説明

生体試料の調製法

【課題】被検試料からプロトポルフィリン類を効果的に抽出、可溶化することができ、検出系に影響を及ぼすことなく、効率的に測定可能な生体試料の調製法を提供する。
【解決手段】被検試料に界面活性剤等の可溶化剤を添加することにより、プロトポルフィリン類を可溶化する生体試料の調製法及び該生体試料を用いてプロトポルフィリン類を検出することによる消化器系がんの検出方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料の調製法、特に生体中のプロトポルフィリン類を検出するための生体試料の調製法及び該試料中のプロトポルフィリン類を検出することによる消化器系がんの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化に伴い日本でも大腸がんの患者が増加している。大腸がんは、他の臓器の癌に比べて転移の傾向が遅く早期発見、早期治療すれば完治する確率が高い。したがって初期段階に発見することが重要であり、そのために便潜血反応を用いた大腸がん検診が日常的に行われている。
【0003】
しかしながら、現在の便潜血反応を用いた大腸がん検診では、痔等による出血と大腸がんによる出血とは判別できず、また出血を伴わない大腸がんを発見できないので、特異性や検出感度に欠ける。
【0004】
そこで、本発明者らは、高精度で大腸がん検診を可能とする大腸がんマーカーを鋭意探索した結果、糞便中に含まれる蛍光物質が大腸がん患者と非大腸がん患者とを選別するのに有効であり、そして、この蛍光物質がプロトポルフィリン類であることを明らかにした。
【0005】
生体試料のプロトポルフィリン類を検出することによる大腸がん等の診断方法においては、一般に糞便等の検体を生理食塩水等の糞便溶解液に採取するが、プロトポルフィリン類の水溶性が低く、検体が水溶液に十分に分散していないことより、通常抽出操作が行われる。検体中のプロトポルフィリン類を効率よく抽出するために、有機溶媒で直接抽出するか、または糞便のpHを塩基性に調整後、有機溶媒で抽出し、抽出した有機溶媒中のプロトポルフィリン類の蛍光強度を測定することにより検診する方法(例えば、特許文献1参照)、或いは当該プロトポルフィリン類に対する抗体を用いた免疫学的測定法(例えば、特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−284298号公報
【特許文献2】特開2008−89358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
糞便中には、一般に摂取した植物由来のクロロフィルが存在し、被検試料からプロトポルフィリン類を抽出する際に、プロトポルフィリン類と同時にクロロフィルが抽出、可溶化され、免疫学的測定法では、反応系において、少なからず反応を阻害することが確認されており、また蛍光測定法ではプロトポルフィリン類の特異的蛍光が阻害されることが明らかになった。また、検体毎に抽出操作を必要とすることより、迅速に多量の検体を処理するには必ずしも満足できる方法ではない。
本発明の課題は、被検試料中のプロトポルフィリン類を効果的に抽出、可溶化することができ、検出系に影響を及ぼすことなく、効率的に測定可能な生体試料の調製法及び当該生体試料を用いた消化器系がんの検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、被検試料に可溶化剤、特に、特定の界面活性剤を添加することにより、プロトポルフィリン類を効果的に可溶化することができ、クロロフィルによる消光作用が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1) 生体中のプロトポルフィリン類を検出するための被検試料中に可溶化剤を添加することからなる生体試料の調製法に関し、
(2) 可溶化剤が、界面活性剤であることを特徴とする上記(1)記載の生体試料の調製法や、
(3) 界面活性剤が、非イオン性界面活性剤であることを特徴とする上記(2)記載の生体試料の調製法や、
(4) 非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであることを特徴とする上記(3)記載の生体試料の調製法や、
(5) 被検試料が、ヒト糞便を含有する糞便溶解液であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか記載の生体試料の調製法や、
