説明

生体画像取得装置

【課題】試料の体温を低下させることなく試料の観察を多方向から同時に短時間に行なうことができる生体イメージング装置を提供する。
【解決手段】透明材質からなる試料ホルダー11の下面に試料ホルダー11を加熱するための透明導電膜11aが蒸着されている。通電制御部26は試料ホルダー11上面の温度を温度センサ24を介してモニタし、試料ホルダー11上面の温度が所定の温度となるように電源装置22を介して透明導電膜11aへの通電量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小動物などの生体試料を対象とする光バイオイメージング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
生体中の分子種がどのように分布しているかを画像化する手法は、医学、生物学の重要な研究方法である。これまで細胞レベルでは顕微鏡を使い、蛍光色素を付着した分子プローブや、化学発光を用いる分子プローブを用いて、分子種を画像化する方法がひろく行われて来た。今後は細胞レベルからより大きな臓器やさらに個体に対して、注目している分子種が分布している様子を生きたまま観察する装置が要求されている。例えばマウスなど小動物の個体におけるガン細胞に蛍光プローブが結合するようにして、注目するガン細胞の増殖の様子を画像化し、毎日とか毎週とかの経時変化として観測する技術である。従来の細胞レベル用の測定装置で動物個体内部のガン細胞の増殖を見るためには、動物を殺して所定の部分を染色したり、蛍光体を付けたりして観察することになるが、それでは1つの個体に対する長期間にわたる細胞の増殖を見ることができない。この理由で小動物個体の内部情報の分子種を、個体が生きたままの状態で観察できる装置の開発が望まれている。
【0003】
近赤外光は、生体内部における光の透過率が比較的良いため、650nm〜900nm程度の波長を用いる小動物の観察装置が使われている。しかしながら、従来技術の観察法では同時に多方向の観察ができない。例えば、特定の方向からマウスを観察したとき癌が見えなくても反対側から観察すると癌が検出されるといった場合である。一方向しか観測できない装置を用いるとき、オペレータは止むをえず、マウスを体軸を中心として少しずつ回転した像を撮影することで、近似的に多方向の観察をするような操作で対処するしかない。しかしこの方法では再現性の有るデータは得られず、各方向を同時に検出することができない。
【0004】
多方向の画像を得る他の方法としては、回転反射鏡を用いて、時分割で多数の角度の画像を順次取得する方法が知られている(特許文献1参照。)。この手法は、試料自身の平行移動はあるものの、試料を回転させることなく、また2次元検出器も回転させることもなく、途中のミラーの回転と試料の位置の変化によって多方向の観察を行う。しかし、回転反射鏡を用いる特許文献1の方法の欠点は、各方向の測定が時分割であるために同時測定ができず、測定に時間を要することに加えて、構造が複雑であることである。そこで、簡便な構造で、かつ多方向の観察を同時に短時間に測定できる生体イメージング装置が提案されている(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開20050201614
【特許文献2】国際公開2008/059572
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のようなイメージング装置で生体試料の観察を行なう際、試料であるマウスやラットなどの小動物は麻酔状態とされる場合がある。この際、小動物の体温が低下すると、生体内の挙動が本来観察すべき状況における挙動と異なってしまう場合や、小動物を死に至らしめてしまい、同一固体に対する継続的な観察ができなくなる場合がある。そこで、生体試料の近傍にヒータを設けて小動物の体温低下を防ぐことが好ましい。試料を上面のみから観察する生体イメージング装置であれば、試料を載置する試料台にヒータを取り付けるだけですむ。
【0007】
