生体用補綴体
【課題】ステム部の回旋抵抗性を高めることにより、大きな荷重(モーメント)の負荷される股関節のような部位にも適用可能であり、ステム部を埋植するための骨切り術も容易である生体用補綴体を提供する。
【解決手段】骨髄腔内に挿入されるステム部を有する生体用補綴体であって、ステム部は、ステム部の先端側に位置して、ストレート形状をしているストレート部と、ステム部の根元側に位置して、先端側に向けて先細に傾斜しているテーパ部と、を備え、根元側から先端側に向けて軸方向に沿って延在するとともに外方に向けて突出する突出部は、テーパ部の上に配設されている。
【解決手段】骨髄腔内に挿入されるステム部を有する生体用補綴体であって、ステム部は、ステム部の先端側に位置して、ストレート形状をしているストレート部と、ステム部の根元側に位置して、先端側に向けて先細に傾斜しているテーパ部と、を備え、根元側から先端側に向けて軸方向に沿って延在するとともに外方に向けて突出する突出部は、テーパ部の上に配設されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事故や疾病等による骨欠損部あるいは切除部を補綴するために用いる生体用補綴体に関する。
【背景技術】
【0002】
本願出願人は、事故や疾病等によって生じた骨欠損部あるいは切除部を補綴するための様々なタイプの補綴体をこれまで提案してきている。
【0003】
本願出願人の提案している補綴体として、例えば、大略ストレート形状のステム部を骨髄腔に形成された挿入穴の中に挿入して骨セメントを用いて、生体用補綴体を骨に固定するセメント固定タイプのものがある(例えば、非特許文献1を参照のこと)。また、ステム部の先端側がストレート形状しているとともに、ステム部の根元側が先細のテーパ形状をした生体用補綴体を、骨セメント無しで、骨髄腔に形成された挿入穴の中に圧入固定するタイプのものがある(例えば、特許文献1を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−206677号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JMM KLS Systemのカタログ、日本メディカルマテリアル株式会社、2004年11月改訂版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に開示された骨セメント固定タイプの補綴体は、ステム部の根元部分において下方に突出する回旋止め部を有し、骨切り面の上に設けられる嵌合凹部(嵌合横溝)と嵌合する構成となっており、良好な回旋抵抗性を提供する。しかしながら、骨切り面上に設けられる嵌合凹部(嵌合横溝)は、リウエルやサージエアトームやヤスリ等を使用して、骨切り面上に露出した円環状の緻密質の端面を長手方向に骨切りすることによって形成される。このとき、円環状の緻密質の厚み方向(すなわち横方向)にわたる骨切りを所定の深さで行うことになるが、骨の外側に位置する緻密質が緻密で硬質であるために、所望形状の嵌合凹部(嵌合横溝)を形成することが困難であり、術者が高度な骨切り術を備えていることを必要とする。また、当該補綴体は、ステム部の根元部分において、突出した回旋止め部を備えるという複雑な形状ゆえに、ステム部の根元部分での応力集中によって破損しやすいという問題がある。
【0007】
また、特許文献1に示した圧入固定タイプの補綴体では、主として、テーパ部に形成された粗面が初期固定及び長期固定に寄与し、テーパ部の圧入が初期固定に寄与している。特許文献1に示した生体用補綴体では、粗面の形成されたテーパ部が固定機能部分として初期的及び長期的にわたって良好な固定力を提供するので、脛骨や大腿骨等の様々な部位に適用可能である。しかしながら、一般的に、大腿骨の近位端側すなわち股関節側に補綴体を用いた場合、椅子に座ったり立ち上がったりする着座動作や、何かの拍子につまずくような動作のときは、直立動作や歩行動作のような通常動作のときよりも、数倍程度の大きな荷重(モーメント)がステム部の固定機能部分(例えば、粗面の形成されたテーパ部)に対して負荷される。そのために、ステム部の固定機能部分における固定力の低下を招き、ステム部のズレやガタツキを生じさせる恐れがある。そのために、圧入固定タイプの補綴体を股関節に対して適用する場合には、ステム部がさらに良好な回旋抵抗性を備えていることが望まれている。
【0008】
したがって、本発明の解決すべき技術的課題は、ステム部の回旋抵抗性を高めることにより、大きな荷重(モーメント)の負荷される股関節のような部位にも適用可能であり、ステム部を埋植するための骨切り術も容易である生体用補綴体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記技術的課題を解決するために、本発明によれば、以下の生体用補綴体が提供される。
【0010】
すなわち、本発明の請求項1に係る生体用補綴体は、
骨髄腔内に挿入されるステム部を有する生体用補綴体であって、
前記ステム部は、
前記ステム部の先端側に位置して、ストレート形状をしているストレート部と、
前記ステム部の根元側に位置して、先端側に向けて先細に傾斜しているテーパ部と、を備え、
根元側から先端側に向けて軸方向に沿って延在するとともに外方に向けて突出する突出部は、前記テーパ部の上に配設されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2に係る生体用補綴体では、少なくとも前記突出部及び前記突出部の周辺にあるテーパ部が、粗面加工されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項3に係る生体用補綴体では、前記突出部の軸方向に直交する断面が、略半円形状であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項4に係る生体用補綴体では、前記突出部の軸方向に直交する断面が、略三角形状であることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項5に係る生体用補綴体では、前記ステム部の軸線に対する前記突出部の傾斜角度と前記テーパ部の傾斜角度とが、同じであることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項6に係る生体用補綴体では、前記突出部及び前記テーパ部における前記傾斜角度は、約7度であることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項7に係る生体用補綴体では、前記突出部の個数は、2乃至4であることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項8に係る生体用補綴体では、前記突出部は、前記テーパ部の周面に対して均等に配設していることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項9に係る生体用補綴体では、前記ストレート部と前記テーパ部との間での境界を画定する境界線よりも根元側に位置するテーパ部は、粗面加工されていないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る本発明は、大きな荷重(モーメント)が生体用補綴体に負荷された場合、骨髄腔内に圧入されたステム部のテーパ部が圧入固定に寄与し、テーパ部上に配設された突出部が生体用補綴体の回旋方向の動きを阻止するように働き、ステム部がこれまで以上に良好な回旋抵抗性を提供するので、大きな荷重(モーメント)の負荷される股関節のような部位にも適用可能であるという効果を奏する。そして、本発明では当該突出部に対応する嵌合凹部(嵌合縦溝)を骨髄腔(緻密質や海綿質の内面側)に形成することになるが、硬質である緻密質の全厚みにわたって嵌合凹部(嵌合横溝)を骨切りする従来技術に対して、骨髄腔(緻密質や海綿質の内面側)という比較的軟質な部分の骨切りは容易であるので、突出部を有するステム部を埋植するための骨切り術が容易になるという効果を奏する。
【0020】
請求項2に係る本発明は、前記突出部及び前記突出部の周辺にあるテーパ部に形成された粗面の微小な凸凹により、初期的な固定性を向上するとともに、骨成長を促進して長期的な固定性を向上するという効果を奏する。
【0021】
請求項3に係る本発明は、突出部と嵌合凹部との間での接触面積が大きくなるために良好な回旋抵抗性を提供し、嵌合凹部への尖った角部を形成することもないために骨の破壊を招来しにくいという効果も奏する。
【0022】
請求項4に係る本発明は、刃部がV字形状をしたノミを使って嵌合凹部を形成することができ、嵌合凹部の形成を容易にするという効果を奏する。
【0023】
