説明

生体組織接着剤塗布用具

【課題】逆止弁の復元による薬液流通管の薬液の不測の前進を防止できる生体組織接着剤塗布用具を提供する。
【解決手段】生体組織接着剤塗布用具100を、ノズル本体1と、ノズル本体1へのガス注入口2と、薬液注入口3a、3bと、薬液吐出口4a、4bと、薬液注入口3a、3bおよび薬液吐出口4a、4bを各々連通する薬液流通管5a、5bと、薬液を霧状に噴霧するガス噴出口6と、薬液流通管5a、5bに設けられ、薬液注入口3a、3bから薬液流通管5a、5b内部への薬液の流入を許容し、薬液流通管5a、5b内部からの薬液注入口方向への薬液の流出を規制する逆止弁7a、7bと、この逆止弁7a、7bを支持して逆止弁7a、7bによる薬液の流出を規制する方向への変形を防止する支持手段19a、19bと、を有して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織接着用の薬液を生体の患部に噴霧して塗布するための、生体組織接着剤塗布用具に関し、特に複数の薬液を同時に噴霧して肝臓や肺の切除断端や消化管の縫合部の止血閉鎖などに好適な、生体組織接着剤塗布用具に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織接着剤塗布用具として、2本のシリンジ本体にそれぞれ薬液として充填されたフィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液をノズルから同時に吐出し、無菌ガスを利用して、この吐出させた2つの薬液を混合させながら噴霧するスプレー塗布法が普及していた。この手法により、フィブリノゲン溶液がトロンビン溶液と反応して繊維状のフィブリンに変化し、例えば損傷後の消化管などの縫合部の止血閉鎖が行われる。この際に、薬液の吐出を一時的に停止し、再び吐出し噴霧するといった断続的な使用が行われる。この中断時に、噴霧されたフィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液の霧状の微粒子が逆流してノズルの先端に付着し、2液が互いに接触することがある。その結果、薬液の吐出口や薬液流通管内の先端部において薬液が固化し、ノズルの先端が詰まってしまうという問題が発生していた。
【0003】
この詰まりを解消するため、特許文献1に記載の発明では、無菌ガス注入口に、この無菌ガスの流路を薬液の流路に切り換える切換装置を設けている。そして、薬液の吐出を停止した際に、切換装置を無菌ガスの供給元と連通するが、薬液の供給元とは連通しないよう切り換えて無菌ガスを射出する。これにより、薬液の流路の先端側に残留した薬液を排出する発明が開示されている。また、特許文献1に記載の発明には、各薬液の流入口に、薬液が流路内部に流入するのは許容するが、流路内の薬液やガスが逆流するのを防止するための逆止弁が設けられている。そのため、上記のガス圧による残留薬液の排出の際に、ガスが薬液の供給元方向に流入することも防止している。一方、特許文献2に記載の発明では、薬液の流通管に、薬液の流れの上流側から下流側に向かって斜め後ろ向きに、内壁から外壁に向かって、管壁面を貫通する連通口を設けた発明が開示されている。この連通口は、薬液の吐出時には閉鎖しているが、薬液の断続的な噴霧時に、薬液の吐出を停止した瞬間に、ガス圧により連通口が開口する。この開口した連通口から無菌ガスが流通管内部に流入して、流通管の先端側に残留した薬液を外部に排出することにより、ノズルの先端の詰まりを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−238887号公報
【特許文献2】特開2007−252880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、ピストンなどの押圧力を解除することで、大気圧やガス圧の逆流により、逆止弁が変形し、復元時に薬液が薬液流通管に流入することがあった。また、特許文献2では、逆止弁の記載がないが、やはりピストンの押圧を解除した際に、ピストンにより押圧されて圧縮されていた薬液が復元し、先端方向に前進することがあった。したがって、このような薬液の薬液流通管内での不測の前進を、より良好に防止することができる技術の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の生体組織接着剤塗布用具は、内部に空間を有するノズル本体と、ノズル本体内部の空間内にガスを充填するためのガス注入口と、ノズル本体に設けられた薬液注入口と、ノズル本体の先端に設けられた薬液吐出口と、ノズル本体の内部に収納され、薬液注入口および薬液吐出口を各々連通する薬液流通管と、薬液吐出口近傍に設けられ、ガス注入口からノズル本体の内部に充填されたガスを噴射し、薬液吐出口から吐出される薬液を霧状に噴霧するガス噴出口と、薬液流通管に設けられ、薬液注入口から当該薬液流通管内部への薬液の流入を許容し、当該薬液流通管内部からの薬液注入口方向への薬液の流出を規制する逆止弁と、逆止弁を支持して逆止弁による薬液の流出を規制する方向への変形を防止する支持手段と、を有する。
【0007】
したがって、本発明の生体組織接着剤塗布用具では、逆止弁による規制方向への変形を支持手段が防止することで、逆止弁が薬液の流入の許容方向への不測の復元を防止することができる。そのため、薬液の吐出の停止後の薬液流通管内での薬液の先端面が薬液吐出口方向に不測に前進するのを、良好に防止することができる。その結果、ノズル本体からの薬液の漏れ、外気や他の薬液との接触による先端側の固化を、より良好に防止することができる。すなわち、逆止弁は、一般的に柔らかい部材で形成されているため、断続的使用による薬液の吐出の停止時に、ピストンなどの押圧力を解除すると、大気圧やガス圧の戻り等により、逆止弁が上流方向に変形し易い。その後、変形した逆止弁が次第に元の位置や形状に復元するため、例えば、薬液流通管の先端から薬液を排出しても、逆止弁の復元により薬液が薬液流通路内に流入することがあった。また、このような薬液の排出手段がなくても、薬液の前進により、ノズル先端から薬液が漏れ、外気や他の薬液と接触して固化することがあった。しかし、本発明では、支持手段により逆止弁の変形を防止しているので、薬液の不測の前進による固化を、より良好に防止することができる。そして、このような固化防止に優れた製品を、逆止弁の支持手段を設けただけで、容易かつ廉価に得ることができる。
【0008】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、逆止弁は、内面への圧力の付与によって開口し、外面への圧力の付与によって閉鎖する弁体と、弁体の薬液の流出の規制側に設けられた基部と、を有するものであってもよい。
【0009】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、基部は、支持手段方向に突出する突出部を有し、支持手段は、この基部の突出部に当接して支持する係合部を有するものであってもよい。
