説明

生体適合性ゲル材料および生体適合ゲル材料用組成物

【課題】力学物性と共に生体適合性に優れた生体適合性ゲル材料およびそれを得るための組成物を提供する。
【解決手段】(A)生体適合性を有する水溶性高分子と、(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物と、(C)水との三成分を構成成分として含み、(A)と(B)からなる三次元網目の中に(C)が包含されている有機・無機複合ヒドロゲル又はその乾燥体からなる生体適合性ゲル材料、及び、(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物と、(D)生体適合性水溶性高分子のモノマーとを含有する生体適合性ゲル材料用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子ヒドロゲルまたはその乾燥体からなる生体適合性ゲル材料及び生体適合性ゲル材料用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子ヒドロゲル材料は、特に水溶性有機高分子と水膨潤性粘土鉱物からなる三次元網目を形成した有機・無機複合ヒドロゲルとすることにより、極めて優れた力学物性、透明性、膨潤性、膨潤/収縮性などを発現することが報告されている(特許文献1,2)。有機・無機複合ヒドロゲルは組成(ポリマー、粘土鉱物)及び含水率を制御することにより、極めて広範囲な物性制御ができることが報告されている(特許文献1,2、非特許文献1,2,3)。かかる高分子ヒドロゲル材料は柔軟でタフネスのある含水材料であることから、生体または生体成分と接触する用途において用いられることが期待される。しかし、最も効果的な物性向上が行えるアルキル置換アクリルアミド誘導体モノマー(例:N,N−ジメチルアクリルアミド)の重合物(水溶性高分子)を用いた有機・無機複合ヒドロゲルでは血液との接触により血栓ができやすく(抗血栓性が悪く)、また該モノマーが生体に対する刺激性や毒性を有する可能性があることから、生体または生体由来成分と接触する用途においては、より安全な生体適合性を有するゲル材料が求められていた。
【0003】
【特許文献1】特開2002−53629
【特許文献2】特開2002−53762
【非特許文献1】K. Haraguchi and T. Takehisa, Advanced Material, vol.14, No.16, 1120-1124(2002).
【非特許文献2】K. Haraguchi, R. Farnworth, A. Ohbayashi and T. Takehisa, Macromolecules, vol.36, No. 15, 5732-5741(2005).
【非特許文献3】K. Haraguchi and Huan-Jun Li, Angew.Chem.Int.Ed, vol.44, 6500-6504(2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、力学物性と共に生体適合性に優れた生体適合性ゲル材料およびそれを得るための組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、特にポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)などの生体適合性を有する水溶性高分子と水膨潤性粘土からなる有機・無機複合ヒドロゲルまたはその乾燥体からなる生体適合性ゲル材料が上記問題を解決し、優れた生体適合性を、優れた力学物性と共に併せ持つことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、(A)生体適合性を有する水溶性高分子と、(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物と、(C)水との三成分を構成成分として含み、(A)と(B)からなる三次元網目の中に(C)が包含されている有機・無機複合ヒドロゲル又はその乾燥体からなる生体適合性ゲル材料を提供するものである。
【0007】
また本発明は、(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物と、(D)生体適合性水溶性高分子のモノマーとを含有する生体適合性ゲル材料用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の生体適合性ゲル材料は、従来の力学的強靱さを有する有機・無機複合ヒドロゲルと比べて、血液との接触における抗血栓性をはじめとして、低タンパク質吸着性、生体内包埋時の非癒着性、非炎症性など、優れた生体適合性を力学的強靱さと併せて有する。したがって、本発明の生体適合性ゲル材料は、抗血栓性、タンパク質非吸着性、生体内非癒着性等を有する材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、(A)生体適合性を有する水溶性高分子と、(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物、及び(C)水との三成分を構成成分として含み、(A)と(B)からなる三次元網目の中に(C)が包含されている有機・無機複合ヒドロゲル又はその乾燥体からなる生体適合性ゲル材料、およびそれを得るための生体適合性ゲル材料用組成物に関する。