しかし、試料を多方向から観察する生体イメージング装置では、試料の近傍に金属やセラミック製のヒータを配置したり、試料を載置する試料ホルダーを金属やセラミック製のヒータにしたりすると、試料へ照射する励起光がヒータで遮られたり試料からの蛍光がヒータで遮られて検出器に入射しなかったりするなどの問題が発生する。
【0008】
そこで本発明は、上記問題に鑑み、試料の体温を低下させることなく試料の観察を多方向から同時に短時間に行なうことができる生体イメージング装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の生体画像取得装置(生体イメージング装置)は、生体試料が載置される試料ホルダーと、試料ホルダー上の試料から放出される光の像を撮影する1つの2次元検出器と、2次元検出器が撮影した画像を表示する画像表示装置と、試料ホルダー上の試料を複数の方向から観測するとともに、試料から放出される各方向の光の画像を2次元検出器に導く導光光学系と、2次元検出器と導光光学系との間に配置され、導光光学系により導かれた複数の画像を2次元検出器上に結像する1つの主結像レンズとを備え、多方向から同時に試料の観察を行なうものである。試料ホルダーは透明の材質であり、試料ホルダーには生体試料を載置するための試料載置面を均一に加熱するための透明導電膜が設けられている。さらに、試料ホルダーの試料載置面又は生体試料の温度を計測する温度センサと、透明導電膜への通電を行なう電源装置が設けられており、電源装置による透明導電膜への通電量は、通電制御部によって試料載置面の温度が所定温度になるように温度センサの計測値に基づいて制御される。
【0010】
試料から放出される光の一例は、試料に光が照射されたときその光により励起されて試料から放出される蛍光などの光である。試料から放出される光の他の例は、試料に光が照射されなくても試料自身が発光する化学発光や生物発光などの光である。
【0011】
この生体画像取得装置を試料から放出される光の画像として蛍光画像を取得するものとする場合には、導光光学系の光路間の隙間には蛍光発生のために試料に励起光を照射する励起光学系が配置されているものとすることができる。その励起光学系は励起光源として、レーザダイオード又は発光ダイオードからなる発光素子を備えていることが好ましい。その場合には発光素子の点灯の切替えによって励起光の照射方向を切り替えることができる。さらに、励起光学系の各励起光源は異なる波長を発生する複数の発光素子とそれぞれの励起光源が付随的に含む不要な波長成分を除去する干渉フィルタとを励起光源ごとに備えたものとすることができる。この場合には、発光素子の点灯の切替えによって励起光の照射波長も切り替えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の生体画像取得装置では、試料ホルダーにその試料載置面を均一に加熱するための透明電極膜を設けるとともに、装置に透明導電膜を通電するための電源装置と試料載置面又は生体試料の温度を計測する温度センサを備え、電源装置による透明導電膜への通電量は試料載置面の温度が所定温度になるように通電制御部が温度センサの計測値に基づいて制御する。これにより、試料ホルダーに載置された生体試料の温度を観測に適した温度に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施例を示す概略斜視図である。
【図2】同実施例において2次元検出器上に結像した画像を示す平面図である。
【図3】同実施例を試料の軸方向からみた状態で示す正面図である。
【図4】同実施例における1つの励起光源を示す斜視図である。
【図5】2次元検出器上の画像から表示装置に変換表示する操作を示す画像の平面図である。
【図6】他の実施例を試料の軸方向からみた状態で示す正面図である。
【図7】同実施例において2次元検出器上に結像した画像を示す平面図である。
【図8】さらに他の実施例において2次元検出器上に結像した画像を示す平面図である。
【図9】さらに他の実施例を示す斜視図である。
【図10】同実施例において反射鏡に映った試料の画像を結像レンズ側からみて示す展開図である。
【符号の説明】
【0014】
10 生体試料
11 試料ホルダー
11a 透明導電膜
14 2次元検出器
20 光源取付けベース
22 電源装置
24 温度センサ
