説明

生体組織接着剤塗布用具

【課題】断続的使用時において、薬液を無駄にすることがなく、且つ詰まりを発生させない生体組織接着剤塗布用具を提供する。
【解決手段】二種類の薬液を混合噴霧する生体組織接着剤塗布用具であって、内部に空間を有するスプレーヘッド本体1と、無菌ガス12を無菌ガス流通室13に注入可能な無菌ガス注入口3と、前記本体1後端部側の2つの薬液注入口2と、前記本体1先端部の2本の薬液吐出ノズル4と、前記薬液吐出ノズル4に対して同軸且つ外周に略環状に配置された2つの無菌ガス噴出口5と、を備え、更に、前記無菌ガス流通室13内において、前記2つの薬液注入口2と前記2つの薬液吐出ノズル4とを連結する2本の薬液流通管6と、前記薬液流通管6を被装する被装管とが備えられ、前記薬液流通管6と前記被装管との被装面の長軸方向に前記無菌ガス流通室13と前記薬液流通管6内腔とを連通する少なくとも一つの無菌ガス流通溝8を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織接着剤塗布用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維素原(フィブリノゲン)は、いわゆる血液凝固カスケードの最終段階に存在する非常に重要な役割を担う凝固因子である。フィブリノゲンは、例えば損傷後の血液凝固系の活性化において、トロンビンによりその可溶性形態から止血及び創傷治療に重要な役目となる不溶性のフィブリンに変換される。この血液凝固の最終相の原理を利用した組織接着剤が開発され、外科手術において肝臓または脾臓のような軟部器官の縫合代用の接着材として、または縫合補助剤として使用され、幅広く臨床の現場で応用されている。
近年、2本のシリンジ体に収納されたフィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液を、無菌ガスを利用して同時に噴霧して混合して塗布する、所謂二液混合スプレー塗布法が普及し始めている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら本法を用いた不具合として先端部での詰まりという現象がしばしば見られ、これは特に断続的に使用する際に多く発生していた。断続的使用とは、薬液噴霧を一時中断し、処置を行った後に再度薬液噴霧を行うもので、中断時間は数分から数十分間の範囲である。この中断時に、噴霧されたフィブリノゲン溶液及びトロンビン溶液の霧状の微粒子が術野より跳ね返ってノズルチップ先端に付着し、その際、2溶液が互いに接触することにより薬液抽出口や薬液流通管内の先端部において凝固が進み、詰まりが発生するものと考えられている。
また中断している間は、術野における空気の巻き上げ防止や無菌ガス流出音をなくすため、無菌ガスを一時停止させる操作がなされる。その間、薬液流通管内に残った薬液が薬液流通管内やシリンジ内の残圧によりわずかに吐出してノズル先端に付着し、先端部の詰まりの原因となることがあると考えられており、この場合も結果として噴霧を再開することが出来ず、スプレーヘッド本体の交換が必要になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO94−07420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来のこのような問題点を解決することを目的とするもので、断続的使用時において、薬液を無駄にすることがなく、且つ詰まりを発生させない生体組織接着剤塗布用具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、
二種類の薬液を混合噴霧する生体組織接着剤塗布用具であって、
内部に無菌ガス流通室(13)が形成され向かい合った平面が略三角形状のスプレーヘッド本体(1)と、
前記スプレーヘッド本体(1)の一方の平面に備えられ無菌ガス(12)を前記無菌ガス流通室(13)に注入可能な無菌ガス注入口(3)と、
前記スプレーヘッド本体(1)の後端部側に付設された2つの薬液注入口(2)と、
前記スプレーヘッド本体(1)の先端部側に付設された2つの薬液吐出ノズル(4)と、
前記各々の薬液吐出ノズル(4)に対して同軸且つ外周に略環状に配置され前記無菌ガス流通室(13)と連通し無菌ガスを噴出する2つの無菌ガス噴出口(5)と、
