説明

生体試料の分析方法、反応液、及び分析装置

2種類以上の生体試料を合成し、合成された生体試料に、種類別に波長の異なる標識を付加し、それらの標識を検出することにより、生体試料を分析する。この分析において、生体試料の標識の検出強度を、生体試料の種類別に調整し、特に検出される標識のうち、波長帯域が他方の標識に影響を及ぼす度合いの大きい方の検出強度を弱める。具体的態様としては、2種類以上の生体試料を合成し、その合成に用いる物質(合成用物質)に、
種類別に波長の異なる標識を付加するか或いは標識結合用媒体を付加することにより、生体試料を合成過程或いは合成後に標識化する。そして、少なくとも或る一種類の合成用物質に付加される標識或いは標識結合用媒体の量(付加率)を、他の種類の合成用物質に付加される標識或いは標識結合用媒体よりも少なくなるように調整して、生体試料を標識化する。このようにすれば、核酸などの生体試料の分析において、同時に複数種の標識を測定しても、標識同士の波長帯域の重なりを抑制して、定性は勿論のこと定量分析も精度良く行い得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、生化学、分子生物学、医療分野などにおいて、診断,検査および研究に用いられる生体試料の分析方法、反応液、及び分析装置に関する。
【背景技術】
微量の生体試料、主に核酸、タンパク質等を検出するための技術として、合成後または精製後のターゲットとなる生体試料を、蛍光体、発光体または放射性同位体で標識し、定性,定量等の分析をすることが行なわれている。
核酸の標識法として、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法において合成された標的核酸に、合成過程或いは合成後において蛍光体、発光体および放射性同位体で標識する技術が周知である。
例えば、ビオチンやジゴキシゲニン(DIG)を付加したプライマーを用いて増幅反応を行い、増幅(合成)後の核酸産物にビオチンやジゴキシゲニン(DIG)を介して蛍光体、発光体および放射性同位体等の標識を付加したり、或いは、合成後の核酸をアルカリフォスファターゼで処理後、放射性同位体のリン酸を付加することが知られている。
上記のような標識を付加した生体試料の検出法の中でも、特に蛍光体および発光体を用いた検出法は、近年開発が進み、検出を行うためのキットが販売されるなど簡便な方法となり、生体試料の高感度分析法として、感染症や遺伝病、ガンの診断などに利用されている。
さらに、現在では、標識として用いられている化学物質の開発や、分析装置の改良により、ごく微量の標識された生体試料でも検出が可能となっている。
また、(1)標識となる化学物質は、各々固有の波長帯を持っているため、複数種の生体試料に、種別ごとに異なる波長の標識を付加すれば、それらの波長スペクトルを同時に測定することにより、複数種の生体試料を1回の反応で同時に検出することができる。
特開平9−329549号公報には、核酸の塩基配列を検出する技術に関し、特に、一試料中の複数分析対象物(例えば、PCR法による核酸生成物)を識別可能な複数種類の蛍光染料で標識し、試料を分離(例えばゲル電気泳動による分離)した後、複数の標的となる核酸を同時に検出する技術が開示されている。
また、(2)特開平5−118991号公報には、2種類の蛍光体の混合物(組合せ)を標識として使用し、これらの蛍光体の混合比率を変えることにより4種の標識を生成し、これらの標識を利用して4種の核酸(塩基配列)を判別する塩基配列検出方法が開示されている。ここで、4種の核酸に付加された標識(第1の蛍光体と第2の蛍光体の混合比率)は、核酸を種別ごとに分離した後(例えばゲル電気泳動法による分離)に、各核酸から励起される第1の蛍光体と第2の蛍光体の強度比を求めることにより(この強度比は、第1,第2の蛍光体の蛍光強度を2つの検出器により検出することで求まる)検出される。その強度比に基づき4種の核酸を判別している。核酸に標識される蛍光体の混合比率は、PCR法による核酸生成に際し、第1の蛍光体を修飾したプライマー(或いはターミネータ)と第2の蛍光体を修飾したプライマー(或いはターミネータ)との混合比率を調整することにより、変えている。
上記した従来技術のうち、後者すなわち(2)の方式は塩基配列決定のような定性的な分析方法に適している。
複数種の生体試料(例えば標的核酸)を、同時に定量分析を可能にするには、前者すなわち(1)の方式を用いることが有効である。例えば、異なる波長の標識(例えば蛍光体)を標的試料の種類別に付加し、分離した標的試料の蛍光強度(スペクトル)を検出する方法が適している。この方法は、定性分析も可能である。
