説明

生体試料中のアミンの測定方法およびその方法を用いる患者のスクリーニング方法

【課題】経済性、簡便性、および迅速性を同時に満たし、従来法でなし得なかった紫外吸光検出器のみによる簡便なグアニジノ化合物の高感度検出法。
【解決手段】弱酸性陽イオン交換体が充填された陽イオンクロマトグラフィー用カラムを用い、溶離液としてリン酸水溶液、リン酸緩衝液、ギ酸水溶液、ギ酸緩衝液またはそのいずれかとアセトニトリルまたはメタノールとの混合溶媒を使用し、生体試料中の、特にクレアチン、グアニジノ酢酸(別名:グリコシアミン)、クレアチニン、およびグアニジノ酪酸からなる群から選ばれるアミンを紫外吸光検出器を用いて測定する方法。および、前記測定方法による患者の生体試料中のグアニジノ酢酸/クレアチニン比、クレアチン/クレアチニン比、および/またはグアニジノ酪酸/クレアチニン比の値に基づいて原因遺伝子を精査すべき疾患を有する患者を選別するスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弱酸性陽イオン交換体が充填された陽イオンクロマトグラフィー用カラムを用いる生体試料中のアミンの測定方法、およびその方法を用いる疾患を有する患者のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精神遅滞は人口の2〜3%に認める非常に頻度の高い病態であるが、根本的治療法がないため、その療育における社会的あるいは経済的負担は小さくない。精神遅滞の原因には先天性・後天性の両方があり様々であるが、最近の分子遺伝学的解析により、先天的な遺伝子異常に起因するものが比較的多いことが分かってきた。中でもクレアチンの生合成・代謝に関わるいくつかの遺伝子の欠損が注目されている。原因遺伝子を特定できれば、先天性の精神遅滞については、より効果的な治療法の開発が可能となる。
【0003】
例えば、脳内クレアチン欠乏症は、重度の精神遅滞を主要症状とし、てんかん、自閉症、重度の言語障害などの様々な臨床症状を有する疾患である。その先天的な原因として、クレアチン生合成に関わるグアニジノ酢酸メチルトランスフェラーゼ(GAMT)、アルギニン・グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT)、およびクレアチントランスポーター(SLC6A8)の遺伝子の欠損が知られている(非特許文献1)。
【0004】
脳内クレアチン欠乏症は、臨床症状を有する患者の脳を磁気共鳴スペクトル装置(MRS)で調べて脳内クレアチン値の低下を確認することにより診断されるが、原因遺伝子を特定する手掛かりを得るには、尿や血液中のクレアチン関連化合物(特にグアニジノ酢酸/クレアチニン比、クレアチン/クレアチニン比)を測定する必要がある。しかし逆に、クレアチン関連化合物の測定法が充分に簡便なものになれば、例えば新生児に対するスクリーニングに加えることによって、発症前から診断し早期に治療を開始できる可能性もかなり高まるはずである。
【0005】
一方、コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(SSADH)欠損症患者の尿中グアニジノ酪酸/クレアチニン比が高くなるという報告もある(非特許文献2)。
以上のような背景から、生体試料中のアミン(特に部分構造としてH2N−C(=N)−Nを含む化合物)を簡便に定量できる汎用的なスクリーニング手法の開発が強く望まれている。
部分構造としてH2N−C(=N)−Nを含むグアニジノ化合物のうち、クレアチンとクレアチニンについては、古くから知られている酵素法、または逆相カラムによる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法(非特許文献3〜8)を用いれば測定できる。
一方、グアニジノ酢酸については、逆相カラムによるクレアチンおよびクレアチニンとの完全分離が困難なことから、LC−MS法(非特許文献9)、LC−MSMS法(非特許文献10〜12)、GC−MS法(非特許文献13)、酵素法(非特許文献14〜16)が主に検討されている。しかし、質量分析計(MS)を併用する方法は、高感度であるが高価な装置を必要とする。また酵素法は、簡便かつ高感度であるが、特殊な酵素の入手が難しい。よって、いずれも限られた施設でしか実施できないため、汎用的なスクリーニング手法にはなり得ない。
【0006】
