説明

生体細胞の培養制御方法及び培養装置の制御装置並びに培養装置

【課題】生体細胞の培養に適切な培養環境で必要に応じて運転状態目標値を適切に変更することにある。
【解決手段】培養装置により生体細胞を培養する生体細胞の培養制御で、前記培養装置の運転状態を計測した計測値が予め設定された目標値に一致するよう制御を行い、前記計測値と前記培養装置から採取した培養液試料を分析して得た分析値とに基づき該目標値を変更することを特徴とする。
【効果】適切な培養環境で、必要に応じて運転状態目標値を適切に変更できる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、生体細胞の培養制御方法及び培養装置の制御装置並びに培養装置に関する。
【0002】
【従来の技術】生体の細胞を培養する場合においては、培養環境、すなわち培養槽内を培養に最適な条件に維持することが求められる。このため、溶存酸素濃度,pH,温度,撹拌速度、等を至適条件に維持することが行われている。
【0003】溶存酸素濃度を制御する方法として、特公昭60−18390号公報(特許第1552563号)がある。これは溶存酸素濃度を測定するセンサーを培養槽に設置して、その指示値に合わせて培養槽の運転条件を制御する方法である。
【0004】また、pHを制御する方法として、特開昭58−81781号公報がある。これは培養槽気相部の炭酸ガス濃度を変化させることにより培養液のpHを調節する方法である。
【0005】また、撹拌速度を制御する方法として、特開平5−30962号公報がある。これは培養槽内に培養液の粘度を測定するセンサーを設け、その指示値と回転速度から剪断応力を算出し生体の細胞を破壊するに至らない剪断応力の範囲で撹拌速度を調節する方法である。
【0006】これらの従来の手法は、予め設定した目標値を満足するよう制御するものであり、培養状況に対応して制御するものではなかった。
【0007】培養状況の異常を判定する方法として、特開平5−240673号公報がある。これは培養槽に設けた検出手段の指示値の標準値に対する相対偏位量を算出し、ファジー推論演算によって培養の正常度・異常度を計算して判定する方法である。
【0008】このような従来の手法では、予め入力した正常な培養状態での標準値をもとに培養の異常の有無を判定するものであり、刻々と変化する培養状況に的確に対応して判断を行うものではない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】培養状況は刻々と変化し、培養初期の生体細胞の濃度が低い状況では良好に制御されていたものが、培養によって生体細胞の濃度が高まることによって目標とする培養環境を維持できない状況の発生もありうる。通常の培養装置では計測手段を多数設置することはまれであり、培養槽内に不適切な培養環境が存在していたとしてもこれを検出することができない。また、培養の進行に伴って制御目標値の変更が必須な培養もある。
【0010】本発明の目的は、生体細胞の培養に適切な培養環境が確実に維持できていることを検証しつつ培養を行い、必要に応じて目標値の変更を適切に実施することができる生体細胞の培養制御方法及び培養装置の制御装置並びに培養装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は、培養装置により生体細胞を培養する生体細胞の培養制御で、前記培養装置の運転状態を計測した計測値が予め設定された目標値に一致するよう制御を行い、前記計測値と前記培養装置から採取した培養液試料を分析して得た分析値とに基づき該目標値を変更することを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を図面を用いて以下詳細に説明する。図1は、生体の細胞を培養する培養装置の制御方法を示すブロック図である。
【0013】本発明の実施の形態による制御方法は、培養装置により生体細胞を培養する生体細胞の培養制御で、前記培養装置の運転状態を計測した計測値が予め設定された目標値に一致するよう制御を行い、前記計測値と前記培養装置から採取した培養液試料を分析して得た分析値とに基づき該目標値を変更するものである。
