説明

生体認証装置、生体認証方法、及びプログラム

【課題】生体部位での表面反射が生体情報の取得に及ぼす影響を除去する。
【解決手段】獲得部11は、相対位置を変化させながら被認証者の生体部位を撮像する。検出部12は、獲得部11が獲得した時系列の生体画像の間で対応している画素を検出する。抽出部13は、生体部位からの表面反射成分が画素値に含まれていた画素を時系列の生体画像から抽出する。この抽出は、検出画素の時系列の生体画像での画素値の時間変化についての、時系列の生体画像を構成している全画素での画素値の時間変化の推計結果からの乖離の程度に基づいて行われる。生成部14は、生体部位からの表面反射を含まない生体画像を、画素の抽出元を除く時系列の生体画像の各々における、抽出画素に対応している画素の画素値に基づいて、当該抽出画素の画素値を補正することによって生成する。認証部15は、生成された生体画像を用いて被認証者の本人認証を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書で議論される実施態様は、手の指紋、掌の静脈、顔などといった人の身体特徴を利用して個人認証を行う生体認証技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近代社会では様々なシチュエーションにおいて本人確認が必要とされる。この本人確認を精度良く行う手法のひとつとして、指紋・静脈・顔などといった人体の生体部位の特徴を利用して個人認証を行う生体認証技術が、近年広まってきている。例えば、許可された人しか入ることのできない制限エリアへの入退室の可否の判定、パソコンへのログイン判定、オンライン取引などといった様々なサービスへのアクセスの可否の判定などのために、生体認証が利用されている。
【0003】
このような生体認証を実施するには、まず、利用者の生体情報として、例えば指紋・静脈・顔などの生体部位の画像を予め取得して、その利用者の登録生体情報として記録媒体に記録しておく。その後、上記のようなサービスを利用するための本人確認が必要になった際に、利用者の生体情報を登録時と同じように再び取得する。そして、このときに取得した生体情報(認証生体情報)と、記録媒体に記録しておいた前述の登録生体情報との比較照合を行い、その両者の類似度の高低を判別する。ここで、この類似度が所定の閾値よりも高ければ、本人であるとの認証結果を得る。
【0004】
ところで、生体情報の取得のために行う、カメラ等のイメージセンサでの生体部位の撮影において、生体部位での光の表面反射によって、撮影画像における生体部位の像から、生体認証に利用する身体特徴の検出が適切に行えないことがある。
【0005】
表面反射は物体の表面で光が反射する現象である。物体の表面が完全に平らである場合には、表面反射によって光は図1Aに図解したように正反射し、入射角(表面に対する法線と入射光の向きとがなす角度)θi と反射角(表面に対する法線と反射光の向きとがなす角度)θr とが同じ角度になる。
【0006】
ところが、自然界の殆どの物体は表面が完全に平らではなく、微小に凸凹しているため、実際には、表面反射による反射光は、図1Bに図解したように、ある程度広がった方向に放射される。この反射光の広がりの程度は物体表面の凸凹の度合いにより異なる。例えば人間の皮膚は表面の凸凹が多いので、そこでの表面反射による反射光は比較的広い範囲に放射される。但し、このような表面反射においても、反射光の強度は、入射角θi にほぼ等しい反射角θr の方向へのものが最も強く、その方向から向きが異なるにつれて徐々に低下する。
【0007】
以上のように、表面反射による反射光は、多少の広がりを持つものの、基本的には角度依存性が高い。
なお、物体での反射光には、拡散反射によって生じるものもある。拡散反射は、図2に図解したように、入射光が物体の内部に入り込んで拡散を繰り返し、その後に、その物体の表面から放射される現象である。
【0008】
拡散反射によって生じる反射光は、入射光の入射角に対する角度依存性は低く、全方位に一様に広がるので、その強度は、方向とは無関係に概ね一様である。厳密には、極端な方向(例えば物体の表面に対して平行に近い角度の方向)には拡散反射による反射光の強度は低下するが、ここでは、このような方向は考慮から除外するものとする。
【0009】
生体認証技術では、主に、生体部位で拡散反射した反射光により形成された画像を利用する。
例えば、掌の静脈を利用する静脈認証では、皮下の静脈パターンを取得するために、皮膚に照射した近赤外線が皮下の静脈で拡散反射して戻ってきた反射光による画像を撮影し、この画像から静脈パターンを抽出して生体認証に使用する。図3Aは、静脈パターンの画像からの抽出が適切に行えた場合の例である。
【0010】
一方、皮膚表面での表面反射による成分が反射光に含まれていると、図3Bの各画像例のように、撮影画像における像の一部が明るく映って皮下の静脈パターンを覆い隠したり、また、表面の凸凹の成分が皮下の静脈パターンに重畳されたりすることがある。このような画像からは、静脈パターンを適切に得ることは困難である。
【0011】
なお、このような光の表面反射が及ぼす影響は、指紋や顔などのように、主に生体表面に存在する生体情報を取得する場合においても同様であり、撮影画像における像の一部に明るいスポットが光の表面反射によって生じれば、生体情報を適切に得ることは難しい。
【0012】
このような表面反射成分の影響の除去に関して、幾つかの技術が提案されている。
例えば、照明及びカメラの前に偏光フィルタを配置するようにして、光学的に表面反射成分を取り除くという技術が知られている。この技術は、表面反射光は入射光の偏光方向が変化しないが、拡散反射光は偏光方向が変わるという性質を利用して、特定の偏光方向の光だけを通過させる偏光フィルタを用いて、表面反射成分を除去するというものである。すなわち、この技術は、互いに直交する偏光特性を有する偏光フィルタを照明とカメラとの前にそれぞれ配置することで、生体に照射する光の偏光成分と同じ偏光成分の光がカメラに届く前に除去して、表面反射成分のみを取り除くというものである。
【0013】
また、例えば、カメラを取り巻くように配置した複数の照明の点灯パターンを切り替える度に画像の撮影を行って得られた複数枚の画像を、表面反射による白飛びが生じている部分を取り除いた上で合成して1枚の画像を得るという技術が知られている。表面反射成分の強度は、照明・カメラ・被写体相互間の位置関係に強く依存するので、照明の位置を変えて光の照射角度を変える度に撮影して得られる複数枚の画像は、表面反射成分の強い部位が各画像で異なってくる。そこで、この技術は、各画像を、表面反射による白飛びが生じている部位を取り除いた上で合成することで、表面反射のない1枚の画像を得るようにしている。
【0014】
なお、この他の背景技術として、外光の映り込み位置が異なる複数枚の画像の各々に対して認証処理を実行し、得られた複数の認証結果に基づいて最終的な認証結果を得ると言う技術が知られている。
【0015】
