生体状態評価装置、生体状態評価システム、プログラム、及び記録媒体
【課題】心臓の異常に関する状態を精度良く判定することができる、生体状態評価装置、生体状態評価システム、プログラム、及び記録媒体を提供すること。
【解決手段】ステップ110では、心電R波形から、心拍間隔RRIを求め、各心拍間隔RRIを記憶するとともに、その時系列データを定期的に更新する。ステップ120では、心拍変動解析を行う。ステップ130では、[HF]、[LF/HF]時系列データ処理を行う。[ln(LF/HF)]異常判定を行う。ステップ150では、[ln(LF/HF)]に基づいて設定される異常フラグが、異常があることを示す1又は2か、或いは異常がないことを示す0かを判定する。ステップ160では、[ln(LF/HF)]異常判定を行う。ステップ170では、異常パターンが、異常パターンa〜cのどれに該当するかを判定する。
【解決手段】ステップ110では、心電R波形から、心拍間隔RRIを求め、各心拍間隔RRIを記憶するとともに、その時系列データを定期的に更新する。ステップ120では、心拍変動解析を行う。ステップ130では、[HF]、[LF/HF]時系列データ処理を行う。[ln(LF/HF)]異常判定を行う。ステップ150では、[ln(LF/HF)]に基づいて設定される異常フラグが、異常があることを示す1又は2か、或いは異常がないことを示す0かを判定する。ステップ160では、[ln(LF/HF)]異常判定を行う。ステップ170では、異常パターンが、異常パターンa〜cのどれに該当するかを判定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者などの心拍間隔変動量等を用いて、心臓の異常を判定することができる生体状態判定装置、生体状態評価システム、プログラム、及び記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車事故は、人為的要因による原因が最も多く、ドライバの状態を計測する必要性が報告されている。
【0003】
例えば、長距離トラックドライバによる居眠り運転事故や、自動車の運転中に心血管系の異常を突如発生し、自動車事故が発生することが社会問題化している。特に、心血管系の異常については、今後の超高齢者化社会において、より一層問題化する可能性が高い。
【0004】
この対策として、下記特許文献1、2において、車両内で心拍を計測し、ドライバが正常な状態か否かをモニタする方法が提案されている。これらの技術は、いずれも、心拍数や心拍間隔変動量(HRV)の高周波成分(HF)について、絶対値に所定の閾値を設けて判定したり、初期からの増減率もしくは所定の時間内の増減率に所定の閾値を設け、モニタした値が閾値から外れたかどうかで異常か否かを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2005/112764
【特許文献2】特開平11−195198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来技術においては、HFの増減を観察しているが、健常者で運転可能な状態でも、ドライバの行動状態によってHFは大きく変動するため、正常を異常と誤判定する可能性がある。また、あまりに極端な閾値を設定しても、極端な例のみでしか事前に検出することは困難であり、感度(精度)低下を招く可能性が高い。
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、心臓の異常に関する状態を精度良く判定することができる生体状態判定装置、生体状態判定システム、プログラム、及び記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
今回、我々は、心臓の異常状態の直前の兆候(予兆)を見いだすために、24時間携帯型心電計を装着していた患者について、その記録を調べた。具体的には、偶然に心室細動を起こして死亡したか或いは自然に心室細動が停止して助かったか、又は、完全房室ブロックを起こして死亡したか或いは自然に回復して助かったかについて、そのイベントが記録された症例を31名収集して分析した。
【0009】
その結果、心臓の異常の発生前に、後述する図3〜図5に例示する様に、心電図に特有のパターン(即ち例えば異常パターンa〜c)が発生することを見いだし、本発明に到ったものである。以下、各請求項毎に説明する。
【0010】
(1)請求項1の発明では、心拍間隔及び脈拍間隔のうち少なくとも一方の生体情報に基づいて、心臓の異常を判定する生体状態評価装置において、前記心拍間隔及び脈拍間隔のうち少なくとも一方を周波数解析することによって、交感神経活動を示す第1の指標(例えば[LF/HF])及び副交感神経活動を示す第2の指標(例えば[HF])のうち少なくとも第1の指標を求める指標算出手段と、前記指標算出手段にて求めた指標の変動の程度が所定の期間にわたり所定値より小さいことを示す所定の条件を満たす基準時間帯か否かを判定する基準時間帯判定手段と、前記所定の条件が満たされた場合には、前記基準時間帯の後の所定の異常有無判定時間帯において、前記指標の増加及び減少の変化がそれぞれ前記基準時間帯における前記指標の変動より大きいことを示す所定の閾値以上であるとともに、前記増加及び減少の変化の割合が所定の閾値以上であるときには、前記心臓の異常の予兆と判定する異常判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明では、基準時間帯の後の異常有無判定時間帯において、指標(第1の指標及び第2の指標のうち少なくとも第1の指標)の増加及び減少の変化(変動幅)が所定の閾値以上であるとともに、その増加及び減少の変化の割合(変化率)が所定の閾値以上であるときには、心臓の異常(詳しくは異常の予兆)と判定する。
【0012】
つまり、前記図3〜図5の異常パターンa〜cに示す様に、(基準時間帯における指標の変動に比べて)指標が大きく変動するとともに、急速に増減が変化する場合には、心臓の異常の予兆であると判定する。これにより、心臓の実際の異常の発生を事前に予測することが可能となり、心臓の異常を精度良く検出することができる。
【0013】
以下、本発明の各構成について説明する。
【0014】
・本発明では、心室細動等の実際の心臓の異常ではなく、その異常の予兆をも異常とみなして判定する。
【0015】
・前記基準時間帯は、心臓に異常が無いとみなせる状態を示しており、その期間(時間)は、予め設定することができるが、状況に応じて可変とすることもできる。
【0016】
・前記異常有無判定時間帯とは、異常判定が行われる期間のことであり、基準時間帯と同様に予め設定することができる。なお、異常有無判定時間帯として、その期間を特に設定しなくともよい。その場合は、実際に異常判定を行う期間を異常有無判定時間帯とみなすことができる。
【0017】
・前記基準時間帯の指標の変動の程度が小さいことを示す所定の条件としては、例えば予め設定された時間において、指標の変動量が所定の閾値から外れる割合(期間)が基準値(所定値)より少ない条件が挙げられる。
【0018】
・前記指標の増加及び減少の変化(変動量)が基準時間帯における指標の変動より大きいことを示す所定の閾値としては、基準時間帯における指標の変動幅より大きな値や、基準時間帯における変動の中心から所定の幅等より大きな値を採用できる。
【0019】
なお、この閾値は、指標の増加及び減少で同じ値でも良いが、増加と減少で異なっていてもよい。
【0020】
・前記指標の増加及び減少の変化の割合が所定の閾値以上とは、増加及び減少とも、所定の閾値以上の変化率で変化することを示すが、その閾値は増加と減少の場合で異なっていてもよい。
【0021】
・なお、指標の増減とは、増加から減少に連続的に変化する場合でも、減少から増加に連続的に変化する場合でもよい。
【0022】
(2)請求項2の発明は、前記指標として、その指標の自然対数を用いることを特徴とする。
【0023】
本発明では、指標(例えば[LF/HF][HF])の自然対数をとることで、指標の値の分布を正規分布に近似させる。
【0024】
つまり、人によっては、指標の絶対値が大きくばらつくが、自然対数をとることで、個人差を低減することができ、統計的により正確な異常判定が可能となる。
【0025】
(3)請求項3の発明は、前記基準時間帯の所定の条件は、前記指標のばらつきが所定の閾値以下であることを特徴とする。
【0026】
前記指標のばらつき(例えば標準偏差:SD)が所定の閾値以下の場合は、指標の変動が少ないので、その条件を(心臓の異常がないとみなせる)基準時間帯として設定するのである。
【0027】
(4)請求項4の発明は、前記指標の増減の閾値は、前記基準時間帯における前記指標の平均値±1SDであることを特徴とする。
【0028】
本発明は、異常有無判定時間帯における指標の増減の閾値を例示したものである。なお、増加の場合の閾値が、基準時間帯における指標の平均値+1SDであり、減少の場合の閾値が、基準時間帯における指標の平均値−1SDである。
【0029】
(5)請求項5の発明は、前記指標の増減の閾値は、前記基準時間帯における前記指標の絶対値に応じて可変とすることを特徴とする。
【0030】
前記指標は、例えば年齢など人の状態により異なる変動状態となる。従って、異常有無判定時間帯における指標の増減の閾値を、基準時間帯における指標の絶対値に応じて可変とすることにより、より精度良く指標の増減を把握することができる。
【0031】
(6)請求項6の発明は、前記基準時間帯を、前記指標の過去のデータを使用して設定することを特徴とする。
【0032】
異常判定を行う場合は、基準時間帯の直後の異常有無判定時間帯に実施することができるが、基準時間帯の設定を、指標の過去のデータを用いて行うことも可能である。つまり、所定の条件を満たす期間を基準時間帯として採用し、その基準時間帯における指標の例えば平均値を用いて、前記指標の増減の判定に用いる閾値を設定してよい。
【0033】
(7)請求項7の発明は、前記異常判定手段は、前記異常有無判定時間帯における前記指標の変動幅が、前記基準時間帯における前記指標の平均±1.5〜3SDのときに、前記指標の変動の大きさに関する異常判定の条件を満たすと判定することを特徴とする。
【0034】
本発明は、異常有無判定時間帯において指標がどの程度変動した場合に、指標の増加及び減少に関して異常と判定するかを例示したものである。
【0035】
(8)請求項8の発明は、前記異常判定手段は、前記異常有無判定時間帯における前記指標の回帰直線の傾きに基づいて、前記異常の判定を行うことを特徴とする。
【0036】
回帰直線の傾きは、指標の増減の変化率を示しているので、この回帰直線の傾きを考慮して、異常の判定を行うことができる。
【0037】
(9)請求項9の発明は、前記回帰直線の傾きを判定する際の閾値は、前記基準時間帯における前記指標の絶対値に応じて可変とすることを特徴とする。
【0038】
前記請求項5に示した様に、前記指標は、例えば年齢など人の状態により異なる変動状態となる。従って、異常有無判定時間帯における回帰直線の傾きを判定する際の閾値を、基準時間帯における指標の絶対値に応じて可変とすることにより、より精度良く指標の増減を把握することができる。
【0039】
(10)請求項10の発明は、前記回帰直線の傾きの程度において、前記異常の程度を示す異常レベルを変更することを特徴とする。
【0040】
回帰直線の傾きは、異常の程度に応じて変化すると考えられる。従って、回帰直線の傾きに応じて、異常レベル(どの程度危険度が大きいかなど)を把握することができる。
【0041】
(11)請求項11の発明は、前記第1の指標と前記第2の指標とを用いる場合には、それぞれの指標に基づいて共に前記異常と判定されたときに、前記異常と判断することを特徴とする。
【0042】
第1の指標や第2の指標のどちらかで異常判定を行ってもよいが、両方の指標を用いることにより、異常判定の精度を高めることができる。
【0043】
(12)請求項12の発明は、前記第1の指標と前記第2の指標とを用いる場合には、前記第1の指標の増減と前記第2の指標の増減が逆方向に変動する条件を加えて、異常判定に用いる異常パターンを決定することを特徴とする。
【0044】
前記図3及び図5に示す様に、異常の予兆がある場合には、第1の指標の増減と第2の指標の増減が逆方向に変動するので、この変動の状態から異常パターンを決定することができる。これにより、一層精度良く異常判定を行うことができる。
【0045】
(13)請求項13の発明は、前記異常と判定された場合に、入眠時、睡眠中、又は起床時と判定された場合には、異常と判断しないことを特徴とする。
【0046】
入眠時、睡眠中、又は起床時には、その動作に起因する外乱により、異常判定を精度良く行えない可能性が高いので、入眠時、睡眠中、又は起床時に異常と判定されても、その判定を採用しないものである。
【0047】
(14)請求項14の発明は、前記生体状態評価装置は、車載装置であることを特徴とする。
【0048】
本発明は、上述した生体状態評価装置が車載装置であることを例示したものである。
【0049】
(15)請求項15の発明は、前記異常判定を、車両の走行中に実施することを特徴とする。
【0050】
本発明では、車載の生体状態評価装置により、走行中に異常の判定を行うことができる。
【0051】
(16)請求項16の発明(生体状態評価システム)は、請求項1〜15のいずれに記載する生体状態評価装置に加え、生体状態を検出するセンサ、判定結果に対応する報知内容を出力する出力装置、及び判定結果に応じた制御を行う制御装置の少なくとも1種を備えたことを特徴とする。
【0052】
従って、本発明では、センサによって得られた心電信号や脈波信号等に基づいて異常の判定を行うことができ、異常と判定された場合には、その結果等の報知を行ったり、その結果等に基づいた制御を行うことができる。
【0053】
(17)請求項17の発明は、前記異常と判定された場合には、自覚症状の問いかけの報知出力、心電波形計測を促す報知出力、及び血圧計測を促す報知出力のうち少なくとも1種を行うことを特徴とする。
【0054】
本発明では、心臓の異常の予兆が検出された場合には、自覚症状の問いかけの報知出力、心電波形計測を促す報知出力、及び血圧計測を促す報知出力のうち少なくとも1種を行うので、極めて安全性の高いものである。
【0055】
(18)請求項18の発明は、前記異常と判定された場合には、該異常判定とは異なる他の生体計測又は異常判定を促す報知出力を行うことを特徴とする。
【0056】
本発明では、心臓の異常の予兆が検出された場合には、異常の予兆の判定とは異なる他の生体計測や異常判定を促す報知出力を行うので、極めて安全性の高いものである。
【0057】
(19)請求項19の発明は、前記異常と判定された場合には、心電波形計測及び血圧計測のうち少なくとも1種を実施することを特徴とする。
【0058】
本発明では、心臓の異常の予兆が検出された場合には、心電波形計測及び血圧計測のうち少なくとも1種を実施するので、極めて安全性の高いものである。
【0059】
(20)請求項20の発明は、コンピュータを、請求項1〜15のいずれかに記載の生体状態判定装置として機能させるためのプログラムである。
【0060】
(21)請求項21の発明は、請求項20に記載のプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0061】
