説明

生体適合性ポリマー

【課題】細菌の付着およびバイオフィルムの形成を含む増殖を防止し得る生体適合性ポリマー組成物の提供。
【解決手段】血液、組織、皮膚、上皮層、傷、培養液中の細胞、体液、透析液および/または除去もしくは輸液用治療液と接触することが意図された表面を有する製品のための生体適合性ポリマー組成物であって、該ポリマー組成物は、ビスマス錯体を、該ポリマー組成物の0.001〜0.5重量%ビスマスに相当する量で該ポリマー組成物中に含む。また、その製造方法、本生体適合性ポリマー組成物を含む製品およびその用途。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、血液、組織、皮膚、上皮層、傷、培養液中の細胞、体液、透析液および/または除去もしくは輸液用治療液と接触することが意図された表面を有する製品のための生体適合性ポリマー組成物に関する。
【0002】
本発明は、また、その製造方法、該生体適合性ポリマー組成物を含む製品およびその用途にも関する。
【0003】
背景技術
血液、組織、皮膚、上皮層、傷、培養液中の細胞、体液、透析液および/または除去もしくは輸液用治療液と接触して使用される医療デバイスの多くは、生体適合性ではない材料で作られている。したがって、多くのシステムにおいて、当該材料は、それぞれの生物学的システムにおける適用において、不都合な反応を生じさせている。異なるタイプの用途は、例えば、経皮的なもの、腹膜腔におけるもの、脈管系へのアクセスのためのもの、または透析液が調製されるラインにおけるものである。
【0004】
生体適合性の欠如は、血液の凝固、並びに炎症および組織の活性化をもたらし得、加えて微生物感染がデバイスの表面上に確立しえる。バクテリアのコロニー形成および表面上でのバイオフィルムの形成は、根本的な医療上の問題である。例えば移植ステント、体液排出システムまたは留置カテーテルのような長期の接触のために意図されているデバイスは、ホスト細胞接着のための表面として作用し得、ホスト細胞を活性化させ、増殖させ、または正常な生理学的機能を改変し、およびデバイスの機能または意図された使用を制限する。医療デバイス表面上のバイオフィルムの形成またはバクテリアのコロニー形成は、最終的にデバイスの故障を開始させる慢性炎症状況、および厳しい医学的介入または生命を脅かす状況さえ作り出す。
【0005】
例えばカテーテルにおける、抗微生物活性とクロット形成の防止の重要性は、ワンらによる論文「スタフィロコッカス・エピダーミスの疎水性バイオメディカルポリマーへの付着は、血小板により媒介される」、感染症誌、1993、167:329〜36に開示されており、そこでは、血小板沈着とバクテリア増殖の促進との間の強い関係が記述されている。
【0006】
GB−1041058は、真菌またはバクテリアによる攻撃に対し材料を保護するための組成物および方法を開示し、そこでは、ビスマス化合物を、例えばスプレーまたはチッピンングにより表面に適用するか、保護すべき材料内に、その作製中に組み込んでいる。ビスマス化合物は、テキスタイル、塗料および殺菌剤を有する用途に使用され、または真菌および他の微生物による攻撃に対し植物を保護するために使用される。
【0007】
US−A−5928671には、薬学的使用のための殺バクテリアおよび静菌活性を有する一連のビスマス塩、感染を防止するためおよび表面を殺菌し清浄化するための防腐剤および抗バクテリア剤、バイオフィルム生体を殺生するためおよびバイオフィルムの生成を防止するための保存剤が開示されている。当該組成物は、また、胃腸管のバクテリア感染を治療するためにも用いられる。
【0008】
一連のビスマス錯体、例えば抗菌およびバイオフィルム阻害特性を有するビスマス−プロパンジチオールまたはビスマス−ピリジオンが、ドメニコ(Domenico)らの「感染の治療および防止のためのビスマス−チオールの可能性」(Infect.Med.、17(2):123〜127、2000)に記載されている。この錯体は、例えば留置カテーテルのコーティングのために使用されることが提案されている。さらに、ドメニコらは、「ブドウ球菌およびブドウ球菌バイオフィルムに対するビスマスチオールの活性」(Antimicrobial Agents and Cemotherapy、2001年5月、p.1417〜1421)を論じている。
【0009】
WO00/21585は、ポリカプロラクトン、PDMSを、抗菌活性を示し、コーティングの高い生体適合性プロファイル、改善されたトロンボゲン形成性および減少したバクテリア増殖の促進性を維持するさらなる成分を添加することによるポリマーフィルムの一部として開示している。
【0010】
US−A−6267782は、抗菌性金属を含む医療製品の製造のための、溶液中の金属組成物と生体適合性材料との混合物に関する。生体適合性材料は、生物学的ポリマーを含み得、金属は、ビスマス組成物であり得る。しかしながら、金属組成物は、製品の表面上に堆積し、製品からのビスマスの放出をもたらす。
【0011】
例えばカテーテル内において、血液と接触することに起因する感染の防止は、公衆の衛生の観点において、すなわち抗生物質戦略に対するバクテリアの増加する耐性、並びに血流感染および敗血症合併症後の後の内科療法に関連するコストに関し、非常に重要である。例えば、血管内カテーテル関連血流感染は、多くの死亡および高いコストを犠牲にして集中治療室内で生じる。
【0012】
従って、これらの合併症を防止するために、多くの戦略が開発されている。ドラン(Donlan)らによる「バイオフィルムおよびデバイス関連感染症」、Emerging Infectious Diseases、89、Vol.7,No.2,3月−4月、2001により記述されているように、例えば銀または他の添加剤または抗生物質によりポリマー材料を含浸させるこれらの戦略は、バクテリアの増殖およびバイオフィルムの生成の効果的でない防除をもたらす。
【0013】
マーメル(Mermel)らによる「血管内カテーテル関連血流感染を防止するための新しい技術」、Emerging Infectious Diseases、89、Vol.7,No.2,3月−4月、2001により、カテーテル材料を異なる種類のバクテリア剤で含浸することによる技術的介入は効果的でないことが、記述されている。インビトロ研究は、臨床的使用としてこれらカテーテルを含浸するために使用される抗微生物剤に対するバクテリアの耐性についての潜在性はさらに広がってきていることを示唆した。これらの非常にしばしば非技術的な発明に加えて、看護士の訓練、滅菌マスク、滅菌着衣などによる滅菌環境の使用等は、カテーテル関連感染を減少させるために役立っている。