【0010】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、基部は、突出部の内面または外面に、軸方向に垂直な段状の係合段部を有し、支持手段は、この突出部の係合段部に対応して、当該係合段部を付き当てる段部受け部を外面または内面に有するものであってもよい。
【0011】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、逆止弁は、対向する一対の弁体を有し、この弁体の少なくとも一方の対向する内側に、軸方向に延伸する薄肉部が形成されていてもよい。
【0012】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、支持手段は、係合部の先端を、逆止弁の対向する一対の弁体の内側まで突出させ、かつ、外面を当該弁体の対向する内面の状と略同様の形状に形成してもよい。
【0013】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、ノズル本体は、逆止弁を装着する弁装着部を薬液注入口側に有し、支持手段は、弁装着部を内面側と外面側から挟持固定するための、挟持部を先端に突出形成しているものであってもよい。
【0014】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、薬液流通管は、気体の通過を許容するが、液体の通過を制限する材料で形成されたものであってもよい。
【0015】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、薬液流通管は、軟質性のプラスチックチューブで形成されたものであってもよい。
【0016】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、薬液が充填され、薬液流通管の薬液注入口に接続するシリンジ本体を、さらに有するものであってもよい。
【0017】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、薬液流通管は、逆止弁を設けた薬液流通管に、ノズル本体内部と薬液流通管内部とを連通し、ノズル本体内部のガスを薬液吐出口方向に導入する、少なくとも1つの連通口を有するものであってもよい。
【0018】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、連通口は、薬液流通管の管壁面の長手方向に複数個形成されたものであってもよい。
【0019】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、薬液流通管を複数有し、連通口は、薬液流通管ごとに、連通口の開口面積の和が、それぞれ異なるものであってもよい。
【0020】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、粘性の異なる薬液が充填されるシリンジ本体を複数有し、粘性のより高い薬液が充填されたシリンジ本体を、連通口の開口面積の和がより広い薬液流通管に接続し、少なくとも当該粘性のより高い薬液が流通する薬液流通管に、逆止弁および支持手段を設けたものであってもよい。
【0021】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、粘性の異なる薬液が充填されるシリンジ本体を接続する薬液流通管を識別するための識別手段を、さらに有するものであってもよい。
【0022】
また、本発明の生体組織接着剤塗布用具において、内部に空間を有する複数のノズル本体が、複数の薬液流通管に対して個別に設けられたものであってもよい。
【0023】
なお、本発明の各種の構成要素は、必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等でもよい。また、本発明でいう上流側とは、薬液流通管に薬液を注入する薬液注入口側や薬液供給元側を意味し、下流側とは、薬液を外部に吐出する薬液吐出口側やノズル本体の先端側を意味する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の生体組織接着剤塗布用具によれば、逆止弁の変形と復元を支持手段により良好に防止して、薬液流通管内での薬液のノズル本体の先端側への不測の前進を防止することのできる生体組織接着剤塗布用具を提供するものである。その結果、薬液の外気との接触や他の薬液との混合を良好に抑制して、薬液の固化によるノズル先端の詰まりを防止し、薬液の円滑な吐出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる生体組織接着剤塗布用具の一例を示し、ノズル本体に2つの異なる薬液がそれぞれ充填されたシリンジ本体が接続された状態の概略図であって、(a)は当該生体組織接着剤塗布用具をバンド(固定手段)側から見た平面図であり、(b)は側面図であり、(c)は(b)のA−A線断面図である。
【図2】第一実施形態にかかる生体組織接着剤塗布用具の斜視図である。
【図3】第一実施形態にかかる生体組織接着剤塗布用具において、逆止弁部分の一部拡大断面図である。
【図4】第一実施形態にかかる生体組織接着剤塗布用具において、スリット状の連通口を設けた薬液流通管の一部拡大斜視図である。
【図5】第一実施形態にかかる生体組織接着剤塗布用具の使用状態を説明するためのノズル本体側の一部拡大図であって、(a)は薬液を吐出している状態を示す図であり、(b)は薬液の吐出を停止し、連通口を設けた薬液流通管内部から薬液を排出した状態を示す図である。
【図6】第二実施形態にかかる生体組織接着剤塗布用具の逆止弁および支持手段付近の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0027】
なお、本実施の形態では図示するように前後左右上下の方向を規定して説明する。しかし、これは構成要素の相対関係を簡単に説明するために便宜的に規定するものであり、本発明を実施する製品の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
【0028】
<第一実施形態>
図1(a)は、本発明の第一の実施形態にかかる生体組織接着剤塗布用具の一例を示す平面模式図であり、図1(b)は、生体組織接着剤塗布用具の側面図であり、図1(c)は、図1(b)のA−A線断面図である。
【0029】
はじめに、本実施形態の生体組織接着剤塗布用具の概要について、図1(a)〜図1(c)を用いて説明する。本明細書では、図1(b)において、図中の上方向を生体接着剤塗布用具の上と呼び、図中の下方向を下と呼ぶ。さらに、図1(b)において、図中の手前方向を左と呼び、図中の奥方向を右と呼ぶ(即ち、図1(a)において、図中の下方向を左と呼び、図中の上方向を右と呼ぶ)。また、図1において、図中の左方向を前方または先端側と呼び、図中の右方向を後方または後端側と呼ぶ。
