説明

生体検査装置

【課題】複数の光源を有する生体検査装置において、光源間の発光タイミングのずれを低減し、診断画像中のアーチファクトを低減するための技術を提供する。
【解決手段】生体検査装置は、複数のレーザ光源と、レーザ光源に対して励起の開始を指示する励起開始信号を出力するとともに、励起開始信号から所定の時間の経過後にレーザ光源に対して発振の開始を指示する発振開始信号を出力することで、レーザ光源からパルス光を発生させる制御手段とを備える。複数のレーザ光源は、第1のレーザ光源と、励起の開始からパルス光の発生までにかかる準備時間が前記第1のレーザ光源よりも長い第2のレーザ光源とを含んでいる。制御手段は、第1のレーザ光源と第2のレーザ光源の間の準備時間の差に応じて、第1のレーザ光源に対して励起開始信号を出力するタイミングを第2のレーザ光源に対して励起開始信号を出力するタイミングよりも遅延させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響効果を利用して生体組織内部の分光特性を計測するための生体検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パルス光を生体に照射し、生体内部から発生する光音響波を探触子で受信して生体組織内部の形態や機能を画像化する生体検査装置が医療分野で多く提案されている。この技術は光音響トモグラフィー(PAT:Photoacoustic Tomography)とよばれる。このような装置において、生体組織内に照射した光の強度は生体組織内を伝播する過程で吸収や散乱によって減衰するため、組織の深部に到達する光は僅かになる。その結果、生体内部から発生する光音響波および探触子によって変換された電気信号(光音響信号)は微弱なものとなる。そこで光源内にQスイッチを備えて急激な発振を行うことにより、パルス光の光量を高め深部に到達する光を増すようにしている。
【0003】
また、複数の光源を設け、被検体の両側からパルス光を同時に照射することにより深部に到達する光を増すようにする装置が提案されている(特許文献1)。
図12(a)を用いて従来の生体検査装置の例を説明する。図12(a)は従来の生体検査装置の構成を示す。81は被検体である生体組織、82a、82bはパルス光、87は被検体内部に存在する光吸収部位である。光吸収部位とは、パルス光のエネルギーを吸収し効率よく光音響波を発生させる部位であり、例として血管があげられる。88は光吸収部位87より発生する光音響波、85は光音響波88を電気信号に変換する探触子、86a、86bは被検体81を固定するための板状部材である。なお、探触子85から被検体81に向かう方向をZ方向、上から下へ垂直に進む方向をY方向、Z方向及びY方向と垂直な水平方向をX方向と呼ぶ。被検体81にパルス光82a、82bを照射すると光吸収部位87より光音響波88が発生する。これを探触子85にて電気信号(光音響信号)に変換し、不図示の電子回路により、診断画像に変換し出力する。パルス光82a、82bの照射タイミングや光音響信号の受信タイミングは不図示のコントローラにより制御されている。
【0004】
また、複数のパルス光の発光タイミングを制御可能なレーザ加工装置が提案されている(特許文献2)。特許文献2では、パルスレーザ発振の開始タイミングを変更することにより、二つのパルス光の発光タイミングを調整する方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−017426号公報
【特許文献2】特開2000−343256号公報(特許第3400957号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パルス光源には個体差や経年変化がある。それゆえ、複数の光源に対し同じタイミングでパルス光を照射させるように制御信号を送信しても、実際には照射タイミングのずれが発生する場合がある。被検体に照射される複数のパルス光のタイミングがずれた場合には被検体内の同一箇所から複数の光音響波が発生し、診断画像上にアーチファクトが発生するという問題があった。
【0007】
なお、アーチファクトを低減させるために、特許文献2の方法のように2つのパルスレ
ーザの発振開始タイミングを変更することも考えられる。しかしその場合は、レーザ媒質に蓄積されるエネルギーが変動し、パルス発光ごとの光量に変動が生じてしまう。そのため、複数のパルス光を複数回照射して得られた光音響波から診断画像を生成する生体検査装置においては、診断画像のむらが発生するおそれがある。
【0008】
そこで本発明は、複数の光源を有する生体検査装置において、光源間の発光タイミングのずれを低減し、診断画像中のアーチファクトを低減するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、光音響効果を利用して被検体内部の情報を取得する生体検査装置であって、パルス光を発生する複数のレーザ光源と、前記レーザ光源に対して励起の開始を指示する励起開始信号を出力するとともに、前記励起開始信号から所定の時間の経過後に前記レーザ光源に対して発振の開始を指示する発振開始信号を出力することで、前記レーザ光源からパルス光を発生させる制御手段と、前記レーザ光源から発生したパルス光の照射により被検体内部で発生した音響波を受信する音響波受信手段と、前記音響波受信手段から出力される信号を用いて被検体内部の情報を生成する信号処理手段と、を備え、前記複数のレーザ光源は、第1のレーザ光源と、励起の開始からパルス光の発生までにかかる準備時間が前記第1のレーザ光源よりも長い第2のレーザ光源とを含んでおり、前記制御手段は、前記第1のレーザ光源と前記第2のレーザ光源の間の準備時間の差に応じて、前記第1のレーザ光源に対して励起開始信号を出力するタイミングを前記第2のレーザ光源に対して励起開始信号を出力するタイミングよりも遅延させる生体検査装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光源間の発光タイミングのずれを低減し、診断画像中のアーチファクトを低減し画質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第一実施例を示すブロック構成図。
【図2】本発明の第一実施例におけるフローチャート。
【図3】本発明の第一実施例における制御信号の生成回路の構成図。
【図4】本発明の第一実施例におけるタイミングチャート。
【図5】本発明の第一実施例における発光タイミング調整処理のフローチャート。
【図6】本発明の第一実施例における光音響信号波形と診断画像の一例を示す図。
【図7】本発明の第二実施例におけるフローチャート。
【図8】本発明の第三実施例を示すブロック構成図。
【図9】本発明の第三実施例における発光タイミング調整処理のフローチャート。
【図10】本発明の第三実施例におけるタイミングチャート。
【図11】本発明の第三実施例における光音響信号波形と診断画像の一例を示す図。
【図12】従来の生体検査装置の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施例1>