【0014】
しかしながら、現在、バクテリアの付着および増殖によるバイオフィルムの生成を、カテーテル側で防止する技術的な解決策は、入手できない。薬学教科書の知識から、多くのビスマス化合物が医療および薬理学的実技に用いられている。例えば、炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、クエン酸ビスマス、サリチル酸ビスマス等である。関連する医薬製剤は、Angass−S−Ulcowics、Bismoflk−V、Jadrox−600、Ulcolind等として知られている。ビスマスの塩およびチオール類は、広い範囲のバクテリアに対して活性である。阻害濃度は、3〜300マイクロモルビスマス−3の範囲にある。既知のバクテリア株のほとんどは、ビスマス化合物に感受性があり、それらがメチシリン耐性Staph.aureus(MRSA)を含むスタフィロコッカス・オーレウス(Staphilococcus Aureus)に対して最も効果的である(ドメニコら)。
【0015】
主な問題は、ビスマス化合物、特にビスマスチオールが潜在的に毒性であることである。ビスマスがバクテリア増殖を防止するためにどのように作用しているかという機構は、完全には明らかではない。最近、Bis−BALが、好中球によるバクリテリアの食細胞吸収を増大し得ることがわかっている。さらに、この化合物が細胞への補体結合を有意に増大させ、これによりオプソシン作用および食作用を促進するということが示されている。しかしながら、この機構は、水溶液におけるバクテリア増殖を防止することには適用できない。したがって、ビスマスの固有の効果は、バクテリアの増殖に対し作用するものであるにちがいない。ビスマスは細胞質中の呼吸酵素を不活性化し、これによりバクテリアにおける莢膜多糖類発現の阻害をもたらす。これらの多糖類は、バクテリアを囲み、抗生物質の作用を防止するゲル様自己層(autolayer)を形成するために必要である。さらに、ビスマスはバクテリアの細胞膜を破壊せず、これにより、特に透析患者または集中治療中に体外治療に依存している患者において、免疫系の重要な刺激因子として知られているエンドトキシンの放出を防止するということは、有利である。
【0016】
これらの知見に基づいて、医療デバイスにおける、特にカテーテル、アクセスデバイスまたはポートシステムにおける、バクテリア増殖およびその後のバイオフィルムの形成を防止し、生体不適合性反応、特にクロットおよびフィブリンの形成または血小板付着を防止する材料または表面を設計するための明らかな医療上の必要性がある。感染耐性医療デバイスを製造するためには、経時的に優れた生体適合性と組み合わされた有効な抗微生物効能が必要である。
【0017】
発明の概要
本発明の目的は、血液、組織、皮膚、上皮層、傷、培養液中の細胞、体液、透析液および/または除去もしくは輸液用治療液と接触することが意図された表面を有する製品のための生体適合性ポリマー組成物であって、上記欠点および問題点が排除され、あるいは少なくとも軽減された組成物を提供することである。
【0018】
すなわち、本発明の目的は、細菌の付着およびバイオフィルムの形成を含む増殖を防止し得る生体適合性ポリマー組成物を提供することである。
【0019】
この目的は、血液、組織、皮膚、上皮層、傷、培養液中の細胞、体液、透析液および/または除去もしくは輸液用治療液と接触することが意図された表面を有する製品のための生体適合性ポリマー組成物であって、該ポリマー組成物は、ビスマス錯体を、該ポリマー組成物の0.001〜0.5重量%ビスマス、より好ましくは0.001〜0.1重量%ビスマス、最も好ましくは0.002〜0.08重量%に相当する量で該ポリマー組成物中に含むことを特徴とする生体適合性ポリマー組成物により達成された。
【0020】
本発明のもう一つの目的は、生体適合性ポリマー組成物の製造方法を提供することである。
【0021】
この目的は、生体適合性ポリマー組成物の製造方法であって、ポリマー組成物の0.001〜0.5重量%ビスマス、より好ましくは0.002〜0.08重量%に相当する量のビスマス錯体をポリマー組成物中に含めることを特徴とする方法により達成された。
【0022】
本発明のさらに他の目的は、血液、組織、皮膚、上皮層、傷、培養液中の細胞、体液、透析液および/または除去もしくは輸液用治療液と接触することが意図された表面を有する製品を提供することである。
【0023】
この目的は、ビスマス錯体をポリマー組成物の0.001〜0.5重量%ビスマス、より好ましくは0.001〜0.1重量%ビスマス、最も好ましくは0.002〜0.08重量%に相当する量で含むポリマー組成物の、上記表面を覆うフィルムを有することを特徴とする製品により達成された。
【0024】
本発明のさらなる目的は、生体適合性ポリマー組成物の使用を提供することである。
【0025】
この目的は、生体適合性を向上させ、およびバクテリア増殖を防止するために、血液、組織、皮膚、上皮層、傷、培養液中の細胞、体液、透析液および/または除去もしくは輸液用治療液と接触することが意図された医療デバイスのための、ビスマス錯体を含有するポリマー組成物の使用により達成された。本発明の生体適合性ポリマーは、例えば、血液、組織、皮膚、上皮層、傷、培養液中の細胞、体液、透析液および/または除去もしくは輸液用治療液と接触する表面上で用いることができる。
【0026】
本発明は、ポリマーシステム中のビスマス成分により、いずれもの医療デバイスのために抗微生物性生体適合性ポリマー組成物を作る可能性を示すものである。
【0027】
本発明のもう一つの利点は、Biの添加が、ポリマーフィルム組成物と表面における物理化学的ドメインの配列に影響を、例えばポリマー生成反応を触媒し、かくして異なる機能を許容することにより、与えるということである。
【0028】
本発明の他の特徴および利点は、以下の明細書および添付の特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【0029】
具体的な利点は、薄い架橋ポリマー層中に活性化合物を含有する医療デバイスの塗装/反応性ポリマーフィルムの作製の方法から得られる。ポリマーフィルム塗膜の厚さに対するベースのポリマー下地の比は、一般的な機能、生体適合性および抗微生物活性に関する医療製品の重要な特性を規定する。
