説明

生体細胞の培養容器、及び培養装置

【課題】シングルユース用の生体細胞の培養容器の信頼性を高め、かつ使い勝手を改良することにより、バイオリアクタとしてより一層の性能向上をはかる。
【解決手段】培養容器の排気ガスを排出するための排気流通管34及び排気フィルタ51を備え、折り畳み可能な部材によって構成された培養容器10であって、排気フィルタ51のろ過面の温度に比較して排気フィルタ入口部での排気ガスの露点温度を低く保持するための、着脱可能な冷却ブロック61を排気流通管34に対して容易に取り付け・取り外しできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体細胞を懸濁法にて培養する際に用いられる折り畳み可能な培養容器、及びこの折り畳み可能な培養容器を用いた培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体細胞の培養では、目的生産物の生産性向上のために、その生体細胞を安価にかつ安全に培養することが望まれている。しかしながら、従来の生体細胞の培養手法は、ステンレス製の培養槽を使用するもので、培養槽内部を殺菌するための蒸気供給装置や洗浄するための洗浄機構等の多種類の付帯設備が必須であり、必然的に目的生産物の生産コストの増加を招いていた。
【0003】
そこで、目的生産物の生産コストの低減に有効な生体細胞の培養手法としてシングルユース容器類を使用する方法が知られている。この方法によれば、培養槽や培地用タンク等の容器類をシングルユース化することによって、これらを滅菌するための滅菌システムや洗浄するための洗浄システムが不要となり、目的生産物の生産コスト低減が期待される。また、目的生産物を変更する際にも、前の生産物の残留による汚染の恐れがなく、安全性の向上もはかることができる。
【0004】
特許文献1には、壁体が変形可能である装置を備えたバイオリアクタが記載されている。特許文献2には、培養バッグ内の細胞の画像から培養状況を判定して制御する手段を備えた培養装置が記載されている。特許文献3には、培養バッグの培養液を撹拌するための振盪装置が記載されている。特許文献4には、バイオリアクタに接続されている液移送配管にセンサを配置した使い捨てバイオリアクタが記載されている。特許文献5には、通気スパージャ、泡制御手段、折り畳み可能な袋体容器、及び袋体を収容する支持体からなるバイオリアクタが記載されている。
【0005】
これら従来のシングルユース容器類を使用する培養手法は、旧来より使用されてきた血液バッグや点滴液用バッグ等の技術を応用し、バイオリアクタとして使用するのに不可欠な機能を付加することによって開発されてきたものである。このようなシングルユース容器類の多用は、システムコストの低減には大きく寄与しているものの、反面、使用開始前の準備や使用終了後の撤去等において運転員の作業量が増加する結果をもたらしている。
【0006】
また、これらシングルユース容器類を使用する培養方法の課題の一つに、培養槽の排気ガスを排出する排気管路に設けられた排気フィルタ(ベントフィルタ)の閉塞の防止がある。これは、排気ガス中に含まれる湿分が液化した凝縮水や培養液のミストによってフィルタ膜が覆われて閉塞してしまうことに起因するもので、一旦、排気フィルタが閉塞してしまうと、培養の継続は困難となる。
【0007】
この排気フィルタの閉塞に対して、排気フィルタを交換可能に構成することや排気フィルタのろ過面積を大きくすること、さらには、排気フィルタを加温することにより凝縮水の発生を防止することが知られている。しかし、これら対策は、培養容量の増大や高密度化によってより大きな排気フィルタが必要とされている折、生産コスト増の一因となる。
【0008】
そこで、特許文献6〜8では、ペルチェ冷却器やウォータージャケットを培養槽の排気ガスを排出する排気管路に適用し、排気ガスを冷却することにより、排気ガス中に含まれる湿分が液化した凝縮水や培養液のミストによって排気フィルタが濡れる、すなわち排気ガス中に含まれる湿分が液化した凝縮水や培養液のミストによってフィルタ膜が覆われて閉塞するのを防ぐことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2004−535826号公報
【特許文献2】再表2007−052716号公報
【特許文献3】再表2007−052716号公報
【特許文献4】特表2009−536520号公報
【特許文献5】特表2009−539408号公報
【特許文献6】特開2009−072182号公報
【特許文献7】特開2009−291192号公報
【特許文献8】特表2010−525833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、容器本体から延設された排気管路を有するシングルユース用の折り畳み可能な培養容器に、ペルチェ冷却器やウォータージャケットからなる冷却器を適用しようとした場合、運転員は、培養容器と一体の排気管路を取り回して、この冷却器を通過するように配設作業しなければならなかった。
【0011】
また、ペルチェ冷却器やウォータージャケットからなる冷却器を容器本体と一体的な排気管路に予め取り付け、冷却器を備えたシングルユース用の折り畳み可能な培養容器とすることは、培養容器と一体の排気管路を冷却器の冷却室を通過するように配設作業する必要がなくなる反面、その折り畳み可能な培養容器の利便性を損なうばかりか、冷却器も培養容器とともに使用終了後に廃棄されてしまうことになり、生産コスト増となる。
【0012】
本発明は上述した問題点を鑑みなされたものであって、排気フィルタの閉塞を防止することによって培養での信頼性を高め、かつ使い勝手を改良することにより、バイオリアクタとしてより一層の性能向上をはかったシングルユース用の生体細胞の培養容器、及びこの培養容器を用いた培養装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上述した課題を解決するために、折り畳み可能な部材により形成された容器本体と、該容器本体から延設された複数の管路とを備え、生体細胞を培養するためのシングルユースの培養容器であって、前記複数の管路の中の一の管路には、前記培養容器の排気ガスを排出する排気管路を形成するために、排気ガスの流通を許容する一方、外部から前記容器本体内に異物が侵入するのを防止する排気フィルタが設けられ、前記容器本体と前記排気フィルタとの間の前記排気管路には、前記排気フィルタのろ過面の温度に比較して前記排気フィルタに流入する排気ガスの露点温度を低く保持するため、当該装着された前記排気管路の壁面を冷却する冷却面を有する冷却装置の冷却ブロックが着脱自在に設けられていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、折り畳み可能な部材により形成された容器本体と、該容器本体から延設された複数の管路とを備えたシングルユースの培養容器を用いて、生体細胞を培養する培養装置であって、前記培養容器の排気ガスを排出する排気管路を形成するために、前記複数の管路の中の一の管路に設けられ、排気ガスの流通を許容し、外部から前記容器本体内への異物の侵入を防止する排気フィルタと、前記排気フィルタのろ過面の温度に比較して前記排気フィルタに流入する排気ガスの露点温度を低く保持するために、前記排気管路に着脱自在に構成された冷却ブロックの冷却面を、前記容器本体と前記排気フィルタとの間の前記排気管路の壁面に密着させて当該排気管路の壁面を冷却する冷却装置とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、排気フィルタの閉塞を防止することができ、培養での信頼性を高めることができる。また、使い勝手を改良することにより、使用開始時の準備作業や使用後の撤去作業を効率化できる。これらの効果を有する培養容器及び培養装置を提供することによって、培養を長期間継続でき、目的生産物の生産性及び安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る生体細胞の培養容器の一実施の形態を示す概要図である。