請求項5に係る本発明は、突出部の長さ方向での突出量が同じであるので、突出部の長さ方向での回旋抵抗性を大略同じにすることができるという効果を奏する。
【0024】
テーパ部の傾斜角度が小さいと、テーパ部によるくさび圧入効果が小さくなる。テーパ部の傾斜角度が大きいと、骨切り面での挿入穴の径が大きくなって骨の切削量が大きくなるので、骨の細い患者ではステム部の周囲にあってステム部を保持する緻密質や海綿質が壊れやすくなる。そこで、テーパ部の傾斜角度は、約5度乃至約9度であり、好ましくは約7度である。請求項6に係る本発明は、くさび圧入効果と挿入穴形成の容易さを提供するという効果を奏する。
【0025】
突出部の個数が少ないと十分な回旋抵抗性が得にくくなり、突出部の個数が多くなると嵌合凹部の形成が煩雑になる。そこで、請求項7に係る本発明は、適度の回旋抵抗性と嵌合凹部形成の簡略化を提供するという効果を奏する。
【0026】
請求項8に係る本発明は、テーパ部の周方向に対して均等な回旋抵抗性を提供するという効果を奏する。
【0027】
ステム部のストレート部とテーパ部との間での境界を画定する境界線は、微視的に見れば屈曲変異線となるために、機械的強度の劣った特異部分になっている。そのような特異部分に対して、粗面部の形成の際の各種処理(高温熱処理や化学的処理等)を施すことは、更なる強度低下を引き起こす恐れがある。そこで、請求項9に係る本発明は、粗面加工されていないテーパ部を緩衝領域として介在配置することにより、ストレート部とテーパ部との境界部分での強度低下を抑制するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第一実施形態に係る生体用補綴体の正面図である。
【図2】図1に示した生体用補綴体の側面図である。
【図3】図1に示した生体用補綴体を斜め下方から見た斜視図である。
【図4】図1に示した生体用補綴体を斜め上方から見た斜視図である。
【図5】図2に示した生体用補綴体のA−A断面図である。
【図6】図1に示した生体用補綴体が挿入される大腿骨の骨切り面を説明する図である。
【図7】リーマによって大腿骨に嵌合凹部の骨切りを行う様子を説明する図である。
【図8】ノミによって大腿骨に嵌合凹部の骨切りを行う様子を説明する図である。
【図9】図1に示した生体用補綴体を含む大腿骨コンポーネントの組立分解図である。
【図10】図9に示した大腿骨コンポーネントと、該大腿骨コンポーネントが補綴される大腿骨とを示す図である。
【図11】本発明の第二実施形態に係る生体用補綴体の正面図である。
【図12】図11に示した生体用補綴体の側面図である。
【図13】図11に示した生体用補綴体を斜め下方から見た斜視図である。
【図14】図11に示した生体用補綴体を斜め上方から見た斜視図である。
【図15】図12に示した生体用補綴体のB−B断面図である。
【図16】図11に示した生体用補綴体が挿入される大腿骨の骨切り面を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の第一実施形態に係る生体用補綴体10を、図1乃至5を参照しながら詳細に説明する。本願発明の生体用補綴体10の好適な適用部位として大腿骨2の近位端すなわち股関節とした場合について説明する。
【0030】
図1に示すように、生体用補綴体10は、大腿骨2の近位端の骨髄腔6の中に挿入される棒状のステム部12と、ステム部12と一体的に構成されて骨切り面4に当接する骨幹部18と、骨幹部18と一体的に構成されて接続ネジ穴16を有する嵌合部14と、を備えている。生体用補綴体10の母材は、Ti合金(例えば、生体用Ti合金として、Ti−6Al−4V、Ti−15Mo−5Zr−3Al、Ti−6Al−2Nb−1Ta)やCo−Cr−Mo合金やステンレス等の金属製若しくはアルミナ等のセラミックス製等の生体安全性の高い材料からできている。
【0031】
大略円柱形状をしているステム部12は、ステム部12の先端部12bの側に位置して、ストレート形状をしているストレート部20と、その根元部12aの側に位置して、先端部12bの側に向けて先細に傾斜しているテーパ部22と、を備えている。ストレート部20は、粗面加工の施されていないスムーズな面(非粗面)である。テーパ部22は、後述するように、骨髄腔6(すなわち、緻密質や海綿質の内面側)との結合力を高めるように粗面加工された粗面と、粗面加工の施されていないスムーズな面(非粗面)と、から構成されている。
【0032】
ステム部12の軸線に対するテーパ部22の傾斜角度が小さいと、傾斜したテーパ部22によるくさび圧入効果が小さくなる。テーパ部22の傾斜角度が大きいと、骨切り面4での挿入穴80の径が大きくなって骨の切削量が多くなるので、骨の細い患者ではステム部12の周囲にあってステム部12を保持する緻密質や海綿質の内面側が壊れやすくなる。そこで、テーパ部22の傾斜角度は、好ましくは約5度乃至約9度であり、より好ましくは約7度である。
【0033】
ステム部12の根元部12aから先端部12bに向けて軸方向に沿って延在するとともに外方に向けて突出する突出部30が、テーパ部22の上に配設されている。図1及び2に示すように、4個の突出部30が、テーパ部22の周面上に90度の角度で等配されている。なお、このような回旋止め機能を持った突出部30は、当該技術分野においてフィン又はキールと呼ばれている。
【0034】
突出部30の個数が少ないと十分な回旋抵抗性が得にくくなり、突出部30の個数が多くなると後述する大腿骨2での嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成が煩雑になる。2個乃至6個程度の突出部30をテーパ部22に配設することが好ましいが、図1に示した生体用補綴体10では、4個の突出部30を配設することにより、適度の回旋抵抗性と嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成の簡略化を提供することを可能にする。また、複数個の突出部30をテーパ部22の周面上に均等に配置することにより、テーパ部22の周方向に対して均等な回旋抵抗性を提供することを可能にする。
【0035】
例えば、突出部30は、外径サイズが12mmであるテーパ部22の表面から、滑らかに且つ連続的に立ち上がっていて、約2mmの高さで突出している。突出部30の突出高さは、根元部12aの側から先端部12bの側に向けて長さ方向で同じであるように構成されているので、突出部30の長さ方向での回旋抵抗性を大略同じにすることを可能にする。
【0036】
第一実施形態に係る生体用補綴体10の各突出部30は、突出部30の軸方向に直交する断面が、図5に示すような略半円形状をしている。図5に示した略半円形状の突出部30を有するテーパ部22の断面係数は、213mm3であり、第二実施形態として後述する略三角形状の突出部30を有するものの断面係数が165mm3であることから、略半円形状の突出部30は曲げに対して強くなっている。また、略半円形状の突出部30は、対応する嵌合凹部(嵌合縦溝)83との接触面積が大きくなっているために良好な回旋抵抗性を提供し、嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成において尖った角部の形成を必要としないために骨の破壊を招来しにくい。さらに、後述するように、術者が電動ドリルを用いて嵌合凹部83の形成術を一人で行うことが可能になるので、省人化を図ることもできる。
【0037】
上記突出部30を含むテーパ部22の表面には、ステム部12の母材と実質的に同系の材料が熔射されることで、表面が粗面化しており、粗面部としての熔射面24が形成されている。例えば、ステム部12の母材がTi合金であれば、純Tiやステム部12の母材と同じあるいは同系のTi合金がアーク熔射される。あるいは、ステム部12の母材がCo−Cr−Mo合金である場合でも、純Tiや同系のTi合金がアーク熔射される。すなわち、骨成長の面から、粗面部としての熔射面24として純TiやTi合金が好適である。
【0038】
さらに、新生骨の生成を早めるために、粗面部としての熔射面24の最表面には、ハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム化合物がプラズマ熔射等で形成されていることが好適である。なお、粗面部としての熔射面24は、強度低下の一因となる表面の微小傷の発生し難さの面から好適であるが、粗面部は、表面を微小な凹凸を持った粗面にすることによって骨組織との結合力を向上させるためのものであるから、エッチングやフライス削りやサンドブラスト加工やエンボス加工や機械加工等で形成することもできる。
【0039】