【0030】
以下、図面により本発明をより詳しく説明する。
【0031】
好ましい態様の詳細な説明
本発明は、製品の表面上にフィルムとして適用することができて、未処理の製品よりもより生体適合性でありかつより平滑な表面モルホロジーを有する連続表面を形成るポリマー組成物を含む。そのようなポリマーフィルムは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のような疎水性ポリマーブロックに、2またはそれ以上の官能性−OH末端基を設け、その−OH末端基を、−OH基と反応し得るフィルム形成性ポリマーの通常のモノマーもしくはプレポリマーと反応させることにより形成することができる。そのような反応を、反応性PDMSとしてポリラクトン−ポリシロキサン−ポリラクトン(PL−PDMS−PL)タイプのトリブロックまたはシリコーンポリエステルを用いて例示する。ポリラクトンブロックの−OH基は、適切な溶媒中で、種々のイソシアネートのいずれかと反応し得て、PDMSをその構造中に組み込んだポリマーを生成する。フィルムは、製品を溶媒中の反応混合物で塗布するいずれもの通常の手段により製品の表面に適用することができ、そして溶媒を蒸発させる。
【0032】
上記コポリマーフィルムは、疎水性ポリマーブロック、例えば反応性−OH基を有するPDMS含有ブロックコポリマーを、フィルム形成性ポリマーのモノマーもしくはプレポリマー、例えば、例えばイソシアナート−ポリオール混合物と反応させることにより製造することができる。好適な疎水性ポリマーブロックには、種々のシロキサンポリマー、シロキサンオリゴマー、フルオロポリマー、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールポリジメチルシロキサンコポリマー、シリコーンポリエステル、ポリラクトン−ポリシロキサン−ポリラクトントリブロックコポリマー、ポリアミド、ポリスルホン、ポリアリールエーテルスルホン、ポリカーボネート、シクロオレフィンコポリマーを含むポリオレフィン等が含まれる。基本的に、本発明によるコーティングフィルムには、すべての種類のブロックコポリマーを用いることができる。疎水性ポリマーブロック上の反応性末端基は、フィルム形成性ポリマーのモノマーもしくはプレポリマー単位と反応する。あるいは、疎水性ブロックと反応させ、ついでフィルム形成性ポリマーのモノマーもしくはプレポリマー単位と反応させるために、カップリング剤を用いることができる。
【0033】
フィルム形成性ポリマーの例には、ポリウレタン、ポリオレフィン、エラストマー、ポリエチレングリコール、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリアリールエーテルスルホン、セルロースポリマー、シクロオレフィンコポリマー、シロキサンポリマーおよびシロキサンオリゴマー等が含まれる。ポリウレタン(PUR)が好ましく、これはイソシアネートとポリオールとの反応により生成し得る。PL−PDMS−PLは、−OH基を有し、これは遊離イソシアネート基との反応によりポリウレタン中にPL−PDMS−PLを内部的に組み込ませる。PURシステムのより高次元のまたは多次元の架橋を生じさせるために、2を超えるOH基を有するPDMSポリマーもしくはコポリマーを適用することができる。このタイプのオリゴマーの一例が、参照によりここに含めるEP0294525に開示されている。
【0034】
本発明の好ましい態様において、ポリマー組成物は、1〜60%のNCO含有率を有するポリイソシアネートプレポリマーを含有し、NCOは、100〜100000の範囲内の分子量のポリカプロラクトン−ポリジメチルシロキサン−ポリカプロラクトンのトリブロックコポリマーのような疎水性ドメインを含むポリマーのOH基と反応する。
【0035】
ポリラクトン(PL)ブロックを側鎖に有するポリジメチルシロキサン(PDMS)ブロックを有するトリブロックコポリマーは、ロビンガー(Lovinger)らにより(1993)、J.Polymer Sci.パートB(Polymer Physics)31:115〜123に記載されている。そのようなトリブロックコポリマーは、US−A−5702823に記載されているように、バルク製剤に組み込まれ、またトロンボゲン形成を減少させるために表面コーティングとして適用されている。PL−PDMS−PLトリブロックコポリマーは、例えば、シロキサンがジメチルシロキサンであり、ラクトンがカプロラクトンであるSMAと表示された一連のそのようなポリマーを提供するカリフォルニア州バークレーのThoratec Labaratoriesから、またTEGOMER(商品名、ゴールドスミスAG)の名称の下でTh.GoldsmithAGから市販されている。ここで用いて好適なポリシロキサンブロックの公称(nominal)分子量(数平均)は、約1000〜5000にわたる一方、カプロラクトンブロックの公称分子量は、約1000〜約10000にわたる。ツアイ(Tsai),C−C.ら(1994)ASAIO Journal 40:M619〜M829は、ポリ塩化ビニルおよび他のベースポリマー中にブレンドされた、またはその上にコーティングとして適用されたPL−PDMS−PLを用いた比較研究を報告している。
【0036】
この反応性混合物において、ビスマス含有塩、チオールまたは他のビスマス錯体が添加され、湿潤空気の存在下に反応してポリマー生成反応を促進する機械的に安定なフィルムを生成させる。ビスマス錯体の濃度は、ポリマー組成物の0.001〜0.5重量%ビスマス、より好ましくは0.001〜0.1重量%ビスマス、最も好ましくは0.002〜0.08重量%に相当する範囲にあるべきである。
【0037】
ビスマス錯体は、フィルムの外側層中に蓄積し得る。いずれもの理論により拘束されるものではないが、ビスマス錯体は、フィルム中のビスマス錯体の濃度の均一化を達成するために、フィルム表面から離れた方向に移行し得ることが示唆される。これを防止するために、本発明の好ましい態様において、ビスマス錯体の遅延放出を達成するために、ビスマス錯体を含むナノ粒子を補足剤としてポリマー組成物に添加する。ビスマス錯体を含むナノ粒子の存在により、ポリマーフィルム表面からのビスマス錯体の欠乏化を遅延させることができる。ナノ粒子は、ポリ乳酸から調製することができる。ポリ乳酸の重合度を制御することにより、ナノ粒子からのビスマスの放出速度を制御することができる。
