説明

生体硬組織中の耐酸性関与物質の同定方法、レーザー照射による生体硬組織の加熱状況調査方法および、それらの方法を利用した耐酸性生体硬組織の製造方法並びに耐酸性生体硬組織

【課題】口腔内で生息する細菌により産生される酸や生体内の疾患の炎症などにより変化する体液環境にも対応ができる化学的に安定な生体硬組織を提供することにある。
【解決手段】生体硬組織中の耐酸性関与物質を同定するに際し、スライスした生体硬組織試料2の各部の微小部X線回折法による定性分析を行い、前記スライスした生体硬組織試料を酸性溶液に浸漬して、溶解せずに残った部分の微小部X線回折法による定性分析を行い、前記酸性溶液への浸漬前後の前記生体硬組織試料の前記定性分析の結果を対比して、前記耐酸性関与物質を同定することを特徴とする、生体硬組織中の耐酸性関与物質の同定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体硬組織の耐酸性に関する評価・解析のための方法、特にレーザー装置を用いて歯などの生体硬組織に耐酸性を付与する効果の評価・解析のための方法に関し、さらにはその方法を利用した、歯科材料、医科用材料などを含む耐酸性生体硬組織の製造方法並びに耐酸性生体硬組織に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レーザーは、光ファイバーなどの最近の目覚しい技術の進歩により、微細な部位にまで照射が可能になっており、レーザーが照射された血管などの生体内器官は、レーザーの高いエネルギーにより瞬間的に蒸散され、熱凝固によりふさがれるためほとんど出血がなく、いわゆる無血的手術ができ、さらに細菌などの病原菌も死滅するため、レーザーによる手術は、手術に際して輸血や殺菌の必要もなくなるという大きなメリットを有している。このような利点をもつレーザーは、これまでの技術では不可能であった脳腫瘍の手術を成功させ、絶望視されていた多くの人々の生命を救い、「神の指先」とさえ呼称されるようになっている。現在では、網膜はく離、白内障などの治療など医学の広い範囲でレーザーが用いられている。
【0003】
歯科においては、虫歯などの治療には一般に電気ドリルが用いられ、激しい痛みとともに不快な高周波音と振動が伴い、人々はその治療を躊躇している状況にあるが、レーザーによる治療法は、そのような騒音や振動がないばかりかほとんど痛みを感じさせないで治療ができるなどの利点を有することから、「21世紀は、レーザーを制するものが医療を制する」といわれるほどになっている。レーザーは、虫歯予防、歯周病や口腔ガンなどの疾患の治療をはじめ、歯およびカリエス部の切削、顎関節炎の治療、補綴物のレーザー溶接など、多方面にわたる歯科臨床分野にも応用されている先端的医療技術である。
【0004】
ところで、虫歯は、口腔内に生息する多種多様な菌の中のミュータンス菌が歯の表面に付着し、食べた物の中の“ショ糖”を発酵させて酸を産生し、この酸により歯が徐々に溶け出して発生する。虫歯予防効果を示すものとして最初に発見されたのはフッ素である。これは斑状歯という形成不全のエナメル質を調査する過程で、斑状歯を発生させる地域には虫歯の発生が少ないこと、さらに、その地域の飲料水にはフッ素が含まれることから、フッ素には虫歯予防効果があることが発見された。フッ素を水道水に添加することで、虫歯予防をする試みが世界中で行われているが、フッ素濃度が2.00〜7.00ppm以上の高濃度になると斑状歯や骨質が硬化する骨化症が発症するなどの為害作用があることなどから、わが国では行われていない。その他、虫歯を誘発する糖であるスクロースの代わりにキシリトール、ソルビトールなどの糖などが虫歯予防に利用されている。
【0005】
レーザーを用いて虫歯予防の可能性を示したのが、米国UCLAのスターン(Stern)である(非特許文献1参照)。彼は、1964年にヒトの抜去歯にルビーレーザーを照射し、その照射部位は酸性溶液に漬けても溶けにくくなるという大きな発見をした。このレーザーによる耐酸性の付与に関しては多くの研究者により確認がなされ、虫歯予防の応用研究が行われているが、レーザー照射された歯に付与される耐酸性に対しては、(1)レーザー照射によって歯に生じる融解などの物理的(形態的)変化が酸溶液の侵入をブロックするという説と、(2)レーザーにより歯の結晶(HAP:ハイドロキシアパタイト)が化学的組成を変化させて酸に不溶となるという説との二つの相反する説が提出されて40年以上を経ているものの未解決のままであり、化学的組成の変化についてもHAPがどのように変化するのか具体的に解明されていない。また、レーザーを歯などの生体硬組織に適用する際に、歯はどの程度の高温になり、歯や骨の主成分である無機結晶HAPがどのようにその構造/組成を変化されるのかなどの基本的理論も確立されていないのが現状である。
【非特許文献1】Stern R. H.: Laser beam on dental hard tissues. J. D. Res., 43: 873, 1964