ステム部12のストレート部20とテーパ部22との間での境界を画定する境界線28は、微視的に見れば屈曲変異線を構成するために、機械的強度の面で劣った特異部分となる。そのような特異部分に対して、熔射面24の形成の際の各種処理(高温熱処理や化学的処理等)を施すことは、更なる強度低下を引き起こす恐れがある。そこで、図2に示すように、上述した熔射面24の先端部12bの側のテーパ部22には、粗面加工されていないスムーズな面(非粗面)を有する緩衝領域26を介在配置しており、ストレート部20とテーパ部22との境界部分での強度低下を抑制している。
【0040】
したがって、突出部30を含むテーパ部22を根元部12aから先端部12bの方向に見ると、粗面加工された突出部30、粗面加工されたテーパ部22、粗面加工されていない緩衝領域26の順序で位置している。
【0041】
なお、熔射面24の先端部12bの側と境界線28との離間距離が近ければ、熔射時の各種処理でダメージを受けてしまう。熔射面24の先端側12bと境界線28との離間距離が遠ければ、熔射面24の粗面領域が小さくなるので固着に寄与する粗面面積が少なくなってしまう。そこで、熔射面24の先端部12bの側と境界線28との離間距離が、好ましくは約2乃至約6mmであり、より好ましくは約4mmである。
【0042】
また、熔射面24が形成される生体用補綴体10の母材の表面から熔射面24が突出していると、熔射面24の厚みが圧入しろとして、骨髄腔6に形成される挿入穴80に圧入したときに段差引っ掛かり効果が得られる。熔射面24の突出量が小さいと、段差引っ掛かり効果が小さくなる。熔射面24の突出量が大きいと、圧入時の抵抗が過大となって設置不可能になることがある。そこで、熔射面24の厚みは、好ましくは約0.3乃至約0.7mmであり、より好ましくは約0.5mmである。また、粗面部24の平均表面粗さ(Ra)は、30乃至60μmである。
【0043】
次に、上記生体用補綴体10の使用態様について、図6乃至8を参照しながら説明する。なお、以下の使用態様においては、生体用補綴体10を大腿骨2の近位端側すなわち股関節側に適用した場合について説明するが、本発明に係る生体用補綴体10は、それ以外の部位(例えば、膝関節、肩関節、肘関節等)にも適用可能である。
【0044】
事故や疾病等によって切除することが必要になった大腿骨2の近位側の患部をオッシレータによって切除する。患部の切除された大腿骨2の骨切り面4には、骨髄腔6が現れる。ステム部12のストレート部20が挿入可能な外径を持ったストレートリーマを骨髄腔6に挿入して、ストレート部20に対応したストレートの穴開け形成を骨髄腔6(すなわち、緻密質や海綿質の内面側)に対して行う。
【0045】
次に、先端が先細に傾斜したテーパ部を持ったテーパリーマを骨髄腔6のストレート穴に挿入して、テーパ部22に対応した傾斜した穴開け形成を骨髄腔6(すなわち、緻密質や海綿質の内面側)に対して行う。その結果、大腿骨2の骨髄腔6には、遠位側がストレート穴であり、近位側が拡径したテーパ穴を有するステム挿入穴81が形成される。例えば、ストレート穴の穴径が8乃至15mmであり、テーパ穴の長さが25mmであり、傾斜角度が約7度である。
【0046】
なお、骨切り面4を行う大腿骨2の位置に応じて骨切り面4の形態が異なる。すなわち、大腿骨2の骨質を肉眼的に見ると、緻密で硬質である緻密質の層が骨の外表面にあり、多孔質で海綿状である海綿質の層が骨の内部にあり、骨切りする場所によってこれらの層の比率が異なるために、骨端側の骨髄腔6で骨切りを行う場合には海綿質が多く存在し、骨幹側の骨髄腔6で骨切りを行う場合には海綿質が減って緻密質が多く存在するようになる。
【0047】
プレーナーガイドを装着したプレーナーを使用して、ステム挿入穴81の形成された後の骨切り面4を平坦にする。
【0048】
図7又は8に示した溝切りツール40を用いて、平坦化した骨切り面4に対して略半円形状の嵌合凹部(嵌合縦溝)83を形成する術式について説明する。
【0049】
図7に示した術式は、溝切りツール40と、リーマ51を装着した電動ドリル50と、を使用するものである。溝切りツール40は、形成すべき嵌合凹部(嵌合縦溝)83に対応する複数個のガイド穴44を有するドリルガイド42と、ドリルガイド42の側面から横方向に延びるハンドル46と、ドリルガイド42の下面から下向きに延びるガイドシャフト(図示しない)と、を備える。他方、電動ドリル50は、リーマ51を駆動するモータ52と、ハンドル54と、ハンドル54の前側に取り付けられたスイッチレバー56と、ハンドル54を脱装着するチャック58と、を備える。ストッパ53を有するリーマ51は、所定の深さでリーミングを行うとともに、チャック58に対して着脱自在であるように構成されている。
【0050】
溝切りツール40のガイドシャフトを、骨髄腔6に形成されたステム挿入穴81を挿入して、溝切りツール40のガイド穴44の位置決めを行う。図7に示すように、チャック58を介して電動ドリル50に装着したリーマ51を、平坦化した骨切り面4に密接配置された溝切りツール40のガイド穴44に挿入して、骨髄腔6(すなわち、緻密質や海綿質の内面側)のリーミングを行う。例えば、一人の術者が、右手62で電動ドリル50のハンドル54を把持し、左手64で溝切りツール40のハンドル44を把持することができ、術式の省人化を図ることができる。リーマ51のストッパ53がドリルガイド42の上面に当接すると、一つの嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成が終了する。図7に示した術式では、一つの嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成に使用したリーマ51をガイド穴44の中に残存したままで、別のリーマ51をチャック58に装着して残りの嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成を行っている。嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成に使用したリーマ51をガイド穴44の中に残存させることは、当該リーマ51がアンカーとして働き、溝切りツール40が大腿骨2に対してグラグラすることを防止して位置決めの安定化に寄与する。なお、一つのリーマ51を使って、4個の全ての嵌合凹部(嵌合縦溝)83を形成するようにしてもよい。
【0051】
あるいは、突出部30の軸方向に直交する断面が略半円形状をしている場合(図5を参照)、図8に示すように、溝切りツール40と、ハンマー60と、刃部76の断面が円弧状であるノミ70と、を使用する術式であってもよい。溝切りツール40は、上述したリーマ51を装着した電動ドリル50を使用した術式と同じものを使用するが、ノミ70は、把持部72と、ハンマー60によって打撃されるヘッド74と、断面が円弧状である刃部76と、ストッパ77と、を備える。ストッパ77を有するノミ70は、所定の深さでリーミングを行うように構成されている。
【0052】
図8においても、溝切りツール40のガイドシャフト(図示しない)を、大腿骨2の骨髄腔6に形成したステム挿入穴81を挿入して、溝切りツール40のガイド穴44の位置決めを行う。そして図8に示すように、ノミ70の刃部76を、平坦化した骨切り面4に密接配置された溝切りツール40のガイド穴44に挿入して、ハンマー60でヘッド74を打撃することにより、骨髄腔6(すなわち、緻密質や海綿質の内面側)の掘削を行う。例えば、一人の術者が、右手62でハンマー60を把持し、左手64でノミ70の把持部72を把持し、もう一人の術者が左手64で溝切りツール40のハンドル46を把持する。したがって、ハンマー60とノミ70を使用して嵌合凹部(嵌合縦溝)83を形成する際には、2人の術者が必要になる。ノミ70のストッパ77がドリルガイド42の上面に当接すると、一つの嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成が終了する。一つのノミ70を使って、残りの嵌合凹部(嵌合縦溝)83を形成する。
【0053】
リーマ51を装着した電動ドリル50を使用した術式(図7に図示)、及び、ハンマー60とノミ70を使用した術式(図8に図示)のいずれによっても、図6に示すように、ステム挿入穴81に対して、4つの嵌合凹部(嵌合縦溝)83を90度の角度で等配した挿入穴80を有する骨切り面4を得ることができる。すなわち、図5及び6において、ステム挿入穴81の外周にある圧接面82は、テーパ部22の熔射面24に対応し、嵌合凹部(嵌合縦溝)83の外周にある嵌合面84は、突出部30の熔射面24に対応するように構成されている。
【0054】
