生体試料中の分析対象物のアッセイ方法及びそれに用いたPOCT装置

【課題】POCT機器における測定方法として利用可能な、生体試料中の分析対象物の新たなアッセイ方法の提供。
【解決手段】生体試料、生体試料中の分析対象物に特異的に結合する特異的結合パートナーA及び蛍光物質をセンサチップに接触させること、ここで、蛍光物質は、特異的結合パートナーAに結合しているか又は特異的結合パートナーAに特異的に結合可能であり、センサチップは基板と基板表面に形成された金属膜と金属膜上に固定化された特異的結合パートナーBとを含み、特異的結合パートナーBは特異的結合パートナーAの結合部位とは異なる分析対象物の部位に特異的に結合しており、前記センサチップに、基板の金属膜の形成面とは反対側の面からプリズムを経由して、金属膜において表面プラズモン共鳴が発生するように入射光を集光させて照射すること、及び、表面プラズモン共鳴によって励起された蛍光物質の蛍光を受光することを含む生体試料中の分析対象物のアッセイ方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中の分析対象物のアッセイ方法及びそれに用いたPOCT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
病気の発見や予防のために、血液又は尿等といった生体試料を用いた様々な検査が行われている。この検査は、計測が正確でかつ多種の計測が一度にできるという利点から、通常、臨床検査センターといった専門機関において集中して行われることが多い。しかしながら、このように専門機関にて集中して検査を行う場合、病院等で採取された検体の集配等といった作業が必要となることから、検査結果が得られるまでに時間を要するというデメリットや、検査に必要となる試料の量が多くなるというデメリットがある。このため、近年、POC(Point of Care)の有効活用が求められている。POCとは、診療現場において患者のそばで行う臨床検査のことをいい、POCT(Point of Care Testing)機器によって、患者のそばで様々な検査を行うことができれば、医師による迅速な診断及び/又は治療が可能になり、診療・治療の効率化及びスピード化が期待できる。
【0003】
POCでは、簡易で迅速な測定が求められることから、患者から採取した試料を、例えば、分離・精製等することなくそのまま使用することが望まれている。このため、POCT機器を用いた測定では、分離・精製等を行わない試料であっても、操作性が容易で、かつ高速・高感度での検出が可能となる方法が求められている。
【0004】
一方、表面プラズモン共鳴(SPR)を用いたバイオセンシングが注目されている。SPRは、金属膜表面に生じた表面プラズモン(弾性波)と、全反射した電磁波によって発生するエバネッセント波(光波)との間で生じる相互作用である。このSPRを利用することによって、金属膜近傍における屈折率の微小変化を検出できることから、抗原抗体反応を利用したイムノアッセイによる被検試料中の微量成分の定量が可能になる。SPRを利用したその他の方法として、例えば、表面プラズモン励起蛍光法(SPFS)がある。SPFSは、SPR発生時に金属膜表面に生じる増強電場を用いて蛍光物質を高効率に励起させる方法である。このように、SPFSは、高効率に励起させて蛍光検出をすることから、極微量及び/又は極低濃度の分析対象物を検出することができ、例えば、血液や尿等の検体中に含有される腫瘍マーカーや核酸等の検出を行うことが試みられている(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−271124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、腫瘍マーカー等のバイオマーカーを診療現場ですぐに測定できれば、医師による迅速な診断及び/又は治療が可能になり、診療・治療の効率化及びスピード化が期待できることに着目し、SPFSの測定原理を用いた、POCT機器として利用可能な新たな測定方法の開発を試みた。SPFSの測定には、金属膜表面に生じる表面プラズモンとエバネッセント波との共鳴条件が満たされた角度で光が金属膜に入射されることが重要になる。しかしながら、患者から採取した試料を分離・精製等なしでそのまま使用した場合、被検試料ごとに含まれるタンパク質や塩の濃度等が異なる結果、被検試料ごとに試料の屈折率が異なる。この屈折率の変化が共鳴条件に影響を与え、ひいては測定シグナルに大きく影響を及ぼす。