【0030】
図1(a)〜図1(c)に示すように、本実施形態の生体組織接着剤塗布用具100は、粘性の異なる薬液であって、外気との接触や他の薬剤との混合により、瞬時に固化し易い薬液、例えば、フィブリノゲン溶液およびトロンビン溶液を患部に塗布することにより患部を接着するために用いるものである。すなわち、内部に空間1cを有するノズル本体1と、ノズル本体1内部の空間1c内にガスを充填するためのガス注入口2と、ノズル本体1に設けられた2つの薬液注入口3a、3bと、ノズル本体1の先端に設けられた2つの薬液吐出口4a、4bと、ノズル本体1の内部に収納され、2つの薬液注入口3a、3bおよび2つの薬液吐出口4a、4bを各々連通する2本の薬液流通管5a、5bと、2つの薬液吐出口4a、4b近傍に設けられ、ガス注入口2からノズル本体1の内部に充填されたガスを噴射し、薬液吐出口4a、4bから吐出される薬液を霧状に噴霧するガス噴出口6と、薬液流通管5a、5bに設けられ、薬液注入口3a、3bから当該薬液流通管5a、5b内部への薬液の流入を許容し、当該薬液流通管5a、5b内部からの薬液注入口3a、3b方向への薬液の流出を規制する逆止弁7a、7bと、この逆止弁7a、7bを支持して薬液の流出を規制する方向への変形を防止する支持手段19a、19bと、を有することを特徴とする。このため、例えば、生体組織接着剤塗布用具の断続使用時に、薬液の吐出を停止した場合であっても、薬液流通管5a、5b内での薬液の先端面のノズル本体1先端側への不測の前進を良好に防止することができる。
【0031】
本実施形態の生体組織接着剤塗布用具100は、さらに、薬液流通管5a、5bを気密性と液密性を有する軟質性のプラスチックチューブで形成している。これらのうち一方の薬液流通管5bに、ノズル本体1内部と薬液流通管5b内部とを連通し、ノズル本体1内部のガスを薬液吐出口4b方向に導入する2つのスリット状の連通口8a、8bを長手方向に平行に設けている。このため、例えば、生体組織接着剤塗布用具の断続使用時に、薬液の吐出を停止した場合であっても、連通口8a、8bから流入したガスのガス圧によって、粘性の高い薬液でも容易に外部に排出することができる。したがって、互いの薬液が接触しにくくなり、薬液の固化を良好に防止して、生体組織接着剤塗具の断続使用を円滑に行うことができる。
【0032】
また、本実施形態の薬液流通管5a、5bは、軟質性のプラスチックチューブで形成しているため、スリット状の連通口8a、8b用の切れ込みを容易に入れることができる。このプラスチック材料としては、特に制限はないが、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂などを用いるのが望ましい。なお、このように本実施例では、薬液流通管5a、5bを軟質性のプラスチックチューブで形成しているが、本願がこれに限定されることはなく、金属その他の材料で形成してもよい。
【0033】
また、本実施形態の生体組織接着剤塗布用具100は、粘性の異なる薬液を充填するための2本のシリンジ本体10a、10bと、このシリンジ本体10a、10bの内部に充填された薬液を各薬液流通管5a、5b内部に注入する押圧手段としての機能および薬液を識別するための識別手段9a、9bとしての機能を有するピストン12a、12bと、このピストン12a、12bを連結して同時に押圧するためのピストン連結手段13と、シリンジ本体10a、10bを連結するシリンジ本体連結手段20と、ノズル本体1の2つの薬液注入口3a、3b近傍に設けられ、シリンジ本体10a、10bに設けた識別手段9a、9bに対応する識別手段11a、11bと、シリンジ本体連結手段20およびノズル本体1を固定する固定手段としてのバンド14と、ガス注入口2に接続し、ガスを供給するガス供給管15と、このガス供給管15の、ガス注入口2の上流側に配置したガス濾過用のフィルタ16と、をさらに有している。また、後述するが、バンド14にも、識別手段14a、14bを設けている
【0034】
なお、本実施形態では、連通口8a、8bを設けた薬液流通管5b、すなわち、連通口の開口面積の和が広い薬液流通管5bには、比較的粘性の高いフィブリノゲン溶液を充填したシリンジ本体10bを接続する。一方、連通口8a、8bを設けていない薬液流通管5aには、比較的粘性の低いトロンビン溶液を充填したシリンジ本体10aを接続する。
【0035】
次に、本実施形態のノズル本体1について詳細に説明する。図1に示すように、ノズル本体1は、後端側に気密的に蓋体1aが接続され、この蓋体1aの壁面には、ノズル本体1の先端方向に支柱1bが突出形成されている。この支柱1bは、図1(c)に示すように、ノズル本体1の先端まで突出形成されている。この支柱1bにより、ノズル本体1と薬液吐出口4a、4bを支持して、薬液とガスとの噴霧圧への耐性を高めている。また、支柱1bの外周面およびノズル本体1の内周面と、薬液吐出口4a、4bの外周面との間に、それぞれ間隙を形成し、この間隙を、ガス噴出口6としている。なお、このガス噴出口6は、薬液の良好な混合と噴射を行えるように、2つの薬液吐出口4a、4bの間であって、これらよりも後端側に形成されている。また、ノズル本体1にガスを注入し充填するためのガス注入口2は、図1(c)に示すように、ノズル本体1の下底壁1dに開口されている。
【0036】
また、図1(b)に示すように、ノズル本体1のガス注入口2には、ガスを供給するガスタンクなどの供給手段(図示せず)と連通するガス供給管15が突出形成されている。さらに、このガス供給管15には、ガス注入口2の上流側に、ガス濾過用のフィルタ16が接続配置され、このフィルタ16を介して、ガスの供給元と連通している。この構成により、フィルタ16によってガス内のゴミなどの不純物が除去され、ノズル本体1の空間1cに清浄化されたガスを供給することができる。そのため、より清潔な薬液を患部に噴霧することができる。さらには、薬液の吐出を停止した際に、連通口8a、8bから薬液流通管5b内部にガスが流入して連通口8a、8bよりも先端側の薬液を排出する場合の、ゴミ等の混入による薬液流通管5b内部の目詰まりなども防止できる。そのため、薬液の円滑な流通と吐出とが可能となる。
【0037】
また、ノズル本体1の蓋体1aには、図3および図5の拡大図に示すように、薬液流通管5a、5bとシリンジ本体10a、10bとを連通させるための連通孔1e1、1e2が開口されている。また、蓋体1aには、この連通孔1e1、1e2に連続して、ノズル本体1の空間1c方向に薬液流通管5a、5bを液密的に挿入し固定するため円筒状の弁装着部1f1、1f2が突出形成されている。この弁装着部1f1、1f2には、内部に装着した逆止弁7a、7bを支持して後端側への変形を防止するための支持手段19a、19bが接続されている。さらに、この弁装着部1f1、1f2の内周には、この逆止弁7a、7bの係合段部7c2、7d2を係合する係合受け部1f11、1f21が形成されている。逆止弁7a、7bの係合段部7c2、7d2、および、支持手段19a、19bについての詳細は、後述する。
