説明

生体物質検出装置、反応用チップ、および生体物質検出方法

【課題】簡易な機構で流路内の往復送液を行うことが可能な、生体物質検出装置を得る。
【解決手段】反応領域を備えた流路203の両端に液溜204,205を有するDNAチップ20を、回転基板101上のDNAチップ固定部102,104に固定し、回転基板101を左回転させる。a1<a2のため遠心力により検体液は液溜205側に移動する。次に回転基板101に加速度を印加することにより、慣性力を利用してDNAチップ20をDNAチップ固定部103,105に移動させる。移動後、回転基板101を回転させると、b1>b2のため遠心力により検体液は液溜204側に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の塩基配列を有する核酸分子などの生体物質を検出するための、生体物質検出装置、反応用チップ、および生体物質検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液や組織細胞などの検体中に、疾患に由来する特定の遺伝子が存在するか否かを検査する手法の一つにDNAマイクロアレイがある。DNAマイクロアレイは、基板上に固定化されたプローブ遺伝子と検体中の遺伝子とを反応(ハイブリダイゼーション)させることにより、目標の遺伝子の有無を検出する。
ガラス基板等に微細流路が設けられたマイクロ流体デバイス中でハイブリダイゼーションを行う方法は、特に試料や試薬の量が少なくてすむため、広い分野での利用が期待されている。
【0003】
マイクロ流体デバイスを用いてハイブリダイゼーションを行う方法の例として、特許文献1には、第1の液溜と第2の液溜と、第1の液溜と第2の液溜とを結ぶ流路を有する化学反応デバイスの前記第1の液溜に溶液を導入し、前記化学反応デバイスを設置した回転基盤を回転させ、当該回転基盤の回転による遠心力によって前記第1の液溜中の溶液を前記流路を通して前記第2の液溜に送液し、前記化学反応デバイスを前記流路の向きが実質的に逆向きになるように再配置し、前記回転基盤の回転による遠心力によって前記第2の液溜中の溶液を前記流路を逆向きに通して送液する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2006−110523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示された装置では、回転基盤を回転させる機構と、化学反応デバイスを流路の向きが逆向きになるように再配置するための機構の両方を設ける必要があり、装置の構造が複雑であった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、簡易な機構で流路内の往復送液を行うことが可能な、生体物質検出装置、反応用チップ、および生体物質検出方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る生体物質検出装置は、回転基板と、前記回転基板の回転の方向及び速度を制御する回転制御部と、前記回転基板上の、回転中心と重ならない位置に設けられ、反応用チップを固定することが可能な第1の固定部および第2の固定部と、前記反応用チップを前記第1の固定部と前記第2の固定部の間で移動させるための移動手段を備え、前記反応用チップは、複数の反応領域を備えた流路と、前記流路の一端に接続された第1の液溜と、前記流路の他方の端部に接続された第2の液溜と、を備え、前記反応用チップが前記第1の固定部に固定されたときの、前記第1の液溜と前記回転中心との距離をa1、前記第2の液溜と前記回転中心との距離をa2、前記反応用チップが前記第2の固定部に固定されたときの、前記第1の液溜と前記回転中心との距離をb1、前記第2の液溜と前記回転中心との距離をb2、とすると、a1>a2かつb1<b2、または、a1<a2かつb1>b2であることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、反応用チップを前記第1の固定部に固定して回転基板を回転させる工程と、反応用チップを前記第2の固定部に固定して第1の固定部に固定したときとは逆方向に回転させる工程とを繰り返すことにより、簡易な機構で反応用チップ内の検体液を往復送液することができる。