このため、高感度での検出を行うには被検試料ごとの共鳴条件の確認・調整を要することになり操作が極めて煩雑になるとともに、測定に時間を要する。一方、POCT機器は診療現場で使用されるため、迅速な測定、小型化及び易操作性が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、POCT機器における測定方法として利用可能な、生体試料中の分析対象物の新たなアッセイ方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、生体試料中の分析対象物のアッセイ方法であって、生体試料、前記生体試料中の分析対象物に特異的に結合する特異的結合パートナーA、及び蛍光物質をセンサチップに接触させること、ここで、前記蛍光物質は、前記特異的結合パートナーAに結合しているか、又は前記特異的結合パートナーAに特異的に結合可能であり、前記センサチップは、基板と金属膜と特異的結合パートナーBとを含み、前記金属膜は前記基板表面に形成され、前記特異的結合パートナーBは前記特異的結合パートナーAの結合部位とは異なる前記分析対象物の部位に特異的に結合する特異的結合パートナーであって、前記金属膜上に固定化され; 前記センサチップに、前記基板の前記金属膜の形成面とは反対側の面からプリズムを経由して、前記金属膜において表面プラズモン共鳴が発生するように入射光を集光させて照射すること;及び、 前記表面プラズモン共鳴によって励起された前記蛍光物質の蛍光を受光することを含むアッセイ方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、POCT機器における測定方法として利用可能な、生体試料中の分析対象物の新たなアッセイ方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態におけるSPFS装置の一例を示す構成図である。
【図2】図2は、本発明の一実施の形態における測定方法の一例を示す概念図である。
【図3】図3は、本発明の一実施の形態におけるSPFS装置のその他の例を示す構成図である。
【図4】図4は、実施例1及び比較例1の結果の一例を示すグラフである。
【図5】図5は、比較例2の結果の一例を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例2の結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、特異的結合パートナーBが金属膜上に固定化されたセンサチップに、生体試料、生体試料中の分析対象物に特異的に結合する特異的結合パートナーA、及び蛍光物質を接触させた後、前記センサチップに異なる入射角の光を集光させて照射することにより、被検試料ごとに含まれるタンパク質や塩の濃度等が異なる場合であっても、入射角の調整等を行わなくても安定した測定が可能になり、さらには、操作性が優れ、迅速な測定及び装置の小型化が可能になりうるとの知見に基づく。また、本発明は、上記方法であれば、操作性が優れ、迅速な測定及び装置の小型化が可能になりうることから、POCT装置の測定原理として利用可能であるとの知見に基づく。
【0012】
本発明のアッセイ方法によれば、金属膜においてSPRが発生するように様々な入射角の光を集光させてセンサチップに照射することから、被検試料ごとに入射角を調整するといった操作が不要となる。このため、本発明のアッセイ方法によれば、被検試料に含まれるタンパク質や塩濃度の違いに伴い被検試料ごとに屈折率が異なる場合であっても、簡易な操作性で、安定して高感度の測定が可能になるという効果を奏する。また、本発明のアッセイ方法によれば、入射角の調整等が不要であるため、迅速な測定が可能になるとともに、入射角調整のためのゴニオメータ等が不要となり装置の小型化及び軽量化が可能になるという効果を奏する。
【0013】
本明細書において「入射光を集光させる」とは、光源から出射された光束をスポット状に集めて照射することを含む。このように入射光を集光させて照射することによって、複数の入射角を有する光を入射光としてセンサチップに照射することができるため、被検試料ごとに入射角を調整するといった操作が不要となるとともに、安定な測定が可能になる。本明細書において「表面プラズモン共鳴(SPR)が生じるように入射光を集光させる」とは、SPRが生じる条件を満たす入射角を少なくとも含むように集光させることをいい、好ましくはSPR条件を満たす入射角を含む所定の範囲の入射角を有するように光を入射させることをいう。本明細書において「入射角」とは、光軸とセンサチップの主面の法線との間の角度であって、例えば、図1にてθで示す角度のことをいう。