26 通電制御部
M2〜M5,M2',R1〜R8 反射鏡
L 主結像レンズ
L0〜L5 補助結像レンズ
S1〜S5 励起光源
EM 蛍光側フィルタ
LDλ1A,LDλ1B,LDλ2A,LDλ2B レーザダイオード
Fexλ1A,Fexλ1B,Fexλ2A,Fexλ2B 励起光用フィルタ
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施例)
(5つの方向の同時観測方法の説明)
5つの方向から同時観測する場合を例として、図1と図3を用いて説明する。まず、化学発光又は生物発光モードの場合を取りあげる。
【0016】
図1は一実施例の構成を概略的に示したものであり、試料のまわりの5方向を等分割して測定する実施例である。生体試料10として小動物のマウスを取りあげるが、これに限定されるものではない。試料10は試料ホルダー11上に載置されている。試料ホルダー11上の試料10から放出される光の像を撮影するために1つの2次元検出器14が配置されている。2次元検出器14としては、CCD撮像素子やMOS型イメージセンサなどを使用することができる。2次元検出器14が撮影した画像を表示するために画像表示装置が接続されているが、図示は省略している。試料ホルダー11上の試料10を複数の方向から観測するとともに、試料10から放出される各方向の光の画像を2次元検出器14に導くために、反射鏡M2〜M5からなる多面反射鏡を含む導光光学系が設けられている。2次元検出器14と導光光学系との間には導光光学系により導かれた複数の画像を2次元検出器14上に結像する1つの主結像レンズLとしてカメラレンズが配置されている。
【0017】
主結像レンズLと2次元検出器14は、試料ホルダー11上に載置され試料10の軸(小動物試料の場合は頭から尾に至る体軸)方向に垂直となる1つの方向に配置され、導光光学系の反射鏡M2〜M5は試料10のまわりの5方向を等分割した位置に、試料10の軸方向と平行な直線を含む面を反射面としてもつように配置されている。
【0018】
導光光学系が反射鏡M2〜M5を含んでいることにより導光光学系は試料10から主結像レンズLに至る光路長の異なる光路を含んでいる。そのため主結像レンズLと導光光学系との間には導光光学系の少なくとも1つの光路上に主結像レンズLによる2次元検出器14上での結像を光路長差に応じて補正するための補助結像レンズL1〜L5が配置されている。補助結像レンズL1〜L5は導光光学系のそれぞれの光路の光路長に応じたレンズからなる視野別モザイクレンズである。
【0019】
試料ホルダー11は、下面に透明導電膜11a(図3参照)が蒸着されたガラス基板からなり、上面が試料載置面となっている。透明導電膜11aは、ITO(酸化インジウム・スズ)、酸化亜鉛、酸化スズなどの金属酸化物半導体からなる薄膜であり、可視領域から近赤外領域の波長の光に対して光学的に透明でありながら導電性をもつものである。透明導電膜11aは適当な電気抵抗値をもつように帯状のパターンが蛇行した形状や渦巻き状の形状などに形成されている。透明導電膜11aは通電することにより発熱し、試料ホルダー11の温度を高めることができる。透明導電膜11aには電源装置22が接続されている。
【0020】
試料ホルダー11の上面温度は通電制御部26が温度センサ24を介してモニタし、試料ホルダー11の上面温度が一定温度(例えば30℃〜40℃)を維持するように電源装置22を介して透明導電膜11aへの通電量を制御する。なお、温度センサ24は、例えば赤外線サーモグラフィカメラなど遠隔的な温度計測が可能なものであってもよく、そのような温度センサで生体試料10の温度を計測するようにしてもよい。このように試料ホルダー11の温度を一定温度に維持することで、麻酔下にある生体試料10の体温低下を防止し、観察すべき条件での細胞の挙動を観察できる。
【0021】
図3を用いてさらに説明すると、中央に配置した試料10(A)からの0°方向以外の観測角度72°,144°,216°,288°の光線は、それぞれ反射鏡M2〜M5で反射される結果、反射鏡M2〜M5による試料10の虚像A2’,A3’,A4’,A5’ができるから、これらを上部にある結像レンズLによって共通の2次元検出器14の上に結像させる。試料10は例えば小動物のマウスであるが、図3では簡略化のために試料10を円筒形状の物品として記載している。
