説明

生体磁気計測装置の真空断熱容器

【課題】熱シールド材から発生する磁気雑音および/または熱シールド材を媒体にした磁気雑音の信号系への混入を大幅に抑制して低雑音化を図り、かつ、検出コイルによる生体磁気の検出感度も向上させる。
【解決手段】有底状の外容器21および内容器22を備え、この両容器間に真空断熱層ALを形成し、この真空断熱層内に熱シールド材31を配置し、かつ、内容器22に極低温溶液を入れるようにした生体磁気計測装置の真空断熱容器11である。内容器22の底部に外容器21の内側底面に向けて有底筒状の凸体22Sを一体に設け、この凸体22SにSQUIDチップ25および検出コイル26を設ける。熱シールド材31に凸体22Sに適合した穴31aを穿設し、この穴31aを通して凸体22Sが熱シールド材31から突出するように、熱シールド材31を配置する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、超伝導量子干渉素子(Superconducting QUantum InterferenceDevice ; SQUID)を利用して生体の微弱な磁気(磁場、磁界)を計測する生体磁気計測装置の真空断熱容器に関する。
【0002】
【従来の技術】SQUIDを用いた超伝導システムとして、生体磁気計測装置の研究開発が盛んに行われている。この生体磁気計測装置は、例えば人体の脳から発生する微弱な脳磁界や、心臓から発生する微弱な心磁界を計測する装置である。この計測装置は、近年富に、検出磁界に基づき機能診断を行うことができるモダリティとして注目されている。
【0003】生体磁気計測装置は、通常、生体が発生した微弱な磁気を検出コイル(ピックアップコイルともいう)で検知し、この検知磁気をSQUIDと呼ばれる超伝導リングに導くように形成した磁気検出部を備えている。SQUIDには、感度も良く、雑音もあまり発生しない点でdc型のSQUIDが好んで使用される。また、現在では、SQUIDの多チャンネル化が進んでいる。
【0004】磁気検出部は、検出チャンネル毎に、検出コイルとSQUID部とを備える。検出コイルは超伝導コイルで形成される。SQUID部は、超伝導リング(SQUID)とフィードバックコイルとを備える。dc型SQUIDの場合、超伝導リング(SQUID)のジャンクション接合部には超伝導状態が保持できなくなる程度の直流バイアス電流が流される。この状態で、ピックアップコイルが生体から検知した磁界を超伝導リングに導くと、ジャンクション接合部には検知磁界に対して周期的に変化する電圧が発生する。ジャンクション接合部には駆動回路が接続されている。駆動回路は、かかる電圧変化を打ち消すような磁束をフィードバックコイルから超伝導リングに与える。そこで、駆動回路はフィードバックコイルに流す電流に比例した電圧を読み出し、これを生体磁気に比例した電圧信号として出力する。
【0005】このように動作させる磁気検出部(磁気センサ)は、液体ヘリウムなどの極低温溶液により極低温に冷却させる必要がある。この冷却を行うため、通常、真空断熱容器(デュア)が利用される。真空断熱容器には、極低温溶液が入れられるとともに磁気検出部が収納され、これにより上記冷却が行われる。
【0006】この真空断熱容器の一例を図7に示す。同図に示す如く、真空断熱容器99は、FRP(強化プラスチック)製の外容器101と同じくFRP製の内容器102との2重構造になっている。内容器102には極低温溶液104が入れられる。外容器101と内容器102との間は真空層VCに形成され、これにより熱絶縁構造(真空断熱構造)がなっている。各検出チャンネルの磁気センサ106を成す、検出コイル107とSQUID部108を巻装、装着したボビンが内容器の液体ヘリウムに浸す状態でその底面102Bに配置される。