つまり、上述した様なプログラムをコンピュータシステムにて実現する機能は、例えば、コンピュータシステム側で起動するプログラムとして備えることができる。このようなプログラムの場合、例えば、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、ハードディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録し、必要に応じてコンピュータシステムにロードして起動することにより用いることができる。この他、ROMやバックアップRAM等をコンピュータ読み取り可能な記録媒体として前記プログラムを記録しておき、このROMあるいはバックアップRAM等をコンピュータシステムに組み込んで用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1のドライバ状態評価システムの主要な構成を示す説明図である。
【図2】心電センサによって得られる心電波形を示すグラフである。
【図3】異常パターンaの出力状態を示す説明図である。
【図4】異常パターンbの出力状態を示す説明図である。
【図5】異常パターンcの出力状態を示す説明図である。
【図6】[ln(LF/HF)]の出力の回帰直線の傾斜を示す説明図である。
【図7】実施例1の異常判定の処理を示すメインルーチンのフローチャートである。
【図8】心拍変動解析処理を示すフローチャートである。
【図9】[LF/HF][HF]時系列データ処理を示すフローチャートである。
【図10】[ln(LF/HF)]異常判定処理を示すフローチャートである。
【図11】[lnHF]異常判定処理を示すフローチャートである。
【図12】異常パターン判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0063】
次に、本発明の生体状態評価システム、生体状態評価装置、プログラム、及び記録媒体の実施例について、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0064】
ここでは、生体状態評価システムとして、自動車の運転者(ドライバ)の状態を評価するドライバ状態評価システムやそのシステムに用いられるドライバ状態評価装置を例に挙げて説明する。
【0065】
a)まず、本実施例のドライバ状態評価システムの基本構成について、図1及び図2に基づいて説明する。
【0066】
図1に示す様に、本実施例のドライバ状態評価システムは、ドライバの運転不適応状態(詳しくは心臓の異常の予兆)を判定することができるシステムであり、人体に取り付けて使用されて心電位を検出する心電センサ1と、この心電センサ1の計測データに基づいて各種の演算等を行ってドライバの状態を判定するドライバ状態評価装置3と、ドライバ状態評価装置3からの情報に基づいて車両を制御する信号を出力する車両制御装置5と、各種のデータを記憶するハードディスク等の記憶装置7と、ドライバ等への報知内容を表示する表示装置9と、外部装置との通信を行う通信装置11等から構成されている。
【0067】
以下、各構成について詳細に説明する。
【0068】
前記ドライバ状態評価装置3は、電子制御装置であり、心電センサ1からの信号を増幅する心電アンプ13と、心電アンプ13からのアナログ信号をデジタル信号に変換するADCである信号波形取得部15と、信号波形取得部15からの信号に基づいて各種の演算を行うマイクロコンピュータ17とを備えている。
【0069】
このマイクロコンピュータ17は、機能的に、後述する様に、心電センサ1からの信号の周波数解析等の処理を行う信号処理演算部19と、信号処理演算部19にて処理された値を用いてドライバの状態を判定するドライバ状態判定部21と、ドライバ状態判定部にて判定された結果に基づいて各種の制御を行う信号を出力する車両制御部23とを備えている。
【0070】
前記心電センサ1に関しては、例えば心電位を測定するための一対の電極(図示せず)が、車両を操舵するステアリング(図示せず)の表面にて運転者の各手の位置に配置され、心電センサ1の本体がステアリングの内部に埋め込まれものを採用できる。なお、これ以外にも、例えばシート内部電極を設けたシート型のセンサでもよい。
【0071】
ここで、心電センサ1によって得られる心電波形について説明する。
【0072】
図2に示す様に、心電波形は、主に、心房の電気的興奮を反映するP波と、心室の電気的興奮を反映するQ、R及びS波(QRS群)と、興奮した心室の心筋細胞が再分極する過程を反映するT波とから構成されている。このうち、R波の波高(電位差)が最も大きく、筋電位等のノイズに対して最も頑健であると言える。次に波高が大きいのがT波であり、P波が最も小さい波高を有する。
【0073】
なお、前記図2に示す心電波形のR波検出は、元波形もしくは微分波形から最大ピークを求める方法でもよいし、特開2007−301101号公報に開示されている様なテンプレートから求める方法でもよい。
【0074】
そして、心電図のうち、R波ピークとR波ピークの間隔を心拍間隔(RRI)と呼び、心拍間隔の逆数に60を乗ずることにより心拍数が算出できる。
【0075】
更に、心拍間隔変動量(HRV)から、人の状態評価が可能となる。この心拍間隔変動量を示す指標として、例えば心拍間隔を周波数解析(FFT等)することで、自律神経活動量を評価できると言われている。具体的には、心拍間隔を周波数解析したデータの高周波成分HF(0.15〜0.4Hz)は、副交感神経活動量を反映し、低周波成分LF(0.04〜0.15Hz)と高周波成分HFとの比(LF/HF)は、交感神経活動量を反映すると言われている。
【0076】
図1に戻り、前記信号処理演算部19は、心電波形取得部15にて取得した心電波形に基づいて、前述した心拍間隔(RRI)、心拍数、HFやLF/HFなどの心拍間隔変動量を示す指標を算出するものである。
【0077】
前記ドライバ状態判定部21は、信号処理演算部19で得られた心拍間隔(RRI)、心拍数、HFやLF/HFなどの心拍間隔変動量を示す指標の時系列変化から、ドライバの状態(運転不適状態)を推定する。ここでは、運転不適状態とは、実際に心臓に異常が発生した状態ではなく、心臓に異常が発生する前に生ずる予兆の現象が発生した状態である。
【0078】
前記車両制御部23は、ドライバ状態判定部21の判定結果に基づいて、ドライバや同乗者や車両等に対して、どのようなアクションを起こすかを決定し、その決定に応じた信号を、車両制御装置5、記憶装置7、表示装置9、通信装置11等に出力する。
【0079】
前記車両制御装置5は、ドライバ状態判定部21の判定結果に基づいて、ドライバが運転不適状態と判断された場合、車両制御部23からの指示により、例えばドライバの車両操作を支援するように自動的に段階的にブレーキをかけ、車両を安全に停車させたり、周囲の車両に注意を促すために、ハザードランプを点滅させたり等の制御を行う。
【0080】
前記記憶装置7は、車両制御部23にてデータの記憶が必要と判断された場合には、心電波形取得部15にて取得した心電波形、信号処理演算部19にて算出された心拍間隔、心拍間隔変動量HF、LF/Hや、ドライバ状態判定部21にて判定されたドライバの状態の判定結果などを記憶する。
【0081】
前記表示装置9は、液晶表示装置(LCD)や有機ELディスプレイ等の車載用表示装置(ナビゲーションのディスプレイ)であり、記憶装置7と同様に、心拍数(心拍間隔の逆数×60)、心拍間隔変動量、ドライバの状態の判定結果について表示する。
【0082】
前記通信装置11は、外部との通信を行うための装置であり、車両制御部23からの指示を受けて、医療機関や救急等の予め登録された連絡先に警報を発したり、車両の位置情報を送信するために使用される。
【0083】
b)次に、心電センサ1から得られるデータに基づいて、運転不適状態を判定する原理について説明する。
【0084】
ここでは、異常判定(詳しくは異常の予兆の判定)の手法として、図3〜図5に示す様に、異常パターンa〜cによる3種の手法があるので、それぞれ説明する。なお、各図は、心臓が実際の異常を発生する前の実データ[lnHF]、[ln(LF/HF)]であり、この[lnHF]、[ln(LF/HF)]は、後に詳述するが、[HF]、[LF/HF]の移動平均の自然対数をとったものである。なお、以下では,[]は、時系列データであることを示す。
【0085】
(1)異常パターンa
異常パターンaの場合には、図3に示す様に、[lnHF]、[ln(LF/HF)]の時系列データは、判定に使用する観察時間帯のうち、前半の所定の基準時間帯の変動に対し、基準時間帯後の所定の時間帯(異常有無判定時間帯)の変動に特徴がある。
【0086】
即ち、異常パターンaの場合には、異常有無判定時間帯には、交感神経活動の指標[ln(LF/HF)]が、急激に減少した後に急激に増加する。それとともに、副交感神経活動の指標[lnHF]が、急激に増加した後に急激に減少する。
【0087】
従って、この[lnHF]、[ln(LF/HF)]の変化から、運転不適状態を判定することができる。
【0088】
(2)異常パターンb
異常パターンbの場合には、図4に示す様に、[lnHF]、[ln(LF/HF)]の時系列データは、判定に使用する観察時間帯のうち、前半の所定の基準時間帯の変動に対し、基準時間帯後の所定の時間帯(異常有無判定時間帯)の変動に特徴がある。
【0089】
即ち、異常パターンbの場合には、異常有無判定時間帯には、交感神経活動の指標[ln(LF/HF)]が、急激に減少した後に急激に増加する。一方、副交感神経活動の指標[lnHF]は、前記異常パターンaのように減少しない。
【0090】
従って、この[ln(LF/HF)]の変化から、運転不適状態を判定することができる。
【0091】
(3)異常パターンc
異常パターンcの場合には、図5に示す様に、[lnHF]、[ln(LF/HF)]の時系列データは、判定に使用する観察時間帯のうち、前半の所定の基準時間帯の変動に対し、基準時間帯後の所定の時間帯(異常有無判定時間帯)の変動に特徴がある。
【0092】
即ち、異常パターンcの場合には、前記異常パターンaとは逆に、異常有無判定時間帯には、交感神経活動の指標[ln(LF/HF)]が、急激に増加した後に急激に減少する。それとともに、副交感神経活動の指標[lnHF)]が、急激に減少した後に急激に増加する。
【0093】
従って、この[lnHF]、[ln(LF/HF)]の変化から、運転不適状態を判定することができる。
【0094】
この様に、前記異常パターンa〜cを用いて、運転不適状態を判定することができる。なお、異常パターンa,cでは、[lnHF]、[ln(LF/HF)]の両方の変化で運転不適状態を判定するが、異常パターンbは、[ln(LF/HF)]のみの変化で運転不適状態を判定するので、異常パターンa、cが検出された場合には、より危険レベルが高い(即ち実際の心臓の異常が発生する可能性が高い)とみなすことができる。
【0095】
(4)基準時間帯の判定条件
ここでは、前記(1)〜(3)の異常パターンa〜cの判定の際に用いる基準時間帯について説明する。なお、本実施例では、基準時間帯を120分、異常有無判定時間帯を60分としている。
【0096】
図6に示す様に、前記基準時間帯は、その変動幅が小さいことが必要である。つまり、120分間にわたり、[ln(LF/HF)]の時系列データの平均値±1SD(標準偏差)からの外れ率が、所定の閾値を下回っている場合には、基準時間帯として採用する。
【0097】
なお、この基準時間帯における変動量の判定条件を、基準時間時間帯変動量判定条件<X>と称する。
【0098】
ここで、[lnHF]や[ln(LF/HF)]の絶対値には個人差があり、心機能が衰えるほど、絶対値が小さくなることが知られている。また、年齢が上がるほど、LFやLF/HFの絶対値が減衰することも知られている。
【0099】
そこで、本実施例では、以下の所定の閾値を設け、絶対値が大きい方が異常と判定されにくく、小さい方が異常と判定され易くなるように設定している。
【0100】
具体的には、「mean[ln(LF/HF)]±1SD≧1.5、又は、[ln(LF/HF)]の最大値≧1.5」の条件が満たされたときには、120分間の基準時間帯において、mean[ln(LF/HF)]±1SDから外れている時間の総和が、基準時間帯全体に対して1/4を、前記閾値としている。
【0101】
なお、mean[ln(LF/HF)]は、[ln(LF/HF)]の平均値であり、mean[ln(LF/HF)]±1SDは、図6のB点を示している。
【0102】
一方、「mean[ln(LF/HF)]±1SD≧1.5、又は、[ln(LF/HF)]の最大値≧1.5」の条件に当てはまらない場合には、120分間の基準時間帯において、mean[ln(LF/HF)]±1SDから外れている時間の総和が、基準時間帯全体に対して1/3を、前記閾値としている。
【0103】
これにより、[ln(LF/HF)]の絶対値が小さい方が、異常判定の条件が緩くなり、異常と判定し易くなるように設定されている。すなわち、異常を見つけやすくしている。
【0104】
なお、[lnHF]の基準時間帯についても、[ln(LF/HF)]と同様であるので、その説明は省略する。
【0105】
また、前記基準時間帯のデータは、正常時のデータベースの位置づけであり、異常判定をする毎に、必ずしも所定の基準時間帯のデータを計測する必要はない。例えば、過去に計測したデータを読み込んで基準時間帯の判定などを行ってもよく、この場合は、リアルタイムの基準時間帯の計測時間を省略することが可能である。
【0106】
(5)異常有無判定時間帯の判定条件
次に、基準時間帯に続く異常有無判定時間帯における変動に基づいて行われる異常判定について説明する。
【0107】
・本実施例では、所定の異常有無判定時間帯において、基準時間帯のmean[ln(LF/HF)]±3SDを外れる極小点又は極大点を検出し、基準時間帯後に増加、減少のどちらに急変するかを捉える。
【0108】
つまり、基準時間帯に続く極小点(又は極大点)をAとすると、「A≦mean[ln(LF/HF)]−3SD 又は、A≧mean[ln(LF/HF)]+3SD」を条件とする。なお、ここでは、閾値を3SDとしたが、2SD〜3SDの範囲を値を採用してもよい。
【0109】
例えば図6では、基準時間帯後に減少するデータを示しており、ここでは極小点(A)が検出される。
【0110】
なお、この異常有無判定時間帯における変動量の判定条件を、異常有無判定時間帯変動量判定条件<Y>と称する。
【0111】
ただし、単に変動量だけでは、増加又は減少の変化率が分からないので、実際の処理では、極小点(又は極大点)が、異常有無判定時間帯の半分(30分)以内の場合のみ、条件<Y>に該当するとしている。
【0112】
・次に、Aが極小点の場合は、極小点から急激に増加するか否かを判定する。逆に、Aが極大点に場合は、極大点から急激に減少するか否かを判定する。
【0113】
ここでは、極小点又は極大点からの所定の期間経過後(例えば異常有無判定時間帯の終了時点)までの回帰直線の傾きから、グラフの変化を判定する。
【0114】
なお、この回帰直線によるグラフの傾きの判定条件を、回帰直線傾斜判定条件<Z>と称する。
【0115】
ただし、単に回帰直線の傾きだけでは、極小点からの増加の変動幅(又は極大点からの減少の変動幅)が分からないので、実際の処理では、その変動幅も考慮する。例えば極小点(又は極大点)からの変動幅や、所定の位置(例えばmean[ln(LF/HF)])からの変動幅等を判定値として用い、実際の変動幅が判定値以上の場合のみ、条件<Z>に該当するとしている。
