生体適合性高分子を用いた多機能性造影剤及びその製造方法
本発明は、生体適合性高分子を用いた造影剤及びこの製造方法に関するものである。より詳細には、ポリスクシンイミド高分子の主鎖に、生体利用率を増進させる、生体適合性である親水性基、ナノ粒子の製造時に、安定したナノ粒子の形態を長時間維持させ、疎水性抗ガン剤を封入できる疎水性基に加えて、アルカノールアミン基を導入することによる、新規なポリスクシンイミド系高分子を生成することによって製造した多機能性造影剤に関するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性高分子を用いた多機能性造影剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の疾病を早期診断できるいくつもの画像化技術のうち、MRIは、X線やCTよりも、有害な放射線に暴露されることがほとんどなく、また、診断上の敏感度及び特異度も向上させることができ、近年では、MR機材設備とソフトウェアが急速に発展するにつれて、優れた映像の獲得が短時間で可能になっている。MRIは、治療後の評価において相当部分CTに取って代わられている。
【0003】
MRI造影剤は、ガドリニウム(Gd)、マンガン(Mn)、酸化鉄(Fe)のような常磁性物質を用いたコロイド溶液である。有毒物質であるガドリニウムやマンガンは、有機物でキレートを共役させ、毒性を放出しないようにするが、人体に注射する過程でキレート有機物が分離してしまい、人を有毒な金属に露出させる危険な状況を招き、半減期が約14分と短く、正確かつ精密な診断に用い難いという不利益がある。その一方、酸化鉄造影剤は、既に安全性試験を通過した造影剤であり、かつ、体内に約8時間以上滞在することができるので、正確な診断が可能である。しかしながら、既存の酸化鉄ナノ粒子は、250℃またはそれ以上の高反応温度と数十時間の反応時間などのため、開発が進んでおらず、それらの製造の新規な方法が長年にわたって切実に望まれてきた。
【0004】
韓国特許第634381号は、分子量が1,000〜100,000の主鎖であるポリスクシンイミドと、分子量が100〜20,000の範囲の親水性基と、炭素が3〜80のアミンまたはリン脂質由来の疎水性基及び造影剤が捕集されているキレート基で構成されたポリスクシンイミド系高分子及びこれを用いた造影剤を開示している。しかしながら、粒径の調節が難しく、解像度、感度において問題がみられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国特許第634381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者らは、上記のような問題を解決するために研究したところ、出発物質と無水マレイン酸を反応させて得られたポリスクシンイミドBaypure(登録商標) DSPを用いることで毒性の問題を解決した。さらに、ポリスクシンイミド高分子の主鎖に、生体利用率を向上可能である生体適合性のある親水性基と、ナノ粒子の製造時に安定したナノ粒子の形を維持することができる疎水性基と、酸化鉄造影剤を結合させるためのアルカノールアミン基を導入することにより、T2造影剤を製造することができた。診断及び治療効果のために、上記T2造影剤に抗ガン剤を封入することで診断治療剤を製造した。製造された診断治療剤は、韓国特許第634381号で開示された造影剤よりも、多様性、粒径の調節、解像度、感度、多機能性、治療効果に優れた多機能性薬物送達システムを示したことにより、本発明を完成した。
【0007】
従って、本発明の目的は、生体適合性であるポリスクシンイミドを主鎖とし、さまざまな官能基が結合して構成された、疾病診断のためのMRI測定のための酸化鉄造影剤の提供である。本願の他の目的は、疾病の診断及び治療のための抗ガン剤を封入した診断治療剤の提供である。さらに本願の他の目的は、近赤外線蛍光測定(NIFR)のための光学画像造影剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、
(a)1,000〜100,000の範囲の分子量を有する無水マレイン酸から合成されたポリスクシンイミドで構成された主鎖
(b)100〜20,000の範囲の分子量を有する、ポリエチレングリコール、ポリビニールピロリドン、デキストラン、ポリエチレンオキサイド、ポリリジンまたはポリビニールアルコール由来の親水性基、炭素数3〜80のアミンまたはリン脂質由来の疎水性基、及びガドリニウム、マンガン、酸化鉄、アルミニウム、シリコン、バリウム、イットリウム及び希土類元素の群から選択された造影剤からなるアルカノールアミン基からなる分枝鎖
で構成されたポリスクシンイミド系高分子に関連している。
【0009】
また、本発明は上記ポリスクシンイミド系高分子を用いた造影剤、診断治療剤、近赤外線蛍光造影剤の製造方法に関連している。
【0010】
以下、このような本発明をより詳細に説明する。
本発明は、生体適合性の高分子を用いた磁気共鳴画像(MRI、Magnetic Resonance Image)造影剤の発明に関する、本発明の造影剤は、出発物質として無水マレイン酸を使用して製造し、生体適合性のポリスクシンイミドに加えて多様な官能基で構成することで、MRI造影機能を有する多機能性の造影剤であり、また、薬物を捕集可能な機能を有する。より詳細には、出発物質として無水マレイン酸から合成されたポリスクシンイミドは毒性のない高分子であり、カルボキシル基が分解されれば環が開くので、多様な官能基を分枝鎖に導入することができ、それ自体は疎水性基である。
さらに本発明は、上述したポリスクシンイミドを主鎖とし、(a)水に分散し易く、血液内でのナノ粒子の安全性と生体利用率を高める親水性基と、(b)疎水性薬物と同様に、腎臓のろ過作用により身体から容易に除去できるように親水基を運ぶことができ、ミセル(micelle)形態を長く維持することができる疎水性基と、(c)主鎖のカルボキシル基の環を開けて高分子を溶解させ、造影剤と結合させることができるエタノールアミン、メタノールアミンまたはプロパノールアミンのアルカノールアミン等のアミン群から得られた合成高分子を使用したMRI酸化鉄造影剤を製造する方法に関する。また、本発明は、酸化鉄造影剤の代わりにアルキレンジアミン基を導入し、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS−ester)で改良された蛍光物質を結合させて、近赤外線蛍光造影剤を製造する方法である。さらに、本発明は、上記MRI酸化鉄造影剤に抗ガン剤を封入し、診断治療剤を製造する方法に関するものである。特に本発明の造影剤の製造方法は、既存の造影剤の製造方法よりも、製造工程が簡単で、製造時間が短く、高い収率と共に粒径の調節が容易であるため、大量生産が可能である。さらに、抗ガン剤を封入することにより、疾病の診断及び治療に使用することができる。
【0011】
本発明の製造方法は、2工程に分かれており、造影剤と結合するためのポリスクシンイミドを主鎖とし、多様な官能基を導入した合成高分子の製造工程と、上記で合成された高分子を用いて抗ガン剤を捕集する工程とがある。各工程では、合成及び精製などの過程があり、詳細については次の通りである。
【0012】
上述した合成高分子は、(a)主鎖として、ポリスクシンイミドの生体適合性かつ生分解性の疎水性の高分子は、Baypure(登録商標)(分子量2000〜4000g/molのBaypure DSP製品)から入手、(b)生体内での安定性と生体への利用性を向上させる分子量100〜20000g/molの親水性基、(c)水相で形成されたミセルの構造を維持することにより、ミセルの安定性を向上させ、抗ガン剤のような疎水性の薬物を、疎水性相互作用により封入させる機能を有する炭素が3〜80の疎水性基、(d)前記高分子を水溶性の高分子に変質させるために、主鎖の非包合の反復単位部分の環を開き、造影剤または、アルキレンアミン基を近赤外線蛍光(NIRF)造影剤と結合させるためのエチレンジアミン等のアルキルジアミン基と結合(または共役)可能なアルキレンアミン基で構成されている。
【0013】
上記主鎖として用いられるポリスクシンイミドは、分子量が1,000〜100,000の範囲を有するものが好ましく、上記分子量が1,000未満の場合は、血管注射の時に、隣接組織に拡散する結果となり、100,000を超える場合には、ポリスクシンイミドが長時間体内に蓄積されすぎる結果となる。
上述したポリスクシンイミドは、生分解性かつ生体分離性のポリアミノ酸系高分子であって、前記高分子の各反復単位の官能基の存在によって、ほとんどの官能基との結合が容易であり、それゆえ、さまざまな種類の分枝鎖の導入に有用である。
【0014】
上記親水性基としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、デキストラン、ポリエチレンオキシド、ポリビニールアルコールまたはポリリジンから由来した少なくとも1種であって、より好ましくは、グリセロール、プロピレングリコール、エチレングリコール及びD−リシン、L−リシン、DL−リシンから由来した少なくとも1種である。
上記親水性基高分子の分子量が100g/mol未満の場合は、高分子が容易に分解されるので、マイクロナノサイズの粒子の解重合の結果となる。その一方、分子量が20,000g/molを超える場合は、トリグリセリド内での毒性が増加する。このような親水性基高分子は、主鎖のポリスクシンイミド1モルに対して0.1〜0.25モルが導入される。このとき、ポリスクシンイミドの容量が0.11モル未満の場合は、マイクロナノサイズの粒子を形成することができず、その一方、0.25モルを超える場合は、人体に対する毒性を増加させる。
【0015】
上記の疎水性基としては、例えば、炭素が3〜80のアミンまたはリン脂質から由来した少なくとも1種が好ましい。上記炭素が3〜80のアミンは、例えば、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ジオクタデシルアミンがある。
また、リン脂質は、疎水性を有するとともに細胞膜の主な構成成分の一つであって、体内に注入した時に拒絶反応を最小化することができる。例えば、ヘキサデシルアミンまたはアルブミン、リポソームなどがある。
このような疎水性基は、ポリスクシンイミド1モルに対して1〜5モルが導入される。導入量が1モル未満の場合は、ナノ粒子の形成時にナノ粒子を長時間維持させることができず、5モルを超える場合は、他の分枝鎖の結合に問題を招き、またナノ粒子のサイズが極端に増大する。
【0016】
上記造影剤を捕集するアルカノールアミン基の好適な例としては、エタノールアミン、メタノールアミン、プロパノールアミンがある。アルカノールアミン基の導入量は、ポリスクシンイミド1モルに対して20〜75モルが好ましい。20モル未満の場合は、造影剤との反応性が弱く、それゆえ収率が低下する。75モルを超える場合は、他の分枝鎖との反応を阻んでしまう。
【0017】
上記造影剤の例としては、ガドリニウム、マンガン、酸化鉄、アルミニウム、シリコン、バリウム、イットリウム及び希土類元素を含む。例えば、酸化鉄の結合(物理的結合)は、塩基性条件で鉄化合物がFe3O4を形成する特に、エタノールアミン基のOH基がFeの電子を受容することによって処理される。
【0018】
本発明によるポリスクシンイミド系高分子は、次の化学式1で表されることができ、以下に具体的に説明する。
【0019】
【化1】
【0020】
上記化学式1において、R1は、分子量が100〜20,000の範囲である、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、デキストラン,ポリエチレンオキサイド、ポリリジンまたはポリビニールアルコールから由来した親水性基、R2は、炭素が3〜80のアミンまたはリン脂質から由来した疎水性基、R4は、造影剤を共役(結合)するアルカノールアミン基、R6は、ガドリニウム、マンガン、酸化鉄、アルミニウム、シリコン、バリウム、イットリウム及び希土類元素からなる群から選択された造影剤であり、また、l、m、oは、スクシンイミド反復単位構造の全数に対する親水性基(R1)、疎水性基(R2)、アルキレンアミン基(R4)の結合率をそれぞれ示しており、lは5〜35モル%、mは5〜35モル%、oは30〜60モル%を示す。
