生体組織の識別用のシステム及び方法
本発明は、組織タイプを分析、位置特定及び/又は識別するシステム、方法及びデバイスを提供する。本方法は一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するステップを備え、(a)一以上の組織サンプルのサイトからガス状組織粒子を生成するステップと、(b)サイトから分析計までガス状組織粒子を輸送するステップと、(c)ガス状組織粒子に基づいた組織関連データを生成するために分析計を用いるステップと、(d)組織関連データに基づいて一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するステップと備えることを特徴とする。本発明は、一以上の手術ツールがイオン化の集積部分である場合には外科的処置と密接に使用可能であり、又は一以上の組織部分の分析用の別個の質量分析プローブとして使用可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連する優先出願]
本願は、2009年5月27日出願の米国仮出願第61/181421号の出願日の優先権を主張し、その内容は参照として明確に本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、組織を分析、位置特定(局在化)及び/又は識別するデバイス、システム及び方法に関する。特に、本発明は、組織の崩壊及び質量分析法等の分析法を組み合わせることによって、実時間且つin situで組織を分析、位置特定又は識別するデバイス、システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本願全体にわたって、多様な参考文献が、本発明の関連する現状をより完全に説明するために大カッコで引用される。これらの参考文献の開示は、参照として本開示に組み込まれるものである。
【0004】
病的又は異常組織の識別は、悪性経過の診断及び処置において非常に重要である。一般的に、癌は、画像方法を用いることによって得られた情報に基づいて診断される。特定の画像方法(CT、MRI)は、悪性増殖の識別用に十分な情報を提供しないが、高解像度の画像を提供する。他の方法(特に、核画像法)は比較的悪い解像度を提供するが、多様なタイプの癌を含む増殖組織部を簡単に識別する。従って、二つのタイプの画像法の組み合わせ(PET/CT、PET/MRI)が、癌の識別及び適切な位置特定のために用いられる。
【0005】
正確な診断は一般的に組織学又は細胞学によって得られる。組織学は、異常/病的組織識別用の代表的な方法であり、組織分類は、組織標本の組織学的検査に基づく。組織学は従来、以下のステップを含む:(1)サンプリング(生検又は手術)、(2)主にホルマリンを用いたサンプルの固定、(3)サンプルを固体マトリクス内に処理又は埋め込み、(4)厚さ2〜10μmの部分を得るための分割、(5)染色、及び(6)顕微鏡での部分の目視検査。染色が基本的に、得られる情報のタイプを決める。従来の染色剤(例えばエオシン・ヘマトキシリン)が、形態的特徴に基づいた細胞の識別を可能にする一方、免疫組織化学的染色は、細胞内の特定のタンパク質の存在を明らかにする。
【0006】
組織学/組織病理学に対する代替案として、細胞病理学的方法も広く用いられている。細胞病理学の場合、細胞のみが、体液から、又はバルク組織から直接に(吸引細胞病理学)サンプルとしてとられ、組織学と同様に、サンプルは、適切な染色処理後に顕微鏡で検査される。
【0007】
組織病理学/細胞病理学及び画像方法はどちらも、癌の診断及び抗癌治療の経過観察用にうまく用いられている。しかしながら、手術前後に得られる情報量とは対照的に、手術部位上の目に見える特徴に対する悪性組織の正確な位置について外科医が得られる情報は僅かである。一般的な場合、外科医は、手術前画像及び自身の感覚(特に触覚及び視覚に関して)に頼る。
【0008】
悪性組織の位置決めの問題は従来、切除腫瘍の術内組織病理学的検査によって解決されてきた。これは、新鮮な切除組織を冷凍して、それを病理研究室に送り、そこでサンプルを分割し染色して顕微鏡で検査することによって行われる。この方法の目的は、切除細胞の全ての境界が“クリア”である(つまり健常細胞のみが解剖されている)か否かを調べることである。この方法は広く用いられているが、多くの欠点を有し、略20分間必要であること、患者が手術室内で手術創傷が開かれたままにされること、サンプルの準最適な処理によって生じる結果の低い信頼性が挙げられる。
【0009】
腫瘍の術内位置特定用に更に開発された方法は、手術中の多様な画像方法の利用を含む。超音波検査及びX線透視法が手術に附随して長い間使用されてきたが、これらの適用は、一般的に、外科的介入の中断を生じさせる。最近、MRI及びCTに基づいた特別な画像システムが、外科医に実時間情報を提供するために開発されてきている。術内画像システムは最近ではナビゲーションを備えていて、これは画像を視覚的に観察可能な特徴にリンクさせるのに役立つ。こうしたシステムは特定の応用(例えば脊髄手術)において非常に役立つことが明らかにされているが、手術領域上の少量の腫瘍組織や僅かな近位転移を識別することができない。
【0010】
最近開発された一群の有望な技術は、悪性組織の選択的な化学的標識を採用している。標識分子は、放射性核種又は蛍光部分のいずれかを運ぶ。増殖細胞はこれらの分子を蓄積するので、例えばガンマカメラ又は赤外線カメラで可視化できる。これらの方法は、近位転移の検出(例えば、原発腫瘍近くに腫瘍細胞を蓄積する所謂センチネルリンパ節の検出)用にうまく用いられている。これらの方法の弱点は、特定の腫瘍に対する選択性、手術への不適合、標識の望ましくない副作用にある。メラノーマ(黒色腫)は、標識無しで、近赤外線二光子レーザー誘起蛍光発光で検出可能であるが、この方法は、肌表面上の原発性メラノーマの検出にしか用いることができない点は留意されたい。
【0011】
悪性腫瘍は一般的に、その促進された代謝に基づいて、健常組織から区別可能である。腫瘍細胞は、基礎的栄養、又は基礎的栄養と同様の分子(例えばフルオロデオキシグルコース(FDG))を蓄積する。栄養又は擬似栄養分子が放射性核種(PET中の18FDG)又は蛍光部分で標識されると、腫瘍が、適切な可視化方法を用いて見えるようになる。促進された代謝に加えて、腫瘍は、多数の点において健常細胞と異なる。例えば、腫瘍は、小さな代謝成分の分布に始まり、異なるタンパク質発現及び翻訳後修飾パターンといった顕著に異なる化学成分を示す。これらの化学的特徴は、腫瘍の免疫組織化学的可視化や、赤外線分光光度法又は質量分析法を用いた組織部分の化学的画像化において使用可能である。これらの方法の中で、質量分析法は、異なる組織の異なる化学成分を利用したin situ、in vivo組織識別ツールの基礎となり得る唯一の方法である。
【0012】
質量分析イオン化法は従来、ガス状又は揮発性物質の分析用に開発されてきた。これらのイオン化法の一つの欠点は、不揮発性化合物の分析性能に欠ける点である。こうしたグループの化合物として、ペプチド、タンパク質、核酸、炭水化物等が挙げられ、生体関連分子の略90%である。
【0013】
1970年代から、新種のイオン化法が開発されてきていて、気体/固体又は気体/液体界面上で、凝縮相分子を直接イオンに変換し、表面から新生イオンを脱離(脱着)することができる。こうしたイオン化法は一般的に、‘脱離イオン化’法と称される。
【0014】
第二世代の脱離イオン化法は、イオン化用に所謂分析ビームを利用したイオン化の代替法を採用していた。分析ビームは、サンプルの表面上に向けられる高エネルギー粒子(原子、分子、原子イオン又は分子イオン、光子等)を備える。表面上に分析ビームが当たると、微小爆発が生じて、表面物質のガス状イオン及び分子が生じる。分析ビームを利用した初期の方法は、プラズマ脱離イオン化であり、カリホルニウム同位体の放射性崩壊によって生じた高エネルギー粒子を利用していた[非特許文献1]。
【0015】
プラズマ脱離は、不十分に定義された種の発散ビームを利用していたが、二次イオン質量分析法(SIMS,secondary ion mass spectrometry)は、10〜30keVの範囲内に静電場によって加速された原子イオン又はクラスターイオンの平行ビームを利用していた[非特許文献2]。SIMSは、集束イオンビームの断面積に起因して、10nmもの空間解像度に達することができる。優れた空間解像度にも関わらず、SIMSの広範な応用は、SIMSイオン化を受ける分子の限られた分子量範囲によって大きく妨げられている。1kDa以下の分子量を有する一般的な分子はSIMSによって検出可能であるが、この狭い質量範囲においても重イオンに対する強い差別が存在する。方法は詳細分析(ダイナミックSIMS)用にも使用可能であるが、この場合、高エネルギーイオンビームが主に原子イオンを生成する。液体サンプルの調査も、SIMSイオン化の場合に開発されてきた(液体(liquid)SIMS;LSIMS)[非特許文献3]。液体SIMSは、元々の方法と比較して多数の利点を有し、広範な質量範囲(MW<10kDa)、より良い再現性及び感度が挙げられる。LSIMSの一つの欠点は、分析前にサンプルをグリセロール又はニトロベンジルアルコール中に溶解させる必要がある点である。このステップは溶解性の問題を有することが多く、固体サンプルの溶解が、あらゆる種類の空間分解分析を排除することは明らかである。更なる欠点として、この方法でイオン化される種の分子量に対する制限が緩やかではあるが、依然として存在する点が挙げられる。
【0016】
LSIMS法は、一次イオンビームを高速希ガス原子のビームで置換することによって更に開発された。この方法は、‘高速原子衝撃’(FAB,fast ion bombardment)と称され、LSIMSと比較して多くの利点を有していたが[非特許文献4]、本方法は、元々の方法の全ての欠点を事実上保持していて、分子量に対する強い制限や、空間解像分析の性能の喪失が挙げられる。
【0017】
SIMS法の開発の他の方向性は、入射(一次)イオンの質量を増大させることであった。最終的に、この研究は、SIMSのような実験設定における入射体として多価液体(一般的にグリセロール)小滴を利用する所謂マッシブクラスター衝撃(MCI,massive cluster impact)イオン化の開発に繋がった[非特許文献5]。小滴は、2〜10keV/電荷に加速されて、高エネルギー小滴ビームが、サンプル物質(固体でも液体でもあり得る)を有する表面上に向けられる。SIMSと比較してのMCIの実質的な利点は、更に拡大した質量/電荷範囲、及びMCIがタンパク質等の高分子種の多価イオンを主に生成するという非常に重要な点である。この利点は、詳細な質量分析情報を得ること(例えば、タンパク質のシークエンシング)を可能にする。MCIは、限られた分子量範囲、複雑な設備、衝撃グリセロール小滴のスパッタリング効果に起因するサンプル間の二次汚染という欠点を依然として有していた。この方法は、理論的には空間解像分析が可能であるが、これを可能にしようとした既知の従来技術の試みは全て失敗している。
【0018】
上述の方法の共通の欠点は、一般的に厳しい高真空条件において動作する点である。従って、サンプルは、質量分析計の高真空領域内に導入されて、これは、サンプルの組成及び幾何学的形状に対する強い制限を有し、特別なサンプル導入システムも必要とされる。
【0019】
レーザー脱離イオン化法は、1980年代初頭から開発されてきた[非特許文献6]。単純なレーザー脱離イオン化は、SIMSと同様に、低いイオン化効率を有し、比較的限られた数の分子の調査にしか使用できない。レーザー脱離法は、所謂マトリクス化合物の適用によって改革された。マトリクス化合物は一般的に溶液相でサンプルと混合されて、ターゲット表面を有するサンプル上に共結晶化される。
【0020】
マトリクス化合物は過剰に使用されるので、結果物のサンプルは、マトリクス化合物結晶と、その結晶格子中に埋め込まれた検体分子から成る。マトリクス化合物の利用は、イオン化効率を劇的に上昇させて、その方法の適用領域を拡大する。マトリクス支援レーザー脱離イオン化(MALDI,Matrix‐assisted laser desorption ionization)[非特許文献7]は、ポリマー、核酸及び炭水化物分析に加えてトリプシン消化物のMS調査に基づいたタンパク質識別用及び無傷タンパク質分析用に広く用いられている。MALDIの主な欠点として、低いイオン収量、主に単価イオンが生成されること、自然表面がマトリクス化合物堆積後にしか調査できない点が挙げられる。
【0021】
大気条件下において動作する脱離イオン化法に対する必要性が最近高まっている。大気圧脱離イオン化法の利点として、(1)サンプルが質量分析計の真空領域に導入されず、分析手順を高速で柔軟にする点、(2)サンプルが真空内に入れられないので、水等の揮発性成分を除去する必要が無い点、(3)この方法で任意の対象が調査/分析可能である点、(4)生体組織を含む生体系を、in vivo及びin situで調査することができて、この特徴がin situ組織識別用にこの方法を適用することにする点が挙げられる。原子、イオン、分子、又は分子クラスターの平行ビームを用いた脱離イオン化法は、大気圧条件下では使用できない。何故ならば、気体分子との連続的な衝突のせいで、粒子を高圧で適切な速度に加速させることができないからである。同じ現象は、より高圧での粒子ビームの極端な発散にも関与して、実用的な分析ビームの形成を妨げる。
【0022】
上述の方法の中で、レーザー脱離イオン化のみが、設備の大幅な変更無しで、大気圧において実行可能である。何故ならば、レーザービームは、イオン化条件下において空気分子と相互作用しないからである。大気圧MALDIがLaiko等によって開発されたが(非特許文献8)、この方法は、低いイオン収量のせいで人気が無く、この問題は、大気界面における99%のイオン損失、及び、オープンな実験設定におけるレーザーの使用に一般的に関連する作業場の安全問題によって更に高まる。
【0023】
最近開発された脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI,desorption electrospray ionization)[非特許文献9]は、分類学的/現象論的には、上述のMCI法の大気圧バージョンである。両方法とも分析ビームとして多価溶媒小滴を用いるが、DESIの場合、小滴は、エレクトロスプレーによって生成されて、静電場勾配ではなくて超音速ガス流によって加速される。それでも、DESIは、大気圧脱離イオン化法に関連する全ての期待に答え、化学成分、サイズ及び幾何学的形状に関して任意の対象の質量分光分析に対する扉が開かれている。DESIプロセスにおいては、高速エレクトロスプレー小滴が、サンプル表面に衝突する。衝突小滴は、表面上に存在する分子を解離し、帯電した二次小滴を放出する。表面物質を有する荷電二次小滴は、イオンを生成し、最終的にはエレクトロスプレーイオン化の周知のメカニズムに従う。
【0024】
質量分析法による組織の調査は、二つの基本的に異なる方法に進んできた。一つの方法は、組織内に存在する化合物群の系統的特性評価に注目していて、他の方法は、組織の高速で直接的なMSフィンガープリントに注目していた。第一のグループに属する方法は一般的に、多量の組織の均質化及び溶解から始まり、これに、関心化合物群(例えばタンパク質やリン脂質等)の選択的抽出が続く。化合物は、電気泳動又はクロマトグラフィーによって分離されて、質量分析法によって検出される。この方法は、組織の高速識別用には使用することができないが、一方又は他方のタイプの組織についてのマーカー分子特徴に対する計り知れない情報を提供する。
【0025】
組織の高速質量分析フィンガープリントは一般的に、上述の脱離イオン化法によって達成される。組織のSIMS分析は、主にリン脂質フラグメントを示す特徴的なスペクトルを与えるが、この方法は、高真空条件下においてのみ動作するので、組織のin vivio分析には適用できない。組織サンプルのMALDI分析は、使用されるマトリクス化合物のタイプに応じて、豊富タンパク質のイオン又は一般的な膜脂質のイオンのいずれかを特徴付けるスペクトルを与える。両タイプのスペクトルはどちらも特徴的であり、悪性腫瘍の場合に固有の特徴を示すが、この方法は、in vivo分析用には依然として適用できない。何故ならば、マトリクス化合物の堆積は生体に不適合だからである。赤外線レーザー(Er‐YAG又はCO2)を用いた直接レーザー脱離イオン化は、MALDIの特別な場合であり、サンプルの水分がマトリクスとして機能する。この方法は、in vivo分析に完全に適合するが(赤外線レーザーは外科において広く用いられている)、この場合の組織識別は未だ行われていない。最近開発されたDESI法は、多様な膜脂質を特徴付けるスペクトルを与え、そうしたスペクトルは多数の組織に対する特徴的なパターンを与える。DESI分析は、MALDIと異なり、サンプル調製を必要としないので、生体組織の新鮮な切除表面を調査することができる。しかしながら、生体組織のDESI分析では、調査している表面から漏れる血液及び間質液からの干渉のせいで、決定的なデータが得られない。更に、DESI分析の欠点は、生体近傍での4〜5kV DCの使用に関連する安全性の懸念である。
【0026】
MSの現状の上記分析から、豊富タンパク質及びリン脂質はどちらも多様な組織のDI質量分析における特徴的な分布を与えると結論付けられるが、in vivo MS分析に対しては、未だ適切なイオン化方法が開発されていない。
【0027】
急速加熱を用いた凝縮相の不揮発性サンプルのイオン化が、1960年代後半から追求されてきた。その試みの根拠は、検体分子の分解速度に匹敵する崩壊速度を達成するのに十分高い加熱速度を用いることである。Friedman等は、1970年代初頭に急速加熱によるアミノ酸及びペプチドのイオン化の成功について説明している。これらの実験で仮定されたメカニズムは、固相に存在するイオン種の直接崩壊に関連したものであった。これらの実験の実験的な実施は、純粋な結晶検体化合物の接触加熱に限定されていた。より効率的な加熱方法の探究が、質量分析イオン源におけるレーザーの適用に繋がり、結果として、上述の多様なレーザー脱離イオン化法(MALDIを含む)の開発に繋がった。
【0028】
レーザー加熱の代わりに、溶液相化合物の熱支援スプレー崩壊も研究されてきた(例えば非特許文献10を参照)。真空又は不活性雰囲気でのスプレー崩壊は、崩壊速度を劇的に上昇させるので、この方法で、無傷の分子種がうまくガス相に移される。こうした方法は“サーモスプレー”と称され、HPLC‐MSインターフェースとして1980年代後半及び1990年代初頭において広く用いられていた。大抵の熱崩壊法は、圧倒的な中性種の形成をもたらすので、こうした方法は、ポストイオン化法と組み合わせて用いられることが多かった。ポストイオン化は、電子衝突(EI,electron impact)又は化学イオン化(CI,chemical ionization)を用いて従来行われてきた。最近、サンプルのレーザーアブレーションによって得られたガス種のエレクトロスプレーポストイオン化を用いた同様の方法(LAESI)が導入された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】R.D.Macfarlane等、Science、第191巻、第4230号、p.920−925、1976年
【非特許文献2】A.Bennighoven、Surface Science、第28巻、第2号、p.541、1971年
【非特許文献3】W.Aberth、Analytical Chemistry、第54巻、第12号、p.2029−2034、1982年
【非特許文献4】D.H.William等、JACS、第103巻、第19号、p.5700−5704、1981年
【非特許文献5】J.F.Mahoney、Rapid Communications in Mass Spectrometry、第5巻、第10号、p.441−445、1991年
【非特許文献6】R.G.Cooks等、JACS、第103巻、第5号、p.1295−1297、1981年
