説明

生体親和性組成物含有挿入体及び生体親和性組成物含有挿入体組立体

【課題】生体親和性組成物により、挿入体と生体組織との間に生じる隙間を内部から確実に封止し、感染症や炎症に発生リスクを軽減する生体親和性組成物含有挿入体を提供する。
【解決手段】生体組織に接することにより反応して容積が変化する材料でかつ抗菌性のある生体親和性組成物Yを、生体に挿入される挿入本体13に設け、挿入本体13の生体挿入時に挿入本体13と生体組織との間に生じる隙間を生体親和性組成物Yにより確実に封止することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体に挿入留置される挿入体と生体組織との間の隙間内を生体親和性組成物にて封止し、外部から隙間内に細菌や汚れなどの異物の入り込みを防止する生体親和性組成物含有挿入体及び生体親和性組成物含有挿入体組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、生体に挿入体を挿入し留置するときには、挿入体と生体組織(例えば、体表面)との間にわずかな隙間が生じることがあり、この隙間に細菌(例えば、皮膚に常在する細菌)や汚れなどの異物が入り込むと、感染症や炎症を引き起こすおそれがある。
【0003】
このような感染症や炎症を防止するため、従来から生体に挿入した挿入体あるいはその周辺部を上から覆うように粘着性フィルムドレッシングを貼付する処置(下記特許文献1参照)、抗菌性繊維から形成されたパッド(下記特許文献2参照)、あるいは抗菌剤放出用の重合体を含む弾性パッドにより挿入体あるいはその周辺部を覆うように貼付する処置(下記特許文献3参照)などが取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−94299号(段落番号「0003」など参照)
【特許文献2】特開2008−220633号(段落番号「0012」「0019」など参照)
【特許文献3】特許第3046623号(第3頁右欄第25行〜第46行など参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなドレッシング剤やパッドを前記接触部あるいはその周辺部に貼付する処置は、感染症や炎症の予防に対して一定の効果を得ることができる。
【0006】
ところが、このようなドレッシング剤やパッドにより挿入体あるいはその周辺部を覆う処置は、挿入体と生体組織との間の隙間を単に上方から覆うのみであるため、隙間内に入り込んだ細菌や汚れなどの異物に対しては対処できず、確実に感染症や炎症を防止することは難しい。
【0007】
また、パッドを貼着する場合、挿入体の外径がパッドに開設された開口の内径よりも小さくしなければならず、挿入体あるいはパッド開口のサイズ選定が困難になることもあり、場合によっては、挿入体の全周あるいは全方位を確実に封止することができないという不具合もある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、挿入体と生体組織との間に生じる隙間内に生体親和性組成物を入れ、外部から隙間内への細菌や汚れなどの異物の入り込みを防止し、感染症や炎症を発生させるリスクを軽減する生体親和性組成物含有挿入体及び生体親和性組成物含有挿入体組立体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の生体親和性組成物含有挿入体は、生体組織に接することにより反応して容積が変化する生体親和性組成物を、生体に挿入される挿入体の表面に設け、前記挿入体の生体挿入時に、前記挿入体と生体組織との間に生じる隙間を前記生体親和性組成物により封止し、感染症や炎症の発生を防止乃至軽減することを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成する本発明の生体親和性組成物含有挿入体組立体は、内部にルーメンを有し、生体に挿入される挿入本体、当該挿入本体の基端に設けられた挿入体ハブ、及び、前記挿入本体の外周面に設けられ、前記生体の組織に接することにより反応して容積が増大変化する生体親和性組成物,を有する外針部と、前記挿入本体のルーメンに挿入され、前記生体に穿刺可能な針先を先端に有する内針部材、及び、前記内針部材の基端に設けられた内針ハブ、を有する内針部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、挿入体の外周面に、生体組織との接触により反応して容積が変化する生体親和性組成物を設けたので、挿入体を生体に挿入するのみで、この挿入により生じた隙間を生体親和性組成物により封止し、隙間内部へ細菌や汚れなどの異物の入り込みを確実に防止乃至軽減できる。