説明

生体適合性材料

【課題】次世代の先端医療用具や人工臓器の開発のために、タンパク質や血球などの生体成分との相互作用が小さいなどの生体適合性に優れた生体適合性材料を提供する。
【解決手段】基材の表面が、式(I)で表される尿素エチル(メタ)アクリレート及び式(II)で表されるグルコシル尿素エチル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれた、少なくとも1種の重合性モノマーを重合させて得られる樹脂により被覆されてなる。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性材料及び該生体適合性材料を用いた医療用器具に関する。さらに詳しくは、各種カテーテル、ガイドワイヤー、人工血管、血液透析膜、内視鏡等の、人体又は動物に対する医療用器具として好適に使用し得る生体適合性材料及び該生体適合性材料を用いた医療用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、臨床で使用されるポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリ塩化ビニル等の医療用材料は単に工業用材料を転用したものであるため、血液適合性に関しては決して十分とは言えず、血液との接触に伴うタンパク質の表面吸着が原因で血栓が発生しやすい。血栓が形成されると血流を停止させたり、生成した血栓が血流と共に移動し、肺血栓症、脳血栓症、心筋梗塞、静脈炎等の合併症を引き起こすおそれがある。
【0003】
そのため、上記医療材料を実際に用いる場合、抗血液凝固剤を併用することが一般であるが、抗血液凝固剤等も投与が長期に渡った場合、肝臓障害、出血時間の延長、アレルギー反応等の様々な副作用が現れる可能性がある。
【0004】
そこで、これらの課題を解決する際に、キチン、キトサンなどの天然物糖類を医療用材料に用いることが提案されているが(特許文献1〜3参照)、天然物は優れた生体適合性を有する反面、入手が困難であったり、加工が難しいといった使い難いといった欠点を有する。
【0005】
【特許文献1】特開2000−024016号公報
【特許文献2】特開2000−107278号公報
【特許文献3】特開2003−024430号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、次世代の先端医療用具や人工臓器の開発のために、タンパク質や血球などの生体成分との相互作用が小さいなどの生体適合性に優れた生体適合性材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、基材の表面が、式(I):
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す)
で表される尿素エチル(メタ)アクリレート及び式(II):
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、R1は前記と同じ)
で表されるグルコシル尿素エチル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれた少なくとも1種の重合性モノマー(A)を重合させて得られる樹脂により被覆されてなる生体適合性材料、並びに該生体適合性材料を用いてなる医療用器具に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の生体適合性材料は、次世代の先端医療用具や人工臓器の開発のために、タンパク質や血球などの生体成分との相互作用がないか、あっても小さい等の優れた生体適合性を有するものである。さらに、本発明の生体適合性材料は、天然物に比べて安価に入手することのできる生体適合性樹脂を用いて得られるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の生体適合性材料は、基材の表面が、尿素エチル(メタ)アクリレート及びグルコシル尿素エチル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれた少なくとも1種の重合性モノマー(A)を重合させて得られる樹脂により被覆されたものである。かかる樹脂は、生体適合性樹脂であり、付近に存在する水をクラスターの状態でその表面に保持することができるため、特に、タンパク質の非特異吸着の防止に極めて有効である。以下、本発明における前記樹脂を生体適合性樹脂ともいう。
【0014】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリ」は、「アクリ」又は「メタクリ」を意味する。
【0015】