しかし、(1)の方式では、標識に用いる蛍光体、発光体等は、単一の波長ではなくピークの波長を中心にスロープ状の広がりをもった波長帯域を有するので、複数の検出試料の波長(標識)が近接すると、波長帯域の一部が重なる。それによって、検出される標識の強度に他の標識が影響を及ぼし、定量精度が低下するおそれがある。
このような問題を解消するためには、検出試料の波長帯が重ならないように標識を選択すればよいが、そのような標識はなかなか存在せず、選択に限度があった。また、検出の際にも、その波長の重なりの影響を最小限にするため、計算による補正などが必要とされる。
本発明は、これらの課題を解決することにより、多くの種類の標識(蛍光体、発光体、または放射性同位体)を使用可能にし、かつ、同時に複数種の標識を測定しても、標識同士の波長帯域の重なりを抑制して、定性は勿論のこと定量分析も精度良く行い得る分析方法、反応液、および分析装置を提供する。
【発明の開示】
本発明は、基本的には、2種類以上の生体試料を合成し、合成された生体試料に、種類別に波長の異なる標識を付加し、それらの標識を検出することにより、生体試料を分析する。そして、この分析において、生体試料の標識の検出強度を、生体試料の種類別に調整し、特に検出される標識のうち、波長帯域が他方の標識に影響を及ぼす度合いの大きい方の検出強度を弱める。このようにすれば、生体試料合成用の反応液中に、異なる標識(異なる生体試料)が混在しても、それらの標識を同時に検出した時に、それらの標識同士の重なりの影響をほとんどなくすことが可能である。
具体的態様としては、次のような標識化手法を提案する。
2種類以上の生体試料を合成し、その合成に用いる物質(合成用物質)に、種類別に波長の異なる標識を付加するか或いは標識結合用媒体を付加することにより、生体試料を合成過程或いは合成後に標識化する。そして、少なくとも或る一種類の合成用物質に付加される標識或いは標識結合用媒体の量(付加率)を、他の種類の合成用物質に付加される標識或いは標識結合用媒体よりも少なくなるように調整して、生体試料を標識化する。
複数種類の生体試料を、種類別に異なる検出波長(標識)により検出する場合、それらの波長帯域の重なりは、一方の試料に付加される標識の量の割合(付加率)を他方の試料のそれよりも小さくすることにより、小さくすることができる。すなわち、一方の試料の標識率を少なくすると、その少なくした方の検出波長帯域の検出強度(例えば、蛍光,発光などの波長帯域の波形)が弱まり、その波形のスロープも小さくなる。その結果、他方の試料(標識)の検出波長領域に影響を及ぼす度合いが小さくなる。
本発明は、上記したような波長帯域の重なり抑制の具体的手法として有効である。
この場合、量を少なくする方(付加率を小さくする方)の標識として、一部重なり合う標識のうち、一方の検出波長(極大波長:スペクトル)にまで影響を及ぼす度合いの大きい方を選択する。
なお、生体試料が核酸である場合には、2種以上の核酸を定量するに際しては、各核酸の標識(波長帯を持つ蛍光体、発光体または放射性同位体)の強度を測定する前に、電気泳動などで核酸を種別ごとに分離させる。そして、その標識の測定後に、得られた検出波形のピークの高さ、面積やバンドの輝度などをそのまま解析に用いる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明の実施形態に係る生体試料分析のフローチャートの一例である。第2図は、従来方式であり、プライマーA,Bひいては核酸A´,B´についての標識X,Yの付加率は同程度で、核酸A´,B´について同程度の蛍光強度が測定された場合の蛍光波長−蛍光強度特性を示す。第3図は、本実施例に係るもので、プライマーA,Bひいては核酸A´,B´についての標識X,Yの付加率は1対10で、A´がB´の1/10であった場合の蛍光波長−蛍光強度特性を示す。第4図は、従来方式による検出波長−蛍光強度特性を示すものであり、プライマーA,Bについての標識X,Yの付加率は同程度であるが、核酸B´の元々の生成量がA´よりもはるかに少ない場合を示す。第5図は、第4図における核酸A´の蛍光強度を本発明により弱めた場合の検出波長−蛍光強度特性を示す図。第6図は、FORWORDプライマーとしてROX−303FとFAM−304Fを用いて増幅したPCR産物を用いた場合の従来法式の検出結果を示す図。第7図は、FORWORDプライマーとしてROX−303Fと304FMIXを用いて増幅したPCR産物を用いた場合の検出結果を示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例のみによって限定されるものではない。