【0022】
結像レンズLから下方を見るなら、5つの方向の像A,A2’,A3’,A4’,A5’が見えるが、Aは実像で、その他の4つの像A2’,A3’,A4’,A5’は虚像である。それぞれの像A,A2’,A3’,A4’,A5’迄の距離は図3から判るように像A3’,A4’が最も遠く,像A2’,A5’が中間の距離、正面の実像Aが最も近い。したがって、図3の例では、結像レンズLの焦点を像A3’,A4’に合わせておくと、そのままでは像A1,A2’,A5’の焦点はぼけるので、補助レンズ(凸レンズ)L2とL5で像A2’とA5’の結像を補正し、補助レンズ(凸レンズ)L1で像Aの結像を補正する。
【0023】
2次元検出器14上には、図2のような像の順番に結像する。即ち右端から、72°,144°,0°(中央),216°,288°の像の順番になる。2次元検出器14上にできるこれらの像は、像A,A2’,A3’,A4’,A5’からレンズL迄の距離に応じて前述のように角度毎に倍率の相違があり、かつ像A2’,A3’,A4’,A5’の像は左右が反転した像になる。この結果、図2のような像ができていることがわかる。
【0024】
結像レンズLの典型的な焦点距離が15〜20mm程度(一例として、結像レンズLから試料10の虚像A3’までの距離を300mmとし、試料10が2次元検出器14に結像する倍率を15分の1とすれば、結像レンズLの中心と2次元検出器14との距離は300mmに倍率15分の1を掛けた20mmとなるから、レンズLの焦点距離も20mm弱となる)である。これに対し、補助レンズL1,L2,L5の典型的な焦点距離を計算すると500mmから1500mm程度となる。なぜなら、補助レンズL1は、試料10の位置(例えばレンズLからの距離が200mm:この距離をaとする)から出る光を虚像A3’の距離300mm(この距離をbとする)から出るように変換すればよいので、補助レンズL1の焦点距離をfとするとき、簡単な結像の式、(1/f)=(1/a)−(1/b)よりfが求まり、f=600mmとなる。一方L2,L5は虚像A2’の位置約250mmを虚像A3’の距離300mmから出るように変換するので、焦点距離はいっそう長くなり、同様に計算すると、1500mmとなる。このようにL1,L2,L5はレンズLに比べれば長い焦点距離、即ち極端に弱い曲率のレンズで十分に機能する。
【0025】
なおこの実施例では、最も遠い像A3’とA4’にレンズLの焦点を合わせたので、像A3’とA4’に対する補助レンズは不要である。あるいは補助レンズの位置に補助レンズに替えて単に平行平面ガラス板を配置してもよい。
【0026】
また、結像レンズLの焦点を、中間の像A2’とA5’付近に合わせておき、像A3’、A4’に対し焦点距離が1000mm位と長い弱い凹レンズ、正面の実像Aに対しては焦点距離が1000mm位の弱い凸レンズを使うように変形することも可能である。
【0027】
このように簡単な構造で可動部分なしに、異なる角度からの観測像を一度に共通の2次元検出器14上に結像することができる。
【0028】
(蛍光測定についての実施例の説明)
上述の説明は、化学発光又は生物発光モードの場合であって、試料中の分子プローブ自身が発光するときに該当する。次に分子プローブが励起光を受けたとき蛍光を生じることで発光する系、即ち蛍光モードへの利用法について説明する。
【0029】
蛍光モードの場合、本発明の多面鏡の方法は以下のように蛍光用励起光源のを配置する場所が簡単に確保できる利点を有する。この効果を再び図3を用いて説明する。図3は立面図で図1では省略している蛍光用励起光源S1〜S5を記載してある。これら5つの光源により試料10の周囲5つの角度から試料を照らしている。この際に好都合な点は、反射鏡M2〜M5の隙間にちょうど励起光源S1〜S5を配置する位置が確保できることである。
【0030】