また、撮像した画像に対して特定方向の成分を除去するフィルタをかけて平滑化することで、表面反射成分の影響を低減するという技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2003−331270号公報
【特許文献2】特開平10−162146号公報
【特許文献3】特開2004−030564号公報
【特許文献4】特開2005−353014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
偏光フィルタを用いて表面反射成分の影響を除去する前述の技術は、2枚の偏光フィルタを適切に配置する必要があるため、光学系が複雑になるため装置が大型化し、コストも高くなる。更に、この技術では、偏光フィルタを透過した反射光しか撮影できないため、撮影画像がかなり暗くなってしまう。
【0018】
また、複数枚の画像を合成して表面反射のない画像を得る前述の技術は、複数の照明を互いに離れた位置に配置することが必須であるため、装置が大型化し、コストも高くなる。更に、掌の表面での表面反射は広範囲にうっすらと発生することが多いのに対し、この技術は、白飛びするほどの強度の表面反射成分のみを取り除くものであるため、白飛びするほどではない強度の表面反射成分の影響を除去することは困難である。
【0019】
上述した問題に鑑み、本明細書で後述する生体認証装置は、生体部位での反射光に含まれる表面反射成分が生体情報の取得に及ぼす影響を除去する新たな手法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本明細書で後述する生体認証装置のひとつに、獲得部、検出部、抽出部、生成部、及び認証部を備えるというものがある。ここで、獲得部は、被認証者の生体部位との相対位置を変化させながら該生体部位を繰り返し撮像して時系列の生体画像を獲得する。検出部は、当該時系列の生体画像から生体画像間で対応している画素を検出する。抽出部は、生体部位からの表面反射成分が画素値に含まれていた画素を、当該時系列の生体画像の各々から抽出する。この抽出は、検出された画素の当該時系列の生体画像での画素値の時間変化についての、当該時系列の生体画像を構成している全画素での画素値の時間変化の推計結果からの乖離の程度に基づいて行われる。生成部は、抽出された画素の抽出元を除く当該時系列の生体画像の各々における、当該抽出された画素に対応している画素の画素値に基づいて、当該抽出された画素の画素値を補正することによって、生体部位からの表面反射を含まない生体画像を生成する。そして、認証部は、生成された生体画像を用いて被認証者の本人認証を行う。
【0021】
また、本明細書で後述する生体認証方法のひとつは、まず、被認証者の生体部位との相対位置を変化させながら該生体部位を繰り返し撮像して時系列の生体画像を獲得する。次に、当該時系列の生体画像から生体画像間で対応している画素を検出する。次に、生体部位からの表面反射成分が画素値に含まれていた画素を、当該時系列の生体画像の各々から抽出する。この抽出は、検出された画素の当該時系列の生体画像での画素値の時間変化についての、当該時系列の生体画像を構成している全画素での画素値の時間変化の推計結果からの乖離の程度に基づいて行われる。次に、抽出された画素の抽出元を除く当該時系列の生体画像の各々における、当該抽出された画素に対応している画素の画素値に基づいて、当該抽出された画素の画素値を補正することによって、生体部位からの表面反射を含まない生体画像を生成する。そして、生成された生体画像を用いて被認証者の本人認証を行う。
【0022】
また、本明細書で後述するプログラムのひとつは、以下の処理をコンピュータに行わせる。この処理は、まず、被認証者の生体部位との相対位置を変化させながら該生体部位を繰り返し撮像して時系列の生体画像を獲得する。次に、当該時系列の生体画像から生体画像間で対応している画素を検出する。次に、生体部位からの表面反射成分が画素値に含まれていた画素を、当該時系列の生体画像の各々から抽出する。この抽出は、検出された画素の当該時系列の生体画像での画素値の時間変化についての、当該時系列の生体画像を構成している全画素での画素値の時間変化の推計結果からの乖離の程度に基づいて行われる。次に、抽出された画素の抽出元を除く当該時系列の生体画像の各々における、当該抽出された画素に対応している画素の画素値に基づいて、当該抽出された画素の画素値を補正することによって、生体部位からの表面反射を含まない生体画像を生成する。そして、生成された生体画像を用いて被認証者の本人認証を行う。
【発明の効果】
【0023】
本明細書で後述する生体認証装置は、生体部位での反射光に含まれる表面反射成分が生体情報の取得に及ぼす影響を除去することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】光の表面反射を説明する図(その1)である。
【図1B】光の表面反射を説明する図(その2)である。
【図2】光の拡散反射を説明する図である。
【図3A】光の表面反射が生体情報の取得に及ぼす影響を説明する図(その1)である。
【図3B】光の表面反射が生体情報の取得に及ぼす影響を説明する図(その2)である。
【図4】生体認証装置の一実施例の機能ブロック図である。
【図5】撮像装置の構成を図解した図である。
【図6A】掌の画像における着目点の設定例である。
【図6B】時系列の画像における各着目点の画素値の例を表したグラフである。
【図7】着目点の画素値時間変化率の例を表したグラフである。
【図8】掌の像全体での画素値時間変化率の推計の説明図である。
【図9】着目点での反射光に表面反射成分が含まれている撮影時刻の期間を特定する手法の説明図である。
【図10】反射光に表面反射成分が含まれていた着目点の画素値を補正する手法の説明図である。
【図11】生体認証装置の一実施例の詳細機能ブロック図である。
【図12】生体画像の正規化の説明図である。
【図13】コンピュータの構成例を図解した図である。
【図14】生体認証装置において行われる制御処理の処理内容を図解したフローチャートである。
【図15】認証処理の第一の例の処理内容を図解したフローチャートである。
【図16】認証処理の第二の例の処理内容を図解したフローチャートである。
【図17】認証処理の第三の例の処理内容を図解したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず図4について説明する。図4は、生体認証装置の一実施例の機能ブロック図である。
この生体認証装置10は、獲得部11、検出部12、抽出部13、生成部14、認証部15、及び通知部16を備えている。
【0026】
獲得部11は、被認証者の生体部位との相対位置を変化させながら当該生体部位を撮像して時系列の生体画像を獲得する。
検出部12は、獲得部11が獲得した時系列の生体画像から、生体画像間で対応している画素を検出する。
【0027】
