生体物質分析方法並びにそれに用いられる生体物質分析セル、チップおよび装置
【課題】生体物質分析において、センサ部における被検物質の検出を迅速かつ高効率にし、分析の迅速化および高感度化を可能とする。
【解決手段】被検物質Aを検出する生体物質分析において、試料供給空間12aを有する反応槽12と、反応槽12の内壁の所定領域に設けられた音響整合層14と、反応槽12内に設けられたセンサ部15とを備えた生体物質分析セル10を用いて、音響整合層14および試料供給空間12aの界面14aと、音響整合層14に対向する反応槽12の内壁との間で、定在波Uを生じせしめるように超音波を照射し、定在波Uの捕捉力によって被検物質Aを濃縮せしめ、この濃縮せしめた被検物質Aをセンサ部15で検出する。
【解決手段】被検物質Aを検出する生体物質分析において、試料供給空間12aを有する反応槽12と、反応槽12の内壁の所定領域に設けられた音響整合層14と、反応槽12内に設けられたセンサ部15とを備えた生体物質分析セル10を用いて、音響整合層14および試料供給空間12aの界面14aと、音響整合層14に対向する反応槽12の内壁との間で、定在波Uを生じせしめるように超音波を照射し、定在波Uの捕捉力によって被検物質Aを濃縮せしめ、この濃縮せしめた被検物質Aをセンサ部15で検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中にある被検物質を反応槽に設けられたセンサ部で検出する生体物質分析方法並びに生体物質分析セル、チップおよび装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、臨床検査、食品検査、環境検査など幅広い分野において、糖、タンパク質、核酸などの生体物質の分析、定量が日常的に行われている。一般的な生体物質の分析、定量方法としては、対象とする生体物質の種類によって多種、多様のものがあるが、これらの方法には、生体物質と親和性のある物質との反応を利用したものがある。例えば、抗原抗体反応を利用した特定物質の定量方法は、イムノアッセイとして、感度の高い、信頼性のある方法として確立しており、臨床検査など幅広い分野において、汎用されている。しかしながら、市販の試薬キットを用いても、その繁雑な反応は各々時間がかかり、試料が多いときには迅速な検査は困難であった。これは、特定の温度における運動エネルギーが、互いの分子を衝突させる頻度で反応速度を律速するためである。
【0003】
抗原抗体反応などにおいて特に一方が固定化されている場合、分子衝突頻度は極端に低下し、反応速度もそれに応じて低下する。これを改善すべく、反応時に超音波を作用させ、反応速度を高める方法は、例えば特許文献1から3に示されているように従来報告されている。この場合、超音波は、固定化されていない抗原または抗体に作用し、固定化された抗体または抗原への衝突頻度を上昇させて結合反応を促進させるものと考えられる。
【0004】
特許文献1および2は、超音波の振動で分子の振動を起こして、周囲の物質との衝突率を上げて反応速度を上げるという発明である。さらに、特許文献2では、周波数を変調することで振動状態を乱して、より広範囲に並進移動させることを特徴としている。特許文献3は、微小電圧を短時間(数十秒あるいは15秒間)印加することで、免疫物質の電気分解を起こさずに抗原抗体反応を促進できるという発明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−54315号公報
【特許文献2】特開平10−267927号公報
【特許文献3】特開平9−101307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に示されている方法では、免疫物質自体の濃度が低い場合に、振動させても周囲にある他方の免疫物質量が少ないため、結局反応速度が向上しにくいという問題がある。また、このような低濃度の場合には、センサ部で検出できる免疫物質の量がその物質の拡散速度に依存しているため、検出感度の大幅な向上は望めないと考えられる。また、特許文献3に示されている方法では、免疫診断の対象となる生体物質(血液、尿、唾液など)には一般的に塩が含まれており、物質自体の電気応答性が高いため、そもそも電場を使った免疫反応促進はこれらの物質に悪影響を及ぼす可能性があるため好ましくない。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、被検物質を反応槽に設けられたセンサ部で検出する生体物質分析において、センサ部における被検物質の反応を迅速かつ高効率にし、被検物質の迅速かつ感度の高い分析測定を可能とする生体物質分析方法並びにそれに用いられる生体物質分析セル、チップおよび装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る生体物質分析方法は、
試料供給空間を有する反応槽と、反応槽の内壁であって他の内壁と対向するものの所定領域に設けられた音響整合層と、反応槽内に設けられたセンサ部とを備えた生体物質分析セルを用いて、
被検物質を含有する液体試料を試料供給空間に供給し、
音響整合層および試料供給空間の界面と、音響整合層に対向する反応槽の内壁との間で、節が上記界面に位置するような定在波を生じせしめるように超音波を照射し、
上記節の方向に働く捕捉力によって、被検物質を上記界面に濃縮せしめ、
濃縮せしめた被検物質を、センサ部に固定された、被検物質と特異的に結合する固定化結合物質で検出することを特徴とするものである。
【0009】
本明細書において、「試料供給空間」とは、反応槽により形成される空間であって、液体試料を貯留したり、液体試料とセンサ部とを接触させたりするための空間を意味し、流路のようなものも含むものとする。
【0010】
「音響整合層」とは、反応槽に供給された液体試料の音響インピーダンスと同等の音響インピーダンスを有する材料からなる層を意味する。
【0011】
「節が音響整合層と試料供給空間との界面に位置する」とは、定在波のある節が当該界面に含まれるもしくは当該界面の近傍にあること、より具体的には、定在波のある節が、当該界面から音響整合層側にλm/4未満の距離および試料供給空間側にd/2以内の距離の範囲に属することを意味する。なお、λmとは音響整合層内における超音波の波長、dとは使用する標識の粒径を表す。
【0012】
本明細書において、標識の「粒径」とは、標識である粒子に外接する最小の球の直径の最頻球径とする。最頻球径は、シスメックス株式会社製ゼータサイザー(品番:Nano-ZS)を使い動的光散乱法に基づいて、試料温度25℃にて粒径測定を行うことにより求めた。測定条件として設定するパラメータは、粒子の屈折率と溶媒の屈折率である。例えば、血漿中でポリスチレン粒子を分散させた場合、ポリスチレンの屈折率1.59、血漿の屈折率1.347を用いた。溶媒の屈折率は、デジタル屈折計(株式会社アタゴ製、RX-5000α)を用いて測定した。粒径測定は、粒子が分散状態でなければならないので、測定する実際の試料液中に粒子を分散させて測定することが望ましい。なぜなら、粒子は実際の試料液中で分散状態を保つように設計するためである。実際の試料液とは異なる溶媒中ではpHや塩濃度などの違いにより粒子が凝集して正確な粒径を測定することができなくなる。これは当業者ならば容易に想起することである。
【0013】
「節方向に働く捕捉力」とは、定在波の音響放射圧ポテンシャルに基づき、直近の節近傍に物質を集めるように定在波中の物質に働く力である。
【0014】
「固定化結合物質」とは、特異的に結合する対の物質のうちの一方であって、セル(担体)に固定されたものを意味するものとする。なお、「特異的に結合する対の物質」とは、抗原および抗体、もしくはタンパク質および補因子等のように、一方の物質と他方の物質とが特異的に認識し合って結合する関係にある対の物質を意味する。
【0015】
さらに、本発明に係る生体物質分析セルは、
被検物質を含有する液体試料が供給される試料供給空間を形成する反応槽を備えた生体物質分析セルにおいて、
反応槽の内壁であって他の内壁と対向するものの所定領域に設けられた、超音波を透過せしめる音響整合層と、
音響整合層の試料供給空間側の表面上に設けられたセンサ部であって、被検物質と特異的に結合する固定化結合物質が表面に固定されたセンサ部とを備えたことを特徴するものである。
【0016】
本発明に係る生体物質分析セルにおいて、音響整合層に対向する反応槽の内壁面上に音響整合層に対向するように、または音響整合層の試料供給空間側とは反対側の面と接するように、反射層を備えることが好ましい。
【0017】
センサ部は、誘電体層および/または金属層を有するものであることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明に係る生体物質分析チップは、
被検物質を含有する液体試料が流下される流路と、流路に接続された、流路に液体試料を流入するための流入口と、流路に接続された、流路に流入された液体試料を流すための空気口とを形成する流路部材を備えた生体物質分析チップにおいて、
流入口と空気口との間の流路部材の内壁面の所定領域に設けられた、超音波を透過せしめる音響整合層と、
音響整合層の流路側の表面上および/またはこの表面から流路長さ方向にずれた位置にある内壁面上に設けられたセンサ部であって、被検物質と特異的に結合する固定化結合物質が表面に固定されたセンサ部とを備えたことを特徴するものである。
【0019】
本明細書において、センサ部が「音響整合層の内壁面上および/または音響整合層の内壁面から流路長さ方向にずれた位置にある内壁面上に設けられた」とは、センサ部が、音響整合層の真上にある場合、音響整合層よりも下流側で流路長さ方向にずれた位置にある内壁上にある場合、および上記音響整合層の真上と上記ずれた位置にある内壁上とにまたがるようにある場合を含むものとする。なお、「流路長さ方向」とは流路に沿った長さ方向を意味し、「音響整合層よりも下流側で流路長さ方向にずれた位置」とは、液体試料中のある分子が、音響整合層の近傍を通過した後、液体試料の流れに沿って通過しうる内壁の位置を言うものとする。
【0020】
本発明に係る生体物質分析チップにおいて、音響整合層に対向する流路部材の内壁面上に音響整合層に対向するように、または音響整合層の流路側とは反対側の面と接するように、反射層を備えることが好ましい。
【0021】
センサ部は、誘電体層および/または金属層を有するものであることが好ましい。
【0022】
さらに、生体物質分析チップは、音響整合層よりも上流側の流路部材の内壁面上に配置された標識結合物質を備え、
この標識結合物質は、被検物質と特異的に結合する第1の修飾化結合物質、および被検物質と競合して固定化結合物質と特異的に結合する第2の修飾化結合物質のうちいずれか一方の修飾化結合物質と、この一方の修飾化結合物質が修飾された標識粒子とからなるものであることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明に係る生体物質分析装置は、
上記に記載の生体物質分析セルもしくは生体物質分析チップと、
音響整合層と試料供給空間もしくは流路との界面に対して、この界面の法線方向から超音波を照射する超音波照射手段と、
この超音波によって上記界面上に定在波が生じると共に、定在波の節が上記界面に位置するように、超音波照射手段を制御する超音波制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る生体物質分析方法は、反応槽に形成される定在波の節が音響整合層と試料供給空間との界面に位置するように超音波を照射しかつ制御しているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部に反応させることが可能となる。この結果、液体試料中にある被検物質を反応槽に設けられたセンサ部で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析測定が可能となる。
【0025】
本発明に係る生体物質分析セル、チップおよび装置は、反応槽に形成される定在波の節が音響整合層と反応槽との界面に位置することができるように、試料供給空間もしくは流路の内壁面の所定領域に超音波を透過せしめる音響整合層を備えているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部に反応させることが可能となる。この結果、液体試料中にある被検物質を反応槽もしくは流路部材に設けられたセンサ部で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1の実施形態の生体物質分析装置を示す概略断面図である。
【図2A】本発明の生体物質分析セルにおける音響整合層の設置の一実施形態を示す概略端面図である。
【図2B】本発明の生体物質分析セルにおける音響整合層の設置の他の実施形態を示す概略端面図である。
【図2C】本発明の生体物質分析セルにおける金属層の設置の一実施形態を示す概略端面図である。
【図3A】本発明の生体物質分析セルにおける音響整合層、反射層および試料供給空間の一実施形態の位置関係を示す概略端面図である。
【図3B】本発明の生体物質分析セルにおける音響整合層、反射層および試料供給空間の他の実施形態の位置関係を示す概略端面図である。
【図3C】音響整合層と試料供給空間との界面および定在波の節の位置関係を示す概略部分端面図である。
【図4A】定在波の節の位置が、音響整合層と試料供給空間との界面から音響整合層の内部側にずれた様子を示す概略部分端面図である。
