル形成製剤と組み合わせて自己由来の凝血を用いる。術前に患者から50〜100mlの静脈血を収集することは、心膜の空間内に供給されて凝固する材料を提供する。典型的な凝血塊は、7〜14日で再吸収される。自己由来の凝血塊の潜在的な利益の一つは、弱まっている心筋に対する治療効果を有した自己由来の血小板および成長因子を含んでいるからである。
【0043】
一つの実施形態においては、生体材料は、先に明らかにしたような生体材料の組成に応じてその機械的性質が変化する。より詳しくは、生体材料は、心膜内の空間に注入された後においてその引張強さが増大するので、ごくわずかな引張強さしか有していない液体から、より大きな引張強さを有した材料、したがって心臓壁応力を軽減するより大きい圧縮力へと変化する。そのような生体適合材料の一つの例には、約8〜9の高められたpH値のポリ(アクリル酸)および酸性pH値のポリ(エチレングリコール)から成る2成分水溶液が含まれるが、この2つの溶液は限局された場所において組み合わされると物理的な架橋に起因して直ちにその粘度が増加する。より高い粘度の生体材料は、溶液を組み合わせる前よりも高い引張強さへと帰着する。
【0044】
本発明のさらなる特徴および効果は、好ましい実施形態の詳細な説明に鑑みて添付の図面および請求項を考慮したときに、この分野の当業者に明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本発明は心臓病を治療するための方法および装置に関する。本出願人の同時係属中の出願(「鬱血性心不全を治療するための拡大可能な心臓ハーネス」という名称の、2000年8月8日に出願された米国出願第09/634043号、現在は米国特許第6,702,732号。その内容はこの参照によって本願明細書に組み込まれるものとする。)において議論したように、病んでいる心臓の壁応力を緩和することによって、その心臓のリモデリングを阻止しあるいは逆転させることすらできることが期待されている。本発明は、心臓壁張力を減少させる実施形態および方法を開示する。
【0046】
図1は、哺乳類の心臓30を示しているが、その上にはハーネス32の形態の従来技術の心臓壁応力低減装置が付加されている。この心臓ハーネス32は、心臓30に外接するとともに、壁体応力を緩和するために集合的に心臓上に緩やかな圧縮力を負荷する、一連のヒンジあるいはばね要素34から構成されている。
【0047】
本願明細書において用いる「心臓ハーネス」という用語は、患者の心臓上にフィットして心臓周期の少なくとも一部の間に心臓上に圧縮力を負荷する装置を指す、幅の広い用語である。
【0048】
図1に示した従来技術の心臓ハーネス32は、充填の間に心臓30が膨張するに連れて変形するように構成された、ヒンジあるいはばねヒンジと呼ばれる一連のばね要素34から成る、少なくとも一つの波形の素線36を備えている。各ヒンジ34は、実質的に一方向に弾力性をもたらし、その方向には作用するが、その方向に対して垂直な方向には弾力性をもたらさない例えば、図2Aは、弛緩しているヒンジ部材34の一実施形態を示している。ヒンジ部材34は、中央部分40と一対のアーム42を有している。図2Bに示したように、これらのアームが引っ張られると、中央部分40に曲げモーメント44が負荷される。曲げモーメント44は、ヒンジ部材34を弛緩した状態へと戻るように付勢する。典型的な素線がそのような一連のヒンジから構成され、かつヒンジ34が素線36の方向において弾性的に伸張しかつ収縮するように構成されていることに注目されたい。
【0049】
さらに図1を参照すると、ばね要素34の素線36は、変形してばね要素を形成する押出加工されたワイヤから製作されている。図1は互いに織り交ぜられた隣接素線36を示しているけれども、ここで理解されるべきことは、追加の実施形態においては、隣接する素線36が互いに重なり合いあるいは接触することがないということである。
【0050】
図1を参照すると、この心臓ハーネス32は、患者の心臓の底部領域に係合しかつフィットするように寸法決めされかつ構成された底部52と、患者の心臓の尖端領域56に係合しかつフィットするように寸法決めされかつ形付けられた尖端56と、底部と尖端との間の中間部分58とを有している。
【0051】
心臓が拡張期と収縮期の間に膨張しかつ収縮するときに、心筋の収縮細胞が膨張し収縮する。病んでいる心臓において、心筋は、細胞が弱って少なくともいくらか収縮性を失うように膨張し得る。弱った細胞は、膨張および収縮の応力を処理する能力が小さい。このようにして、心臓のポンプ送りの効率が減少する。
【0052】
上述したように、かつ参照によって本願明細書に組み込まれるそれらの出願において詳細に議論されているように、波形のばね要素34は心臓30の膨張に対して抵抗力を作用させる。集合的にばね要素が発揮する力は心臓を圧縮する役割を果たし、心臓が膨張するときに心臓壁の応力を緩和する。ばねヒンジの各素線は、心臓が拡張期の間に膨張するに連れてばねヒンジが対応して伸張し、それによってばねの曲げエネルギーとして膨張力を貯えるように構成されている。このように、心筋上の応力負荷はハーネスによって部分的に取り除かれる。この応力の減少は心臓の作業負荷の減少を助け、心臓がより効果的に血液をポンプ送りできるようにし、かつ筋細胞が健康なままであり、あるいはまた健康状態を回復することを助ける。
【0053】
ここで理解されるべきことは、様々な構造、サイズ、柔軟性等を有するが、壁体応力を減少させるべく心臓上に穏やかな圧縮力を生み出すように、従来技術の心臓ハーネスのいくつかの実施形態を製作できることである。上述した出願において議論したように、そのような心臓ハーネスは、様々な金属、織物、プラスチックおよび編まれた繊維を含む多くの適切な生体材料から製作することができる。適切な生体材料には、形状記憶性を呈する超弾性生体適合材料および生体適合材料が含まれる。例えば、そのような従来技術の一つのハーネスは、ニチノールから製作される。形状記憶ポリマーもまた利用することができる。そのような形状記憶ポリマーには、mnemoScienceから入手可能な、オリゴ(eカプロラクトン)ジメタクリレートあるいはまたポリ(eカプロラクトン)を含む、形状記憶ポリウレタンあるいは他のポリマーを含めることができる。さらに、心臓ハーネスの実施形態のいくつかは実質的に心臓を取り囲むが、他の実施形態は心臓あるいはハーネスの周囲の一部の上に配設されたばね要素を利用することができる。
【0054】
まさに議論したように、曲げ応力は拡張期の間にばね要素34によって吸収され、かつ曲げエネルギーとしてこのばね要素に貯えられる。収縮期の間に、心臓がポンプ送りすると、心筋が収縮して心臓はより小さくなる。同時に、ばね要素34に貯えられた曲げエネルギーは少なくとも部分的に放出され、それによって収縮期の間の心臓に支援をもたらす。ハーネスのばね要素によって心臓に負荷される圧縮力は、収縮期の間に心臓が収縮する際に実行される機械的な仕事量の約10%〜15%である。このハーネスは、心室のポンピングに取って代わることは意図されていないが、収縮期の間に実質的に心臓を援助する。
【0055】
次に図3を参照すると、他の従来技術の心臓ハーネス70が、模式的に示した心臓30上に配設された状態で示されている。図示のように、この心臓ハーネス70は、心臓を円周方向に取り囲むとともに、心臓の底部72から頂部74へと長手方向に延びるように構成されている。ハーネス70は、互いにその長手方向に隣接して配設されて円周方向に延びる複数のリング80を有している。各リング80は、相互に連結した複数のばね要素34を備えている。図3に示されているばね要素34は、図2Aおよび図2Bを参照して上述したばね要素34と実質的に同じである。