(全体構成)
図1は本発明に係る生体検査装置の第一の実施例を示すブロック構成図である。図1において、1は被検体であり、被験者の体の一部である。例えば生体検査装置を乳がんの診断に利用する場合には、乳房が被検体となる。この生体検査装置は複数(本実施例では2つ)のパルスレーザ光源2a、2bを備える。以下、パルスレーザ光源2aを第1のレーザ光源、パルスレーザ光源2bを第2のレーザ光源ともよぶ。パルスレーザ光源2a、2bは、パルス光を発生させるための光源であり、YAGレーザ、チタンサファイアレーザ
などで構成される。パルスレーザ光源2a、2bは内部のレーザ媒質を励起するための手段としてフラッシュランプをもつ。また、パルスレーザ光源2a、2bはQスイッチをもつ。フラッシュランプ及びQスイッチは、外部から電気的に制御可能である。フラッシュランプを点灯させてレーザ媒質に励起エネルギーを蓄積した後に、QスイッチをONにすると、ジャイアントパルスと呼ばれる高いエネルギーをもつパルス光が出力される。励起の開始からパルス光の発生までにかかる時間(準備時間と呼ぶ)は、パルスレーザ光源の個体差、経年変化、機種差などにより異なる。本実施例では、パルスレーザ光源2aよりもパルスレーザ光源2bのほうが準備時間が長いものとする。
【0013】
3aおよび3bはパルスレーザ光源2aおよび2bで発生させたパルス光を被検体1に導くための照明光学系であり、ミラー、ビームスプリッタ、シャッターなどで構成される。4aおよび4bはパルス光を検出するための光センサであり、フォトダイオードおよびアンプ回路で構成される。光センサ4aおよび4bは照明光学系3aおよび3bを通過する各パルス光の一部が入射する位置に置かれている。照明光学系3aおよび3bは、内部のミラーでパルス光を反射させ大部分を被検体1へ導くが、一部透過光が存在する。この透過光を光センサ4aおよび4bへ入射させる。
【0014】
7は被検体内部に存在する光吸収の大きな部位(光吸収部位あるいは光吸収体と呼ばれる。)を表したものである。光吸収部位7にパルス光が照射されると、光音響効果により光音響波が生じる。光音響効果とは、光エネルギーの吸収によって膨張し収縮した光吸収部位7から音響波が発生する現象である。この音響波は弾性波であり、例えば超音波である。
【0015】
6aおよび6bは被検体1を圧迫保持するための板状部材である。板状部材6aおよび6bにより被検体1は薄く伸ばされ、パルス光が内部に到達できるようになる。5は被検体内部から発生した光音響波を受信し電気信号(光音響信号)に変換する探触子であり、これは例えば2次元の超音波センサアレイで構成される。
【0016】
10は探触子5から出力された光音響信号を受信するとともに、パルスレーザ光源2a、2bおよび照明光学系3a、3b、探触子5の動作を制御するコントローラである。コントローラ10はCPU11、時間差計数回路12、制御回路13、信号処理回路14を内部に備えている。CPU11は組み込みマイコンおよびソフトウェアで構成され、生体検査装置全体の動きを制御する。また、CPU11は内部にメモリを有しており、生体検査装置の設定情報を保存しておくことができる。
【0017】
時間差計数回路12は光センサ4aおよび4bからの電気パルス信号を受信し、その時間差を計測する回路である。この回路は比較回路、カウンタ回路およびクロック生成回路からなり、電気パルス信号の電圧が所定の値を超えて立ち上がると、パルス光が検知されたと判断する。時間差計数回路12は一方の電気パルス信号が立ち上がってから他方の電気パルス信号が立ち上がるまでの間、クロック周期ごとにカウンタ回路を動作させる。そして、時間差計数回路12は光センサ4aおよび4bからの電気パルス信号の立ち上がりの順番および、電気パルス信号同士の立ち上がり時間差を記録する。
【0018】
制御回路13は、CPU11により設定されたレジスタ値に基づきパルスレーザ光源2a、2bのフラッシュランプ点灯およびQスイッチ発振のタイミングを制御する。また、制御回路13は、照明光学系3aおよび3b内部のシャッターの開閉を制御し、パルス光を被検体1に到達させるか否かの制御を行う。
【0019】
照明光学系3a、3bの先端および探触子5は不図示のXYステージに取り付けられ、被検体1に対して相対移動させることができる。これにより被検体1表面上の多数の点で
パルス光の照射と光音響波の受信を行い広い範囲の光音響信号を取得する。
【0020】
信号処理回路14は探触子5から光音響信号を受信し、増幅、信号処理、画像再構成を行う回路である。信号処理回路14は、オペアンプ、A/D変換器、FPGAなどで構成される。15は使用者が生体検査装置の動作を制御したり、設定を変更したりするとともに、使用者に対して診断画像を表示するユーザインタフェースである。ユーザインタフェース15は、キーボードなどの入力装置とディスプレイなどの出力装置から構成されている。
パルスレーザ光源2a、2bの制御信号としては、励起の開始を指示する励起開始信号と、発振の開始を指示する発振開始信号とが用いられる。励起開始信号は、光源内部のフラッシュランプを点灯させるための制御信号であり、発振開始信号は、Qスイッチを閉じ急激な発振によりジャイアントパルスを発生させるための制御信号である。これらはいずれもDC5Vのデジタルパルス信号である。図1において20aはパルスレーザ光源2aの励起開始信号、21aはパルスレーザ光源2aの発振開始信号である。また、20bはパルスレーザ光源2bの励起開始信号、21bはパルスレーザ光源2bの発振開始信号である。
【0021】
22aは照明光学系3aから光センサ4aへ入射するパルス光、22bは照明光学系3bから光センサ4bへ入射するパルス光である。23aは光センサ4aから出力された電気パルス信号、23bは光センサ4bから出力された電気パルス信号である。これらはアナログパルス信号である。また、24は探触子5から出力された光音響信号である。
【0022】
本実施例において、CPU11および制御回路13が本発明の制御手段に対応し、探触子5が本発明の音響波受信手段に対応し、信号処理回路10が本発明の信号処理手段に対応する。また、光センサ4a、4bおよび時間差計数回路12が、本発明におけるパルス光の発生タイミングの差を検出する検出手段に対応する。
【0023】
(動作フロー)
図2はコントローラ10で実行される生体検査装置の動作フローを示す。ステップS1において、CPU11は測定準備ができているか否かを確認する。被検体1が板状部材6aおよび6bの間に固定されている場合には、測定準備ができていると判断し、ステップS3へ進む。測定準備ができていない場合にはステップS2へ進み、一定時間待機した後にステップS1に戻る。
【0024】
続いてステップS3において、CPU11は使用者がユーザインタフェース15を介して指定した設定情報を読み込み、内部のメモリへと記録する。設定情報としては同じ測定位置での繰り返し照射回数や測定範囲、パルス光の波長などがある。
【0025】