骨髄腔6に形成された挿入穴80に対して、上記生体用補綴体10と略同じ形状の大腿骨トライアルを挿入して設置状態を確認したあと、当該大腿骨トライアルを抜去する。ステム部12の突出部30が挿入穴80の嵌合凹部(嵌合縦溝)83に収まるようにステム部12の位置決めを行った後、上記生体用補綴体10のステム部12を挿入穴80に挿入する。インパクタを生体用補綴体10の嵌合部14に装着し、インパクタのアライメントバーを用いて生体用補綴体10の位置調整を行う。そして、アライメントバーを付けたまま、ハンマーでインパクタを打撃して、骨髄腔6に形成した挿入穴80の中にステム部12を圧入する。
【0055】
インパクタを取り外したあと、エクステンション92を生体用補綴体10の嵌合部14に装着し、エクステンション92の貫通穴と嵌合部14の接続ネジ穴16との軸が一致していることを確認して、エクステンション92と生体用補綴体10とをドライバー94を用いてロックボルト95で一体的にネジ止めする。そして、プロキシマル・フィーマー91をエクステンション92の嵌合部に装着し、プロキシマル・フィーマー91の貫通穴とエクステンション92の嵌合部の接続ネジ穴との軸が一致していることを確認して、プロキシマル・フィーマー91とエクステンション92とをドライバー94を用いてロックボルト95で一体的にネジ止めする。そして、プロキシマル・フィーマー91のテーパ部に骨頭ボール93を嵌合装着する。このようにして組み立てられたコンポーネントは、図10に示すように、大腿骨2の近位部を置換するための大腿骨コンポーネント90として使用する。
【0056】
上述した第一実施形態によれば、骨髄腔6に圧入されたステム部12のテーパ部22が圧入固定を提供し、突出部30が良好な回旋抵抗性を提供するので、大きな荷重(モーメント)の負荷される股関節の大腿骨2に適用することができるという効果を奏する。当該突出部30に対応する嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成部位が、比較的軟質である骨髄腔6(すなわち、緻密質や海綿質の内面側)であるために、骨切り術が容易になるという効果を奏する。そして、突出部30の軸方向に直交する断面を略半円形状とすることにより、突出部30と嵌合凹部(嵌合縦溝)83との間での接触面積が大きくなるために良好な回旋抵抗性を提供し、嵌合凹部(嵌合縦溝)83への尖った角部の形成がないために骨の破壊を招来しにくいという効果を奏する。
【0057】
次に、図11乃至16を参照しながら、本発明の第二実施形態に係る生体用補綴体10について説明するが、上記第一実施形態と重複する部分の説明を省略して上記第一実施形態と相違する部分を中心にして説明する。
【0058】
第二実施形態に係る生体用補綴体10では、突出部30の軸方向に直交する断面を略三角形状とすることを特徴としている。
【0059】
ステム部12の根元部12aから先端部12bに向けて軸方向に沿って延在するとともに外方に向けて突出する4個の突出部30が、テーパ部22の周面上に90度の角度で等配されている。そして、図15に示すように、突出部30の軸方向に直交する断面は、角部35を丸めた略三角形をしている。当該断面は、互いの角度が60度をなす略正三角形状であることが好適である。図15に示した略三角形状の突出部30を有するテーパ部22の断面係数は、165mm3である。この断面係数は、上述した第一実施形態の略半円形状の突出部30の断面係数よりも小さいので、曲げ強さの面で劣っている。しかしながら、後述するように、刃部76の断面がV字形状をしたノミ70とハンマー60を用いて嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成術を複数の術者で行っても、それほど形成術の作業効率が悪くないという面がある。
【0060】
例えば、突出部30の丸みを持った角部35は、外径サイズが12mmであるテーパ部22の表面から、滑らかに且つ連続的に立ち上がっていて、約2mmの高さで突出している。突出部30の角部35の突出高さは、根元部12aの側から先端部12bの側に向けて長さ方向で同じであるように構成されているので、突出部30の長さ方向での回旋抵抗性を大略同じにすることを可能にする。
【0061】
次に、図8に示した溝切りツール40を用いて、平坦化した骨切り面4に対して略三角形状の嵌合凹部(嵌合縦溝)83を形成する術式について簡単に説明する。
【0062】
突出部30の軸方向に直交する断面が略三角形状をしている場合(図15を参照)、図7に示すような、リーマ51を装着した電動ドリル50を使用する術式を利用することが不可であり、図8に示すような、溝切りツール40と、ハンマー60と、ノミ70と、を使用する術式になる。ハンマー60とノミ70を使用して嵌合凹部(嵌合縦溝)83を形成する術式では、例えば、一人の術者が、右手62でハンマー60を把持し、左手64でノミ70の把持部72を把持し、もう一人の術者が左手64で溝切りツール40のハンドル46を把持する態様になり、トータルで2人の術者が必要になる。しかしながら、使用されるノミ70の刃部76の断面が、三角形状をしている突出部30と略同じ形状のV字形状をしていて、当該形状の切れ味が優れているために、作業性が良好である。したがって、一般的な骨ノミを使用する場合と比べて、断面が略三角形状をした嵌合凹部(嵌合縦溝)83を形成するのに要する作業時間を短縮化することができる。
【0063】
なお、上述した実施形態において、生体用補綴体10に関する形状や材質や具体的数値、あるいは生体用補綴体10を骨髄腔6に挿入するための挿入穴80を形成するための術式は、あくまでも本願発明の理解を助けるために例示したものであり、本願発明がこれらの例示に限定されるものではない。また、ステム部12のテーパ部22に形成される突出部30の軸方向に直交する断面は、上述した略半円形状や略三角形状に限定されるものではなく、略四角形状や略半六角形状等の半多角形状、あるいは半オーバル形状であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
2:大腿骨
4:骨切り面
6:骨髄腔
10:生体用補綴体
12:ステム部
12a:根元部
12b:先端部
14:嵌合部
16:接続ネジ穴
18:骨幹部
20:ストレート部(非粗面)
22:テーパ部
24:熔射面(粗面)
26:緩衝領域(非粗面)
28:境界線
30:突出部
35:角部
40:溝切りツール
42:ドリルガイド
44:ガイド穴
46:ハンドル
50:電動ドリル
51:リーマ
52:モータ
53:ストッパ
54:ハンドル
56:スイッチレバー
58:チャック
60:ハンマー
70:ノミ
72:把持部
74:ヘッド
76:刃部
77:ストッパ
80:挿入穴
81:ステム圧入穴
82:圧接面
83:嵌合凹部(嵌合縦溝)
84:嵌合面
90:股関節用コンポーネント
91:プロキシマル・フィーマー
92:エクステンション
93:骨頭ボール
94:ドライバー
95:ロックボルト
【技術分野】
【0001】
本発明は、事故や疾病等による骨欠損部あるいは切除部を補綴するために用いる生体用補綴体に関する。
【背景技術】
【0002】
本願出願人は、事故や疾病等によって生じた骨欠損部あるいは切除部を補綴するための様々なタイプの補綴体をこれまで提案してきている。
【0003】
本願出願人の提案している補綴体として、例えば、大略ストレート形状のステム部を骨髄腔に形成された挿入穴の中に挿入して骨セメントを用いて、生体用補綴体を骨に固定するセメント固定タイプのものがある(例えば、非特許文献1を参照のこと)。また、ステム部の先端側がストレート形状しているとともに、ステム部の根元側が先細のテーパ形状をした生体用補綴体を、骨セメント無しで、骨髄腔に形成された挿入穴の中に圧入固定するタイプのものがある(例えば、特許文献1を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−206677号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】JMM KLS Systemのカタログ、日本メディカルマテリアル株式会社、2004年11月改訂版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に開示された骨セメント固定タイプの補綴体は、ステム部の根元部分において下方に突出する回旋止め部を有し、骨切り面の上に設けられる嵌合凹部(嵌合横溝)と嵌合する構成となっており、良好な回旋抵抗性を提供する。しかしながら、骨切り面上に設けられる嵌合凹部(嵌合横溝)は、リウエルやサージエアトームやヤスリ等を使用して、骨切り面上に露出した円環状の緻密質の端面を長手方向に骨切りすることによって形成される。このとき、円環状の緻密質の厚み方向(すなわち横方向)にわたる骨切りを所定の深さで行うことになるが、骨の外側に位置する緻密質が緻密で硬質であるために、所望形状の嵌合凹部(嵌合横溝)を形成することが困難であり、術者が高度な骨切り術を備えていることを必要とする。また、当該補綴体は、ステム部の根元部分において、突出した回旋止め部を備えるという複雑な形状ゆえに、ステム部の根元部分での応力集中によって破損しやすいという問題がある。