【0056】
複数のコネクタ82が、隣接するリング80を相互に接続している。これらのコネクタ82は、隣接するリングとの間に空間を作り出すために、リングに対して縦方向に方向付けられた全長を有している。さらに、これらのコネクタは、隣接するリング間の適切な位置合わせの維持を助けながらも、それらの間のいくらかの相対運動を可能としている。図示されているハーネスは、ばね要素34が互いに重ならないように構成されている。このようにして、ばね要素34の反復する屈曲および相対運動に起因するハーネスの摩耗が回避される。好ましくは、コネクタ82は、シリコーンゴムあるいは他の類似の生体材料といった、セミコンプライアントな生体材料から形成される。ここで予想されることは、コネクタ82をポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリテトラフルオルエチレンおよびePTFEといった任意の医療グレードのポリマーから構成できることであるが、それらには限定されない。
【0057】
なお図3を参照すると、各リング80は、最初に、ばね要素34の列を有した細長い素線から成ってる。ばね要素34の各素線は、好ましくは引抜加工された金属ワイヤ、好ましくはニチノールあるいは形状記憶特性を有した他の金属から好ましくは形成される。好ましくは、ニチノールワイヤは、ばね要素の列に形付けられるとともに、所望のばね要素構造の形状記憶を呈するように処理される。そのような処理の後、細長い素線は、その両端が接続されたときに細長い素線が図3に示されている環状構造を呈するように、それぞれある長さに切断される。
【0058】
本願明細書に開示されている従来技術の心臓ハーネスは、良好に機能するとともに、臨床研究において患者に有益であることが証明された心臓壁張力低減の一つの形態を提供する。本発明の生体適合材料は、鬱血性心不全を含む心臓病を有した患者に利益を与える、新規でユニークな心臓壁張力低減の一つの形態を提供する。好ましい実施形態は、急性心筋梗塞症の後における鬱血性心不全の出現を防止するとともに定着した鬱血性心不全を治療する生体適合材料および装置を含む。特定の状況下では、本発明の生体材料は、心筋梗塞のあとに続いて左側あるいはまた右側の心室に発生するリモデリングプロセスを逆行させることができる。開示の全体にわたって急性心筋梗塞症によって生じる鬱血性心不全の治療について言及するが、開示される実施形態の生体材料は、原因不明の拡張型心筋症、肥大性心筋症およびウィルス心筋症といった任意の疾患からの、将来的な心力不全によって生じる鬱血性心不全を治療するために用いることができる。この生体適合材料は、左側または右側の心室あるいは両方の心室に緩やかな圧縮力を負荷することにより、弛緩期および収縮期の間における過大な壁張力を減少させるとともに心室の変形を阻止するように作用する。生体適合材料の使用は、心筋梗塞の後に心室に発生するリモデリングプロセスを弱めるとともに潜在的にそれを逆行させることができる。
【0059】
本発明のために心膜内の空間に生体適合材料を形成するべく、ラジカル重合、マイケル付加重合、縮合反応、および求電子体と求核原子の間の架橋反応(求電子体と求核原子との間の添加あるいは縮合反応)を含む、様々な重合および架橋反応を用いることができる。
【0060】
一つの実施形態において、この生体適合材料は、親水性および疎水性の合成ポリマー、少なくとも2つの炭素原子を有した低分子量の架橋剤、タンパク質、多糖類、脂質、DNAおよびそれらの誘導体を含む、モノマー、オリゴマー、および合成されたおよび自然に産出したポリマーのプレポリマーから形成することができる。本発明において有用な親水性ポリマーは、以下の物を含むが、それらには限定されない。ブロックおよびランダム共重合体を含む、ポリアルキレン酸化物、特にポリエチレングリコールおよびポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)コポリマー;ポリオール、グリセロール、ポリグリセリン(特に高度に分岐したポリグリセリン)、プロピレングリコール、例えばモノ−、ジ−、トリ−ポリオキシエチレングリセロール、モノ−およびジ−ポリオキシエチレンプロピレングリコール、モノ−およびジ−ポリオキシエチレントリメチレングリコールといった1つ若しくは複数のポリアルキレン酸化物によって置換されたトリメチレングリコール;ポリオキシエチレンソルビトール、ポリオキシエチレンブドウ糖;アクリル酸ポリマー、およびそれ自体はポリアクリル酸のようなそれらの類似体やコポリマー、ポリメタクリル酸、ポリ(ヒドロキシメチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸メチルアルキルスルホキシド)、ポリ(メチルアルキルスルホキシドアクリレート)、およびこれらのあるいはアミノアクリル酸エチルおよびモノ−2−(アクリルオキシ)−エチルスクシナートのような追加のアクリレート化学種との任意のコポリマー;ポリマレイン酸;それ自体はポリアクリルアミドのようなポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、およびポリ(N−イソプロピル−アクリルアミド);ポリ(ビニルアルコール)のようなポリ(オレフィンアルコール);ポリ(ビニルピロリドン)のようなポリ(N―ビニルラクタム)、ポリ(N―ビニルカプロラクタム)、およびそれらのコポリマー;ポリ(メチルオキサゾリン)およびポリ(エチルオキサゾリン)を含むポリオキサゾニン;およびポリビニルアミン。
【0061】
親水性ポリマー成分は、合成あるいは自然発生の親水性ポリマーとすることができる。自然発生の親水性ポリマーは、以下の物を含むが、これらには限定されない。コラーゲンのようなタンパク質、フィブロネクチン、アルブミン、グロブリン、フィブリノーゲン、およびフィブリン。コラーゲンが特に好ましい。;ポリマンヌロン酸酸およびポリガラクツロン酸のようなカルボキシ化された多糖類;アミノ化された多糖類、特にグリコサミノグリカン、例えば、ヒアルロン酸、キチン質、コンドロイチン硫酸A、BあるいはC、硫酸ケラチン、ケラト硫酸およびヘパリン;およびデキストランおよび澱粉誘導体のような活性化された多糖類。
【0062】
低分子量の多機能化学種を含む、疎水性ポリマーもまた本発明の架橋性の成分に用いることができる。一般的に、本願明細書における疎水性ポリマーは、比較的小さい比率の酸素あるいはまた窒素原子を含んでいる。本発明に用いる好ましい疎水性ポリマーは、全般的に、約14の炭素より長くない炭素連鎖を有する。
【0063】
他の実施形態において、ポリマーは、ポリマーの分子構造の全体にわたって分配され、あるいはブロックコポリマーとしての単一ブロックとして存在する、生体分解性の部分およびブロックを含むことができる。生体分解性の部分は、共有結合を破壊するために分解する。典型的に、生体分解性の部分は、水の存在によって加水分解され、あるいはまた酵素処理によって本来の部位において分裂する部分である。生体分解性の部分は、エステル結合、無水物結合、オルトエステル結合、オルト炭酸結合、アミド連鎖、ホスホナート結合、その他といった低分子量の部分から構成することができる。より大きな生体分解性の「ブロック」は、親水性ポリマーの中に組み込まれたオリゴマあるいはポリマーの部分から構成される。実例となる生体分解性のオリゴマおよびポリマーの部分には、一例として、ポリ(アミノ酸)部分、ポリ(オルソエステル)部分、ポリ(オルト炭酸塩)部分他が含まれる。