【0014】
本明細書において「生体試料」とは、被検体から採取された生体由来成分を含むものであって、特に限定されるものではないが、例えば、血液、血清、血漿、尿、鼻孔液及び唾液等が挙げられる。生体試料は、易操作性及び迅速な測定を行う点からは、分離及び/又は精製されていないことが好ましく、より好ましくは被検体から採取したそのままの状態であることが好ましい。本明細書において「採取したそのままの状態」とは、被検体から採取後、分離及び/又は精製処理がなされていない状態のことをいう、例えば、被検体から採取した後、稀釈したものを含んでいてもよい。被検体としては、例えば、ヒト及び/又はヒト以外の哺乳類が挙げられる。
【0015】
本明細書において「分析対象物」とは、生体試料に含まれるものであって、特に限定されるものではないが、例えば、核酸(例えば、DNA、RNA、及びポリヌクレオチド等)、タンパク質(ポリペプチド、オリゴペプチド等)、アミノ酸、糖質、及び脂質等が挙げられ、具体的には、腫瘍マーカー、炎症マーカー及びシグナル伝達物質等が挙げられる。腫瘍マーカーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、α−フェトプロテイン(AFP)、癌胎児性抗原(CEA)、及び前立腺特異抗原(PSA)等が挙げられる。炎症マーカーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、C反応性タンパク質(CRP)等が挙げられる。
【0016】
本明細書において「蛍光物質」とは、特異的結合パートナーAに結合しているか、又は特異的結合パートナーAに結合可能な蛍光標識であって、表面プラズモンによって励起させることによって蛍光を発光する物質のことをいう。また、本明細書において、蛍光物質は、特異的結合パートナーAそのものであってもよく、すなわち、特異的結合パートナーAが生体試料中の分析対象物に特異的に結合するとともに、蛍光を発光する物質であってもよい。
【0017】
本明細書において「特異的結合パートナーA」とは、生体試料中の分析対象物に特異的に結合する結合パートナーをいう。特異的結合パートナーAとしては、特に限定されるものではないが、例えば、核酸(例えば、DNA、RNA、及びポリヌクレオチド等)、タンパク質(ポリペプチド、オリゴペプチド等)、アミノ酸、糖質、及び脂質等が挙げられる。タンパク質としては、特に限定されるものではないが、例えば、分析対象物を特異的に認識する抗体等が挙げられる。抗体としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及び抗体断片等を含む。特異的結合パートナーAは、抗原抗体反応に使用できるもので好ましく、より好ましくはサンドイッチ型イムノアッセイに用いるものである。
【0018】
本明細書において「特異的結合パートナーB」とは、特異的結合パートナーAの結合部位とは異なる分析対象物の部位に特異的に結合するパートナーをいう。特異的結合パートナーBとしては、例えば、特異的結合パートナーAと同様のものが挙げられる。
【0019】
本明細書において「センサチップ」とは、基板と、基板表面に形成された金属膜と、金属膜上に固定化された特異的結合パートナーBとを少なくとも含むチップをいう。センサチップは、例えば、抗原抗体反応を用いて、金属膜上に固定化された特異的結合パートナーBによって分析対象物をトラップすることができる。本明細書において「金属膜上に固定化された特異的結合パートナーB」とは、特異的結合パートナーBが金属膜表面に形成された金属膜以外の層を介して固定化されていること、及び特異的結合パートナーBが金属膜表面に直接固定化されていることを含み得る。金属膜以外の層としては、特に制限されるものではないが、例えば、後述する自己組織化単分子膜、及び高分子膜等のスペーサ層等が挙げられる。基板は、表面に金属膜を形成可能な平面状の支持体であることが好ましい。また、基板は、透明であることが好ましい。基板の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、ガラス、石英ガラス、及びプラスチック等が挙げられる。プラスチックとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。基板は、高屈折率のものが好ましい。基板の屈折率は、例えば、1.5以上が好ましく、より好ましくは1.5〜2.2である。金属膜は、金、銀、アルミニウム、銅、及び白金からなる群から選択される少なくとも1種の金属から形成されることが好ましい。金属膜は、1種類の金属膜で形成されていてもよいし、材質の異なる複数の金属膜が積層されたものであってもよい。金属膜は、その他の金属で形成された接着層を介して基板上に形成されていてもよい。接着層の材質としては、例えば、クロム、及びチタン等が挙げられる。センサチップは、SPR又はSPFSに用いられる公知のセンサチップを使用してもよい。また、センサチップは、後述するプリズムと一体化したプリズム一体型センサチップであってもよい。