【0038】
本発明の他の好ましい態様において、カテーテルは、遅延放出のビスマス錯体を含めたナノ粒子を有する第1のフィルムを備える。ついで、第2のフィルムに遊離ビスマス錯体を設ける。そのとき、第1のフィルムからの遅延放出のビスマス錯体は、フィルム表面から離れた方向における、すなわちポリマーフィルム内部に向かう遊離ビスマス錯体の移行を防止する。
【0039】
本発明は、また、フィルム形成性ポリマー組成物およびビスマス錯体を、溶媒の存在下に、フィルム形成性ポリマー成分と反応性の末端基を有する疎水性ポリマーと、全成分が溶媒中に溶解されるように組み合わせることにより、製品をポリマーフィルムでコーティングする方法を提供する。ついで、溶媒中に溶解した成分を、該成分を溶液中で互いに反応させる条件下でインキュベートする。最後に、溶液を、溶媒を蒸発させる条件下で、コーティングすべき表面上に広げることによりフィルムを形成する。
【0040】
コーティングすべき表面上に1を超えるフィルムを形成することができる。また、異なるフィルム層が異なる厚さを有することもできる。さらに、異なる層におけるビスマスの濃度も変えることができる。このようにして、ビスマス錯体の所望の分布プロファイルを達成することができる。フィルムの厚さは、約1〜100μmの範囲内に、好ましくは約5〜50μmの範囲内にあり得る。
【0041】
本発明は、TEGOMER H−Si6440(商品名、Th. Goldsmith A.G.、エッセン、ドイツ)のようなポリカプロラクトン−ポリジメチルシロキサン−ポリカプロラクトンのトリブロックコポリマーである市販のPL−PDMS−PLを用い、これにビスマス含有塩、チオールまたは他のビスマス錯体を添加することにより実施される。
【0042】
代わりの態様において、本発明は、シロキサンポリマーおよび/またはシロキサンオリゴマーを、ビスマス錯体の添加を伴って、用いることにより実施される。
【0043】
好適なビスマス錯体の例は、クエン酸ビスマスアンモニウム、酸化ビスマス(III)、没食子酸ビスマス(III)水和物、クエン酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス(III)、テトラメチルヘプタン二酸ビスマス(III)、ビスマス(III)ヘキサフルオロアセトネート、サブサリチル酸ビスマス(III)(bismuth(III)subsalicylate)、トリフェニルビスマス、ビスマス(III)キプロフロキサシン、塩化ビスマス(III)、二塩化トリフェニルビスマス、トリフェニルビスマスカーボネート、二水酸化トリフェニルビスマス、二硝酸トリフェニルビスマス、二サリチル酸トリフェニルビスマス、トリフェニルビスムチン、トリフェニルビスマス(2−クロロアセテート)、トリフェニルビスマスビス(4−アミノベンゾエート)、ビス(アセタト−O)トリフェニルビスマス、ジブロモトリフェニルビスマスおよびジフルオロトリフェニルビスマスからなる群の中から選ばれる。ビスマスプロパンジオール、ビスマスピリチオンおよびビスマスジメルカプトトルエン等のようなビスマスチオールも用いることができる。ビスマス錯体の濃度は、0.001〜0.5重量%ビスマス、より好ましくは0.001〜0.1重量%ビスマス、最も好ましくは0.002〜0.08重量%に相当する範囲内にあるべきである。本発明の好ましい態様において、ビスマス錯体は、トリフェニルビスマスまたは二塩化トリフェニルビスマスである。
【0044】
次に、Bi含有PL−PDMS−PLトリブロックコポリマーをポリウレタン(PUR)プレポリマー(DESDOMUR E23、商品名、バイエル社)と反応させるが、PL−PDMS−PLブロックは、PURポリマー鎖の内に組み込まれるようになる二官能性単位として反応する。
【0045】
−NCO含有率は、1〜60重量%、より好ましくは5〜20重量%、最も好ましくは7〜16重量%の範囲内にあるべきである。
【0046】
本組成物は、例えばフィルムもしくは塗膜または表面を構成するために用いられ、該フィルムもしくは塗膜は、化学的に架橋され、機械的に安定であり、弾性であり、非毒性であり、ビスマス錯体のないフィルムもしくは塗膜と比較してバクテリア増殖の阻害と未塗工表面と比較して減少したトロンボゲン形成性を示す。
【0047】
あるいは、ビスマス錯体は、射出成形部品中の添加剤として添加することができる。フィルム、プレートまたは多層管状材料の流し込みまたは押出しのような他の技術的方法は、記述したポリマーフィルムを表面上に形成するために好適である。他の可能性は、スプレー等でポリマーフィルムを形成することである。
【0048】
本発明による生体適合性ポリマー組成物は、生体適合性を向上させ、およびバクテリア増殖を防止するために、血液、組織、皮膚、上皮層、傷、培養液中の細胞、体液、透析液および/または除去もしくは輸液用治療液と接触することが意図された医療デバイス、好ましくは患者の延長ライン、経皮トンネル例えばカフを含む腹膜カテーテル等の患者の身体への経皮アクセスを得るためのカテーテルのために理想的に用いられるが、透析液が発生されるラインを塗工するために本組成物を使用し得る透析モニターにおいても使用することができる。他の適用分野は、輸液治療、移植技術、静脈内栄養補給、尿道カテーテル等である。
【0049】
さらに、この開示した発明は、バイオフィルムの形成を防止し、生体適合性および非毒性が以上に重要であるところのいずれもの技術システム、例えば水処理システム、水管システムに、エアフィルターに、プロセスの詰まりを防止するための膜系分離システムに、バイオセンサー、傷の手当ておよび被覆基材媒体、バイオリアクターに、食品加工システムにも有利に使用することができる。開示した特性が明らかな利点を有する他の適用分野は、衛生製品(sanitary products)、傷の手当てを含む皮膚および食品ケア製品、外科器具、内視鏡、テキスタイル、歯ブラシのような衛生物品(hygiene article)、傷ケア製品、プラスター、タンポン、ストーマバッグ、貯蔵容器、冷蔵庫(例えば、薬、医学製品または食品のための)等である。
【0050】
さて、本発明の理解をさらに促進するために、本発明を好ましい態様の非限定的な例により説明する。
【0051】

例1:
フィルムの調製
工程1:
60gのメチルイソブチルケトン。
【0052】
5gのTEGOMER H−Si6440(ゴールドシュミットA.G.)
