説明

生体試料標本の作製方法

【課題】スライドガラス上への試料の移動が容易に行え、また作製効率が向上する生体試料標本の作製方法を提供する。
【解決手段】パラフィンブロック2の通孔4内に組織8を充填する工程、パラフィンブロック2にて組織8が包埋された固形試料10を切断刃によって薄切する工程、薄切片12をスライドガラス24上に乗せる工程、薄切片12のパラフィンを溶融させる工程、および組織8を染色する工程を包含する生体試料標本の作製方法。薄切片12をスライドガラス24上に乗せる工程が、筒状の刃部16を有する切断具14を薄切片12に押し付け、組織の周囲にパラフィンが配置された切断片18を得る工程、切断片18のパラフィンに静電気を付与し、刃部16に付着した状態で切断片18をスライドガラス24上へ移動する工程、パラフィンに付与した静電気を開放して切断片18をスライドガラス24上に載せる工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は組織、細胞などの生体試料標本の作製方法とその方法に使用される切断具に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料(例えば組織切片、タッチスメア、細胞等)に存在する特定の標的物質(例えば抗原)の存在を判別する手法として、該標的物質をシグナルとして可視化し検出する免疫染色法が従来から用いられている。例えば、蛍光抗体法、酵素抗体法、重金属標識抗体法および放射性同位元素標識抗体法がある。
【0003】
蛍光抗体法は、標的抗原に対する抗体、通常はモノクローナル抗体を蛍光色素で標識し、組織切片上の抗原の分布を判別する手法で、直説法と間接法の2つの二重染色法に分類することができる。前者では、予め蛍光色素標識された抗体を抗原−抗体反応に用いて標的抗原を直接可視化し、後者では、最初に標的抗原に特異的な一次抗体を抗原との反応に供し、次いで該一次抗体に特異的な標識二次抗体を反応させ、いわば間接的に標的抗原を可視化する。
【0004】
酵素抗体法は、同様に抗原−抗体反応という特異反応を利用する手法である。抗体を酵素で標識し、抗原−抗体反応後に該酵素によって発色基質の沈着を生じさせて抗体の局在を示す点に特徴がある。標識酵素としては、西洋わさびペルオキシダーゼ(Horseradish peroxidase;HRP)、アルカリホスファターゼ(Alkaline phosphatase;ALP)、グルコースオキシダーゼ(Glucoseoxidase;GO)等が代表的である。
【0005】
酵素抗体法には、酵素標識抗体法である直説法、間接法およびアビジン・ビオチン化ペルオキシダーゼ複合体(Avidin−biotinylated peroxidase complex;ABC)法と、非標識抗体法としてのペルオキシダーゼ・抗ペルオキシダーゼ(Peroxidase−antiperoxidase;PAP)法とがあり、卵白の塩基性蛋白質であるアビジンに代わり、中性に荷電した、即ち中性化処理が不要なストレプトアビジン(Streptavidin)を用いるストレプトアビジン・ビオチン化抗体(Labeled streptavidin−biotinylated antibody;SABまたはLSAB)法が主流となっている。
【0006】
対象生体試料を上記免疫染色法に供する場合、通常、凍結切片やパラフィン切片として固相のマトリックス上に固定したものを調製して反応に付する。
【0007】
このように免疫的染色法を用いることにより、組織または細胞に存在する種々ペプチド性抗原(組織抗原、腫瘍抗原、免疫担当細胞亜型抗原、酵素、ホルモン等)、非ペプチド性の抗原、その他組織に沈着する免疫複合体等の検出が可能であり、各種疾患の診断マーカーの分布を判別することによる病理診断(例えば腫瘍マーカーの判別による腫瘍診断)も行われている。
【0008】
従来、組織観察用の薄切片試料作製工程において、固形試料の薄切作業はミクロトームを用いて作業者が行っている。固形試料には、主として生体試料をパラフィンや他のコンパウンドで包埋したものが用いられ、これを薄切し、薄切片を作製する。この薄切工程において重要かつ困難な作業に、薄切中および薄切工程終了後の薄切片のハンドリングがある。
【0009】
図8は従来の組織観察用の薄切片試料作製工程図である。以下、その組織観察用の薄切片試料作製方法について説明する。
【0010】
(1)まず、図8(a)に示すように、送り工程が終了した後の薄切工程で切断刃36をAの方向へ送り、固形試料37の薄切を開始する。
【0011】
(2)次に、図8(b)に示すように、作業者は片手で切断刃36を移動させながら、もう一方の手で、この時生成する薄切片39の切れ始めに、水分を含ませた非常に細い筆などの治具38の先端部を接触させる。
【0012】