【0010】
本発明に用いられる(A)生体適合性を有する水溶性高分子としては、水溶性高分子であって、且つ生体適合性を有するもの、且つ(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物と三次元網目を形成することの出来るものであることが必須である。好ましくは、水酸基、リン酸基、アミノ基のいずれか一つまたは複数を有するものである。(A)生体適合性を有する水溶性高分子を例示すれば、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシプロピルアクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシプロピルメタクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシブチルアクリレート、ポリ(2−ヒドロキシブチルメタアクリレートなどの水酸基含有ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メトキシポリエチレングリコールアクリレート)、ポリ(メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)などのポリエチレングリコール鎖を含有するポリ(メタ)アクリレート、ポリ(2−メタクリルオキシエチルホスホリルコリン)などのリン脂質類似構造を有するリン酸基含有ポリメタクリレート、ポリ(アリルアミン)などのアミノ基含有ポリマー等が例示される。これらは単独で、あるいは二種以上を併用して用いることができる。また、生体適合性を促進するためにより優れた生体適合性を有する高分子または物質を上記(A)と併せて用いることや、力学物性などの他の性質を改良するために生体適合性を阻害しない範囲で他の生体適合性を有しない水溶性ポリマーまたは非水溶性ポリマーを上記(A)と併せて用いることは可能である。例えば、力学物性の改良には、N,N−ジメチルアクリルアミドなどのアクリルアミド誘導体は有効に用いられる。
【0011】
本発明に用いられる(D)生体適合性水溶性高分子のモノマーとしては、反応により上記(A)となるモノマーまたはオリゴマーが用いられる。
【0012】
本発明における生体適合性とは、生体または生体由来成分との接触において、生体または生体由来成分の機能を損なうことなく、且つ、安全に用いられる性質をいう。具体的には、血液に対する抗血栓性、タンパク質に対する低吸着性、生体に対する非癒着性や非炎症性、細胞に対する非毒性、生体組織に対する非刺激性などがあげられる。
【0013】
本発明に用いられる、(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物としては、粘土鉱物のうち水に微細、且つ均一に分散可能で、水に溶解もしくは膨潤する性質を有するものであり、特に水中で分子状(単一層状)又はそれに近いレベルで均一分散可能な層状粘土鉱物であることが好ましい。例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などが用いられる。具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含んだ水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。
【0014】
本発明において、水膨潤性粘土は特に水中に溶解していることが望ましい。ここで溶解とは、粘土鉱物の沈殿もしくは濁った水溶液となるような大きな粘土鉱物凝集体が無い状態を意味する。より好ましくは1〜10層程度のナノメーターレベル(の厚み)で分散しているもの、特に好ましくは1又は2層程度の厚みで分散しているものである。
【0015】
本発明における生体適合性ゲル材料用組成物としては、上記の(D)生体適合性水溶性有機高分子のモノマーと、(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物を含むことが必須であり、更に、(C)水や(E)無機質や有機質の充填剤を含む場合が含まれる。更に、必要に応じて(B)存在下に(D)が重合するための開始剤や触媒を加えられる。ここで、(E)無機質や有機質の充填剤としては、微粒子状、粉末状、繊維状などのシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ヒドロキシアパタイト、フッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アミド樹脂、エポキシ樹脂などが例示される。(E)の割合としては、(D)に対して、0.1〜100質量部に至る広い範囲から目的に応じて選択出来る。また、生体適合性ゲル材料用組成物としては、組成物の安定性確保のため、触媒および開始剤を別々に含む2液型として、それらを混合することでゲル材料が得られるようにすることは有効である。
【0016】
