生体磁場計測方法及び生体磁場計測装置
【課題】 検出コイルの数を増加させることなく、生体磁場の垂直成分Bzを計測して磁場源の解析を可能とする生体磁場計測方法及び生体磁場計測装置を提供する。
【解決手段】 本発明の生体磁場計測装置は、量子干渉素子(SQUID)からなり生体2から発する生体磁場を信号として検出する複数の磁束計と、信号の演算処理を行なう演算処理手段8と、演算処理結果を表示する表示手段とを有し、シールドルーム1内で生体磁場分布を計測する装置に於いて、磁束計は、生体磁場の生体の面に垂直である第1方向の磁場成分である垂直磁場成分の時間変化を検出し、演算処理手段は、第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける垂直磁場成分の変化率の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める演算、この時間変化の所定の期間での積分値を求める演算を行ない積分値を表示手段に表示する。
【効果】 少数の図を用い定量的な生体磁場分布を表示するので、個人毎の疾患、異常を客観的、定量的に把握できる。
【解決手段】 本発明の生体磁場計測装置は、量子干渉素子(SQUID)からなり生体2から発する生体磁場を信号として検出する複数の磁束計と、信号の演算処理を行なう演算処理手段8と、演算処理結果を表示する表示手段とを有し、シールドルーム1内で生体磁場分布を計測する装置に於いて、磁束計は、生体磁場の生体の面に垂直である第1方向の磁場成分である垂直磁場成分の時間変化を検出し、演算処理手段は、第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける垂直磁場成分の変化率の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める演算、この時間変化の所定の期間での積分値を求める演算を行ない積分値を表示手段に表示する。
【効果】 少数の図を用い定量的な生体磁場分布を表示するので、個人毎の疾患、異常を客観的、定量的に把握できる。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、生体の脳の神経活動、心臓の心筋活動等により発生する生体磁場を、高感度な量子干渉素子(SQUID:superconducting quantum interferencedevice)からなる複数の磁束計を用いて計測する生体磁場計測方法及び生体磁場計測装置に関する。
【0002】
【従来の技術】本発明は、生体の脳の神経活動、心臓の心筋活動等により発生する生体磁場を、高感度な量子干渉素子(SQUID:superconducting quantum interference device)からなる複数の磁束計を用いて計測する生体磁場計測方法及び生体磁場計測装置に関する。
【0003】生体磁場としては、電流ダイポールが作り出す磁場の他、生体内を流れる体積電流による磁場がある。生体磁場の法線成分(Bz(直交座標系でのZ成分)又はBr(極座標系での動径成分))の計測は、体積電流の影響を受けにくいと考えられている。従来技術では、生体表面に対してSQUIDに接続した検出コイルの面を平行に配置して、生体表面に垂直な法線成分であるBz又はBrを計測していた。生体磁場計測の結果は、測定された磁場成分の時間変化波形、測定された磁場成分の任意の時点での強度の等しい点を結ぶ等磁場線図(コンターマップ)により表示されていた。また、得られた等磁場曲線から、生体磁場を発生している磁場源を解析する種々の解析方法が提案されているが、代表的な解析方法では磁場源を電流ダイポールに置き換えて解析を行なっていた。
【0004】電流ダイポールが作る磁場の法線成分(Bz又はBr)の等磁場線図は、磁場源(電流ダイポール)を中心として分離した位置に磁場の沸き出し極、磁場の吸い込み極を持つパターンとなる。この2つの極での磁場強度、2つの極の間の距離により、磁場源(電流ダイポール)の大きさ、位置、方向等が解析されている。
【0005】第1の従来技術(H.Hosaka and D.Cohen、J.Electrocardiol.、9(4)、426−432(1976))では、心筋内の電流の方向や強さを見易くするため、計測された法線成分Bzの等磁場線図を用いて、心筋に分布する電流源を表示する方法として、(数1)で定義される電流ベクトル〈J(x、y)〉を各計測点上に矢印で表現するアローマップが考案されている。なお以下の説明では、括弧〈 〉は〈 〉内の記号がベクトルであることを示し、例えば、〈J〉はJがベクトルであることを表わす。
【0006】
〈J(x、y)〉=(∂Bz(x、y)/∂y)〈ex〉−(∂Bz(x、y)/∂x)〈ey〉 …(数1)
(数1)に於いて、〈ex〉はx方向の単位ベクトル、〈ey〉はy方向の単位ベクトルである。しかし、複数の電流源が存在する時には、法線成分Bzの等磁場線図から個々の電流源を判別しにくいという問題があった。
【0007】第2の従来技術(K.Tukada et al.、Reveiw of the Scientific Instruments、66(10)5085−5091(1995))では、分布する複数の電流源を可視化するために、法線成分(Bz又はBr)を計測するのではなく、検出コイルの面を生体表面に対して垂直に配置して、接線成分Bx及びByを計測している。計測された接線成分Bx、Byを各成分毎に等磁場線図として表示している。従来技術2で計測された接線成分Bx、Byは体積電流の影響が考えられるものの、(数2)に従って、時刻tに於いて計測されたBx及びByを合成した2次元ベクトル強度Bxyの等磁場線図では、常に電流ダイポールの直上にピークが得られることから、複数の電流ダイポールが存在する場合でも、各電流ダイポールを分離して可視化できる。
【0008】
│Bxy(x、y、t)│=√{(Bx(x、y、t))2+(By(x、y、t))2} …(数2)
第3の従来技術(Y.Yoshida et al.、Tenth International Conference on Biomagnetism、Santana Fe、New Mexico、Feb.20(1996))では、コイルの面がそれぞれ直交した3つの検出コイルからなるベクトル磁場センサを用いて生体磁場の法線成分と2つの接線成分を検出し、磁場成分の検出結果を直交座標系に変換して、直交座標系の成分Bx、By、Bzを求め、法線成分Bz及び2次元ベクトル強度Bxyの等磁場線図をそれぞれ表示している。
【0009】第4の従来技術(K.Tsukada、et.al.、Tenth International Conference on Biomagnetism、Santana Fe、New Mexico、Feb.20(1996))では、生体磁場の2つの接線成分Bx、Byを検出し、|Bxy|=|Bx+By|に基づく等磁場線図と法線成分Bzに基づく等磁場線図との比較を行なっている。
【0010】生体内の電気的生理学現象の計測結果を表す図として、脳波計により計測して得る脳波図(MEG、magnetoencephalogram)、心電計により計測して得る心電図(ECG、electrocardiogram)がある。心電図の計測に於いて、複数の電極を用いて心電図形をマッピングする体表面心電図(body surface potential map)は周知の技術である。これらの脳波図、又は体表面心電図は、等しい電位点を結ぶ等電位線図として表示されていた。
【0011】第5の従来技術(T.J.Montague et al.、Circulation 63、No.5、pp1166−1172(1981))では、複数の電極の各電極の出力の時間変化波形を任意の時間区間で積分した等積分図(isointegral map)を、体表面心電図として表示している。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】以下の説明では、「生体磁場」は「生体磁場から発する磁場」を意味し、「心磁場計測」は、「心臓から発する磁場の計測」を意味し、「心磁波形」は、「心磁場計測により得た心磁図(MCG、Magnetocardiogram)が表わす波形」を意味する。また、「脳磁場計測」は、「脳から発する磁場の計測」を意味し、「脳磁波形」は、「脳磁場計測により得た脳磁図(MEG、Magnetoencephalogram)が表わす波形」を意味する。
【0013】従来技術に於ける各成分毎の等磁場線図はそれぞれ特徴があり、単一電流ダイポールが存在する時には、法線成分Bzの等磁場線図では、電流源の位置、大きさ、方向等が容易に解析できる。一方、接線成分Bx、Byの計測結果から得る2次元ベクトル強度Bxyの等磁場線図では、複数の電流ダイポールが存在する時でも、容易に各電流ダイポールを判別できる特徴がある。しかし、磁場を検出するコイルの数はx、y方向それぞれに必要であるため、法線成分Bzのみの検出に比べてコイル数が2倍になる。また、Bx、By、Bzの全ての成分を計測するベクトル計測では、法線成分Bzのみの検出に比べて3倍の数のコイルが必要となる。このため、検出コイルとSQUIDからなる磁場センサの数は増加し、更に、信号処理回路等も増加し、生体磁場計測システムは高価なシステムとなってしまうという問題があった。また、第1の従来技術では、各計測点上にアローを表示するだけであり、電流源の詳細な分布状態が識別しにくいという問題があった。
【0014】生体磁場成分で表わした等磁場線図により、任意の時点での生体内の電流源の位置、大きさ、方向等を解析でき詳細な電流源の位置、大きさ、方向等の情報の変化を知ることができる。従来技術では、装置に表示、又は出力された多数の図を用いて各種情報のダイナミックな変化をとらえ疾患等の診断を行っていた。しかし、従来技術では、診断のために各種情報を表す多数の図を必要とし、各種情報の変化の異常を経験的に行っていた。この様に従来技術では、どの生体部位でどのような大きさの電流が流れたか、又は異常な生体電流が流れている領域がどこであるか等を表わす総合的な情報を1つの図として表示するための処理は実行されてなかった。また、体表面心電図では、任意の時間間隔(Q、R、Sの各波の発生する期間、S波からT波の発生する期間等)での積分値の等しい点を示す等積分図では、連続する各時刻での等電位線図を複数必要とせず、1つの心電図形で心臓の情報を得ることができる。しかし、等電位線図では心臓内の電流源を1つの電流ダイポールと仮定しておくと、電流ダイポールの直上ではなく電流ダイポールの直上から離れた位置に陽極のピークと陰極のピークが存在する図形となってしまうという問題がある。更に、電流ダイポールの位置が変化せず電流ダイポールの方向が変化すると陽極及び陰極のピーク位置が変化してしまい、電位を積分する時に電流源と積分値のピークとが対応しなくなるという問題があった。また、生体磁場計測により得る生体磁場の成分を単に積分しても、心電図の場合と同様に、生体磁場成分のピーク位置と電流源の位置が対応しないという問題があった。また、心電図から得る等積分図のみでは、臓器の位置、大きさ等の個人差があり単純に等積分図から疾患等の異常を正確に判断することが困難であるという問題があった。
【0015】本発明の目的は、従来技術で必要としていた図(マップ)の数よりもはるかに少数の図(マップ)を用いて、生体部位の全体の状態を把握できる生体磁場計測方法及び生体磁場計測装置を提供することにある。
【0016】本発明の他の目的は、検出コイルの数を増加させることなく、生体磁場の垂直成分Bzを計測して磁場源の解析を可能とする生体磁場計測方法及び生体磁場計測装置を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】本発明の生体磁場計測方法では、(1)量子干渉素子(SQUID)からなり、生体の外部に配置される複数の磁束計を用いて、生体から発する生体磁場の生体の面に垂直な第1方向の磁場成分の時間変化を計測する第1の工程と、第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める第2の工程と、この第2の工程で得る値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める第3の工程と、この第3の工程の工程で得る積分値を表示する第4の工程とを有することに特徴があり、更に、(2)量子干渉素子(SQUID)からなり、生体の外部に配置される複数の磁束計を用いて、生体から発する生体磁場の生体の面に平行な第1、第2方向の磁場成分の時間変化を計測する第1の工程と、第1、第2方向の磁場成分の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める第2の工程と、この第2の工程で得る値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める第3の工程と、この第3の工程の工程で得る積分値を表示する第4の工程とを有することに特徴がある。また上記(1)、(2)の特徴を有する生体磁場計測方法に於いて、上記の積分値を用いて、内挿、外挿により、上記の第4の工程で積分値が等しい点を結ぶ等積分図を表示すること、上記の第3の工程に於いて、上記の第2の工程で得る上記の値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求めることを、複数の所定の期間で行ない積分値を複数個求め、この複数個の積分値の間での、比、等加重を含む和又は差の何れかを求める演算を行なうことにも特徴がある。なお、直交座標系(x、y、z)に於いて、生体表面に垂直な方向をz軸とし、第1方向をz方向、第2方向をx方向、第3方向をy方向とする。また、極座標系(r、θ、φ)において、生体表面に垂直な方向をr軸とし、第1方向をr方向、第2方向をθ方向、第3方向をφ方向とする。
【0018】本発明の生体磁場計測装置では、(1)量子干渉素子(SQUID)からなり生体から発する生体磁場を信号として検出する、生体の外部に配置される複数の磁束計と、信号の演算処理を行なう演算処理手段と、演算処理結果を表示する表示手段とを有し、生体磁場分布を計測する生体磁場計測装置に於いて、磁束計は、生体磁場の生体の面に垂直な第1方向の磁場成分の時間変化を検出し、演算処理手段は、第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める演算と、この値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める演算とを行ない、表示手段に積分値を表示することに特徴があり、更に、(2)同上の生体磁場計測装置に於いて、磁束計は、生体磁場の生体の面に平行な第1、第2方向の磁場成分の時間変化を検出し、演算処理手段は、第1、第2方向の磁場成分の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める演算と、この値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める演算とを行ない、表示手段に積分値を表示することに特徴がある。また、上記(1)、(2)の特徴を有する生体磁場計測装置に於いて、表示手段に、内挿、外挿により積分値の等しい点を結ぶ等積分図が表示されること、演算処理手段は、上記値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求めることを、複数の所定の期間で行ない積分値を複数個求め、この複数個の積分値の間での、比、等加重を含む和又は差の何れかを求める演算を行なうこと、複数の磁束計が、生体の面に等間隔に配置されることにも特徴がある。本発明の生体磁場計測装置では、心臓から発する磁場の、胸面に対する法線(垂直)成分、接線(平行)成分の同時表示が可能である。なお、直交座標系(x、y、z)に於いて、生体表面に垂直な方向をz軸とし、第1方向をz方向、第2方向をx方向、第3方向をy方向とする。また、極座標系(r、θ、φ)において、生体表面に垂直な方向をr軸とし、第1方向をr方向、第2方向をθ方向、第3方向をφ方向とする。
【0019】本発明の本質的な特徴は、生体表面に垂直な方向を直交座標(x、y、z)のz軸とし、生体表面に平行な面を(x、y)平面とする時、生体磁場の生体表面に垂直な法線成分Bz(x、y)を検出し、生体磁場の生体表面に平行な接線成分Bx、Byをそれぞれ、法線成分Bzのx方向、y方向に於ける変化率から推定することに特徴がある。
【0020】本発明によれば、接線成分Bx、Byを測定する検出コイルを必要とすることなく、生体の磁場分布を2次元(x、y)平面に投影した等磁場線図を得ることができ、等磁場線図のピークパターンから生体内の電流源を判別でき、複数の電流ダイポールの(x、y)座標での位置を知ることができる。
【0021】以下、本発明に於ける演算処理手段(複数の磁束計により計測された信号を収集し、信号に対して以下の演算処理を行なうパソコン等の計算機、又は専用的にハードウエア化され演算処理を行なう電子回路)にて行なう演算処理の内容に付いて説明する。
【0022】量子干渉素子(SQUID)からなる複数の磁束計を用いて、生体表面の位置(x、y)に於いて生体から発する磁場の接線成分(生体の面に平行な成分)Bx(x、y、t)、By(x、y、t)を計測する場合には(但し、直交座標系(x、y、z)に於いて生体の面に平行な面をxy面、生体の面に垂直な軸をzとする)、接線成分Bx(x、y、t)とBy(x、y、t)の2乗和の平方根から2次元ベクトル強度│Bxy(x、y)│(以下、│ │は絶対値を表わす)を(数3)により求める。
【0023】
│Bxy(x、y、t)│=√{(Bx(x、y、t))2 +(By(x、y、t))2} …(数3)
次いで、各点(x、y)について任意の期間での波形│Bxy(x、y、t)│の積分値I1(x、y)を(数4)により求め、内挿、外挿により各点(x、y)での積分値I1(x、y)が同じ値の点を結ぶ等積分図を求めて、等積分図を表示画面に表示する。
【0024】
I1(x、y)=∫│Bxy(x、y、t)│dt …(数4)
以下、計測された生体の面に垂直な磁場成分Bz(x、y、t)(法線成分)から、接線成分Bx、Byを推定すること説明する。
【0025】生体磁場の体表面に平行な接線成分は、体表面直下を流れる電流を最もよく反映していることを利用すると、電流の流れる向きと磁場の向きの関係から、計測された磁場の接線ベクトル(Bx、By)を反時計回りに90°回転させることにより、生体内の電流分布を生体表面に平行な2次元平面に投影して概観できる。即ち、〈ex〉、〈ey〉をそれぞれx軸方向、y軸方向の単位ベクトルとして、各計測点に於ける接線成分Bx、Byから、(数5)に示す電流ベクトク〈J〉を求め、各計測点(x、y)に於ける電流ベクトル場の分布(アローマップ)として表現することができる。
【0026】
〈J〉=−By〈ex〉+Bx〈ey〉 …(数5)
一方、磁場の生体表面に垂直な法線成分Bzを計測する場合、(数1)により表現される電流ベクトルを用いたアローマップが定義されている(第1の従来技術:H、Hosaka and D.Cohen(1976))。