【図2】本実施の形態に係る培養容器に適用される冷却装置の冷却ブロックの実施例を示した図である。
【図3】冷却ブロックの使用前の開放状態を示した概要図である。
【図4】本発明の別の実施の形態に係る生体細胞の培養容器を適用した培養装置を示す概要図である。
【図5】冷却ブロックを備えた排気ブロックユニットの一実施例の構成図である。
【図6】排気ブロックユニットの別の実施例の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る生体細胞の培養容器及び培養装置の実施の形態について、以下、図面を基に詳細に説明する。
【0018】
本発明に係る生体細胞の培養容器及び培養装置は、医薬品等の主原料となる目的生産物を生産する細胞の培養に適用することができる。本発明に係る生体細胞の培養容器及び培養装置において、生産対象の目的生産物としては、例えば、抗体や酵素等のタンパク質、低分子化合物,高分子化合物等の生理活性物質、又はウイルスを挙げることができる。また、培養対象の細胞としては、動物細胞,植物細胞,昆虫細胞,細菌,酵母,真菌,藻類等を挙げることができる。特に、抗体や酵素等のタンパク質を生産する動物細胞を培養対象とする場合に好適である。
【0019】
図1は、本発明に係る生体細胞の培養容器の一実施の形態を示す概要図である。
培養容器10は、例えば合成樹脂フィルム等といった透明な折り畳み可能な部材で形成された容器本体11を有する。容器本体11は、使用形態で、例えば、直径560mm、培養液張り込み高さ550mm、培養容積100Lの円筒状の袋状容器である。この使用形態において、容器本体11の天部に相当する部分には、剛性部材からなる剛性天板12が容器本体内の気密性を保って固着されている。
【0020】
容器本体内には、攪拌機構20の被駆動部が収容されている。攪拌機構20は、培養液中で浮遊している生体細胞が沈積することがないように、容器本体内の培養液を容器本体内で流動させる。攪拌機構20の被駆動部は、被伝達側の磁性カップリング部材21に接続されて延び、剛性を有する軸部22に、撹拌翼23(23a,23b)が固定された構成になっている。磁性カップリング部材21は、剛性天板12を介在させて、容器本体外に配置された伝達側の磁性カップリング部材25と磁気的に連結可能になっている。この伝達側の磁性カップリング部材25の、磁性カップリング部材21との対向側と反対側には、モータ26の出力軸が連結される。磁性カップリング部材25は、モータ26とともに、攪拌機構20の駆動部を構成する。これにより、攪拌機構20は、容器本体内の被伝達側の磁性カップリング部材21を、剛性天板6を介して、容器本体外の伝達側の磁性カップリング部材25に対して磁気的に連結した状態で、伝達側の磁性カップリング部材25をモータ26により剛性天板12上で回転させれば、被伝達側の磁性カップリング部材21が応動して回転し、軸部22及び撹拌翼23が一体的に回転する構成になっている。本実施例における攪拌機構20の取り付けによる培養容器10の気密性は、容器本体内の被駆動部を容器本体外の駆動部に対して分離独立して構成し、両者間の連結及び回転力の伝達にマグネットカップリング21,25を用いることによって保持されている。これにより、培養容器10にモータ26の回転伝達用の軸貫通穴を設けることなく、気密性を保って容器本体内に貯留されている培養液15の撹拌・混合を実施できる。
【0021】
さらに、容器本体11には、複数の屈曲可能な配管チューブ30(31,32,…)が容器本体11に対する取付部の気密性を保って取り付けられている。配管チューブ30は、液中通気用ガス供給管31、気相用ガス供給管32、液体供給管33、排気流通管34、及び培養液排出管35等を構成する。この他にも、サンプリング用,pH調節用薬剤の注入用,培地交換用等といった配管チューブや、培養液15の出し入れ用ノズル等が、容器本体11に気密性を保って取り付けられているが、煩雑になるため図示省略してある。
【0022】
液中通気用ガス供給管31は、一端側は培養容器10の容器本体外に導出され、他端側は使用形態において容器本体内の底部側に到るように延設されている。液中通気用ガス供給管31の一端にはコネクタが設けられ、通気用ガス調節装置41の出力配管が接続される。通気用ガス調節装置41は、培養容器10に供給する通気用ガスを供給制御し、主として容器本体内に貯留されている培養液15の溶存酸素濃度のコントロールを担い、溶存酸素濃度の変化に対応して通気ガス量とその酸素分圧を増減する。液中通気用ガス供給管31の他端は、使用形態で容器本体内の底部側に配置される散気装置42に接続されている。散気装置42は、通気用ガス調節装置41から供給された通気ガスを、容器本体内に貯留されている培養液中に気泡化して放出する。散気装置42は、特に限定されるものではなく、公知のリングスパージャ、又はプラスチック多孔質材,金属多孔質材,無機多孔質材のいずれか若しくはこれらを組み合わされて構成された散気部を備える。発生させる気泡の大きさは、培養対象の生体細胞に応じて、予め適宜選択されている。
【0023】
気相用ガス供給管32は、一端側は培養容器10の容器本体外に導出され、他端端は容器本体内の天井部側に配置されて開口されている。気相用ガス供給管32の一端にはコネクタが設けられ、気相用ガス調節装置43の出力配管が接続される。気相用ガス調節装置43は、容器本体内に供給する気相用ガスを供給制御し、主として容器本体内の培養液中のpHのコントロールを担い、培養液中のpHの変化に対応して通気ガス量とその炭酸ガス分圧とを増減する。
【0024】
これらの液中通気用ガス供給管31及び気相用ガス供給管32の途中には、ガス用フィルタ44,45及び開閉弁46,47が配置されている。ガス用フィルタ44,45は、外部から容器本体内への微生物の侵入を防止する。また、各開閉弁46,47は、通気用ガス又は気相用ガスのそれぞれの、培養容器10の容器本体内への流入・遮断、並びに容器本体内の密閉を行う。
【0025】