【0064】
一つの実施形態において、心膜内の空間に供給される生体材料は、1日から12ヵ月におよぶ分解時間において半減する生体分解性となるように調製することができる。生体内分解の速度は、前述のパラグラフで言及した加水分解性あるいは生体分解性の化学結合および生体分解性の部分を、生体適合材料に組み込むことによって、調整することができる。典型的に、最高で30重量%の水を含む流体ゲル生体材料は、50重量%未満の水を含むエラストマ生体材料よりも早く生体分解される。。CuMedica, Ltd. UKからの細胞ペルフルオロエラストマ、あるいはBoston Scientificからの非分解性生体材料(Enteryx(商標))のようなより長持ちするエラストマ生体材料は、より長持ちする生体材料移植物の例である。
【0065】
他の実施形態において、非吸収性の生体材料成分は、典型的に、生理学的液体に実質的に不溶性なポリマーから成る。適切な生体適合性のポリマーには、一例として、酢酸セルロース(二酢酸セルロースを含む)、エチレンビニルアルコールコポリマー、流体ゲル(例えばアクリル)、ポリ(C1−C6)アクリレート、アクリレートコポリマー、アルキル基がそれぞれ1〜6の炭素原子を含んでいるポリアルキルアルカクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアセテート、酢酸酪酸セルロース、ニトロセルロース、ウレタン/炭酸塩のコポリマー、スチレン/マレイン酸のコポリマー、およびそれらの混合物が含まれる。ウレタン/炭酸塩のコポリマーには、メチレン基ビスフェニルジイソシアナートのようなジイソシアナートと化学反応してウレタン/炭酸塩コポリマーをもらたす、ジオールが末端にあるポリカーボネートが含まれる。
【0066】
本発明の生体適合材料の強度を高めるために、接着剤組成物に「引張強さエンハンサー」を追加することが望ましい。一つの実施形態においては、そのような引張強さエンハンサは、ミクロンサイズの、好ましくは直径が5〜40ミクロン、長さが20〜5000ミクロンの、通常はガラス転移温度が37℃よりもかなり高い高引張強さの繊維から構成される。本発明に用いる適切な引張強さエンハンサには、なかでも、コラーゲン線維、ポリグリコリドおよびポリ乳酸繊維、絹繊維および他の有機引張強さエンハンサ、および無機の引張強さエンハンサが含まれる。特に有用な引張強さエンハンサは、VICRYL(商標)(グリコール酸とポリ乳酸との90:10のポリマー)である。適切な引張強さエンハンサは、固有の高い引張強さを有するとともに、重合させたゲル網状組織と共有結合性あるいは非共有結合によって相互作用することができるものである。引張強さエンハンサは、引張力の支持を提供するために、機械的にあるいは共有結合によってゲルと結合しなければならない。
【0067】
本発明の目的のために生体適合材料を形成するに適したポリマー、架橋試薬、活性化化学的性質および反応条件の更なる例には、米国特許第6,312,725号、第6,352,710号、第6,217,894号、第6,818,018号、第6,833,408号、および米国出願公開2004/0219214号、2004/0225077号、2004/0009205号、2003/0162841号、2003/0104032号、2004/0002456号、および2002/0114775号に記載されているものが含まれる。なお、その全ては、この参照によって本願明細書に組み込まれるものとする。
【0068】
他の実施形態において、本発明の生体材料成分は、鬱血性心不全あるいは他の心臓治療に関連して、様々な薬物および他の生物活性物質の限局性の配送のためにも用いることができる。薬物、生物薬剤およびその他の生理的プロセスを改良する薬剤は、局部組織による吸収の後に、生体適合材料成分から局部組織あるいは全身循環へと供給することができる。生体適合材料送給薬物、生物薬剤、治療薬あるいは生理的プロセス改質剤は、抗感染薬、抗炎症剤、抗増殖性、反血管原性、抗悪性、坑麻痺、瘢痕誘起、組織再生、麻酔薬、鎮痛薬、免疫修飾剤、および神経調整剤とすることができる。薬物の更なる例には、米国特許第6,759,431号および米国出願公開2004/0219214号に記載されているものが含まれる。なお、その内容この参照によって本願明細書に組み込まれるものとする。
【0069】
本発明の一つの態様において、心膜内の空間に供給される生体材料は、鬱血性心不全を治療するための薬物を含む。鬱血性の心臓を治療するために使用する薬物の例には、フロセミド、ヒドロクロロチアジド、メトラゾン、ジゴキシン、ドーパミン、ドブタミン、イナムリノン、ミルリノン、カプトプリル、エナラプリル、リシノプリル、ニトロプルシド、アルプロスタジル、DITPA、あるいは3, 5-diiodothyropropionic acidが含まれる。
【0070】
本発明の更に他の態様において、心膜内の空間内に供給される生体材料は、心筋の表面上および心膜内の空間において線維性カプセル組織の形成を生じさせる線維症誘起薬剤を含む。線維症誘起試薬の例には、キトサン、フィブロネクチン、ブレオマイシン、ポリリジン、絹タンパク質、タルクパウダーが含まれる。他の線維症誘起薬剤の例には、米国出願公開2005/0169958号および2005/0169959号に記載されているものが含まれる。なお、それらはこの参照によって本願明細書に組み込まれるものとする。
【0071】
本発明の一実施形態において、心膜内の空間に送給される生体材料成分は、心膜内の空間内において約1秒からの約20分の間でヒドロゲルあるいはエラストマを形成することができる、2つの反応性高分子から構成される。2つの反応性高分子は、生体材料成分を心膜内の空間に配送する間に、Y字形のコネクタおよびミキサーを用いて混合される。典型的に、可溶性の反応性試薬は、混合室を有したY字形のコネクタに接続された注射器内に配置される。反応性の試薬を注射器から押出すと、試薬は互いに混合し、目標とする組織部位に混合物が送給される。生体適合材料成分をエアゾールの形態で供給するときには、ガス供給源(窒素、二酸化炭素、圧搾空気)を選択的にY字形のコネクタに接続することができる。反応条件(pH、重合開始剤の濃度、反応性の試薬の濃度)は、生体適合材料の迅速な(10秒未満)重合あるいはゲル化、あるいは低速な(最高で20分)重合あるいはゲル化を可能とするために設定することができる。
【0072】
さらに他の実施形態において、反応性の試薬は、組織部位に対する混合物の適用の前に直ちに予備混合し、単一の試薬の形態で心膜内の空間に送給することができる。反応条件は、混合物を液体のままとし、数分間で押し出すことができるように設定することができるが、この時間は、典型的に、混合した生体適合材料の心膜内の空間への送給を完了させるために充分なものである。
【0073】