【非特許文献7】Karas、Hillenkamp、Analytical Chemistry、第60巻、第20号、p.2299−2301、1988年
【非特許文献8】Laiko等、2000年、Anal.Chem.、第72巻、p.652−657
【非特許文献9】Takats等、Science、2004年
【非特許文献10】Vestal等、Anal.Chem.、1980年、第52巻、p.1636−1641
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
必要とされているのは、生体組織の直接in situ調査用に使用可能であって、調査されている生体を傷つけず、比較的短時間で異なるタイプの組織に対する質量スペクトル特性を与え、また、有利には一以上の手術ツール又は解剖ツールの集積部分として手術室で使用可能なMSベースのデバイス、システム及び方法である。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明は、組織タイプを分析、位置特定(局在化)又は識別する新規デバイス、システム及び方法を提供する。本発明の新規デバイス、システム及び方法は、調査されている生体を傷つけずに生体組織のin situ調査を提供することができ、組織に対する処置(外科的処置等)中に実時間フィードバックを提供することができる。本発明のデバイス、システム及び方法は、例えば一以上の手術ツールがイオン化の集積部分である場合には外科的処置と密接に使用可能であり、又は、外科的に露出された領域の一以上の組織部分の分析用の別途の質量分析プローブとして使用可能である。
【0032】
このように、一側面では、本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法を提供し、本方法は、(a)一以上の組織サンプルからガス状組織粒子を生成するステップと、(b)サイトから分析計にガス状組織粒子を輸送するステップと、(c)ガス状組織粒子に基づいた組織関連データを生成するために分析計を用いるステップと、(d)組織関連データに基づいて一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するステップとを備えることを特徴とする。
【0033】
本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステムも提供する。従って、他の側面では、本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定又は識別するシステムを提供し、そのシステムは、(a)サイトにおいて一以上の組織サンプルに接触し且つそのサイトからガス状組織粒子を生成する崩壊デバイスと、(b)サイトから分析計にガス状組織粒子を輸送する輸送手段と、(c)輸送手段に操作可能に結合された分析計であって、ガス状組織粒子に基づいた組織関連データを生成する分析計とを備え、その組織関連データが、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するために用いられることを特徴とする。
【0034】
本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するデバイスも提供する。従って、他の側面では、本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するデバイスを提供し、そのデバイスは、(a)サイトにおいて一以上の組織サンプルに接触し且つそのサイトからガス状組織サンプルを生成する崩壊デバイスと、(b)分析計に動作可能に接続されるように構成された輸送手段であって、サイトから分析計にガス状組織粒子を輸送する輸送手段とを備えることを特徴とする。
【0035】
更に他の側面では、本発明は、質量分析データ獲得方法を提供し、その方法は、(a)サンプルの関心領域を、ガス状サンプル粒子を生成する崩壊デバイスと接触させるステップと、(b)関心領域から質量分析計にガス状サンプル粒子を輸送するステップと、(c)関心領域からのガス状サンプル粒子に基づいたサンプル関連データを獲得するために質量分析計を用いるステップとを備えることを特徴とする。
【0036】
更に他の側面では、本発明は、組織の実時間診断用のシステムを提供し、そのシステムは、(a)サイトにおいて組織に接触し且つそのサイトからガス状組織粒子を生成する崩壊デバイスと、(b)サイトから分析計にガス状組織粒子を輸送する輸送手段と、(c)輸送手段に操作可能に結合された分析計であって、ガス状組織粒子に基づいた実時間組織関連データを生成するように構成された分析計とを備え、その組織関連データが組織を診断するのに用いられることを特徴とする。
【0037】
本発明は、あらゆる生体組織の実時間分析又は識別用に、及びあらゆる目的用に使用可能であることを理解されたい。本開示は、外科的処置に関連して説明される技術の使用例を介して本発明を例示するが、本発明は、例えば、健康及び安全目的での肉製品の分析、組織中の薬剤分子の識別用の生体組織の分析、病気又は感染の存在についての生体組織の分析等にも使用可能である。例示される特定の例は、説明される技術の応用を狭めるものとして読まれるものではない。
【0038】
本発明の更に他の側面では、本発明のシステム、方法及びデバイスは、サイトにおける手術デバイスの使用者に、組織識別の結果の信号を送信することを含む。
【発明の効果】
【0039】
外科的応用における本方法、システム及びデバイスの利点として以下のことが挙げられる:
【0040】
本発明の方法、システム及びデバイスの応用は、外科医が、異なるタイプの組織が手術領域にわたってどのように分布しているのかを検出することを可能にする。この特徴は腫瘍スポットの検出を増進し、腫瘍切除手術及び壊死/虚血組織の切除の場合における組織切除の正確性を増大させる一方、切除される健常組織の量を最小化する。
【0041】
本発明の方法、デバイス及びシステムは、手術中の組織部分の実時間in situ識別を可能にする。
【0042】
本発明の方法、デバイス及びシステムは、悪性腫瘍が手術中に解剖されている場合に外科医に自動的に警告することを可能にする。
【0043】
本発明の方法、デバイス及びシステムの総合的利益として以下のものが挙げられる:
(a)組織切除手術の侵襲性の減少、つまりより早い治癒率、より少ない外科的準備、自動又は半自動的の客観的組織識別;
(b)癌の再発率の減少;
(c)組織識別用の客観的基準の提供;
(d)in vivo及び顕微鏡セクション下の両方における組織の化学的分析の実現;
(e)研究者に対して組織の化学成分についての情報提供;
(f)サンプル調整無しでの組織内の特定の分子(例えば薬剤分子)の濃度測定用の方法論の提供;
(g)手術中の所謂化学標識と組み合わせて適用可能であり、患者が、悪性組織が蓄積すると知られているような分子(標識)を与えられると、癌細胞が標識分子の存在又は不存在に基づいて検出される;
(h)細胞学又はフローサイトメトリーにおける細胞識別の代替的であるが破壊的な方法の実現であり、細胞が質量分析化学フィンガープリントに基づいて識別される;
(i)感染臓器及び粘膜における細菌感染のin situ、in vivo識別の実現
(j)組織の循環/代謝状態のin vivo識別の実現;
(k)サンプルの術内病理組織学検査の必要性の排除、従ってより短い手術時間の実現。
【0044】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになるものである。しかしながら、詳細な説明及び具体的な例は本発明の実施形態を示すものではあるが、単に例示目的で与えられるものであって、本発明の精神及び範囲内の多様な変更及び修正がその詳細な説明から当業者には明らかである点は理解されたい。
【0045】
本発明は、単に例示目的であり本発明の意図した範囲を制限するものではないものとして本願で与えられる詳細な説明及び添付図面からより完全に理解されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一側面に係るin vivo質量分析組織識別システムの概略を示す。
【図2】本発明の他の側面に係るin vivo質量分析組織識別システムの概略を示す。
【図3】二次エレクトロスプレーイオン化を用いた中性ガス状組織粒子のポストイオン化の実施形態を示す。
【図4】コロナ放電イオン化を用いた中性ガス状組織粒子のポストイオン化の実施形態を示す。
【図5】外科的設定における本発明のデバイス及び方法の適用中に得られた全イオン電流を示す。
【図6】図1に示される設定を用いたブタ肝臓の電気手術解剖中に得られた完全な質量スペクトルを示す。
【図7】図1の設定を用いたブタ肝臓の電気手術解剖中に得られた三つの重畳する負イオン質量スペクトルを示す。
【図8】図1に示される設定を用いて、ブタの肝臓、心臓及び肺から負イオンモードで対応する臓器の電気手術解剖中に得られた質量スペクトルを示す。
【図9】図1に示される設定を用いて、イヌのメラノーマ、その近位リンパ節及び周囲の健常な皮膚から負イオンモードで腫瘍及びセンチネルリンパ節の電気外科的切除中に得られた質量スペクトルを示す。
【図10】本発明の更に他の側面に係るガス状組織粒子を生成するレーザー手段を用いたin vivo質量分析組織識別方法及びデバイスの概略を示す。
【図11】電気手術によって得られたスペクトル(上方のスペクトル)及びCO2レーザーを用いたレーザー手術によって得られたスペクトル(下方のスペクトル)の比較を示す。両方のスペクトルは、ブタ肝臓を解剖しポストイオン化無しの外科的解剖で形成されたイオンを分析することによって得られた。
【図12】病院とデータベース開発ユニットとの間のデータフローの概略を示す。病院は、製造業者に生の組織学的に割り当てられたデータを提供することによってデータベース開発を促進し、製造業者はデータを処理して、中央データベースに保存する。
【図13】パネルAは、犬のグレードIIIの肥満細胞腫の外科的解剖中にとられた写真である。パネルBは、パネルAのマーキングされた箇所からとられたスペクトルの三次元主成分分析である。パネルCは、パネルAの手術中の実時間ソフトウェアのスクリーンショットである。1=筋肉、2=皮膚、3=皮下組織、4=肥満細胞腫
【発明を実施するための形態】
【0047】
特に断らない限り、本願で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する分野における通常の知識を有する者によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。同様に、特に断らない限り、特許請求の範囲を除いて、“又は”の使用は“及び”を含むものであり、その逆もまた同様である。特に断らない限り、非限定的な用語は、限定的なものとして解釈されるものではない(例えば、“含む”、“有する”、“備える”は典型的には“制限無く含む”を示すものである)。単数形での表記(特許請求の範囲におけるものも含む)は、特に断らない限り複数形を含むものである。
【0048】
“関心領域”又は“サイト”は、獲得された組織に関するデータセットの対象を備える組織領域を意味する。一実施形態では、関心領域又はサイトは、異常又は病的組織を含むものと疑われる。一部実施形態では、サイトは、正常組織を含むものと考えられ、獲得されたデータは、対照又は背景データとして用いられる。
【0049】
“in situ”は、細胞又は組織の直接調査を意味する。in situは、外科的処置中の対象に対する組織の直接調査を含む。
【0050】
“記憶効果”は、分析プロセスと獲得データとの間の非線形遅延として定義可能である。一つのサンプル(サンプルA)に対応する信号は、サンプルAがもはや分析されていなくても持続し得て、次のサンプルBの分析に干渉し得る。
【0051】
“対象”又は“患者”は、症状、疾患又は病状の治療を必要とする動物(人間を含む)のことを称する。
【0052】
“腫瘍組織”は、癌細胞を含む新生組織のことを称する。腫瘍組織は、固体組織又は非固体組織(例えば白血病等の循環系に存在するようなもの)であり得る。
【0053】
以下、添付図面を参照して本発明を詳述する。
【0054】
本発明者は、超音波又は熱崩壊を用いた外科的方法(例えば電気手術や赤外線レーザー手術)が、多量の組織由来ガス状組織粒子を生成することを発見した。更に、本発明者は、こうしたガス状組織由来粒子の質量スペクトルが、他の質量分析法(DESI、SIMS、MALDI等)によって得られたものと同様であることを発見した。このように、本発明は、組織の崩壊性イオン化及び質量分析を組み合わせることによって実時間且つin situで組織を分析、位置特定及び/又は識別するデバイス、システム及び方法を提供する。
【0055】
組織を崩壊させることによって、荷電粒子及び非荷電粒子が気相で生成される。本発明者は、分子のクラスター(漸次解離して分子イオンを生じさせる)のように崩壊性を介して生成される荷電粒子を発見した。この漸進的解離は、典型的に崩壊点において開始し、本発明に関しては典型的に質量分析計内に分子アイコンを生じさせて完了する(好ましくは質量分析の前に)。非荷電粒子はポストイオン化可能であり、また、ポストイオン化は、個々の分子イオンから巨視的小滴まで及ぶ荷電分子クラスター分布を生じさせる。これらのクラスターは、漸進的に会合して、分子イオンを生じさせる。このように、組織の崩壊は、荷電組織粒子を生じさせて質量分析法における使用に適した分子イオンを生じさせるように操作可能である。
【0056】
このように、一側面において、本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステムを提供し、そのシステムは、(a)サイトにおいて一以上の組織サンプルと接触しそのサイトからガス状組織粒子を発生させる崩壊デバイスと、(b)そのサイトから分析計にガス状組織粒子を輸送する輸送手段と、(c)輸送手段に操作可能に結合された分析計であって、ガス状組織粒子に基づいた組織関連データを生成する分析計とを備え、その組織関連データは、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するのに用いられる。
【0057】
他の側面では、本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するデバイスを提供し、そのデバイスは、(a)サイトにおいて一以上の組織サンプルに接触し且つそのサイトからガス状組織粒子を生成する崩壊デバイスと、(b)分析計に操作可能に接続されるように構成された輸送手段であって、サイトから分析計までガス状組織粒子を輸送する輸送手段とを備えることを特徴とする。
【0058】
本願の新規方法、システム及びデバイスは、急速蒸発イオン化質量分析法(REIMS,rapid evaporative ionization mass spectrometry)と称され、ガス状組織由来イオンを生成及び識別して、in situで異常組織を位置特定するための組織のエアロゾル化を含み、多数の応用に対して実施可能である。一実施形態によると、REIMS法は、関心領域を検査して、特定のタイプ若しくは組成の組織又は他の特定の属性(例えば癌組織)を有する組織が関心領域に存在するかどうかを識別し、存在する場合には、高空間解像度で癌組織を位置特定するための診断目的で使用可能である。こうした診断法は、外科的処置中に露出される関心領域、又は侵襲的若しくは半侵襲的設備(腹腔鏡、内視鏡、プローブ、光ファイバーケーブル等)に晒される関心領域を検査するのに使用可能である。このように、本発明の方法、システム及びデバイスは、多数の応用における高速検出及び診断に使用可能であり、肺癌、消化器系臓器の癌(食道癌、結腸直腸癌等)、皮膚の癌、生殖器の癌(前立腺癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸癌等)、乳癌、脳腫瘍、リンパ系及び骨の癌等の多様な異常性の検出が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の他の応用は以下で説明する。
【0059】
本発明のシステムの一側面の基本的設定が、図1の外科的設定に示されている。図1に示されるシステムは以下の部分を備える:
【0060】
〈崩壊デバイス10〉崩壊デバイスの主な機能は、超音波又は組織の水分の急速沸騰(組織構造を崩壊させる)を介して生体組織の外へエアロゾルを発生させることである。崩壊は、表面活性分子で覆われたエアロゾル又はガス状粒子(つまり、元々の構造の膜脂質であり、無傷で熱的に劣化した生体分子を含む)の形成につながる。これらのエアロゾル又はガス状粒子は、アニオン種又はカチオン種の不均一分布に起因して正味の電荷を運び得て、それらの小滴は解離して、膜脂質の個々の分子イオンを与え得る。
【0061】
本発明のデバイス、システム及び方法において使用可能な崩壊法は多数存在し、超音波、ジュール加熱、接触加熱、放射加熱(電磁放射(マイクロ波から近紫外線)アブレーションを含む)が挙げられる。
【0062】
図1は、崩壊デバイス10が、関心組織サンプルに電流を誘起することによるジュール加熱を行うシステムを示す。分析の観点からの電極10の機能は、生体組織を遠隔電源70に接触させることである。健常で正常な組織部分20と異常な病的(癌等)組織部分30を流れる電流は、組織部分20、30をジュール加熱によって、荷電種50及び中性種60のガス状混合物に変換する。高周波(>100kHz)の交流(AC)の印加が有利であり得る。何故ならば、直流(DC)及び低周波ACは、生体の電気生理学的プロセスに干渉し得るからである。従って、DC及び低周波ACの印加は、対象にとって危険であり、更には致命的となり得る。
【0063】
組織成分の対応するガス状組織粒子への変換は、現在使用されている手術ツール(電気手術、レーザー手術、ウォータージェット手術、超音波手術等)によって実行可能である。
【0064】
例えば電気手術の場合、電流密度は、鋭い電極近傍においてのみ組織崩壊を生じさせるのに十分に高い。従って、組織は、鋭い電極が体に物理的に接触する箇所において蒸発する。追加の燃焼を排除するために、大面積カウンター電極が使用されるか(単極切除)、又は二つの鋭い電極が互いに近接される(双極切除)。これらの場合、本発明の一側面では、手術デバイスは移送チューブ80を備え得て、その手術デバイスが、二機能の手術及び組織識別ツールに変換可能である。
【0065】
内視鏡検査の場合、標準的な電気手術、レーザー手術、又は超音波手術設備がサンプリング用に使用可能である。内視鏡のワーキングチャネルは、関心ガス状イオンを含む外科的スモークの排出用に使用可能である。一つのサンプリング点は、略1mlのガスの排気を必要とし得るので、適用される真空は、有害な効果をもたらすものではない。
【0066】
〈移送又は輸送チューブ80〉輸送チューブ80は、組織のエアロゾル化で形成された荷電種及び/又は中性種を分析計(質量分析計(MS,mass spectrometer)等)に移送する。本発明の重要な応用が、手術中の生体組織20,30のin situ、in vivo識別、位置特定及び/又は分析であり、質量分析計は外科設備と比較して非常に重い設備であるので、患者をMS設備の近くに置くのではなくて、組織崩壊で形成された荷電種50及び/又は中性種60を、遠隔質量分析計130に移送することが重要である。このように、本発明の側面では、MSは、手術室の外に配置可能である。ガス状組織由来粒子50、60を移送チューブ80を介して運ぶガスは、チューブ80の両端に圧力差を与えることによって発生可能である。輸送チューブ80のサンプリング又は組織側の圧力は、大抵の好ましい応用(例えば外科的応用)において大気圧であるので、圧力差は、MS130に近い方のチューブ80の(輸送チューブ80のMS側の)端部における減圧によって発生可能である。圧力は、別途の流体ポンプ220を用いることによって、又はMS130の真空システムを用いることによって減圧可能である。移送チューブ80は、十分な機械的強度、化学的安定性及び十分高い柔軟性を備えた物質製であり得る。例えば、チューブ80は、多様なポリマー(ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル)、金属(鋼、銅)、ガラス、溶融シリカ製であり得る。物質の重要な特徴として、不活性及び多孔性の無さが挙げられ、つまり、チューブ壁は、荷電50及び中性60ガス状組織粒子を保持するものとはされず、それらの種50、60と相互作用したり、それらの化学反応を促進するものともされない。チューブ80の内径は、略0.1mmから略20mmの間のいずれかであり得て、チューブの長さは、略0から略5000mmの間のいずれかでありか、又はMSと結合するのに十分な長さのものであり得て、チューブの壁厚は、略0.01mmから略5mmの間のいずれかであり得る。移送チューブ80は、大気温度又は高温で使用可能である。動作温度は、大気温度から400℃の間のいずれかに設定可能である。高温は、移送チューブ80の壁表面で行われる吸脱着平衡を脱着寄りにして、望ましくない記憶効果を抑制する傾向がある。また、高温は、気相の会合‐解離平衡を解離寄りにして、イオン種50と逆電荷の再結合率を減じる。移送チューブ80は、少量の多孔質又は繊維状物質(ガラスウール、織物等)を含み得て、個々のガス状イオンを生成しない大きな粒子を不可逆的に捕獲する。重要なのは、正及び負のイオンの両方を備えたイオン群を移送するこのような場合に、非導電性チューブ材料のみが使用可能という点である。更に、こうした場合のイオン移送効率は、例えばRF電場を用いて放射状擬ポテンシャル場を発生させてイオンをチューブの壁から離したままにすることによって、改善可能である。