抽出部13は、生体部位からの表面反射成分が画素値に含まれていた画素を、獲得部11が獲得した時系列の生体画像の各々から抽出する。この画素の抽出は、検出部12により検出された画素の時系列の生体画像での画素値の時間変化についての、時系列の生体画像を構成している全画素での画素値の時間変化の推計結果からの乖離の程度に基づいて行われる。
【0028】
生成部14は、生体部位からの表面反射を含まない生体画像を生成する。この生体画像は、抽出部13により抽出された画素の抽出元を除く時系列の生体画像の各々における、当該抽出された画素に対応している画素の画素値に基づいて、当該抽出された画素の画素値を補正することによって生成される。
【0029】
認証部15は、生成部14により生成された生体画像を用いて被認証者の本人認証を行う。
生体認証装置10は以上の機能ブロックを備えている。なお、通知部16については後述する。
【0030】
次に、この生体認証装置10の動作について更に説明する。
まず、獲得部11の具体例について、図5を参照しながら説明する。
図5は、掌の静脈を利用して生体認証を行う場合に使用される撮像装置の構成を図解したものである。
【0031】
撮像装置20は、被認証者の生体部位である掌30との相対位置を変化させながら掌30を繰り返し撮像して、掌30についての時系列の生体画像を獲得するものであり、図4における獲得部11の一例である。この生体画像には、掌30の静脈の像が映る。
【0032】
撮像装置20は照明装置21と撮像素子22とを備えている。
照明装置21は、光を掌30に照射して、撮像装置20での撮像に十分な明るさにする。
【0033】
撮像素子22は、掌30からの反射光を受光して、掌30の画像を表している電気信号に変換して出力する。
この撮像装置20で掌30の画像の撮像を行う場合、被認証者は、掌30を移動させて、撮像装置20にかざしながら単調に近づける。撮像装置20は、このようにして掌30との相対位置が変化している期間に掌30を繰り返し撮像して生体画像を得る。但し、このようにして得られる生体画像には、前述した表面反射による掌30からの反射光が含まれる場合がある。
【0034】
次に、生体認証装置10が行う、撮像装置20により得られた生体画像からの表面反射成分の除去の手法について説明する。
生体画像において、表面反射成分がなく拡散反射成分のみの反射光により形成されている画像領域では、その領域の明るさは、照明の明るさと、撮像装置に対する生体部位の相対位置とによって主に定まる。従って、この照明の明るさと相対位置とが同一であれば、その画像領域の明るさは、生体部位上の位置が異なっていてもほぼ同一である。これに対し、表面反射成分を含む反射光により形成されている画像領域では、上述した照明の明るさ及び相対位置が同一であっても、生体部位上の位置の違いによって、画像領域の明るさが顕著に異なったものになる。この表面反射成分の特質について説明する。
【0035】
まず図6A及び図6Bについて説明する。
図6Aは、生体画像に映っている生体部位において着目した画素(着目点)の例を表している。この例では、図5の撮像装置20により取得された掌30の画像上の図示の位置に、A点、B点、及びC点の計3個の着目点を設定した場合の例を表している。
【0036】
図4の検出部12は、獲得部11の一例である撮像装置20が獲得した時系列の掌30の画像の各々から、これらの着目点を検出する。
図6Bに例示したグラフは、撮像装置20により取得された時系列の掌30の画像の各々から検出部12が検出した、各着目点についての画素値を表したグラフである。
【0037】
このグラフにおいて、縦軸は画素値(明度)を表しており、横軸は掌30の画像の撮影時刻を表している。なお、この3つのグラフにおいての横軸方向の同一位置は、撮影時刻が同一であること、すなわち、掌30の撮像装置に対する相対位置が同一であることを表している。
【0038】
図6Bの各グラフでの縦軸の画素値は、着目点からの反射光の強度に対応している。各グラフには、この反射光に表面反射成分が含まれている部分と、反射光に表面反射に依らない成分(主に拡散反射成分)のみが含まれている部分とを異なるハッチングで表現している。
【0039】
図6Bの3つのグラフを対比すると分かるように、表面反射成分が反射光に含まれていることでグラフに瘤が生じている撮影時刻は、3個の着目点で異なっている。このように、表面反射成分が含まれる撮影時刻が着目点間で異なるのは、掌30の各着目点においての照明装置21及び撮像素子22の向きが異なることが主な理由である。その一方で、拡散反射成分は向きとは関係がなく、また、同一人物の場合では、皮膚の拡散反射は部位によらずにほぼ同じ特性になることもあり、拡散反射成分の変化は着目点の位置が異なっていても概ね一様となる。従って、生体部位を連続的に撮影した画像を解析して、位置によらず生体部位の全体において一様な明度変化を示す成分を抽出すれば、その明度変化は拡散反射成分の変化とみなすことができる。
【0040】
ところで、このA点、B点、及びC点の計3個の着目点の画素値は、反射光に表面反射成分に依らない成分のみが含まれている撮影時刻であっても、各着目点の生体的な特徴(例えば、皮下の静脈の存在の有無など)により、異なった値になる。その一方で、これらの着目点の画素値の時間変化の割合は、ほぼ同一のものとなる。
【0041】
ここで図7について説明する。図7は、撮像装置20により取得された時系列の掌30の画像における、各着目点の画素値時間変化率の例をグラフにより表したものであり、図6Bの3つのグラフの関数を時間微分したものである。
【0042】
この図7の3つのグラフを参照すると、反射光に表面反射に依らない成分のみが含まれている撮影時間帯では、どのグラフもほぼ同一の明度変化(画素値時間変化率)の曲線となる。その一方、表面反射成分が反射光に含まれている撮影時間帯における着目点の明度変化のグラフは、同一撮影時間帯における他の着目点の明度変化のグラフ(反射光に表面反射に依らない成分のみが含まれている)とは顕著に異なった形状となる。
【0043】
ここで、この3つのグラフで表されている各着目点の画素値時間変化率の代表値を各撮影時刻について求め、掌30の像全体での画素値時間変化率の推計を行う。この推計の手法について、図8を参照しながら説明する。
【0044】
図8において、[1]のグラフは、各着目点の画素値時間変化率を表している図7のグラフを重ね合わせたものである。従って、このグラフにおける各撮影時刻には、3つの値(画素値時間変化率)が表されている。
【0045】
本実施例では、掌30の像全体での画素値時間変化率を推計するために、各撮影時刻についての各着目点の画素値時間変化率の代表値を求める。本実施例では、この代表値として、各着目点の画素値時間変化率の中央値(メディアン)を求める。図8における[2]のグラフは、各撮影時刻についての各着目点の画素値時間変化率の中央値を表したものであり、これはすなわち、掌30の像全体での画素値時間変化率の推計結果を表している。この推計結果は、表面反射に依らない反射光成分(拡散反射成分)のみから得られる画素値についての時間変化率を表しているとみることができる。
【0046】
