説明

生体機能改善空気及び生活空間改善方法

【課題】 個人の香りに対する嗜好にかかわらず、ヒトの生体機能を改善する効果を付与することのできる空気、及び生活空間の改善方法を提供する
【解決手段】 1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを空間濃度で0.03〜0.2ppm含有することを特徴とする生体機能改善空気。実質的にDMMBの香りを認識し得ないにもかかわらず、ヒトに対してリラックス効果、及び肌荒れ改善効果といった生体機能改善効果を付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒトの生体機能を改善する空気及びヒトの生活空間の改善方法、特に個人の香りに対する嗜好にかかわらず、生体機能改善効果を付与することのできる空気及び生活空間の改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、香りの持つ機能については高い関心が寄せられており、特にヒトの生体機能を改善する効果に関しては、非常に多くの効果が伝承的に確認されている。例えば、古来より、ラベンダーやカモミルに鎮静効果があることが知られており、これらは香水として用いるほか、ハーブティー等の飲料あるいは入浴剤に配合する等して用いられてきた。近年では、科学技術の発展により、香りの持つ機能についての科学的な解明が広く試みられており、これまでに多くの知見が報告されている。そして、このような香りによる効果の一例として、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンにより、鎮静効果及び肌荒れ改善効果が得られることが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
香りによる生体機能の改善効果については、一般的に空気中に揮散された香り成分が鼻で感知され、例えば、”いい香りである”とか”安らかな香りである”といった感覚情報が脳で認知された後、自律神経系を通じて身体の各部に伝えられ、瞳孔拡大、筋肉の緊張、心拍数の増加、血圧の上昇等の様々な変化を引き起こし、さらには内分泌系(ホルモン)や免疫系にも影響を与えているものと考えられている。しかしながら、このような香りの効果は、個人の香りに対する嗜好(香りをどのように感じるか)が大きく影響してしまうため、人によっては所望の効果を得ることができず、そればかりか全く反対の影響を与えてしまうという問題があった。
【0004】
例えば、前記1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼン(一般にグリーンノート系の香りを有しているといわれている)の場合には、香りによる鎮静効果の付与を企図しているにもかかわらず、個人によってはその香りへの嫌悪感から興奮状態を引き起こしてしまうという問題が生じる場合があった。このような問題に対して、他の香料を添加することによって全体の香調を変えてしまうということも行なわれてはいるものの、添加する香料の種類によっては香りの相性が良好でないものもあり、また、一般には、香りの存在自体を嫌う(無臭を好む)人も多く存在しており、このような個人に対しては香りによる処方をあきらめざるを得ないのが現状であった。
【0005】
【特許文献1】特開平06−172781号公報
【特許文献2】特開2000−159666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、本発明は、前記従来技術の課題に鑑みなされたものであって、その目的は、個人の香りに対する嗜好にかかわらず、ヒトの生体機能を改善する効果を付与することのできる空気、及び生活空間の改善方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、前記従来技術の課題に鑑み鋭意検討を行なった結果、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンにおいては、ヒトが香りを知覚できる最低限の濃度以下であっても、ヒトに対するリラックス効果、さらには肌荒れ改善効果が認められることが明らかとなった。すなわち、空気中の1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの空間濃度を0.03〜0.2ppmとした場合には、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの香りをヒトが知覚し得ないにもかかわらず、これによるヒトの生体機能改善効果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第一の主題は、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを空間濃度で0.03〜0.2ppm含有することを特徴とする生体機能改善空気である。
また、本発明の第二の主題は、ヒトの生活空間に存在する空気を、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを空間濃度で0.03〜0.2ppm含有する空気となるように調整することを特徴とする生活空間改善方法である。
【0009】
本発明の第三の主題は、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを空間濃度で0.03〜0.2ppm含有する空気をヒトに吸引させ、該ヒトにリラックス効果を付与することを特徴とする生体機能改善方法である。