次にステップS4においてCPU11は制御回路13を介して照明光学系3aおよび3b内部に置かれたシャッター(光遮断手段)を閉じる制御信号を出す。これにより、パルスレーザ光源2aおよび2bからのパルス光はそれぞれ光センサ4aおよび4bへは入射されるが、被検体1へは到達しないようになる。続いてステップS5においてCPU11は制御回路13を介してパルスレーザ光源2aおよび2bの制御信号のタイミング調整を行う。タイミング調整の方法については後述する。
【0026】
ステップS6ではCPU11は制御回路13を介してXYステージを駆動し、被検体1の測定位置まで照明光学系3a、3bの先端および探触子5を移動させる。続いてステップS7においてCPU11は制御回路13を介して照明光学系3aおよび3b内部に置かれたシャッターを開く制御信号を出す。これにより、パルスレーザ光源2aおよび2bからのパルス光はそれぞれ光センサ4aおよび4bおよび、被検体1へ到達するようになる

【0027】
続いてステップS8においてCPU11は制御回路13を介してパルスレーザ光源2aおよび2bへ制御信号を送り、パルス光を発生させる。制御回路13は、パルスレーザ光源2aおよび2bの励起開始信号および発振開始信号をステップS5で調整したタイミングで立ち上げる。これにより複数のパルスレーザ光源の個体差によらず、ほぼ同時に複数のパルス光を被検体1に照射することができる。
【0028】
被検体1内部で発生した光音響波は探触子5にて電気信号に変換され信号処理回路14に伝達される。ステップS9において、信号処理回路14は光センサ4aまたは4bからの電気パルス信号が立ち上がった後に一定時間光音響信号を入力し内部メモリに保存する。その際に被検体上の同じ位置で発生した信号同士で加算平均を行い、ノイズの影響を低減させる処理を行う。
【0029】
次にステップS10において、CPU11は、光音響信号を内部メモリへ保存した回数がステップS3で読み込まれた繰り返し照射回数に達しているか否かを判定する。読み込まれた値に達していればステップS11へ進み、達していなければステップS8へ戻る。例えばステップS3で繰り返し照射回数として3という値が読み込まれていた場合には、ステップS8およびステップS9の処理を3回繰り返した後にステップS11へ進む。
【0030】
ステップS11において、CPU11は、被検体1の測定範囲全体の測定が終わっているか否かを判定する。測定範囲についてはステップS3で読み込まれている。全測定範囲での測定が完了している場合にはステップS12へ進む。まだ測定が完了していない位置がある場合にはステップS6に戻り、処理を継続する。ステップS12において、CPU11は信号処理回路14の内部メモリに保存されている各測定位置での光音響信号データをもとに画像再構成を行い、生体内部の分光特性を示す診断画像をユーザインタフェース15に出力する。
【0031】
(制御信号の生成回路)
図3は制御回路13の内部回路の中で、パルスレーザ光源2aおよび2bへの制御信号20a、21a、20b、21bを生成する部分のブロック図である。
【0032】
図3において30はパルスレーザ光源2aおよび2bへの制御信号20a、21a、20b、21bを生成する生成回路である。この生成回路30は、FPGAなどのデバイス上に展開された論理回路である。31はCPU11によって読み書きされるレジスタである。レジスタ31は5つのレジスタ(R2からR6)を持つ。R2は生成回路30の動作を開始させるコントロールレジスタである。R3は遅延回路33での遅延時間を設定するための励起遅延設定レジスタである。R4は選択回路34の動作を設定する選択設定レジスタである。R5は遅延回路35での遅延時間を設定するためのパルスレーザ光源2a用発振遅延設定レジスタである。R6は遅延回路36での遅延時間を設定するためのパルスレーザ光源2b用発振遅延設定レジスタである。32はコントロールレジスタR2の値が1の時に一定の周波数で基準パルス信号37を出力し、遅延回路33および選択回路34へ出力する基準パルス生成回路である。本実施例では基準パルス信号37の周波数は10Hzであり、パルスレーザ光源2aおよび2bは周波数10Hzでパルス光を出力できるものとする。
【0033】
遅延回路33は励起遅延設定レジスタR3で指定された時間だけ基準パルス信号37を遅延させて選択回路34へ出力する回路である。時間の単位はナノ秒とする。例えば、励起遅延設定レジスタR3の設定値が2000の場合には、遅延回路33は2マイクロ秒だけ基準パルス信号37を遅延させて出力する。
【0034】
選択回路34は、基準パルス信号37と遅延回路33からの遅延したパルス信号を入力し、選択設定レジスタR4の値に応じて励起開始信号20aおよび20bを出力する回路である。選択設定レジスタR4は0から3の4つの値をとりうる。選択設定レジスタR4の値が0の場合には励起開始信号20aには基準パルス信号37を出力し、励起開始信号20bには遅延回路33からの出力信号を出力する。選択設定レジスタR4の値が1の場合には励起開始信号20bには基準パルス信号37を出力し、励起開始信号20aには遅延回路33からの出力信号を出力する。選択設定レジスタR4の値が2の場合には励起開始信号20aには基準パルス信号37を出力し、励起開始信号20bにはパルス信号を出力しない。選択設定レジスタR4の値が3の場合には励起開始信号20bには基準パルス信号37を出力し、励起開始信号20aにはパルス信号を出力しない。
【0035】
遅延回路35はパルスレーザ光源2a用発振遅延設定レジスタR5で指定された時間だけ励起開始信号20aを遅延させて発振開始信号21aを出力する回路である。時間の単位はナノ秒とする。遅延回路36はパルスレーザ光源2b用発振遅延設定レジスタR6で指定されたナノ秒時間だけ励起開始信号20bを遅延させて発振開始信号21bを出力する回路である。
【0036】
このように、制御回路13の内部に遅延回路33、35、36をハードウェアで備え、ユーザインタフェース15から設定変更可能にすることにより、励起開始信号20a、20bおよび発振開始信号21a、21bのタイミングを高精度かつ柔軟に変更することが可能である。また、選択設定レジスタR4の値を0または1に変更することにより、パルスレーザ光源2aおよび2bの両方を発光させる場合に、どちらが時間的に先に励起を開始するかを変更することができる。また、選択設定レジスタR4の値を2または3に変更することにより、パルスレーザ光源2aおよび2bのどちらか一方のみを発光させる動作も実現可能である。以下ではパルスレーザ光源2aおよび2bの両方を発光させる場合の動作について説明する。
【0037】
(発光タイミング調整)
次に図2のステップS5の発光タイミング調整処理の際にCPU11で行われる処理を図4および図5を用いて説明する。
【0038】
図4はパルスレーザ光源2a、2bへの制御信号20a、21a、20b、21b、パルス光22a、22b、電気パルス信号23a、23b、および光音響信号24の関係を表したタイムチャートである。図5はCPU11でステップS5において実行される発光タイミング調整処理の詳細を示したフローチャートである。
【0039】