【図4B】定在波の節の位置が、音響整合層と試料供給空間との界面から試料供給空間側にずれた様子を示す概略部分端面図である。
【図5】定在波と定在波の振幅および音響放射圧ポテンシャルとの関係を示すグラフ図である。
【図6】本発明の生体物質分析セルにおける音響整合層の設置の他の実施形態を示す概略端面図である。
【図7A】第2の実施形態の生体物質分析装置を示す概略上面図である。
【図7B】第2の実施形態の生体物質分析装置を示す概略断面図である。
【図8】第2の実施形態の生体物質分析チップを用いた生体物質分析方法の工程を示す概略図である。
【図9】第3の実施形態の生体物質分析チップを用いた生体物質分析方法の工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0028】
「生体物質分析方法および装置の第1の実施形態」
まず、生体物質分析方法および装置の第1の実施形態について説明する。なお、本実施形態においては、特異的に結合する対の物質の具体例として抗原および抗体を用いて、被検物質を抗原、この被検物質と特異的に結合する結合物質を抗体として、蛍光標識を用いたサンドイッチ法によって分析する場合について説明する。
【0029】
本実施形態の生体物質分析方法は、図1に示す生体物質分析装置30、すなわち、試料供給空間12aを有する反応槽12と、反応槽12の内壁であって他の内壁と対向するものの所定領域に設けられた音響整合層14と、音響整合層14に対向する反応槽12の内壁面上に音響整合層14に対向するように設けられた反射層16と、音響整合層14の試料供給空間12a側の表面上に設けられたセンサ部15とを備えた生体物質分析セル10を含む装置を用いて、蛍光標識された抗原Aを含有する液体試料Sを試料供給空間12aに供給し、音響整合層14および試料供給空間12aの界面(整合界面14a)と、音響整合層14に対向する反応槽12の内壁との間で、節が整合界面14aに位置するような定在波Uを生じせしめるように、超音波を照射し、上記節の方向に働く捕捉力によって、抗原Aを整合界面14aに濃縮せしめ、濃縮せしめた抗原Aをセンサ部15に固定された固定化抗体B1でセンサ部15に固定し、この固定された抗原Aを標識した蛍光標識からの蛍光信号を検出して、抗原Aの存在の有無および/または量を分析することを特徴とするものである。
【0030】
抗原Aを蛍光標識する方法は、特に制限されず蛍光色素、量子ドット等を用いることができる。抗原Aの標識としては、抗原A(被検物質)と特異的に結合する第1の修飾化抗体(修飾化結合物質)、および抗原A(被検物質)と競合して固定化抗体(固定化結合物質)と特異的に結合する第2の修飾化抗体(修飾化結合物質)のうちいずれか一方の修飾化抗体(修飾化結合物質)と、この一方の修飾化抗体(修飾化結合物質)が修飾された標識粒子とからなる標識抗体BF(標識結合物質)であることが好ましい。標識粒子(例えばポリスチレン粒子)の内部には複数の蛍光色素、量子ドット等を包含させることができ、感度よく分析を行うことができる。超音波で濃縮する際の標識粒子の大きさは、定在波の捕捉力が物質の体積に比例することや拡散速度の観点から、0.05μm〜10mm程度が好ましく、0.1μm〜1mmがさらに好ましい。したがって、扱う免疫物質がこれより小さい場合や反応速度をさらに上げるためには、このようなサイズの標識粒子に免疫物質の一方を修飾して免疫測定を行う必要がある。サンドイッチ法を用いる本実施形態においては、標識抗体BFは、第1の修飾化抗体B2と、この修飾化抗体に表面を修飾されかつ複数の蛍光色素を包含する蛍光粒子Fとからなる。また、抗原Aを標識するタイミングは、特に制限されず、試料供給空間12aに供給する前に抗原Aと標識とを反応させてもよいし、供給した後に試料供給空間12a内で反応させてもよい。
【0031】
蛍光信号の検出は、図1に示すように、光源19を用いて励起光Leをセンサ部15に照射して標識抗体BFから蛍光を生じせしめ、この蛍光を目視或いは光検出器により検出することにより行われる。
【0032】
図1に示す生体物質分析装置30は、具体的に、試料供給空間12aを有する反応槽12と、反応槽12の内壁であって他の内壁と対向するものの所定領域に設けられた音響整合層14と、反応槽12内に設けられたセンサ部15とを備えた生体物質分析セル10と、音響整合層14と試料供給空間12aとの界面(整合界面14a)に対して、この整合界面14aの法線方向から超音波を照射する超音波照射手段17と、この超音波によって整合界面14a上に定在波Uが生じると共に、定在波Uの節が整合界面14aに位置するように、超音波照射手段17を制御する超音波制御手段18とを備えたものである。
【0033】
生体物質分析セル10は、液体試料Sを供給するための試料供給空間12aを形成する反応槽12と音響整合層14と反射層16とセンサ部15とを備えたものである。セル10の形状は特に限定されるものではなく、一般的に使用されている角型セルや円筒セル等を用いることができる。また、生体物質分析セル10は、その試料供給空間12aの形状が流路となっているような生体物質分析チップであってもよい。生体物質分析チップを用いた実施形態については第2および第3の実施形態で詳細に記載する。
【0034】
音響整合層14は、反応槽12の内壁と試料供給空間12aに供給された液体試料Sとの音響インピーダンス(Z:Z=c(物質中の音速)×ρ(物質の密度))の整合を取る役割(音響整合機能)を担うための層であるため、供給される液体試料Sと同等の音響インピーダンスを有する材料からなる層である。音響整合層14の材料としては特に限定されないが、一般的に生体物質の分析を行う場合の液体試料Sは水(Z=1.48×106 N・s・m−3(室温))を溶媒とするため、ポリマー等の誘電体材料が挙げられ、軟質のポリエチレン(Z=1.75×106 N・s・m−3(室温))やゴム材料が好ましく、PDMS(Polydimethylsiloxane)等のシリコーンゴム、天然ゴム(Z=1.50×106 N・s・m−3(室温))、スチレン−ブタジエン−ゴム(Z=1.76×106 N・s・m−3(室温))がより好ましく、特に形状の加工性や厚さの制御性の容易さの観点からPDMS(Z=1.06×106 N・s・m−3(室温))が好ましい。
【0035】
音響整合層14は、生体物質分析セル10の反応槽12の内壁の所定領域に、音響整合層14の表面が試料供給空間12aに現れるように、つまり音響整合層14の表面が試料供給空間12aに供給された液体試料Sと接触するように反応槽12に設けられ、かつ反応槽12の他の部分の内壁に対向するように設けられている。これにより、音響整合層14とこれに対向する内壁との間で超音波が繰返し反射することが可能となり、この間で定在波Uを生じさせることが可能となる。このとき、音響整合層14と液体試料Sとは音響整合が取れているため、この定在波Uの節が音響整合層14と試料供給空間12a(もしくは液体試料S)との界面(整合界面14a)に位置することが可能となる。定在波Uの節についての詳細は後述する。例えば、生体物質分析セル10が、角型セルや円筒セルであった場合、これらのセルの側面部分に音響整合層14を設ければよい。音響整合層14は、図2Aに示すように反応槽12の内壁に埋め込まれるように形成されてもよいし、図2Bに示すように反応槽12の内壁面上に形成されてもよい。図2Bのような場合には、超音波は反応槽12を介して音響整合層14に照射される。
【0036】
センサ部15は、抗原Aを検出するための固定化抗体B1が固定されている音響整合層14上の領域である。センサ部15は、1つであっても複数であっても構わない。異なる種類の固定化抗体が固定されたセンサ部15が複数ある場合には、複数の抗原を検出することができるため、いわゆる多項目アレイ分析測定が可能となる。固定化抗体B1は、抗原Aに対して特異的に結合する抗体である。このような抗体は、特に制限されるものではなく、検出条件(特に抗原A)に応じて適宜選択することができる。例えば、抗原AがhCG抗原(分子量38000 Da)の場合、この抗原Aと特異的に結合するモノクロナール抗体等を用いることができる。固定化方法としては、音響整合層14に対して物理的に吸着させる方法、音響整合層14に表面修飾を施すことによってカルボキシル基、アミノ基、チオール基、などの官能基を導入し、そこに静電的にまたは化学結合を介して固定化する方法などが挙げられる。化学結合の方法として例えば、音響整合層14をカルボキシル基化し、更に活性化させることによって抗体のアミノ基と結合させる、所謂アミンカップリング法を用いることができる。
【0037】
また、センサ部15は、図2Cに示すように、誘電体層13および/または金属層を備えるように構成してもよい。誘電体層13を音響整合層14の表面に備えた場合には、音響整合層の材料に免疫物質(例えば抗体)等を固定するのが困難な場合に、これらの物質を固定する固定層として用いることができる。また、金属層を音響整合層14の表面に接するように備えた場合には、金属層に生じるプラズモンを利用した高感度の分析方法と組み合わせることができる。例えば、金属層が金属材料のベタ膜である場合には、表面プラズモン共鳴法、表面プラズモン増強蛍光法やSPCE(surface plasmon-coupled emission)法と組み合わせることができ、金属層が配列された金属微粒子からなる層である場合には、局在表面プラズモン共鳴法と組み合わせることができる。ただし、音響整合層14の表面に接するように誘電体層13および/または金属層を備える場合には、誘電体層13の材料として音響整合機能を担いうる上記材料を用いたり、金属層を薄くしたりして、音響整合層14の音響整合機能に影響を与えないようにする必要がある。
【0038】
反射層16は、超音波をより効率的に反射させる(つまり、定在波Uをより効率的に生じせしめる)ため、音響整合層14に対向するように設けられている層である。反射層16は、超音波の反射率を上げるため、反射層16および液体試料S(水)の音響インピーダンスの差が大きくなるような材料を用いることが好ましい。その材料としては、ガラス等の誘電材料、アルミニウム等の金属材料を挙げることができる。反射層16も、音響整合層14と同様に、反応槽12の内壁に埋め込まれるように形成されてもよいし、反応槽12の内壁面上に形成されてもよい。
【0039】
音響整合層14の厚さDm、反射層16の厚さDrおよび整合界面14aから対向する内壁までの距離Dsは、定在波Uの節が整合界面14aに位置するように、つまり整合界面14aが超音波の進行方向に垂直で定在波Uの節を含むように適宜設計される。すなわち、反射層16を設けない場合には図3Aに示すように、音響整合層14の厚さDmおよび距離Dsのそれぞれが、それぞれの媒質中における超音波の波長λmおよびλsの1/4の奇数倍であることが好ましく、特にそれぞれが波長λmおよびλsの1/4であることが好ましい。一方、反射層16を設けた場合には図3Bに示すように、音響整合層14の厚さDmおよび整合界面14aから反射層16までの距離W(実効的な試料供給空間幅W=Ds−Dr)のそれぞれが、それぞれの媒質中における超音波の波長λmおよびλsの1/4の奇数倍であることが好ましく、特にそれぞれが波長λmおよびλsの1/4であることが好ましい。例えば、反射層16を設けた場合で音響整合層14の厚さDmがλm/4、実効的な試料供給空間幅Wが3λs/4である場合には、超音波照射手段17と反射層16の間に図3Cに示すような定在波Uが生成される。
【0040】
しかしながら、本発明においては、節近傍に存在する物質には節へ濃縮されるように捕捉力が働くため、厳密に整合界面14aが超音波の進行方向に垂直で定在波Uの節を含むように設計される必要はない。すなわち、節の位置が整合界面14aから音響整合層14側にずれ、かつその整合界面14aからのずれがλm/4より小さい場合には、図4Aに示すように、節近傍にある物質は、腹から節方向に働く捕捉力によって移動するので、結果的に整合界面14aに濃縮することができる。また、節の位置が整合界面14aから試料供給空間12a側にずれ、かつその整合界面14aからのずれがd/2(dは、使用する標識の粒径である。)以内の場合には、液体中でのブラウン運動や被検物質と固定化結合物質との電気的引力等により、被検物質をセンサ部15で検出することができ、ある程度反応速度を向上することができる。したがって、本明細書において、「定在波Uの節が音響整合層14と試料供給空間12aとの界面(整合界面14a)に位置する」とは、定在波Uのある節が、整合界面14aから音響整合層14側にλm/4未満の距離および試料供給空間12a側にd/2以内の距離の範囲に属することを意味するものとする。
【0041】
定在波Uの節の数は、特に限定されないが、効率的に抗原Aをセンサ部15上に濃縮させるために、試料供給空間12aに1つとなるように設計することが好ましい。
【0042】
超音波照射手段17は、例えば超音波振動子である。超音波振動子は、圧電セラミクス、またはフッ化ポリビニルピロリドンのような高分子フィルムのような圧電素子であり、例えばPZT−Pb(Zr・Ti)O3 系 ・ソフト材C−82(商品名、株式会社富士セラミックス)を用いることが好ましい。また超音波振動子は、単振動子であってもアレイ振動子であってもよい。共振周波数は、100kHz〜100MHzが好ましく、特に3MHz程度が好ましい。超音波照射手段17は、流路内の液体試料Sに直接接していても良いが、装置を繰り返し使う場合を考慮すると、超音波照射手段17は反応槽12或いは音響整合層14を介して試料供給空間12aに超音波を照射することが好ましい(図2A〜C)。