【0007】真空層VC内には、アルミニウム製の熱シールド材103が内容器全体を包み込むように配設される。この熱シールド材103は、内容器内の極低温溶液の蒸発量を極力押さえる機能を担っている。すなわち、内容器の口部102Mから外部に逃げる極低温溶液の蒸発ガスの熱量は内容器口部102Mに接した熱シールド材103に伝達し、その熱シールド材103が冷却されるから、内容器102の内部の温度上昇が抑えられる。図7において、Pは被検体を示す。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した従来の真空断熱容器にあっては、熱シールド材の配置状況に起因した以下のような問題があった。
【0009】従来の真空断熱容器の場合、熱シールド材が内容器全体を包み込むように配置されているため、内容器の外側底面部分を覆う熱シールド材部分が、内容器の内部底面に配設されている検出コイルに著しく接近し、しかも、検出コイルの真下を通過している。このため、熱シールド材中の電子の熱的ゆらぎに因って発生する磁気雑音(熱磁気雑音)が、接近配置されている検出コイルからノイズとして信号中に混入し、この結果、生体磁気計測の磁場分解能を低下させるという問題があった。この磁場分解能の低下の問題は、とくに5fT/Hz1/2 以上の高精度な磁場分解能を必要とするときに大きく影響するものであった。
【0010】磁場分解能の低下のもう1つの要因として、放射ノイズ(電磁波)と熱シールド材との磁気的結合の問題が挙げられる。放射ノイズが熱シールド材に照射されると、熱シールド材上に渦電流が誘起される。従来の真空断熱容器の場合、熱シールド材と検出コイルとは互いに非常に近い位置にあることから、この渦電流に因り発生する磁気雑音も検出コイルに検出されてしまう。したがって、放射ノイズに起因した磁気雑音もまた、生体磁気計測における磁場分解能を低下させるという問題が指摘されていた。
【0011】さらに、真空層内において熱シールド材が内容器の外側底面下を通過するシールド材配置構造であるから、熱シールド材の厚さ分だけ、真空層の底面側の厚さも増やさなければならない。これは取りも直さず、検出コイルと生体表面との間の距離が大きくなることに直結するから、検出コイルの生体磁気に対する検出感度を低下させるという問題もあった。
【0012】本発明は、このような従来の真空断熱容器が有する磁場分解能の低下の問題を改善するためになされたものであり、熱シールド材自体から発生する磁気雑音および/または熱シールド材を媒体にした磁気雑音の信号系への混入を大幅に抑制して低雑音化を図り、かつ、検出コイルによる生体磁気の検出感度も向上させることを、その目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成させるため、本発明によれば、有底状の外容器および当該外容器の内側に配置する有底状の内容器を備え、この両容器間に真空断熱層を形成し、この真空断熱層内に熱シールド材を配置し、かつ、前記内容器に極低温溶液を入れるようにした生体磁気計測装置の真空断熱容器において、前記内容器の底部に前記外容器の内側底面に向けて凸体を設け、この凸体に少なくともSQUIDセンサの検出コイルを設ける一方、前記熱シールド材に前記凸体に適合した穴を穿設し、この穴を通して前記凸体が前記熱シールド材から突出するように当該熱シールド材を配置したことを特徴とする。
【0014】好適な一例として、前記凸体は、前記内容器の底部と一体に形成されている。この場合、前記凸体は、例えば、前記内容器の内部空間に連通し且つ前記真空断熱層とは非連通状態の中空部を有する。このため、この中空ぶには内容器の極低温溶液が入り、保持される。この極低温溶液の熱伝導によってSQUIDセンサが極低温に冷却され、超伝導動作が可能になる。また、前記凸体は、前記中空部を有する円筒状または前記中空部を有し且つ断面多角形の筒状にできる。さらに、SQUIDセンサのリード線は凸体の中空部を介して引き出すことができる。
【0015】また好適な別の例として、前記凸体には、前記SQUIDセンサの検出コイルおよびSQUIDチップを取り付けることができる。
【0016】さらに好適な別の例として、前記熱シールド材の穴の縁部は前記凸体の外側面周囲に押圧接触させていることである。
【0017】さらに好適には、前記凸体を、検出チャンネル数に応じた複数個設ける。