【0027】
〈J〉=(∂Bz/∂y)〈ex〉−(∂Bz/∂x)〈ey〉 …(数1)
本願発明の発明者らは、(数1)と(数5)との比較から、(数6)及び(数7)が成立する可能性、即ち、計測された磁場の法線成分Bzから接線成分Bx及びByを導出できる可能性があることを見い出し、種々の検討を行なった。以下、検討の結果を詳細に説明する。
【0028】
Bx=−(∂Bz/∂x) …(数6)
By=−(∂Bz/∂y) …(数7)
図1は、心臓の活動による磁場(心磁場)の発生を、無限平面導体中の電流ダイポールから発生する磁場によりモデル化して解析するための図である。図1に於いて、Pは直交座標系(x、y、z)のxy面に表面を持つ無限平面導体、〈Q〉は位置ベクトル〈r0(x0、y0、z0)〉で示される位置に存在する電流ダイポールのモーメント、〈r(x、y、z)〉は磁束密度(磁場)〈B(r)〉を計測する計測点の位置ベクトルを示す。図1に示すモデルに於いて、無限平面導体Pの外部に生じる磁場〈B(r)〉は、Sarvas(文献:Phys.Med.Biol.、Vol.32、No.1、11−22(1987))により定式化されており、(数8)により表現される。
【0029】
〈B(r)〉={μ0/(4πK2)}{〈Q〉×〈a〉・〈ez〉∇K −K〈ez〉×〈Q〉} …(数8)
(数8)に於いて、μ0は真空の透磁率、〈ez〉はz軸方向の単位ベクトル、×はベクトル積、・はスカラ積、∇はgrad=(∂/∂x、∂/∂y、∂/∂z)を表わし、〈a〉は(数9)、aは(数10)、Kは(数11)、∇Kは(数12)により示される。| |は絶対値を示す。
【0030】
〈a〉=〈r(x、y、z)〉−〈r0(x0、y0、z0)〉 …(数9)
a=|〈a〉| …(数10)
K=a(a+〈a〉・〈ez〉) …(数11)
∇K=(2+a-1〈a〉・〈ez〉)〈a〉+a〈ez〉 …(数12)
(数8)により示される〈B〉(r)の無限平面導体Pに平行な接線成分Bx及びByと、無限平面導体Pに垂直なな法線成分Bzは、それぞれ(数13)、(数14)、(数15)により与えられる。
【0031】
Bx={μ0/(4πK2)}
×[{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}(∇K)x+KQy]…(数13)
By={μ0/(4πK2)}
×[{Qy(y−y0)−Qx(x−x0)}(∇K)y+KQx]…(数14)
BZ={μ0/(4πK2)}
×[{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}(∇K)z] …(数15)
一方、(数13)により示される法線成分BZのx方向に於ける微分は(数16)により表わされる。
【0032】
∂BZ/∂x={μ0/(4πK2)}×[{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}
{−2(∇K)z(∇K)x/K−a-3(x−x0)(z−z0)2+a-1(x−x0)}−(∇K)zQy] …(数16)
同様に、法線成分BZのy方向に於ける微分は(数17)により表わされる。
【0033】
∂BZ/∂y=−{μ0/(4πK2)}×[{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)
}{2(∇K)z(∇K)y/K+a-3(y−y0)(z−z0)2−a-1(y−y0)}+(∇K)zQx] (数17)
(数16)、(数17)に於いて、α=(∇K)z/K …(数18)
βx=−a-3(x−x0)(z−z0)2+a-1(x−x0) …(数19)
βy=−a-3(y−y0)(z−z0)2+a-1(y−y0) …(数20)
と置く時、(数16)、(数17)はそれぞれ(数21)、(数22)により表わされる。
【0034】
∂BZ/∂x=−{μ0/(4πK2)}×[{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)
}{2α(∇K)x−βx}+αKQy] …(数21)
∂BZ/∂y=−{μ0/(4πK2)}×[{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)
}{2α(∇K)y−βy}+αKQx] …(数22)
簡単のために、(数13)、(数21)、(数14、(数22)を共通因子である{μ0/(4πK2)}により規格化して変形を行ない、(数13’)、(数21’)、(数14’)、(数22’)を得る。
【0035】
Bx=(∇K)x{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}+KQy …(数13’)
∂BZ/∂x=−2α(∇K)x{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}−αKQy +βx{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}=−2αBx+αKQy+βx{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)} …(数21’)
By=(∇K)y{Qy(y−y0)−Qx(x−x0)}+KQx …(数14’)
∂BZ/∂y=−2α(∇K)y{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}−αKQx]
+βy{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}=−2αBy+αKQx+βy{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)} …(数22’)
(数13’)と(数21’)とから明らかなように、∂BZ/∂xの値は、接線成分Bxの−2α倍に等しい項に、2つの付加項を加算した値に等しく、(数14’)と(数22’)とから明らかなように、∂BZ/∂yの値は、接線成分Byの−2α倍に等しい項に、2つの付加項を加算した値に等しい。
【0036】ここで、図2に概略位置を示すように、無限平面導体Pの内部の点〈r0(0、0、−z0)〉、z0=0.05[m]に、電流ダイポールのモーメント〈Q〉=(Qx、Qy、0)、Qx=Qy=50[nAm]が存在する場合に、Bx((数13))と−∂BZ/∂x((数16))を比較する。x0=y0=y=0、Qz=0を(数13)、(数16)に代入して、(数23)、(数24)を得る。
【0037】
Bx(x、0)
={μ0/(4πK2)}{−(∇K)xQyx+KQy} …(数23)
∂BZ(x、0)/∂x={μ0/(4πK2)}{2α(∇K)xQyx−αKQy−βxQyx}
…(数24)
図3は、無限平面導体Pの上でのBx((数23))及び−∂BZ/∂x((数24))をそれぞれの最大値で規格化した相対磁場強度曲線C1、C2で示す。
【0038】即ち、曲線C1はBx(x、0)/max|Bx(x、0)|を、曲線C2は{−∂BZ(x、0)/∂x}/max|∂BZ(x、0)/∂x|を表わす。図3から明らかなように、Bx及び−∂BZ/∂xの分布は何れも電流ダイポールが存在する真上の原点(x=0)にピークを持ち、何れも共に電流ダイポールが存在する点の真上に計測点がある時に最大の信号を検出可能であることを示している。また、曲線C2の方が曲線C1よりも鋭いピークを与え、−∂BZ/∂x((数16))による磁場分布はBx((数13))による磁場分布よりも空間分解能が高いことを示している。
【0039】図4に示す磁場強度曲線C3、C4、C5はそれぞれ、−∂BZ(x、0)/∂xの第1項、第2項、第3項を示す。図4に示す結果から、第3項は第1項及び第2項に対して無視でき、−∂BZ(x、0)/∂xの形状は第1項、第2項により決定されていると見なせ、(数24)は(数24’)と近似できる。
【0040】
∂BZ(x、0)/∂x={μ0/(4πK2)}{2α(∇K)xQyx−αKQy} …(数24’)
図5は、(数13)、(数16)のそれぞれの第1項と第2項を規格化の後に比較した相対磁場強度曲線を示す図である。図5に於いて、曲線C6は{Bx(x、0)の第1項}/max|Bx(x、0)|、即ち、{−(∇K)xQyx}/max|Bx(x、0)|を表わし、曲線C7は{−∂BZ(x、0)/∂xの第1項}/max|∂BZ(x、0)/∂x|、即ち、{−2α(∇K)xQyx}/max|∂BZ(x、0)/∂x|を表わし、曲線C8は{Bx(x、0)の第2項}/max|Bx(x、0)|、即ち、{KQy}/max|Bx(x、0)|を表わし、曲線C9は{−∂BZ(x、0)/∂xの第2項}/max|∂BZ(x、0)/∂x|、即ち、{αKQy}/max|∂BZ(x、0)/∂x|を表わす。
【0041】図5に示す結果から、−∂BZ(x、0)/∂xの第1項、第2項の分布は共にそれぞれ、Bx(x、0)の第1項、第2項の分布よりも鋭く、分布の尖鋭度は(数18)で定義されているα=(∇K)z/Kにより規定されている。
【0042】図6に於いて、磁場曲線C10はα=(∇K)z/Kを、磁場曲線C11は−{(数24)の第1項}/{(数23)の第1項}、即ち、2α(∇K)xQyx/(∇K)xQyx=2αを、磁場曲線C12は−{(数24)の第2項}/{(数23)の第2項}、即ち、αKQy/KQy=αをそれぞれ示す。図6に示すように、α=(∇K)z/K(曲線C10)は電流ダイポールが存在する原点にピーク点を有し、ピーク値は2/(z−z0)である。−∂BZ(x、0)/∂xの大きさは、Bx(x、0)の大きさとピーク点で2/(z−z0)だけ異なる。(z−z0)は電流ダイポールの存在する深さである。実際の磁場計測からは(z−z0)を決定することは困難である。(数23)と(数24’)との比較から(数25)を得る。
【0043】
−∂BZ(x、0)/∂x={μ0/(4πK2)}{−2α(∇K)xQyx+αKQy}
=2αBx(x、0)−{μ0/(4πK)}αQy …(数25)
即ち、(数25)の第2項が第1項に対して小さい場合には、近似的に(数26)が成立すると見做せる。
【0044】
−∂BZ(x、0)/∂x=2αBx(x、0) …(数26)
一般化して(数21’)に於いて、−2αBx以外の2つの付加項が−2αBxに対して小さい場合には、近似的に(数27)が成立すると見做せる。
【0045】
∂BZ/∂x=−2αBx …(数27)
以上では、−∂BZ/∂xとBxの関係について検討した結果であるが、同様のことが−∂BZ/∂yとByの関係についても成立し、(数22’)から近似的に(数28)成立すると見做せる。
【0046】
∂BZ/∂y=−2αBy …(数28)
以下、(数27)、(数28)からそれぞれ、Bxは−∂BZ/∂x、Byは−∂BZ/∂yに比例すると仮定して、計測された法線成分Bzから接線成分Bx、Byを推定して等磁場線図を求める手順を詳細に説明する。
【0047】生体の面に垂直な磁場成分Bz(x、y、t)を計測した場合、Bz(x、y、t)のx方向の変化率∂Bz(x、y、t)/∂xと、Bz(x、y、t)の方向の変化率∂Bz(x、y、t)/∂yと求め、(数33)に示すように2乗和の平方根S(x、y、t)を求める。
【0048】
S(x、y、t)=√[{∂Bz(x、y、t)/∂x}2 +{∂Bz(x、y、t)/∂y}2] …(数33)
次いで、各点(x、y)について任意の期間での波形St(t、x、y)の積分値I2(x、y)を(数34)により求め、内挿、外挿により各点(x、y)での積分値I2(x、y)が同じ値の点を結ぶ等積分図を求めて、等積分図を表示画面に表示する。
【0049】
I2(x、y)=∫│St(x、y、t)│dt …(数34)
なお、(数4)、(数34)の積分範囲としては、例えば、心臓を測定の対象とする時には、Q、R、Sの各波の発生する期間、Q波からS波の発生するQRS波(QRS complex)の期間、T波の発生する期間等をとる。更に、(数4)、(数34)の積分範囲として複数の積分範囲をとり求めた複数の積分値の間での、等加重を含む和又は差、比を求める等の演算を行ない、内挿、外挿により演算結果が同じ値の点を結ぶ等積分図を求めて、等積分図を表示画面に表示する。例えば、第1の積分範囲としてQRS波の発生する期間T1、第2の積分範囲としてT波の発生する期間T2を設定し、(数4)に従って、期間T1に関する積分値I1、T1(x、y)、I2、T1(x、y)、(数34)に従って、期間T2に関する積分値I1、T2(x、y)、I2、T2(x、y)をそれぞれを求め、積分値I1、T1(x、y)と積分値I1、T2(x、y)との間、又は積分値I2、T1(x、y)と積分値I2、T2(x、y)との間で、等加重を含む和Isum(x、y)、又は差Idif(x、y)、比r(x、y)を、(数35)〜(数36)、(数37)〜(数38)、(数39)〜(数40)に従って求める。
【0050】
Isum(x、y)=w1×I1、T1(x、y)+w2×I1、T2(x、y) …(数35)
Isum(x、y)=w1×I2、T1(x、y)+w2×I2、T2(x、y) …(数36)
Idif(x、y)=w2×I1、T2(x、y)−w1×I1、T1(x、y) …(数37)
Idif(x、y)
=w2×I2、T2(x、y)−w1×I2、T1(x、y) …(数38)
r(x、y)=I1、T1(x、y)/I1、T2(x、y) …(数39)
r(x、y)=I2、T1(x、y)/I2、T2(x、y) …(数40)
(数35)〜(数36)、(数37)〜(数38)、(数39)〜(数40)の演算の結果、個人差による等積分図のばらつきが改善され、疾患等による生体機能の異常を検出できる。
【0051】本発明で得られる等積分図によれば、従来技術で必要としていた生体部位の各時刻に於ける状態を表わす多数の図(マップ)を用いて生体現象を解析することなく、従来技術で必要としていた図(マップ)の数よりもはるかに少数の図(マップ)を用いて、生体部位の全体の状態を把握できる。また、生体磁場の接線成分、又は法線成分を用いて得られる等積分図のピーク位置と、生体内で電流が多く流れる部位が一致するので、等積分図から任意の時間帯での生体内のどの部位で多く電流が流れたかを判別できる。生体磁場分布は個人差が大きいが、本発明では、生体磁場の各方向成分の時間変化を表わす波形から得る任意の時間(期間)での積分値を用いるので、より定量的な生体磁場分布を少数の図(マップ)を用いて表示でき、個人毎の疾患、異常を客観的、定量的に把握できる。
【0052】本発明では、生体の面に垂直な磁場成分Bz(x、y、t)を計測して、BxをBz(x、y、t)のx方向の変化率∂Bz(x、y、t)/∂xから、ByをBz(x、y、t)の方向の変化率∂Bz(x、y、t)/∂yから推定して求めるので、隣接する各計測点(x、y)に共通して存在する背景となる磁場(妨害磁場)は、x方向、及びy方向で各々キャンセルされることとなる。
【0053】
【発明の実施の形態】生体磁場計測に於ける座標系として直交座標系(x、y、z)(磁場成分をBx、By、Bzとする)や極直交座標系(r、θ、φ)が用いられる。計測対象が心臓等である場合には、胸壁をxy平面とする直交座標系(x、y、z)が用いられる。計測対象が脳部等である場合には、頭部が球に近い形状であるため極座標系(r、θ、φ)(磁場成分をBr、Bθ、Bφとする)が用いられる。本実施例では、生体表面に垂直な磁場成分(法線成分)はBz、Brで表わされ、生体の面に平行な成分(接線成分)は、Bx、By、Bθ、Bφで表わされる。以下、本実施例では、直交座標系(x、y、z)を用いて説明するが、極座標系(r、θ、φ)を用いる場合には、BzをBrに、BxをBθに、ByをBφにそれぞれ読み替えれば良い。
【0054】図7は本発明が実施される生体磁場計測装置の概略構成を示す。心磁場計測を行なう生体磁場計測装置は、量子干渉素子(SQUID)からなる複数の磁場センサを用いる。環境磁場雑音の影響を除去するために、心磁場計測は磁場シールドルーム1の内部で行なわれる。被検者2はベッド3に横たわり計測する(図11に示すように、xy面がベッドの面となるように直交座標系(x、y、z)を設定する)。被検者2の胸部の上方に、SQUIDとそのSQUIDに接続した検出コイルとが一体化された磁場センサを複数個収納し、液体Heを満たしたデュワ4が配置される。液体Heは磁場シールドルーム1の外部の自動補給装置5により、連続的に液体Heが補充されている。
【0055】磁場センサからの出力は、検出コイルが検出した磁場強度に比例する電圧を出力するFLL(Flux Locked Loop)回路6に入力される。このFFL回路はSQUIDの出力を一定に保つようSQUIDに入力された生体磁場の変化を帰還コイルを介してキャンセルしている。この帰還コイルに流した電流を電圧に変換することにより、生体磁場信号の変化に比例した電圧出力が得られる。この電圧出力は、増幅器(図示せず)により増幅され、フイルター回路7により周波数帯域が選択され、AD変換器で(図示せず)AD変換され、計算機8に取り込まれる。計算機8では、各種の演算処理が実行され、演算処理結果がデイスプレイに表示され、更に、プリンタにより出力される。
【0056】磁場の接線成分を検出する検出コイルとして、コイル面がx方向、及びy方向を向いた2つのコイルを使用し、磁場の法線成分を検出する検出コイルとする。また磁場の法線成分を検出するコイルとしては、z方向を向いたコイルを使用する。これら磁場センサ(20−1、20−2、〜、20−8、21−1、〜、21−8、22−1、〜、22−8、23−2、〜、23−8、24−1、〜、24−8、25−1、〜、25−8、26−1、〜、26−8、27−1、〜、27−8)の配置図を図8に示す。磁場センサ9はデュワ内部の底部から垂直の方向に設置し、また各センサ間は磁場の距離変化量を正確に捕らえるようにx方向、y方向に等間隔になるようにした。ここで、センサ間距離は25mmとし、センサ数は8×8の64チャンネルとした。
【0057】この配列方法に従って、設置した磁場センサの1本の概略図を図9及び図10に示す。図9の磁場センサは生体表面に対して垂直な成分Bzを測定するセンサで、超伝導線(NbーTi線)で作製したコイルの面がz方向を向いている。このコイルは2つの逆向きのコイルを組み合わせたもので生体に近い方を検出コイル10とし、遠い方のコイルを外部磁場雑音を除去する参照コイル(reference coil)11とし1次微分コイルを形成している。ここでコイル径を20mmφ、コイル間のベースラインを50mmとした。外部磁場雑音は生体より遠い信号源から生じており、これらは検出コイル及び参照コイルで同じように検出される。一方、生体からの信号はコイルに近いため検出コイル10でより強く検出される。このため、検出コイル10では信号と雑音が検出され、参照コイル11では雑音のみが検出される。従って、両者のコイルで捕らえた磁場の差を取ることによりS/Nの高い計測ができる。