【0116】
以下では、図6のグラフが極小点から増加する場合を例に挙げて説明する。なお、グラフが極大点から減少する場合は、傾きの正負を逆とすればよい。
【0117】
図6に示す様に、所定の基準時間帯の開始時のmean[ln(LF/HF)]−3SDから、所定の基準時間帯の開始時のmean[ln(LF/HF)]+3SDになるまでの傾きをS1とする。
【0118】
これに対して、前記極小点から異常有無判定時間帯の終点までの[ln(LF/HF)]の回帰直線の傾きをS2とする。
【0119】
そして、以下の様にして、基準時間帯の変動幅に対する回帰直線の傾きの比較から、異常判定を行う。なお、この異常判定では、前記基準時間帯の安定性の判定同様、[ln(LF/HF)]の絶対値が小さいほど条件が緩くなるように設定し、異常をより見つけやすくしている。
【0120】
具体的には、基準時間帯のmean[ln(LF/HF)]+1.5SDをC点としたとき、下記の様に条件を設定する。なお、下記の条件は、実際の31人の患者から得られたデータから導き出されたものである。
【0121】
C<0のとき、
S2>S1×exp(C−0.5)
1>C≧0のとき、
S2>S1×(C+exp(−0.5))
C≧1のとき、
S2>S1×exp(C)
そして、上記条件を満たした場合、つまり、基準時間帯のS1よりもS2の方が傾きが急激に大きいときは、異常と判定する。
【0122】
なお、[lnHF]の異常有無判定時間帯についても、[ln(LF/HF)]と同様であるので、その説明は省略する。
【0123】
・また、ここでは、図3及び図4に示す[ln(LF/HF)]のV字型変動(減少→増加)を、1例に挙げたが、図5に示す様に、[ln(LF/HF)]の逆V字型変動(増加→減少)も、同様な考え方で判定することができる。
【0124】
このとき、増加→減少をとらえるため、傾きが負になるが、負側に大きいときに異常と判定することができる。
【0125】
また、図3に示す[lnHF]の逆V字型変動、図5に示す[lnHF]のV字型変動についても、前記と同様に異常判定することができる。
【0126】
更に、前記傾きに閾値を設ける方法とは別に、S1とS2の傾きの比率から、異常レベルを段階的に分けてもよい。例えば比(S2/S1)を求め、この比が大きくなるほど、異常の程度が大きい(異常のレベルが高い)と判断してもよい。
【0127】
これにより、異常レベルに応じて、アクションレベルを変えることもできる。例えば異常レベルが高いほど、警告の程度を強くするように、メッセージの内容を切り替えたり、或いは、車両の制御を安全側にしてもよい。例えば車速を低下したり、制動力をアップさせる制御を行ってもよい。
【0128】
c)次に、前記原理に基づいて、ドライバ状態評価装置3のマイクロコンピュータ17にて行われる処理について説明する。
【0129】
(1)まず、メインルーチンについて説明する。
【0130】
図7のフローチャートに示す様に、ステップ(S)100では、心電波形取得部15から得られた信号に基づいて、心電R波形を取得する。
【0131】
続くステップ110では、心電R波形から、心拍間隔RRIを求め、各心拍間隔RRIを記憶するとともに、その時系列データを定期的に更新する。この更新は、異常判定を行うタイミングに行われ、例えば1分毎とする。
【0132】
続くステップ120では、後に詳述する様に、心拍変動解析を行う。即ち、心拍間隔RRIの変動を解析し、最新の時系列データ[HF]、[LF/HF]を求める。
【0133】
続くステップ130では、後に詳述する様に、[HF]、[LF/HF]時系列データ処理を行う。即ち、[HF]、[LF/HF]から、異常判定に使用する[lnHF]、[ln(LF/HF)]を求める。
【0134】
続くステップ140では、後に詳述する様に、[ln(LF/HF)]異常判定を行う。即ち、[ln(LF/HF)]を用いて異常の有無(運転不適状態か否か)を判定し、異常の有無を示す異常判定フラグを設定する処理を行う。
【0135】
続くステップ150では、[ln(LF/HF)]に基づいて設定される異常フラグが、異常があることを示す1又は2か、或いは異常がないことを示す0かを判定する。ここで、異常フラグが1又は2である場合は、ステップ160に進み、一方、異常フラグが0である場合は、ステップ100に戻る。
【0136】
ステップ160では、後に詳述する様に、[lnHF]異常判定を行う。即ち、[lnHF]のデータに基づいて、更なる異常判定を行う。
【0137】
続くステップ170では、後に詳述する様に、異常パターン判定を行う。即ち、異常パターンが、前記異常パターンa〜cのどれに該当するかを判定する。
【0138】
続くステップ180では、後に詳述する様に、異常判定の結果に基づいて、車両制御のアクションを行う。即ち、車両制御装置5、記憶装置7、表示装置9、通信装置11等を用いて、様々な制御や処理を行い、一旦本処理を終了する。
【0139】
(2)次に、前記ステップ120の心拍変動解析処理について、図8に基づいて説明する。
【0140】
本処理は、心拍間隔RRIの周波数解析を行う処理である。
【0141】
図8のフローチャートに示す様に、ステップ100では、[RRI]の時系列データを入力する。
【0142】
続くステップ210では、[RRI]に重畳する身体の動きなどに伴うノイズを除去する。例えば対象とするRRIがその前後計10拍分のRRIの中央値に対して全データの標準偏差以上に外れているかを検出することによりノイズを除去する。
【0143】
続くステップ220では、[RRI]のリサンプリング処理により、等間隔時系列データを作成する。具体的には、公知であるBergerのアルゴリズムの処理を行う。
【0144】
続くステップ230では、前記ステップ220にて得られた[RRI]のデータに対して、周知の周波数解析(例えばFFT解析)を行い、所定の周波数帯域のパワーから、最新のHF、LF/HFを算出する。
【0145】
尚、パワースペクトルの振幅値(強度:パワー)が、特定の周波数成分(高周波成分HF、低周波成分LF)の変動量であり、この値の時間変化から各周波成分の変動量を連続的に把握することができる。また、HFやLFは、当該周波数帯の成分を積分することにより得ることができる。
【0146】
続くステップ240では、前記ステップ230で算出されたHF、LF/HFを出力し、一旦本処理を終了する。
【0147】
(3)次に、前記ステップ130の[LF/HF][HF]時系列データ処理について、図9に基づいて説明する。
【0148】
本処理は、異常判定に用いる自然対数の時系列データ[lnHF]、[ln(LF/HF)]を求める処理である。
【0149】
図9のフローチャートに示す様に、ステップ300では、HF、LF/HFを入力する。
【0150】
続くステップ310では、入力した最新のHF、LF/HFのデータを、[HF]、[LF/HF]の時系列データに入力して更新する。この[HF]、[LF/HF]は、現時刻から所定の過去時間分(判定に用いる時間帯:観察時間帯)のデータを示しており、本実施例では、観察時間帯を3時間としている。
【0151】
続くステップ320では、データをなますために、即ち異常判定に無関係な微変動を除去するために、前記[HF]、[LF/HF]の移動平均を求めた。つまり、例えば10分のデータの移動平均を求め、移動平均した時系列データ[m−HF]、[m−LF/HF]を作成した。
【0152】
続くステップ330では、移動平均した時系列データ[m−HF]、[m−LF/HF]の自然対数をとって、その時系列データ[lnHF]、[ln(LF/HF)]を作成した。
【0153】
なお、自然対数とすることで、[HF]、[LF/HF]の値の分布を正規分布に近似させる。つまり、人によってLF/HFなどの絶対値が大きく上下にばらつくが、これにより、その個人差を小さくし、統計的に正確に比較できるようにする。
【0154】
続くステップ340では、作成した自然対数をとった時系列データ[lnHF]、[ln(LF/HF)]を出力し、一旦本処理を終了する。
【0155】
(4)次に、前記ステップ140の[lnLF/HF]の異常判定処理について、図10に基づいて説明する。
【0156】
図10のフローチャートに示す様に、ステップ400では、自然対数をとった時系列データ[ln(LF/HF)]を入力する。
【0157】
続くステップ410では、[ln(LF/HF)]について、所定の異常有無判定帯の変動量を判定する。即ち、[ln(LF/HF)]が、上述した基準時間帯判定条件<X>の判定を行う。
【0158】
続くステップ420では、[ln(LF/HF)]について、所定の基準時間帯の変動量を判定する。即ち、[ln(LF/HF)]が、上述した異常有無判定時間帯判定条件<Y>の判定を行う。なお、異常有無判定時間の半分の時間に極大点又は極大点がある場合のみ、この<Y>の判定条件を満たすとする(以下同様)。
【0159】
続くステップ430では、基準時間帯判定条件<X>及び異常有無判定時間帯判定条件<Y>の両条件が、共に満たされたか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、心臓に異常が発生する可能性があるので、ステップ440に進み、一方、否定判断されると、心臓に異常が発生する可能性が無いとみなされるので、ステップ450に進む。
【0160】
ステップ450では、[ln(LF/HF)]のデータに基づく異常判定の結果、異常の可能性が無いので、そのことを示すフラグ、即ち、[ln(LF/HF)]異常判定フラグを0に設定し、ステップ495に進む。
【0161】
一方、ステップ440では、異常の可能性があるので、更に、所定の異常有無判定時間帯おいて、[ln(LF/HF)]の値が、減少から増加に急変したか否かを判定する。
【0162】
具体的には、前記回帰直線傾斜判定条件<Z>よる判定を行う。詳しくは、極小点から増加に向かうグラフの傾斜の程度が、所定の閾値以上の急な傾斜であるか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、ステップ490に進み、一方、否定判断されるとステップ460に進む。なお、極小点から増加するグラフの変動幅が、所定の判定値以上である場合のみ、この条件<Z>を満たすとする(以下同様)。
【0163】
この判定により、例えば図3の異常パターンaの上のグラフ([ln(LF/HF)]時系列データに対応するグラフ)に該当するか否かを判定することができる。
【0164】
ステップ490では、回帰直線の減少から増加への傾斜が、心臓の異常を示す異常パターンに合致するとして、そのことを示すために、[ln(LF/HF)]異常判定フラグを1に設定し、ステップ495に進む。
【0165】
前記ステップ440にて否定判断されて進むステップ460では、所定の異常有無判定時間帯おいて、[ln(LF/HF)]の値が、増加から減少に急変したか否かを判定する。この判定<Z>により、例えば図5の異常パターンcの上のグラフ([ln(LF/HF)]時系列データに対応するグラフ)に該当するか否かを判定することができる。
【0166】
具体的には、所定以上の変動幅で、且つ、極大点からの傾斜の程度が所定の閾値以上の急な傾斜であるか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、ステップ480に進み、一方、否定判断されるとステップ470に進む。
【0167】
ステップ480では、回帰直線の増加から減少への傾斜が、心臓の異常を示す異常パターンに合致するとして、そのことを示すために、[ln(LF/HF)]異常判定フラグを2に設定し、ステップ495に進む。
【0168】
ステップ470では、回帰直線の傾斜が緩やかであるので、異常の可能性が無いとして、[ln(LF/HF)]異常判定フラグを0に設定し、ステップ495に進む。
【0169】
ステップ495では、各ステップ450、470、480、490にて設定された[ln(LF/HF)]異常判定フラグの値を出力して、一旦本処理を終了する。
【0170】
(5)次に、前記ステップ160の[lnHF]の異常判定処理について、図11に基づいて説明する。
【0171】
この処理は、前記ステップ150にて、[ln(LF/HF)]異常判定フラグによる異常判定の結果、異常と判定された後に、更に、判定精度を高めるために、前記ステップ140と同様にして、[lnHF]データを用いて異常判定を行うものである。
【0172】
図11のフローチャートに示す様に、ステップ500では、自然対数をとった時系列データ[lnHF]を入力する。
【0173】
続くステップ510では、[lnHF]について、所定の異常有無判定帯の変動量を判定する。即ち、[lnHF]が、上述した基準時間帯判定条件<X>の判定を行う。
【0174】
続くステップ520では、[lnHF]について、所定の基準時間帯の変動量を判定する。即ち、[lnHF]が、上述した異常有無判定時間帯判定条件<Y>の判定を行う。なお、ここでも、異常有無判定時間の半分の時間に極大点又は極大点がある場合のみ、この<Y>の判定条件を満たすとする。
【0175】
続くステップ530では、基準時間帯判定条件<X>及び異常有無判定時間帯判定条件<Y>の両条件が、共に満たされたか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、ステップ540に進み、一方、否定判断されると、ステップ550に進む。
【0176】
ステップ550では、[lnHF]のデータに基づく異常判定の結果、異常の可能性が無いので、そのことを示すフラグ、即ち、[lnHF]異常判定フラグを0に設定し、ステップ595に進む。
【0177】
一方、ステップ540では、異常の可能性があるので、より判定精度を高めるために、更に、所定の異常有無判定時間帯おいて、[lnHF]の値が、減少から増加に急変したか否かを判定する。この判定により、例えば図5の異常パターンcの下のグラフ([lnHF]時系列データに対応するグラフ)に該当するか否かを判定することができる。
【0178】
具体的には、前記回帰直線傾斜判定条件<Z>よる判定を行う。詳しくは、所定の変動幅がある場合に、極小点から増加に向かうグラフの傾斜の程度が、所定の閾値以上の急な傾斜であるか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、ステップ590に進み、一方、否定判断されるとステップ560に進む。
【0179】
ステップ590では、回帰直線の減少から増加への傾斜が、心臓の異常を示す異常パターンに合致するとして、そのことを示すために、[lnHF]異常判定フラグを1に設定し、ステップ595に進む。
【0180】
前記ステップ540にて否定判断されて進むステップ560では、所定の異常有無判定時間帯おいて、[lnHF]の値が、増加から減少に急変したか否かを判定する。この判定<Z>により、例えば図3の異常パターンaの上のグラフ([lnHF]時系列データに対応するグラフ)に該当するか否かを判定することができる。
【0181】
具体的には、所定の変動幅である場合に、極大点からの傾斜の程度が所定の閾値以上の急な傾斜であるか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、ステップ580に進み、一方、否定判断されるとステップ570に進む。