なお、掌30の像全体での画素値時間変化率の推計において求める画素値時間変化率の代表値は、中央値でなくてもよく、例えば平均値としてもよい。
掌30の像全体での画素値時間変化率の推計は、以上のようにして行われる。
【0047】
次に、以上のようにして得られた、掌30の像全体での画素値時間変化率の推計結果と、着目点における画素値時間変化率とを対比すると、当該着目点での反射光に表面反射成分が含まれている撮影時刻の期間を特定することができる。この特定の手法について、図9を用いて説明する。
【0048】
図9のグラフは、図8における[1]のグラフ、すなわち、掌30の像全体での画素値時間変化率の推計結果のグラフに、図7における着目点Aについての画素値時間変化率のグラフを重ね合わせたものである。このように2つのグラフを重ね合わせると、着目点Aについての画素値時間変化率が、掌30の像全体での画素値時間変化率の推計結果から乖離している撮影時刻の期間が明確に分かる。この期間が、着目点Aにおいて、画素値が表面反射成分の影響を受けている撮影時刻の期間である。
【0049】
図4の抽出部13は、以上のようにして特定される、画素値が表面反射成分の影響を受けている撮影時刻の期間の着目点を、獲得部11の一例である撮像装置20が獲得した時系列の掌30の画像の各々から抽出する。そして、図4の生成部14は、このようにして抽出部13が抽出した着目点の画素値を補正して、表面反射成分を含まない掌の画像を生成する。この補正は、抽出された着目点の抽出元を除く時系列の生体画像の各々における、撮影時刻と着目点の画素値との対応関係に基づいて、抽出された着目点の抽出元の掌30の画像の撮影時刻における当該着目点の画素値を補間することによって行われる。
【0050】
次に、この着目点の画素値の補正について、図10を用いて説明する。
図10において、[1]のグラフは、図6Bに提示した、各着目点についての画素値を表したグラフのうちの、着目点Aについてのものであり、[2]のグラフは、図9グラフと同一のものである。また、[3]のグラフは、[1]のグラフに対して画素値の補正が行われた後の画素値を表したグラフである。
【0051】
まず、[1]の着目点Aのグラフが、[2]の重ね合わされているグラフにおける乖離の程度に基づいて、画素値が表面反射成分の影響を受けている撮影時刻の期間と、当該影響を受けていない撮影時刻の期間とに分けられる。
【0052】
ここで、[2]のグラフにおいて、着目点Aの画素値時間変化率と、掌30の像全体での画素値時間変化率の推計結果との乖離の程度が小さい(所定の閾値未満である)撮影時刻の期間は、[1]のグラフの画素値が表面反射成分の影響を受けていないものとする。従って、[3]のグラフにおいてハッチングが付されている、この期間の画素値については補正を行わない。
【0053】
一方、[2]のグラフにおいて、着目点Aの画素値時間変化率と、掌30の像全体での画素値時間変化率の推計結果との乖離の程度が大きい(所定の閾値以上である)撮影時刻の期間は、[1]のグラフの画素値が表面反射成分の影響を受けているものとする。従って、[3]のグラフにおいてハッチングが付されていない、この期間の画素値については補正が行われる。
【0054】
この期間の画素値に対する補正は、本実施例では、その期間外の前後の直近に撮影された掌30の画像における撮影時刻と着目点の画素値との関係に基づき、当該期間内に撮影された掌30の画像の、撮影時刻に対する当該着目点の画素値を線形補間する。この着目点の画素値の線形補間は、例えば下記の式を計算することによって行われる。
【0055】
【数1】

【0056】
なお、上記の式において、Xnew (ta )は時刻ta における補間後の輝度値である。また、X(t)は、時刻tにおける輝度値であり、M(t)は、時刻tにおける掌30の像全体での画素値時間変化率の推計結果である。なお、時刻tb 及びte は、それぞれ、画素値の補正を行う期間外の前後の直近の撮影時刻である。
【0057】
なお、画素値の補正は、必ずしも、画素値が表面反射成分の影響を受けている撮影期間内に撮影された全ての画像について行わなくてもよい。すなわち、例えば、生体認証に最適な距離で撮影した画像のみに対して上述の補正を行うようにしてもよく、また、特定の時間間隔で間引いた画像など、生体認証の実施に必要な時間や精度を勘案して、補正する画像を選別してもよい。
【0058】
生成部14は、以上のようにして、表面反射成分が除去された掌30の画像を生成する。認証部15は、このようにして生成された掌30の画像を用いて被認証者の本人認証を行うので、高精度な認証を行うことができる。
【0059】
以上のように、図4の生体認証装置10は、移動している生体部位を撮影すると、生体部位の各点の表面反射成分の比率が連続的に変化していくことを利用して、各点に含まれた表面反射成分を補正することで、表面反射成分を含まない生体画像の生成を行う。そして、このようにして生成された生体画像を用いて、被認証者の本人認証を行う。
【0060】
こまようにすることで、表面反射成分に影響を受けて適切な特徴抽出ができなかった部位においても、適切な特徴抽出ができるようになるので、生体認証精度が向上する。また、このようにして表面反射成分を含まない生体画像の生成を行うので、偏光フィルタのような特殊な部品を使用せずに低コストで高精度の生体認証を行うことができる。
【0061】
なお、図4の生体認証装置10は、通知部16を更に備えている。
通知部16は、被認証者に対して、生体画像の再撮像の実施に関する通知を行う。この通知は、検出部12が検出した画素の時系列の生体画像での画素値の時間変化についての、時系列の生体画像を構成している全画素での画素値の時間変化の推計結果からの乖離の程度が、全ての画素について所定の閾値よりも小さい場合に行われる。
【0062】
上述の乖離の程度が小さいと、表面反射成分が画素値に含まれていた画素の抽出を抽出部13が適切に行えないことがある。このような場合でも、通知部16が上述の通知を行って被認証者に対して再撮像の実施を要請することで、生体画像の再撮像が可能になって表面反射成分を含まない生体画像の生成が可能になる。
【0063】
次に図11について説明する。図11は、生体認証装置10の一実施例の詳細機能ブロック図である。
図11において、連続画像撮影部31及び連続画像記憶部32は、図4の獲得部11が備えている。また、画像追跡正規化部33は、図4の検出部12が備えている。また、画素値変化率算出部34及び拡散反射成分変化率推計部36は、図4の抽出部13が備えている。また、誘導メッセージ出力部35は、図4の通知部16が備えている。また、補正範囲算出部37、画素値補正部38、及び補正画像記憶部39は、図4の生成部14が備えている。そして、生体認証部40及び認証結果出力部41は、図4の認証部15が備えている。
【0064】
連続画像撮影部31は、被認証者の移動中の生体部位を連続撮影して、時系列の生体画像を獲得するものであり、例えば図5の撮像装置20である。
連続画像記憶部32は、連続画像撮影部21での撮影により得られた時系列の生体画像を記憶する画像メモリである。