【0067】
移送チューブ80が、手術における使用中に或る程度の動きを許容するのに十分柔軟である自由部分と、遠隔分析計に到達するため、手術中に動かない固定部分とを含み得る点は理解されたい。
【0068】
移送チューブ80は、組織が外科的に切除されているサイトの隣に保持され得て、ガス状種50、60が移送チューブ80内に入るようにされる。代わりに、崩壊デバイスとして機能する手術ツールを、移送チューブ80に対して同軸上に接続することができる。
【0069】
〈流体ポンプ220〉
流体ポンプ220の主な機能は、移送チューブ80に沿って圧力差を発生させて、移送チューブ80を介したガス流を誘起することである。ガス流は、組織崩壊サイトから質量分析計130に向けて荷電種50及び中性種60を移送する。多様なポンピングメカニズムを用いた流体ポンプを用いることができる。しかしながら、荷電種50及び中性種60が化学的に活性であり得て、また、外科応用の場合に流体ポンプデバイス220を各手術後に消毒又は処分する必要があるので、ベンチュリガスジェットポンプの使用がこれらの場合には望まれる。ベンチュリポンプは、ノズル110及びベンチュリチューブ120を含む。ベンチュリポンプは、一次ガス流を希釈して、ガス流中の荷電種50及び中性種60の濃度を下げることができる一方、ベンチュリポンプは、荷電種50及び中性種60を集束してそのエレクトロスプレー又はコロナ放電イオン化を促進することもできる。ベンチュリポンプの更なる利点は、多機能化の可能性を低下させる可動部分が存在しないことである。
【0070】
流体ポンプ220は省略可能であり(図2に示されるように)、質量分析計の真空システムをポンピングシステムとして使用可能であるが、この実施形態は、大きな質量流量及び線形速度が移送チューブ80内に必要とされる場合には理想的なものでなくなり得る。また、流体ポンプ220は、中性種60のイオン化を大気圧で行うシステムにおいては必須の素子となり得る。重要なのは、エレクトロスプレー及びコロナ放電イオン化法が、比較的高圧(p>10Torr)においてのみ可能である点である。
【0071】
〈ポストイオン化デバイス320〉
熱的又は機械的崩壊法は組織のエアロゾル化において荷電粒子50を生じさせるが、エアロゾル化物質の大部分は、気相において中性のままである。更に、組織の急速熱的又は機械的エアロゾル化においては、特定の分子(主にグリセロリン脂質のグループに属する)のみがイオン化を経る。イオン収量を増大させるため、また、質量分光分析に利用可能な分子範囲を増大させるため、中性種60のイオン化が特定の場合には望まれるものとなり得る。イオン化は、大気圧と真空とのどちらでも実施可能である。大気圧イオン源はより安定でロバストな設備条件を提供しあまり深刻な記憶効果を有しないので、大気圧イオン化が好ましいものとなり得る。
【0072】
本発明のシステム及び方法において使用可能なポストイオン化法は、図3に示される二次エレクトロスプレーイオン化を含む。二次エレクトロスプレーイオン化は、ベンチュリチューブ120のノズル110にキャピラリー180を通して、キャピラリー180を通して導電性溶媒250をポンピングして、高電圧電源170を用いて導電性溶媒250上に高電圧(HV,high voltage)を印加することによって、実施可能である。HVの印加によって、導電性溶媒250は、キャピラリー180の端部から質量分析計130近くにスプレー260されて、導電性溶媒250の荷電小滴270を生成する。荷電小滴270は、中性粒子60及びそれらの荷電粒子50(逆電荷を有する)を分離し、導電性溶媒260及び組織サンプル20、30由来の分子を含む荷電小滴280を生じさせる。荷電小滴280からの導電性溶媒250の蒸発において、気相イオン50が生成され、質量分光分析を受ける。二次エレクトロスプレーイオン化の利点として、本方法は、揮発性分子及び不揮発性分子の両方をイオン化する点が挙げられる。深刻な記憶効果の大半は、揮発性分子及び半揮発性分子の沈降(その沈降は、システム内のこれらの分子に対する低いが一定の蒸気圧を保つ)によって生じるので、不揮発性成分の分析が、実時間分析の観点から重要である。
【0073】
本発明のシステム及び方法において使用可能な他のポストイオン化法は、図4に示されるコロナ放電イオン化である。コロナ放電は、ニードル取り付け部210を介してベンチュリチューブ120上に放電ニードル200を取り付けて、高電圧電源170を用いてニードル200上に高電圧を印加することによって実施される。最適性能を得るために、ベンチュリチューブ120は、加熱素子190を備え、大気温度から500℃の間の温度に加熱される。コロナ放電は、揮発性分子及び半揮発性分子を主にイオン化するが、コロナ放電イオン化は、二次エレクトロスプレーイオン化よりもよりロバストなイオン化として存在し得て、目詰まりや溶解性の影響に悩まされることがない。コロナ放電イオン化と同様に、大気圧ポストイオン化も実施可能である。
【0074】
イオン化は、多様な真空条件下でも実施可能である。こうした方法として、グロー放電イオン化、化学イオン化、電子捕獲イオン化、電子衝突イオン化、フォトイオン化、分子クラスター又は個々の気相分子を対応するガス状イオンに変換することができるあらゆるイオン化法が挙げられる。
【0075】
〈質量分析計130〉
質量分析計130の機能は、組織エアロゾル化で直接形成された、又は中性粒子60のポストイオン化で形成されたイオンを分離及び検出することである。質量分析計は高真空条件下で動作するので、大気圧領域をサンプリングすることができる設備が、本発明の実施には好ましいものとなり得る。大気インターフェースは一般的に、加熱キャピラリー140(大気領域を前方真空領域(p〜1Torr)から分離する一次コンダクタンス限界として作用する)と、スキマー電極160(前方真空領域を高真空領域(p<10−4Torr)から分離する二次コンダクタンス限界)とで構成される。図1〜図3に示される大気インターフェースは、加熱キャピラリー140、集束レンズ150、及びスキマー電極160で構成される。図1〜図3に示される大気インターフェースが有利となるのは、この場合、加熱キャピラリー140及びスキマー電極160の中心軸が実質的に平行であるが重畳していないからである。このように、加熱キャピラリー140を出て行くイオン50は、集束レンズ150上に適切なDC電位を印加することによってスキマー電極160の方に偏向可能である。クーロン力は中性粒子60に影響しないので、荷電粒子50は中性粒子60から効果的に分離されて、中性粒子60が、質量分析計130の高真空領域に入って汚染することがない。あらゆるタイプの質量分析計がガス状イオン50の質量分析に対して適用可能であるが、所謂イオントラップ及び飛行時間設備が好ましいものとなり得る。こうした質量分析計は、特定の期間にわたってイオンを収集し、収集されたイオン群を分析して、信号の過渡性に対するイオン強度比の低い感度が得られる 。
【0076】
輸送チューブ80によって輸送され組織関連データを発生させるガス状組織由来粒子50、60を検出することができる適切な分析計(質量分析計や、イオン移動度スペクトロメータを含む)は、本発明の方法、システム及びデバイスにおいて使用可能である。
【0077】
〈電磁放射ビーム330〉
ジュール加熱又は超音波による組織の崩壊の代わりに、電磁放射(マイクロ波から近紫外線まで)組織崩壊も、組織由来ガス状粒子(ガス状組織由来イオンを含む)を得るために利用可能である。デバイス340によって放出される電磁放射ビーム330は組織20、30によって吸収され、電磁放射ビーム330のエネルギーは、組織20、30の成分をイオンガス状種50及び中性ガス状種60に変換する熱エネルギーに散逸する。赤外線領域の波長のレーザーの印加が好ましくなり得るのは、こうした場合、分子の振動及び回転モードのみが励起されて、追加的な光化学反応が回避可能だからである。赤外線レーザーの更なる利点として、可視光又は紫外線レーザーと比較して、組織による赤外線レーザービームのより良い吸収が挙げられる。外科的レーザーデバイスは、赤外線レーザー領域においてのみ動作するので、市販のレーザー外科設備が、本発明のシステム及び方法において使用可能である。
【0078】
外科的赤外線レーザーに移送チューブ80を備え付けることができて、手術デバイスを、二機能の手術及び組織識別ツールに変換する。組織の崩壊は、組織の水分の急速蒸発によって生じて、組織構造を崩壊させる。崩壊は、表面活性分子で覆われたエアロゾル又はガス状粒子(つまり、元々の構造の膜脂質であり、無傷の熱劣化生体分子を含む)の形成に繋がる。エアロゾル又はガス状粒子は、アニオン種及びカチオン種の不均一な分布に起因して、正味の電荷を運び得て、電気手術と同様に、これらの小滴は解離して、膜脂質の個々の分子イオンを与えることができる。電気手術及びレーザー手術によって得られたサンプルスペクトルが図11に示されている。
【0079】
本発明は、生体組織の質量分光分析及び識別用に開発された方法も提供する。本発明の一般的な実施形態は図1〜図3に示されている。このように、一側面では、本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法を提供し、その方法は、(a)一以上の組織サンプルのサイトからガス状組織粒子を発生させるステップと、(b)サイトから分析計にガス状組織粒子を輸送するステップと、(c)ガス状組織粒子に基づいた組織関連データを発生させるために分析計を使用するステップと、(d)組織関連データに基づいて一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するステップとを備えることを特徴とする。
【0080】
図1に示されるシステムを、質量分析計130、組織エアロゾル化デバイスの制御装置70をオンにして、流体ポンプ220上に不活性ガス流100を適用することによって、スタンバイ位置にすることができる。
【0081】
崩壊デバイス10の一例として電極を用いると、組織分析は、電極10(手術デバイス内に組み込み可能である)をサイトの関心組織に密接に接触させて、電源70を用いて電極間に電位差を印加することによって、実行可能である。組織20、30が電極10と接触すると、電気エネルギーの熱的散逸(ジュール加熱)の結果として、組織が熱的に崩壊して、崩壊組織全体又はその一部が、蒸気50、60(気相の個々の分子を意味する)及びエアロゾル50、60(気相の分子クラスターを意味する)に変換される。
【0082】
電気外科的組織エアロゾル化の代わりに、超音波、ウォータージェット又はレーザービーム330の照射による組織部分20、30のエアロゾル化を用いて、荷電ガス状粒子50及び中性ガス状粒子60を発生させることもできる。
【0083】
これらの荷電ガス状粒子50及び中性ガス状粒子60の化学成分及び帯電は、特に元々の組織のタイプ、組織のエアロゾル化に用いられる方法といった因子に依存する。荷電ガス状粒子50及び中性ガス状粒子60は、輸送チューブ80に入り、流体ポンプ220に移送されるか(流体ポンプを用いた場合)、又は質量分析計130に直接移送される。
【0084】
組織の熱誘起エアロゾル化は、多量の荷電粒子50を生成することができて、中性種60の切除後イオン化(ポストイオン化)無しでの組織分析を可能にする。こうした場合、チューブ80を、質量分析計130に直接接続可能であり、又は流体ポンプ220が、荷電粒子50を質量分析計130に直接移送することができる(ポストイオン化無しで)。荷電粒子50(組織崩壊で形成された)の質量分光分析から得られる情報が、低い信号強度や情報成分の欠如に起因して、組織の適切な識別又は検出には十分でない場合には、中性粒子60のポストイオン化が、分析情報の増強のために使用可能である。
【0085】
流体ポンプ220は、中性粒子60をポストイオン化デバイスに移送し、そこで、中性粒子60の分子の一部が、ガス状イオンに変換されて、組織由来のガス状イオン50と共に質量分析計にサンプリングされる。質量分析計130を用いて、全てのガス状イオンを、質量対電荷比に関して分離して、別々に検出することができる。質量分光分析の結果は、質量スペクトルである(図6〜図9に示される)。中性粒子60を、質量分析計の大気インターフェースにおいては荷電粒子50から完全に分離することができず、荷電粒子50及び中性粒子60は、質量分析計のイオン光学系又は分析計領域に付加物を形成する傾向にある。この現象は低い解像度の質量スペクトル(図6)に繋がるので、望ましくない。不活性ガス分子又は不活性表面との衝突によるイオンの活性化や、光子吸収を有利に用いて、イオン‐分子錯体を排除して、図7に示されるような適切な解像度の質量スペクトルを得ることができる。質量スペクトルそれ自体を、組織の識別、又は異なる組織マトリクス中の特定の微量組織の検出に直接使用することができないので、質量スペクトル組織関連データをデータ分析システム230で処理する必要がある。質量スペクトルはベクトル形式に変換可能であり、複数の組織タイプに対応する質量スペクトルの記録データベース又はライブラリとの比較に基づいて、識別可能である。分析は、純粋な組織から取られたスペクトルの識別か、又は他の組織のマトリクス中の特定のタイプの組織の検出のいずれかを目的とする。代わりに、明確な成分の相対濃度をスペクトルから計算することもできる。
【0086】
イオンの質量分光分析は略200ms未満かかり、データ分析が略100から150msかかり得るので、本発明の側面に係る情報フィードバックは、1秒未満かかるものであって、実時間組織識別を提供することができる。
【0087】
組織の質量スペクトルは、組織特有のパターンを与える膜脂質成分を主に特徴とする。従って、本発明の一側面では、完全なスペクトル情報が、組織の絶対的な識別用に使用可能である。データ分析は、主成分分析(PCA,principal component analysis)に基づいたものであり得て、手術中に、所定のPCA空間が、分析時間に空きを持たせるのに使用される。現状において、PCA空間は、略10000(数万)のスペクトルを含むスペクトルデータベースを用いて計算可能である。
【0088】
実時間組織識別を、実時間組織関連質量スペクトルを既知の組織タイプの質量スペクトルと比較することによって、得ることができる。実時間組織関連質量スペクトルは、複数の既知の組織タイプに対応する質量スペクトルの記録ライブラリと比較可能である。記録ライブラリは、外科的介入中に理論的にはサンプリングされ得る全ての組織タイプのスペクトルを含むことが望ましい。本発明の一側面では、記録ライブラリは、例えばPCAを介して、ノイズフィルタリングされて複数の次元に還元された(例えば300次元データから60次元データに)ベクトルに変換されたスペクトルを含むことができる。記録ライブラリの組織/器官の区別は、データの定量的分類に対しては、60次元の線形判別分析(LDA,linear discriminant analysis)で実行可能である。スペクトルの実時間分類は、ライブラリを用いて実時間スペクトルを分類することによって実行可能である。分類を、例えばマハラノビス距離を用いて行うことができる。
【0089】
本発明のデバイス、システム及び方法を用いた組織の分析/位置特定/識別は、少なくとも二つの異なる方法で実行可能である。所謂アラートモードでは、外科的エアロゾル中のイオン種を連続的に分析することができて、質量分析システムが、解剖されている組織の特性に対する連続的なフィードバックを与えることができる。手術中にとられた我々のソフトウェアのグラフィカルユーザーインターフェースのスクリーンショットが図13Cに示されている。実時間スペクトル識別の結果が、悪性増殖の存在を示すものである場合、又は組織の識別に失敗した場合にはいつでも、システムは、そのシステムの使用者(つまり外科医)にオーディオビジュアルアラートを与えることができる。本発明のシステム又は方法の代替的利用方法は、マイクロプローブモードにおけるものであり得て、関心組織特徴部が、識別目的で動的にサンプリングされる。質量分光組織識別の観点からの二つのモードの主な違いは、個々のスペクトルに対するデータ蓄積時間である、アラートモードでは、データは略0.5〜1sにわたって蓄積されるが、マイクロプローブモードでは、一つのスペクトルに対するデータは、崩壊デバイスがガス状組織粒子を発生させてそのガス状組織粒子を収集している限り蓄積される。術中組織識別の正確性を示すため、個々のサンプリング点(図13A)から得られた結果が、二次元PCAプロット(図13B)に示されている。
【0090】
データシステムの出力情報は連続的に記録可能であり、実時間分析が必要とされる場合には、オーディオ情報、ビジュアル情報又はオーディオビジュアル情報を提供し得るフィードバック240上に表示可能である。結果として、崩壊ボリューム40の組織部分が、侵襲的な方法で分析及び識別されて、組織20、30に不連続性90がもたらされる。不連続性が外科的切除と定義される場合、正味の分析は、外科的切除と比較して、更なる侵襲性を有しない。
【0091】
他の側面では、本発明は、質量分析データ獲得方法を提供し、その方法は、(a)サンプルの関心領域から或る収量のガス状荷電粒子を発生させるステップと、(b)ガス状サンプル粒子を関心領域から質量分析計に輸送するステップと、(c)関心領域からのガス状サンプルイオンの収量に基づいてサンプル関連データを獲得するために質量分析計を使用するステップとを備えることを特徴とする。本発明の一側面では、サンプル関連データは、病院の医療関係者による生体組織の分析又は識別用に、質量分析データ記録のライブラリを含むデータベースを介して利用可能とされ得る。
【0092】
[実施例]
実施例を例示目的で説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0093】
〈実施例1:手術中の組織部分の分析及び識別〉
例えば図1を参照すると、電気手術ユニット(ICC350、Erbe Elektromedizin社)を、四重極イオントラップ質量分析計(LCQ Duo、ThermoFinnigan)と組み合わせて用いる。電気手術切除電極10には、市販のスモーク除去ユニット(Erbe)が備え付けられていて、そのユニット80は、外径8 1/8インチで内径2mmのPTEEチューブを介して流体ポンプ220(VAC100、Veriflo)に接続されていた。流体ポンプ220は、大幅に修正したDESIイオン源(OmniSpray、Prosolia)プラットフォームを用いてLCQ設備に取り付けられた。質量分析計130を負イオンモードで動作させた。700〜800の範囲のイオンが、イオントラップにおいてアイソレートされて、中性ヘリウム原子での衝突活性化を用いて活性化された。スペクトルを700〜800のm/z範囲において獲得した。
【0094】
イヌin vivo及びex vivoデータを、獣医の腫瘍学実習において、自然発生癌を有する犬から獲得した。
【0095】
