説明

生体適合性を有するナノ繊維及びその製造方法並びに細胞足場材料

【課題】機械的強度及び形状安定性に優れるとともに生分解性及び生体適合性に優れ、生体内での劣化が遅く、細胞への接着性に優れる細胞足場材料を提供する。
【解決手段】ポリカプロラクトン(PCL)と、多面体オリゴシルセスキオキサン(POSS)とポリエチレングリコール(PEG)との共重合体とを有するナノ繊維を含む細胞足場材料。POSSとPEGとの共重合体は、プロピルジメチルシリルシクロヘキシルイソシアネート−POSSとPEGとをウレタン結合させて得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性を有するナノ繊維、より詳しくは細胞足場材料(Scaffold)として有用なナノ繊維及びその製造方法並びに細胞足場材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカプロラクトン(PCL)は、機械的強度及び形状安定性に優れるとともに他のポリマーと比較して生分解性及び生体適合性に優れるという特徴をもった半結晶性ポリマーとして知られており、生体内での劣化が遅いため、生体内で使用する細胞足場材料として有望である(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006/135103号
【特許文献2】国際公開第2007/102606号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、PCLは強い疎水性を示すため、PCLを細胞足場材料として用いた場合、PCLに細胞が接着し難い(細胞への接着性に劣る)という性質がある。従って、PCLのように機械的強度及び形状安定性に優れるとともに生分解性及び生体適合性に優れ、生体内での劣化が遅く、しかもPCLよりも細胞への接着性に優れる新材料の出現が望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、このような状況に鑑みてなされたもので、機械的強度及び形状安定性に優れるとともに生分解性及び生体適合性に優れ、生体内での劣化が遅く、細胞への接着性に優れるナノ繊維及びその製造方法並びに細胞足場材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明のナノ繊維は、ポリカプロラクトンと、ポリエチレングリコールと多面体オリゴシルセスキオキサン(polyhedral oligosilsesquioxane)との共重合体とを有する。
【0007】
[2]本発明のナノ繊維においては、前記多面体オリゴシルセスキオキサンが以下の式(1)で表される多面体オリゴシルセスキオキサンであることが好ましい。
【化1】

(但し、式(1)中、Rはアルキル基を示し、R’は末端に反応性の基を有する官能基を示す。)
【0008】
[3]本発明のナノ繊維においては、前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が3400〜8000であることが好ましい。
【0009】
[4]本発明のナノ繊維においては、エレクトロスピニング法によって製造されたものであることが好ましい。
【0010】
[5]本発明のナノ繊維の製造方法は、ポリカプロラクトンを含む溶液と、ポリエチレングリコールと多面体オリゴシルセスキオキサン(polyhedral oligosilsesquioxane)との共重合体を含む溶液とを混合する混合工程と、エレクトロスピニング法によって、前記混合工程で得られた混合溶液からナノ繊維を得る繊維化工程とを有する。
【0011】
[6]本発明のナノ繊維の製造方法においては、前記混合工程の前に、ポリエチレングリコールと、プロピルジメチルシリルシクロヘキシルイソシアネート−多面体オリゴシルセスキオキサン(Isocyanatopropyldimethylsilylcyclohexyl−polyhedral oligosilsesquioxane)とをウレタン結合させて共重合体を得る共重合体合成工程をさらに有することが好ましい。
【0012】
[7]本発明のナノ繊維の製造方法においては、前記多面体オリゴシルセスキオキサンが以下の式(1)で表される多面体オリゴシルセスキオキサンであることが好ましい。
