説明

生体物質分析装置および生体物質分析方法

【課題】生体物質を分析する分析チップが不均一な場合や、生体物質を含む検体試料の分析チップ中の展開が不均一の場合であっても、安価な近赤外光の検出器を使用して、生体物質を含む検体試料の分析を行うことができるようにする。
【解決手段】生体物質を含む検体試料を分析する分析チップ10の複数領域に、光源51から、近赤外域成分を含む光からなる複数のビーム55を照射して、複数領域からそれぞれ射出される出力光を、近赤外域の光を検出する第1の検出器62に入射させて検出させ、その結果から分析チップ10の正常領域を特定し、分析チップ10の正常領域の複数領域に、光源41から、生体物質との反応によって分析チップに生成される検出物質を検出する検出光からなる複数のビーム45をそれぞれ照射し、複数領域からそれぞれ射出される出力光を、検出光を検出する第2の検出器に入射させて検出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体物質分析装置および生体物質分析方法に関し、特に、点着された検体試料を展開するための展開層と、検体試料中の検査対象物と反応して発色する物質を生じる試薬を有する反応層とを備えた分析チップを使用する生体物質分析装置および生体物質分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような分析チップを使用して、生体物質の検体試料(全血、血漿、血清など)の分析を行う場合には、検体試料を分析チップの展開層上に点着すると、検体試料は、展開層中を展開し、反応層に達すると、検体試料中の検査対象物が反応層中の試薬と反応し発色する物質を生じる。光源からこの発色する物質に吸収される波長の光を含む検出光を反応層に照射すると、検出光は色素に吸収されるため、反応層からの拡散反射光が減少する。この減少量と検査対象物の物質量との相関を予め求めておき、この相関式(検量線)から検査対象物の物質量を定量することができる。
【0003】
しかしながら、展開層に使用する乳剤の塗り班による分析チップが不均一になったり、検体試料の点着不良等により、検体試料が展開層中に不均一に展開したりすることがある。これらのような場合には、反応層の検査対象領域の全面に検出光を照射して、反応層の検査対象領域の全面からの拡散反射光を検出する方法では、精度の高い測定ができないという問題がある。
【0004】
特許文献1には、生理学的試験片の複数の異なる領域からの反射光を二次元検出器であるCCDで検出して、十分なサンプルを有しているとされた領域からの反射率値で分析濃度を導出し、十分なサンプルを有していないと決定された各領域からの反射率値は使用しない技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−163393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生体物質は、水を含んでおり、この水に吸収され大気には吸収されない波長の光、好適には近赤外光を使用すれば、大気中で生体物質を検出することができる。しかしながら、CCDは0.8μmより短波長側の光にしか感度はなく、また、他の二次元センサも同じである。なお、近赤外光に感度のある特殊な二次元センサも存在するが非常に高価である。展開層と反応層とを備えた本乾式分析チップを用いたシステムは、安価・小型のニーズが高いPOCT(小型診断機)に用いられることが多いため高価な特殊な受光素子は採用できない。
【0007】
本発明の主な目的は、生体物質を分析する分析チップが不均一な場合や、生体物質を含む検体試料の分析チップ中の展開が不均一の場合であっても、安価な近赤外光の検出器を使用して、生体物質を含む検体試料の分析を行うことができる生体物質分析装置および生体物質分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、
生体物質を分析する分析チップを保持する分析チップ保持手段と、
近赤外域成分を含む光からなる複数の第1のビームを前記分析チップの複数領域にそれぞれ照射する第1の光源と、
前記生体物質との反応によって前記分析チップに生成される検出物質を検出する検出光からなる複数の第2のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれ照射する第2の光源と、
前記近赤外域成分を検出する第1の検出器と、
前記検出光を検出する第2の検出器と、
前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれ照射した際の前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第1の出力光を前記第1の検出器に入射させると共に、前記複数の第2のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれ照射した際の前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第2の出力光を前記第2の検出器に入射させる光学系と、を備える生体物質分析装置が提供される。
【0009】