【0021】
上記製造された高分子に、さらにN−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS−ester)により改良された蛍光物質基が末端に結合したアルキレンジアミン基を導入することにより、近赤外線蛍光造影剤を製造することができる。
【0022】
上記蛍光物質としては、カルボキシフルオセイン二酢酸N−スクシンイミジルエステル(carboxyfluorescein diacetate N−succinimidyl ester)、CYDye(登録商標) 3.5(mono reactive NHS−エステル)またはCYDye(登録商標) 5.5(mono reactive NHS−エステル)などが好ましい。蛍光物質は、ポリスクシンイミド1モルに対して0.0001〜0.001モルが導入されることが好ましい。蛍光物質の導入量が0.0001モル未満の場合は、近赤外線の測定時に解像度が低下し、一方、、0.001モルを超えれば、製品の粒径が大きくなる結果となる。
【0023】
また、上記アルキレンジアミン基としては、メチレンジアミン、エチレンジアミンまたはプロピレンジアミンが好ましい。上記アルキレンジアミン基は、主鎖のポリスクシンイミド1モルに対して3〜15モルが導入される。、アルキレンジアミン基の導入量が3モルより大きい場合は、導入される他の分枝鎖に対する反応性が弱くなり、15モルを超える場合は、強い陽イオンになり、その結果、毒性を発生する。
【0024】
【化2】
【0025】
上記化学式2において、R1は、分子量が100〜20,000の範囲である、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、デキストラン,ポリエチレンオキサイド、ポリリジンまたはポリビニールアルコールから由来した親水性基、R2は、炭素が3〜80のアミンまたはリン脂質から由来した疎水性基、R3は、アルキレンジアミン基、R4は、造影剤と共役するアルカノールアミン基(キレート基)、R5は、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS−ester)により改良された蛍光物質基、R6は、ガドリニウム、マンガン、酸化鉄、アルミニウム、シリコン、バリウム、イットリウム及び希土類元素からなる群の中から選択された造影剤であり、l、m、n、oは、スクシンイミド反復単位構造の全体数に対する親水性基(R1)、疎水性基(R2)、アルキレンジアミン基(R3)、アルキレンアミン基(キレート基)(R4)の結合率をそれぞれ示しており、lは5〜35モル%、mは5〜35モル%、nは5〜15モル%、oは30〜60モル%を示す。
【0026】
一方、上記製造された高分子に、さらにN−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS−ester)により改良された蛍光物質基が末端に結合したアルキレンジアミン基を導入することにより、近赤外線蛍光造影剤を製造することができる。
【0027】
このように、ポリスクシンイミドの主鎖と上述した導入物質を重合することによって製造された合成高分子は、50〜100℃の反応温度でジメチルホルムイミド(DMF)またはジメチルスルホキシド(DMSO)等の溶媒を使用して反応させる。反応完了後、エチルエーテルを用いて未反応高分子と不純物を除去し、真空乾燥ポンプを用いて精製された粉末状態の合成高分子を得た。
【0028】
さらに、本発明は、上記ポリスクシンイミド系高分子と造影剤を合成、精製し、抗ガン剤を封入できる多機能性造影剤を製造する。
【0029】
上記抗ガン剤としては、ドキソルビシン(Doxorubicin)、エピルビシン(Epirubicin)、ドセタキセル(Docetaxel)、パクリタキセル(Paclitaxel)、バルルビシン(Valrubicin)、シスプラチン(Cisplatin)またはタモキシフェン(Tamoxifen)がある。
特に、本発明では、精製された造影剤をジメチルスルホキシドまたはジメチルホルムイミドに溶かした混合溶液と抗ガン剤を、超音波発生器(Ultra−sonicator)により100分以内で照射することにより、抗ガン剤を封入させた多機能性造影剤を製造する。
親水性基、疎水性基を有する造影剤は、有機溶媒で溶解して粒子化せずに結合した高分子鎖として存在し、このとき、疎水性薬物である抗ガン剤は運動エネルギー(Kinectic energy)を受け、疎水性相互作用(hydrophobic interaction)と水溶液での自己組織化(self−assembly)により封入される。
【0030】
本発明の多機能性造影剤は、多数の機能基をポリスクシンイミドの分枝鎖に導入することにより、生分解性、生体拒絶反応の最小化及び生体利用率の増加、造影剤の薬効の増加、薬物捕集などの多機能を同時に発揮可能である。
【0031】
種々の生体適合性高分子を用いた造影剤のうち、本発明の主鎖として用いられたポリアミノ酸系のポリスクシンイミドは、他の化合物との反応性がよいので分枝鎖の導入が容易であり、また、毒性がなく、生分解する時間の調節が容易であるという、有益な特徴がある。
【0032】
既存の造影剤に比べ、本発明による造影剤は、蛍光物質の導入及びMRI造影剤の導入、抗ガン剤の導入が可能であるので、多様性、多機能性を有する。さらに、図15に示すように、粒径の調節が可能であり、リンパ節及び血管の造影が可能であるので、解像度及び感度の観点からも大変貢献していることが分かる。また、本願の造影剤は、造影効果と同時に以外に抗癌効果も提供可能であり、機能が向上されている。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、多数の機能基をポリスクシンイミドの分枝鎖として導入し、生分解性で、生体拒絶反応の最小化及び生体利用率の増加させ、MRI酸化鉄造影剤または近赤外線蛍光造影剤の効果があり、抗ガン剤捕集が可能な20〜200nm粒径のポリスクシンイミド系高分子とこれを含有する造影剤に関するものである。
【0034】
従って、本発明のポリスクシンイミド系高分子で構成された造影剤は、診断及び治療剤のための診断治療剤として用いることができ、その他にも多様な医薬分野での活用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例1−1)で製造されたポリスクシンイミドの分枝鎖に導入されたポリエチレングリコールの1H−NMRの結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例1−2)で製造されたポリスクシンイミドの分枝鎖に導入されたヘキサデシルアミンの1H−NMRの結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1−2)で製造されたポリスクシンイミドの分枝鎖に導入されたエタノールアミンの1H−NMRの結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1−3)で製造されたポリスクシンイミドの分枝鎖に導入されたエチレンジアミンの1H−NMRの結果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例1−3)で製造されたポリスクシンイミドのTEMイメージ(1)と、レーザ分布図(2)である。
【図6】本発明の実施例1−3)で製造されたポリスクシンイミドの分枝鎖に導入されたエチレンジアミンの確認のために、実施例1−2)(左側)と実施例1−3)(右側)のゼータ電位を示すものである。
【図7】本発明の実施例1−4)で製造されたポリスクシンイミドの分枝鎖に導入された蛍光物質の確認のために、精製後の生成物を示す図である(右側の初期濃度から左に向かってシーケンシャル20%連続希釈)。
【図8】本発明の実施例1−4)で製造されたポリスクシンイミドの分枝鎖に導入された蛍光物質のTEMによる粒子形成を示す図である。
【図9】本発明の実施例1−4)で製造されたポリスクシンイミドの最大吸収波長を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例2で製造された造影剤のTEMとELSによる粒子の直径とサイズ分布を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例2で製造された造影剤の造影効果を確認するための生体内の(in vivo)実験におけるVX2肝ガンモデルのうさぎのMRI画像を示すものである。
【図12】本発明の実施例2で製造された造影剤の血管造影を調査するためのRatの大静脈と大動脈のMRI映像を示すものである。
【図13】本発明の実施例2で製造された造影剤のリンパ節造影を調査するためのラットの大腿部リンパ節のMRI映像を示すものである。
【図14】図8のリンパ節部位をプルシアンブルー(Prussian Blue)で染色した組織学的結果を示すものである。
【図15】本発明の実施例2の実験方法によって製造された、合成高分子と鉄化合物の組成及び含有量に応じたMRI酸化鉄造影剤の粒子のサイズの分布を示すものである。
【図16】合成された造影剤に抗ガン剤を封入した診断治療剤の水相及び粉末状での物理的特性を示す図である。
【図17】本発明の実施例4により製造されたMRI酸化鉄診断治療剤の抗癌活性を確認するために、実験マウスの時間経過による腫瘍のサイズ変化を示している。
【図18】本発明の実施例4により製造されたMRI酸化鉄診断治療剤の抗癌活性を確認するために、実験マウスの腫瘍を摘出した写真である。
【図19】実施例4の実験方法により製造されたMRI酸化鉄診断治療剤の抗癌活性を確認するために、実験うさぎの時間経過による腫瘍のサイズ変化を示すものである。
【図20】(A)は、高感度のCCDカメラを用いてサンプルの注入前に得たヌードマウスの生体発光イメージであり、(B)は、本発明の実施例1−4)で製造されたポリスクシンイミド高分子溶液の静脈注射後24時間の蛍光イメージである(a:肝臓、b:腎臓、c:肺)。
【図21】本発明の実施例1−4)で製造されたポリスクシンイミド高分子溶液の静脈注射後24時間に得られたイメージである((A):摘出後の写真、(B):光学蛍光イメージ、a:心臓、b:肺、c:膀胱、d:肝臓、e:脾臓、f:腎臓、g:脳)。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明については、実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されない。
【0037】
<実施例1:ポリスクシンイミド系高分子の合成>
1)ポリスクシンイミドへのポリエチレングリコールの分枝鎖の導入(親水性基の導入)
主鎖のポリスクシンイミドとして、2,000〜4,000g/molを有するBaypure DSP製品(Baypure(登録商標))を購入した。窒素雰囲気下でポリスクシンイミド0.0025molをDMFに溶かした後、混合物を攪拌しながら、DMFに溶かしたポリエチレングリコールアミン(5,000g/mol)0.0006molをゆっくり滴下し、60℃で約24時間反応させた。約1時間室温で反応溶液を冷ました後、エチルエーテルに1滴ずつ滴下して褐色の沈殿物を得た。得られた沈殿物をメンブレンフィルタ紙に通し、真空状態で沈殿物から溶媒を除去して微細粉末形態の化合物を得た。
【0038】
上記のように得られた合成物のLH−NMRを測定し、その結果を図1に示した。ポリスクシンイミドに分枝鎖としてポリエチレングリコールが導入されたことが確認できた。
【0039】
2)ヘキサデシルアミンとエタノールアミン分枝鎖の導入(疎水性基及びアルカノールアミン基の導入)