【0065】
画像追跡正規化部33は、連続画像記憶部32に記憶されている時系列の生体画像から、生体画像間で対応している生体部位の像の画素(前述の着目点)を複数検出して追跡する。また、画像追跡正規化部33は、図12に図解するような画像変換(正規化)を行う。この正規化は、生体画像の拡大及び移動を行って、対応している各着目点が生体画像間で同一の位置となるようにする画像変換である。なお、画像追跡正規化部33は、実際に画像変換を行う代わりに、対応する着目点の各生体画像上での位置情報を算出するようにして、着目点の対応関係を、この位置情報を用いて表すようにしてもよい。
【0066】
画素値変化率算出部34は、画像追跡正規化部33で正規化した時系列の生体画像の各着目点についての画素値の時間変化率を算出する。
誘導メッセージ出力部35は、画素値変化率算出部34で求めた画素値の時間変化率が所定の閾値に達しないほど小さい場合に、被認証者に対して、生体画像の再撮影のために生体部位を動かしてもらうように誘導するためのメッセージ(通知)を出力する。
【0067】
拡散反射成分変化率推計部36は、画素値変化率算出部34で着目点毎に算出した画素値の時間変化率に基づいて、生体部位の像全体での画素値の時間変化率を推計する。前述したように、この推計結果は、生体部位からの拡散反射成分を主成分とする画素値についての時間変化率を表しているとみることができる。
【0068】
補正範囲算出部37は、拡散反射成分変化率推計部36で推計した生体部位の像全体での画素値の時間変化率と各生体画像の着目点の画素値変化率とを比較して、両者の差が所定の閾値の範囲内に収まっていない撮影時刻の範囲を算出する。この補正範囲算出部37により算出された撮影時刻の範囲が、その着目点においての画素値の補正が必要な撮影時刻の範囲とされる。
【0069】
画素値補正部38は、着目点毎に、補正範囲算出部37で求めた画素値の補正が必要な撮影時刻の範囲内の画素値を、生体部位からの表面反射成分を含まない場合の画素値に補正する。
【0070】
補正画像記憶部39は、画素値補正部38が各着目点の画素値を補正することによって生成される、生体部位からの表面反射を含まない生体画像を記憶する。なお、補正画像記憶部39は、生成された生体画像に対応付けて、補正を行った着目点の個数や、補正によって変化させた画素値の変化量等の情報も記憶しておく。
【0071】
生体認証部40は、補正画像記憶部39から読み出した補正済みの生体画像と、予め登録済みである被認証者の生体情報とを比較照合する生体認証によって、被認証者の本人確認を行う。
【0072】
なお、生体認証部40は、補正画像記憶部39に複数枚記憶されている補正済みの生体画像を、等しい重みで生体認証に用いてもよい。また、生体認証部40は、補正画像記憶部39に記憶させておいた、補正を行った着目点の個数や、補正によって変化させた画素値の変化量等の情報に基づいて、補正済みの生体画像の生体認証での使用の優先度を付与してもよい。
【0073】
認証結果出力部41は、生体認証部40が行った本人確認の結果を出力する。
図11の生体認証装置10は、以上のように構成されている。
なお、図4及び図11に図解した生体認証装置10の一部の構成要素を、標準的な構成のコンピュータを用いて構成することができる。
【0074】
ここで図13について説明する。図13には、コンピュータの構成の一例が図解されている。
このコンピュータ50は、MPU51、ROM52、RAM53、ハードディスク装置54、入力装置55、表示装置56、インタフェース装置57、及び記録媒体駆動装置58を備えている。なお、これらの構成要素はバスライン59を介して接続されており、MPU51の管理の下で各種のデータを相互に授受することができる。
【0075】
MPU(Micro Processing Unit)51は、このコンピュータ50全体の動作を制御する演算処理装置である。
ROM(Read Only Memory)52は、所定の基本制御プログラムが予め記録されている読み出し専用半導体メモリである。MPU51は、この基本制御プログラムをコンピュータ50の起動時に読み出して実行することにより、このコンピュータ50の各構成要素の動作制御が可能になる。
【0076】
RAM(Random Access Memory)53は、MPU51が各種の制御プログラムを実行する際に、必要に応じて作業用記憶領域として使用する、随時書き込み読み出し可能な半導体メモリである。
【0077】
ハードディスク装置54は、MPU51によって実行される各種の制御プログラムや各種のデータを記憶しておく記憶装置である。MPU51は、ハードディスク装置54に記憶されている所定の制御プログラムを読み出して実行することにより、各種の制御処理を行えるようになる。
【0078】
入力装置55は、例えばキーボード装置やマウス装置であり、例えば生体認証装置10の管理者により操作されると、その操作内容に対応付けられている管理者からの各種情報の入力を取得し、取得した入力情報をMPU51に送付する。
【0079】
表示装置56は例えば液晶ディスプレイであり、MPU51から送付される表示データに応じて各種のテキストや画像を表示する。
インタフェース装置57は、このコンピュータ50に接続される各種機器との間での各種情報の授受の管理を行う。
【0080】
記録媒体駆動装置58は、可搬型記録媒体60に記録されている各種の制御プログラムやデータの読み出しを行う装置である。MPU51は、可搬型記録媒体60に記録されている所定の制御プログラムを、記録媒体駆動装置58を介して読み出して実行することによって、後述する各種の制御処理を行うようにすることもできる。なお、可搬型記録媒体60としては、例えばCD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)やDVD−ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、USB(Universal Serial Bus)規格のコネクタが備えられているフラッシュメモリなどがある。
【0081】
このようなコンピュータ50を用いて生体認証装置10を構成するには、例えば、後述する制御処理をMPU51に行わせるための制御プログラムを作成する。作成された制御プログラムはハードディスク装置54若しくは可搬型記録媒体60に予め格納しておく。このプログラムでは、例えば、ハードディスク装置54を、連続画像記憶部32及び補正画像記憶部39として機能させるようにしておく。また、コンピュータ50のインタフェース装置57には、連続画像撮影部31(すなわち獲得部11)の一例である図5の撮像装置20を接続して、コンピュータ50が撮像装置20を制御して生体画像を取得させてコンピュータ50に取り込めるようにしておく。そして、MPU51に所定の指示を与えてこの制御プログラムを読み出させて実行させる。こうすることで、生体認証装置10の各機能ブロックが備えている機能のコンピュータ50での提供が可能となる。