本発明の一つの態様において、一方あるいは両方の反応性試薬は、組織表面上の求核基(すなわち、細胞表面および細胞間マトリックス上のタンパク質のアミノおよび硫化物錯体群)に対して反応性とすることができる。送給されると、混ぜられた反応性の試薬は互いに化学反応し、生体材料の移植物を形成する。いくつかの親電子性のグループは、組織表面上の求核基と化学反応し、生体適合材料の移植物と組織表面との間に共有結合性の化学結合を形成する。例えば、そのような反応性の製剤が心膜内の空間に送給されて心筋と接触するように配置されると、植設された生体適合材料は、心筋の表面と共有結合的に連結することができる。CoSeal(登録商標)、DuraSeal(商標)およびBioGlue(商標)といった、移植可能なシール材および接着剤を含む生体手術(biosurgery)の分野におけるいくつかの商業的な製品は、架橋化学技術をベースとしたもので、移植物と組織表面との共有結合的な連結を可能にする。
【0074】
本発明の更に別の態様において、生体材料は、生体高分子の生物学的あるいは酵素的な架橋の結果として形成することができる。例えば、多くの外科的な線維素シール接着剤は、血液製剤に由来する成分の酵素架橋をベースとしている。典型的に、トロンビンおよびフィブリノーゲンを含んでいる製剤は、組織部位において互いに混合する。トロンビンは、フィブリノーゲンを線維素に変換するが、それは自然発生的に自ら線維素内に結集してヒドロゲル類似の再吸収可能な生体材料の形成を生じさせる。Tisseel(登録商標)、VitaGel(商標)およびFloSeal(商標)は、このカテゴリの商業的に入手可能な製品の一つである。
【0075】
本発明の一実施形態において、心膜内の空間への生体材料の注入は、蛍光X線透視検査、エコーあるいはMRI(核磁気共鳴映像法)の下で視覚化される。視覚化を改良するために、哺乳類の被検者への注入の間に例えばX線撮影によって監視することができる、典型的に生体適合性(非毒性)で放射線不透過性の生体適合材料である造影剤を、生体材料の処方に追加することができる。造影剤は、水に対して可溶性あるいは不溶性とすることができる。水可溶性の造影剤の例には、メトリザミド、イオパミドール、ヨータラム酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウムおよびメグルミンが含まれる。水不溶性(すなわち、20℃において1mlにつき0.01ミリグラム未満の水溶性を有する)の造影剤には、タンタル、タンタル酸化物および硫酸バリウムが含まれるが、それぞれ生体内での使用のために適切な形態で商業的に入手可能であり、かつ好ましくは10ミクロン以下の粒度を有している。他の水不溶性の造影剤には、金、タングステンおよび白金粉末が含まれる。
【0076】
他の実施形態において、非水可溶性ポリマーを送給するために用いることができる適切な生体適合性の溶剤には、一例として、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシドの類似体/同族体、エチルアルコール、乳酸エチル、アセトンなどが含まれる。体内に注入されると溶解したポリマーが沈殿するように利用する水量が十分に少なければ、生体適合性の溶剤との水性混合物もまた用いることができる。好ましくは、生体適合性の溶剤は乳酸エチルあるいはジメチルスルホキシドである。
【0077】
本発明の一つの態様において、生体材料は、その組成に応じてその機械的性質が変化する。例えば、開示された生体適合材料のうちのあるものは心膜内の空間に液体の状態で注入されると、数秒から最高でも数分あるいは数時間の範囲の時間の後に、より固い成分あるいは液体より高い粘度を有したゲル類似の材料に変形する。これらの条件下では、生体適合材料は、流体が心膜内の空間に注入された後に増大した引張強さを含むその機械的性質が変化する。増大した引張強さは生体適合材料の成分に左右されるが、心筋に付加される圧縮力の範囲に対する効果を有する。
【0078】
本発明の一実施形態において、心膜内の空間への生体材料の注入は、蛍光X線透視検査、エコーあるいはMRI(核磁気共鳴映像法)の下で視覚化される。視覚化を改良するために、哺乳類の被検者への注入の間に例えばX線撮影によって監視することができる、典型的に生体適合性(非毒性)で放射線不透過性の生体材料である造影剤を、生体材料の処方に追加することができる。造影剤は、水に対して可溶性あるいは不溶性とすることができる。水可溶性の造影剤の例には、メトリザミド、イオパミドール、ヨータラム酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウムおよびメグルミンが含まれる。水不溶性(すなわち、20℃において1mlにつき0.01ミリグラム未満の水溶性を有する)の造影剤には、タンタル、タンタル酸化物および硫酸バリウムが含まれるが、それぞれ生体内での使用のために適切な形態で商業的に入手可能であり、かつ好ましくは10ミクロン以下の粒度を有している。他の水不溶性の造影剤には、金、タングステンおよび白金粉末が含まれる。
【0079】
他の実施形態において、非水可溶性ポリマーを送給するために用いることができる適切な生体適合性の溶剤には、一例として、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホキシドの類似体/同族体、エチルアルコール、乳酸エチル、アセトンなどが含まれる。体内に注入されると溶解したポリマーが沈殿するように利用する水量が十分に少なければ、生体適合性の溶剤との水性混合物もまた用いることができる。好ましくは、生体適合性の溶剤は乳酸エチルあるいはジメチルスルホキシドである。
【0080】
本発明のつの一態様においては、ある種の成分が、心膜内の空間において物理的に架橋されたゲルを(非共有結合的に)形成するために適している。ポリマーは、物理的あるいは化学的な手段によって架橋させることができる。物理的な架橋は、典型的に結合がより弱く、エネルギーが低く、かつ多くの場合には可逆的である点において、化学的な架橋とは異なっている。これにより、物理的に架橋されたヒドロゲルは、多くの場合に機械的に変形可能である。4つの基本的な力が物理的な架橋を生み出す役割を果たすことが見出されている。イオン相互作用、疎水的相互作用、水素結合、およびファンデルワールス力である。
【0081】
[イオン相互作用ポリマー]
物理的な架橋は、分子内、あるいは分子間、場合によってはその両方である。例えば、ヒドロゲルは、(Ca+2およびMg+2といった)二価のカチオン金属イオンと、アルギン酸塩、キサンタンガム、天然ゴム、寒天、アガロース、カラゲナン、フコイダン、ファーセレラン、ラミナラン、カズノイバラ、きりんさい属、アラビアゴム、ガティゴム、カラヤゴム、トラガカントゴム、ローカストビーンガム、アラビノガラクタン、ペクチン、およびアミロペクチンといったイオン多糖類とのイオン相互作用によって形成することができる。これらの架橋は、例えばエチレンジアミン四酢酸といった、架橋している金属イオンをキレート化する化学種への露出によって容易に逆転させることができる。ポリ(l-リシン)、ポリ(アリルアミン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(グアニジン)、ポリ(ビニルアミン)といった骨格鎖に沿って複数のアミン官能基を含んでいる多機能カチオンポリマーは、イオン架橋をさらに誘起させるために用いることができる。
【0082】
[熱可逆的ポリマー]