【0038】
なお、ノズル本体1は、薬液の性質や使用目的等に応じて、例えば、遮光等のために半透明や不透明な材料で形成してもよいし、内部の容易な確認等のために透明な材料で形成してもよい。また、このノズル本体1、および、薬液吐出口4a、4b、薬液流通管5a、5b、ガス供給管15、逆止弁7a、7b等、本実施形態の生体組織接着剤塗布用具は、医療用プラスチック材料で形成するのが望ましい。しかし、本願がこれに限定されることはなく、医療用の他の材料で形成してもよい。また、薬液にも影響を及ぼさない材料で形成するのが望ましい。
【0039】
次に、逆止弁7a、7bとその支持手段19a、19bについて詳細に説明する。まず、逆止弁7a、7bは、薬液注入口3a、3bから当該薬液流通管5a、5b内部への薬液の流入を許容し、当該薬液流通管5a、5b内部からの薬液注入口3a、3b方向への薬液の流出を規制するものであれば、特に制限はなく、通常のいずれのものを用いてもよい。本実施形態では、図3の拡大図に示すように、薬液の流出の規制側、すなわち、後端側に、支持手段19a、19b方向に円筒状に突出形成された基部7c、7dと、内面への圧力の付与によって開口し、外面への圧力の付与によって閉鎖する、対向する一対ずつの弁体7e、7fと、を有する、いわゆるダックビル弁を用いている。なお、本実施形態の逆止弁7a、7bは、各弁体7e、7fの対向するクチバシ部分(以下、各一対の弁体7e、7fを[クチバシ]と呼ぶことがある。)の内角(対向する各弁体7e、7fの厚み方向の中心線同士のなす角を意味する。以下同様。)の角度を小さくして、通常よりも平行に近い形状とし、弁体7e、7fの空間を小さくしている。この構成とすることで、規制方向に圧力を受けた際の変形を、極力小さくしている。
【0040】
ただし、このように弁体7e、7fの角度を小さくするためクチバシを小さくすることにより、逆止弁7a、7bの弁体7e、7fが開口している時でも粘性の高い薬液の抵抗力により薬液が流れにくくなることがある。これを防止するために、各一対の弁体7e、7fの双方のクチバシの内側の幅方向略中央部分を、軸方向(薬液の吐出方向と同一方向を軸方向と呼ぶ。以下同様。)に半円錐状にえぐり取って、軸方向に延伸する各一対の薄肉部7g、7hを形成し、薬液の流路を確保している。この構成により、薄肉部7g、7hがヒンジのような効果を発揮し、薬液の吐出時には弁体7e、7fのクチバシの面が軸周りに湾曲して開口する方向へと変形し、開弁時の流路が確保し易くなる効果も生じる。また、薬液の吐出時に薬液が逆止弁7a、7bを開口する際に生じる流れの抵抗を削減する効果を得ることができるため、薬液のより円滑な流動が可能となる。なお、逆止弁7a、7bの基部7c、7dには、軸方向に垂直な段状の係合段部(係合部)7c11、7d11を設けた突出部7c1、7d1が支持手段19a、19b方向に突出形成されている。
【0041】
支持手段19a、19bは、図3の拡大図に示すように、逆止弁7a、7bとノズル本体1の弁装着部1f1、1f2とを挟持し固定するために、ノズル本体1方向に二重の円筒状の挟持部19c1、19c2、19d1、19d2が突出形成されている。さらに、後端には、シリンジ本体10a、10bを内部に液密的に接続するための円筒状のシリンジ接続部19e、19fが突出形成されている。支持手段19a、19bの内面に形成された挟持部19c1、19d1は、逆止弁7a、7b内に挿入して、この逆止弁7a、7bに形成された係合段部7c1、7d1に突き当てて支持する段部受け部19c11、19d11(係合部)を設けている。
【0042】
一方、前述したように、ノズル本体1は、逆止弁7a、7bを装着するための弁装着部1f1、1f2を後端に有している。そして、この弁装着部1f1、1f2の後端には、支持手段19a、19bを接続するための円筒状の弁装着部1f1、1f2が突出形成されている。支持手段19a、19bは、二重の円筒状の挟持部19c1、19c2、19d1、19d2により、この支持手段接続部1f1、1f2と逆止弁7a、7bの基部7c、7dの突出部7c1、7d1を内面側と外面側から共に挟持固定している。この挟持により、逆止弁7a、7bとノズル本体1とは強固に接続される。また、この挟持の際に、内面側の挟持部である段部受け部19c11、19d11の先端が逆止弁7a、7bの基部7c、7dに設けた係合段部7c11、7d11の内面に突き当たる。さらに、弁装着部1f1、1f2の係合受け部1f11、1f21が係合段部7c11、7d11の外面に突き当たることにより、逆止弁7a、7bが上流方向に変形するのを、より効果的に防止することができる。
【0043】
以上のように、支持手段19a、19bが逆止弁7a、7bを支持していることにより、例えば、薬液の吐出を停止した際に、大気圧やガス圧の逆流による逆止弁の上流側への変形を良好に防止することができる。そのため、薬液流通管5a、5b内での薬液の先端面が、ノズル本体1先端側へ不測に前進するのを防止して、薬液の漏れ、外気との接触、または、薬液同士の混合などを防止して、ノズル本体1の先端側の固化を良好に防止することができる。
【0044】
また、支持手段19a、19bの外周には、支持手段カバー21a、21bが取り付けられている。これらは、それぞれ赤色と青色に色分けされ、後述するように、支持手段19a、19bを介してノズル本体1にシリンジ本体10a、10bを接続する際の識別機能を有している。また、このように支持手段カバー21a、21bを取り付けることにより、二重の円筒状の挟持部19c1、19c2、19d1、19d2の外方への拡開を防止して、支持手段19a、19bの脱落防止、気密性、および、液密性の向上を図ることも可能である。
【0045】
また、本実施形態では、薬液流通管5a、5bへの薬液の注入は、各薬液注入口3a、3bに接続したシリンジ本体10a、10bにより行っている。そのため、支持手段19a、19bには、前述したように、シリンジ本体10a、10bを接続するための接続部19d1、19d2が突出形成されている。一方、シリンジ本体10a、10bの先端は、2重の円筒部(10c1、10c2、10d1、10d2)が形成されている。そして、内側の円筒部10c2、10d2を、支持手段19a、19bの接続部19d1、19d2内に液密的に挿入することにより、シリンジ本体10a、10bを、ノズル本体1に接続することができる。なお、このように先端に2重の円筒部を設けたものは、いわゆる「ルアーロック」規格のシリンジ本体であり、本来は外型の円筒部10c1、10d2の内面に形成されたメスまたはオスネジ(ルアーロック)を相手側のオスまたはメスネジに係合させて、シリンジ本体の脱落を防止する。しかし、本実施形態では、上述したように、支持手段19a、19bの接続部19d1、19d2に、シリンジ本体10a、10bの内側の円筒部10c2、10d2を挿入し固定しているので、容易に脱落することはない。そのため、本願のシリンジ本体が「ルアーロック」規格のものに限定されることはなく、シリンジ本体10a、10bの内側または外側に液密的に挿入する円筒部10c2、10d2を有するものであれば、他のいずれの規格のものを用いてもよい。また、各シリンジ本体10a、10bから、逆止弁7a、7bおよび薬液注入口3a、3bを介して薬液流通管5a、5b内に、互いに粘性の異なる薬液をそれぞれ流入可能としている。