第1図に、本発明の実施形態に係る生体試料分析のフローチャートの一例を示す。ここでは、生体試料として2種の核酸を一例にして説明する。
標的となる鋳型(標的核酸)を含むゲノムDNAの抽出、およびプライマーセット後に(ステップS1,S2)、試料を含む溶液中にPCRに用いるプライマー溶液を混合してサーマルサイクラーによりPCRを実行する(ステップS3)。ゲノムDNAの抽出、プライマーセットの具体例については、後述する。また、プライマーセットの説明については、ステップS3のPCRシーケンスにて模式図を利用して説明する。
本例では、PCRによる標的核酸の合成(複製)を行う場合に、2本鎖DNAの標的となる部位を挟む2箇所の部位a,bを選択するが〔ステップS3(2)参照〕、単鎖(例えばRNA)の標的となる部位を選択してもよい。2本鎖DNAは、ステップS3(1)では、標的核酸一つのみを模式的に例示しているが、実際には、標的以外のゲノムDNAも反応液中に含まれる。また標的核酸は、父親由来と母親由来のそれぞれ対応する一対の標的核酸(対立遺伝子)として存在する。
本例では、鋳型DNAの2本鎖を変性により1本づつに分離し〔ステップS3(2)〕、これらの鎖の標的となる部位を挟む2箇所の部位a,bに核酸の複製基点となるプライマー(オリゴマー)A,Bをアニールさせる。
プライマーA,Bの塩基配列は、当然、対応する複製基点a,bと相補的な配列をなしている。
反応液中には、それぞれ異なる波長の標識(蛍光体、発光体、放射性同位体)X,Yまたは標識結合用物質(修飾基や抗原)を付加したプライマーが含まれている。ここでは、標識および標識結合用物質を総称して標識X,Yとする。標識Xは、プライマーAを修飾し(このプライマーをAXとする)、標識Bは、プライマーYを修飾する(このプライマーをBYとする)。
反応液中には、標識を修飾していないプライマーA、Bも含まれている。プライマーAの総量(標識Xが付加されたプライマーAXと標識が付加されないプライマーAとの和)とプライマーBの総量(標識Yが付加されたプライマーBYと標識が付加されないプライマーBとの和)とは、同量にしてある。ただし、プライマーAに付加される標識Xの付加率と、プライマーBに付加される標識Yの付加率は、異なる。標識X,Yのプライマーへの付加率(量比)は、X,Yが蛍光体、発光体、放射性同位体の場合には、その蛍光強度、発光強度、又は放射活性比により決定する。
プライマーAXとプライマーBYの比率は、例えば1対10としてある。また、各種別ごとの核酸の標識化されたものと標識化されていないものの量比、すなわちAXとA、BYとBの量比は、それぞれ1:1〜1:50好ましくは1:5〜1:10の範囲で調整してある。
この調整は、プライマーセットの工程で予め種別ごとのプライマー溶液で調整される(具体例は、後述する)。
本例では、サーマルサイクルの繰り返しにおいて、ステップS3(2)のアニーリング及び増幅を経て標的核酸が複製される。アニーリングでは、標的核酸の複製基点aには、プライマーAXおよびAのいずれかが結合し、複製基点bには、プライマーBYおよびBのいずれかが結合する。
複製される標的核酸には、標識の付いた核酸A´X(プライマーAXに基づく標的産物)とB´Y(プライマーBYに基づく標的核酸)、標識の付かない核酸A´とB´が含まれる。本例では、A´XとB´Yの比率は、プライマーAX、BYの比率とほぼ同じで、ほぼ1対10になる。
以上のように、標識付きプライマーAXと標識無しプライマーA、標識付きBYと標識無しプライマーBとの混合比率を調整することで、標識化された核酸プライマーAX,BY同士(種類が異なる標識付きプライマー同士)の量比、ひいては標識化された核酸生成物A´X,B´Yの量比を変えることができる。
本例のように、標識付きプライマー(または修飾基または抗体)AXを標識付きプライマーBYよりも小さくなるように調整することにより、PCRの産物である標識付き核酸A´XもB´Yより少なくなる〔ステップS3(5)〕。
PCR法により生成された2種の核酸A´(A´Xを含む)、B´(B´Yを含む)は、電気泳動により分離される(ステップS4)。すなわち、それぞれの1本鎖DNA(A´、B´)は、それぞれ相補的な塩基配列をなし、それぞれの塩基配列に特異的な高次構造を有しているために(1本鎖DNA高次構造多型:single−strand conformation polymorphism:SSCP)、電気泳動により異なる位置に分離される。また、DNA断片内の一塩基が変異などで置換された場合には、1本鎖DNAの高次構造は変化する。このような変化が生じると、その泳動位置も変化する。このような泳動位置の変化を、例えば基準のものと比較することで、遺伝子の変異を検出することができる。この検出は、例えば、後述のLOH法(Loss of heterozygosity)にて利用される。