【0182】
ステップ580では、回帰直線の増加から減少への傾斜が、心臓の異常を示す異常パターンに合致するとして、そのことを示すために、[lnHF]異常判定フラグを2に設定し、ステップ595に進む。
【0183】
ステップ570では、回帰直線の傾斜が緩やかであるので、異常の可能性が無いとして、[lnHF]異常判定フラグを0に設定し、ステップ595に進む。
【0184】
ステップ595では、各ステップ550、570、580、590にて設定された[lnHF)]異常判定フラグの値を出力して、一旦本処理を終了する。
【0185】
(6)次に、前記ステップ170の異常パターン判定について、図12に基づいて説明する。
【0186】
図12のフローチャートに示す様に、ステップ600では、[ln(LF/HF)]異常判定フラグの値と、[lnHF]異常判定フラグの値を入力する。
【0187】
続くステップ610では、[ln(LF/HF)]異常判定フラグが1で、且つ、[lnHF]異常判定フラグが2か否かを判定し、ここで肯定判断されるとステップ620に進み、一方否定判断されると、ステップ630に進む。
【0188】
ステップ620では、前記ステップ610にて、図3に示す異常パターンaに合致すると判定されたので、その判定結果を記憶し、一旦本処理を終了する。
【0189】
一方、ステップ630では、[ln(LF/HF)]異常判定フラグが2で、且つ、[lnHF]異常判定フラグが1か否かを判定し、ここで肯定判断されるとステップ640に進み、一方否定判断されると、ステップ650に進む。
【0190】
ステップ640では、前記ステップ630にて、図5に示す異常パターンcに合致すると判定されたので、その判定結果を記憶し、一旦本処理を終了する。
【0191】
一方、ステップ650では、[ln(LF/HF)]異常判定フラグが1で、且つ、[lnHF]異常判定フラグが0か否かを判定し、ここで肯定判断されるとステップ650に進み、一方否定判断されると、異常が無いとして、一旦本処理を終了する。
【0192】
ステップ660では、前記ステップ650にて、図4に示す異常パターンbに合致すると判定されたので、その判定結果を記憶し、一旦本処理を終了する。
【0193】
なお、異常パターンa〜cの違いは、異常パターンa、cの場合の方が、異常パターンbよりも、実際に心臓に異常が発生する可能性が高いと思われる。
【0194】
(7)次に、前記ステップ180の車両制御アクションについて、詳しく説明する。
【0195】
このステップ180では、ドライバ状態判定部21の判定結果に基づいて、ドライバや同乗者や車両等に対して、どのようなアクションを起こすかを決定し、その決定に応じた信号を、車両制御装置5、記憶装置7、表示装置9、通信装置11等に出力する。
【0196】
従って、上述した様に、車両制御装置5では、実際に心臓に異常が発生する可能性があると予想され、ドライバが運転不適状態と判断された場合には、例えばドライバの車両操作を支援するように自動的に段階的にブレーキをかけ、車両を安全に停車させたり、周囲の車両に注意を促すために、ハザードランプを点滅させたり等の制御を行う。
【0197】
また、記憶装置7では、車両制御部23にてデータの記憶が必要と判断された場合には、心電波形取得部15にて取得した心電波形、信号処理演算部19にて算出された心拍間隔、心拍間隔変動量HF、LF/Hや、ドライバ状態判定部21にて判定されたドライバの状態の判定結果などを記憶する。
【0198】
更に、表示装置9では、心拍数、心拍間隔変動量、ドライバの状態の判定結果について表示する。
【0199】
なお、運転不適状態の場合には、自覚症状を問いかけたり、場合によっては、車両を停車させるように警告メッセージ(アドバイス)を画面に表示させたりする。更には、付属のスピーカから音声メッセージを発したり、或いは、LED等の警告ランプを点滅させたりする。
【0200】
その上、通信装置11では、医療機関や救急等の予め登録された連絡先に警報を発したり、車両の位置情報を送信する。
【0201】
d)この様に、本実施例では、車両走行中などに、心拍間隔を周波数解析した結果から、[ln(LF/HF)]や[lnHF]の変動の状態を調べ、その変化の状態から運転不適状態(心臓の異常の予兆)を精度良く検出することができる。よって、ドライバにとって、心臓の異常を事前に把握できるので、安全上、極めて有効なものである。
【0202】
また、本実施例では、心電図R波のみを検出することにより異常を判定している。従って、PQRS波を全て検出する必要がないので、従来のPQRST波を全て検出して異常判定を行う方法に比べて、車両走行中などのノイズ環境下での検出が容易となる。
【0203】
しかし、この様なメリットの反面、心拍間隔変動量HRVは時間ゆらぎであり、その計算にはある程度のデータ長さが必要になり、応答性が低く、且つ、PQRST波ほどの情報を含んでいないという特性がある。
【0204】
そこで、その点を改良する手法として、心拍間隔変動量HRVによる異常判定をスクリーニングやトリガとして使用することが望ましい。
【0205】
具体的には、心拍間隔変動量HRVにより異常と判定した場合には、それだけで異常と判定せずに、例えばドライバの自覚症状の問いかけを実施する。例えば「心臓に異常を感じませんか」等の問いかけの出力を、表示装置9を用いて行う。
【0206】
また、車両が停車した安定した状態において、応答性の良い、心電図のPQRST波計測による不整脈判定や、血圧測定による血圧異常判定などを実施することを、表示装置9等を用いてアドバイスする。なお、実際に、心電波形の波形計測や血圧計測の装置を備えている場合には、心電波形の波形計測や血圧計測を実施してもよい。
【0207】
これにより、誤判定の少ない、より精度の高い異常判定が可能となる。
【0208】
更に、心臓の異常の予兆が検出された場合には、上述した異常の予兆の判定とは異なる他の生体計測(例えば体温、発汗)を促す報知出力を行ってもよい。また、ドライバの顔や行動、姿勢の画像や、車両挙動、操作などの車両信号も有用な判定指標であり、組み合わせてよい。
【0209】
なお、本実施例では、車載のドライバ状態評価装置3にて異常判定を行ったが、それとは別に、心電センサ1から得られた信号を、無線等により車外の外部装置に送信し、外部装置にて処理してもよい。
【実施例2】
【0210】
次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
【0211】
本実施例では、例えば異常有無判定時間帯における指標の減少の程度を、基準時間帯の終点からの極小点までの変動幅と、基準時間帯の終点から極小点に到る回帰直線の傾きから判定し、その後の増加の程度を、極小点からの増加の変動幅(或いは所定の変動幅)と、極小点からの回帰直線の傾きから判定してもよい。
【0212】
また、同様に、異常有無判定時間帯における指標の増加の程度を、基準時間帯の終点からの極大点までの変動幅と、基準時間帯の終点から極大点に到る回帰直線の傾きから判定し、その後の減少の程度を、極大点からの減少の変動幅(或いは所定の変動幅)と、極大点からの回帰直線の傾きから判定してもよい。
【0213】
本実施例によっても、前記実施例1と同様な効果を奏する。
【実施例3】
【0214】
次に、実施例3について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
【0215】
本実施例では、車両とは関係なく、既存の心電装置で同時に取得した心電波形を、パーソナルコンピュータに読み込み、パーソナルコンピュータにて、前記実施例1と同様な異常判定を行って、その結果を、記憶装置に記憶したり、ディスプレイ等に表示する。
【0216】
例えばホルター心電計に、前記実施例1で異常判定を行うためのプログラムを組み込み、同様に判定や制御を行ってもよい。また、携帯電話など、常時携帯できるウエアラブル機器に心電センサや異常判定のプログラムを組み込み、同様に判定や制御を行ってもよい。
【0217】
更に、病院や自宅のベッドマット型心拍計など、長時間体に接触する寝具を利用し、同様に異常判定や制御を行ってよい。
【0218】
また、入眠時、睡眠中、又は起床時には、本発明で異常と判定されるほど自律神経活動が大きく変動する可能性があるため、異常判定を精度良く行えない可能性が高いので、入眠時、睡眠中、又は起床時には、異常と判定されても、その判定を採用しないことが望ましい。
【0219】
なお、入眠時、睡眠中、又は起床時を判定する手法としては、睡眠ポリグラフ、アクティブグラフ等の公知の手法を採用できる。
【実施例4】
【0220】
次に、実施例4について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
【0221】
前記実施例1では、心電位の信号を用いて心拍間隔を求めたが、脈波センサにより検出した脈波信号を用いて、心拍間隔を推定してもよい。
【0222】
つまり、脈波とは、心臓の鼓動(心拍)に起因するものであるので、直接に心電位を求めるのではなく、脈波信号から間接的に心拍間隔を求めてもよい。
【0223】
なお、心拍間隔が得られた後の周波数解析や異常判定等の処理は、前記実施例1と同様であるので、その説明は省略する。
【0224】
なお、脈波信号から心拍間隔等を求める(推定する)技術は、周知であり、例えば特許第3729143号公報等に記載がある。
【0225】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【0226】
例えば前記実施例では、生体状態評価装置等について述べたが、本発明は、それらに限らず、上述したアルゴリズムに基づく処理を実行させるプログラムやそのプログラムを記憶している記録媒体にも適用できる。
【0227】
この記録媒体としては、マイクロコンピュータとして構成される電子制御装置、マイクロチップ、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク等の各種の記録媒体が挙げられる。つまり、上述した生体状態評価装置の処理を実行させることができるプログラムを記憶したものであれば、特に限定はない。
【0228】
尚、前記プログラムは、単に記録媒体に記憶されたものに限定されることなく、例えばインターネットなどの通信ラインにて送受信されるプログラムにも適用される。
【符号の説明】
【0229】
1…心電センサ
3…ドライバ状態評価装置
5…車両制御装置
7…記憶装置
9…表示装置
11…通信装置
13…心電アンプ
17…マイクロコンピュータ
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者などの心拍間隔変動量等を用いて、心臓の異常を判定することができる生体状態判定装置、生体状態評価システム、プログラム、及び記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車事故は、人為的要因による原因が最も多く、ドライバの状態を計測する必要性が報告されている。
【0003】
例えば、長距離トラックドライバによる居眠り運転事故や、自動車の運転中に心血管系の異常を突如発生し、自動車事故が発生することが社会問題化している。特に、心血管系の異常については、今後の超高齢者化社会において、より一層問題化する可能性が高い。
【0004】
この対策として、下記特許文献1、2において、車両内で心拍を計測し、ドライバが正常な状態か否かをモニタする方法が提案されている。これらの技術は、いずれも、心拍数や心拍間隔変動量(HRV)の高周波成分(HF)について、絶対値に所定の閾値を設けて判定したり、初期からの増減率もしくは所定の時間内の増減率に所定の閾値を設け、モニタした値が閾値から外れたかどうかで異常か否かを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2005/112764
【特許文献2】特開平11−195198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来技術においては、HFの増減を観察しているが、健常者で運転可能な状態でも、ドライバの行動状態によってHFは大きく変動するため、正常を異常と誤判定する可能性がある。また、あまりに極端な閾値を設定しても、極端な例のみでしか事前に検出することは困難であり、感度(精度)低下を招く可能性が高い。
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、心臓の異常に関する状態を精度良く判定することができる生体状態判定装置、生体状態判定システム、プログラム、及び記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
今回、我々は、心臓の異常状態の直前の兆候(予兆)を見いだすために、24時間携帯型心電計を装着していた患者について、その記録を調べた。具体的には、偶然に心室細動を起こして死亡したか或いは自然に心室細動が停止して助かったか、又は、完全房室ブロックを起こして死亡したか或いは自然に回復して助かったかについて、そのイベントが記録された症例を31名収集して分析した。
【0009】
その結果、心臓の異常の発生前に、後述する図3〜図5に例示する様に、心電図に特有のパターン(即ち例えば異常パターンa〜c)が発生することを見いだし、本発明に到ったものである。以下、各請求項毎に説明する。
【0010】
(1)請求項1の発明では、心拍間隔及び脈拍間隔のうち少なくとも一方の生体情報に基づいて、心臓の異常を判定する生体状態評価装置において、前記心拍間隔及び脈拍間隔のうち少なくとも一方を周波数解析することによって、交感神経活動を示す第1の指標(例えば[LF/HF])及び副交感神経活動を示す第2の指標(例えば[HF])のうち少なくとも第1の指標を求める指標算出手段と、前記指標算出手段にて求めた指標の変動の程度が所定の期間にわたり所定値より小さいことを示す所定の条件を満たす基準時間帯か否かを判定する基準時間帯判定手段と、前記所定の条件が満たされた場合には、前記基準時間帯の後の所定の異常有無判定時間帯において、前記指標の増加及び減少の変化がそれぞれ前記基準時間帯における前記指標の変動より大きいことを示す所定の閾値以上であるとともに、前記増加及び減少の変化の割合が所定の閾値以上であるときには、前記心臓の異常の予兆と判定する異常判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明では、基準時間帯の後の異常有無判定時間帯において、指標(第1の指標及び第2の指標のうち少なくとも第1の指標)の増加及び減少の変化(変動幅)が所定の閾値以上であるとともに、その増加及び減少の変化の割合(変化率)が所定の閾値以上であるときには、心臓の異常(詳しくは異常の予兆)と判定する。
【0012】
つまり、前記図3〜図5の異常パターンa〜cに示す様に、(基準時間帯における指標の変動に比べて)指標が大きく変動するとともに、急速に増減が変化する場合には、心臓の異常の予兆であると判定する。これにより、心臓の実際の異常の発生を事前に予測することが可能となり、心臓の異常を精度良く検出することができる。
【0013】
以下、本発明の各構成について説明する。
【0014】
・本発明では、心室細動等の実際の心臓の異常ではなく、その異常の予兆をも異常とみなして判定する。
【0015】
・前記基準時間帯は、心臓に異常が無いとみなせる状態を示しており、その期間(時間)は、予め設定することができるが、状況に応じて可変とすることもできる。