疎水的相互作用は、特にポリマーにおいて、ポリマーの溶液の粘度、沈殿、あるいはゲル化の増加を誘起させる、物理的な絡み合いを誘起させることができる。例えば、ニュージャージー州Mount OliveのBASF CorporationからPLURONIC .RTM.の商品名で入手可能な、ポリ(オキシエチレン)-ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマーは、溶液内において温度可逆的な挙動を呈することが知られている。したがって、PLURONIC(商標) F-127の30%の水溶液は、4℃において比較的低い粘度の液体であるが、疎水的相互作用に起因して、生理的温度においてはペースト状のゲルを形成する。例えばポリ(スチレン)とポリ(オキシエチレン)のコポリマー、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ブタジエン)といった、水溶性および不溶性ポリマーの他のブロックおよびグラフト共重合体は、類似の効果を呈する。
【0083】
近年では、Jeong他は、生体分解性のpoly(ethylene glycol- b-(DL-lactic acid-co-glycolic acid)-b-ethylene glycol)、(PEG-PLGA-PEG)、トリブロックコポリマーを報告した(米国特許第6,117,949号を参照。この参照によって本願明細書に組み込まれるものとする)。それらは、注射可能の薬物送給システムとしての有望な特性を呈した。ネズミの生体内における研究は、このコポリマーゲルが1か月の後にもなお存在していることを証明した。分解の間、最初に透明であったゲルは、親水性のPEGリッチな部分の優先的な腐食減量に起因して不透明となった。形態における変化、および境界部分あるいは相の発生は、組織工学における細胞悪化を生じさせ得る。形成されたゲルからの豚の成長ホルモン(PGH)およびインスリンの生体外への放出は、装填されたタンパク質の40〜50%を放出した後に止まった。
【0084】
遷移温度を調整する技術、すなわち物理的な結鎖に起因して水溶液がゲルに移行する温度は公知である。例えば、遷移温度は、疎水性の融合鎖あるいは親水性のブロックに対するブロックの重合度を増大させることによって低下させることができる。全体的なポリマーの分子量を増加させつつ、親水性を保ち、疎水性比率を変化させないこともまたゲル転移温度の低下に結びつく。ポリマーの鎖が効果的により多くもつれるからである。ゲルは、低い分子量のポリマーに対して、より低い相対濃度において同様に得ることができる。
【0085】
ポリ(N―アクリルアルキルアミド)のような他の合成ポリマーの溶液もまた、温度可逆的な挙動および暖まると弱くなる物理的な架橋を呈する流体ゲルを形成する。温度可逆的な溶液を噴霧する間における、噴霧の間の蒸発による溶液の冷却を期待することができる。生理的な温度において目標組織に接触すると、物理的架橋の形成によって粘度が増大する。
【0086】
[pH反応性のポリマー]
同様に、酸性あるいは基本的なpHにおいて低い粘度を有するともに、例えば溶解度の減少に起因して中性のpHに到達すると粘度の増加を呈する、pH反応性ポリマーを利用することができる。これにより、架橋性水溶性ポリマーの安定性および反応性は、pHの適切な選択によって制御することができる。例えば、分解可能なエステルはpH3〜5で安定しているが、親電子性の求核反応における反応性は高いpHにおいて最も高い。ポリ(アクリル酸)あるいはポリ(メタクリル酸)のようなポリアニオン重合体は、酸性のpHで低い粘度を有するが、それはより高いpH値においてポリマーが溶媒化されると増加する。そのようなポリマーの溶解度およびゲル化は、ポリアニオン重合体と錯体化する他の水溶性ポリマーとの相互作用によってさらに制御することができる。例えば、2,000以上の分子量のポリ(エチレンオキシド)は、水に溶解して澄んだ溶液を形成することが良く知られている。しかしながら、これらの溶液がポリ(メタクリル酸)あるいはポリ(アクリル酸)の同様に澄んだ溶液と混ぜ合わせられると、濃縮、ゲル化、あるいは沈殿が特定のpHおよび採用する条件に応じて発生する(例えば、Smith et al., "Association reactions for poly(alkylene oxides) and poly(carboxylic acids)," Ind. Eng. Chem., 51:1361 (1959)を参照)。したがって、2つの溶液が限局された場所において組み合わされると物理的な架橋に起因して即座に粘度が増加するように、第1の成分(他の成分の間における)が8〜9の高いpH値においてポリ(アクリル酸)あるいはポリ(メタクリル酸)から成り、かつ他の成分(他の成分の間における)が酸性のpH値においてポリ(エチレングリコール)の溶液から成る、2成分水溶液システムを選択することができる。
【0087】
[自然に産出した環境に影響されやすいポリマー]
物理的なゲル化はまた、自然に存在しているいくつかのポリマーにおいて得ることができる。例えば、ゼラチンは、コラーゲンを加水分解した形態であるが、高められた温度から冷却されるときに物理的な架橋を形成する、最も一般的な生理的に産出するポリマーの一つである。例えばヒアルロン酸といったグリコサミノグリカンのような他の天然高分子は、各ポリマー鎖に沿ってアニオン性およびカチオンの両方の官能基を含んでいる。このことは、分子内および分子間のイオン架橋の形成を可能にし、ヒアルロン酸の揺変性の(あるいは、ずれ揺変)性質の原因となる。架橋は、剪断の間に一時的に崩壊し、低い見かけ粘度および流動性に結びつくが、剪断を除去すると再び形成され、それによってゲルが再び形成される。
【0088】
本発明の一実施形態は、他の合成されたおよびより長く長持ちするゲル形成製剤と組み合わせて自己由来の凝血を用いる。術前に患者から50〜100mlの静脈血を収集することは、心膜の空間内に供給されて凝固する材料を提供する。典型的な凝血塊は、7〜14日で再吸収される。自己由来の凝血塊の潜在的な利益の一つは、弱まっている心筋に対する治療効果を有する自己由来の血小板および成長因子を含んでいるからである。
【0089】
上述したように、心臓壁の応力を軽減するための力が負荷されると、心臓の負荷は減少する。負荷を減少させると心臓は少なくとも部分的に休息できるようになり、心臓が少なくとも部分的にそれ自身を回復させる機会をもたらすように見える。例えば、心臓壁の応力が減少すると、リモデリングした病んでいる心臓のリモデリングが逆転してより健康になることが期待される。壁応力を減少させる効果は、実際に価値ある有益な治癒効果に結びつく。
【0090】
上述した実施形態において、生体材料は、好ましくは、治療上の利点を達成するために心臓上に緩やかな圧縮力を負荷する。治療域の範囲内で負荷される力あるいは圧力は、本願明細書においては、心臓のような臓器に負荷されたときにこの臓器における利点に結びつくのに充分な量の圧力であると定義される。一つの実施形態において、生体材料における治療域は、約2〜20mmHgである。より好ましくは、治療上の圧力は約2〜10mmHgであり、最も好ましくは約2〜5mmHgである。ある種の条件下では、生体材料の圧縮力は、約1mmHgである。
【0091】
本発明によると、本願明細書に開示された生体材料は、いかなる形態であっても、いくつかの方法によって心膜内の空間に配置することができる。ここで予想されることは、液体チャンバおよびプランジャと流体的に連通している針を用いて、生体適合材料を心膜内の嚢を介して注入することである。また、複数の管腔を有したカテーテルを心膜内の空間に送給し、1つ若しくは複数の生体材料流体を心膜内の空間に注入して心臓壁の張力の開示した減少をもたらすことも予想される。いくつかの実施形態について、以下により十分に説明する。