基材としては、特に限定されないが、医療用器具等の分野において一般的な素材を用いることができる。具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリルアミド誘導体、ポリスルホン、ポリカーボネート、セルロース、セルロース誘導体、ポリシリコーン、ガラス、セラミック、金属等が挙げられる。これらの素材は単独で用いられていても、組み合わせて用いられていてもよい。
【0016】
尿素エチル(メタ)アクリレートは、式(I):
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す)
で表される。かかる尿素エチル(メタ)アクリレートは、例えば、特開2005-104879公報に記載されている方法によって得ることができる。
【0019】
また、グルコシル尿素エチル(メタ)アクリレートは、式(II):
【0020】
【化4】

【0021】
(式中、R1は前記と同じ)
で表される。かかるグルコシル尿素エチル(メタ)アクリレートは、例えば、特開2004−018460公報に記載されている方法によって得ることができる。
【0022】
重合性モノマー(A)として、式(I)で表される尿素エチル(メタ)アクリレート及び式(II)で表されるグルコシル尿素エチル(メタ)アクリレートは、それぞれ単独で用いられていても両者が併用されていてもよい。尿素エチル(メタ)アクリレートとグルコシル尿素エチル(メタ)アクリレートとの重合比は、タンパク質の種類等によって吸着の阻害に対する効果が異なるため、特に限定されないが、例えば、レクチンによる認識が起こりにくいという観点から、糖残基と尿素結合と併せ持つ生体適合性樹脂が好ましく、少なくともグルコシル尿素エチル(メタ)アクリレートが用いられていることが好ましい。かかる観点からは、グルコシル尿素エチル(メタ)アクリレートの量は、重合性モノマー(A)の総量中、60重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましい。
【0023】
また、生体適合性樹脂は、重合性モノマー(A)と、式(III):
【0024】
【化5】

【0025】
(式中、R2は1価の有機基を示し、R1は前記と同じ)
で表される重合性モノマー(B)とを共重合させて得られる樹脂であることが好ましい。
【0026】
式(III)において、R1は、前記と同じである。R2は、1価の有機基を示す。R2の代表例としては、−COOR3基(R3は炭素数1〜22のアルキル基を示す)、−COO−R4−OH基(R4は炭素数1〜4のアルケニレン基を示す)、−CONR56基(R5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す)、−OCO−R7基(R7はメチル基又はエチル基を示す)、式(IV):
【0027】
【化6】

【0028】
(R8は炭素数3又は5のアルキレン基を示す)で表される基、式(V):
【0029】
【化7】

【0030】
(R9は炭素数2〜9のアルキレン基R10は水素原子又はメチル基を示す)で表される基等が挙げられる。R2の中では、−COO−R4−OH基、−COOR3基、−CONR56基及び式(IV)で表される基は、生体適合性の観点から好ましい。
【0031】
式(III)で表される重合性モノマー(B)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸エチルカルビトール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、スチレン、イタコン酸メチル、イタコン酸エチル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム等の単官能モノマー、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能モノマーが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
重合性モノマー(B)の好適な量は、本発明の生体適合性材料が使用される生体部位、使用目的等により異なるため一概には決定できないが、樹脂の親水性、耐水性、生体成分吸着性、剛性、加工成型のやりやすさ等にも関与する。これらの観点から、重合性モノマー(B)の量は、重合性モノマー(A)と重合性モノマー(B)の総量中、99重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましく、30重量%以下がさらに好ましい。
【0033】
生体適合性樹脂による基材の被覆方法は特に限定されず、予め調製した生体適合性樹脂を基材表面に付着させて、被膜を形成させる方法であっても、重合性モノマー((A)又は(A)及び(B))と重合開始剤とを混合して得られる液体を基材表面に塗布し、基材表面上で重合性モノマーを熱や光で重合させて、被膜を形成させる方法であってもよい。
【0034】
生体適合性樹脂を予め調製する方法としては、例えば、重合性モノマーを、水溶液や有機溶剤中で重合させる方法、具体的には、例えば、重合性モノマーを水及び/又は有機溶剤に十分に溶解させ、得られた溶液を攪拌しながら重合開始剤を添加し、重合させる方法等が挙げられる。