【0043】
超音波制御手段18は、超音波照射手段17により照射された超音波によって、上述したように整合界面14a上に定在波Uが生じると共に、定在波Uの節が上記界面に位置するように、超音波照射手段17を制御するものである。超音波照射手段17の制御は、定在波Uを形成する際、個別具体的な分析条件に基づいた微調整をするためのものである。超音波制御手段18は、電源、超音波用の発振回路、変調回路および出力回路等を有する個別のユニットとすることもできる。また、超音波制御手段18は、必要に応じて超音波の波形を自由に加工し得る回路等、付加的な回路を設けることもできる。例えば、超音波制御手段18は、マルチファンクションジェネレータWF1974(株式会社エヌエフ回路設計ブロック製)を用いることができる。駆動電圧の波形は正弦波、方形波、三角波、ランプ波など任意の波形を用いることができる。
【0044】
以下、本実施形態の生体物質分析方法および生体物質分析装置30の作用を説明する。
【0045】
免疫物質(特異的に結合する対の物質)のうち一方の物質(抗体B1)を二次元のセンサ部15上に固定し、その反応の特異性を利用して他方の物質(抗原A)をセンサ部15で検出して、この他方の物質(抗原A)の量を定性的または定量的に分析するアッセイ法において、上記反応の速さは下記式(1)のLangmuirの吸着式によって表される。
【0046】
式(1):
【数1】
ここで、θは、センサ部15上の、抗原A(被検物質)と結合できるサイト数(固定化抗体B1の数)に対する、抗原A(被検物質)の結合しているサイト数(抗原Aと結合した固定化抗体B1の数)の割合、つまりセンサ部15上における抗原Aの占有率を表す。ka、kdは、それぞれ免疫物質(特異的に結合する対の物質)に依存する結合速度定数、解離速度定数を表す。Cは、液体試料中の抗原A(被検物質)の濃度を表す。
【0047】
上記アッセイ法において、反応速度を向上させるとはdθ/dtを大きくすることを意味する。上記式から定数kaを大きくし定数kdを小さくすれば、反応速度を向上させることができるが、これは反応に関与する免疫物質の性質で決まってしまうために、免疫物質を選択した後では改善することはできない物理量である。一方、抗原Aがセンサ部15に結合すると液体試料S中の抗原濃度Cが減少するため、dθ/dtは減少し、反応速度が減少する。流路などを用いて、液体試料Sを流下させて、上記の結合により濃度Cが減少するより前に、液体試料Sを供給すれば、濃度低下を防ぎ、反応速度を維持することができる。すなわち、液体試料Sの流下により反応の拡散律速を防ぐことができる。しかし、拡散律速を防ぐことができても、反応速度は供給する抗原濃度Cで決まってしまうために、これ以上の反応速度向上は望めない。そこで、本発明は、整合界面14aに定在波Uの節が位置するように試料供給空間12aに超音波を照射することにより、この節近傍にある物質に働く捕捉力によって迅速かつ効率的にセンサ部15上に抗原Aを輸送し、濃縮することで、センサ部15における実効的な抗原濃度Cを上げている。これにより、抗原濃度Cの低い液体試料Sを用いても短時間で占有率θが大きく増大し、暗電流のような装置ノイズ等によるノイズ信号よりも十分大きな信号を検出することができるため、分析測定の迅速化かつ高感度化が達成できる。
【0048】
この捕捉力は、図5に示すように直近の節の方向に働く力であり、その大きさF0は、下記式(2)に示すように物質Mの体積Vおよび音波周波数f等に比例する。
【0049】
式(2):
【数2】
ここで、F0は捕捉力の大きさ、zは図5中の定在波U端部からの距離、ρ0は媒質の密度、c0は媒質における音速、Vは物質Mの体積、P0は音圧、fは音波周波数、λは音波の波長を表す。図5中の要素20は定在波Uの固定端を表す。或いは、捕捉力の大きさは、図5に示す音響放射圧ポテンシャルの勾配に比例するともいえる。したがって、定在波Uの腹の位置に近い物質Mほど捕捉力F0は大きくなり、節の位置ではほとんど働かない。ここで、音響放射圧ポテンシャルとは、定在波音響場中の力学的なポテンシャルを意味する。
【0050】
また、物質Mが捕捉力により捕捉される捕捉空間Yの大きさは、超音波の波長の半分程度である。ここで、「捕捉空間」とは、定在波Uの節の位置を中心として形成される空間であって、定在波U中に存在する物質に対して働く捕捉力によって、ある特定の節に上記物質を捕捉することができる範囲を意味するものとする。捕捉力とは、音響放射圧ポテンシャルに基づき、直近の節近傍に物質を集めるように定在波中の物質に働く力である。つまり、捕捉空間とは、捕捉力が発生する基となる音響放射圧ポテンシャルについて、ある極大値に対応する位置から隣の極大値に対応する位置までの範囲(図5中のY)ということもできる。例えば、超音波の周波数が1MHzの場合には、蒸留水における音速を用いて、波長λが1.5mmと得られる。したがって、このときの捕捉空間Yの大きさは750μmとなる。これは、周波数を掃引することで、捕捉空間Yの大きさを連続的に変化させることができることを意味する。
【0051】
一般的にサンドイッチ型のアッセイ法における反応は、抗原Aをセンサ部15に固定する前に標識する場合、抗原Aと標識抗体BFとを反応させる一次反応、標識抗体BF-抗原Aの複合体と固定化抗体B1とを反応させる二次反応の二段階に分けられる。一次反応は、十分に高濃度の標識抗体BFと抗原Aとを液体試料S中で反応させるために、反応効率がよく、短時間で約90%以上が結合する。これに対して、二次反応は、液体試料S中の上記複合体中の抗原Aと二次元平面のセンサ部15上の固定化抗体B1との反応なので、反応効率が悪く、数%以下の結合率となる。このため、二次反応の反応効率を上げることが非常に重要で、本発明において実現するセンサ部15上への複合体(抗原A)の輸送および複合体(抗原A)の濃縮は非常に高い効果を示す。整合界面14aから対向する内壁までの距離Ds(もしくは実効的な試料供給空間幅W)が3λs/4のとき、試料供給空間12a内に節は2つ形成される(図3C)。このとき、複合体(抗原A)はセンサ部15近傍と、センサ部15からλs/2離れた位置の二箇所に濃縮される。センサ部15から離れた位置に濃縮された複合体(抗原A)は、センサ部15上の固定化抗体B1と結合することができず、センサ部15上の反応には寄与しないが、元々二次反応の反応効率は数%以下と非常に低いために、このような状況でもセンサ部15近傍の濃縮によって十分に複合体(抗原A)と固定化抗体B1との反応速度を向上することができる。
【0052】
以上により、本実施形態に係る生体物質分析方法は、反応槽12に形成される定在波Uの節が音響整合層14と試料供給空間12aとの界面(整合界面14a)に位置するように超音波を照射しかつ制御しているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部15近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部15に反応させることが可能となる。この結果、液体試料S中にある被検物質を反応槽12に設けられたセンサ部15で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析が可能となる。
【0053】
また、本発明に係る生体物質分析セル10および装置30は、反応槽12に形成される定在波Uの節が整合界面14aに位置することができるように、試料供給空間12aの内壁面の所定領域に超音波を透過せしめる音響整合層14を備えているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部15近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部15に反応させることが可能となる。この結果、液体試料S中にある被検物質を反応槽12に設けられたセンサ部15で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析が可能となる。
【0054】
(第1の実施形態の設計変更)
上記実施形態においては、抗原Aの標識として蛍光標識を用いたが、標識としてはその他の光応答性標識(例えば、燐光、散乱光などの標識)を用いてもよい。また、放射性同位体を用いた放射免疫測定(RIA)、酵素を用いた酵素免疫測定(EIA)、化学発光酵素免疫測定(CLEIA)などの種々の免疫測定法と組み合わせても良い。
【0055】
また、図6に示すように音響整合層14は反射層16側に設けることもできる。この場合には、センサ部15も音響整合層14表面になる。さらに、音響整合層14は、超音波照射手段17側と反射層16側の両方に設けてもよい。この場合には、いずれか又は両方の音響整合層14上にセンサ部15を設けることができる。
【0056】
「生体物質分析方法および装置の第2の実施形態」
次に、生体物質分析方法および装置の第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態においても、特異的に結合する対の物質の具体例として抗原および抗体を用いて、被検物質を抗原、この被検物質と特異的に結合する結合物質を抗体として、蛍光標識を用いたサンドイッチ法によって分析する場合について説明する。なお、第1の実施形態と同様の要素については、同一の符号を付し、特に必要のない限り詳細な説明は省略する。
【0057】
本実施形態の生体物質分析方法は、図7AおよびBに示す生体物質分析装置70、すなわち、抗原Aを含有する液体試料Sが流下される流路52と流入口54aと空気口54bとを形成する流路部材54を備えた生体物質分析チップ50であって、流路部材54の内壁面の所定領域に設けられた音響整合層64とセンサ部65とを備えた生体物質分析チップ50を含む装置70を用いて、蛍光標識された抗原Aを含有する液体試料Sを流路52に供給し、音響整合層64および流路52の界面(整合界面64a)と、音響整合層64に対向する流路部材54の内壁との間で、節が整合界面64aに位置するような定在波Uを生じせしめるように、超音波を照射し、上記節の方向に働く捕捉力によって、抗原Aを整合界面64aに濃縮せしめ、濃縮せしめた抗原Aをセンサ部65に固定された固定化抗体B1でセンサ部65に固定し、この固定された抗原Aを標識した蛍光標識からの蛍光信号を検出して、抗原Aの存在の有無および/または量を分析することを特徴とするものである。
【0058】
図7AおよびBに示す生体物質分析装置70は、具体的に、生体物質分析チップ50と、整合界面64aに対して、この整合界面64aの法線方向から超音波を照射する超音波照射手段67と、この超音波によって整合界面64a上に定在波Uが生じると共に、定在波Uの節が整合界面64aに位置するように、超音波照射手段67を制御する超音波制御手段68とを備えたものである。
【0059】
生体物質分析チップ50は、図7AおよびBに示すように、抗原Aを含有する液体試料Sが流下される流路52と、流路52に接続された、流路52に液体試料Sを流入するための流入口54aと、流路52に接続された、流路52に流入された液体試料Sを流すための空気口54bとを形成する流路部材54を備えた生体物質分析チップ50において、流入口54aと空気口54bとの間の流路部材54の内壁面の所定領域に設けられた、超音波を透過せしめる音響整合層64と、音響整合層64の流路52側の表面上および/またはこの表面から流路長さ方向にずれた位置にある内壁面上に設けられたセンサ部65であって、抗原Aと特異的に結合する固定化抗体B1が表面に固定されたセンサ部65とを備えた生体物質分析チップ50である。
【0060】
また、流路52の上流側には、抗原Aと特異的に結合する修飾化抗体B2とこの修飾化抗体B2が表面修飾された蛍光粒子Fとからなる標識抗体BFを物理吸着させてある所定領域(標識抗体吸着エリア57)がある。これにより、別途抗原を標識する作業を行う必要がない。
【0061】
流路部材54は、樹脂から形成されたものが好ましく、この場合は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンを含む非晶性ポリオレフィン(APO)等の樹脂を用いることがより好ましい。
【0062】
音響整合層64、反射層66、誘電体層および金属膜並びに超音波照射手段67および超音波制御手段68は、第1の実施形態と同様である。
【0063】
センサ部65は、本実施形態においては、音響整合層64の流路52側の表面上に設けられている。
【0064】
以下、上記生体物質分析チップ50を用いた本実施形態の生体物質分析方法によって、血液(全血)中に被検物質である抗原Aを含むか否について、サンドイッチ法によるアッセイを行う手順について図8を参照して説明する。
Step1:流入口54aから検査対象である血液(全血)Soを注入する。ここでは、この血液So中に被検物質である抗原Aが含まれている場合について説明する。図中において血液Soは網掛け領域で示している。
Step2:血液Soはメンブレンフィルター55により濾過され、赤血球、白血球などの大きな分子が残渣となる。
Step3:血漿S(メンブレンフィルター55で血球分離された血液)が毛細管現象で流路52に染み出す。または反応を早め、検出時間を短縮するために、空気口54bにポンプを接続し、血漿Sをポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。図中において血漿Sは斜線領域で示している。