電気手術電極10を用いて、イヌモデルの正常な上皮組織20から悪性メラノーマ腫瘍30を切除した。腫瘍の再発の可能性を最小化するため、腫瘍30を、健常な皮膚20及び転移を運ぶ周囲のリンパ節の部分と共に切除した。腫瘍境界を、切除されている組織の質量分析識別に基づいて決定した。外科的介入中に得られた全イオン電流の質量スペクトルが図5に示されている。手術中の切除期間は300でラベル付けされていて、洗浄期間は310でラベル付けされている。重要なのは、質量分析信号が、実際の外科的切除が実施されているとき300と、設備が洗浄されている洗浄期間300中においてのみ検出可能である点である。信号上昇及び降下時間の両方は、実際の電気外科的切除の時間と比較して極端に短いので、その実験設定は、記憶効果を最小化して、切除されている組織の実時間分析を可能にする。健常な上皮組織、メラノーマ及び転移からとられた質量スペクトルが、図9に示されている。m/z746とm/z723におけるイオンの比を、腫瘍マーカーとして用いて、この量を、フィードバックデバイス240に表示して、青‐赤の色勾配に翻訳した。
【0096】
オーディオ信号もフィードバックとして用いて、イオン比がMSスペクトルで変化すると、ビープ音の周波数を変化させた。
【0097】
腫瘍20は外科的に上手く切除されて、切除物質の術後組織学的検査によって、手術が成功していて、腫瘍細胞を運ぶリンパ節を切除していたことが明らかになった。
【0098】
〈実施例2:腫瘍細胞のイオン化用の組織中の薬剤の決定〉
電気手術ユニット(ICC350、Erbe Elektomedizin社)を、四重極イオントラップ質量分析計(LCQ Duo、ThermoFinnigan)と組み合わせて使用する。電気手術切除電極10には、市販のスモーク除去ユニット80(Erbe)が備え付けられていて、そのユニット80は、外径8 1/8インチで内径2mmのPTEEチューブを介して流体ポンプ220(VAC100、Veriflo)に接続されていた。流体ポンプ220は、大幅に修正したDESIイオン源(OmniSpray、Prosolia)プラットフォームを用いてLCQ設備に取り付けられた。流体ポンプ220には、キャピラリー180及び高電圧電源170を備えた二次エレクトロスプレーポストイオン化ユニットが備え付けられていた。エレクトロスプレー260及び質量分析計130を正イオンモードで動作させた。m/z447と449におけるイオンを、m/z446をバックグランド信号として用いて、モニタリングした。
【0099】
NCI‐H460ヒト非小細胞肺癌異種移植片を有するヌードマウスは、温度及び光制御室に入れられていて、餌及び水は自由裁量で供給されていた。8週の年齢で、マウスに2×20mg/bw kg ゲフィチニブをドーズした。薬剤処置の3日後に、腫瘍異種移植片を、フェノバルビタール麻酔下においてin vivoでサンプリングした。
【0100】
電気手術電極10を用いて、マウスモデルの20個の健常な肺組織から30個の非小細胞肺癌腫瘍を切除した。動物は、ゲフィチニブを用いた術前化学療法を受けた。ゲフィチニブ(分子量は446)は、NSCLC腫瘍細胞によって過剰発現している上皮成長因子受容体(EGFR,epithelial growth factor receptor)に選択的に結合する。従って、ゲフィチニブは、これらの腫瘍の化学的標識として使用可能である。ゲフィチニブの分子イオンは、浸潤性腫瘍を位置特定するためにモニタリングされた。
【0101】
腫瘍20を20個の健常な肺組織から切除した。腫瘍境界は、切除されている組織の質量分析識別に基づいて決定された。m/z447及びm/z446におけるイオン比を、腫瘍マーカーとして用いて、この量をフィードバックデバイス240に表示して、青‐赤色勾配に翻訳した。オーディオ信号もフィードバックとして用いて、イオン比がMSスペクトルで変化すると、ビープ音の周波数を変化させた。
【0102】
腫瘍20は外科的に上手く切除されて、切除物質の術後組織学的検査によって、手術が成功していたことが明らかになった。
【0103】
〈実施例3:粘膜上の細菌感染の位置特定及び識別〉
DC電源70及び金属電極10を備えた自家製の熱的組織崩壊デバイスを、四重極イオントラップ質量分析計(LCQ Duo、ThermoFinnigan)と組み合わせて用いる。金属電極10を、外径8 1/8インチで内径2mmのPTEEチューブを介して流体ポンプ220(VAC100、Veriflo)に接続した。流体ポンプ220は、大幅に修正したDESIイオン源(OmniSpray、Prosolia)プラットフォームを用いてLCQ設備に取り付けられた。質量分析計130を負イオンモードで動作させた。640〜840の範囲のイオンをイオントラップ内でアイソレートして、中性ヘリウム原子との衝突活性化を用いて活性化した。スペクトルを640〜840のm/z範囲において獲得した。
【0104】
電極10を用いて、多様な細菌に感染した粘膜の上皮層をサンプリングした。この方法及びデバイスの応用は、粘膜の最小侵襲的分析を目的としているので、上皮細胞、細菌及び粘膜を有する略0.1〜0.4mgの全物質を、一つの完全な解釈可能質量スペクトルを記録するために崩壊させた。電極10と接触している組織部分20(喉頭粘膜)を850℃まで加熱した。完全な質量スペクトルを、122個の菌株の質量スペクトルを有するデータベースと比較した。スペクトルの類似性を、200次元質量スペクトルデータベクトルのコサイン(cosinus)として定義した。緑膿菌、肺炎桿菌、黄色ブドウ球菌、及び肺炎連鎖球菌が、データベース検索のヒットリストの第一位における適切なデータ入力で上手く識別された。大抵の場合、最初の三件のヒットも同属に属していた。
【0105】
〈実施例4:ビジネスモデル〉
本発明は、ロボット化手術、一般的な腫瘍手術、病理学及び微生物診断の四つの主な識別応用分野を有する。日常で実際に用いられる設備の価格帯は、質量分析システムの市場価格よりも顕著に低いので、本発明の質量分析計を、正味の製造コストで病院、病理研究室、外来オフィス等に売ることができる。実際の収益は、本発明のシステムの使い捨ての消耗部分として部品10、80、220及びポストイオン化デバイスを製造することによって得られる。このことが望ましいものとなり得るのは、そうでなければ外科的又は診断的介入毎に、部品10、80、220を完全に洗浄して殺菌する必要があるからである。更なる収益源は、データ解析及び個々の質量スペクトルの識別に使用されるソフトウェアであり得る。検索エンジン及びデータベースを、安価ではあるが継続的な費用で使用者に対して継続的に開発して売却することができる。図12に示されるように、売却された全てのシステムは、生データ390を開発チーム380に継続的に提供して中央組織スペクトルデータベース370の開発を促進するインターネットベースのネットワークにリンク可能である。病院360は、インターネットを通じて完全に均一化されて信頼できるデータ400を受信することができる。
【0106】
上述の開示は本発明を一般的に説明するものである。形態の変化及び等価物の置換が、周囲の状況により示唆されたり得策であると判断されたりすると、想定される。特定の用語が本願では採用されているが、こうした用語は、説明目的であり限定目的ではない。本発明の他の変更及び修正が考えられる。このような修正又は変更は、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲内にあるものとされる。
【符号の説明】
【0107】
10 崩壊デバイス
80 移送又は輸送チューブ
130 質量分析計
220 流体ポンプ
320 ポストイオン化デバイス
330 電磁放射ビーム
【技術分野】
【0001】
[関連する優先出願]
本願は、2009年5月27日出願の米国仮出願第61/181421号の出願日の優先権を主張し、その内容は参照として明確に本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、組織を分析、位置特定(局在化)及び/又は識別するデバイス、システム及び方法に関する。特に、本発明は、組織の崩壊及び質量分析法等の分析法を組み合わせることによって、実時間且つin situで組織を分析、位置特定又は識別するデバイス、システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本願全体にわたって、多様な参考文献が、本発明の関連する現状をより完全に説明するために大カッコで引用される。これらの参考文献の開示は、参照として本開示に組み込まれるものである。
【0004】
病的又は異常組織の識別は、悪性経過の診断及び処置において非常に重要である。一般的に、癌は、画像方法を用いることによって得られた情報に基づいて診断される。特定の画像方法(CT、MRI)は、悪性増殖の識別用に十分な情報を提供しないが、高解像度の画像を提供する。他の方法(特に、核画像法)は比較的悪い解像度を提供するが、多様なタイプの癌を含む増殖組織部を簡単に識別する。従って、二つのタイプの画像法の組み合わせ(PET/CT、PET/MRI)が、癌の識別及び適切な位置特定のために用いられる。
【0005】
正確な診断は一般的に組織学又は細胞学によって得られる。組織学は、異常/病的組織識別用の代表的な方法であり、組織分類は、組織標本の組織学的検査に基づく。組織学は従来、以下のステップを含む:(1)サンプリング(生検又は手術)、(2)主にホルマリンを用いたサンプルの固定、(3)サンプルを固体マトリクス内に処理又は埋め込み、(4)厚さ2〜10μmの部分を得るための分割、(5)染色、及び(6)顕微鏡での部分の目視検査。染色が基本的に、得られる情報のタイプを決める。従来の染色剤(例えばエオシン・ヘマトキシリン)が、形態的特徴に基づいた細胞の識別を可能にする一方、免疫組織化学的染色は、細胞内の特定のタンパク質の存在を明らかにする。
【0006】
組織学/組織病理学に対する代替案として、細胞病理学的方法も広く用いられている。細胞病理学の場合、細胞のみが、体液から、又はバルク組織から直接に(吸引細胞病理学)サンプルとしてとられ、組織学と同様に、サンプルは、適切な染色処理後に顕微鏡で検査される。
【0007】
組織病理学/細胞病理学及び画像方法はどちらも、癌の診断及び抗癌治療の経過観察用にうまく用いられている。しかしながら、手術前後に得られる情報量とは対照的に、手術部位上の目に見える特徴に対する悪性組織の正確な位置について外科医が得られる情報は僅かである。一般的な場合、外科医は、手術前画像及び自身の感覚(特に触覚及び視覚に関して)に頼る。
【0008】
悪性組織の位置決めの問題は従来、切除腫瘍の術内組織病理学的検査によって解決されてきた。これは、新鮮な切除組織を冷凍して、それを病理研究室に送り、そこでサンプルを分割し染色して顕微鏡で検査することによって行われる。この方法の目的は、切除細胞の全ての境界が“クリア”である(つまり健常細胞のみが解剖されている)か否かを調べることである。この方法は広く用いられているが、多くの欠点を有し、略20分間必要であること、患者が手術室内で手術創傷が開かれたままにされること、サンプルの準最適な処理によって生じる結果の低い信頼性が挙げられる。
【0009】
腫瘍の術内位置特定用に更に開発された方法は、手術中の多様な画像方法の利用を含む。超音波検査及びX線透視法が手術に附随して長い間使用されてきたが、これらの適用は、一般的に、外科的介入の中断を生じさせる。最近、MRI及びCTに基づいた特別な画像システムが、外科医に実時間情報を提供するために開発されてきている。術内画像システムは最近ではナビゲーションを備えていて、これは画像を視覚的に観察可能な特徴にリンクさせるのに役立つ。こうしたシステムは特定の応用(例えば脊髄手術)において非常に役立つことが明らかにされているが、手術領域上の少量の腫瘍組織や僅かな近位転移を識別することができない。
【0010】
最近開発された一群の有望な技術は、悪性組織の選択的な化学的標識を採用している。標識分子は、放射性核種又は蛍光部分のいずれかを運ぶ。増殖細胞はこれらの分子を蓄積するので、例えばガンマカメラ又は赤外線カメラで可視化できる。これらの方法は、近位転移の検出(例えば、原発腫瘍近くに腫瘍細胞を蓄積する所謂センチネルリンパ節の検出)用にうまく用いられている。これらの方法の弱点は、特定の腫瘍に対する選択性、手術への不適合、標識の望ましくない副作用にある。メラノーマ(黒色腫)は、標識無しで、近赤外線二光子レーザー誘起蛍光発光で検出可能であるが、この方法は、肌表面上の原発性メラノーマの検出にしか用いることができない点は留意されたい。
【0011】
悪性腫瘍は一般的に、その促進された代謝に基づいて、健常組織から区別可能である。腫瘍細胞は、基礎的栄養、又は基礎的栄養と同様の分子(例えばフルオロデオキシグルコース(FDG))を蓄積する。栄養又は擬似栄養分子が放射性核種(PET中の18FDG)又は蛍光部分で標識されると、腫瘍が、適切な可視化方法を用いて見えるようになる。促進された代謝に加えて、腫瘍は、多数の点において健常細胞と異なる。例えば、腫瘍は、小さな代謝成分の分布に始まり、異なるタンパク質発現及び翻訳後修飾パターンといった顕著に異なる化学成分を示す。これらの化学的特徴は、腫瘍の免疫組織化学的可視化や、赤外線分光光度法又は質量分析法を用いた組織部分の化学的画像化において使用可能である。これらの方法の中で、質量分析法は、異なる組織の異なる化学成分を利用したin situ、in vivo組織識別ツールの基礎となり得る唯一の方法である。
【0012】
質量分析イオン化法は従来、ガス状又は揮発性物質の分析用に開発されてきた。これらのイオン化法の一つの欠点は、不揮発性化合物の分析性能に欠ける点である。こうしたグループの化合物として、ペプチド、タンパク質、核酸、炭水化物等が挙げられ、生体関連分子の略90%である。
【0013】
1970年代から、新種のイオン化法が開発されてきていて、気体/固体又は気体/液体界面上で、凝縮相分子を直接イオンに変換し、表面から新生イオンを脱離(脱着)することができる。こうしたイオン化法は一般的に、‘脱離イオン化’法と称される。
【0014】
第二世代の脱離イオン化法は、イオン化用に所謂分析ビームを利用したイオン化の代替法を採用していた。分析ビームは、サンプルの表面上に向けられる高エネルギー粒子(原子、分子、原子イオン又は分子イオン、光子等)を備える。表面上に分析ビームが当たると、微小爆発が生じて、表面物質のガス状イオン及び分子が生じる。分析ビームを利用した初期の方法は、プラズマ脱離イオン化であり、カリホルニウム同位体の放射性崩壊によって生じた高エネルギー粒子を利用していた[非特許文献1]。
【0015】
プラズマ脱離は、不十分に定義された種の発散ビームを利用していたが、二次イオン質量分析法(SIMS,secondary ion mass spectrometry)は、10〜30keVの範囲内に静電場によって加速された原子イオン又はクラスターイオンの平行ビームを利用していた[非特許文献2]。SIMSは、集束イオンビームの断面積に起因して、10nmもの空間解像度に達することができる。優れた空間解像度にも関わらず、SIMSの広範な応用は、SIMSイオン化を受ける分子の限られた分子量範囲によって大きく妨げられている。1kDa以下の分子量を有する一般的な分子はSIMSによって検出可能であるが、この狭い質量範囲においても重イオンに対する強い差別が存在する。方法は詳細分析(ダイナミックSIMS)用にも使用可能であるが、この場合、高エネルギーイオンビームが主に原子イオンを生成する。液体サンプルの調査も、SIMSイオン化の場合に開発されてきた(液体(liquid)SIMS;LSIMS)[非特許文献3]。液体SIMSは、元々の方法と比較して多数の利点を有し、広範な質量範囲(MW<10kDa)、より良い再現性及び感度が挙げられる。LSIMSの一つの欠点は、分析前にサンプルをグリセロール又はニトロベンジルアルコール中に溶解させる必要がある点である。このステップは溶解性の問題を有することが多く、固体サンプルの溶解が、あらゆる種類の空間分解分析を排除することは明らかである。更なる欠点として、この方法でイオン化される種の分子量に対する制限が緩やかではあるが、依然として存在する点が挙げられる。
【0016】
LSIMS法は、一次イオンビームを高速希ガス原子のビームで置換することによって更に開発された。この方法は、‘高速原子衝撃’(FAB,fast ion bombardment)と称され、LSIMSと比較して多くの利点を有していたが[非特許文献4]、本方法は、元々の方法の全ての欠点を事実上保持していて、分子量に対する強い制限や、空間解像分析の性能の喪失が挙げられる。
【0017】
SIMS法の開発の他の方向性は、入射(一次)イオンの質量を増大させることであった。最終的に、この研究は、SIMSのような実験設定における入射体として多価液体(一般的にグリセロール)小滴を利用する所謂マッシブクラスター衝撃(MCI,massive cluster impact)イオン化の開発に繋がった[非特許文献5]。小滴は、2〜10keV/電荷に加速されて、高エネルギー小滴ビームが、サンプル物質(固体でも液体でもあり得る)を有する表面上に向けられる。SIMSと比較してのMCIの実質的な利点は、更に拡大した質量/電荷範囲、及びMCIがタンパク質等の高分子種の多価イオンを主に生成するという非常に重要な点である。この利点は、詳細な質量分析情報を得ること(例えば、タンパク質のシークエンシング)を可能にする。MCIは、限られた分子量範囲、複雑な設備、衝撃グリセロール小滴のスパッタリング効果に起因するサンプル間の二次汚染という欠点を依然として有していた。この方法は、理論的には空間解像分析が可能であるが、これを可能にしようとした既知の従来技術の試みは全て失敗している。
【0018】
上述の方法の共通の欠点は、一般的に厳しい高真空条件において動作する点である。従って、サンプルは、質量分析計の高真空領域内に導入されて、これは、サンプルの組成及び幾何学的形状に対する強い制限を有し、特別なサンプル導入システムも必要とされる。
【0019】
レーザー脱離イオン化法は、1980年代初頭から開発されてきた[非特許文献6]。単純なレーザー脱離イオン化は、SIMSと同様に、低いイオン化効率を有し、比較的限られた数の分子の調査にしか使用できない。レーザー脱離法は、所謂マトリクス化合物の適用によって改革された。マトリクス化合物は一般的に溶液相でサンプルと混合されて、ターゲット表面を有するサンプル上に共結晶化される。
【0020】
マトリクス化合物は過剰に使用されるので、結果物のサンプルは、マトリクス化合物結晶と、その結晶格子中に埋め込まれた検体分子から成る。マトリクス化合物の利用は、イオン化効率を劇的に上昇させて、その方法の適用領域を拡大する。マトリクス支援レーザー脱離イオン化(MALDI,Matrix‐assisted laser desorption ionization)[非特許文献7]は、ポリマー、核酸及び炭水化物分析に加えてトリプシン消化物のMS調査に基づいたタンパク質識別用及び無傷タンパク質分析用に広く用いられている。MALDIの主な欠点として、低いイオン収量、主に単価イオンが生成されること、自然表面がマトリクス化合物堆積後にしか調査できない点が挙げられる。
【0021】
大気条件下において動作する脱離イオン化法に対する必要性が最近高まっている。大気圧脱離イオン化法の利点として、(1)サンプルが質量分析計の真空領域に導入されず、分析手順を高速で柔軟にする点、(2)サンプルが真空内に入れられないので、水等の揮発性成分を除去する必要が無い点、(3)この方法で任意の対象が調査/分析可能である点、(4)生体組織を含む生体系を、in vivo及びin situで調査することができて、この特徴がin situ組織識別用にこの方法を適用することにする点が挙げられる。原子、イオン、分子、又は分子クラスターの平行ビームを用いた脱離イオン化法は、大気圧条件下では使用できない。何故ならば、気体分子との連続的な衝突のせいで、粒子を高圧で適切な速度に加速させることができないからである。同じ現象は、より高圧での粒子ビームの極端な発散にも関与して、実用的な分析ビームの形成を妨げる。
【0022】