窒素雰囲気で、上記1)で合成された化合物0.001molをDMFに入れて溶かした。この混合物を攪拌しながら、DMFに溶かしたヘキサデシルアミン0.0067 molを滴下して加えた。これら二つの溶液を、60℃で24時間攪拌しながら反応させた。反応完了後、室温で反応溶液を約1時間冷まし、エタノールアミン8mL(0.133mol)を徐々に加え、室温で24時間攪拌した。上記混合溶液をエチルエーテルに滴下して加え、沈殿物を得た。得られた褐色の沈殿物をメンブレンフィルタ紙を通し、真空状態で沈殿物の溶媒を除去して、微細な粉末形態の化合物を得た。
【0040】
上記のように得られた粉末の1H−NMRを測定し、その結果を図2と図3に示した。ポリスクシンイミドに分枝鎖としてヘキサデシルアミンとエタノールアミンが導入されたことが確認できた。
同様に、テトラデシルアミン、オクタデシルアミン、ジオクタデシルアミン及びリン脂質についても上記のような方法により進められ、分枝鎖として導入することができた。
【0041】
【化3】
【0042】
上記化学式1aにおいて、R1はPEG、R2はヘキサデシルアミン、R4はエタノールアミン、R6は酸化鉄であり、また、l、m、oは、スクシンイミド反復単位構造の全体数に対する親水性基(R1)、疎水性基(R2)、アルカノールアミン基(キレート基)(R4)の結合率をそれぞれ示しており、lは5〜35モル%、mは5〜35モル%、oは30〜60モル%を示す。
【0043】
3)アルキレンジアミン分枝鎖の導入
上記2)で合成された化合物0.0005molをDMF15mLに溶かした溶液Aに、0.015molのエチレンジアミン10mLをDMF15mLに混ぜた溶液Bを、40℃、窒素雰囲気下でゆっくり滴下しながら攪拌した。二つの溶液を6時間反応させた後、反応物から溶媒をできるだけ除去し、脱イオン化水10mLに溶かした後、48時間透析膜(Dialysis mebrane、MW3500)を用いて反応していないモノマーを除去した。透析の完了後に凍結乾燥過程を経て、微細な粉末形態の化合物を得た。
【0044】
上記実施例1−2)で合成された高分子にエチレンジアミン(ED)を導入し、PSIの反復基で分枝鎖の導入がなされていない部分を、エチレンジアミンを用いて開環(ring opening)反応によりポリヒドロキシエチルアスパルトアミド(poly hydroxyethyl aspartamide)(PHEA)を合成した。合成された高分子は、水相で再分散し易いPHEA−mPEG−C16−EDである。合成した高分子の分枝は、図4に示すように、1H−NMRで現われた1.3、2.4ppm付近のメチレンピークから、共有結合したエチレンジアミンの重合の存在を確認することができた。
【0045】
GPC分析により、重量平均分子量27,000を有するPSI−mPEG−C16−ED合成高分子であることが確認できた。48時間の透析後、凍結乾燥して計量により収率を計算したところ、約82%であった。
【0046】
重合した高分子PHEA−mPEG−C16−ED10mgを、3級の蒸留水に分散させた後、ミセル粒子の粒径と表面電荷を電気泳動光散乱光度計(electrophoretic light scattering spectrophotometer、ELS−8000 大塚電子株式会社製)を用いて測定した。表面電荷は25℃、pH7で測定した。粒径と形態を確認するために、TEM(透過型電子顕微鏡、JEM−2010、JEOL(日本電子株式会社)製)を用いて測定した。TEM試料は、3級の蒸留水に分散させた後、300meshの炭素コーティングされた銅格子(lattice)で滴下し、乾燥させてから測定した。
【0047】
図5に示すように、合成されたPHEA−mPEG−C16−ED分枝高分子が1w%の水性の環境でミセルを形成したとき、PHEA−mPEG−C16−EDのミセルは、20nmと50nmのスケール−バー(scale−bar)のTEM映像を通して球形の粒子を有し、ELS測定によって平均粒径が約23nmであり、平均粒径10.6±6.7nmのレーザ分布度による粒子サイズを有することが確認できた。上記の結果に基づいて球形のミセルを製造可能であることが確認できた。
【0048】
上記で得られた粉末を脱イオン水に分散させ、ゼータ電位測定装置で測定して、その結果を図6に示す。ゼータ電位値の負(−)から正(+)への変化に基づいて、正(+)のゼータ電位値を有するエチレンジアミンが導入されたことが確認できた。
【0049】
同様に、アミン基が両端に存在するメチレンジアミン、プロピレンジアミンについても、主鎖として導入することができた。
【0050】
4)蛍光物質の導入
上記3)の合成物を、NHS−エステルにより改良された蛍光物質であるカルボキシフルオセイン二酢酸N−スクシンイミジルエステル、CY3.5NHS−エステル、CY5.5NHS−エステルなどと結合し、蛍光物質が結合したナノ粒子が得られた。
【0051】
CY5.5NHS−エステルは、次の化学式3に示す構造を有しており、NHS−エステル基は、ペプチドを標識化するためにもっとも都合がよい官能基なので、頻繁に使用される。アミノ基の標識化のための最も有用な反応は、アシル化(acylation)である。
【0052】
【化4】
【0053】
大部分の蛋白質の標識化は、pH7〜9で、リン酸塩、重炭酸塩、炭酸塩及びホウ酸塩緩衝液で反応させる[G. H.Haggis,D.Michie,A.R.Muir,K.B.Roberts,P.M.B.Walker,Longmans(Bristol)Green&Co.LTD.,(1965)]。これに基づき、Veisehらの実験方法にあるように、蛍光物質を導入した。
【0054】
上記3)の合成物0.00083molとCY5.5NHS−エステル1.3nmolを、それぞれ重炭酸塩緩衝液(pH8.5)に分散または溶かし、CY5.5NHS−エステル水溶液(DMFに溶解)を徐々に滴下し、室温で反応させた。
膜透析(MWCO 3500,ビスカスセールスインク(Viskase Sales Inc.)、シカゴ、イリノイ州、アメリカ合衆国)を用い、4℃の暗室で48時間PBS(リン酸塩緩衝生理食塩水(phosphate−buffered saline)、pH7.4)で未反応のCy5.5及びNHS−エステルを除去し、最終生成物のPHEA−mPEG−C16−ED−Cy5.5を得た。
【0055】
PHEA−mPEG−C16−EDに蛍光物質を導入し、透析した後、得られた生成物を20%の割合でPBSで段階希釈した結果を図7に示す。蛍光物質が存在することを視覚的評価法(visual accessment)により確認できた。また、粒子形成と大きさは、図8のTEM画像から直径が約3〜8nmの球形の粒子が形成されたことを確認できた。
上記から、ポリスクシンイミドに分枝鎖として蛍光物質が導入されたことが確認できた。
【0056】
【化5】
【0057】
上記化学式2aにおいて、R1はPEG、R2はヘキサデシルアミン、R3はエチレンジアミン、R4はエタノールアミン、R5はCY5.5NHS−エステル、R6は酸化鉄であり、また、l、m、n、oは、スクシンイミド反復単位構造の全体数に対する親水性基(R1)、疎水性基(R2)、アルキレンジアミン基(R3)、アルカノールアミン基(キレート基)(R4)の結合率をそれぞれ示しており、lは5〜35モル%、mは5〜35モル%、nは5〜15モル%、oは30〜60モル%を示す。
【0058】
蛍光物質を導入して精製した後、最終のサンプルに残っている蛍光物質を吸光度を紫外可視光線分光光度計(島津製作所製 UVmini−1240、日本)で測定し、下記のランベルト−ベールの法則(Lambert−Beer law)による計算式である[数式1]で計算して、定量分析した[G.Giammona,G.Puglisi,G.Cavallaro,A.Spadaro,G.Pitarresi,J.Control.Release.,33,261−271(1995)]。
【0059】
(数1)
C=A/(kd) ……数式1
【0060】
Aはサンプル1mLを最大吸収波長で測定した吸光度を示し、kは最大吸収波長で45000となる吸光度係数を示し、また、dは、紫外可視光線分光光度計により測定するときに用いた石英セルを光が透過する通路の長さが1cmであることを示し、1の値を示す。
【0061】
生成物の初期濃度をPBSで20倍希釈し、紫外可視光線分光光度計を用いて最大吸収波長を測定した。遊離CY5.5染料(Free CY5.5 dye)は、673nmで最大吸収波長値を有することが知られている[S.R.Mujumdar,R.B.Mujumdar,C.M.Grant,A.S.Waggoner,Biocon.Chem.,7,356−362(1996)]。
図9に示すように、PHEA−mPEG−C16−ED−CY5.5は、678nmで最大吸収波長を示している。CY5.5の導入量を定量分析した結果、最終サンプル溶液全体にはCY5.5が0.928μg含まれていることが確認できた。
【0062】
次の表1は、近赤外線蛍光造影剤の物理的特性として、ELSによる粒径、ゼータ電位による粒子表面の電荷測定、紫外可視分光計(UV−vis Spectrometer)による封入率を示すものである。
【0063】
【表1】
【0064】
<実施例2:造影剤の合成>
分枝鎖に導入された精製された造影剤は、2工程の段階を経て得られる。
【0065】
1)造影剤の合成
上記実施例1−2)で製造されたポリスクシンイミド系高分子0.00073molと0.0033molのFeCl2・4H2O(二塩化鉄四水和物)、0.0049molのFeCl3・6H2O(三塩化鉄六水和物)を、窒素が充填された3次蒸留水200mLに入れて完全に溶かした後、窒素雰囲気で攪拌器により攪拌しながら、アンモニア水30mLをシリンジポンプ(ケイディーシーンティフィック製(Kd scientific)、U.S.A.)を用いて徐々に加えた。このとき、注射器の針は20Gを用い、注射速度は、注入開始から20分までは6mL/h、20分後からは7mL/hの速度で注入した。攪拌速度は、混合溶液に気泡が形成されない程度に勢いよく攪拌し、反応時間は、アンモニア水の注入時間を含めて1時間反応させた。反応完了後、約30分間室温で反応溶液を冷まし、さらに3次蒸留水600mLに入れて未反応の高分子を除去するために混合した。この時、3次蒸留水との混合過程前の反応溶液は10.0〜13.0pHであって、強いアルカリ度を示す。
【0066】
2)造影剤の精製
上記で合成された造影剤を精製するために、二工程が行われる。1)不純物を除去し、粒子の大きな造影剤を除去する、2)未反応の高分子を除去し、アルカリ性の造影剤をpH6.5〜7.0に調整する。
【0067】
第1段階では、減圧フラスコに吸引装置と0.2μmの薄膜ろ過紙を挿入し、真空ポンプを用いて精製した。第2段階では、接線流分離モジュール(中空繊維フィルター膜)を有する透析[Dialysis with Tangential flow separation module(Hollow fiber filter membrane)]装置を用い、未反応の高分子を除去してpHを調整した。このとき、上記装置の媒体/比率(media/rating)はPS/50kDであって、3級蒸留水をは約5Lを用いた。上記装置による精製は、透析膜細管(dialysis membrane tubing)を用いるときよりも、時間及び経済的な面から優れている。
【0068】
造影剤の合成の結果として、精製に続いて凍結乾燥が行われ、褐色粉末の造影剤を得た。最終的に生成された造影剤は、TEMにより粒径及び形態を確認し、その結果を図10に示した。造影剤は、ELSの測定時に約30nmの球形粒子であることが明らかにされた。さらに、生成された造影剤は、鉄含有量が約9.8%であって、超常磁性を有していることを示している。XPSによる要素分析によって、生成された造影剤は、合成高分子によるコーティングによって、表面に少量の鉄が存在することが明らかになった。また、造影効果を確認するために、ファントム(Phantom)を製作し、対照群のレゾビスト(Resovist)とともに生体外(In vitro)でMRIを測定した。対照群と同じ濃度で測定した結果、同等またはそれ以上の効果を奏することが確認できた。
【0069】