【0016】
・前記異常有無判定時間帯とは、異常判定が行われる期間のことであり、基準時間帯と同様に予め設定することができる。なお、異常有無判定時間帯として、その期間を特に設定しなくともよい。その場合は、実際に異常判定を行う期間を異常有無判定時間帯とみなすことができる。
【0017】
・前記基準時間帯の指標の変動の程度が小さいことを示す所定の条件としては、例えば予め設定された時間において、指標の変動量が所定の閾値から外れる割合(期間)が基準値(所定値)より少ない条件が挙げられる。
【0018】
・前記指標の増加及び減少の変化(変動量)が基準時間帯における指標の変動より大きいことを示す所定の閾値としては、基準時間帯における指標の変動幅より大きな値や、基準時間帯における変動の中心から所定の幅等より大きな値を採用できる。
【0019】
なお、この閾値は、指標の増加及び減少で同じ値でも良いが、増加と減少で異なっていてもよい。
【0020】
・前記指標の増加及び減少の変化の割合が所定の閾値以上とは、増加及び減少とも、所定の閾値以上の変化率で変化することを示すが、その閾値は増加と減少の場合で異なっていてもよい。
【0021】
・なお、指標の増減とは、増加から減少に連続的に変化する場合でも、減少から増加に連続的に変化する場合でもよい。
【0022】
(2)請求項2の発明は、前記指標として、その指標の自然対数を用いることを特徴とする。
【0023】
本発明では、指標(例えば[LF/HF][HF])の自然対数をとることで、指標の値の分布を正規分布に近似させる。
【0024】
つまり、人によっては、指標の絶対値が大きくばらつくが、自然対数をとることで、個人差を低減することができ、統計的により正確な異常判定が可能となる。
【0025】
(3)請求項3の発明は、前記基準時間帯の所定の条件は、前記指標のばらつきが所定の閾値以下であることを特徴とする。
【0026】
前記指標のばらつき(例えば標準偏差:SD)が所定の閾値以下の場合は、指標の変動が少ないので、その条件を(心臓の異常がないとみなせる)基準時間帯として設定するのである。
【0027】
(4)請求項4の発明は、前記指標の増減の閾値は、前記基準時間帯における前記指標の平均値±1SDであることを特徴とする。
【0028】
本発明は、異常有無判定時間帯における指標の増減の閾値を例示したものである。なお、増加の場合の閾値が、基準時間帯における指標の平均値+1SDであり、減少の場合の閾値が、基準時間帯における指標の平均値−1SDである。
【0029】
(5)請求項5の発明は、前記指標の増減の閾値は、前記基準時間帯における前記指標の絶対値に応じて可変とすることを特徴とする。
【0030】
前記指標は、例えば年齢など人の状態により異なる変動状態となる。従って、異常有無判定時間帯における指標の増減の閾値を、基準時間帯における指標の絶対値に応じて可変とすることにより、より精度良く指標の増減を把握することができる。
【0031】
(6)請求項6の発明は、前記基準時間帯を、前記指標の過去のデータを使用して設定することを特徴とする。
【0032】
異常判定を行う場合は、基準時間帯の直後の異常有無判定時間帯に実施することができるが、基準時間帯の設定を、指標の過去のデータを用いて行うことも可能である。つまり、所定の条件を満たす期間を基準時間帯として採用し、その基準時間帯における指標の例えば平均値を用いて、前記指標の増減の判定に用いる閾値を設定してよい。
【0033】
(7)請求項7の発明は、前記異常判定手段は、前記異常有無判定時間帯における前記指標の変動幅が、前記基準時間帯における前記指標の平均±1.5〜3SDのときに、前記指標の変動の大きさに関する異常判定の条件を満たすと判定することを特徴とする。
【0034】
本発明は、異常有無判定時間帯において指標がどの程度変動した場合に、指標の増加及び減少に関して異常と判定するかを例示したものである。
【0035】
(8)請求項8の発明は、前記異常判定手段は、前記異常有無判定時間帯における前記指標の回帰直線の傾きに基づいて、前記異常の判定を行うことを特徴とする。
【0036】
回帰直線の傾きは、指標の増減の変化率を示しているので、この回帰直線の傾きを考慮して、異常の判定を行うことができる。
【0037】
(9)請求項9の発明は、前記回帰直線の傾きを判定する際の閾値は、前記基準時間帯における前記指標の絶対値に応じて可変とすることを特徴とする。
【0038】
前記請求項5に示した様に、前記指標は、例えば年齢など人の状態により異なる変動状態となる。従って、異常有無判定時間帯における回帰直線の傾きを判定する際の閾値を、基準時間帯における指標の絶対値に応じて可変とすることにより、より精度良く指標の増減を把握することができる。
【0039】
(10)請求項10の発明は、前記回帰直線の傾きの程度において、前記異常の程度を示す異常レベルを変更することを特徴とする。
【0040】
回帰直線の傾きは、異常の程度に応じて変化すると考えられる。従って、回帰直線の傾きに応じて、異常レベル(どの程度危険度が大きいかなど)を把握することができる。
【0041】
(11)請求項11の発明は、前記第1の指標と前記第2の指標とを用いる場合には、それぞれの指標に基づいて共に前記異常と判定されたときに、前記異常と判断することを特徴とする。
【0042】
第1の指標や第2の指標のどちらかで異常判定を行ってもよいが、両方の指標を用いることにより、異常判定の精度を高めることができる。
【0043】
(12)請求項12の発明は、前記第1の指標と前記第2の指標とを用いる場合には、前記第1の指標の増減と前記第2の指標の増減が逆方向に変動する条件を加えて、異常判定に用いる異常パターンを決定することを特徴とする。
【0044】
前記図3及び図5に示す様に、異常の予兆がある場合には、第1の指標の増減と第2の指標の増減が逆方向に変動するので、この変動の状態から異常パターンを決定することができる。これにより、一層精度良く異常判定を行うことができる。
【0045】
(13)請求項13の発明は、前記異常と判定された場合に、入眠時、睡眠中、又は起床時と判定された場合には、異常と判断しないことを特徴とする。
【0046】
入眠時、睡眠中、又は起床時には、その動作に起因する外乱により、異常判定を精度良く行えない可能性が高いので、入眠時、睡眠中、又は起床時に異常と判定されても、その判定を採用しないものである。
【0047】
(14)請求項14の発明は、前記生体状態評価装置は、車載装置であることを特徴とする。
【0048】
本発明は、上述した生体状態評価装置が車載装置であることを例示したものである。
【0049】
(15)請求項15の発明は、前記異常判定を、車両の走行中に実施することを特徴とする。
【0050】
本発明では、車載の生体状態評価装置により、走行中に異常の判定を行うことができる。
【0051】
(16)請求項16の発明(生体状態評価システム)は、請求項1〜15のいずれに記載する生体状態評価装置に加え、生体状態を検出するセンサ、判定結果に対応する報知内容を出力する出力装置、及び判定結果に応じた制御を行う制御装置の少なくとも1種を備えたことを特徴とする。
【0052】
従って、本発明では、センサによって得られた心電信号や脈波信号等に基づいて異常の判定を行うことができ、異常と判定された場合には、その結果等の報知を行ったり、その結果等に基づいた制御を行うことができる。
【0053】
(17)請求項17の発明は、前記異常と判定された場合には、自覚症状の問いかけの報知出力、心電波形計測を促す報知出力、及び血圧計測を促す報知出力のうち少なくとも1種を行うことを特徴とする。
【0054】
本発明では、心臓の異常の予兆が検出された場合には、自覚症状の問いかけの報知出力、心電波形計測を促す報知出力、及び血圧計測を促す報知出力のうち少なくとも1種を行うので、極めて安全性の高いものである。
【0055】
(18)請求項18の発明は、前記異常と判定された場合には、該異常判定とは異なる他の生体計測又は異常判定を促す報知出力を行うことを特徴とする。
【0056】
本発明では、心臓の異常の予兆が検出された場合には、異常の予兆の判定とは異なる他の生体計測や異常判定を促す報知出力を行うので、極めて安全性の高いものである。
【0057】
(19)請求項19の発明は、前記異常と判定された場合には、心電波形計測及び血圧計測のうち少なくとも1種を実施することを特徴とする。
【0058】
本発明では、心臓の異常の予兆が検出された場合には、心電波形計測及び血圧計測のうち少なくとも1種を実施するので、極めて安全性の高いものである。
【0059】
(20)請求項20の発明は、コンピュータを、請求項1〜15のいずれかに記載の生体状態判定装置として機能させるためのプログラムである。
【0060】
(21)請求項21の発明は、請求項20に記載のプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0061】
つまり、上述した様なプログラムをコンピュータシステムにて実現する機能は、例えば、コンピュータシステム側で起動するプログラムとして備えることができる。このようなプログラムの場合、例えば、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、ハードディスク等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録し、必要に応じてコンピュータシステムにロードして起動することにより用いることができる。この他、ROMやバックアップRAM等をコンピュータ読み取り可能な記録媒体として前記プログラムを記録しておき、このROMあるいはバックアップRAM等をコンピュータシステムに組み込んで用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1のドライバ状態評価システムの主要な構成を示す説明図である。
【図2】心電センサによって得られる心電波形を示すグラフである。
【図3】異常パターンaの出力状態を示す説明図である。
【図4】異常パターンbの出力状態を示す説明図である。
【図5】異常パターンcの出力状態を示す説明図である。
【図6】[ln(LF/HF)]の出力の回帰直線の傾斜を示す説明図である。
【図7】実施例1の異常判定の処理を示すメインルーチンのフローチャートである。
【図8】心拍変動解析処理を示すフローチャートである。
【図9】[LF/HF][HF]時系列データ処理を示すフローチャートである。
【図10】[ln(LF/HF)]異常判定処理を示すフローチャートである。
【図11】[lnHF]異常判定処理を示すフローチャートである。
【図12】異常パターン判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0063】
次に、本発明の生体状態評価システム、生体状態評価装置、プログラム、及び記録媒体の実施例について、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0064】
ここでは、生体状態評価システムとして、自動車の運転者(ドライバ)の状態を評価するドライバ状態評価システムやそのシステムに用いられるドライバ状態評価装置を例に挙げて説明する。
【0065】
a)まず、本実施例のドライバ状態評価システムの基本構成について、図1及び図2に基づいて説明する。
【0066】
図1に示す様に、本実施例のドライバ状態評価システムは、ドライバの運転不適応状態(詳しくは心臓の異常の予兆)を判定することができるシステムであり、人体に取り付けて使用されて心電位を検出する心電センサ1と、この心電センサ1の計測データに基づいて各種の演算等を行ってドライバの状態を判定するドライバ状態評価装置3と、ドライバ状態評価装置3からの情報に基づいて車両を制御する信号を出力する車両制御装置5と、各種のデータを記憶するハードディスク等の記憶装置7と、ドライバ等への報知内容を表示する表示装置9と、外部装置との通信を行う通信装置11等から構成されている。
【0067】
以下、各構成について詳細に説明する。
【0068】
前記ドライバ状態評価装置3は、電子制御装置であり、心電センサ1からの信号を増幅する心電アンプ13と、心電アンプ13からのアナログ信号をデジタル信号に変換するADCである信号波形取得部15と、信号波形取得部15からの信号に基づいて各種の演算を行うマイクロコンピュータ17とを備えている。
【0069】
このマイクロコンピュータ17は、機能的に、後述する様に、心電センサ1からの信号の周波数解析等の処理を行う信号処理演算部19と、信号処理演算部19にて処理された値を用いてドライバの状態を判定するドライバ状態判定部21と、ドライバ状態判定部にて判定された結果に基づいて各種の制御を行う信号を出力する車両制御部23とを備えている。
【0070】
前記心電センサ1に関しては、例えば心電位を測定するための一対の電極(図示せず)が、車両を操舵するステアリング(図示せず)の表面にて運転者の各手の位置に配置され、心電センサ1の本体がステアリングの内部に埋め込まれものを採用できる。なお、これ以外にも、例えばシート内部電極を設けたシート型のセンサでもよい。
【0071】
ここで、心電センサ1によって得られる心電波形について説明する。
【0072】
図2に示す様に、心電波形は、主に、心房の電気的興奮を反映するP波と、心室の電気的興奮を反映するQ、R及びS波(QRS群)と、興奮した心室の心筋細胞が再分極する過程を反映するT波とから構成されている。このうち、R波の波高(電位差)が最も大きく、筋電位等のノイズに対して最も頑健であると言える。次に波高が大きいのがT波であり、P波が最も小さい波高を有する。
【0073】
なお、前記図2に示す心電波形のR波検出は、元波形もしくは微分波形から最大ピークを求める方法でもよいし、特開2007−301101号公報に開示されている様なテンプレートから求める方法でもよい。
【0074】
そして、心電図のうち、R波ピークとR波ピークの間隔を心拍間隔(RRI)と呼び、心拍間隔の逆数に60を乗ずることにより心拍数が算出できる。
【0075】
更に、心拍間隔変動量(HRV)から、人の状態評価が可能となる。この心拍間隔変動量を示す指標として、例えば心拍間隔を周波数解析(FFT等)することで、自律神経活動量を評価できると言われている。具体的には、心拍間隔を周波数解析したデータの高周波成分HF(0.15〜0.4Hz)は、副交感神経活動量を反映し、低周波成分LF(0.04〜0.15Hz)と高周波成分HFとの比(LF/HF)は、交感神経活動量を反映すると言われている。
【0076】
図1に戻り、前記信号処理演算部19は、心電波形取得部15にて取得した心電波形に基づいて、前述した心拍間隔(RRI)、心拍数、HFやLF/HFなどの心拍間隔変動量を示す指標を算出するものである。
【0077】
前記ドライバ状態判定部21は、信号処理演算部19で得られた心拍間隔(RRI)、心拍数、HFやLF/HFなどの心拍間隔変動量を示す指標の時系列変化から、ドライバの状態(運転不適状態)を推定する。ここでは、運転不適状態とは、実際に心臓に異常が発生した状態ではなく、心臓に異常が発生する前に生ずる予兆の現象が発生した状態である。
【0078】
前記車両制御部23は、ドライバ状態判定部21の判定結果に基づいて、ドライバや同乗者や車両等に対して、どのようなアクションを起こすかを決定し、その決定に応じた信号を、車両制御装置5、記憶装置7、表示装置9、通信装置11等に出力する。