上述の方法の中で、レーザー脱離イオン化のみが、設備の大幅な変更無しで、大気圧において実行可能である。何故ならば、レーザービームは、イオン化条件下において空気分子と相互作用しないからである。大気圧MALDIがLaiko等によって開発されたが(非特許文献8)、この方法は、低いイオン収量のせいで人気が無く、この問題は、大気界面における99%のイオン損失、及び、オープンな実験設定におけるレーザーの使用に一般的に関連する作業場の安全問題によって更に高まる。
【0023】
最近開発された脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI,desorption electrospray ionization)[非特許文献9]は、分類学的/現象論的には、上述のMCI法の大気圧バージョンである。両方法とも分析ビームとして多価溶媒小滴を用いるが、DESIの場合、小滴は、エレクトロスプレーによって生成されて、静電場勾配ではなくて超音速ガス流によって加速される。それでも、DESIは、大気圧脱離イオン化法に関連する全ての期待に答え、化学成分、サイズ及び幾何学的形状に関して任意の対象の質量分光分析に対する扉が開かれている。DESIプロセスにおいては、高速エレクトロスプレー小滴が、サンプル表面に衝突する。衝突小滴は、表面上に存在する分子を解離し、帯電した二次小滴を放出する。表面物質を有する荷電二次小滴は、イオンを生成し、最終的にはエレクトロスプレーイオン化の周知のメカニズムに従う。
【0024】
質量分析法による組織の調査は、二つの基本的に異なる方法に進んできた。一つの方法は、組織内に存在する化合物群の系統的特性評価に注目していて、他の方法は、組織の高速で直接的なMSフィンガープリントに注目していた。第一のグループに属する方法は一般的に、多量の組織の均質化及び溶解から始まり、これに、関心化合物群(例えばタンパク質やリン脂質等)の選択的抽出が続く。化合物は、電気泳動又はクロマトグラフィーによって分離されて、質量分析法によって検出される。この方法は、組織の高速識別用には使用することができないが、一方又は他方のタイプの組織についてのマーカー分子特徴に対する計り知れない情報を提供する。
【0025】
組織の高速質量分析フィンガープリントは一般的に、上述の脱離イオン化法によって達成される。組織のSIMS分析は、主にリン脂質フラグメントを示す特徴的なスペクトルを与えるが、この方法は、高真空条件下においてのみ動作するので、組織のin vivio分析には適用できない。組織サンプルのMALDI分析は、使用されるマトリクス化合物のタイプに応じて、豊富タンパク質のイオン又は一般的な膜脂質のイオンのいずれかを特徴付けるスペクトルを与える。両タイプのスペクトルはどちらも特徴的であり、悪性腫瘍の場合に固有の特徴を示すが、この方法は、in vivo分析用には依然として適用できない。何故ならば、マトリクス化合物の堆積は生体に不適合だからである。赤外線レーザー(Er‐YAG又はCO2)を用いた直接レーザー脱離イオン化は、MALDIの特別な場合であり、サンプルの水分がマトリクスとして機能する。この方法は、in vivo分析に完全に適合するが(赤外線レーザーは外科において広く用いられている)、この場合の組織識別は未だ行われていない。最近開発されたDESI法は、多様な膜脂質を特徴付けるスペクトルを与え、そうしたスペクトルは多数の組織に対する特徴的なパターンを与える。DESI分析は、MALDIと異なり、サンプル調製を必要としないので、生体組織の新鮮な切除表面を調査することができる。しかしながら、生体組織のDESI分析では、調査している表面から漏れる血液及び間質液からの干渉のせいで、決定的なデータが得られない。更に、DESI分析の欠点は、生体近傍での4〜5kV DCの使用に関連する安全性の懸念である。
【0026】
MSの現状の上記分析から、豊富タンパク質及びリン脂質はどちらも多様な組織のDI質量分析における特徴的な分布を与えると結論付けられるが、in vivo MS分析に対しては、未だ適切なイオン化方法が開発されていない。
【0027】
急速加熱を用いた凝縮相の不揮発性サンプルのイオン化が、1960年代後半から追求されてきた。その試みの根拠は、検体分子の分解速度に匹敵する崩壊速度を達成するのに十分高い加熱速度を用いることである。Friedman等は、1970年代初頭に急速加熱によるアミノ酸及びペプチドのイオン化の成功について説明している。これらの実験で仮定されたメカニズムは、固相に存在するイオン種の直接崩壊に関連したものであった。これらの実験の実験的な実施は、純粋な結晶検体化合物の接触加熱に限定されていた。より効率的な加熱方法の探究が、質量分析イオン源におけるレーザーの適用に繋がり、結果として、上述の多様なレーザー脱離イオン化法(MALDIを含む)の開発に繋がった。
【0028】
レーザー加熱の代わりに、溶液相化合物の熱支援スプレー崩壊も研究されてきた(例えば非特許文献10を参照)。真空又は不活性雰囲気でのスプレー崩壊は、崩壊速度を劇的に上昇させるので、この方法で、無傷の分子種がうまくガス相に移される。こうした方法は“サーモスプレー”と称され、HPLC‐MSインターフェースとして1980年代後半及び1990年代初頭において広く用いられていた。大抵の熱崩壊法は、圧倒的な中性種の形成をもたらすので、こうした方法は、ポストイオン化法と組み合わせて用いられることが多かった。ポストイオン化は、電子衝突(EI,electron impact)又は化学イオン化(CI,chemical ionization)を用いて従来行われてきた。最近、サンプルのレーザーアブレーションによって得られたガス種のエレクトロスプレーポストイオン化を用いた同様の方法(LAESI)が導入された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0029】
【非特許文献1】R.D.Macfarlane等、Science、第191巻、第4230号、p.920−925、1976年
【非特許文献2】A.Bennighoven、Surface Science、第28巻、第2号、p.541、1971年
【非特許文献3】W.Aberth、Analytical Chemistry、第54巻、第12号、p.2029−2034、1982年
【非特許文献4】D.H.William等、JACS、第103巻、第19号、p.5700−5704、1981年
【非特許文献5】J.F.Mahoney、Rapid Communications in Mass Spectrometry、第5巻、第10号、p.441−445、1991年
【非特許文献6】R.G.Cooks等、JACS、第103巻、第5号、p.1295−1297、1981年
【非特許文献7】Karas、Hillenkamp、Analytical Chemistry、第60巻、第20号、p.2299−2301、1988年
【非特許文献8】Laiko等、2000年、Anal.Chem.、第72巻、p.652−657
【非特許文献9】Takats等、Science、2004年
【非特許文献10】Vestal等、Anal.Chem.、1980年、第52巻、p.1636−1641
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
必要とされているのは、生体組織の直接in situ調査用に使用可能であって、調査されている生体を傷つけず、比較的短時間で異なるタイプの組織に対する質量スペクトル特性を与え、また、有利には一以上の手術ツール又は解剖ツールの集積部分として手術室で使用可能なMSベースのデバイス、システム及び方法である。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明は、組織タイプを分析、位置特定(局在化)又は識別する新規デバイス、システム及び方法を提供する。本発明の新規デバイス、システム及び方法は、調査されている生体を傷つけずに生体組織のin situ調査を提供することができ、組織に対する処置(外科的処置等)中に実時間フィードバックを提供することができる。本発明のデバイス、システム及び方法は、例えば一以上の手術ツールがイオン化の集積部分である場合には外科的処置と密接に使用可能であり、又は、外科的に露出された領域の一以上の組織部分の分析用の別途の質量分析プローブとして使用可能である。
【0032】
このように、一側面では、本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法を提供し、本方法は、(a)一以上の組織サンプルからガス状組織粒子を生成するステップと、(b)サイトから分析計にガス状組織粒子を輸送するステップと、(c)ガス状組織粒子に基づいた組織関連データを生成するために分析計を用いるステップと、(d)組織関連データに基づいて一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するステップとを備えることを特徴とする。
【0033】
本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステムも提供する。従って、他の側面では、本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定又は識別するシステムを提供し、そのシステムは、(a)サイトにおいて一以上の組織サンプルに接触し且つそのサイトからガス状組織粒子を生成する崩壊デバイスと、(b)サイトから分析計にガス状組織粒子を輸送する輸送手段と、(c)輸送手段に操作可能に結合された分析計であって、ガス状組織粒子に基づいた組織関連データを生成する分析計とを備え、その組織関連データが、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するために用いられることを特徴とする。
【0034】
本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するデバイスも提供する。従って、他の側面では、本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するデバイスを提供し、そのデバイスは、(a)サイトにおいて一以上の組織サンプルに接触し且つそのサイトからガス状組織サンプルを生成する崩壊デバイスと、(b)分析計に動作可能に接続されるように構成された輸送手段であって、サイトから分析計にガス状組織粒子を輸送する輸送手段とを備えることを特徴とする。
【0035】
更に他の側面では、本発明は、質量分析データ獲得方法を提供し、その方法は、(a)サンプルの関心領域を、ガス状サンプル粒子を生成する崩壊デバイスと接触させるステップと、(b)関心領域から質量分析計にガス状サンプル粒子を輸送するステップと、(c)関心領域からのガス状サンプル粒子に基づいたサンプル関連データを獲得するために質量分析計を用いるステップとを備えることを特徴とする。
【0036】
更に他の側面では、本発明は、組織の実時間診断用のシステムを提供し、そのシステムは、(a)サイトにおいて組織に接触し且つそのサイトからガス状組織粒子を生成する崩壊デバイスと、(b)サイトから分析計にガス状組織粒子を輸送する輸送手段と、(c)輸送手段に操作可能に結合された分析計であって、ガス状組織粒子に基づいた実時間組織関連データを生成するように構成された分析計とを備え、その組織関連データが組織を診断するのに用いられることを特徴とする。
【0037】
本発明は、あらゆる生体組織の実時間分析又は識別用に、及びあらゆる目的用に使用可能であることを理解されたい。本開示は、外科的処置に関連して説明される技術の使用例を介して本発明を例示するが、本発明は、例えば、健康及び安全目的での肉製品の分析、組織中の薬剤分子の識別用の生体組織の分析、病気又は感染の存在についての生体組織の分析等にも使用可能である。例示される特定の例は、説明される技術の応用を狭めるものとして読まれるものではない。
【0038】
本発明の更に他の側面では、本発明のシステム、方法及びデバイスは、サイトにおける手術デバイスの使用者に、組織識別の結果の信号を送信することを含む。
【発明の効果】
【0039】
外科的応用における本方法、システム及びデバイスの利点として以下のことが挙げられる:
【0040】
本発明の方法、システム及びデバイスの応用は、外科医が、異なるタイプの組織が手術領域にわたってどのように分布しているのかを検出することを可能にする。この特徴は腫瘍スポットの検出を増進し、腫瘍切除手術及び壊死/虚血組織の切除の場合における組織切除の正確性を増大させる一方、切除される健常組織の量を最小化する。
【0041】
本発明の方法、デバイス及びシステムは、手術中の組織部分の実時間in situ識別を可能にする。
【0042】
本発明の方法、デバイス及びシステムは、悪性腫瘍が手術中に解剖されている場合に外科医に自動的に警告することを可能にする。
【0043】
本発明の方法、デバイス及びシステムの総合的利益として以下のものが挙げられる:
(a)組織切除手術の侵襲性の減少、つまりより早い治癒率、より少ない外科的準備、自動又は半自動的の客観的組織識別;
(b)癌の再発率の減少;
(c)組織識別用の客観的基準の提供;
(d)in vivo及び顕微鏡セクション下の両方における組織の化学的分析の実現;
(e)研究者に対して組織の化学成分についての情報提供;
(f)サンプル調整無しでの組織内の特定の分子(例えば薬剤分子)の濃度測定用の方法論の提供;
(g)手術中の所謂化学標識と組み合わせて適用可能であり、患者が、悪性組織が蓄積すると知られているような分子(標識)を与えられると、癌細胞が標識分子の存在又は不存在に基づいて検出される;
(h)細胞学又はフローサイトメトリーにおける細胞識別の代替的であるが破壊的な方法の実現であり、細胞が質量分析化学フィンガープリントに基づいて識別される;
(i)感染臓器及び粘膜における細菌感染のin situ、in vivo識別の実現
(j)組織の循環/代謝状態のin vivo識別の実現;
(k)サンプルの術内病理組織学検査の必要性の排除、従ってより短い手術時間の実現。
【0044】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明から明らかになるものである。しかしながら、詳細な説明及び具体的な例は本発明の実施形態を示すものではあるが、単に例示目的で与えられるものであって、本発明の精神及び範囲内の多様な変更及び修正がその詳細な説明から当業者には明らかである点は理解されたい。
【0045】
本発明は、単に例示目的であり本発明の意図した範囲を制限するものではないものとして本願で与えられる詳細な説明及び添付図面からより完全に理解されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一側面に係るin vivo質量分析組織識別システムの概略を示す。
【図2】本発明の他の側面に係るin vivo質量分析組織識別システムの概略を示す。
【図3】二次エレクトロスプレーイオン化を用いた中性ガス状組織粒子のポストイオン化の実施形態を示す。
【図4】コロナ放電イオン化を用いた中性ガス状組織粒子のポストイオン化の実施形態を示す。
【図5】外科的設定における本発明のデバイス及び方法の適用中に得られた全イオン電流を示す。
【図6】図1に示される設定を用いたブタ肝臓の電気手術解剖中に得られた完全な質量スペクトルを示す。
【図7】図1の設定を用いたブタ肝臓の電気手術解剖中に得られた三つの重畳する負イオン質量スペクトルを示す。
【図8】図1に示される設定を用いて、ブタの肝臓、心臓及び肺から負イオンモードで対応する臓器の電気手術解剖中に得られた質量スペクトルを示す。
【図9】図1に示される設定を用いて、イヌのメラノーマ、その近位リンパ節及び周囲の健常な皮膚から負イオンモードで腫瘍及びセンチネルリンパ節の電気外科的切除中に得られた質量スペクトルを示す。
【図10】本発明の更に他の側面に係るガス状組織粒子を生成するレーザー手段を用いたin vivo質量分析組織識別方法及びデバイスの概略を示す。
【図11】電気手術によって得られたスペクトル(上方のスペクトル)及びCO2レーザーを用いたレーザー手術によって得られたスペクトル(下方のスペクトル)の比較を示す。両方のスペクトルは、ブタ肝臓を解剖しポストイオン化無しの外科的解剖で形成されたイオンを分析することによって得られた。
【図12】病院とデータベース開発ユニットとの間のデータフローの概略を示す。病院は、製造業者に生の組織学的に割り当てられたデータを提供することによってデータベース開発を促進し、製造業者はデータを処理して、中央データベースに保存する。
【図13】パネルAは、犬のグレードIIIの肥満細胞腫の外科的解剖中にとられた写真である。パネルBは、パネルAのマーキングされた箇所からとられたスペクトルの三次元主成分分析である。パネルCは、パネルAの手術中の実時間ソフトウェアのスクリーンショットである。1=筋肉、2=皮膚、3=皮下組織、4=肥満細胞腫
【発明を実施するための形態】
【0047】
特に断らない限り、本願で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明の属する分野における通常の知識を有する者によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。同様に、特に断らない限り、特許請求の範囲を除いて、“又は”の使用は“及び”を含むものであり、その逆もまた同様である。特に断らない限り、非限定的な用語は、限定的なものとして解釈されるものではない(例えば、“含む”、“有する”、“備える”は典型的には“制限無く含む”を示すものである)。単数形での表記(特許請求の範囲におけるものも含む)は、特に断らない限り複数形を含むものである。
【0048】
“関心領域”又は“サイト”は、獲得された組織に関するデータセットの対象を備える組織領域を意味する。一実施形態では、関心領域又はサイトは、異常又は病的組織を含むものと疑われる。一部実施形態では、サイトは、正常組織を含むものと考えられ、獲得されたデータは、対照又は背景データとして用いられる。
【0049】
“in situ”は、細胞又は組織の直接調査を意味する。in situは、外科的処置中の対象に対する組織の直接調査を含む。
【0050】
“記憶効果”は、分析プロセスと獲得データとの間の非線形遅延として定義可能である。一つのサンプル(サンプルA)に対応する信号は、サンプルAがもはや分析されていなくても持続し得て、次のサンプルBの分析に干渉し得る。
【0051】
“対象”又は“患者”は、症状、疾患又は病状の治療を必要とする動物(人間を含む)のことを称する。
【0052】
“腫瘍組織”は、癌細胞を含む新生組織のことを称する。腫瘍組織は、固体組織又は非固体組織(例えば白血病等の循環系に存在するようなもの)であり得る。
【0053】
以下、添付図面を参照して本発明を詳述する。
【0054】
本発明者は、超音波又は熱崩壊を用いた外科的方法(例えば電気手術や赤外線レーザー手術)が、多量の組織由来ガス状組織粒子を生成することを発見した。更に、本発明者は、こうしたガス状組織由来粒子の質量スペクトルが、他の質量分析法(DESI、SIMS、MALDI等)によって得られたものと同様であることを発見した。このように、本発明は、組織の崩壊性イオン化及び質量分析を組み合わせることによって実時間且つin situで組織を分析、位置特定及び/又は識別するデバイス、システム及び方法を提供する。
【0055】
組織を崩壊させることによって、荷電粒子及び非荷電粒子が気相で生成される。本発明者は、分子のクラスター(漸次解離して分子イオンを生じさせる)のように崩壊性を介して生成される荷電粒子を発見した。この漸進的解離は、典型的に崩壊点において開始し、本発明に関しては典型的に質量分析計内に分子アイコンを生じさせて完了する(好ましくは質量分析の前に)。非荷電粒子はポストイオン化可能であり、また、ポストイオン化は、個々の分子イオンから巨視的小滴まで及ぶ荷電分子クラスター分布を生じさせる。これらのクラスターは、漸進的に会合して、分子イオンを生じさせる。このように、組織の崩壊は、荷電組織粒子を生じさせて質量分析法における使用に適した分子イオンを生じさせるように操作可能である。
【0056】