例えば、挿入体の先端から基端まで全体を生体親和性組成物により覆うと、隙間の最深部から表面までの全経路を、隙間の内周面全周あるいは全方位的に封止することができる。
【0012】
特に、手技者は、挿入体の挿入手技を行うのみで、感染予防のための処置を行う必要がなく、また、従来のように手技を行う時に挿入体あるいはパッド開口などサイズ選定作業などは全く不要となり、手技やデバイスなどの増加を最小限に抑えることができ、手技の迅速化を図ることができ、利便性も大幅に向上する。例えば、手技者がデバイスに触れ、汚染のおそれが生じるような場合であっても、手技に影響を及ぼすことなく、汚染のリスクを確実に防止乃至軽減できる。
【0013】
請求項2の発明では、生体親和性組成物に抗菌性を付与したので、より確実に感染や炎症を発生させる細菌や汚れなどの異物の生体内への混入リスクを軽減することができる。
【0014】
請求項3の発明では、生体親和性組成物が容積変化するときの反応が、生体組織の温度、pHあるいは水分のいずれかで引き起こされるので、生体組織に悪影響を及ぼすことがなく、挿入体と生体組織との間に生じる隙間の閉鎖を行うことができる。
【0015】
請求項4の発明では、生体親和性組成物を生体内吸収分解性の素材としたので、挿入体の生体留置期間の調整が不要になるか、若しくは調整が容易になる。
【0016】
請求項5の発明では、生体親和性組成物を、挿入本体における外周面の少なくとも一部を少なくとも1周する環状部となるように設けたので、挿入本体を基端部まで挿入すれば、挿入により生じる隙間の最深部から表面までの全経路において、いずれかの深さ位置に生体親和性組成物が存在することになり、細菌や汚れなどの異物による感染症や炎症を隙間全体において防止乃至予防できる。また、生体親和性組成物の容積増大変化により隙間が封止され、細菌や汚れなどの異物の外部から隙間内方への侵入も防止される。さらに、挿入先端から基端部まで生体親和性組成物が存在していると、隙間の最深部から表面までの全経路において、どの深さ位置にも生体親和性組成物が存在することになり、異物による感染症や炎症を隙間全体において防止することができる。挿入本体を基端部まで挿入する手技を行うに当り、挿入当初から挿入完了まで生体組織と挿入本体との摩擦抵抗が均一化となり、挿入手技が円滑にできる。加えて、生体親和性組成物を外周面に設けた挿入体を製造するに当っても、挿入本体の外周面に沿って螺旋状に塗布すれば、挿入体を回転させながら生体親和性組成物を連続的に塗布でき、塗布作業が容易でかつ迅速になり、挿入体を製造しやすく、塗布する生体親和性組成物の使用量を抑えることができコスト的にも有利となる。
【0017】
請求項6の発明では、挿入本体の軸線に対し特定の傾斜角度を有し、挿入本体の表面から突出した突出部を形成するように生体親和性組成物を設けたので、塗布生体親和性組成物は挿入本体の外周面を周回するリング状となり、挿入本体と生体組織との間の隙間を、生体親和性組成物が存在する部分から表面側と内方側に遮断でき、細菌や汚れなどの異物の外部から内方側への侵入が防止される。
【0018】
請求項7の発明では、生体親和性組成物を挿入本体の外周面上に、当該挿入本体の軸線を中心として螺旋構造となるように設けたので、外部からの異物侵入を防止する箇所が複数となり、異物侵入によるリスクが大幅に低減する。
【0019】
請求項8の発明では、生体親和性組成物を挿入本体の外周面に穿設された溝部に埋設したので、挿入本体の挿入後、生体親和性組成物の容積が増大変化しても、生体親和性組成物は溝部により固定的に保持されるので、留置時に挿入本体が変位しても、生体親和性組成物が隙間を閉塞する、いわゆるシール性を損なうおそれがなく、細菌や汚れなどの異物の侵入防止効果が増大する。