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザーは、前述のように従来の医療技術では考えられないような大きなメリットを有する先端的医療技術であるが、レーザーを実際の治療に適用する際には未解決のまま残されているいくつかの問題点がある。その一つは、レーザーの歯や骨などの生体硬組織に対する作用機序がまだ確立されていないことであり、そうした状況のまま臨床応用が先行していることである。そのため、レーザー治療を行う医師側も、治療をうける患者にとっても、レーザーに対して幾ばくかの不安をいだきながら治療が行われている状況にある。明確な基礎理論の早急な確立とそれに基づいた治療法が望まれる所以である。
【0007】
レーザーが歯などの生体硬組織に与える影響の中でも、レーザー照射により生体硬組織の表面とその内部はどの程度の高温になるのか、またその上昇する温度によって硬組織内の無機結晶の構造/組成がどのように変化するのかなどよく知られていない。レーザー照射によって上昇する歯の温度については、現在の我々の技術をもってしても直接的に計測することはできない。そのため、多くはサーモメータあるいはサーモスタットを用いて計測している段階である。これらの方法によって測定される温度は、実際に温度が上昇している歯の部位から離れた位置における温度であり、瞬間的(パルス波Er:YAGレーザーの場合は250μsec)に上昇する歯の照射部位の温度を正確に計測することは不可能であり、実際に生じている温度からはかけ離れた低い温度値なっていることは想像に難くない。
【0008】
また、レーザー照射による歯質の組成の変化については、歯の主成分である無機結晶ハイドロキシアパタイト(HAP):Ca10(PO(OH)がトリ・カルシウムフォスフェイト(TCP):Ca(POなどに変化するという多くの報告があるが、それらの研究のほとんどは、レーザー照射した歯を粉末にした試料を分析したもので、歯のどの部位でどのように変性されているのか不明である。
【0009】
さらに、前述のように、1964年にスターンにより発見された歯のレーザー照射部位に付与される耐酸性に関しては、(1)レーザー照射によって歯に生じる融解などの物理的(形態的)変化が酸溶液の侵入をブロックするという説と、(2)レーザーにより歯の結晶(HAP)が化学的組成を変化させて酸に不溶となるという説との二つの相反する説が提出されて40年以上を経ているものの、未解決のままであり、化学的組成変化についてもHAPがどのように変化するのか具体的に明らかにされていない。
【0010】
また、歯科材料、医科用材料、バイオマテリアルなどを含む既存の生体硬組織用材料にHAPが混入されているものが多いが、HAPは酸性溶液に溶けやすい性質をもつので、口腔内に生息する細菌が産生する酸や、身体の疾患の炎症などにより塩基性から酸性に変化する体液環境にも対応ができる材料の開発が望まれる。そして耐酸性を示す物質を既存の生体硬組織用材料に添加・混合することにより、化学的に安定な生体硬組織が提供できることが期待される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、この発明の生体硬組織中の耐酸性関与物質の同定方法は、生体硬組織中の耐酸性関与物質を同定するに際し、スライスした生体硬組織試料の各部の定性分析を行い、前記スライスした生体硬組織試料を酸性溶液に浸漬して、溶解せずに残った部分の定性分析を行い、前記酸性溶液への浸漬前後の前記生体硬組織試料の前記定性分析の結果を対比して、前記耐酸性関与物質を同定することを特徴とするものである。
【0012】
また、この発明のレーザー照射による生体硬組織の加熱状況調査方法は、生体硬組織試料にレーザーを照射してその生体硬組織試料を加熱し、前記生体硬組織試料をスライスしてその試料内部の各部の定性分析を行い、前記生体硬組織試料と同質の生体硬組織の粉末を複数のロットに分けてそれぞれ異なる温度で加熱した後、それら生体硬組織の粉末の複数のロットの定性分析をそれぞれ行い、それらの定性分析の結果を対比して、前記生体硬組織試料の表面から内部に亘る各部の前記レーザーの照射で加熱された温度の分布を調べることを特徴とするものである。
【0013】
さらに、この発明の耐酸性生体硬組織の製造方法は、無機結晶ハイドロキシアパタイト(HAP)を含む生体硬組織中に耐酸性関与物質を生成して耐酸性生体硬組織を製造するに際し、前記耐酸性関与物質が生成される温度である1000℃以上で1500℃以下の温度まで加熱されるまで前記生体硬組織を例えばレーザーの照射等により加熱することを特徴とするものである。
【0014】
また、上記と別の方向からアプローチしたこの発明の耐酸性生体硬組織の製造方法は、耐酸性関与物質を、無機結晶ハイドロキシアパタイト(HAP)とともに生体硬組織用材料に含有させることを特徴とするものである。
【0015】
ここで好ましくは、前記耐酸性関与物質は、ピロリン酸カルシウム(PYR)およびメタリン酸カルシウム(MET)とする。好ましくは、PYRとMETとは同程度の重量部とし、結果物としての耐酸性生体硬組織100重量部に対し、PYRとMETとの合計で3〜15重量部混入する。
【0016】
一方、この発明の耐酸性生体硬組織は、無機結晶ハイドロキシアパタイト(HAP)を含む生体硬組織中に耐酸性関与物質を含む耐酸性生体硬組織であって、前記生体硬組織が前記生体硬組織が1000℃以上で1500℃以下の温度まで例えばレーザーの照射等により加熱されることでその生体硬組織中に前記耐酸性関与物質が生成されてなるものである。
【0017】
また、上記と別の方向からアプローチしたこの発明の耐酸性生体硬組織は、耐酸性関与物質を、無機結晶ハイドロキシアパタイト(HAP)とともに生体硬組織用材料に含有してなるものである。