【0018】さらに好適には、前記内容器は、前記凸体を含む下側内容器とその残りの上側内容器とに分割され、且つ、その両方容器を気密性を保持して着脱可能に結合する手段を備えることである。このとき、前記外容器は、その高さ方向の適宜な位置で上側外容器および下側外容器に分割され、且つ、その両方容器を気密性を保持して着脱可能に結合する手段を備えていることが好ましい。
【0019】さらに別の好適な例は、前記凸体を前記内容器とは別体で形成し、この凸体を前記内容器の底面に気密に且つ着脱可能に結合する手段を備えることである。
【0020】このように熱シールド材の穴から突出した凸体をボビンとして、これに検出コイルが設けられているため、両者間の物理的距離が大きくなり、熱シールド材の磁気雑音の影響が減少し、磁場分解能が向上する。また、熱シールド材に凸体突出の穴を設けている分、これによっても、検出コイルを貫く熱シールド材の磁気雑音が減少する。一方、検出コイルを従来構造よりも生体に接近させることができ、生体磁気の検出感度も良くなる。
【0021】
【発明の実施の形態】以下、本発明の1つの実施の形態を図1〜図2を参照して説明する。
【0022】最初に、生体磁気計測装置の全体構成を説明し、次いで、本発明の要旨に関わる当該装置の真空断熱容器(デュワ)の構造を説明する。
【0023】図1に、本発明に係る生体磁気計測装置としての多チャンネル型dc−SQUID磁束計の全体構成を概略的に示す。この磁束計は、検出コイルアレイ、SQUID部などのセンサ回路を収納した真空断熱容器11と、この容器内のセンサ回路を駆動するとともに当該センサ回路の検出信号を処理する駆動処理回路部12とを備える。
【0024】真空断熱容器11は、外側に位置する外容器21と、この外容器の内側に同心状に配置された内容器22と、両方の容器を密閉する蓋体23とを備える。外容器21および内容器22は例えばGFRP,CFRPなどのFRP(強化プラスチック)を主材料として形成されている。内容器22は外容器21よりも小径でかつ浅く形成されており、両容器間の隙間は真空断熱層ALになっている。内容器22には液体ヘリウムなどの極低温溶液LQが充填される。内容器22の内側上方には断熱材Dが置かれている。
【0025】さらに、内容器22の底部22Bには、当該底部と一体に、円筒状で有底状の凸体22S,…,22Sが内容器側から外容器側に向けて突出形成されている。この凸体22S,…,22Sは所望の検出チャンネル数分だけ一体形成されており、各凸体22Sの長さはその先端が外容器21の内側底面に十分に接近するように設定されている。凸体22S,…,22Sそれぞれの内側の中空部CKは内容器22のそれと連通しているので、内容器22に入れた極低温溶液は各凸体22Sの中空部CKにも良好に入り込み、各凸体22S(壁体)を直接にかつ確実に冷却することができる。この凸体冷却を一層確実にするため、とくに、凸体の材質には熱伝導度の高いものを選択することが望ましい。
【0026】なお、この例では凸体を円筒状としているが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、四角柱状など、多角形柱状に形成してもよい。また、凸体22Sは、例えば図1に示すように、外容器21の平坦な底面21B(コイル配置面を成す)にその突出方向がほぼ垂直になるように突出形成することもできるが、必ずしもこれに限定されない。例えば脳磁場計測用の装置の場合、外容器の底面を頭部に概略合わせて湾曲形成してあるので、この湾曲面に対して所定の各検出位置で突出方向が垂直となるように、凸体22S,…,22Sを内容器底面から突出させてもよい。