【0046】
また、シリンジ本体10a、10bにも、充填される薬液の識別手段9a、9bが設けられている。本実施形態では、透明な材料で形成したシリンジ本体10aに挿入して内部の薬液を押し出すピストン12aを赤色とし、シリンジ本体10bに挿入するピストン12bを青色として、識別手段9a、9bの機能を持たせている。そして、この赤色、青色のピストン12a、12bで識別されたシリンジ本体10a、10bを接続するノズル本体1にも、図1(a)に示すように、赤丸の識別手段11aと青丸の識別手段11bが印刷された識別シール11が貼着されている。また、図1(a)に示すように、ノズル本体1と2本のシリンジ本体10a、10bとを互いに固定する固定手段としてのバンド14にも識別手段を設けている。すなわち、バンド14に「赤」の文字とシリンジ本体10aの取り付け方向を示す矢印を浮き彫りして識別手段14aとしている。また、バンド14に「青」の文字とシリンジ本体10bの取り付け方向を示す矢印を浮き彫りして識別手段14bとしている。これにより、シリンジ本体10a、10bのノズル本体1への接続位置の誤りを、より防止することができる。さらには、上述したように、支持手段カバー21aを赤色、支持手段カバー21bを青色として、これらにも識別機能を持たせている。このような構成により、ノズル本体1への2種類のシリンジ本体10a、10bの接続を、より正確に行うことができる。
【0047】
次に、バンド14によるノズル本体1とシリンジ本体10a、10bとの固定方法について説明する。図1(a)の全体図および図2の斜視図に示すように、バンド14の先端は、ノズル本体1の後端に形成された挿入部1g内に挿入固定されている。また、バンド14の後端は、貫通穴14cが開口されている。一方、シリンジ本体10a、10bを連結するシリンジ本体連結手段20の先端には、上記貫通穴14cに差し込むための突起部20aが上方に向かって突出形成されている。そして、シリンジ本体10a、10bをノズル本体1側の支持手段19a、19bに各々挿入した後に、バンド14を押し下げて、貫通穴14cに、シリンジ本体連結手段20の突起部20aを差し込む。なお、バンドの押し下げとこの差し込みを行い易くするため、バンド14の後端には、指で押圧するための押圧部14dが斜め上方に向かって形成されている。このバンド14により、ノズル本体1からのシリンジ本体10a、10bの脱落を防止するとともに、シリンジ本体10a、10bの前後方向および上下方向への移動を防止する。
【0048】
その結果、ピストン12a、12bの安定した押圧が可能となり、薬液の円滑な吐出が可能となって、生体組織接着剤塗布用具100の安定した使用が可能となる。さらに、バンド14には、前述したように、シリンジ本体10aの接続側を指す矢印と「赤」文字が浮き彫りされた識別手段14aが設けられ、シリンジ本体10bの接続側を示す矢印と「青」の文字が浮き彫りされた識別手段14bが設けられている。そのため、シリンジ本体10a、10bの接続の誤りを、より防止することが可能となる。なお、本実施形態では、「赤」と「青」という文字を用いているが、本願がこれに限定されることはなく、Redの頭文字「R」とBlueの頭文字「B」を用いてもよい。また、色分けも赤と青に限らず、シリンジ本体10a、10bの色や薬液の種類等に応じて、適宜の色を用いてもよい。
【0049】
次に、薬液流通管5bに設けられた連通口8a、8bについて詳細に説明する。これらの連結口8a、8bは、図4の拡大図に示すように、薬液流通管5bの管壁面を、外側の幅が広く、内側の幅が狭いスリット形状に切れ込みを入れて形成してある。また、薬液流通管5bの軸方向に対して交差方向であって、上流側から下流側に傾斜するように形成されており、かつ、長手方向に平行に配置されている。そして、薬液の吐出時には、図5(a)に示すように、ガス圧よりも薬液の吐出圧の方が高いため、連通口8a、8bからガスが薬液流通管5b内に流入することがない。そのため、薬液吐出口4bからの薬液の吐出を妨げることがなく、薬液の円滑な吐出が可能となる。また、シリンジ本体10a、10bに挿入したピストン12a、12bを、ピストン連結手段13で連結して同時に押圧することができる。そのため、薬液流通管5a、5bを流通する粘性の互いに異なる薬液を、バランスのよい吐出割合で各薬液吐出口4a、4bから吐出して患部に塗布することができ、接着性も向上する。
【0050】
さらに、薬液の吐出停止時には、図5(b)に示すように、ノズル本体1の空間1cに充填されたガスのガス圧により、連結口8a、8bが開口する。そして、この連結口8a、8bからガスが薬液流通管5b内に流入して、連結口8a、8bよりも先端側の薬液を外部に排出する。そのため、薬液流通管5bの薬液が外気や他方の薬液と触れにくくなり、次の薬液の吐出までに時間が経過しても、先端側の詰まりを防止することができる。特に、本実施形態のように、逆止弁7bを支持手段19bで支持し、変形を防止している効果により、ガス圧により薬液流通管5bから薬液を排出した後に、逆止弁7bの復元により、連通口8a、8bよりも先端方向への薬液の不測の前進を防止することができる。そのため、粘性の高い薬液が外気や他方の薬液と接触するのをより良好に防止して、先端の詰まり防止効果を向上させることができる。
【0051】
上述のように構成された生体組織接着剤塗布用具100を用いて、生体の患部に噴霧して塗布するには、まずノズル本体1の蓋体1aの後端に接続した支持手段19a、19bのシリンジ接続部19e、19fに、シリンジ本体10a、10bを接続する。この際には、連通口8a、8bが形成された薬液流通管5bに、粘性の高い薬液(例えば、フィブリノゲン溶液)が充填されたシリンジ本体10bを接続する。また、連通口8a、8bが無い薬液流通管5aに、比較的粘性の低い薬液(例えば、トロンビン溶液)が充填されたシリンジ本体10aを接続する。上述したように、シリンジ本体10a、10bに挿入されたピストン12a、12bに識別手段9a、9bが、ノズル本体1に識別手段11a、11bが、バンド14に識別手段14a、14bがそれぞれ設けられている。そのため、シリンジ本体10a、10bの接続位置を誤ることなく正確に接続することができる。シリンジ本体10a、10bを接続したら、バンド14の押圧部14dを押し下げて、シリンジ本体連結手段20の突起部20aを貫通穴14cに差し込むことで、シリンジ本体10a、10bとノズル本体1とを固定する。