【0058】1次微分コイルはSQUID12を実装した実装基板の超伝導配線を介してSQUIDのインプットコイルに接続し、コイルで検出した生体磁場をSQUIDに伝達する。生体磁場成分の接線成分Bx、Byを検出する磁場センサの概略図を図10に示す。この磁場センサは平面型のコイルを使用しており、検出コイル10’、10”及び参照コイル11’、11”が1つの平面に並び、コイル径は20mm×20mm、ベースラインは50mmとした。コイルは法線成分用と同様にSQUID12’、12”の実装基板に接続している。4角柱の支持体の互いに直交する2面に、これらx成分検出用磁場センサ13とy成分検出用磁場センサ14を張り付けることにより、x及びy成分を測定できる磁場センサを形成している。この4角柱は図8に示すようにアレイ状に配置した。
【0059】磁場センサを内蔵したデュワは、ベットに横たわった被験者の胸部上方に配置し心臓から発生する磁場を計測する。ここで、体の横方向をx軸とし、体の上下方向をy軸とする。磁場センサ(20−1、〜、20−8、21−1、〜、21−8、22−1、〜、22−8、23−2、〜、23−8、24−1、〜、24−8、25−1、〜、25−8、26−1、〜、26−8、27−1、〜、27−8)の配置と胸部30との位置関係を図11に示す。この位置関係で計測した生体磁場信号を図12(a)、(b)、(c)に示す。
【0060】図12(a)、(b)、(c)は、各磁場センサ(8×8のアレイ状に並んだ磁場センサ)による、ある健常者の心臓から発する磁場の時間変化を示し、各図の中の64個の波形の横軸が時間軸、縦軸が検出された磁場強度を示している。図12(a)は接線成分Bx、図12(b)は接線成分By、図12(c)は法線成分Bz、の各成分の時間(横軸)の変化を、各磁場成分毎に信号強度の最も大きいチャンネルの絶対値の最大値で規格化して表示している。
【0061】図13に示す点線、実線は、健常者について計測された特定の2チャンネルに関する接線成分(Bx)の時間波形を実線、点線で示している。心臓の心室が脱分極したQRS波が出現する時間帯T1でのQ波、R波、及びS波のピーク(極値)を与える時点を図13中にそれぞれtQ、tR、tsで示した。また、心臓の再分極過程であるT波の出現する時間帯T2とし、ピーク(極値)を与える時点をtTで示した。
【0062】図13に於いて、P波は心房の興奮(脱分極(depolarization))を示し、Q波、R波、及びS波からなるQRS波は心室の興奮(脱分極)を示し、T波はQRS波に続いて出現するゆくやかなふれであり、心筋の再分極(repolarization)を示している。脱分極は、はじめに筋の中を興奮が広がる過程であり、再分極は、興奮した筋が静止状態に戻る過程である。
【0063】図14(a)、(b)、(c)は、tQ、tR、tsの時点での心磁場の強度の等しい点を線で結んだ等磁場線図を示す。図14(a)、(b)、(c)は、(数4)の│Bxy(x、y、t)│で示され、64個所で計測された接線成分Bx、Byを合成した2次元のベクトル強度分布を示している。更に、図14(a)、(b)、(c)中の矢印は、64個所の各測定点での電流源が各測定点での磁場を作っているものとして仮定した時の2次元の電流ベクトルを示している。この電流ベクトルにより心臓内での電流方向及び分布が推定できる。図14(a)、(b)、(c)の各図の横軸x、縦軸yは磁場センサが配置されている座標を示す。図14(a)に示すように、Q波のピーク時では、心臓内を流れる電流は心室中隔で右下方向に流れ、図14(b)に示すように、R波のピーク時では、左心室全体で斜め下方向に電流が大きく流れ、図14(c)に示すように、S波のピーク時では、心室基部の方向の左斜め上方向に電流が流れ、心室の脱分極過程が終了することが分かる。このように、図14(a)、(b)、(c)の等磁場線図により各時間での心臓内の活動部位及び電流方向が可視化できることが分かる。
【0064】図15は、心磁波形のQ波からS波までのQRS波が出現する時間帯T1に於いて検出された2つの接線成分Bx、Byから得た2次元ベクトル強度│Bxy(x、y、t)│を各点(x、y)について、(数4)の積分を行ない、同じ積分値の点を結んだ等積分図である。図15のx軸、y軸は、生体表面に配置された磁場センサの座標を表し、等積分図の各曲線の黒丸の近傍に示した数値はその曲線のもつ積分値を示す。図15から、QRS波の時間帯に心筋に流れた電流の多くは心筋の厚みが大きい左心室で流れたことが分かり、等積分図でのピーク位置と心臓に流れる電流量の多い部位とがよく対応することが分かった。
【0065】図16は、図12(a)、(b)、(c)から図15のデータを求めたのと同一の健常者について、法線線分Bzを各点(x、y)に於いて計測し、(数33)によりS(x、y)を求め、QRS波の時間帯T1について、(数34)の積分を行ない同じ積分値の点を結んだ等積分図である。以下、図16から図21に於いて、x軸、y軸は、生体表面に配置された磁場センサの位置座標(単位はmである)を表わす。図16から図21の曲線の黒丸の近傍に示した数値はその曲線のもつ積分値を示す。
【0066】図15に示す磁場の接線成分Bx、Byから求めた等積分図と、図16に示す磁場の法線成分Bzから求めた等積分図のパターンは一致することが判明した。この一致は、(数6)及び(数7)、又は(数27)及び(数28)が実際の実験データでほぼ成立していることを意味している。
【0067】図17は、図15を求めたのと同一の健常者について、T波の時間帯T2に於いて検出された2つの接線成分Bx、Byから得た2次元ベクトル強度│Bxy(x、y)│を各点(x、y)について、(数4)の積分を行ない同じ積分値の点を結んだ等積分図である。図1717に於いて、1e+003は、1000を示す。
【0068】図18は、時間帯T2についての(数4)の積分値と、QRS波が発生した期間帯T1についての(数4)の積分値との差(数37)を表わす等高線図である。即ち、図18は図17に示す等積分図から図15に示す等積分図を差し引いた図である。T波の時間帯T2の方が、QRS波の時間帯T1よりも長い。また、図17R>7のパターンは、図15に示すパターンと似ている。このため、図18に示す等高線図は全体が正の値となる。図17、図18の曲線の黒丸の近傍に示した数値はその曲線のもつ上記の積分値の差の値を示す。
【0069】次ぎに、心筋梗塞の患者の心磁場計測に関する結果を、図19、図20、図21に示す。図19は、QRS波の時間帯T1について図15と同様にして求めた等積分図、図20は、T波の時間帯T2について図17と同様にして求めた等積分図、図21は、T波の時間帯T2についての積分値(数4)と、QRS波の時間帯T1についての積分値(数4)との差(数35)を表わし、図18と同様にして求めた等高線図である。即ち、図21は、図20に示す等積分図から図19に示す等積分図を差し引いた図である。図19、図20の曲線の黒丸の近傍に示した数値はその曲線のもつ積分値を示し、図21の曲線の黒丸の近傍に示した数値はその曲線の持つ上記の積分値の差の値を示す。
【0070】図19に示す時間帯T1での等積分図は、図15及び図16に示す等積分図とあまり差のないパターンであり、左心室に電流が多く流れたことが分かる。しかし、図20に示す時間帯T2での等積分図は、図19R>9に示す時間帯T1での等積分図とは異なるパターンとなり、心筋梗塞のために、時間帯T1と時間帯T2では心臓に流れる電流量のパターンが大きく異なることが明確に分かる。更に、図21に示す等高線図は全体が負の値をもち、全体が正の値をもつ図18に示す健常者の等高線図とは大きく異なり、心筋梗塞の患者では、時間帯T2で心臓に流れる電流が障害を受けていることが明確に分かる。
【0071】以上説明したように、心臓の時間帯T1と時間帯T2に於ける磁場強度を画像化するすることにより、患者に苦痛を与えることなく非侵襲的に、1分以下の短時間で、健康な状態と異常な状態(例えば、心筋梗塞の状態、虚血状態等)とを容易に判別できる。即ち、逆問題を解くことな疾患部位の早期発見、推定が可能となる。
【0072】図22には生体磁場計測装置のコンピュータの画面上での処理画像例を示す。マルチウィンド形式になっており、各処理画像をそれぞれのウィンド上に表示できる。また、先に説明した図15から図21では磁場強度や積分値の高低がわかるように各曲線に数値を入れたが、ディスプレイ上では等高線の高低によって色分けをして3次元カラー表示している。同時に、図13に示すように時間波形(心磁図)、更には心電図も表示できるようになっており、心臓疾患に関する総合的な解析ができるようにしている。
【0073】図23は本発明の生体磁場計測装置のデスプレイに表示された処理画像の一例を示す図である。図2323に於いて、MCGは心磁図の例、QRSは積分範囲をQRS波の発生する期間T1とし(数34)により得られた第1の等磁場曲線図、Tは積分範囲をT波の発生する期間T2とし(数34)により得られた第2の等磁場曲線図、(T−QRS)は第1及び第2の等磁場曲線図の差の各例を示す。図22、図23に示すディスプレイ上の表示例では、等高線の高低によって色分けをして3次元カラー表示している。
【0074】なお、(数4)、(数34)に於いて、積分を行なわず簡便な方法により、I1(x、y)、I2(x、y)を求めることもできる。即ち、以下の(数41)〜(数44)からI1(x、y)、I2(x、y)を求めて、更に、(数35)〜(数40)を適用する。生体から発する磁場の接線成分(生体の面に平行な成分)Bx(x、y、t)、By(x、y、t)を計測する場合には(但し、直交座標系(、z)に於いて生体の面に平行な面をxy面、生体の面に垂直な軸をzとする)、接線成分BxとByの2乗和の平方根から2次元ベクトル強度│Bxy(x、y)│(│ │は絶対値を表わす)を(数41)により求める。
【0075】
│Bxy(x、y、t0)│=√{(Bx(x、y、t0))2+(By(x、y、t0))2} …(数41)
次いで、各点(x、y)について任意の時点での波形│Bxy(x、y、t0)│の値I1(x、y)を(数14)により求め、内挿、外挿により各点(x、y)でのI1(x、y)が同じ値の点を結ぶ等積分図を求めて、等積分図を表示画面に表示する。
【0076】
I1(x、y)=│Bxy(x、y、t0)│ …(数42)
生体の面に垂直な磁場成分Bz(x、y、t)を計測する場合には、垂直な磁場成分Bz(x、y、t0)のx方向の変化率∂Bz(x、y、t0)/∂xと、Bz(x、y、t0)の方向の変化率∂Bz(x、y、t0)/∂yと求め、(数43)に示すように2乗和の平方根S(x、y、t)を求める。
【0077】
S(x、y、t0)=√[{∂Bz(x、y、t0)/∂x}2 +{∂Bz(x、y、t0)/∂y}2] …(数43)
次いで、各点(x、y)について任意の時点での波形St0(t0、x、y)の値I2(x、y)を(数44)により求め、内挿、外挿により各点(x、y)での値I2(x、y)が同じ値の点を結ぶ等積分図を求めて、等積分図を表示画面に表示する。
【0078】
I2(x、y)=│St0(x、y、t0)│dt …(数44)
なお、(数41)〜(数44)に於いてt0として、例えば、心臓を測定の対象とする時には、心室が収縮した時のQ、R、Sの各波の極大値を与える時点をとる。更に、(数41)〜(数44)に於いてt0として、複数のt0をとり求めた複数の値の間での、等加重を含む和又は差、比を求める等の演算を行ない、内挿、外挿により演算結果が同じ値の点を結ぶ等積分図を求めて、等積分図を表示画面に表示する。このような方法によっても、上記で説明した(数4)、(数34)を用いる方法とほぼ同様な結果を得ることができる。
【0079】従来方法により法線成分Bzを測定して得た患者Xの心磁図のQ波、R波、S波の極値が出現する時点での等磁場線図を、図24(a)、(b)、(c)に示す。図24(a)、(b)、(c)に於いて、点線は吸い込まれる磁場の等磁場線図を示し、実線は沸き出す磁場の等磁場線図を示し、白抜き矢印は電流ダイポールの大きさ、方向を示している。図24(a)、(b)、(c)に示す等磁場線図には、心臓内に存在する電流源を1つと仮定した時の電流ダイポールの位置を白抜き矢印により示して重ねて表示している。図24(a)に示すように、Q波の極値が出現する時点では、心室中隔で右下方向に電流が流れ、図24(b)に示すように、R波の極値が出現する時点では、左室全体で左斜め下方向に電流が大きく流れる。また、図24(c)に示すように、S波の極値が出現する時点では、心室基部方向に右斜め上に電流が流れ、心室の脱分極過程が終了するのが分かる。
【0080】上記患者Xの心臓から発する磁場の接線成分Bx、Byを測定し、Q波、R波、S波の各極値が出現する時点に於いて、接線成分を(数41)、(数42)に基づいて合成した等磁場線図を、図25(a)、(b)、(c)に示す。
【0081】図25(a)のパターンと図24(a)のパターン、図25(b)のパターンと図24(b)のパターン、図25(c)のパターンと図24(c)のパターン、はそれぞれほぼ一致する。しかし、図25(b)に示すR波の極値が出現する時点のパターンでは、心筋は広い領域で活動しており、図24(b)のR波の極値が出現する時点のパターンでは鮮明でなかった複数の電流源が容易に判別でき、電流源の1つは左方向に存在し、他の電流源は下方に存在することが分かる。
【0082】図24(a)、(b)、(c)に示す、Q波、R波、S波の各極値が出現する時点での法線成分Bzの等磁場線図データをそれぞれ用いて、(数43)、(数44)に基づいて求めた、Q波、R波、S波の各極値が出現する時点の等磁場線図を、図26(a)、(b)、(c)に示す。図26(a)、(b)、(c)に示す結果から、図24(a)、(b)、(c)に示す法線成分Bzの等磁場線図や、(数1)に基づくアローマップでは判別しにくかった複数の電流源が判別できる。図26(a)、(b)、(c)のパターンは、図25R>5(a)、(b)、(c)に示すパターン(接線成分Bx、By合成から得られるBxyの等磁場線図)と同等であることが分かる。このことは、(数6)及び(数7)、又は(数27)及び(数28)が実際の実験データでほぼ成立していることを意味している。
【0083】なお、図24(a)から図26(c)の各図に於いて、横軸x、縦軸yは、生体表面に配置された磁場センサの位置座標を表わす。
【0084】以上の説明では、心磁場計測に関する例をとって本発明を説明したが、脳磁図(MEG)を得る脳磁場計測の場合にも本発明が適用できることは言うまでもない。
【0085】図27は脳磁場を計測する脳磁場計測システムの脳磁場計測用デュワの内部構成の一部を示す断面図である。図27に示すように、脳磁場を計測する場合には、胸部と異なり頭部は球状であるため、SQUID磁束計103−1、103−2、…、103−Nを内蔵する頭部計測用デュワ102の底面の形状を半球として頭部100を覆うようにする。SQUID磁束計103−1、103−2、…、103−Nは頭部計測用デュワ102の内側の面に沿って放射状に配置され、各SQUID磁束計の先端面(磁場計測面)は半球面の接線面にほぼ平行となるように配置されている。半球の中心が頭部の脳部のほぼ中心と一致するように脳部を球と仮定して半球の半径は設定され、この半径は成人でも測定できるよう約10cmとした。頭部計測用デュワ102の内部には熱輻射シールド部材104が配置され頭部計測用デュワの上部は上板105により密閉されている。SQUID磁束計103−1、…、103−Nにより検出された信号は信号線106−1、…、106−Nを通して頭部計測用デュワの外部に取り出される。
【0086】図28は図27に示す脳磁場計測システムにより計測可能な磁場成分と頭部の関係を説明する図である。頭部の上方に放射状に複数の位置の1つO’配置されたQUID磁束計により計測可能な脳磁場Bの成分は、Oを原点とする極座標(r、θ、φ)に於けるr方向の成分Br(法線成分)である。図28に於いて、成分Bθ、Bφは頭部表面に平行な接線成分を示し、原点Oは脳部を球と仮定した時の球の中心である。体性感覚として右中指に電気刺激を与え、図27に示す脳磁場計測システムにより法線成分Brを検出し、電気刺激を与えてから約100msec後に出現する脳波が最大となる時点での等磁場曲線図を求める。図29(a)、(b)は、図27に示す脳磁場計測システムにより得られる等磁場曲線図の一例を示す図であり、図29(a)は従来の方法による法線成分Brの等磁場曲線図、図29R>9(b)は以下に示す本発明の(数45)を使用して得られる等磁場曲線図(地球儀に示された地図の如く、脳部を近似する球面に表示された脳磁場の強度分布を示す。)を示す。
【0087】
S(θ、φ、t)
=√{(∂Br(t)/∂θ)2+(∂Br(t)/∂φ)2} …(数45)
図29(a)に示す等磁場線図には、脳内に存在する電流源を1つと仮定した時の電流ダイポールの位置を白抜き矢印により示して重ねて表示している。図29(a)において、点線は吸い込まれる磁場の等磁場線図を示し、実線は沸き出す磁場の等磁場線図を示し、白抜き矢印は電流ダイポールの大きさ、方向を示している。図29R>9(a)に示す法線成分Brの等磁場曲線図で従来推定していた電流源(白抜き矢印で示す電流ダイポール)が、図29(b)に示す等磁場曲線図ではピーク位置Aに対応して出現していることが容易に直視できる。なお、図27に図示しない脳磁場計測システムのその他の構成は基本的に図7に示す生体磁場計測装置の構成と同一である。
【0088】以上説明した本発明による各種の方法により得られる心磁場、脳磁場に関する等磁場線図を使って、磁場源を解析する方法として、逆問題を解く様々のアルゴリズムが考えられる。実際に多く使用されている単純なアルゴリズムは、磁場源として単一あるいは2つ程度の電流ダイポールを想定し、これら電流ダイポールが存在する位置座標を初期条件として任意に仮定して、各位置座標に存在する電流ダイポールが、ビオサバールの式で表される磁場を作るものとして、実測した磁場の計測点(x、y)での磁場を計算する。計算された磁場〈Bc(x、y)〉と実測値の磁場〈Vm(x、y)〉(m=1、2、…、M:Mは実測される磁場の計測点の総数)との差で表される次の(数17)に示す評価関数を計算し、各電流ダイポールの位置座標を変化させて、評価関数Lの最小値を解析的に求めていく。(数46)に於いて、Gは定数、〈ns〉は法線又はz方向の単位ベクトルであり、加算記号Σは、m=1、2、…、Mに関する加算を示す。
【0089】
L=Σ{〈Vm(x、y)〉−G([〈Bc(x、y)〉]・ns)}2 …(数46)
しかし、(数46)に基づく方法では、磁場の広い測定領域を解析する場合、最小値に収束しない場合も出てくる。本発明では、評価関数Lを算出の際のダイポールの位置と個数の初期条件を、(数4)、(数34)、又は(数44)に基づく等磁場線図に於けるピーク位置をダイポールの位置とし、更に、等磁場線図に於けるピークの個数をダイポールの個数として予め決める。このように初期条件を与え評価関数Lを解くことにより、磁場源解析が必ず収束する。ディスプレイ上に表示される、(数4)、(数34)、又は(数44)に基づく心磁場、脳磁場に関する等磁場線図上での各ピーク位置を指定することにより、自動的に各ピーク位置の座標とその個数が上記の初期値として自動的に装置に入力され、評価関数Lが解かれ、収束する磁場源解析結果が得られる。