本発明に用いられる生体適合性のゲル材料においては、(A)生体適合性を有する水溶性高分子と(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物が三次元網目を形成し、(C)水を包含してなる有機・無機複合ヒドロゲルまたはその乾燥物であれば良く、(A)と(B)の割合は上記性質(生体適合性)が達成されれば良く、また用いる(A)や(B)の種類によっても異なり必ずしも限定されないが、好ましくは(B)/(A)の質量比が0.01〜10、より好ましくは0.03〜5.0、特に好ましくは0.05〜3.0である。
【0017】
(B)/(A)の質量比が0.01未満では本発明の目的とする生体適合性ゲル材料が出来ず、10を越えると生体適合性ゲル材料もしくはその乾燥体が脆かったり、もしくは製造上、均一な材料を合成しにくいなどの問題が生じてくる。
【0018】
本発明に用いられる生体適合性ゲル材料の合成方法としては、水に微細分散した水膨潤性粘土の共存下に生体適合性水溶性高分子のモノマーを重合させる方法があげられ、特にラジカル重合は好ましく用いられる。重合において、1又は2層、もしくは1〜10層程度のナノメーターレベルで分散した粘土鉱物が、生体適合性水溶性高分子の架橋剤の働きをして、生体適合性水溶性高分子と粘土鉱物が水膨潤状態で均一に複合化した構造を形成される。
【0019】
上記のラジカル重合反応は、分子状酸素の不存在下で過酸化物の存在及び/又は紫外線照射等の公知の方法により行わせることができる。更に、この重合反応は加熱又は紫外線照射により加速することもできる。ラジカル重合用開始剤及び触媒としては、公知慣用のラジカル重合開始剤及び触媒のうちから適時選択して用いることができる。
【0020】
具体的には、重合開始剤として、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物(例:VA−044、V−50、和光純薬工業株式会社製)などが用いられる。また触媒としてはN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンやβ−ジメチルアミノプロピオニトリルなどが用いられる。重合温度は、重合触媒や開始剤の種類に合わせて0℃〜100℃の範囲で設定できる。また重合時間も触媒、開始剤、重合温度により異なるが、一般に数十秒〜数時間の間で行える。
【0021】
上記ラジカル重合反応において更に公知の界面活性剤を共存させ、得られるヒドロゲルを微粒子形態で調製することや、有機質及び/または無機質の微粒子や繊維を共存させて、得られるヒドロゲルの中に有機質及び/または無機質材料を充填することも可能である。
【0022】
本発明の生体適合性ゲル材料は、生体適合性水溶性高分子と水膨潤性粘土とが三次元網目を形成してなるものであり、有機架橋剤の添加は特に必要としないが、用途に応じて、上記成分と共に有機架橋剤が含まれていても良い。
【0023】
含まれる有機架橋剤濃度は特に限定されず、目的に応じて選択できる。これらの有機架橋剤としては、従来から公知のN,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−プロピレンビスアクリルアミド、ジ(アクリルアミドメチル)エーテル、1,2−ジアクリルアミドエチレングリコール、1,3−ジアクリロイルエチレンウレア、エチレンジアクリレート、N,N’−ジアリルタータルジアミド、N,N’−ビスアクリリルシスタミンなどの二官能性化合物や、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの三官能性化合物が例示される。
【0024】
本発明における生体適合性ゲル材料用組成物は、生体適合性ゲル材料を得るための反応前の組成物であり、熱または光照射などにより、含まれる生体適合性水溶性高分子のモノマーが重合し、最終的に生体適合性ゲル材料をあたえるものである。
【0025】
本発明における生体適合性ゲル材料は、例えば、生体または生体由来成分との接触において、優れた生体適合性を示すことが特徴であり、例えば、血液に対する抗血栓性を有したり、タンパク質の低吸着性を示したり、生体との接触において非癒着性、非炎症性を示したりする効果を有する。また本発明における生体適合性ゲル材料は、含水率を広範囲に制御でき、優れた力学物性や制御された膨潤性を生体適合性と共に併せ持つ特徴を有する。更に、本発明における生体適合性ゲル材料は、円柱、中空、球状、フィルム状、表面凹凸形状など、各種異型形状に予め合成したり、後から加工したりすることができる。
【実施例】
【0026】
次いで本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0027】
(実施例1〜4)