【0035】
前記有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、水やメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のアルキルエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族類、n-ヘキサン、c-ヘキサン等の炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル等の酢酸エステル類など通常の溶液重合用いられる溶剤が挙げられる。
【0036】
水や有機溶剤の使用量は、重合性モノマーを含む溶液中の重合性モノマーの濃度が、10〜80重量%程度となるように調整することが好ましい。
【0037】
前記重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、アゾイソブチロニトリル、アゾイソ酪酸メチル、アゾビスジメチルバレロニトリル、過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の通常のアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤や、ベンゾフェノン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、ベンゾケトン誘導体、フェニルチオエーテル誘導体、アジド誘導体、ジアゾ誘導体、ジスルフィド誘導体等の光重合開始剤が挙げられる。重合開始剤の使用量は、通常、重合性モノマーの総量100重量部に対して、0.01〜5重量部程度が好ましい。
【0038】
重合の際には、必要に応じて連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、特に限定されないが、例えば、ラウリルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリセロール等のメルカプタン基を有する化合物や、次亜リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の無機塩等が挙げられる。連鎖移動剤の量は、通常、重合性モノマーの総量100重量部に対して、0.01〜10重量部程度が好ましい。
【0039】
重合性モノマーを重合させる際の、温度、時間等の重合条件は、重合性モノマーや重合開始剤の種類によって適宜選択されるものであり、特に限定されないが、通常、反応率が高まる条件で行うことが好ましく、得られる樹脂中の未反応モノマーの残存量は少量であるほど好ましい。重合性モノマーの重合は、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスの雰囲気中で行ってもよい。
【0040】
重合反応の終了や反応系内における未反応モノマーの有無は、ガスクロマトグラフィー等の一般的な分析方法にて確認することができる。
【0041】
重合反応後、得られた生体適合性樹脂は、限外濾過膜などを用いて分画し、必要により常法で洗浄することにより、回収することができる。
【0042】
生体適合性樹脂を基材表面に付着させる方法としては、例えば、生体適合性樹脂を適宜有機溶媒等に溶解させて液状にし、塗布、スプレーにより、基材表面に塗布し、乾燥させる方法や、蒸着させる方法等がある。
【0043】
一方、基材表面上で重合性モノマーを重合させる場合は、重合性モノマーと重合開始剤を混合して液体を調製し、基材表面に塗布した後に、重合性モノマーを重合させるが、重合性モノマーの種類に応じて、水溶液や有機溶剤は用いても用いなくてもよい。重合開始剤は、重合条件によって適宜選択され、熱重合の場合には、前記のアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤を、光重合の場合には、前記の光重合開始剤を用いることができ、重合反応を基材表面で行う以外は、予め生体適合性樹脂を調製する場合と同様にして、重合性モノマーを重合させることができる。
【0044】
生体適合性樹脂の数平均分子量は、製造時の取扱い性及び生成物の加工性の観点から、好ましくは500〜200万、より好ましくは1000〜100万、さらに好ましくは3000〜10000である。生体適合性樹脂の数平均分子量は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0045】
本発明の生体適合性材料において、基材表面に形成される被膜には、前記生体適合性樹脂のみならず、必要により、本発明の効果が阻害されない範囲内で、他の重合体や添加剤が含まれていてもよい。
【0046】