好ましくは、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域に順次照射すると共に、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第1の出力光を前記第1の検出器によって順次検出し、前記複数の第2のビームを前記分析チップの前記複数領域に順次照射すると共に、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第2の出力光を前記第2の検出器によって順次検出するよう、前記第1の光源、前記第2の光源、前記第1の検出器、および前記第2の検出器を制御する制御手段をさらに備える。
【0010】
また、好ましくは、
前記第1の光源は、前記分析チップの前記複数領域にそれぞれ照射される前記複数の第1のビームをそれぞれ射出する複数の第1の副光源を備え、
前記第2の光源は、前記分析チップの前記複数領域にそれぞれ照射される前記複数の第2のビームをそれぞれ射出する複数の第2の副光源を備え、
前記制御手段によって前記第1の光源、前記第2の光源、前記第1の検出器、および前記第2の検出器を制御して、前記複数の第1の副光源を順次点灯して、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域に順次照射すると共に、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第1の出力光を前記第1の検出器によって順次検出し、前記複数の第2の副光源を順次点灯して、前記複数の第2のビームを前記分析チップの前記複数領域に順次照射すると共に、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第2の出力光を前記第2の検出器によって順次検出する。
【0011】
また、好ましくは、前記制御手段によって、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータを取得し、前記取得した前記複数のデータによって、前記複数領域のうちの正常領域を特定し、前記正常領域と特定された複数の領域からの前記第2の出力光を前記第2の検出器によって検出した複数のデータのみにより、前記生体物質の検査対象物の定量を行う。
【0012】
また、好ましくは、前記制御手段によって、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータを取得し、前記取得した前記複数のデータによって前記複数領域のうちの正常領域を特定し、前記正常領域と特定された複数の領域にのみ、前記第2の光源から前記検出光の複数の第2のビームをそれぞれ照射して、前記分析チップの前記正常領域と特定された複数の領域のみからのそれぞれの第2の出力光を前記第2の検出器によって検出した複数のデータにより、前記生体物質の検査対象物の定量を行う。
【0013】
また、好ましくは、前記制御手段によって、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータを取得し、前記取得した前記複数のデータによって前記複数領域のうちの正常領域を特定し、前記第2の光源から前記複数の第2のビームをそれぞれ照射して、前記分析チップの前記複数の領域からのそれぞれの前記第2の出力光を前記第2の検出器によって検出した複数のデータのうち、前記正常領域と特定された複数の領域のデータのみより、前記生体物質の検査対象物の定量を行う。
【0014】
また、好ましくは、前記正常領域の特定は、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータの平均±標準偏差内のデータを検出した領域を正常領域とすることで行う。
【0015】
また、好ましくは、前記第1の検出器は、0次元の近赤外線センサである。
【0016】
また、好ましくは、前記分析チップは、前記生体物質を含む検体試料を展開するための展開層と、前記生体物質中の検査対象物と反応して発色する物質を生じる試薬を有する反応層とを備えている。
【0017】
また、本発明によれば、
生体物質を分析する分析チップの複数領域に、第1の光源から、近赤外域成分を含む光からなる複数の第1のビームをそれぞれ照射して、前記複数の第1のビームを照射することにより前記分析チップの前記複数領域からそれぞれ射出される第1の出力光を、前記近赤外域成分を検出する第1の検出器に入射させて検出させる工程と、
前記分析チップの前記複数領域に、第2の光源から、前記生体物質との反応によって前記分析チップに生成される検出物質を検出する検出光からなる複数の第2のビームをそれぞれ照射し、複数の第2のビームを照射することにより前記分析チップの前記複数領域からそれぞれ射出される第2の出力光を、前記検出光を検出する第2の検出器に入射させて検出させる工程と、を備える生体物質分析方法が提供される。
【0018】
好ましくは、
前記第1の光源は、前記分析チップの前記複数領域にそれぞれ照射される前記複数の第1のビームをそれぞれ射出する複数の第1の副光源を備え、
前記第2の光源は、前記分析チップの前記複数領域にそれぞれ照射される前記複数の第2のビームをそれぞれ射出する複数の第2の副光源を備え、