【0090】従って、従来技術のように試行錯誤的に初期値を設定するのではなく、計測の結果得られる等磁場線図のデータに基づいて、初期値設定をほぼ一義的にかつ容易に可能ででき、効率よくより正確に逆問題を解くことが可能となる。
【0091】なお、以上の説明に於いて使用した等磁場線図を表わす各図では、医療の分野で行なわれている通例に従い、人体の右側を各図の左側に表示し、人体の左側を各図の右側に表示している。
【0092】
【発明の効果】本発明では、ベクトル計測により接線成分Bx、Byを計測することなく、法線成分Bzの計測のみから、従来技術に於けるBxyに基づく等磁場線図と等価的な等磁場線図が得られる。従来技術の於ける法線成分Bzから直接得る等磁場線図では、複数の電流源は判別しにくかったが、本発明の等磁場線図では、従来技術に於けるBxyに基づく等磁場線図と同様に、電流源の直上にピークパターンが出現するので、生体内の複数の電流源を直読でき、複数の電流源の位置、大きさ等を解析する逆問題が容易に解けるようになる。本発明の装置によれば、心筋梗塞、虚血等の発見、不整脈を生じている位置の発見、心筋肥大の発見、術前術後の心筋状態の変化の評価等の心臓に関する疾患の発見、状態の確認等が容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に於いて、心磁場の発生を、無限平面導体中の電流ダイポールから発生する磁場によりモデル化して解析するための図。
【図2】本発明に於いて、無限平面導体の内部に存在する電流ダイポールのモーメントの概略位置を示す図。
【図3】本発明に於いて、無限平面導体の上でのBx及び−∂BZ/∂xをそれぞれの最大値で規格化した相対磁場強度曲線C1、C2を示す図。
【図4】本発明に於いて、−∂BZ(x、0)/∂xの第1項、第2項、第3項を示す磁場強度曲線C3、C4、C5を示す図。
【図5】本発明に於いて、Bx、∂BZ/∂xのそれぞれの第1項と第2項を規格化の後に比較した相対磁場強度曲線C6、C7、C8、C9を示す図。
【図6】本発明に於いて、α=(∇K)z/K、{−∂BZ(x、0)/∂xの第1項}/{Bx(x、0)の第1項}、{−∂BZ(x、0)/∂xの第2項}/{Bx(x、0)の第2項}の各々の磁場強度曲線C10、C11、C12を示す図。
【図7】本発明が実施される心磁場計測を行なう生体磁場計測装置の概略構成を示す図。
【図8】本発明が実施される心磁場計測を行なう生体磁場計測装置に於ける磁場センサの配置構成を示す図。
【図9】本発明が実施される心磁場計測を行なう生体磁場計測装置に於ける磁場の法線成分を検出する磁場センサ単体の構成を示す図。
【図10】本発明が実施される心磁場計測を行なう生体磁場計測装置に於ける磁場の接線成分を検出する磁場センサ単体の構成を示す図。
【図11】本発明が実施される心磁場計測を行なう生体磁場計測装置に於ける磁場センサの配置と人体の胸部との位置関係を示す図。
【図12】本発明の実施例に於いて、各磁場センサ位置に於いて計測した健常者の心臓から発する磁場の各方向の成分に於ける時間波形図。
【図13】本発明の実施例に於いて、健常者について計測された特定の2チャンネルに関する接線成分(Bx)の時間波形を示す図。
【図14】本発明の実施例に於いて、磁場の接線成分Bx、Byを計測した健常者の心磁波形から得た、Q波、R波、S波の各波のピーク時に於ける等磁場線図。
【図15】本発明の実施例に於いて、健常者の心磁波形のQRS波が出現する時間帯に於いて検出された2つの接線成分から得た等積分図。
【図16】本発明の実施例に於いて、健常者の心磁波形のQRS波が出現する時間帯に於いて検出された法線線分から得た等積分図。
【図17】本発明の実施例に於いて、健常者の心磁波形のT波が出現する時間帯に於いて検出された2つの接線成分から得た等積分図。
【図18】図17に示す等積分図から図15に示す等積分図を差し引いた図。
【図19】本発明の実施例に於いて、心筋梗塞の患者の心磁波形のQRS波が出現する時間帯に於いて検出された2つの接線成分から得た等積分図。
【図20】本発明の実施例に於いて、心筋梗塞の患者の心磁波形のT波が出現する時間帯に於いて検出された2つの接線成分から得た等積分図。
【図21】図20に示す等積分図から図19に示す等積分図を差し引いた図。
【図22】本発明が実施される心磁場計測を行なう生体磁場計測装置のパソコンでの出力画面の例を示す図。
【図23】本発明の生体磁場計測装置のデスプレイに表示された処理画像の一例を示す図。
【図24】従来方法により法線成分Bzを測定して得た、心磁図(MCG)のQ波、R波、S波の極値が出現する時点での等磁場線図を示す図。
【図25】本発明の実施例に於いてそれぞれ、心臓からの磁場の接線成分Bx、Byを測定し、Q波、R波、S波の極値が出現する時点に於いて、接線成分を合成したBxyの等磁場線図を示す図。
【図26】本発明の実施例に於いて、図24に示す、Q波、R波、S波の極値が出現する時点での法線Bzの等磁場線図データをそれぞれ用いて、(数43)、(数44)に基づいて求めた、各時点での等磁場線図を示す図。
【図27】本発明の実施例に於いて、脳磁場を計測する脳磁場計測システムの脳磁場計測用デュワの内部構成の一部を示す断面図。
【図28】図27に示す脳磁場計測システムにより計測可能な磁場成分と頭部の関係を説明する図。
【図29】図27に示す脳磁場計測システムにより得られる等磁場曲線図の一例を示す図。
【符号の説明】
1…磁場シールドルーム、2…被検者、3…ベッド、4…デュワ、5…自動補給装置、6…FFL回路、7…フイルター回路、8…計算機、10、10’、10”…検出コイル、11、11’、11”…参照コイル、12、12’、12”…SQUID、13…x成分検出用磁場センサ、14…y成分検出用磁場センサ、20−1、20−2、〜、20−8、21−1、〜、21−8、22−1、〜、22−8、23−2、〜、23−8、24−1、〜、24−8、25−1、〜、25−8、26−1、〜、26−8、27−1、〜、27−8…磁場センサ、30…胸部、103−1、103−2、…、103−N…SQUID磁束計、100…頭部、102…頭部計測用デュワ、104…熱輻射シールド部材、105…上板、106−1、…、106−N…信号線。
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、生体の脳の神経活動、心臓の心筋活動等により発生する生体磁場を、高感度な量子干渉素子(SQUID:superconducting quantum interferencedevice)からなる複数の磁束計を用いて計測する生体磁場計測方法及び生体磁場計測装置に関する。
【0002】
【従来の技術】本発明は、生体の脳の神経活動、心臓の心筋活動等により発生する生体磁場を、高感度な量子干渉素子(SQUID:superconducting quantum interference device)からなる複数の磁束計を用いて計測する生体磁場計測方法及び生体磁場計測装置に関する。
【0003】生体磁場としては、電流ダイポールが作り出す磁場の他、生体内を流れる体積電流による磁場がある。生体磁場の法線成分(Bz(直交座標系でのZ成分)又はBr(極座標系での動径成分))の計測は、体積電流の影響を受けにくいと考えられている。従来技術では、生体表面に対してSQUIDに接続した検出コイルの面を平行に配置して、生体表面に垂直な法線成分であるBz又はBrを計測していた。生体磁場計測の結果は、測定された磁場成分の時間変化波形、測定された磁場成分の任意の時点での強度の等しい点を結ぶ等磁場線図(コンターマップ)により表示されていた。また、得られた等磁場曲線から、生体磁場を発生している磁場源を解析する種々の解析方法が提案されているが、代表的な解析方法では磁場源を電流ダイポールに置き換えて解析を行なっていた。
【0004】電流ダイポールが作る磁場の法線成分(Bz又はBr)の等磁場線図は、磁場源(電流ダイポール)を中心として分離した位置に磁場の沸き出し極、磁場の吸い込み極を持つパターンとなる。この2つの極での磁場強度、2つの極の間の距離により、磁場源(電流ダイポール)の大きさ、位置、方向等が解析されている。
【0005】第1の従来技術(H.Hosaka and D.Cohen、J.Electrocardiol.、9(4)、426−432(1976))では、心筋内の電流の方向や強さを見易くするため、計測された法線成分Bzの等磁場線図を用いて、心筋に分布する電流源を表示する方法として、(数1)で定義される電流ベクトル〈J(x、y)〉を各計測点上に矢印で表現するアローマップが考案されている。なお以下の説明では、括弧〈 〉は〈 〉内の記号がベクトルであることを示し、例えば、〈J〉はJがベクトルであることを表わす。
【0006】
〈J(x、y)〉=(∂Bz(x、y)/∂y)〈ex〉−(∂Bz(x、y)/∂x)〈ey〉 …(数1)
(数1)に於いて、〈ex〉はx方向の単位ベクトル、〈ey〉はy方向の単位ベクトルである。しかし、複数の電流源が存在する時には、法線成分Bzの等磁場線図から個々の電流源を判別しにくいという問題があった。
【0007】第2の従来技術(K.Tukada et al.、Reveiw of the Scientific Instruments、66(10)5085−5091(1995))では、分布する複数の電流源を可視化するために、法線成分(Bz又はBr)を計測するのではなく、検出コイルの面を生体表面に対して垂直に配置して、接線成分Bx及びByを計測している。計測された接線成分Bx、Byを各成分毎に等磁場線図として表示している。従来技術2で計測された接線成分Bx、Byは体積電流の影響が考えられるものの、(数2)に従って、時刻tに於いて計測されたBx及びByを合成した2次元ベクトル強度Bxyの等磁場線図では、常に電流ダイポールの直上にピークが得られることから、複数の電流ダイポールが存在する場合でも、各電流ダイポールを分離して可視化できる。
【0008】
│Bxy(x、y、t)│=√{(Bx(x、y、t))2+(By(x、y、t))2} …(数2)
第3の従来技術(Y.Yoshida et al.、Tenth International Conference on Biomagnetism、Santana Fe、New Mexico、Feb.20(1996))では、コイルの面がそれぞれ直交した3つの検出コイルからなるベクトル磁場センサを用いて生体磁場の法線成分と2つの接線成分を検出し、磁場成分の検出結果を直交座標系に変換して、直交座標系の成分Bx、By、Bzを求め、法線成分Bz及び2次元ベクトル強度Bxyの等磁場線図をそれぞれ表示している。
【0009】第4の従来技術(K.Tsukada、et.al.、Tenth International Conference on Biomagnetism、Santana Fe、New Mexico、Feb.20(1996))では、生体磁場の2つの接線成分Bx、Byを検出し、|Bxy|=|Bx+By|に基づく等磁場線図と法線成分Bzに基づく等磁場線図との比較を行なっている。
【0010】生体内の電気的生理学現象の計測結果を表す図として、脳波計により計測して得る脳波図(MEG、magnetoencephalogram)、心電計により計測して得る心電図(ECG、electrocardiogram)がある。心電図の計測に於いて、複数の電極を用いて心電図形をマッピングする体表面心電図(body surface potential map)は周知の技術である。これらの脳波図、又は体表面心電図は、等しい電位点を結ぶ等電位線図として表示されていた。
【0011】第5の従来技術(T.J.Montague et al.、Circulation 63、No.5、pp1166−1172(1981))では、複数の電極の各電極の出力の時間変化波形を任意の時間区間で積分した等積分図(isointegral map)を、体表面心電図として表示している。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】以下の説明では、「生体磁場」は「生体磁場から発する磁場」を意味し、「心磁場計測」は、「心臓から発する磁場の計測」を意味し、「心磁波形」は、「心磁場計測により得た心磁図(MCG、Magnetocardiogram)が表わす波形」を意味する。また、「脳磁場計測」は、「脳から発する磁場の計測」を意味し、「脳磁波形」は、「脳磁場計測により得た脳磁図(MEG、Magnetoencephalogram)が表わす波形」を意味する。
【0013】従来技術に於ける各成分毎の等磁場線図はそれぞれ特徴があり、単一電流ダイポールが存在する時には、法線成分Bzの等磁場線図では、電流源の位置、大きさ、方向等が容易に解析できる。一方、接線成分Bx、Byの計測結果から得る2次元ベクトル強度Bxyの等磁場線図では、複数の電流ダイポールが存在する時でも、容易に各電流ダイポールを判別できる特徴がある。しかし、磁場を検出するコイルの数はx、y方向それぞれに必要であるため、法線成分Bzのみの検出に比べてコイル数が2倍になる。また、Bx、By、Bzの全ての成分を計測するベクトル計測では、法線成分Bzのみの検出に比べて3倍の数のコイルが必要となる。このため、検出コイルとSQUIDからなる磁場センサの数は増加し、更に、信号処理回路等も増加し、生体磁場計測システムは高価なシステムとなってしまうという問題があった。また、第1の従来技術では、各計測点上にアローを表示するだけであり、電流源の詳細な分布状態が識別しにくいという問題があった。
【0014】生体磁場成分で表わした等磁場線図により、任意の時点での生体内の電流源の位置、大きさ、方向等を解析でき詳細な電流源の位置、大きさ、方向等の情報の変化を知ることができる。従来技術では、装置に表示、又は出力された多数の図を用いて各種情報のダイナミックな変化をとらえ疾患等の診断を行っていた。しかし、従来技術では、診断のために各種情報を表す多数の図を必要とし、各種情報の変化の異常を経験的に行っていた。この様に従来技術では、どの生体部位でどのような大きさの電流が流れたか、又は異常な生体電流が流れている領域がどこであるか等を表わす総合的な情報を1つの図として表示するための処理は実行されてなかった。また、体表面心電図では、任意の時間間隔(Q、R、Sの各波の発生する期間、S波からT波の発生する期間等)での積分値の等しい点を示す等積分図では、連続する各時刻での等電位線図を複数必要とせず、1つの心電図形で心臓の情報を得ることができる。しかし、等電位線図では心臓内の電流源を1つの電流ダイポールと仮定しておくと、電流ダイポールの直上ではなく電流ダイポールの直上から離れた位置に陽極のピークと陰極のピークが存在する図形となってしまうという問題がある。更に、電流ダイポールの位置が変化せず電流ダイポールの方向が変化すると陽極及び陰極のピーク位置が変化してしまい、電位を積分する時に電流源と積分値のピークとが対応しなくなるという問題があった。また、生体磁場計測により得る生体磁場の成分を単に積分しても、心電図の場合と同様に、生体磁場成分のピーク位置と電流源の位置が対応しないという問題があった。また、心電図から得る等積分図のみでは、臓器の位置、大きさ等の個人差があり単純に等積分図から疾患等の異常を正確に判断することが困難であるという問題があった。
【0015】本発明の目的は、従来技術で必要としていた図(マップ)の数よりもはるかに少数の図(マップ)を用いて、生体部位の全体の状態を把握できる生体磁場計測方法及び生体磁場計測装置を提供することにある。
【0016】本発明の他の目的は、検出コイルの数を増加させることなく、生体磁場の垂直成分Bzを計測して磁場源の解析を可能とする生体磁場計測方法及び生体磁場計測装置を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】本発明の生体磁場計測方法では、(1)量子干渉素子(SQUID)からなり、生体の外部に配置される複数の磁束計を用いて、生体から発する生体磁場の生体の面に垂直な第1方向の磁場成分の時間変化を計測する第1の工程と、第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める第2の工程と、この第2の工程で得る値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める第3の工程と、この第3の工程の工程で得る積分値を表示する第4の工程とを有することに特徴があり、更に、(2)量子干渉素子(SQUID)からなり、生体の外部に配置される複数の磁束計を用いて、生体から発する生体磁場の生体の面に平行な第1、第2方向の磁場成分の時間変化を計測する第1の工程と、第1、第2方向の磁場成分の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める第2の工程と、この第2の工程で得る値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める第3の工程と、この第3の工程の工程で得る積分値を表示する第4の工程とを有することに特徴がある。また上記(1)、(2)の特徴を有する生体磁場計測方法に於いて、上記の積分値を用いて、内挿、外挿により、上記の第4の工程で積分値が等しい点を結ぶ等積分図を表示すること、上記の第3の工程に於いて、上記の第2の工程で得る上記の値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求めることを、複数の所定の期間で行ない積分値を複数個求め、この複数個の積分値の間での、比、等加重を含む和又は差の何れかを求める演算を行なうことにも特徴がある。なお、直交座標系(x、y、z)に於いて、生体表面に垂直な方向をz軸とし、第1方向をz方向、第2方向をx方向、第3方向をy方向とする。また、極座標系(r、θ、φ)において、生体表面に垂直な方向をr軸とし、第1方向をr方向、第2方向をθ方向、第3方向をφ方向とする。