【0020】
センサチップは、さらに、金属膜表面に自己組織化単分子膜及び/又は高分子膜が形成されていてもよい。この場合、特異的結合パートナーBは、自己組織化単分子膜又は高分子膜に固定化されていることが好ましい。自己組織化単分子膜を形成する分子としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルカンチオール等が挙げられる。自己組織化単分子膜としては、例えば、反応性官能基を有するアルカンチオールの単分子膜が挙げられる。反応性官能基としては、例えば、カルボキシル基、アミノ基、アルデヒド基、イミド基、酸クロライド、エポキシ基、及びイソシアネート基等が挙げられる。
【0021】
[アッセイ方法]
本発明は、一つの態様として、生体試料、前記生体試料中の分析対象物に特異的に結合する特異的結合パートナーA及び蛍光物質をセンサチップに接触させること、前記センサチップに、前記基板の前記金属膜の形成面とは反対側の面からプリズムを経由して、前記金属膜においてSPRが発生するように入射光を集光させて照射すること、及び、前記SPRによって励起された前記蛍光物質の蛍光を受光することを含む生体試料中の分析対象物のアッセイ方法に関する。ここで、前記蛍光物質は、前記特異的結合パートナーAに結合しているか、又は前記特異的結合パートナーAに特異的に結合可能である。前記センサチップは、基板と金属膜と特異的結合パートナーBとを含み、前記金属膜は、前記基板表面に形成され、前記特異的結合パートナーBは、前記特異的結合パートナーAの結合部位とは異なる前記分析対象物の部位に特異的に結合する特異的結合パートナーであって、前記金属膜上に固定化されている。
【0022】
生体試料、前記生体試料中の分析対象物に特異的に結合する特異的結合パートナーA及び蛍光物質と、センサチップとを接触させる順番は特に制限されず、例えば、蛍光物質を結合させた特異的結合パートナーAと生体試料とを接触させた後、センサチップと接触させてもよいし、まず生体試料をセンサチップと接触させた後、蛍光物質を結合させた特異的結合パートナーAをセンサチップに接触させてもよい。
【0023】
前記生体試料は、被検体から採取した生体試料を分離及び/又は精製処理を行うことなく使用することが好ましい。すなわち、被検体から採取した生体試料を分離及び/又は精製処理を行うことなく前記センサチップに接触させることが好ましい。
【0024】
入射光の照射は、異なる入射角の光線をセンサチップに集束させることを含むことが好ましい。入射光は、光束中心軸と光束外側との間の角度(図1のθ’)が10度以下の範囲の光を含むことが好ましく、十分な蛍光強度が得られるとともに、装置を小型化する点からは、5度以下の範囲の光を含むことがより好ましい。また、入射光は、より安定な測定を行う点から、光束中心軸と光束外側との間の角度(θ’)が3度以上の光を含むことが好ましく、より好ましくは4度以上の光を含む。入射光は、50〜70度の範囲の入射角(図1のθ)を有する光束を含むことが好ましく、十分な蛍光強度を得る点からは、55〜65度の範囲の入射角を有する光束を含むことが好ましい。
【0025】
本発明のアッセイ方法は、受光した蛍光強度に基づき、分析対象物の定量を行うことを含むことが好ましい。
【0026】
本発明のアッセイ方法は、異なる被検体から採取された生体試料を用いて分析対象物のアッセイを行うことを含んでいてもよい。異なる被検体から採取された複数の生体試料を用いてアッセイを行った場合、試料ごとに屈折率が変動することがあるが、本発明のアッセイ方法は、様々な入射角の光を集光させて照射することから、そのような場合でも安定した測定を簡便な操作で行うことができる。
【0027】
[POCT装置]