【化2】

(但し、式(1)中、Rはアルキル基を示し、R’は末端に反応性の基を有する官能基を示す。)
【0013】
[8]本発明のナノ繊維の製造方法においては、前記ポリエチレングリコールの数平均分子量は3400〜8000であることが好ましい。
【0014】
[9]本発明の細胞足場材料は、本発明のナノ繊維を含むものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、機械的強度及び形状安定性に優れるとともに生分解性及び生体適合性に優れ、生体内での劣化が遅く、細胞への接着性に優れるナノ繊維及びその製造方法並びに細胞足場材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態に係るエレクトロスピン繊維を含むナノ繊維のFT−IRスペクトルである。
【図2】実施形態に係るエレクトロスピン繊維を含むナノ繊維のWAXDパターンである。
【図3】実施形態に係るエレクトロスピン繊維を含むナノ繊維のTGA曲線である。
【図4】実施形態に係るエレクトロスピン繊維を含むナノ繊維の直径分布を示すグラフである。
【図5】実施形態に係るエレクトロスピン繊維を含むナノ繊維のSEM写真と水接触画像である。
【図6】実施形態に係るエレクトロスピン繊維を含むナノ繊維の骨格上にMC3T3−E1を接種して培養した後の細胞接着率を示すグラフである。
【図7】実施形態に係るエレクトロスピン繊維を含むナノ繊維の骨格上にMC3T3−E1を接種して培養した後のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のナノ繊維及びその製造方法並びに細胞足場材料について、実施形態に基づいて説明する。
【0018】
実施形態に係るナノ繊維は、ポリカプロラクトン(PCL)と、ポリエチレングリコール(PEG)と多面体オリゴシルセスキオキサン(polyhedral oligosilsesquioxane;POSS)との共重合体とを有する。ここで、ナノ繊維とは、大部分が直径1μm未満である繊維をいう。実施形態に係るナノ繊維は、機械的強度及び形状安定性に優れるとともに生分解性及び生体適合性に優れる。なお、ナノ繊維は、目的に反しない限り他の成分が含まれていても良い。
【0019】
本実施形態において、POSSは、以下の式(3)で表される多面体オリゴシルセスキオキサンである。
【化3】

(但し、式(3)中、Rはシクロヘキシル基を示す。)
【0020】
本実施形態において、PEGの数平均分子量は、3400〜8000である。PEGは、直鎖状の構造をしており、以下の式(2)のように示すことができる。
【化4】

【0021】
本実施形態において、PEGとPOSSとの共重合体は、以下の式(4)のように示すことができる。
【化5】

(但し、式(4)中、Rはシクロヘキシル基を示す。)
【0022】
実施形態に係るナノ繊維は、エレクトロスピニング法によって製造されたものである。より具体的な製造方法は、PCLを含む溶液と、PEGとPOSSとの共重合体を含む溶液とを混合する混合工程と、エレクトロスピニング法によって、混合工程で得られた混合溶液からナノ繊維を得る繊維化工程とを有する。なお、実施形態に係るナノ繊維と同じ成分を有するナノ繊維が得られれば、エレクトロスピニング法以外の方法によってナノ繊維を製造してもよい。
【0023】
本実施形態において、PEGとPOSSとの共重合体は、PEGと、POSSのマクロモノマーであるプロピルジメチルシリルシクロヘキシルイソシアネート−多面体オリゴシルセスキオキサン(Isocyanatopropyldimethylsilylcyclohexyl−polyhedral oligosilsesquioxane)とをウレタン結合させて得る。このウレタン結合は、ジラウリン酸ジブチルすず(DBTDL)を触媒とし、PEGの末端ジオール基とPOSSのマクロモノマーのモノイソシアネート基との間で生じる。
【実施例】
【0024】
〔原料〕
PCLは、数平均分子量80kDa(以下、単に「80k」という。他のポリマーについても同様である)のものをシグマアルドリッチジャパン社から入手した。
【0025】