また、本発明の第四の主題は、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを空間濃度で0.03〜0.2ppm含有する空気をヒトに吸引させ、該ヒトに肌荒れ改善効果を付与することを特徴とする生体機能改善方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、個人の香りに対する嗜好にかかわらず、ヒトに対してリラックス効果、及び肌荒れ改善効果を付与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について具体例を挙げることにより、さらに詳細に説明を行なうが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
本発明にかかる生体機能改善空気は、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを空間濃度で0.03〜0.2ppm含有することを特徴とするものである。なお、本発明において、空間濃度(ppm)は気体の容積比の百万分率で示す。
すなわち、本発明にかかる生体機能改善空気をヒトに吸引させることにより、実質的に1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの香りを認識し得ないにもかかわらず、該ヒトに対してリラックス効果、及び肌荒れ改善効果といった生体機能改善効果を付与することができる。ここで、本発明における前記リラックス効果は、ヒトの自律神経系に作用し、副交感神経系が優位な状態に改善することにより、該ヒトをリラックスさせるものである。また、本発明における前記肌荒れ改善効果は、ヒトが本来有している皮膚バリアー機能を回復することにより、該ヒトの肌荒れを改善するものである。そして、本発明において生体機能改善効果とは、具体的には、前記リラックス効果及び肌荒れ改善効果のことをいう。
【0012】
本発明にかかる生体機能改善空気において用いられる1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンは、ハイブリッド・ティ種を代表とする現代バラの花の開花時に多く含有される化合物であり、しっとりした新鮮なグリーンノートを持ち、落ち着いた感じの匂いがする一方で、フェノリックな匂い(薬品臭)も併せ持っていると言われている。また、この化合物は、香料原料として使用されるローザ・ダマセナ種やローザ・センチフォリア種のバラには含まれないが、現代種のバラの香気成分として数%から70%前後含まれていることが知られている。なお、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンは鎮静効果及び肌荒れ改善効果を発揮することが知られている(特開平06−172781号公報,特開2000−159666号公報)ものの、検知閾値(ヒトが香りを検知できる最低限の濃度)以下の濃度でこれらの効果を発揮することは、未だ確認されていない。
1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの構造を下記一般式化1に示す。
【0013】
【化1】

【0014】
におい物質の検知閾値(ヒトが香りを検知できる最低限の濃度)を決定する方法は大きく2つあり、1つはにおい物質を気相中に揮散させた状態で測定する方法、もう1つはにおい物質を液相中に溶解させた状態で測定する方法である。2つの方法で測定した閾値は当然異なり、一般に気相中で測定した検知閾値のほうが格段に低い。
【0015】
本発明者らはまず、上記1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの気相中及び液相中における検知閾値についての試験を行なった。なお、本発明においては、気相中に揮散している場合には三点比較式におい袋法により、また液相中に溶解している場合には三肢強制選択法により、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの検知閾値を求めた。この結果、上記1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの検知閾値は、気相中においては0.2ppm、液相中では0.11質量%であった。すなわち、空気中における1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの空間濃度が0.2ppm以下である場合、あるいは液相に溶解した1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの溶液濃度が0.11質量%以下である場合には、ほとんどのヒトが1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの香りを知覚することができない。
【0016】
以下に上記検知閾値の決定において用いた試験方法及び結果を示す。
(1)気相中の1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの検知閾値
気相中における検知閾値の決定は、悪臭防止法において定められている三点比較式臭袋法に基づいて行なった(社団法人臭気対策研究協会編,「臭気の嗅覚測定法」参照)。すなわち、無臭空気を満たした臭い袋を三袋用意し、そのうちの一つに所定の希釈倍数となるように1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを注入し、6名の被験者に臭いのついた袋を、希釈倍数を上げて順次回答させた。結果を下記表1に示す。なお、最終的に6名の結果のうちで結果の最も高い値と最も低い値をカットし(下記表1の×印)、残り4名の結果の平均値を1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの気相中検知閾値とした。
【0017】
【表1】

【0018】