本発明は、その他の態様として、本発明のアッセイ方法を行うための装置であって、SPRを生じさせるための光源と、前記光源からの光をセンサチップに集光させる集光部と、前記集光部にて集光された光が照射されることによって生じたSPRにより励起された蛍光を受光する蛍光受光部とを備えるPOCT装置に関する。
【0028】
本発明のPOCT装置は、さらに、センサチップからの反射光を受光する反射光受光部を備えることが好ましい。
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して具体的に説明する。但し、以下の説明は一例に過ぎず、本発明はこれに限定されないことはいうまでもない。
【0030】
[第1の実施形態]
図1に、第1の実施形態におけるSPFS装置の一例を示す。第1の実施形態におけるSPFS装置は、光源1、平行光作成部7、偏光光学素子8、集光部(集光レンズ)2、プリズム4、及び蛍光受光部3を備える。
【0031】
光源1は、センサチップに形成された金属膜においてSPRを発生させて蛍光物質を励起させるための光を照射するものである。光源1の波長は、センサチップに形成された金属膜に応じて適宜決定でき、金属膜が金膜である場合、例えば、600nm以上であり、好ましくは600〜700nmである。光源1としては、特に制限されず、例えば、点光源LED、及びLDレーザー等が使用できる。
【0032】
平行光作成部7は、光源1からの光を平行光にするものである。図1に示す構成では、平行光作成部7は、絞り71及びレンズ72によって構成されているが、これに限定されるものではない。
【0033】
偏光光学素子8は、光源1からの光のうち、SPRを効率よく発生させるp偏光を透過させるためのものである。偏光光学素子8としては、例えば、p偏光を透過可能な光学素子を使用できる。
【0034】
集光部2は、平行光作成部7により形成された平行光束を集光させるためのものであって、好ましくは光束中心軸上の1点に集光させるものである。集光部2としては、公知の集光光学系が使用できる。集光部2は、光束中心軸と光束外側との角度(図1のθ’)が3度以上、10度以下の範囲の光が照射可能なように配置されていることが好ましく、蛍光をより効率よく励起させる点からは、5度以下の範囲の光を照射可能なように配置されることがより好ましい。
【0035】
プリズム4は、集光部2で集光された光を効率よくセンサチップに照射させるためのものである。また、プリズム4上には、センサチップ5を配置可能である。プリズム4としては、特に制限されず、例えば、三角プリズム、及び半円プリズム等が挙げられる。プリズム4の材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、上述のセンサチップと同様の材質が挙げられる。
【0036】
蛍光受光部3は、表面プラズモンによって励起した蛍光を受光するものである。蛍光受光部3は、励起した蛍光を受光可能なように、プリズム4上に配置されたセンサチップ5の上部に配置されている。蛍光受光部3としては、特に制限されず、例えば、CCDカメラ、及び光電子倍増管等の微弱光を検出できるものが挙げられる。蛍光受光部3は、さらにセンサチップ5からの蛍光を受光するための光学系をさらに備えていてもよい。蛍光受光部3は、例えば、図1に示すように、対物レンズ33、蛍光フィルター32及びCCDカメラ31によって構成されていてもよい。
【0037】
蛍光受光部3は、図1に示すように、コンピュータ9と接続されていてもよい。これにより、受光部3によって検出された蛍光の出力、得られた蛍光強度に基づく分析対象物の定量等を行うことができる。
【0038】
図1に示すSPFS装置を用いたアッセイについて、図1及び2を用いて説明する。図2は、本発明のアッセイ方法の一実施形態を示す概略図である。図2において図1と同じ部材には同じ番号を付す。
【0039】
まず、図2(a)に示すように、センサチップ5を準備し、センサチップ5をプリズム4上に配置する。センサチップ5は、基板(図示せず)表面に金属膜(図示せず)が形成され、その金属膜上に特異的結合パートナーB 11が結合されているものであれば特に制限されず、例えば、SPR又はSPFSに使用されうる公知のセンサチップができる。基板の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.01〜10mmであり、好ましくは0.5〜5mmである。金属膜の厚みは、金属膜に含まれる材質等に応じて適宜決定でき、特に限定されるものではなく、例えば、70nm以下であり、好ましくは20〜70nm、より好ましくは30nm〜60nmである。センサチップにおいて、蛍光が生じないという現象(金属消光)を回避する点から、特異的結合パートナーB 11は、スペーサ層(図示せず)を介して金属膜上に固定化されていることが好ましい。スペーサ層の厚みは、金属膜の厚み等に応じて適宜決定できるが、上記金属消光を回避させる点から、例えば、20nm以上であることが好ましく、より好ましくは25nm以上、さらに好ましくは30nm以上である。特異的結合パートナーB 11は、測定対象となる分析対象物に応じて適宜決定できる。
