説明

生体組織補填材料用シリンジ

【課題】 治療現場でのピストンの着脱操作が必要なく、生体組織補填材料に液体を効率よく浸透させることができ、構造も簡単なシリンジを提供する。
【解決手段】 一端の吐出口及び他端の開口端からピストンが挿嵌されるシリンジ体であって、前記他端又はその近傍の周囲にフランジ部が形成され、更に前記他端又はその近傍の周囲に直径0.2〜5mmの横穴が設けられていることを特徴とする生体組織補填材料用シリンジ、あるいは、生体組織補填材料が予め収納されており一端の吐出口にキャップが被せられていて他端の開口端からピストンが挿嵌されているシリンジ体であって、前記他端又はその近傍の周囲にフランジ部が形成され、更に前記他端又はその近傍の周囲に直径0.2〜5mmの横穴が設けられていることを特徴とする生体組織補填材料用シリンジとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織補填材料に生理食塩水や骨髄液等の液体を浸透させ、その生体組織補填体を患部に補填するための生体組織補填材料用シリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセラミックスや生体吸収性高分子から構成される生体組織補填材料が、骨損傷/骨疾患の治療のために、特に骨折,骨嚢胞,骨量の減少による人工関節補正術,大腿骨頭の虚血壊死,変性円板疾患による脊椎固定術,口腔顎顔面骨欠損および再構成,骨粗しょう症性骨折等の症例で用いられている。この種の生体組織補填材料が顆粒状の場合、乾燥した状態で顆粒状のまま患部に充填することは操作性が悪く困難な場合があった。そのため顆粒状の生体組織補填材料を生理食塩水,骨髄液,血清,薬液等と混合することによって補填時の操作性を向上させる必要がある。生体組織補填材料に生理食塩水等の液体を浸透させ混合物として患部へ適用する場合、生体組織補填体を患部へ適用するための補填器具として一般的な注射器の先端部分を切り落とした形状の筒状のシリンジが用いられていた。
【0003】
生体組織補填材料へ生理食塩水等の液体を混合させる方法は、シリンジ内へ生体組織補填材料を充填しておき、別の注射器を用いて液体をシリンジの吐出口またはピストンを外したシリンジのもう一方の開口端から注入する方法や、予め生体組織補填材料と液体をシャーレ等で混合したものをシリンジ内に充填する方法等が行われており、シリンジ内に充填された生体組織補填体をシリンジに挿嵌されたピストンにて押し出すことで患部へ補填していた。しかし、従来のシリンジでは、ピストンを取り付けた状態で吐出口から生体組織補填材料をシリンジ内に入れ、その後、吐出口から液体を注入すると、液体に生体組織補填材料が押し上げられてしまい吐出口から生体組織補填材料が溢れ落ちてしまうので非常に困難な操作であった。一方、ピストンを外して開口端から液体を注入する方法は、ピストンの着脱操作が煩わしいばかりではなく、治療現場での操作によって生体組織補填材料やピストンが汚染されてしまう危険があった。また、予め液体と混合された生体組織補填体をシリンジ内に充填させる場合は、液体の粘度や混合物の状態によっては、湿った生体組織補填体をシリンジ内に充填する操作が非常に困難であり、更に治療現場で混合する操作自体が汚染の可能性が高いという問題があった。
【0004】
内部を減圧させたシリンジ本体内に多孔質の生体組織補填材料を入れ気密状態を維持しておき、シリコーンゴムや樹脂等で作製されているシール部分に液体の入った注射器の針を刺して液体をシリンジ本体に気圧差で注入する構造のシリンジもある(例えば、特許文献1参照)。しかし、このシリンジは減圧やその維持が必要でありコストの問題があった。
【0005】
また、2本のシリンジを接続して液体と生体組織補填材料とを混合するものも知られている(例えば、特許文献2,3参照)。しかし、これらのシリンジはその構成が複雑であるため製造にコストがかかり、操作も複雑となる問題があった
【0006】
【特許文献1】特開2006−180919
【特許文献2】特表2010−502379
【特許文献3】特表2010−520788
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、治療現場でのピストンの着脱操作が必要なく、顆粒状の生体組織補填材料に液体を効率よく浸透させることができ、構造も簡単なシリンジを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は課題を解決するために鋭意検討した結果、前端に吐出口を有し、後端の開口端からピストンが挿嵌される筒状のシリンジであって、前記後端又はその近傍の周囲にフランジ部が形成され、更に前記後端又はその近傍の周囲に直径0.1〜5mmの横穴が設けられていることを特徴とする生体組織補填材料用シリンジとすると、前記課題を解決可能であることを見出して本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、治療現場でのピストンの着脱操作が必要なく、生体組織補填材料に液体を効率よく浸透させることができ、構造も簡単なシリンジである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る生体組織補填材料用シリンジの1実施例を示す斜視説明図。
【図2】本発明に係る生体組織補填材料用シリンジの他の実施例を示す斜視説明図。