この5方向等分割測定の例では、試料10の実像A又はその虚像A2’,A3’,A4’,A5’が72°毎にできており、試料から直接又は反射鏡M2〜M5の中心(又は正面にレンズL1〜L5がある場合のそれらのレンズの中心)に向かう主光線に対して、試料10を照射する励起光の向きは、プラス36°又はマイナス36°の斜めの方向になっている。6等分の場合この角度はプラス・マイナス30°、7等分にすれば、プラス・マイナスス25.714°になり、いずれも蛍光を測定するのに適当な照射角度になる。
【0031】
通常、蛍光測定では、検出したい分子種とか腫瘍特異性を有する蛍光プローブの吸収波長にあわせて、励起光S1〜S5の波長を選択する。結像レンズLの直前に蛍光側フィルタFEMが配置されており、励起光によって試料10から発光する蛍光波長成分のうち、蛍光側フィルタFEMの透過域に入るものだけを検出するようになっている。励起光の波長成分のうち、波長が変わることなくそのまま散乱される成分が漏れて検出されるとバックグランド光となって測定の障害になるから、励起光の波長成分を全く透過しないように励起光源S1〜S5からの波長と蛍光側フィルタFEMの透過特性を選ぶことが重要である。
【0032】
励起光源S1〜S5として例えば半導体レーザを使うなら、それぞれの電源回路のオン・オフの切替えにより必要な光源だけを自由に点灯したり消灯したりすることができる。
【0033】
ここで、蛍光励起を行いながら全周を複数の角度から観測するには、励起光の点灯/消灯についていくつかの選択が可能である。以下、元に戻って5方向観察の例で説明する。
【0034】
第1の選択は、励起光源S1〜S5のすべてを同時に点灯させるものである。即ち試料10を全周から常時照射した状態で、図2のように2次元検出器14上に現れる5つの画像を撮影して記録するものである。
【0035】
第2の選択は、励起光源S1〜S5のうち、角度的に隣り合う2つの光源(S1,S2)を点灯し残りの3つを消灯して2次元検出器14により5つの画像を撮影し、次に他の隣り合う2つの光源(S2,S3)を点灯し残りの3つを消灯して5つの画像を撮影というように、順次ずらし、最後に隣り合う2つの光源(S5,S1)を点灯し残りの3つを消灯して5つの画像を撮影する。こうして5枚の画像を撮影すると、試料から見るとき、前から励起光を照らすときの蛍光画像だけでなく、後ろからだけとか、横からだけ照らすときの画像が得られるから、動物からの5方向の画像それぞれに対して各5つの励起方向の画像を得るから合計25枚の画像を5回の露光で得ることができる。
【0036】
そして、25枚の画像から動物の体内の浅い位置に発光源があるか、深い位置に発光原があるかを推定できる。即ち浅い位置の発光源なら、25枚のどれかの画像中の被写体の小さい部分が強く光ることが推測されるのに対し、深い位置の発光源ならば25枚のどの画像にも拡散した発光分布しか写らないことが推測されるからである。また、適当なアルゴリズムを使うことで、逆演算によって元の蛍光物質の分布を画像化することも可能となる。
【0037】
第3の選択は、励起光源S1〜S5のうち、1つを点灯し残りを消灯して5つの画像を撮影する操作を順次切り替えていって5回の露光を行う方法も可能である。これは第2の選択に近いが、重ね合わせが成り立てば第3の選択と第2の選択が等価になる。この場合は第2の選択の方が励起光が強いのでSN的には有利である。反対に第3の選択と第2の選択が等価でなければ、第3の選択と第2の選択のすべてを実施し、10回のデータ50枚から計算することもできる。この他にも必要に応じた多数の点灯の組合わせが考えられる。
【0038】
重要なポイントは、本発明の蛍光励起方法は可動部分がなくて単に励起光の点滅だけで、試料の前横又は後ろから励起する励起方法を自在に設定できることである。こうして蛍光モードの場合でも、試料の全周にわたる多方向から励起した観測画像を簡単に得られることである。
【0039】
(蛍光励起用光源の実施例のさらに詳細な説明)
図3において、光源S1〜S5として示した蛍光励起用光源のさらに具体的な実施例を図4によって説明する。
【0040】
励起光源の要件は、(1)目的とする蛍光色素を励起する適切な波長の光を発生できること、(2)蛍光を検出するフィルタ(図1のフィルタFEM)の透過波長域の光を全く含まないこと(すなわち、波長としては励起側と蛍光側が完全に遮断していること)、(3)試料の小動物の全体を極力均一に照射できること、かつ(4)必要な光源の位置と波長の選択を自在に行えることの4点である。