【0007】
また、特許文献1に示した圧入固定タイプの補綴体では、主として、テーパ部に形成された粗面が初期固定及び長期固定に寄与し、テーパ部の圧入が初期固定に寄与している。特許文献1に示した生体用補綴体では、粗面の形成されたテーパ部が固定機能部分として初期的及び長期的にわたって良好な固定力を提供するので、脛骨や大腿骨等の様々な部位に適用可能である。しかしながら、一般的に、大腿骨の近位端側すなわち股関節側に補綴体を用いた場合、椅子に座ったり立ち上がったりする着座動作や、何かの拍子につまずくような動作のときは、直立動作や歩行動作のような通常動作のときよりも、数倍程度の大きな荷重(モーメント)がステム部の固定機能部分(例えば、粗面の形成されたテーパ部)に対して負荷される。そのために、ステム部の固定機能部分における固定力の低下を招き、ステム部のズレやガタツキを生じさせる恐れがある。そのために、圧入固定タイプの補綴体を股関節に対して適用する場合には、ステム部がさらに良好な回旋抵抗性を備えていることが望まれている。
【0008】
したがって、本発明の解決すべき技術的課題は、ステム部の回旋抵抗性を高めることにより、大きな荷重(モーメント)の負荷される股関節のような部位にも適用可能であり、ステム部を埋植するための骨切り術も容易である生体用補綴体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記技術的課題を解決するために、本発明によれば、以下の生体用補綴体が提供される。
【0010】
すなわち、本発明の請求項1に係る生体用補綴体は、
骨髄腔内に挿入されるステム部を有する生体用補綴体であって、
前記ステム部は、
前記ステム部の先端側に位置して、ストレート形状をしているストレート部と、
前記ステム部の根元側に位置して、先端側に向けて先細に傾斜しているテーパ部と、を備え、
根元側から先端側に向けて軸方向に沿って延在するとともに外方に向けて突出する突出部は、前記テーパ部の上に配設されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2に係る生体用補綴体では、少なくとも前記突出部及び前記突出部の周辺にあるテーパ部が、粗面加工されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項3に係る生体用補綴体では、前記突出部の軸方向に直交する断面が、略半円形状であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項4に係る生体用補綴体では、前記突出部の軸方向に直交する断面が、略三角形状であることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項5に係る生体用補綴体では、前記ステム部の軸線に対する前記突出部の傾斜角度と前記テーパ部の傾斜角度とが、同じであることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項6に係る生体用補綴体では、前記突出部及び前記テーパ部における前記傾斜角度は、約7度であることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項7に係る生体用補綴体では、前記突出部の個数は、2乃至4であることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項8に係る生体用補綴体では、前記突出部は、前記テーパ部の周面に対して均等に配設していることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項9に係る生体用補綴体では、前記ストレート部と前記テーパ部との間での境界を画定する境界線よりも根元側に位置するテーパ部は、粗面加工されていないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に係る本発明は、大きな荷重(モーメント)が生体用補綴体に負荷された場合、骨髄腔内に圧入されたステム部のテーパ部が圧入固定に寄与し、テーパ部上に配設された突出部が生体用補綴体の回旋方向の動きを阻止するように働き、ステム部がこれまで以上に良好な回旋抵抗性を提供するので、大きな荷重(モーメント)の負荷される股関節のような部位にも適用可能であるという効果を奏する。そして、本発明では当該突出部に対応する嵌合凹部(嵌合縦溝)を骨髄腔(緻密質や海綿質の内面側)に形成することになるが、硬質である緻密質の全厚みにわたって嵌合凹部(嵌合横溝)を骨切りする従来技術に対して、骨髄腔(緻密質や海綿質の内面側)という比較的軟質な部分の骨切りは容易であるので、突出部を有するステム部を埋植するための骨切り術が容易になるという効果を奏する。
【0020】
請求項2に係る本発明は、前記突出部及び前記突出部の周辺にあるテーパ部に形成された粗面の微小な凸凹により、初期的な固定性を向上するとともに、骨成長を促進して長期的な固定性を向上するという効果を奏する。
【0021】
請求項3に係る本発明は、突出部と嵌合凹部との間での接触面積が大きくなるために良好な回旋抵抗性を提供し、嵌合凹部への尖った角部を形成することもないために骨の破壊を招来しにくいという効果も奏する。
【0022】
請求項4に係る本発明は、刃部がV字形状をしたノミを使って嵌合凹部を形成することができ、嵌合凹部の形成を容易にするという効果を奏する。
【0023】
請求項5に係る本発明は、突出部の長さ方向での突出量が同じであるので、突出部の長さ方向での回旋抵抗性を大略同じにすることができるという効果を奏する。
【0024】
テーパ部の傾斜角度が小さいと、テーパ部によるくさび圧入効果が小さくなる。テーパ部の傾斜角度が大きいと、骨切り面での挿入穴の径が大きくなって骨の切削量が大きくなるので、骨の細い患者ではステム部の周囲にあってステム部を保持する緻密質や海綿質が壊れやすくなる。そこで、テーパ部の傾斜角度は、約5度乃至約9度であり、好ましくは約7度である。請求項6に係る本発明は、くさび圧入効果と挿入穴形成の容易さを提供するという効果を奏する。
【0025】
突出部の個数が少ないと十分な回旋抵抗性が得にくくなり、突出部の個数が多くなると嵌合凹部の形成が煩雑になる。そこで、請求項7に係る本発明は、適度の回旋抵抗性と嵌合凹部形成の簡略化を提供するという効果を奏する。
【0026】
請求項8に係る本発明は、テーパ部の周方向に対して均等な回旋抵抗性を提供するという効果を奏する。
【0027】
ステム部のストレート部とテーパ部との間での境界を画定する境界線は、微視的に見れば屈曲変異線となるために、機械的強度の劣った特異部分になっている。そのような特異部分に対して、粗面部の形成の際の各種処理(高温熱処理や化学的処理等)を施すことは、更なる強度低下を引き起こす恐れがある。そこで、請求項9に係る本発明は、粗面加工されていないテーパ部を緩衝領域として介在配置することにより、ストレート部とテーパ部との境界部分での強度低下を抑制するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第一実施形態に係る生体用補綴体の正面図である。
【図2】図1に示した生体用補綴体の側面図である。
【図3】図1に示した生体用補綴体を斜め下方から見た斜視図である。
【図4】図1に示した生体用補綴体を斜め上方から見た斜視図である。
【図5】図2に示した生体用補綴体のA−A断面図である。
【図6】図1に示した生体用補綴体が挿入される大腿骨の骨切り面を説明する図である。
【図7】リーマによって大腿骨に嵌合凹部の骨切りを行う様子を説明する図である。
【図8】ノミによって大腿骨に嵌合凹部の骨切りを行う様子を説明する図である。
【図9】図1に示した生体用補綴体を含む大腿骨コンポーネントの組立分解図である。
【図10】図9に示した大腿骨コンポーネントと、該大腿骨コンポーネントが補綴される大腿骨とを示す図である。
【図11】本発明の第二実施形態に係る生体用補綴体の正面図である。
【図12】図11に示した生体用補綴体の側面図である。
【図13】図11に示した生体用補綴体を斜め下方から見た斜視図である。
【図14】図11に示した生体用補綴体を斜め上方から見た斜視図である。
【図15】図12に示した生体用補綴体のB−B断面図である。
【図16】図11に示した生体用補綴体が挿入される大腿骨の骨切り面を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明の第一実施形態に係る生体用補綴体10を、図1乃至5を参照しながら詳細に説明する。本願発明の生体用補綴体10の好適な適用部位として大腿骨2の近位端すなわち股関節とした場合について説明する。