カーボンカラムによるイオンペアクロマトグラフィー法で、クレアチン、グアニジノ酢酸、クレアチニンを完全分離した例はある(非特許文献3,7)が、溶離液としてイオンペア試薬(界面活性剤)を添加したクエン酸緩衝液/アセトニトリルを用いるため、ポストカラム誘導体化と蛍光検出の組み合わせという煩雑な手法を必要とするばかりか、溶離液の発泡によるトラブルも発生しやすい。逆相カラムでもグアニジノ酢酸を分離定量できる条件を見つけた例はある(非特許文献17,18)が、ベンゾインによるプレカラム誘導体化と蛍光検出の組み合わせ、およびグラジエント溶出という煩雑な手法を必要とし、しかもクレアチンとクレアチニンが重なってしまうため、クレアチン/クレアチニン比の測定には使えない。また、逆相カラムとカーボンカラムを組み合わせた二次元高速液体クロマトグラフィー(2D−HPLC)法を用いるグアニジノ化合物の測定法も報告されている(特許文献1)が、2種類のカラム、ポンプ2台、蛍光検出器2台、流路切替バルブ、および反応槽を伴う大掛かりな装置を必要とし、さらに溶離液へのイオンペア試薬(界面活性剤)の添加が必須であるため、溶離液の発泡によるトラブルが発生しやすい。よって、これらの方法も汎用的なスクリーニング手法にはなり得ない。
【0007】
陽イオンクロマトグラフィーを用いるグアニジノ化合物の測定法も複数報告されているが、いずれも強酸性陽イオン交換体が充填された陽イオンクロマトグラフィー用カラムを用いる方法である(特許文献2〜5、非特許文献17,18)。強酸性陽イオン交換体はスルホ基のような強酸性官能基を有するので、弱酸であるリン酸の水溶液や緩衝液は溶出力が弱すぎて溶離液として適用できない。よく用いられる硝酸、硫酸、メタンスルホン酸などの強酸の水溶液は紫外(UV)吸光のバックグランドが高いため、最も汎用的な紫外吸光検出器の利用は困難であり、充分な感度を得るにはプレカラム(またはポストカラム)誘導体化と蛍光検出の組み合わせという煩雑な手法が必要となる(特許文献2〜5)。4種類のクエン酸緩衝液と水酸化ナトリウム水溶液を用いた段階的pHグラジエント法も報告されているが、1〜2時間程度の溶出時間と誘導体化・蛍光検出を必要としている(非特許文献19,20)。したがって、これらの方法も汎用的なスクリーニング手法にはなり得ない。
【0008】
一方、生体試料中のアミンをLC−MS法やHPLC法で測定する際は、機器の保護や感度改善などの目的で、あらかじめ除タンパク処理を行なうのが好ましく、沈澱法、限外ろ過法、固相抽出法など種々の方法がある。最近ではミックスモードの固相抽出カートリッジを利用した例もある(非特許文献21)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】C.Jakobsら,Clinica Chimica Acta,2005年,第361巻,p.1−9
【非特許文献2】E.E.W.Jansenら,Biochimica et Biophysica Acta,2006年,第1762巻,p.494−498
【非特許文献3】T.Smith−Palmer,Journal of Chromatography B,2002年,第781巻,p.93−106
【非特許文献4】G.Wernerら,Journal of Chromatography,1990年,第525巻,第2号,p.265−275
【非特許文献5】M.Dunnettら,Scandinavian Journal of Clinical and Laboratory Investigation,1991年,第51巻,第2号,p.137−141
【非特許文献6】H.Murakita,Journal of Chromatography,1988年,第431巻,第2号,p.471−473
【非特許文献7】Y.Inamotoら,Journal of Chromatography B,1998年,第707巻,p.111−120
【非特許文献8】T.Shiraiら,Fisheries Science,1997年,第63巻,第5号,p.769−771
【非特許文献9】M.Yasudaら,Analytical biochemistry,1997年,第253巻,p.231−235
【非特許文献10】O.Bodamerら,Clinica Chimica Acta,2001年,第308巻,p.173−178
【非特許文献11】S.Cognatら,Clinical Chemistry,2004年,第50巻,第8号,p.1459−1461
【非特許文献12】R.S.Carlingら,Annals of Clinical Biochemistry,2008年,第45巻,p.575−584
【非特許文献13】D.Hunnemanら,Journal of inherited metabolic disease,1997年,第20巻,p.450−452