(3)次に、図8(c)に示すように、そのまま切断刃36を移動させる速度と同じ速度で薄切片39に接触させた治具38を動かしながら薄切を終了させることにより、薄切終了時には一端が治具38に接触した状態の薄切片39を取り出すことができる。そして、取り出した薄切片39をガラス製のスライドガラスに乗せる。一般的には取り出した薄切片の皺や縮みを伸ばす目的で、一度水面に浮かべた後、スライドガラスですくい取る。
【0013】
次に、脱パラフィン・染色・封入工程を経て組織観察用の薄切片試料が得られる。
【0014】
上記した従来の薄切片試料の作製工程においては、以下に挙げる問題点がある。
【0015】
薄切工程において作業者は片手で切断刃を、もう一方の手で薄切片取り出し用の治具を同時に操作しなければならず、この状況下で非常に薄い切片の切れ始めの一定の場所に、小さな治具の先端を正確に接触させるには高度な技術、熟練度かつ集中力を必要とする。この時、治具先端の薄切片への押しつけ力が大きすぎると薄切片が破れたり、皺になったりするという不具合が生じる。
【0016】
また、切断刃は固形試料の薄切を開始した後、常に一定の速度で移動させなければならないため、切断刃の移動速度を変化させると薄切片の厚さむらや形状(皺、縮み)のバラツキの原因となる。そして、このようなバラツキは、測定結果のバラツキの原因となり、擬陽性、および/または、擬陰性の原因となる。また、この治具先端を薄切片の切り始めに接触させるという作業は、切断刃を停止させることなく行わなければならないという難しさもある。
【0017】
このような問題を解決したものとして、例えば、特開平10−104136号公報には、組織観察用の薄切片試料を作製する方法において、薄切工程前に、次に薄切片となる固形試料面に薄切補助部材を密着固定させ、この状態で薄切工程を行い、薄切補助部材に密着固定した薄切片を顕微鏡観察用のスライドガラスに乗せた後、脱パラフィン工程、染色・封入工程を施すようにする方法が提案されている。
【0018】
しかし、この方法では、薄切補助部材を用意して薄切片に密着固定すること、および薄切片をスライドガラスに乗せた後、この薄切補助部材を溶解除去する操作が必要で、操作が煩雑になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平10−104136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、容易に安定した品質の薄切片の切り出しが行え、またスライドガラス上への移動が容易に行え、薄切片試料の作製効率が向上する生体試料標本の作製方法を提供することを目的とする。
【0021】
本発明の他の目的は、薄切の際に、薄切片に生じる皺、縮み、破れなどの不具合の発生を抑え、高度な技術を持った熟練者でなくても容易に安定した品質の薄切片の切り出しを行うことができる織標本の作製方法を提供することを目的とする。
【0022】
本発明のさらに他の目的は、上記方法に使用する切断具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の生体試料標本の作製方法は、パラフィンブロックに通孔を形成する工程、該パラフィンブロックの通孔内に組織を充填する工程、該パラフィンブロックにて組織が包埋された固形試料を切断刃によって薄切する工程、得られた該薄切片をスライドガラス上に乗せる工程、該薄切片のパラフィンを溶融させる工程、および該組織を染色する工程、を包含する生体試料標本の作製方法であって、該薄切片をスライドガラス上に乗せる工程が、先端に筒状の刃部を有する切断具を該薄切片に押し付けて、該組織の周囲にパラフィンが配置された切断片を得る工程、該切断片のパラフィンに静電気を付与して、該切断具の刃部に付着した状態で該切断片をスライドガラス上へ移動する工程、該パラフィンに付与した静電気を開放して該切断片をスライドガラス上に載せる工程、を包含し、そのことにより上記目的が達成される。
【0024】
一つの実施形態では、前記切断具に、静電気の付与をオン、オフ制御する制御部が設けられている。
【0025】
一つの実施形態では、前記スライドガラス上に、シランコート又はリジンコートが施されている。
【0026】
本発明の疾患の病理診断方法は、上記方法を用いることを含む。
【0027】
また、本発明の切断具は、上記方法に使用される切断具であって、切断具本体と、該切断具本体の先端部に設けられた筒状の刃部と、該刃部を通して、前記切断片のパラフィンに静電気を付与し得る電荷付与部と、該電荷付与部による静電気をオンオフ制御可能な制御部と、を備えている。
【0028】