【0082】
次に、生体認証装置10において行われる制御処理について説明する。図14は、この制御処理の処理内容を図解したフローチャートである。
この制御処理が開始されると、まず、S101では、被認証者の生体部位との相対位置を変化させながら当該生体部位を連続撮影して時系列の生体画像を獲得し、得られた連続画像記憶部32に記憶させる処理を連続画像撮影部31が行う。なお、被認証者の生体部位との相対位置の変化は、被認証者の生体部位を移動させることによって生じる。
【0083】
次に、S102では、連続画像記憶部32に記憶されている時系列の生体画像から、生体画像間で対応している生体部位の像上の着目点を複数検出して追跡する処理を画像追跡正規化部33が行う。
【0084】
次に、S103では、対応している各着目点が生体画像間で同一の位置となるようにする画像正規化変換処理を画像追跡正規化部33が行う。
次に、S104では、各着目点の画素値を時系列の生体画像から求め、得られた画素値と生体画像の撮影時刻とに基づいて、撮影時刻tにおける着目点nについての画素値時間変化率V(n,t)を、各着目点について求める処理を画素値変化率算出部34が行う。
【0085】
次に、S105では、S104の処理により求めた画素値時間変化率V(n,t)が、任意の着目点n及び任意の撮影時刻tにおいて、所定の第一閾値よりも小さいか否かを判定する処理を画素値変化率算出部34が行う。画素値変化率算出部34は、ここで、画素値時間変化率V(n,t)が任意のn及びtにおいて第一閾値よりも小さいと判定したとき(判定結果がYesのとき)にはS106に処理を進める。一方、画素値変化率算出部34は、画素値時間変化率V(n,t)が第一閾値以上となるnとtとの値の組み合わせが存在すると判定したとき(判定結果がNoのとき)にはS107に処理を進める。
【0086】
S106では、被認証者に対して、生体画像の再撮影のために生体部位を動かしてもらうように誘導するためのメッセージ(通知)を出力する処理を誘導メッセージ出力部35が行う。その後、誘導メッセージ出力部35はS101に処理を戻し、その後は上述した処理が改めて実行される。
【0087】
S107では、時系列の生体画像の各撮影時刻tにおいて、予め定めておいた個数(M個)の着目点についての画素値時間変化率V(n,t)の代表値M(t)を求める処理を拡散反射成分変化率推計部36が行う。本実施例では、前述したように、この代表値としては、M個の着目点の画素値時間変化率V(n,t)の中央値若しくは平均値を採用する。この処理により得られる代表値M(t)が、生体部位の像全体での画素値時間変化率の推計結果となる。
【0088】
次に、S108では、検出されている各着目点について、V(n,t)−M(t)の絶対値が所定の第二閾値よりも大きくなる撮影時刻tの範囲を求める処理を補正範囲算出部37が行う。この処理により着目点毎に得られる撮影時刻tの範囲が、各着目点についての画素値に対する補正を行う期間となる。なお、着目点nについての画素値の補正を行う撮影時刻tの範囲の開始時刻をtb (n)とし、当該範囲の終了時刻をte (n)とする。
【0089】
次に、S109では、各着目点について、S108の処理で求められた期間内の画素値を補正する処理を画素値補正部38が行う。この処理では、着目点nについて、S108の処理で求めた期間内の時刻ta (n)における補正後の輝度値Xnew (ta (n))が、前掲した[数1]式の計算を行うことによって算出される。なお、[数1]式におけるM(t)には、S107の処理で求めた生体部位の像全体での画素値時間変化率の推計結果が代入される。
【0090】
次に、S110では、S109の処理による補正後の輝度値を用いて、生体部位からの表面反射を含まない生体画像を生成し、補正画像記憶部39に記憶させる処理を画素値補正部38が行う。この処理により、補正画像記憶部39には、生体部位からの表面反射を含まない生体画像が時系列で複数枚記憶される。
【0091】
なお、S110の処理では、画素値補正部38は、生体部位からの表面反射を含まない生体画像と共に、撮影時刻と、補正を行った着目点の個数と、補正によって変化させた画素値の変化量との各情報も、生体画像に対応付けて補正画像記憶部39に記憶させる。
【0092】
次に、S111では、補正画像記憶部39から読み出した補正済みの生体画像と、予め登録済みである被認証者の生体情報とを比較照合する生体認証によって、被認証者の本人確認を行う認証処理を生体認証部40が行う。なお、この認証処理の詳細については後述する。
【0093】
次に、S112では、S111の認証処理による本人確認の結果を出力する処理を認証結果出力部41が行う。その後は、この図14の制御処理が終了する。
次に、図14の制御処理におけるS111の認証処理の処理内容について説明する。
【0094】
まず図15について説明する。図15は、認証処理の第一の例の処理内容を図解したフローチャートである。
この第一の例では、生体認証部40は、補正画像記憶部39に複数枚記憶されている、生体部位からの表面反射を含まない生体画像の各々と、登録済みの被認証者の生体情報(前述の登録生体情報)との比較照合を行う。ここで、生体認証部40は、補正画像記憶部39に複数枚記憶されている生体画像のうちの少なくとも1枚と登録生体情報との認証に成功した場合には、被認証者を本人と認める。
【0095】
図15の処理が開始されると、まず、S121において、撮影時刻を特定するための時刻変数Tに初期値Tsを代入する処理を生体認証部40が行う。この初期値Tsには、連続画像撮影部31による生体部位の連続撮影の開始時刻が設定される。
【0096】
次に、S122では、補正画像記憶部39に複数枚記憶されている、生体部位からの表面反射を含まない生体画像のうち、撮影時刻Tにおける生体画像を補正画像記憶部39から読み出して、登録生体情報との比較照合を行う生体認証処理を生体認証部40が行う。
【0097】
次に、S123では、S122の生体認証処理の結果、補正画像記憶部39から読み出した生体画像と登録生体情報とが合致したか否か(両者の類似度が所定の閾値よりも高いか否か)を判定する処理を生体認証部40が行う。生体認証部40は、ここで、両者が合致したと判定したとき(判定結果がYesのとき)には、S124に処理を進めて、被認証者は本人であるとの判定結果を下す処理を行い、その後は、この認証処理を終了する。一方、生体認証部40は、ここで、両者が合致しないと判定したとき(判定結果がNoのとき)には、S125に処理を進める。
【0098】
次に、S125では、前述した時刻変数Tの値を変更して、現在設定されている撮影時刻から、次の生体画像の撮影時刻に進める処理を生体認証部40が行う。
次に、S126では、時刻変数Tの値が、連続画像撮影部31による生体部位の連続撮影の終了時刻Teを過ぎたか否かを判定する処理を生体認証部40が行う。生体認証部40は、ここで、時刻変数Tの値が終了時刻Teを過ぎたと判定したとき(判定結果がYesのとき)には、S127に処理を進めて、被認証者は他人であるとの判定結果を下す処理を行い、その後は、この認証処理を終了する。一方、生体認証部40は、ここで、時刻変数Tの値が終了時刻Teを過ぎてはいないと判定したとき(判定結果がNoのとき)には、S122に処理を戻し、その後は前述した処理を改めて実行する。