軽い攪拌したで約5分間50℃まで暖める。
【0053】
TEGOMER H−Si6440は、それぞれ公称分子量2000、2000および2000を有するポリカプロラクトン−ポリジメチルシロキサン−ポリカプロラクトンブロックのトリブロックコポリマーである。
【0054】
工程2:
0.004〜0.13gのビスマスに相当する0.01〜0.32gの二塩化トリフェニルビスマス(Aldrich)を添加する。
【0055】
室温で約5分間軽く攪拌する。
【0056】
工程3:
35gのDESDOMUR E23(バイエル社)を添加する。
【0057】
気泡の生成を防止するために軽く攪拌する。
【0058】
気泡を除去するために、脱気が必要とされる。
【0059】
DESDOMUR E23は、ジフェニルメタンジイソシアネートに基づくポリイソシアネートプレポリマーである。−NCO含有率は、15.4重量%である。当量重量は、273である。
【0060】
工程4:
a)支持箔例えばPE(ポリエチレン)を有するか、有しないガラスプレートまたはポリウレタン製の射出成形プレート上に種々の厚さでフィルムをキャストするか、あるいは
b)溶液を外側に、カテーテルチューブ(ID 1〜3mmまたは他の幾何学形状)を通して輸送することによるフィルムの形成。
【0061】
ついで、重合したフィルムを走査型電子顕微鏡により調べる。
【0062】
例2
トロンボゲン形成の試験/評価
二塩化トリフェニルビスマスを有するか、有しないPURプレートおよびフィルム(二塩化トリフェニルビスマスを有するものは、例1に記載したものと同じである)を、新鮮採取ヒト血液を用いて、トロンボゲン形成性の評価のために試験した。血液成分を材料と接触させている間、トロンビン−抗トロンビンIII複合体(TAT)の動力学的発生を、トロンビン生成の指標として分析した。トロンビンは、凝固回路における主要成分である。トロンビンは、血小板のための強力な活性化剤であり、フィブリンーゲンを、重合化されたフィブリンネットワーク、すなわちクロットを最終的にもたらすフィブリンに分解するからである。TATを、市販のELISA試験により、製造者(ベーリング社、ドイツ)の指示に従って測定した。材料/表面の比較を変性ポリマーシステムと非変性ポリマーシステムとの直接比較により行う。TATについての促進された反応動力学は、より生体適合性でなく、よりトロンボゲン形成性の材料を示す。
【0063】
トロンボゲン形成性の評価のための方法の詳細について:Deppisch R.ら(1993)Nephrol.Dial.Transplant Supp.3(1994)17〜23およびTsaiら(1994)ASAIO J.40:M619〜M624。
【0064】
インビトロ分析を、新鮮採取ヒト全血を用いて行った。例1に従って調製したTEGOMER−PUR−Biフィルムについて、40分の血液接触後のTATデータを表1に示す。
【表1】

【0065】
表1に記載されたデータは、表面上のフィルムが、非処理標準PUR表面(Thermedics社によるポリウレタン製剤、Tecoflex(登録商標)は、血液透析カテーテルでの標準ポリマー材料である)に比べて、全血におけるトロンビン形成の現象を尾もたらすことを示している。ビスマス錯体のないフィルムと比べて、ビスマス錯体二塩化トリフェニルビスマスを加えることによる負の影響はない。これらの実験は、>2000μg/lのTAT生成をもたらすスチレン(グライナー組織培養プレートで使用されている)である正の対照に対して行った。
【0066】
例3
細胞毒性の研究
例1で調製したフィルムコーティングの種々の組み合わせの毒性を、細胞成長の阻害(ICG)を測定することにより評価した。ICGは、種々の試験材料の水性溶出物を作り、ついでこの水性溶出物を含有する培地中で成長する哺乳動物細胞にインキュベートした後、中性赤の吸収により細胞の生存率を評価することによって測定した。
【0067】
ICG試験は、96穴組織培養プレートを、完全イーグル(MEM)(細胞培養についての教科書に記載されている最小必須培地)中で48〜72時間サブコンフルエンスまで予め成長させた1500〜2000のマウスフィブロブラスト細胞(株L−929)を播種することによって開始した。これらプレートを37℃で24時間インキュベートした。ついで、培地を除去し、試験溶出物を添加し、インキュベートした。試験溶出物は、試験プレートまたはフィルムを蒸留水(各10cm2の試験材料につき1ml)中で70℃で24時間インキュベートすることにより作った。
【0068】
各プレートについて、250μlの0.4%中性赤溶液を20mlの完全イーグルMEMと混合した。溶出物インキュベーション培地を除去し、200μl/穴の中性赤含有培地を添加した。ついで、プレートを37℃で3時間インキュベートした。ついで、溶液を捨て、プレートを200μl/穴ですすいだ。その後、200μl/穴の蒸留水中50%(v/v)エタノールおよび1%(v/v)酢酸を加えた。10分間放置後、各穴の540nmにおける吸光度を測定した。ICG%は、(AK−AT)/AK×100(ここで、AT=試験溶液における平均吸光度マイナスブランクにおける平均吸光度)として計算した。ウィーズランデルらによる(1991)キドニー・インターナショナル49:77.79に記載されているように、ICGが<30%であれば、材料は非毒性であるとみなされる。
【0069】
以下の材料を用いた:
完全イーグルMEM:
500mlのイーグルMEM
500mlの子牛血清
5mlの200mML−グルタミン
5mlの非必須アミノ酸溶液
0.5mlのゲンタマイシン50mg/ml
PBS(10×ストック溶液)
NaCl 80g
KCl 2g
KH2PO4 2g
Na2HPO4・H2O 11g
1000ml最終堆積までH2Oに溶かす。
【0070】
ストック溶液を10倍希釈し、pHを7.2に調整する。
【0071】
50%エタノール、1%酢酸溶液:
500mlのエタノール(96%)
490mlの水
10mlの氷酢酸
4%中性赤ストック溶液:
4gの中性赤(メルクNo.1376)
100mlの蒸留水
使用前に10倍希釈する。
【0072】
調べたフィルム(例1に従って調製)の結果を表2に示す。
【表2】

【0073】
0.08重量%のビスマスに相当する0.2重量%までの二塩化トリフェニルビスマス濃度を有するフィルム(5〜20μm厚)は、ICGアッセイにおいて非毒性であった。0.24重量%およびビスマスに相当する0.6重量%およびそれ以上の二塩化トリフェニルビスマスを有するフィルムは毒性であった。
【0074】