【0027】各凸体22Sは、検出コイル巻装用のボビンとSQUID部の実装用の基体とを兼ねるものである。具体的には、各筒体22Sの上部側面にはSQUIDチップ25が装着され、このSQUIDチップ25に磁気的に結合する検出コイル26がその筒体の下側に巻装されている。SQUIDチップ25は、ジョセフソン接合を2個有する超伝導リング(SQUID)ほか、このリングに磁気結合するインプットコイル、フィードバックコイルを一体に形成し(図示せず)、このSQUID回路から出力端子、直流バイアス供給端子、およびフィードバック回路端子(図示せず)を取り出したチップであり、極低温で超伝導状態となるものである。インプットコイルは検出コイルに接続される。検出コイル26はNbTiなどの部材から成る超伝導コイルであり、マグネットメータ型、1次微分型、2次微分型など種々のタイプに巻装されている。
【0028】なお、検出コイルには上述した巻装型のコイルのみならず、種々の方法で形成することができる。例えば、検出コイルとして、スパッタリング、塗装、多層基板化などによる一体型の平面コイルを使用することもできる。さらに、この検出コイルは、各凸体22Sに穿設した溝に超伝導線を直接巻装することで形成してもよいし、各凸体22Sに超伝導体を成膜し、この超伝導体膜をエッチング法などの手法によりパターニングすることで形成してもよい。また、フレキシブル基板などの基材にパターニングされた検出コイルを、各凸体22Sに巻き付けることもできる。
【0029】SQUIDチップ25,…,25の端子に接続した超伝導または常伝導のリード線LR,…,LRは、そのまま各凸体22Sの壁に形成した穴hを通して凸体内部に導かれる。この穴hはリード線LRを通した後、接着剤でモールドされ、その内外が互いに気密に保持される。凸体22S,…,22Sの内部に引き出されたリード線LR,…,LRは超伝導コネクタ27に接続される。この超伝導コネクタ27は、このコネクタと対を成す超伝導コネクタ28に接続される。このコネクタ28のリード線は支持体29の内部を案内されて容器外に引き出される。引き出されたリード線は、各検出チャンネル毎に、駆動処理回路部12の後述する駆動回路に電気的に接続される。
【0030】さらに、外容器21と内容器22との間に真空断熱層ALには、内容器22内の液体ヘリウムなどの極低温溶液の蒸発量を低減させるために、熱シールド材31が配設される。この熱シールド材31は、ポリエステル膜などの薄膜にアルミニウムを蒸着したスーパーインシュレーション材が用いられる。このインシュレーション材は柔軟材と重ね合わせながら、例えば20枚程度が積層され、放置状態で5mm程度の厚さに形成される。
【0031】熱シールド材31は内容器21の外側を全体的に覆うように上部の支持体32に支持・配置されている。ただし、熱シールド材31の前述した複数の凸体22S,…,22Sに当たる部分に、凸体の横断面形状にフィットさせた孔31a,…,31aが穿設されている。このため、凸体22S,…,22Sは熱シールド材31の孔31a,…,31aから底面側に突出した状態になる。各孔31aの大きさは、そのトリミング部分が凸体22Sの外周面に適度に押圧・接触するようになっている。支持体32は好ましくは断熱材で成る。
【0032】とくに好ましくは、孔31aと凸体22Sとの接触部分を断熱構造にすることである。なお、孔31aの形状は凸体22Sの横断面形状に合わせた、円形、楕円形、四角形などの多角形といった任意のものでよい。
【0033】この駆動処理回路部12は、検出チャンネル毎に設けられる駆動回路341 ,…,34n およびA/D変換器351 ,…,35n を備えるとともに、磁場源解析/推定などのデータ処理を所望のアルゴリズム(例えば、リードフィールド行列法、準ニュートン法、共役勾配法など)で実施するデータ処理器36を備える。駆動回路341 ,…,34n のそれぞれは、SQUIDチップ25の超伝導リングの直流バイアス電流を供給するとともに、例えば、この超伝導リングのジョセフソン接合の電圧が変化しないように磁束フィードバックを掛ける、いわゆるFLL(flux locked loop)操作を行う。このときのフィードバック信号が被検体の計測磁場の強度に対応した信号となるので、駆動回路341 ,…,34n はこのフィードバック信号を検出電圧信号として検出チャンネル毎に後段のA/D変換器351 ,…,35n に出力する。検出信号はA/D変換器351 ,…,35n によりデジタル信号に変換され、データ処理器36のコンピュータ36Aに送出される。そして、コンピュータ36Aにより、磁場源(電流源)の空間的位置(分布)、大きさ、向きなどの推定解析が実行される。