液体供給管33は、一端側は培養容器10の容器本体外に導出され、他端端は容器本体内に配置されて開口されている。液体供給管33の一端にはコネクタが設けられ、培養容器10への培養対象の生体細胞やその培養液の注入が行える。液体供給管33の途中には、開閉弁48が介在配置され、培養容器10の容器本体内への培養液の流入・遮断、並びに容器本体内の密閉を行う。
【0026】
排気流通管34は、一端側は培養容器10の容器本体内の天井部側に配置されて開口され、他端側は容器本体11の天部側から培養容器10の容器本体外に導出されている。排気流通管34の他端には、排気フィルタ51が接続されて設けられている。排気流通管34は、排気フィルタ51、及びこの排気フィルタ51が接続されるガス調圧弁52を順次介して、外部雰囲気に開放され、培養中に容器本体内で発生した排気ガスを排気する。ガス調圧弁52は、容器本体内の気相の圧力を調節するもので、培養容器10の形状保持と容器本体内への雑菌の侵入を防止するため、培養容器10の内圧が大気圧(外部雰囲気圧)よりやや高めの圧力になるようにコントロールする。
【0027】
なお、ガス調圧弁52については、培養容器10の内圧が大気圧(外部雰囲気圧)よりも常時高めになっている場合には、その設置を省略することができる。その理由として、排気フィルタ51に排気ガスを通過させる際は、通常、ろ過抵抗が生じる。そのため、培養容器10の容器本体内に液中通気用ガス供給管31や気相用ガス供給管32を介してガスを常時注入し続けるのであれば、容器本体内にはろ過抵抗に相応する内圧が生じる。この内圧が、培養容器10の展開及び形状の保持に必要な圧力を上回るものであれば、上述したように、ガス調圧弁52はその設置を省略することもできる。
【0028】
培養液排出管35は、一端側が培養容器10の容器本体内の底部に配置されて開口され、他端側は培養容器10の容器本体外に導出されている。培養液排出管35の途中には、開閉弁49が介在配置され、培養液の流出・遮断、並びに容器本体内の密閉を行う。
【0029】
上述した構成からなる培養容器10は、例えば、排気ガスを排出するための排気流通管34に排気フィルタ51が一体的に備えられた構成になっている。使用前は液体供給管33及び培養液排出管35の末端は、微生物の侵入や内部溶液の漏洩を防止するため、使用直前までコネクタに栓をする等して密封状態に維持されている。その上で、培養容器10は、容器本体内の気体が略抜かれ、容器本体11が折り畳まれた状態になっている。なお、この培養容器10が折り畳まれた状態や、使用するに際して、この折り畳まれた培養容器10の展開作業を実施する際に、撹拌翼23等といった容器本体内の収容部材の突起部分によって容器本体11を傷つけることがないように、収容部材の形状、寸法、及び材質についても、十分に配慮されている。
【0030】
ところで、生体細胞の培養中に、培養容器10の容器本体内から排出される排気ガス中には、湿分が液化した凝縮水や培養液のミストが含まれている。排気ガス中の湿分は略培養温度にて飽和状態になっている。すなわち、排気ガスの露点温度は、この培養温度と略等しくなっている。通常、生体細胞の培養は、培養液15の温度を環境温度より高い25〜50℃程度に加温して行われる。そのため、生体細胞の培養中においては、環境に露出されている排気流通管34、排気フィルタ51、及びガス調圧弁52は、培養容器10の容器本体内に貯留されている培養液の培養温度よりも低い表面温度になる。この結果、排気ガスが接触する排気流通管34、排気フィルタ51、及びガス調圧弁52の表面では、それぞれの表面温度と容器本体内からの排気ガスの露点温度の差分が結露してしまう。この結露水によって排気フィルタ51のフィルタ面が覆われてしまうと、排気フィルタ51が閉塞してしまい、容器本体内からの排気ガスの排出ができなくなる。すなわち、培養容器10での培養の継続が困難になる。
【0031】
そこで、本実施の形態に係る培養容器10では、排気流通管34の、環境に対して露出されている容器本体11と排気フィルタ51との間の部分には、冷却装置60の冷却ブロック61が着脱自在になっており、排気流通管34に装着した冷却ブロック61によって、容器本体内から排出されて排気フィルタ51に流入する排気ガスの温度を強制的に低下させるようになっている。
【0032】
さらに、排気流通管34については、冷却ブロック61を装着する部分についても壁面を介しての熱伝達量が大きくなるよう、配慮されている。すなわち、前述の液中通気用ガス供給管31、気相用ガス供給管32、液体供給管33、及び培養液排出管35等では、使用中に破損しないよう、肉厚のシリコンゴムチューブを使用することが一般的であるのに対し、排気流通管34の冷却ブロック61を装着する部分については、薄肉厚のシリコンゴムチューブを用いて熱伝達係数を大きくする手段が講じられる。その他のチューブ素材として、容器本体11と同じ合成高分子材料にて構築したチューブを用いてもよい。また、排気流通管34のすべてを熱伝達係数の大きくしたチューブで構築してもよい。なお、薄肉厚のシリコンゴムチューブを使用する場合には、外周面を機械的強度の大きな部材で補強した複合部材を用いることが好ましい。また、殺菌手段を工夫することによって、より熱伝達係数の大きな金属素材によるチューブを使用することもできる。
【0033】
図2は、本実施の形態に係る培養容器に適用される冷却装置の冷却ブロックの実施例を示した図である。
本実施例の場合、冷却ブロック61は、熱伝導率の大きなアルミ材を使用して形成されている。冷却ブロック61は、排気流通管34に対しての装着形態で排気流通管34が挿通する挿通孔62を形成するように、溝面が排気流通管34の外周面に接するように設計された貫通溝63を有する一対のブロック構成部61a,61bが、互いの溝形成面同士を合わせて接合可能に構成されている。両ブロック構成部61a,61bは、例えばヒンジ64等の連結部材によって互いに連結され、それぞれの接合面(溝形成面)を開・閉(離間・当接)できるようになっている。
【0034】
図3は、冷却ブロックの使用前の開放状態を示した概要図である。
各ブロック構成部61a,61bの外周面には、下方に流入口65が、上方に流出口66がそれぞれ形成され、内部には、図中、一点鎖線で示すように流入口65から流出口66に向かって流路高さ位置が徐々に上昇する冷却流路67が形成されている。その上で、ブロック構成部61aの流入口65は、図示せぬ冷却装置本体の冷却水供給口に連通される一方、ブロック構成部61aの流出口66はブロック構成部61bの流入口65に屈曲性を有するチューブ68を介して連通接続され、ブロック構成部61bの流出口66は図示せぬ冷却装置本体の冷却水回収口に連通されるようになっている。
【0035】
これにより、各ブロック構成部61a,61bの内部に形成された冷却流路67には下方から上方に向かって冷却水が流通し、冷却流路67の途中に冷却水に混入した気体が滞留しにくい構成となっており、各ブロック構成部61a,61bそれぞれの貫通溝63の溝面が、有効かつ効率的に冷却されるようになっている。
【0036】