【0099】
以上までの処理が認証処理の第一の例である。
次に図16について説明する。図16は、認証処理の第二の例の処理内容を図解したフローチャートである。
【0100】
この第二の例では、生体認証部40は、第一の例と同様に、補正画像記憶部39に複数枚記憶されている、生体部位からの表面反射を含まない生体画像の各々と登録生体情報との比較照合を行う。但し、第二の例では、生体認証部40は、補正画像記憶部39から読み出す生体画像を、補正のより少ない順、より具体的には、画素値の補正を行った着目点の個数の少ない順に選択して、登録生体情報との比較照合を行う。
【0101】
図16の処理が開始されると、まず、S141において、撮影時刻を特定するための時刻変数Tの初期値を設定する処理を生体認証部40が行う。図16の処理では、この初期値として、補正を行った着目点の個数が最小である生体画像の撮影時刻が時刻変数Tに設定される。なお、補正画像記憶部39には、前述した図14のS110の処理により、補正を行った着目点の個数の情報が、生体画像に対応付けられて記憶されている。S141の処理において、生体認証部40は、この情報を参照し、補正を行った着目点の個数が最小である生体画像の撮影時刻を、初期値として、時刻変数Tに設定する。
【0102】
次に、S142では、補正画像記憶部39に複数枚記憶されている、生体部位からの表面反射を含まない生体画像のうち、撮影時刻Tにおける生体画像を補正画像記憶部39から読み出して、登録生体情報との比較照合を行う生体認証処理を生体認証部40が行う。
【0103】
次に、S143では、S142の生体認証処理の結果、補正画像記憶部39から読み出した生体画像と登録生体情報とが合致したか否か(両者の類似度が所定の閾値よりも高いか否か)を判定する処理を生体認証部40が行う。生体認証部40は、ここで、両者が合致したと判定したとき(判定結果がYesのとき)には、S144に処理を進めて、被認証者は本人であるとの判定結果を下す処理を行い、その後は、この認証処理を終了する。一方、生体認証部40は、ここで、両者が合致しないと判定したとき(判定結果がNoのとき)には、S145に処理を進める。
【0104】
次に、S145では、前述した時刻変数Tの値を変更して、補正を行った着目点の個数が、現在時刻変数Tに設定されている撮影時刻の生体画像の次に少ない生体画像の撮影時刻に進める処理を生体認証部40が行う。
【0105】
次に、S146では、連続画像撮影部31による生体部位の連続撮影の開始時刻Tsから、その終了時刻Teまでの期間内を撮影時刻としている全ての生体画像を用いて、S142の生体認証処理を行ったか否かを判定する処理を生体認証部40が行う。ここで、生体認証部40は、当該全ての生体画像を用いて生体認証処理を行ったと判定したとき(判定結果がYesのとき)には、S147に処理を進めて、被認証者は他人であるとの判定結果を下す処理を行い、その後は、この認証処理を終了する。一方、生体認証部40は、生体認証処理に用いられていない生体画像が補正画像記憶部39に残っていると判定したとき(判定結果がNoのとき)には、S142に処理を戻し、その後は前述した処理を改めて実行する。
以上までの処理が認証処理の第二の例である。
【0106】
次に図17について説明する。図17は、認証処理の第三の例の処理内容を図解したフローチャートである。
この第三の例も、生体認証部40は、第一の例と同様に、補正画像記憶部39に複数枚記憶されている、生体部位からの表面反射を含まない生体画像の各々と登録生体情報との比較照合を行う。但し、第三の例では、生体認証部40は、補正画像記憶部39から読み出す生体画像を、補正のより少ない順、より具体的には、補正を行った着目点の各々についての画素値の当該補正前の値との差の総和が少ない順に選択して、登録生体情報との比較照合を行う。
【0107】
図17の処理が開始されると、まず、S161において、撮影時刻を特定するための時刻変数Tの初期値を設定する処理を生体認証部40が行う。図17の処理では、この初期値として、画素値の補正量が最小である生体画像の撮影時刻が時刻変数Tに設定される。なお、生体画像の画素値の補正量は、当該生体画像において補正が行われた全ての着目点における、当該補正された画素値の補正前後の値の差の絶対値についての総和を算出することによって求める。
【0108】
なお、補正画像記憶部39には、前述した図14のS110の処理により、各着目点についての、補正によって変化させた画素値の変化量(すなわち、補正前後の値の差)の情報が、生体画像に対応付けられて記憶されている。S161の処理において、生体認証部40は、この情報を用いて、各生体画像の画素値の補正量を算出し、画素値の補正量が最小である生体画像の撮影時刻を、初期値として、時刻変数Tに設定する。
【0109】
次に、S162では、補正画像記憶部39に複数枚記憶されている、生体部位からの表面反射を含まない生体画像のうち、撮影時刻Tにおける生体画像を補正画像記憶部39から読み出して、登録生体情報との比較照合を行う生体認証処理を生体認証部40が行う。
【0110】
次に、S163では、S162の生体認証処理の結果、補正画像記憶部39から読み出した生体画像と登録生体情報とが合致したか否か(両者の類似度が所定の閾値よりも高いか否か)を判定する処理を生体認証部40が行う。生体認証部40は、ここで、両者が合致したと判定したとき(判定結果がYesのとき)には、S164に処理を進めて、被認証者は本人であるとの判定結果を下す処理を行い、その後は、この認証処理を終了する。一方、生体認証部40は、ここで、両者が合致しないと判定したとき(判定結果がNoのとき)には、S165に処理を進める。
【0111】
次に、S165では、前述した時刻変数Tの値を変更して、画素値の補正量が、現在時刻変数Tに設定されている撮影時刻の生体画像の次に少ない生体画像の撮影時刻に進める処理を生体認証部40が行う。
【0112】
次に、S166では、連続画像撮影部31による生体部位の連続撮影の開始時刻Tsから、その終了時刻Teまでの期間内を撮影時刻としている全ての生体画像を用いて、S162の生体認証処理を行ったか否かを判定する処理を生体認証部40が行う。ここで、生体認証部40は、当該全ての生体画像を用いて生体認証処理を行ったと判定したとき(判定結果がYesのとき)には、S167に処理を進めて、被認証者は他人であるとの判定結果を下す処理を行い、その後は、この認証処理を終了する。一方、生体認証部40は、生体認証処理に用いられていない生体画像が補正画像記憶部39に残っていると判定したとき(判定結果がNoのとき)には、S162に処理を戻し、その後は前述した処理を改めて実行する。
【0113】
以上までの処理が認証処理の第三の例である。