粘土鉱物には、[Mg5.34Li0.66Si20(OH)]Na0.66の組成を有する水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLG、日本シリカ株式会社製)を100℃で2時間真空乾燥して用いた。有機モノマーとして、実施例1では2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:和光純薬工業株式会社)を、実施例2ではヒドロキシエチルアクリレート(HEA:和光純薬工業株式会社)を、実施例3ではメトキシポリエチレングリコールモノアクリレート(PEGA:新中村化学工業株式会社、エチレンオキシド鎖平均分子量:400)を、実施例4ではメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(PEGMA:共栄社化学株式会社、エチレンオキシド鎖平均分子量400)を用いた。
【0028】
重合開始剤は、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS:関東化学株式会社製)を水溶液(0.2g/10g−水)としてマイクロシリンジで定量して使用した。また触媒は、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED:関東化学株式会社製)を原液のまま使用した。また実施例1〜4のいずれにおいても使用する水は全てイオン交換水を蒸留した純水を用い、高純度窒素を予め3時間以上バブリングさせ含有酸素を除去してから使用した。
【0029】
なお、本発明の全ての実施例において、重合前後の全ての操作(水性ゲルを取り出すまでの全ての操作)は酸素を除去した窒素雰囲気又は窒素気流下で行った。また触媒及び開始剤水溶液の調製時も上記操作と同様に酸素を遮断した窒素雰囲気で行った。
【0030】
20℃の水浴中に設置した内部を窒素置換した二口フラスコに、上記の溶存酸素を除去した純水56.88gとフッ素樹脂製攪拌子を入れ、攪拌しながら実施例1及び実施例2では1.44g、実施例3及び実施例4では0.96gのラポナイトXLGを加え、均一溶液を調製した。これに実施例1ではHEMA7.8g(XLG/HEMA=0.18:質量比)、実施例2ではHEA6.96g(XLG/HEA=0.21:質量比)、実施例3ではPEGA8.16g(XLG/PEGA=0.12:質量比)、実施例4ではPEGMA8.4g(XLG/PEGM= 0.11:質量比)を加え均一溶液を得た。
【0031】
次いで、フラスコを氷浴中にて冷却した状態にして、別途氷浴冷却していたTEMED48μlを加えた後、同様に別途氷浴中で冷却していたKPS水溶液3.18gを攪拌して加え、均一反応溶液を得た。該溶液を内径5.5mm、長さ150mmの密栓付きのガラスチューブ容器に入れ、酸素を遮断した状態にして、20℃で8時間重合させ、均一で弾力性のある水性ゲルが得られた。
ゲル中に不均一な粘土鉱物やポリマーによる凝集はいずれも観測されなかった。また、乾燥後の質量測定から求めた実施例1〜4の収率はいずれも95質量%以上と高かった。
【0032】
ガラスチューブから外径5.5mmの棒状の水性ゲルを取り出し、長さ50mmにカットしたサンプルを用いて、厚み方向に1/3及び1/5までの圧縮する試験と、長さ方向に2倍及び4倍まで延伸する試験と、長さ中心点で100度、150度及びそれ以上の角度に曲げ変形する試験を行った。その結果、実施例1〜4のいずれのサンプルも上記の試験において、形状が破壊されたり、クラックが生じたり、欠損が生じることはなく、変形が可能であった。更に、長さ70mmのゲルサンプルを引っ張り試験装置((株)島津製作所製 AGS−H)に装着し、評点間距離=30mm、引っ張り速度=100mm/分にて引っ張り試験を行った結果、100%変形時の荷重、破断伸び、破断荷重が、各々0.48N、410%、1.9N(実施例1)、0.32N,380%、1.7N(実施例2)、0.22N、550%、1.6N(実施例3)、0.29N、480%、1.8N(実施例4)であった。
【0033】
更に、得られた長さ50mmのヒドロゲルを50mlプラスチック容器に入れ、そこにあらかじめヘパリンで抗凝固処理を行った牛血液を加えた。次に、このプラスチック容器を37℃の恒温器に入れて静置した後、硫酸プロタミン(ノボ・ノルディスク社製)を加えて、牛血液内のヘパリンを中和した。その後、ヒドロゲルを含むプラスチック容器を恒温器内で振とうしながら24時間保持した。その後ヒドロゲルを取り出して、目視により観察したところ、いずれのサンプルもこの条件下で明瞭且つ大きな血栓は出来なかった。
【0034】
また、実施例1のサンプル(長さ50mm)を用いて、FITCウシ血清アルブミン(BSA:シグマアルドリッチ社製)の1g/L水溶液100mlに37℃で24時間浸漬することによりアルブミン吸着試験を行った。吸着量を蛍光強度で測定したところ、比較例1に示したヒドロゲルの0.13倍の蛍光強度を示し、低い吸着性を示した。
【0035】
(実施例5)
重合開始剤として、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)の代わりに、水溶性のアゾ化合物(VA−044、和光純薬工業株式会社製)を同量用いる事以外は、実施例1と同じ組成となる反応液を、水、HEMA、ラポナイトXLGの三成分について2分割して二つの溶液を調製した。次いで、一方にはTEMEDを加え、他方にはKPSを加えた。更に、両方の液に、直径1.5ミクロンのガラス微粒子をモノマーの5倍量(質量比)加えて、2液からなる高粘性の反応液を得た。これらの2液からなる組成物(生体適合性ゲル材料を得るための組成物)を一緒に混合し、50℃、8時間保持することにより、ガラスを充填したヒドロゲルが得られた。2液からなる組成物はいずれも4℃で、1週間以上の安定性を示した。