該表に示されているように、細胞成長の阻害は、ビスマスの濃度>0.2%においてのみ見られる。これらの結果は、トロンボゲン形成性とともに、ポリウレタンPL−PDMS−PL製剤用の添加剤成分としてのビスマスが、トロンビンの減少した生成に効果を有し、低濃度(<0.08%ビスマス)で毒性を持たないことを示している。このことは、臨床状況での血栓形成およびクロット堆積の減少した危険性をもたらし、それによりクロット形成とその後のバクテリア増殖またはその逆という関連事象を有利に取り扱いまたは制限する。クロット層、すなわち捕捉された血小板または他の血液細胞を有するフィブリンネットワークがバクテリア付着およびバイオフィルム展開のための良好な基質を提供することが知られているからである。
【0075】
例4
バクテリアの付着
バクテリアの付着を、2つの異なる方法、すなわちバクテリア増殖のMTTアッセイおよび走査型電子顕微鏡法により試験した。MTT試験は、着色した不溶性のホルマザン塩の生成に基づく迅速で敏感な比色検定である。生成したホルマザンの量は細胞数に直接比例し、したがって、細胞の生存率および増殖を測定するために用いることができる。この検定は、還元反応により黄色の水溶性テトラゾリウム塩(=MTT)を紫色の不溶性ホルマザン生成物に変換するミトコンドリアデヒドロゲナーゼ酵素の能力に基づく。これらの不溶性結晶は、DMSOに溶解し、分光光度計により550〜570nmで吸光度を読み取る。
【0076】
MTT試験を、トリプカーゼ(trypcase)−ソーヤ(soja)−ブイヨン中105/ml濃度のスタフィロコッカス・エピダーミス(ATCC 12228)を種々のフィルムを有する24穴プレートに播種することにより開始し、37℃で4時間、8時間、24時間、48時間インキュベートした。インキュベート後、ブイヨンを除去し、プレートをPBSバッファーで洗浄した。ついで、500μl/穴のMTT溶液(PBS中0.5mg/ml)を加え、35℃でさらに30分間インキュベートした。溶液を除去し、500μl/穴の溶解溶液(99.4mlのDMSO;0.6mlの100%氷酢酸;10gのSDS)を加えた。マイクロタイターシェーカー上で10分間のインキュベート後、溶液をピペットで96穴プレートに入れ、55nm(参照の620nmに対し)で吸光度を測定した。
【0077】
以下の材料を用いた:
スタフィロコッカス・エピダーミス ATCC 12228
プレート−カウント−寒天(plate-count-agar)
トリプカーゼ−ソーヤブイヨン
PBSバッファー: 8.0gのNaCl
0.2gのKCl
1.44gのNa2HPO4 × 2H2O
0.2gのKH2PO4
1000mlの蒸留水に溶解;pH7.2
MTT溶液(PBS中0.5mg/ml)
溶解液(99.4mlのDMSO;0.6mlの氷酢酸;10gのSDS)。
【0078】
ポリマー組成物中にビスマス錯体を添加することは、MTTで測定してバクテリアの増殖の完全な阻害をもたらすことが明確に示された(表3)。低濃度、すなわち非毒性、例えば0.03%のビスマスを添加すること、バクテリアの増殖の阻害は、抽出物の細胞毒性と相関し得ないことは最も重要である。
【表3】

【0079】
他の方法、すなわちビスマス含有PL−PDMS−PL PUR−ポリマーフィルム上にバクテリア増殖の電子顕微鏡試験を行った。これらの実験により、32時間の時間にわたってBi修飾表面上にバクテリア増殖がないことが明確に確認され得る。バクテリアのコロニー形成またはバイオフィルムの形成は生じなかった。
【0080】
例5
ビスマスの表面濃度(XPS)
表面上のビスマスの存在を調べるために、X線蛍光分光分析(XPS)を適用した。例1におけるように調製したフィルムについての結果を異なるテークオフ(take-off)角(TOA)10°および90°で受け取った。テークオフ角が大きいほど、この分析の浸透深さ(penetration depth)が高い。データは、二塩化トリフェニルビスマスを含有するフィルムの表面上にビスマスが検出できることを示している。濃度は、XPSによるビスマスの検出限界に近い。
【表4】

【0081】
本発明の材料を特性決定するために、ビスマスの表面濃度の分析をポリマーフィルムについて行った。0.08%ビスマスを含有するフィルムにおいて、0.006原子%が表面上に見いだされた。これは、バクテリアの増殖およびバイオフィルムの形成を防止する上で最高濃度であるべきである。このビスマス濃度は、非常に低く、そうであってさえも驚くべきほど効果的である。
【0082】
例7
水性溶出物中のビスマス
フィルムを、ビスマスを放出するその能力によりさらに特性決定した。表参照。これらのフィルムは水性環境中で、600cm2のビスマス含有ポリマーフィルムに使用したポリマー組成物に加えたビスマスの合計量0.05%未満である0.02mg/lの抽出液体を放出することが示された。
【表5】

【0083】
例8
ヒト全血による抽出後のビスマス
塗布したカテーテルを、ヒト血液中にビスマスを放出するその能力により試験した。すなわち、各カテーテルの抽出のために、50mlのクエン酸塩添加/ヘパリン化全血を用いた。抽出は、処理期間および処理間脈管内位置(inter-treatment intravascular position)のサイクルをシミュレートするために、6時間の再循環およびインキュベーター中で24時間により行った。測定のために、試料を硝酸で処理して血液成分マトリックスからBiを放出させ、分析器具の正確さ内で、AASで測定した。全血中のビスマスの測定可能な量は、ビスマス−SMAコートカテーテル(3つのカテーテルの平均値)ついては、標準のカテーテル(コーティングなし)についてとほぼ同じであった。血液中において測定可能なビスマスの富化はなかった。
【表6】

【0084】
例9
フィルムの調製
工程1:
80gのメチルイソブチルケトン
20gのシリコンMED1011(Nusil、Polytec GmbH)
軽い攪拌下に、室温で約20分攪拌する。MED−1011は一液の自己レベリング性シリコーンである。
【0085】
工程2:
0.01gビスマスに相当する0.03gの二塩化トリフェニルビスマス(511.21g/モル)(アルドリッチ)を添加する。約10分間室温で軽く攪拌する。
【0086】
a.支持ホイル、例えばポリエチレンを有するガラスプレート上にフィルムを流延する
b.シリコンカテーテルチューブの外側および内側に上記溶液を通じることによりフィルムを形成する。
【0087】
フィルムを走査型電子顕微鏡により調べた。
【0088】
例10:
バクテリアの付着