前記複数の第1の副光源を順次点灯して、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域に順次照射すると共に、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第1の出力光を前記第1の検出器によって順次検出し、前記複数の第2の副光源を順次点灯して、前記複数の第2のビームを前記分析チップの前記複数領域に順次照射すると共に、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第2の出力光を前記第2の検出器によって順次検出する。
【0019】
また、好ましくは、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータより、前記複数領域のうちの正常領域を特定し、前記正常領域と特定された複数の領域からの前記第2の出力光を前記第2の検出器によって検出した複数のデータのみより、前記生体物質の検査対象物の定量を行う。
【0020】
また、好ましくは、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータを取得し、前記取得した前記複数のデータによって前記複数領域のうちの正常領域を特定し、前記正常領域と特定された複数の領域にのみ、前記第2の光源から前記検出光の複数の第2のビームをそれぞれ照射して、前記分析チップの前記正常領域と特定された複数の領域のみからのそれぞれの第2の出力光を前記第2の検出器によって検出した複数のデータのみより、前記生体物質の検査対象物の定量を行う。
【0021】
また、好ましくは、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータを取得し、前記取得した前記複数のデータによって前記複数領域のうちの正常領域を特定し、前記第1の光源から前記複数の第1のビームをそれぞれ照射して、前記分析チップの前記複数の領域からのそれぞれの前記第2の出力光を前記第2の検出器によって検出した複数のデータのうち、前記正常領域と特定された複数の領域のデータのみより、前記生体物質の検査対象物の定量を行う。
【0022】
また、好ましくは、前記正常領域の特定は、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータの平均±標準偏差内のデータを検出した領域を正常領域とすることで行う。
【0023】
また、好ましくは、前記第1の検出器は、0次元の近赤外線センサである。
【0024】
また、好ましくは、前記分析チップは、前記生体物質を含む検体試料を展開するための展開層と、前記生体物質中の検査対象物と反応して発色する物質を生じる試薬を有する反応層とを備えている。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、生体物質を分析する分析チップが不均一な場合や、生体物質を含む検体試料の分析チップ中の展開が不均一の場合であっても、安価な近赤外光の検出器を使用して、生体物質を含む検体試料の分析を行うことができる生体物質分析装置および生体物質分析方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1の実施の形態の生体物質分析装置および生体物質分析方法を説明するための概略構成図である。
【図2】展開層18に使用する乳剤の塗り班26による分析チップ10の不均一性を説明するための概略図である。
【図3】検体試料20の点着不良等による不均一性を説明するための概略図である。
【図4】水の吸収を示す図である。
【図5】大気の吸収を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態の生体物質分析装置および生体物質分析方法に使用される分析チップからの近赤外光の反射光と時間の関係を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態の生体物質分析方法を説明するための概略図である。
【図8】本発明の実施の形態の生体物質分析方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図9】本発明の実施の形態の生体物質分析方法の他の例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0028】
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態の生体物質分析装置を説明する。本発明の第1の実施の形態の生体物質分析装置100は、生体物質を分析するための分析チップ10を保持する分析チップ保持部30と、読み取りヘッド60と、コンピュータ70とを備えている。読み取りヘッド60は、検出光光源40と、近赤外光光源50と、検出器62と、分析チップ10からの光を検出器62に入射させる光学系61と、ダイロックミラー65を備えている。ダイロックミラー65は、検出光光源40からの検出光ビーム45を透過し、近赤外光光源50からの近赤外光ビーム55を反射する。コンピュータ70は、検出光光源40、近赤外光光源50および検出器62の制御と、後に説明する演算とを行う。
【0029】
