説明

生体液浸透圧センサ

【課題】脱水症、中枢性尿崩症、糖尿病による急激な身体の異常が生じた場合、その原因を迅速に特定し適切な処置を施せるようにするために、血液や尿などの体液の浸透圧を簡便に測定できる手段を提供すること。
【解決手段】医療現場において、容態の急変した患者の体液の浸透圧を迅速に測定するためには、低侵襲な方法で体液サンプルを採取し、現場で即座に測定できることが望ましい。これは、現在広く普及している血糖値センサと同様に毛細管現象を使って吸引した少量のサンプルに対し、その浸透圧を測定するセンサを提供することによって実現できる。本発明では、2つの電極をサンプルの体液に接触させた後、電極間に交流電圧を加え、そのときの電流から導電率を得、さらにその導電率から浸透圧を推定する方式のセンサを提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液等の生体液の性質を電極を用いて推定する方式のセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
血液の浸透圧を測定するには、従来から凝固点降下法を利用したオズモメータというものがある。これは、血漿あるいは血清をサンプルとし、その凝固点から浸透圧を推定するという装置である。比較的少量(数百μL程度)のサンプルで測定ができるが、これでも注射筒による採血が必要である。また、装置のサイズは卓上型でかなり小さくはなっているが、持ち歩けるほど小さくはない。
【特許文献1】特開2002−34946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
血漿浸透圧は様々な場面で身体に危険が迫ったことを知らせる有用な情報を与える。例えば、脱水症の場合は血漿が高浸透圧になるが、放置すると重篤な状況に至る危険なものである。また、中枢性尿崩症では血中ナトリウム濃度が増加して高浸透圧になる。中枢性尿崩症の場合、通常は口渇感のために大量の水を摂取するので、血漿浸透圧が異常に高くなることは押さえられるが、なんらかの原因で自発的に水分摂取ができないときは、重大な結果をもたらす可能性がある。適切な診断を下すためには血漿浸透圧の測定が有用である。特に、尿崩症の場合は、血漿浸透圧と同時に尿浸透圧を測定するとより有用であると考えられる。また、糖尿病による高血糖でも浸透圧は高くなる。糖尿病患者が高血糖性昏睡になる場合、特に高浸透圧性非ケトン性昏睡の場合は、血糖値が高いために浸透圧が高くなり、そのために利尿が亢進して体液の喪失を招く場合がある。ここで血漿浸透圧を即座に測定できれば、輸液の量などを決めるのに有効である。
【0004】
本発明は、上記の様な様々な応用目的のために、血漿浸透圧や尿浸透圧を1滴のサンプル液から測定できる様なセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、生体液の浸透圧を、その生体液の導電率から推定することを最も主要な特徴とする。具体的に説明すると、一般に生体液にはナトリウム、カリウム、クロライド、リン酸、炭酸等の無機イオンが含まれており、基本的には電解質である。生体液中の無機イオンの(モル)濃度は、生体液を採取するタイミングによって変化する。例えば、血液中の無機イオンの濃度は、入浴や就寝の前後では変化する。また、尿の場合も水分の摂取量によって両者の無機イオンの濃度は変化する。しかし、各種無機イオン間の相対的な組成比はよほどの異常な状態にならない限り大きく変わるものではない。また、電荷を輸送する担体としての各種無機イオンの能力にはそれぞれ電気化学定数としての値(イオン移動度)がある。それゆえ、生体液の導電率を測定すれば、無機イオン濃度が定まる。一方、生体液の浸透圧は、そこに含まれる分子のモル濃度の総和と直線的な関係にある。一般に生体液中には、無機イオンの他、グルコースや尿素などの中性低分子、蛋白質などが含まれる。しかし、特殊な病態でない限りは中性低分子の濃度は無機イオンと比べて無視しうる。また、血液などでは蛋白質の重量比が比較的大きいが、蛋白質は分子量が大きいので、モル濃度で言えば無機イオンに比べてはるかに小さくなる。そのため、生体液の導電率から無機イオンの濃度が定まり、さらにはその浸透圧を推定することが可能である。なお、浸透圧を知る目的のもとでは、個々の無機イオンの濃度を知る必要はなく、個々の生体液について、あらかじめ導電率と浸透圧との関係を調べて検量線を作成しておけば、以後は導電率を調べることによって浸透圧を推定することができる。
【0006】