【0030】
図1に示すように、生体用補綴体10は、大腿骨2の近位端の骨髄腔6の中に挿入される棒状のステム部12と、ステム部12と一体的に構成されて骨切り面4に当接する骨幹部18と、骨幹部18と一体的に構成されて接続ネジ穴16を有する嵌合部14と、を備えている。生体用補綴体10の母材は、Ti合金(例えば、生体用Ti合金として、Ti−6Al−4V、Ti−15Mo−5Zr−3Al、Ti−6Al−2Nb−1Ta)やCo−Cr−Mo合金やステンレス等の金属製若しくはアルミナ等のセラミックス製等の生体安全性の高い材料からできている。
【0031】
大略円柱形状をしているステム部12は、ステム部12の先端部12bの側に位置して、ストレート形状をしているストレート部20と、その根元部12aの側に位置して、先端部12bの側に向けて先細に傾斜しているテーパ部22と、を備えている。ストレート部20は、粗面加工の施されていないスムーズな面(非粗面)である。テーパ部22は、後述するように、骨髄腔6(すなわち、緻密質や海綿質の内面側)との結合力を高めるように粗面加工された粗面と、粗面加工の施されていないスムーズな面(非粗面)と、から構成されている。
【0032】
ステム部12の軸線に対するテーパ部22の傾斜角度が小さいと、傾斜したテーパ部22によるくさび圧入効果が小さくなる。テーパ部22の傾斜角度が大きいと、骨切り面4での挿入穴80の径が大きくなって骨の切削量が多くなるので、骨の細い患者ではステム部12の周囲にあってステム部12を保持する緻密質や海綿質の内面側が壊れやすくなる。そこで、テーパ部22の傾斜角度は、好ましくは約5度乃至約9度であり、より好ましくは約7度である。
【0033】
ステム部12の根元部12aから先端部12bに向けて軸方向に沿って延在するとともに外方に向けて突出する突出部30が、テーパ部22の上に配設されている。図1及び2に示すように、4個の突出部30が、テーパ部22の周面上に90度の角度で等配されている。なお、このような回旋止め機能を持った突出部30は、当該技術分野においてフィン又はキールと呼ばれている。
【0034】
突出部30の個数が少ないと十分な回旋抵抗性が得にくくなり、突出部30の個数が多くなると後述する大腿骨2での嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成が煩雑になる。2個乃至6個程度の突出部30をテーパ部22に配設することが好ましいが、図1に示した生体用補綴体10では、4個の突出部30を配設することにより、適度の回旋抵抗性と嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成の簡略化を提供することを可能にする。また、複数個の突出部30をテーパ部22の周面上に均等に配置することにより、テーパ部22の周方向に対して均等な回旋抵抗性を提供することを可能にする。
【0035】
例えば、突出部30は、外径サイズが12mmであるテーパ部22の表面から、滑らかに且つ連続的に立ち上がっていて、約2mmの高さで突出している。突出部30の突出高さは、根元部12aの側から先端部12bの側に向けて長さ方向で同じであるように構成されているので、突出部30の長さ方向での回旋抵抗性を大略同じにすることを可能にする。
【0036】
第一実施形態に係る生体用補綴体10の各突出部30は、突出部30の軸方向に直交する断面が、図5に示すような略半円形状をしている。図5に示した略半円形状の突出部30を有するテーパ部22の断面係数は、213mm3であり、第二実施形態として後述する略三角形状の突出部30を有するものの断面係数が165mm3であることから、略半円形状の突出部30は曲げに対して強くなっている。また、略半円形状の突出部30は、対応する嵌合凹部(嵌合縦溝)83との接触面積が大きくなっているために良好な回旋抵抗性を提供し、嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成において尖った角部の形成を必要としないために骨の破壊を招来しにくい。さらに、後述するように、術者が電動ドリルを用いて嵌合凹部83の形成術を一人で行うことが可能になるので、省人化を図ることもできる。
【0037】
上記突出部30を含むテーパ部22の表面には、ステム部12の母材と実質的に同系の材料が熔射されることで、表面が粗面化しており、粗面部としての熔射面24が形成されている。例えば、ステム部12の母材がTi合金であれば、純Tiやステム部12の母材と同じあるいは同系のTi合金がアーク熔射される。あるいは、ステム部12の母材がCo−Cr−Mo合金である場合でも、純Tiや同系のTi合金がアーク熔射される。すなわち、骨成長の面から、粗面部としての熔射面24として純TiやTi合金が好適である。
【0038】
さらに、新生骨の生成を早めるために、粗面部としての熔射面24の最表面には、ハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム化合物がプラズマ熔射等で形成されていることが好適である。なお、粗面部としての熔射面24は、強度低下の一因となる表面の微小傷の発生し難さの面から好適であるが、粗面部は、表面を微小な凹凸を持った粗面にすることによって骨組織との結合力を向上させるためのものであるから、エッチングやフライス削りやサンドブラスト加工やエンボス加工や機械加工等で形成することもできる。
【0039】
ステム部12のストレート部20とテーパ部22との間での境界を画定する境界線28は、微視的に見れば屈曲変異線を構成するために、機械的強度の面で劣った特異部分となる。そのような特異部分に対して、熔射面24の形成の際の各種処理(高温熱処理や化学的処理等)を施すことは、更なる強度低下を引き起こす恐れがある。そこで、図2に示すように、上述した熔射面24の先端部12bの側のテーパ部22には、粗面加工されていないスムーズな面(非粗面)を有する緩衝領域26を介在配置しており、ストレート部20とテーパ部22との境界部分での強度低下を抑制している。
【0040】
したがって、突出部30を含むテーパ部22を根元部12aから先端部12bの方向に見ると、粗面加工された突出部30、粗面加工されたテーパ部22、粗面加工されていない緩衝領域26の順序で位置している。
【0041】
なお、熔射面24の先端部12bの側と境界線28との離間距離が近ければ、熔射時の各種処理でダメージを受けてしまう。熔射面24の先端側12bと境界線28との離間距離が遠ければ、熔射面24の粗面領域が小さくなるので固着に寄与する粗面面積が少なくなってしまう。そこで、熔射面24の先端部12bの側と境界線28との離間距離が、好ましくは約2乃至約6mmであり、より好ましくは約4mmである。
【0042】
また、熔射面24が形成される生体用補綴体10の母材の表面から熔射面24が突出していると、熔射面24の厚みが圧入しろとして、骨髄腔6に形成される挿入穴80に圧入したときに段差引っ掛かり効果が得られる。熔射面24の突出量が小さいと、段差引っ掛かり効果が小さくなる。熔射面24の突出量が大きいと、圧入時の抵抗が過大となって設置不可能になることがある。そこで、熔射面24の厚みは、好ましくは約0.3乃至約0.7mmであり、より好ましくは約0.5mmである。また、粗面部24の平均表面粗さ(Ra)は、30乃至60μmである。
【0043】
次に、上記生体用補綴体10の使用態様について、図6乃至8を参照しながら説明する。なお、以下の使用態様においては、生体用補綴体10を大腿骨2の近位端側すなわち股関節側に適用した場合について説明するが、本発明に係る生体用補綴体10は、それ以外の部位(例えば、膝関節、肩関節、肘関節等)にも適用可能である。
【0044】
事故や疾病等によって切除することが必要になった大腿骨2の近位側の患部をオッシレータによって切除する。患部の切除された大腿骨2の骨切り面4には、骨髄腔6が現れる。ステム部12のストレート部20が挿入可能な外径を持ったストレートリーマを骨髄腔6に挿入して、ストレート部20に対応したストレートの穴開け形成を骨髄腔6(すなわち、緻密質や海綿質の内面側)に対して行う。
【0045】
次に、先端が先細に傾斜したテーパ部を持ったテーパリーマを骨髄腔6のストレート穴に挿入して、テーパ部22に対応した傾斜した穴開け形成を骨髄腔6(すなわち、緻密質や海綿質の内面側)に対して行う。その結果、大腿骨2の骨髄腔6には、遠位側がストレート穴であり、近位側が拡径したテーパ穴を有するステム挿入穴81が形成される。例えば、ストレート穴の穴径が8乃至15mmであり、テーパ穴の長さが25mmであり、傾斜角度が約7度である。
【0046】