【0052】
この固定により、薬液の噴霧中のシリンジ本体10a、10bの軸方向および上下方向へのぐらつきを防止して、薬液噴霧を円滑に行うことができる。次に、操作ボタン(図示せず)などを操作して、ガス供給部からノズル本体1の空間1cにガスを充填しガス噴出口6からガスを噴出する。同時に、ピストン12a、12bを連結するピストン連結手段13を押圧して、2種類の薬液を薬液流通管5a、5bに注入し、薬液吐出口4a、4bから吐出させる。この薬液吐出口4a、4bから吐出した薬液が、図5(a)に示すように、ガス噴出口6から噴出したガスによって霧状に混合されて、患部に噴霧される。この薬液の噴霧の際に、ピストン連結手段13により、ピストン12a、12bを同時に押圧することができる。したがって、2つの薬液の円滑な吐出ができるとともに、バランスのよい好適な混合割合で患部に塗布することができ、接着効果を向上させることができる。
【0053】
なお、生体組織接着剤塗布用具100の断続使用のため、薬液の吐出を停止した際に、ピストン12a、12bによる押圧力の解除によって、薬液に負荷されていた力が解放される。そのためピストン12a、12bを押圧方向とは逆方向に戻す力や、大気圧やガス圧の巻き上げ力などにより、逆止弁7a、7bに、後端方向への力が作用する。そのため、通常は逆止弁が後端方向に変形し、次回の薬液吐出までの間に、この逆止弁が復元して、薬液が次第に薬液流通管に流入していた。そのため、薬液が薬液流通管内を不測に前進し、薬液が外気や他の薬液と接触して、薬液吐出口付近が固化することがあった。特に、薬液の調合の際に薬液内に気泡が混入すると、ピストンからの押圧力によって気泡が圧縮される。そして、ピストンの押圧力解除により、気泡が復元するため、逆止弁が変形した際には、気泡の復元力によって、逆止弁の復元が助長され、薬液流通管内での薬液の不測の前進が発生し易かった。
【0054】
しかし、本実施形態では、逆止弁7a、7bの支持手段19a、19bにより支持し、逆止弁7a、7bの変形を良好に防止している。すなわち、逆止弁7a、7bの係合段部7c11、7d11が、支持手段19a、19bの段部受け部19c11、19d11と弁装着部1f1、1f2の係合受け部1f11、1f21によって支持されている。さらに、逆止弁7a、7bの基部7c、7dとノズル本体1の弁装着部1f1、1f2の先端とが共に、支持手段19a、19bの挟持部19c1、19c2、19d1、19d2により挟持固定されている。したがって、薬液の吐出を一旦停止した際の逆止弁7a、7bの変形および復元が防止され、薬液の不測の前進を防止することができる。
【0055】
次いで、ピストン12a、12bの押圧を停止すると、連通口8a、8bを設けた薬液流通管5b内にガスが流入し、薬液流通管5bと薬液吐出口4bに残留した薬液が外部に排出される。この場合も、逆止弁7a、7bの変形と復元が防止されることで、薬液の不測の前進も防止されているので、薬液流通管5bから薬液を排出した後に、薬液流通管5b内で薬液が連通口8a、8bよりも先端側へ前進することがない。したがって、断続的な使用時でのノズル本体1の先端の固化を良好に防止することができ、次回の薬液の噴霧を円滑に行うことができる。また、このように薬液の固化の防止に優れた製品を、逆止弁7a、7bの支持手段19a、19bを設けただけで得ることができ、部品点数も少なく、部品間の微調整を行うこともないため、簡易な構成で容易かつ廉価に提供することが可能となる。
【0056】
<第二実施形態>
図6は、本発明の第二実施形態にかかる生体組織接着剤塗布用具110の一例を表し、当該実施形態の逆止弁7b1および支持手段付近19b1付近の拡大断面図である。なお、第二実施形態の生体組織接着剤塗布用具110の構成で、第一実施形態と同じ部分については説明を省略する。
【0057】
第二実施形態の生体組織接着剤塗布用具110では、逆止弁7b1を支持する支持手段19b1の構成が第一実施形態とは異なるため、この支持手段19b1を中心に、以下で詳細を説明する。また、第二実施形態でも、図示はしないが、薬液流通管を2本有し、一方の薬液流通管5b1に、図示しないスリット状の連通口を開口している。また、他方の図示しない薬液流通管にも、図6に示すものと同様の逆止弁と支持手段を設けている。
【0058】
本実施形態でも、逆止弁7b1として、基部7d12と一対の対向する弁体7f1とを有するダックビル弁を用いている。この逆止弁7b1を、蓋体1a1の連通孔1e21に連続する弁装着部1f21内に装着している。また、逆止弁7b1の基部7d1には、軸方向に垂直な段状の係合段部(係合部)7d111を設けた突出部7d11が、支持手段19b1方向に突出形成されている。そして、弁装着部1f21の内周には、この逆止弁7b1の係合段部7d111を係合する係合受け部1f211が形成されている。また、弁体7f1のクチバシ部分の内角の角度を小さくして、弁体7f1の空間を小さくし、対向する幅方向略中央部分を、軸方向に半円錐状えぐり取って、軸方向に延伸する一対の薄肉部7h1を形成し、薬液の流路を確保し易くしている。
【0059】
支持手段19b1は、図6に示すように、逆止弁7b1とノズル本体1の弁装着部1f21とを挟持し固定するために、ノズル本体1方向に二重の円筒状の挟持部19d11、19d21を突出形成している。さらに、後端には、シリンジ本体10b1を内部に液密的に接続するための円筒状のシリンジ接続部19f1が突出形成されている。また、支持手段19b1の内面に形成された挟持部19d11を、逆止弁7b1内に挿入して、この逆止弁7b1に形成された係合段部7d21に突き当てて支持する段部受け部(係合部)19d111を設けている。また、第一実施形態と異なる点としては、挟持部19d11の先端を、弁体7f1方向まで突出して先端突出部19d112を形成している。また、先端突出部19d112の外面を、弁体7b1の対向する内面の傾斜と同様の傾斜となるよう形成し、当該先端突出部19d111外面を弁体7f1の内面に当接させている。この構成により、支持手段19a1による弁体7f1の支持力を、より強固なものとしている。
【0060】
以上のように、第二実施形態の生体組織接着剤塗布用具110でも、薬液の吐出時には、上記構成の逆止弁7b1等により薬液の円滑な吐出が可能となる。また、支持手段19b1によって逆止弁7b1の変形を防止しているため、薬液吐出の停止時は、薬液流通管5b1内で薬液が図示しない連通口よりも先端側へ不測に前進することがない。したがって、断続的な使用時でのノズル本体101の先端の固化を良好に防止することができ、次回の薬液の噴霧を円滑に行うことができる。また、このように薬液の固化の防止に優れた製品を、逆止弁19b1等の支持手段19b1等を設けただけで得ることができ、部品点数も少なく、部品間の微調整を行うこともないため、簡易な構成で容易かつ廉価に提供することが可能となる。