【0034】次に、この実施形態の作用効果を説明する。
【0035】上述の配置構成によれば、各検出位置における磁気センサとしての検出コイル26およびSQUIDチップ25が、ボビンおよび支持体兼用の凸体22Sに巻装および実装される。また、内容器22内の極低温溶液は各凸体22Sの中空部CKにも入り込んでいるため、この溶液の熱が各凸体22Sの壁を伝わる熱伝導によって確実に冷却される。この伝導熱はさらにSQUIDチップ25および検出コイル26に伝わるから、SQUIDチップ25および検出コイル26も確実に超伝導状態を得ることができ、生体からの磁気を良好に検知できる。この検知情報は電圧信号としてSQUIDから取り出され、前述したようにデータ処理器36にて磁場源の推定解析に付される。
【0036】この実施形態においては、上述のように、検出コイル26およびSQUIDチップ25が内容器22から突出させた凸体22Sに巻装および実装され、しかも、熱シールド材31は凸体22S,…,22Sを外し、内容器22のみ全体を覆うように配設している。このため、各検出位置において、従来装置に比べ、検出コイル25は熱シールド材31から遠くなっている。同時、検出コイル26が外容器21の底面21Sに近接(すなわち、検出コイル26が従来装置よりも生体に近接)している。
【0037】したがって、検出コイル25が熱シールド材31から距離的に遠くなる分、熱シールド材からの電子の熱的揺らぎに因って発生する磁気雑音(熱磁気雑音)が検出コイルに到達しなくなり、検出コイルを介する磁気雑音の混入が減少して低雑音化が図られる。これにより、磁場分解能が従来よりも著しく向上し、とくに、5fT/Hz1/2 以上の磁場分解能が要求される場合にも耐えることができる。さらに、放射ノイズ(電磁波)によって熱シールド材上に誘起される渦電流に起因した磁気雑音も、かかる遠距離化によって減少する。これにより磁場分解能は一層向上する。さらに、熱シールド材31に穴31a,…,31aが穿設されている分、熱シールド材自体からの磁気雑音が減少するという利点もある。
【0038】また同時に、従来よりも検出コイル26が生体表面に近接する分、生体磁場の検出感度が向上する。
【0039】このように本実施形態の生体磁気計測装置によれば、内容器の底面構造を一部変更し、この変更に合わせて熱シールド材の配置するだけの比較的簡単な構造の真空断熱容器を採用することにより、磁場分解能の向上と検出感度の向上とを両立させることができる。
【0040】なお、上述の図1、2の真空断熱容器11の構成において、内容器22内の断熱材Dは配置しなくてもよい。また、各SQUIDチップ25からのリード線LRの組は、コネクタ27、28に依らずに、それぞれを直接に容器外に取り出す構造にしてもよい。
【0041】さらに、SQUIDチップ25とリード線LRとを、凸体22Sの外側において着脱自在に構成することができる。これには、リード線LRを凸体22Sの中空部DKから気密に外側に引き出し、着脱自在な結合手段、例えば超伝導コネクタを介してSQUIDチップ25に接続してもよい。とくに、リード線LRを超伝導ピンに接続し、SQUIDチップ25に超伝導ソケットを装着して、その超伝導ピンを超伝導ソケットに着脱自在に差し込む接続構造にしてもよい。また、そのようなコネクタを凸体22Sの壁部分を貫通した状態で凸体に取り付け、このコネクタを介してSQUIDチップ端子(またはリード線)と凸体内部側のリード線とを相互に接続してもよい。
【0042】さらに、上述した構成ではリード線(出力線)LRを内容器内部側から駆動回路に接続する構成にしたが、このリード線は真空断熱層ALを通して駆動回路に接続するようにしてもよい。
【0043】真空断熱容器のその他の実施形態本発明に係る生体磁気計測装置の真空断熱容器のその他の実施形態を図3〜図5に基づき説明する。これらの実施形態において、上述と同一または同等の構成要素には同一符号を用いて、その説明を省略または簡略化する。