【非特許文献14】Y.Shirokaneら,Clinical Chemistry,1987年,第33巻,第3号,p.394−397
【非特許文献15】Y.Shirokaneら,Clinica Chimica Acta,1991年,第202巻,p.227−236
【非特許文献16】Y.Shirokaneら,Clinical Chemistry,1991年,第37巻,第3号,p.478−479
【非特許文献17】C.Carducciら,Journal of Chromatography B,2001年,第755巻,p.343−348
【非特許文献18】C.Carducciら,Clinical Chemistry,2002年,第48巻,第10号,p.1772−1778
【非特許文献19】S.Natelson,Clinical Chemistry,1984年,第30巻,第2号,p.252−258
【非特許文献20】G.Perezら,Clinical Chemistry,1976年,第22巻,第2号,p.240−242
【非特許文献21】Y.Ohmaeら,鑑識科学,2004年,第9巻,第1号,p.71−78
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−9712号公報
【特許文献2】特開2002−107350号公報
【特許文献3】特開平5−119038号公報
【特許文献4】特開平4−161854号公報
【特許文献5】特開2001−174459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
尿や血液中のグアニジノ化合物(例えば、グアニジノ酢酸)を測定する方法としては、背景技術の項で述べたように種々の方法が知られているが、経済性、簡便性、および迅速性を同時に満たすものがないため、いずれも臨床検査の場で採用されていないのが現状である。本発明が解決しようとする課題は、従来技術の難点を克服し、経済性、簡便性、および迅速性を同時に満たすグアニジノ化合物の測定方法を提供すること、中でも、従来法でなし得なかった紫外吸光検出器のみによる極めて簡便な高感度検出法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討の結果、弱酸性陽イオン交換体が充填された陽イオンクロマトグラフィー用カラムを用いれば、生体試料中のグアニジノ化合物の測定をはるかに安価・簡便な方法で、しかも迅速に実施できることを見出した。特に、リン酸水溶液、ギ酸水溶液を溶離液に使えるため、紫外吸光検出器のみによる高感度検出が可能となった。カラムに負荷をかけないための除タンパク法として、沈澱法、限外ろ過法、固相抽出法などを組み合わせれば、より実用的な測定方法となる。
【0013】
本発明は以下の項目からなる。
[1]弱酸性陽イオン交換体が充填された陽イオンクロマトグラフィー用カラムを用いる生体試料中のアミンの測定方法。
[2]弱酸性陽イオン交換体が、カルボキシル基を有する親水性ポリマー粒子である前記[1]に記載の測定方法。
[3]溶離液として、リン酸水溶液、リン酸緩衝液、ギ酸水溶液、ギ酸緩衝液またはそのいずれかとアセトニトリルまたはメタノールとの混合溶媒を使用する前記[1]または[2]に記載の測定方法。
[4]アミンが、紫外吸光法で検出可能なアミンである前記[1]に記載の測定方法。
[5]アミンが、部分構造としてH2NC(=N)−Nを含む化合物である前記[1]または[4]に記載の測定方法。
[6]アミンが、クレアチン、グアニジノ酢酸(別名:グリコシアミン)、クレアチニン、およびグアニジノ酪酸からなる群から選ばれる前記[1]、[4]、または[5]に記載の測定方法。
[7]紫外吸光検出器を用いる前記[4]〜[6]のいずれかに記載の測定方法。
[8]生体試料が、ヒトの尿である前記[1]に記載の測定方法。
[9]生体試料が、除タンパク処理されたものである前記[1]または[8]に記載の測定方法。
[10]前記[1]〜[9]のいずれかに記載の測定方法による患者の生体試料中のグアニジノ酢酸/クレアチニン比、クレアチン/クレアチニン比、および/またはグアニジノ酪酸/クレアチニン比の値に基づいて原因遺伝子を精査すべき疾患を有する患者を選別するスクリーニング方法。
[11]疾患が、精神・神経疾患である前記[10]に記載のスクリーニング方法。