【図3】本発明に係る生体組織補填材料用シリンジの更に他の実施例を示す斜視説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面中1は前端に吐出口を有し、後端の開口端(1a)からピストン(1b)が挿嵌されるシリンジ(1)である。シリンジの本体は透明または半透明のガラスや樹脂製であると中の状態が確認できるので好ましい。シリンジ(1)の本体は後端の開口端(1a)又はその近傍の周囲にフランジ部(1c)が形成され、更に前記開口端(1a)又はその近傍の周囲に直径0.1〜5mmの横穴(1d)が設けられている。フランジ部(1c)はピストン(1b)を手動で押し出すために必要なものである。液体を注入する前には、横穴(1d)はシールや栓等で塞いでおいて注入時に取り除く構成としてもよい。
【0012】
横穴(1d)はシリンジ(1)の内部に液体を注入するために設けられている。あるいは横穴(1d)は、シリンジ前端の吐出口から生理食塩水等の液体を入れる場合に、空気の排出路としての役割を示す。従って、液体あるいは空気が通過すればよいため、厳密な円である必要はなく、楕円,棒状,凹凸の緩やかな星形等の形状であっても良く、その場合の直径は横穴(1d)の外径の平均付近を結ぶ仮想円の直径を示す。生体組織補填材料(M)が溢れ出さない大きさを考慮すると横穴の直径は0.1〜5mmであり、好ましくは0.2mm〜4mm、より好ましくは0.4〜3mm、さらに好ましくは0.8〜2.5mmである。
【0013】
横穴(1d)が開口端(1a)又はその近傍の周囲に設けられている理由は、横穴(1d)からシリンジ(1)へ液体を注入する場合に横穴(1d)と開口端(1a)との距離が長すぎると、横穴(1d)と開口端(1a)との間の空気を液体で置換することが困難となるからである。同様に、吐出口から液体を入れる場合も、横穴(1d)は空気の排出路としての役割を示すので、横穴(1d)と開口端(1a)との距離が長いと、当該部位間の空気が液体で置換されにくいからである。ただし、ピストン(1b)は後述するように、シリンジ本体から容易に抜けないよう常にシリンジに挿嵌されていることが好ましいため、挿嵌されたピストン(1b)の先端に一般的に設けられている内栓の厚みの分だけ横穴(1d)を設ける際には開口端(1a)から距離を取った方がよい。
【0014】
横穴(1d)を設ける際には開口端(1a)からの距離は、シリンジ(1)の本体の長さやピストン(1b)の先端に設けられている内栓の厚みによっても異なるが、例えば、開口端から30mm以下であることが好ましく、20mm以下であることがより好ましく、10mm以下であることがさらに好ましい。
【0015】
横穴(1d)の周囲は、液体を注入するための別のシリンジを接続するための接続口(1f)が設けられていても良い。また、横穴(1d)からの顆粒状の生体組織補填材料(M)の流出を防止する目的で、横穴(1d)に網等を配置してもよい。
【0016】
シリンジ(1)の前端の吐出口は図1に示したような先細り状であっても良いし、図3に示すような直筒状であってもよい。顆粒状の生体組織補填材料を使用する場合は流動性に劣るため、先細り状のシリンジからの吐出が困難となる場合がある。そのような場合には、吐出口に漏斗を取り付けたり、本発明における顆粒状生体組織補填材料の患部への注入特性を最大化するために図3に示すように吐出口を直筒状とすることが好ましい。なお、直筒状の吐出口とはシリンジ本体の径と同じ径を持つ吐出口を意味している。
【0017】
ピストン(1b)がシリンジ(1)の本体から容易に外れてしまうと、生体組織補填材料が漏れてしまい規定量を充填できなかったり、生体組織補填材料が汚染されてしまったりする問題が起きる。そのため、シリンジ(1)の開口端(1a)の内側にピストン(1b)を係止させるためのピストン係止部(1g)を設けることが好ましい。ピストン係止部(1g)はシリンジ(1)の開口端(1a)の内径に凸出する形状であれば特に限定されず、シリンジ(1)の本体と別部品として設けても良いし、シリンジ(1)の開口端(1a)を成形する際に一体で成形された突起であってもよいし、開口端(1a)内に設けられた溝に嵌め込まれたOリング等であってもよい。なお、ピストンの係止とは、ピストンが完全にシリンジから外れない状態のみを意味しているのではなく、本発明に係る生体組織補填材料用シリンジを使用する際に不都合を起こさない範囲で充分な抵抗をピストンとシリンジ間に付与するためのピストンの係止状態を含む。
【0018】
図1に示した本発明に係る生体組織補填材料用シリンジの1実施例の使用方法を説明する。生体組織補填材料用シリンジ1は、直径約0.5mmの横穴(1d)が後端の開口端(1a)から5mmの位置に設けられている。また、開口端(1a)の再後端部に円盤状のフランジ(1c)が設けられている。更に、ピストン(1b)が後端の開口端(1a)の入り口付近に挿嵌された状態で提供される。
【0019】
まず、漏斗等を用いてその前端の吐出口からシリンジ(1)の内部に顆粒状の生体組織補填材料(M)を充填する。その後、図示しないが、生理食塩水や体液等の液体が充填された例えば注射器を用い、前記横穴(1d)から液体をシリンジ本体(1)内に注入する。別のシリンジを接続するための接続口(1f)を有しておらず、且つ横穴(1d)が0.1〜2mm程度と小さな場合には、先に針の装着された注射器を用いて針を横穴(1d)に刺して液体を注入するとよい。勿論、生理食塩水や体液等の液体が充填された注射器を用い、シリンジの前端の吐出口から液体を注入することも可能である。