【0014】個別制御手段22は、予め設定された目標値と培養槽に設けた計測手段6より得られる計測値を比較して動作信号を操作手段28に伝達して操作量を変更することにより、制御目標値にそれぞれの計測値が収束するよう自律的に制御動作を実行する第1のステップの制御を行う。
【0015】個別制御手段22としては特に限定するものではなく、pH,溶存酸素濃度および温度等を制御量とするものが用いられる。なお、培養する生体の細胞が動物細胞である場合、制御量がpHである個別制御手段22の操作手段は炭酸ガス供給弁およびポンプであり、それぞれ操作量は炭酸ガス供給量およびアルカリ注入量である。制御量が溶存酸素濃度である個別制御手段22の操作手段は酸素供給弁および窒素供給弁であり、それぞれの操作因子は酸素供給量および窒素供給量である。制御量が温度である個別制御手段22の操作手段は加温用ヒーター電流調節器または蒸気供給弁、および冷却水供給弁であり、操作因子はヒーターへの供給電力量または蒸気供給量、および冷却水供給量を操作量とする。個別制御手段22については特に限定するものではなく、比例制御法,PID制御法等の公知のフィードバック制御手法を用いれば良い。なお、それぞれの制御目標値の設定・変更がコンピュータ23によって行えることが好ましい。
【0016】コンピュータ23は、計測手段6からの計測値と入力手段27から入力される分析値とを用いて前記目標値の妥当性を検証し、記憶手段24に格納された前回の検証過程と結果および過去の培養データと比較し、前記目標値の妥当性を検証して表示手段25に表示するとともに、必要な場合には該目標値を変更し、および必要な場合には警報手段26によって異常警報を出力する第2ステップの制御を行う。コンピュータ23は下記■〜■の動作を実行する。
【0017】■計測手段6からの計測値と入力手段27から入力される分析値とを用いて演算を行い、培養評価因子の算出と数時間〜数日後の予測値を算出する。
【0018】■計測手段6からの計測値と入力手段27から入力される分析値とが現状の培養状況において妥当な数値であるかどうか、および■の演算結果が前回の予測値の許容範囲内にあるか否か判定する。許容範囲内にあるときは■に進む。許容範囲外であるときは■に進む。
【0019】■の演算結果が記憶手段24に保存されたデータベースの許容範囲内にあるか否か判定する。許容範囲内にあるときは■に進む。許容範囲外であるときは表示手段25,警報手段26により培養が異常状態にあることを表示し、■に進む。
【0020】■現状の培養状況とデータベースとを比較し、制御目標値の変更が必要かどうか判定する。すなわち、組み替えた遺伝子の発現制御が温度やpH,溶存酸素,剪断応力によって行われる場合や発現誘導剤の添加で行われる場合に、現状の培養状況が遺伝子発現操作をすべき時期か否かを判定する。必要がないと判定した場合は■に進む。変更が必要と判定した場合は■に進む。
【0021】■現状の制御目標値で培養槽内での物質収支を演算し、培養槽内に不適切な環境の存在の有無を判定する。不適切な環境の存在があると判断された場合は■に進む。ないと判定された場合は■に戻り、第2のステップの制御を繰り返す。
【0022】■変更すべき制御因子とその制御目標値候補値を決定する。
【0023】■制御目標値候補値を用いて培養槽内での物質収支を演算し、培養槽内に不適切な環境形成の有無を判定する。不適切な環境が形成されると判断した場合は■に戻り、新たな制御目標値候補値を決定する。不適切な環境は形成されないと判定した場合は■に進む。
【0024】■個別制御手段の制御目標値の設定を変更する。■に戻り、終了の指令が出されるまで第2ステップの一連の制御動作を繰り返す。なお、安全性の確保の観点からは、目標値を変更するに際しては、予め登録された目標値変更の実施権限を付与された変更認定者の立会いを確認する動作と、該変更認定者の目標値変更認可を確認する動作を完了した後でなければ制御目標値の変更ができないようにすることが好ましい。