本発明の生体適合性材料は、例えば、ドラックデリバリーシステム材、pH調整剤、成型補助材、包装材、人工血管、血液透析膜、カテーテル、コンタクトレンズ、血液フィルター、血液保存パック、人工臓器等の、公知の医薬品、医薬部外品、医療用器具等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0047】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
実施例1〔GUMA重合体の調製〕
グルコシル尿素エチルメタクリレート(GUMA)163.1mgに、光重合開始剤としてビス[4-(N,N-ジエチルジチオカルバモイルメチル)ベンゾイルアミノエチルスルフィド]3.3mg及びテトラエチルチラウムジスルフィド2.9mgを添加した混合物を、ジメチルスルホキシド4mLに溶解させた。得られた溶液に窒素ガスを15分間通した後、25℃の温度で窒素ガス雰囲気中、4時間紫外線を照射することにより、GUMAを光重合させた。
【0049】
次に、限外ろ過(分画分子量3000〜10000)で分画し、凍結乾燥することにより、生成した樹脂を回収した(収量10.7mg)。この樹脂の数平均分子量(Mn)は9000であった。なお、数平均分子量は、得られたポリマーの1H-NMRスペクトル(ジメチルスルホキシド(DMSO)-d6)を測定し、光重合開始剤由来のスルフィドのプロトンと、各モノマーのメチレンのプロトンの積分比より求めた。
【0050】
実施例2〔GUMAとUMA(9:1)のランダム共重合体の調製〕
GUMAと尿素エチルメタクリレート(UMA)を9:1(GUMA:UMA)のモル比で混合して調製した物質155.2mgに、光重合開始剤としてビス[4-(N,N-ジエチルジチオカルバモイルメチル)ベンゾイルアミノエチルスルフィド]6.7mg及びテトラエチルチラウムジスルフィド5.8mgを添加した混合物を、ジメチルスルホキシド4mLに溶解させた。得られた溶液に窒素ガスを15分間通した後、25℃の温度で窒素ガス雰囲気中、8時間紫外線を照射することにより、GUMAとUMAとを光重合させた。
【0051】
次に、限外ろ過(分画分子量3000〜10000)で分画し、凍結乾燥することにより、生成した樹脂を回収した(収量16.1mg)。この樹脂の数平均分子量(Mn)は6800であった。
【0052】
実施例3〔GUMAとUMA(8:2)のランダム共重合体の調製〕
GUMAとUMAのモル比を8:2(GUMA:UMA)に変更した以外は、実施例2と同様にして、GUMAとUMAとを光重合させて、樹脂を回収した(収量5.5mg)。この樹脂の数平均分子量(Mn)は6700であった。
【0053】
実施例4〔GUMAとUMA(6:4)のランダム共重合体の調製〕
GUMAとUMAのモル比を6:4(GUMA:UMA)に変更した以外は、実施例2と同様にして、GUMAとUMAとを光重合させて、樹脂を回収した(収量10.3mg)。この樹脂の数平均分子量(Mn)は8700であった。
【0054】
実施例5〔GUMAとUMA(4:6)のランダム共重合体の調製〕
GUMAとUMAのモル比を4:6(GUMA:UMA)に変更した以外は、実施例2と同様にして、GUMAとUMAとを光重合させて、樹脂を回収した(収量20.3mg)。この樹脂の数平均分子量(Mn)は9400であった。
【0055】
比較例1〔L-アスパラギン酸の重合体の調製〕
L-グルタミン酸34.5gを、ベンジルアルコール23mLと60%硫酸15mLの混合液に加えて溶解させた。60分間反応させた後、反応液を減圧濃縮した。濃縮後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和した。沈殿物をろ取後、純水でよく洗い、減圧乾燥させて前駆体Aを29.4g得た。
【0056】
得られた前駆体A 2.00g、脱水テトラヒドロフラン50mL及びトリフォスゲン3.0gを混合し、50℃で3時間反応させた。濃縮後、酢酸エチル、n-ヘキサン混合溶液で再結晶を行い、前駆体Bを1.74g得た。
【0057】
得られた前駆体B 1.65g及びシスタミンジハイドロクロライド78.2mgをジメチルホルムアミド5mLに溶解させた。70℃でトリエチルアミン0.1mLを加え、7日間反応させた。反応後、減圧濃縮しジエチルエーテルで再結晶を行い、前駆体Cを1.60g得た。
【0058】
得られた前駆体C 125mgを、ジメチルホルムアミド10mL及び1,4-ジオキサン6mLに溶解した。1N水酸化ナトリウム水溶液2mLを加え、0℃で6時間反応させた。反応後、1N硫酸で中性に調整し、限外ろ過(分画分子量1000)を行い、凍結乾燥し、樹脂(L−アスパラギン酸の重合体)を回収した(収量62.1g)。
【0059】
比較例2〔L-グルタミン酸の重合体の調製〕
L-グルタミン酸29.4gを、ベンジルアルコール23mLと60%硫酸15mLの混合液に加えて溶解させた。60分間反応させた後、反応液を減圧濃縮した。濃縮後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、沈殿物をろ取後、純水でよく洗い減圧乾燥させて前駆体A’を29.4g得た。