PEGは、数平均分子量が3.4kと8.0kで、アルドリッチ社製のものを精製して使用した。この精製は、PEGのクロロホルム溶液をn−ヘキサンに投入しPEGを沈殿させる工程を、2回繰り返すことによって行った。
【0026】
POSSのマクロモノマーであるプロピルジメチルシリルシクロヘキシルイソシアネート−多面体オリゴシルセスキオキサン(Isocyanatopropyldimethylsilylcyclohexyl−polyhedral oligosilsesquioxane)は、トーメンプラスチック社から入手した。直接ウレタン結合の触媒であるDBTDLは、アルドリッチ社製の純度95%のものをそのまま使用した。
【0027】
両親媒性でテレキリックタイプのPEG3.4kとPOSSの共重合体(以下、「PEG3.4k−POSS」という。他の共重合体についても同様である。また、PEGの数平均分子量を記載しないときがある)及びPEG8.4k−POSSは、DBTDLを触媒として、PEGの末端ジオール基とPOSSのマクロモノマーのモノイソシアネート基との間で直接ウレタン結合させて合成した。
【0028】
両親媒性でテレキリックタイプのPEG3.4k−POSS及び両親媒性でテレキリックタイプのPEG8.0k−POSSがウレタン反応によって合成されたことは、H−NMR測定で確認した。すなわち、3.15ppmの−CH−NCO基のHシグナルが消えたのに伴い、ウレタン結合が形成されたことを示す4.26ppmの化学シフトが現れた。
【0029】
なお、両親媒性でテレキリックタイプのPEG3.4k−POSS中のPOSS含有量及び両親媒性でテレキリックタイプのPEG8.0k−POSS中のPOSS含有量は、POSSマクロモノマーのシクロヘキシル共鳴を、H−NMR測定で観測することによって定量的に算出できる。
【0030】
PEG−POSSの末端の官能基数を算出すると、両親媒性でテレキリックタイプのPEG3.4k−POSSの末端は2.1で、両親媒性でテレキリックタイプのPEG8.0k−POSSの末端は1.9であった。また、PEG3.4k−POSS中のPOSSマクロモノマーの算出含有量、及びPEG8.0k−POSS中のPOSSマクロモノマーの算出含有量は、POSSのマクロモノマーの供給量とほぼ一致した。
【0031】
〔エレクトロスピニング〕
まず、PCLとPEG3.4k−POSSとの混合液、PCLとPEG8.0k−POSSとの混合液、及びPCLとPEG8.0kとの混合液を作製した。これらの混合液は、クロロホルム:DMF=9:1(重量比)の混合溶媒にPCLを溶解させて12wt%としたものと、テレキリックタイプのPEG3.4k−POSS、テレキリックタイプのPEG8.0k−POSS、及びPEG8.0kを室温でDMFに一晩溶解させたものとをそれぞれ混合して得た。
【0032】
なお、これら混合液中のテレキリックタイプのPEG3.4k−POSS、テレキリックタイプのPEG8.0k−POSS、及びPEG8.0kの各重量は、PCLの重量を基準として、いずれも約30wt%であった。
【0033】
次に、プラスチック注射器を用いてこれらの混合液を毛細管先端に供給した。そして、エレクトロスピニング装置の正極(アノード)に接続された銅線を混合液に挿入するとともに、負極(カソード)を金属製コレクターに取り付けた。毛細管先端とコレクターとの距離を15cmに固定し、正負極間電圧を12kVに固定した。
【0034】
そして、PCLとPEG3.4k−POSSとの混合液、PCLとPEG8.0k−POSSとの混合液、及びPCLとPEG8.0kとの混合液に直流電圧を印加し、エレクトロスピニングしてナノ繊維を製造した。これらの各混合液は、室温下で回転する金属製コレクターにエレクトロスピンされた。こうして、各ナノ繊維を得た。以下、エレクトロスピニング法によって得られたナノ繊維を単に「エレクトロスピン繊維」と表記する。
【0035】
また、PCLとPEG3.4k−POSSとの混合液から得られるエレクトロスピン繊維を「PCL/PEG3.4k−POSS」と表記し、PCLとPEG8.0k−POSSとの混合液から得られるエレクトロスピン繊維を「PCL/PEG8.0k−POSS」と表記し、PCLとPEG8.0kとの混合液から得られるエレクトロスピン繊維を「PCL/PEG8.0k」と表記する。