また、本発明の他の生体試料標本の作製方法は、ブロック状の包埋剤に孔部を形成する工程、該包埋剤の孔部内に生体試料を充填する工程、該包埋剤にて生体試料が包埋された固形試料を切断刃によって薄切する工程、得られた該薄切片を固相マトリクス上に乗せる工程、該薄切片の周囲に形成された包埋剤を溶融させる工程、および該生体試料を染色する工程、を包含し、該薄切片を固相マトリクス上に乗せる工程が、先端に筒状の刃部を有する切断具を該薄切片に押し付けて、該生体試料の周囲に包埋剤が配置された切断片を得る工程、該切断片の包埋剤に静電気を付与して、該切断具の刃部に付着した状態で該切断片を固相マトリクス上へ移動する工程、該包埋剤に付与した静電気を開放して該切断片を固相マトリクス上に載せる工程、を包含する。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
【0030】
先端に筒状の刃部を有する切断具を薄切片に押し付けて、組織の周囲にパラフィンが配置された切断片を得、該切断片のパラフィンに静電気を付与して、該切断具の刃部に付着した状態で該切断片をスライドガラス上へ移動させ、該パラフィンに付与した静電気をアースし又は上記とは逆の電荷を付与して該切断片をスライドガラス上に載せることにより、切断の際に薄切片に生じる皺、縮み、破れなどの不具合の発生を抑え、高度な技術を持った熟練者でなくても、容易に安定した品質の薄切片の切り出しを行うことができる。また、両手を同時に使う必要がなくなる上に、非常に取り扱い易い。この切断具を用いることにより、薄切片作製作業を自動化することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明に係わる生体試料標本の作製方法に使用するパラフィンブロックの通孔に組織を充填し、スライスした工程を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す薄切片を切断具にて切断している状態の断面図である。
【図3】図3は、切断具の刃部に付着した切断片をスライドガラス上へ移動する状態を示す説明図である。
【図4】図4は、スライドガラス上に抗体投入用器具を配置する状態の分解斜視図である。
【図5】図5は、スライドガラス上に抗体投入用器具を配置した状態の断面である。
【図6】図6は、ガラス基板上に弾性層を設けた状態の断面図である。
【図7】図7は、本発明の生体試料標本の作製方法の他の実施形態の作用説明図である。
【図8】図8は、従来例の作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0033】
図1に示すように、パラフィンブロック2に通孔4を形成し、該パラフィンブロック2の通孔4内に組織を充填する。パラフィンブロック2は、通常は直方体状である。パラフィンブロック2に、通孔4を1個形成するのがよく、その断面形状は限定されるものではないが、円形、矩形などであり得る。好ましくは円筒状の通孔4である。
【0034】
次に、組織に円筒状の針部材を刺し込み、針部材内に組織を取り込んだのち、該針部材から組織を押し出して、上記パラフィンブロック2の通孔4内に充填する。
【0035】
具体的には、腫瘍などの生体試料標本から針部材を用いて細長い組織試料を獲得する。組織試料は、生体試料標本の関心対象の領域から採取することができる。試料は円筒形の試料がよく、円筒形の試料は長さ約1〜4mmで、直径約0.1〜4mmとすることができる。採取した試料は、例えば、核酸の分析を妨害しないように(エタノール固定などの方法で)保存することができる。
【0036】
このようにして、パラフィンブロック2にて組織8が包埋された固形試料10が得られる。
【0037】
次に、この固形試料10を切断刃によって薄切する。
【0038】
この工程は、従来より使用されているミクロトームを使用することができる。固形試料10をミクロトームにかけて薄切を行い、通常、2〜4μmの厚さの薄切片12が得られる。図1に示すように、薄切片12は、パラフィン片のほぼ中央に薄い組織8が配置された状態である。
【0039】
この薄切片12を切断具14によって切断して切断片18を調製すると共に、該切断片18を、以下のようにして、スライドガラス24上に乗せる。
【0040】
本発明に使用する切断具14は、ペン型に構成された切断具本体15を有し、その先端部に筒状の刃部16が設けられている。該刃部16は、円筒状に形成され、その直径は薄切片12における組織8の外径より大きく設定されている。切断具本体15には、刃部16を通じて切断片18のパラフィンに静電気を付与できる電荷付与部20およびスイッチなどの制御部22が設けられている。この制御部22を操作することにより、切断片18のパラフィンに静電気を付与し、あるいはパラフィンの静電気を開放(アースし、又は逆電荷を付与)できるように構成されている。
【0041】
切断具14は手動で取り扱いできるように構成してもよく、あるいは自動昇降装置に取り付け、自動的に上下駆動できるように構成してもよい。この場合には、切断具14を水平方向へも自動的に駆動できるように構成するのがよい。
【0042】
切断具14を用いて薄切片12を切断し、およびスライドガラス24へ移動するには次のように行う。