【0025】培養評価因子としては特に限定するものではないが、比増殖速度,生存率,基質消費速度,生産物生産速度,酸素消費速度,炭酸ガス生成速度、等を用い、必要に応じて他の因子を加える。培養の数時間〜数日後を予測する方法としては特に限定するものではなく、過去の培養データについてpH,温度,酸素消費速度,基質濃度等の影響を多重解析法によって近似した実験式を用いて算出する方法等を用いれば良い。培養槽内での物質収支を演算する手法としては特に限定するものではなく、槽内の流れの乱流エネルギー散逸速度εを用いる乱流モデルを利用して流体力学的手法により解析する方法等を用いることができる。
【0026】以上のように、本発明の実施の形態による制御方法によれば、刻々と変化する培養状況に対応して目標値の変更を適切に実施することができ、かつ培養に適切な培養環境が確実に維持できていることを検証しつつ培養を行うことが可能となり、安全で確実な培養が可能となる。
【0027】図2は、本発明の実施の形態による制御装置の一実施例の動作を説明するフロー図である。制御対象の培養装置には溶存酸素濃度,pH,温度の計測手段を設置し、それぞれの計測値に基づいて予め定めた制御目標値に収束させるべく各手段毎に個別制御手段22が設けられておりそれぞれ独立した制御操作を実施する。なお、図2に記載した計測手段とは、培養装置に設置した計測手段のいずれか一つを例として示すものであって、計測手段毎に図2のフローが独立的に実行される。また、計測手段としては前記の手段に限定されるものではなく、培養液濁度等の他の手段を加えても良い。
【0028】培養開始の信号が入力されることにより制御が開始される。制御フローの各ステップの動作を以下に説明する。
【0029】S11:培養装置に設置した溶存酸素濃度,pH,温度の計測手段により、それぞれの計測値を得る。
【0030】S12:個別制御手段において、それぞれの計測値が予め設定された制御目標値に一致するかどうか判定する。一致する場合はS11に戻る。一致しない場合はS13に進む。
【0031】S13:S12において、制御目標値に一致していないと判断された場合には、制御目標値に収束するよう、それぞれの個別制御手段において操作手段に対して動作信号を伝達し、操作量を変更する。それぞれの個別制御手段における制御手法としては特に限定するものではなく、ON/OFF制御法,比例制御法,PID制御法等の公知の手法を用いることができる。変更後、S11に戻る。なお、各制御手段での操作量としては、下記のものが用いられる。
【0032】pH:通気ガス中の炭酸ガス供給量の増減、および酸性溶液またはアルカリ性溶液の注入量。
【0033】溶存酸素濃度:通気ガス中の酸素供給量の増減,培養液撹拌速度の増減,培養槽圧力の増減。
【0034】温度:ジャケット供給水温度の増減,冷却水供給速度の増減,加熱用電気ヒーター供給電力量の増減または加熱用蒸気供給量の増減。
【0035】動作S11〜S13は、終了命令が発せられるまで反復して実行される。反復の周期は培養する生体細胞の特性、および培養装置の動特性をもとに適宜決定されるが、概ね1秒〜10分の範囲で実施される。
【0036】S21:培養装置より生体細胞の培養液を無菌的に採取する。採取の手法は特に限定するものではなく、作業者が手作業で採取しても自動採取装置を用いても良い。
【0037】S22:S21で採取した培養液試料について必要な分析を行う。分析項目としては細胞濃度,細胞生存率,基質物質であるグルコースおよびグルタミンの濃度,代謝物質である乳酸,アンモニア,乳酸脱水素酵素および目的生産物の濃度、のいずれか1つ以上を実施するのが好ましいが、特にこれらに限定するものではない。
【0038】S23:S22で得た分析値をコンピュータに入力する。
【0039】S24:S21の動作を実施する時点で、S11の計測データをコンピュータに取込む。
【0040】S25:S24で取込んだ計測データおよびS23で入力した分析データをもとに演算を行い、培養評価因子の算出と数時間〜数日後の予測値を算出する。