生体認証装置10は、図14から図17の各図に図解した上述の処理を実行することによって、生体部位での反射光に含まれる表面反射成分による影響を除去して生体認証を行うことができるようになる。
【0114】
なお、画素値に含まれる拡散反射成分の強さは、撮影装置20と被写体との距離に依存する。そこで、生体認証装置10において、この距離を検出する距離センサを用いて、生体部位の像全体での画素値時間変化率を推計するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0115】
10 生体認証装置
11 獲得部
12 検出部
13 抽出部
14 生成部
15 認証部
16 通知部
20 撮像装置
21 照明装置
22 撮像素子
30 掌
31 連続画像撮影部
32 連続画像記憶部
33 画像追跡正規化部
34 画素値変化率算出部
35 誘導メッセージ出力部
36 拡散反射成分変化率推計部
37 補正範囲算出部
38 画素値補正部
39 補正画像記憶部
40 生体認証部
41 認証結果出力部
50 コンピュータ
51 MPU
52 ROM
53 RAM
54 ハードディスク装置
55 入力装置
56 表示装置
57 インタフェース装置
58 記録媒体駆動装置
59 バスライン
60 可搬型記録媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被認証者の生体部位との相対位置を変化させながら該生体部位を繰り返し撮像して時系列の生体画像を獲得する獲得部、
前記時系列の生体画像から生体画像間で対応している画素を検出する検出部、
前記検出された画素の前記時系列の生体画像での画素値の時間変化についての、前記時系列の生体画像を構成している全画素での画素値の時間変化の推計結果からの乖離の程度に基づいて、生体部位からの表面反射成分が画素値に含まれていた画素を、前記時系列の生体画像の各々から抽出する抽出部、
前記抽出された画素の抽出元を除く前記時系列の生体画像の各々における、該抽出された画素に対応している画素の画素値に基づいて、該抽出された画素の画素値を補正することによって、生体部位からの表面反射を含まない生体画像を生成する生成部、及び
前記生成された生体画像を用いて被認証者の本人認証を行う認証部
を備えることを特徴とする生体認証装置。
【請求項2】
前記時系列の生体画像を構成している全画素での画素値の時間変化の推計結果として、該時系列の生体画像から複数抽出した画素の各々の画素値の中央値の時間変化を用いることを特徴とする請求項1に記載の生体認証装置。
【請求項3】
前記時系列の生体画像を構成している全画素での画素値の時間変化の推計結果として、該時系列の生体画像から複数抽出した画素の各々の画素値の平均値の時間変化を用いることを特徴とする請求項1に記載の生体認証装置。
【請求項4】
前記生成部は、前記抽出された画素の抽出元を除く前記時系列の生体画像の各々における、撮影時刻と前記抽出された画素に対応している画素の画素値との対応関係に基づいて、前記抽出された画素の抽出元の生体画像の撮影時刻における該抽出された画素の画素値を補間することによって、該抽出された画素の画素値を補正することを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか一項に記載の生体認証装置。
【請求項5】
前記画素の前記時系列の生体画像での画素値の時間変化についての、前記時系列の生体画像を構成している全画素での画素値の時間変化の推計結果からの乖離の程度が、全ての画素について所定の閾値よりも小さい場合に、前記被認証者に対して、前記生体画像の再撮像の実施に関する通知を行う通知部を更に備えることを特徴とする請求項1から4のうちのいずれか一項に記載の生体認証装置。
【請求項6】
前記生成部は、生体部位からの表面反射を含まない生体画像を、前記時系列の生体画像から複数枚生成し、
前記認証部は、前記生成された複数枚の生体画像の各々と予め登録されている前記被認証者の登録生体画像との認証を行い、前記生成された複数枚の生体画像のうちの少なくとも1つとの認証に成功した場合には、該被認証者を本人と認めることを特徴とする請求項1から5のうちのいずれか一項に記載の生体認証装置。
【請求項7】
前記認証部は、前記生成された複数枚の生体画像を、前記補正を行った画素の数が少ない順に用いて前記本人認証を行うことを特徴とする請求項6に記載の生体認証装置。
【請求項8】
前記認証部は、前記生成された複数枚の生体画像を、前記補正を行った画素の各々についての画素値の補正前の値との差の絶対値の総和が少ない順に用いて前記本人認証を行うことを特徴とする請求項6に記載の生体認証装置。
【請求項9】
被認証者の生体部位との相対位置を変化させながら該生体部位を繰り返し撮像して時系列の生体画像を獲得し、
前記時系列の生体画像から生体画像間で対応している画素を検出し、(S102)
前記検出された画素の前記時系列の生体画像での画素値の時間変化についての、前記時系列の生体画像を構成している全画素での画素値の時間変化の推計結果からの乖離の程度に基づいて、生体部位からの表面反射成分が画素値に含まれていた画素を、前記時系列の生体画像の各々から抽出し、
前記抽出された画素の抽出元を除く前記時系列の生体画像の各々における、該抽出された画素に対応している画素の画素値に基づいて、該抽出された画素の画素値を補正することによって、生体部位からの表面反射を含まない生体画像を生成し、
前記生成された生体画像を用いて被認証者の本人認証を行う、
ことを特徴とする生体認証方法。
【請求項10】
被認証者の生体部位との相対位置を変化させながら該生体部位を繰り返し撮像して時系列の生体画像を獲得し、
前記時系列の生体画像から生体画像間で対応している画素を検出し、
前記検出された画素の前記時系列の生体画像での画素値の時間変化についての、前記時系列の生体画像を構成している全画素での画素値の時間変化の推計結果からの乖離の程度に基づいて、生体部位からの表面反射成分が画素値に含まれていた画素を、前記時系列の生体画像の各々から抽出し、
前記抽出された画素の抽出元を除く前記時系列の生体画像の各々における、該抽出された画素に対応している画素の画素値に基づいて、該抽出された画素の画素値を補正することによって、生体部位からの表面反射を含まない生体画像を生成し、
前記生成された生体画像を用いて被認証者の本人認証を行う、
処理をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図11】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図10】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−45180(P2013−45180A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180902(P2011−180902)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】