【0018】本発明の生体磁場計測装置では、(1)量子干渉素子(SQUID)からなり生体から発する生体磁場を信号として検出する、生体の外部に配置される複数の磁束計と、信号の演算処理を行なう演算処理手段と、演算処理結果を表示する表示手段とを有し、生体磁場分布を計測する生体磁場計測装置に於いて、磁束計は、生体磁場の生体の面に垂直な第1方向の磁場成分の時間変化を検出し、演算処理手段は、第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める演算と、この値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める演算とを行ない、表示手段に積分値を表示することに特徴があり、更に、(2)同上の生体磁場計測装置に於いて、磁束計は、生体磁場の生体の面に平行な第1、第2方向の磁場成分の時間変化を検出し、演算処理手段は、第1、第2方向の磁場成分の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める演算と、この値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める演算とを行ない、表示手段に積分値を表示することに特徴がある。また、上記(1)、(2)の特徴を有する生体磁場計測装置に於いて、表示手段に、内挿、外挿により積分値の等しい点を結ぶ等積分図が表示されること、演算処理手段は、上記値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求めることを、複数の所定の期間で行ない積分値を複数個求め、この複数個の積分値の間での、比、等加重を含む和又は差の何れかを求める演算を行なうこと、複数の磁束計が、生体の面に等間隔に配置されることにも特徴がある。本発明の生体磁場計測装置では、心臓から発する磁場の、胸面に対する法線(垂直)成分、接線(平行)成分の同時表示が可能である。なお、直交座標系(x、y、z)に於いて、生体表面に垂直な方向をz軸とし、第1方向をz方向、第2方向をx方向、第3方向をy方向とする。また、極座標系(r、θ、φ)において、生体表面に垂直な方向をr軸とし、第1方向をr方向、第2方向をθ方向、第3方向をφ方向とする。
【0019】本発明の本質的な特徴は、生体表面に垂直な方向を直交座標(x、y、z)のz軸とし、生体表面に平行な面を(x、y)平面とする時、生体磁場の生体表面に垂直な法線成分Bz(x、y)を検出し、生体磁場の生体表面に平行な接線成分Bx、Byをそれぞれ、法線成分Bzのx方向、y方向に於ける変化率から推定することに特徴がある。
【0020】本発明によれば、接線成分Bx、Byを測定する検出コイルを必要とすることなく、生体の磁場分布を2次元(x、y)平面に投影した等磁場線図を得ることができ、等磁場線図のピークパターンから生体内の電流源を判別でき、複数の電流ダイポールの(x、y)座標での位置を知ることができる。
【0021】以下、本発明に於ける演算処理手段(複数の磁束計により計測された信号を収集し、信号に対して以下の演算処理を行なうパソコン等の計算機、又は専用的にハードウエア化され演算処理を行なう電子回路)にて行なう演算処理の内容に付いて説明する。
【0022】量子干渉素子(SQUID)からなる複数の磁束計を用いて、生体表面の位置(x、y)に於いて生体から発する磁場の接線成分(生体の面に平行な成分)Bx(x、y、t)、By(x、y、t)を計測する場合には(但し、直交座標系(x、y、z)に於いて生体の面に平行な面をxy面、生体の面に垂直な軸をzとする)、接線成分Bx(x、y、t)とBy(x、y、t)の2乗和の平方根から2次元ベクトル強度│Bxy(x、y)│(以下、│ │は絶対値を表わす)を(数3)により求める。
【0023】
│Bxy(x、y、t)│=√{(Bx(x、y、t))2 +(By(x、y、t))2} …(数3)
次いで、各点(x、y)について任意の期間での波形│Bxy(x、y、t)│の積分値I1(x、y)を(数4)により求め、内挿、外挿により各点(x、y)での積分値I1(x、y)が同じ値の点を結ぶ等積分図を求めて、等積分図を表示画面に表示する。
【0024】
I1(x、y)=∫│Bxy(x、y、t)│dt …(数4)
以下、計測された生体の面に垂直な磁場成分Bz(x、y、t)(法線成分)から、接線成分Bx、Byを推定すること説明する。
【0025】生体磁場の体表面に平行な接線成分は、体表面直下を流れる電流を最もよく反映していることを利用すると、電流の流れる向きと磁場の向きの関係から、計測された磁場の接線ベクトル(Bx、By)を反時計回りに90°回転させることにより、生体内の電流分布を生体表面に平行な2次元平面に投影して概観できる。即ち、〈ex〉、〈ey〉をそれぞれx軸方向、y軸方向の単位ベクトルとして、各計測点に於ける接線成分Bx、Byから、(数5)に示す電流ベクトク〈J〉を求め、各計測点(x、y)に於ける電流ベクトル場の分布(アローマップ)として表現することができる。
【0026】
〈J〉=−By〈ex〉+Bx〈ey〉 …(数5)
一方、磁場の生体表面に垂直な法線成分Bzを計測する場合、(数1)により表現される電流ベクトルを用いたアローマップが定義されている(第1の従来技術:H、Hosaka and D.Cohen(1976))。
【0027】
〈J〉=(∂Bz/∂y)〈ex〉−(∂Bz/∂x)〈ey〉 …(数1)
本願発明の発明者らは、(数1)と(数5)との比較から、(数6)及び(数7)が成立する可能性、即ち、計測された磁場の法線成分Bzから接線成分Bx及びByを導出できる可能性があることを見い出し、種々の検討を行なった。以下、検討の結果を詳細に説明する。
【0028】
Bx=−(∂Bz/∂x) …(数6)
By=−(∂Bz/∂y) …(数7)
図1は、心臓の活動による磁場(心磁場)の発生を、無限平面導体中の電流ダイポールから発生する磁場によりモデル化して解析するための図である。図1に於いて、Pは直交座標系(x、y、z)のxy面に表面を持つ無限平面導体、〈Q〉は位置ベクトル〈r0(x0、y0、z0)〉で示される位置に存在する電流ダイポールのモーメント、〈r(x、y、z)〉は磁束密度(磁場)〈B(r)〉を計測する計測点の位置ベクトルを示す。図1に示すモデルに於いて、無限平面導体Pの外部に生じる磁場〈B(r)〉は、Sarvas(文献:Phys.Med.Biol.、Vol.32、No.1、11−22(1987))により定式化されており、(数8)により表現される。
【0029】
〈B(r)〉={μ0/(4πK2)}{〈Q〉×〈a〉・〈ez〉∇K −K〈ez〉×〈Q〉} …(数8)
(数8)に於いて、μ0は真空の透磁率、〈ez〉はz軸方向の単位ベクトル、×はベクトル積、・はスカラ積、∇はgrad=(∂/∂x、∂/∂y、∂/∂z)を表わし、〈a〉は(数9)、aは(数10)、Kは(数11)、∇Kは(数12)により示される。| |は絶対値を示す。
【0030】
〈a〉=〈r(x、y、z)〉−〈r0(x0、y0、z0)〉 …(数9)
a=|〈a〉| …(数10)
K=a(a+〈a〉・〈ez〉) …(数11)
∇K=(2+a-1〈a〉・〈ez〉)〈a〉+a〈ez〉 …(数12)
(数8)により示される〈B〉(r)の無限平面導体Pに平行な接線成分Bx及びByと、無限平面導体Pに垂直なな法線成分Bzは、それぞれ(数13)、(数14)、(数15)により与えられる。
【0031】
Bx={μ0/(4πK2)}
×[{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}(∇K)x+KQy]…(数13)
By={μ0/(4πK2)}
×[{Qy(y−y0)−Qx(x−x0)}(∇K)y+KQx]…(数14)
BZ={μ0/(4πK2)}
×[{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}(∇K)z] …(数15)
一方、(数13)により示される法線成分BZのx方向に於ける微分は(数16)により表わされる。
【0032】
∂BZ/∂x={μ0/(4πK2)}×[{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}
{−2(∇K)z(∇K)x/K−a-3(x−x0)(z−z0)2+a-1(x−x0)}−(∇K)zQy] …(数16)
同様に、法線成分BZのy方向に於ける微分は(数17)により表わされる。
【0033】
∂BZ/∂y=−{μ0/(4πK2)}×[{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)
}{2(∇K)z(∇K)y/K+a-3(y−y0)(z−z0)2−a-1(y−y0)}+(∇K)zQx] (数17)
(数16)、(数17)に於いて、α=(∇K)z/K …(数18)
βx=−a-3(x−x0)(z−z0)2+a-1(x−x0) …(数19)
βy=−a-3(y−y0)(z−z0)2+a-1(y−y0) …(数20)
と置く時、(数16)、(数17)はそれぞれ(数21)、(数22)により表わされる。
【0034】
∂BZ/∂x=−{μ0/(4πK2)}×[{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)
}{2α(∇K)x−βx}+αKQy] …(数21)
∂BZ/∂y=−{μ0/(4πK2)}×[{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)
}{2α(∇K)y−βy}+αKQx] …(数22)
簡単のために、(数13)、(数21)、(数14、(数22)を共通因子である{μ0/(4πK2)}により規格化して変形を行ない、(数13’)、(数21’)、(数14’)、(数22’)を得る。
【0035】
Bx=(∇K)x{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}+KQy …(数13’)
∂BZ/∂x=−2α(∇K)x{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}−αKQy +βx{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}=−2αBx+αKQy+βx{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)} …(数21’)
By=(∇K)y{Qy(y−y0)−Qx(x−x0)}+KQx …(数14’)
∂BZ/∂y=−2α(∇K)y{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}−αKQx]
+βy{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)}=−2αBy+αKQx+βy{Qx(y−y0)−Qy(x−x0)} …(数22’)
(数13’)と(数21’)とから明らかなように、∂BZ/∂xの値は、接線成分Bxの−2α倍に等しい項に、2つの付加項を加算した値に等しく、(数14’)と(数22’)とから明らかなように、∂BZ/∂yの値は、接線成分Byの−2α倍に等しい項に、2つの付加項を加算した値に等しい。
【0036】ここで、図2に概略位置を示すように、無限平面導体Pの内部の点〈r0(0、0、−z0)〉、z0=0.05[m]に、電流ダイポールのモーメント〈Q〉=(Qx、Qy、0)、Qx=Qy=50[nAm]が存在する場合に、Bx((数13))と−∂BZ/∂x((数16))を比較する。x0=y0=y=0、Qz=0を(数13)、(数16)に代入して、(数23)、(数24)を得る。
【0037】
Bx(x、0)
={μ0/(4πK2)}{−(∇K)xQyx+KQy} …(数23)
∂BZ(x、0)/∂x={μ0/(4πK2)}{2α(∇K)xQyx−αKQy−βxQyx}
…(数24)
図3は、無限平面導体Pの上でのBx((数23))及び−∂BZ/∂x((数24))をそれぞれの最大値で規格化した相対磁場強度曲線C1、C2で示す。
【0038】即ち、曲線C1はBx(x、0)/max|Bx(x、0)|を、曲線C2は{−∂BZ(x、0)/∂x}/max|∂BZ(x、0)/∂x|を表わす。図3から明らかなように、Bx及び−∂BZ/∂xの分布は何れも電流ダイポールが存在する真上の原点(x=0)にピークを持ち、何れも共に電流ダイポールが存在する点の真上に計測点がある時に最大の信号を検出可能であることを示している。また、曲線C2の方が曲線C1よりも鋭いピークを与え、−∂BZ/∂x((数16))による磁場分布はBx((数13))による磁場分布よりも空間分解能が高いことを示している。
【0039】図4に示す磁場強度曲線C3、C4、C5はそれぞれ、−∂BZ(x、0)/∂xの第1項、第2項、第3項を示す。図4に示す結果から、第3項は第1項及び第2項に対して無視でき、−∂BZ(x、0)/∂xの形状は第1項、第2項により決定されていると見なせ、(数24)は(数24’)と近似できる。
【0040】
∂BZ(x、0)/∂x={μ0/(4πK2)}{2α(∇K)xQyx−αKQy} …(数24’)
図5は、(数13)、(数16)のそれぞれの第1項と第2項を規格化の後に比較した相対磁場強度曲線を示す図である。図5に於いて、曲線C6は{Bx(x、0)の第1項}/max|Bx(x、0)|、即ち、{−(∇K)xQyx}/max|Bx(x、0)|を表わし、曲線C7は{−∂BZ(x、0)/∂xの第1項}/max|∂BZ(x、0)/∂x|、即ち、{−2α(∇K)xQyx}/max|∂BZ(x、0)/∂x|を表わし、曲線C8は{Bx(x、0)の第2項}/max|Bx(x、0)|、即ち、{KQy}/max|Bx(x、0)|を表わし、曲線C9は{−∂BZ(x、0)/∂xの第2項}/max|∂BZ(x、0)/∂x|、即ち、{αKQy}/max|∂BZ(x、0)/∂x|を表わす。
【0041】図5に示す結果から、−∂BZ(x、0)/∂xの第1項、第2項の分布は共にそれぞれ、Bx(x、0)の第1項、第2項の分布よりも鋭く、分布の尖鋭度は(数18)で定義されているα=(∇K)z/Kにより規定されている。
【0042】図6に於いて、磁場曲線C10はα=(∇K)z/Kを、磁場曲線C11は−{(数24)の第1項}/{(数23)の第1項}、即ち、2α(∇K)xQyx/(∇K)xQyx=2αを、磁場曲線C12は−{(数24)の第2項}/{(数23)の第2項}、即ち、αKQy/KQy=αをそれぞれ示す。図6に示すように、α=(∇K)z/K(曲線C10)は電流ダイポールが存在する原点にピーク点を有し、ピーク値は2/(z−z0)である。−∂BZ(x、0)/∂xの大きさは、Bx(x、0)の大きさとピーク点で2/(z−z0)だけ異なる。(z−z0)は電流ダイポールの存在する深さである。実際の磁場計測からは(z−z0)を決定することは困難である。(数23)と(数24’)との比較から(数25)を得る。
【0043】
−∂BZ(x、0)/∂x={μ0/(4πK2)}{−2α(∇K)xQyx+αKQy}
=2αBx(x、0)−{μ0/(4πK)}αQy …(数25)
即ち、(数25)の第2項が第1項に対して小さい場合には、近似的に(数26)が成立すると見做せる。
【0044】
−∂BZ(x、0)/∂x=2αBx(x、0) …(数26)
一般化して(数21’)に於いて、−2αBx以外の2つの付加項が−2αBxに対して小さい場合には、近似的に(数27)が成立すると見做せる。
【0045】
∂BZ/∂x=−2αBx …(数27)
以上では、−∂BZ/∂xとBxの関係について検討した結果であるが、同様のことが−∂BZ/∂yとByの関係についても成立し、(数22’)から近似的に(数28)成立すると見做せる。
【0046】
∂BZ/∂y=−2αBy …(数28)
以下、(数27)、(数28)からそれぞれ、Bxは−∂BZ/∂x、Byは−∂BZ/∂yに比例すると仮定して、計測された法線成分Bzから接線成分Bx、Byを推定して等磁場線図を求める手順を詳細に説明する。
【0047】生体の面に垂直な磁場成分Bz(x、y、t)を計測した場合、Bz(x、y、t)のx方向の変化率∂Bz(x、y、t)/∂xと、Bz(x、y、t)の方向の変化率∂Bz(x、y、t)/∂yと求め、(数33)に示すように2乗和の平方根S(x、y、t)を求める。
【0048】
S(x、y、t)=√[{∂Bz(x、y、t)/∂x}2 +{∂Bz(x、y、t)/∂y}2] …(数33)
次いで、各点(x、y)について任意の期間での波形St(t、x、y)の積分値I2(x、y)を(数34)により求め、内挿、外挿により各点(x、y)での積分値I2(x、y)が同じ値の点を結ぶ等積分図を求めて、等積分図を表示画面に表示する。
【0049】
I2(x、y)=∫│St(x、y、t)│dt …(数34)
なお、(数4)、(数34)の積分範囲としては、例えば、心臓を測定の対象とする時には、Q、R、Sの各波の発生する期間、Q波からS波の発生するQRS波(QRS complex)の期間、T波の発生する期間等をとる。更に、(数4)、(数34)の積分範囲として複数の積分範囲をとり求めた複数の積分値の間での、等加重を含む和又は差、比を求める等の演算を行ない、内挿、外挿により演算結果が同じ値の点を結ぶ等積分図を求めて、等積分図を表示画面に表示する。例えば、第1の積分範囲としてQRS波の発生する期間T1、第2の積分範囲としてT波の発生する期間T2を設定し、(数4)に従って、期間T1に関する積分値I1、T1(x、y)、I2、T1(x、y)、(数34)に従って、期間T2に関する積分値I1、T2(x、y)、I2、T2(x、y)をそれぞれを求め、積分値I1、T1(x、y)と積分値I1、T2(x、y)との間、又は積分値I2、T1(x、y)と積分値I2、T2(x、y)との間で、等加重を含む和Isum(x、y)、又は差Idif(x、y)、比r(x、y)を、(数35)〜(数36)、(数37)〜(数38)、(数39)〜(数40)に従って求める。
【0050】
Isum(x、y)=w1×I1、T1(x、y)+w2×I1、T2(x、y) …(数35)
Isum(x、y)=w1×I2、T1(x、y)+w2×I2、T2(x、y) …(数36)
Idif(x、y)=w2×I1、T2(x、y)−w1×I1、T1(x、y) …(数37)
Idif(x、y)
=w2×I2、T2(x、y)−w1×I2、T1(x、y) …(数38)
r(x、y)=I1、T1(x、y)/I1、T2(x、y) …(数39)
r(x、y)=I2、T1(x、y)/I2、T2(x、y) …(数40)
(数35)〜(数36)、(数37)〜(数38)、(数39)〜(数40)の演算の結果、個人差による等積分図のばらつきが改善され、疾患等による生体機能の異常を検出できる。
【0051】本発明で得られる等積分図によれば、従来技術で必要としていた生体部位の各時刻に於ける状態を表わす多数の図(マップ)を用いて生体現象を解析することなく、従来技術で必要としていた図(マップ)の数よりもはるかに少数の図(マップ)を用いて、生体部位の全体の状態を把握できる。また、生体磁場の接線成分、又は法線成分を用いて得られる等積分図のピーク位置と、生体内で電流が多く流れる部位が一致するので、等積分図から任意の時間帯での生体内のどの部位で多く電流が流れたかを判別できる。生体磁場分布は個人差が大きいが、本発明では、生体磁場の各方向成分の時間変化を表わす波形から得る任意の時間(期間)での積分値を用いるので、より定量的な生体磁場分布を少数の図(マップ)を用いて表示でき、個人毎の疾患、異常を客観的、定量的に把握できる。
【0052】本発明では、生体の面に垂直な磁場成分Bz(x、y、t)を計測して、BxをBz(x、y、t)のx方向の変化率∂Bz(x、y、t)/∂xから、ByをBz(x、y、t)の方向の変化率∂Bz(x、y、t)/∂yから推定して求めるので、隣接する各計測点(x、y)に共通して存在する背景となる磁場(妨害磁場)は、x方向、及びy方向で各々キャンセルされることとなる。
【0053】