分析チップ10は、PET等からなる透明支持体12上に設けられた反応層14と、反応層上14に設けられた反射層16と、反射層16上に設けられた展開層18とを備えている。展開層18では、生体物質を含む検体試料20が点着されると、毛細管現象によって展開していく。反射層16は、生体物質を含む検体試料20の光学的な影響を遮断するために用いられているが、検体試料20の種類や光源からの光の波長によっては省略することもできる。反応層14は、検体試料20中の検査対象物と反応して発色する物質を生じる試薬を備えている。
【0030】
反応層14でこの試薬が検体試料20中の検査対象物と反応して生じる発色する物質に吸収される波長の光を含む光(検出光)を分析チップ10の検出領域22に反応層14側から照射すると、分析チップ10によって(主に反応層14によって)吸収、透過、反射される。分析チップ10による反射光のうち、拡散反射光を検出することにより、検体試料20中の検査対象物を定量できる。検出光は、分析チップ10の検査対象領域22に照射されるが、図2に示すように、展開層18に使用する乳剤の塗り班26によって分析チップ10が不均一になったり、検体試料20の点着不良等により、図3に示すように、検体試料20が展開層18中に不均一に展開して、検査対象領域22中に不均一展開領域24を形成したりすることがある。これらのような場合には、分析チップ10の検査対象領域22の全面に検出光を照射して、分析チップ10の検査対象領域22の全面からの拡散反射光を検出する方法では、精度の高い測定ができなくなる
【0031】
そこで、本実施の形態では、図1に示すように、分析チップ10の検査対象領域22を複数の領域に仮想的に区分し、この複数の領域にそれぞれ1対1に対応して検出光をそれぞれ照射する複数のLED41を備えた検出光光源40を使用する。複数のLED41から検出光ビーム45をそれぞれ検査対象領域22の複数の領域に照射すると、検査対象領域22に複数のビームスポット43が生じる。これらの複数のビームスポット43に対して、分析チップ10からそれぞれ出力される検出光の拡散反射光を、光学系61によりそれぞれ検出器62に入射させる。検出器62はシリコンのフォトダイオード(図示せず)を備えており、分析チップ10からそれぞれ出力される検出光の検出を行う。本実施の形態では、複数のLED41を順次点灯して複数の検出光ビーム45を検査対象領域22の複数の領域に順次照射し、その際に分析チップ10の検査対象領域22から順次出力される検出光の検出を検出器62のシリコンのフォトダイオードで順次行う。
【0032】
次に、図4、図5を参照して、水の吸収と大気の吸収を説明する。図4は、水の吸収を示す図であり、図5は、大気の吸収を示す図である。近赤外域(0.7〜2.5μm)の波長域で、大気を透過し、水に強く吸収される波長が存在することがわかる。大気の窓をねらった1.4μm以下、1.6〜1.9μm、2.0〜2.5μmがおおよそ、その波長に相当する。生体物質は水を含んでいるので、この波長の光を含む光を使用すれば、大気中で生体物質を検出することができる。
【0033】
そこで、本実施の形態では、図1に示すように、分析チップ10の検査対象領域22を近赤外域(0.7〜2.5μm)の波長域の光を射出する近赤外光光源50を使用する。近赤外光光源50は、近赤外域(0.7〜2.5μm)の波長域の光を、分析チップ10の検査対象領域22を仮想的に区分した複数の領域に、それぞれ1対1に対応してそれぞれ照射する複数の赤外線LED51を備えている。なお、赤外線LED51から射出される近赤外光の波長は、好ましくは、1μm以上、より好ましくは、1.5μm以上である。
【0034】
複数のLED51から近赤外光ビーム55をそれぞれ検査対象領域22の複数の領域に照射すると、検査対象領域22に複数のビームスポット53が生じる。これらの複数のビームスポット53に対して、分析チップ10からそれぞれ出力される近赤外光の反射光(拡散反射光、正反射光)を、光学系61によりそれぞれ検出器62に入射させる。検出器62は近赤外線に感度を持つ0次元のセンサであるサーモパイル(図示せず)を備えており、分析チップ10からそれぞれ出力される近赤外光の検出を行う。本図ではレンズ61でLED41からの光を集光するよう描いたが、LED41用のレンズで赤外光を小さく集光することは難しく、LED51からの光に対しては十分収束しないため、フォトダイオードよりも大きなLED51の散乱光が62に入射する。フォトダイオードに隣接してサーモパイルを置けばLED51の散乱光を受光することは可能である。本実施の形態では、複数のLED51を順次点灯して複数の近赤外光ビーム55を検査対象領域22の複数の領域に順次照射し、その際に分析チップ10の検査対象領域22から順次出力される近赤外光の検出を検出器62のサーモパイルで順次行う。なお、複数のビームスポット53は、複数のビームスポット43にそれぞれ重なるように近赤外光ビーム55と検出光ビーム45とをそれぞれ検査対象領域22の複数の領域に照射する。
【0035】
本実施の形態のような分析チップ10を使用するドライ式の生化学検査においては、検体試料20は点着後展開層(メンブレン)18内を毛細管現象によって広がって、反射層16を通って反応層14に達し、そこで、反応層14中の試薬と反応して発色する物質を生じる。そして、検出光光源40からの光に対する分析チップ10から(主に反応層14から)の拡散反射光の強度を検出器62のフォトダイオード(図示せず)で検出すると、検体試料20中の検査対象物の濃度が測定できる。フォトダイオードで検出した拡散反射光の強度と、検体試料20中の検査対象物の濃度との関係を示す検量線を予め求めてコンピュータ60に記憶しておき、その検量線を使用して、フォトダイオードで検出した拡散反射光の強度から検体試料20中の検査対象物の濃度をコンピュータ70で求める。