【0043】
図2に示すように、切断具14の下方位置において該薄切片12の下側にゴムシートなどの柔軟性シート26を配置する。
【0044】
切断具14を薄切片12に押し付け、パラフィンの略中央に組織8が配置された切断片18を得る。ここで、切断具14の刃部16は組織8を切断しないようにする。切断片18の周囲にはパラフィンが組織8から延出している。
【0045】
次に、切断具14の制御部22を操作することにより、切断片18のパラフィンに静電気を付与し、切断片18を切断具14の先端に付着した状態で切断片18をスライドガラス24上へ移動する(図3)。
【0046】
切断片18がスライドガラス24上に乗ったときに、切断具14の制御部を操作し、パラフィンに付与した静電気を開放して切断片18をスライドガラス24上へ載置する。
【0047】
スライドガラス24上には、切断片18との付着性を高めるために、シランコート又はリジンコートが施されているのが良い。
【0048】
次に、定法に従って、切断片18のパラフィンを除去する(脱パラフィン工程)。すなわち、キシレン,アルコール,水の入った槽に、切断片18が付着したスライドガラス24とを順次浸漬し、脱パラフィンが行われる。
【0049】
次いで組織8を染色する(染色工程)。
【0050】
染色工程は、図4および図5に示す抗体投入用器具28を用いて実施することができる。
【0051】
すなわち、複数の組織8が配置されたスライドガラス24上に抗体投入用器具28を配置する。この器具28は、矩形状の基板27の各組織8に対応する位置に通孔30を設けて構成されている。基板27の両側部には留め具31が回動可能に取り付けられており、スライドガラス24上に器具28を配置した後、留め具31を回動してスライドガラス24に固定することで、器具28の各通孔30によってスライドガラス24上に凹部32が形成される。この凹部32内に各種の抗体溶液が投入され組織8の反応に供される。
【0052】
図6に示すように、スライドガラス24の表面には、予めシリコンゴムなどの弾性層26を形成しておくのが好ましい。スライドガラス24上には弾性層26が形成されているので、各凹部32内の抗体溶液が漏れ出したり、隣接する凹部32内の抗体溶液が混合することがない。
【0053】
所定の染色液で染色を行った後、封入剤を滴下した後、カバーガラスをかぶせる封入工程を経て、組織観察用の薄切片試料が作製される。
【0054】
このようにして、染色後に顕微鏡などを用いて、標的分析物質を決定することにより、それに対する特異的結合物質も決定される。
【0055】
なお、図7は、他の実施形態を示したものである。
【0056】
上記実施形態では、針部材を組織に刺し込み、針部材内に組織を取り込んだのち、該針部材から組織を押し出すようにしたが、図7に示すように薄切りした組織をロール状に巻いて、このロール状の組織をパラフィンブロックの通孔に充填してもよい。
【0057】
すなわち、パラフィンブロックに通孔を形成し、その通孔内に組織を充填してパラフィンブロックにて組織が包埋された固形試料40を作成する。次に、この固形試料40を図8に示すように、切断刃44によって薄切し該組織の周囲にパラフィンが配置された薄切片41を得る。この薄切片41をロール状に巻き、この長尺なロール42を適宜寸法に切断して所定寸法の組織の筒状体45が得られる。
【0058】
この組織の筒状体45を、上記したようにパラフィンブロック2の通孔4内に配置する。この実施形態では、パラフィンブロック2に複数の通孔4が形成されている。その後、上記のようにスライスして組織観察用薄切片が作成される。
【0059】
なお、本明細書において包埋剤とは、組織片などを薄切しやすい状態にする試薬をいい、非親水性または非水溶性のパラフィン、セロイジン、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂や、親水性または水溶性のカーボワックス、ゼラチン等が用いられる。中でも上記パラフィン包埋法が最も一般的且つ常用されている。
【0060】
スライドガラス24上には、切断片18との付着性を高めるために、シランコート又はリジンコートが施されていても良い。
【0061】
また、本発明で使用する固相マトリクスは、標的分析物質とそれの特異的結合物質との結合反応が起きるマトリクスであり、且つ、生成したシグナルを検出する際の基板となるものであり、前記結合反応及びシグナル検出を阻害しない限りにおいてマトリクス素材は特に限定されないが、好適には顕微鏡のスライドグラスである。
【0062】
なお、本明細書において包埋剤とは、組織片などを薄切しやすい状態にする試薬をいい、非親水性または非水溶性のパラフィン、セロイジン、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂や、親水性または水溶性のカーボワックス、ゼラチン等が用いられる。中でも上記パラフィン包埋法が最も一般的且つ常用されている。