泳動位置の検出は、標的核酸の標識の極大波長を分光器により検出し、その検出スペクトルを分析することにより求められる。この場合、スペクトル分析により、標的核酸の定性,定量を求めることができる(ステップS5,S6)。
標識付きプライマーAX,BYの比率は、標識X,Yが蛍光体、発光体、放射性同位体の場合は、その蛍光強度または放射活性比により決定する。また、X、Yが修飾基や抗原の場合は、X、Yに付加する蛍光体、発光体、放射性同位体の蛍光強度または放射活性比により決定する。
なお、X、Yが修飾基や抗原の場合は、PCRの反応後に、修飾基や抗原に、蛍光体、発光体および放射性同位体を付加する反応を行う。例えば、修飾基がビオチンの場合は、蛍光体、発光体および放射性同位体を付加したアビジン又はストレプトアビジンと、付加していないアビジンやストレプトアビジンの混合物を用いてビオチンに結合する処理を行う。ジゴキシゲニン(DIG)などの抗原の場合は、アルカリフォスファターゼ(AP)、ホースラディシュペルオキシダーゼ(HRP)など酵素を付加した抗体と、付加していない抗体の混合物とを用いて、抗体を抗原に結合後、発色基質を用いて処理を行う。
プライマーに結合される蛍光体としては、
CyDye、Carboxyfluorescein(FAM)、fluorescein−5−isothiocyanate(FITC)、hexachlorofluorescein(HEX)、rhodamine(ROX)、carboxytetramethylrhodamine(TAMRA)、tetrachlorofluorescein(TET)、スルホローダミン101酸クロリド(商品名:Texas Red登録商標)などが考えられる。
発光体としては、例えば、
3−(2’spiroadamantane)−4−methoxy−4−(3”−phosphoryloxy)−phenyl−1,2−dioxetane(商品名:AMPPD登録商標)、CSPDTM、MDPTM、CDPTMなどが考えられる。
放射性同位体としては、例えば、32P、131I、35S、45Ca、H、14Cなどが考えられる。
核酸の標識となる蛍光体、発光体、放射性同位体または修飾基や抗原の量比は用いる標識となる化学物質によって設定する。
ここで、第2図および第3図により、上記の二箇所の部位a、bを複製(増幅)した核酸A´(=A´X)、B´(=B´Y)がそれぞれ蛍光物質5−carboxyfluorescein(5−FAM)と5−carboxy−X−rhodamine(5−ROX)を用いて標識されている場合の、測定スペクトルの形態を説明する。また、核酸A´,B´をそれぞれの測定スペクトルを介して同時に、定量する場合を一例として、説明する。
第2図は、従来方式であり、プライマーA,Bひいては核酸A´,B´についての標識X,Yの付加率は同程度で、核酸A´,B´について同程度の蛍光強度が測定された場合の蛍光波長−蛍光強度特性を示す。第3図は、本実施例に係るもので、プライマーA,Bひいては核酸A´,B´についての標識X,Yの付加率は1対10で、A´がB´の1/10であった場合の蛍光波長−蛍光強度特性を示す。
それぞれの蛍光物質の最大蛍光波長、すなわち検出波長は、5−FAMが518nm、5−ROXが604nmである。この2つの蛍光物質を同程度の蛍光強度となるような量で標識された核酸の検出を行うと、第2図のように両者の重なり合う波長帯があり、5−ROXの検出波長である604nmには、5−FAMの波長帯も含まれている。このため、B´の定量では、第2図からもわかるように、A´の標識物質である5−FAMの検出波長における蛍光強度の約3割分が加算されて、B´の検出波長における蛍光強度として検出される。このような場合には、計算などで補正することによりB´の検出波長における蛍光強度からA´の蛍光強度分を除く処理が必要である。
これに対して、本実施例のように、例えば、検出対象となる核酸を増幅する反応において、予め5−FAMを付加したプライマーを、5−ROXを付加したプライマーに対して検出波長における蛍光強度が1/10になるように用いて部位Aを増幅すると、A´の蛍光強度も略1/10となる(この蛍光強度を第3図のA″で示す)。ここで、A″とB´を同時に検出すると、第3図のように604nmにおける蛍光強度は、補正をしなくても実際のB´の蛍光強度に近くなる。すなわち、A´(A″)の蛍光強度を、測定可能な範囲でB´よりも充分に小さくすることにより、A″の長波長側のスロープが小さくなり、B´の検出波長にほとんど影響を及ぼさなくなる。