【0036】
本実施の形態のような分析チップ10を使用するドライ式の生化学検査においては、検体試料20を展開層18に点着後、展開層(メンブレン)18内を毛細管現象によって広がっていく。分析チップ(スライド)10を垂直方向から見たとき、検体試料20は二次元的に展開していくが、検体試料20の点着の仕方等よっては、図3に示したように、検査対象領域22中に不均一展開領域24を形成する。
【0037】
図6は、分析チップ10からの近赤外光の反射光と時間の関係を示す図である。横軸は時間で、縦軸は検出器62内のサーモパイルで検出した、近赤外光の反射光の光量である。生体物質を含む検体試料20が点着されると、反射光の光量が、まず最初に、急に減少し(点着開始)、その後、検体試料20は、展開層18内を毛細管現象によって展開していく。検体試料20の展開層18内での展開が終了すると、反射光の光量が飽和し一定となるので、検体試料20の展開終了が検出できる。このように時間と共に反射光の光量が減少するので、その減少の程度を検出、例えば、ある時点での反射光の光量を検出すれば、展開の遅い領域を検出して、検査対象領域22中の不均一展開領域24を検出することができる。
【0038】
また、展開層18に使用する乳剤の塗り班26も、複数のLED51からの近赤外光の分析チップ10からの反射光を検出器62内のサーモパイルでそれぞれ検出すれば、検査対象領域22中の乳剤の塗り班26を検出することができる。
【0039】
検査対象領域22の複数の領域中の不均一展開領域24や乳剤の塗り班26等を除いた領域を正常領域として特定し、検出光光源40からの光に対する、この正常領域と特定された検査対象領域22の領域から出力される光を検出器62内のフォトダイオードで検出したデータのみを使用して、検体試料20中の検査対象物の定量を行う。
【0040】
なお、複数のLED51からの近赤外光を使用して、正常領域を特定するには、例えば、分析チップ10からの近赤外光の反射光の光量の平均値±標準偏差内の光量を検出した領域を正常領域とする。
【0041】
また、正常領域と特定された検査対象領域22の領域から出力される光を検出器62内のフォトダイオードで検出したデータのみを使用するには、図8に示すように、予め複数のLED51からの近赤外光を使用して、近赤外光ビーム55をそれぞれ検査対象領域22の複数の領域に照射し、検査対象領域22の複数の領域からの複数の出力光を検出し(ステップ101)、これた複数の出力光の光量によって正常領域を特定し(ステップ102)、その後、正常領域と特定された領域のみに、複数のLED41から複数の検出光ビーム45を照射し、正常領域と特定された領域のみから出力される検出光を検出器62のフォトダイオードで検出し(ステップ103)、この検出されたデータのみを用いて行ってもよく(ステップ104)、図9に示すように、予め複数のLED51からの近赤外光を使用して、複数の近赤外光ビーム55をそれぞれ検査対象領域22の複数の領域に照射し、検査対象領域22の複数の領域からの複数の出力光を検出し(ズテップ201)、また、複数のLED41から複数の検出光ビーム45をそれぞれ検査対象領域22の複数の領域に照射し、検査対象領域22の複数の領域からの複数の出力光を検出し(ステップ202)、複数のLED51からの近赤外光を使用して得た検査対象領域22の複数の領域からの複数の出力光のデータによって正常領域を特定し(ステップ203)、複数のLED41からの検出光を使用して得た検査対象領域22の複数の領域からの出力光のデータのうち、正常領域と特定された領域のみからのデータを用いてもよい(ステップ204)。
【0042】
図7を参照すれば、例えば、複数時間(図7では2点)において、測定を行うレート法の場合に、検体試料20を分析チップ10に点着し(検体点着)、その後、測定を2回行う(測定1、測定2)が(図7(b)参照)、本実施の形態では、検体点着前に複数のLED51からの近赤外光を使用して測定を行い(測定A)、その後、測定1と測定2の間にも測定を行う(測定B)。測定Aでは、展開層18に使用する乳剤の塗り班26等が検出でき、測定Bでは、検査対象領域22中の不均一展開領域24が検出できる。
【0043】
以上、本発明の種々の典型的な実施の形態を説明してきたが、本発明はそれらの実施の形態に限定されない。例えば、62に2種の受光素子を置かずに、ダイクロイックミラーを用い光路を分けて、夫々受光することも可能である。また、LED51の光を散乱反射光ではなく、正反射光を受光してもよい。本発明の範囲は、次の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【符号の説明】
【0044】
10 分析チップ
12 透明支持体
14 反応層
16 反射層
18 展開層
20 検体試料
22 検査対象領域
30 分析チップ保持部
40 検出光光源
41 検出光用LED
43 ビームスポット
50 近赤外光光源