【0044】図3に、真空断熱容器のその他の実施形態の第1の例を示す。この容器11は凸体22S,…,22Sをボビン専用に用いたものである。つまり、凸体22S,…,22Sのそれぞれには検出コイル26のみを装備している。各検出コイル26のリード線は凸体22Sの壁部の穴h(気密にモールド)から内部に引き入れられ、支持棒29(…,29)に取り付けたSQUIDチップ25に接続されている。このSQUIDチップ25の端子からは個別にリード線が引き出される。熱シールド材31の配置構成は前述の実施形態のものと同一である。このため、前述の実施形態のものと同等な作用効果を得ることができるほか、各凸体22Sには検出コイルのみを装備するだけで済むから、各凸体の周辺のスペースに余裕ができ、多チャンネル化に適している。
【0045】図4および図5に第2の例を示す。この例に係る真空断熱容器はその上部と下部とを着脱可能に構成したものである。まず、この真空断熱容器11の外容器は上側外容器21Uと下側外容器21Lとの分割構造で、その両者をフランジ構造の結合部42によって着脱可能に構成している。この結合部42は円環状を成し、外容器の全周にわたって両者をネジ結合している。結合部42は、気密性を保持するゴムやインジウムなどのOリング43を使った密閉構造になっている。
【0046】これに対抗して、内容器も上側内容器22Uと下側内容器22Lとから成る分割構造であり、この両者がフランジ構造の結合部45によって着脱可能になっている。この結合部45は内容器の底面と側面とを分ける位置に形成されている。このため、下側内容器22Lは、内容器底面と、前述したと同様の複数の凸体22S,…,22Sとから成る。結合部45は円環状を成し、内容器の全周にわたって両者を結合している。結合部45は、気密性を保持するゴムやインジウムなどのOリング46を使った密閉構造になっている。
【0047】下側内容器22Lの凸体22S,…,22S、SQUIDチップ25および検出コイル26のSQUID回路、および熱シールド材31は前述した図1、2と同一に構成されている。
【0048】このため、本第2の例に係る真空断熱容器によっても、前述した実施形態のものと同一または同等の作用効果を得ることができる。加えて、内容器および外容器を内容器の底面部分の位置で共に上下に分割可能な構造にしたため、製造、組立て、保守や点検などが容易になるという利点がある。とくに、検出コイルおよびSQUIDチップを設ける凸体22S,…,22S全体を取り外すことができるので、かかる保守点検の容易化が一層促進される。
【0049】図6に第3の例を示す。この例の真空断熱容器は、内容器の底部の各凸体22Sのみを着脱自在な構造にしたものである。この場合も、凸体22Sの開口側の端部にフランジ22Saを取り付け、このフランジ22Saを介して凸体22Sを内容器22の底面22Bにネジ止めしている。Oリング48がフランジ部の気密性保持のために使用されている。これにより、検出コイル部分の製造、組立て、保守点検などが便宜に供することができる。
【0050】なお、この第3の例を構造的に発展させた例として、とくに図示しないが、次のようなものもある。つまり、複数個の凸体を内容器底部に上述の各種の構成の如く設ける場合、2個以上の凸体を1つのブロックとして、ブロック単位で凸体部分を一体に着脱自在な構成にすることができる。
【0051】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る生体磁気計測装置の真空断熱容器は、内容器の底部に外容器の内側底面に向けて凸体を設け、この凸体に少なくともSQUIDセンサの検出コイルを設ける一方、熱シールド材に凸体に適合した穴を穿設し、この穴を通して凸体が熱シールド材から突出するように当該熱シールド材を配置したので、熱シールド材から発生する磁気雑音、および/または、熱シールド材を媒体にした磁気雑音の信号系への混入を大幅に抑制して低雑音で、かつ、検出コイルによる生体磁気の検出感度も向上させることができ、信頼性の高い安定した生体磁気計測装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体磁気計測装置をその真空断熱容器の概略断面構造とともに示す構成図。