【0092】
図4〜図6に示した一つの実施形態においては、胸腔の横断方向の断面が示されているが、心臓90が右心室92および左心室94と共にその内部に示されている。心膜96が心臓90を取り囲んでいるが、心膜内の空間100は心膜96と心外膜98との間の空間である。この実施形態においては、第1の送給装置102は、カテーテルあるいは針注入装置の形態とすることができる。第1の液体チャンバは、生体材料を収容しており、1ml〜最大で約1000mlの範囲におよぶ容積を有している。好ましくは、第1の液体チャンバ104は、約50ml〜約200mlの生体適合材料を収容している。第1のプランジャ106は、図4に示したように、第1の液体チャンバが生体材料で一杯のときには、第1の液体チャンバから離れて近位側に延びている。第2の送給装置107は、第2の生体適合材料を収容することができる第2の液体チャンバ108を有している。第2のプランジャ110は、第2の液体チャンバが生体材料を収容しているときにおける第2の液体チャンバ108から離れて近位側に延びている状態で示されている。第2の液体チャンバは、1ml〜約1000mlの生体材料を収容することができるが、好ましくは約50ml〜最高で約200mlの生体材料を収容する。カテーテル本体112は、第1の送給装置102および第2送給装置107から延びて身体(肋骨の間)を通過し、心膜96に隣接しあるいはその内側にある。カテーテル本体112は、その遠位端113を心膜96を介して心膜内の空間100に挿入するために、小さな切開部分を介して心膜に挿入することができる遠位端あるいは心膜を貫通する鋭い遠位端を有している。図5に示したように、カテーテル本体112は、第1管腔114、第2管腔116、および第3管腔118を含む複数の管腔を有しているが、それらは第1の液体チャンバ104あるいは第2の液体チャンバ108と流体的に連通している。あるいは、第2の送給装置107は、心膜内の空間に生体適合材料を注入するべく、針あるいは他の鋭い器具で心膜の一部だけを突き刺すことができるように、カテーテル本体112の内部に心膜の一部を吸引するための真空室を含むことができる。図6を参照すると、生体適合材料120は、第1のプランジャ106あるいはまた第2のプランジャ110を押し込むことによって、心膜内の空間100に注入される。前述したように、生体材料120は、互いに混合されたときに所望の心臓壁ストレス低減をもたらす生体材料の形成をもたらすいくつかの化合物の組合せを含むことができる。好ましくは、生体材料120は、心膜内の空間100の全体にわたって、かつ隣接する左心室94あるいはまた右心室92、またはその両方に分配される。さらに、生体材料120は、心臓周期の少なくとも一部の間に、好ましくは弛緩期および収縮期の間に心臓壁ストレスの低減をもたらすことが好ましい。一つの実施形態においては、生体材料によって心外膜98(あるいは心筋)上に与えられる圧力が約1mmHg〜約10mmHgの範囲となるように、十分な容量の生体材料120が心膜内の空間100に注入される。心外膜98上に所望の圧縮力を負荷するために、約1ml〜最大で約1000mlの生体材料120が心膜内の空間100に注入される。好ましくは、約50ml〜最大で約200mlの生体材料120が心膜内の空間に注入される。
【0093】
注入の形態に応じて、心膜96は無傷のまま残り、生体材料120のための容器として作用する。生体材料120を注入するために針を用いる場合、心膜96のいかなる切開部分をも閉じる必要はない。小さい切開を介してカテーテルを心膜96に挿入する場合には、周知の技術である縫合糸あるいはステープルを用いて切開を閉じる必要がある。
【0094】
他の実施形態においては、図7および図8に示したように、心臓130は心外膜134を覆っている心膜132と共に示されている。心膜と心外膜との間に心膜内の空間136がある。この実施形態においては、カテーテル送給システム138は、液体チャンバ142に接続されたプランジャ140を有している。この液体チャンバ142は、切開部分148を介して心膜132に挿入されるように構成されたカテーテル144と流体的に連通している。この液体チャンバ142は、前述したような容量の生体材料150を収容している。プランジャ140を押し下げると、生体材料150は液体チャンバ142から押し出されてカテーテル144を通過する。カテーテルの遠位端146は、切開部分を通って延びるとともに、心膜内の空間136の内側の様々な場所に配置することができる。より詳しくは、カテーテルは柔軟であることを意図されてはいるが、カテーテル144は丁度十分な剛性を有している。そのため、心膜内の空間の内部の様々な場所に所望の容量の生体適合材料150を注入するために、心膜内の空間136の全体にわたって動かすことができる。例えば、好ましい一実施形態においては、生体材料150が左心室に隣接するように心膜内の空間136に注入され、他の一実施形態においては、生体材料150が右心室に隣接するように心膜内の空間内に注入される。他の実施形態においては、生体材料は、その少なくともいくらかが心外膜表面134の上にあり、かつ右側および左側の心室に隣接するように心膜内の空間136の内側に注入される。心膜内の空間136に注入される生体材料150の容積は、約1ml〜最大で約1000ml、好ましくは約50ml〜最大で約200mlの範囲とすることができる。注入される生体材料150の成分および容積に応じて、生体材料による心筋上の圧縮力は約1mmHg〜約10mmHgとなる。好ましくは、生体材料150は、心臓周期の少なくとも一部の間、好ましくは弛緩期の間に心筋上に圧縮力を負荷する。さらに、より好ましくは、生体材料150は、弛緩期および収縮期の両方の間に心筋上に圧縮力を負荷する。図8に示したように、切開部分148は、周知の技術である縫合あるいはステープルによって閉じられる。生体材料150は、心膜内の空間136の全体にわたって分配される。カテーテル送給システム138は、患者の身体から取り除かれる。
【0095】
図9に示したように、他の実施形態において、心臓160は、心外膜164を覆っている心膜162と共に示されている。心膜と心外膜との間に心膜内の空間166がある。この実施形態において、針送給システム168は、鋭利な尖端172を有した金属針170と液体チャンバ174を備えている。液体チャンバ174を充填しておよび空にするためにプランジャ173が用いられる。液体チャンバ174は、針170および鋭い尖端172と流体的に連通している。液体チャンバ174は、前述した容量の生体材料176を含んでいる。プランジャ173を押し下げると、生体材料176は液体チャンバ174から押し出されて針170を通過し、鋭い尖端172から出る。尖端172は、胸骨178および剣状突起180の直下において、下位剣状突起アプローチによって皮膚を通って延びる。針170の尖端172が心膜162を貫通すると、その鋭い尖端が心外膜164を貫通しないように注意しなければならない。生体適合材料176を送給するために、心膜内の空間166の任意の場所に針を前進させることができるが、尖端172の位置は蛍光X線透視検査あるいは他の視覚化手段によって監視することができる。下位剣状突起アプローチにおいては、皮膚はシェービングされるとともに感染性のやり方で準備され、かつ皮膚および皮下組織は麻酔をかけることができる。