ステップS20においてCPU11は図3で説明したレジスタR2〜R6の値の初期化を行う。ここでは、コントロールレジスタR2、励起遅延設定レジスタR3および選択設定レジスタR4の値を0に設定する。また、パルスレーザ光源2a用発振遅延設定レジスタR5およびパルスレーザ光源2b用発振遅延設定レジスタR6を予め調整された初期値に設定する。パルスレーザ光源2aおよび2bのセットアップ時に消費電力とパルス光量をもとに最適な値が求められているものとする。例えば、パルスレーザ光源2a用発振遅延設定レジスタR5の値を150000、パルスレーザ光源2a用発振遅延設定レジスタR6の値を152000に設定したとして説明する。パルスレーザ光源2a用発振遅延設定レジスタR5の値はパルスレーザ光源2aのレーザ媒質にエネルギーが蓄積される時間(励起時間)を決定し、パルス光22aの光量と密接に関係する。パルスレーザ光源2b用発振遅延設定レジスタR6についても同様でパルス光22bの光量と密接に関係する。これらの値はターゲットとなる光吸収部位7の大きさや被検体1に照射可能な光量により予め決定し、CPU11内のメモリに保持されているものとする。
【0040】
次にステップS21においてCPU11はコントロールレジスタR2の値を1にする。これにより基準パルス生成回路32から周波数10Hzで基準パルス信号37の出力が開始される(時刻T01)。
【0041】
最初は励起遅延設定レジスタR3の値は0に初期化されているので、遅延回路33からの出力信号も基準パルス信号37と同じ時刻に出力される。選択設定レジスタR4の値も0に初期化されているので励起開始信号20aおよび20bが同じタイミングで出力される。これにより、パルスレーザ光源2aおよび2bの内部のフラッシュランプが点灯し、レーザ媒質のエネルギーが蓄積され励起状態に至る。一方、パルスレーザ光源2a用発振遅延設定レジスタR5の値を150000に設定したので、発振開始信号21aは励起開始信号20aよりも150マイクロ秒経過後に出力される(時刻T02)。これによりパルスレーザ光源2aでQスイッチがONになり、励起エネルギーの急激な増幅と発振が起こり、数100ナノ秒後にパルス光22aが出力される(時刻T03)。この時間はパルスレーザ光源や波長設定値ごとに異なる。光センサ4aでの数ナノ秒の遅延後に電気パルス信号23aが出力される(時刻T04)。
【0042】
一方、パルスレーザ光源2b用発振遅延設定レジスタR6の値を152000に設定したので、発振開始信号21bは励起開始信号20bよりも152マイクロ秒経過後に出力される(時刻T05)。これによりパルスレーザ光源2bでQスイッチがONになり、励起エネルギーの急激な増幅と発振が起こる。そして数100ナノ秒後にパルス光22bが出力される(時刻T06)。光センサ4bでの数ナノ秒の遅延後に電気パルス信号23bが出力される(時刻T07)。
【0043】
電気パルス信号23aと23bの立ち上がり時間の差、すなわち「T07−T04」の値が時間差計数回路12によってナノ秒単位で計測され記録される。この時間差は、2つのパルスレーザ光源2aと2bの間のパルス光の発生タイミングの差に相当する。ここでは、電気パルス信号23aが電気パルス信号23bよりも先に立ち上がった場合を正の値とする。例えば、電気パルス信号23aが立ち上がり、その後2.2マイクロ秒後に電気パルス信号23bが立ち上がった場合には、時間差として2200[ns]を記録しておく。一方、電気パルス信号23bが立ち上がり、その後2.2マイクロ秒後に電気パルス信号23aが立ち上がった場合には、時間差として−2200[ns]を記録しておく。
【0044】
CPU11は時刻T01から時刻T07の間は待っている状態になる。ステップS22において時間差計数回路12へアクセスし、ステップS21で発生させたパルス光22aおよび22bに対応する電気パルス信号23aおよび23bの時間差計測が完了しているか否かを判定する。完了している場合にはステップS24へ進む。完了していない場合にはステップS23に進み、一定時間待機した後にステップS22へ戻る。
【0045】
次にステップS24においてCPU11は時間差計数回路12へアクセスし、時間差として「T07−T04」の値を読み出す。
ステップS25においてCPU11は時間差(T07−T04)をパルス光のタイミングずれの許容範囲と比較し、範囲内であるか否かを判定する。この許容範囲は、パルス光22aおよびパルス光22bのパルス幅および探触子5の周波数特性などによって予め決められCPU11内に保存されているものとする。2つのパルス光22a、22bの発生タイミングは厳密に一致させる必要はない。一つの光吸収部位から光音響波が2回発生しなければよいので、少なくとも、発生タイミングのずれがパルス光の幅より小さく、2つのパルス光が時間的な重なりを有していればよい。本実施例では時間差として2200[ns]の場合を例にして説明する。また、本実施例ではパルス光の幅は約10[ns]であり、2つのパルス光が重なるように許容範囲を−10[ns]以上10[ns]以下と
定める。
【0046】
時間差が許容範囲内の場合には2つのパルス光の発生タイミングは合っていると判断し、処理を終了する。この際にCPU11がコントロールレジスタに0を書き込み、基準パルス信号37をいったん停止してもよい。時間差が許容範囲外の場合にはステップS26に進む。
【0047】
ステップS26においてCPU11は時間差計数回路12で計測された時間差を打ち消すように制御回路13の設定変更を行う。励起遅延設定レジスタR3にステップS24で読み出された時間差(T07−T04)の絶対値を書き込む。また、「T07−T04」の値が0以上の場合には選択設定レジスタR4に1を書き込む。また、「T07−T04」の値が負の場合には選択設定レジスタR4に0を書き込む。例えば、時間差が2200の場合には、励起遅延設定レジスタR3に2200を設定し、選択設定レジスタR4に1を書き込む。
【0048】
そしてステップS21へ戻り、処理を継続する。この場合には時刻T01から100ミリ秒後の時刻T08に基準パルス信号37が出力される。励起遅延設定レジスタR3の値が2200の場合、時刻T08の2.2マイクロ秒後に遅延回路33からのパルス信号が出力される(時刻T09)。選択設定レジスタR4の値が1なので、励起開始信号20aには時刻T09でパルス信号が出力され、励起開始信号20bには時刻T08でパルス信号が出力される。即ち、パルスレーザ光源2aのフラッシュランプの点灯をパルスレーザ光源2bのフラッシュランプの点灯よりも2.2マイクロ秒遅れて開始させることになる。
【0049】
パルスレーザ光源2a用発振遅延設定レジスタR5の値はステップS26で変更していない。そのため発振開始信号21aと励起開始信号20aの時間間隔(T10−T09)は150マイクロ秒のままである。時刻T10において発振開始信号21aにパルス信号が出力されるとパルスレーザ光源2aでQスイッチがONになり、励起エネルギーの急激な増幅と発振が起こる。そして、数100ナノ秒後にパルス光22aが出力される(時刻T11)。光センサ4aでの数ナノ秒の遅延後に電気パルス信号23aが出力される(T12)。
【0050】