【0020】
横穴(1d)から液体を注入した後、ピストン(1b)の生体組織補填材料用シリンジ内に挿嵌された先端が横穴(1d)の位置より吐出口側になるように少しピストン(1b)を押し込むことで、横穴(1d)を無効化して注入された液体が横穴(1d)から流出することを防ぐ。
【0021】
図2に示した本発明に係る生体組織補填材料用シリンジの他の実施例を説明する。生体組織補填材料用シリンジ1は、シリンジ内に生体組織補填材料(M)が予め収納され、前端の吐出口にキャップ(1e)が被せられ、後端の開口端(1a)からピストン(1b)が挿嵌されているシリンジであって、前記後端又はその近傍の周囲にフランジ部(1c)が形成され、更に前記後端又はその近傍の周囲に直径0.1〜5mmの横穴(1d)が設けられている生体組織補填材料用シリンジである。
【0022】
この図2に示した例では、予めシリンジ(1)の内部に生体組織補填材料(M)が収納され、吐出口にキャップ(1e)が被せられピストン(1b)がシリンジ(1)の後端の開口端(1a)に挿嵌されていることを除いて前述の実施例と同様である。キャップ(1e)には、使用する生体組織補填材料(M)の粒子径よりも小さな空気抜きの穴が設けられていてもよい。
【0023】
図3に示した本発明に係る生体組織補填材料用シリンジの更に他の実施例を説明する。図3に示した生体組織補填材料用シリンジ1は、直径約0.8mmの横穴(1d)が後端の開口端(1a)から10mmの位置に設けられている。また、開口端(1a)の再後端部に円盤状のフランジ(1c)が設けられている。更に、ピストン(1b)が後端の開口端(1a)の入り口付近に挿嵌された状態で提供される。このシリンジ(1)の開口端(1a)近傍には、ピストン(1b)を係止させるための棒状のピストン係止部(1g)が、開口端(1a)近傍の貫通孔に嵌合されシリンジ(1)の開口端(1a)内径に凸出するよう設けられている。
【0024】
この実施例は横穴(1d)の周囲に他のシリンジを接続するための接続口(1f)が設けられている。他のシリンジの吐出口を接続口(1f)に嵌入して固定してから、他のシリンジに収納されている液体を本発明に係る生体組織補填材料用シリンジの収納部に注入して使用される。
【0025】
本発明に係る生体組織補填材料用シリンジに用いる生体組織補填材料(M)としては、バイオガラス,水酸アパタイト,炭酸アパタイト,フッ素アパタイト,リン酸水素カルシウム(無水物または2水和物),リン酸三カルシウム,リン酸四カルシウム,リン酸八カルシウム等のバイオセラミックスや、ポリグリコール酸(PGA),ポリ乳酸(PLA),乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA),ポリ−ε−カプロラクトン(PCL),ポリジオキサン,乳酸−ε−カプロラクトン共重合体,ポリアミノ酸,ポリアンハイドライド,ポリオルソエステル、コラーゲン、ゼラチン及びそれらの共重合体中から選択される一種または二種以上の混合物から構成される生体吸収性高分子の粉末、または、バイオセラミックスと生体吸収性高分子の複合体等が使用可能である。これらの生体組織補填材料(M)は多孔質であり、その粒子径は0.1〜5mmであることが好ましい。生体組織補填材料(M)の粒子径はシリンジの横穴(1d)より大きいほうが好ましい。
【符号の説明】
【0026】
1 シリンジ
1a 開口端
1b ピストン
1c フランジ部
1d 穴
1e キャップ
1f 接続口
1g ピストン係止部
M 生体組織補填材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端に吐出口を有し、後端の開口端(1a)からピストン(1b)が挿嵌される筒状のシリンジ(1)であって、前記後端又はその近傍の周囲にフランジ部(1c)が形成され、更に前記後端又はその近傍の周囲に直径0.1〜5mmの横穴(1d)が設けられていることを特徴とする生体組織補填材料用シリンジ。
【請求項2】
シリンジ内に生体組織補填材料(M)が予め収納され、前端の吐出口にキャップ(1e)が被せられている請求項1に記載の生体組織補填材料用シリンジ。
【請求項3】
横穴(1d)の直径が0.4〜3mmである請求項1または2に記載の生体組織補填材料用シリンジ。
【請求項4】
前端の吐出口が直筒状である請求項1〜3の何れか1項に記載の生体組織補填材料用シリンジ。
【請求項5】
開口端(1a)側の内面にピストン(1b)を係止させるためのピストン係止部(1g)が設けられている請求項1〜4の何れか1項に記載の生体組織補填材料用シリンジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−335(P2013−335A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134335(P2011−134335)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人科学技術振興機構 骨置換型人工骨委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】