(2)液相中の1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの検知閾値
液相中における検知閾値の決定は、三肢強制選択法(極限法)に基づいて行なった(Koster E. P., Human psychophysics in olfaction method in olfactory research.(1975)参照)。1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを各種濃度に調整したエタノール溶液5μLをコットンの先端に添付し、1分間放置してエタノール臭を除去した後、被験者6名に臭いのついたコットンを提示し、希釈倍数を上げて順次回答させた。なお、提示するサンプルは、1回の試験につき、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼン−エタノール溶液1品とエタノール2品として、3品を提示する順序はランダマイズし、1品ずつ順に提示して嗅ぎ直しはできないものとした。濃度の薄いサンプルから順に試験を行ない、3回連続して正解した際の最も薄い濃度を液相中検知閾値とした。なお、最終的に6名の結果のうちで、結果の最も高い値と最も低い値をカットし(表2×印)、残り4名の結果の平均値を1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの液相中検知閾値とした。結果を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
本発明にかかる生体機能改善空気においては、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの空間濃度の上限が0.2ppmであり、上記気相中における検知閾値以下であることから、該空気をヒトが吸引したとしても1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの香りを検知することはできないことがわかる。また、該空気中に他の香り成分を検知閾値以上存在させない限りは、実質的に無臭状態とすることができる。本発明にかかる生体機能改善空気においては、他の香り成分を含有していても構わないが、それらの空間濃度についても検知閾値以下に調整して、実質的に無臭状態とすることが好ましい。
【0021】
本発明にかかる生体機能改善空気においては、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの空間濃度は0.03〜0.2ppmである。0.03ppm未満であると、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンによる生体機能改善効果が十分に得られず、一方で0.2ppmを超えると、ヒトが1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの香りを認識するようになるため、個人によっては香りに対する嫌悪感等を生じ、生体機能改善効果に対して悪影響を及ぼす場合がある。また、本発明にかかる生体機能改善空気において、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼン以外の成分は、特に限定されるものではなく、通常の場合、そのほとんどが一般的な空気成分、例えば窒素、酸素、アルゴン、水、二酸化炭素等である。
【0022】
また、ヒトの生活空間に存在する空気を、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを空間濃度で0.03〜0.2ppm含有する空気となるように調整することにより、該生活空間内で生活するヒトに対して上記生体機能改善効果を付与することができる。そして、このような生活空間の改善方法もまた、本発明の範疇である。なお、本発明において、ヒトの生活空間とは、特に限定されるものではないが、例えば、リビング、寝室、台所、トイレ、浴室等の家屋内の空間あるいは自動車内の空間等の個人的な生活空間、さらにはオフィス、商店、ホテル、病院、図書館、駅構内、電車内、飛行機内等の公共の生活空間が挙げられる。
【0023】
生活空間内の空気を調整する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法によって1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを空間中に揮発あるいは撒布させることにより、所定の空間濃度を保持するように調整すればよい。また、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの揮発・撒布量については、当該生活空間の広さあるいは経過時間に応じて適宜調整すればよい。1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを空間中に揮発、撒布させる方法としては、例えば、自然状態(常温,常圧)による揮発、あるいは加熱や送風、超音波照射処理等による揮発、さらには噴霧による撒布等がある。なお、香料を揮発、撒布させるための装置として種々のものが当業者において公知であり、例えば、特開平7−148237号、特開平7−275336号、特開平9−84865号、特開平9−327506号に記載されている発香装置を用いて、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを空間濃度で0.03〜0.2ppm含有する空気となるように調整することができる。
【0024】