(6) 糞便溶解液が、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水又はトリス塩酸塩緩衝液であることを特徴とする上記(5)記載の生体試料の調製法に関する。
【0010】
また、本発明は、
(7) 上記(1)〜(6)のいずれか記載の生体試料中のプロトポルフィリン類を検出することを特徴とする消化器系がんの検出方法や、
(8) 消化器系がんが、大腸がんであることを特徴とする上記(7)記載の消化器系がんの検出方法や、
(9) プロトポルフィリン類を検出する方法が、プロトポルフィリン類の蛍光強度を測定することによりおこなう方法であることを特徴とする上記(7)又は(8)のいずれか記載の消化器系がんの検出方法に関する。
【0011】
さらに、本発明は、
(10) 可溶化剤を含む糞便溶解液又は糞便溶解液及び可溶化剤の何れかを含む大腸がんの検出用キットや
(11) さらに、標準物質としてのプロトポルフィリン類又は大腸がんの診断指標の何れかを含む上記(10)記載の検出用キットに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の生体試料の調製法により、被検試料中のプロトポルフィリン類を効果的に可溶化することができ、糞便中に含まれるクロロフィルによる消光作用を解消させ、プロトポルフィリン類の蛍光を効果的に検出することを可能とする。また、本発明は、有機溶媒等での抽出操作を必要とせずに生体試料を調製できるため、操作上も簡便であり、迅速に、多量の検体について処理することができ、蛍光測定法のみならず免疫学的測定法等にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】糞便溶解液における界面活性剤の添加効果を示す図である。
【図2】測定試料の界面活性剤の有無による蛍光スペクトルを比較した図である。
【図3】本発明の生体試料における蛍光測定法とHPLC分析による測定されたPPIX濃度の相関を示す図である。
【図4】有機溶媒抽出検体における蛍光測定法とHPLC分析による測定されたPPIX濃度の相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で検出される生体中のプロトポルフィリン類は、下記式(1)〜(4)に示される化合物が含まれる。
【化1】

【0015】
上記に示される化合物において、式(1)で示される化合物は、プロトポルフィリンIX(PPIX)であり、消化器系がん患者、特に、大腸がん患者において発現されるものであり、大腸がんマーカーとして有用である。また、式(2)〜(4)で示される化合物は、PPIXの類似体であり、消化器系がん患者、特に、胃がん患者において発現されるものであり、胃がんマーカーとして有用である。
【0016】
本発明の測定に用いられる検体は、プロトポルフィリン類を含有するものであれば特に制限されないが、代表的には、糞便などが挙げられる。プロトポルフィリン類を大腸がんや胃がんなどの消化器系がんのマーカーとして検出する場合は、検体として自然糞便を使用することが好ましい。ここで、自然糞便とは、ヒト由来の糞便であり、ヒトがポルフィリン関連化合物や生体での前記化合物の生合成に関与する5−アミノレブリン酸やポルホビリノーゲンなどの前駆体で処置を受けていないヒトに由来する糞便であることを意味する。
【0017】
自然糞便は、水分を含んでも含まなくてもよく、固体形態であっても液体形態であってもよい。自然糞便は、直ぐに検出に用いることが好ましいが、直ぐに用いない場合には、プロトポルフィリン類が光や温度で分解するのを防止するために、遮光条件下で1〜30℃で保存するのが好ましい。
【0018】
本発明で使用される自然糞便の量は、固体形態の場合、10.0〜0.001g、好ましくは1.0〜0.01g、特に好ましくは0.1〜0.08gである。液体形態または分散液形態の場合、10.0〜0.01ml、好ましくは5.0〜0.1ml、特に好ましいのは2.0〜0.5mlである。
【0019】
本発明で使用される被検試料とは、検体を含む溶液をいい、例えば、自然糞便などのヒト由来の糞便等の検体を、糞便溶解液を含む採便器等の検体採取器で採取することにより調製することができる。糞便溶解液としては、通常生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSという)及びトリス塩酸塩緩衝液などの水溶液が使用される。
【0020】