本実施形態では、第2図、第3図に示すように、標的核酸A´,B´の標識は、検出スペクトルの極大波長を基準にして短波長側が急で長波長側がなだらかな勾配のスペクトルを持つ化合物である。この場合には、波長の短い方の標識が波長の長い方の標識に影響を及ぼすので、複数種のプライマー(合成用物質)に付加される標識(修飾基,抗原などの標識結合用媒体を含む)の量は、波長の短い方A´を、波長の長い方B´よりも少なくする。
第4図も、従来方式による検出波長−蛍光強度特性を示すものである。この例は、プライマーA,Bについての標識X,Yの付加率は同程度であるが、5−ROXで標識された核酸B´の元々の生成量が5−FAMで標識さらた核酸A´よりもはるかに少ない場合(例えばB´の検出波長における蛍光強度がA´の10%であった場合)である。この場合にも、A´の波長帯域の一部が、B´の検出波長(極大波長)に含まれ、B´の検出が困難になる。この場合も、上記と同様の方法で、プライマーAへの標識付加率をプライマーBの標識付加率よりも小さくすれば、第5図に示すように、A´側の蛍光強度を弱めて、A´の検出波長帯域がB´の検出波長(極大波長)に影響を及ぼすのをほとんどなくし、B´について、実際の蛍光強度に近づけることができる。
なお、分析装置は、2種の標的核酸の分析(解析)を行う場合には、いずれのデータも補正せず、そのまま解析演算するか、あるいは、定量演算を行う場合に、上記した標識の付加率に関するデータを入力可能にし、その付加率データと測定データに基づき各生体試料の定量を演算する。
このように、標識となる物質の量比を、生体試料に応じて変えることで、重なり合う波長帯を有する標識となる物質を用いての検出が可能となり、より多くの種類の核酸を同時に定量することができる。
以下に、本発明の具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
1.検体からの鋳型DNAの抽出工程(ステップS1)
検体として、ヒト抹消血(全血)、バイオプシーによる組織片、尿などが使用できる。ここで述べるゲノムDNAの抽出は、周知の方法により行われる。
例えば、ヒト抹消血の場合、QIAGEN社のDNA Blood Mini Kitを使用すればよい。具体的には、キットの標準プロトコールに従うが、1.5mLμチューブに、ヒト全血200μL、QIAGEN Protease 20μLを加える。次いで、Buffer AL 200μLを加えて、voltexを用いて十分に撹拌後、56℃、10分間のインキュベーションを行う。その後、マイクロチューブを遠心して液を集め、エタノール200μLを加えて再びvoltexを用いて十分に撹拌する。その混合液全量をコレクションチューブ中のスピンカラムに注入し、8000rpm、1分間遠心して、液をカラムに通し、ゲノムDNAをカラム内に補足する。その後、同じスピンカラムを新しいコレクションチューブに移し、ふたを開けてスピンカラムにBuffer AW1 500μLを注入して8000rpmで1分間遠心する。再び、スピンカラムを新しいコレクションチューブに移し、次にBuffer AW2 500μLを注入して14000rpmで3分間遠心し、カラムの洗浄を行う。スピンカラムを新しいコレクションチューブに移し、Buffer AE 100μLを注入し、8000rpm、1分間遠心し、補足したゲノムDNAを溶出させ、ゲノムDNA溶液を得る。なお、溶出ゲノムDNAを吸光度計を用いて測定することにより、溶出液中の核酸量を定量する。
尿の場合は、まず、遠心管に採取した尿を1000rpmで5分間遠心して沈渣のみを集め、さらにその沈渣に生理用食塩水を加えて再分散させて洗浄し、再度1000rpmで5分間遠心して沈渣を集めて試料とする。その後、周知のプロテイナーゼK消化し、フェノール/クロロホルム抽出などでゲノムDNAを抽出する。組織切片も同様にできる。また、尿審査物、組織片、血液の白血球を−80℃で凍結保存した試料を使ってもよい。
2.標的核酸部を増幅するためのプライマーセットの調製工程(ステップ2)
PCR増幅用のプライマーとして以下の6種類のポリヌクレオチドを使用した。


ROX−303Fプライマーと303Fプライマー、TET−304Fプライマーと304Fプライマーは、それぞれともに同じ配列を有するポリヌクレオチドである。