一方、パルスレーザ光源2b用発振遅延設定レジスタR6の値もステップS26で変更していない。そのため発振開始信号21bと励起開始信号20bの時間間隔(T13−T08)は152マイクロ秒のままである。時刻T13において発振開始信号21bにパルス信号が出力されるとパルスレーザ光源2bでQスイッチがONになり、励起エネルギーの急激な増幅と発振が起こり、数100ナノ秒後にパルス光22bが出力される(時刻T14)。光センサ4bでの数ナノ秒の遅延後に電気パルス信号23bが出力される(T15)。
【0051】
一回目の発光時に光源の個体差や経年劣化による時間差を計測し、二回目の励起の開始をずらすことにより、電気パルス信号23aと電気パルス信号23bの差(T15−T12)、すなわち発光タイミングのずれを最小化することができる。また、励起開始と発振開始の時間差(「T10−T09」および「T13−T08」)は一定にしておくことにより、発光ごとのパルス光量の変動を少なくしている。
【0052】
これまでのタイミング制御により電気パルス信号23aと電気パルス信号23bの時間差が許容範囲内になると、発光タイミング調整処理は終了する。その後、図2のステップS6以降の処理により、被検体へのパルス光照射と光音響波受信が開始される(T16)。ここではCPU11は制御回路13内のレジスタ値を変更していないため、時刻T08
から時刻T16までと同じタイミングでパルスレーザ光源の制御が行われる。電気パルス信号23aまたは電気パルス信号23bに同期して、光音響信号の受信が開始される(T17)。
【0053】
(従来例との比較)
図12(a)〜(c)を参照して従来の生体検査装置の問題について説明した後、本実施例の利点について説明する。図12(b)は、図12(a)に示す従来の生体検査装置の探触子85から出力される光音響信号の一例である。横軸は時刻、縦軸は電圧を表す。また、図12(c)は従来の生体検査装置により光音響信号を変換して作成された診断画像の一例である。
【0054】
パルスレーザ光源の発光タイミングおよび光量は、光源の個体差や経年変化、あるいはパルス光の波長などにより変動する。このような発光タイミングのずれや光量ずれが生じると、診断画像上にアーチファクトが発生し、画質の低下を招いてしまう。
【0055】
まず、パルス光82aおよび82bのタイミングずれによるアーチファクトについて説明する。2つのパルス光82aと82bのタイミングがずれていると1つの光吸収部位87から光音響波88が2回発生する。これらの光音響波は異なる時刻に探触子85に到達するため、探触子85から光音響信号が92、93のように2回に分かれて出力される。このような光音響信号が得られると、信号処理回路では異なる位置に2つの光吸収部位があると誤った判断をしてしまう。そのため、1箇所だった光吸収部位が診断画像中では97、98の2つの像に分かれてしまう。
【0056】
続いて、光量のずれによるアーチファクトについて説明する。パルス光82bが被検体81に照射される際に、一部が板状部材86bおよび被検体81の表面にて吸収され光音響波が発生する。この光音響波による信号90および91が最初に出力される。パルス光82bの量が大きすぎると強い光音響波が発生し、板状部材86bおよび被検体81の間で多重反射するため、長い時間にわたりノイズ信号90および91が発生する。その結果、診断画像中にアーチファクト96が発生する。一方、パルス光82aおよび82bの光量が小さすぎると、光吸収部位87からの光音響波88も弱くなり、診断画像中の像97、98がぼやけてしまう。
【0057】
なお、パルス光82aが被検体81に照射される際に、一部が板状部材86aおよび被検体81の表面にて吸収され光音響波が発生する。しかし、この光音響波による信号94、95は最後に出力されるので、時刻99以降の信号を診断画像の生成に使用しないようにすることにより、診断画像への影響を防ぐことができる。
【0058】
次に、図6(a)および(b)に本実施例における光音響信号波形と診断画像の一例を示す。図6(a)は探触子から出力される光音響信号の一例である。横軸は時刻、縦軸は電圧を表す。また、図6(b)は光音響信号を変換して作成された診断画像である。
【0059】
本実施例ではパルス光22aおよび22bが時刻T17にほぼ同時に被検体1へ照射される。これにより光吸収部位7からの光音響波は1回だけ発生する。そのため、対応する光音響信号41および診断画像中の像42は一つに集約される。また光吸収部位7には2つのパルス光のエネルギーが同時に吸収されるため、パルス光のタイミングがずれていた場合に比べて、強い光音響波が発生する。これにより光音響信号41は従来装置で計測される光音響信号92および93よりも電圧が高くなる。本実施例によりパルス光のタイミングがずれていた場合の像97および98よりも、診断画像中の像42のコントラストを高めることも可能である。
【0060】
(変形例)
なお、本実施例では簡単のため2つのパルスレーザ光源2a、2bからのパルス光を被検体1に対向する位置から照射する例を用いて説明したが、パルスレーザ光源の個数は3つ以上であってもよい。また、照射する方向は被検体1に対して対向する方向に限らない。例えば多数の照明光学系を被検体周囲に配置し、多方向から同時にパルス光を照射する場合においても、本発明を適用することが可能である。
【0061】
また、本実施例では、2つのパルスレーザ光源2aおよび2bが同じ光源である例を用いて説明したが、本発明は複数のパルスレーザ光源の種類が異なる場合においても適用可能である。この場合には、パルスレーザ光源の個体差だけでなく、複数のパルスレーザ光源の種類の違いによるパルス光のタイミングずれを防ぐことができる。
【0062】
また、本実施例の図2では被検体1の測定準備が整った後にパルスレーザ光源のタイミングを調整する例を用いて説明したが、タイミング調整と他の処理との前後関係はこれに限るものではない。例えば、最初にタイミング調整を行った後に被検体1を測定位置に固定するようにしてもよい。これによれば、被検体1を拘束する時間を削減することができ被験者の負担を軽減することができる。
【0063】
また、パルスレーザ光源2aおよび2bが波長や周波数、投入エネルギーなどを設定できる場合に、パルスレーザ光源2aおよび2bの設定を変更するごとにタイミング調整を行うようにしてもよい。
【0064】
また、パルスレーザ光源の経年劣化に対しては、装置の立ち上げ時や毎朝など決められた時間ごとにタイミングの調整を行うようにしてもよい。また、時間差計数回路12で測定された時間差をCPU11で常時監視しておき、許容範囲外になったところでタイミング調整を行うようにしてもよい。CPU11でパルスレーザ光源2a、2bからのパルス光の累積発光回数を保存しておき、一定回数に達したところでタイミング調整を行うようにしてもよい。
【0065】
また、本実施例では光センサ4aおよび4bによる、パルス光が発光してから電気パルス信号が立ち上がるまでの遅延の個体差については無視しているが、本発明はこれに限るものではない。事前に光センサ4aおよび4bの遅延の個体差を測定しておき、励起遅延設定レジスタの値に反映させることで、被検体1に照射されるパルス光のタイミングずれをより少なくすることができる。
【0066】