【0020】
請求項9の発明では、生体と接合する接着剤により構成される接着層と、容積が増大変化する膨潤剤により構成される膨潤剤層と、抗菌剤からなる抗菌層を、それぞれ独立にあるいは2層択一的に混合して前記挿入本体の外周面に区分け若しくは層状に塗布するので、挿入体の種類に応じた各層の量あるいは位置関係などを調整でき、実用的な挿入体となる。
【0021】
請求項10の発明では、生体親和性組成物を特定の色で着色するので、挿入手技を行う場合に、生体親和性組成物自体が一種の目安となり、目視により穿刺部を確認でき、手技を円滑にかつ確実に行うことができる。
【0022】
請求項11の発明では、生体に挿入される挿入本体、当該挿入本体の基端に設けられた挿入体ハブ、及び、前記挿入本体の外周面に設けられた前記生体親和性組成物、を有する外針部と、前記挿入本体のルーメンに挿入され内針部材、及び、前記内針部材の基端に設けられた内針ハブ、を有する内針部と、により生体親和性組成物含有挿入体組立体を構成したので、前項の効果を有効に発揮し、円滑な手技を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】留置針を示す概略正面図である。
【図2】図1の概略断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態を示す要部概略正面図である。
【図4】本発明の第2実施形態の要部を示す概略正面図である。
【図5】本発明の第3実施形態の要部を示す概略正面図である。
【図6】本発明の第4実施形態の要部を示す概略正面図である。
【図7】本発明の第5実施形態の要部を示す概略正面図である。
【図8】(A)は挿入本体の外周面に接着剤を塗布した状態を示す概略正面図、(B)は接着剤層が形成された挿入本体の外周面に抗菌剤を塗布した状態を示す概略正面図、(C)は図6(B)のC−C線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は留置針を示す概略正面図、図2は図1の概略断面図である。本発明に係る挿入体の対象とされるものは、後に例示するように種々のものがあるが、本実施形態では、留置針について説明する。留置針は、例えば、輸液などの動静脈留置用あるいは人工腎臓の動静脈瘻留置用等として使用されるものである。
【0025】
図1,2に示すように、留置針10は、概して、外針部11と、内針部15とから構成されている。外針部11は、内部にルーメンを有し、断面が略円環状の長尺体である挿入本体(カテーテル)13と、挿入本体13を保持する挿入体ハブ(外針ハブ)12とを有している。内針部15は、挿入本体13の内部に形成されたルーメンに挿通される内針部材17と、内針部材17の基端に設けられ、挿入体ハブ12の端部に嵌合される内針ハブ16とを有している。なお、内針ハブ16の遠位端側には、シリンジ部18が設けられている。
【0026】
挿入体ハブ12の構成材料としては、透明(無色透明)、着色透明または半透明の硬質樹脂で構成され、内部の視認性が確保されているものが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル等の各種樹脂材料が挙げられる。
【0027】
挿入本体13の材質としては、例えば樹脂材料、特に、軟質樹脂材料が好適であり、その具体例としては、例えば、PTFE、ETFE、PFA等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂またはこれらの混合物、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルナイロン樹脂、前記オレフィン系樹脂とエチレン−酢酸ビニル共重合体との混合物等が挙げられる。このような挿入本体13は、その全部または一部が内部の視認性を有するもの、すなわち、透明(無色透明)、着色透明または半透明の樹脂で構成されているのが好ましい。これにより、挿入本体13が血管を確保した際、血液が、後述する内針17を通って挿入体ハブ12に流入する現象(フラッシュバック)を目視で確認することができる。また、挿入本体13の構成材料中には、例えば硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸ビスマス、タングステン酸のようなX線造影剤を配合したり、ガドリニウム塩のようなMRI視認剤を配合し、造影機能を持たせることもできる。