ROX−303Fプライマーと303Fプライマーは、9番染色体上の303遺伝子領域の一部とハイブリダイズする。TET−304Fプライマーと304Fプライマーは、9番染色体上の304遺伝子の一部とハイブリダイズする。
これらは共にPCR増幅反応の際のFORWARDプライマーとして使用する。
また、ROX−303Fプライマーは、その5’末端に蛍光体であるROXを、TET−304Fプライマーは、その5’末端に蛍光体であるTETを結合させた標識ポリヌクレオチドであり、蛍光検出により検出できる。
303Fプライマーと304Fプライマーは、非標識のポリヌクレオチドである。蛍光体のポリヌクレオチドへの結合は周知の方法により行うことができる。
303Rプライマーと304Rプライマーは、それぞれ9番染色体上の303遺伝子または304遺伝子の一部とハイブリダイズし、PCR増幅反応の際のREVERSEプライマーとして使用する。
PCR増幅反応のFORWARDプライマー溶液には、ROX−303Fプライマーと303Fプライマー、TET−304Fプライマーと304Fプライマーをそれぞれ1:10の濃度比で全体として100μMの濃度になるように調製した(それぞれ303FMIXプライマー溶液、304FMIXプライマー溶液とする。)。
REVERSEプライマー溶液には、303Rプライマーと304Rプライマーをそれぞれ100μMの濃度になるように調製したものを使用した。
3.増幅反応工程(ステップS3)
本工程では、前述のプライマーを用いてPCR増幅反応を行う。
鋳型となるゲノムDNA 0.1μg、1.25mMのdNTP混合溶液 4μL、10×AmpliTaq Buffer 2.5μL、AmpliTaqポリメラーゼ 0.125μL、前述の303FMIXプライマー溶液、304FMIXプライマー溶液、303Rプライマー溶液、304Rプライマー溶液をそれぞれ1μL、滅菌水を全量25μLになるように加えて混合する。PCR反応条件は、最初の変性条件を95℃で5分間、増幅温度サイクルは、95℃で30秒間、57℃で30秒間、72℃で30秒間を30回繰り返し、最後に伸長反応を72℃で7分間行う。反応後、周知のゲル電気泳動で増幅を確認した。
4.PCR産物の3’末端平滑化
0.5unitsのKlenow Fragmentを、PCR反応溶液5μLに添加し、37℃で30分間反応した。反応後、100mM EDTA溶液を1μL添加した。
5.検出工程(ステップS5)
本工程では、上記工程で調製した生成DNAを検出する。検出方法・装置は種々適用できるが、本実施例ではキャピラリー電気泳動装置によりSSCP解析を実施する場合について説明する。
キャピラリー電気泳動装置として、キャピラリーアレイを16本装着し、同時に電気泳動できるものを使用した。同程度の性能の装置で市販されているものでは、例えばApplied Biosystems社 ABI PRISMTM 3100 Genetic Analyzerなどがある。この装置で、独自に作成した内径75μm、検出長36cmのキャピラリーを使用し、同社製のGeneScanポリマーを独自に濃縮調整したものを充填して検出する。
上記増幅反応工程および3’末端平滑化を行った生成DNAを含む反応液3μLに、周知の標識されたフラグメントマーカー(既知の塩基長のオリゴマー)を適量含むホルムアミド37μLを混合し、94℃で2分間熱変性を行う。その後、氷令し、キャピラリー電気泳動用の試料溶液とする。生成DNAを含む反応液は必要に応じて希釈して用いる。電気泳動条件は、キャピラリーの制御温度を22.5℃、試料注入条件を20KV、5秒、泳動分離を15KV、70分間行う。なお、解析する信号強度は、標準で得られる泳動データをもとに、ベースライン、振幅を独自に変更して使用する。
6.LOH(Loss of heterozygosity)の解析(ステップS6)
第6図、第7図において、実線は303、破線は304の遺伝子から増幅した生成DNAのピークである。鋳型がゲノムDNAであり、父親由来と母親由来の両者のゲノムから標的核酸が増幅されるため、遺伝子303,304は、それぞれ2つのピークとなって現れる。この2つのピークを解析することによって診断などを行うことができる。そして、第6図では304から得られるピーク強度と303から得られるピーク強度はほぼ同等だが、第7図では304から得られるピーク強度は303から得られるピーク強度よりも低くなっている。2つのピークのうち、時間的に先に検出されるピークの高さをA1、あとに検出されるピークの高さをA2とすると、
min.(A1,A2)/max.(A1,A2)・・・・(1)