【0036】
〔解析〕
(1)FT−IR
エレクトロスピン繊維のFT−IR解析は、IRPrestige−21(島津製作所社製)を使用して600〜4000cm−1の範囲で行った。
【0037】
図1は、PCL(neatPCL)、PCL/PEG8.0k−POSS、PCL/PEG3.4k−POSS及びPCL/PEG8.0kの各エレクトロスピン繊維並びにPOSSのFT−IRスペクトルである。
【0038】
PCLのエレクトロスピン繊維のスペクトルは、C=O伸縮とC−C、C−O伸縮による1720cm−1と1162cm−1に特徴的なピークがあり、これらのピークは半結晶性のPCLを示している。これらのピークは、結晶性PCLの1722cm−1の比較的鋭いカルボニルバンドと、非晶質PCLの1734cm−1の小さな肩バンドに起因する。
【0039】
一方、PCL/PEG3.4k−POSS中の及びPCL/PEG8.0k−POSS中のPCLの結晶性C=O伸縮は相対的に減った。これは、PCLとPEG−POSSとの間に相互作用があることを示している。PCL/PEG3.4k−POSS中の及びPCL/PEG8.0k−POSS中のPOSSの存在を示す890cm−1のはっきりとしたバンドも確認された。このバンドは、Si−O−H基の曲げモードに起因する。
【0040】
(2)広角X線回折(WAXD)
エレクトロスピン繊維の広角X線回折(Wide angle X−ray diffraction;WAXD)は、X線回折装置(リガク社製Rotaflex RTP300)を用い、室温下で40kV,150mAの条件で、スキャン速度毎分2°にて5〜40°の範囲で行った。なお、CuKα線の照射源は、波長1.5402Åとした。得られたPCL/PEG−POSSの結晶化度は、生分解性の細胞足場材料としてPCL/PEG−POSSを用いる場合にとても重要である。結晶化度は、構造、物理的特性(例えば、機械的特性等)、及び生分解性に決定的な影響を与えるからである。
【0041】
図2は、PCL(neatPCL)、PCL/PEG3.4k−POSS、PCL/PEG8.0k−POSS、及びPCL/PEG8.0kの各エレクトロスピン繊維のWAXDパターンである。WAXDパターンは、PCLの微細構造にPEG−POSSを加えた影響を調べるために測定した。
【0042】
図2に示すように、PCL/PEG−POSSの各エレクトロスピン繊維は、2θ=21.4°(強)、21.9°(肩)、及び23.6°(中)の3つの特徴的なピークを示した。これらは、〔110〕、〔111〕、及び〔200〕の反射に相当し、PCLのエレクトロスピン繊維の微細結晶構造と同じである。
【0043】
PCL/PEG3.4k−POSS、PCL/PEG8.0k−POSS、及びPCL/PEG8.0kのピーク強度は、PCLのエレクトロスピン繊維と比べてわずかに減少している。これは、かさ高いPOSSがPCLの結晶化を阻害することに起因する。さらに、結晶POSSによる2θ=7.5°の強い反射が明確に観測された。また、PCL/PEG8.0k中のPEGの回折現象によって、〔120〕の反射に相当する2θ=18.8°のピークを生じた。
【0044】
以上より、PCL/PEG3.4k−POSS及びPCL/PEG8.0k−POSSの各エレクトロスピン繊維は、PCL(neatPCL)のエレクトロスピン繊維と同程度の機械的強度、形状安定性及び生分解性を有することが分かった。すなわち、PCL/PEG3.4k−POSS及びPCL/PEG8.0k−POSSの各エレクトロスピン繊維は、PCLのエレクトロスピン繊維と同様に、機械的強度及び形状安定性に優れるとともに、生分解性に優れることが分かった。
【0045】
(3)TG/DTA
PCL、PCL/PEG3.4k−POSS、PCL/PEG8.0k−POSS、及びPCL/PEG8.0kの各エレクトロスピン繊維の熱安定性と混和性を調べるため、熱重量分析(Thermogravimetric analysis;TGA)を行った。熱重量分析は、窒素雰囲気下、昇温速度毎分20℃の条件で、TG/DTA6200(セイコーインスツルメンツ社製)を用いた。
【0046】