【0041】S26:S25での解析結果をもとに、培養が正常に行われているか検証を実施する。すなわち、計測値と分析値とが現状の培養状況において妥当な数値であるかどうか、およびS25の演算結果が前回の予測値の許容範囲内にあるか否か判定する。許容範囲内にあるときはS29に進む。許容範囲外であるときはS27に進む。
【0042】S27:S25の演算結果が過去の培養データで構成されたデータベースでの許容範囲にあるかどうかを判定する。図3は総細胞濃度と生細胞濃度についてのS25での演算結果と過去の培養データの関係を表す表示画面の一例を示す。上限値43および下限値44とで挟まれた領域が許容範囲である。本表示例では培養経過点41、および予測値42ともに許容範囲内にあることから、培養は良好に行われていると判断される。なお、許容範囲は正常に行われたと判断された過去の培養データをもとに算出する。本実施例ではデータベースの80%が含まれる領域として決定した。許容範囲内にあるときはS29に進む。許容範囲外であるときはS28に進む。
【0043】S28:現状の培養状況が異常であることを告知する異常警報を表示する。S29に進む。
【0044】S29:現状の培養状況とデータベースとを比較し、制御目標値の変更が必要かどうか判定する。必要がないと判定した場合はS30に進む。変更が必要と判定した場合はS31に進む。
【0045】S30:現状の制御目標値で培養槽内での物質収支を演算し、培養槽内に不適切な環境の存在の有無を判定する。不適切な環境の存在があると判断された場合はS31に進む。ないと判定された場合はS21に戻り、第2ステップの制御を繰り返す。
【0046】S31:変更すべき制御因子とその制御目標値候補値を決定する。
【0047】S32:制御目標値候補値を用いて培養槽内での物質収支を演算し、培養槽内に不適切な環境形成の有無を判定する。不適切な環境が形成されると判断した場合はS31に戻り、新たな制御目標値候補値を決定する。不適切な環境は形成されないと判定した場合はS35に進む。
【0048】S35:個別制御手段の制御目標値を上記目標値候補値に変更する。S21に戻り、終了の指令が出されるまで第2ステップの一連の制御動作を繰り返す。
【0049】本実施の形態の制御装置によれば、刻々と変化する培養状況に対応して目標値の変更を適切に実施することができ、かつ培養に適切な培養環境が確実に維持できていることを検証しつつ培養を行うことが可能となり、安全で確実な培養を実施できる。
【0050】図4は、本発明の実施の形態による制御装置の他の実施例の動作を説明するフロー図である。図5は、本発明の実施の形態による動物細胞を培養するための培養装置の1例を示す。
【0051】本培養装置は、培養槽1および制御装置21とで構成される。また、図1中には図示していないが、培養設備には不可欠である、空気,酸素,窒素および炭酸ガス等のガス供給設備,温水冷水供給設備,蒸気供給設備および給排水設備を具備している。
【0052】また、計測手段6,7,8および9、並びに個別制御手段22については、実装置では検出項目毎または制御項目毎に1つの検出手段が用いているが、図1中には簡略化の為それぞれ1つのみ記載した。
【0053】培養槽1は断面で表わしている。培養槽1内に張り込まれた培養液2は、駆動用モーター3により駆動される攪拌機4で撹拌され、均一に混合される。培養に必要な酸素は、酸素含有ガスを槽底部に配置されたスパージャー5から液中に供給する液中通気法と槽上部気相部に通気する上面通気法の二つの方法により供給される。
【0054】培養槽1には、計測手段6,供給ガスを計測する計測手段7および8,計測手段9を具備している。培養液2の性状を計測する計測手段6,排気ガスを計測する計測手段9および駆動用モーター3よりpH,溶存酸素濃度,温度,撹拌速度,培養液濁度,排ガス中酸素濃度および排ガス中炭酸ガス濃度等の計測値15を得る。計測値15は後述するコンピュータ23に伝送される。また、pH,溶存酸素濃度および温度の計測値については個別制御手段22にも直接伝送される。計測手段7および8は、供給ガスおよび中和用アルカリ液の供給量を計測しかつ供給量調節する機能を有しており、総通気,空気,酸素,窒素,炭酸ガスの各供給量およびアルカリ供給量等の計測値17を得る。各計測データ値は後述するコンピュータ23に伝送される。