生体内の(In Vivo)実験では、VX2肝ガンモデルうさぎ(3kg)に、上記造影剤を40μg・molFe/kgの量を耳静脈に注射した後、注入後0分(直後)から20分までの、MRIによる肝での造影効果を観察した。結果を図11に示しており、正常組織と病変組織(癌)が確認できた。
また、平均粒径が約30nmである上記造影剤は、USPIO(超小型超常磁性酸化鉄(Ultra small Superparamagnetic Iron Oxide))で、粒径が小さいため、血管内で長時間循環し、特定部位及び小さな部位に吸収されて造影効果を提供することができる。
ラット(300g)に80μg・molFe/kgの量を尻尾に静脈注射した後、MRIを用いてT1技法で大静脈と大動脈の造影効果を観察し、その結果を図12に示した。36時間後、T2技法でリンパ節の造影効果を観察し、それらの組織を病理的に検査した。その結果を図13と図14に示した。これにより、上記造影剤は、肝臓と同様に、血管及びリンパ節の造影が可能であることが確認できた。
【0070】
<実施例3:合成高分子の構成と内容及び鉄化合物の含有量の変化による粒径分布>
上記実施例2のMRI酸化鉄造影剤の他の特徴として、主鎖のポリスクシンイミドに、疎水性高分子であるヘキサデシルアミンの合成率及び、合成高分子と鉄化合物のそれぞれの量に応じた反応から生成されたMRI酸化鉄造影剤は、多様な粒径を再現することができた。
上記実施例2の実験方法と同様の方法で、図15に示す反応物の条件にによって、約20〜150nmの範囲の多様な粒径を有する造影剤を製造した。
ヘキサデシルアミン(疎水性高分子)を、ポリスクシンイミド(主鎖)に対して合成率をそれぞれ15%、25%、35%で合成した高分子を、鉄化合物の溶質と対比して4:3、4:15、4:1、4:0.75の重量比で反応させ、約20〜150nmの上記の粒径を有する造影剤を得た。なお、ここでは鉄化合物の値は、実施例2の鉄化合物のモル値である。
【0071】
多様な大きさの造影剤は、飽和磁束密度20〜80emu/gFeの範囲の磁化を有し、約5〜12%の鉄含有量を示した。
【0072】
上記造影剤の合成工程は、反応が激烈で速く、敏感であるため、上述した実験条件に多少制約がある。
【0073】
<実施例4:造影剤への抗ガン剤の封入>
上記実施例2で製造した約30nmの粒径を有する造影剤に、ドキソルビシン、エピルビシンなどの抗ガン剤を封入することができる。
造影剤100mgとジメチルスルホオキシド(DMSO)3mLを混合したサンプルAと、15mgのドキソルビシン−HClを1mLのDMSOに溶かした後、150μ?のトリエタノールアミンに加え、酸の脱プロトン化により疎水性のドキソルビシンまたはエピルビシンを得たサンプルBを製造した。
サンプルAとサンプルBの混合工程は、、超音波処理槽(Sonication bath)を用いてそれぞれ5分間、1分間照射で導入された。
サンプルAとBの混合物を超音波発生器で2分間照射して得られたサンプルCを、さらに超音波発生器(Ultra−sonicator)で照射しながら、40mLの3級蒸留水を含有するサンプルDを、26ゲージの注射器を用いて分散させた。このとき、溶液の温度は、氷浴(ice bath)を用いて10℃またはそれ以下になるように維持し、超音波発生器の出力は、50Wで10分間照射し、200μ?/minの注射速度で1分間溶液を処理した後、30秒間放置した。全体の工程を5回繰り返した。
上記工程を終えた後、最終的に混合した溶液を透析薄膜管(dialysis membrance tubing)(MW10,000)に入れ、4℃の冷蔵庫で48時間透析し、封入されていない抗ガン剤と反応剤を除去した。
48時間の透析後に、凍結乾燥して粉末の診断治療剤を得た(図16)。
得られた診断治療剤は、水相での分散に優れており、約60〜70nmの粒径と−20〜−30mVの粒子表面電荷値を有し、UV−Visを用いて測定した抗ガン剤の封入効率は、約80〜90%であった。
【0074】
次の表2は、診断治療剤の物理的特性として、ELSによる粒径、ゼータ電位による粒子表面電荷の測定、UV−visによる封入効率を示している。
【0075】
【表2】
【0076】
図17は、製造した診断治療剤を、マウス黒色腫細胞B16F10(murine melanoma cell)を同種移植した実験ネズミに静脈注射し、抗癌効果を確認したデータを示しており、図18は、腫瘍を摘出して抗癌効果を確認したものである。
【0077】
図19は、製造した診断治療剤を、VX2肝ガン細胞株(VX2 hepatoma cell)を継代培養して癌を誘発させた実験うさぎに静脈注射し、時系列のMRI映像を得て抗癌効果を確認したものである。
【0078】
<実施例5:生体内の(In Vivo)近赤外線蛍光画像測定>
近赤外線画像の測定のために、6週齢のヌードマウス(雌)を、1週間の適応期間を経て、実験開始前まで12時間絶食させて用いた。
計5頭のマウスを、1.5%のイソフルオランで麻酔した。蛍光映像を得るための装備として発光・蛍光動物イメージングシステム(luminescence and fluorescence animal imaging system)(ゼナガンコーポレーション製(Xenogen corporation),KBSI チュンチェンセンター、韓国)を用いた。マウスから放出される生体発光(biofluorescence)は、高感度の電荷結合素子(CCD)カメラを用い、試料注入前に画像を測定した。蛍光イメージは、615〜665nmの励起通過帯域(excitation passband−filter)及び695〜770nmの励起通過帯域(excitation passband−filter)を用い、0.1秒間露出させて得た。
光子(photon)の流量濃度は、IVIS画像装置プログラムにより光子/秒/cm2(photon/second/cm2)で表して計算した。
【0079】
試料溶液PHEA−mPEG−C16−ED−CY5.5を100ul静脈注射した後、注射前の画像と、注射してから0.5、1、3、6、9、12、24、そして48時間後の画像を得た。24時間後の画像を得た後、解剖して肝臓、肺、心臓、腎臓、脾臓、膀胱、そして脳を摘出し、近赤外線の映像を得て分析した。
【0080】
実験動物に静脈注射したサンプル溶液PHEA−mPEG−C16−ED−CY5.5の100ulには、約0.428uMの蛍光物質が含まれている。実験開始前まで12時間絶食させたマウスは、サンプルの注入前に生体発光は検出されなかった。
試料の注入後、蛍光イメージは、0.1secの露出時間だけでサンプル注入後30分後に十分な飽和状態(saturation)に到達した。さらに、注入後48時間までの画像から、CY5.5が含まれた試料の粒子が多数の臓器で長時間循環し、蓄積されることが確認できた。
図20は、試料の注入前の生体発光画像(A)と、注入24時間後の蛍光イメージ(B)を示している。
PHEA−mPEG−C16−ED−CY5.5の試料の粒子が肝臓、腎臓、肺、膀胱などを中心に循環し、蓄積されたことが確認できた。また、時間が経つにつれて腎臓を通って多数の臓器へと循環して蓄積されるのは、サンプルの粒子が親水性でかつ小さな粒径を有しているからであると推測される。
【0081】
図21は、試料の注入24時間後の臓器を摘出して得た画像であって、最も高い蛍光に基づいて、CY5.5を含むサンプルの粒子が肝臓に多く蓄積されることが示されている。腎臓では、中心部で低い蛍光効率を示し、外側で比較的高い蛍光効率を示していることから、蛍光分子がろ過または排出されているものと推測される。その一方、試料の粒子は、脳でも弱く蛍光が検出され、さらに48時間後の摘出時にも検出され、脳造影剤としても応用が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0082】
上述のように、本発明により親水性基、疎水性基が導入されたポリスクシンイミド系高分子は、さらにMRI酸化鉄造影剤または近赤外線蛍光造影剤を製造するためにアルキレンジアミン基が導入される。特に本発明のMRI酸化鉄造影剤は、生体利用率に優れており、造影粒子の粒径調節及び優れた造影効果を奏する。
本発明の造影剤は、多機能的目的を発揮するとともに、薬物捕集能力を有しており、抗ガン剤を封入させて診断治療剤としての製造が可能である。さらに、MIR測定のT2造影剤として、安価な鉄化合物を用い、簡単な工程で大量生産が可能であり、造影性と抗癌活性による二つの効果によって、医薬品分野で広範囲に使用されることが期待される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性高分子を用いた多機能性造影剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人間の疾病を早期診断できるいくつもの画像化技術のうち、MRIは、X線やCTよりも、有害な放射線に暴露されることがほとんどなく、また、診断上の敏感度及び特異度も向上させることができ、近年では、MR機材設備とソフトウェアが急速に発展するにつれて、優れた映像の獲得が短時間で可能になっている。MRIは、治療後の評価において相当部分CTに取って代わられている。
【0003】
MRI造影剤は、ガドリニウム(Gd)、マンガン(Mn)、酸化鉄(Fe)のような常磁性物質を用いたコロイド溶液である。有毒物質であるガドリニウムやマンガンは、有機物でキレートを共役させ、毒性を放出しないようにするが、人体に注射する過程でキレート有機物が分離してしまい、人を有毒な金属に露出させる危険な状況を招き、半減期が約14分と短く、正確かつ精密な診断に用い難いという不利益がある。その一方、酸化鉄造影剤は、既に安全性試験を通過した造影剤であり、かつ、体内に約8時間以上滞在することができるので、正確な診断が可能である。しかしながら、既存の酸化鉄ナノ粒子は、250℃またはそれ以上の高反応温度と数十時間の反応時間などのため、開発が進んでおらず、それらの製造の新規な方法が長年にわたって切実に望まれてきた。
【0004】
韓国特許第634381号は、分子量が1,000〜100,000の主鎖であるポリスクシンイミドと、分子量が100〜20,000の範囲の親水性基と、炭素が3〜80のアミンまたはリン脂質由来の疎水性基及び造影剤が捕集されているキレート基で構成されたポリスクシンイミド系高分子及びこれを用いた造影剤を開示している。しかしながら、粒径の調節が難しく、解像度、感度において問題がみられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国特許第634381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者らは、上記のような問題を解決するために研究したところ、出発物質と無水マレイン酸を反応させて得られたポリスクシンイミドBaypure(登録商標) DSPを用いることで毒性の問題を解決した。さらに、ポリスクシンイミド高分子の主鎖に、生体利用率を向上可能である生体適合性のある親水性基と、ナノ粒子の製造時に安定したナノ粒子の形を維持することができる疎水性基と、酸化鉄造影剤を結合させるためのアルカノールアミン基を導入することにより、T2造影剤を製造することができた。診断及び治療効果のために、上記T2造影剤に抗ガン剤を封入することで診断治療剤を製造した。製造された診断治療剤は、韓国特許第634381号で開示された造影剤よりも、多様性、粒径の調節、解像度、感度、多機能性、治療効果に優れた多機能性薬物送達システムを示したことにより、本発明を完成した。
【0007】
従って、本発明の目的は、生体適合性であるポリスクシンイミドを主鎖とし、さまざまな官能基が結合して構成された、疾病診断のためのMRI測定のための酸化鉄造影剤の提供である。本願の他の目的は、疾病の診断及び治療のための抗ガン剤を封入した診断治療剤の提供である。さらに本願の他の目的は、近赤外線蛍光測定(NIFR)のための光学画像造影剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、
(a)1,000〜100,000の範囲の分子量を有する無水マレイン酸から合成されたポリスクシンイミドで構成された主鎖