このように、一側面において、本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステムを提供し、そのシステムは、(a)サイトにおいて一以上の組織サンプルと接触しそのサイトからガス状組織粒子を発生させる崩壊デバイスと、(b)そのサイトから分析計にガス状組織粒子を輸送する輸送手段と、(c)輸送手段に操作可能に結合された分析計であって、ガス状組織粒子に基づいた組織関連データを生成する分析計とを備え、その組織関連データは、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するのに用いられる。
【0057】
他の側面では、本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するデバイスを提供し、そのデバイスは、(a)サイトにおいて一以上の組織サンプルに接触し且つそのサイトからガス状組織粒子を生成する崩壊デバイスと、(b)分析計に操作可能に接続されるように構成された輸送手段であって、サイトから分析計までガス状組織粒子を輸送する輸送手段とを備えることを特徴とする。
【0058】
本願の新規方法、システム及びデバイスは、急速蒸発イオン化質量分析法(REIMS,rapid evaporative ionization mass spectrometry)と称され、ガス状組織由来イオンを生成及び識別して、in situで異常組織を位置特定するための組織のエアロゾル化を含み、多数の応用に対して実施可能である。一実施形態によると、REIMS法は、関心領域を検査して、特定のタイプ若しくは組成の組織又は他の特定の属性(例えば癌組織)を有する組織が関心領域に存在するかどうかを識別し、存在する場合には、高空間解像度で癌組織を位置特定するための診断目的で使用可能である。こうした診断法は、外科的処置中に露出される関心領域、又は侵襲的若しくは半侵襲的設備(腹腔鏡、内視鏡、プローブ、光ファイバーケーブル等)に晒される関心領域を検査するのに使用可能である。このように、本発明の方法、システム及びデバイスは、多数の応用における高速検出及び診断に使用可能であり、肺癌、消化器系臓器の癌(食道癌、結腸直腸癌等)、皮膚の癌、生殖器の癌(前立腺癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸癌等)、乳癌、脳腫瘍、リンパ系及び骨の癌等の多様な異常性の検出が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の他の応用は以下で説明する。
【0059】
本発明のシステムの一側面の基本的設定が、図1の外科的設定に示されている。図1に示されるシステムは以下の部分を備える:
【0060】
〈崩壊デバイス10〉崩壊デバイスの主な機能は、超音波又は組織の水分の急速沸騰(組織構造を崩壊させる)を介して生体組織の外へエアロゾルを発生させることである。崩壊は、表面活性分子で覆われたエアロゾル又はガス状粒子(つまり、元々の構造の膜脂質であり、無傷で熱的に劣化した生体分子を含む)の形成につながる。これらのエアロゾル又はガス状粒子は、アニオン種又はカチオン種の不均一分布に起因して正味の電荷を運び得て、それらの小滴は解離して、膜脂質の個々の分子イオンを与え得る。
【0061】
本発明のデバイス、システム及び方法において使用可能な崩壊法は多数存在し、超音波、ジュール加熱、接触加熱、放射加熱(電磁放射(マイクロ波から近紫外線)アブレーションを含む)が挙げられる。
【0062】
図1は、崩壊デバイス10が、関心組織サンプルに電流を誘起することによるジュール加熱を行うシステムを示す。分析の観点からの電極10の機能は、生体組織を遠隔電源70に接触させることである。健常で正常な組織部分20と異常な病的(癌等)組織部分30を流れる電流は、組織部分20、30をジュール加熱によって、荷電種50及び中性種60のガス状混合物に変換する。高周波(>100kHz)の交流(AC)の印加が有利であり得る。何故ならば、直流(DC)及び低周波ACは、生体の電気生理学的プロセスに干渉し得るからである。従って、DC及び低周波ACの印加は、対象にとって危険であり、更には致命的となり得る。
【0063】
組織成分の対応するガス状組織粒子への変換は、現在使用されている手術ツール(電気手術、レーザー手術、ウォータージェット手術、超音波手術等)によって実行可能である。
【0064】
例えば電気手術の場合、電流密度は、鋭い電極近傍においてのみ組織崩壊を生じさせるのに十分に高い。従って、組織は、鋭い電極が体に物理的に接触する箇所において蒸発する。追加の燃焼を排除するために、大面積カウンター電極が使用されるか(単極切除)、又は二つの鋭い電極が互いに近接される(双極切除)。これらの場合、本発明の一側面では、手術デバイスは移送チューブ80を備え得て、その手術デバイスが、二機能の手術及び組織識別ツールに変換可能である。
【0065】
内視鏡検査の場合、標準的な電気手術、レーザー手術、又は超音波手術設備がサンプリング用に使用可能である。内視鏡のワーキングチャネルは、関心ガス状イオンを含む外科的スモークの排出用に使用可能である。一つのサンプリング点は、略1mlのガスの排気を必要とし得るので、適用される真空は、有害な効果をもたらすものではない。
【0066】
〈移送又は輸送チューブ80〉輸送チューブ80は、組織のエアロゾル化で形成された荷電種及び/又は中性種を分析計(質量分析計(MS,mass spectrometer)等)に移送する。本発明の重要な応用が、手術中の生体組織20,30のin situ、in vivo識別、位置特定及び/又は分析であり、質量分析計は外科設備と比較して非常に重い設備であるので、患者をMS設備の近くに置くのではなくて、組織崩壊で形成された荷電種50及び/又は中性種60を、遠隔質量分析計130に移送することが重要である。このように、本発明の側面では、MSは、手術室の外に配置可能である。ガス状組織由来粒子50、60を移送チューブ80を介して運ぶガスは、チューブ80の両端に圧力差を与えることによって発生可能である。輸送チューブ80のサンプリング又は組織側の圧力は、大抵の好ましい応用(例えば外科的応用)において大気圧であるので、圧力差は、MS130に近い方のチューブ80の(輸送チューブ80のMS側の)端部における減圧によって発生可能である。圧力は、別途の流体ポンプ220を用いることによって、又はMS130の真空システムを用いることによって減圧可能である。移送チューブ80は、十分な機械的強度、化学的安定性及び十分高い柔軟性を備えた物質製であり得る。例えば、チューブ80は、多様なポリマー(ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル)、金属(鋼、銅)、ガラス、溶融シリカ製であり得る。物質の重要な特徴として、不活性及び多孔性の無さが挙げられ、つまり、チューブ壁は、荷電50及び中性60ガス状組織粒子を保持するものとはされず、それらの種50、60と相互作用したり、それらの化学反応を促進するものともされない。チューブ80の内径は、略0.1mmから略20mmの間のいずれかであり得て、チューブの長さは、略0から略5000mmの間のいずれかでありか、又はMSと結合するのに十分な長さのものであり得て、チューブの壁厚は、略0.01mmから略5mmの間のいずれかであり得る。移送チューブ80は、大気温度又は高温で使用可能である。動作温度は、大気温度から400℃の間のいずれかに設定可能である。高温は、移送チューブ80の壁表面で行われる吸脱着平衡を脱着寄りにして、望ましくない記憶効果を抑制する傾向がある。また、高温は、気相の会合‐解離平衡を解離寄りにして、イオン種50と逆電荷の再結合率を減じる。移送チューブ80は、少量の多孔質又は繊維状物質(ガラスウール、織物等)を含み得て、個々のガス状イオンを生成しない大きな粒子を不可逆的に捕獲する。重要なのは、正及び負のイオンの両方を備えたイオン群を移送するこのような場合に、非導電性チューブ材料のみが使用可能という点である。更に、こうした場合のイオン移送効率は、例えばRF電場を用いて放射状擬ポテンシャル場を発生させてイオンをチューブの壁から離したままにすることによって、改善可能である。
【0067】
移送チューブ80が、手術における使用中に或る程度の動きを許容するのに十分柔軟である自由部分と、遠隔分析計に到達するため、手術中に動かない固定部分とを含み得る点は理解されたい。
【0068】
移送チューブ80は、組織が外科的に切除されているサイトの隣に保持され得て、ガス状種50、60が移送チューブ80内に入るようにされる。代わりに、崩壊デバイスとして機能する手術ツールを、移送チューブ80に対して同軸上に接続することができる。
【0069】
〈流体ポンプ220〉
流体ポンプ220の主な機能は、移送チューブ80に沿って圧力差を発生させて、移送チューブ80を介したガス流を誘起することである。ガス流は、組織崩壊サイトから質量分析計130に向けて荷電種50及び中性種60を移送する。多様なポンピングメカニズムを用いた流体ポンプを用いることができる。しかしながら、荷電種50及び中性種60が化学的に活性であり得て、また、外科応用の場合に流体ポンプデバイス220を各手術後に消毒又は処分する必要があるので、ベンチュリガスジェットポンプの使用がこれらの場合には望まれる。ベンチュリポンプは、ノズル110及びベンチュリチューブ120を含む。ベンチュリポンプは、一次ガス流を希釈して、ガス流中の荷電種50及び中性種60の濃度を下げることができる一方、ベンチュリポンプは、荷電種50及び中性種60を集束してそのエレクトロスプレー又はコロナ放電イオン化を促進することもできる。ベンチュリポンプの更なる利点は、多機能化の可能性を低下させる可動部分が存在しないことである。
【0070】
流体ポンプ220は省略可能であり(図2に示されるように)、質量分析計の真空システムをポンピングシステムとして使用可能であるが、この実施形態は、大きな質量流量及び線形速度が移送チューブ80内に必要とされる場合には理想的なものでなくなり得る。また、流体ポンプ220は、中性種60のイオン化を大気圧で行うシステムにおいては必須の素子となり得る。重要なのは、エレクトロスプレー及びコロナ放電イオン化法が、比較的高圧(p>10Torr)においてのみ可能である点である。
【0071】
〈ポストイオン化デバイス320〉
熱的又は機械的崩壊法は組織のエアロゾル化において荷電粒子50を生じさせるが、エアロゾル化物質の大部分は、気相において中性のままである。更に、組織の急速熱的又は機械的エアロゾル化においては、特定の分子(主にグリセロリン脂質のグループに属する)のみがイオン化を経る。イオン収量を増大させるため、また、質量分光分析に利用可能な分子範囲を増大させるため、中性種60のイオン化が特定の場合には望まれるものとなり得る。イオン化は、大気圧と真空とのどちらでも実施可能である。大気圧イオン源はより安定でロバストな設備条件を提供しあまり深刻な記憶効果を有しないので、大気圧イオン化が好ましいものとなり得る。
【0072】
本発明のシステム及び方法において使用可能なポストイオン化法は、図3に示される二次エレクトロスプレーイオン化を含む。二次エレクトロスプレーイオン化は、ベンチュリチューブ120のノズル110にキャピラリー180を通して、キャピラリー180を通して導電性溶媒250をポンピングして、高電圧電源170を用いて導電性溶媒250上に高電圧(HV,high voltage)を印加することによって、実施可能である。HVの印加によって、導電性溶媒250は、キャピラリー180の端部から質量分析計130近くにスプレー260されて、導電性溶媒250の荷電小滴270を生成する。荷電小滴270は、中性粒子60及びそれらの荷電粒子50(逆電荷を有する)を分離し、導電性溶媒260及び組織サンプル20、30由来の分子を含む荷電小滴280を生じさせる。荷電小滴280からの導電性溶媒250の蒸発において、気相イオン50が生成され、質量分光分析を受ける。二次エレクトロスプレーイオン化の利点として、本方法は、揮発性分子及び不揮発性分子の両方をイオン化する点が挙げられる。深刻な記憶効果の大半は、揮発性分子及び半揮発性分子の沈降(その沈降は、システム内のこれらの分子に対する低いが一定の蒸気圧を保つ)によって生じるので、不揮発性成分の分析が、実時間分析の観点から重要である。
【0073】
本発明のシステム及び方法において使用可能な他のポストイオン化法は、図4に示されるコロナ放電イオン化である。コロナ放電は、ニードル取り付け部210を介してベンチュリチューブ120上に放電ニードル200を取り付けて、高電圧電源170を用いてニードル200上に高電圧を印加することによって実施される。最適性能を得るために、ベンチュリチューブ120は、加熱素子190を備え、大気温度から500℃の間の温度に加熱される。コロナ放電は、揮発性分子及び半揮発性分子を主にイオン化するが、コロナ放電イオン化は、二次エレクトロスプレーイオン化よりもよりロバストなイオン化として存在し得て、目詰まりや溶解性の影響に悩まされることがない。コロナ放電イオン化と同様に、大気圧ポストイオン化も実施可能である。
【0074】
イオン化は、多様な真空条件下でも実施可能である。こうした方法として、グロー放電イオン化、化学イオン化、電子捕獲イオン化、電子衝突イオン化、フォトイオン化、分子クラスター又は個々の気相分子を対応するガス状イオンに変換することができるあらゆるイオン化法が挙げられる。
【0075】
〈質量分析計130〉
質量分析計130の機能は、組織エアロゾル化で直接形成された、又は中性粒子60のポストイオン化で形成されたイオンを分離及び検出することである。質量分析計は高真空条件下で動作するので、大気圧領域をサンプリングすることができる設備が、本発明の実施には好ましいものとなり得る。大気インターフェースは一般的に、加熱キャピラリー140(大気領域を前方真空領域(p〜1Torr)から分離する一次コンダクタンス限界として作用する)と、スキマー電極160(前方真空領域を高真空領域(p<10−4Torr)から分離する二次コンダクタンス限界)とで構成される。図1〜図3に示される大気インターフェースは、加熱キャピラリー140、集束レンズ150、及びスキマー電極160で構成される。図1〜図3に示される大気インターフェースが有利となるのは、この場合、加熱キャピラリー140及びスキマー電極160の中心軸が実質的に平行であるが重畳していないからである。このように、加熱キャピラリー140を出て行くイオン50は、集束レンズ150上に適切なDC電位を印加することによってスキマー電極160の方に偏向可能である。クーロン力は中性粒子60に影響しないので、荷電粒子50は中性粒子60から効果的に分離されて、中性粒子60が、質量分析計130の高真空領域に入って汚染することがない。あらゆるタイプの質量分析計がガス状イオン50の質量分析に対して適用可能であるが、所謂イオントラップ及び飛行時間設備が好ましいものとなり得る。こうした質量分析計は、特定の期間にわたってイオンを収集し、収集されたイオン群を分析して、信号の過渡性に対するイオン強度比の低い感度が得られる 。
【0076】
輸送チューブ80によって輸送され組織関連データを発生させるガス状組織由来粒子50、60を検出することができる適切な分析計(質量分析計や、イオン移動度スペクトロメータを含む)は、本発明の方法、システム及びデバイスにおいて使用可能である。
【0077】
〈電磁放射ビーム330〉
ジュール加熱又は超音波による組織の崩壊の代わりに、電磁放射(マイクロ波から近紫外線まで)組織崩壊も、組織由来ガス状粒子(ガス状組織由来イオンを含む)を得るために利用可能である。デバイス340によって放出される電磁放射ビーム330は組織20、30によって吸収され、電磁放射ビーム330のエネルギーは、組織20、30の成分をイオンガス状種50及び中性ガス状種60に変換する熱エネルギーに散逸する。赤外線領域の波長のレーザーの印加が好ましくなり得るのは、こうした場合、分子の振動及び回転モードのみが励起されて、追加的な光化学反応が回避可能だからである。赤外線レーザーの更なる利点として、可視光又は紫外線レーザーと比較して、組織による赤外線レーザービームのより良い吸収が挙げられる。外科的レーザーデバイスは、赤外線レーザー領域においてのみ動作するので、市販のレーザー外科設備が、本発明のシステム及び方法において使用可能である。
【0078】
外科的赤外線レーザーに移送チューブ80を備え付けることができて、手術デバイスを、二機能の手術及び組織識別ツールに変換する。組織の崩壊は、組織の水分の急速蒸発によって生じて、組織構造を崩壊させる。崩壊は、表面活性分子で覆われたエアロゾル又はガス状粒子(つまり、元々の構造の膜脂質であり、無傷の熱劣化生体分子を含む)の形成に繋がる。エアロゾル又はガス状粒子は、アニオン種及びカチオン種の不均一な分布に起因して、正味の電荷を運び得て、電気手術と同様に、これらの小滴は解離して、膜脂質の個々の分子イオンを与えることができる。電気手術及びレーザー手術によって得られたサンプルスペクトルが図11に示されている。
【0079】
本発明は、生体組織の質量分光分析及び識別用に開発された方法も提供する。本発明の一般的な実施形態は図1〜図3に示されている。このように、一側面では、本発明は、一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法を提供し、その方法は、(a)一以上の組織サンプルのサイトからガス状組織粒子を発生させるステップと、(b)サイトから分析計にガス状組織粒子を輸送するステップと、(c)ガス状組織粒子に基づいた組織関連データを発生させるために分析計を使用するステップと、(d)組織関連データに基づいて一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するステップとを備えることを特徴とする。
【0080】
図1に示されるシステムを、質量分析計130、組織エアロゾル化デバイスの制御装置70をオンにして、流体ポンプ220上に不活性ガス流100を適用することによって、スタンバイ位置にすることができる。
【0081】
崩壊デバイス10の一例として電極を用いると、組織分析は、電極10(手術デバイス内に組み込み可能である)をサイトの関心組織に密接に接触させて、電源70を用いて電極間に電位差を印加することによって、実行可能である。組織20、30が電極10と接触すると、電気エネルギーの熱的散逸(ジュール加熱)の結果として、組織が熱的に崩壊して、崩壊組織全体又はその一部が、蒸気50、60(気相の個々の分子を意味する)及びエアロゾル50、60(気相の分子クラスターを意味する)に変換される。
【0082】
電気外科的組織エアロゾル化の代わりに、超音波、ウォータージェット又はレーザービーム330の照射による組織部分20、30のエアロゾル化を用いて、荷電ガス状粒子50及び中性ガス状粒子60を発生させることもできる。
【0083】
これらの荷電ガス状粒子50及び中性ガス状粒子60の化学成分及び帯電は、特に元々の組織のタイプ、組織のエアロゾル化に用いられる方法といった因子に依存する。荷電ガス状粒子50及び中性ガス状粒子60は、輸送チューブ80に入り、流体ポンプ220に移送されるか(流体ポンプを用いた場合)、又は質量分析計130に直接移送される。
【0084】
組織の熱誘起エアロゾル化は、多量の荷電粒子50を生成することができて、中性種60の切除後イオン化(ポストイオン化)無しでの組織分析を可能にする。こうした場合、チューブ80を、質量分析計130に直接接続可能であり、又は流体ポンプ220が、荷電粒子50を質量分析計130に直接移送することができる(ポストイオン化無しで)。荷電粒子50(組織崩壊で形成された)の質量分光分析から得られる情報が、低い信号強度や情報成分の欠如に起因して、組織の適切な識別又は検出には十分でない場合には、中性粒子60のポストイオン化が、分析情報の増強のために使用可能である。
【0085】