皮膚は、剣状突起の下側かつ左側において、任意の外科的な刃によって貫通することができるとともに、皮下組織を鉗子で切り離すことができる。針170は切開部分を介して挿入されるとともに、その尖端172が心膜162内に至るまで前進させられる。針は、複数の管腔(図示せず)を有することができるが、三方コック(図示せず)を備えることもでき、心膜162内に前進したときに麻酔薬を注入するために麻酔リザーバに接続される。尖端172が心膜162に入った後、生体適合材料は、左心室あるいは右心室に隣接し、またはその両方の心室に隣接するようにして、心膜内の空間166に注入される。心膜内の空間166に注入される生体材料176の容量は、約1ml〜最高で約1000ml、好ましくは約50ml〜最高で約200mlの範囲とすることができる。生体材料176の成分および注入される容量に応じて、生体適合材料の心筋上の圧縮力は約1mmHg〜約10mmHgである。好ましくは、生体材料150は、心臓周期の少なくとも一部の間、好ましくは弛緩期の間に心筋上に圧縮力を負荷する。さらに、より好ましくは、生体材料176は、弛緩期および収縮期の両方の間、心筋上に圧縮力を負荷する。生体材料176が心膜内の空間166に注入された後、針170が患者から引き抜かれ、あらゆる切開部分が縫合糸あるいはステープルのような従来の手段によって閉じられる。針170が小さい規格の針であることが意図されているので、心膜162の注射部位を閉じることは不要である。心膜162の注射部位を閉じる必要がある場合には、任意の従来の縫合糸あるいはステープル手段を用いることができる。
【0096】
本願明細書に開示される送給システムは最小限に侵襲的にあるいは経皮的に挿入されることが意図されているが、患者の胸部が胸骨正中切開によって開かれるときには、この送給システムをこの開胸手術の間に用いることもできる。しかしながら、好ましくは、本願明細書に開示されている送給システムによる生体適合材料の送給は、胸腔への最小限に侵襲性の外科的なアクセスによる。胸腔へのアクセスは、心臓への直接的なアクセスを得るために患者の肋骨の間とすることができる。好ましくは、そのような最小限に侵襲性の手技は、両心バイパスを用いずに拍動している心臓上において達成される。心臓に対する他のアクセス部位には、下位剣状突起アクセスおよび経皮的なアクセスがまれる。
【0097】
本願明細書に開示される生体適合材料は、本願明細書において先に開示した心臓ハーネスと共に用いることができる。例えば、前述したように心臓ハーネスを患者の心臓上に装着するとともに、心臓壁ストレス低減における追加の利点をもたらすために、生体適合材料を心臓ハーネスを介して注入することも予想される。
【0098】
いくつかの好ましい実施形態および実施例との前後関係において本発明を開示したけれども、本発明が具体的に開示された実施形態を越えて、他の実施形態、あるいはまた本発明の使用、明らかな変更、および均等物に及ぶことは、当業者がよく理解するところである。さらに、本発明の数多くの変形例を詳細に図示しかつ説明したが、本発明の範囲内にある他の変更もまたこの開示に基づいて当業者には直ちに明らかとなる。実施形態の特有の特徴および態様を様々に組合せあるいはサブコンビネーションを作ることができること、およびそれらがなお本発明の範囲内にあることもまた予測される。したがって、開示された発明の様々な形態を形成するために、開示された実施形態の様々な特徴および態様を互いに組み合わせあるいは入れ替え得ることは理解されなければならない。これにより、本願明細書に開示された本発明の範囲は、上述した特別に開示された実施形態によって限定されるべきではなく、以下の請求項の公正な解釈だけによって決定されなければならないことが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】従来技術の心臓ハーネスがその上に配置された心臓を模式的に示す図。
【図2】図2Aおよび図2Bは従来技術のばねヒンジを緩和状態および緊張状態で示す図。
【図3】従来技術の心臓ハーネスのさらに他の実施形態を、模式的に示す心臓上に配設した状態で模式的に示す図。
【図4】心臓および右側および左側の心室を露出させるとともに生体適合材料の送給装置を含む胸腔の横断面図。
【図5】複数の管腔を有している配送カテーテルを描いた、図4中の5−5破断線に沿った横断面図。
【図6】心膜内の空間に生体適合材料を注入する生体適合材料送給装置を描いた、胸腔の横断面図。
【図7】心膜内の空間に生体適合材料を注入するための生体適合材料送給装置を描いた、患者の心臓の模式的に示す図。
【図8】心膜内の空間に注入される生体適合材料を描いた、患者の心臓を模式的に示す図。
【図9】心膜内の空間に生体適合材料を注入するための針送給装置を描いた、患者の心臓を模式的に示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓の心膜内の空間に配置される生体材料と、
心臓周期の少なくとも一部の間に心筋上への圧縮力を生み出すのに十分な、前記心膜内の空間に配置された生体材料の容量と、
を備えることを特徴とする心臓を治療するための生体適合材料。
【請求項2】
前記心膜内の空間に配置された生体材料の容量が、約1mmHg〜約10mmHgの範囲の心筋上への圧縮力を生み出すことを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項3】
前記心膜内の空間に配置された生体材料の容量が、約1ml〜約1000mlの範囲にあることを特徴とする請求項2に記載した生体適合材料。
【請求項4】
前記心膜内の空間に配置された生体材料の容量が、約50ml〜約200mlの範囲にあることを特徴とする請求項2に記載した生体適合材料。
【請求項5】
前記生体材料の容量は、心膜内の空間内において、弛緩期および収縮期の間に圧縮力を負荷するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載した生体適合材料。
【請求項6】
前記生体材料は、少なくとも左心室に隣接して少なくとも心外膜を覆うように構成されていることを特徴とする請求項5に記載した生体適合材料。
【請求項7】
前記生体材料は、少なくとも右心室に隣接して心外膜を覆うように構成されていることを特徴とする請求項5に記載した生体適合材料。
【請求項8】
前記生体材料が高分子重合体の溶液であることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項9】
前記生体材料がヒドロゲルであることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項10】
前記生体材料がエラストマであることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項11】
前記生体材料が合成ポリマーから成ることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項12】
前記生体材料が、自然発生ポリマーから成ることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項13】
前記生体材料が、薬物あるいは生物学的プロセスで変更された薬剤から成ることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項14】