Step4:流路52に染み出した血漿Sと標識抗体BF(修飾化抗体B2が付与された蛍光粒子F)とが混ぜ合わされ、血漿S中の抗原Aが標識抗体BFと結合する。
Step5:血漿Sは流路52に沿って空気口54b側へと徐々に流れ、標識抗体BFと結合した抗原Aが、センサ部65上に固定されている固定化抗体B1と結合し、抗原Aが固定化抗体B1と標識抗体BFで挟み込まれたいわゆるサンドイッチ構造が形成される。この際、節が整合界面64aに位置するような定在波Uを生じせしめるように、超音波を照射し、抗原Aを整合界面64aに濃縮せしめ、センサ部65における抗原Aと固定化抗体B1との反応を迅速かつ高効率に行う。
Step6:センサ部65に固定されなかった標識抗体BFの一部がセンサ部65上に残っている場合があっても、後続の血漿Sが洗浄の役割を担い、流路52中に浮遊或いはセンサ部65上に非特異吸着している標識抗体BFを洗い流す。センサ部65上を通過した血漿Sは廃液溜め56に溜められる。
【0065】
以上により、本実施形態に係る生体物質分析方法も、流路部材54に形成される定在波Uの節が音響整合層64と流路52との界面(整合界面64a)に位置するように超音波を照射しかつ制御しているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部65近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部65に反応させることが可能となる。この結果、液体試料S中にある被検物質を流路部材54に設けられたセンサ部65で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析測定が可能となる。
【0066】
また、本発明に係る生体物質分析チップ50および装置も、流路部材54に形成される定在波Uの節が整合界面64aに位置することができるように、流路52の内壁面の所定領域に超音波を透過せしめる音響整合層64を備えているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部65近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部65に反応させることが可能となる。この結果、液体試料S中にある被検物質を流路部材54に設けられたセンサ部65で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析測定が可能となる。
【0067】
「生体物質分析方法および装置の第3の実施形態」
次に、生体物質分析方法および装置の第3の実施形態について説明する。なお、本実施形態においても、特異的に結合する対の物質の具体例として抗原および抗体を用いて、被検物質を抗原、この被検物質と特異的に結合する結合物質を抗体として、蛍光標識を用いたサンドイッチ法によって分析する場合について説明する。
【0068】
本実施形態の生体物質分析方法および装置は、第2の実施形態のものと、チップ50内のセンサ部65が、音響整合層64の流路52側の表面から流路長さ方向にずれた位置にある内壁面上に設けられている点で異なる。それ以外の第2の実施形態と同様の要素については、同一の符号を付し、特に必要のない限り詳細な説明は省略する。
【0069】
本実施形態の生体物質分析方法は、抗原Aを含有する液体試料Sが流下される流路52と流入口54aと空気口54bとを形成する流路部材54を備えた生体物質分析チップ50であって、流路部材54の内壁面の所定領域に設けられた音響整合層64とセンサ部65とを備えた生体物質分析チップ50を含む装置を用いて、蛍光標識された抗原Aを含有する液体試料Sを流路52に供給し、音響整合層64および流路52の界面(整合界面64a)と、音響整合層64に対向する流路部材54の内壁との間で、節が整合界面64aに位置するような定在波Uを生じせしめるように、超音波を照射し、上記節の方向に働く捕捉力によって、抗原Aを整合界面64aに濃縮せしめ、濃縮せしめた抗原Aをセンサ部65に固定された固定化抗体B1でセンサ部65に固定し、この固定された抗原Aを標識した蛍光標識からの蛍光信号を検出して、抗原Aの存在の有無および/または量を分析することを特徴とするものである。
【0070】
本実施形態の生体物質分析チップ50は、図9に示すように、抗原Aを含有する液体試料Sが流下される流路52と、流路52に接続された、流路52に液体試料Sを流入するための流入口54aと、流路52に接続された、流路52に流入された液体試料Sを流すための空気口54bとを形成する流路部材54を備えた生体物質分析チップ50において、流入口54aと空気口54bとの間の流路部材54の内壁面の所定領域に設けられた、超音波を透過せしめる音響整合層64と、音響整合層64の流路52側の表面から流路長さ方向にずれた位置にある内壁面上に設けられたセンサ部65であって、抗原Aと特異的に結合する固定化抗体B1が表面に固定されたセンサ部65とを備えた生体物質分析チップ50である。
【0071】
センサ部65は、本実施形態においては、音響整合層64の流路52側の表面から流路長さ方向にずれた位置にある内壁面上に設けられている。つまり、センサ部65は、音響整合層64よりも下流側で流路長さ方向にずれた位置にある内壁上にある場合、或いは上記音響整合層64の真上と上記ずれた位置にある内壁上とにまたがるようにある場合のいずれであってもよい。なお、「流路長さ方向」とは流路52に沿った長さ方向を意味し、「音響整合層64よりも下流側で流路長さ方向にずれた位置」とは、液体試料S中のある分子が、音響整合層64の近傍を通過した後、液体試料Sの流れに沿って通過しうる内壁の位置を言うものとする。
【0072】
以下、上記生体物質分析チップ50を用いた本実施形態の生体物質分析方法によって、血液(全血)中に被検物質である抗原Aを含むか否について、サンドイッチ法によるアッセイを行う手順について図9を参照して説明する。本実施形態の生体物質分析方法は、第2の実施形態の分析方法と途中の工程(図8のStep3)までは同様の手順により行われる。したがって、以下では図8のStep3と同様の手順を経た後の手順について説明する。
Step1:流路52に染み出した血漿Sと標識抗体BF(修飾化抗体B2が付与された蛍光粒子F)とが混ぜ合わされ、血漿S中の抗原Aが標識抗体BFと結合する。一方、節が整合界面64aに位置するような定在波Uを生じせしめるように、超音波を照射する。
Step2:そして、センサ部65における抗原Aと固定化抗体B1との反応を迅速かつ高効率に行いうるように、センサ部65の上流側で抗原Aを整合界面64aに濃縮しておく。
Step3:血漿Sは流路52に沿って空気口54b側へと徐々に流れ、標識抗体BFと結合した抗原Aが、センサ部65上に固定されている固定化抗体B1と結合し、抗原Aが固定化抗体B1と標識抗体BFで挟み込まれたいわゆるサンドイッチ構造が形成される。センサ部65に固定されなかった標識抗体BFの一部がセンサ部65上に残っている場合があっても、後続の血漿Sが洗浄の役割を担い、流路52中に浮遊或いはセンサ部65上に非特異吸着している標識抗体BFを洗い流す。センサ部65上を通過した血漿Sは廃液溜め56に溜められる。
【0073】
以上により、本実施形態に係る生体物質分析方法も、流路部材54に形成される定在波Uの節が音響整合層64と流路52との界面(整合界面64a)に位置するように超音波を照射しかつ制御しているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部65近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部65に反応させることが可能となる。この結果、液体試料S中にある被検物質を流路部材54に設けられたセンサ部65で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析測定が可能となる。
【0074】
また、本発明に係る生体物質分析チップ50および装置も、流路部材54に形成される定在波Uの節が整合界面64aに位置することができるように、流路52の内壁面の所定領域に超音波を透過せしめる音響整合層64を備えているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部65近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部65に反応させることが可能となる。この結果、液体試料S中にある被検物質を流路部材54に設けられたセンサ部65で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析測定が可能となる。
【0075】
(第1から第3の実施形態の設計変更)
本発明の実施形態は、上記で説明した第1から第3の実施形態に限られるものではない。例えば、これらの実施形態では、サンドイッチ法を用いて説明したが、競合法を用いた分析測定においても同様の効果を奏する。また、これらの実施形態では特異的に結合する対の物質として抗原および抗体を用いて抗原抗体反応を利用して説明したが、本発明はタンパク質−補因子反応を利用した分析測定においても同様の効果を奏する。
第2の実施形態および第3の実施形態を組み合わせた実施形態、つまりセンサ部の上流側およびセンサ部上で定在波Uを生じせしめ二段階に渡り被検物質を濃縮する方法は、より迅速かつ高効率に被検物質を濃縮することができるため好ましい。
【符号の説明】
【0076】
10 生体物質分析セル
12 反応槽
12a 試料供給空間
13 誘電体層
14、64 音響整合層
14a、64a 整合界面
15、65 センサ部
16、66 反射層
17、67 超音波照射手段
18、68 超音波制御手段
19 光源
30、70 生体物質分析装置
50 生体物質分析チップ
52 流路
54 流路部材
A 被検物質(抗原)
B1 固定化結合物質(固定化抗体)
B2 修飾化結合物質(修飾化抗体)
S 液体試料
U 定在波
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体試料中にある被検物質を反応槽に設けられたセンサ部で検出する生体物質分析方法並びに生体物質分析セル、チップおよび装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、臨床検査、食品検査、環境検査など幅広い分野において、糖、タンパク質、核酸などの生体物質の分析、定量が日常的に行われている。一般的な生体物質の分析、定量方法としては、対象とする生体物質の種類によって多種、多様のものがあるが、これらの方法には、生体物質と親和性のある物質との反応を利用したものがある。例えば、抗原抗体反応を利用した特定物質の定量方法は、イムノアッセイとして、感度の高い、信頼性のある方法として確立しており、臨床検査など幅広い分野において、汎用されている。しかしながら、市販の試薬キットを用いても、その繁雑な反応は各々時間がかかり、試料が多いときには迅速な検査は困難であった。これは、特定の温度における運動エネルギーが、互いの分子を衝突させる頻度で反応速度を律速するためである。
【0003】
抗原抗体反応などにおいて特に一方が固定化されている場合、分子衝突頻度は極端に低下し、反応速度もそれに応じて低下する。これを改善すべく、反応時に超音波を作用させ、反応速度を高める方法は、例えば特許文献1から3に示されているように従来報告されている。この場合、超音波は、固定化されていない抗原または抗体に作用し、固定化された抗体または抗原への衝突頻度を上昇させて結合反応を促進させるものと考えられる。
【0004】
特許文献1および2は、超音波の振動で分子の振動を起こして、周囲の物質との衝突率を上げて反応速度を上げるという発明である。さらに、特許文献2では、周波数を変調することで振動状態を乱して、より広範囲に並進移動させることを特徴としている。特許文献3は、微小電圧を短時間(数十秒あるいは15秒間)印加することで、免疫物質の電気分解を起こさずに抗原抗体反応を促進できるという発明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−54315号公報
【特許文献2】特開平10−267927号公報
【特許文献3】特開平9−101307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に示されている方法では、免疫物質自体の濃度が低い場合に、振動させても周囲にある他方の免疫物質量が少ないため、結局反応速度が向上しにくいという問題がある。また、このような低濃度の場合には、センサ部で検出できる免疫物質の量がその物質の拡散速度に依存しているため、検出感度の大幅な向上は望めないと考えられる。また、特許文献3に示されている方法では、免疫診断の対象となる生体物質(血液、尿、唾液など)には一般的に塩が含まれており、物質自体の電気応答性が高いため、そもそも電場を使った免疫反応促進はこれらの物質に悪影響を及ぼす可能性があるため好ましくない。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、被検物質を反応槽に設けられたセンサ部で検出する生体物質分析において、センサ部における被検物質の反応を迅速かつ高効率にし、被検物質の迅速かつ感度の高い分析測定を可能とする生体物質分析方法並びにそれに用いられる生体物質分析セル、チップおよび装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る生体物質分析方法は、