【0063】
また、本発明において固相マトリックスとは、被検生体試料を固定でき、標的分析物質と特異的結合物質とが結合反応するのに支障なく、且つ、該反応の結果生成するシグナルの検出に支障ないものである限りにおいて特に限定されない。染色後に顕微鏡を用いてシグナルを検出する場合には、顕微鏡のスライドグラスが特に好適である。
【0064】
このようにして、染色後に顕微鏡などを用いて、標的分析物質を決定することにより、それに対する特異的結合物質が決定される。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、次のような特異的結合物質に対して、組織、細胞などの生体試料を染色するための生体試料標本を提供できる。
【0066】
例えば、(1)標的分析物質が蛋白質(各種細胞蛋白質、酵素、受容体、疾患マーカー等)である場合、該蛋白質に結合性を有する各種Counterpart・リガンド(例えば該蛋白質を抗原とする抗体、小分子)が用いられるが、好適には抗体であり、最も好適なのはその特異性と抗体価が確認されたモノクローナル抗体である。
【0067】
(2)標的分析物質が核酸である場合、それに対する特異的結合物質として相補的核酸分子(例えばDNA、RNA、mRNA)、抗体等が用いられるが、好適には相補的核酸分子であり、かかる核酸分子どうしのハイブリダイゼーションを利用して標的核酸分子(DNA、RNA、mRNA)を判別することが可能である(例えばFISH法)。
【0068】
(3)標的分析物質が非ペプチド性物質(例えば脂質、糖鎖、金属等)である場合、該物質に対する特異的結合物質としては該物質に対する特異的抗体を用いるのが好適である。また、糖鎖の検出においては、例えばレクチンを特異的結合物質として使用すれば検出が容易である。
【符号の説明】
【0069】
2 バラフィンブロック
4 通孔
8 組織
10 固形試料
12 薄切片
14 切断具
18 切断片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラフィンブロックに通孔を形成する工程、該パラフィンブロックの通孔内に組織を充填する工程、該パラフィンブロックにて組織が包埋された固形試料を切断刃によって薄切する工程、得られた該薄切片をスライドガラス上に乗せる工程、および該薄切片のパラフィンを除去する工程、を包含する生体試料標本の作製方法であって、
該薄切片をスライドガラス上に乗せる工程が、先端に筒状の刃部を有する切断具を該薄切片に押し付けて、該組織の周囲にパラフィンが配置された切断片を得る工程、
該切断片のパラフィンに静電気を付与して、該切断具の刃部に付着した状態で該切断片をスライドガラス上へ移動する工程、
該パラフィンに付与した静電気を開放して該切断片をスライドガラス上に載せる工程、を包含する方法。
【請求項2】
前記切断具に、静電気の付与をオン、オフ制御する制御部が設けられている請求項1に記載の生体試料標本の作製方法。
【請求項3】
前記スライドガラス上に、シランコート又はリジンコートが施されている請求項1に記載の生体試料標本の作製方法。
【請求項4】
さらに、前記組織を染色する工程、を包含する請求項1に記載の生体試料標本の作製方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法を用いることを含む、疾患の病理診断方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法に使用される切断具であって、
切断具本体と、該切断具本体の先端部に設けられた筒状の刃部と、該刃部を通して、前記切断片のパラフィンに静電気を付与し得る電荷付与部と、該電荷付与部による静電気をオンオフ制御可能な制御部と、を備えた切断具。
【請求項7】
ブロック状の包埋剤に孔部を形成する工程、該包埋剤の孔部内に生体試料を充填する工程、該包埋剤にて生体試料が包埋された固形試料を切断刃によって薄切する工程、得られた該薄切片を固相マトリクス上に乗せる工程、および該薄切片の周囲に形成された包埋剤を除去する工程、を包含する生体試料標本の作製方法であって、
該薄切片を固相マトリクス上に乗せる工程が、先端に筒状の刃部を有する切断具を該薄切片に押し付けて、該生体試料の周囲に包埋剤が配置された切断片を得る工程、
該切断片の包埋剤に静電気を付与して、該切断具の刃部に付着した状態で該切断片を固相マトリクス上へ移動する工程、
該包埋剤に付与した静電気を開放して該切断片を固相マトリクス上に載せる工程、を包含する方法。
【請求項8】
さらに、前記生体試料を染色する工程、を包含する請求項7に記載の生体試料標本の作製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図7】
image rotate