【0040】
センサチップ5には、流路6が形成されていてもよい。微量な薬液の送達の効率化及び反応促進の点からは、センサチップ5は流路6を備えることが好ましく、装置の小型化の点からは、センサチップ5は流路6を備えていないことが好ましい。
【0041】
ついで、特異的結合パートナーAと、蛍光物質と、生体試料とを混合する。これにより、特異的結合パートナーAを生体試料中の分析対象物に結合させる。予め、測定時間の短縮及び易操作性の点からは、蛍光物質を特異的結合パートナーAに結合させておくことが好ましい。混合温度は、特に制限されず、例えば、4〜50℃であり、好ましくは10〜40℃である。混合時間は、特に制限されず、例えば、0.5〜30分間であり、好ましくは1〜20分間である。
【0042】
図2(b)に示すように、分析対象物12と、蛍光物質14を結合させた特異的結合パートナーA 13とを含む混合液をセンサチップ5に導入し、センサチップ5に、特異的結合パートナーA 13を介して蛍光標識された分析対象物を接触させる。これにより、図2(c)に示すように、センサチップ5上に固定化された特異的結合パートナーB 11に、上記分析対象物12を結合させる。接触温度は、特に制限されず、例えば、4〜50℃であり、好ましくは10〜40℃である。接触時間は、特に制限されず、例えば、0.5〜60分間であり、好ましくは5〜30分間である。
【0043】
ついで、図2(d)に示すように、光源1からプリズム4を経由してセンサチップ5に向けて光を出射する。光源1からの光は、平行光作成部7及び偏光光学素子8を経て、平行光のp偏光となり、集光部2において、SPR条件となる入射角を含む異なる入射角でセンサチップ5に入射する成分を含むように集光される。集光された光は、センサチップ5の金属膜において表面プラズモン共鳴が生じるように、プリズム4を経由してセンサチップ5に照射され、表面プラズモン共鳴が発生する。この表面プラズモン共鳴によって、特異的結合パートナーB 11、分析対象物12及び特異的結合パートナーA 13を介して金属膜上に固定化された蛍光物質14が励起され、蛍光を発する。
【0044】
そして、励起された蛍光を、蛍光受光部3において測定する。上記のように、センサチップ5には、SPR条件となる入射角を含む複数の入射角を有する光が照射されることから、タンパク質や塩濃度の変化によりセンサチップ5に導入される混合液の屈折率が変動した場合であっても、安定して蛍光を測定することができる。
【0045】
蛍光受光部3で受光した蛍光強度に基づき、例えば、生体試料中の分析対象物を定量分析することができる。
【0046】
[第2の実施形態]
図3に、第2の実施形態におけるSPR−SPFS装置の一例を示す。図3において、図1と同じ部材には同じ番号を付す。第2の実施形態におけるSPR−SPFS装置の構成は、反射光受光部10を備える以外は、第1の実施形態のSPFS装置の構成と同様である。
【0047】
反射光受光部10は、センサチップ5とプリズム4との界面で反射した光を受光するものであって、センサチップ5の下部、すなわちプリズム4側に配置されている。反射光受光部10としては、特に制限されず、例えば、CCDカメラ、及びラインセンサー等が挙げられる。反射光受光部10は、センサチップ5とプリズム4との界面で反射した光を集光させるために集光光学系102をさらに備えていてもよい。反射光受光部10は、例えば、図3に示すように、集光レンズ102及びCCDカメラ101によって構成されていてもよい。反射光受光部10は、図3に示すように、PC9と接続されていてもよい。これにより、反射光受光部10によって検出がされた蛍光を出力することができる。
【0048】
第2の実施形態におけるSPR−SPFS装置は、蛍光受光部3に加えて、反射光受光部10を備えることから、蛍光測定と合わせて反射光の測定を行うことができる。
【0049】
以下、実施例及び比較例を示して本発明についてさらに詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