なお、骨切り面4を行う大腿骨2の位置に応じて骨切り面4の形態が異なる。すなわち、大腿骨2の骨質を肉眼的に見ると、緻密で硬質である緻密質の層が骨の外表面にあり、多孔質で海綿状である海綿質の層が骨の内部にあり、骨切りする場所によってこれらの層の比率が異なるために、骨端側の骨髄腔6で骨切りを行う場合には海綿質が多く存在し、骨幹側の骨髄腔6で骨切りを行う場合には海綿質が減って緻密質が多く存在するようになる。
【0047】
プレーナーガイドを装着したプレーナーを使用して、ステム挿入穴81の形成された後の骨切り面4を平坦にする。
【0048】
図7又は8に示した溝切りツール40を用いて、平坦化した骨切り面4に対して略半円形状の嵌合凹部(嵌合縦溝)83を形成する術式について説明する。
【0049】
図7に示した術式は、溝切りツール40と、リーマ51を装着した電動ドリル50と、を使用するものである。溝切りツール40は、形成すべき嵌合凹部(嵌合縦溝)83に対応する複数個のガイド穴44を有するドリルガイド42と、ドリルガイド42の側面から横方向に延びるハンドル46と、ドリルガイド42の下面から下向きに延びるガイドシャフト(図示しない)と、を備える。他方、電動ドリル50は、リーマ51を駆動するモータ52と、ハンドル54と、ハンドル54の前側に取り付けられたスイッチレバー56と、ハンドル54を脱装着するチャック58と、を備える。ストッパ53を有するリーマ51は、所定の深さでリーミングを行うとともに、チャック58に対して着脱自在であるように構成されている。
【0050】
溝切りツール40のガイドシャフトを、骨髄腔6に形成されたステム挿入穴81を挿入して、溝切りツール40のガイド穴44の位置決めを行う。図7に示すように、チャック58を介して電動ドリル50に装着したリーマ51を、平坦化した骨切り面4に密接配置された溝切りツール40のガイド穴44に挿入して、骨髄腔6(すなわち、緻密質や海綿質の内面側)のリーミングを行う。例えば、一人の術者が、右手62で電動ドリル50のハンドル54を把持し、左手64で溝切りツール40のハンドル44を把持することができ、術式の省人化を図ることができる。リーマ51のストッパ53がドリルガイド42の上面に当接すると、一つの嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成が終了する。図7に示した術式では、一つの嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成に使用したリーマ51をガイド穴44の中に残存したままで、別のリーマ51をチャック58に装着して残りの嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成を行っている。嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成に使用したリーマ51をガイド穴44の中に残存させることは、当該リーマ51がアンカーとして働き、溝切りツール40が大腿骨2に対してグラグラすることを防止して位置決めの安定化に寄与する。なお、一つのリーマ51を使って、4個の全ての嵌合凹部(嵌合縦溝)83を形成するようにしてもよい。
【0051】
あるいは、突出部30の軸方向に直交する断面が略半円形状をしている場合(図5を参照)、図8に示すように、溝切りツール40と、ハンマー60と、刃部76の断面が円弧状であるノミ70と、を使用する術式であってもよい。溝切りツール40は、上述したリーマ51を装着した電動ドリル50を使用した術式と同じものを使用するが、ノミ70は、把持部72と、ハンマー60によって打撃されるヘッド74と、断面が円弧状である刃部76と、ストッパ77と、を備える。ストッパ77を有するノミ70は、所定の深さでリーミングを行うように構成されている。
【0052】
図8においても、溝切りツール40のガイドシャフト(図示しない)を、大腿骨2の骨髄腔6に形成したステム挿入穴81を挿入して、溝切りツール40のガイド穴44の位置決めを行う。そして図8に示すように、ノミ70の刃部76を、平坦化した骨切り面4に密接配置された溝切りツール40のガイド穴44に挿入して、ハンマー60でヘッド74を打撃することにより、骨髄腔6(すなわち、緻密質や海綿質の内面側)の掘削を行う。例えば、一人の術者が、右手62でハンマー60を把持し、左手64でノミ70の把持部72を把持し、もう一人の術者が左手64で溝切りツール40のハンドル46を把持する。したがって、ハンマー60とノミ70を使用して嵌合凹部(嵌合縦溝)83を形成する際には、2人の術者が必要になる。ノミ70のストッパ77がドリルガイド42の上面に当接すると、一つの嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成が終了する。一つのノミ70を使って、残りの嵌合凹部(嵌合縦溝)83を形成する。
【0053】
リーマ51を装着した電動ドリル50を使用した術式(図7に図示)、及び、ハンマー60とノミ70を使用した術式(図8に図示)のいずれによっても、図6に示すように、ステム挿入穴81に対して、4つの嵌合凹部(嵌合縦溝)83を90度の角度で等配した挿入穴80を有する骨切り面4を得ることができる。すなわち、図5及び6において、ステム挿入穴81の外周にある圧接面82は、テーパ部22の熔射面24に対応し、嵌合凹部(嵌合縦溝)83の外周にある嵌合面84は、突出部30の熔射面24に対応するように構成されている。
【0054】
骨髄腔6に形成された挿入穴80に対して、上記生体用補綴体10と略同じ形状の大腿骨トライアルを挿入して設置状態を確認したあと、当該大腿骨トライアルを抜去する。ステム部12の突出部30が挿入穴80の嵌合凹部(嵌合縦溝)83に収まるようにステム部12の位置決めを行った後、上記生体用補綴体10のステム部12を挿入穴80に挿入する。インパクタを生体用補綴体10の嵌合部14に装着し、インパクタのアライメントバーを用いて生体用補綴体10の位置調整を行う。そして、アライメントバーを付けたまま、ハンマーでインパクタを打撃して、骨髄腔6に形成した挿入穴80の中にステム部12を圧入する。
【0055】
インパクタを取り外したあと、エクステンション92を生体用補綴体10の嵌合部14に装着し、エクステンション92の貫通穴と嵌合部14の接続ネジ穴16との軸が一致していることを確認して、エクステンション92と生体用補綴体10とをドライバー94を用いてロックボルト95で一体的にネジ止めする。そして、プロキシマル・フィーマー91をエクステンション92の嵌合部に装着し、プロキシマル・フィーマー91の貫通穴とエクステンション92の嵌合部の接続ネジ穴との軸が一致していることを確認して、プロキシマル・フィーマー91とエクステンション92とをドライバー94を用いてロックボルト95で一体的にネジ止めする。そして、プロキシマル・フィーマー91のテーパ部に骨頭ボール93を嵌合装着する。このようにして組み立てられたコンポーネントは、図10に示すように、大腿骨2の近位部を置換するための大腿骨コンポーネント90として使用する。
【0056】
上述した第一実施形態によれば、骨髄腔6に圧入されたステム部12のテーパ部22が圧入固定を提供し、突出部30が良好な回旋抵抗性を提供するので、大きな荷重(モーメント)の負荷される股関節の大腿骨2に適用することができるという効果を奏する。当該突出部30に対応する嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成部位が、比較的軟質である骨髄腔6(すなわち、緻密質や海綿質の内面側)であるために、骨切り術が容易になるという効果を奏する。そして、突出部30の軸方向に直交する断面を略半円形状とすることにより、突出部30と嵌合凹部(嵌合縦溝)83との間での接触面積が大きくなるために良好な回旋抵抗性を提供し、嵌合凹部(嵌合縦溝)83への尖った角部の形成がないために骨の破壊を招来しにくいという効果を奏する。
【0057】
次に、図11乃至16を参照しながら、本発明の第二実施形態に係る生体用補綴体10について説明するが、上記第一実施形態と重複する部分の説明を省略して上記第一実施形態と相違する部分を中心にして説明する。
【0058】
第二実施形態に係る生体用補綴体10では、突出部30の軸方向に直交する断面を略三角形状とすることを特徴としている。
【0059】
ステム部12の根元部12aから先端部12bに向けて軸方向に沿って延在するとともに外方に向けて突出する4個の突出部30が、テーパ部22の周面上に90度の角度で等配されている。そして、図15に示すように、突出部30の軸方向に直交する断面は、角部35を丸めた略三角形をしている。当該断面は、互いの角度が60度をなす略正三角形状であることが好適である。図15に示した略三角形状の突出部30を有するテーパ部22の断面係数は、165mm3である。この断面係数は、上述した第一実施形態の略半円形状の突出部30の断面係数よりも小さいので、曲げ強さの面で劣っている。しかしながら、後述するように、刃部76の断面がV字形状をしたノミ70とハンマー60を用いて嵌合凹部(嵌合縦溝)83の形成術を複数の術者で行っても、それほど形成術の作業効率が悪くないという面がある。