【0055】培養槽1には、培養液2の一部を採取する試料採取ライン10を設けてあり、培養中に無菌的に培養液の一部を分析用の試料11として採取することができる。試料11は各種の分析装置12に供され、細胞濃度,細胞生存率,グルコース濃度,乳酸濃度,アンモニア濃度,グルタミン濃度,乳酸脱水素酵素活性濃度および目的生産物濃度等の分析値16を得る。分析値16は入力手段27を用いてコンピュータ23に入力される。
【0056】制御装置21は、図1に示す本発明の実施の形態による制御方法を実施するための機能を有するものであり、個別制御手段22,コンピュータ23,記憶手段24,表示手段25および警報手段26とを具備する。
【0057】本制御装置21は計測値15を用いて予め設定された目標値を目標として培養制御を行う第一の制御手段と、計測値15,計測値17および分析値16とを用いて前記目標値の妥当性を検証し、該検証過程と結果、前記データベースに格納された前回の検証過程と結果および過去の培養データと比較し、前記目標値の妥当性を検証して必要な場合には該目標値を変更し、および必要な場合には異常警報を出力する第二の制御手段を備えている。そしてこの第一及び第二の制御手段である2段階の制御を行う。
【0058】個別制御手段22は前記第1ステップの制御を実行する第一の制御手段であり、pH,溶存酸素濃度および温度を制御量とする3基が設けられている。それぞれの個別制御手段は、それぞれ直接伝送されるpH,溶存酸素濃度および温度の計測値が、あらかじめ設定された制御目標値にそれぞれの計測値が収束するよう操作手段28に動作信号を伝達し、自律的に制御動作を実行する。なお、制御量がpHである個別制御手段22の操作手段は炭酸ガス供給弁およびポンプであり、それぞれ操作量は炭酸ガス供給量およびアルカリ注入量である。
【0059】制御量が溶存酸素濃度である個別制御手段22の操作手段は酸素供給弁および窒素供給弁であり、それぞれの操作因子は酸素供給量および窒素供給量である。制御量が温度である個別制御手段22の操作手段は加温用ヒーター電流調節器または蒸気供給弁、および冷却水供給弁であり、操作因子はヒーターへの供給電力量または蒸気供給量、および冷却水供給量を操作量とする。個別制御手段22については特に限定するものではなく、比例制御法,PID制御法等の公知のフィードバック制御手法を用いる。なお、それぞれの制御目標値の設定・変更がコンピュータ23によって行える。
【0060】コンピュータ23は前記第2ステップの制御を実行する第二の制御手段であり、下記■〜■の動作を実行する。
【0061】■計測値15,計測値17および分析値16を用いて演算を行い、培養評価因子の算出と数時間〜数日後の予測値を算出する。演算結果をデータベースに格納する。
【0062】■計測値15,計測値17および分析値16が現状の培養状況において妥当な数値であるかどうか、および■の演算結果が前回の予測値の許容範囲内にあるか否か判定する。許容範囲内にあるときは■に進む。許容範囲外であるときは■に進む。判定結果をデータベースに格納する。
【0063】■の演算結果が記憶手段24に保存されたデータベースの許容範囲内にあるか否か判定する。許容範囲内にあるときは■に進む。許容範囲外であるときは表示手段25,警報手段26により培養が異常状態にあることを表示し、■に進む。判定結果をデータベースに格納する。
【0064】■現状の培養状況とデータベースとを比較し、制御目標値の変更が必要かどうか判定する。必要がないと判定した場合は■に進む。変更が必要と判定した場合は■に進む。判定結果をデータベースに格納する。
【0065】■現状の制御目標値を用いて培養槽内での物質収支を演算し、溶存酸素濃度,pH,温度,剪断応力、等について不適切な環境が培養槽内に存在するかどうかを判定する。不適切な環境が存在すると判断された場合は■に進む。ないと判定された場合は■に戻り、第2ステップの制御を繰り返す。判定結果をデータベースに格納する。
【0066】■変更すべき制御因子とその制御目標値候補値を決定する。