冷却ブロック61は、図示省略するが、例えば、保温材を用いた保護カバーを、冷却ブロック61の外周部、すなわちブロック構成部61a,61bの外周面に装着固定した構成、若しくは着脱可能な構成にしておくことにより、その冷却効果をより一層向上させることができる。
【0037】
そして、一対のブロック構成部61a,61bを閉状態にし、互いの溝形成面同士を当接状態にする際、貫通溝63によって形成される挿通孔62を排気流通管34が挿通するように、予め排気流通管34を貫通溝63に保持しておくことにより、冷却ブロック61を排気流通管34に対して容易に装着することができる。また、一対のブロック構成部61a,61bを開状態にし、互いの溝形成面同士を離間状態にして、一対のブロック構成部61a,61bの貫通溝63から排気流通管34を取り出すことにより、冷却ブロック61を排気流通管34から容易に取り外すことができる。
【0038】
このようにして、冷却ブロック61を排気流通管34に対して装着しておくことによって、冷却流路67を流通する冷却水により、排気流通管34の外壁面を介して対応部分内部の排気ガスの熱を局部的に除去することができる。その際、排気フィルタ51の手前の排気流通管34の対応部分では、その内部の排気ガスの温度が低下することによって、排気ガス中の湿分の一部が結露する。この湿分が結露する際には、その湿分は排気ガス中のミストを核として水滴状に成長し、排気流通管34の内壁面に付着する。この排気ガスの湿分を結露させる操作によって、培養液由来のミストを排気ガス中から除去することができる。
【0039】
また、冷却ブロック61を装着することによって、排気ガスの湿分や培養液由来のミストが除去されて排気フィルタ51に供給される排気ガスの露点温度は、冷却ブロック61により冷却された排気ガスの温度に略等しくなる。これにより、排気ガス中に含まれる湿分が液化した凝縮水や培養液のミストによって排気フィルタ51が濡れる、すなわち排気ガス中に含まれる湿分が液化した凝縮水や培養液のミストによって排気フィルタ51のフィルタ膜が覆われて閉塞してしまうのを防止できる。そのため、排気流通管34に対して着脱自在な冷却ブロック61を有する冷却装置60では、冷却ブロック61による冷却後の排気流通管内を流通する排気ガスの露点温度が排気フィルタ51のろ過面温度よりも低くなるように、冷却ブロック61に供給する冷却水の温度が設定されている。
【0040】
なお、冷却ブロック61を設計するに当たっては、排気流通管34の壁面を介しての熱伝達量に留意して、貫通溝63若しくは挿通孔62の接触面積を算出しなければならない。
【0041】
また、排気流通管34の径が細い場合には、内壁面に付着した結露水滴が排気ガスの流動に伴って排気フィルタ51に流入してしまう場合もある。したがって、培養容器10の排気流通管34の内径を決定するに当たっては、培養する生体細胞の酸素消費速度を基に、容器本体内に液中通気用ガス供給管31や気相用ガス供給管32を介して注入されるガス量を予め算出し、その最大注入量においても排気流通管34においてガス流速が過大にならないように留意しなければならない。
【0042】
また、排気流通管34に冷却ブロック61を装着するに当たっては、排気流通管34で液溜まりが生じないように留意する必要がある。本実施例においては、さらに、冷却ブロック61、排気フィルタ51、及びガス調圧弁52は、高さ位置が順次高くなるようにして支持柱部材71に取り付けられた支持部材72(72a,72b,72c)によって、排気流通管34による排気ガスの流路方向が下方に向けて延びることがないように支持されている。これによって、折り畳み可能な容器本体11に気密性を保って一体的に固着された屈曲可能な排気流通管34を固定する効果が得られ、排気流通管34の不用意な屈曲によって、例えば排気流通管34の途中等に液溜まりが生じることを防止することができる。
【0043】
なお、冷却装置60の冷却ブロック61については、上述した実施の形態では、そのコスト面及びその冷却面が排気ガスに直接触れることがない点から、排気流通管34に着脱自在な構成としたが、コスト面の解決がはかれるのであれば、培養容器毎に、容器本体11に気密性を保って一体的に固着された排気流通管34に予め一体的に形成しておき、培養容器10の一部としてシングルユース化することも可能である。その場合、冷却ブロック61の流入口65及び流出口66を、冷却装置本体から延びる冷却水供給管及び冷却水回収管が着脱可能な構成にすればよい。さらには、冷却装置60は、冷却ブロック61に冷却水を流通させて冷却する構成として説明したが、冷却装置に流通させる冷媒流体は冷却水に限るものではない。また、冷却ブロック61の構造も、冷媒流体を用いた冷却構造に限定されるものではない。
【0044】
本実施の形態に係る生体細胞の培養容器10及び培養装置100によれば、排気フィルタ51の閉塞を防止でき、かつ使い勝手を向上することにより、シングルユース用の生体細胞のバイオリアクタとして長期間機能させることができる。
【0045】
次に、本発明の別の実施の形態に係る生体細胞の培養容器10及び培養装置100について、図面に基づいて説明する。
【0046】
なお、その説明に当たって、前述した実施の形態に係る培養容器10及び培養装置100と同一若しくは同様な構成については、同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0047】
図4は、本発明の別の実施の形態に係る生体細胞の培養容器を適用した培養装置を示す概要図である。
【0048】
まず、本実施の形態に係る培養容器10は、図1で説明した構成に加えて、容器本体11の内壁面の所定位置に、蛍光部材による蛍光体を備えた計測用素子82aが貼付された構成になっている。計測用素子82aは、その蛍光体の蛍光面と貼付された容器本体の内壁面との間に隙間が形成され、培養液15が介在可能になっている。計測用素子82aの蛍光体は、所定の照射光の受光によって励起され、基底状態に戻る際に蛍光を発光する構成になっている。この場合、蛍光体から発せられる光は、培養液中の計測対象、例えば酸素の存在によって影響を受けるようになっており、酸素量が多い程、蛍光の減衰が大きくなる。図示の例では、計測用素子82aは、この計測用素子82aが貼付された容器本体外部に対向配置された検出器82bとともに、酸素濃度計測センサ82を構成する。検出器82bには、発光素子及び光量子検出素子が組み込まれた構成になっている。検出器82bの発光素子から発せられた光は、容器本体11の該当周壁部分及び所定隙間の培養液15を透過し、計測用素子82aに設けた蛍光体を照射する。計測用素子82aから発せられた蛍光は、所定隙間の培養液15及び容器本体11の該当周壁部分を同じく透過し、相対する検出器82bの光量子検出素子で検出される。検出器82bは、光量子検出素子が受光した蛍光強度とその時間変化とを計測する。そのために、培養容器10の、計測用素子82aが貼付される容器本体11の該当周壁部分は、透光性部材により形成され、検出器82bの発光素子から計測用素子82aの蛍光体を励起するために発せられる照射光、及びこの照射光の受光により計測用素子82aから発せられる蛍光の波長領域について、できるだけ透明になっている。