【0060】
得られた前駆体A’ 2.31g、脱水テトラヒドロフラン50mL及びトリフォスゲン3.4gを加え、50℃で3時間反応させた。濃縮後、酢酸エチル、n-ヘキサン混合溶液で再結晶を行い、前駆体B’を1.92g得た。
【0061】
得られた前駆体B’ 1.85g及びシスタミンジハイドロクロライド79.4mgをジメチルホルムアミド5mLに溶解させた。70℃でトリエチルアミン0.1mLを加え、7日間反応させた。反応後、減圧濃縮しジエチルエーテルで再結晶を行い、前駆体C’を1.50g得た。
【0062】
得られた前駆体C’ 114mgをジメチルホルムアミド10mL及び1,4-ジオキサン6mLに溶解させた。1N水酸化ナトリウム水溶液2mLを加え、0℃で6時間反応させた。反応後、1N硫酸で中性に調整し、限外ろ過(分画分子量1000)を行い、凍結乾燥し、樹脂(L−グルタミン酸重合体)を回収した(収量52.8mg)。
【0063】
比較例3〔L-リジンの重合体の調製〕
N,N’-ジカルボベンゾキシ-L-リジン4.03gを、1,4-ジオキサン10mLとジエチルエーテル15mLの混合液に加えて溶解させた。氷冷中で攪拌しながら徐々に5塩化リン2.41gを加え、60分間反応させた後、反応液を減圧濃縮した。粗結晶を酢酸エチル、n-ヘキサンにより再結晶を行い、減圧乾燥させて白色の前駆体A”を2.41g得た。
【0064】
得られた前駆体A” 1.84g及びシスタミンジヒドロクロライド67mgをジメチルホルムアミド20mLに溶解させた。70℃で攪拌しながらトリエチルアミン0.1mLを加え、7日間反応させた後、反応液を減圧濃縮し、生成物を酢酸エチルで沈殿させた。その後、減圧乾燥させて黄色の前駆体B”を1.07g得た。
【0065】
三つ口フラスコ中で、前駆体B” 0.50gをトリフルオロ酢酸10mLに溶解させた。窒素ガス気流中、溶液を45℃で撹拌しながら、25%臭化水素-酢酸溶液5mLを加え、4時間反応させた。反応後、トリエチルアミンを加えて中和し、透析膜(重量平均分子量=1000)で1週間透析を行った。その後、0.1N塩酸溶液1mLを加え、さらに透析を2日間行った後、凍結乾燥を行って、樹脂(L-リジンの重合体)を回収した(収量160mg)。
【0066】
実験例1
実施例1、5及び比較例1〜3で得られた樹脂からなる自己組織化単分子膜のサイクリック・ボルタンメトリーを以下の方法により調べた。
【0067】
電極として、金電極(AUE6.0×1.6mm;BAS)をアルミナ粉で磨いた後、この金電極に超音波(Sine Sonic150, Sine)を30秒間照射した。この操作を数回繰り返した後、サイクリック・ボルタモグラム[ポテンシオ・スタット:北斗電工(株)製、品番:HA-301]、ファンクショナル・ジェネレーター[北斗電工(株)製、品番:HA-104]、電流及び交流−直流変換器[エプソン社製、品番:PC-486SE]を用い、0.1N硫酸水溶液に、超音波を照射した金電極を浸漬して-0.4〜1.5Vの電圧を印加した。
【0068】
次に、金電極の表面を洗浄した後、その金電極を0.5M塩化カリウム及び5mMヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムを含有する水溶液に浸漬し、掃引速度10mV/s及び印加電圧0.6〜-0.3Vでサイクリック・ボルタモグラムを調べ、電位差(以下、ΔEpという)が65mV以下になっていることを確認した後、この金電極を用いた。
【0069】
実施例1、5又は比較例1〜3で得られた樹脂の水溶液1mg/mLに、前記金電極を24時間浸漬した後、樹脂で被覆された金電極を引き上げ、精製水で数回洗浄した。
【0070】
金電極の表面に形成された実施例1、5又は比較例1〜3で得られた樹脂からなる自己組織化単分子膜の、タンパク質の非特異吸着を、1mMヒドロキノン及び0.1M硫酸ナトリウムを含み、pHが7.0の10mMリン酸緩衝液(以下、HQ溶液という)を用いて、以下の方法により観察した。
【0071】
牛血清アルブミン(BSA、等電点(pI):4.8、66kD)又はリゾチーム(pI:10.9、1.4kD)をpH7.0の10mMリン酸緩衝液(HQ溶液)に溶解させ、タンパク質溶液(1mg/mL)を調製した。予めHQ溶液でサイクリック・ボルタモグラムを調べ、その電位差を0mVとした後、実施例1、5又は比較例1〜3で得られた樹脂で被覆した金電極及び被覆していない金電極(Bare Au)をタンパク質溶液に浸漬し、一定時間ごとに引き上げて、精製水で数回濯いだ後、HQ溶液でサイクリック・ボルタモグラムを測定した。
【0072】
タンパク質溶液に浸漬後のΔEpから浸漬する前のΔEpを差し引き、その値をdΔEpの値とした。
【0073】