[12]精神・神経疾患が、精神遅滞、自閉症および/またはてんかんである前記[11]に記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の測定方法を利用することにより、例えば、精神遅滞などの臨床症状を有する患者の尿中のグアニジノ酢酸/クレアチニン比、クレアチン/クレアチニン比、グアニジノ酪酸/クレアチニン比を測定し、原因遺伝子を精査すべき患者のスクリーニングが可能となる。また、スクリーニングから得られた情報をもとにグアニジノ酢酸メチルトランスフェラーゼ(GAMT)、アルギニン・グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT)、クレアチントランスポーター(SLC6A8)、およびコハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(SSADH)のいずれかの欠損症に対する遺伝子解析を行ない、それぞれの原因遺伝子欠損症に応じた有効な治療を開始することが期待できる。さらに、新生児の尿を用いたスクリーニング検査を行なうことで、発症前から診断し、早期に治療を開始できる可能性もある。
【0015】
本発明の測定方法による有意点は、最も汎用的な液体クロマトグラフィー用装置である紫外吸光検出器付きHPLC装置に市販の弱酸性陽イオンクロマトグラフィー用カラムを取り付けるだけでも実施可能であり、また、有機溶媒を用いなくても測定可能である点である。特別な廃液処理を必要とせず環境にも優しく、機器分析の専門家がいない多くの医療施設でも安価で容易に導入できる画期的な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】標準試料を測定したクロマトグラム(溶離液:2mMリン酸水溶液)。
【図2】標準試料を測定したクロマトグラム(溶離液:5mMリン酸水溶液)。
【図3】標準試料を測定したクロマトグラム(溶離液:10mMリン酸水溶液)。
【図4】溶離液濃度と保持時間の関係(クレアチン、グアニジノ酢酸、溶離液:リン酸水溶液)。
【図5】溶離液濃度と保持時間の関係(クレアチニン、溶離液:リン酸水溶液)。
【図6】健常人の尿を測定したクロマトグラム(溶離液:2mMリン酸水溶液)。
【図7】SLC6A8欠損症患者の尿を測定したクロマトグラム(溶離液:2mMリン酸水溶液)。
【図8】標準試料を測定したクロマトグラム(溶離液:0.03%ギ酸水溶液)。
【図9】標準試料を測定したクロマトグラム(溶離液:0.05%ギ酸水溶液)。
【図10】標準試料を測定したクロマトグラム(溶離液:0.1%ギ酸水溶液)。
【図11】溶離液濃度と保持時間の関係(クレアチン、グアニジノ酢酸、溶離液:ギ酸水溶液)。
【図12】溶離液濃度と保持時間の関係(クレアチニン、溶離液:ギ酸水溶液)。
【図13】健常人の尿を測定したクロマトグラム(溶離液:0.03%ギ酸水溶液)。
【図14】SLC6A8欠損症患者の尿を測定したクロマトグラム(溶離液:0.03%ギ酸水溶液)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明で用いる弱酸性陽イオン交換体が充填された陽イオンクロマトグラフィー用カラムは、特に限定されないが、例えばカルボキシル基を有する基材、好ましくはカルボキシル基を有するポリマー粒子、より好ましくはカルボキシル基を有する親水性ポリマー粒子が充填されたカラムであり、その形状は円柱状のものに限らず、キャピラリーカラムのようなものでもよい。また、カラム内重合法で製造され必要に応じて修飾されるモノリスカラムなども含まれる。好ましい市販カラムとしては、例えばShodex(登録商標)IC YS−50(4.6mmID*125mm)(昭和電工(株)製)などが挙げられる。
【0018】
本発明でいう生体試料とは、特に限定されないが、例えば尿、血液、脳脊髄液であり、好ましくはヒトの尿である。また、除タンパク処理されたものが好ましく、アセトニトリルの添加による沈澱法で除タンパク処理されたものがより好ましい。
【0019】
本発明でいうアミンは、脂肪族アミンでも芳香族アミンでもよく、1級、2級、3級のアミノ基またはアンモニウム基、あるいは4級アンモニウム基のいずれかを含むものであれば特に限定されないが、好ましくは紫外吸光法で検出可能なアミン、より好ましくは部分構造としてH2N−C(=N)−Nを含む化合物、さらに好ましくはクレアチン、グアニジノ酢酸(別名:グリコシアミン)、クレアチニン、グアニジノ酪酸からなる群から選ばれる化合物である。
【0020】
本発明で用いる溶離液は、特に限定されないが、リン酸水溶液、リン酸緩衝液、ギ酸水溶液、ギ酸緩衝液またはそのいずれかとアセトニトリルまたはメタノールとの混合溶媒が、紫外(UV)吸光のバックグランドが低いので好ましい。環境に配慮して、有機溶媒を使用しない溶離液を選択することもできる。場合によっては純水を使用できる可能性もある。溶離液のpHは2以上7以下が好ましい。
【0021】