【0036】
(比較例1)
モノマーとしてN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:興人株式会社)を6.0g、ラポナイトXLGを2.4g用いる以外は、実施例1と同様にして、ヒドロゲルを合成した。得られたヒドロゲルは実施例1と同様な圧縮、曲げ、引っ張り試験においていずれも破壊しない強靱なゲルであった。得られたヒドロゲルを、実施例1と同じ条件で牛血液中への浸漬実験を行った結果、ヒドロゲルに大きな血栓が形成しているのが観測された。また、アルブミン吸着試験における蛍光強度は実施例1の7.7倍と高かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)生体適合性を有する水溶性高分子と、(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物と、(C)水との三成分を構成成分として含み、(A)と(B)からなる三次元網目の中に(C)が包含されている有機・無機複合ヒドロゲル又はその乾燥体からなる生体適合性ゲル材料。
【請求項2】
前記(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物と、前記(A)生体適合性水溶性高分子の質量比(B)/(A)が0.01〜10である請求項1記載の生体適合性ゲル材料。
【請求項3】
前記(A)生体適合性を有する水溶性高分子が、水酸基、エチレンオキシド基、リン酸基及びアミノ基から選ばれるいずれか一つまたは複数の基を有する請求項1又は2に記載の生体適合性ゲル材料。
【請求項4】
前記(A)生体適合性を有する水溶性高分子が、水酸基含有(メタ)アクリレート、エチレンオキシド基含有(メタ)アクリレート、リン脂質類似構造を有するリン酸基含有メタクリレート及びアミノ基含有ビニルモノマーから選ばれる一つまたは複数のモノマーの重合物である請求項1又は2に記載の生体適合性ゲル材料。
【請求項5】
前記(A)生体適合性を有する水溶性高分子が、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、2−メタクリルオキシエチルホスホリルコリン及びアリルアミンから選ばれる一つまたは複数のモノマーの重合物である請求項1又は2に記載の生体適合性ゲル材料。
【請求項6】
前記(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物が、水膨潤性スメクタイトである請求項1〜5のいずれか1項に記載の生体適合性ゲル材料。
【請求項7】
(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物と、(D)生体適合性水溶性高分子のモノマーとを含有する生体適合性ゲル材料用組成物。
【請求項8】
更に、(C)水或いは(E)無機質又は有機質の充填剤を含む請求項7記載の生体適合性ゲル材料用組成物。
【請求項9】
前記(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物と、前記(A)生体適合性水溶性高分子のモノマーの質量比(B)/(A)が0.01〜10である請求項7又は請求項8記載の生体適合性ゲル材料用組成物。
【請求項10】
前記(D)生体適合性水溶性高分子のモノマーが、水酸基、エチレンオキシド基、リン酸基及びアミノ基から選ばれるいずれか一つまたは複数の基を有する請求項7〜9のいずれか1項に記載の生体適合性ゲル材料用組成物。
【請求項11】
前記(D)生体適合性を有する水溶性高分子のモノマーが、水酸基含有(メタ)アクリレート、エチレンオキシド基含有(メタ)アクリレート、リン脂質類似構造を有するリン酸基含有メタクリレート及びアミノ基含有ビニルモノマーから選ばれる一つまたは複数のモノマーである請求項7〜9のいずれか1項に記載の生体適合性ゲル材料用組成物。
【請求項12】
前記(D)生体適合性を有する水溶性高分子のモノマーが、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルメタアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、2−メタクリルオキシエチルホスホリルコリン及びアリルアミンから選ばれる一つまたは複数のモノマーである請求項7〜9のいずれか1項に記載の生体適合性ゲル材料用組成物。
【請求項13】
前記(B)水に均一分散可能な水膨潤性粘土鉱物が、水膨潤性スメクタイトである請求項7〜12のいずれか1項に記載の生体適合性ゲル材料用組成物。

【公開番号】特開2007−211134(P2007−211134A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−32456(P2006−32456)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】