【発明の実施の形態】生体磁場計測に於ける座標系として直交座標系(x、y、z)(磁場成分をBx、By、Bzとする)や極直交座標系(r、θ、φ)が用いられる。計測対象が心臓等である場合には、胸壁をxy平面とする直交座標系(x、y、z)が用いられる。計測対象が脳部等である場合には、頭部が球に近い形状であるため極座標系(r、θ、φ)(磁場成分をBr、Bθ、Bφとする)が用いられる。本実施例では、生体表面に垂直な磁場成分(法線成分)はBz、Brで表わされ、生体の面に平行な成分(接線成分)は、Bx、By、Bθ、Bφで表わされる。以下、本実施例では、直交座標系(x、y、z)を用いて説明するが、極座標系(r、θ、φ)を用いる場合には、BzをBrに、BxをBθに、ByをBφにそれぞれ読み替えれば良い。
【0054】図7は本発明が実施される生体磁場計測装置の概略構成を示す。心磁場計測を行なう生体磁場計測装置は、量子干渉素子(SQUID)からなる複数の磁場センサを用いる。環境磁場雑音の影響を除去するために、心磁場計測は磁場シールドルーム1の内部で行なわれる。被検者2はベッド3に横たわり計測する(図11に示すように、xy面がベッドの面となるように直交座標系(x、y、z)を設定する)。被検者2の胸部の上方に、SQUIDとそのSQUIDに接続した検出コイルとが一体化された磁場センサを複数個収納し、液体Heを満たしたデュワ4が配置される。液体Heは磁場シールドルーム1の外部の自動補給装置5により、連続的に液体Heが補充されている。
【0055】磁場センサからの出力は、検出コイルが検出した磁場強度に比例する電圧を出力するFLL(Flux Locked Loop)回路6に入力される。このFFL回路はSQUIDの出力を一定に保つようSQUIDに入力された生体磁場の変化を帰還コイルを介してキャンセルしている。この帰還コイルに流した電流を電圧に変換することにより、生体磁場信号の変化に比例した電圧出力が得られる。この電圧出力は、増幅器(図示せず)により増幅され、フイルター回路7により周波数帯域が選択され、AD変換器で(図示せず)AD変換され、計算機8に取り込まれる。計算機8では、各種の演算処理が実行され、演算処理結果がデイスプレイに表示され、更に、プリンタにより出力される。
【0056】磁場の接線成分を検出する検出コイルとして、コイル面がx方向、及びy方向を向いた2つのコイルを使用し、磁場の法線成分を検出する検出コイルとする。また磁場の法線成分を検出するコイルとしては、z方向を向いたコイルを使用する。これら磁場センサ(20−1、20−2、〜、20−8、21−1、〜、21−8、22−1、〜、22−8、23−2、〜、23−8、24−1、〜、24−8、25−1、〜、25−8、26−1、〜、26−8、27−1、〜、27−8)の配置図を図8に示す。磁場センサ9はデュワ内部の底部から垂直の方向に設置し、また各センサ間は磁場の距離変化量を正確に捕らえるようにx方向、y方向に等間隔になるようにした。ここで、センサ間距離は25mmとし、センサ数は8×8の64チャンネルとした。
【0057】この配列方法に従って、設置した磁場センサの1本の概略図を図9及び図10に示す。図9の磁場センサは生体表面に対して垂直な成分Bzを測定するセンサで、超伝導線(NbーTi線)で作製したコイルの面がz方向を向いている。このコイルは2つの逆向きのコイルを組み合わせたもので生体に近い方を検出コイル10とし、遠い方のコイルを外部磁場雑音を除去する参照コイル(reference coil)11とし1次微分コイルを形成している。ここでコイル径を20mmφ、コイル間のベースラインを50mmとした。外部磁場雑音は生体より遠い信号源から生じており、これらは検出コイル及び参照コイルで同じように検出される。一方、生体からの信号はコイルに近いため検出コイル10でより強く検出される。このため、検出コイル10では信号と雑音が検出され、参照コイル11では雑音のみが検出される。従って、両者のコイルで捕らえた磁場の差を取ることによりS/Nの高い計測ができる。
【0058】1次微分コイルはSQUID12を実装した実装基板の超伝導配線を介してSQUIDのインプットコイルに接続し、コイルで検出した生体磁場をSQUIDに伝達する。生体磁場成分の接線成分Bx、Byを検出する磁場センサの概略図を図10に示す。この磁場センサは平面型のコイルを使用しており、検出コイル10’、10”及び参照コイル11’、11”が1つの平面に並び、コイル径は20mm×20mm、ベースラインは50mmとした。コイルは法線成分用と同様にSQUID12’、12”の実装基板に接続している。4角柱の支持体の互いに直交する2面に、これらx成分検出用磁場センサ13とy成分検出用磁場センサ14を張り付けることにより、x及びy成分を測定できる磁場センサを形成している。この4角柱は図8に示すようにアレイ状に配置した。
【0059】磁場センサを内蔵したデュワは、ベットに横たわった被験者の胸部上方に配置し心臓から発生する磁場を計測する。ここで、体の横方向をx軸とし、体の上下方向をy軸とする。磁場センサ(20−1、〜、20−8、21−1、〜、21−8、22−1、〜、22−8、23−2、〜、23−8、24−1、〜、24−8、25−1、〜、25−8、26−1、〜、26−8、27−1、〜、27−8)の配置と胸部30との位置関係を図11に示す。この位置関係で計測した生体磁場信号を図12(a)、(b)、(c)に示す。
【0060】図12(a)、(b)、(c)は、各磁場センサ(8×8のアレイ状に並んだ磁場センサ)による、ある健常者の心臓から発する磁場の時間変化を示し、各図の中の64個の波形の横軸が時間軸、縦軸が検出された磁場強度を示している。図12(a)は接線成分Bx、図12(b)は接線成分By、図12(c)は法線成分Bz、の各成分の時間(横軸)の変化を、各磁場成分毎に信号強度の最も大きいチャンネルの絶対値の最大値で規格化して表示している。
【0061】図13に示す点線、実線は、健常者について計測された特定の2チャンネルに関する接線成分(Bx)の時間波形を実線、点線で示している。心臓の心室が脱分極したQRS波が出現する時間帯T1でのQ波、R波、及びS波のピーク(極値)を与える時点を図13中にそれぞれtQ、tR、tsで示した。また、心臓の再分極過程であるT波の出現する時間帯T2とし、ピーク(極値)を与える時点をtTで示した。
【0062】図13に於いて、P波は心房の興奮(脱分極(depolarization))を示し、Q波、R波、及びS波からなるQRS波は心室の興奮(脱分極)を示し、T波はQRS波に続いて出現するゆくやかなふれであり、心筋の再分極(repolarization)を示している。脱分極は、はじめに筋の中を興奮が広がる過程であり、再分極は、興奮した筋が静止状態に戻る過程である。
【0063】図14(a)、(b)、(c)は、tQ、tR、tsの時点での心磁場の強度の等しい点を線で結んだ等磁場線図を示す。図14(a)、(b)、(c)は、(数4)の│Bxy(x、y、t)│で示され、64個所で計測された接線成分Bx、Byを合成した2次元のベクトル強度分布を示している。更に、図14(a)、(b)、(c)中の矢印は、64個所の各測定点での電流源が各測定点での磁場を作っているものとして仮定した時の2次元の電流ベクトルを示している。この電流ベクトルにより心臓内での電流方向及び分布が推定できる。図14(a)、(b)、(c)の各図の横軸x、縦軸yは磁場センサが配置されている座標を示す。図14(a)に示すように、Q波のピーク時では、心臓内を流れる電流は心室中隔で右下方向に流れ、図14(b)に示すように、R波のピーク時では、左心室全体で斜め下方向に電流が大きく流れ、図14(c)に示すように、S波のピーク時では、心室基部の方向の左斜め上方向に電流が流れ、心室の脱分極過程が終了することが分かる。このように、図14(a)、(b)、(c)の等磁場線図により各時間での心臓内の活動部位及び電流方向が可視化できることが分かる。
【0064】図15は、心磁波形のQ波からS波までのQRS波が出現する時間帯T1に於いて検出された2つの接線成分Bx、Byから得た2次元ベクトル強度│Bxy(x、y、t)│を各点(x、y)について、(数4)の積分を行ない、同じ積分値の点を結んだ等積分図である。図15のx軸、y軸は、生体表面に配置された磁場センサの座標を表し、等積分図の各曲線の黒丸の近傍に示した数値はその曲線のもつ積分値を示す。図15から、QRS波の時間帯に心筋に流れた電流の多くは心筋の厚みが大きい左心室で流れたことが分かり、等積分図でのピーク位置と心臓に流れる電流量の多い部位とがよく対応することが分かった。
【0065】図16は、図12(a)、(b)、(c)から図15のデータを求めたのと同一の健常者について、法線線分Bzを各点(x、y)に於いて計測し、(数33)によりS(x、y)を求め、QRS波の時間帯T1について、(数34)の積分を行ない同じ積分値の点を結んだ等積分図である。以下、図16から図21に於いて、x軸、y軸は、生体表面に配置された磁場センサの位置座標(単位はmである)を表わす。図16から図21の曲線の黒丸の近傍に示した数値はその曲線のもつ積分値を示す。
【0066】図15に示す磁場の接線成分Bx、Byから求めた等積分図と、図16に示す磁場の法線成分Bzから求めた等積分図のパターンは一致することが判明した。この一致は、(数6)及び(数7)、又は(数27)及び(数28)が実際の実験データでほぼ成立していることを意味している。
【0067】図17は、図15を求めたのと同一の健常者について、T波の時間帯T2に於いて検出された2つの接線成分Bx、Byから得た2次元ベクトル強度│Bxy(x、y)│を各点(x、y)について、(数4)の積分を行ない同じ積分値の点を結んだ等積分図である。図1717に於いて、1e+003は、1000を示す。
【0068】図18は、時間帯T2についての(数4)の積分値と、QRS波が発生した期間帯T1についての(数4)の積分値との差(数37)を表わす等高線図である。即ち、図18は図17に示す等積分図から図15に示す等積分図を差し引いた図である。T波の時間帯T2の方が、QRS波の時間帯T1よりも長い。また、図17R>7のパターンは、図15に示すパターンと似ている。このため、図18に示す等高線図は全体が正の値となる。図17、図18の曲線の黒丸の近傍に示した数値はその曲線のもつ上記の積分値の差の値を示す。
【0069】次ぎに、心筋梗塞の患者の心磁場計測に関する結果を、図19、図20、図21に示す。図19は、QRS波の時間帯T1について図15と同様にして求めた等積分図、図20は、T波の時間帯T2について図17と同様にして求めた等積分図、図21は、T波の時間帯T2についての積分値(数4)と、QRS波の時間帯T1についての積分値(数4)との差(数35)を表わし、図18と同様にして求めた等高線図である。即ち、図21は、図20に示す等積分図から図19に示す等積分図を差し引いた図である。図19、図20の曲線の黒丸の近傍に示した数値はその曲線のもつ積分値を示し、図21の曲線の黒丸の近傍に示した数値はその曲線の持つ上記の積分値の差の値を示す。
【0070】図19に示す時間帯T1での等積分図は、図15及び図16に示す等積分図とあまり差のないパターンであり、左心室に電流が多く流れたことが分かる。しかし、図20に示す時間帯T2での等積分図は、図19R>9に示す時間帯T1での等積分図とは異なるパターンとなり、心筋梗塞のために、時間帯T1と時間帯T2では心臓に流れる電流量のパターンが大きく異なることが明確に分かる。更に、図21に示す等高線図は全体が負の値をもち、全体が正の値をもつ図18に示す健常者の等高線図とは大きく異なり、心筋梗塞の患者では、時間帯T2で心臓に流れる電流が障害を受けていることが明確に分かる。
【0071】以上説明したように、心臓の時間帯T1と時間帯T2に於ける磁場強度を画像化するすることにより、患者に苦痛を与えることなく非侵襲的に、1分以下の短時間で、健康な状態と異常な状態(例えば、心筋梗塞の状態、虚血状態等)とを容易に判別できる。即ち、逆問題を解くことな疾患部位の早期発見、推定が可能となる。
【0072】図22には生体磁場計測装置のコンピュータの画面上での処理画像例を示す。マルチウィンド形式になっており、各処理画像をそれぞれのウィンド上に表示できる。また、先に説明した図15から図21では磁場強度や積分値の高低がわかるように各曲線に数値を入れたが、ディスプレイ上では等高線の高低によって色分けをして3次元カラー表示している。同時に、図13に示すように時間波形(心磁図)、更には心電図も表示できるようになっており、心臓疾患に関する総合的な解析ができるようにしている。
【0073】図23は本発明の生体磁場計測装置のデスプレイに表示された処理画像の一例を示す図である。図2323に於いて、MCGは心磁図の例、QRSは積分範囲をQRS波の発生する期間T1とし(数34)により得られた第1の等磁場曲線図、Tは積分範囲をT波の発生する期間T2とし(数34)により得られた第2の等磁場曲線図、(T−QRS)は第1及び第2の等磁場曲線図の差の各例を示す。図22、図23に示すディスプレイ上の表示例では、等高線の高低によって色分けをして3次元カラー表示している。
【0074】なお、(数4)、(数34)に於いて、積分を行なわず簡便な方法により、I1(x、y)、I2(x、y)を求めることもできる。即ち、以下の(数41)〜(数44)からI1(x、y)、I2(x、y)を求めて、更に、(数35)〜(数40)を適用する。生体から発する磁場の接線成分(生体の面に平行な成分)Bx(x、y、t)、By(x、y、t)を計測する場合には(但し、直交座標系(、z)に於いて生体の面に平行な面をxy面、生体の面に垂直な軸をzとする)、接線成分BxとByの2乗和の平方根から2次元ベクトル強度│Bxy(x、y)│(│ │は絶対値を表わす)を(数41)により求める。
【0075】
│Bxy(x、y、t0)│=√{(Bx(x、y、t0))2+(By(x、y、t0))2} …(数41)
次いで、各点(x、y)について任意の時点での波形│Bxy(x、y、t0)│の値I1(x、y)を(数14)により求め、内挿、外挿により各点(x、y)でのI1(x、y)が同じ値の点を結ぶ等積分図を求めて、等積分図を表示画面に表示する。
【0076】
I1(x、y)=│Bxy(x、y、t0)│ …(数42)
生体の面に垂直な磁場成分Bz(x、y、t)を計測する場合には、垂直な磁場成分Bz(x、y、t0)のx方向の変化率∂Bz(x、y、t0)/∂xと、Bz(x、y、t0)の方向の変化率∂Bz(x、y、t0)/∂yと求め、(数43)に示すように2乗和の平方根S(x、y、t)を求める。
【0077】
S(x、y、t0)=√[{∂Bz(x、y、t0)/∂x}2 +{∂Bz(x、y、t0)/∂y}2] …(数43)
次いで、各点(x、y)について任意の時点での波形St0(t0、x、y)の値I2(x、y)を(数44)により求め、内挿、外挿により各点(x、y)での値I2(x、y)が同じ値の点を結ぶ等積分図を求めて、等積分図を表示画面に表示する。
【0078】
I2(x、y)=│St0(x、y、t0)│dt …(数44)
なお、(数41)〜(数44)に於いてt0として、例えば、心臓を測定の対象とする時には、心室が収縮した時のQ、R、Sの各波の極大値を与える時点をとる。更に、(数41)〜(数44)に於いてt0として、複数のt0をとり求めた複数の値の間での、等加重を含む和又は差、比を求める等の演算を行ない、内挿、外挿により演算結果が同じ値の点を結ぶ等積分図を求めて、等積分図を表示画面に表示する。このような方法によっても、上記で説明した(数4)、(数34)を用いる方法とほぼ同様な結果を得ることができる。
【0079】従来方法により法線成分Bzを測定して得た患者Xの心磁図のQ波、R波、S波の極値が出現する時点での等磁場線図を、図24(a)、(b)、(c)に示す。図24(a)、(b)、(c)に於いて、点線は吸い込まれる磁場の等磁場線図を示し、実線は沸き出す磁場の等磁場線図を示し、白抜き矢印は電流ダイポールの大きさ、方向を示している。図24(a)、(b)、(c)に示す等磁場線図には、心臓内に存在する電流源を1つと仮定した時の電流ダイポールの位置を白抜き矢印により示して重ねて表示している。図24(a)に示すように、Q波の極値が出現する時点では、心室中隔で右下方向に電流が流れ、図24(b)に示すように、R波の極値が出現する時点では、左室全体で左斜め下方向に電流が大きく流れる。また、図24(c)に示すように、S波の極値が出現する時点では、心室基部方向に右斜め上に電流が流れ、心室の脱分極過程が終了するのが分かる。
【0080】上記患者Xの心臓から発する磁場の接線成分Bx、Byを測定し、Q波、R波、S波の各極値が出現する時点に於いて、接線成分を(数41)、(数42)に基づいて合成した等磁場線図を、図25(a)、(b)、(c)に示す。
【0081】図25(a)のパターンと図24(a)のパターン、図25(b)のパターンと図24(b)のパターン、図25(c)のパターンと図24(c)のパターン、はそれぞれほぼ一致する。しかし、図25(b)に示すR波の極値が出現する時点のパターンでは、心筋は広い領域で活動しており、図24(b)のR波の極値が出現する時点のパターンでは鮮明でなかった複数の電流源が容易に判別でき、電流源の1つは左方向に存在し、他の電流源は下方に存在することが分かる。
【0082】図24(a)、(b)、(c)に示す、Q波、R波、S波の各極値が出現する時点での法線成分Bzの等磁場線図データをそれぞれ用いて、(数43)、(数44)に基づいて求めた、Q波、R波、S波の各極値が出現する時点の等磁場線図を、図26(a)、(b)、(c)に示す。図26(a)、(b)、(c)に示す結果から、図24(a)、(b)、(c)に示す法線成分Bzの等磁場線図や、(数1)に基づくアローマップでは判別しにくかった複数の電流源が判別できる。図26(a)、(b)、(c)のパターンは、図25R>5(a)、(b)、(c)に示すパターン(接線成分Bx、By合成から得られるBxyの等磁場線図)と同等であることが分かる。このことは、(数6)及び(数7)、又は(数27)及び(数28)が実際の実験データでほぼ成立していることを意味している。
【0083】なお、図24(a)から図26(c)の各図に於いて、横軸x、縦軸yは、生体表面に配置された磁場センサの位置座標を表わす。
【0084】以上の説明では、心磁場計測に関する例をとって本発明を説明したが、脳磁図(MEG)を得る脳磁場計測の場合にも本発明が適用できることは言うまでもない。
【0085】図27は脳磁場を計測する脳磁場計測システムの脳磁場計測用デュワの内部構成の一部を示す断面図である。図27に示すように、脳磁場を計測する場合には、胸部と異なり頭部は球状であるため、SQUID磁束計103−1、103−2、…、103−Nを内蔵する頭部計測用デュワ102の底面の形状を半球として頭部100を覆うようにする。SQUID磁束計103−1、103−2、…、103−Nは頭部計測用デュワ102の内側の面に沿って放射状に配置され、各SQUID磁束計の先端面(磁場計測面)は半球面の接線面にほぼ平行となるように配置されている。半球の中心が頭部の脳部のほぼ中心と一致するように脳部を球と仮定して半球の半径は設定され、この半径は成人でも測定できるよう約10cmとした。頭部計測用デュワ102の内部には熱輻射シールド部材104が配置され頭部計測用デュワの上部は上板105により密閉されている。SQUID磁束計103−1、…、103−Nにより検出された信号は信号線106−1、…、106−Nを通して頭部計測用デュワの外部に取り出される。