【0018】
ここで好ましくは、前記耐酸性関与物質は、ピロリン酸カルシウム(PYR)およびメタリン酸カルシウム(MET)とする。好ましくは、PYRとMETとは同程度の重量部とし、結果物としての耐酸性生体硬組織100重量部に対し、PYRとMETとの合計で3〜15重量部混入する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の生体硬組織中の耐酸性関与物質の同定方法および、本発明のレーザー照射による生体硬組織の加熱状況調査方法を用いれば、レーザーが生体硬組織におよぼす作用のメカニズムが明確となり、歯質強化(虫歯予防)などの効果を有効に得ることができるレーザー装置の種類、照射条件などを選択することができる。本発明の方法を用いた評価・解析によれば、後述のように、広範囲に耐酸性を付与することができるのはNd:YAGレーザーであり、次いでCO2レーザーであること、また、これまで主として歯やカリエス部の切削に用いられてきたEr:YAGレーザーについても、放物線を描くクレーターに沿う一層およびクレーターの壁部に変性領域が存在し、その領域が耐酸性を示すことが判明した。
【0020】
本発明の生体硬組織中の耐酸性関与物質の同定方法および、本発明のレーザー照射による生体硬組織の加熱状況調査方法によれば、これまで不明とされてきた各種レーザーが生体硬組織に与える影響に関するメカニズムおよび作用機序を明らかにすることができる。これらを知ることにより、レーザー治療を行う歯科医師は患者側へ納得のゆく詳しい説明をすることができ、それにより患者のコンセンサスが得られ易くなり、患者も、痛みがなく、不快な高周波音を伴った振動もない治療を安心して受けることができる。
【0021】
そして本発明の生体硬組織中の耐酸性関与物質の同定方法および、本発明のレーザー照射による生体硬組織の加熱状況調査方法を用いて開発した、本発明の耐酸性生体硬組織の製造方法および耐酸性生体硬組織によれば、耐酸性による歯質強化(虫歯予防)などの効果が高い、化学的に安定な生体硬組織を提供することができる。
【0022】
なお、本発明を適用して生体硬組織を構成し得る生体硬組織用材料としては、例えば、歯科用材料として、フィッシャーシーラント/歯科用接着充填材料、小窩裂溝封鎖材、歯科用セメント(合着用および歯の欠損部や根管内への充填用がある。)、コンポジット(機能の異なる2種類以上を複合させたレジン系材料で、例えばBis−GMA等の多官能モノマー+シリカ、ガラス等の無機強化材(filler)があり、HAPが利用されている。)、覆髄剤(裏層剤;抜髄しないで保存する療法用で、ユージノールセメント、水酸化カルシウム製剤、α−TCPや仮焼HAPがある。)、根管充填剤(抜髄した空隙を充填する材料で、HAP根管充填材が開発されている。)、人工歯、人工歯根(原材料に混合して使用する。)、歯科用骨補填材(顎骨の欠損部へ充填する人工骨:HAPの直径0.3〜1.0mm、気孔率20%の顆粒が主流で、旭光学のアパセラム、高研のボーンジェクト(HAPとコラーゲンが初めから入っている複合材)等がある。)、形成外科用材料(顎骨、頬骨、鼻軟骨などの欠損部を補填する。)、キャスタブルセラミックス(リン酸カルシウムにβ−MET結晶を析出させたもの。)、アパタイトキャスタブルセラミックスのクラウン、歯磨剤(HAPを3〜15%含む。)等が挙げられる。
【0023】
また、医科用材料として、人工骨(骨補填材:骨欠損ができた箇所に使うもので、HAP多孔質体が広く使われている。気孔内に骨が形成される。旭光学「アパセラム」、三菱マテ「ボンフィル」、住友セメント「ボーンセラム」等がある。)人工関節(HAPは、ゆるみを防ぐため、骨と結合させるため、骨と接触する部分の金属表面にコーティングされる。)、股関節の体液環境対策(体液の通常のpHは7.35で、やや塩基性であるが、炎症時にはpHは5.5になる。顎関節症の患者から得た顎関節溶液にはPYRの結晶が含まれる。)骨セメント(人工関節と骨を固定するために使われる。骨セメントはPMMA(ポリエチレン メタクリレイト)という高分子で、重合過程で骨中に入れられる。骨とセメントの間にHAP顆粒を介在させて改善をはかることが考えられる。)等が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
本願の発明者は以下の如くして、生体硬組織としてのヒトの歯のレーザー照射による加熱状況調査および、そのヒトの歯中の耐酸性関与物質の同定を行った。
(1)先ずレーザー照射したヒトの歯の試料のSEM(走査電子顕微鏡)観察を行い、このSEM観察では、通法通りレーザー照射試料の表面に白金パラジウム蒸着を行い、レーザー照射した歯の表面観察を行う。レーザー照射歯をポリエステル系樹脂に包埋し、樹脂が固化した後、ダイヤモンドカッターを用いて、レーザー照射部位が含まれるよう約200〜300μmの厚さに縦断する。その縦断試料を厚さが約100〜150μmの薄さになるまで流水下にて砥石で研磨を行い、それを分析試料とする。偏光顕微鏡を用いてその薄切り試料を観察し、複数の分析位置の確認を行う。次に、微小部X線回折装置を用いて、薄切り試料の確認された各位置における定性分析を行う。
【0025】