(b)100〜20,000の範囲の分子量を有する、ポリエチレングリコール、ポリビニールピロリドン、デキストラン、ポリエチレンオキサイド、ポリリジンまたはポリビニールアルコール由来の親水性基、炭素数3〜80のアミンまたはリン脂質由来の疎水性基、及びガドリニウム、マンガン、酸化鉄、アルミニウム、シリコン、バリウム、イットリウム及び希土類元素の群から選択された造影剤からなるアルカノールアミン基からなる分枝鎖
で構成されたポリスクシンイミド系高分子に関連している。
【0009】
また、本発明は上記ポリスクシンイミド系高分子を用いた造影剤、診断治療剤、近赤外線蛍光造影剤の製造方法に関連している。
【0010】
以下、このような本発明をより詳細に説明する。
本発明は、生体適合性の高分子を用いた磁気共鳴画像(MRI、Magnetic Resonance Image)造影剤の発明に関する、本発明の造影剤は、出発物質として無水マレイン酸を使用して製造し、生体適合性のポリスクシンイミドに加えて多様な官能基で構成することで、MRI造影機能を有する多機能性の造影剤であり、また、薬物を捕集可能な機能を有する。より詳細には、出発物質として無水マレイン酸から合成されたポリスクシンイミドは毒性のない高分子であり、カルボキシル基が分解されれば環が開くので、多様な官能基を分枝鎖に導入することができ、それ自体は疎水性基である。
さらに本発明は、上述したポリスクシンイミドを主鎖とし、(a)水に分散し易く、血液内でのナノ粒子の安全性と生体利用率を高める親水性基と、(b)疎水性薬物と同様に、腎臓のろ過作用により身体から容易に除去できるように親水基を運ぶことができ、ミセル(micelle)形態を長く維持することができる疎水性基と、(c)主鎖のカルボキシル基の環を開けて高分子を溶解させ、造影剤と結合させることができるエタノールアミン、メタノールアミンまたはプロパノールアミンのアルカノールアミン等のアミン群から得られた合成高分子を使用したMRI酸化鉄造影剤を製造する方法に関する。また、本発明は、酸化鉄造影剤の代わりにアルキレンジアミン基を導入し、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS−ester)で改良された蛍光物質を結合させて、近赤外線蛍光造影剤を製造する方法である。さらに、本発明は、上記MRI酸化鉄造影剤に抗ガン剤を封入し、診断治療剤を製造する方法に関するものである。特に本発明の造影剤の製造方法は、既存の造影剤の製造方法よりも、製造工程が簡単で、製造時間が短く、高い収率と共に粒径の調節が容易であるため、大量生産が可能である。さらに、抗ガン剤を封入することにより、疾病の診断及び治療に使用することができる。
【0011】
本発明の製造方法は、2工程に分かれており、造影剤と結合するためのポリスクシンイミドを主鎖とし、多様な官能基を導入した合成高分子の製造工程と、上記で合成された高分子を用いて抗ガン剤を捕集する工程とがある。各工程では、合成及び精製などの過程があり、詳細については次の通りである。
【0012】
上述した合成高分子は、(a)主鎖として、ポリスクシンイミドの生体適合性かつ生分解性の疎水性の高分子は、Baypure(登録商標)(分子量2000〜4000g/molのBaypure DSP製品)から入手、(b)生体内での安定性と生体への利用性を向上させる分子量100〜20000g/molの親水性基、(c)水相で形成されたミセルの構造を維持することにより、ミセルの安定性を向上させ、抗ガン剤のような疎水性の薬物を、疎水性相互作用により封入させる機能を有する炭素が3〜80の疎水性基、(d)前記高分子を水溶性の高分子に変質させるために、主鎖の非包合の反復単位部分の環を開き、造影剤または、アルキレンアミン基を近赤外線蛍光(NIRF)造影剤と結合させるためのエチレンジアミン等のアルキルジアミン基と結合(または共役)可能なアルキレンアミン基で構成されている。
【0013】
上記主鎖として用いられるポリスクシンイミドは、分子量が1,000〜100,000の範囲を有するものが好ましく、上記分子量が1,000未満の場合は、血管注射の時に、隣接組織に拡散する結果となり、100,000を超える場合には、ポリスクシンイミドが長時間体内に蓄積されすぎる結果となる。
上述したポリスクシンイミドは、生分解性かつ生体分離性のポリアミノ酸系高分子であって、前記高分子の各反復単位の官能基の存在によって、ほとんどの官能基との結合が容易であり、それゆえ、さまざまな種類の分枝鎖の導入に有用である。
【0014】
上記親水性基としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、デキストラン、ポリエチレンオキシド、ポリビニールアルコールまたはポリリジンから由来した少なくとも1種であって、より好ましくは、グリセロール、プロピレングリコール、エチレングリコール及びD−リシン、L−リシン、DL−リシンから由来した少なくとも1種である。
上記親水性基高分子の分子量が100g/mol未満の場合は、高分子が容易に分解されるので、マイクロナノサイズの粒子の解重合の結果となる。その一方、分子量が20,000g/molを超える場合は、トリグリセリド内での毒性が増加する。このような親水性基高分子は、主鎖のポリスクシンイミド1モルに対して0.1〜0.25モルが導入される。このとき、ポリスクシンイミドの容量が0.11モル未満の場合は、マイクロナノサイズの粒子を形成することができず、その一方、0.25モルを超える場合は、人体に対する毒性を増加させる。
【0015】
上記の疎水性基としては、例えば、炭素が3〜80のアミンまたはリン脂質から由来した少なくとも1種が好ましい。上記炭素が3〜80のアミンは、例えば、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ジオクタデシルアミンがある。
また、リン脂質は、疎水性を有するとともに細胞膜の主な構成成分の一つであって、体内に注入した時に拒絶反応を最小化することができる。例えば、ヘキサデシルアミンまたはアルブミン、リポソームなどがある。
このような疎水性基は、ポリスクシンイミド1モルに対して1〜5モルが導入される。導入量が1モル未満の場合は、ナノ粒子の形成時にナノ粒子を長時間維持させることができず、5モルを超える場合は、他の分枝鎖の結合に問題を招き、またナノ粒子のサイズが極端に増大する。
【0016】
上記造影剤を捕集するアルカノールアミン基の好適な例としては、エタノールアミン、メタノールアミン、プロパノールアミンがある。アルカノールアミン基の導入量は、ポリスクシンイミド1モルに対して20〜75モルが好ましい。20モル未満の場合は、造影剤との反応性が弱く、それゆえ収率が低下する。75モルを超える場合は、他の分枝鎖との反応を阻んでしまう。
【0017】
上記造影剤の例としては、ガドリニウム、マンガン、酸化鉄、アルミニウム、シリコン、バリウム、イットリウム及び希土類元素を含む。例えば、酸化鉄の結合(物理的結合)は、塩基性条件で鉄化合物がFe3O4を形成する特に、エタノールアミン基のOH基がFeの電子を受容することによって処理される。
【0018】
本発明によるポリスクシンイミド系高分子は、次の化学式1で表されることができ、以下に具体的に説明する。
【0019】
【化1】
【0020】
上記化学式1において、R1は、分子量が100〜20,000の範囲である、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、デキストラン,ポリエチレンオキサイド、ポリリジンまたはポリビニールアルコールから由来した親水性基、R2は、炭素が3〜80のアミンまたはリン脂質から由来した疎水性基、R4は、造影剤を共役(結合)するアルカノールアミン基、R6は、ガドリニウム、マンガン、酸化鉄、アルミニウム、シリコン、バリウム、イットリウム及び希土類元素からなる群から選択された造影剤であり、また、l、m、oは、スクシンイミド反復単位構造の全数に対する親水性基(R1)、疎水性基(R2)、アルキレンアミン基(R4)の結合率をそれぞれ示しており、lは5〜35モル%、mは5〜35モル%、oは30〜60モル%を示す。
【0021】
上記製造された高分子に、さらにN−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS−ester)により改良された蛍光物質基が末端に結合したアルキレンジアミン基を導入することにより、近赤外線蛍光造影剤を製造することができる。
【0022】
上記蛍光物質としては、カルボキシフルオセイン二酢酸N−スクシンイミジルエステル(carboxyfluorescein diacetate N−succinimidyl ester)、CYDye(登録商標) 3.5(mono reactive NHS−エステル)またはCYDye(登録商標) 5.5(mono reactive NHS−エステル)などが好ましい。蛍光物質は、ポリスクシンイミド1モルに対して0.0001〜0.001モルが導入されることが好ましい。蛍光物質の導入量が0.0001モル未満の場合は、近赤外線の測定時に解像度が低下し、一方、、0.001モルを超えれば、製品の粒径が大きくなる結果となる。
【0023】
また、上記アルキレンジアミン基としては、メチレンジアミン、エチレンジアミンまたはプロピレンジアミンが好ましい。上記アルキレンジアミン基は、主鎖のポリスクシンイミド1モルに対して3〜15モルが導入される。、アルキレンジアミン基の導入量が3モルより大きい場合は、導入される他の分枝鎖に対する反応性が弱くなり、15モルを超える場合は、強い陽イオンになり、その結果、毒性を発生する。
【0024】
【化2】
【0025】
上記化学式2において、R1は、分子量が100〜20,000の範囲である、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、デキストラン,ポリエチレンオキサイド、ポリリジンまたはポリビニールアルコールから由来した親水性基、R2は、炭素が3〜80のアミンまたはリン脂質から由来した疎水性基、R3は、アルキレンジアミン基、R4は、造影剤と共役するアルカノールアミン基(キレート基)、R5は、N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS−ester)により改良された蛍光物質基、R6は、ガドリニウム、マンガン、酸化鉄、アルミニウム、シリコン、バリウム、イットリウム及び希土類元素からなる群の中から選択された造影剤であり、l、m、n、oは、スクシンイミド反復単位構造の全体数に対する親水性基(R1)、疎水性基(R2)、アルキレンジアミン基(R3)、アルキレンアミン基(キレート基)(R4)の結合率をそれぞれ示しており、lは5〜35モル%、mは5〜35モル%、nは5〜15モル%、oは30〜60モル%を示す。
【0026】
一方、上記製造された高分子に、さらにN−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS−ester)により改良された蛍光物質基が末端に結合したアルキレンジアミン基を導入することにより、近赤外線蛍光造影剤を製造することができる。
【0027】
このように、ポリスクシンイミドの主鎖と上述した導入物質を重合することによって製造された合成高分子は、50〜100℃の反応温度でジメチルホルムイミド(DMF)またはジメチルスルホキシド(DMSO)等の溶媒を使用して反応させる。反応完了後、エチルエーテルを用いて未反応高分子と不純物を除去し、真空乾燥ポンプを用いて精製された粉末状態の合成高分子を得た。
【0028】
さらに、本発明は、上記ポリスクシンイミド系高分子と造影剤を合成、精製し、抗ガン剤を封入できる多機能性造影剤を製造する。
【0029】
上記抗ガン剤としては、ドキソルビシン(Doxorubicin)、エピルビシン(Epirubicin)、ドセタキセル(Docetaxel)、パクリタキセル(Paclitaxel)、バルルビシン(Valrubicin)、シスプラチン(Cisplatin)またはタモキシフェン(Tamoxifen)がある。