【0009】
また、前記移動手段は、前記第1の固定部と前記第2の固定部を接続するレールであり、前記回転制御部によって前記回転基板に印加する回転加速度を制御することにより、慣性力を利用して、前記反応用チップを前記レールに沿って前記第1の固定部と前記第2の固定部の間で移動させることが望ましい。
これにより、回転基板に印加する回転加速度を制御するだけで、反応用チップを前記第1の固定部と前記第2の固定部の間で移動させることができるので、回転基板上で反応用チップを移動させるための駆動機構が不要であり、より簡易な機構で流路内の検体液の往復送液を行うことができる。
【0010】
また、前記第1の固定部と前記第2の固定部は、前記回転中心を重心とする正n角形(nは4以上の偶数)の頂点に対応する位置に設けられていることが望ましい。
これにより、回転中の反応用チップの位置が回転基板上で等間隔になり、回転バランスを保つことができる。また、レールを介して繋がっている第1の固定部と第2の固定部は、回転中心を通る直線に対して対称の位置にあるため、流路内での検体液の移動速度が往路と復路で等しくなり、反応の均一性を高めることができる。
【0011】
本発明に係る反応用チップは、上記の生体物質検出装置で用いられる反応用チップであって、前記第1の液溜及び前記第2の液溜の上部の開口部が気液分離膜で覆われているものである。
これにより、回転基板の回転中に検体液が外にこぼれ出る心配がない。このため回転速度を高め、大きな遠心力で検体液の移動を行うことができるので、送液時間を短縮することができる。また、気液分離膜を通して空気が外部に排出されるため、気泡が流路内に入って流路内での反応ばらつきが出るのを防ぐことができる。
【0012】
本発明に係る生体物質検出方法は、上記に記載の生体物質検出装置を用いた生体物質検出方法であって、前記反応用チップに検体液を供給する工程と、前記反応用チップを前記第1の固定部に固定する工程と、前記回転基板を回転させることにより、前記流路内の検体液を移動させる工程と、前記回転制御部によって、前記回転基板の回転の方向または速度の少なくとも一方を制御することにより、慣性力を利用して前記反応用チップを前記第1の固定部から前記第2の固定部へ移動させる工程と、前記回転基板を回転させることにより、前記前記反応用チップの流路内の検体液を前記第1の固定部に固定していたときとは逆の方向に移動させる工程と、を備えている。
【0013】
本発明によれば、回転基板の回転の方向または速度の少なくとも一方を制御するだけで、反応用チップ内の検体液を往復送液することができる。このように、回転基板上の反応用チップを移動させるための駆動機構が不要なので、簡易な機構で流路内の検体液の往復送液を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1による核酸検出装置(生体物質検出装置)10の概略構成を示す上面図である。また、図2は核酸検出装置10の概略構成を示す側面図である。核酸検出装置10は、回転基板101、DNAチップ固定部102〜105、レール106、回転軸107、回転基板101の回転制御モータ108を備えている。
【0015】
図1に示すように、DNAチップ固定部102〜105は、正4角形の頂点に対応する位置に配置されている。DNAチップ固定部102とDNAチップ固定部103はレール106で接続されており、レール106を介して、DNAチップ20をDNAチップ固定部102とDNAチップ固定部103の間で移動させることができる。また、DNAチップ固定部104とDNAチップ固定部105もレール106で接続されており、レール106を介して、DNAチップ20をDNAチップ固定部104とDNAチップ固定部105の間で移動させることができる。
【0016】