前記生体材料が、鬱血性心臓病の治療のために用いる薬物から成ることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項15】
前記生体材料が、線維症を誘起する薬剤から成ることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項16】
前記生体材料が、生体吸収性であることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項17】
前記生体材料が、30日以内に生体に吸収されるものであることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項18】
前記生体材料が、生体非吸収性であることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項19】
前記生体材料が、放射線不透過性の造影剤から成ることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項20】
前記生体材料が、超音波によって視認できる不透明な造影剤から成ることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項21】
前記生体材料が、磁気共鳴映像法標識から成ることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項22】
前記生体材料が、2つの反応性試薬として心膜内の空間内に配置されることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項23】
前記生体材料は、組織の表面と化学反応することができ、それによって共有結合を形成することを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項24】
前記生体材料が、シアシニング性(shear-thinning)の流体であることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項25】
前記生体材料が、熱可逆性(thermo-reversible)の流体であることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項26】
前記生体材料が、フィブリンシール剤であることを特徴とする請求項1に記載した生体適合材料。
【請求項27】
液体チャンバおよび心臓の心膜内の空間への挿入のための末端領域を有した細長い注入装置と、
心膜内の空間への注入のために前記液体チャンバ内に収納された生体材料と、
を備えることを特徴とする心臓を治療するための組立体。
【請求項28】
前記注入装置が細長いカテーテルであることを特徴とする請求項27に記載した組立体。
【請求項29】
前記カテーテルは、心膜内の空間に前記生体材料を注入するために前記液体チャンバから前記末端領域に延びる複数の管腔を有していることを特徴とする請求項28に記載した組立体。
【請求項30】
前記液体チャンバが、約1ml〜約1000mlの範囲の容積を有していることを特徴とする請求項27に記載した組立体。
【請求項31】
前記液体チャンバが、約50ml〜約200mlの範囲の容積を有していることを特徴とする請求項27に記載した組立体。
【請求項32】
心臓を治療するための方法であって、
生体材料を提供し、
前記生体材料を心膜内の空間に配置し、
前記生体材料は、心臓周期の少なくとも一部の間に心筋上に圧縮力を作用させることを特徴とする方法。
【請求項33】
前記生体材料が、約1mmHg〜約10mmHgの範囲の圧縮力を心筋上に作用させることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記生体材料が、心膜内の空間に注入されることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項35】
ある容量の前記生体材料が心膜内の空間に配置され、その容量が約1ml〜約1000mlの範囲であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項36】
ある容量の前記生体材料が心膜内の空間に配置され、その容量が約50ml〜約200mlの範囲であることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項37】
前記生体材料が、少なくとも左心室に隣接して心筋上に配置されることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記生体材料が、少なくとも右心室に隣接して心筋上に配置されることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項39】
前記生体材料が、CoSeal(登録商標)、DuraSeal(商標)、BioGlue(商標)、Tisseel(登録商標)、VitaGel(商標)、FloSeal(商標)およびEnteryx(商標)から成る生体材料のグループより選択されることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項40】
前記生体材料が、ペルフルオロエラストマであることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項41】
前記生体材料が、シリコンであることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項42】
前記生体材料の心膜内の空間への配置が、前記生体材料を注入するために多数の部位において心膜を突き刺すことからなることを特徴とする請求項32に記載の方法。
【請求項43】
心臓を治療するための方法であって、
生体材料を提供し、
心臓の心筋に隣接させて前記生体材料を配置し、
心臓周期の少なくとも一部の間に前記生体材料が心筋上に圧縮力を作用させることを特徴とする方法。
【請求項44】
前記生体材料が、1mmHg〜約10mmHgの範囲の圧縮力を心筋上に作用させることを特徴とする請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記生体材料が、心筋に隣接して注入されることを特徴とする請求項43に記載の方法。
【請求項46】
ある容量の前記生体材料が心筋に隣接して配置され、前記容量が約1ml〜約1000mlの範囲であることを特徴とする請求項43に記載の方法。
【請求項47】
ある容量の前記生体材料が心筋に隣接して配置され、前記容量が約50ml〜最高で約200mlの範囲であることを特徴とする請求項43に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−515565(P2009−515565A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−526957(P2008−526957)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/029606
【国際公開番号】WO2007/024414
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(502329636)パラコー メディカル インコーポレイテッド (12)
【Fターム(参考)】