本発明の方法を用いて、被検試料中の分析対象物のアッセイを行った。被検試料としては、異なる濃度(3%、7%及び10%)のウシ血清アルブミン(BSA)と分析対象物とを含む生理食塩水を準備した。分析対象物として肝細胞癌マーカーであるα−フェトプロテイン(AFP)を使用し、特異的結合パートナーAとして抗AFP抗体(ミクリ免疫研究所:クローン6D2)を使用し、蛍光物質としてAlexa647(Invitrogen)を使用し、特異的結合パートナーB(AFPと結合する一次抗体)として抗AFP抗体(ミクリ免疫研究所:クローン1D5)を使用した。
【0051】
[センサチップの作製]
ガラス基板(光学ガラス:S−LAL10、0.5mm)の片面にクロムを蒸着させてクロム膜(厚み:1nm)を形成し、その上に金を蒸着させて金膜(厚み:49nm)を形成した。ついで、金膜上に、11-Mercaptoundecanonc acid(HS(CH2)10COOH)を用いてカルボン酸を末端に有する自己組織化単分子膜(COOH−SAM、厚み:2nm)を形成した。カルボジイミド法を用いて、COOH−SAMが形成された基板に活性エステルを導入し、特異的結合パートナーB(10μg/mL)を固定化した。
【0052】
[SPFS装置の構成]
本実施例では、図1に示すSPFS装置を使用した。図1に示すように、SPFS装置は、光源1、平行光作成部7、偏光光学素子8、集光部(集光レンズ)2、プリズム4、受光部3、及びコンピュータ9を備える。プリズム4上には、流路6を備えるセンサチップ5を配置可能である。平行光作成部7は、絞り71及びレンズ72により形成されている。受光部3は、対物レンズ(×20)33、蛍光フィルター32及びCCDカメラ31によって構成され、CCDカメラ31はコンピュータ9と接続している。光源1からの光は、平行光作成部7によって平行光となり、ついで集光部2にて集光された後、プリズム4とセンサチップ5との界面に照射される。光源1、平行光作成部7、偏光光学素子8、及び集光部2は、光源1からプリズム4とセンサチップ5との界面に照射される入射光束がセンサチップ5に対して55〜65度となるように配置されている。光源1は、点光源LED(波長650nm)を使用した。プリズム4は、三角プリズム(光学ガラス:S−LAL10、屈折率=1.72)を使用した。
【0053】
[分析対象物のアッセイ]
被検試料に、蛍光物質で標識した特異的結合パートナーA(蛍光標識化抗AFP抗体)を添加して検体とした(検体中のAFPの終濃度:5ng/mL)。蛍光標識化抗AFP抗体としては、センサチップに固定した抗体とは異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体を使用した。流路6を備えるセンサチップ5をSPFS装置のプリズム4に配置した後、調製した各検体を流路6に導入し、光源1からプリズム4とセンサチップ5との界面に光を照射して蛍光を測定した。その結果を、7%BSAの結果を1とした相対値として図3に示す。
【0054】
(比較例1)
センサチップに照射される光の入射角を60度(1点)にした以外は、実施例1と同様に蛍光測定を行った。その結果を、実施例1の結果と合わせて図4に示す。
【0055】
図4は蛍光強度の上昇速度比を示すグラフであって、図4(a)は実施例1のグラフであり、図4(b)は比較例1のグラフである。図4(b)に示すように、入射角を1点に固定して単一の入射角を入射した比較例1では、BSAの濃度によって蛍光シグナルの上昇速度が大きく変化した。これに対して、図4(a)に示すように、異なる入射角を有する光束を集光させて照射した実施例1は、比較例1と比較して、BSAの濃度の変化に伴う蛍光シグナルの上昇速度の変動がほとんど見られなかった。したがって、異なる入射角を有する光束を集光させて照射することによって、含まれるタンパク質や塩の濃度等が被検試料によって変動した場合であっても、安定した測定を行うことができることが確認できた。
【0056】
なお、この単一の入射角を入射した場合に試料に含まれるタンパク質の濃度によって蛍光シグナルの上昇速度が大きく変化することは、共存タンパク質がBSA以外の場合でも確認されている。その結果を、比較例2に示す。
【0057】
(比較例2)