ここで、DNAチップ20をDNAチップ固定部102に固定したときの液溜204と回転軸107との距離をa1、液溜205と回転軸107との距離をa2、DNAチップ20をDNAチップ固定部103に固定したときの液溜204と回転軸107との距離をb1、液溜205と回転軸107との距離をb2とすると、図から明らかなように、a1<a2かつb1>b2である。同様に、DNAチップ20をDNAチップ固定部104に固定したときの液溜204と回転軸107との距離a1、液溜205と回転軸107との距離a2、DNAチップ20をDNAチップ固定部105に固定したときの液溜204と回転軸107との距離b1、液溜205と回転軸107との距離b2についても、a1<a2かつb1>b2が成り立つ。
【0017】
図3(A)はDNAチップ(反応用チップ)20の上面図、図3(B)は、図3(A)に示すB−B断面図である。DNAチップ20は、透明基板201,202、流路203、液溜204,205、気液分離膜206,207を備えている。
【0018】
流路203は透明基板202に形成されており、液溜204,205は透明基板201に形成されている。透明基板201,202は例えばガラス基板とすることができ、この場合には、流路203、液溜204,205は、サンドブラスト法等を用いて形成することができる。透明基板201と透明基板202は、液溜204,205が流路203の両端に接続されるように貼り合わされている。
【0019】
液溜204,205は、流路203との接続部の反対側に開口部を有し、それぞれ気液分離膜206,207によって覆われている。気液分離膜206,207は、4フッ化エチレン樹脂やポリジメチルシロキサン等で形成された膜であり、気体は透過させるが、液体の透過は遮断する性質を持つ。
【0020】
流路203の形状は、例えば検体が流れる方向に垂直な断面が直径100μmの半円とすることができる。流路203の内壁には、検体が流れる方向に間隔をおいてプローブが塗布された領域Rが形成されている。
【0021】
プローブには、例えば血液、尿、唾液、髄液のような検体試料に含まれる標的物質(ターゲット)を捕捉し得る物質を用いることができる。例えば、ターゲットがDNAやRNAのような核酸である場合には、プローブとしては、これらの核酸とハイブリダイゼーション(相補的に結合)する核酸やヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)等を用いることができる。このような核酸としては、例えばcDNAやPCR産物等が用いられる。なお、ターゲットは核酸に限られず、例えば特定のタンパク質であってもよい。この場合には、プローブとしては、このタンパク質を特異的に捕捉(例えば、吸着、結合等)するもの等が用いられる。具体的には、抗原、抗体、レセプター、酵素等のタンパク質、ペプチド(オリゴペプチド)等である。なお、各々の領域Rには、それぞれ異なる1種類のプローブが固定されている。これにより、1度に複数種類のターゲットの検出が可能である。
【0022】
なお、流路203の内壁にプローブが塗布された領域Rを形成するかわりに、流路203内に予めプローブが表面に固定されたビーズを導入するようにしてもよい。また、流路203の内壁にプローブが塗布された領域Rを形成したうえで、流路203内に、表面にプローブを固定していないビーズを導入するようにしてもよい。これにより、流路203内に導入したビーズにより乱流が起こり、検体液が撹拌されて反応効率を上げることができる。
【0023】
次に、本実施形態による核酸検出装置10を用いた、ターゲット(核酸)とプローブとのハイブリダイゼーション処理について説明する。
【0024】
まず、液溜204または液溜205からピペット等を用いて流路103の容積以上の検体液を供給する。検体液は、例えば血液、尿、唾液、髄液のような生体サンプルを含む。
検体液を供給した後、液溜204,205を気液分離膜206,207で覆い、DNAチップ20を核酸検出装置10のDNAチップ固定部102およびDNAチップ固定部104に取り付ける。
【0025】
次に、回転制御モータ108により、回転基板101を左回転で回転させて、遠心力により、DNAチップ20の流路203内の検体液を移動させる。ここで、上述したように、DNAチップ20をDNAチップ固定部102(またはDNAチップ固定部104)に固定した時の液溜204と回転軸107との距離a1、液溜205と回転軸107との距離a2の関係はa1<a2であるため、遠心力により検体液は液溜204から液溜205へ向かって移動する。