特に、本発明では、精製された造影剤をジメチルスルホキシドまたはジメチルホルムイミドに溶かした混合溶液と抗ガン剤を、超音波発生器(Ultra−sonicator)により100分以内で照射することにより、抗ガン剤を封入させた多機能性造影剤を製造する。
親水性基、疎水性基を有する造影剤は、有機溶媒で溶解して粒子化せずに結合した高分子鎖として存在し、このとき、疎水性薬物である抗ガン剤は運動エネルギー(Kinectic energy)を受け、疎水性相互作用(hydrophobic interaction)と水溶液での自己組織化(self−assembly)により封入される。
【0030】
本発明の多機能性造影剤は、多数の機能基をポリスクシンイミドの分枝鎖に導入することにより、生分解性、生体拒絶反応の最小化及び生体利用率の増加、造影剤の薬効の増加、薬物捕集などの多機能を同時に発揮可能である。
【0031】
種々の生体適合性高分子を用いた造影剤のうち、本発明の主鎖として用いられたポリアミノ酸系のポリスクシンイミドは、他の化合物との反応性がよいので分枝鎖の導入が容易であり、また、毒性がなく、生分解する時間の調節が容易であるという、有益な特徴がある。
【0032】
既存の造影剤に比べ、本発明による造影剤は、蛍光物質の導入及びMRI造影剤の導入、抗ガン剤の導入が可能であるので、多様性、多機能性を有する。さらに、図15に示すように、粒径の調節が可能であり、リンパ節及び血管の造影が可能であるので、解像度及び感度の観点からも大変貢献していることが分かる。また、本願の造影剤は、造影効果と同時に以外に抗癌効果も提供可能であり、機能が向上されている。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、多数の機能基をポリスクシンイミドの分枝鎖として導入し、生分解性で、生体拒絶反応の最小化及び生体利用率の増加させ、MRI酸化鉄造影剤または近赤外線蛍光造影剤の効果があり、抗ガン剤捕集が可能な20〜200nm粒径のポリスクシンイミド系高分子とこれを含有する造影剤に関するものである。
【0034】
従って、本発明のポリスクシンイミド系高分子で構成された造影剤は、診断及び治療剤のための診断治療剤として用いることができ、その他にも多様な医薬分野での活用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例1−1)で製造されたポリスクシンイミドの分枝鎖に導入されたポリエチレングリコールの1H−NMRの結果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例1−2)で製造されたポリスクシンイミドの分枝鎖に導入されたヘキサデシルアミンの1H−NMRの結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例1−2)で製造されたポリスクシンイミドの分枝鎖に導入されたエタノールアミンの1H−NMRの結果を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1−3)で製造されたポリスクシンイミドの分枝鎖に導入されたエチレンジアミンの1H−NMRの結果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例1−3)で製造されたポリスクシンイミドのTEMイメージ(1)と、レーザ分布図(2)である。
【図6】本発明の実施例1−3)で製造されたポリスクシンイミドの分枝鎖に導入されたエチレンジアミンの確認のために、実施例1−2)(左側)と実施例1−3)(右側)のゼータ電位を示すものである。
【図7】本発明の実施例1−4)で製造されたポリスクシンイミドの分枝鎖に導入された蛍光物質の確認のために、精製後の生成物を示す図である(右側の初期濃度から左に向かってシーケンシャル20%連続希釈)。
【図8】本発明の実施例1−4)で製造されたポリスクシンイミドの分枝鎖に導入された蛍光物質のTEMによる粒子形成を示す図である。
【図9】本発明の実施例1−4)で製造されたポリスクシンイミドの最大吸収波長を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例2で製造された造影剤のTEMとELSによる粒子の直径とサイズ分布を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例2で製造された造影剤の造影効果を確認するための生体内の(in vivo)実験におけるVX2肝ガンモデルのうさぎのMRI画像を示すものである。
【図12】本発明の実施例2で製造された造影剤の血管造影を調査するためのRatの大静脈と大動脈のMRI映像を示すものである。
【図13】本発明の実施例2で製造された造影剤のリンパ節造影を調査するためのラットの大腿部リンパ節のMRI映像を示すものである。
【図14】図8のリンパ節部位をプルシアンブルー(Prussian Blue)で染色した組織学的結果を示すものである。
【図15】本発明の実施例2の実験方法によって製造された、合成高分子と鉄化合物の組成及び含有量に応じたMRI酸化鉄造影剤の粒子のサイズの分布を示すものである。
【図16】合成された造影剤に抗ガン剤を封入した診断治療剤の水相及び粉末状での物理的特性を示す図である。
【図17】本発明の実施例4により製造されたMRI酸化鉄診断治療剤の抗癌活性を確認するために、実験マウスの時間経過による腫瘍のサイズ変化を示している。
【図18】本発明の実施例4により製造されたMRI酸化鉄診断治療剤の抗癌活性を確認するために、実験マウスの腫瘍を摘出した写真である。
【図19】実施例4の実験方法により製造されたMRI酸化鉄診断治療剤の抗癌活性を確認するために、実験うさぎの時間経過による腫瘍のサイズ変化を示すものである。
【図20】(A)は、高感度のCCDカメラを用いてサンプルの注入前に得たヌードマウスの生体発光イメージであり、(B)は、本発明の実施例1−4)で製造されたポリスクシンイミド高分子溶液の静脈注射後24時間の蛍光イメージである(a:肝臓、b:腎臓、c:肺)。
【図21】本発明の実施例1−4)で製造されたポリスクシンイミド高分子溶液の静脈注射後24時間に得られたイメージである((A):摘出後の写真、(B):光学蛍光イメージ、a:心臓、b:肺、c:膀胱、d:肝臓、e:脾臓、f:腎臓、g:脳)。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明については、実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されない。
【0037】
<実施例1:ポリスクシンイミド系高分子の合成>
1)ポリスクシンイミドへのポリエチレングリコールの分枝鎖の導入(親水性基の導入)
主鎖のポリスクシンイミドとして、2,000〜4,000g/molを有するBaypure DSP製品(Baypure(登録商標))を購入した。窒素雰囲気下でポリスクシンイミド0.0025molをDMFに溶かした後、混合物を攪拌しながら、DMFに溶かしたポリエチレングリコールアミン(5,000g/mol)0.0006molをゆっくり滴下し、60℃で約24時間反応させた。約1時間室温で反応溶液を冷ました後、エチルエーテルに1滴ずつ滴下して褐色の沈殿物を得た。得られた沈殿物をメンブレンフィルタ紙に通し、真空状態で沈殿物から溶媒を除去して微細粉末形態の化合物を得た。
【0038】
上記のように得られた合成物のLH−NMRを測定し、その結果を図1に示した。ポリスクシンイミドに分枝鎖としてポリエチレングリコールが導入されたことが確認できた。
【0039】
2)ヘキサデシルアミンとエタノールアミン分枝鎖の導入(疎水性基及びアルカノールアミン基の導入)
窒素雰囲気で、上記1)で合成された化合物0.001molをDMFに入れて溶かした。この混合物を攪拌しながら、DMFに溶かしたヘキサデシルアミン0.0067 molを滴下して加えた。これら二つの溶液を、60℃で24時間攪拌しながら反応させた。反応完了後、室温で反応溶液を約1時間冷まし、エタノールアミン8mL(0.133mol)を徐々に加え、室温で24時間攪拌した。上記混合溶液をエチルエーテルに滴下して加え、沈殿物を得た。得られた褐色の沈殿物をメンブレンフィルタ紙を通し、真空状態で沈殿物の溶媒を除去して、微細な粉末形態の化合物を得た。
【0040】
上記のように得られた粉末の1H−NMRを測定し、その結果を図2と図3に示した。ポリスクシンイミドに分枝鎖としてヘキサデシルアミンとエタノールアミンが導入されたことが確認できた。
同様に、テトラデシルアミン、オクタデシルアミン、ジオクタデシルアミン及びリン脂質についても上記のような方法により進められ、分枝鎖として導入することができた。
【0041】
【化3】
【0042】
上記化学式1aにおいて、R1はPEG、R2はヘキサデシルアミン、R4はエタノールアミン、R6は酸化鉄であり、また、l、m、oは、スクシンイミド反復単位構造の全体数に対する親水性基(R1)、疎水性基(R2)、アルカノールアミン基(キレート基)(R4)の結合率をそれぞれ示しており、lは5〜35モル%、mは5〜35モル%、oは30〜60モル%を示す。
【0043】
3)アルキレンジアミン分枝鎖の導入
上記2)で合成された化合物0.0005molをDMF15mLに溶かした溶液Aに、0.015molのエチレンジアミン10mLをDMF15mLに混ぜた溶液Bを、40℃、窒素雰囲気下でゆっくり滴下しながら攪拌した。二つの溶液を6時間反応させた後、反応物から溶媒をできるだけ除去し、脱イオン化水10mLに溶かした後、48時間透析膜(Dialysis mebrane、MW3500)を用いて反応していないモノマーを除去した。透析の完了後に凍結乾燥過程を経て、微細な粉末形態の化合物を得た。
【0044】
上記実施例1−2)で合成された高分子にエチレンジアミン(ED)を導入し、PSIの反復基で分枝鎖の導入がなされていない部分を、エチレンジアミンを用いて開環(ring opening)反応によりポリヒドロキシエチルアスパルトアミド(poly hydroxyethyl aspartamide)(PHEA)を合成した。合成された高分子は、水相で再分散し易いPHEA−mPEG−C16−EDである。合成した高分子の分枝は、図4に示すように、1H−NMRで現われた1.3、2.4ppm付近のメチレンピークから、共有結合したエチレンジアミンの重合の存在を確認することができた。
【0045】
GPC分析により、重量平均分子量27,000を有するPSI−mPEG−C16−ED合成高分子であることが確認できた。48時間の透析後、凍結乾燥して計量により収率を計算したところ、約82%であった。
【0046】
重合した高分子PHEA−mPEG−C16−ED10mgを、3級の蒸留水に分散させた後、ミセル粒子の粒径と表面電荷を電気泳動光散乱光度計(electrophoretic light scattering spectrophotometer、ELS−8000 大塚電子株式会社製)を用いて測定した。表面電荷は25℃、pH7で測定した。粒径と形態を確認するために、TEM(透過型電子顕微鏡、JEM−2010、JEOL(日本電子株式会社)製)を用いて測定した。TEM試料は、3級の蒸留水に分散させた後、300meshの炭素コーティングされた銅格子(lattice)で滴下し、乾燥させてから測定した。
【0047】
図5に示すように、合成されたPHEA−mPEG−C16−ED分枝高分子が1w%の水性の環境でミセルを形成したとき、PHEA−mPEG−C16−EDのミセルは、20nmと50nmのスケール−バー(scale−bar)のTEM映像を通して球形の粒子を有し、ELS測定によって平均粒径が約23nmであり、平均粒径10.6±6.7nmのレーザ分布度による粒子サイズを有することが確認できた。上記の結果に基づいて球形のミセルを製造可能であることが確認できた。
【0048】
上記で得られた粉末を脱イオン水に分散させ、ゼータ電位測定装置で測定して、その結果を図6に示す。ゼータ電位値の負(−)から正(+)への変化に基づいて、正(+)のゼータ電位値を有するエチレンジアミンが導入されたことが確認できた。
【0049】