試料供給空間を有する反応槽と、反応槽の内壁であって他の内壁と対向するものの所定領域に設けられた音響整合層と、反応槽内に設けられたセンサ部とを備えた生体物質分析セルを用いて、
被検物質を含有する液体試料を試料供給空間に供給し、
音響整合層および試料供給空間の界面と、音響整合層に対向する反応槽の内壁との間で、節が上記界面に位置するような定在波を生じせしめるように超音波を照射し、
上記節の方向に働く捕捉力によって、被検物質を上記界面に濃縮せしめ、
濃縮せしめた被検物質を、センサ部に固定された、被検物質と特異的に結合する固定化結合物質で検出することを特徴とするものである。
【0009】
本明細書において、「試料供給空間」とは、反応槽により形成される空間であって、液体試料を貯留したり、液体試料とセンサ部とを接触させたりするための空間を意味し、流路のようなものも含むものとする。
【0010】
「音響整合層」とは、反応槽に供給された液体試料の音響インピーダンスと同等の音響インピーダンスを有する材料からなる層を意味する。
【0011】
「節が音響整合層と試料供給空間との界面に位置する」とは、定在波のある節が当該界面に含まれるもしくは当該界面の近傍にあること、より具体的には、定在波のある節が、当該界面から音響整合層側にλm/4未満の距離および試料供給空間側にd/2以内の距離の範囲に属することを意味する。なお、λmとは音響整合層内における超音波の波長、dとは使用する標識の粒径を表す。
【0012】
本明細書において、標識の「粒径」とは、標識である粒子に外接する最小の球の直径の最頻球径とする。最頻球径は、シスメックス株式会社製ゼータサイザー(品番:Nano-ZS)を使い動的光散乱法に基づいて、試料温度25℃にて粒径測定を行うことにより求めた。測定条件として設定するパラメータは、粒子の屈折率と溶媒の屈折率である。例えば、血漿中でポリスチレン粒子を分散させた場合、ポリスチレンの屈折率1.59、血漿の屈折率1.347を用いた。溶媒の屈折率は、デジタル屈折計(株式会社アタゴ製、RX-5000α)を用いて測定した。粒径測定は、粒子が分散状態でなければならないので、測定する実際の試料液中に粒子を分散させて測定することが望ましい。なぜなら、粒子は実際の試料液中で分散状態を保つように設計するためである。実際の試料液とは異なる溶媒中ではpHや塩濃度などの違いにより粒子が凝集して正確な粒径を測定することができなくなる。これは当業者ならば容易に想起することである。
【0013】
「節方向に働く捕捉力」とは、定在波の音響放射圧ポテンシャルに基づき、直近の節近傍に物質を集めるように定在波中の物質に働く力である。
【0014】
「固定化結合物質」とは、特異的に結合する対の物質のうちの一方であって、セル(担体)に固定されたものを意味するものとする。なお、「特異的に結合する対の物質」とは、抗原および抗体、もしくはタンパク質および補因子等のように、一方の物質と他方の物質とが特異的に認識し合って結合する関係にある対の物質を意味する。
【0015】
さらに、本発明に係る生体物質分析セルは、
被検物質を含有する液体試料が供給される試料供給空間を形成する反応槽を備えた生体物質分析セルにおいて、
反応槽の内壁であって他の内壁と対向するものの所定領域に設けられた、超音波を透過せしめる音響整合層と、
音響整合層の試料供給空間側の表面上に設けられたセンサ部であって、被検物質と特異的に結合する固定化結合物質が表面に固定されたセンサ部とを備えたことを特徴するものである。
【0016】
本発明に係る生体物質分析セルにおいて、音響整合層に対向する反応槽の内壁面上に音響整合層に対向するように、または音響整合層の試料供給空間側とは反対側の面と接するように、反射層を備えることが好ましい。
【0017】
センサ部は、誘電体層および/または金属層を有するものであることが好ましい。
【0018】
さらに、本発明に係る生体物質分析チップは、
被検物質を含有する液体試料が流下される流路と、流路に接続された、流路に液体試料を流入するための流入口と、流路に接続された、流路に流入された液体試料を流すための空気口とを形成する流路部材を備えた生体物質分析チップにおいて、
流入口と空気口との間の流路部材の内壁面の所定領域に設けられた、超音波を透過せしめる音響整合層と、
音響整合層の流路側の表面上および/またはこの表面から流路長さ方向にずれた位置にある内壁面上に設けられたセンサ部であって、被検物質と特異的に結合する固定化結合物質が表面に固定されたセンサ部とを備えたことを特徴するものである。
【0019】
本明細書において、センサ部が「音響整合層の内壁面上および/または音響整合層の内壁面から流路長さ方向にずれた位置にある内壁面上に設けられた」とは、センサ部が、音響整合層の真上にある場合、音響整合層よりも下流側で流路長さ方向にずれた位置にある内壁上にある場合、および上記音響整合層の真上と上記ずれた位置にある内壁上とにまたがるようにある場合を含むものとする。なお、「流路長さ方向」とは流路に沿った長さ方向を意味し、「音響整合層よりも下流側で流路長さ方向にずれた位置」とは、液体試料中のある分子が、音響整合層の近傍を通過した後、液体試料の流れに沿って通過しうる内壁の位置を言うものとする。
【0020】
本発明に係る生体物質分析チップにおいて、音響整合層に対向する流路部材の内壁面上に音響整合層に対向するように、または音響整合層の流路側とは反対側の面と接するように、反射層を備えることが好ましい。
【0021】
センサ部は、誘電体層および/または金属層を有するものであることが好ましい。
【0022】
さらに、生体物質分析チップは、音響整合層よりも上流側の流路部材の内壁面上に配置された標識結合物質を備え、
この標識結合物質は、被検物質と特異的に結合する第1の修飾化結合物質、および被検物質と競合して固定化結合物質と特異的に結合する第2の修飾化結合物質のうちいずれか一方の修飾化結合物質と、この一方の修飾化結合物質が修飾された標識粒子とからなるものであることが好ましい。
【0023】
さらに、本発明に係る生体物質分析装置は、
上記に記載の生体物質分析セルもしくは生体物質分析チップと、
音響整合層と試料供給空間もしくは流路との界面に対して、この界面の法線方向から超音波を照射する超音波照射手段と、
この超音波によって上記界面上に定在波が生じると共に、定在波の節が上記界面に位置するように、超音波照射手段を制御する超音波制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る生体物質分析方法は、反応槽に形成される定在波の節が音響整合層と試料供給空間との界面に位置するように超音波を照射しかつ制御しているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部に反応させることが可能となる。この結果、液体試料中にある被検物質を反応槽に設けられたセンサ部で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析測定が可能となる。
【0025】
本発明に係る生体物質分析セル、チップおよび装置は、反応槽に形成される定在波の節が音響整合層と反応槽との界面に位置することができるように、試料供給空間もしくは流路の内壁面の所定領域に超音波を透過せしめる音響整合層を備えているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部に反応させることが可能となる。この結果、液体試料中にある被検物質を反応槽もしくは流路部材に設けられたセンサ部で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1の実施形態の生体物質分析装置を示す概略断面図である。
【図2A】本発明の生体物質分析セルにおける音響整合層の設置の一実施形態を示す概略端面図である。
【図2B】本発明の生体物質分析セルにおける音響整合層の設置の他の実施形態を示す概略端面図である。
【図2C】本発明の生体物質分析セルにおける金属層の設置の一実施形態を示す概略端面図である。
【図3A】本発明の生体物質分析セルにおける音響整合層、反射層および試料供給空間の一実施形態の位置関係を示す概略端面図である。
【図3B】本発明の生体物質分析セルにおける音響整合層、反射層および試料供給空間の他の実施形態の位置関係を示す概略端面図である。
【図3C】音響整合層と試料供給空間との界面および定在波の節の位置関係を示す概略部分端面図である。
【図4A】定在波の節の位置が、音響整合層と試料供給空間との界面から音響整合層の内部側にずれた様子を示す概略部分端面図である。
【図4B】定在波の節の位置が、音響整合層と試料供給空間との界面から試料供給空間側にずれた様子を示す概略部分端面図である。
【図5】定在波と定在波の振幅および音響放射圧ポテンシャルとの関係を示すグラフ図である。
【図6】本発明の生体物質分析セルにおける音響整合層の設置の他の実施形態を示す概略端面図である。
【図7A】第2の実施形態の生体物質分析装置を示す概略上面図である。
【図7B】第2の実施形態の生体物質分析装置を示す概略断面図である。
【図8】第2の実施形態の生体物質分析チップを用いた生体物質分析方法の工程を示す概略図である。
【図9】第3の実施形態の生体物質分析チップを用いた生体物質分析方法の工程を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0028】
「生体物質分析方法および装置の第1の実施形態」
まず、生体物質分析方法および装置の第1の実施形態について説明する。なお、本実施形態においては、特異的に結合する対の物質の具体例として抗原および抗体を用いて、被検物質を抗原、この被検物質と特異的に結合する結合物質を抗体として、蛍光標識を用いたサンドイッチ法によって分析する場合について説明する。
【0029】
本実施形態の生体物質分析方法は、図1に示す生体物質分析装置30、すなわち、試料供給空間12aを有する反応槽12と、反応槽12の内壁であって他の内壁と対向するものの所定領域に設けられた音響整合層14と、音響整合層14に対向する反応槽12の内壁面上に音響整合層14に対向するように設けられた反射層16と、音響整合層14の試料供給空間12a側の表面上に設けられたセンサ部15とを備えた生体物質分析セル10を含む装置を用いて、蛍光標識された抗原Aを含有する液体試料Sを試料供給空間12aに供給し、音響整合層14および試料供給空間12aの界面(整合界面14a)と、音響整合層14に対向する反応槽12の内壁との間で、節が整合界面14aに位置するような定在波Uを生じせしめるように、超音波を照射し、上記節の方向に働く捕捉力によって、抗原Aを整合界面14aに濃縮せしめ、濃縮せしめた抗原Aをセンサ部15に固定された固定化抗体B1でセンサ部15に固定し、この固定された抗原Aを標識した蛍光標識からの蛍光信号を検出して、抗原Aの存在の有無および/または量を分析することを特徴とするものである。
【0030】
抗原Aを蛍光標識する方法は、特に制限されず蛍光色素、量子ドット等を用いることができる。抗原Aの標識としては、抗原A(被検物質)と特異的に結合する第1の修飾化抗体(修飾化結合物質)、および抗原A(被検物質)と競合して固定化抗体(固定化結合物質)と特異的に結合する第2の修飾化抗体(修飾化結合物質)のうちいずれか一方の修飾化抗体(修飾化結合物質)と、この一方の修飾化抗体(修飾化結合物質)が修飾された標識粒子とからなる標識抗体BF(標識結合物質)であることが好ましい。標識粒子(例えばポリスチレン粒子)の内部には複数の蛍光色素、量子ドット等を包含させることができ、感度よく分析を行うことができる。超音波で濃縮する際の標識粒子の大きさは、定在波の捕捉力が物質の体積に比例することや拡散速度の観点から、0.05μm〜10mm程度が好ましく、0.1μm〜1mmがさらに好ましい。したがって、扱う免疫物質がこれより小さい場合や反応速度をさらに上げるためには、このようなサイズの標識粒子に免疫物質の一方を修飾して免疫測定を行う必要がある。サンドイッチ法を用いる本実施形態においては、標識抗体BFは、第1の修飾化抗体B2と、この修飾化抗体に表面を修飾されかつ複数の蛍光色素を包含する蛍光粒子Fとからなる。また、抗原Aを標識するタイミングは、特に制限されず、試料供給空間12aに供給する前に抗原Aと標識とを反応させてもよいし、供給した後に試料供給空間12a内で反応させてもよい。
【0031】
蛍光信号の検出は、図1に示すように、光源19を用いて励起光Leをセンサ部15に照射して標識抗体BFから蛍光を生じせしめ、この蛍光を目視或いは光検出器により検出することにより行われる。
【0032】
図1に示す生体物質分析装置30は、具体的に、試料供給空間12aを有する反応槽12と、反応槽12の内壁であって他の内壁と対向するものの所定領域に設けられた音響整合層14と、反応槽12内に設けられたセンサ部15とを備えた生体物質分析セル10と、音響整合層14と試料供給空間12aとの界面(整合界面14a)に対して、この整合界面14aの法線方向から超音波を照射する超音波照射手段17と、この超音波によって整合界面14a上に定在波Uが生じると共に、定在波Uの節が整合界面14aに位置するように、超音波照射手段17を制御する超音波制御手段18とを備えたものである。
【0033】