【0041】
図4は、図3に示されている光源S1〜S5の内のどれか1つの構成例であって、光源取付けベース20に4つのレーザダイオードLDλ1A,LDλ2A,LDλ1B,LDλ2Bが配置されている。光源取付けベース20は小動物の体軸に平行な方向に長く伸びた板状のホルダーで、これら4つのレーザダイオードは小動物の体軸の方向に並んでいる。この実施例では4つのレーザダイオードの内、2つLDλ1A,LDλ1Bは同じ波長(例えば780nm)を発振する。また残り2つのレーザダイオードLDλ2A、LDλ2Bは別の波長(例えば690nm)を発振する。同じ波長を発振するレーザダイオードどおしは互いに離れて配置されている。
【0042】
さらに4つのレーザダイオードそれぞれに励起光用のフィルタFexλ1A,Fexλ2A,Fexλ1B,Fexλ2Bが重ねて取り付けてあり、レーザダイオードとフィルタのそれぞれの対(LDλ1AとFexλ1A),(LDλ2AとFexλ2A),(LDλ1BとFexλ1B),(LDλ2BとFexλ2B)がそれぞれの励起光を試料に向けて照射する。通常半導体レーザは1つの固定波長を発振するので、単独に使うだけでも励起機能を十分有すると考えられがちであるが、詳細にみると発振波長の傍に弱いすそ野の発光波長をもつことが多く、すそ野の発光が漏れ光となる。そこでレーザダイオード単体にそれぞれに対応する干渉フィルタをさらに組み合わせることで、励起光中に含まれる蛍光と重なる漏れ光の成分を極めて微少なレベルに軽減する効果が有ることが判った。この構造を有する光源5組を試料の周囲に配置しておき、5つの組の各4つのレーザダイオードの必要なものを単に電気的な選択で点灯することで、光源S1からS5の励起位置の選択と励起波長の選択を自在に行うことができる。
【0043】
なおこの例では各光源S1〜S5が2つの波長を備えている例を示したが、スペースが許す範囲で、もっと多数の波長のレーザダイオードを並べても良いのは当然である。またレーザダイオードと励起光用のフィルタは互いに固定されているから、レーザダイオードの発光が必ずフィルタを通過し、フィルタ以外の隙間をすり抜ける漏れ光を生じないよう、図には示さないが適当な光遮断部品で覆うことができる。
【0044】
励起側を上記のように構成しておけば、励起側と蛍光側の波長選択の方法は次のようになる。5つの励起光源のどの組合わせを使うかの選択と波長の選択を電気的な点灯方式で決定するとともに、図1に示す蛍光側フィルタFEMの選択は、複数のフィルタFEMを回転円板に取り付けておいて、切り替えることで行う。このようにして、蛍光側フィルタFEMの円板の切替え機構だけが機械的な可動部として残るけれども、その他はすべて可動部分がなく、多方向の蛍光励起・検出方法としては極めて簡単な切替え方法を実現できる。
【0045】
(2次元検出器の画像から表示装置の画像への変換)
共通の2次元検出器14上にできる、異なる角度からの観測像は、倍率が異なっていること、ミラーによる反転の有るものと無いものが混在していること、角度の順番がとびとびになっていること、の問題がある。しかし、図5のように簡単な変換によって最終の表示画面では倍率、反転、順序の入れ替えをすませた自然な表示にすることが可能である。
【0046】
また、生物発光、蛍光情報による分子種画像とは別に、同じ2次元検出器14を用いて外形写真を写しておき、外形写真に分子種イメージングを重ねて表示することが行われている。このための外形写真も同じ倍率、反転、順序の入れ替えが起こっているから、図5と同様の手順の変換を実施することで、多方向から見た外形写真と分子種イメージングを重ねたものを自然な順序で表示することができる。
【0047】
(第1の実施例についての変形実施例の説明)
等分割5方向測定の例について上記によって説明した。次に等分割4面測定について、図6、図7、図8を用いて説明する。等分割4面測定では、正面(0°)、左面(90°)、裏面(180°)、右面(270°)というように観測方向をイメージしやすいので、人間の感覚に合いやすい利点がある。
【0048】