BSAに替えてヒト血清アルブミン(HSA)(シグマ製、A1653)を使用し、分析対象物としてCRP、特異的結合パートナーAとしてCRPモノクローナル抗体(イムノプローブ製、クローンNo.8、L/N080317)、特異的結合パートナーBとしてCRPモノクローナル抗体(イムノプローブ製、クローンNo.7、L/N030700)を使用し、センサチップに照射される光の入射角を59度(1点)にした以外は、実施例1と同様に蛍光測定を行った。その結果を、7%HSAの結果を1とした相対値として図5に示す。図5に示すとおり、HSAの濃度によって蛍光シグナルの上昇速度が大きく変化した。
【0058】
(実施例2)
被検試料として種々の濃度のAFPを含む市販のウシ胎児血清(FBS)を用いた以外は、実施例1と同様の条件及び装置を用いて測定を行った。その結果の一例を図6に示す。図6に示すように、入射光を集光させて照射することによって、高濃度のタンパク質が共存する血清中であっても臨床的カットオフ値(10ng/mL)以下でAFPの定量が可能であることが示された。
【0059】
以上の結果より、本発明のアッセイ方法によれば、被検試料ごとに含まれるタンパク質や塩の濃度等が異なる場合であっても、簡単な操作で、かつ安定な測定が可能であることから、POCT機器における測定方法として有用であることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、例えば、医療分野、臨床検査の分野等の様々な分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の分析対象物のアッセイ方法であって、
生体試料、前記生体試料中の分析対象物に特異的に結合する特異的結合パートナーA、及び蛍光物質をセンサチップに接触させること、ここで、前記蛍光物質は、前記特異的結合パートナーAに結合しているか、又は前記特異的結合パートナーAに特異的に結合可能であり、前記センサチップは、基板と金属膜と特異的結合パートナーBとを含み、前記金属膜は前記基板表面に形成され、前記特異的結合パートナーBは前記特異的結合パートナーAの結合部位とは異なる前記分析対象物の部位に特異的に結合する特異的結合パートナーであって、前記金属膜上に固定化され、
前記センサチップに、前記基板の前記金属膜の形成面とは反対側の面からプリズムを経由して、前記金属膜において表面プラズモン共鳴が発生するように入射光を集光させて照射すること、及び、
前記表面プラズモン共鳴によって励起された前記蛍光物質の蛍光を受光すること、を含む、アッセイ方法。
【請求項2】
前記入射光の照射は、異なる入射角の光線を前記センサチップに集束させることを含む、請求項1記載のアッセイ方法。
【請求項3】
前記入射光の照射は、50〜70度の範囲の入射角を有する光束を前記センサチップに集光させることを含む、請求項1又は2に記載のアッセイ方法。
【請求項4】
前記受光した蛍光強度に基づき、分析対象物の定量を行うことを含む、請求項1から3のいずれかに記載のアッセイ方法。
【請求項5】
前記生体試料は、血液、血清、血漿、尿、鼻孔液及び唾液からなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1から4のいずれかに記載のアッセイ方法。
【請求項6】
被検体から採取した生体試料を分離及び/又は精製処理を行うことなく前記センサチップに接触させることを含む、請求項1から5のいずれかに記載のアッセイ方法。
【請求項7】
異なる被検体から採取された生体試料に対して分析対象物のアッセイを行うことを含む、請求項1から6のいずれかに記載のアッセイ方法。
【請求項8】
前記金属膜は、金、銀、アルミニウム、銅、及び白金からなる群から選択される少なくとも1種の金属から形成される、請求項1から7のいずれかに記載のアッセイ方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載のアッセイ方法を行うための装置であって、
表面プラズモン共鳴を生じさせるための光源と、
前記光源からの光をセンサチップに集光させる集光部と、
前記集光部にて集光された光が照射されることによって生じた表面プラズモン共鳴により励起された蛍光を受光する蛍光受光部と、を備えるPOCT装置。
【請求項10】
さらに、前記センサチップからの反射光を受光する反射光受光部を備える、請求項9記載のPOCT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−233860(P2012−233860A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104566(P2011−104566)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】