【図2】図1中のII−II線に沿ってみた概略断面図。
【図3】別の実施形態に係る真空断熱容器の一部を示す概略断面図。
【図4】さらに別の実施形態に係る真空断熱容器の一部を示す概略断面図。
【図5】図4中のV−V線に沿ってみた概略断面図。
【図6】さらに別の実施形態に係る真空断熱容器の一部を示す概略断面図。
【図7】従来の真空断熱容器の一例を示す概略断面図。
【符号の説明】
11 真空断熱容器(デュア)
12 駆動処理回路部
21 外容器
21U 上側外容器
21L 下側外容器
22 内容器
22S 凸体
22U 上側内容器
22L 下側内容器
22Sa フランジ部
25 SQUIDチップ
26 検出コイル
31 熱シールド材
31a 孔
42 結合部
45 結合部
LR リード線
h 穴
AL 真空断熱層
CK 中空部
LQ 極低温溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】 有底状の外容器および当該外容器の内側に配置する有底状の内容器を備え、この両容器間に真空断熱層を形成し、この真空断熱層内に熱シールド材を配置し、かつ、前記内容器に極低温溶液を入れるようにした生体磁気計測装置の真空断熱容器において、前記内容器の底部に前記外容器の内側底面に向けて凸体を設け、この凸体に少なくともSQUIDセンサの検出コイルを設ける一方、前記熱シールド材に前記凸体に適合した穴を穿設し、この穴を通して前記凸体が前記熱シールド材から突出するように当該熱シールド材を配置したことを特徴とする生体磁気計測装置の真空断熱容器。
【請求項2】 請求項1記載の発明において、前記凸体は、前記内容器の底部と一体に形成されている生体磁気計測装置の真空断熱容器。
【請求項3】 請求項2記載の発明において、前記凸体は、前記内容器の内部空間に連通し且つ前記真空断熱層とは非連通状態の中空部を有する生体磁気計測装置の真空断熱容器。
【請求項4】 請求項3記載の発明において、前記凸体は、前記中空部を有する円筒状または前記中空部を有し且つ断面多角形の筒状である生体磁気計測装置の真空断熱容器。
【請求項5】 請求項3記載の発明において、前記SQUIDセンサのリード線は、前記凸体の中空部を介して引き出されている生体磁気計測装置の真空断熱容器。
【請求項6】 請求項1記載の発明において、前記凸体には、前記SQUIDセンサの検出コイルおよびSQUIDチップが取り付けられている生体磁気計測装置の真空断熱容器。
【請求項7】 請求項1記載の発明において、前記熱シールド材の穴の縁部は、前記凸体の外側面周囲に押圧接触している生体磁気計測装置の真空断熱容器。
【請求項8】 請求項1記載の発明において、前記凸体は、検出チャンネル数に応じた複数個設けられている生体磁気計測装置の真空断熱容器。
【請求項9】 請求項1記載の発明において、前記内容器は、前記凸体を含む下側内容器とその残りの上側内容器とに分割され、且つ、その両方容器を気密性を保持して着脱可能に結合する手段を備えている生体磁気計測装置の真空断熱容器。
【請求項10】 請求項9記載の発明において、前記外容器は、その高さ方向の適宜な位置で上側外容器および下側外容器に分割され、且つ、その両方容器を気密性を保持して着脱可能に結合する手段を備えている生体磁気計測装置の真空断熱容器。
【請求項11】 請求項1記載の発明において、前記凸体を前記内容器とは別体で形成し、この凸体を前記内容器の底面に気密に且つ着脱可能に結合する手段を備えている生体磁気計測装置の真空断熱容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【図7】
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