自己組織化単分子膜の表面上にタンパク質等の吸着がない場合には、吸着質以外に酸化還元物質の移動を妨げるものが無いため、dΔEpの値は0mVとなる。これに対し、自己組織化単分子膜上の環境が非特異吸着等により変化したとき、酸化還元物質の移動が妨げられるため、dΔEpの値は増加する。このことを利用して、タンパク質の非特異吸着等を観測した。その結果を図1、2に示す。
【0074】
図1は、実験例1における牛血清アルブミンの非特異的吸着の評価(dΔEp)の結果を示す。図1に示された結果から、単分子膜が形成されていない金電極(Bare Au)を用いた場合及び比較例1、3に比べて、実施例1、5及び比較例2のdΔEpの増加量は小さいことがわかる。このことから、実施例1、5による生体適合性樹脂からなる自己組織化単分子膜が形成された金電極は、その表面へのタンパク質の吸着量が少ないので、生体適合性に優れていることがわかる。
【0075】
図2は、実験例1におけるリゾチームの非特異的吸着の評価(dΔEp)の結果を示す。図2に示された結果から、単分子膜が形成されていない金電極(Bare Au)を用いた場合及び比較例1〜3に比べて、実施例1、5のdΔEpの増加量は小さいことがわかる。このことから、実施例1、5による生体適合性樹脂からなる自己組織化単分子膜が形成された金電極は、その表面へのタンパク質の吸着量が少ないので、生体適合性に優れていることがわかる。
【0076】
実験例2
実施例1、5及び比較例1〜3で得られた樹脂の局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を利用した紫外可視分光測定を、以下の方法により行った。
【0077】
(1) 金コロイドの調製
金コロイドを調製する際に使用するガラス器具は予め王水(濃塩酸:濃硝酸=3:1(容量比))で洗浄し、超純水で十分に濯いだ。金コロイドは、100℃の水中でクエン酸三ナトリウムを用い、塩化金酸(HAuCl4)を還元して調製した。調製した金コロイドの流体力学的直径を、動的光散乱測定(He-Neレーザー(波長632.8nm)、大塚電子(株)製、品番:DLS-7000)により算出したところ、約20nmであった。
【0078】
(2) 金コロイドのガラス基板への固定(センサーチップの作製)
24mm×14mmにカットしたカバーガラス(厚み0.15mm、松浪硝子(株)製)を3容量%コンタミノンN水溶液中で2時間超音波洗浄した後、超純水でコンタミノンを洗い流した。さらに、濃硝酸中で4時間洗浄し、超純水で十分に濃硝酸を洗い流した後、70℃の乾燥機で乾燥させた。乾燥させたガラス基板を、3-アミノプロピルトリエトキシシランのエタノール溶液(10容量%)に室温で1時間浸漬した後、超純水で十分に洗浄し、20秒間超音波洗浄した。さらに、70℃の乾燥機で3時間乾燥させた。表面にアミノ基を導入したこのガラス基板を金コロイド溶液中に4時間浸漬させた。超純水で十分にすすぎ、70℃の乾燥機で乾燥させて、センサーチップを得た。
【0079】
(3) 樹脂によるセンサーチップの被覆
防爆冷蔵庫(5℃)内にて、センサーチップを、実施例1、5又は比較例1〜3で得られた樹脂を超純水に溶解させたポリマー溶液(1mg/mL)に24時間浸漬して、センサーチップ上に自己組織化単分子膜を形成した後、超純水で数回濯いだ。
【0080】
(4) LSPR測定
センサーチップの表面に形成された実施例1、5又は比較例1〜3で得られた樹脂からなる自己組織化単分子膜の、タンパク質の非特異吸着を、以下の方法により観察した。
【0081】
牛血清アルブミン(BSA、pI:4.8、66kD)又はリゾチーム(pI:10.9、1.4kD)をpH7.0の10mMリン酸緩衝液に溶解させ、タンパク質溶液(1mg/mL)を調製した。自己組織化単分子膜により被覆されたセンサーチップを、タンパク質溶液に24時間浸漬させ、波長を550nmに固定して局在表面プラズモンの吸収スペクトルの経時変化を測定した。吸収スペクトルの経時変化は、紫外可視分光光度計(Lambda 19 UV/VIS/NIR Spectrometer、パーキンエルマー社製)及びマイクロコンピューター(富士通(株)製、FMV 6350DX2)により測定した。その結果を図3、4に示す。
【0082】
自己組織化単分子膜の表面上にタンパク質等の吸着がない場合には、生体適合性に優れた材料となる。これに対し、自己組織化単分子膜上の環境が非特異吸着等によりタンパク質が付着した場合、ΔAbsの値は増加する。このことを利用して、タンパク質の非特異吸着等を観測した。その結果を図3、4に示す。
【0083】
図3は、実験例2における牛血清アルブミンの非特異的吸着の評価(ΔAbs)の結果を示す。図3に示された結果から、単分子膜が形成されていない金電極を用いた場合(図3中のBare Au)及び比較例1〜3に比べて、実施例1、5のΔAbsは小さいことがわかる。このことから、実施例1、5による生体適合性樹脂からなる自己組織化単分子膜が形成された金電極は、その表面へのタンパク質の吸着量が少ないので、生体適合性に優れていることがわかる。