生体液の導電率を測定するためには、2本の電極を液中に挿入し、電極間に電圧を加えて、そのときに流れる電流を測定する。ここで、電極間に加える電圧を交流にすることによって、再現性のある安定した電流応答を得ることができる。このときの周波数は少なくとも1KHz以上であることが望ましい。電圧の振幅をできるだけ押さえることが望ましく、ピーク間電圧で50mV程度に押さえられれば理想的である。電極間の抵抗は、両電極における電極と溶液間の界面の抵抗、および電極間溶液の抵抗の和である。ここで、電極と溶液間の界面の導電性(抵抗の逆)は、周波数が低いと電極表面で生じる酸化還元反応の寄与が大きいが、周波数が高くなると界面で形成される電気二重層の形成による寄与(コンデンサーと同じ原理)が大きくなる。しかし、電極界面の酸化還元反応は、酸化膜の形成などにより影響を受けるのと、その反応自体の進行によって酸化膜の形成が行われること、さらには電極表面の汚れなどによって大いに影響を受ける。そのため、直流測定では再現性の保証ができないばかりでなく、測定中に測定値のドリフトが起きても不思議ではない。なお、交流でも酸化還元反応が起きるが、その寄与は相対的に小さいことと、酸化と還元が繰り返し行われるために、全体としての反応が進みにくくドリフトの原因となりにくい。
【発明の効果】
【0007】
以上のように本発明によれば、吸引サンプル量が微量であっても問題なく測定することが可能となる。
【実施例1】
【0008】
図1および図2に本発明に係る浸透圧センサの構造の一例を示す。このセンサを模擬生体液(125mM NaCl溶液)に浸漬し、周波数と導電率との関係を調べた結果を図3に示す。測定時の溶液温度は37℃に固定した。図3では、同一のセンサを用いて周波数を変えながら応答を何回も測定している。結果として、低い周波数では測定する度に応答が変化した。一方で、周波数が高くなると、測定毎の変動は小さかった。図3では、これを表現するために、n回目の測定値を第1回目の測定値で割った相対値を縦軸とした。この図3の結果は、高い周波数で測定すると、再現性のある測定値が得られることを示している。
【0009】
また、ヒトコントロール血清のオズモメータ(OSMOTRON-5、オリオン理研)により測定した浸透圧と、浸透圧センサをヒトコントロール血清に浸漬して得られた導電率とを比較した結果を図4に示す。ヒトコントロール血清(和光純薬)は凍結乾燥された粉末として入手でき、指定された量の水分を添加することにより血清に戻すことができる。実験では添加する水量を変えることで、様々な浸透圧の血清を用意した。測定条件は5KHz、37℃とした。図4の結果は、血清の浸透圧と本センサの測定値とがほぼ比例することを示している。
【0010】
さらに、図5の様に側壁とカバーを設けた構造の浸透圧センサを作製し、これに希釈度を調整したヒトコントロール血清を吸引させ(吸引液の体積は15μL)、導電率を測定した結果を図6に示す。ただし、測定温度はコントロールするのが難しいので室温で行った。このときの室温は約25℃であった。センサは同一の物を用いたが、測定毎に洗浄、乾燥して繰り返し用いた。図6の結果は、血清の希釈度と導電率との間に良好な直線関係が得られているが、これは吸引サンプル量が微量であっても問題なく測定できることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例に係る浸透圧センサを側面方向から見た場合の説明図。
【図2】実施例に係る浸透圧センサを正面方向から見た場合の説明図。
【図3】浸透圧センサの電極に加える電圧の周波数と、そのとき得られる導電率との関係。連続して6回の測定を行い、その結果が表示されている。
【図4】ヒトコントロール血清のオズモメータによる浸透圧の測定値と、浸透圧センサによる導電率の測定結果との関係。
【図5】微量のサンプルで作動する浸透圧センサの構造の模式図。
【図6】ヒトコントロール血清の濃度と、図5の浸透圧センサを用いて測定した導電率との関係。
【符号の説明】
【0012】
1 ガラス基板
2 チタン
3 白金
4 ガラス基板
5 白金電極(実験に用いた電極)
6 白金電極(実験には用いていないダミー電極)
7 端子
8 電極基板
9 側壁
10 上板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体液の浸透圧を、その生体液の導電率から推定する方式の浸透圧センサ。
【請求項2】
生体液に2本の電極を接触させ、電極間に交流電圧を加えたときに流れる電流から生体液の導電率を得る方式の、請求項1の浸透圧センサ。
【請求項3】
測定の際に毛細管現象によってサンプルの生体液を吸引することで電極にこの生体液を接触させることができる様に、微小な体積を有する管の中に二つの電極を形成した構造を有する請求項2の浸透圧センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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