本発明で用いる検出器は、特に限定されないが、例えば紫外吸光検出器、紫外可視吸光検出器、示差屈折検出器、蛍光検出器、化学発光検出器などが挙げられる。高価な質量分析計を併用しないでアミンそのものを検出するのが簡便で好ましいが、感度を上げるためにポストカラム法などで誘導体化したものを検出してもよい。機器分析の専門家がいない多くの医療施設でも容易に導入できるという観点からは、紫外吸光検出器のみでアミンそのものを検出する方法が最も好ましい。検出波長は特に限定されないが、例えば200〜300nm、好ましくは205〜280nm、より好ましくは210〜260nmである。
【0022】
本発明の測定方法を用いるスクリーニング方法の対象となる疾患は、特に限定されないが、例えば精神・神経疾患、腎疾患、悪性腫瘍などが挙げられる。これらの疾患の中でも、精神遅滞、自閉症、てんかんなどの精神・神経疾患が好ましく、特に精神遅滞が好ましい。
【実施例】
【0023】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は下記の例により何等限定されるものではない。
【0024】
実施例1:標準試料の測定
HPLC装置を用いて、クレアチン、グアニジノ酢酸、クレアチニンの測定を行なった。測定条件は以下の通りである。
カラム:Shodex(登録商標)IC YS−50(4.6mmID*125mm)(昭和電工(株)製)、
ポンプ:Shimadzu LC−6A((株)島津製作所製)、
記録計:Shimadzu Chromatopack CR−6A((株)島津製作所製)、
検出器:UV(210nm);Shimadzu SPD−6A((株)島津製作所製)、
溶離液:2mMリン酸水溶液、
流速 :1.0ml/min、
温度 :室温(25℃)、
試料と注入量:10ppm クレアチン 25μl、
50ppm グアニジノ酢酸 25μl、
10ppm クレアチニン 25μl、
(以上3種を混合注入)。
上記条件で測定したクロマトグラムを図1に示す。上記条件のうち溶離液のみを2mMリン酸水溶液(pH約3.5)から5mMリン酸水溶液(pH約3)、10mMリン酸水溶液(pH約2)に換えて測定したクロマトグラムを各々図2、図3に示す。これらの結果から得られたリン酸水溶液濃度と保持時間の関係を図4(クレアチン、グアニジノ酢酸)、図5(クレアチニン)に示す。
【0025】
実施例2:尿の測定1
健常人の尿500μlにアセトニトリル500μlを加えて混合し、10分間静置後に13,000rpmで10分間遠心分離した。上清をメンブレンフィルター(0.22μm)でろ過し、ろ液100μlに2mMリン酸水溶液を400μl加えて混合したものを試料とし、実施例1と同様の条件で測定した。
溶離液:2mMリン酸水溶液
流速 :1.0ml/min
温度 :室温(25℃)
注入量:25μl
得られたクロマトグラムを図6に示す。
【0026】
実施例3:尿の測定2
SLC6A8欠損症患者の尿にアセトニトリル500μlを加えて混合し、10分間静置後に13,000rpmで10分間遠心分離した。上清をメンブレンフィルター(0.22μm)でろ過し、ろ液100μlに2mMリン酸水溶液を400μl加えて混合したものを試料とし、実施例2と同様の条件で測定した。得られたクロマトグラムを図7に示す。
【0027】
実施例4:標準試料の測定
HPLC装置を用いて、クレアチン、グアニジノ酢酸、クレアチニンの測定を行なった。測定条件は以下の通りである。
カラム:Shodex(登録商標)IC YS−50(4.6mmID*125mm)(昭和電工(株)製)、
ポンプ:Shimadzu LC−6A((株)島津製作所製)、
記録計:Shimadzu Chromatopack CR−6A((株)島津製作所製)、
検出器:UV(210nm);Shimadzu SPD−6A((株)島津製作所製)、
溶離液:0.03%ギ酸水溶液、
流速 :1.0ml/min、
温度 :室温(25℃)、
試料と注入量:10ppm クレアチン 25μl、
50ppm グアニジノ酢酸 25μl、
10ppm クレアチニン 25μl、
(以上3種を混合注入)。
上記条件で測定したクロマトグラムを図8に示す。上記条件のうち溶離液のみを0.03%ギ酸水溶液から0.05%ギ酸水溶液、0.1%ギ酸水溶液に換えて測定したクロマトグラムを各々図9、図10に示す。これらの結果から得られたリン酸水溶液濃度と保持時間の関係を図11(クレアチン、グアニジノ酢酸)、図12(クレアチニン)に示す。
【0028】
実施例5:尿の測定3