本発明で使用される可溶化剤としては、界面活性剤であることが好ましく、界面活性剤としては、陽イオン(カチオン)系、陰イオン(アニオン)系、両性イオン系及び非イオン(ノニオン)系の何れの界面活性剤でも使用することができる。陽イオン系界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩などの第四級アンモニウム系界面活性剤や、N−メチルビスヒドロキシエチルアミン脂肪酸エステル塩酸塩などのアミン塩系界面活性剤等が挙げられる。陰イオン系界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル、アルキルエーテル硫酸エステル塩などの硫酸エステル型界面活性剤や、高級脂肪酸塩などの脂肪酸塩型界面活性剤や、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸メチルエステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩などのスルホン酸型界面活性剤や、(モノ)アルキルリン酸エステル塩などのリン酸エステル型界面活性剤等が挙げられる。両性イオン系界面活性剤としては、アルキルアミノ脂肪酸塩などのアミノ酸系界面活性剤や、アルキルベタインなどのベタイン系界面活性剤や、アルキルアミンオキシドなどのアミンオキシド系界面活性剤等が挙げられる。非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどのエーテル型界面活性剤や、アルキルグリコシドなどの多価アルコールエーテル型界面活性剤や、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどのエステル型界面活性剤や、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの多価アルコールエステル型界面活性剤や、脂肪酸アルカノールアミド等の界面活性剤が挙げられる。これら界面活性剤で、特に非イオン系界面活性剤であることが好ましく、非イオン系界面活性剤で、特にエーテル型界面活性剤であることがより好ましく、エーテル型界面活性剤で、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであることが特に好ましい。
可溶化剤は、検体採取前に糞便溶解液中に予め溶解させていてもよく、或いは、検体採取後、プロトポルフィリン類を測定する際に添加してもよい。可溶化剤の添加量は、糞便溶解液の量に対して0.001〜5.0w/v%、好ましくは0.01〜2.5w/v%であり、より好ましくは0.1〜0.5w/v%である。
【0021】
本発明の調製法で得られる生体試料は、抽出等の更なる分離操作は必要とせず、そのまま、従来より検出に使用されている、例えば、抗体を用いた免疫学的測定法、蛍光測定法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析等、或いはこれらの方法を適宜組合わせて、生体中のプロトポルフィリン類を測定することができる。
特に、本発明の調製法で得られる生体試料は、クロロフィルなどの生体成分に妨害されることなく、迅速に、多量の検体についてプロトポルフィリン類の蛍光を蛍光光度計で測定することができることより、蛍光測定法が好ましく用いられる。
【0022】
本発明で使用される蛍光は、励起波長(Ex.)350〜700nm及び蛍光波長(Em.)550〜750nmであるが、PPIXの励起波長400nm及び蛍光波長633nmが好ましく使用される。
【0023】
本発明で使用される蛍光光度計は、例えば日立製作所製F−4010などが挙げられるが、上記波長で蛍光を測定できるものであればこれに限定されない。
【0024】
さらに、本発明の調製法で得られる生体試料は、そのままHPLC装置を用いる蛍光分析に付してもよい。
【0025】
本発明で使用されるHPLC装置は、例えば島津製LC−2010Cなどが挙げられるが、これには限定されない。
【0026】
さらに、HPLCで分析されたプロトポルフィリン類は、MASS(マススペクトメトリー)装置を用いる質量分析に付してもよい。
【0027】
本発明で使用されるMASS分析装置は、例えば、Perkin Elmer Sciex社製API 165などが挙げられるが、これに限定されない。
また、免疫学的測定法については、特許文献1記載の方法に準じて測定することができる。
【0028】
本発明の調製法で得られる生体試料中の消化器系がんのマーカーとして有用なプロトポルフィリン類を測定することにより、消化器系がんの検出が可能となる。ここで、消化器系がんとしては、ヒトの大腸、胃、食道等に由来する良性腫瘍、悪性腫瘍であるがん又はポリーブを意味し、特に本発明の調製法で得られる生体試料を用いた検出としては、大腸がんに対して有用である。