【0028】
内針部15は、中央部分に設けられた内針ハブ16と、内針ハブ16の近位端側に設けられた内針17と、から構成されている。内針ハブ16の材質としては、挿入体ハブ12と同質の材料を使用することが出来る。内針17の材質としては、例えばステンレス鋼、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタンまたはチタン合金のような金属材料が挙げられる。
【0029】
このように構成された留置針10は、通常、挿入本体13内に内針17を挿入した状態で、密閉ケース(不図示)内に収納され、保存されている。
【0030】
留置針10を使用するに当たっては、次のように行う。まず、挿入本体13に内針17が挿入された状態の留置針10を生体に穿刺し、内針17及び挿入本体13を生体内の所定位置、例えば、静脈に留置する。そして、内針17のみを抜去することで、挿入本体13は生体内に留置され、その後、例えば、輸液を行う場合には、挿入体ハブ12に輸液チューブを連結する。
【0031】
図3は、本発明の第1実施形態を示す要部断面図である。生体に留置された挿入本体13は、生体と挿入本体13との間に隙間が生じているので、本実施形態では、図3に示すように、挿入体である外針部11における挿入本体13の外周面全体に前記隙間を封止するための生体親和性組成物Yが予め設けられている。つまり、挿入本体13が生体内に挿入されると、挿入本体13の外周面に設けられた生体親和性組成物Yも挿入本体13と共に生体内に留置される。
【0032】
生体内に留置された生体親和性組成物Yは、生体組織の反応因子と接することにより生体と挿入本体13との間の隙間を封止するように容積変化する。このような生体親和性組成物Yは、挿入本体13と生体組織との間の隙間を封止する機能を有するものであればよく、例えば、親水性高分子として、ポリビニルピロリドン、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体、ジメチルアクリルアミド−グリシジルメタアクリレート共重合体などのアクリルアミド−アクリレート共重合体、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホネート、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオシジド、ポリエチレンイミン等の水溶性合成高分子、カルボキシメチルデンプン、ジアルデヒドデンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどの水溶性半剛性高分子、タンニン、リグニン、アルギン酸、アラビアゴム、グアーガム、トラガントガム、ゼラチン、カゼイン、コラーゲンなどの水溶性天然高分子等を挙げることができる。
【0033】
また、生体親和性組成物Yは、抗菌性物質を有するものであってもよい。抗菌性物質として、例えば、ペニシリン系抗菌剤、セフェム系抗菌剤、モノバクタム系抗菌剤、カルバペネム系抗菌剤、アミノグリコシド系抗菌剤、ニューキノロン系抗菌剤、マクロライド系抗菌剤、クリンダマイシン、テトラサイクリン系抗菌剤、メトロニダゾール、ST合剤、グリコペプチド系抗菌剤、ストレプトグラミン系抗菌剤、オキサゾリジノン系抗菌剤、リポペプチド系抗菌剤、グリシルサイクリン系抗菌剤、リポグリコペプチド系抗菌剤などの抗菌剤や、例えばクロルヘキシジン、ポビドンヨード、ヨードチンキ、エタノール、イソプロパノール、イソプロピルアルコール、オキシドールなどの消毒薬や、例えば銀、銅、亜鉛などの金属イオンなどを含有してもよい。
【0034】
また、生体親和性組成物Yは、生体内吸収分解性の素材により構成してもよい。このような素材であれば、挿入本体13を生体に留置する場合、一定期間が経過後に生体内で分解されるため、挿入本体13を抜去する際に容易に抜去することができる。
【0035】