【0026】
図4は、DNAチップ20内の検体液の移動を説明する図である。回転基板101を回転させるにつれて、図4(A)から図4(C)に示すように、次第に検体液が右方向(液溜204から液溜205へ向かう方向)に移動していき、液溜205が一杯に満たされたところで検体液の移動が停止する。このとき、液溜205の開口部は気液分離膜207で覆われているため、移動した検体液が外に溢れ出ることはない。
【0027】
検体液の移動が停止したら、回転制御モータ108によって急激に回転を停止させるか、或いは、左回転を停止させた後に回転基板101に逆回転(ここでは右回転)の急激な加速を加える。これにより、DNAチップ固定部102に保持されていたDNAチップ20が、慣性力によりDNAチップ固定部103へ、DNAチップ固定部104に保持されていたDNAチップ20が慣性力によりDNAチップ固定部105へ移動する。
【0028】
DNAチップ20が移動したら、今度は回転基板101を右回転で回転させ、遠心力により、DNAチップ20の流路203内の検体液を移動させる。ここで、上述したように、DNAチップ20をDNAチップ固定部103(またはDNAチップ固定部105)に固定した時の液溜204と回転軸107との距離b1、液溜205と回転軸107との距離b2の関係はb1>b2であるため、遠心力により、検体液は液溜205から液溜204へ向かって移動する。液溜204が一杯に満たされたところで検体液の移動が停止する。
【0029】
検体液の移動が停止したら、回転制御モータ108によって急激に回転を停止させるか、或いは、右回転を停止させた後に回転基板101に左回転の急激な加速を加える。これにより、DNAチップ固定部103に保持されていたDNAチップ20が慣性力によりDNAチップ固定部102へ、DNAチップ固定部105に保持されていたDNAチップ20が慣性力によりDNAチップ固定部104へ移動する。
【0030】
以上の動作を繰り返して行うことにより、流路203内での検体液の往復送液を行うことが可能となる。
【0031】
図5を用いて、DNAチップ20を慣性力を利用して移動させる際の条件について説明する。
DNAチップ20が固定部からもう一方の固定部へ移動するためには、回転加速による慣性力がDNAチップ20にかかる遠心力よりも大きくなければならない。図5に示すように、回転基板101上のDNAチップ20の重心位置Mとし、回転基板101の中心と重心Mを通る直線線とレール106とのなす角度をθ、回転基板101の中心と固定部103にあるDNAチップの重心Mを通る直線線とレール106とのなす角度をθ0とすると、DNAチップ20にかかる遠心力F1と回転加速による慣性力F2は以下のように表すことができる。
【数1】

【数2】

但し、rは回転基板101の半径、Rは回転基板101の中心と重心Mとの距離、ω=At(A:回転加速度,t:時間)であり、DNAチップ20とレール106の摩擦計数を0と仮定する。
【0032】
DNAチップ20が一方の固定部から他方の固定部に移動するときにかかる力F(右向きを正とする。)は、F1とF2のレール106に平行な成分の和となるので、以下のように表される。
【数3】

ここで、DNAチップ20の加速度a(t)は、F(θ)=m・a(t)より、
【数4】

よって、DNAチップ20の速度をv(t)は、v(0)=0より、以下のように表される。
【数5】

ここで、DNAチップ20が一方の固定部から他方の固定部に移動するためには、θ=π/2のときv(t)>0でなければならないので、
【数6】

上式より、DNAチップ20が一方の固定部から他方の固定部に移動する条件はA>0かつθ0>0となる。なお、実際には、DNAチップ20とレール106との間には摩擦力が働くため、この摩擦力を上回る角加速度を与える必要がある。
【0033】
図6は、回転制御モータ108による回転基板101の回転速度ωの制御の例を示す図である。図に示す例では、回転の立ち上がり(図中Sで示す区間)で急激に加速することにより、DNAチップ20を一方の固定部から他方の固定部に移動させる例を示している。この例では、DNAチップ20内の検体液の1往復を20秒で行うことができる。