を備え、
更に、前記無菌ガス流通室(13)内において、前記2つの薬液注入口(2)と前記2つの薬液吐出ノズル(4)とを連結する2つの薬液流通管(6)と、前記2つの薬液流通管(6)を各々被装する少なくとも一つの被装管(7)とが備えられていると共に、前記薬液流通管(6)と前記被装管(7)との被装面の長軸方向に前記無菌ガス流通室(13)と前記薬液流通管(6)内腔とを連通する少なくとも一つの無菌ガス流通溝(8)を有していることを特徴とする生体組織接着剤塗布用具である。
【発明の効果】
【0007】
以上に述べた如く、本発明による生体組織接着剤塗布用具は、断続的使用時において、薬液を無駄にすることなく、且つ詰まりを発生させない生体組織接着剤塗布用具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施例となる生体組織接着剤塗布用具を示す図であり(a)は平面断面図、(b)は正面図、
【図2】(a)は正面断面図、(b)は左側面の部分拡大図である。
【図3】本発明の一実施例となる生体組織接着剤塗布用具の薬液流通管と被装管及び無菌ガス流通溝の構造を示す図であり(a)は平面断面図、(b)は無菌ガス流通溝を有する部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面をもとに本発明について詳細に説明する。図1は本発明の一実施例となる生体組織接着剤塗布用具の構造を示す平面断面図である。
【0010】
本発明の一実施例となる生体組織接着剤塗布用具は、図1及び図2に示すように、内部に無菌ガス流通室(13)が形成され向かい合った平面が略三角形状のスプレーヘッド本体(1)と、スプレーヘッド本体(1)の一方の平面に備えられ無菌ガス(12)を上記無菌ガス流通室(13)に注入可能な無菌ガス注入口(3)と、スプレーヘッド本体(1)の後端部側に付設された2つの薬液注入口(2)と、スプレーヘッド本体(1)先端部側に付設された2つの薬液吐出ノズル(4)と、各々の薬液吐出ノズル(4)に対して同軸且つ外周に略環状に配置され無菌ガス流通室(13)と連通し無菌ガス(12)を噴出する無菌ガス噴出口(5)とが備えられている。また、無菌ガス注入口(3)の基端部には予め無菌フィルター(9)を設置しておくことも望ましい。
【0011】
更に、本発明の一実施例となる生体組織接着剤塗布用具は、図3に示すように、無菌ガス流通室(13)内において、2つの薬液注入口(2)と2つの薬液吐出ノズル(4)とを連結する2つの薬液流通管(6)と、上記2つの薬液流通管(6)を各々被装する少なくとも一つの被装管(7)とが備えられていると共に、前記薬液流通管(6)と前記被装管(7)との被装面の長軸方向に前記無菌ガス流通室(13)と前記薬液流通管(6)内腔とを連通する少なくとも一つの無菌ガス流通溝(8)を有している。
【0012】
無菌ガス流通溝(8)は薬液流通管(6)と無菌ガス流通室(13)とを連通しているが、内径が小さく且つある程度の長さを有しているため、薬液(11)の粘性による流通抵抗により、薬液流通管(6)を薬液(11)が流通している間も容易には無菌ガス流通溝(8)内に流入することはない。この無菌ガス流通溝(8)の内径と長さによって決まる薬液(11)の流通抵抗値を薬液流通抵抗値(A)とする。
無菌ガス流通溝(8)の内径は0.1mm以下が好ましい。全長は3mm以上が好ましく、更に好ましくは5mm以上である。これにより、想定外の圧力が薬液(11)に加わった場合でも、容易には無菌ガス流通溝(8)内に薬液(11)が流れず、無菌ガス流通室(13)へと漏出することを防ぐことができる。
【0013】
無菌ガス流通溝(8)は上記のような寸法を有していても気体であり流通抵抗が低く且つ圧力作用力(B)をもつ無菌ガス(12)の場合は、容易に通過させることができる。一方、薬液流通管(6)内に薬液(11)を注入している間は薬液(11)の注入圧、即ち薬液流通管(6)内における薬液流通時の薬液の圧力作用力(C)が無菌ガス流通溝(8)内に作用し、無菌ガス(12)を無菌ガス流通溝(8)内に容易には通過させないため、薬液流通管(6)へと無菌ガス(12)が過剰に流入することはない。即ち、無菌ガス流通溝(8)内径と長さによって生じる無菌ガス流通溝(8)内腔の薬液流通抵抗値(A)と、スプレーヘッド本体(1)の内部に発生する無菌ガスによる圧力作用力(B)との加算値(A)+(B)が、薬液流通管内における薬液流通時の薬液の圧力作用力(C)よりも小さくなる構成((A)+(B)<(C))の状態であり、これにより薬液流通管(6)と無菌ガス流通室(13)を連通する無菌ガス流通溝(8)があっても無菌ガス流通溝(8)から無菌ガス流通室(13)へと薬液(11)が流れ出ることなく噴霧できるものである。