生体親和性組成物Yが生体組織に接することにより容積変化する場合の反応因子としては、例えば、生体組織の温度、生体組織のpHあるいは生体組織の水分などが挙げられる。このような生体親和性組成物であれば、生体親和性組成物自体が生体組織に悪影響を及ぼすことないため、挿入体と生体組織との間に生じる隙間の封止を問題なく行うことができ、好ましい。
【0036】
生体親和性組成物Yを挿入本体13の外周面に設ける方法としては、例えば、浸漬方式や、挿入本体13を回転させつつ塗布する、回し塗り方式などが挙げられるが、これに限定されるものではなく公知の方法を利用できる。
(第2実施形態)
図4は本発明の第2実施形態の要部を示す概略正面図である。第1実施形態は、主として生体親和性組成物Yを挿入本体13の外周面全体に設けたものであるが、本実施形態では、図4に示すように、挿入本体13の挿入側先端から基端部までの外周面を少なくとも1周する螺旋構造を有する環状部となるように設けたものである。
【0037】
留置針10における挿入本体13は、基本的には、挿入本体13を先端部から基端部まで挿入し、穿刺される。したがって、挿入本体13の挿入側先端から基端部まで軸線方向全長に渡り生体親和性組成物Yが存在するように設ければ、挿入本体13と生体との間に生じる隙間の軸線方向あるいは深さ方向における、どの位置においても生体親和性組成物Yが存在することになり、感染症の予防には好ましいことになる。
【0038】
また、生体親和性組成物Yが挿入本体13の外周面を少なくとも1周する環状部、つまり所定の幅を有する螺旋状に設ければ、隙間の内周面全周の全方位に生体親和性組成物が存在することになり、細菌や汚れの侵入を確実に防止できる。しかも、隙間は、生体親和性組成物の容積増大変化により封止されるので、細菌や汚れなどの異物が、生体親和性組成物Yの存在する領域を越えて外部から侵入することが防止される。
【0039】
さらに好ましいことに、生体親和性組成物Yが挿入本体13の外周面を1周するように螺旋状に設けると、挿入本体13を基端部まで挿入する手技を施す場合も、生体組織と挿入体との摩擦抵抗が均一化し、挿入手技が円滑にできる。生体親和性組成物Yが挿入本体13の外周面を複数周回するように螺旋状に設ければ、全方位的に生体親和性組成物Yが存在するのみでなく、隙間の深さ方向に多段階存在することになり、細菌や汚れなどの異物の外部からの侵入をより一層防止できることになる。
【0040】
加えて、生体親和性組成物Yを挿入本体13の外周面に設けるに当っても、挿入体の外周面に沿って螺旋状に設ければ、生体親和性組成物Yを連続的に塗布でき、塗布作業が容易になり、留置針10の製造面、コスト面でも有利となる。
(第3実施形態)
図5は本発明の第3実施形態の要部を示す概略正面図である。第2実施形態では、挿入本体13の挿入側先端から基端部まで生体親和性組成物Yを設けた領域が連続するものであるが、本実施形態では、間歇的なものとしている。
【0041】
本実施形態は、図5に示すように、挿入本体13の軸線Xに対する傾斜角度αが90度で交差する面Zが、挿入本体13の外周面を横切る線に沿って生体親和性組成物Yを設けている。つまり、挿入本体13の軸線に対し特定の傾斜角度αを有し、挿入本体13の表面から突出した突出部Tを形成するように生体親和性組成物Yを設けたものである。リング状突出部Tの傾斜角度αは、種々の角度を選択することができ、90度の場合は、円環状となり、90度以外の場合は、楕円状となる。
【0042】
図示のように、リング状突出部Tが複数箇所存在すれば、挿入本体13と生体組織との間の隙間の表面側から内方側にいたる経路を複数箇所で遮断することになり、細菌や汚れなどの異物の外部から内方側への侵入防止が多段階となり、より感染症などの防止が有効なものとなる。ただし、リング状部は複数箇所のみでなく、1箇所でもよいことはいうまでもない。
(第4実施形態)
図6は本発明の第4実施形態の要部を示す概略正面図である。前述した実施形態は、挿入本体13の外周面において、先端から基端まで生体親和性組成物Yが設けられたものであるが、図6に示すように、挿入本体13の近位端側に設けられた挿入体ハブ12の近傍にのみ生体親和性組成物Yを設けてもよい。
【0043】