【0049】
そして、本実施の形態に係る培養容器10も、使用前は容器本体内の気体が略抜かれて折り畳まれた状態になっている。この折り畳まれた状態や、使用開始時における展開作業の際に、培養容器10が傷ついてしまうのを防止できるように、培養容器10には、剛性天板12に加えて、この剛性天板12に固定された支持枠部材13がさらに設けられている。支持枠部材13は、剛性を有する板状部材を容器本体11の軸線方向断面の外郭形状に合わせて屈曲した形態を有している。
【0050】
図示の例では、支持枠部材13は、剛性天板12に対する固定端となった一端側が、容器本体11の使用形態において、剛性天板12に連設する容器本体11のテーパ状の肩部に沿って、剛性天板12から容器本体11の径方向に容器本体11の外方位置まで延び、自由端を形成する他端側がこの一端側に対して屈曲されて、容器本体11の側面に沿って、かつ容器本体11の軸線方向と平行に底部側に延びる形態になっている。
【0051】
これにより、容器本体11を折り畳んだ状態で外部から力が加わった場合であっても、この剛性天板12及び支持枠部材13によって受け止めることができ、容器本体11をはじめ、容器本体内の攪拌機構20の被駆動部や酸素濃度計測センサ82の計測用素子82a等には、その力が直接作用しにくい構造となっている。
【0052】
そして、容器本体11が折り畳まれた状態での培養容器10の梱包作業,輸送作業,開包作業や、培養容器10の折り畳まれた状態の容器本体11の展開作業でも、この剛性天板12及び支持枠部材13は、培養容器10が損傷することがないように外力を吸収して培養容器10を保護する機能を果たすようになっている。
【0053】
一方、本実施の形態に係る培養装置100には、空気、酸素、窒素、及び炭酸ガス等のガス供給設備,温水冷水供給設備,給排水設備といった図示せぬ設備が、必要に応じて付帯している。例えば、通気用ガス調節装置41及び気相用ガス調節装置43は、図示せぬガス供給設備に接続され、通気用ガス,気相用ガスの調製に必要な成分ガスの供給を受ける。例えば、冷却装置60の構成が、図2及び図3に示したように冷却ブロック61に冷却水を流通する構成である場合は、冷却装置60は、図示せぬ温水冷水供給設備から冷却水の供給を受ける。
【0054】
また、培養装置100には、計測手段として、pH,温度,溶存酸素,及び溶存炭酸ガスの計測装置とそれぞれのセンサとが備えられている。図4中では、これら構成の中、溶存酸素の計測装置としての溶存酸素濃度計測装置81と酸素濃度計測センサ82のみを図示し、その余の計測装置及びセンサについては、図示省略してある。なお、pH又は溶存炭酸ガス濃度の検出には、上述した酸素濃度計測センサ82の構成と同様な光学的センサを用いることができる。その場合、計測に用いる蛍光体、並びに励起光の波長及び計測する蛍光の波長は、特に限定されるものではなく、公知の蛍光体、並びに励起光及び蛍光の波長の組み合わせを用いることで、その目的を達成できる。
【0055】
一方、培養装置100には、培養中、上述のように構成された培養容器10を、使用形態で支持する培養容器収容ケース70が設けられている。培養容器収容ケース70は、培養容器10を収容するケース本体74が、架台73上に固定支持された構成になっている。ケース本体74は、培養容器10の使用形態での容器本体11の寸法形状に合わせた内部形状を有し、図示の例では、培養液15が貯留された培養容器10の底面部を支持する底部74aと、培養容器10が転倒しないように培養容器10の側面を支持する筒状部74bとを備えた有底円筒型の上面開放形状になっている。底部74aは、容器本体11の底部を含む底面部分の形状に合わせて、容器本体11の底部から導出されている培養液排出管35が挿通する挿通口が形成された内側底部74aiと、この内側底部74aiに連設されたテーパ状の外側底部74aoとを有している。また、筒状部74bは、その底部側が底部74aの外側底部74aoの外縁部に連接した筒状形態になっている。この筒状部74bは、開口端の高さ位置が培養液張り込み高さよりも高くなるように形成されている。この筒状部74bの周壁の一部は、開閉可能な扉部74bdになり、培養容器10の出し入れが可能になっている。
【0056】
さらに、ケース本体74には、培養容器10に貯留されている培養液15を加温するための電気ヒータ84、培養容器10の容器本体内に配置された計測用素子82aと協働して酸素濃度計測センサ82を形成する検出器82b、等が付設されている。
【0057】
電気ヒータ84は、ケース本体74の筒状部74bの外壁面に固設されており、発生した熱をこの筒状部74bを介して培養容器10に伝達できるようになっている。また、電気ヒータ84には、その過熱によって培養容器10を損傷させてしまうのを防止するため、予め設定した温度を超えた場合にはその加熱を停止する過熱防止制御系が付設されている。
【0058】
検出器82bは、培養容器10の容器本体内に配置された計測用素子82と相対可能なように、ケース本体74の所定位置に形成された取付孔に取付台座を介して取り付けられ、発光素子及び光量子検出素子を筒状部74bの内周面から臨ませている。その際、検出器82bは、取付台座上での保持位置が微調整可能になっている。これにより、合成樹脂フィルム等といった透明な折り畳み可能な部材で構成され、使用前は折り畳まれた形態になっている培養容器10の容器本体11が、その展開時に室温等によって使用形態の形状に多少の変形が生じてしまったような場合であっても、取付台座に保持されている検出器82bの保持位置を微調整することによって、筒状部74bの内周面から臨む検出器82bの発光素子及び光量子検出素子の位置及び向きを微移動して、容器本体11に配置されている計測用素子82aとの間に生じた位置ずれを解消できるようになっている。
【0059】
また、ケース本体74の筒状部74bには、容器本体11の天部に固着された剛性天板12に固定された支持枠部材13の、容器本体11の側面に沿ってかつ容器本体11の軸線方向と平行に底部側に延びる自由端を形成する他端側が係合する係合部75が形成されている。
【0060】
図示の例では、係合部75は、筒状部74bの内壁面の周方向の所定位置に形成され、筒状部74bの開口端からケース本体74の底部側に向かってその軸線方向と平行に延びる係合溝により構成され、支持枠部材13の他端側が嵌合可能な形状になっている。
【0061】
したがって、容器本体11の天部に固着された剛性天板12に固定された支持枠部材13の他端側を、培養容器収容ケース70におけるケース本体74の係合部75に係合させることにより、ケース本体内に支持枠部材13及び容器本体11を起立させて培養容器10を収容することができる。さらに、容器本体11が展開された時点で、ケース本体74の所定位置に配置された計測用素子82aと、培養容器収容ケース70のケース本体74に配置されている検出器82bとが、その蛍光体と発光素子及び光量子検出素子とが相対するように、培養容器収容ケース70に対し培養容器10を位置決めして収容することができる。この場合、ケース本体74における、筒状部74bの内壁面の周方向に係る係合部75と酸素濃度計測センサ82の検出器82bとの配置位置関係は、展開された使用形態での培養容器10における、支持枠部材13の他端側と濃度計測センサ82の計測用素子82aとの間の、容器本体11の外壁面の周方向に係る配置位置関係が適用されている。