なお、本実施例では基準パルス生成回路にて一定周期で基準パルス信号37を生成する例を示したが、基準パルス信号の生成方法はこれに限定されるものではなく、基準パルス信号を他の制御信号と同期させて発生させてもよい。例えば、発光タイミング調整の際に基準パルス信号生成と電気パルス信号発生の時間差(T12−T08)を保存しておく。そして、ステップS6で移動中の探触子5の速度をVとする。探触子5が測定位置よりも「V×(T12−T08)」だけ手前を通過するタイミングで基準パルス信号37を生成する。基準パルス信号37を生成した後、「T12−T08」だけ時間が経過した後にパルス光22aおよび22bが発光される。それまでに探触子5は「V×(T12−T08)」だけ進み、測定位置近傍を通過している。
このように、探触子5を移動しながら測定を行う場合に、基準パルス信号37を探触子5の位置情報と同期させることにより、測定位置到達と同じタイミングでパルス光を発光させ、測定の位置精度を高めることができる。
【0067】
以上説明してきたように本発明の第一の実施例によれば、複数のパルス光のタイミングずれに基づきフラッシュランプの点灯開始をずらし、かつQスイッチ発振開始とフラッシ
ュランプの点灯開始の間隔を一定に保っている。これにより光量の変動を抑えつつ複数のパルス発光のタイミングを揃えることができる。その結果、生体内部の同じ部位から複数の光音響波が発生し、診断画像にアーチファクトが発生する、という現象を防ぐことができる。
【0068】
<実施例2>
続いて本発明の第二実施例を説明する。本発明の第二実施例の第一実施例との違いは、被検体の測定中にもタイミングの調整を行う点である。本実施例は、被検体へのパルス光の照射中にパルスレーザ光源内部の温度上昇などにより、発光タイミングが次第に変動していくような場合に対応するためのものである。
【0069】
図1のブロック構成図、図3の制御信号の生成回路30については第一実施例と同じであるため説明を省略する。
【0070】
図7を用いて本実施例の生体検査装置の動作フローを説明する。ステップS30からステップS33については、それぞれ第一実施例におけるステップS1からステップS4と同じであるため説明を省略する。ステップS33が終了した段階で、制御回路13内のレジスタ31には、前回の測定時の値が保持されているものとする。また、ステップS34からステップS36についてはそれぞれ第一実施例におけるステップS6からステップS8と同じであるため説明を省略する。また、ステップS37からステップS40についてはそれぞれ第一実施例におけるステップS22からステップS25と同じであるため説明を省略する。
【0071】
ステップS40において、時間差が許容範囲内の場合にはパルス光のタイミングは合っていると判断し、ステップS41に進む。時間差が許容範囲外の場合にはステップS42に進む。ステップS41、ステップS42についてはそれぞれ第一実施例におけるステップS9、ステップS26と同じであるため説明を省略する。ステップS43からステップS45についてはそれぞれ第一実施例におけるステップS10からステップS12と同じであるため説明を省略する。
【0072】
以上説明してきたように、本発明の第二実施例においては、被検体の測定中にパルス光を発光させるたびに励起遅延設定レジスタR3の値を更新していく。これにより、測定中のパルス光22aおよび22bのタイミングのずれを低減することができる。これにより、パルスレーザ光源が測定中に温度上昇し、特性が変化した場合にもアーチファクトの発生を防ぐことができる。また、ステップS40でパルス光のずれが許容範囲外であった場合には、ステップS41の光音響信号データの取得を行わないことにより、測定中に突発的にパルス光のタイミングのずれが発生した場合にも、診断画像でのアーチファクトの発生を防ぐことが可能になる。
【0073】
<実施例3>
続いて本発明の第三実施例を説明する。本発明の第三実施例の第一実施例との違いは、パルスレーザ光源のフラッシュランプ点灯のタイミングだけでなく、フラッシュランプ点灯からQスイッチ発振までの間隔をも変更する点である。フラッシュランプ点灯からQスイッチ発振までの間隔の変更により、パルスレーザ光源内部のレーザ媒質に蓄積されるエネルギー量を変更する。本実施例により被検体1へ照射されるパルス光量を調整することができる。例えば、図1において、照明光学系3bからのパルス光量が強すぎる場合に板状部材6b表面から強い光音響波が発生する場合がある。この場合、探触子5へ被検体1以外からの光音響波が回り込み、アーチファクトの発生につながる場合がある。このアーチファクトを低減させるために照明光学系3bからのパルス光量を弱め、その減少分だけ照明光学系3aからのパルス光量を強める場合の例を用いて以下に説明する。
【0074】
図8のブロック図において、光量計測回路16以外は第一実施例と同じであるため説明を省略する。光量計測回路16は光センサ4aおよび4bからの電気パルス信号23aおよび23bより、パルス光量を測定する回路である。光量計測回路16はパルス発光ごとに、電気パルス信号23aおよび23bをそれぞれ積分し、パルス光22aおよび22bの強度値を求め、内部のレジスタに保存しておく。
【0075】
図2の動作フローおよび図3の制御信号の生成回路30については第一実施例と同じであるため説明を省略する。本実施例が第一実施例と異なる点はステップS5の発光タイミング調整処理の内容である。図9のフローチャートと図10のタイムチャートを用いて発光タイミング調整処理の詳細を説明する。ステップS50からステップS54までの処理はそれぞれ第一実施例におけるステップS20からステップS24までの処理と同じであるため説明を省略する。また、図10のタイムチャートにおいてT01からT08およびT16はそれぞれ、図4の同じ符号の時刻と同じである。
【0076】
次にステップS55において、CPU11は光量計測回路16へアクセスし、パルス光22aの光量P22aおよびパルス光22bの光量P22bの値を読み出し、内部メモリに保存しておく。
【0077】
ステップS56は第一実施例におけるステップS25と同じであるため説明を省略する。ステップS56で時間差が許容範囲内の場合にはパルス光のタイミングは合っていると判断し、ステップS57へ進む。時間差が許容範囲外の場合にはステップS58に進む。
ステップS57において、CPU11は光量P22aとP22bを予めCPU11内部に設定された許容範囲と比較し、範囲内であるか否かを判定する。範囲内である場合には、光量、時間差ともに許容範囲内なので発光タイミングの調整を終了する。少なくとも一方が許容範囲外である場合には、ステップS58へ進み、処理を継続する。
【0078】
ステップS58において、CPU11はステップS54で読み出した時間差を減らし、かつパルス光量を目標値に近づけるようにレジスタ31の値を変更する。パルス光量の目標値は、板状部材6a、6bからの光音響波の強度および探触子5の周波数特性などにより予め決められ、CPU11内に保存されているものとする。
【0079】