図3は、PCL(neatPCL)、PCL/PEG3.4k−POSS、PCL/PEG8.0k−POSS、及びPCL/PEG8.0kの各エレクトロスピン繊維のTGA曲線である。図3に示すように、PCLのエレクトロスピン繊維(Td:320℃)と比べて、PCL/PEG8.0k(Td:240℃)の熱安定性は、240℃を超えると著しく減少する。一方、テレキリックタイプのPEG−POSSを取り込んだPCLのエレクトロスピン繊維は、POSSのマクロモノマーを取り込んだため良好な熱安定性を示した。
【0047】
しかしながら、PCL/PEG3.4k−POSSのエレクトロスピン繊維は、200℃付近で20%の重量減少を伴う最初の分解を示した。これは、PCL/PEGのエレクトロスピン繊維の分解挙動と類似する。また、PCL/PEG3.4k−POSSのエレクトロスピン繊維の熱安定性は、350℃を超えるとPCLのエレクトロスピン繊維の熱安定性を上回った。PCL/PEG−POSSのエレクトロスピン繊維はPOSSを取り込んだため、PCLのエレクトロスピン繊維と比べてPCL残渣(炭化物やセラミックスの生成量)が増加した。
【0048】
(4)電子顕微鏡観察・水接触角
エレクトロスピン繊維の構造と直径を、走査電子顕微鏡(scanning electron microscopy;SEM)法によって決定した。走査電子顕微鏡装置は日立制作所社のS−3000Nを用い、Pd−Ptをスパッタした各エレクトロスピン繊維試料に20kVの電位を印加して測定した。なお、エレクトロスピン繊維の直径は、画像処理ソフトImageJを用いて計測した。エレクトロスピン繊維の直径の平均値は、150回計測した平均の値とした。
【0049】
図4は、(a)PCL、(b)PCL/PEG3.4k−POSS、(c)PCL/PEG8.0k−POSS、及び(d)PCL/PEG8.0kの各エレクトロスピン繊維の直径分布を示すグラフである。図4に示すように、各エレクトロスピン繊維の平均直径は、PCLが713±408nm、PCL/PEG3.4k−POSSが528±253nm、PCL/PEG8.0k−POSSが479±326nm、及びPCL/PEG8.0kが607±343nmであった。テレキリックタイプのPEG−POSS(PCL/PEG3.4k−POSS及びPCL/PEG8.0k−POSS)のエレクトロスピン繊維は、PCLのエレクトロスピン繊維及びPCL/PEG8.0kのエレクトロスピン繊維と比べて、繊維径が小さく、繊維径分布が狭かった。
【0050】
接触角分析器(協和界面科学社DM−CE1)を用いて、各エレクトロスピン繊維の水接触角を測定した。具体的には、マイクロシリンジから約1.3μLの水滴を各エレクトロスピン繊維の表面に滴下し、滴下された水滴の外形を高解像度カメラで捕らえ、接触形状分析装置DSA100(ドイツKruss社製)と多機能統合解析ソフトFAMASを用いて角度を算出した。15回の測定の平均値を水接触角データとした。なお、各エレクトロスピン繊維は、50℃で4日間減圧乾燥したものを用いた。
【0051】
図5は、(a)PCL、(b)PCL/PEG3.4k−POSS、(c)PCL/PEG8.0k−POSS、及び(d)PCL/PEG8.0kの各エレクトロスピン繊維のSEM写真と各エレクトロスピン繊維の水接触画像である。エレクトロスピン繊維は、繊維方向がランダムな状態で堆積している。
【0052】
PCLのエレクトロスピン繊維の水接触角は約129.8±1.4°であり、PCLのエレクトロスピン繊維が疎水性であることを示している。しかしながら、PCL/PEG3.4k−POSSの水接触角は96.7±5.4°であり、PCL/PEG8.0kの水接触角は74.9±7.5°であり、PCL/PEG8.0k−POSSの水接触角は36.5±1.5°であった。これは、PCLのエレクトロスピン繊維に、親水性のPEG及び/又は疎水性のPOSSを取り込むことによって、親水性−疎水性を調整できることを示している。
【0053】
〔細胞培養〕
まず、PCL/PEG3.4k−POSS、PCL/PEG8.0k−POSS、及びPCL/PEG8.0kの各エレクトロスピン繊維を99%エタノールに30分間浸して殺菌した。この殺菌工程は2回行った。次に、各エレクトロスピン繊維を蒸留水で3回洗浄して残留エタノールを除去した。そして、各エレクトロスピン繊維上で、理研細胞バンクから入手した骨芽細胞様細胞MC3T3−E1を13世代に渡り継代培養した。