【0062】
したがって、支持枠部材13は、培養容器10が培養容器収容ケース70に使用形態で支持されている稼働状態で、ケース本体74の係合部75に位置決め部材として係合することにより、培養容器収容ケース70の一部として機能する。さらに、培養容器収容ケース70のケース本体74又は架台73には、培養容器10における排気流通管34を支持するための支持柱部材71も一体的に取り付け固定できるようになっている。
【0063】
その上で、酸素濃度計測センサ82の検出器82bは、溶存酸素濃度計測装置81に接続されている。溶存酸素濃度計測装置81は、検出器82bから供給される計測値を基に、容器本体内に貯留されている培養液15の溶存酸素濃度を算出し、その算出値を培養装置100の制御装置110に出力する。
【0064】
制御装置110には、この溶存酸素濃度計測装置81からの計測値をはじめとする、図示省略した、例えばpH,溶存炭酸ガス濃度等といった各種計測装置の計測出力や、培養対象等に応じて予め入力装置により設定された培養時間等といった各種設定値が入力されている。制御装置110は、これら入力に基づいて、モータ26,通気用ガス調節装置41,気相用ガス調節装置43,ガス調圧弁52,冷却装置60,電気ヒータ84等といった装置各部の作動制御を行う。
【0065】
本実施の形態に係る生体細胞の培養容器10及び培養装置100を用いた生体細胞の培養作業では、容器本体11が折り畳まれた状態になっている培養容器10を使用形態に展開するに当たって、ユーザは、まず、扉部74bdを開いて、培養容器10を培養容器収容ケース70に収容し、培養容器10の支持枠部材13を培養装置100における培養容器収容ケース70の係合部75に係合させて、検出器82bが設けられている培養容器収容ケース70に対し、培養容器10を位置決め保持する。
【0066】
そして、液中通気用ガス供給管31,気相用ガス供給管32等を、通気用ガス調節装置41,気相用ガス調節装置43等に連通接続するとともに、培養液排出管35を培養容器収容ケース70から導出する。また、排気流通管34には、冷却ブロック61を取り付け、排気フィルタ51は必要に応じてガス調圧弁52に接続する。そして、冷却ブロック61,排気フィルタ51,ガス調圧弁52を支持部材72a〜72cにより支持柱部材71に支持して、排気流通管34による排気ガスの流路の流れ方向が下方に向けて延びないようにし、排気流通管34に液だまりを生じるような屈曲が生じないようにする。その際、これら液中通気用ガス供給管31,気相用ガス供給管32等をはじめとする培養容器10の複数の屈曲可能な配管チューブ30は、微生物の侵入や内部溶液の漏洩を防止するため、使用直前まで密封状態が維持されている。
【0067】
ユーザは、磁性カップリング部材25に、培養容器10の容器本体内の磁性カップリング部材21を、剛性天板12を介在させて磁気的により連結するとともに、磁性カップリング部材25にモータ26の回転軸を連結する。この場合、モータ26は、取付位置を自在に変更できる取付台座(図示省略)を介して架台73に固定支持され、その重量及び回転駆動に伴う振動が培養容器10に直接作用しないようになっている。これにより、培養容器10は、モータ26の重量及び駆動振動から解放されることになる。
【0068】
ユーザは、培養容器10の収容のために開けた扉部74bdを閉めて、培養容器収容ケース70に培養容器10を保持固定する。その後、通気用ガス調節装置41又は気相用ガス調節装置43から液中通気用ガス供給管31又は気相用ガス供給管32を介してガスを培養容器10に注入することにより、折り畳まれた状態になっている培養容器10を展開し、使用形態にすることができる。
【0069】
その際、展開された培養容器10は、培養容器10の支持枠部材13と培養容器収容ケース70の係合部75との係合により、計測用素子82aが貼付される容器本体11の該当周壁部分が培養容器収容ケース70の検出器82bが配置された部分と対向し、密着させられる。これにより、培養中は、計測用素子82aの蛍光面や検出器82bの光量子検出素子には、検出器82bの発光素子からの励起光や計測用素子82aの蛍光面からの蛍光以外の、容器本体外部からの外光が入射しにくい構造にすることができる。
【0070】
ユーザは、生体細胞の培養に当たって、培養容器10への生体細胞や培養液の注入を、液体供給管33を用いて行う。なお、その際、培養する生体細胞が足場依存性を有する場合には、増殖のための足場となるマイクロキャリアが培養液に混入されて使用される。これにより、足場依存性を有する生体の細胞は、マイクロキャリアに接触することにより培養面に付着して増殖することができる。
【0071】
そして、ユーザの開始操作によって生体細胞の培養が開始されると、培養中は、通気用ガス調節装置41,気相用ガス調節装置43は、制御装置110によって、酸素分圧や炭酸ガス分圧、及び通気ガス量が制御され、培養容器10の気相の溶存酸素濃度コントロール,培養液のpHのコントロールが行われる。また、ガス調圧弁52,モータ26,電気ヒータ84, 冷却装置60も、制御装置110によって作動制御され、培養容器10の内圧,培養液の撹拌速度,培養液の加温,排気ガスの冷却のコントロールが行われる。
【0072】
上述した各部のコントロールは、酸素濃度計測センサ82をはじめ、図示省略したpH,溶存炭酸ガス濃度等といった各種検出器の出力や、培養対象等に応じて予め設定された各種設定値を基に、制御装置110の記憶部に予め登録されている手順に従い行われる。
【0073】
ここで、培養液における溶存酸素濃度の制御を例に説明すれば、モータ26を制御して攪拌機構20における撹拌翼23の撹拌回転数を増減する方法、通気用ガス調節装置41や気相用ガス調節装置43を制御して液中通気用ガス供給管31や気相用ガス供給管32への酸素含有ガスの吹き込み量や酸素分圧を増減する方法、又はこれらの方法を併用する方法を、制御装置110が溶存酸素濃度計測装置81から供給される計測値を基に実行することにより制御する。例えば、制御装置110が攪拌機構20における撹拌翼23の撹拌回転数を増減する方法では、攪拌機構20における撹拌翼23の撹拌回転数が増加すると、培養液15の撹拌・混合が強化され、培養液15に対する酸素溶解量が増加するとともに、培養液中の生体細胞の浮遊状況が改善される。
【0074】
また、冷却装置60の冷却ブロック61による、排気流通管内を流通する排気ガスの露点温度を排気フィルタ51のろ過面温度よりも低くする制御は、制御装置110が、検出入力される培養温度や環境温度等に基づいて、例えば冷却ブロック61を流通する冷却水の温度や流量等を冷却装置60に対して制御指示することにより行われる。
【0075】