同様に、アミン基が両端に存在するメチレンジアミン、プロピレンジアミンについても、主鎖として導入することができた。
【0050】
4)蛍光物質の導入
上記3)の合成物を、NHS−エステルにより改良された蛍光物質であるカルボキシフルオセイン二酢酸N−スクシンイミジルエステル、CY3.5NHS−エステル、CY5.5NHS−エステルなどと結合し、蛍光物質が結合したナノ粒子が得られた。
【0051】
CY5.5NHS−エステルは、次の化学式3に示す構造を有しており、NHS−エステル基は、ペプチドを標識化するためにもっとも都合がよい官能基なので、頻繁に使用される。アミノ基の標識化のための最も有用な反応は、アシル化(acylation)である。
【0052】
【化4】
【0053】
大部分の蛋白質の標識化は、pH7〜9で、リン酸塩、重炭酸塩、炭酸塩及びホウ酸塩緩衝液で反応させる[G. H.Haggis,D.Michie,A.R.Muir,K.B.Roberts,P.M.B.Walker,Longmans(Bristol)Green&Co.LTD.,(1965)]。これに基づき、Veisehらの実験方法にあるように、蛍光物質を導入した。
【0054】
上記3)の合成物0.00083molとCY5.5NHS−エステル1.3nmolを、それぞれ重炭酸塩緩衝液(pH8.5)に分散または溶かし、CY5.5NHS−エステル水溶液(DMFに溶解)を徐々に滴下し、室温で反応させた。
膜透析(MWCO 3500,ビスカスセールスインク(Viskase Sales Inc.)、シカゴ、イリノイ州、アメリカ合衆国)を用い、4℃の暗室で48時間PBS(リン酸塩緩衝生理食塩水(phosphate−buffered saline)、pH7.4)で未反応のCy5.5及びNHS−エステルを除去し、最終生成物のPHEA−mPEG−C16−ED−Cy5.5を得た。
【0055】
PHEA−mPEG−C16−EDに蛍光物質を導入し、透析した後、得られた生成物を20%の割合でPBSで段階希釈した結果を図7に示す。蛍光物質が存在することを視覚的評価法(visual accessment)により確認できた。また、粒子形成と大きさは、図8のTEM画像から直径が約3〜8nmの球形の粒子が形成されたことを確認できた。
上記から、ポリスクシンイミドに分枝鎖として蛍光物質が導入されたことが確認できた。
【0056】
【化5】
【0057】
上記化学式2aにおいて、R1はPEG、R2はヘキサデシルアミン、R3はエチレンジアミン、R4はエタノールアミン、R5はCY5.5NHS−エステル、R6は酸化鉄であり、また、l、m、n、oは、スクシンイミド反復単位構造の全体数に対する親水性基(R1)、疎水性基(R2)、アルキレンジアミン基(R3)、アルカノールアミン基(キレート基)(R4)の結合率をそれぞれ示しており、lは5〜35モル%、mは5〜35モル%、nは5〜15モル%、oは30〜60モル%を示す。
【0058】
蛍光物質を導入して精製した後、最終のサンプルに残っている蛍光物質を吸光度を紫外可視光線分光光度計(島津製作所製 UVmini−1240、日本)で測定し、下記のランベルト−ベールの法則(Lambert−Beer law)による計算式である[数式1]で計算して、定量分析した[G.Giammona,G.Puglisi,G.Cavallaro,A.Spadaro,G.Pitarresi,J.Control.Release.,33,261−271(1995)]。
【0059】
(数1)
C=A/(kd) ……数式1
【0060】
Aはサンプル1mLを最大吸収波長で測定した吸光度を示し、kは最大吸収波長で45000となる吸光度係数を示し、また、dは、紫外可視光線分光光度計により測定するときに用いた石英セルを光が透過する通路の長さが1cmであることを示し、1の値を示す。
【0061】
生成物の初期濃度をPBSで20倍希釈し、紫外可視光線分光光度計を用いて最大吸収波長を測定した。遊離CY5.5染料(Free CY5.5 dye)は、673nmで最大吸収波長値を有することが知られている[S.R.Mujumdar,R.B.Mujumdar,C.M.Grant,A.S.Waggoner,Biocon.Chem.,7,356−362(1996)]。
図9に示すように、PHEA−mPEG−C16−ED−CY5.5は、678nmで最大吸収波長を示している。CY5.5の導入量を定量分析した結果、最終サンプル溶液全体にはCY5.5が0.928μg含まれていることが確認できた。
【0062】
次の表1は、近赤外線蛍光造影剤の物理的特性として、ELSによる粒径、ゼータ電位による粒子表面の電荷測定、紫外可視分光計(UV−vis Spectrometer)による封入率を示すものである。
【0063】
【表1】
【0064】
<実施例2:造影剤の合成>
分枝鎖に導入された精製された造影剤は、2工程の段階を経て得られる。
【0065】
1)造影剤の合成
上記実施例1−2)で製造されたポリスクシンイミド系高分子0.00073molと0.0033molのFeCl2・4H2O(二塩化鉄四水和物)、0.0049molのFeCl3・6H2O(三塩化鉄六水和物)を、窒素が充填された3次蒸留水200mLに入れて完全に溶かした後、窒素雰囲気で攪拌器により攪拌しながら、アンモニア水30mLをシリンジポンプ(ケイディーシーンティフィック製(Kd scientific)、U.S.A.)を用いて徐々に加えた。このとき、注射器の針は20Gを用い、注射速度は、注入開始から20分までは6mL/h、20分後からは7mL/hの速度で注入した。攪拌速度は、混合溶液に気泡が形成されない程度に勢いよく攪拌し、反応時間は、アンモニア水の注入時間を含めて1時間反応させた。反応完了後、約30分間室温で反応溶液を冷まし、さらに3次蒸留水600mLに入れて未反応の高分子を除去するために混合した。この時、3次蒸留水との混合過程前の反応溶液は10.0〜13.0pHであって、強いアルカリ度を示す。
【0066】
2)造影剤の精製
上記で合成された造影剤を精製するために、二工程が行われる。1)不純物を除去し、粒子の大きな造影剤を除去する、2)未反応の高分子を除去し、アルカリ性の造影剤をpH6.5〜7.0に調整する。
【0067】
第1段階では、減圧フラスコに吸引装置と0.2μmの薄膜ろ過紙を挿入し、真空ポンプを用いて精製した。第2段階では、接線流分離モジュール(中空繊維フィルター膜)を有する透析[Dialysis with Tangential flow separation module(Hollow fiber filter membrane)]装置を用い、未反応の高分子を除去してpHを調整した。このとき、上記装置の媒体/比率(media/rating)はPS/50kDであって、3級蒸留水をは約5Lを用いた。上記装置による精製は、透析膜細管(dialysis membrane tubing)を用いるときよりも、時間及び経済的な面から優れている。
【0068】
造影剤の合成の結果として、精製に続いて凍結乾燥が行われ、褐色粉末の造影剤を得た。最終的に生成された造影剤は、TEMにより粒径及び形態を確認し、その結果を図10に示した。造影剤は、ELSの測定時に約30nmの球形粒子であることが明らかにされた。さらに、生成された造影剤は、鉄含有量が約9.8%であって、超常磁性を有していることを示している。XPSによる要素分析によって、生成された造影剤は、合成高分子によるコーティングによって、表面に少量の鉄が存在することが明らかになった。また、造影効果を確認するために、ファントム(Phantom)を製作し、対照群のレゾビスト(Resovist)とともに生体外(In vitro)でMRIを測定した。対照群と同じ濃度で測定した結果、同等またはそれ以上の効果を奏することが確認できた。
【0069】
生体内の(In Vivo)実験では、VX2肝ガンモデルうさぎ(3kg)に、上記造影剤を40μg・molFe/kgの量を耳静脈に注射した後、注入後0分(直後)から20分までの、MRIによる肝での造影効果を観察した。結果を図11に示しており、正常組織と病変組織(癌)が確認できた。
また、平均粒径が約30nmである上記造影剤は、USPIO(超小型超常磁性酸化鉄(Ultra small Superparamagnetic Iron Oxide))で、粒径が小さいため、血管内で長時間循環し、特定部位及び小さな部位に吸収されて造影効果を提供することができる。
ラット(300g)に80μg・molFe/kgの量を尻尾に静脈注射した後、MRIを用いてT1技法で大静脈と大動脈の造影効果を観察し、その結果を図12に示した。36時間後、T2技法でリンパ節の造影効果を観察し、それらの組織を病理的に検査した。その結果を図13と図14に示した。これにより、上記造影剤は、肝臓と同様に、血管及びリンパ節の造影が可能であることが確認できた。
【0070】
<実施例3:合成高分子の構成と内容及び鉄化合物の含有量の変化による粒径分布>
上記実施例2のMRI酸化鉄造影剤の他の特徴として、主鎖のポリスクシンイミドに、疎水性高分子であるヘキサデシルアミンの合成率及び、合成高分子と鉄化合物のそれぞれの量に応じた反応から生成されたMRI酸化鉄造影剤は、多様な粒径を再現することができた。
上記実施例2の実験方法と同様の方法で、図15に示す反応物の条件にによって、約20〜150nmの範囲の多様な粒径を有する造影剤を製造した。
ヘキサデシルアミン(疎水性高分子)を、ポリスクシンイミド(主鎖)に対して合成率をそれぞれ15%、25%、35%で合成した高分子を、鉄化合物の溶質と対比して4:3、4:15、4:1、4:0.75の重量比で反応させ、約20〜150nmの上記の粒径を有する造影剤を得た。なお、ここでは鉄化合物の値は、実施例2の鉄化合物のモル値である。
【0071】
多様な大きさの造影剤は、飽和磁束密度20〜80emu/gFeの範囲の磁化を有し、約5〜12%の鉄含有量を示した。
【0072】
上記造影剤の合成工程は、反応が激烈で速く、敏感であるため、上述した実験条件に多少制約がある。
【0073】
<実施例4:造影剤への抗ガン剤の封入>
上記実施例2で製造した約30nmの粒径を有する造影剤に、ドキソルビシン、エピルビシンなどの抗ガン剤を封入することができる。
造影剤100mgとジメチルスルホオキシド(DMSO)3mLを混合したサンプルAと、15mgのドキソルビシン−HClを1mLのDMSOに溶かした後、150μ?のトリエタノールアミンに加え、酸の脱プロトン化により疎水性のドキソルビシンまたはエピルビシンを得たサンプルBを製造した。
サンプルAとサンプルBの混合工程は、、超音波処理槽(Sonication bath)を用いてそれぞれ5分間、1分間照射で導入された。
サンプルAとBの混合物を超音波発生器で2分間照射して得られたサンプルCを、さらに超音波発生器(Ultra−sonicator)で照射しながら、40mLの3級蒸留水を含有するサンプルDを、26ゲージの注射器を用いて分散させた。このとき、溶液の温度は、氷浴(ice bath)を用いて10℃またはそれ以下になるように維持し、超音波発生器の出力は、50Wで10分間照射し、200μ?/minの注射速度で1分間溶液を処理した後、30秒間放置した。全体の工程を5回繰り返した。
上記工程を終えた後、最終的に混合した溶液を透析薄膜管(dialysis membrance tubing)(MW10,000)に入れ、4℃の冷蔵庫で48時間透析し、封入されていない抗ガン剤と反応剤を除去した。
48時間の透析後に、凍結乾燥して粉末の診断治療剤を得た(図16)。
得られた診断治療剤は、水相での分散に優れており、約60〜70nmの粒径と−20〜−30mVの粒子表面電荷値を有し、UV−Visを用いて測定した抗ガン剤の封入効率は、約80〜90%であった。
【0074】
次の表2は、診断治療剤の物理的特性として、ELSによる粒径、ゼータ電位による粒子表面電荷の測定、UV−visによる封入効率を示している。
【0075】
【表2】
【0076】
図17は、製造した診断治療剤を、マウス黒色腫細胞B16F10(murine melanoma cell)を同種移植した実験ネズミに静脈注射し、抗癌効果を確認したデータを示しており、図18は、腫瘍を摘出して抗癌効果を確認したものである。