流体ポンプ220は、中性粒子60をポストイオン化デバイスに移送し、そこで、中性粒子60の分子の一部が、ガス状イオンに変換されて、組織由来のガス状イオン50と共に質量分析計にサンプリングされる。質量分析計130を用いて、全てのガス状イオンを、質量対電荷比に関して分離して、別々に検出することができる。質量分光分析の結果は、質量スペクトルである(図6〜図9に示される)。中性粒子60を、質量分析計の大気インターフェースにおいては荷電粒子50から完全に分離することができず、荷電粒子50及び中性粒子60は、質量分析計のイオン光学系又は分析計領域に付加物を形成する傾向にある。この現象は低い解像度の質量スペクトル(図6)に繋がるので、望ましくない。不活性ガス分子又は不活性表面との衝突によるイオンの活性化や、光子吸収を有利に用いて、イオン‐分子錯体を排除して、図7に示されるような適切な解像度の質量スペクトルを得ることができる。質量スペクトルそれ自体を、組織の識別、又は異なる組織マトリクス中の特定の微量組織の検出に直接使用することができないので、質量スペクトル組織関連データをデータ分析システム230で処理する必要がある。質量スペクトルはベクトル形式に変換可能であり、複数の組織タイプに対応する質量スペクトルの記録データベース又はライブラリとの比較に基づいて、識別可能である。分析は、純粋な組織から取られたスペクトルの識別か、又は他の組織のマトリクス中の特定のタイプの組織の検出のいずれかを目的とする。代わりに、明確な成分の相対濃度をスペクトルから計算することもできる。
【0086】
イオンの質量分光分析は略200ms未満かかり、データ分析が略100から150msかかり得るので、本発明の側面に係る情報フィードバックは、1秒未満かかるものであって、実時間組織識別を提供することができる。
【0087】
組織の質量スペクトルは、組織特有のパターンを与える膜脂質成分を主に特徴とする。従って、本発明の一側面では、完全なスペクトル情報が、組織の絶対的な識別用に使用可能である。データ分析は、主成分分析(PCA,principal component analysis)に基づいたものであり得て、手術中に、所定のPCA空間が、分析時間に空きを持たせるのに使用される。現状において、PCA空間は、略10000(数万)のスペクトルを含むスペクトルデータベースを用いて計算可能である。
【0088】
実時間組織識別を、実時間組織関連質量スペクトルを既知の組織タイプの質量スペクトルと比較することによって、得ることができる。実時間組織関連質量スペクトルは、複数の既知の組織タイプに対応する質量スペクトルの記録ライブラリと比較可能である。記録ライブラリは、外科的介入中に理論的にはサンプリングされ得る全ての組織タイプのスペクトルを含むことが望ましい。本発明の一側面では、記録ライブラリは、例えばPCAを介して、ノイズフィルタリングされて複数の次元に還元された(例えば300次元データから60次元データに)ベクトルに変換されたスペクトルを含むことができる。記録ライブラリの組織/器官の区別は、データの定量的分類に対しては、60次元の線形判別分析(LDA,linear discriminant analysis)で実行可能である。スペクトルの実時間分類は、ライブラリを用いて実時間スペクトルを分類することによって実行可能である。分類を、例えばマハラノビス距離を用いて行うことができる。
【0089】
本発明のデバイス、システム及び方法を用いた組織の分析/位置特定/識別は、少なくとも二つの異なる方法で実行可能である。所謂アラートモードでは、外科的エアロゾル中のイオン種を連続的に分析することができて、質量分析システムが、解剖されている組織の特性に対する連続的なフィードバックを与えることができる。手術中にとられた我々のソフトウェアのグラフィカルユーザーインターフェースのスクリーンショットが図13Cに示されている。実時間スペクトル識別の結果が、悪性増殖の存在を示すものである場合、又は組織の識別に失敗した場合にはいつでも、システムは、そのシステムの使用者(つまり外科医)にオーディオビジュアルアラートを与えることができる。本発明のシステム又は方法の代替的利用方法は、マイクロプローブモードにおけるものであり得て、関心組織特徴部が、識別目的で動的にサンプリングされる。質量分光組織識別の観点からの二つのモードの主な違いは、個々のスペクトルに対するデータ蓄積時間である、アラートモードでは、データは略0.5〜1sにわたって蓄積されるが、マイクロプローブモードでは、一つのスペクトルに対するデータは、崩壊デバイスがガス状組織粒子を発生させてそのガス状組織粒子を収集している限り蓄積される。術中組織識別の正確性を示すため、個々のサンプリング点(図13A)から得られた結果が、二次元PCAプロット(図13B)に示されている。
【0090】
データシステムの出力情報は連続的に記録可能であり、実時間分析が必要とされる場合には、オーディオ情報、ビジュアル情報又はオーディオビジュアル情報を提供し得るフィードバック240上に表示可能である。結果として、崩壊ボリューム40の組織部分が、侵襲的な方法で分析及び識別されて、組織20、30に不連続性90がもたらされる。不連続性が外科的切除と定義される場合、正味の分析は、外科的切除と比較して、更なる侵襲性を有しない。
【0091】
他の側面では、本発明は、質量分析データ獲得方法を提供し、その方法は、(a)サンプルの関心領域から或る収量のガス状荷電粒子を発生させるステップと、(b)ガス状サンプル粒子を関心領域から質量分析計に輸送するステップと、(c)関心領域からのガス状サンプルイオンの収量に基づいてサンプル関連データを獲得するために質量分析計を使用するステップとを備えることを特徴とする。本発明の一側面では、サンプル関連データは、病院の医療関係者による生体組織の分析又は識別用に、質量分析データ記録のライブラリを含むデータベースを介して利用可能とされ得る。
【0092】
[実施例]
実施例を例示目的で説明するが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0093】
〈実施例1:手術中の組織部分の分析及び識別〉
例えば図1を参照すると、電気手術ユニット(ICC350、Erbe Elektromedizin社)を、四重極イオントラップ質量分析計(LCQ Duo、ThermoFinnigan)と組み合わせて用いる。電気手術切除電極10には、市販のスモーク除去ユニット(Erbe)が備え付けられていて、そのユニット80は、外径8 1/8インチで内径2mmのPTEEチューブを介して流体ポンプ220(VAC100、Veriflo)に接続されていた。流体ポンプ220は、大幅に修正したDESIイオン源(OmniSpray、Prosolia)プラットフォームを用いてLCQ設備に取り付けられた。質量分析計130を負イオンモードで動作させた。700〜800の範囲のイオンが、イオントラップにおいてアイソレートされて、中性ヘリウム原子での衝突活性化を用いて活性化された。スペクトルを700〜800のm/z範囲において獲得した。
【0094】
イヌin vivo及びex vivoデータを、獣医の腫瘍学実習において、自然発生癌を有する犬から獲得した。
【0095】
電気手術電極10を用いて、イヌモデルの正常な上皮組織20から悪性メラノーマ腫瘍30を切除した。腫瘍の再発の可能性を最小化するため、腫瘍30を、健常な皮膚20及び転移を運ぶ周囲のリンパ節の部分と共に切除した。腫瘍境界を、切除されている組織の質量分析識別に基づいて決定した。外科的介入中に得られた全イオン電流の質量スペクトルが図5に示されている。手術中の切除期間は300でラベル付けされていて、洗浄期間は310でラベル付けされている。重要なのは、質量分析信号が、実際の外科的切除が実施されているとき300と、設備が洗浄されている洗浄期間300中においてのみ検出可能である点である。信号上昇及び降下時間の両方は、実際の電気外科的切除の時間と比較して極端に短いので、その実験設定は、記憶効果を最小化して、切除されている組織の実時間分析を可能にする。健常な上皮組織、メラノーマ及び転移からとられた質量スペクトルが、図9に示されている。m/z746とm/z723におけるイオンの比を、腫瘍マーカーとして用いて、この量を、フィードバックデバイス240に表示して、青‐赤の色勾配に翻訳した。
【0096】
オーディオ信号もフィードバックとして用いて、イオン比がMSスペクトルで変化すると、ビープ音の周波数を変化させた。
【0097】
腫瘍20は外科的に上手く切除されて、切除物質の術後組織学的検査によって、手術が成功していて、腫瘍細胞を運ぶリンパ節を切除していたことが明らかになった。
【0098】
〈実施例2:腫瘍細胞のイオン化用の組織中の薬剤の決定〉
電気手術ユニット(ICC350、Erbe Elektomedizin社)を、四重極イオントラップ質量分析計(LCQ Duo、ThermoFinnigan)と組み合わせて使用する。電気手術切除電極10には、市販のスモーク除去ユニット80(Erbe)が備え付けられていて、そのユニット80は、外径8 1/8インチで内径2mmのPTEEチューブを介して流体ポンプ220(VAC100、Veriflo)に接続されていた。流体ポンプ220は、大幅に修正したDESIイオン源(OmniSpray、Prosolia)プラットフォームを用いてLCQ設備に取り付けられた。流体ポンプ220には、キャピラリー180及び高電圧電源170を備えた二次エレクトロスプレーポストイオン化ユニットが備え付けられていた。エレクトロスプレー260及び質量分析計130を正イオンモードで動作させた。m/z447と449におけるイオンを、m/z446をバックグランド信号として用いて、モニタリングした。
【0099】
NCI‐H460ヒト非小細胞肺癌異種移植片を有するヌードマウスは、温度及び光制御室に入れられていて、餌及び水は自由裁量で供給されていた。8週の年齢で、マウスに2×20mg/bw kg ゲフィチニブをドーズした。薬剤処置の3日後に、腫瘍異種移植片を、フェノバルビタール麻酔下においてin vivoでサンプリングした。
【0100】
電気手術電極10を用いて、マウスモデルの20個の健常な肺組織から30個の非小細胞肺癌腫瘍を切除した。動物は、ゲフィチニブを用いた術前化学療法を受けた。ゲフィチニブ(分子量は446)は、NSCLC腫瘍細胞によって過剰発現している上皮成長因子受容体(EGFR,epithelial growth factor receptor)に選択的に結合する。従って、ゲフィチニブは、これらの腫瘍の化学的標識として使用可能である。ゲフィチニブの分子イオンは、浸潤性腫瘍を位置特定するためにモニタリングされた。
【0101】
腫瘍20を20個の健常な肺組織から切除した。腫瘍境界は、切除されている組織の質量分析識別に基づいて決定された。m/z447及びm/z446におけるイオン比を、腫瘍マーカーとして用いて、この量をフィードバックデバイス240に表示して、青‐赤色勾配に翻訳した。オーディオ信号もフィードバックとして用いて、イオン比がMSスペクトルで変化すると、ビープ音の周波数を変化させた。
【0102】
腫瘍20は外科的に上手く切除されて、切除物質の術後組織学的検査によって、手術が成功していたことが明らかになった。
【0103】
〈実施例3:粘膜上の細菌感染の位置特定及び識別〉
DC電源70及び金属電極10を備えた自家製の熱的組織崩壊デバイスを、四重極イオントラップ質量分析計(LCQ Duo、ThermoFinnigan)と組み合わせて用いる。金属電極10を、外径8 1/8インチで内径2mmのPTEEチューブを介して流体ポンプ220(VAC100、Veriflo)に接続した。流体ポンプ220は、大幅に修正したDESIイオン源(OmniSpray、Prosolia)プラットフォームを用いてLCQ設備に取り付けられた。質量分析計130を負イオンモードで動作させた。640〜840の範囲のイオンをイオントラップ内でアイソレートして、中性ヘリウム原子との衝突活性化を用いて活性化した。スペクトルを640〜840のm/z範囲において獲得した。
【0104】
電極10を用いて、多様な細菌に感染した粘膜の上皮層をサンプリングした。この方法及びデバイスの応用は、粘膜の最小侵襲的分析を目的としているので、上皮細胞、細菌及び粘膜を有する略0.1〜0.4mgの全物質を、一つの完全な解釈可能質量スペクトルを記録するために崩壊させた。電極10と接触している組織部分20(喉頭粘膜)を850℃まで加熱した。完全な質量スペクトルを、122個の菌株の質量スペクトルを有するデータベースと比較した。スペクトルの類似性を、200次元質量スペクトルデータベクトルのコサイン(cosinus)として定義した。緑膿菌、肺炎桿菌、黄色ブドウ球菌、及び肺炎連鎖球菌が、データベース検索のヒットリストの第一位における適切なデータ入力で上手く識別された。大抵の場合、最初の三件のヒットも同属に属していた。
【0105】
〈実施例4:ビジネスモデル〉
本発明は、ロボット化手術、一般的な腫瘍手術、病理学及び微生物診断の四つの主な識別応用分野を有する。日常で実際に用いられる設備の価格帯は、質量分析システムの市場価格よりも顕著に低いので、本発明の質量分析計を、正味の製造コストで病院、病理研究室、外来オフィス等に売ることができる。実際の収益は、本発明のシステムの使い捨ての消耗部分として部品10、80、220及びポストイオン化デバイスを製造することによって得られる。このことが望ましいものとなり得るのは、そうでなければ外科的又は診断的介入毎に、部品10、80、220を完全に洗浄して殺菌する必要があるからである。更なる収益源は、データ解析及び個々の質量スペクトルの識別に使用されるソフトウェアであり得る。検索エンジン及びデータベースを、安価ではあるが継続的な費用で使用者に対して継続的に開発して売却することができる。図12に示されるように、売却された全てのシステムは、生データ390を開発チーム380に継続的に提供して中央組織スペクトルデータベース370の開発を促進するインターネットベースのネットワークにリンク可能である。病院360は、インターネットを通じて完全に均一化されて信頼できるデータ400を受信することができる。
【0106】
上述の開示は本発明を一般的に説明するものである。形態の変化及び等価物の置換が、周囲の状況により示唆されたり得策であると判断されたりすると、想定される。特定の用語が本願では採用されているが、こうした用語は、説明目的であり限定目的ではない。本発明の他の変更及び修正が考えられる。このような修正又は変更は、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲内にあるものとされる。
【符号の説明】
【0107】
10 崩壊デバイス
80 移送又は輸送チューブ
130 質量分析計
220 流体ポンプ
320 ポストイオン化デバイス
330 電磁放射ビーム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)一以上の組織サンプルのサイトからガス状組織粒子を生成するステップと、(b)前記サイトから分析計に前記ガス状組織粒子を輸送するステップと、(c)前記ガス状組織粒子に基づいた組織関連データを生成するために前記分析計を用いるステップと、(d)前記組織関連データに基づいて前記一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するステップとを備えることを特徴とする一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項2】
前記ガス状組織粒子が、前記サイトを崩壊デバイスに接触させることによって生成されることを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項3】
前記崩壊デバイスが、電極と、電磁放射を放出するデバイスと、超音波デバイスと、ウォータージェットとから成る群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項4】
前記ガス状組織粒子が、或る収量のガス状組織由来荷電粒子を含み、前記分析計が、前記ガス状組織由来荷電粒子の収量に基づいた組織関連データを生成することを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項5】
前記サイトから分析計に前記ガス状組織粒子を輸送するステップが、前記サイトから前記ガス状組織粒子を輸送する輸送チューブを使用するステップを備えることを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項6】
前記輸送チューブが動作温度で使用され、前記動作温度が略大気温度から略400℃の間に設定されることを特徴とする請求項5に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項7】
前記輸送チューブ内に圧力差を生じさせて前記サイトから前記分析計への前記ガス状組織粒子の輸送を促進するステップを更に備えることを特徴とする請求項5に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項8】
前記分析計が真空システムを有する質量分析計を備え、前記真空システムを用いて前記サイトから前記質量分析計への前記ガス状組織粒子の輸送を促進するステップを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項9】
輸送手段内の圧力勾配が流体ポンプを用いて生成されることを特徴とする請求項8に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項10】
或る収量のガス状組織由来イオンを生成するために前記ガス状組織粒子をイオン化するステップを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項11】
前記イオン化するステップが大気圧で行われることを特徴とする請求項10に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項12】
前記イオン化するステップが、コロナ放電イオン化法及び二次エレクトロスプレーイオン化法から成る群から選択されるイオン化法を用いて行われることを特徴とする請求項10に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項13】
有効時間内において熱源の使用者に前記サイトの分析又は識別結果の信号を送信するステップを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項14】
前記信号が、前記使用者に連続的に表示されて、前記使用者が前記一以上の組織サンプルの境界を追跡することを可能にすることを特徴とする請求項13に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項15】
前記有効時間が実時間であることを特徴とする請求項13に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項16】
前記一以上の組織サンプルがin situで分析又は識別されることを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項17】
ステップ(d)が、前記組織関連データを複数の既知の組織タイプに対応する質量スペクトルの記録ライブラリと比較することによって、前記組織関連データに基づいて前記一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するステップを備えることを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項18】
(a)サンプルの関心領域から或る収量のガス状荷電粒子を生成するステップと、(b)前記関心領域から質量分析計にガス状サンプル粒子を輸送するステップと、(c)前記関心領域からのガス状サンプルイオンの収量に基づいたサンプル関連データを獲得するために質量分析計を用いるステップとを備えることを特徴とする質量分析データ獲得方法。
【請求項19】
未知のサンプルの分析又は識別用の質量スペクトルデータの記録を生成するのに利用可能なサンプル関連データを作成するステップを更に備えることを特徴とする請求項18に記載の質量分析データ獲得方法。
【請求項20】