【0084】
図4は、実験例2におけるリゾチームの非特異的吸着の評価(ΔAbs)の結果を示す。図4に示された結果から、単分子膜が形成されていない金電極を用いた場合(図4中のBare Au)及び比較例1〜3に比べて、実施例1、5のΔAbsは小さいことがわかる。このことから、実施例1、5による生体適合性樹脂からなる自己組織化単分子膜が形成された金電極は、その表面へのタンパク質の吸着量が少ないので、生体適合性に優れていることがわかる。
【0085】
実験例3
牛血清アルブミン又はリゾチームの代わりに、コンカナバリンA又は小麦胚凝集素を用い、実験例2と同様にして、実施例1、4、5で得られた樹脂の局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を利用した紫外可視分光測定を行い、タンパク質溶液への浸漬前後の吸光度の差(ΔAbs)を求めた。結果を図5、6に示す。
【0086】
図5は、実験例3におけるコンカナバリンAの非特異的吸着の評価(ΔAbs)の結果を、示す。図5に示された結果から、単分子膜が形成されていない金電極を用いた場合(図5中のBare Au)に比べて、実施例1、4、5のΔAbsは小さいことがわかる。このことから、GUMAとUMAの比率に関係なく、実施例1、4、5による生体適合性樹脂からなる自己組織化単分子膜が形成された金電極は、その表面へのタンパク質の吸着量が少ないので、生体適合性に優れていることがわかる。
【0087】
図6は、実験例3における小麦胚凝集素の非特異的吸着の評価(ΔAbs)の結果を示す。図6に示された結果から、単分子膜が形成されていない金電極を用いた場合(図6中のBare Au)に比べて、実施例1、4、5のΔAbsは小さいことがわかる。このことから、GUMAとUMAの比率に関係なく、実施例1、4、5による生体適合性樹脂からなる自己組織化単分子膜が形成された金電極は、その表面へのタンパク質の吸着量が少ないので、生体適合性に優れていることがわかる。
【0088】
以上の結果から、実施例で得られた生体適合性樹脂は、タンパク質の種類や等電点に関係なく、タンパク質の非特異吸着が防止されるため、生体適合性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の生体適合性材料は、生体適合性に優れているので、例えば、食品、食品添加物、医薬品、医薬部外品、医療用具、化粧品、トイレタリー商品などに好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実験例1における牛血清アルブミンの非特異的吸着の評価(dΔEp)の結果を示す図である。
【図2】実験例1におけるリゾチームの非特異的吸着の評価(dΔEp)の結果を示す図である。
【図3】実験例2における牛血清アルブミンの非特異的吸着の評価(ΔAbs)の結果を示す図である。
【図4】実験例2におけるリゾチームの非特異的吸着の評価(ΔAbs)の結果を示す図である。
【図5】実験例3におけるコンカナバリンAの非特異的吸着の評価(ΔAbs)の結果を示す図である。
【図6】実験例3における小麦胚凝集素の非特異的吸着の評価(ΔAbs)の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面が、式(I):
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基を示す)
で表される尿素エチル(メタ)アクリレート及び式(II):
【化2】

(式中、R1は前記と同じ)
で表されるグルコシル尿素エチル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれた少なくとも1種の重合性モノマー(A)を重合させて得られる樹脂により被覆されてなる生体適合性材料。
【請求項2】
樹脂が、重合性モノマー(A)と、式(III):
【化3】

(式中、R2は1価の有機基を示し、R1は前記と同じ)
で表される重合性モノマー(B)とを共重合させて得られる樹脂である請求項1記載の生体適合性材料。
【請求項3】
請求項1又は2記載の生体適合性材料を用いてなる医療用器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−295986(P2007−295986A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124270(P2006−124270)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年11月12日 日本化学会近畿支部主催の「平成17年度北陸地区講演会と研究発表会」において文書をもって発表
【出願人】(000205638)大阪有機化学工業株式会社 (101)
【Fターム(参考)】