【0061】
また、上記各実施形態では、2本の薬液流通管を用いた例を示しているが、本願がこれに限定されることはない。例えば、逆止弁とその支持手段を設けていれば、1本の薬液流通管を用いて、1つの薬液吐出口から1種類の薬液の噴霧を行うものであってもよい。この場合でも、支持手段による逆止弁の変形防止により、薬液の不測の前進を良好に防止することができる。また、3本以上の薬液流通管を用いて各々に逆止弁と支持手段を設け、3つ以上の薬液吐出口から3種類以上の薬液を吐出するような構成としてもよい。この場合も、上記と同様の効果が得られる。
【0062】
また、複数の薬液流通管に、連通口を設ける場合、例えば、薬液の粘性に応じて、各薬液流通管に設ける連通口の数を変えて、開口面積の和を変えてもよい。そして、粘性の高い薬液が充填されたシリンジ本体を、連通口の開口面積の和が、より広い薬液流通管から順に接続すれば、粘性に応じた薬液の排出を効率的に行うことができる。
【0063】
なお、上記各実施形態では、薬液の吐出時は、連通口からガスが流入しないような構成で連通口を形成しているが、薬液吐出時にもガスが連通口から流入するようにしてもよい。この場合、ガス圧によって、粘性の高い薬液の吐出をアシストすることができる。その結果、当該薬液よりも粘性の低い薬液を同時に吐出する際など、各薬液をバランスのよい吐出割合で吐出することができ、使用する薬液のバリエーションを広げることができる。
【0064】
また、上記各実施形態では、例えば、第一実施形態のように薬液流通管をプラスチックチューブで形成し、薬液流通管5bの内部とノズル本体1内部とを連通するため、連通口を設けている。しかし、本願がこれに限定されることはなく、例えば、ゴアテックス(登録商標)などのように、気体の通過を許容するが、液体の通過を制限する材料で薬液流通管を形成してもよい。このような構成により、薬液がノズル本体内に漏れ出すことはないが、ノズル本体内のガスは薬液流通管内に流入するため、そのガス圧によって薬液の排出を補助することができる。
【0065】
また、連通口も形成せず、気体のみ通過させる材料も使用せずに、より軟質性の高い材料で薬液流通管を形成してもよい。この場合、薬液の吐出を停止すると、ノズル本体内のガス圧によって、軟質性の高い薬液流通管が扁平となる。そのため、薬液流通管内に残留した薬液を外部に吐出することができる。また、軟質性の低い材料で薬液流通管を形成し、薬液流通管の途中に、軟質性の高いバルーン状の膨らみを形成してもよい。このバルーン状の膨らみは、薬液の吐出時は薬液が入り込んで膨らむが、薬液の流通を妨げることはない。次いで、薬液の吐出停止時には、ノズル本体1内のガス圧を受けて萎むため、薬液流通管内の先端側の薬液を排出することができる。
【0066】
このように、粘性の高い薬液が流通する薬液流通管のみに連通口を形成したり、複数の薬液流通管に連通口を形成するが、粘性の違いによって連通口の開口面積を変化させたり、粘性の高い薬液が流通する薬液流通管のみに、気体の通過を許容するが液体の通過を制限する材料で形成したり、薬液流通管にバルーンを設けたりすること等により、薬液吐出停止時に、薬液流通管の先端内から薬液を排出することができる。また、粘性の異なる複数の薬液を、バランスのよい吐出割合で吐出することができる場合もある。さらに、各薬液流通管に逆止弁とその支持手段を設け、支持手段により逆止弁の変形と復元を防止することにより、薬液排出後の薬液の不測の前進を防止することができる。そのため、ノズル本体1の先端の固化防止の効果を向上できる。
【0067】
また、上記各実施形態では、1つのノズル本体1内に、複数の薬液流通管8a、8bを収納しているが、本願がこれに限定されることはない。例えば、他の異なる実施形態として、内部に空間を有するノズル本体は、複数の薬液流通管に対して個別に設けられてもよい。すなわち、生体組織接着剤塗布用具が複数個のノズル本体を有するものであってもよい。このような実施形態の場合、図示はしないが、各ノズル本体は、ノズル本体内部の空間内にガスを充填するためのガス注入口と、ノズル本体に設けられた薬液注入口と、ノズル本体の先端に設けられた薬液吐出口と、ノズル本体の内部に収納され、薬液注入口及び薬液吐出口を各々連通する薬液流通管と、薬液吐出口近傍に設けられ、ガス注入口からノズル本体の内部に充填されたガスを噴射し、薬液吐出口から吐出される薬液を霧状に噴霧混合するガス噴出口と、少なくとも1つの薬液流通管に設けられた連通口と、当該連通口を設けた薬液流通管に少なくとも設けられ、薬液注入口から当該薬液流通管内部への薬液の流入を許容し、当該薬液流通管内からの薬液吐出口方向への薬液の流出を規制する逆止弁と、を有する構成とする。このような生体組織接着剤塗布用具であっても、断続使用時に、薬液の吐出を停止した場合に、連通口から流入したガスのガス圧によって、粘性の高い薬液でも容易に外部に排出することができる。したがって、薬液の固化を良好に防止して、生体組織接着剤塗布用具の断続使用を円滑に行うことができる。この場合も、連通口を設けた薬液流通管に支持手段を備える逆止弁を設けていることにより、ガスによる薬液の排出の際に、薬用流通管内のガスが各ノズル本体に連結したシリンジ本体へ流入するのを防ぐことが可能となる。
【0068】
また、上記他の実施の形態では、複数のノズル本体内に、薬液流通管が1本ずつ収納されているが、本願がこれに限定されることはない。ノズル本体を複数用いた場合であるとともに、その1つまたは複数のノズル本体に、複数本の薬液流通管を設けてもよい。この場合、支持手段を備える逆止弁を設けた薬液流通管および支持手段を備えていない逆止弁を設けた薬液流通管、または、逆止弁自体を設けていない薬液流通管を1つのノズル本体内に設けてもよいし、各ノズル本体のすべての薬液流通管に支持手段を備える逆止弁を設けてもよい。また、各薬液流通管に連通口を設けてもよい。いずれの場合にも、支持手段を備える逆止弁を設けることにより、薬液の噴射を停止した際の戻り圧等により、薬液流通管から薬液やガスがシリンジ本体へ逆流するのを防ぐことが可能となる。以上、支持手段を備える逆止弁を共に有する薬液流通管を含むものであれば、支持手段を備える逆止弁を設けた本薬液流通管に連通口を設けるか否か、また、他の薬液流通管に連通口や支持手段を備える逆止弁または支持手段を備えていない逆止弁を設けるか否かは任意である。
【0069】
なお、本発明は上述の各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含むものである。
【符号の説明】
【0070】
1、101 ノズル本体
1f1、1f2、1f21 弁装着部
1f11、1f21 係合受け部