(2)次に、ヒトの歯(エナメル質および象牙質)を粉末にして複数ロットに分け、それらのロットを室温から超高温(1600〜1700℃)の領域までの下記の複数種類の温度に高温電気炉を使用してそれぞれ加熱し、100,300,500,700,1000,1200,1280,1400,1600,1620,1650,1700℃のそれぞれの設定温度におけるHAP結晶の構造/組成の変化について粉末X線回折法により定性分析を行う。その結果をまとめたもの(表1参照)を基準データとし、この基準データと、各種レーザーを照射したヒトの歯について微小部X線回折法を用いて得られた定性分析結果とを比較・照合し、レーザー照射によって上昇する、歯の表面から内部にわたる温度分布を導出する。
【0026】
【表1】

【0027】
(3)さらに、微小部X線回折法による分析を行った上記薄切り試料を酸性溶液(2%乳酸溶液;pH2.2)に浸漬し、溶解する様子を偏光顕微鏡にて観察する。溶解せずに残存した部位に対し微小部X線回折装置にて定性分析を行い、物質を同定する。そして酸性溶液に浸漬する前後の定性分析結果を比較、検討し、耐酸性の付与に関与する物質を同定するとともに、その耐酸性のメカニズムを解明する。
かかるレーザー照射による生体硬組織の加熱状況調査および、生体硬組織中の耐酸性関与物質の同定の具体的な条件は、以下の如くである。
【0028】
レーザーの種類およびその照射条件は、COレーザー(NIIC,日本赤外線工業KK);連続波,λ=10.6μm,スポットサイズ=0.3mm,2Wおよび5W,0.5sec。Nd:YAGレーザー(Osada N40,連続波,λ=1.06μm,スポットサイズ=1mm,5Wおよび10W,2sec,(照射表面は墨汁で塗布)。Er:YAGレーザー(Erwin ML−22,モリタ製作所),パルス波,λ=2.94μm,150mJおよび250mJ,2Hz,200pulses,(水を噴霧し照射)である。
【0029】
粉末X線回折装置と微小部X線回折装置およびその測定条件は、粉末X線回折装置;50kV,200mA,Cu Kα(Niフィルター),発散スリット1度,受光スリット0.15mm,スキャンスピード2度/min,測角範囲5〜80度。微小部X線回折装置;PSPC/MDG(リガク電機KK),コリメーター径100μm,50kV,200mAである。
【0030】
微小部X線回折装置の原理的な構造の概念を図1に示す。この微小部X線回折装置は、試料の姿勢変更用の三軸制御機構およびガスフロー方式湾曲型カウンターを有している。その測定原理は、コリメーター1で試料2に照準を合わされて照射されて試料2により回折されたX線3がカウンター(PSPC−MDG:PSPCはPosition Sensitive Proportional Counter の略称)4内の金属芯線に入射すると、ガス増幅された電子が電圧パルスを発生させ、その誘導電荷がマルチカソード上に生じ、発生したパルスを電気的に測定することにより、回折X線の入射位置と強度を測定するもので、測角範囲は0度〜150度(2θ)、角度分解能は0.2度以上を有する。
【0031】
SEM(走査電子顕微鏡)および偏光顕微鏡によるレーザー照射部位の観察の結果は、COレーザー(5W,0.5sec)では、図2に示すように、レーザー照射された中心部は、融解された乳白色のクレーターが生じ、その中央部は陥凹し、周辺部は表面より隆起していた。クレーターの周囲は、組織が疎になったリング状に取りまく2,3の変性層が認められる。偏光顕微鏡による観察では図5に示すように、融解したクレーターの隆起した周辺部は透明で、その周りを変性した幾つかの半円状の層が取りまき、その干渉色は黒、茶、黄色などを示した。これはCOレーザーが10.6μmの波長をもつため、水に対する吸収率が高いという特性をもっているので周囲組織への熱影響が限局的となり、特に表面にエネルギーが吸収されるという特徴を示したものと考えられる。
【0032】
Nd:YAGレーザー(10W,2sec)では、図3に示すように、COレーザー照射試料に観察されたクレーターは形成されず、白色の円状変性層が形成された。偏光顕微鏡による観察では図6に示すように、変性領域はエナメル質の深部まで拡散するような広範囲におよぶ拡がりが認められ、その干渉色は、黒、茶、黄、オレンジ、紫などを示した。これはNd:YAGレーザーが近赤外線領域の波長1.06μmをもつため、COあるいはEr:YAGレーザーに比較して水に対する吸収率が低いので、変性領域が組織の内部へ拡散的に広がり、Nd:YAGレーザーの特性である組織深達性を示したものと思われる。
【0033】
Er:YAGレーザー(250mJ)では、図4に示すように、照射中心部が陥没したクレーターが形成されたが、COレーザー照射の場合と異なってクレーター周辺部の隆起は認められず、エナメル質表面の融解を示す乳白色のガラス様表面形態も観察されなかったことから、ほとんど熱的影響を受けずにクレーターが形成されたように思われた。クレーターの壁部は鱗片様構造を示しており、偏光顕微鏡による観察では図7に示すように、クレーターの壁部には蒸散されずに残存した黒褐色の物質が観察され、放物線状のクレーターに沿う狭い一層の変性層が観察された。
【0034】