【0067】■制御目標値候補値を用いて■と同様な培養槽内での物質収支を演算し、培養槽内に不適切な環境の有無を判定する。不適切な環境が形成されると判断した場合は■に戻り、新たな制御目標値候補値を決定する。不適切な環境はないと判定した場合は■に進む。判定結果をデータベースに格納する。
【0068】■個別制御手段の制御目標値の設定を変更する。■に戻り、終了の指令が出されるまで第2ステップの一連の制御動作を繰り返す。なお、目標値を変更するに際しては、予め登録された目標値変更の実施権限を付与された変更認定者の立会いを確認する動作と、該変更認定者の目標値変更認可を確認する動作の完了を必要とする。制御目標値の変更値,立会いの変更認定者名,変更時間の情報をデータベースに格納する。
【0069】第2ステップの制御は、上記■での演算に必要な分析値の入力によって開始される。第2ステップの制御の頻度は特に限定するものではないが、培養対象が動物細胞である場合には通常1時間〜24時間の間隔で実行される。また、培養対象が微生物である場合には通常30分〜24時間の間隔で実行される。何れも、培養槽から採取された培養液の分析に要する時間を勘案して適宜決定される。
【0070】本実施の形態の培養装置によれば、刻々と変化する培養状況に対応して目標値の変更を適切に実施することができ、かつ培養に適切な培養環境が確実に維持できていることを検証しつつ培養を行うことが可能となり、安全で確実な培養を実施できる。
【0071】つまり、本発明の実施の形態によると、生体細胞の培養を行うことにより、刻々と変化する培養状況に対応して培養槽内の環境を培養に好適な条件に維持することが可能となり、安全で確実な培養を実施できる。また、培養に適切な培養環境が確実に維持できていることを検証しつつ培養を行うことから、培養によって生産される有用物質の安全性の検証が容易となる。さらに、培養における培養槽の計測値,培養液の分析値,検証の結果,目標値の変更時間,承認者等の情報を時系列的培養データベースとして記憶手段に格納しておくことにより、事後に行う製品の安全性にかかわる検証が容易となる。
【0072】
【発明の効果】本発明によると、生体細胞の培養に適切な培養環境が確実に維持できていることを検証しつつ培養を行い、必要に応じて目標値の変更を適切に実施することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の制御方法の一実施例を示すブロック図である。
【図2】本発明の制御装置の一実施例の動作を示すフロー図である。
【図3】本発明の制御装置の一実施例における表示の一例を示す図である。
【図4】本発明の制御装置の他の実施例の動作を示すフロー図である。
【図5】動物細胞を培養対象とする本発明の培養装置の一実施例を示す概要図である。
【符号の説明】
1…培養槽、2…培養液、3…駆動用モーター、4…攪拌機、6,7,8,9…計測手段、21…制御装置、22…個別制御手段、23…コンピュータ、24…記憶手段、25…表示手段、26…警報手段、27…入力手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】培養装置により生体細胞を培養する生体細胞の培養制御方法であって、前記培養装置の運転状態を計測した計測値が予め設定された目標値に一致するよう制御を行う第一のステップと、前記計測値と前記培養装置から採取した培養液試料を分析して得た分析値とに基づき該目標値を変更する第二のステップとを含む生体細胞の培養制御方法。
【請求項2】生体の細胞を培養する培養装置の制御方法において、前記培養装置に設けた運転状態計測手段からの計測値が予め設定された目標値に一致するよう制御を行う第一のステップと、前記計測値と前記培養装置から採取した培養液試料を分析して得た分析値とを用いて前記目標値の妥当性を検証し、該目標値を変更する第二のステップの二段階により制御することを特徴とする生体細胞の培養制御方法。