生体物質分析セル10は、液体試料Sを供給するための試料供給空間12aを形成する反応槽12と音響整合層14と反射層16とセンサ部15とを備えたものである。セル10の形状は特に限定されるものではなく、一般的に使用されている角型セルや円筒セル等を用いることができる。また、生体物質分析セル10は、その試料供給空間12aの形状が流路となっているような生体物質分析チップであってもよい。生体物質分析チップを用いた実施形態については第2および第3の実施形態で詳細に記載する。
【0034】
音響整合層14は、反応槽12の内壁と試料供給空間12aに供給された液体試料Sとの音響インピーダンス(Z:Z=c(物質中の音速)×ρ(物質の密度))の整合を取る役割(音響整合機能)を担うための層であるため、供給される液体試料Sと同等の音響インピーダンスを有する材料からなる層である。音響整合層14の材料としては特に限定されないが、一般的に生体物質の分析を行う場合の液体試料Sは水(Z=1.48×106 N・s・m−3(室温))を溶媒とするため、ポリマー等の誘電体材料が挙げられ、軟質のポリエチレン(Z=1.75×106 N・s・m−3(室温))やゴム材料が好ましく、PDMS(Polydimethylsiloxane)等のシリコーンゴム、天然ゴム(Z=1.50×106 N・s・m−3(室温))、スチレン−ブタジエン−ゴム(Z=1.76×106 N・s・m−3(室温))がより好ましく、特に形状の加工性や厚さの制御性の容易さの観点からPDMS(Z=1.06×106 N・s・m−3(室温))が好ましい。
【0035】
音響整合層14は、生体物質分析セル10の反応槽12の内壁の所定領域に、音響整合層14の表面が試料供給空間12aに現れるように、つまり音響整合層14の表面が試料供給空間12aに供給された液体試料Sと接触するように反応槽12に設けられ、かつ反応槽12の他の部分の内壁に対向するように設けられている。これにより、音響整合層14とこれに対向する内壁との間で超音波が繰返し反射することが可能となり、この間で定在波Uを生じさせることが可能となる。このとき、音響整合層14と液体試料Sとは音響整合が取れているため、この定在波Uの節が音響整合層14と試料供給空間12a(もしくは液体試料S)との界面(整合界面14a)に位置することが可能となる。定在波Uの節についての詳細は後述する。例えば、生体物質分析セル10が、角型セルや円筒セルであった場合、これらのセルの側面部分に音響整合層14を設ければよい。音響整合層14は、図2Aに示すように反応槽12の内壁に埋め込まれるように形成されてもよいし、図2Bに示すように反応槽12の内壁面上に形成されてもよい。図2Bのような場合には、超音波は反応槽12を介して音響整合層14に照射される。
【0036】
センサ部15は、抗原Aを検出するための固定化抗体B1が固定されている音響整合層14上の領域である。センサ部15は、1つであっても複数であっても構わない。異なる種類の固定化抗体が固定されたセンサ部15が複数ある場合には、複数の抗原を検出することができるため、いわゆる多項目アレイ分析測定が可能となる。固定化抗体B1は、抗原Aに対して特異的に結合する抗体である。このような抗体は、特に制限されるものではなく、検出条件(特に抗原A)に応じて適宜選択することができる。例えば、抗原AがhCG抗原(分子量38000 Da)の場合、この抗原Aと特異的に結合するモノクロナール抗体等を用いることができる。固定化方法としては、音響整合層14に対して物理的に吸着させる方法、音響整合層14に表面修飾を施すことによってカルボキシル基、アミノ基、チオール基、などの官能基を導入し、そこに静電的にまたは化学結合を介して固定化する方法などが挙げられる。化学結合の方法として例えば、音響整合層14をカルボキシル基化し、更に活性化させることによって抗体のアミノ基と結合させる、所謂アミンカップリング法を用いることができる。
【0037】
また、センサ部15は、図2Cに示すように、誘電体層13および/または金属層を備えるように構成してもよい。誘電体層13を音響整合層14の表面に備えた場合には、音響整合層の材料に免疫物質(例えば抗体)等を固定するのが困難な場合に、これらの物質を固定する固定層として用いることができる。また、金属層を音響整合層14の表面に接するように備えた場合には、金属層に生じるプラズモンを利用した高感度の分析方法と組み合わせることができる。例えば、金属層が金属材料のベタ膜である場合には、表面プラズモン共鳴法、表面プラズモン増強蛍光法やSPCE(surface plasmon-coupled emission)法と組み合わせることができ、金属層が配列された金属微粒子からなる層である場合には、局在表面プラズモン共鳴法と組み合わせることができる。ただし、音響整合層14の表面に接するように誘電体層13および/または金属層を備える場合には、誘電体層13の材料として音響整合機能を担いうる上記材料を用いたり、金属層を薄くしたりして、音響整合層14の音響整合機能に影響を与えないようにする必要がある。
【0038】
反射層16は、超音波をより効率的に反射させる(つまり、定在波Uをより効率的に生じせしめる)ため、音響整合層14に対向するように設けられている層である。反射層16は、超音波の反射率を上げるため、反射層16および液体試料S(水)の音響インピーダンスの差が大きくなるような材料を用いることが好ましい。その材料としては、ガラス等の誘電材料、アルミニウム等の金属材料を挙げることができる。反射層16も、音響整合層14と同様に、反応槽12の内壁に埋め込まれるように形成されてもよいし、反応槽12の内壁面上に形成されてもよい。
【0039】
音響整合層14の厚さDm、反射層16の厚さDrおよび整合界面14aから対向する内壁までの距離Dsは、定在波Uの節が整合界面14aに位置するように、つまり整合界面14aが超音波の進行方向に垂直で定在波Uの節を含むように適宜設計される。すなわち、反射層16を設けない場合には図3Aに示すように、音響整合層14の厚さDmおよび距離Dsのそれぞれが、それぞれの媒質中における超音波の波長λmおよびλsの1/4の奇数倍であることが好ましく、特にそれぞれが波長λmおよびλsの1/4であることが好ましい。一方、反射層16を設けた場合には図3Bに示すように、音響整合層14の厚さDmおよび整合界面14aから反射層16までの距離W(実効的な試料供給空間幅W=Ds−Dr)のそれぞれが、それぞれの媒質中における超音波の波長λmおよびλsの1/4の奇数倍であることが好ましく、特にそれぞれが波長λmおよびλsの1/4であることが好ましい。例えば、反射層16を設けた場合で音響整合層14の厚さDmがλm/4、実効的な試料供給空間幅Wが3λs/4である場合には、超音波照射手段17と反射層16の間に図3Cに示すような定在波Uが生成される。
【0040】
しかしながら、本発明においては、節近傍に存在する物質には節へ濃縮されるように捕捉力が働くため、厳密に整合界面14aが超音波の進行方向に垂直で定在波Uの節を含むように設計される必要はない。すなわち、節の位置が整合界面14aから音響整合層14側にずれ、かつその整合界面14aからのずれがλm/4より小さい場合には、図4Aに示すように、節近傍にある物質は、腹から節方向に働く捕捉力によって移動するので、結果的に整合界面14aに濃縮することができる。また、節の位置が整合界面14aから試料供給空間12a側にずれ、かつその整合界面14aからのずれがd/2(dは、使用する標識の粒径である。)以内の場合には、液体中でのブラウン運動や被検物質と固定化結合物質との電気的引力等により、被検物質をセンサ部15で検出することができ、ある程度反応速度を向上することができる。したがって、本明細書において、「定在波Uの節が音響整合層14と試料供給空間12aとの界面(整合界面14a)に位置する」とは、定在波Uのある節が、整合界面14aから音響整合層14側にλm/4未満の距離および試料供給空間12a側にd/2以内の距離の範囲に属することを意味するものとする。
【0041】
定在波Uの節の数は、特に限定されないが、効率的に抗原Aをセンサ部15上に濃縮させるために、試料供給空間12aに1つとなるように設計することが好ましい。
【0042】
超音波照射手段17は、例えば超音波振動子である。超音波振動子は、圧電セラミクス、またはフッ化ポリビニルピロリドンのような高分子フィルムのような圧電素子であり、例えばPZT−Pb(Zr・Ti)O3 系 ・ソフト材C−82(商品名、株式会社富士セラミックス)を用いることが好ましい。また超音波振動子は、単振動子であってもアレイ振動子であってもよい。共振周波数は、100kHz〜100MHzが好ましく、特に3MHz程度が好ましい。超音波照射手段17は、流路内の液体試料Sに直接接していても良いが、装置を繰り返し使う場合を考慮すると、超音波照射手段17は反応槽12或いは音響整合層14を介して試料供給空間12aに超音波を照射することが好ましい(図2A〜C)。
【0043】
超音波制御手段18は、超音波照射手段17により照射された超音波によって、上述したように整合界面14a上に定在波Uが生じると共に、定在波Uの節が上記界面に位置するように、超音波照射手段17を制御するものである。超音波照射手段17の制御は、定在波Uを形成する際、個別具体的な分析条件に基づいた微調整をするためのものである。超音波制御手段18は、電源、超音波用の発振回路、変調回路および出力回路等を有する個別のユニットとすることもできる。また、超音波制御手段18は、必要に応じて超音波の波形を自由に加工し得る回路等、付加的な回路を設けることもできる。例えば、超音波制御手段18は、マルチファンクションジェネレータWF1974(株式会社エヌエフ回路設計ブロック製)を用いることができる。駆動電圧の波形は正弦波、方形波、三角波、ランプ波など任意の波形を用いることができる。
【0044】
以下、本実施形態の生体物質分析方法および生体物質分析装置30の作用を説明する。
【0045】
免疫物質(特異的に結合する対の物質)のうち一方の物質(抗体B1)を二次元のセンサ部15上に固定し、その反応の特異性を利用して他方の物質(抗原A)をセンサ部15で検出して、この他方の物質(抗原A)の量を定性的または定量的に分析するアッセイ法において、上記反応の速さは下記式(1)のLangmuirの吸着式によって表される。
【0046】
式(1):
【数1】
ここで、θは、センサ部15上の、抗原A(被検物質)と結合できるサイト数(固定化抗体B1の数)に対する、抗原A(被検物質)の結合しているサイト数(抗原Aと結合した固定化抗体B1の数)の割合、つまりセンサ部15上における抗原Aの占有率を表す。ka、kdは、それぞれ免疫物質(特異的に結合する対の物質)に依存する結合速度定数、解離速度定数を表す。Cは、液体試料中の抗原A(被検物質)の濃度を表す。
【0047】
上記アッセイ法において、反応速度を向上させるとはdθ/dtを大きくすることを意味する。上記式から定数kaを大きくし定数kdを小さくすれば、反応速度を向上させることができるが、これは反応に関与する免疫物質の性質で決まってしまうために、免疫物質を選択した後では改善することはできない物理量である。一方、抗原Aがセンサ部15に結合すると液体試料S中の抗原濃度Cが減少するため、dθ/dtは減少し、反応速度が減少する。流路などを用いて、液体試料Sを流下させて、上記の結合により濃度Cが減少するより前に、液体試料Sを供給すれば、濃度低下を防ぎ、反応速度を維持することができる。すなわち、液体試料Sの流下により反応の拡散律速を防ぐことができる。しかし、拡散律速を防ぐことができても、反応速度は供給する抗原濃度Cで決まってしまうために、これ以上の反応速度向上は望めない。そこで、本発明は、整合界面14aに定在波Uの節が位置するように試料供給空間12aに超音波を照射することにより、この節近傍にある物質に働く捕捉力によって迅速かつ効率的にセンサ部15上に抗原Aを輸送し、濃縮することで、センサ部15における実効的な抗原濃度Cを上げている。これにより、抗原濃度Cの低い液体試料Sを用いても短時間で占有率θが大きく増大し、暗電流のような装置ノイズ等によるノイズ信号よりも十分大きな信号を検出することができるため、分析測定の迅速化かつ高感度化が達成できる。
【0048】
この捕捉力は、図5に示すように直近の節の方向に働く力であり、その大きさF0は、下記式(2)に示すように物質Mの体積Vおよび音波周波数f等に比例する。
【0049】
式(2):
【数2】
ここで、F0は捕捉力の大きさ、zは図5中の定在波U端部からの距離、ρ0は媒質の密度、c0は媒質における音速、Vは物質Mの体積、P0は音圧、fは音波周波数、λは音波の波長を表す。図5中の要素20は定在波Uの固定端を表す。或いは、捕捉力の大きさは、図5に示す音響放射圧ポテンシャルの勾配に比例するともいえる。したがって、定在波Uの腹の位置に近い物質Mほど捕捉力F0は大きくなり、節の位置ではほとんど働かない。ここで、音響放射圧ポテンシャルとは、定在波音響場中の力学的なポテンシャルを意味する。
【0050】
また、物質Mが捕捉力により捕捉される捕捉空間Yの大きさは、超音波の波長の半分程度である。ここで、「捕捉空間」とは、定在波Uの節の位置を中心として形成される空間であって、定在波U中に存在する物質に対して働く捕捉力によって、ある特定の節に上記物質を捕捉することができる範囲を意味するものとする。捕捉力とは、音響放射圧ポテンシャルに基づき、直近の節近傍に物質を集めるように定在波中の物質に働く力である。つまり、捕捉空間とは、捕捉力が発生する基となる音響放射圧ポテンシャルについて、ある極大値に対応する位置から隣の極大値に対応する位置までの範囲(図5中のY)ということもできる。例えば、超音波の周波数が1MHzの場合には、蒸留水における音速を用いて、波長λが1.5mmと得られる。したがって、このときの捕捉空間Yの大きさは750μmとなる。これは、周波数を掃引することで、捕捉空間Yの大きさを連続的に変化させることができることを意味する。