このようにすれば、挿入本体13を生体に穿刺するときの刺通抵抗を軽減できるのみでなく、再穿刺時に塗布された生体親和性組成物Yが存在していないという事態も防止でき、手技がより容易になる。
(第5実施形態)
図7は本発明の第5実施形態の要部を示す概略断面図である。生体親和性組成物Yは、図7に示すように、挿入本体13の外周面に穿設された溝部20内に収容されるように設けてもよい。
【0044】
溝部20は、リング状であっても螺旋状であってもよいが、溝部20内に生体親和性組成物Yを収容すると、挿入本体13の挿入後、生体親和性組成物Yの容積が増大変化したとき、生体親和性組成物Yが溝部20により固定的に保持されることになるので、留置時に挿入本体13が変位しても、生体親和性組成物が隙間を封止する、いわゆるシール性を損なうおそれがなく、細菌や汚れなどの異物の侵入防止効果が増大する。
【0045】
特に、溝部20に収容された生体親和性組成物Yの表面が、挿入本体13の外周面と、同一面となるように収容すれば、挿入本体13の外周面から生体親和性組成物が盛り上がることがなく、むしろ生体親和性組成物Yにより挿入本体13の外周面が平滑になり、生体に穿刺するときの疼痛を緩和でき、挿入抵抗も低下し、手技も円滑に行うことができる。
【0046】
図8(A)は挿入本体の外周面に接着剤を塗布した状態を示す概略正面図、図8(B)は接着剤層が形成された挿入本体の外周面に抗菌剤を塗布した状態を示す概略正面図、図8(C)は図8(B)のC−C線に沿う断面図である。
【0047】
上述した実施形態は、挿入本体13の外周面に生体親和性組成物Yが均一な厚さで単一の層を形成するように設けられているが、本発明は、これのみでなく、生体と接合する接着剤により構成される接着層Y1と、容積が増大変化する膨潤剤により構成される膨潤層Y2と、抗菌剤からなる抗菌層Y3とを別々に形成してもよく、あるいは2層を混合し、1層を単独に形成してもよい。例えば、図8(A)に示すように、挿入本体13の外周面に、接着層Y1と膨潤層Y2を混合したものを螺旋状に設け、次に、この接着層Y1と膨潤層Y2の螺旋状領域の間に抗菌層Y3を形成してもよく、また、図8(B)(C)に示すように、接着層Y1と膨潤層Y2の螺旋状領域を形成した後、全体に抗菌剤を塗布した2層構造としてもよい。また、場合によっては、接着層Y1、膨潤層Y2及び抗菌層Y3をそれぞれ独立に区分けして形成してもよく、各領域を構成する層を適宜変更して形成することができる。このようにすれば、挿入体である挿入本体13の種類に応じた各層の塗布量あるいは位置関係などを調整でき、実用的な挿入体となる。
【0048】
また、生体親和性組成物Yは、全てを単一色で着色してもよく、場合によっては、接着層Y1、膨潤層Y2及び抗菌層Y3を個別に特定の色で着色してもよい。いずれにしても生体親和性組成物Yが着色されると、挿入本体13を挿入する場合に、生体親和性組成物自体が一種の目安となり、挿入本体13の穿刺部分を確認でき、手技を円滑にかつ確実に行うことができる。着色剤として、例えば、L−アスコルビン酸(ビタミンC)、L−アスコルビン酸カルシウム、ステアリン酸エステルなどのビタミン系着色剤、アマランス、エリスロシン、アルラレッドAC、ニューコクシン、フロキシン、アシッドレッド、タートラジン、サンセットイエローFCF、ファストグリーン、カルミン酸などの食用着色剤が挙げられる。
【0049】
前述した留置針10を密閉ケース(不図示)内に収納するに当たり、密閉ケースの内部に乾燥剤あるいは脱酸素剤若しくはこれらと共にチェッカーを収納してもよい。このようにすれば、生体親和性組成物Yの変質を防止でき、長期にわたり保存できる。また、使用時においてもチェッカーを目視することにより使用の可否を判断でき、利便性が向上する。
【0050】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、前述した実施形態は、挿入体として留置針の外針について説明したが、本発明は、これのみでなく、挿入体の対象となり得るものとしては、例えば、血管カテーテル、導尿カテーテル及び硬膜外カテーテル等の各種カテーテル、又は、留置針、ヒューバー針の挿入部、留置ドレーン、腹膜透析チューブ、あるいは生体埋め込み型医療機器のケーブル、さらには気管切開カニューレなどがある。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、生体に挿入留置される挿入体と生体組織との間の隙間内に生体親和性組成物を含有するデバイスとして利用可能である。