【0060】
例えば、突出部30の丸みを持った角部35は、外径サイズが12mmであるテーパ部22の表面から、滑らかに且つ連続的に立ち上がっていて、約2mmの高さで突出している。突出部30の角部35の突出高さは、根元部12aの側から先端部12bの側に向けて長さ方向で同じであるように構成されているので、突出部30の長さ方向での回旋抵抗性を大略同じにすることを可能にする。
【0061】
次に、図8に示した溝切りツール40を用いて、平坦化した骨切り面4に対して略三角形状の嵌合凹部(嵌合縦溝)83を形成する術式について簡単に説明する。
【0062】
突出部30の軸方向に直交する断面が略三角形状をしている場合(図15を参照)、図7に示すような、リーマ51を装着した電動ドリル50を使用する術式を利用することが不可であり、図8に示すような、溝切りツール40と、ハンマー60と、ノミ70と、を使用する術式になる。ハンマー60とノミ70を使用して嵌合凹部(嵌合縦溝)83を形成する術式では、例えば、一人の術者が、右手62でハンマー60を把持し、左手64でノミ70の把持部72を把持し、もう一人の術者が左手64で溝切りツール40のハンドル46を把持する態様になり、トータルで2人の術者が必要になる。しかしながら、使用されるノミ70の刃部76の断面が、三角形状をしている突出部30と略同じ形状のV字形状をしていて、当該形状の切れ味が優れているために、作業性が良好である。したがって、一般的な骨ノミを使用する場合と比べて、断面が略三角形状をした嵌合凹部(嵌合縦溝)83を形成するのに要する作業時間を短縮化することができる。
【0063】
なお、上述した実施形態において、生体用補綴体10に関する形状や材質や具体的数値、あるいは生体用補綴体10を骨髄腔6に挿入するための挿入穴80を形成するための術式は、あくまでも本願発明の理解を助けるために例示したものであり、本願発明がこれらの例示に限定されるものではない。また、ステム部12のテーパ部22に形成される突出部30の軸方向に直交する断面は、上述した略半円形状や略三角形状に限定されるものではなく、略四角形状や略半六角形状等の半多角形状、あるいは半オーバル形状であってもよい。
【符号の説明】
【0064】
2:大腿骨
4:骨切り面
6:骨髄腔
10:生体用補綴体
12:ステム部
12a:根元部
12b:先端部
14:嵌合部
16:接続ネジ穴
18:骨幹部
20:ストレート部(非粗面)
22:テーパ部
24:熔射面(粗面)
26:緩衝領域(非粗面)
28:境界線
30:突出部
35:角部
40:溝切りツール
42:ドリルガイド
44:ガイド穴
46:ハンドル
50:電動ドリル
51:リーマ
52:モータ
53:ストッパ
54:ハンドル
56:スイッチレバー
58:チャック
60:ハンマー
70:ノミ
72:把持部
74:ヘッド
76:刃部
77:ストッパ
80:挿入穴
81:ステム圧入穴
82:圧接面
83:嵌合凹部(嵌合縦溝)
84:嵌合面
90:股関節用コンポーネント
91:プロキシマル・フィーマー
92:エクステンション
93:骨頭ボール
94:ドライバー
95:ロックボルト
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨髄腔内に挿入されるステム部を有する生体用補綴体であって、
前記ステム部は、
前記ステム部の先端側に位置して、ストレート形状をしているストレート部と、
前記ステム部の根元側に位置して、先端側に向けて先細に傾斜しているテーパ部と、を備え、
根元側から先端側に向けて軸方向に沿って延在するとともに外方に向けて突出する突出部は、前記テーパ部の上に配設されていることを特徴とする生体用補綴体。
【請求項2】
少なくとも前記突出部及び前記突出部の周辺にあるテーパ部が、粗面加工されていることを特徴とする、請求項1に記載の生体用補綴体。
【請求項3】
前記突出部の軸方向に直交する断面が、略半円形状であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の生体用補綴体。
【請求項4】
前記突出部の軸方向に直交する断面が、略三角形状であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の生体用補綴体。
【請求項5】
前記ステム部の軸線に対する前記突出部の傾斜角度と前記テーパ部の傾斜角度とが、同じであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の生体用補綴体。
【請求項6】
前記突出部及び前記テーパ部における前記傾斜角度は、約7度であることを特徴とする、請求項5に記載の生体用補綴体。
【請求項7】
前記突出部の個数は、2乃至4であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一つに記載の生体用補綴体。
【請求項8】
前記突出部は、前記テーパ部の周面に対して均等に配設していることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の生体用補綴体。
【請求項9】
前記ストレート部と前記テーパ部との間での境界を画定する境界線よりも根元側に位置するテーパ部は、粗面加工されていないことを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか一つに記載の生体用補綴体。
【請求項1】
骨髄腔内に挿入されるステム部を有する生体用補綴体であって、
前記ステム部は、
前記ステム部の先端側に位置して、ストレート形状をしているストレート部と、
前記ステム部の根元側に位置して、先端側に向けて先細に傾斜しているテーパ部と、を備え、
根元側から先端側に向けて軸方向に沿って延在するとともに外方に向けて突出する突出部は、前記テーパ部の上に配設されていることを特徴とする生体用補綴体。
【請求項2】
少なくとも前記突出部及び前記突出部の周辺にあるテーパ部が、粗面加工されていることを特徴とする、請求項1に記載の生体用補綴体。
【請求項3】
前記突出部の軸方向に直交する断面が、略半円形状であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の生体用補綴体。
【請求項4】
前記突出部の軸方向に直交する断面が、略三角形状であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の生体用補綴体。
【請求項5】
前記ステム部の軸線に対する前記突出部の傾斜角度と前記テーパ部の傾斜角度とが、同じであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の生体用補綴体。
【請求項6】
前記突出部及び前記テーパ部における前記傾斜角度は、約7度であることを特徴とする、請求項5に記載の生体用補綴体。
【請求項7】
前記突出部の個数は、2乃至4であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一つに記載の生体用補綴体。
【請求項8】
前記突出部は、前記テーパ部の周面に対して均等に配設していることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の生体用補綴体。
【請求項9】
前記ストレート部と前記テーパ部との間での境界を画定する境界線よりも根元側に位置するテーパ部は、粗面加工されていないことを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか一つに記載の生体用補綴体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−5986(P2013−5986A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141996(P2011−141996)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(504418084)京セラメディカル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(504418084)京セラメディカル株式会社 (106)
【Fターム(参考)】
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