本発明の一実施例において用いられる発香装置(特開平7−275336号)の概略図を図3に示す。発香装置10は、発香ユニット19と制御ユニット21と送風ユニット20により構成されている。発香ユニット19は、スプリング等の力を利用して開閉蓋15を蓋外枠16に上方から押圧することにより、芳香溶液あるいは芳香ゲルを充填した芳香剤容器17は密閉状態を確保している。そして、開閉蓋15を開放することにより、芳香剤容器17内の香気をハウジング1内の上部空間に供給する。また、送風ユニット20は、発香ユニット19にて霧化及び気化した香気をハウジング1の外部に向けて放出するユニットであり、さらに制御ユニット21は、発香ユニット19及び送付ユニット20の動作を制御するものである。
【0025】
ここで、上記送風ユニット20の送風量は制御ユニット21により制御され、発香ユニット19にて霧化及び気化した香気を制御ユニット21で設定される送風量により装置外部に送り出すことができる。また、上記開閉蓋15の開閉も制御ユニット21により制御され、発香ユニット19にて霧化及び気化した香気は開閉蓋15が開いた状態の場合にのみハウジング1内の上部空間に供給される。このため、制御ユニット21により開閉蓋15の開閉を制御することにより、送風ユニット20により装置外部に送り出される香気の量を制御することもできる。
【0026】
本発明の一実施例においては、例えば、上記芳香剤容器17内に1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを適当量含む溶液あるいはゲルを充填した上記発香装置10をヒトの生活空間内に設置して、上記制御ユニット21により開閉蓋15及び送風ユニット20を制御することによって、該生活空間中の1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの空間濃度を0.03〜0.2ppmとなるように調節することができる。より具体的には、制御ユニット21において、予め芳香剤容器17内に充填する1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの濃度及び生活空間の広さに応じて、開閉蓋15を開く時間間隔及び/又は送風ユニット20における送風量を設定しておくことにより、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの空間濃度が所定の値となるように調整することができる。あるいは、当該生活空間内に1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの空間濃度を検知することのできるセンサを設置し、これにより得られた空間濃度データを制御ユニット21にフィードバックすることにより、常に1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの空間濃度が所定の値となるように調整することができる。
【0027】
また、本発明にかかる生活空間改善方法おいては、従来公知の空気調和機、換気装置、加湿機、空気清浄機あるいは車内用の空気調和機を用い、香料を揮発・撒布させる手段を組み合わせるかあるいは内蔵することによって、空間中の1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンの空間濃度を所定の値となるように調整してもよい。また、香料を揮発・撒布させる手段及び/又は香気の発生量をする調整手段を兼ね備えた空気調和機等も従来公知であり、このような空気調和機を本発明に用いることもできる。
【実施例1】
【0028】
以下、本発明の実施例を示して、本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンをDMMBと略す。
【0029】
DMMB濃度とリラックス効果との関係
本発明者らは最初に、DMMB濃度とリラックス効果との関係について検討を行なった。リラックス効果を評価する方法としては、心理質問紙法や脳波測定法、唾液中生理活性物質測定法など様々な方法が知られている。ここでは、副交感神経活性を指標に測定した例をあげる。すなわち、自律神経系は交感神経系と副交感神経系の2系統に大別され、一般的に交感神経が優位の場合には緊張状態にあり、副交感神経が優位の場合にはリラックス状態にあると言われており、リラックス作用を生理的に評価する方法として、副交感神経系の活性度を指標とする評価法が広く用いられている。そこで本発明者らは、下記に示す試験方法により、検知閾値以下のDMMB溶液を提示した際の副交感神経活性の測定を行ない、DMMBを提示しない場合と比較することによって、香りを知覚しないDMMB濃度におけるリラックス効果を検討した。結果を図1に示す。
【0030】
・試験方法
副交感神経活性の測定は、心拍測定結果を解析することにより行なった。副交感神経活性は心拍間隔を周波数解析することにより算出することができ、例えば心電R波間隔の変動の高周波成分(HF成分)が副交感神経活性を示すことが知られている。被験者を消灯した恒温室内に毎試験午後1時に入室させ、上半身を25度の角度に起こしたベッドに足を水平にして横にさせて測定装置を装着し20分間安静にした後、連続的に心電心拍測定装置(COLIN BP−508、日本コーリン社製)を用い心電心拍の測定を行なった。得られた心電心拍測定値をもとに、R波間隔の変動を自律神経系活性解析システム(フラクレット、大日本製薬株式会社製)を用いて周波数解析を行ない、副交感神経活性値を算出した。DMMBはエタノールに溶解したものをコットンにしみ込ませ、鼻下に貼付して、被験者に提示した。DMMB濃度は、前述の方法により決定した液相中での検知閾値を元に、被験者の吸気中において検知閾値以下となるように0.05質量%のDMMB−エタノール溶液を用いた。この溶液5μLを染み込ませたコットンを被験者の鼻下に添付し、5分間自然の呼吸とともに吸引させた後で心電心拍の測定を開始した。また、比較としてコットンのみ(ブランク)及び2質量%のDMMMB溶液(検知閾値以上)を用いて同様の測定を行なった。DMMB溶液提示時の副交感神経活性値をブランクの値と比較することによりリラックス効果を評価した。