51 近赤外光LED
53 ビームスポット
60 読み取りヘッド
61 光学系
62 検出器
65 ダイロックミラー
70 コンピュータ
100 生体物質分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体物質を分析する分析チップを保持する分析チップ保持手段と、
近赤外域成分を含む光からなる複数の第1のビームを前記分析チップの複数領域にそれぞれ照射する第1の光源と、
前記生体物質との反応によって前記分析チップに生成される検出物質を検出する検出光からなる複数の第2のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれ照射する第2の光源と、
前記近赤外域成分を検出する第1の検出器と、
前記検出光を検出する第2の検出器と、
前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれ照射した際の前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第1の出力光を前記第1の検出器に入射させると共に、前記複数の第2のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれ照射した際の前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第2の出力光を前記第2の検出器に入射させる光学系と、を備える生体物質分析装置。
【請求項2】
前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域に順次照射すると共に、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第1の出力光を前記第1の検出器によって順次検出し、前記複数の第2のビームを前記分析チップの前記複数領域に順次照射すると共に、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第2の出力光を前記第2の検出器によって順次検出するよう、前記第1の光源、前記第2の光源、前記第1の検出器、および前記第2の検出器を制御する制御手段をさらに備える請求項1記載の生体物質分析装置。
【請求項3】
前記第1の光源は、前記分析チップの前記複数領域にそれぞれ照射される前記複数の第1のビームをそれぞれ射出する複数の第1の副光源を備え、
前記第2の光源は、前記分析チップの前記複数領域にそれぞれ照射される前記複数の第2のビームをそれぞれ射出する複数の第2の副光源を備え、
前記制御手段によって前記第1の光源、前記第2の光源、前記第1の検出器、および前記第2の検出器を制御して、前記複数の第1の副光源を順次点灯して、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域に順次照射すると共に、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第1の出力光を前記第1の検出器によって順次検出し、前記複数の第2の副光源を順次点灯して、前記複数の第2のビームを前記分析チップの前記複数領域に順次照射すると共に、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第2の出力光を前記第2の検出器によって順次検出する請求項2記載の生体物質分析装置。
【請求項4】
前記制御手段によって、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータを取得し、前記取得した前記複数のデータによって、前記複数領域のうちの正常領域を特定し、前記正常領域と特定された複数の領域からの前記第2の出力光を前記第2の検出器によって検出した複数のデータのみにより、前記生体物質の検査対象物の定量を行う請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体物質分析装置。
【請求項5】
前記制御手段によって、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータを取得し、前記取得した前記複数のデータによって前記複数領域のうちの正常領域を特定し、前記正常領域と特定された複数の領域にのみ、前記第2の光源から前記検出光の複数の第2のビームをそれぞれ照射して、前記分析チップの前記正常領域と特定された複数の領域のみからのそれぞれの第2の出力光を前記第2の検出器によって検出した複数のデータにより、前記生体物質の検査対象物の定量を行う請求項4記載の生体物質分析装置。
【請求項6】
前記制御手段によって、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータを取得し、前記取得した前記複数のデータによって前記複数領域のうちの正常領域を特定し、前記第2の光源から前記複数の第2のビームをそれぞれ照射して、前記分析チップの前記複数の領域からのそれぞれの前記第2の出力光を前記第2の検出器によって検出した複数のデータのうち、前記正常領域と特定された複数の領域のデータのみより、前記生体物質の検査対象物の定量を行う請求項4記載の生体物質分析装置。
【請求項7】