CPU11は光量P22aが目標値よりも大きいと判断した場合には、パルスレーザ光源2a用発振遅延設定レジスタR5の値を小さくし、励起時間を減らすことによりレーザ媒質に蓄積されるエネルギーを少なくする。一方、光量P22aが目標値よりも小さいと判断した場合には、パルスレーザ光源2a用発振遅延設定レジスタR5の値を大きくし、励起時間を延ばすことによりレーザ媒質に蓄積されるエネルギーを多くする。
【0080】
ここで、光量P22aおよびP22bの目標値との差分をそれぞれ光量誤差とよび、P22a_E、P22b_Eで表す。CPU11は、パルスレーザ光源2a用発振遅延設定レジスタR5の値から「K1×P22a_E」を減算する。また、CPU11は、パルスレーザ光源2b用発振遅延設定レジスタR6の値から「K2×P22b_E」を減算する。K1はパルスレーザ光源2aの光量を高めるための制御量を表す正の定数であり事前に調整され、CPU11に保存されているものとする。K2はパルスレーザ光源2bの光量を高めるための制御量を表す正の定数であり、事前に調整されCPU11に保存されているものとする。
【0081】
例えば、レジスタR5の値が150000[ns]であり、K1×P22a_E=−5000[ns]の場合、レジスタR5の値は155000に変更される。また、レジスタR6の値が152000[ns]であり、K2×P22b_E=10000[ns]の場
合、レジスタR6の値は142000に変更される。
【0082】
P22a_Eの値が正の場合には「K1×P22a_E」の値も正となり、パルスレーザ光源2a用発振遅延設定レジスタR5の値はステップS51のときに設定されていた値よりも小さくなる。即ち、励起時間が短くなることによりレーザ媒質に蓄積されるエネルギーが減少し、パルス光22aの光量が小さくなり、目標値に近づくことが期待される。
一方、P22a_Eの値が負の場合には「K1×P22a_E」の値も負となり、パルスレーザ光源2a用発振遅延設定レジスタR5の値はステップS51のときに設定されていた値よりも大きくなる。即ち、励起時間が長くなることによりレーザ媒質に蓄積されるエネルギーが増加し、パルス光22aの光量が大きくなり、目標値に近づくことが期待される。
P22b_Eとパルスレーザ光源2b用発振遅延設定レジスタR6についても同様である。
【0083】
またCPU11はステップS54で読み出された時間差「T07−T04」の値に「K1×P22a_E−K2×P22b_E」の値を加えた値の絶対値を励起遅延設定レジスタR3に書き込む。
【0084】
例えば、時間差が2200[ns]、K1×P22a_E=−5000[ns]、K2×P22b_E=10000[ns]とすると、励起遅延設定レジスタR3には12800が書き込まれる。また、時間差「T07−T04」の値に「K1×P22a_E−K2×P22b_E」の値を加えた値が0以上の場合には選択設定レジスタR4に1を書き込む。逆にその値が負の場合には選択設定レジスタR4に0を書き込む。例えば、時間差が2200[ns]、K1×P22a_E=−5000[ns]、K2×P22b_E=10000[ns]の場合は、選択設定レジスタR4には0が書き込まれる。
そしてステップS51へ戻り、処理を継続する。
【0085】
続いて、時刻T01から100ミリ秒後の時刻T08に基準パルス信号37が出力される。励起遅延設定レジスタR3の値が12800なので、T08の12.8マイクロ秒後に遅延回路33からのパルス信号が出力される(T24)。選択設定レジスタR4の値が0なので、励起開始信号20aには時刻T08でパルス信号が出力され、励起開始信号20bには時刻T24でパルス信号が出力される。即ち、パルスレーザ光源2bのフラッシュランプの点灯開始をパルスレーザ光源2aのフラッシュランプの点灯開始よりも12.8マイクロ秒遅らせることになる。
【0086】
パルスレーザ光源2a用発振遅延設定レジスタR5の値はステップS58で150000から155000に変更されている。そのため発振開始信号21aと励起開始信号20aの間隔(T21−T08)は155マイクロ秒となり、5マイクロ秒増加する。これにより、パルスレーザ光源2aのレーザ媒質のエネルギー蓄積時間が一回目よりも長くなり、パルス光22aの光量を大きくすることができる。
【0087】
時刻T21において発振開始信号21aにパルス信号が出力されるとパルスレーザ光源2aでQスイッチがONになり、励起エネルギーの急激な増幅と発振が起こる。そして、数100ナノ秒後にパルス光22aが出力される(時刻T22)。光センサ4aでの数ナノ秒の遅延後に電気パルス信号23aが出力される(T23)。
【0088】
一方、パルスレーザ光源2b用発振遅延設定レジスタR6の値はステップS58で152000から142000に変更されている。そのため発振開始信号21bと励起開始信号20bの時間間隔(T25−T24)は142マイクロ秒となり、一回目よりも10マイクロ秒減少する。これにより、パルスレーザ光源2bのレーザ媒質のエネルギー蓄積時
間が短くなり、パルス光22bの光量を小さくすることができる。
【0089】
時刻T25において発振開始信号21bにパルス信号が出力されるとパルスレーザ光源2bでQスイッチがONになり、励起エネルギーの急激な増幅と発振が起こる。そして、数100ナノ秒後にパルス光22bが出力される(時刻T26)。光センサ4bでの数ナノ秒の遅延後に電気パルス信号23bが出力される(T27)。
【0090】
本実施例では、励起開始と発振開始の時間差(「T21−T08」および「T25−T24」)を変更することにより、パルスレーザ光源に蓄えられるエネルギーを増加又は減少し、パルス光量の目標値とのずれを最小化することができる。そして、この変更をもとに複数のパルスレーザ光源の励起開始タイミングをずらすことにより、パルス光のタイミングずれを防ぐことができる。
【0091】
これらのタイミング制御により電気パルス信号23a、23bの発光タイミングのずれおよび、パルス光22a、22bの光量のずれが許容範囲以内になると、発光タイミング調整処理は終了する。そしてステップS6以降の処理により、被検体へのパルス光照射が開始される(T16)。ここではCPU11は制御回路13内のレジスタ値を変更しないため、時刻T08から時刻T16までと同じタイミングでパルスレーザ光源の制御が行われる。電気パルス信号23aまたは電気パルス信号23bに同期して、光音響信号の受信が開始される(T28)。
【0092】
図11(a)および(b)に本実施例における光音響信号波形と診断画像の一例を示す。図11(a)は探触子から出力される光音響信号の一例である。横軸は時刻、縦軸は電圧を表す。また、図11(b)は光音響信号を変換して作成された診断画像である。
【0093】
本実施例ではパルス光22aおよび22bが時刻T28にほぼ同時に被検体1へ照射される。また、ステップS58により、パルス光22bの光量を弱めるように励起開始信号と発振開始信号の間隔を調整している。これにより板状部材6bおよび被検体1の表面から発生する光音響波が弱まり、光音響信号51および52の電圧は小さくなるとともに、短時間に収束するようになる。これにより、対応する診断画像中のアーチファクト55を低減することができる。
【0094】