【0079】
前記車両制御装置5は、ドライバ状態判定部21の判定結果に基づいて、ドライバが運転不適状態と判断された場合、車両制御部23からの指示により、例えばドライバの車両操作を支援するように自動的に段階的にブレーキをかけ、車両を安全に停車させたり、周囲の車両に注意を促すために、ハザードランプを点滅させたり等の制御を行う。
【0080】
前記記憶装置7は、車両制御部23にてデータの記憶が必要と判断された場合には、心電波形取得部15にて取得した心電波形、信号処理演算部19にて算出された心拍間隔、心拍間隔変動量HF、LF/Hや、ドライバ状態判定部21にて判定されたドライバの状態の判定結果などを記憶する。
【0081】
前記表示装置9は、液晶表示装置(LCD)や有機ELディスプレイ等の車載用表示装置(ナビゲーションのディスプレイ)であり、記憶装置7と同様に、心拍数(心拍間隔の逆数×60)、心拍間隔変動量、ドライバの状態の判定結果について表示する。
【0082】
前記通信装置11は、外部との通信を行うための装置であり、車両制御部23からの指示を受けて、医療機関や救急等の予め登録された連絡先に警報を発したり、車両の位置情報を送信するために使用される。
【0083】
b)次に、心電センサ1から得られるデータに基づいて、運転不適状態を判定する原理について説明する。
【0084】
ここでは、異常判定(詳しくは異常の予兆の判定)の手法として、図3〜図5に示す様に、異常パターンa〜cによる3種の手法があるので、それぞれ説明する。なお、各図は、心臓が実際の異常を発生する前の実データ[lnHF]、[ln(LF/HF)]であり、この[lnHF]、[ln(LF/HF)]は、後に詳述するが、[HF]、[LF/HF]の移動平均の自然対数をとったものである。なお、以下では,[]は、時系列データであることを示す。
【0085】
(1)異常パターンa
異常パターンaの場合には、図3に示す様に、[lnHF]、[ln(LF/HF)]の時系列データは、判定に使用する観察時間帯のうち、前半の所定の基準時間帯の変動に対し、基準時間帯後の所定の時間帯(異常有無判定時間帯)の変動に特徴がある。
【0086】
即ち、異常パターンaの場合には、異常有無判定時間帯には、交感神経活動の指標[ln(LF/HF)]が、急激に減少した後に急激に増加する。それとともに、副交感神経活動の指標[lnHF]が、急激に増加した後に急激に減少する。
【0087】
従って、この[lnHF]、[ln(LF/HF)]の変化から、運転不適状態を判定することができる。
【0088】
(2)異常パターンb
異常パターンbの場合には、図4に示す様に、[lnHF]、[ln(LF/HF)]の時系列データは、判定に使用する観察時間帯のうち、前半の所定の基準時間帯の変動に対し、基準時間帯後の所定の時間帯(異常有無判定時間帯)の変動に特徴がある。
【0089】
即ち、異常パターンbの場合には、異常有無判定時間帯には、交感神経活動の指標[ln(LF/HF)]が、急激に減少した後に急激に増加する。一方、副交感神経活動の指標[lnHF]は、前記異常パターンaのように減少しない。
【0090】
従って、この[ln(LF/HF)]の変化から、運転不適状態を判定することができる。
【0091】
(3)異常パターンc
異常パターンcの場合には、図5に示す様に、[lnHF]、[ln(LF/HF)]の時系列データは、判定に使用する観察時間帯のうち、前半の所定の基準時間帯の変動に対し、基準時間帯後の所定の時間帯(異常有無判定時間帯)の変動に特徴がある。
【0092】
即ち、異常パターンcの場合には、前記異常パターンaとは逆に、異常有無判定時間帯には、交感神経活動の指標[ln(LF/HF)]が、急激に増加した後に急激に減少する。それとともに、副交感神経活動の指標[lnHF)]が、急激に減少した後に急激に増加する。
【0093】
従って、この[lnHF]、[ln(LF/HF)]の変化から、運転不適状態を判定することができる。
【0094】
この様に、前記異常パターンa〜cを用いて、運転不適状態を判定することができる。なお、異常パターンa,cでは、[lnHF]、[ln(LF/HF)]の両方の変化で運転不適状態を判定するが、異常パターンbは、[ln(LF/HF)]のみの変化で運転不適状態を判定するので、異常パターンa、cが検出された場合には、より危険レベルが高い(即ち実際の心臓の異常が発生する可能性が高い)とみなすことができる。
【0095】
(4)基準時間帯の判定条件
ここでは、前記(1)〜(3)の異常パターンa〜cの判定の際に用いる基準時間帯について説明する。なお、本実施例では、基準時間帯を120分、異常有無判定時間帯を60分としている。
【0096】
図6に示す様に、前記基準時間帯は、その変動幅が小さいことが必要である。つまり、120分間にわたり、[ln(LF/HF)]の時系列データの平均値±1SD(標準偏差)からの外れ率が、所定の閾値を下回っている場合には、基準時間帯として採用する。
【0097】
なお、この基準時間帯における変動量の判定条件を、基準時間時間帯変動量判定条件<X>と称する。
【0098】
ここで、[lnHF]や[ln(LF/HF)]の絶対値には個人差があり、心機能が衰えるほど、絶対値が小さくなることが知られている。また、年齢が上がるほど、LFやLF/HFの絶対値が減衰することも知られている。
【0099】
そこで、本実施例では、以下の所定の閾値を設け、絶対値が大きい方が異常と判定されにくく、小さい方が異常と判定され易くなるように設定している。
【0100】
具体的には、「mean[ln(LF/HF)]±1SD≧1.5、又は、[ln(LF/HF)]の最大値≧1.5」の条件が満たされたときには、120分間の基準時間帯において、mean[ln(LF/HF)]±1SDから外れている時間の総和が、基準時間帯全体に対して1/4を、前記閾値としている。
【0101】
なお、mean[ln(LF/HF)]は、[ln(LF/HF)]の平均値であり、mean[ln(LF/HF)]±1SDは、図6のB点を示している。
【0102】
一方、「mean[ln(LF/HF)]±1SD≧1.5、又は、[ln(LF/HF)]の最大値≧1.5」の条件に当てはまらない場合には、120分間の基準時間帯において、mean[ln(LF/HF)]±1SDから外れている時間の総和が、基準時間帯全体に対して1/3を、前記閾値としている。
【0103】
これにより、[ln(LF/HF)]の絶対値が小さい方が、異常判定の条件が緩くなり、異常と判定し易くなるように設定されている。すなわち、異常を見つけやすくしている。
【0104】
なお、[lnHF]の基準時間帯についても、[ln(LF/HF)]と同様であるので、その説明は省略する。
【0105】
また、前記基準時間帯のデータは、正常時のデータベースの位置づけであり、異常判定をする毎に、必ずしも所定の基準時間帯のデータを計測する必要はない。例えば、過去に計測したデータを読み込んで基準時間帯の判定などを行ってもよく、この場合は、リアルタイムの基準時間帯の計測時間を省略することが可能である。
【0106】
(5)異常有無判定時間帯の判定条件
次に、基準時間帯に続く異常有無判定時間帯における変動に基づいて行われる異常判定について説明する。
【0107】
・本実施例では、所定の異常有無判定時間帯において、基準時間帯のmean[ln(LF/HF)]±3SDを外れる極小点又は極大点を検出し、基準時間帯後に増加、減少のどちらに急変するかを捉える。
【0108】
つまり、基準時間帯に続く極小点(又は極大点)をAとすると、「A≦mean[ln(LF/HF)]−3SD 又は、A≧mean[ln(LF/HF)]+3SD」を条件とする。なお、ここでは、閾値を3SDとしたが、2SD〜3SDの範囲を値を採用してもよい。
【0109】
例えば図6では、基準時間帯後に減少するデータを示しており、ここでは極小点(A)が検出される。
【0110】
なお、この異常有無判定時間帯における変動量の判定条件を、異常有無判定時間帯変動量判定条件<Y>と称する。
【0111】
ただし、単に変動量だけでは、増加又は減少の変化率が分からないので、実際の処理では、極小点(又は極大点)が、異常有無判定時間帯の半分(30分)以内の場合のみ、条件<Y>に該当するとしている。
【0112】
・次に、Aが極小点の場合は、極小点から急激に増加するか否かを判定する。逆に、Aが極大点に場合は、極大点から急激に減少するか否かを判定する。
【0113】
ここでは、極小点又は極大点からの所定の期間経過後(例えば異常有無判定時間帯の終了時点)までの回帰直線の傾きから、グラフの変化を判定する。
【0114】
なお、この回帰直線によるグラフの傾きの判定条件を、回帰直線傾斜判定条件<Z>と称する。
【0115】
ただし、単に回帰直線の傾きだけでは、極小点からの増加の変動幅(又は極大点からの減少の変動幅)が分からないので、実際の処理では、その変動幅も考慮する。例えば極小点(又は極大点)からの変動幅や、所定の位置(例えばmean[ln(LF/HF)])からの変動幅等を判定値として用い、実際の変動幅が判定値以上の場合のみ、条件<Z>に該当するとしている。
【0116】
以下では、図6のグラフが極小点から増加する場合を例に挙げて説明する。なお、グラフが極大点から減少する場合は、傾きの正負を逆とすればよい。
【0117】
図6に示す様に、所定の基準時間帯の開始時のmean[ln(LF/HF)]−3SDから、所定の基準時間帯の開始時のmean[ln(LF/HF)]+3SDになるまでの傾きをS1とする。
【0118】
これに対して、前記極小点から異常有無判定時間帯の終点までの[ln(LF/HF)]の回帰直線の傾きをS2とする。
【0119】
そして、以下の様にして、基準時間帯の変動幅に対する回帰直線の傾きの比較から、異常判定を行う。なお、この異常判定では、前記基準時間帯の安定性の判定同様、[ln(LF/HF)]の絶対値が小さいほど条件が緩くなるように設定し、異常をより見つけやすくしている。
【0120】
具体的には、基準時間帯のmean[ln(LF/HF)]+1.5SDをC点としたとき、下記の様に条件を設定する。なお、下記の条件は、実際の31人の患者から得られたデータから導き出されたものである。
【0121】
C<0のとき、
S2>S1×exp(C−0.5)
1>C≧0のとき、
S2>S1×(C+exp(−0.5))
C≧1のとき、
S2>S1×exp(C)
そして、上記条件を満たした場合、つまり、基準時間帯のS1よりもS2の方が傾きが急激に大きいときは、異常と判定する。
【0122】
なお、[lnHF]の異常有無判定時間帯についても、[ln(LF/HF)]と同様であるので、その説明は省略する。
【0123】
・また、ここでは、図3及び図4に示す[ln(LF/HF)]のV字型変動(減少→増加)を、1例に挙げたが、図5に示す様に、[ln(LF/HF)]の逆V字型変動(増加→減少)も、同様な考え方で判定することができる。
【0124】
このとき、増加→減少をとらえるため、傾きが負になるが、負側に大きいときに異常と判定することができる。
【0125】
また、図3に示す[lnHF]の逆V字型変動、図5に示す[lnHF]のV字型変動についても、前記と同様に異常判定することができる。
【0126】
更に、前記傾きに閾値を設ける方法とは別に、S1とS2の傾きの比率から、異常レベルを段階的に分けてもよい。例えば比(S2/S1)を求め、この比が大きくなるほど、異常の程度が大きい(異常のレベルが高い)と判断してもよい。
【0127】
これにより、異常レベルに応じて、アクションレベルを変えることもできる。例えば異常レベルが高いほど、警告の程度を強くするように、メッセージの内容を切り替えたり、或いは、車両の制御を安全側にしてもよい。例えば車速を低下したり、制動力をアップさせる制御を行ってもよい。
【0128】
c)次に、前記原理に基づいて、ドライバ状態評価装置3のマイクロコンピュータ17にて行われる処理について説明する。
【0129】
(1)まず、メインルーチンについて説明する。
【0130】
図7のフローチャートに示す様に、ステップ(S)100では、心電波形取得部15から得られた信号に基づいて、心電R波形を取得する。
【0131】
続くステップ110では、心電R波形から、心拍間隔RRIを求め、各心拍間隔RRIを記憶するとともに、その時系列データを定期的に更新する。この更新は、異常判定を行うタイミングに行われ、例えば1分毎とする。
【0132】
続くステップ120では、後に詳述する様に、心拍変動解析を行う。即ち、心拍間隔RRIの変動を解析し、最新の時系列データ[HF]、[LF/HF]を求める。
【0133】
続くステップ130では、後に詳述する様に、[HF]、[LF/HF]時系列データ処理を行う。即ち、[HF]、[LF/HF]から、異常判定に使用する[lnHF]、[ln(LF/HF)]を求める。
【0134】
続くステップ140では、後に詳述する様に、[ln(LF/HF)]異常判定を行う。即ち、[ln(LF/HF)]を用いて異常の有無(運転不適状態か否か)を判定し、異常の有無を示す異常判定フラグを設定する処理を行う。
【0135】
続くステップ150では、[ln(LF/HF)]に基づいて設定される異常フラグが、異常があることを示す1又は2か、或いは異常がないことを示す0かを判定する。ここで、異常フラグが1又は2である場合は、ステップ160に進み、一方、異常フラグが0である場合は、ステップ100に戻る。
【0136】
ステップ160では、後に詳述する様に、[lnHF]異常判定を行う。即ち、[lnHF]のデータに基づいて、更なる異常判定を行う。
【0137】
続くステップ170では、後に詳述する様に、異常パターン判定を行う。即ち、異常パターンが、前記異常パターンa〜cのどれに該当するかを判定する。
【0138】
続くステップ180では、後に詳述する様に、異常判定の結果に基づいて、車両制御のアクションを行う。即ち、車両制御装置5、記憶装置7、表示装置9、通信装置11等を用いて、様々な制御や処理を行い、一旦本処理を終了する。
【0139】
(2)次に、前記ステップ120の心拍変動解析処理について、図8に基づいて説明する。
【0140】
本処理は、心拍間隔RRIの周波数解析を行う処理である。
【0141】
図8のフローチャートに示す様に、ステップ100では、[RRI]の時系列データを入力する。
【0142】
続くステップ210では、[RRI]に重畳する身体の動きなどに伴うノイズを除去する。例えば対象とするRRIがその前後計10拍分のRRIの中央値に対して全データの標準偏差以上に外れているかを検出することによりノイズを除去する。
【0143】
続くステップ220では、[RRI]のリサンプリング処理により、等間隔時系列データを作成する。具体的には、公知であるBergerのアルゴリズムの処理を行う。
【0144】
続くステップ230では、前記ステップ220にて得られた[RRI]のデータに対して、周知の周波数解析(例えばFFT解析)を行い、所定の周波数帯域のパワーから、最新のHF、LF/HFを算出する。
【0145】
尚、パワースペクトルの振幅値(強度:パワー)が、特定の周波数成分(高周波成分HF、低周波成分LF)の変動量であり、この値の時間変化から各周波成分の変動量を連続的に把握することができる。また、HFやLFは、当該周波数帯の成分を積分することにより得ることができる。
【0146】
続くステップ240では、前記ステップ230で算出されたHF、LF/HFを出力し、一旦本処理を終了する。