バクテリアの付着および増殖を、BacTrac System(Sy−Lab GmbH、オーストリア)で測定した。このインピーダンス法では、微生物の代謝により引き起こされる栄養媒体のイオン性組成の変化をパラメータとして用い、全ての代謝出力の合計が連続的に検出される。インピーダンスの変化は、試料上の増殖するバクテリアの量と相関する。
【0089】
この方法は、Futschikら(1995):微生物の検出および特性決定のための電極および媒体インピーダンスに記載されている。Proceedings RC IEEE−EMBS&14th BMESI、1.75〜1.76。
【0090】
バクテリアの付着および増殖の測定のために、例9で調製したフィルムを、トリプカーゼ−ソーヤブイヨン中濃度30*106のスタフィロコッカス・エピダーミディスで37℃で24時間インキュベートした。
【0091】
ついで、予めインキュベートしたフィルムを新鮮なブイヨンで満たしたBacTracシステムの測定セルに移した。BacTracによるインピーダンス測定を20時間に渡って行った。
【0092】
シリコンポリマー組成物にビスマスを添加することが、PUR/SMAビスマス組成物についてすでに示されているように、増殖の阻害/遅延をもたらすことが示された。
【0093】
例11:
シリコーン−ビスマスフィルムのICGレベル
例11は、例3に従って例9で製造したシリコン−ビスマスフィルムについて行った。
【0094】
調べたフィルム(例9に従って製造)の結果を表7に示す。
【表7】

【0095】
0.2重量%ビスマスに相当する0.5重量%の二塩化トリフェニルビスマス濃度を有するフィルム(5〜20μm厚)は、ICGアッセイで毒性である。ビスマスのないシリコンフィルムおよび0.06%ビスマスに相当する0.15重量%の二塩化トリフェニルビスマス濃度を有するフィルムは、細胞増殖の阻害を示さない。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】非塗工製品に対する、0.03%Biを含めたPUR/SMAにより塗工された製品についてのバクテリア増殖のグラフ。
【図2】非塗工製品に対する、0.06%Biを含めたシリコン製品についてのバクテリア増殖、0.03%Biを含めたPUR/SMAにより塗工された製品と非塗工製品についてのバクテリア増殖のグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液、組織、皮膚、上皮層、傷、培養液中の細胞、体液、透析液および/または除去もしくは輸液用治療液と接触することが意図された表面を有する製品のための生体適合性ポリマー組成物であって、該ポリマー組成物は、ビスマス錯体を、該ポリマー組成物の0.001〜0.5重量%ビスマス、より好ましくは0.001〜0.1重量%ビスマス、最も好ましくは0.002〜0.08重量%に相当する量で該ポリマー組成物中に含むことを特徴とする生体適合性ポリマー組成物。
【請求項2】
前記ポリマー組成物が、ビスマス錯体を含むナノ粒子をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載の生体適合性ポリマー組成物。
【請求項3】
前記ビスマス錯体が、クエン酸ビスマスアンモニウム、酸化ビスマス(III)、没食子酸ビスマス(III)水和物、クエン酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス(III)、テトラメチルヘプタン二酸ビスマス(III)、ビスマス(III)ヘキサフルオロアセトネート、サブサリチル酸ビスマス(III)、トリフェニルビスマス、ビスマス(III)キプロフロキサシン、塩化ビスマス(III)、二塩化トリフェニルビスマス、トリフェニルビスマスカーボネート、二水酸化トリフェニルビスマス、二硝酸トリフェニルビスマス、二サリチル酸トリフェニルビスマス、トリフェニルビスムチン、トリフェニルビスマス(2−クロロアセテート)、トリフェニルビスマスビス(4−アミノベンゾエート)、ビス(アセタト−O)トリフェニルビスマス、ジブロモトリフェニルビスマスおよびジフルオロトリフェニルビスマスからなる群の中から選ばれることを特徴とする請求項1または2に記載の生体適合性ポリマー組成物。
【請求項4】
前記ビスマス錯体が、トリフェニルビスマスまたは二塩化トリフェニルビスマス、好ましくは二塩化トリフェニルビスマスであることを特徴とする請求項1または2に記載の生体適合性ポリマー組成物。
【請求項5】
前記ポリマー組成物が、フィルム形成性ポリマー成分を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生体適合性ポリマー組成物。
【請求項6】
前記フィルム形成性ポリマーが、シロキサンポリマーおよび/またはシロキサンオリゴマーであることを特徴とする請求項5に記載の生体適合性ポリマー組成物。
【請求項7】
前記ポリマー組成物が、反応性末端基を有する疎水性ポリマーブロックをさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の生体適合性ポリマー組成物。
【請求項8】
前記フィルム形成性ポリマーが、ポリウレタン、ポリオレフィン、エラストマー、ポリエチレングリコール、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリビニルピロリドンおよびポリ塩化ビニルからなる群の中から選ばれ、前記疎水性ブロックが、シロキサンポリマー、シロキサンオリゴマー、フルオロポリマー、ポリエチレングリコール、ポリエチレン繰りコース−ポリジメチルシロキサンコポリマー、シリコーンポリエステルおよびポリラクトン−ポリシロキサン−ポリラクトントリブロックコポリマーの群の中から選ばれることを特徴とする請求項7に記載の生体適合性ポリマー組成物。
【請求項9】
前記フィルム形成性ポリマーがポリウレタンであり、前記疎水性ポリマーブロックが1、2またはそれ以上の反応性末端基を含有するポリラクトン−ポリシロキサン−ポリラクトントリブロックコポリマーであることを特徴とする請求項8に記載の生体適合性ポリマー組成物。
【請求項10】
生体適合性ポリマー組成物の製造方法であって、ビスマス錯体を、該ポリマー組成物の0.001〜0.5重量%ビスマス、より好ましくは0.001〜0.1重量%ビスマス、最も好ましくは0.002〜0.08重量%に相当する量で該ポリマー組成物中に含めることを特徴とする方法。
【請求項11】
ビスマスを含有するナノ粒子を前記ポリマー組成物中に含めることを特徴とする請求項10に記載の生体適合性ポリマー組成物の製造方法。
【請求項12】