他方、一度薬液(11)の注入を止めれば、薬液流通管(6)内における薬液流通時の薬液の圧力作用力(C)が弱まり、薬液流通管(6)内に満たされた薬液(11)の粘性のみによる流れの抵抗値だけになるため、薬液流通管(6)へと無菌ガス(12)が流入し、無菌ガス(12)の圧力により薬液流通管(6)内の薬液(11)を薬液吐出ノズル(4)から排出することができる。
【0014】
無菌ガス流通溝(8)の配置は、薬液流通管(6)の薬液注入口(2)と薬液吐出ノズル(4)との中間位置よりも薬液吐出ノズル(4)側であることが望ましい。これは薬液流通管(6)内に満たされた薬液(11)の粘性による流れの抵抗があるため、抵抗の軽い方向に無菌ガス(12)の圧力によって薬液(11)が動くので、薬液(11)を排出したい薬液吐出ノズル(4)側の流路抵抗を低くする必要があるからである。
即ち薬液流通管(6)の中間位置より薬液吐出ノズル(4)側に無菌ガス流通溝(8)を配置することが望ましい。実際には薬液注入口(2)にはシリンジ(10)が接続されているため、シリンジ(10)のプランジャーの摺動抵抗があるので、無菌ガス流通溝(8)は薬液流通管(6)のどこに配置しても問題なく薬液吐出ノズル(4)側の薬液(11)が排出されるが、薬液(11)は高価であるため、不要に多量の薬液(11)を排出し無駄にすることは避けたほうが好ましいことからも、無菌ガス流通溝(8)は薬液吐出ノズル(4)側に配置することが望ましい。
【0015】
無菌ガス流通溝(8)の長さはスプレーヘッド本体(1)内および無菌ガス流通室(13)内での配置を意味し、無菌ガス注入口(3)に近い配置であることが好ましい。無菌ガス流通室(13)内での無菌ガス(12)の流速は、一般的に、無菌ガス注入口(3)付近では遅く、無菌ガス噴出口(5)で早くなる分布を示す。流速が早い位置では無菌ガス(12)の圧力は下がり、逆に流速が遅い位置では無菌ガス(12)の圧力は高くなるため、より高い圧力の無菌ガス(12)にて薬液(11)を排出するためには、無菌ガス流通溝(8)の無菌ガス流通室(13)側の配置は無菌ガス注入口(3)に近いほうが好ましい。無菌ガス流通溝(8)が長くなると製造技術的な問題、即ち製造コストが高くなるという問題も出てくる。薬液(11)の粘性と薬液流通管(6)の内径および薬液流通管(6)と無菌ガス流通溝(8)との配置、無菌ガス(12)の圧力等の関係を考慮することが必要である。
【0016】
無菌ガス流通溝(8)は、小径のチューブを薬液チューブに接着や溶着にて接続しても良いし、例えば無菌ガス流通溝(8)に相当する分岐路を有する射出成形品等を薬液流通管(6)の間に挟んで接続してもよいが、本発明の一実施例となる図2では、より簡易で安価な手段として薬液流通管(13)と被装管(7)の嵌合接続による被装面に無菌ガス流通溝(8)を形成する方法を示している。即ち、被装面となる面に予め凹凸を設けておくことにより、嵌合後、被装面に無菌ガス流通溝(8)を形成するものである。
図2では薬液流通管(13)の外周に無菌ガス流通溝(8)を設けた実施例を示しているがこれに限定するものではなく、薬液流通管(13)を覆う被装管(7)の内面に無菌ガス流通溝(8)を設ける、または薬液流通管(13)の外周と被装管(7)の内面の両方に無菌ガス流通溝(8)を設けてもよい。加えて無菌ガス流通溝(8)は長手軸方向に直線的に延びることに限定するものではなく、例えば螺旋状や波状等であってもよい。
更に無菌ガス流通溝(8)の数は特に規定するものではなく、複数設けることにより薬液除去の効率を上げる効果が期待できるため好ましいが、製造コストとのバランスを考慮することが望ましい。図2(b)にて無菌ガス流通溝(8)が2本である例を示しているが、この構造は被装面の凹凸の数を変えることによって無菌ガス流通溝(8)の数を変えることが可能な簡易で安価な構造であり、無菌ガス流通溝(8)の数を任意に設定できる構造である。