2 ガス注入口
3a、3b、3b1 薬液注入口
4a、4b 薬液吐出口
5a、5b、5b1 薬液流通管
6 ガス噴出口
7a、7b、7b1 逆止弁
7c、7d、7d12 基部
7c1、7d1 突出部(円筒状)
7c11、7d11、7d111 係合段部(突出部に形成)
7e、7f、7f1 弁体
7g、7h、7g1、7h1 薄肉部
8a、8b 連通口
9a、9b 識別手段(ピストン側)
10a、10b、10b1 シリンジ本体
11a、11b 識別手段(ノズル本体側)
12a、12b ピストン(押圧手段)
13 ピストン連結手段(連結手段)
14 バンド(固定手段)
14a、14b 識別手段(バンド側)
19a、19b、19b1 支持手段
19c1、19d1、19d11 内面側挟時部(円筒状)
19c11、19d11、19d111 当接部
19c2、19d2、19d21 挟持部(円筒状)
19e、19f、19f1 シリンジ接続部
20 シリンジ本体連結手段
21a、21b、21b1 支持手段カバー(識別手段)
100、110 生体組織接着剤塗布用具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空間を有するノズル本体と、
前記ノズル本体内部の前記空間内にガスを充填するためのガス注入口と、
前記ノズル本体に設けられた薬液注入口と、
前記ノズル本体の先端に設けられた薬液吐出口と、
前記ノズル本体の内部に収納され、前記薬液注入口および前記薬液吐出口を各々連通する薬液流通管と、
前記薬液吐出口近傍に設けられ、前記ガス注入口から前記ノズル本体の内部に充填されたガスを噴射し、前記薬液吐出口から吐出される薬液を霧状に噴霧するガス噴出口と、
前記薬液流通管に設けられ、前記薬液注入口から当該薬液流通管内部への前記薬液の流入を許容し、当該薬液流通管内部からの前記薬液注入口方向への前記薬液の流出を規制する逆止弁と、
前記逆止弁を支持して前記逆止弁による前記薬液の流出を規制する方向への変形を防止する支持手段と、を有する生体組織接着剤塗布用具。
【請求項2】
前記逆止弁は、
内面への圧力の付与によって開口し、外面への圧力の付与によって閉鎖する弁体と、 前記弁体の薬液の流出の規制側に設けられた基部と、を有する請求項1に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項3】
前記基部は、前記支持手段方向に突出する突出部を有し、
前記支持手段は、前記基部の前記突出部に当接して支持する係合部を有する請求項2に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項4】
前記基部は、前記突出部の内面または外面に、軸方向に垂直な段状の係合段部を有し、
前記支持手段は、前記突出部の前記係合段部に対応して、当該係合段部を付き当てる段部受け部を外面または内面に有する請求項3に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項5】
前記逆止弁は、対向する一対の前記弁体を有し、
前記弁体の少なくとも一方の対向する内側に、軸方向に延伸する薄肉部が形成されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項6】
前記支持手段は、前記係合部の先端を、前記逆止弁の対向する前記一対の弁体の前記内側まで突出させ、かつ、外面を当該弁体の対向する内面の形状と略同様の形状に形成したことを特徴とする請求項5に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項7】
前記ノズル本体は、前記逆止弁を装着する弁装着部を前記薬液注入口側に有し、
前記支持手段は、前記弁装着部を内面側と外面側から挟持固定するための、挟持部を先端に突出形成している請求項1〜6のいずれか一項に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項8】
前記薬液流通管は、気体の通過を許容するが、液体の通過を制限する材料で形成された請求項1〜7のいずれか一項に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項9】
前記薬液流通管は、軟質性のプラスチックチューブで形成された請求項1〜7のいずれか一項に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項10】
前記薬液が充填され、前記薬液流通管の薬液注入口に接続するシリンジ本体を、さらに有する請求項1〜9のいずれか一項に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項11】
前記薬液流通管は、前記逆止弁を設けた前記薬液流通管に、前記ノズル本体内部と前記薬液流通管内部とを連通し、前記ノズル本体内部の前記ガスを前記薬液吐出口方向に導入する、少なくとも1つの連通口を有する請求項1〜10のいずれか一項に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項12】
前記連通口は、前記薬液流通管の管壁面の長手方向に複数個形成された請求項11に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項13】
前記薬液流通管を複数有し、前記連通口は、前記薬液流通管ごとに、前記連通口の開口面積の和が、それぞれ異なる請求項11または12に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項14】
粘性の異なる薬液が充填される前記シリンジ本体を複数有し、粘性のより高い前記薬液が充填される前記シリンジ本体に、前記連通口の前記開口面積の和がより広い前記薬液流通管に接続し、少なくとも当該粘性のより高い前記薬液が流通する前記薬液流通管に、前記逆止弁および前記支持手段を設けた請求項13に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項15】
粘性の異なる前記薬液が充填されるシリンジ本体を接続する前記薬液流通管を識別するための識別手段を、さらに有する請求項14に記載の生体組織接着剤塗布用具。
【請求項16】
内部に前記空間を有する複数の前記ノズル本体が、複数の前記薬液流通管に対して個別に設けられた請求項1〜14のいずれか一項に記載の生体組織接着剤塗布用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−100852(P2012−100852A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251516(P2010−251516)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】