微小部X線回折法による定性分析の結果は、偏光顕微鏡により観測されたレーザー照射部位の変性層について、表面から深部へかけて微小部X線回折装置を用いて分析を行った箇所(×印)を図8に示す。その定性分析の一例として、Nd:YAGレーザーを照射した試料の分析例を図9に示す。図8の照射中心領域×aにおいては、HAPの高温相であるα−TCP,準高温相であるβ−YCP,PYR,METなどが同定されている。変性領域から離れた×gにおける分析例では、それらの変性相は検出されずHAPが同定されている。この定性結果をまとめたのが表2である。レーザー照射中心部から深部へ向かうにしたがって、HAPの変性層は高温相から準高温相へ、準高温相から健常HAPへと変化していることが認められる。
【0035】
【表2】

【0036】
歯(エナメル質および象牙質)が融解する温度、歯の無機結晶HAPが高温相、準高温相に変化する温度を知るために、ヒトの抜去歯(エナメル質および象牙質)を粉末にして複数ロットに分け、それらのロットを室温から超高温(1600〜1700℃)の領域までの下記の複数種類の温度に高温電気炉を使用してそれぞれ加熱し、100,300,500,700,1000,1200,1280,1400,1600,1620,1650,1700℃のそれぞれの設定温度におけるHAP結晶の構造/組成の変化について粉末X線回折法により定性分析を行った。
【0037】
歯のエナメル質は、図10(a)に示すように加熱温度1500℃においても融解せず粉末のままであり、図10(b)に示すように1600℃においても一部融解が認められるが、図10(c)に示すように完全に融解するのは1620℃に達してからであった。骨に近い成分を有する象牙質は、エナメル質より有機成分が多く含まれるためエナメル質より若干低い1600℃で融解することおよび、変性される物質はエナメル質の場合とほぼ同様であることが確認された。各設定温度におけるエナメル質の無機結晶(HAP)の組成/構造変化をまとめた結果を前記表1に示す。これを基準データとし、これと微小部X線回折法による研究から得られたHAPの変性物質とを比較・照合して、レーザー照射によって上昇する、ヒトの歯の表面から内部にわたる温度の分布を導出する。
【0038】
レーザー照射部位に耐酸性が付与されるメカニズムの解明については、SEMによる観察の結果、使用するレーザー(CO,Nd:YAG,Er:YAG)により歯に形成される表面形態が異なることが認められる。しかしながら、図2,3,4に示すように、いずれのレーザーによっても酸溶液の浸入をブロックできるような表面構造は形成されておらず、いくつかのクラックあるいは欠損が生じており、溶液の浸入を防ぐことはできないことは明らかである。
【0039】
X線回折法により得られたHAPの変性成分の中からの、耐酸性の付与に関与する物質の究明については、レーザー照射により変性された物質の中で、α−TCP,β−TCPは歯の無機結晶HAPより酸に溶け易いことが知られている。それら以外の変性物質の中で耐酸性を示す物質として注目されるのはピロリン酸カルシウム(PYR)である。PYRは酸に可溶であるが、P陰イオンは、HAP結晶表面に親和性吸着性をもち、HAP結晶が溶解するのをブロックするため、HAP結晶の溶解を強く抑制することが知られている。他の一つは、メタリン酸カルシウム(MET)である。このMETは、{Ca(POで表される長鎖状構造をもち、酸に難溶性であることが知られている。
【0040】
PYRおよびMETは、次式(1),(2)で示されるような方法で製造されている。
PYRの製造法:ピロリン酸カルシウムは、市販のリン酸一水素カルシウムを加熱脱水することにより得られ、加熱温度により異なる3種の結晶系(α,β,γ型)が存在し、水に不溶、酸に可溶である。
【0041】
【数1】

【0042】
METの製造法:メタリン酸カルシウムは、{Ca(POで表される長鎖状ポリリン酸カルシウムで、リン酸二水素カルシウムの加熱により得られる。
【0043】
【数2】

【0044】
METには4種の結晶系(α,β,γ,δ)が存在し、α,β型ではn=10,γ,δ型ではn=200〜600である。METは、水および酸に不溶であり、非晶質の中には、鎖長のさまざまなHを含むリン酸イオンが存在し、組成が複雑であることが知られている。
【0045】
偏光顕微鏡により観測されたエナメル質に形成された変性層を、表面から深部へかけて微小部X線回折装置を用いて分析を行った部位(×印)を図8に示すとともに、その定性分析の結果の一例を図9に示す。照射中心領域×a(図8)においては、HAPの高温相であるα−TCP,準高温相であるβ−TCP,PYR,METが同定されている。一方、変性領域から離れた×g(図8)における分析例では、変性相は検出されずHAPが同定されている。この定性結果をまとめたのが前記表2である。レーザー照射中心部から深部へ向かうにしたがって、HAPの変性層は高温相から準高温相へ、準高温相から健常HAPへと変化していることが認められた。
【0046】
これらのHAPの変性物質が形成される温度を知るために、上述のようにヒトの歯(エナメル質および象牙質)を粉末にし、室温から超高温(1600〜1700℃)の領域まで高温電気炉を使用して加熱し、100,300,500,700,1000,1200,1280,1400,1600,1620,1650,1700℃のそれぞれの設定温度におけるHAP結晶の構造/組成の変化を粉末X線回折法によって調べた。その結果をまとめたものが前記表1である。
【0047】