の計算式からLOHの割合を調べることができる。
第6図では、変換式を用いて、それぞれのピークの影響を最小限にしてから(1)の計算を行った。
第7図では、得られたピークの高さを用いてそのまま(1)の計算を行った。
この結果、表1のように両者ともほぼ同じ計算結果を得ることができた。

なお、本解析では行わなかったが、実際には正常遺伝子の割合も考慮して診断などを行う(特開平9−201199など)。例えば、がん組織に含まれるがん細胞由来の遺伝子の割合は、
{A1/A2(正常組織からの遺伝子)−A1/A2(がん組織からの遺伝子)}/{A1/A2(正常組織からの遺伝子)}
で計算する。また、診断などにおいては、ある一定の割合を設定し、その値を判定の基準として利用する。この際、計算結果にはお互いのピークの影響(例えば、実施例で用いた303と304)を考慮して、設定値を中心として一定の範囲を擬陽性または擬陰性とする必要がある。
なお、上記実施例では、生体試料として核酸を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その他の生体試料でも本発明で提示した課題を有するものについては、適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
本発明は、従来の方法と比較して、複数の標識された核酸およびタンパク質を精度よく検出および定量することができる。特に、波長帯が重なり合う蛍光および発光体を用いた場合に大きな効果が得られる。
標識するための蛍光体、発光体および放射性同位体の使用量が下がり、分析1回あたりの検体数が増やせるため、標識された生体試料の生成と分析のためのコストダウンが図れる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上の生体試料を合成し、合成された生体試料に、種類別に波長の異なる標識を付加し、それらの標識を検出することにより、生体試料を分析する方法において、
前記生体試料の標識の検出強度を、生体試料の種類別に調整し、特に検出される標識のうち、波長帯域が他方の標識に影響を及ぼす度合いの大きい方の検出強度を弱めることにより、生体試料を分析する生体試料の分析方法。
【請求項2】
2種類以上の生体試料を合成し、その合成に用いる物質(以下、「合成用物質」と称する)に、種類別に波長の異なる標識を付加する或いは標識結合用媒体を付加することにより、生体試料を合成過程或いは合成後に標識化し、それらの標識を検出することにより、生体試料を分析する方法において、
少なくとも或る一種類の合成用物質に付加される標識或いは標識結合用媒体の量を、他の種類の合成用物質に付加される標識或いは標識結合用媒体よりも少なくなるように調整して、生体試料を標識化する生体試料の分析方法。
【請求項3】
請求項2において、2種類以上の前記生体試料は、ポリメラーゼ連鎖反応(以下、「PCR」と称する)法により合成される核酸であり、前記合成用物質は、プライマーであり、前記標識は、蛍光体または発光体または放射性同位体であり、前記標識結合用媒体は、修飾基或いは抗体である生体試料の分析方法。
【請求項4】
請求項2において、前記標識は、極大波長を基準にして短波長側が急で長波長側がなだらかな勾配のスペクトルを持つ標識化合物で、複数種の合成用物質に付加される標識或いは標識結合用媒体の量は、波長の短い方の標識或いは該標識と結合する標識結合用媒体を、波長の長い方の標識或いは該標識と結合する標識結合用媒体よりも少なくする生体試料の分析方法。
【請求項5】
請求項2において、少なくとも或る一種類の合成用物質に付加される標識或いは標識結合用媒体と、他の種類の合成用物質に付加される標識或いは標識結合用媒体との量比を、1:2〜1:50好ましくは1:5〜1:10に設定する生体試料の分析方法。
【請求項6】
請求項2において、2種類以上の前記生体試料は、ポリメラーゼ連鎖反応法により合成される核酸であり、
生体試料を合成する反応液中には、前記合成用物質として、前記標識または前記標識結合用媒体となる修飾基または抗体を修飾したプライマーと、前記標識または前記修飾基または前記抗体を有さないプライマーとが含まれている生体試料の分析方法。
【請求項7】
請求項2において、2種類以上の前記生体試料は、ポリメラーゼ連鎖反応法により合成される核酸であり、
生体試料を合成する反応液中には、前記合成用物質として、前記標識または前記標識結合用媒体となる修飾基または抗体を修飾したプライマーと、前記標識または前記修飾基または前記抗体を有さないプライマーとが、種類別に1:1〜1:50,好ましくは、1:5〜1:10の量比で調整されている生体試料の分析方法。