【0147】
(3)次に、前記ステップ130の[LF/HF][HF]時系列データ処理について、図9に基づいて説明する。
【0148】
本処理は、異常判定に用いる自然対数の時系列データ[lnHF]、[ln(LF/HF)]を求める処理である。
【0149】
図9のフローチャートに示す様に、ステップ300では、HF、LF/HFを入力する。
【0150】
続くステップ310では、入力した最新のHF、LF/HFのデータを、[HF]、[LF/HF]の時系列データに入力して更新する。この[HF]、[LF/HF]は、現時刻から所定の過去時間分(判定に用いる時間帯:観察時間帯)のデータを示しており、本実施例では、観察時間帯を3時間としている。
【0151】
続くステップ320では、データをなますために、即ち異常判定に無関係な微変動を除去するために、前記[HF]、[LF/HF]の移動平均を求めた。つまり、例えば10分のデータの移動平均を求め、移動平均した時系列データ[m−HF]、[m−LF/HF]を作成した。
【0152】
続くステップ330では、移動平均した時系列データ[m−HF]、[m−LF/HF]の自然対数をとって、その時系列データ[lnHF]、[ln(LF/HF)]を作成した。
【0153】
なお、自然対数とすることで、[HF]、[LF/HF]の値の分布を正規分布に近似させる。つまり、人によってLF/HFなどの絶対値が大きく上下にばらつくが、これにより、その個人差を小さくし、統計的に正確に比較できるようにする。
【0154】
続くステップ340では、作成した自然対数をとった時系列データ[lnHF]、[ln(LF/HF)]を出力し、一旦本処理を終了する。
【0155】
(4)次に、前記ステップ140の[lnLF/HF]の異常判定処理について、図10に基づいて説明する。
【0156】
図10のフローチャートに示す様に、ステップ400では、自然対数をとった時系列データ[ln(LF/HF)]を入力する。
【0157】
続くステップ410では、[ln(LF/HF)]について、所定の異常有無判定帯の変動量を判定する。即ち、[ln(LF/HF)]が、上述した基準時間帯判定条件<X>の判定を行う。
【0158】
続くステップ420では、[ln(LF/HF)]について、所定の基準時間帯の変動量を判定する。即ち、[ln(LF/HF)]が、上述した異常有無判定時間帯判定条件<Y>の判定を行う。なお、異常有無判定時間の半分の時間に極大点又は極大点がある場合のみ、この<Y>の判定条件を満たすとする(以下同様)。
【0159】
続くステップ430では、基準時間帯判定条件<X>及び異常有無判定時間帯判定条件<Y>の両条件が、共に満たされたか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、心臓に異常が発生する可能性があるので、ステップ440に進み、一方、否定判断されると、心臓に異常が発生する可能性が無いとみなされるので、ステップ450に進む。
【0160】
ステップ450では、[ln(LF/HF)]のデータに基づく異常判定の結果、異常の可能性が無いので、そのことを示すフラグ、即ち、[ln(LF/HF)]異常判定フラグを0に設定し、ステップ495に進む。
【0161】
一方、ステップ440では、異常の可能性があるので、更に、所定の異常有無判定時間帯おいて、[ln(LF/HF)]の値が、減少から増加に急変したか否かを判定する。
【0162】
具体的には、前記回帰直線傾斜判定条件<Z>よる判定を行う。詳しくは、極小点から増加に向かうグラフの傾斜の程度が、所定の閾値以上の急な傾斜であるか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、ステップ490に進み、一方、否定判断されるとステップ460に進む。なお、極小点から増加するグラフの変動幅が、所定の判定値以上である場合のみ、この条件<Z>を満たすとする(以下同様)。
【0163】
この判定により、例えば図3の異常パターンaの上のグラフ([ln(LF/HF)]時系列データに対応するグラフ)に該当するか否かを判定することができる。
【0164】
ステップ490では、回帰直線の減少から増加への傾斜が、心臓の異常を示す異常パターンに合致するとして、そのことを示すために、[ln(LF/HF)]異常判定フラグを1に設定し、ステップ495に進む。
【0165】
前記ステップ440にて否定判断されて進むステップ460では、所定の異常有無判定時間帯おいて、[ln(LF/HF)]の値が、増加から減少に急変したか否かを判定する。この判定<Z>により、例えば図5の異常パターンcの上のグラフ([ln(LF/HF)]時系列データに対応するグラフ)に該当するか否かを判定することができる。
【0166】
具体的には、所定以上の変動幅で、且つ、極大点からの傾斜の程度が所定の閾値以上の急な傾斜であるか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、ステップ480に進み、一方、否定判断されるとステップ470に進む。
【0167】
ステップ480では、回帰直線の増加から減少への傾斜が、心臓の異常を示す異常パターンに合致するとして、そのことを示すために、[ln(LF/HF)]異常判定フラグを2に設定し、ステップ495に進む。
【0168】
ステップ470では、回帰直線の傾斜が緩やかであるので、異常の可能性が無いとして、[ln(LF/HF)]異常判定フラグを0に設定し、ステップ495に進む。
【0169】
ステップ495では、各ステップ450、470、480、490にて設定された[ln(LF/HF)]異常判定フラグの値を出力して、一旦本処理を終了する。
【0170】
(5)次に、前記ステップ160の[lnHF]の異常判定処理について、図11に基づいて説明する。
【0171】
この処理は、前記ステップ150にて、[ln(LF/HF)]異常判定フラグによる異常判定の結果、異常と判定された後に、更に、判定精度を高めるために、前記ステップ140と同様にして、[lnHF]データを用いて異常判定を行うものである。
【0172】
図11のフローチャートに示す様に、ステップ500では、自然対数をとった時系列データ[lnHF]を入力する。
【0173】
続くステップ510では、[lnHF]について、所定の異常有無判定帯の変動量を判定する。即ち、[lnHF]が、上述した基準時間帯判定条件<X>の判定を行う。
【0174】
続くステップ520では、[lnHF]について、所定の基準時間帯の変動量を判定する。即ち、[lnHF]が、上述した異常有無判定時間帯判定条件<Y>の判定を行う。なお、ここでも、異常有無判定時間の半分の時間に極大点又は極大点がある場合のみ、この<Y>の判定条件を満たすとする。
【0175】
続くステップ530では、基準時間帯判定条件<X>及び異常有無判定時間帯判定条件<Y>の両条件が、共に満たされたか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、ステップ540に進み、一方、否定判断されると、ステップ550に進む。
【0176】
ステップ550では、[lnHF]のデータに基づく異常判定の結果、異常の可能性が無いので、そのことを示すフラグ、即ち、[lnHF]異常判定フラグを0に設定し、ステップ595に進む。
【0177】
一方、ステップ540では、異常の可能性があるので、より判定精度を高めるために、更に、所定の異常有無判定時間帯おいて、[lnHF]の値が、減少から増加に急変したか否かを判定する。この判定により、例えば図5の異常パターンcの下のグラフ([lnHF]時系列データに対応するグラフ)に該当するか否かを判定することができる。
【0178】
具体的には、前記回帰直線傾斜判定条件<Z>よる判定を行う。詳しくは、所定の変動幅がある場合に、極小点から増加に向かうグラフの傾斜の程度が、所定の閾値以上の急な傾斜であるか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、ステップ590に進み、一方、否定判断されるとステップ560に進む。
【0179】
ステップ590では、回帰直線の減少から増加への傾斜が、心臓の異常を示す異常パターンに合致するとして、そのことを示すために、[lnHF]異常判定フラグを1に設定し、ステップ595に進む。
【0180】
前記ステップ540にて否定判断されて進むステップ560では、所定の異常有無判定時間帯おいて、[lnHF]の値が、増加から減少に急変したか否かを判定する。この判定<Z>により、例えば図3の異常パターンaの上のグラフ([lnHF]時系列データに対応するグラフ)に該当するか否かを判定することができる。
【0181】
具体的には、所定の変動幅である場合に、極大点からの傾斜の程度が所定の閾値以上の急な傾斜であるか否かを判定する。ここで、肯定判断されると、ステップ580に進み、一方、否定判断されるとステップ570に進む。
【0182】
ステップ580では、回帰直線の増加から減少への傾斜が、心臓の異常を示す異常パターンに合致するとして、そのことを示すために、[lnHF]異常判定フラグを2に設定し、ステップ595に進む。
【0183】
ステップ570では、回帰直線の傾斜が緩やかであるので、異常の可能性が無いとして、[lnHF]異常判定フラグを0に設定し、ステップ595に進む。
【0184】
ステップ595では、各ステップ550、570、580、590にて設定された[lnHF)]異常判定フラグの値を出力して、一旦本処理を終了する。
【0185】
(6)次に、前記ステップ170の異常パターン判定について、図12に基づいて説明する。
【0186】
図12のフローチャートに示す様に、ステップ600では、[ln(LF/HF)]異常判定フラグの値と、[lnHF]異常判定フラグの値を入力する。
【0187】
続くステップ610では、[ln(LF/HF)]異常判定フラグが1で、且つ、[lnHF]異常判定フラグが2か否かを判定し、ここで肯定判断されるとステップ620に進み、一方否定判断されると、ステップ630に進む。
【0188】
ステップ620では、前記ステップ610にて、図3に示す異常パターンaに合致すると判定されたので、その判定結果を記憶し、一旦本処理を終了する。
【0189】
一方、ステップ630では、[ln(LF/HF)]異常判定フラグが2で、且つ、[lnHF]異常判定フラグが1か否かを判定し、ここで肯定判断されるとステップ640に進み、一方否定判断されると、ステップ650に進む。
【0190】
ステップ640では、前記ステップ630にて、図5に示す異常パターンcに合致すると判定されたので、その判定結果を記憶し、一旦本処理を終了する。
【0191】
一方、ステップ650では、[ln(LF/HF)]異常判定フラグが1で、且つ、[lnHF]異常判定フラグが0か否かを判定し、ここで肯定判断されるとステップ650に進み、一方否定判断されると、異常が無いとして、一旦本処理を終了する。
【0192】
ステップ660では、前記ステップ650にて、図4に示す異常パターンbに合致すると判定されたので、その判定結果を記憶し、一旦本処理を終了する。
【0193】
なお、異常パターンa〜cの違いは、異常パターンa、cの場合の方が、異常パターンbよりも、実際に心臓に異常が発生する可能性が高いと思われる。
【0194】
(7)次に、前記ステップ180の車両制御アクションについて、詳しく説明する。
【0195】
このステップ180では、ドライバ状態判定部21の判定結果に基づいて、ドライバや同乗者や車両等に対して、どのようなアクションを起こすかを決定し、その決定に応じた信号を、車両制御装置5、記憶装置7、表示装置9、通信装置11等に出力する。
【0196】
従って、上述した様に、車両制御装置5では、実際に心臓に異常が発生する可能性があると予想され、ドライバが運転不適状態と判断された場合には、例えばドライバの車両操作を支援するように自動的に段階的にブレーキをかけ、車両を安全に停車させたり、周囲の車両に注意を促すために、ハザードランプを点滅させたり等の制御を行う。
【0197】
また、記憶装置7では、車両制御部23にてデータの記憶が必要と判断された場合には、心電波形取得部15にて取得した心電波形、信号処理演算部19にて算出された心拍間隔、心拍間隔変動量HF、LF/Hや、ドライバ状態判定部21にて判定されたドライバの状態の判定結果などを記憶する。
【0198】
更に、表示装置9では、心拍数、心拍間隔変動量、ドライバの状態の判定結果について表示する。
【0199】
なお、運転不適状態の場合には、自覚症状を問いかけたり、場合によっては、車両を停車させるように警告メッセージ(アドバイス)を画面に表示させたりする。更には、付属のスピーカから音声メッセージを発したり、或いは、LED等の警告ランプを点滅させたりする。
【0200】
その上、通信装置11では、医療機関や救急等の予め登録された連絡先に警報を発したり、車両の位置情報を送信する。
【0201】
d)この様に、本実施例では、車両走行中などに、心拍間隔を周波数解析した結果から、[ln(LF/HF)]や[lnHF]の変動の状態を調べ、その変化の状態から運転不適状態(心臓の異常の予兆)を精度良く検出することができる。よって、ドライバにとって、心臓の異常を事前に把握できるので、安全上、極めて有効なものである。
【0202】
また、本実施例では、心電図R波のみを検出することにより異常を判定している。従って、PQRS波を全て検出する必要がないので、従来のPQRST波を全て検出して異常判定を行う方法に比べて、車両走行中などのノイズ環境下での検出が容易となる。
【0203】
しかし、この様なメリットの反面、心拍間隔変動量HRVは時間ゆらぎであり、その計算にはある程度のデータ長さが必要になり、応答性が低く、且つ、PQRST波ほどの情報を含んでいないという特性がある。
【0204】
そこで、その点を改良する手法として、心拍間隔変動量HRVによる異常判定をスクリーニングやトリガとして使用することが望ましい。
【0205】
具体的には、心拍間隔変動量HRVにより異常と判定した場合には、それだけで異常と判定せずに、例えばドライバの自覚症状の問いかけを実施する。例えば「心臓に異常を感じませんか」等の問いかけの出力を、表示装置9を用いて行う。
【0206】
また、車両が停車した安定した状態において、応答性の良い、心電図のPQRST波計測による不整脈判定や、血圧測定による血圧異常判定などを実施することを、表示装置9等を用いてアドバイスする。なお、実際に、心電波形の波形計測や血圧計測の装置を備えている場合には、心電波形の波形計測や血圧計測を実施してもよい。
【0207】
これにより、誤判定の少ない、より精度の高い異常判定が可能となる。
【0208】
更に、心臓の異常の予兆が検出された場合には、上述した異常の予兆の判定とは異なる他の生体計測(例えば体温、発汗)を促す報知出力を行ってもよい。また、ドライバの顔や行動、姿勢の画像や、車両挙動、操作などの車両信号も有用な判定指標であり、組み合わせてよい。
【0209】
なお、本実施例では、車載のドライバ状態評価装置3にて異常判定を行ったが、それとは別に、心電センサ1から得られた信号を、無線等により車外の外部装置に送信し、外部装置にて処理してもよい。
【実施例2】
【0210】
次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
【0211】