【0054】
具体的には、MC3T3−E1を各エレクトロスピン繊維の細胞足場材料に接種し、3時間、6時間、及び24時間細胞培養したものを、温度4℃の条件下で、10%ホルムアルデヒド溶液中にそれぞれ一晩浸した。次に、50%、60%、70%、80%、90%、99%(2回)と濃度を徐々に増やしたエタノールで、細胞培養した各エレクトロスピン繊維を順次処理する工程(1工程5分間)を5回繰り返して脱水した。最後に、t−ブチルアルコール(ワコーケミカル社製)を用いて、細胞培養した各エレクトロスピン繊維を一晩凍結乾燥させて分析用試料を得た。
【0055】
培養は、培養器内をCO5%雰囲気下、温度37℃とし、細胞濃度を5×10細胞/ウェルとして、αMEM(商品名GIBCO)の培地を用いて行った。培地は、10%の加熱不活性化したウシ胎仔血清(fetal bovine serum;FBS)と、100U/mLのストレプトマイシンと、0.1%のβ−グリセロリン酸エステルとを含む。骨芽細胞分化を誘発するためにこの培地を用いた。
【0056】
また、培養は、組織培養皿(tissue culture dishes;TCDs)内で行った。組織培養皿は、サーモフィッシャーサイエンティフィック社(デンマーク)のポリスチレン皿(ブランド名Nunc)を用いた。培養皿への栄養分の十分な供給を確保するため、培地は2日に1回交換した。
【0057】
〔細胞接着〕
図6は、PCL/PEG3.4k−POSS、PCL/PEG8.0k−POSS、及びPCL/PEG8.0kの各エレクトロスピン繊維の骨格上にMC3T3−E1を接種し、3時間、6時間、及び24時間細胞培養した後の細胞接着率を示すグラフである。細胞接着率は、細胞培養後に培地に存在する細胞数を数え、下記の式により算出した。なお、細胞数は3回の平均値を採用した。

細胞接着率(%)={1−浮遊細胞数/(5.0×10)}×100
【0058】
図6に示すように、PCL/PEG3.4k−POSS及びPCL/PEG8.0k−POSSは、PCL/PEG8.0kと比べて、細胞培養当初の接着率が高かった。これは、POSS中のシロキサン部位の表面エネルギーが高いためだと考えられる。実施形態に係るPCL/PEG−POSSの細胞足場材料は、24時間の細胞培養後、毒性がなく細胞足場材料表面と細胞との間で良好な細胞接着率(〜約93%)を維持することが分かった。従って、PCL/PEG3.4k−POSS及びPCL/PEG8.0k−POSS各エレクトロスピン繊維は、生体適合性及び細胞への接着性に優れることが分かった。
【0059】
図7は、PCL、PCL/PEG3.4k−POSS、PCL/PEG8.0k−POSS、及びPCL/PEG8.0kの各エレクトロスピン繊維の骨格上にMC3T3−E1を接種し、3時間及び6時間細胞培養した後のSEM写真である。これら各エレクトロスピン繊維の細胞の接着、増殖、及び相互作用の各程度をSEM写真によって調べた。
【0060】
本実施例において、各エレクトロスピン繊維の細胞足場材料は、MC3T3−E1細胞への細胞毒性がほとんどなかった。図7に示すように、MC3T3−E1細胞は、実施例における各エレクトロスピン繊維の細胞足場材料にしっかりと付着して、細胞培養時間に応じて順調に集合体を形成した。なお、PCLのエレクトロスピン繊維で培養したMC3T3−E1細胞は、6時間の細胞培養後に、細胞の接着が比較的少なかった。
【0061】
一方、PCL/PEG3.4k−POSS及びPCL/PEG8.0k−POSSの各エレクトロスピン繊維は、3時間の細胞培養後、PCLのエレクトロスピン繊維と比べて、細胞の付着力がとても高かった。さらに、6時間の細胞培養後、MC3T3−E1細胞の大部分が細胞質を拡張し始めたことが確認された。すなわち、実施形態に係るナノ繊維は、細胞の付着力が高いこと、すわなち、細胞への接着性に優れることが分かった。
【0062】
以上より、両親媒性でテレキリック型のPEG−POSSを取り込んだPCLのエレクトロスピン繊維は、今後の生物医学材料、特に細胞足場材料として大きな期待が持てる。
【0063】