前記正常領域の特定は、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータの平均±標準偏差内のデータを検出した領域を正常領域とすることで行う請求項4〜6のいずれか1項に記載の生体物質分析装置。
【請求項8】
前記第1の検出器は、0次元の近赤外線センサである請求項1〜7のいずれか1項に記載の生体物質分析装置。
【請求項9】
前記分析チップは、前記生体物質を含む検体試料を展開するための展開層と、前記生体物質中の検査対象物と反応して発色する物質を生じる試薬を有する反応層とを備えている請求項1〜8のいずれか1項記載の生体物質分析装置。
【請求項10】
生体物質を分析する分析チップの複数領域に、第1の光源から、近赤外域成分を含む光からなる複数の第1のビームをそれぞれ照射して、前記複数の第1のビームを照射することにより前記分析チップの前記複数領域からそれぞれ射出される第1の出力光を、前記近赤外域成分を検出する第1の検出器に入射させて検出させる工程と、
前記分析チップの前記複数領域に、第2の光源から、前記生体物質との反応によって前記分析チップに生成される検出物質を検出する検出光からなる複数の第2のビームをそれぞれ照射し、複数の第2のビームを照射することにより前記分析チップの前記複数領域からそれぞれ射出される第2の出力光を、前記検出光を検出する第2の検出器に入射させて検出させる工程と、を備える生体物質分析方法。
【請求項11】
前記第1の光源は、前記分析チップの前記複数領域にそれぞれ照射される前記複数の第1のビームをそれぞれ射出する複数の第1の副光源を備え、
前記第2の光源は、前記分析チップの前記複数領域にそれぞれ照射される前記複数の第2のビームをそれぞれ射出する複数の第2の副光源を備え、
前記複数の第1の副光源を順次点灯して、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域に順次照射すると共に、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第1の出力光を前記第1の検出器によって順次検出し、前記複数の第2の副光源を順次点灯して、前記複数の第2のビームを前記分析チップの前記複数領域に順次照射すると共に、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの第2の出力光を前記第2の検出器によって順次検出する請求項10記載の生体物質分析方法。
【請求項12】
前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータより、前記複数領域のうちの正常領域を特定し、前記正常領域と特定された複数の領域からの前記第2の出力光を前記第2の検出器によって検出した複数のデータのみより、前記生体物質の検査対象物の定量を行う請求項10または11に記載の生体物質分析方法。
【請求項13】
前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータを取得し、前記取得した前記複数のデータによって前記複数領域のうちの正常領域を特定し、前記正常領域と特定された複数の領域にのみ、前記第2の光源から前記検出光の複数の第2のビームをそれぞれ照射して、前記分析チップの前記正常領域と特定された複数の領域のみからのそれぞれの第2の出力光を前記第2の検出器によって検出した複数のデータのみより、前記生体物質の検査対象物の定量を行う請求項12記載の生体物質分析方法。
【請求項14】
前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータを取得し、前記取得した前記複数のデータによって前記複数領域のうちの正常領域を特定し、前記第1の光源から前記複数の第1のビームをそれぞれ照射して、前記分析チップの前記複数の領域からのそれぞれの前記第2の出力光を前記第2の検出器によって検出した複数のデータのうち、前記正常領域と特定された複数の領域のデータのみより、前記生体物質の検査対象物の定量を行う請求項12記載の生体物質分析方法。
【請求項15】
前記正常領域の特定は、前記複数の第1のビームを前記分析チップの前記複数領域にそれぞれに照射して、前記分析チップの前記複数領域からのそれぞれの前記第1の出力光を前記第1の検出器によって検出した複数のデータの平均±標準偏差内のデータを検出した領域を正常領域とすることで行う請求項10〜14のいずれか1項に記載の生体物質分析方法。
【請求項16】
前記第1の検出器は、0次元の近赤外線センサである請求項10〜15のいずれか1項に記載の生体物質分析方法。
【請求項17】
前記分析チップは、前記生体物質を含む検体試料を展開するための展開層と、前記生体物質中の検査対象物と反応して発色する物質を生じる試薬を有する反応層とを備えている請求項10〜16のいずれか1項記載の生体物質分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−215479(P2012−215479A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81312(P2011−81312)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】