【0051】
一般的にサンドイッチ型のアッセイ法における反応は、抗原Aをセンサ部15に固定する前に標識する場合、抗原Aと標識抗体BFとを反応させる一次反応、標識抗体BF-抗原Aの複合体と固定化抗体B1とを反応させる二次反応の二段階に分けられる。一次反応は、十分に高濃度の標識抗体BFと抗原Aとを液体試料S中で反応させるために、反応効率がよく、短時間で約90%以上が結合する。これに対して、二次反応は、液体試料S中の上記複合体中の抗原Aと二次元平面のセンサ部15上の固定化抗体B1との反応なので、反応効率が悪く、数%以下の結合率となる。このため、二次反応の反応効率を上げることが非常に重要で、本発明において実現するセンサ部15上への複合体(抗原A)の輸送および複合体(抗原A)の濃縮は非常に高い効果を示す。整合界面14aから対向する内壁までの距離Ds(もしくは実効的な試料供給空間幅W)が3λs/4のとき、試料供給空間12a内に節は2つ形成される(図3C)。このとき、複合体(抗原A)はセンサ部15近傍と、センサ部15からλs/2離れた位置の二箇所に濃縮される。センサ部15から離れた位置に濃縮された複合体(抗原A)は、センサ部15上の固定化抗体B1と結合することができず、センサ部15上の反応には寄与しないが、元々二次反応の反応効率は数%以下と非常に低いために、このような状況でもセンサ部15近傍の濃縮によって十分に複合体(抗原A)と固定化抗体B1との反応速度を向上することができる。
【0052】
以上により、本実施形態に係る生体物質分析方法は、反応槽12に形成される定在波Uの節が音響整合層14と試料供給空間12aとの界面(整合界面14a)に位置するように超音波を照射しかつ制御しているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部15近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部15に反応させることが可能となる。この結果、液体試料S中にある被検物質を反応槽12に設けられたセンサ部15で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析が可能となる。
【0053】
また、本発明に係る生体物質分析セル10および装置30は、反応槽12に形成される定在波Uの節が整合界面14aに位置することができるように、試料供給空間12aの内壁面の所定領域に超音波を透過せしめる音響整合層14を備えているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部15近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部15に反応させることが可能となる。この結果、液体試料S中にある被検物質を反応槽12に設けられたセンサ部15で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析が可能となる。
【0054】
(第1の実施形態の設計変更)
上記実施形態においては、抗原Aの標識として蛍光標識を用いたが、標識としてはその他の光応答性標識(例えば、燐光、散乱光などの標識)を用いてもよい。また、放射性同位体を用いた放射免疫測定(RIA)、酵素を用いた酵素免疫測定(EIA)、化学発光酵素免疫測定(CLEIA)などの種々の免疫測定法と組み合わせても良い。
【0055】
また、図6に示すように音響整合層14は反射層16側に設けることもできる。この場合には、センサ部15も音響整合層14表面になる。さらに、音響整合層14は、超音波照射手段17側と反射層16側の両方に設けてもよい。この場合には、いずれか又は両方の音響整合層14上にセンサ部15を設けることができる。
【0056】
「生体物質分析方法および装置の第2の実施形態」
次に、生体物質分析方法および装置の第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態においても、特異的に結合する対の物質の具体例として抗原および抗体を用いて、被検物質を抗原、この被検物質と特異的に結合する結合物質を抗体として、蛍光標識を用いたサンドイッチ法によって分析する場合について説明する。なお、第1の実施形態と同様の要素については、同一の符号を付し、特に必要のない限り詳細な説明は省略する。
【0057】
本実施形態の生体物質分析方法は、図7AおよびBに示す生体物質分析装置70、すなわち、抗原Aを含有する液体試料Sが流下される流路52と流入口54aと空気口54bとを形成する流路部材54を備えた生体物質分析チップ50であって、流路部材54の内壁面の所定領域に設けられた音響整合層64とセンサ部65とを備えた生体物質分析チップ50を含む装置70を用いて、蛍光標識された抗原Aを含有する液体試料Sを流路52に供給し、音響整合層64および流路52の界面(整合界面64a)と、音響整合層64に対向する流路部材54の内壁との間で、節が整合界面64aに位置するような定在波Uを生じせしめるように、超音波を照射し、上記節の方向に働く捕捉力によって、抗原Aを整合界面64aに濃縮せしめ、濃縮せしめた抗原Aをセンサ部65に固定された固定化抗体B1でセンサ部65に固定し、この固定された抗原Aを標識した蛍光標識からの蛍光信号を検出して、抗原Aの存在の有無および/または量を分析することを特徴とするものである。
【0058】
図7AおよびBに示す生体物質分析装置70は、具体的に、生体物質分析チップ50と、整合界面64aに対して、この整合界面64aの法線方向から超音波を照射する超音波照射手段67と、この超音波によって整合界面64a上に定在波Uが生じると共に、定在波Uの節が整合界面64aに位置するように、超音波照射手段67を制御する超音波制御手段68とを備えたものである。
【0059】
生体物質分析チップ50は、図7AおよびBに示すように、抗原Aを含有する液体試料Sが流下される流路52と、流路52に接続された、流路52に液体試料Sを流入するための流入口54aと、流路52に接続された、流路52に流入された液体試料Sを流すための空気口54bとを形成する流路部材54を備えた生体物質分析チップ50において、流入口54aと空気口54bとの間の流路部材54の内壁面の所定領域に設けられた、超音波を透過せしめる音響整合層64と、音響整合層64の流路52側の表面上および/またはこの表面から流路長さ方向にずれた位置にある内壁面上に設けられたセンサ部65であって、抗原Aと特異的に結合する固定化抗体B1が表面に固定されたセンサ部65とを備えた生体物質分析チップ50である。
【0060】
また、流路52の上流側には、抗原Aと特異的に結合する修飾化抗体B2とこの修飾化抗体B2が表面修飾された蛍光粒子Fとからなる標識抗体BFを物理吸着させてある所定領域(標識抗体吸着エリア57)がある。これにより、別途抗原を標識する作業を行う必要がない。
【0061】
流路部材54は、樹脂から形成されたものが好ましく、この場合は、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンを含む非晶性ポリオレフィン(APO)等の樹脂を用いることがより好ましい。
【0062】
音響整合層64、反射層66、誘電体層および金属膜並びに超音波照射手段67および超音波制御手段68は、第1の実施形態と同様である。
【0063】
センサ部65は、本実施形態においては、音響整合層64の流路52側の表面上に設けられている。
【0064】
以下、上記生体物質分析チップ50を用いた本実施形態の生体物質分析方法によって、血液(全血)中に被検物質である抗原Aを含むか否について、サンドイッチ法によるアッセイを行う手順について図8を参照して説明する。
Step1:流入口54aから検査対象である血液(全血)Soを注入する。ここでは、この血液So中に被検物質である抗原Aが含まれている場合について説明する。図中において血液Soは網掛け領域で示している。
Step2:血液Soはメンブレンフィルター55により濾過され、赤血球、白血球などの大きな分子が残渣となる。
Step3:血漿S(メンブレンフィルター55で血球分離された血液)が毛細管現象で流路52に染み出す。または反応を早め、検出時間を短縮するために、空気口54bにポンプを接続し、血漿Sをポンプの吸引、押し出し操作によって流下させてもよい。図中において血漿Sは斜線領域で示している。
Step4:流路52に染み出した血漿Sと標識抗体BF(修飾化抗体B2が付与された蛍光粒子F)とが混ぜ合わされ、血漿S中の抗原Aが標識抗体BFと結合する。
Step5:血漿Sは流路52に沿って空気口54b側へと徐々に流れ、標識抗体BFと結合した抗原Aが、センサ部65上に固定されている固定化抗体B1と結合し、抗原Aが固定化抗体B1と標識抗体BFで挟み込まれたいわゆるサンドイッチ構造が形成される。この際、節が整合界面64aに位置するような定在波Uを生じせしめるように、超音波を照射し、抗原Aを整合界面64aに濃縮せしめ、センサ部65における抗原Aと固定化抗体B1との反応を迅速かつ高効率に行う。
Step6:センサ部65に固定されなかった標識抗体BFの一部がセンサ部65上に残っている場合があっても、後続の血漿Sが洗浄の役割を担い、流路52中に浮遊或いはセンサ部65上に非特異吸着している標識抗体BFを洗い流す。センサ部65上を通過した血漿Sは廃液溜め56に溜められる。
【0065】
以上により、本実施形態に係る生体物質分析方法も、流路部材54に形成される定在波Uの節が音響整合層64と流路52との界面(整合界面64a)に位置するように超音波を照射しかつ制御しているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部65近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部65に反応させることが可能となる。この結果、液体試料S中にある被検物質を流路部材54に設けられたセンサ部65で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析測定が可能となる。
【0066】
また、本発明に係る生体物質分析チップ50および装置も、流路部材54に形成される定在波Uの節が整合界面64aに位置することができるように、流路52の内壁面の所定領域に超音波を透過せしめる音響整合層64を備えているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部65近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部65に反応させることが可能となる。この結果、液体試料S中にある被検物質を流路部材54に設けられたセンサ部65で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析測定が可能となる。
【0067】
「生体物質分析方法および装置の第3の実施形態」
次に、生体物質分析方法および装置の第3の実施形態について説明する。なお、本実施形態においても、特異的に結合する対の物質の具体例として抗原および抗体を用いて、被検物質を抗原、この被検物質と特異的に結合する結合物質を抗体として、蛍光標識を用いたサンドイッチ法によって分析する場合について説明する。
【0068】
本実施形態の生体物質分析方法および装置は、第2の実施形態のものと、チップ50内のセンサ部65が、音響整合層64の流路52側の表面から流路長さ方向にずれた位置にある内壁面上に設けられている点で異なる。それ以外の第2の実施形態と同様の要素については、同一の符号を付し、特に必要のない限り詳細な説明は省略する。
【0069】
本実施形態の生体物質分析方法は、抗原Aを含有する液体試料Sが流下される流路52と流入口54aと空気口54bとを形成する流路部材54を備えた生体物質分析チップ50であって、流路部材54の内壁面の所定領域に設けられた音響整合層64とセンサ部65とを備えた生体物質分析チップ50を含む装置を用いて、蛍光標識された抗原Aを含有する液体試料Sを流路52に供給し、音響整合層64および流路52の界面(整合界面64a)と、音響整合層64に対向する流路部材54の内壁との間で、節が整合界面64aに位置するような定在波Uを生じせしめるように、超音波を照射し、上記節の方向に働く捕捉力によって、抗原Aを整合界面64aに濃縮せしめ、濃縮せしめた抗原Aをセンサ部65に固定された固定化抗体B1でセンサ部65に固定し、この固定された抗原Aを標識した蛍光標識からの蛍光信号を検出して、抗原Aの存在の有無および/または量を分析することを特徴とするものである。
【0070】
本実施形態の生体物質分析チップ50は、図9に示すように、抗原Aを含有する液体試料Sが流下される流路52と、流路52に接続された、流路52に液体試料Sを流入するための流入口54aと、流路52に接続された、流路52に流入された液体試料Sを流すための空気口54bとを形成する流路部材54を備えた生体物質分析チップ50において、流入口54aと空気口54bとの間の流路部材54の内壁面の所定領域に設けられた、超音波を透過せしめる音響整合層64と、音響整合層64の流路52側の表面から流路長さ方向にずれた位置にある内壁面上に設けられたセンサ部65であって、抗原Aと特異的に結合する固定化抗体B1が表面に固定されたセンサ部65とを備えた生体物質分析チップ50である。