なお、POSSを用いた細胞足場材料として、ポリ(エステル−ウレタン)(PEU)とPOSSの多孔性複合フィルム(POSS−PEU)や、ポリ(カーボネート−シルセスキオキサン−ウレア)(POSS−PCSBU)が知られている(例えば、Y.L.Guo、外2名、”J.Tissue.Eng.Reg.Med.”、2010年、第4巻、第7号、p.553−564参照。)。
【0064】
本発明のナノ繊維又は細胞足場材料(POSS−PEG/PCL)は、上記した既存のPOSS含有材料(POSS−PEUやPOSS−PCSBU)の場合と比較して、原料となるPOSS化合物(POSS−PEG)の合成が容易である。
また、本発明のナノ繊維又は細胞足場材料(POSS−PEG/PCL)は、原料に細胞との親和性の高いPEGを用いているため、上記した既存のPOSS含有材料(POSS−PEUやPOSS−PCSBU)の場合と比較して、細胞への接着性に優れる。
また、本発明のナノ繊維又は細胞足場材料(POSS−PEG/PCL)は、原料に生分解性に優れたPCLを用いているため、上記した既存のPOSS含有材料(POSS−PEUやPOSS−PCSBU)の場合と比較して生分解性に優れる。
さらにまた、本発明のナノ繊維の製造方法は、PCLを混合するという簡単な工程で、上記した既存のPOSS含有材料(POSS−PEUやPOSS−PCSBU)よりも優れた細胞足場材料を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカプロラクトンと、
ポリエチレングリコールと多面体オリゴシルセスキオキサン(polyhedral oligosilsesquioxane)との共重合体とを有するナノ繊維。
【請求項2】
前記多面体オリゴシルセスキオキサンが以下の式(1)で表される多面体オリゴシルセスキオキサンである請求項1に記載のナノ繊維。
【化1】

(但し、式(1)中、Rはアルキル基を示し、R’は末端に反応性の基を有する官能基を示す。)
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が3400〜8000である請求項1または2に記載のナノ繊維。
【請求項4】
エレクトロスピニング法によって製造された請求項1〜3のいずれかに記載のナノ繊維。
【請求項5】
ポリカプロラクトンを含む溶液と、ポリエチレングリコールと多面体オリゴシルセスキオキサン(polyhedral oligosilsesquioxane)との共重合体を含む溶液とを混合する混合工程と、
エレクトロスピニング法によって、前記混合工程で得られた混合溶液からナノ繊維を得る繊維化工程とを有するナノ繊維の製造方法。
【請求項6】
前記多面体オリゴシルセスキオキサンが以下の式(1)で表される多面体オリゴシルセスキオキサンである請求項5に記載のナノ繊維の製造方法。
【化2】

(但し、式(1)中、Rはアルキル基を示し、R’は末端に反応性の基を有する官能基を示す。)
【請求項7】
前記混合工程の前に、ポリエチレングリコールと、プロピルジメチルシリルシクロヘキシルイソシアネート−多面体オリゴシルセスキオキサン(Isocyanatopropyldimethylsilylcyclohexyl−polyhedral oligosilsesquioxane)とをウレタン結合させて共重合体を得る共重合体合成工程をさらに有する請求項5または6に記載のナノ繊維の製造方法。
【請求項8】
前記ポリエチレングリコールの数平均分子量が3400〜8000である請求項5〜7のいずれかに記載のナノ繊維の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載のナノ繊維を含む細胞足場材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−49928(P2013−49928A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187462(P2011−187462)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(508231821)トップテック・カンパニー・リミテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】TOPTEC Co., Ltd.
【Fターム(参考)】