健常人の尿500μlにアセトニトリル500μlを加えて混合し、10分間静置後に13,000rpmで10分間遠心分離した。上清をメンブレンフィルター(0.22μm)でろ過し、ろ液100μlに0.03%ギ酸水溶液を400μl加えて混合したものを試料とし、実施例4と同様の条件で測定した。
溶離液:0.03%ギ酸水溶液
流速 :1.0ml/min
温度 :室温(25℃)
注入量:25μl
得られたクロマトグラムを図13に示す。
【0029】
実施例6:尿の測定4
SLC6A8欠損症患者の尿にアセトニトリル500μlを加えて混合し、10分間静置後に13,000rpmで10分間遠心分離した。上清をメンブレンフィルター(0.22μm)でろ過し、ろ液100μlに0.03%ギ酸水溶液を400μl加えて混合したものを試料とし、実施例5と同様の条件で測定した。得られたクロマトグラムを図14に示す。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の測定方法を利用することにより、例えば、精神遅滞などの臨床症状を有する患者の尿中のグアニジノ酢酸、クレアチン/クレアチニン比を測定し、原因遺伝子を精査すべき患者のスクリーニングが可能となる。また、スクリーニングから得られた情報をもとに遺伝子解析を行ない、グアニジノ酢酸メチルトランスフェラーゼ(GAMT)、アルギニン・グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT)、およびクレアチントランスポーター(SLC6A8)のいずれかの欠損症を特定できた場合、それぞれの原因遺伝子欠損症に応じた有効な治療を開始できる。さらに、新生児の尿検査を行なうことで、早期に治療を開始できる可能性もある。本発明の測定方法は、最も汎用的な液体クロマトグラフィー用装置である紫外吸光検出器付きHPLC装置に、市販の弱酸性陽イオンクロマトグラフィー用カラムを取り付けるだけでも実施可能であるため、機器分析の専門家がいない多くの医療施設でも容易に導入できる。また、有機溶媒を用いなくても測定可能なので、特別な廃液処理を必要とせず環境にも優しい。
さらに、溶離液としてギ酸水溶液を用いた場合、質量分析計(MS)との併用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弱酸性陽イオン交換体が充填された陽イオンクロマトグラフィー用カラムを用いる生体試料中のアミンの測定方法。
【請求項2】
弱酸性陽イオン交換体が、カルボキシル基を有する親水性ポリマー粒子である請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
溶離液として、リン酸水溶液、リン酸緩衝液、ギ酸水溶液、ギ酸緩衝液またはそのいずれかとアセトニトリルまたはメタノールとの混合溶媒を使用する請求項1または2に記載の測定方法。
【請求項4】
アミンが、紫外吸光法で検出可能なアミンである請求項1に記載の測定方法。
【請求項5】
アミンが、部分構造としてH2NC(=N)−Nを含む化合物である請求項1または4に記載の測定方法。
【請求項6】
アミンが、クレアチン、グアニジノ酢酸、クレアチニン、およびグアニジノ酪酸からなる群から選ばれる請求項1、4または5に記載の測定方法。
【請求項7】
紫外吸光検出器を用いる請求項4〜6のいずれかに記載の測定方法。
【請求項8】
生体試料が、ヒトの尿である請求項1に記載の測定方法。
【請求項9】
生体試料が、除タンパク処理されたものである請求項1または8に記載の測定方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の測定方法による患者の生体試料中のグアニジノ酢酸/クレアチニン比、クレアチン/クレアチニン比、および/またはグアニジノ酪酸/クレアチニン比の値に基づいて原因遺伝子を精査すべき疾患を有する患者を選別するスクリーニング方法。
【請求項11】
疾患が、精神・神経疾患である請求項10に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
精神・神経疾患が、精神遅滞、自閉症および/またはてんかんである請求項11に記載のスクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−180130(P2011−180130A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19561(P2011−19561)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(510126379)地方独立行政法人神奈川県立病院機構 (2)
【Fターム(参考)】