【請求項8】
請求項2において、前記標識は、蛍光体であり、
この蛍光体は、CyDye、Carboxyfluorescein(FAM)、fluorescein−5−isothiocyanate(FITC)、hexachlorofluorescein(HEX)、rhodamine(ROX)、carboxytetramethylrhodamine(TAMRA)、tetrachlorofluorescein(TET)、スルホローダミン101酸クロリド(商品名:Texas Red登録商標)のいずれかである生体試料の分析方法。
【請求項9】
請求項2において、前記標識は、発光体であり、
この発光体試料は、
3−(2’spiroadamantane)−4−methoxy−4−(3”−phosphoryloxy)−phenyl−1,2−dioxetane(商品名:AMPPD登録商標)、CSPDTM、MDPTM、CDPTMのいずれかである生体試料の分析方法。
【請求項10】
請求項2において、前記標識は、生体試料に修飾される放射性同位体であり、
この放射性同位体は、32P、131I、35S、45Ca、H、14Cのいずれかである生体試料の分析方法。
【請求項11】
2種類以上の生体試料の合成に用いる物質(以下、「合成用物質」と称する)を含む反応液で、反応液中には、生体試料の種類を識別するための標識或いはその標識の結合用媒体が付加された合成用物質と、付加されない合成用物質とが含まれ、前記標識は、波長により識別される物質であり、
少なくとも或る一種類の合成用物質の標識或いは標識結合用媒体の付加率を、他の種類の合成用物質の標識或いは標識結合用媒体の付加率よりも小さくなるように調整されている生体試料の反応液。
【請求項12】
請求項11において、前記反応液は、PCR法に用いるプライマーであり、前記標識は、蛍光体または発光体または放射性同位体であり、前記標識結合用媒体は、修飾基或いは抗体である生体試料の反応液。
【請求項13】
請求項11において、前記標識は、極大波長を基準にして短波長側が急で長波長側がなだらかな勾配のスペクトルを持つ標識化合物で、前記付加率の小さい方は、波長の短い方の標識或いはその標識結合用媒体である生体試料の反応液。
【請求項14】
請求項11において、少なくとも或る一種類の合成用物質に付加される標識或いは標識結合用媒体と、他の種類の合成用物質に付加される標識或いは標識結合用媒体との量比を、1:2〜1:50好ましくは1:5〜1:10に設定する生体試料の反応液。
【請求項15】
合成された生体試料を、生体試料に付加された標識を介して測定する検出器と、前記検出器で測定されたスペクトルに基づき1以上の生体試料を分析する機能を有する演算装置とを備えた生体試料の分析装置において、
前記演算装置は、混在する2種類以上の生体試料を分析する場合に、少なくとも或る一種類の生体試料の合成用物質に付加される標識或いは標識結合用媒体の付加率を、他の種類の生体試料の合成用物質に付加される標識或いは標識結合用媒体の付加率よりも小さくしたときに、それらの標識の測定データを補正せずそのまま分析計算式に用いる生体試料の分析装置。
【請求項16】
合成された生体試料を、生体試料に付加された標識を介して測定する検出器と、前記検出器で測定されたスペクトルに基づき1以上の生体試料を分析する機能を有する演算装置とを備えた生体試料の分析装置において、
前記演算装置は、混在する2種類以上の生体試料を分析する場合に、少なくとも或る一種類の生体試料の合成用物質に付加される標識或いは標識結合用媒体の付加率を、他の種類の生体試料の合成用物質に付加される標識或いは標識結合用媒体の付加率よりも小さくしたときに、それらの付加率に関するデータを入力可能にし、その付加率データと測定データに基づき各生体試料の定量を演算する生体試料の分析装置。

【国際公開番号】WO2005/062047
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【発行日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512335(P2005−512335)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016572
【国際出願日】平成15年12月24日(2003.12.24)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】