【0071】
センサ部65は、本実施形態においては、音響整合層64の流路52側の表面から流路長さ方向にずれた位置にある内壁面上に設けられている。つまり、センサ部65は、音響整合層64よりも下流側で流路長さ方向にずれた位置にある内壁上にある場合、或いは上記音響整合層64の真上と上記ずれた位置にある内壁上とにまたがるようにある場合のいずれであってもよい。なお、「流路長さ方向」とは流路52に沿った長さ方向を意味し、「音響整合層64よりも下流側で流路長さ方向にずれた位置」とは、液体試料S中のある分子が、音響整合層64の近傍を通過した後、液体試料Sの流れに沿って通過しうる内壁の位置を言うものとする。
【0072】
以下、上記生体物質分析チップ50を用いた本実施形態の生体物質分析方法によって、血液(全血)中に被検物質である抗原Aを含むか否について、サンドイッチ法によるアッセイを行う手順について図9を参照して説明する。本実施形態の生体物質分析方法は、第2の実施形態の分析方法と途中の工程(図8のStep3)までは同様の手順により行われる。したがって、以下では図8のStep3と同様の手順を経た後の手順について説明する。
Step1:流路52に染み出した血漿Sと標識抗体BF(修飾化抗体B2が付与された蛍光粒子F)とが混ぜ合わされ、血漿S中の抗原Aが標識抗体BFと結合する。一方、節が整合界面64aに位置するような定在波Uを生じせしめるように、超音波を照射する。
Step2:そして、センサ部65における抗原Aと固定化抗体B1との反応を迅速かつ高効率に行いうるように、センサ部65の上流側で抗原Aを整合界面64aに濃縮しておく。
Step3:血漿Sは流路52に沿って空気口54b側へと徐々に流れ、標識抗体BFと結合した抗原Aが、センサ部65上に固定されている固定化抗体B1と結合し、抗原Aが固定化抗体B1と標識抗体BFで挟み込まれたいわゆるサンドイッチ構造が形成される。センサ部65に固定されなかった標識抗体BFの一部がセンサ部65上に残っている場合があっても、後続の血漿Sが洗浄の役割を担い、流路52中に浮遊或いはセンサ部65上に非特異吸着している標識抗体BFを洗い流す。センサ部65上を通過した血漿Sは廃液溜め56に溜められる。
【0073】
以上により、本実施形態に係る生体物質分析方法も、流路部材54に形成される定在波Uの節が音響整合層64と流路52との界面(整合界面64a)に位置するように超音波を照射しかつ制御しているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部65近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部65に反応させることが可能となる。この結果、液体試料S中にある被検物質を流路部材54に設けられたセンサ部65で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析測定が可能となる。
【0074】
また、本発明に係る生体物質分析チップ50および装置も、流路部材54に形成される定在波Uの節が整合界面64aに位置することができるように、流路52の内壁面の所定領域に超音波を透過せしめる音響整合層64を備えているから、この節近傍において働く節方向への捕捉力により、被検物質をセンサ部65近傍に濃縮せしめることが可能となり、迅速かつ高効率に被検物質をセンサ部65に反応させることが可能となる。この結果、液体試料S中にある被検物質を流路部材54に設けられたセンサ部65で検出する生体物質分析において、迅速かつ感度の高い分析測定が可能となる。
【0075】
(第1から第3の実施形態の設計変更)
本発明の実施形態は、上記で説明した第1から第3の実施形態に限られるものではない。例えば、これらの実施形態では、サンドイッチ法を用いて説明したが、競合法を用いた分析測定においても同様の効果を奏する。また、これらの実施形態では特異的に結合する対の物質として抗原および抗体を用いて抗原抗体反応を利用して説明したが、本発明はタンパク質−補因子反応を利用した分析測定においても同様の効果を奏する。
第2の実施形態および第3の実施形態を組み合わせた実施形態、つまりセンサ部の上流側およびセンサ部上で定在波Uを生じせしめ二段階に渡り被検物質を濃縮する方法は、より迅速かつ高効率に被検物質を濃縮することができるため好ましい。
【符号の説明】
【0076】
10 生体物質分析セル
12 反応槽
12a 試料供給空間
13 誘電体層
14、64 音響整合層
14a、64a 整合界面
15、65 センサ部
16、66 反射層
17、67 超音波照射手段
18、68 超音波制御手段
19 光源
30、70 生体物質分析装置
50 生体物質分析チップ
52 流路
54 流路部材
A 被検物質(抗原)
B1 固定化結合物質(固定化抗体)
B2 修飾化結合物質(修飾化抗体)
S 液体試料
U 定在波
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料供給空間を有する反応槽と、該反応槽の内壁であって他の内壁と対向するものの所定領域に設けられた音響整合層と、前記反応槽内に設けられたセンサ部とを備えた生体物質分析セルを用いて、
被検物質を含有する液体試料を前記試料供給空間に供給し、
前記音響整合層および前記試料供給空間の界面と、前記音響整合層に対向する前記反応槽の内壁との間で、節が前記界面に位置するような定在波を生じせしめるように超音波を照射し、
前記節の方向に働く捕捉力によって、前記被検物質を前記界面に濃縮せしめ、
該濃縮せしめた前記被検物質を、前記センサ部に固定された、前記被検物質と特異的に結合する固定化結合物質で検出することを特徴とする生体物質分析方法。
【請求項2】
被検物質を含有する液体試料が供給される試料供給空間を形成する反応槽を備えた生体物質分析セルにおいて、
前記反応槽の内壁であって他の内壁と対向するものの所定領域に設けられた、超音波を透過せしめる音響整合層と、
該音響整合層の前記試料供給空間側の表面上に設けられたセンサ部であって、前記被検物質と特異的に結合する固定化結合物質が表面に固定されたセンサ部とを備えたことを特徴する生体物質分析セル。
【請求項3】
前記音響整合層に対向する前記反応槽の内壁面上に前記音響整合層に対向するように、または前記音響整合層の前記試料供給空間側とは反対側の面と接するように、反射層を備えたことを特徴とする請求項2に記載の生体物質分析セル。
【請求項4】
前記センサ部が、誘電体層および/または金属層を有するものであることを特徴とする請求項2または3に記載の生体物質分析セル。
【請求項5】
被検物質を含有する液体試料が流下される流路と、該流路に接続された、前記流路に前記液体試料を流入するための流入口と、前記流路に接続された、前記流路に流入された前記液体試料を流すための空気口とを形成する流路部材を備えた生体物質分析チップにおいて、
前記流入口と前記空気口との間の前記流路部材の内壁の所定領域に設けられた、超音波を透過せしめる音響整合層と、
該音響整合層の前記流路側の表面上および/または該表面から流路長さ方向にずれた位置にある内壁面上に設けられたセンサ部であって、前記被検物質と特異的に結合する固定化結合物質が表面に固定されたセンサ部とを備えたことを特徴する生体物質分析チップ。
【請求項6】
前記音響整合層に対向する前記流路部材の内壁面上に前記音響整合層に対向するように、または前記音響整合層の前記流路側とは反対側の面と接するように、反射層を備えたことを特徴とする請求項5に記載の生体物質分析チップ。
【請求項7】
前記センサ部が、誘電体層および/または金属層を有するものであることを特徴とする請求項5または6に記載の生体物質分析チップ。
【請求項8】
前記音響整合層よりも上流側の前記流路部材の内壁面上に配置された標識結合物質を備え、
該標識結合物質が、前記被検物質と特異的に結合する第1の修飾化結合物質、および前記被検物質と競合して前記固定化結合物質と特異的に結合する第2の修飾化結合物質のうちいずれか一方の修飾化結合物質と、該一方の修飾化結合物質が修飾された標識粒子とからなるものであることを特徴とする請求項5から7いずれかに記載の生体物質分析チップ。
【請求項9】
請求項2から4いずれかに記載の生体物質分析セルと、
前記音響整合層と前記試料供給空間との界面に対して、該界面の法線方向から超音波を照射する超音波照射手段と、
前記超音波によって前記界面上に定在波が生じると共に、該定在波の節が前記界面に位置するように、前記超音波照射手段を制御する超音波制御手段とを備えたことを特徴とする生体物質分析装置。
【請求項10】
請求項5から8いずれかに記載の生体物質分析チップと、
前記音響整合層と前記流路との界面に対して、該界面の法線方向から超音波を照射する超音波照射手段と、
前記超音波によって前記界面上に定在波が生じると共に、該定在波の節が前記界面に位置するように、前記超音波照射手段を制御する超音波制御手段とを備えたことを特徴とする生体物質分析装置。
【請求項1】
試料供給空間を有する反応槽と、該反応槽の内壁であって他の内壁と対向するものの所定領域に設けられた音響整合層と、前記反応槽内に設けられたセンサ部とを備えた生体物質分析セルを用いて、
被検物質を含有する液体試料を前記試料供給空間に供給し、
前記音響整合層および前記試料供給空間の界面と、前記音響整合層に対向する前記反応槽の内壁との間で、節が前記界面に位置するような定在波を生じせしめるように超音波を照射し、
前記節の方向に働く捕捉力によって、前記被検物質を前記界面に濃縮せしめ、
該濃縮せしめた前記被検物質を、前記センサ部に固定された、前記被検物質と特異的に結合する固定化結合物質で検出することを特徴とする生体物質分析方法。
【請求項2】
被検物質を含有する液体試料が供給される試料供給空間を形成する反応槽を備えた生体物質分析セルにおいて、
前記反応槽の内壁であって他の内壁と対向するものの所定領域に設けられた、超音波を透過せしめる音響整合層と、
該音響整合層の前記試料供給空間側の表面上に設けられたセンサ部であって、前記被検物質と特異的に結合する固定化結合物質が表面に固定されたセンサ部とを備えたことを特徴する生体物質分析セル。
【請求項3】
前記音響整合層に対向する前記反応槽の内壁面上に前記音響整合層に対向するように、または前記音響整合層の前記試料供給空間側とは反対側の面と接するように、反射層を備えたことを特徴とする請求項2に記載の生体物質分析セル。
【請求項4】
前記センサ部が、誘電体層および/または金属層を有するものであることを特徴とする請求項2または3に記載の生体物質分析セル。
【請求項5】
被検物質を含有する液体試料が流下される流路と、該流路に接続された、前記流路に前記液体試料を流入するための流入口と、前記流路に接続された、前記流路に流入された前記液体試料を流すための空気口とを形成する流路部材を備えた生体物質分析チップにおいて、
前記流入口と前記空気口との間の前記流路部材の内壁の所定領域に設けられた、超音波を透過せしめる音響整合層と、
該音響整合層の前記流路側の表面上および/または該表面から流路長さ方向にずれた位置にある内壁面上に設けられたセンサ部であって、前記被検物質と特異的に結合する固定化結合物質が表面に固定されたセンサ部とを備えたことを特徴する生体物質分析チップ。
【請求項6】
前記音響整合層に対向する前記流路部材の内壁面上に前記音響整合層に対向するように、または前記音響整合層の前記流路側とは反対側の面と接するように、反射層を備えたことを特徴とする請求項5に記載の生体物質分析チップ。
【請求項7】
前記センサ部が、誘電体層および/または金属層を有するものであることを特徴とする請求項5または6に記載の生体物質分析チップ。
【請求項8】
前記音響整合層よりも上流側の前記流路部材の内壁面上に配置された標識結合物質を備え、
該標識結合物質が、前記被検物質と特異的に結合する第1の修飾化結合物質、および前記被検物質と競合して前記固定化結合物質と特異的に結合する第2の修飾化結合物質のうちいずれか一方の修飾化結合物質と、該一方の修飾化結合物質が修飾された標識粒子とからなるものであることを特徴とする請求項5から7いずれかに記載の生体物質分析チップ。
【請求項9】
請求項2から4いずれかに記載の生体物質分析セルと、
前記音響整合層と前記試料供給空間との界面に対して、該界面の法線方向から超音波を照射する超音波照射手段と、
前記超音波によって前記界面上に定在波が生じると共に、該定在波の節が前記界面に位置するように、前記超音波照射手段を制御する超音波制御手段とを備えたことを特徴とする生体物質分析装置。
【請求項10】
請求項5から8いずれかに記載の生体物質分析チップと、
前記音響整合層と前記流路との界面に対して、該界面の法線方向から超音波を照射する超音波照射手段と、
前記超音波によって前記界面上に定在波が生じると共に、該定在波の節が前記界面に位置するように、前記超音波照射手段を制御する超音波制御手段とを備えたことを特徴とする生体物質分析装置。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図5】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図5】
【公開番号】特開2011−174857(P2011−174857A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40088(P2010−40088)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]