【符号の説明】
【0052】
10…留置針(生体親和性組成物含有挿入体組立体)、
11…外針部、
12…挿入体ハブ、
13…挿入本体、
15…内針部、
16…内針ハブ、
17…内針部材、
20…溝部、
T…突出部、
X…挿入本体の軸線、
Y…生体親和性組成物、
Y1…接着層、
Y2…膨潤剤層、
Y3…抗菌層、
α…傾斜角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に挿入される挿入体であって、断面が円環状の挿入本体と、
前記挿入本体の外周面に設けられ、前記生体の組織に接することにより反応して容積が増大変化する生体親和性組成物と、を有し、
前記生体親和性組成物が、前記生体組織と前記外周面との間の隙間を封止することを特徴とする生体親和性組成物含有挿入体。
【請求項2】
前記生体親和性組成物は、抗菌性を有することを特徴とする請求項1に記載の生体親和性組成物含有挿入体。
【請求項3】
前記生体親和性組成物は、前記生体組織の温度、pHあるいは水分のいずれかと反応し、容積が変化することを特徴とする請求項2に記載の生体親和性組成物含有挿入体。
【請求項4】
前記生体親和性組成物は、生体内吸収分解性の素材により構成したことを特徴とする請求項3に記載の生体親和性組成物含有挿入体。
【請求項5】
前記生体親和性組成物は、前記挿入本体の外周面の少なくとも一部に少なくとも1周する環状部を形成するように設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の生体親和性組成物含有挿入体。
【請求項6】
前記生体親和性組成物は、前記挿入本体の外周面に、当該挿入本体の軸線に対し特定の傾斜角度で交差するリング状の突出部を形成するように設けたことを特徴とする請求項5に記載の生体親和性組成物含有挿入体。
【請求項7】
前記生体親和性組成物は、前記挿入本体の外周面上に、当該挿入本体の軸線を中心とした螺旋構造となるように設けたことを特徴とする請求項6に記載の生体親和性組成物含有挿入体。
【請求項8】
前記生体親和性組成物は、前記挿入本体の外周面に穿設された溝部に埋設されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の生体親和性組成物含有挿入体。
【請求項9】
前記生体親和性組成物は、生体と接合する接着剤により構成される接着層と、容積が増大変化する膨潤剤により構成される膨潤剤層と、抗菌剤からなる抗菌層を、それぞれ独立にあるいは2層択一的に混合して前記挿入本体の外周面に区分け若しくは層状に塗布したことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の生体親和性組成物含有挿入体。
【請求項10】
前記生体親和性組成物は、特定の色で着色したことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の生体親和性組成物含有挿入体。
【請求項11】
内部にルーメンを有し、生体に挿入される挿入本体、当該挿入本体の基端に設けられた挿入体ハブ、及び、前記挿入本体の外周面に設けられ、前記生体の組織に接することにより反応して容積が増大変化する生体親和性組成物、を有する外針部と、
前記挿入本体のルーメンに挿入され、前記生体に穿刺可能な針先を先端に有する内針部材、及び、前記内針部材の基端に設けられた内針ハブ、を有する内針部と、
を有することを特徴とする生体親和性組成物含有挿入体組立体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−205689(P2012−205689A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72611(P2011−72611)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】