【0034】
以上のように、実施の形態1によれば、回転制御モータ108によって回転基板101の回転の方向と速度を制御するだけで、DNAチップ20内の検体液を往復送液することができる。このように、回転基板101上のDNAチップ20を移動させるための駆動機構が不要なので、簡易な機構で流路203内の検体液の往復送液を行うことができる。
【0035】
また、DNAチップ20の液溜204,205の開口部を気液分離膜206,207で覆うようにしたので、回転中に検体液が外にこぼれ出る心配がない。このため回転速度を高め、大きな遠心力で検体液の移動を行うことができるので、送液時間を短縮することができる。また、液溜204,205を空気を通さない膜で密閉してしまうと、空気が流路203内に入る恐れがあり、プローブと検体液との反応ばらつきが大きくなる恐れがあるため、液溜204,205は気液分離膜206,207で覆うことが望ましい。
【0036】
また、図7に示すように、1つのDNAチップ20に複数の流路203を設けるようにしてもよい。このような構成とすることにより、一つのDNAチップ20で複数の検体液を同時に処理することが可能となる。また、この場合、液溜204,205を気液分離膜206,207で覆うことにより、流路203間で検体液の移動時間に差があっても、液溜204,205に検体液を留めておくことで、移動時間の差を吸収することができ、全ての流路203で攪拌の回数を一定にすることができる。よって、流路203によって検体間の感度ばらつきのない信頼性の高い検査結果を得ることができる。
【0037】
また、図8に示すように、核酸検出装置10にヒーター109とヒーター制御装置110を設けるようにしてもよい。これにより、反応処理中にプローブと検体液との反応効率を高めるために、DNAチップ20を反応に適した一定温度に保つことができる。加熱方法としては、図8(A)に示すように、回転基板101自体を加熱する構成としてもよいし、図8(B)に示すように、回転基板101上の雰囲気の温度を制御する構成としてもよい。
【0038】
(変形例)
図9、図10は、本実施形態の変形例を示す図である。
上記の実施の形態1では、DNAチップ固定部102〜105を、正4角形の頂点に対応する位置に配置したが、正4角形の他にも、正n角形(nは4以上の偶数)の頂点に対応する位置にDNAチップ固定部を設ける構成にしてもよい。
【0039】
図9に示す例では、正6角形の頂点に対応する位置にDNAチップ固定部102〜105,111,112を設け、それぞれDNAチップ固定部102と103、DNAチップ固定部104と105、DNAチップ固定部111と112を結ぶ3辺に対応する位置にレール106を設けている。まず、DNAチップ固定部102,104,111にそれぞれDNAチップ20を固定して左回転し、次に、DNAチップ20をDNAチップ固定部103,105,112へ移動させ、今度は右回転を行う。これを繰り返すことにより、検体液の往復送液を行う。
【0040】
図10に示す例では、正4角形の頂点に対応する位置に2段にDNAチップ固定部102〜105,111〜114を設けている。DNAチップ固定部102〜105が上段、DNAチップ固定部111〜114が下段に設けられている。DNAチップ固定部102と103、DNAチップ固定部104と105、DNAチップ固定部111と112、DNAチップ固定部113と114は、それぞれレール106で繋がっている。まず、DNAチップ固定部102,104,111,113にそれぞれDNAチップ20を固定して左回転し、次に、DNAチップ20をDNAチップ固定部103,105,112,114へ移動させ、今度は右回転を行う。これを繰り返すことにより、検体液の往復送液を行う。
【0041】
以上のような構成にすることで、回転中のDNAチップ20の位置は、回転基板101上で等間隔になり、回転バランスを保つことができる。また、レール106によって繋がっている一方の固定部と他方の固定部は、回転中心を通る直線に対して対称の位置にあるため、流路203内での検体液の移動速度が往路と復路で等しくなり、反応の均一性を高めることができる。
【0042】
実施の形態2.