次に、これを基準データとし、微小部X線回折法によって、各種レーザーを照射した試料から得られたHAPの変性物質を比較・照合し、レーザー照射によって上昇する、歯の表面から内部にわたる温度分布を導出する。本発明に基づく評価・解析方法により導出された、レーザー照射によって上昇する、歯の表面から深部におけての温度の分布を図11に示す。前述したレーザー照射条件下では、エナメル質の表面の温度は約1600℃以上になっていることが推定され、特にCOレーザー照射の場合の表面温度は、エナメル質の融点である1620℃以上に達していることが推定された。これはCOレーザーが10.6μmの波長をもつため水に対する吸収率が高いという特性をもっているので周囲組織への熱影響が限局的となり、COレーザーでは特に表面にエネルギーが吸収されるという特徴を示したものと考えられる。
【0048】
Nd:YAGレーザーにおける変性領域は広範囲にわっており、その温度分布は表面から深部へ向かって徐々に減少する傾向があり、Er:YAGレーザーの場合は、温度上昇が認められるのはクレーター周辺の狭い範囲に限られることが判明した。このEr:YAGレーザーの作用機序については微小爆発(micro explosion)説が提唱されている。それは、Er:YAGレーザーの波長2.94μmは水によく吸収される特徴をもち、レーザーが照射されるとレーザーのエネルギーにより組織中の水温が急激に上昇し、水が気化する。その際に生じる蒸気圧が組織分子の放出と微小爆発を起こし、その力学的作用により組織の崩壊が生じる熱力学的効果であるという説であり、結果として形成されたクレーターには炭化層や溶岩状構造物が生成されず、熱による損傷はほとんど生じないという説である。この説から、歯に熱的損傷を与えることなく切削できるレーザーとしてEr:YAGレーザーの有用性が強調されており、温度の上昇も従来は700〜800℃程度であろうと推測されている。
【0049】
しかしながら、本発明に基づく評価・解析方法によれば、クレーターに沿う狭い変性層とクレーターの壁部に残存した物質からは、HAPの高温相や準高温相が検出されており、これまで推定されている温度より高い温度領域(1500〜1600℃)に達していることが判明した。また、後述するように、これらの変性領域は酸性溶液に浸漬しても溶けにくく、残存することが判明した。
【0050】
耐酸性が付与されるメカニズムの解明に関しては、図2,3,4にそれぞれ示すように、SEMによる観察の結果、使用するレーザー(CO,Nd:YAG,Er:YAG)の種類により、歯に形成される表面形態は異なることが認められるが、いずれのレーザーによっても、酸溶液の浸入をブロックできるような表面構造ではなく、幾つかのクラックあるいは欠損が生じており、これらによっては溶液の浸入を防ぐことはできないことは明らかである。X線回折法により得られたHAPの変性物質の中でα−TCP,β−TCPは、HAPより酸に溶け易いことが知られているので、これら以外の変性物質の中で耐酸性を示す物質を検索する。その中で注目されるのはPYRである。PYRは酸に可溶であるが、P陰イオンはHAP結晶表面に親和性吸着性をもち、HAP結晶が溶解するのをブロックするためHAP結晶の溶解を強く抑制することが知られている。他の一つは、METである。このMETは{Ca(POで表される長鎖状構造をもち、酸に難溶性であることから、このMETがレーザー照射部位に形成されることが、耐酸性が付与される主要因であると考えられる。これらの製造法は前述した式(1),(2)に示されている。
【0051】
これまでの研究では、歯のどの部位でどのような変化が生じているのか不明であったが、本発明に基づく評価・解析方法を用いれば、標準データであるHAPの超高温加熱による変性物質と微小部X線回折法によって得られたレーザー照射部位のHAP結晶の変性物質とを比較・照合することにより、図11に示すような、照射中心領域からその内部へわたる温度分布を得ることができる。さらに、耐酸性付与に関与する二つの物質(PYRおよびMET)の出現分布がわかり(図12参照)、この変性領域が耐酸性を示すことが予想される。
【0052】
実際に、レーザー照射歯を酸性溶液(2%乳酸溶液,pH2.2)に浸漬し、その経過を偏光顕微鏡で観察した結果を図13,14,15に示す。これらの写真は、レーザー照射部位が酸性溶液に対して抵抗性を示し、溶けにくくなっていることを示している。また、浸漬前後において同定された物質同士の比較を行うことにより、耐酸性を示す物質を特定することができる。
【0053】
図16は、浸漬前のX線回折パターンとその定性分析結果例を示し、ここではHAPの高温相であるα−TCP、準高温相であるβ−TCP,PYR,METなどが検出されている。図17は、酸性溶液浸漬後のX線回折パターンとその定性分析結果例を示し、この酸性溶液浸漬後のX線回折パターンは、浸漬前(図16)の回折パターンと比較してα−TCPの最強回折線である(034)面,(2θ=30.709度)、その他(290)面,(2θ=34.209度),(400)面,(2θ=34.466度)などのピーク強度が著しく低下し、その典型的な回折パターンが崩れ始めていることが認められる。この試料をさらに酸性溶液に浸漬した後、エナメル質中に残存した物質を定性分析した結果例を図18に示す。ここではα−TCPの回折パターンのみならず、HAPの特徴を示す最強回折線(211)面,(2θ=31.773度)の他、(112)面,(2θ=32.196度)、(300)面(2θ=32.902度)などの回折線が消失していることが認められ、これらは酸によって溶失されたこと示すものである。それらに替わって強度は弱いながらもPYRおよびMETが優位に存在することを示す回折パターンが得られている。これらのデータは、レーザー照射により付与される耐酸性を示す物質が、この二つの物質PYRおよびMETであることを実証するものである。