【0029】
また、本発明で提供される大腸がんの検出用キットとしては、可溶化剤を含む糞便溶解液又は糞便溶解液及び可溶化剤を含むキットを意味し、さらに、標準物質としてのプロトポルフィリン類又は大腸がんの検出指標のいずれか1つを含んでいてもよい。ここで、大腸がんの検出指標とは、大腸がんを診断するための蛍光強度のカットオフ値を指し、キットに含まれるカットオフ値は蛍光強度値10.00〜200.00a.u.の範囲内の値、好ましくは50.00〜150.00a.u.の範囲内の値、特に好ましくは100.00a.u.の値である。検出指標を含むとは上記のカットオフ値の情報を表示したものをキットに含むことを意味する。また、前記大腸がんの検出キットと同様なその他の消化器系がんの検出キットも提供できる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
(可溶化剤添加効果の評価)
PBS(糞便溶解液)(400mM、pH7.4)2mLに対し、可溶化剤として界面活性剤を終濃度0.25%(w/v)になるよう添加した溶液に、クロロフィルa(終濃度7.4μM)及びPPIX(終濃度7.1μM)を溶解させ、測定試料とした。また、界面活性剤を含まないPBS(400mM、pH7.4)2mLにクロロフィルa及びPPIXを同濃度になるよう調製し対照試料とした。調製した測定試料及び対照試料は、励起波長400nm及び蛍光波長633nmにおける蛍光強度を測定した。
なお、糞便溶解液に添加する界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤として塩化ラウリルトリメチルアンモニウム(製品名:コータミン24p)、陰イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウム(製品名:エマールE−27C)、両性界面活性剤としてラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン(製品名:アンヒトール24B)及び非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキル(12−14)エーテル(製品名:BT−9)を選択し試験に供した。
図1の結果からは、界面活性剤を添加していない対照試料においては僅かの蛍光強度しか検出できなかったことに対し、本発明で使用される可溶化剤を用いた測定試料の場合、溶液中におけるクロロフィルaとPPIXとの相互作用による消光状態が解消され、効果的にPPIX由来の蛍光を検出することができることがわかる。特に非イオン性界面活性剤であるBT−9を添加した場合、最も高い蛍光強度を示した。
【実施例2】
【0031】
(蛍光スペクトルに及ぼす可溶化剤添加効果)
実施例1で調製したBT−9を含有した測定試料及び対照試料における蛍光スペクトルを測定した。測定試料及び対照試料は波長400nmで励起し、550nmから750nmの波長範囲で蛍光を検出した。結果を図2に示す。
図2から、界面活性剤を添加していない対照試料においては蛍光が殆ど発せられなかったのに対し、本発明で使用されるBT−9を添加した溶解液を用いた場合、PPIX由来の強い蛍光を検出することができることがわかる。本発明で使用される可溶化剤を添加することで蛍光検出において効果的であることが分かる。
【実施例3】
【0032】
(生体試料における蛍光測定法とHPLC分析の相関)
消化器がん患者より採取された糞便24検体を測定試料とした。糞便を湿潤重量1mg採取し、実施例1に示す非イオン性界面活性剤BT−9を0.5%(w/v)含有するPBS1.5mLに溶解し、生体試料を作製した。調製された生体試料は、そのまま光ファイバー式蛍光検出器(日本板硝子株式会社製)により測定した。測定波長は励起400nm、蛍光測定633nmで測定を行った。
また、蛍光測定法の対照として、蛍光検出器を備えたHPLC法により測定を行った。分析条件は、保持相としてODSカラム(COSMOSIL(登録商標)5C18−AR−II)を用い、溶出溶媒としてアセトニトリル:酢酸:50mM酢酸アンモニウム(80:7:3)(A液)及びアセトニトリル:酢酸:50mM酢酸アンモニウム(10:4:86)(B液)を用い、A液:B液(20:80)からA液:B液(90:10)へ30分間の直接グラジエントにより溶出させた。その後、A液で20分間保持させる条件で分析を行った。保持時間12分に溶出されるPPIXのピークを検出及び定量した。測定波長は励起波長400nm及び蛍光波長633nmで測定を行った。結果を図3に示す。