【0017】
全ての構成部品の材質は特に限定されるものではないが、少なくとも薬液(11)と接触する薬液注入口(2)、薬液吐出ノズル(4)、薬液流通管(6)、無菌ガス流通溝(8)の材質は医療用プラスチック材料であり、且つ薬液(11)に影響を及ぼさないプラスチック材料を用いることができる。
【0018】
次に、図1を用いて、本発明の生体組織接着剤塗布用具の具体的な使用方法を、フィブリノゲン溶液トロンビン溶液からなる薬液(11)を用いた場合を想定して述べる。
先ずフィブリノゲン溶液を充填したシリンジ(10)とトロンビン溶液を充填したシリンジ(10)の先端を、スプレーヘッド本体(1)の後端部側に付設された薬液注入口(2)に各々差し込む。次に無菌ガス注入口(3)に無菌フィルター(9)を介して無菌ガス供給源を接続し、適度な流量と圧力に設定し保持する。そして一般的には止血すべき患部へスプレーヘッド本体(1)の先端を向け、シリンジ(10)のプランジャーを押して加圧することにより、薬液流通管(6)を介して薬液吐出ノズル(4)からフィブリノゲン溶液とトロンビン溶液とが吐出され、同時に無菌ガス噴出口(5)より噴出された無菌ガス(12)によりせん断され霧状に混合されたフィブリノゲン溶液とトロンビン溶液が患部に塗布され凝固し止血がなされることとなる。そしてシリンジ(10)の加圧を止めた瞬間に無菌ガス(12)が無菌ガス流通溝(8)を介して薬液流通管(6)に流入し、薬液流通管(6)の無菌ガス流通溝(8)が配置された位置から薬液吐出ノズル(4)の中のフィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液が排出される。このように、薬液吐出ノズル(4)内のフィブリノゲン溶液が排出されるため、薬液吐出ノズル(4)内でフィブリノゲン溶液が凝固し詰まりを発生させることがなく、塗布休止後の再使用が可能となる。
尚、詰まりは比較的粘度の高いフィブリノゲン溶液が吐出される側の薬液吐出ノズル(4)で生じる場合が大半であり、トロンビン溶液側の薬液流通管(6)に無菌ガス流通溝(8)は必ずしも必要ではなく、フィブリノゲン溶液が流通する薬液流通管(6)を限定可能であれば、最低限フィブリノゲン溶液が流通する薬液流通管(6)にのみ無菌ガス流通溝(8)設ければよい。
【符号の説明】
【0019】
1 スプレーヘッド本体
2 薬液注入口
3 無菌ガス注入口
4 薬液吐出ノズル
5 無菌ガス噴出口
6 薬液流通管
7 被装管
8 無菌ガス流通溝
9 無菌フィルター
10 シリンジ
11 薬液
12 無菌ガス
13 無菌ガス流通室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二種類の薬液を混合噴霧する生体組織接着剤塗布用具であって、
内部に無菌ガス流通室(13)が形成され向かい合った平面が略三角形状のスプレーヘッド本体(1)と、
前記スプレーヘッド本体(1)の一方の平面に備えられ無菌ガス(12)を前記無菌ガス流通室(13)に注入可能な無菌ガス注入口(3)と、
前記スプレーヘッド本体(1)の後端部側に付設された2つの薬液注入口(2)と、
前記スプレーヘッド本体(1)の先端部側に付設された2つの薬液吐出ノズル(4)と、
前記各々の薬液吐出ノズル(4)に対して同軸且つ外周に略環状に配置され前記無菌ガス流通室(13)と連通し無菌ガスを噴出する2つの無菌ガス噴出口(5)と、
を備え、
更に、前記無菌ガス流通室(13)内において、前記2つの薬液注入口(2)と前記2つの薬液吐出ノズル(4)とを連結する2つの薬液流通管(6)と、前記2つの薬液流通管(6)を各々被装する少なくとも一つの被装管(7)とが形成されていると共に、前記薬液流通管(6)と前記被装管(7)との被装面の長軸方向に前記無菌ガス流通室(13)と前記薬液流通管(6)内腔とを連通する少なくとも一つの無菌ガス流通溝(8)を有していることを特徴とする生体組織接着剤塗布用具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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