【請求項3】請求項2に記載の生体細胞の培養制御方法において、前記培養装置に設けた計測手段が、培養液濁度,pH,溶存酸素濃度,温度,撹拌速度,通気量,空気供給量,酸素ガス供給量,炭酸ガス供給量,窒素ガス供給量,注入ガス中酸素濃度,排出ガス中酸素濃度,アルカリ供給量のいずれか1つ以上であること、培養装置から採取した培養液試料を分析して得た分析値が、細胞濃度,細胞生存率,グルコース濃度,乳酸濃度,アンモニア濃度,グルタミン濃度,目的生産物濃度のいずれか1つ以上であることを特徴とする生体細胞の培養制御方法。
【請求項4】培養装置により生体細胞を培養する生体細胞の培養装置の制御装置であって、前記培養装置の運転状態を計測した計測値が予め設定された目標値に一致するよう制御を行う第一の制御手段と、前記計測値と前記培養装置から採取した培養液試料を分析して得た分析値とに基づき該目標値を変更する第二の制御手段とを備えた培養装置の制御装置。
【請求項5】生体の細胞を培養する培養装置の制御装置において、前記培養装置に設けた計測手段からの計測値を取込む手段と、該計測値を用いて予め設定された目標値に一致するよう制御を行う制御手段と、前記培養装置から採取した培養液試料を分析して得た分析値を入力する手段と、前記目標値の妥当性の検証を実施する為のコンピュータと、前記生体の細胞の培養データおよび検証過程と結果をデータベースとして格納する為の記憶手段と、検証過程と結果を表示する為の表示手段とを具備し、前記培養装置に設けた計測手段からの計測値を用いて予め設定された目標値を目標として培養制御を行う第一の制御手段と、前記計測値と前記分析値とを用いて前記目標値の妥当性を検証し、該検証過程と結果、前記データベースに格納された前回の検証過程と結果および過去の培養データと比較し、前記目標値の妥当性を検証して必要な場合には該目標値を変更し、および必要な場合には異常警報を出力する第二の制御手段とを備え、該第一及び第二の制御手段で制御を行うことを特徴とする、培養装置の制御装置。
【請求項6】請求項5に記載の培養装置の制御装置において、前記表示手段は、過去の培養データと現在の培養データおよび将来の予想される培養経過を併せて表示するよう構成し、現在及び将来予想される培養経過が過去の培養データから外れた場合にはこれを警告するよう構成したことを特徴とする培養装置の制御装置。
【請求項7】生体の細胞を培養する培養装置において、前記培養装置に設けた計測手段からの計測値を取込む手段と、該計測値を用いて予め設定された目標値に一致するよう制御を行う制御手段と、前記培養装置から採取した培養液試料を分析して得た分析値を入力する手段と、前記目標値の妥当性の検証を実施する為のコンピュータと、前記生体の細胞の培養データおよび検証過程と結果をデータベースとして格納する為の記憶手段と、検証過程と結果を表示する為の表示手段とを具備し、前記培養装置に設けた計測手段からの計測値を用いて予め設定された目標値を目標として培養制御を行う第一の制御手段と、前記計測値と前記分析値とを用いて前記目標値の妥当性を検証し、該検証過程と結果、前記データベースに格納された前回の検証過程と結果および過去の培養データと比較し、前記目標値の妥当性を検証して必要な場合には該目標値を変更し、および必要な場合には異常警報を出力する第二の制御手段とを備え、該第一及び第二の制御手段の2段階で制御を行う制御装置を備えたことを特徴とする培養装置。
【請求項8】請求項7に記載の培養装置において、前記表示手段は、過去の培養データと現在の培養データおよび将来の予想される培養経過を併せて表示するよう構成し、現在及び将来予想される培養経過が過去の培養データから外れた場合にはこれを警告する強調手段で警告するよう構成したことを特徴とする培養装置。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2003−235544(P2003−235544A)
【公開日】平成15年8月26日(2003.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−42510(P2002−42510)
【出願日】平成14年2月20日(2002.2.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】