図3から、本発明のBT−9を添加した生体試料を用いた場合、糞便中のPPIX由来の蛍光を検出することができることがわかる。またHPLCとの相関も良好な結果であった。本発明の可溶化剤を使用することで、生体試料からPPIXを分離することなく、簡易に蛍光を検出することが出来る。
[参考例1]
【0033】
(有機溶媒抽出検体における蛍光測定法とHPLC分析の相関)
患者より採取された糞便を水に溶解し糞便水溶液を作製した。糞便水溶液2mlに対し0.25M炭酸ナトリウム水溶液1mlを添加した。pHをアルカリ性に調整した糞便水溶液に対し酢酸エチル2容に対し酢酸1容を添加した溶液を2ml添加し攪拌した。有機溶媒でポルフィリン化合物を抽出し、有機溶媒層の蛍光強度を測定した。測定波長は励起波長400nm及び蛍光波長633nmで測定を行った。また、HPLC分析は、実施例3記載の方法で行った。結果を図4に示す。
図4の結果より、HPLC分析から測定されるPPIX濃度と、蛍光測定により得られるPPIX濃度との間には相関関係が見られた。統計学的検討の結果、寄与率が0.50と低値を示した。これは、HPLC分析から測定されるPPIX濃度よりも、蛍光測定により得られるPPIX濃度が見かけ上低く検出されていることを示している。本現象は疎水性の平面構造を有するPPIX同士、又はPPIXと糞便中に含まれ同様の分子構造を有する食品由来のクロロフィルaとが層構造を形成し、PPIX由来蛍光が消光していることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、生体試料中のプロトポルフィリン類の測定において、糞便中に含まれるクロロフィルによる消光作用を解消させ、有機溶媒等での抽出操作を必要とせず、操作上簡便であり、迅速に多量の検体について処理することができることより、大腸がん、胃がん、食道がん等の消化器系がんの検出方法として利用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体中のプロトポルフィリン類を検出するための被検試料中に可溶化剤を添加することからなる生体試料の調製法。
【請求項2】
可溶化剤が、界面活性剤であることを特徴とする請求項1記載の生体試料の調製法。
【請求項3】
界面活性剤が、非イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項2記載の生体試料の調製法。
【請求項4】
非イオン性界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルエーテルであることを特徴とする請求項3記載の生体試料の調製法。
【請求項5】
被検試料が、ヒト糞便を含有する糞便溶解液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載の生体試料の調製法。
【請求項6】
糞便溶解液が、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水又はトリス塩酸塩緩衝液であることを特徴とする請求項5記載の生体試料の調製法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の生体試料中のプロトポルフィリン類を検出することを特徴とする消化器系がんの検出方法。
【請求項8】
消化器系がんが、大腸がんであることを特徴とする請求項7記載の消化器系がんの検出方法。
【請求項9】
プロトポルフィリン類を検出する方法が、プロトポルフィリン類の蛍光強度を測定することによりおこなう方法であることを特徴とする請求項7又は8のいずれか記載の消化器系がんの検出方法。
【請求項10】
可溶化剤を含む糞便溶解液又は糞便溶解液及び可溶化剤の何れかを含む大腸がんの検出用キット。
【請求項11】
さらに、標準物質としてのプロトポルフィリン類又は大腸がんの診断指標の何れかを含む請求項10記載の検出用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−209068(P2011−209068A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76274(P2010−76274)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(593025712)株式会社ビーエル (20)
【Fターム(参考)】