【0086】図28は図27に示す脳磁場計測システムにより計測可能な磁場成分と頭部の関係を説明する図である。頭部の上方に放射状に複数の位置の1つO’配置されたQUID磁束計により計測可能な脳磁場Bの成分は、Oを原点とする極座標(r、θ、φ)に於けるr方向の成分Br(法線成分)である。図28に於いて、成分Bθ、Bφは頭部表面に平行な接線成分を示し、原点Oは脳部を球と仮定した時の球の中心である。体性感覚として右中指に電気刺激を与え、図27に示す脳磁場計測システムにより法線成分Brを検出し、電気刺激を与えてから約100msec後に出現する脳波が最大となる時点での等磁場曲線図を求める。図29(a)、(b)は、図27に示す脳磁場計測システムにより得られる等磁場曲線図の一例を示す図であり、図29(a)は従来の方法による法線成分Brの等磁場曲線図、図29R>9(b)は以下に示す本発明の(数45)を使用して得られる等磁場曲線図(地球儀に示された地図の如く、脳部を近似する球面に表示された脳磁場の強度分布を示す。)を示す。
【0087】
S(θ、φ、t)
=√{(∂Br(t)/∂θ)2+(∂Br(t)/∂φ)2} …(数45)
図29(a)に示す等磁場線図には、脳内に存在する電流源を1つと仮定した時の電流ダイポールの位置を白抜き矢印により示して重ねて表示している。図29(a)において、点線は吸い込まれる磁場の等磁場線図を示し、実線は沸き出す磁場の等磁場線図を示し、白抜き矢印は電流ダイポールの大きさ、方向を示している。図29R>9(a)に示す法線成分Brの等磁場曲線図で従来推定していた電流源(白抜き矢印で示す電流ダイポール)が、図29(b)に示す等磁場曲線図ではピーク位置Aに対応して出現していることが容易に直視できる。なお、図27に図示しない脳磁場計測システムのその他の構成は基本的に図7に示す生体磁場計測装置の構成と同一である。
【0088】以上説明した本発明による各種の方法により得られる心磁場、脳磁場に関する等磁場線図を使って、磁場源を解析する方法として、逆問題を解く様々のアルゴリズムが考えられる。実際に多く使用されている単純なアルゴリズムは、磁場源として単一あるいは2つ程度の電流ダイポールを想定し、これら電流ダイポールが存在する位置座標を初期条件として任意に仮定して、各位置座標に存在する電流ダイポールが、ビオサバールの式で表される磁場を作るものとして、実測した磁場の計測点(x、y)での磁場を計算する。計算された磁場〈Bc(x、y)〉と実測値の磁場〈Vm(x、y)〉(m=1、2、…、M:Mは実測される磁場の計測点の総数)との差で表される次の(数17)に示す評価関数を計算し、各電流ダイポールの位置座標を変化させて、評価関数Lの最小値を解析的に求めていく。(数46)に於いて、Gは定数、〈ns〉は法線又はz方向の単位ベクトルであり、加算記号Σは、m=1、2、…、Mに関する加算を示す。
【0089】
L=Σ{〈Vm(x、y)〉−G([〈Bc(x、y)〉]・ns)}2 …(数46)
しかし、(数46)に基づく方法では、磁場の広い測定領域を解析する場合、最小値に収束しない場合も出てくる。本発明では、評価関数Lを算出の際のダイポールの位置と個数の初期条件を、(数4)、(数34)、又は(数44)に基づく等磁場線図に於けるピーク位置をダイポールの位置とし、更に、等磁場線図に於けるピークの個数をダイポールの個数として予め決める。このように初期条件を与え評価関数Lを解くことにより、磁場源解析が必ず収束する。ディスプレイ上に表示される、(数4)、(数34)、又は(数44)に基づく心磁場、脳磁場に関する等磁場線図上での各ピーク位置を指定することにより、自動的に各ピーク位置の座標とその個数が上記の初期値として自動的に装置に入力され、評価関数Lが解かれ、収束する磁場源解析結果が得られる。
【0090】従って、従来技術のように試行錯誤的に初期値を設定するのではなく、計測の結果得られる等磁場線図のデータに基づいて、初期値設定をほぼ一義的にかつ容易に可能ででき、効率よくより正確に逆問題を解くことが可能となる。
【0091】なお、以上の説明に於いて使用した等磁場線図を表わす各図では、医療の分野で行なわれている通例に従い、人体の右側を各図の左側に表示し、人体の左側を各図の右側に表示している。
【0092】
【発明の効果】本発明では、ベクトル計測により接線成分Bx、Byを計測することなく、法線成分Bzの計測のみから、従来技術に於けるBxyに基づく等磁場線図と等価的な等磁場線図が得られる。従来技術の於ける法線成分Bzから直接得る等磁場線図では、複数の電流源は判別しにくかったが、本発明の等磁場線図では、従来技術に於けるBxyに基づく等磁場線図と同様に、電流源の直上にピークパターンが出現するので、生体内の複数の電流源を直読でき、複数の電流源の位置、大きさ等を解析する逆問題が容易に解けるようになる。本発明の装置によれば、心筋梗塞、虚血等の発見、不整脈を生じている位置の発見、心筋肥大の発見、術前術後の心筋状態の変化の評価等の心臓に関する疾患の発見、状態の確認等が容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に於いて、心磁場の発生を、無限平面導体中の電流ダイポールから発生する磁場によりモデル化して解析するための図。
【図2】本発明に於いて、無限平面導体の内部に存在する電流ダイポールのモーメントの概略位置を示す図。
【図3】本発明に於いて、無限平面導体の上でのBx及び−∂BZ/∂xをそれぞれの最大値で規格化した相対磁場強度曲線C1、C2を示す図。
【図4】本発明に於いて、−∂BZ(x、0)/∂xの第1項、第2項、第3項を示す磁場強度曲線C3、C4、C5を示す図。
【図5】本発明に於いて、Bx、∂BZ/∂xのそれぞれの第1項と第2項を規格化の後に比較した相対磁場強度曲線C6、C7、C8、C9を示す図。
【図6】本発明に於いて、α=(∇K)z/K、{−∂BZ(x、0)/∂xの第1項}/{Bx(x、0)の第1項}、{−∂BZ(x、0)/∂xの第2項}/{Bx(x、0)の第2項}の各々の磁場強度曲線C10、C11、C12を示す図。
【図7】本発明が実施される心磁場計測を行なう生体磁場計測装置の概略構成を示す図。
【図8】本発明が実施される心磁場計測を行なう生体磁場計測装置に於ける磁場センサの配置構成を示す図。
【図9】本発明が実施される心磁場計測を行なう生体磁場計測装置に於ける磁場の法線成分を検出する磁場センサ単体の構成を示す図。
【図10】本発明が実施される心磁場計測を行なう生体磁場計測装置に於ける磁場の接線成分を検出する磁場センサ単体の構成を示す図。
【図11】本発明が実施される心磁場計測を行なう生体磁場計測装置に於ける磁場センサの配置と人体の胸部との位置関係を示す図。
【図12】本発明の実施例に於いて、各磁場センサ位置に於いて計測した健常者の心臓から発する磁場の各方向の成分に於ける時間波形図。
【図13】本発明の実施例に於いて、健常者について計測された特定の2チャンネルに関する接線成分(Bx)の時間波形を示す図。
【図14】本発明の実施例に於いて、磁場の接線成分Bx、Byを計測した健常者の心磁波形から得た、Q波、R波、S波の各波のピーク時に於ける等磁場線図。
【図15】本発明の実施例に於いて、健常者の心磁波形のQRS波が出現する時間帯に於いて検出された2つの接線成分から得た等積分図。
【図16】本発明の実施例に於いて、健常者の心磁波形のQRS波が出現する時間帯に於いて検出された法線線分から得た等積分図。
【図17】本発明の実施例に於いて、健常者の心磁波形のT波が出現する時間帯に於いて検出された2つの接線成分から得た等積分図。
【図18】図17に示す等積分図から図15に示す等積分図を差し引いた図。
【図19】本発明の実施例に於いて、心筋梗塞の患者の心磁波形のQRS波が出現する時間帯に於いて検出された2つの接線成分から得た等積分図。
【図20】本発明の実施例に於いて、心筋梗塞の患者の心磁波形のT波が出現する時間帯に於いて検出された2つの接線成分から得た等積分図。
【図21】図20に示す等積分図から図19に示す等積分図を差し引いた図。
【図22】本発明が実施される心磁場計測を行なう生体磁場計測装置のパソコンでの出力画面の例を示す図。
【図23】本発明の生体磁場計測装置のデスプレイに表示された処理画像の一例を示す図。
【図24】従来方法により法線成分Bzを測定して得た、心磁図(MCG)のQ波、R波、S波の極値が出現する時点での等磁場線図を示す図。
【図25】本発明の実施例に於いてそれぞれ、心臓からの磁場の接線成分Bx、Byを測定し、Q波、R波、S波の極値が出現する時点に於いて、接線成分を合成したBxyの等磁場線図を示す図。
【図26】本発明の実施例に於いて、図24に示す、Q波、R波、S波の極値が出現する時点での法線Bzの等磁場線図データをそれぞれ用いて、(数43)、(数44)に基づいて求めた、各時点での等磁場線図を示す図。
【図27】本発明の実施例に於いて、脳磁場を計測する脳磁場計測システムの脳磁場計測用デュワの内部構成の一部を示す断面図。
【図28】図27に示す脳磁場計測システムにより計測可能な磁場成分と頭部の関係を説明する図。
【図29】図27に示す脳磁場計測システムにより得られる等磁場曲線図の一例を示す図。
【符号の説明】
1…磁場シールドルーム、2…被検者、3…ベッド、4…デュワ、5…自動補給装置、6…FFL回路、7…フイルター回路、8…計算機、10、10’、10”…検出コイル、11、11’、11”…参照コイル、12、12’、12”…SQUID、13…x成分検出用磁場センサ、14…y成分検出用磁場センサ、20−1、20−2、〜、20−8、21−1、〜、21−8、22−1、〜、22−8、23−2、〜、23−8、24−1、〜、24−8、25−1、〜、25−8、26−1、〜、26−8、27−1、〜、27−8…磁場センサ、30…胸部、103−1、103−2、…、103−N…SQUID磁束計、100…頭部、102…頭部計測用デュワ、104…熱輻射シールド部材、105…上板、106−1、…、106−N…信号線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】生体の外部に配置される量子干渉素子(SQUID)からなる複数の磁束計を用いて、前記生体から発する生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分の時間変化を計測する第1の工程と、前記第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める第2の工程と、該第2の工程で得る前記値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める第3の工程と、該第3の工程の工程で得る前記積分値を表示する第4の工程とを有することを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項2】生体の外部に配置される量子干渉素子(SQUID)からなる複数の磁束計を用いて、前記生体から発する生体磁場の前記生体の面に平行な第1、第2方向の磁場成分の時間変化を計測する第1の工程と、前記第1、第2方向の磁場成分の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める第2の工程と、該第2の工程で得る前記値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める第3の工程と、該第3の工程の工程で得る前記積分値を表示する第4の工程とを有することを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項3】請求項1又は2に記載の生体磁場計測方法に於いて、前記積分値を用いて、前記第4の工程で等積分値を結ぶ等積分図を表示することを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項4】請求項1又は2に記載の生体磁場計測方法に於いて、前記第3の工程に於いて、前記第2の工程で得る前記値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求めることを、複数の前記所定の期間で行ない前記積分値を複数個求め、該複数個の前記積分値の間での、比、等加重を含む和または差の何れかを求める演算を行なうことを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項5】生体の外部に配置される量子干渉素子(SQUID)からなる複数の磁束計を用いて、前記生体から発する生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分を計測する第1の工程と、前記第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根に比例する値を求める第2の工程と、該第2の工程の工程で得る前記値を表示する第3の工程とを有することを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項6】生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分の時間変化を検出する複数の磁束計と、前記第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める演算と、前記値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める演算とを行なう演算処理手段と、前記積分値を表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項7】生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場の前記生体の面に平行な第1、第2方向の磁場成分の時間変化を検出する複数の磁束計と、前記第1、第2方向の磁場成分の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める演算と、前記値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める演算とを行なう演算処理手段と、前記積分値を表示する表示手段とを、有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項8】請求項6又は7に記載の生体磁場計測装置に於いて、前記表示手段に、前記積分値の等しい点を結ぶ等積分図が表示されることを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項9】請求項6又は7に記載の生体磁場計測装置に於いて、前記演算処理手段は、前記積分値を求める演算を、複数の前記所定の期間で行ない前記積分値を複数個求め、該複数個の前記積分値の間での、比、等加重を含む和または差の何れかを求める演算を行なうことを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項10】請求項6又は7に記載の生体磁場計測装置に於いて、前記複数の磁束計が、前記生体の外部面に等間隔に配置されることを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項11】生体表面に平行な面を直交座標のx、y平面、前記生体表面に垂直な方向を前記直交座標のz軸とし、前記生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体表面に垂直な磁場成分Bz(x、y)を検出する複数の磁束計と、前記磁場成分Bz(x、y)のx方向及びy方向での変化率の2乗和の平方根に比例する値を求める演算処理手段と、前記値の等しい点を結ぶ等磁場強度曲線を表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項12】請求項11に記載の生体磁場計測装置に於いて、前記演算処理手段は、前記生体内の磁場源の位置、強度を推定する逆問題を解く演算に於いて、前記等磁場強度曲線のピークの数及び前記ピークの位置データを、上記逆問題を解くための前記磁場源の個数、及び前記磁場源の位置の初期値とすることを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項13】生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分を検出する複数の磁束計と、前記第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根に比例する値を求める演算を行なう演算処理手段と、前記値を表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項14】生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分を検出する複数の磁束計と、前記第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根を求める演算を行なう演算処理手段と、前記平方根の値を表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項15】生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分を検出する複数の磁束計と、前記第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根を求める演算を行なう演算処理手段と、前記平方根に比例する値を表示して、前記生体の心臓の心室が脱分極した時間帯と前記心室の再分極過程の時間帯に於ける前記生体磁場の強度分布を画像化して表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項16】生体の外部に配置される量子干渉素子(SQUID)からなる複数の磁束計を用いて、前記生体から発する生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分を計測する第1の工程と、前記生体磁場の前記第1方向と直交する第2方向の磁場成分を、前記第2方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率から求める第2の工程と、前記生体から発する磁場の前記第1及び第2の方向と直交する第3方向の磁場成分を、前記第3方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率から求める第3の工程と、前記第2及び第3方向に於ける前記磁場成分の2乗和の平方根に比例する値を求める第4の工程とを有することを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項17】請求項16に記載の生体磁場計測方法に於いて、前記第4の工程で得る前記値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める第5の工程と、該第5の工程の工程で得る前記積分値を表示する第4の工程とを有することを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項18】生体の外部に配置される量子干渉素子(SQUID)からなる複数の磁束計を用いて、前記生体から発する生体磁場の前記生体の面に垂直な法線成分を計測する第1の工程と、前記法線成分から2つの法線成分を推定し該2つの法線成分の2乗和の平方根を求める第2の工程と、前記2乗和の平方根に比例する値を所定の時間帯にわたり積分し積分値を求めるする第3の工程と、前記積分値の位置分布を表示する第4の工程とを有することを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項19】前記生体表面に平行な面を直交座標のx、y平面、前記生体表面に垂直な方向を直交座標のz軸とし、前記生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場のz方向成分Bz(x、y)を検出する複数の磁束計と、前記z方向成分Bz(x、y)から、Bxy={(∂Bz(x、y)/∂x)2+(∂Bz(x、y)/∂y)2}