【0054】
従って、無機結晶ハイドロキシアパタイト(HAP)を含む生体硬組織の内部および/または表面に耐酸性関与物質としてのPYRおよびMETが混在するように、その生体硬組織を、PYRおよびMETが両方とも生成される1000℃以上で、かつ融解の生じない1500℃以下の温度まで、例えばレーザーの照射等により加熱すれば、耐酸性生体硬組織を製造し得るということが推定できる。
【0055】
また、上記と異なり、耐酸性関与物質としてのPYRおよびMETが、無機結晶ハイドロキシアパタイト(HAP)とともに生体硬組織用材料に含有されるように、PYRおよびMETを、HAPを含む生体硬組織用材料に混入して含有させ、あるいはHAPを充分にまたは全く含まない生体硬組織用材料にHAPとともに混入して含有させても、耐酸性生体硬組織を製造し得るということが推定できる。
【0056】
以上、実施例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されるものでなく、特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更し得るものであることはいうまでもなく、例えば、耐酸性生体硬組織の製造のための加熱方法はレーザーに限られない。また耐酸性関与物質もPYRおよびMETには限られず、本発明の方法により適宜同定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の生体硬組織中の耐酸性関与物質の同定方法およびレーザー照射による生体硬組織の加熱状況調査方法に基づく評価・解析方法を用いることにより、レーザーが生体硬組織におよぼす作用のメカニズムが明確となり、歯質強化(虫歯予防)効果が有効に得られるレーザー装置の種類、照射条件などを選択することができる。この評価・解析方法により、広範囲に耐酸性を付与することができるのはNd:YAGレーザーであること、また、これまで主として歯やカリエス部の切削に用いられてきたEr:YAGレーザーについても、放物線を描くクレーターに沿う一層およびクレーターの壁部に変性領域が存在し、その領域は耐酸性を示すことが判明した。本発明に基づく評価・解析方法は、これまで不明とされてきた各種レーザーが生体硬組織に与える影響に関するメカニズムおよび作用機序を明らかにすることができる。これらを知ることにより、レーザー治療を行う歯科医師は患者側へ納得のゆく詳しい説明をすることができ、それにより患者のコンセンサスが得られ、患者側も痛みがなく、不快な高周波音を伴った振動もない治療を安心して受けることができるという利点がある。
【0058】
また、歯科材料、医科用材料、バイオマテリアルなどを含む既存の生体硬組織用材料にはHAPが混入されているものが多いが、HAPは酸性溶液に溶けやすいという性質をもつため、口腔内に生息する細菌が産生する酸や、生体内における疾患の炎症等によって塩基性から酸性に傾くなどのような体液環境の変化などにより、HAPの溶出や劣化などの不具合が生じてくる。本発明の生体硬組織中の耐酸性関与物質の同定方法およびレーザー照射による生体硬組織の加熱状況調査方法に基づく評価・解析方法を用いて発見された耐酸性物質を既存の歯科材料、医科用材料、バイオマテリアル、再生医療用材料に添加・混合することによって、口腔内で生息する細菌により産生される酸や生体内の疾患の炎症などにより変化する体液環境にも対応ができる化学的に安定な生体硬組織を提供することができる。
【0059】
ここで、生体硬組織用の材料としては、フィッシャーシーラント(小窩裂溝封鎖材)、人工歯、人工歯根(セラミックスインプラント)、歯科用骨補填材、形成外科用材料(顎骨、頬骨などの欠損部補填)、コンポジットレジン、根管充填剤、歯科用セメント(合着用および充填用)、覆髄剤(裏層剤)、キャスタブルセラミックス、歯磨剤、洗口剤などの歯科用材料および、人工骨(骨補填材)、人工関節、骨セメント(人工関節と骨との固定用)などの医科用材料、さらにはバイオマテリアル、再生医療用材料など広範な分野の材料への適用が可能である。
【0060】
なお、上記の材料のほとんどにHAPが含まれているが、HAPが含まれていない場合は、上述のPYRの性質上、HAPを添加した上で、PYRおよびMETを添加・混合する方が、より化学的に安定な生体硬組織を提供することができる
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】微小部X線回折装置(PSPC/MDG)の構造の概略を示す説明図である。
【図2】COレーザー(5W)照射した歯の表面のSEM像を示す図面代用写真である。
【図3】Nd:YAGレーザー(10W)照射した歯の表面のSEM像を示す図面代用写真である。
【図4】Er:YAGレーザー(250mJ)照射した歯の表面のSEM像を示す図面代用写真である。