図6は等分割4面測定の一実施例で、正面(0°)の横にミラーM1とミラーM3を配置し、左面(90°)と右面(270°)用に用いている。残りの裏面(180°)に対しては、ミラーM2’とミラーM2によって合計2回反射させた像を、左面(90°)の横に作っている。したがって2次元検出器14上の像の様子は図7のようになっている。即ち正面(0°)の横に少し小さく右面(270°)と左面(90°)が並び、右端にかなり小さい裏面(180°)が配列している。
【0049】
図6に戻って補助レンズを説明する。この例では左面(90°)と右面(270°)に対してレンズLの焦点を合わせ(補助レンズ不要)、それより近い正面(0°)用には凸レンズL0を、最も遠い裏面(180°)に対しては凹レンズを使っている。蛍光用励起光源はミラーの配置との関連で必ずしも90°間隔(測定方向のプラス・マイナス45°)でなく、正面と裏面がプラス・マイナス40°、左面(90°)と右面(270°)がプラス・マイナス50°程度になっている。また、励起光源と試料10との距離は、光源S2,S3が、光源S1,S4より近くに配置されている。これらは必ずしも等しい必要はなく、ミラーなどの部品の配置に応じて変形した配置が可能である。
【0050】
図8はさらに異なる4面測定の実施例である。ここでは2次元検出器14上の画像に対して、裏面180°の像を「0°、90°、270°の列」とは別の列になるように、ミラーM2’の曲げ方を変えている。即ち、ミラーM2’を、0°,90°,270°の光線が作る面とは垂直の方向に曲げる向きに配置し、M2はそこからレンズの方に向ければよい。こうすれば、図8のように0°,90°,270°とは垂直にずれた位置に、1つだけ180°の像ができる。2次元検出器14の形が正方形に近ければ、実用上図8のように2次元検出器14を使っても大きな不都合はなく、蛍光光源の配置などの自由度が増す利点がある。
【0051】
以上、図6、図7、図8によって、導光光学系はミラーが1枚だけでなくても色々な変形が可能であって、最終的に2次元検出器14の上に試料の像を沢山導くことができればよいこと、それによって光路長が変わっても、補助レンズを適宜挿入し結像条件の補正が容易にできることを示した。
【0052】
(第2の実施例)
第2の実施例を図9(鳥瞰図)と図10とを用いて説明する。前述の第1の実施例では結像レンズLを試料10の小動物の「体軸方向に垂直な1つの方向」においたが、この第2の実施例では、図9のように小動物の「体軸方向」に結像レンズLと2次元検出器10を配する。そして、体軸方向を中心とする傘のように反射鏡を配置している。この図では、8枚の反射鏡R1〜R8を傘のように配置したので、45°ずつ異なる8つの方向からの撮影を同時に行うことができる。
【0053】
図10はレンズLから見たときに反射鏡R1〜R8に映る試料10の小動物の像の概念を表すものである。放射状の画像が2次元検出器14から読みとれるから、データ変換によって8つの像を並べ直し、観察しやすいように図を配置することができる。この実施例ではレンズからの距離が各方向に対して等しいので、焦点補正に使う補助レンズは不要である。ただ、この方法では第1の実施例に比べて試料10の像の面積が2次元検出器14の面積に占める割合が小さくなりやすい反面、焦点補正レンズが要らないという利点を有する。
【0054】
第1、第2の実施例につての発明の効果を纏めると以下のようになる。
1)1つの2次元検出器を用いて、同時多方向の観察ができる。
2)簡単に多方向の観察ができるので、小動物の裏側に癌ができているような場合でも見落とすことがない。
3)蛍光測定の場合に、励起光源を配置する場所が、多方向測定用の反射鏡の隙間に矛盾無く確保できている。即ち蛍光の場合でも多方向の観察が容易にできる。
4)蛍光測定の場合に、励起光源を半導体レーザ又はLEDとフィルタの組み合わせたもので構成することで、光源の点滅によって可動機構なしに励起光源の照射方向と波長を選択できる。
5)蛍光測定で励起光の位置を切り変えながら、多方向の同時画像取得ができるので、生体内蛍光イメージング再構成の基礎データを得ることができる。すなわち、例えば正面(0°方向)の画像でも照射を前側、横、後と、図の例では5つの方向に変えたものが得られる。