このように、本実施の形態に係る生体細胞の培養容器10及び培養装置100によれば、排気ガスの結露による排気フィルタ51の閉塞を防止することができ、バイオリアクタとして長期間機能させることができる信頼性の高いシングルユース用の生体細胞の培養容器や培養装置を提供することができる。
【0076】
次に、上述した生体細胞の培養容器10及び培養装置100に適用された、排気流通管34に対して着脱自在に構成された冷却装置60の冷却ブロック61に係る変形例について、図面を基に説明する。
【0077】
なお、その説明に当たって、図2及び図3に示した冷却ブロック61と同一若しくは同様な構成については、同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0078】
図5は、冷却ブロックを備えた排気ブロックユニットの一実施例の構成図である。
本実施例では、排気ブロックユニット120は、断熱材(保温材)で形成されたユニット保護ケース121に、図2及び図3に示した同様な冷却ブロック61が一体的に固設された構成になっている。さらに、図示の排気ブロックユニット120の場合、排気流通管34に加えて、排気フィルタ51やその出口側の流通管53も、一体的に収容保持できる構成になっている。そのため、ユニット保護ケース121は、排気流通管34に対しての装着形態で、排気流通管34及び出口側流通管53が挿通し、排気フィルタ51を収容保持できる。
【0079】
ユニット保護ケース121は、冷却ブロック61の一対のブロック構成部61a,61bに対応させた一対のケース構成部121a,121bを有し、各ケース構成部121a,121bの接合面には、排気流通管挿通部122a1,122b1、ブロック構成部固定部122a2,122b2、排気流通管挿通部122a3,122b3、排気フィルタ収容部122a4,122b4、出口側流通管挿通部122a5,122b5が連設されてなる段付貫通溝122a,122bが形成されている。その上で、ブロック構成部固定部122a2,122b2には、冷却ブロック61のブロック構成部61a,61bが予め固設されている。両ケース構成部121a,121bは、例えばヒンジ123等の連結部材によって互いに連結され、互いの段付貫通溝122a,122bを合わせて、それぞれの接合面を開・閉(すなわち、離間・当接)できるようになっている。
【0080】
さらに、ケース構成部121a,121bには、ブロック構成部61a,61bそれぞれの図3に示した流入口65,流出口66に連通した流入口124,流出口125が形成されている。ケース構成部121aの流入口124は、図示せぬ冷却装置本体の冷却水供給口に連通される一方、ケース構成部121aの流出口125はケース構成部121bの流入口124に屈曲性を有するチューブ126を介して連通接続され、ケース構成部121bの流出口125は図示せぬ冷却装置本体の冷却水回収口に連通されるようになっている。これにより、冷却ブロック61のブロック構成部61a,61bの冷却流路67(図3参照、図5においては図示省略。)を冷却水が流通し、各ブロック構成部61a,61bそれぞれの貫通溝63の溝面(冷却面)が冷却されるようになっている。その際、ブロック構成部61a,61bの接合面以外の筐体面は、断熱材で形成されたユニット保護ケース121によって保護されているので、貫通溝63の溝面(冷却面)は有効かつ効率的に冷却され、冷却ブロック61の冷却効果をより一層向上させることができる。
【0081】
加えて、排気フィルタ51が収容保持される排気フィルタ収容部122a4,122b4には電熱ヒータ127(127a,127b)が設けてあり、環境温度の低下があっても、排気フィルタ51のフィルタ面の温度が排気ガスの露点温度より低下することのないように、制御装置110によって制御される。その際、排気フィルタ収容部122a4,122b4によって形成される排気フィルタ51の収容空間の雰囲気温度としては、培養液の温度以上にすることが好ましい。なお、電熱ヒータ127には、排気フィルタ51の許容温度を超えることのないように、図示せぬ独立した過熱防止機構が付設されている。
【0082】
本実施例によれば、冷却ブロック61と排気フィルタ51を排気ブロックユニット120に着脱自在に、かつ一括して収容固定するため、使い勝手の向上がはかれる。また、排気フィルタ51の温度を培養液15の温度以上に保持できるため、排気フィルタ51の閉塞を生じる危険度を一層低下することができ、培養の長期間維持と製品の安全性向上がはかれる。
【0083】
図6は、冷却ブロックを備えた排気ブロックユニットの別の実施例の構成図である。
本実施例の排気ブロックユニット120は、冷却ブロック61を冷却水の流通によらず、ペルチェ効果を利用したペルチェ素子128を使用して直接冷却するように構成し、排気フィルタ51を収容する空間の加温にも、このペルチェ素子128の発熱面からの熱を利用できる。なお、説明に当たって、図5に示した排気ブロックユニット120と同一若しくは同様な構成については、同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0084】
本実施例においても、排気ブロックユニット120は、断熱材(保温材)で形成されたユニット保護ケース121に、冷却ブロック61が一体的に配設された構成になっている。なお、本実施例の冷却ブロック61は、冷却水の流通に係わる流入口65,流出口66,冷却流路67を備えている必要はなく、熱伝導率の大きな部材を使用して形成されていればよい。
【0085】
そのため、ユニット保護ケース121は、冷却ブロック61の一対のブロック構成部61a,61bに対応させた一対のケース構成部121a,121bを有し、各ケース構成部121a,121bの接合面には、排気流通管挿通部122a1,122b1、冷却ブロック・排気フィルタ収容部122a6,122b6、出口側流通管挿通部122a5,122b5が連設されてなる段付貫通溝122a,122bが形成されている。
【0086】
一対のブロック構成部61a,61bそれぞれの冷却ブロック・排気フィルタ収容部122a6,122b6には、排気流通管挿通部122a1,122b1の側に冷却ブロック61のブロック構成部61a,61bが固設され、出口側流通管挿通部122a5,122b5の側に排気フィルタ51が収容されるようになっている。そして、図示の例では、ペルチェ素子128は、発熱面を冷却ブロック・排気フィルタ収容部122a6,122b6により形成されるフィルタ収容空間130へ向けて、冷却面を冷却ブロック61のブロック構成部61a,61bにおけるフィルタ側端面に当接させて、ブロック構成部61a,61bに固定されている。さらに、ペルチェ素子128の発熱面には、熱放散用の放熱部材129が貼付されており、フィルタ収容空間130の雰囲気への放熱を効率的に行えるようになっている。ペルチェ素子128は、図示せぬ駆動回路を介して、制御装置110により作動制御される。
【0087】
本実施例においては、このフィルタ収容空間130に連通させて、ユニット保護ケース121のケース構成部121aには、フィルタ収容空間130の雰囲気を外部環境の雰囲気と入れ替えるための排気ファン131及び換気通路132が設けられている。排気ファン131も、その作動が制御装置110によって制御される。