(a)サイトにおいて一以上の組織サンプルに接触し且つ前記サイトからガス状組織粒子を生成する崩壊デバイスと、(b)前記サイトから分析計に前記ガス状組織粒子を輸送する輸送手段と、(c)前記輸送手段に操作可能に結合された分析計であって、前記ガス状組織粒子に基づいた組織関連データを生成する分析計とを備え、前記組織関連データが前記一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するために用いられることを特徴とする一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項21】
前記崩壊デバイスが、電極と、電磁放射を放出するデバイスと、超音波デバイスと、ウォータージェットとから成る群から選択されていることを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項22】
前記ガス状組織粒子が、或る収量のガス状組織由来荷電粒子を含み、前記分析計が、前記ガス状組織由来荷電粒子の収量に基づいた組織関連データを生成することを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項23】
前記分析計が質量分析計を備えることを特徴とする請求項22に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項24】
前記質量分析計が真空システムを含み、前記真空システムが、前記輸送手段内に圧力勾配を生じさせて、関心領域から前記質量分析計までの前記ガス状組織粒子の輸送を促進するために用いられることを特徴とする請求項23に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項25】
前記輸送手段が、熱源と同軸上に取り付けられた輸送チューブを備えることを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項26】
前記輸送チューブが動作温度で使用され、前記動作温度が略大気温度から略400℃の間に設定されることを特徴とする請求項25に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項27】
関心領域から前記分析計までの前記ガス状組織粒子の輸送を促進するために前記輸送手段内に圧力勾配を生じさせる手段を更に備えることを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項28】
前記輸送手段内に圧力勾配を生じさせる手段が、流体ポンプを備えることを特徴とする請求項27に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項29】
前記ガス状組織粒子をイオン化するイオン化デバイスを更に備えることを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項30】
前記イオン化デバイスが、大気圧において前記ガス状組織粒子をイオン化することを特徴とする請求項29に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項31】
前記イオン化デバイスが、コロナ放電及び二次エレクトロスプレーイオン化から成る群から選択されていることを特徴とする請求項30に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項32】
熱源の使用者に実時間で前記一以上の組織サンプルの分析又は識別の信号を送信するフィードバック手段を更に備えることを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項33】
前記信号が、前記使用者に連続的に表示されて、前記使用者が前記一以上の組織サンプルの境界を追跡することができるようにすることを特徴とする請求項32に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項34】
前記一以上の組織サンプルがin situで識別されることを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項35】
前記一以上の組織サンプルが、前記組織関連データを、複数の既知の組織タイプに対応する質量スペクトルの記録ライブラリと比較することによって分析又は識別されることを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項36】
(a)サイトにおいて一以上の組織サンプルと接触し且つ前記サイトからガス状組織粒子を生成する崩壊手段を有する手術デバイスと、(b)前記サイトから質量分析計までの前記ガス状組織粒子の収集及び輸送用の輸送チューブであって、前記手術デバイスに同軸上に取り付けられた輸送チューブと、(c)前記サイトから質量分析計までの前記ガス状組織粒子の輸送を促進するために前記輸送チューブ内に圧力勾配を生じさせる手段と、(d)或る収量のガス状組織由来イオンを生成するために前記ガス状組織粒子をイオン化する手段と、(e)前記ガス状組織由来イオンの収量に基づいた組織関連質量スペクトルデータを生成するために前記輸送チューブに操作可能に結合された質量分析計であって、前記一以上の組織サンプルが、前記組織関連質量スペクトルデータを複数の既知の組織タイプに対応する質量スペクトルの記録ライブラリと比較することによって分析又は識別される、質量分析計と、(f)前記手術デバイスの使用者に前記一以上の組織サンプルの分析又は識別の信号を送信するフィードバック手段であって、前記信号が前記使用者に連続的に表示される、フィードバック手段とを備えることを特徴とする外科的処置中にin situで一以上の組織サンプルを識別するシステム。
【請求項37】
(a)サイトにおいて組織に接触し且つ前記サイトからガス状組織粒子を生成する崩壊デバイスと、(b)前記サイトから分析計に前記ガス状組織粒子を輸送する輸送手段と、(c)前記輸送手段に操作可能に結合された分析計であって、前記ガス状組織粒子に基づいた実時間組織関連データを生成するように構成された分析計とを備え、前記組織関連データが前記組織の診断用に用いられることを特徴とする手術室において外科的処置を受けている対象の組織の実時間診断用システム。
【請求項38】
(a)サイトにおいて一以上の組織サンプルに接触し且つ前記サイトからガス状組織粒子を生成する崩壊デバイスと、(b)分析計に操作可能に接続されるように構成された輸送手段であって、前記サイトから分析計に前記ガス状組織粒子を輸送する輸送手段とを備えることを特徴とする一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するデバイス。
【請求項1】
(a)一以上の組織サンプルのサイトからガス状組織粒子を生成するステップと、(b)前記サイトから分析計に前記ガス状組織粒子を輸送するステップと、(c)前記ガス状組織粒子に基づいた組織関連データを生成するために前記分析計を用いるステップと、(d)前記組織関連データに基づいて前記一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するステップとを備えることを特徴とする一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項2】
前記ガス状組織粒子が、前記サイトを崩壊デバイスに接触させることによって生成されることを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項3】
前記崩壊デバイスが、電極と、電磁放射を放出するデバイスと、超音波デバイスと、ウォータージェットとから成る群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項4】
前記ガス状組織粒子が、或る収量のガス状組織由来荷電粒子を含み、前記分析計が、前記ガス状組織由来荷電粒子の収量に基づいた組織関連データを生成することを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項5】
前記サイトから分析計に前記ガス状組織粒子を輸送するステップが、前記サイトから前記ガス状組織粒子を輸送する輸送チューブを使用するステップを備えることを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項6】
前記輸送チューブが動作温度で使用され、前記動作温度が略大気温度から略400℃の間に設定されることを特徴とする請求項5に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項7】
前記輸送チューブ内に圧力差を生じさせて前記サイトから前記分析計への前記ガス状組織粒子の輸送を促進するステップを更に備えることを特徴とする請求項5に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項8】
前記分析計が真空システムを有する質量分析計を備え、前記真空システムを用いて前記サイトから前記質量分析計への前記ガス状組織粒子の輸送を促進するステップを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項9】
輸送手段内の圧力勾配が流体ポンプを用いて生成されることを特徴とする請求項8に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項10】
或る収量のガス状組織由来イオンを生成するために前記ガス状組織粒子をイオン化するステップを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項11】
前記イオン化するステップが大気圧で行われることを特徴とする請求項10に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項12】
前記イオン化するステップが、コロナ放電イオン化法及び二次エレクトロスプレーイオン化法から成る群から選択されるイオン化法を用いて行われることを特徴とする請求項10に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項13】
有効時間内において熱源の使用者に前記サイトの分析又は識別結果の信号を送信するステップを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項14】
前記信号が、前記使用者に連続的に表示されて、前記使用者が前記一以上の組織サンプルの境界を追跡することを可能にすることを特徴とする請求項13に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項15】
前記有効時間が実時間であることを特徴とする請求項13に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項16】
前記一以上の組織サンプルがin situで分析又は識別されることを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項17】
ステップ(d)が、前記組織関連データを複数の既知の組織タイプに対応する質量スペクトルの記録ライブラリと比較することによって、前記組織関連データに基づいて前記一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するステップを備えることを特徴とする請求項1に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別する方法。
【請求項18】
(a)サンプルの関心領域から或る収量のガス状荷電粒子を生成するステップと、(b)前記関心領域から質量分析計にガス状サンプル粒子を輸送するステップと、(c)前記関心領域からのガス状サンプルイオンの収量に基づいたサンプル関連データを獲得するために質量分析計を用いるステップとを備えることを特徴とする質量分析データ獲得方法。
【請求項19】
未知のサンプルの分析又は識別用の質量スペクトルデータの記録を生成するのに利用可能なサンプル関連データを作成するステップを更に備えることを特徴とする請求項18に記載の質量分析データ獲得方法。
【請求項20】
(a)サイトにおいて一以上の組織サンプルに接触し且つ前記サイトからガス状組織粒子を生成する崩壊デバイスと、(b)前記サイトから分析計に前記ガス状組織粒子を輸送する輸送手段と、(c)前記輸送手段に操作可能に結合された分析計であって、前記ガス状組織粒子に基づいた組織関連データを生成する分析計とを備え、前記組織関連データが前記一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するために用いられることを特徴とする一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項21】
前記崩壊デバイスが、電極と、電磁放射を放出するデバイスと、超音波デバイスと、ウォータージェットとから成る群から選択されていることを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項22】
前記ガス状組織粒子が、或る収量のガス状組織由来荷電粒子を含み、前記分析計が、前記ガス状組織由来荷電粒子の収量に基づいた組織関連データを生成することを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項23】
前記分析計が質量分析計を備えることを特徴とする請求項22に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項24】
前記質量分析計が真空システムを含み、前記真空システムが、前記輸送手段内に圧力勾配を生じさせて、関心領域から前記質量分析計までの前記ガス状組織粒子の輸送を促進するために用いられることを特徴とする請求項23に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項25】
前記輸送手段が、熱源と同軸上に取り付けられた輸送チューブを備えることを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項26】
前記輸送チューブが動作温度で使用され、前記動作温度が略大気温度から略400℃の間に設定されることを特徴とする請求項25に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項27】
関心領域から前記分析計までの前記ガス状組織粒子の輸送を促進するために前記輸送手段内に圧力勾配を生じさせる手段を更に備えることを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項28】
前記輸送手段内に圧力勾配を生じさせる手段が、流体ポンプを備えることを特徴とする請求項27に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項29】
前記ガス状組織粒子をイオン化するイオン化デバイスを更に備えることを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項30】
前記イオン化デバイスが、大気圧において前記ガス状組織粒子をイオン化することを特徴とする請求項29に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項31】
前記イオン化デバイスが、コロナ放電及び二次エレクトロスプレーイオン化から成る群から選択されていることを特徴とする請求項30に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項32】
熱源の使用者に実時間で前記一以上の組織サンプルの分析又は識別の信号を送信するフィードバック手段を更に備えることを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項33】
前記信号が、前記使用者に連続的に表示されて、前記使用者が前記一以上の組織サンプルの境界を追跡することができるようにすることを特徴とする請求項32に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項34】
前記一以上の組織サンプルがin situで識別されることを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項35】
前記一以上の組織サンプルが、前記組織関連データを、複数の既知の組織タイプに対応する質量スペクトルの記録ライブラリと比較することによって分析又は識別されることを特徴とする請求項20に記載の一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するシステム。
【請求項36】
(a)サイトにおいて一以上の組織サンプルと接触し且つ前記サイトからガス状組織粒子を生成する崩壊手段を有する手術デバイスと、(b)前記サイトから質量分析計までの前記ガス状組織粒子の収集及び輸送用の輸送チューブであって、前記手術デバイスに同軸上に取り付けられた輸送チューブと、(c)前記サイトから質量分析計までの前記ガス状組織粒子の輸送を促進するために前記輸送チューブ内に圧力勾配を生じさせる手段と、(d)或る収量のガス状組織由来イオンを生成するために前記ガス状組織粒子をイオン化する手段と、(e)前記ガス状組織由来イオンの収量に基づいた組織関連質量スペクトルデータを生成するために前記輸送チューブに操作可能に結合された質量分析計であって、前記一以上の組織サンプルが、前記組織関連質量スペクトルデータを複数の既知の組織タイプに対応する質量スペクトルの記録ライブラリと比較することによって分析又は識別される、質量分析計と、(f)前記手術デバイスの使用者に前記一以上の組織サンプルの分析又は識別の信号を送信するフィードバック手段であって、前記信号が前記使用者に連続的に表示される、フィードバック手段とを備えることを特徴とする外科的処置中にin situで一以上の組織サンプルを識別するシステム。
【請求項37】
(a)サイトにおいて組織に接触し且つ前記サイトからガス状組織粒子を生成する崩壊デバイスと、(b)前記サイトから分析計に前記ガス状組織粒子を輸送する輸送手段と、(c)前記輸送手段に操作可能に結合された分析計であって、前記ガス状組織粒子に基づいた実時間組織関連データを生成するように構成された分析計とを備え、前記組織関連データが前記組織の診断用に用いられることを特徴とする手術室において外科的処置を受けている対象の組織の実時間診断用システム。
【請求項38】
(a)サイトにおいて一以上の組織サンプルに接触し且つ前記サイトからガス状組織粒子を生成する崩壊デバイスと、(b)分析計に操作可能に接続されるように構成された輸送手段であって、前記サイトから分析計に前記ガス状組織粒子を輸送する輸送手段とを備えることを特徴とする一以上の組織サンプルを分析、位置特定及び/又は識別するデバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図12】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図10】
【図12】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図13】
【公表番号】特表2012−528320(P2012−528320A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512467(P2012−512467)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/IB2010/001261
【国際公開番号】WO2010/136887
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(511286621)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際出願番号】PCT/IB2010/001261
【国際公開番号】WO2010/136887
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(511286621)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]