【図5】COレーザー(5W)照射した試料の偏光顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図6】Nd:YAGレーザー(10W)照射した試料の偏光顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図7】Er:YAGレーザー(250mJ)照射した試料の偏光顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図8】微小部X線回折法により分析を行った箇所(×印)を示す説明図である。
【図9】微小部X線回折法によって得られたX線回折パターンおよび定性分析結果例(図8中の×a部および×g部)を示す関係線図である。
【図10】(a),(b),(c)は、高温電気炉で1500℃、1600℃、1620℃にそれぞれ加熱したエナメル質粉末の光学顕微鏡写真を表す図面代用写真である。
【図11】各種レーザー照射によって上昇する歯の表面から内部にわたる温度分布を示す説明図である。
【図12】レーザー照射歯からPYRおよびMETが検出された領域を示す説明図である。
【図13】(a),(b)は、COレーザー照射試料の酸性溶液(2%乳酸,pH2.2)への浸漬前および浸漬後の偏光顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図14】(a),(b)は、Nd:YAGレーザー照射試料の酸性溶液(2%乳酸,pH2.2)への浸漬前および浸漬後の偏光顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図15】(a),(b)は、Er:YAGレーザー照射試料の酸性溶液(2%乳酸,pH2.2)への浸漬前および浸漬後の偏光顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図16】COレーザー照射試料の酸性溶液(2%乳酸,pH2.2)への浸漬前のX線回折パターンおよび定性分析結果例を示す関係線図である。
【図17】COレーザー照射試料の酸性溶液(2%乳酸,pH2.2)への浸漬後のX線回折パターンおよび定性分析結果例を示す関係線図である。
【図18】図17に示すCOレーザー照射試料をさらに酸性溶液(2%乳酸,pH2.2)に浸漬した後の残存物質のX線回折パターンおよび定性分析結果例を示す関係線図である。
【符号の説明】
【0062】
1 コリメーター
2 試料
3 X線
4 カウンター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体硬組織中の耐酸性関与物質を同定するに際し、
スライスした生体硬組織試料の各部の定性分析を行い、
前記スライスした生体硬組織試料を酸性溶液に浸漬して、溶解せずに残った部分の定性分析を行い、
前記酸性溶液への浸漬前後の前記生体硬組織試料の前記定性分析の結果を対比して、前記耐酸性関与物質を同定することを特徴とする、生体硬組織中の耐酸性関与物質の同定方法。
【請求項2】
生体硬組織試料にレーザーを照射してその生体硬組織試料を加熱し、
前記生体硬組織試料をスライスしてその試料内部の各部の定性分析を行い、
前記生体硬組織試料と同質の生体硬組織の粉末を複数のロットに分けてそれぞれ異なる温度で加熱した後、それら生体硬組織の粉末の複数のロットの定性分析をそれぞれ行い、
それらの定性分析の結果を対比して、前記生体硬組織試料の表面から内部に亘る各部の前記レーザーの照射で加熱された温度の分布を調べることを特徴とする、レーザー照射による生体硬組織の加熱状況調査方法。
【請求項3】
無機結晶ハイドロキシアパタイトを含む生体硬組織中に耐酸性関与物質を生成して耐酸性生体硬組織を製造するに際し、
前記耐酸性関与物質が生成される1000℃以上で1500℃以下の温度まで前記生体硬組織を加熱することを特徴とする、耐酸性生体硬組織の製造方法。
【請求項4】
耐酸性関与物質を、無機結晶ハイドロキシアパタイトとともに生体硬組織用材料に含有させることを特徴とする、耐酸性生体硬組織の製造方法。
【請求項5】
前記耐酸性関与物質は、ピロリン酸カルシウムおよびメタリン酸カルシウムであることを特徴とする、請求項3または4記載の耐酸性生体硬組織の製造方法。
【請求項6】
無機結晶ハイドロキシアパタイトを含む生体硬組織中に耐酸性関与物質を含む耐酸性生体硬組織であって、
前記生体硬組織が1000℃以上で1500℃以下の温度まで加熱されることでその生体硬組織中に前記耐酸性関与物質が生成されてなる、耐酸性生体硬組織。
【請求項7】
耐酸性関与物質を、無機結晶ハイドロキシアパタイトとともに生体硬組織用材料に含有してなる、耐酸性生体硬組織。
【請求項8】
前記耐酸性関与物質は、ピロリン酸カルシウムおよびメタリン酸カルシウムであることを特徴とする、請求項6または7記載の耐酸性生体硬組織。

【図1】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−332054(P2007−332054A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−163806(P2006−163806)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(506203040)
【Fターム(参考)】