【0077】
図19は、製造した診断治療剤を、VX2肝ガン細胞株(VX2 hepatoma cell)を継代培養して癌を誘発させた実験うさぎに静脈注射し、時系列のMRI映像を得て抗癌効果を確認したものである。
【0078】
<実施例5:生体内の(In Vivo)近赤外線蛍光画像測定>
近赤外線画像の測定のために、6週齢のヌードマウス(雌)を、1週間の適応期間を経て、実験開始前まで12時間絶食させて用いた。
計5頭のマウスを、1.5%のイソフルオランで麻酔した。蛍光映像を得るための装備として発光・蛍光動物イメージングシステム(luminescence and fluorescence animal imaging system)(ゼナガンコーポレーション製(Xenogen corporation),KBSI チュンチェンセンター、韓国)を用いた。マウスから放出される生体発光(biofluorescence)は、高感度の電荷結合素子(CCD)カメラを用い、試料注入前に画像を測定した。蛍光イメージは、615〜665nmの励起通過帯域(excitation passband−filter)及び695〜770nmの励起通過帯域(excitation passband−filter)を用い、0.1秒間露出させて得た。
光子(photon)の流量濃度は、IVIS画像装置プログラムにより光子/秒/cm2(photon/second/cm2)で表して計算した。
【0079】
試料溶液PHEA−mPEG−C16−ED−CY5.5を100ul静脈注射した後、注射前の画像と、注射してから0.5、1、3、6、9、12、24、そして48時間後の画像を得た。24時間後の画像を得た後、解剖して肝臓、肺、心臓、腎臓、脾臓、膀胱、そして脳を摘出し、近赤外線の映像を得て分析した。
【0080】
実験動物に静脈注射したサンプル溶液PHEA−mPEG−C16−ED−CY5.5の100ulには、約0.428uMの蛍光物質が含まれている。実験開始前まで12時間絶食させたマウスは、サンプルの注入前に生体発光は検出されなかった。
試料の注入後、蛍光イメージは、0.1secの露出時間だけでサンプル注入後30分後に十分な飽和状態(saturation)に到達した。さらに、注入後48時間までの画像から、CY5.5が含まれた試料の粒子が多数の臓器で長時間循環し、蓄積されることが確認できた。
図20は、試料の注入前の生体発光画像(A)と、注入24時間後の蛍光イメージ(B)を示している。
PHEA−mPEG−C16−ED−CY5.5の試料の粒子が肝臓、腎臓、肺、膀胱などを中心に循環し、蓄積されたことが確認できた。また、時間が経つにつれて腎臓を通って多数の臓器へと循環して蓄積されるのは、サンプルの粒子が親水性でかつ小さな粒径を有しているからであると推測される。
【0081】
図21は、試料の注入24時間後の臓器を摘出して得た画像であって、最も高い蛍光に基づいて、CY5.5を含むサンプルの粒子が肝臓に多く蓄積されることが示されている。腎臓では、中心部で低い蛍光効率を示し、外側で比較的高い蛍光効率を示していることから、蛍光分子がろ過または排出されているものと推測される。その一方、試料の粒子は、脳でも弱く蛍光が検出され、さらに48時間後の摘出時にも検出され、脳造影剤としても応用が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0082】
上述のように、本発明により親水性基、疎水性基が導入されたポリスクシンイミド系高分子は、さらにMRI酸化鉄造影剤または近赤外線蛍光造影剤を製造するためにアルキレンジアミン基が導入される。特に本発明のMRI酸化鉄造影剤は、生体利用率に優れており、造影粒子の粒径調節及び優れた造影効果を奏する。
本発明の造影剤は、多機能的目的を発揮するとともに、薬物捕集能力を有しており、抗ガン剤を封入させて診断治療剤としての製造が可能である。さらに、MIR測定のT2造影剤として、安価な鉄化合物を用い、簡単な工程で大量生産が可能であり、造影性と抗癌活性による二つの効果によって、医薬品分野で広範囲に使用されることが期待される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)分子量が1,000〜100,000の範囲の無水マレイン酸から合成されたポリスクシンイミドで形成された主鎖と、
(b)分子量が100〜20,000の範囲のポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、デキストラン、ポリエチレンオキシド、ポリリジンまたはポリビニールアルコール由来の親水性基、炭素が3〜80のアミンまたはリン脂質由来の疎水性基、及びガドリニウム、マンガン、酸化鉄、アルミニウム、シリコン、バリウム、イットリウム及び希土類元素の群から選択された造影剤で構成されたアルカノールアミン基からなる分枝鎖
で構成されたポリスクシンイミド系化合物。
【請求項2】
N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS−ester)により改良された蛍光物質が末端に結合したアルキレンジアミン基がさらに加えられたことを特徴とする請求項1に記載のポリスクシンイミド系化合物。
【請求項3】
上記N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS−ester)により改良された蛍光物質は、カルボキシフルオセインジアセテートN−スクシンイミジルエステル(carboxyfluorescein diacetate N−succinimidyl ester)、CYDyeTM3.5(mono reactive NHS−エステル)またはCYDyeTM 5.5(mono reactive NHS−エステル)を含有することを特徴とする請求項2に記載のポリスクシンイミド系化合物。
【請求項4】
粒径が20〜200nmであることを特徴とする請求項1に記載のポリスクシンイミド系化合物。
【請求項5】
第1項乃至第4項のいずれか一項に記載のポリスクシンイミド系化合物が含まれていることを特徴とする造影剤。
【請求項6】
抗ガン剤が封入されたことを特徴とする請求項5に記載の造影剤。
【請求項7】
上記抗ガン剤は、ドキソルビシン(Doxorubicin)、エピルビシン(Epirubicin)、ドセタキセル(Docetaxel)、パクリタキセル(Paclitaxel)、バルルビシン(Valrubicin)、シスプラチン(Cisplatin)またはタモキシフェン(Tamoxifen)であることを特徴とする請求項6に記載の造影剤。
【請求項8】
請求項5に記載の造影剤を接線流分離モジュールを有する透析(Dialysis with Tangential flow separation module)モジュールを用いて精製することを特徴とする多機能性造影剤の製造方法。
【請求項9】
前記造影剤の精製後に、ジメチルスルホキシドまたはジメチルホルムイミドに溶解させ、超音波発生器(Ultra−sonicator)で100分またはそれ以下照射することにより前記造影剤に抗ガン剤を封入させることを特徴とする請求項8記載の多機能性造影剤の製造方法。
【請求項1】
(a)分子量が1,000〜100,000の範囲の無水マレイン酸から合成されたポリスクシンイミドで形成された主鎖と、
(b)分子量が100〜20,000の範囲のポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、デキストラン、ポリエチレンオキシド、ポリリジンまたはポリビニールアルコール由来の親水性基、炭素が3〜80のアミンまたはリン脂質由来の疎水性基、及びガドリニウム、マンガン、酸化鉄、アルミニウム、シリコン、バリウム、イットリウム及び希土類元素の群から選択された造影剤で構成されたアルカノールアミン基からなる分枝鎖
で構成されたポリスクシンイミド系化合物。
【請求項2】
N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS−ester)により改良された蛍光物質が末端に結合したアルキレンジアミン基がさらに加えられたことを特徴とする請求項1に記載のポリスクシンイミド系化合物。
【請求項3】
上記N−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS−ester)により改良された蛍光物質は、カルボキシフルオセインジアセテートN−スクシンイミジルエステル(carboxyfluorescein diacetate N−succinimidyl ester)、CYDyeTM3.5(mono reactive NHS−エステル)またはCYDyeTM 5.5(mono reactive NHS−エステル)を含有することを特徴とする請求項2に記載のポリスクシンイミド系化合物。
【請求項4】
粒径が20〜200nmであることを特徴とする請求項1に記載のポリスクシンイミド系化合物。
【請求項5】
第1項乃至第4項のいずれか一項に記載のポリスクシンイミド系化合物が含まれていることを特徴とする造影剤。
【請求項6】
抗ガン剤が封入されたことを特徴とする請求項5に記載の造影剤。
【請求項7】
上記抗ガン剤は、ドキソルビシン(Doxorubicin)、エピルビシン(Epirubicin)、ドセタキセル(Docetaxel)、パクリタキセル(Paclitaxel)、バルルビシン(Valrubicin)、シスプラチン(Cisplatin)またはタモキシフェン(Tamoxifen)であることを特徴とする請求項6に記載の造影剤。
【請求項8】
請求項5に記載の造影剤を接線流分離モジュールを有する透析(Dialysis with Tangential flow separation module)モジュールを用いて精製することを特徴とする多機能性造影剤の製造方法。
【請求項9】
前記造影剤の精製後に、ジメチルスルホキシドまたはジメチルホルムイミドに溶解させ、超音波発生器(Ultra−sonicator)で100分またはそれ以下照射することにより前記造影剤に抗ガン剤を封入させることを特徴とする請求項8記載の多機能性造影剤の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図15】
【図16】
【図17】
【図12】
【図13】
【図14】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図15】
【図16】
【図17】
【図12】
【図13】
【図14】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2012−520372(P2012−520372A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553928(P2011−553928)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【国際出願番号】PCT/KR2009/005533
【国際公開番号】WO2010/104253
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(510256159)コリア リサーチ インスティテュート オブ ケミカル テクノロジー (4)
【出願人】(509294645)コリア ユナイテッド ファーム.インク (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【国際出願番号】PCT/KR2009/005533
【国際公開番号】WO2010/104253
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(510256159)コリア リサーチ インスティテュート オブ ケミカル テクノロジー (4)
【出願人】(509294645)コリア ユナイテッド ファーム.インク (2)
【Fターム(参考)】
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