【0031】
図1の結果より、被験者の吸気中においてDMMB検知閾値以下となる0.05質量%のDMMB溶液を提示した条件においては、ブランクと比較して副交感神経活性が活性化されていることから、被験者がよりリラックスした状態にあることが確認された。また、この結果はDMMBの香りを知覚することのできる濃度領域である2.0%質量%のDMMB溶液を提示した場合とほぼ同様であり、すなわち、DMMBの香りを知覚し得ない程度の低い濃度のDMMBであっても、優れたリラックス効果が得られることが明らかとなった。
【0032】
DMMB濃度と肌荒れ改善効果との関係
つづいて、本発明者らはDMMB濃度と肌荒れ改善効果との関係について検討を行なった。肌荒れ改善作用の生理的評価方法としては、表皮の各種生理指標の測定や肌表面のキメ解析あるいは経皮水分蒸散量を指標とする評価法などが知られているおり、いずれの方法で測定してもよいが、ここでは経皮水分蒸散量を指標に測定した例を示す。すなわち、本発明者らは、下記に示す試験方法により、検知閾値以下のDMMB溶液を提示した場合の経皮水分蒸散量の測定を行ない、DMMBを提示しない場合と比較することによって、香りを検知しないDMMB濃度における肌荒れ改善効果について検討した。結果を図2に示す。
【0033】
・試験方法
皮膚バリアー機能回復効果試験は伝田らの方法を参照して行なった(M. Denda, et.al., British Journal of Dermatology 2000:142: 1007-1010参照)。被験者を恒湿室に入室後1時間安静にして内腕部を室内環境に馴化させた後、STAI心理質問紙によりストレス状態を測定した。その後、0.05質量%(検知閾値以下)又は0.5質量%(検知閾値以上)のDMMB−エタノール溶液5μLを染み込ませたコットン、あるいはコットンのみ(ブランク)を被験者の鼻下に添付し、内腕部2cm×2cmにテープストリッピング法によって実験的肌荒れをおこし、引き続きストループカラーワードテストによるストレス負荷を実施した。ストループカラーワードテストを1時間実施した後、再度STAI心理質問紙によるストレス状態を評価し、水分蒸散量測定装置(ミーコメーター、ミーコ社製)により、1.5時間後及び3時間後の経皮水分蒸散量を測定した。測定結果から下記式に従って皮膚バリアー機能回復率を算出して、皮膚バリアー機能回復効果を評価した。
皮膚バリアー機能回復率(%)=(B−C)/(B−A)×100
A:皮膚バリアー機能低下処理(テープストリッピング)直前の経皮水分蒸散量
B:皮膚バリアー機能低下処理(テープストリッピング)直後の経皮水分蒸散量
C:皮膚バリアー機能低下処理(テープストリッピング)から一定時間経過後の経皮水分蒸散量
【0034】
図2より、DMMB検知閾値以下である0.05質量%のDMMB溶液を提示した条件においては、ブランクと比較して皮膚バリアー機能回復率が著しく改善されており、DMMB検知閾値以上である0.5質量%DMMB溶液を提示した場合と比較しても遜色ないものであった。このことから、DMMBの香りを検知し得ない低い濃度のDMMBであるにもかかわらず、優れた皮膚バリアー機能回復効果が得られることが明らかとなった。
【0035】
以上の結果より、空間中に存在するDMMBの量を検知閾値以下とした場合、実質的にDMMBの香りを検知し得ないにもかかわらず、ヒトに対してリラックス効果、及び肌荒れ改善効果といった生体機能改善効果を付与することができることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】0.05質量%(検知閾値以下)、及び2質量%(検知閾値以上)のDMMB溶液を提示した際の副交感神経活性値を、ブランクとの相対値として示したものである。
【図2】0.05質量%(検知閾値以下)、及び0.5質量%(検知閾値以上)のDMMB溶液を提示した際の皮膚バリアー機能回復率(%)を示したものである。
【図3】本発明の一実施例において用いられる発香装置の全体図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ハウジング
10 発香装置
15 開閉蓋
16 蓋外枠
17 芳香剤容器
18 制御部
19 発香ユニット
20 送風ユニット
21 制御ユニット
22 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを空間濃度で0.03〜0.2ppm含有することを特徴とする生体機能改善空気。
【請求項2】
ヒトの生活空間に存在する空気を、1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを空間濃度で0.03〜0.2ppm含有する空気となるように調整することを特徴とする生活空間改善方法。
【請求項3】
1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを空間濃度で0.03〜0.2ppm含有する空気をヒトに吸引させ、該ヒトにリラックス効果を付与することを特徴とする生体機能改善方法。
【請求項4】
1,3−ジメトキシ−5−メチルベンゼンを空間濃度で0.03〜0.2ppm含有する空気をヒトに吸引させ、該ヒトに肌荒れ改善効果を付与することを特徴とする生体機能改善方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−246943(P2006−246943A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−63970(P2005−63970)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】