の平方根に比例する値を求める演算処理手段と、前記値の等しい点を結ぶ等磁場強度曲線を表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項20】前記生体表面に平行な面を直交座標のx、y平面、前記生体表面に垂直な方向を直交座標のz軸とし、前記生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場のz方向成分Bz(x、y)を検出する複数の磁束計と、前記z方向成分Bz(x、y)から、Bxy={(∂Bz(x、y)/∂x)2+(∂Bz(x、y)/∂y)2}
の平方根に比例する値を求める演算処理手段と、前記平方根に比例する値を表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項21】請求項20に記載の生体磁場計測装置に於いて、前記表示手段に、前記生体の心臓の心室が脱分極した時間帯と前記心室の再分極過程の時間帯に於ける前記生体磁場の強度分布を画像化して表示することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項22】生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場の前記生体の面に垂直な法線成分を検出する複数の磁束計と、前記生体磁場の分布を表示する表示手段と、を具備する生体磁場計測装置において、前記表示手段は、前記法線成分から推定された2つの接線成分から求められた前記生体磁場の分布を表示することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項23】請求項22に記載の生体磁場計測装置に於いて、前記表示手段は、前記生体の心臓から発する生体磁場の分布を表示することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項24】生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分を検出する複数の磁束計と、前記第1方向の磁場成分から前記第1方向と交叉する第2方向及び第3方向の前記前記生体磁場の磁場成分を求める演算処理手段と、前記生体の心磁図のQRS波の出現する時間帯と前記心磁図のT波の出現する時間帯に於ける前記生体磁場の分布を表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項25】請求項24に記載の生体磁場計測装置に於いて、前記表示手段は、前記心磁図のQRS波の出現する時間帯と前記心磁図のT波の出現する時間帯に於ける前記生体磁場の差の分布を表示することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項1】生体の外部に配置される量子干渉素子(SQUID)からなる複数の磁束計を用いて、前記生体から発する生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分の時間変化を計測する第1の工程と、前記第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める第2の工程と、該第2の工程で得る前記値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める第3の工程と、該第3の工程の工程で得る前記積分値を表示する第4の工程とを有することを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項2】生体の外部に配置される量子干渉素子(SQUID)からなる複数の磁束計を用いて、前記生体から発する生体磁場の前記生体の面に平行な第1、第2方向の磁場成分の時間変化を計測する第1の工程と、前記第1、第2方向の磁場成分の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める第2の工程と、該第2の工程で得る前記値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める第3の工程と、該第3の工程の工程で得る前記積分値を表示する第4の工程とを有することを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項3】請求項1又は2に記載の生体磁場計測方法に於いて、前記積分値を用いて、前記第4の工程で等積分値を結ぶ等積分図を表示することを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項4】請求項1又は2に記載の生体磁場計測方法に於いて、前記第3の工程に於いて、前記第2の工程で得る前記値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求めることを、複数の前記所定の期間で行ない前記積分値を複数個求め、該複数個の前記積分値の間での、比、等加重を含む和または差の何れかを求める演算を行なうことを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項5】生体の外部に配置される量子干渉素子(SQUID)からなる複数の磁束計を用いて、前記生体から発する生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分を計測する第1の工程と、前記第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根に比例する値を求める第2の工程と、該第2の工程の工程で得る前記値を表示する第3の工程とを有することを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項6】生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分の時間変化を検出する複数の磁束計と、前記第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める演算と、前記値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める演算とを行なう演算処理手段と、前記積分値を表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項7】生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場の前記生体の面に平行な第1、第2方向の磁場成分の時間変化を検出する複数の磁束計と、前記第1、第2方向の磁場成分の2乗和の平方根に比例する値の時間変化を求める演算と、前記値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める演算とを行なう演算処理手段と、前記積分値を表示する表示手段とを、有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項8】請求項6又は7に記載の生体磁場計測装置に於いて、前記表示手段に、前記積分値の等しい点を結ぶ等積分図が表示されることを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項9】請求項6又は7に記載の生体磁場計測装置に於いて、前記演算処理手段は、前記積分値を求める演算を、複数の前記所定の期間で行ない前記積分値を複数個求め、該複数個の前記積分値の間での、比、等加重を含む和または差の何れかを求める演算を行なうことを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項10】請求項6又は7に記載の生体磁場計測装置に於いて、前記複数の磁束計が、前記生体の外部面に等間隔に配置されることを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項11】生体表面に平行な面を直交座標のx、y平面、前記生体表面に垂直な方向を前記直交座標のz軸とし、前記生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体表面に垂直な磁場成分Bz(x、y)を検出する複数の磁束計と、前記磁場成分Bz(x、y)のx方向及びy方向での変化率の2乗和の平方根に比例する値を求める演算処理手段と、前記値の等しい点を結ぶ等磁場強度曲線を表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項12】請求項11に記載の生体磁場計測装置に於いて、前記演算処理手段は、前記生体内の磁場源の位置、強度を推定する逆問題を解く演算に於いて、前記等磁場強度曲線のピークの数及び前記ピークの位置データを、上記逆問題を解くための前記磁場源の個数、及び前記磁場源の位置の初期値とすることを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項13】生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分を検出する複数の磁束計と、前記第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根に比例する値を求める演算を行なう演算処理手段と、前記値を表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項14】生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分を検出する複数の磁束計と、前記第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根を求める演算を行なう演算処理手段と、前記平方根の値を表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項15】生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分を検出する複数の磁束計と、前記第1方向と交叉する第2方向及び第3方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率の2乗和の平方根を求める演算を行なう演算処理手段と、前記平方根に比例する値を表示して、前記生体の心臓の心室が脱分極した時間帯と前記心室の再分極過程の時間帯に於ける前記生体磁場の強度分布を画像化して表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項16】生体の外部に配置される量子干渉素子(SQUID)からなる複数の磁束計を用いて、前記生体から発する生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分を計測する第1の工程と、前記生体磁場の前記第1方向と直交する第2方向の磁場成分を、前記第2方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率から求める第2の工程と、前記生体から発する磁場の前記第1及び第2の方向と直交する第3方向の磁場成分を、前記第3方向に於ける前記第1方向の磁場成分の変化率から求める第3の工程と、前記第2及び第3方向に於ける前記磁場成分の2乗和の平方根に比例する値を求める第4の工程とを有することを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項17】請求項16に記載の生体磁場計測方法に於いて、前記第4の工程で得る前記値の時間変化を所定の期間で積分し積分値を求める第5の工程と、該第5の工程の工程で得る前記積分値を表示する第4の工程とを有することを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項18】生体の外部に配置される量子干渉素子(SQUID)からなる複数の磁束計を用いて、前記生体から発する生体磁場の前記生体の面に垂直な法線成分を計測する第1の工程と、前記法線成分から2つの法線成分を推定し該2つの法線成分の2乗和の平方根を求める第2の工程と、前記2乗和の平方根に比例する値を所定の時間帯にわたり積分し積分値を求めるする第3の工程と、前記積分値の位置分布を表示する第4の工程とを有することを特徴とする生体磁場計測方法。
【請求項19】前記生体表面に平行な面を直交座標のx、y平面、前記生体表面に垂直な方向を直交座標のz軸とし、前記生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場のz方向成分Bz(x、y)を検出する複数の磁束計と、前記z方向成分Bz(x、y)から、Bxy={(∂Bz(x、y)/∂x)2+(∂Bz(x、y)/∂y)2}
の平方根に比例する値を求める演算処理手段と、前記値の等しい点を結ぶ等磁場強度曲線を表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項20】前記生体表面に平行な面を直交座標のx、y平面、前記生体表面に垂直な方向を直交座標のz軸とし、前記生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場のz方向成分Bz(x、y)を検出する複数の磁束計と、前記z方向成分Bz(x、y)から、Bxy={(∂Bz(x、y)/∂x)2+(∂Bz(x、y)/∂y)2}
の平方根に比例する値を求める演算処理手段と、前記平方根に比例する値を表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項21】請求項20に記載の生体磁場計測装置に於いて、前記表示手段に、前記生体の心臓の心室が脱分極した時間帯と前記心室の再分極過程の時間帯に於ける前記生体磁場の強度分布を画像化して表示することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項22】生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場の前記生体の面に垂直な法線成分を検出する複数の磁束計と、前記生体磁場の分布を表示する表示手段と、を具備する生体磁場計測装置において、前記表示手段は、前記法線成分から推定された2つの接線成分から求められた前記生体磁場の分布を表示することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項23】請求項22に記載の生体磁場計測装置に於いて、前記表示手段は、前記生体の心臓から発する生体磁場の分布を表示することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項24】生体の外部に配置され、前記生体から発する生体磁場を検出する量子干渉素子(SQUID)からなり、前記生体磁場の前記生体の面に垂直な第1方向の磁場成分を検出する複数の磁束計と、前記第1方向の磁場成分から前記第1方向と交叉する第2方向及び第3方向の前記前記生体磁場の磁場成分を求める演算処理手段と、前記生体の心磁図のQRS波の出現する時間帯と前記心磁図のT波の出現する時間帯に於ける前記生体磁場の分布を表示する表示手段とを有することを特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項25】請求項24に記載の生体磁場計測装置に於いて、前記表示手段は、前記心磁図のQRS波の出現する時間帯と前記心磁図のT波の出現する時間帯に於ける前記生体磁場の差の分布を表示することを特徴とする生体磁場計測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図7】
【図8】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図6】
【図11】
【図12】
【図13】
【図28】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図24】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図29】
【図27】
【図2】
【図3】
【図7】
【図8】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図6】
【図11】
【図12】
【図13】
【図28】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図24】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図25】
【図26】
【図29】
【図27】
【公開番号】特開平10−305019
【公開日】平成10年(1998)11月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−51798
【出願日】平成10年(1998)3月4日
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【公開日】平成10年(1998)11月17日
【国際特許分類】
【出願日】平成10年(1998)3月4日
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
[ Back to top ]