また、ステップS58により、パルス光22aの光量を強めるよう、励起開始信号と発振開始信号の間隔を調整している。これにより光吸収部位7へ照射されるパルス光22a、22bの光量の合計は変わらず、光音響信号53の電圧は、実施例1の場合とほぼ同等になる。その結果、診断画像中の像56のコントラストを保つことができる。
【0095】
一方、パルス光22aの光量を強めたことにより、板状部材6aおよび被検体1表面から発生する光音響信号54の電圧は実施例1の場合よりも強くなる。しかし、被検体1および板状部材6aの表面から発生した光音響波が伝わる時刻58以降の信号を診断画像の生成に使用しないようにすることにより、光音響信号54の診断画像への影響を防ぐことができる。
【0096】
なお、本実施例において被検体の測定前に発光タイミング調整を行う例を用いて説明したが、実施例2と同様に測定中に発光タイミングの調整を行ってもよい。これにより、測定中のパルスレーザ光源の温度上昇などによるパルス光量やタイミングのずれを低減し、よりアーチファクトの少ない画像を得ることができる。
【0097】
なお、本実施例において励起時間を変化させるための指標として、光センサ4a、4bからの電気パルス信号を積分したものを用いたが、本発明はこの方法に限られるものでは
ない。例えば、板状部材6bからの光音響信号51を信号処理回路14で検出し、その電圧の大きさをCPU11内に保存されている許容値と比較する。そして、光音響信号51の電圧のほうが大きければ、励起時間を減らすように制御してもよい。この方法は、診断画像に直接影響を与える光音響信号を指標とすることにより、確実にアーチファクトの低減を行うことが可能になる。
【0098】
以上のように本発明の第三実施例では一回目の発光時に光量誤差があった場合に、その光誤差を打ち消すように励起開始信号と発振開始信号の間隔を制御している。またこのときに制御した間隔と一回目に計測されたタイミングずれをあわせて打ち消すように励起開始遅延レジスタの値を設定している。
これによりパルスレーザ光源2aおよび2bのフラッシュランプの点灯とQスイッチ開始の間に蓄積されるエネルギーを制御し、各パルス光量を目標値に合わせこむことができる。またフラッシュランプとQスイッチの間隔を考慮して、励起開始のタイミングを変更することにより、複数のパルス光のタイミングを高精度に合わせることができる。これにより、光量ずれによって生じるアーチファクトとタイミングのずれによって生じるアーチファクトの両方を低減し、より品質の高い診断画像を得ることが可能になる。
【符号の説明】
【0099】
1:被検体、2a:パルスレーザ光源、2b:パルスレーザ光源、5:探触子、10:コントローラ、11:CPU、12:時間差計数回路、13:制御回路、14:信号処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光音響効果を利用して被検体内部の情報を取得する生体検査装置であって、
パルス光を発生する複数のレーザ光源と、
前記レーザ光源に対して励起の開始を指示する励起開始信号を出力するとともに、前記励起開始信号から所定の時間の経過後に前記レーザ光源に対して発振の開始を指示する発振開始信号を出力することで、前記レーザ光源からパルス光を発生させる制御手段と、
前記パルス光の照射により被検体内部で発生した音響波を受信する音響波受信手段と、
前記音響波受信手段から出力される信号を用いて被検体内部の情報を生成する信号処理手段と、を備え、
前記複数のレーザ光源は、第1のレーザ光源と、励起の開始からパルス光の発生までにかかる準備時間が前記第1のレーザ光源よりも長い第2のレーザ光源とを含んでおり、
前記制御手段は、前記第1のレーザ光源と前記第2のレーザ光源の間の準備時間の差に応じて、前記第1のレーザ光源に対して励起開始信号を出力するタイミングを前記第2のレーザ光源に対して励起開始信号を出力するタイミングよりも遅らせる
ことを特徴とする生体検査装置。
【請求項2】
前記第1のレーザ光源と前記第2のレーザ光源の間での励起開始信号を出力するタイミングの差は、前記第1のレーザ光源と前記第2のレーザ光源の間のパルス光の発生タイミングの差が予め決められた許容範囲内になるように設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の生体検査装置。
【請求項3】
前記第1のレーザ光源と前記第2のレーザ光源の間のパルス光の発生タイミングの差を検出する検出手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記検出手段で検出されたパルス光の発生タイミングの差が前記許容範囲内になるように、前記第1のレーザ光源と前記第2のレーザ光源の間での励起開始信号を出力するタイミングの差を調整する
ことを特徴とする請求項2に記載の生体検査装置。
【請求項4】
前記信号処理手段は、前記検出手段で検出されたパルス光の発生タイミングの差が前記許容範囲を外れたときに前記音響波受信手段から出力された信号を、被検体内部の情報の生成に利用しない
ことを特徴とする請求項3に記載の生体検査装置。
【請求項5】
前記制御手段が励起開始信号を出力するタイミングの差を調整する間、前記レーザ光源から前記被検体へ照射されるパルス光を遮断する光遮断手段をさらに備える
ことを特徴とする請求項3または4に記載の生体検査装置。
【請求項6】
前記音響波受信手段は移動しながら測定を行うものであり、
前記制御手段は、前記音響波受信手段が測定位置に到達するタイミングとパルス光の発生タイミングとが同期するように、前記レーザ光源に励起開始信号を出力するタイミングを決定する
ことを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の生体検査装置。
【請求項7】
各レーザ光源から発生したパルス光の光量を計測する光量計測手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記光量計測手段で計測された光量を予め決められた目標値に近づけるように、励起開始信号を出力するタイミングと発振開始信号を出力するタイミングの間の時間の長さを変更する
ことを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項に記載の生体検査装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記音響波受信手段から出力された信号の強度を予め決められた許容値よりも小さくするように、励起開始信号を出力するタイミングと発振開始信号を出力するタイミングの間の時間の長さを変更する
ことを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項に記載の生体検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−229660(P2011−229660A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102312(P2010−102312)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】