【0088】
本実施例の排気ブロックユニット120では、ユニット保護ケース121の一対のケース構成部121a,121bの接合面同士を接合した、排気流通管34に対しての装着形態で、ペルチェ素子128を作動することにより、冷却ブロック61の一対のブロック構成部61a,61bをペルチェ効果により冷却することができ、排気流通管内を流通する排気ガスの露点温度を排気フィルタ51のろ過面温度よりも低くすることができる。同時に、その際におけるペルチェ素子128の発熱面から発熱は、放熱部材129からフィルタ収容空間130に向けて放散されるので、排気フィルタ51のフィルタ面の温度が排気ガスの露点温度より低下することがないように加温することができる。その際、フィルタ収容空間130の雰囲気が過熱する場合には、排気ファン131を稼働させて雰囲気を入れ替えることによって冷却し、フィルタ収容空間130の温度調節を行って、排気フィルタ51のフィルタ面の過熱を防ぐことができる。
【0089】
なお、図示のように、ブロック構成部61a,61bにおけるフィルタ側端面にペルチェ素子128を配置しただけでは、冷却ブロック61の冷却能力に不足が生じる場合には、ブロック構成部61a,61bの接合面以外の他の面にも、ペルチェ素子128をその冷却面を当接させて配置することもできる。この場合、これらペルチェ素子128の発熱面は、フィルタ収容空間130に直接臨ませることはできないので、例えばケース構成部121a,121bに、フィルタ収容空間130に連通するエアダクトを設け、排気ファン131を稼働させて発熱面から発熱をフィルタ収容空間130に導き、排気フィルタ51を加温する構成とすることもできる。
【0090】
本実施例によれば、冷却ブロック61と排気フィルタ51を排気ブロックユニット120に着脱自在に、かつ一括して収容固定するため、使い勝手の向上がはかれる。さらに、冷却ブロック61を冷却するための冷却水配管が不要となり、使い勝手の向上がはかれる。
【符号の説明】
【0091】
10 培養容器、 11 容器本体、 12 剛性天板、 13 支持枠部材、
15 培養液、 20 攪拌機構、 21 磁性カップリング部材、 22 軸部、
23 撹拌翼、 25 磁性カップリング部材、 26 モータ、
30 配管チューブ、 31 液中通気用ガス供給管、 32 気相用ガス供給管、
33 液体供給管、 34 排気流通管、 35 培養液排出管、
41 通気用ガス調節装置、 42 散気装置、 43 気相用ガス調節装置、
44,45 ガス用フィルタ、 46,47,48,49 開閉弁、
51 排気フィルタ、 52 ガス調圧弁、 60 冷却装置、
61 冷却ブロック、 62 挿通孔、 63 貫通溝、 64 ヒンジ、
65 流入口、 66 流出口、 67 冷却流路、 68 チューブ、
70 培養容器収容ケース、 71 支持柱部材、 72 支持部材、 73 架台、
74 ケース本体、 75 係合部、 81 溶存酸素濃度計測装置、
82 酸素濃度計測センサ、 82a 計測用素子、 82b 検出器、
84 電気ヒータ、 100 培養装置、 110 制御装置、
120 排気ブロックユニット、 121 ユニット保護ケース、
122 段付貫通溝、 123 ヒンジ、 124 流入口、 125 流出口、
126 チューブ、 127 電熱ヒータ、 128 ペルチェ素子、
129 放熱部材、 130 フィルタ収容空間、 131 排気ファン、
132 換気通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
折り畳み可能な部材により形成された容器本体と、
該容器本体から延設された複数の管路と
を備えたシングルユースの培養容器を用いて、生体細胞を培養する培養装置であって、
前記培養容器の排気ガスを排出する排気管路を形成するために、前記複数の管路の中の一の管路に設けられ、排気ガスの流通を許容し、外部から前記容器本体内への異物の侵入を防止する排気フィルタと、
前記排気フィルタのろ過面の温度に比較して前記排気フィルタに流入する排気ガスの露点温度を低く保持するために、前記排気管路に着脱自在に構成された冷却ブロックの冷却面を、前記容器本体と前記排気フィルタとの間の前記排気管路の壁面に密着させて当該排気管路の壁面を冷却する冷却装置と
を備えていることを特徴とする培養装置。
【請求項2】
前記冷却装置は、前記冷却ブロックにペルチェ素子を備えた構成であり、
前記冷却ブロックは、閉状態で、前記ペルチェ素子の吸熱側に位置する前記冷却面で前記排気管路の外壁面を囲繞し、開状態で、前記冷却面による囲繞を解除して前記排気管路を解放する着脱機構を備えている
ことを特徴とする請求項1記載の培養装置。
【請求項3】
前記冷却装置は、前記冷却ブロックに形成された流路に冷却流体を流通させる構成であり、
前記冷却ブロックは、閉状態で、前記ペルチェ素子の吸熱側に位置する前記冷却面で前記排気管路の外壁面を囲繞し、開状態で、前記冷却面による囲繞を解除して前記排気管路を解放する着脱機構を備えている
ことを特徴とする請求項1記載の培養装置。
【請求項4】
前記ペルチェ素子の発熱側の放熱により加温された空気によって、前記排気フィルタのろ過面の温度を生体細胞の培養温度より高く保持する加温装置が設けられている
ことを特徴とする請求項2記載の培養装置。
【請求項5】
前記加温装置には、前記排気フィルタのろ過面の温度調節を行うため、前記ペルチェ素子の発熱側に供給される空気の流量を調整する空気流量調整部が備えられている
ことを特徴とする請求項4記載の培養装置。
【請求項6】
前記排気フィルタのろ過面の温度を生体細胞の培養温度より高く保持する加温装置がさらに設けられている
ことを特徴とする請求項1又は3記載の培養装置。
【請求項7】
前記加温装置が電気ヒータ式加熱装置である
ことを特徴とする請求項6記載の培養装置。
【請求項8】
前記加温装置は、前記冷却装置の前記冷却ブロックと一体的に同一の構造体に収容されている
ことを特徴とする請求項7記載の培養装置。
【請求項9】
折り畳み可能な部材により形成された容器本体と、
該容器本体から延設された複数の管路と
を備え、生体細胞を培養するためのシングルユースの培養容器であって、
前記複数の管路の中の一の管路には、前記培養容器の排気ガスを排出する排気管路を形成するため、排気ガスの流通を許容する一方、外部から前記容器本体内に異物が侵入するのを防止する排気フィルタが設けられ、
前記容器本体と前記排気フィルタとの間の前記排気管路には、前記排気フィルタのろ過面の温度に比較して前記排気フィルタに流入する排気ガスの露点温度を低く保持するために、当該装着された前記排気管路の壁面を冷却する冷却面を有する冷却装置の冷却ブロックが着脱自在に設けられている
ことを特徴とする培養容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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