【0055】
(第3の実施例)
第3の実施例は試料と検出系の相対関係を少しずつ傾けて、連続角に近い角度毎のデータを得る手法である。専用の図は省略し、図3を参照して説明する。
【0056】
図3において、中心の試料(小動物)10を1つのホルダーに、それ以外のミラーや光源、検出器、レンズをホルダーとは別の保持機構に一体として取り付け、試料10に対して保持機構を相対的に回転できるようにする。例えば5等分の場合、試料10と保持機構を相対回転を全周の5分の1(72°)の範囲にわたって行えるようにする。その72°の範囲を、例えば12°毎に測定するようにすれば、6回の測定を行うことにより5等分をさらに6等分した全周の30等分の画像を得ることができる。相対回転は全周回転させる必要がなく、僅かの角度の相対回転ですむ。試料を180°とか360°回転することは動物に大きな負担を与える上に、ホルダーに保持するのさえ難しい。また保持機構を360°回転することはケーブルの処理とか機械構造が複雑になる。これに対し、例えば試料10を載置したホルダーを1/5回転(72°)静かに回すのは、動物にとって大きな障害にならないし、反対に保持機構の方を72°回すのも容易である。こうして測定方向の分割ピッチをミラー分割数の何分の1といった、より小さいピッチで行う実施例3の方法は比較的容易に実現でき、かつ有用であることがわかる。
【0057】
第3の実施例の効果として次のものをあげることができる。
1)同時に5枚などの撮影をするので、時分割ではあっても同時測定数の倍数(たとえは5倍)高速である。
2)試料(又は検出器は)の回転は高々1回転の5分の1といった、小さい角度でよいので、構造が簡単である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料を載置するための試料載置面を備えるとともにその試料載置面を均一に加熱するための透明導電膜が設けられた透明材質の試料ホルダーと、
前記試料載置面又は試料載置面に載置された生体試料の温度を計測する温度センサと、
前記透明導電膜への通電を行なう電源装置と、
前記温度センサの計測値に基づいて前記試料載置面の温度が所定温度になるように前記電源装置による通電量を制御する通電制御部と、
前記試料ホルダー上の試料から放出される光の像を撮影する1つの2次元検出器と、
前記2次元検出器が撮影した画像を表示する画像表示装置と、
前記試料ホルダー上の試料を複数の方向から観測するとともに、試料から放出される各方向の光の画像を前記2次元検出器に導く導光光学系と、
前記2次元検出器と導光光学系との間に配置され、前記導光光学系により導かれた複数の画像を前記2次元検出器上に結像する1つの主結像レンズと、を備えた生体画像取得装置。
【請求項2】
試料から放出される前記光は試料に光が照射されたときその光により励起されて試料から放出される光又は光が照射されなくても試料自身が発光する光である請求項1に記載の生体画像取得装置。
【請求項3】
該生体画像取得装置は試料から放出される前記光の画像として蛍光画像を取得するものであり、
前記導光光学系の光路間の隙間には蛍光発生のために試料に励起光を照射する励起光学系が配置されている請求項1又は2に記載の生体画像取得装置。
【請求項4】
前記励起光学系は励起光源として、レーザダイオード又は発光ダイオードからなる発光素子を備え、前記発光素子の点灯の切替えによって励起光の照射方向を切り替える請求項3に記載の生体画像取得装置。
【請求項5】
前記励起光学系の各励起光源は異なる波長を発生する複数の発光素子とそれぞれの波長に応じた不要な波長成分を除去する干渉フィルタとを備えたものであり、前記発光素子の点灯の切替えによって励起光の照射波長も切り替える請求項4に記載の生体画像取得装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−22087(P2011−22087A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169313(P2009−169313)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】