図11(A)は、本発明の実施の形態2による核酸検出装置(生体物質検出装置)10の概略構成を示す上面図である。また、図2は核酸検出装置10の概略構成を示す側面図である。図に示すように、実施の形態2では、核酸検出装置10は、磁石が組み込まれた移動用ロッド115と移動用ロッド115の駆動機構116を備えている。また、DNAチップ20には磁石208が組み込まれている。
【0043】
実施の形態1では、回転基板101の加速による慣性力を利用して、DNAチップ20をDNAチップ固定部間で移動させたが、実施の形態2では、磁力を利用してDNAチップ20を移動させる。
駆動機構116は、移動用ロッド115を移動させて、DNAチップ20の磁石208に近づけ、DNAチップ20を磁力によって引き寄せる。次に、駆動機構116はDNAチップ20を引き寄せたままの状態で移動用ロッド115を移動し、DNAチップ20をレール106に沿って他方のDNAチップ固定部まで移動させる。
【0044】
なお、実施の形態2では移動用ロッド115とDNAチップ20に磁石を組み込み、磁力を利用してDNAチップ20を移動させるようにしたが、その他の方法を採用することもできる。例えば、移動用ロッド115を駆動してDNAチップ20の端部を物理的に押すことによりレール106上を移動させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1による核酸検出装置(生体物質検出装置)の概略構成を示す上面図である。
【図2】本発明の実施の形態1による核酸検出装置の概略構成を示す側面図である。
【図3】図3(A)はDNAチップ(反応用チップ)の上面図、図3(B)は、図3(A)に示すB−B断面図である。
【図4】DNAチップ内の検体液の移動を説明する図である。
【図5】DNAチップを慣性力により移動させる際の条件について説明する図である。
【図6】回転基板の回転速度ωの制御の例を示す図である。
【図7】DNAチップの他の例の上面図である。
【図8】本発明の実施の形態1による核酸検出装置の他の例の概略構成を示す側面図である。
【図9】本発明の実施の形態1の変形例による核酸検出装置の概略構成を示す上面図である。
【図10】本発明の実施の形態1の変形例による核酸検出装置の概略構成を示す上面図である。
【図11】図11(A)は、本発明の実施の形態2による核酸検出装置(生体物質検出装置)の概略構成を示す上面図、図11(B)は、本発明の実施の形態2による核酸検出装置の概略構成を示す側面図である。
【符号の説明】
【0046】
10 核酸検出装置、101 回転基板、102〜105 DNAチップ固定部、106 レール、107 回転軸、108 回転制御モータ、109 ヒーター、110 ヒーター制御装置、115 移動用ロッド、116 駆動機構、20 DNAチップ、201,202 透明基板、203 流路、204,205 液溜、206,207 気液分離膜、208 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転基板と、
前記回転基板の回転の方向及び速度を制御する回転制御部と、
前記回転基板上の、回転中心と重ならない位置に設けられ、反応用チップを固定することが可能な第1の固定部および第2の固定部と、
前記反応用チップを前記第1の固定部と前記第2の固定部の間で移動させるための移動手段を備え、
前記反応用チップは、複数の反応領域を備えた流路と、前記流路の一端に接続された第1の液溜と、前記流路の他方の端部に接続された第2の液溜と、を備え、
前記反応用チップが前記第1の固定部に固定されたときの、前記第1の液溜と前記回転中心との距離をa1、前記第2の液溜と前記回転中心との距離をa2、前記反応用チップが前記第2の固定部に固定されたときの、前記第1の液溜と前記回転中心との距離をb1、前記第2の液溜と前記回転中心との距離をb2、とすると、
a1>a2かつb1<b2、または、a1<a2かつb1>b2
であることを特徴とする生体物質検出装置。
【請求項2】
前記移動手段は、前記第1の固定部と前記第2の固定部を接続するレールであり、
前記回転制御部によって前記回転基板に印加する回転加速度を制御することにより、慣性力を利用して、前記反応用チップを前記レールに沿って前記第1の固定部と前記第2の固定部の間で移動させることを特徴とする請求項1に記載の生体物質検出装置。
【請求項3】
前記第1の固定部と前記第2の固定部は、前記回転中心を重心とする正n角形(nは4以上の偶数)の頂点に対応する位置に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の生体物質検出装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の生体物質検出装置で用いられる反応用チップであって、
前記第1の液溜及び前記第2の液溜の上部の開口部が気液分離膜で覆われていることを特徴とする反応用チップ。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の生体物質検出装置を用いた生体物質検出方法であって、
前記反応用チップに検体液を供給する工程と、
前記反応用チップを前記第1の固定部に固定する工程と、
前記回転基板を回転させることにより、前記流路内の検体液を移動させる工程と、
前記回転制御部によって、前記回転基板の回転の方向または速度の少なくとも一方を制御することにより、慣性力を利用して前記反応用チップを前記第1の固定部から前記第2の固定部へ移動させる工程と、
前記回転基板を回転させることにより、前記反応用チップの流路内の検体液を前記第1の固定部に固定していたときとは逆の方向に移動させる工程と、を備えていることを特徴とする生体物質検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−145111(P2009−145111A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320845(P2007−320845)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】