本実施例では、例えば異常有無判定時間帯における指標の減少の程度を、基準時間帯の終点からの極小点までの変動幅と、基準時間帯の終点から極小点に到る回帰直線の傾きから判定し、その後の増加の程度を、極小点からの増加の変動幅(或いは所定の変動幅)と、極小点からの回帰直線の傾きから判定してもよい。
【0212】
また、同様に、異常有無判定時間帯における指標の増加の程度を、基準時間帯の終点からの極大点までの変動幅と、基準時間帯の終点から極大点に到る回帰直線の傾きから判定し、その後の減少の程度を、極大点からの減少の変動幅(或いは所定の変動幅)と、極大点からの回帰直線の傾きから判定してもよい。
【0213】
本実施例によっても、前記実施例1と同様な効果を奏する。
【実施例3】
【0214】
次に、実施例3について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
【0215】
本実施例では、車両とは関係なく、既存の心電装置で同時に取得した心電波形を、パーソナルコンピュータに読み込み、パーソナルコンピュータにて、前記実施例1と同様な異常判定を行って、その結果を、記憶装置に記憶したり、ディスプレイ等に表示する。
【0216】
例えばホルター心電計に、前記実施例1で異常判定を行うためのプログラムを組み込み、同様に判定や制御を行ってもよい。また、携帯電話など、常時携帯できるウエアラブル機器に心電センサや異常判定のプログラムを組み込み、同様に判定や制御を行ってもよい。
【0217】
更に、病院や自宅のベッドマット型心拍計など、長時間体に接触する寝具を利用し、同様に異常判定や制御を行ってよい。
【0218】
また、入眠時、睡眠中、又は起床時には、本発明で異常と判定されるほど自律神経活動が大きく変動する可能性があるため、異常判定を精度良く行えない可能性が高いので、入眠時、睡眠中、又は起床時には、異常と判定されても、その判定を採用しないことが望ましい。
【0219】
なお、入眠時、睡眠中、又は起床時を判定する手法としては、睡眠ポリグラフ、アクティブグラフ等の公知の手法を採用できる。
【実施例4】
【0220】
次に、実施例4について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は省略する。
【0221】
前記実施例1では、心電位の信号を用いて心拍間隔を求めたが、脈波センサにより検出した脈波信号を用いて、心拍間隔を推定してもよい。
【0222】
つまり、脈波とは、心臓の鼓動(心拍)に起因するものであるので、直接に心電位を求めるのではなく、脈波信号から間接的に心拍間隔を求めてもよい。
【0223】
なお、心拍間隔が得られた後の周波数解析や異常判定等の処理は、前記実施例1と同様であるので、その説明は省略する。
【0224】
なお、脈波信号から心拍間隔等を求める(推定する)技術は、周知であり、例えば特許第3729143号公報等に記載がある。
【0225】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【0226】
例えば前記実施例では、生体状態評価装置等について述べたが、本発明は、それらに限らず、上述したアルゴリズムに基づく処理を実行させるプログラムやそのプログラムを記憶している記録媒体にも適用できる。
【0227】
この記録媒体としては、マイクロコンピュータとして構成される電子制御装置、マイクロチップ、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク等の各種の記録媒体が挙げられる。つまり、上述した生体状態評価装置の処理を実行させることができるプログラムを記憶したものであれば、特に限定はない。
【0228】
尚、前記プログラムは、単に記録媒体に記憶されたものに限定されることなく、例えばインターネットなどの通信ラインにて送受信されるプログラムにも適用される。
【符号の説明】
【0229】
1…心電センサ
3…ドライバ状態評価装置
5…車両制御装置
7…記憶装置
9…表示装置
11…通信装置
13…心電アンプ
17…マイクロコンピュータ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心拍間隔及び脈拍間隔のうち少なくとも一方の生体情報に基づいて、心臓の異常を判定する生体状態評価装置において、
前記心拍間隔及び脈拍間隔のうち少なくとも一方を周波数解析することによって、交感神経活動を示す第1の指標及び副交感神経活動を示す第2の指標のうち少なくとも第1の指標を求める指標算出手段と、
前記指標算出手段にて求めた指標の変動の程度が所定の期間にわたり所定値より小さいことを示す所定の条件を満たす基準時間帯か否かを判定する基準時間帯判定手段と、
前記所定の条件が満たされた場合には、前記基準時間帯の後の所定の異常有無判定時間帯において、前記指標の増加及び減少の変化がそれぞれ前記基準時間帯における前記指標の変動より大きいことを示す所定の閾値以上であるとともに、前記増加及び減少の変化の割合が所定の閾値以上であるときには、前記心臓の異常の予兆と判定する異常判定手段と、
を備えたことを特徴とする生体状態評価装置。
【請求項2】
前記指標として、その指標の自然対数を用いることを特徴とする請求項1に記載の生体状態評価装置。
【請求項3】
前記基準時間帯の所定の条件は、前記指標のばらつきが所定の閾値以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体状態評価装置。
【請求項4】
前記指標の増減の閾値は、前記基準時間帯における前記指標の平均値±1SDであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項5】
前記指標の増減の閾値は、前記基準時間帯における前記指標の絶対値に応じて可変とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項6】
前記基準時間帯を、前記指標の過去のデータを使用して設定することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項7】
前記異常判定手段は、前記異常有無判定時間帯における前記指標の変動幅が、前記基準時間帯における前記指標の平均±1.5〜3SDのときに、前記指標の変動の大きさに関する異常判定の条件を満たすと判定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項8】
前記異常判定手段は、前記異常有無判定時間帯における前記指標の回帰直線の傾きに基づいて、前記異常の判定を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項9】
前記回帰直線の傾きを判定する際の閾値は、前記基準時間帯における前記指標の絶対値に応じて可変とすることを特徴とする請求項8に記載の生体状態評価装置。
【請求項10】
前記回帰直線の傾きの程度において、前記異常の程度を示す異常レベルを変更することを特徴とする請求項8又は9に記載の生体状態評価装置。
【請求項11】
前記第1の指標と前記第2の指標とを用いる場合には、それぞれの指標に基づいて共に前記異常と判定されたときに、前記異常と判断することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項12】
前記第1の指標と前記第2の指標とを用いる場合には、前記第1の指標の増減と前記第2の指標の増減が逆方向に変動する条件を加えて、異常判定に用いる異常パターンを決定することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項13】
前記異常と判定された場合に、入眠時、睡眠中、又は起床時と判定された場合には、前記異常と判断しないことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項14】
前記生体状態評価装置は、車載装置であることを特徴とする前記請求項1〜13のいずれに記載の生体状態評価装置。
【請求項15】
前記異常判定を、車両の走行中に実施することを特徴とする前記請求項14に記載の生体状態評価装置。
【請求項16】
前記請求項1〜15のいずれに記載する生体状態評価装置に加え、生体状態を検出するセンサ、判定結果に対応する報知内容を出力する出力装置、及び判定結果に応じた制御を行う制御装置の少なくとも1種を備えたことを特徴とする生体状態評価システム。
【請求項17】
前記異常と判定された場合には、自覚症状の問いかけの報知出力、心電波形計測を促す報知出力、及び血圧計測を促す報知出力のうち少なくとも1種を行うことを特徴とする請求項16に記載の生体状態評価システム。
【請求項18】
前記異常と判定された場合には、該異常判定とは異なる他の生体計測又は異常判定を促す報知出力を行うことを特徴とする請求項16又は17に記載の生体状態評価システム。
【請求項19】
前記異常と判定された場合には、心電波形計測及び血圧計測のうち少なくとも1種を実施することを特徴とする請求項16又は18に記載の生体状態評価システム。
【請求項20】
コンピュータを、請求項1〜15のいずれかに記載の生体状態判定装置として機能させるためのプログラム。
【請求項21】
請求項20に記載のプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項1】
心拍間隔及び脈拍間隔のうち少なくとも一方の生体情報に基づいて、心臓の異常を判定する生体状態評価装置において、
前記心拍間隔及び脈拍間隔のうち少なくとも一方を周波数解析することによって、交感神経活動を示す第1の指標及び副交感神経活動を示す第2の指標のうち少なくとも第1の指標を求める指標算出手段と、
前記指標算出手段にて求めた指標の変動の程度が所定の期間にわたり所定値より小さいことを示す所定の条件を満たす基準時間帯か否かを判定する基準時間帯判定手段と、
前記所定の条件が満たされた場合には、前記基準時間帯の後の所定の異常有無判定時間帯において、前記指標の増加及び減少の変化がそれぞれ前記基準時間帯における前記指標の変動より大きいことを示す所定の閾値以上であるとともに、前記増加及び減少の変化の割合が所定の閾値以上であるときには、前記心臓の異常の予兆と判定する異常判定手段と、
を備えたことを特徴とする生体状態評価装置。
【請求項2】
前記指標として、その指標の自然対数を用いることを特徴とする請求項1に記載の生体状態評価装置。
【請求項3】
前記基準時間帯の所定の条件は、前記指標のばらつきが所定の閾値以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の生体状態評価装置。
【請求項4】
前記指標の増減の閾値は、前記基準時間帯における前記指標の平均値±1SDであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項5】
前記指標の増減の閾値は、前記基準時間帯における前記指標の絶対値に応じて可変とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項6】
前記基準時間帯を、前記指標の過去のデータを使用して設定することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項7】
前記異常判定手段は、前記異常有無判定時間帯における前記指標の変動幅が、前記基準時間帯における前記指標の平均±1.5〜3SDのときに、前記指標の変動の大きさに関する異常判定の条件を満たすと判定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項8】
前記異常判定手段は、前記異常有無判定時間帯における前記指標の回帰直線の傾きに基づいて、前記異常の判定を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項9】
前記回帰直線の傾きを判定する際の閾値は、前記基準時間帯における前記指標の絶対値に応じて可変とすることを特徴とする請求項8に記載の生体状態評価装置。
【請求項10】
前記回帰直線の傾きの程度において、前記異常の程度を示す異常レベルを変更することを特徴とする請求項8又は9に記載の生体状態評価装置。
【請求項11】
前記第1の指標と前記第2の指標とを用いる場合には、それぞれの指標に基づいて共に前記異常と判定されたときに、前記異常と判断することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項12】
前記第1の指標と前記第2の指標とを用いる場合には、前記第1の指標の増減と前記第2の指標の増減が逆方向に変動する条件を加えて、異常判定に用いる異常パターンを決定することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項13】
前記異常と判定された場合に、入眠時、睡眠中、又は起床時と判定された場合には、前記異常と判断しないことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の生体状態評価装置。
【請求項14】
前記生体状態評価装置は、車載装置であることを特徴とする前記請求項1〜13のいずれに記載の生体状態評価装置。
【請求項15】
前記異常判定を、車両の走行中に実施することを特徴とする前記請求項14に記載の生体状態評価装置。
【請求項16】
前記請求項1〜15のいずれに記載する生体状態評価装置に加え、生体状態を検出するセンサ、判定結果に対応する報知内容を出力する出力装置、及び判定結果に応じた制御を行う制御装置の少なくとも1種を備えたことを特徴とする生体状態評価システム。
【請求項17】
前記異常と判定された場合には、自覚症状の問いかけの報知出力、心電波形計測を促す報知出力、及び血圧計測を促す報知出力のうち少なくとも1種を行うことを特徴とする請求項16に記載の生体状態評価システム。
【請求項18】
前記異常と判定された場合には、該異常判定とは異なる他の生体計測又は異常判定を促す報知出力を行うことを特徴とする請求項16又は17に記載の生体状態評価システム。
【請求項19】
前記異常と判定された場合には、心電波形計測及び血圧計測のうち少なくとも1種を実施することを特徴とする請求項16又は18に記載の生体状態評価システム。
【請求項20】
コンピュータを、請求項1〜15のいずれかに記載の生体状態判定装置として機能させるためのプログラム。
【請求項21】
請求項20に記載のプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【図1】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2010−162282(P2010−162282A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9070(P2009−9070)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(803000034)学校法人日本医科大学 (37)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(803000034)学校法人日本医科大学 (37)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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