前記ビスマス錯体が、クエン酸ビスマスアンモニウム、酸化ビスマス(III)、没食子酸ビスマス(III)水和物、クエン酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス(III)、テトラメチルヘプタン二酸ビスマス(III)、ビスマス(III)ヘキサフルオロアセトネート、サブサリチル酸ビスマス(III)、トリフェニルビスマス、ビスマス(III)キプロフロキサシン、塩化ビスマス(III)、二塩化トリフェニルビスマス、トリフェニルビスマスカーボネート、二水酸化トリフェニルビスマス、二硝酸トリフェニルビスマス、二サリチル酸トリフェニルビスマス、トリフェニルビスムチン、トリフェニルビスマス(2−クロロアセテート)、トリフェニルビスマスビス(4−アミノベンゾエート)、ビス(アセタト−O)トリフェニルビスマス、ジブロモトリフェニルビスマスおよびジフルオロトリフェニルビスマスからなる群の中から選ばれることを特徴とする請求項10または11に記載の生体適合性ポリマー組成物の製造方法。
【請求項13】
前記ビスマス錯体が、トリフェニルビスマスまたは二塩化トリフェニルビスマス、好ましくは二塩化トリフェニルビスマスであることを特徴とする請求項10または11に記載の生体適合性ポリマー組成物の製造方法。
【請求項14】
溶媒の存在下に、フィルム形成性ポリマー組成物とビスマス錯体を、全ての成分が前記溶媒に溶解するように組み合わせる工程、
前記溶媒中に溶解した前記成分を、該成分を溶液中で互いに反応させる条件下でインキュベートする工程、および
前記溶液を、前記溶媒を蒸発させる条件下で、塗工すべき表面に展延する工程
を特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の生体適合性ポリマー組成物の製造
方法。
【請求項15】
前記フィルム形成性ポリマーが、シロキサンポリマーおよび/またはシロキサンオリゴマーであり、前記ビスマス錯体が、二塩化トリフェニルビスマスであることを特徴とする請求項10〜14のいずれか1項に記載の生体適合性ポリマー組成物の製造方法。
【請求項16】
溶媒の存在下に、フィルム形成性ポリマー組成物およびビスマス錯体を、前記フィルム形成性ポリマー成分と反応性の末端基を有する疎水性ポリマーブロックと、全ての成分が前記溶媒に溶解するように、組み合わせる工程、
前記溶媒中に溶解した前記成分を、該成分を溶液中で互いに反応させる条件下でインキュベートする工程、および
前記溶液を、前記溶媒を蒸発させる条件下で、塗工すべき表面に展延する工程
を特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の生体適合性ポリマー組成物の製造方法。
【請求項17】
前記フィルム形成性ポリマーがポリウレタンであり、前記ビスマス錯体が二塩化トリフェニルビスマスであり、前記疎水性ポリマーブロックが1、2またはそれ以上の反応性末端基を含有するポリラクトン−ポリシロキサン−ポリラクトントリブロックコポリマーであることを特徴とする請求項10〜13のいずれか1項に記載の生体適合性ポリマー組成物の製造方法。
【請求項18】
血液、組織、皮膚、上皮層、傷、培養液中の細胞、体液、透析液および/または除去もしくは輸液用治療液と接触することが意図された表面を有する製品であって、該製品は、ポリマー組成物であってビスマス錯体を該ポリマー組成物の0.001〜0.5重量%ビスマス、より好ましくは0.001〜0.1重量%ビスマス、最も好ましくは0.002〜0.08重量%に相当する量で含むところのポリマー組成物の少なくとも1つの、該製品を被覆するフィルムを有することを特徴とする製品。
【請求項19】
前記製品が、前記ポリマー組成物の多層塗膜を有することを特徴とする請求項18に記載の製品。
【請求項20】
前記製品が、前記ポリマー組成物の塗膜を有し、前記ポリマー組成物がビスマス錯体を含むナノ粒子をさらに含むことを特徴とする請求項18に記載の製品。
【請求項21】
前記ポリマー組成物が、フィルム形成性ポリマー成分を含むことを特徴とする請求項20に記載の製品。
【請求項22】
前記フィルム形成性ポリマーが、シロキサンポリマーおよび/またはシロキサンオリゴマーであることを特徴とする請求項21に記載の製品。
【請求項23】
前記ポリマー組成物が、1またはそれ以上の反応性末端基を有する疎水性ポリマーブロックをさらに含むことを特徴とする請求項21に記載の製品。
【請求項24】
前記フィルム形成性ポリマーが、ポリウレタン、ポリオレフィン、エラストマー、ポリエチレングリコール、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリビニルピロリドンおよびポリ塩化ビニルからなる群の中から選ばれ、前記疎水性ブロックが、シロキサンポリマー、シロキサンオリゴマー、フルオロポリマー、ポリエチレングリコール、ポリエチレン繰りコース−ポリジメチルシロキサンコポリマー、シリコーンポリエステルおよびポリラクトン−ポリシロキサン−ポリラクトントリブロックコポリマーの群の中から選ばれることを特徴とする請求項23に記載の製品。
【請求項25】
前記フィルム形成性ポリマーがポリウレタンであり、前記疎水性ポリマーブロックが1、2またはそれ以上の反応性末端基を含有するポリラクトン−ポリシロキサン−ポリラクトントリブロックコポリマーであることを特徴とする請求項24に記載の製品。
【請求項26】
生体適合性を向上させ、およびバクテリア増殖を防止するために、血液、組織、皮膚、上皮層、傷、培養液中の細胞、体液、透析液および/または除去もしくは輸液用治療液と接触することが意図された医療デバイスのための、ビスマス錯体を含有するポリマー組成物の使用。
【請求項27】
血液、組織、皮膚、上皮層、傷、培養液中の細胞、体液、透析液および/または除去もしくは輸液用治療液と接触する表面上での、ビスマス錯体を含有するポリマー組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−47764(P2010−47764A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−211665(P2009−211665)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【分割の表示】特願2006−500764(P2006−500764)の分割
【原出願日】平成16年5月24日(2004.5.24)
【出願人】(501473877)ガンブロ・ルンディア・エービー (49)
【氏名又は名称原語表記】GAMBRO LUNDIA AB
【Fターム(参考)】