説明

生体適用材料

【課題】酸、アルカリや有害な溶媒の混入がなく、生体への危険性が全くない生体適合材料を提供する。
【解決手段】キチンまたはキトサン、あるいはその複合体を含む平均繊維径が20nm程度のナノファイバーを酸、アルカリ、有機溶媒などを一切使用せず、水のみを用いて調製する。そのため得られるナノファイバーは生体への危険性がなく、ナノファイバー化により優れた細胞接着性を有する。これらのナノファイバーは人工皮膚、創傷被覆剤など、また、各種臓器再生に必要とされる細胞接着のための足場などの医療用材料あるいは生体適合材料として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療の分野では、天然高分子を中心とする生体適合性に優れた材料を利用した人工皮膚の研究開発が進められている。また、組織再生には、足場(scaffold)としての三次元構造が必要であることから、人工皮膚としての材料には、生体適合性や安全性のほか、適度な力学的強度、細胞接着に資する十分な表面積、あるいは酸素や栄養分を供給し細胞や再生組織の侵入路となる多孔質構造が形成され得るものであることが求められている。
【0003】
足場として機能する三次元構造としては、スポンジ体、ハニカム体、あるいは繊維を重層した不織布などが知られているが、そのうち不織布を構成する機能としては、従来から知られている繊維幅(短径)がマイクロメーターオーダーの極細繊維のほか、さらに細いナノメーターオーダーの繊維(ナノファイバー)の開発・実用化が進められている。ナノファイバーは、その繊維幅が100nm以下であると定義され、従来の極細繊維に比較しても格段に大きな比表面積を有するため、細胞接着効率の点で有利である。
【0004】
天然高分子としてゼラチン、コラーゲンなどを用いた数ナノメーターないし数十マイクロメーターの短径を有する繊維の不織布、また、キトサン、コンドロイチン硫酸、ペクチン、ヒアルロン酸などの多糖類も短径が500nm程度である繊維の不織布が医療用材料として応用されている。特に、自然界に豊富に存在するバイオマスであるキチン・キトサンは、優れた生体適合性を有するため再生医療分野では注目されているが、強固な結晶構造を形成しているために分解・微細化が困難であり、その利用が滞っている。
【0005】
酸処理キチン・キトサンおよびキチン・キトサンペースト(特許文献1)、極細ナノファイバーの製造方法(特許文献2)、機能性創傷被覆材(特許文献3)、骨補填材、及びその製造方法(特許文献4)に関する文献が知られているが、その製造には極めて毒性の高い特殊な試薬が使用されており、生体への安全性の点で問題がある。しかも、キチン繊維からなる人工皮膚の場合、繊維径がマイクロメーターオーダーであるため細胞に対する生着性が十分でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-1829
【特許文献2】特開2009-270210
【特許文献3】特開平10-151184
【特許文献4】特開平10-309287
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、人工皮膚や創傷被覆材として安全であり、しかも組織再生のための足場として優れた細胞接着性を有する医療用材料、生体適合材料、細胞培養基材及び化粧料を提供することである。そこで優れた生体適合性を持つキチン・キトサンに注目し、これらを効率的にナノファイバー化することで様々な形態に加工し、生体適用材料として利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、キチンナノファイバー、必要に応じてさらにキトサンナノファイバーを含むフィルム、スラリー、ペースト、エマルジョンなどの材料を生体に適用した場合に、これらを溶解した材料と比較して優れた効果を有することを見出した。
【0009】
本発明は、以下の生体適用材料を提供するものである。
項1. キチンナノファイバー及び/又はキトサンナノファイバーを含む生体適用材料。
項2. ペースト、ゲル、スラリー、フィルム、シート、多孔質体、分散液、懸濁液またはエマルジョンの形態である項1に記載の生体適用材料。
項3. キチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーを含む項1に記載の生体適用材料。
項4. 人工皮膚、創傷被覆剤などの医療用材料あるいは各種臓器再生のための足場である細胞培養基材として用いられる、項1〜3のいずれかに記載の生体適用材料。
項5. ナノファイバーの平均繊維幅(短径)が4〜100nm、好ましくは4〜20nmである、項1〜4のいずれかに記載の生体適用材料。
項6. キチンナノファイバー及び/又はキトサンナノファイバー分散体から乾燥処理により水分を除去して得られるフィルム、シートまたは多孔質体。
項7. 酸処理したキチン・キトサンに比べて細胞接着性が2倍以上優れることを特徴とする項6に記載のフィルム、シートまたは多孔質体。
項8. キチンナノファイバー及び/又はキトサンナノファイバーを水に分散させていることを特徴とするキチン・キトサンナノファイバー分散液。
項9. キチンナノファイバー及び/又はキトサンナノファイバーを含む、化粧料。
【発明の効果】
【0010】
キチン・キトサン(難溶解性多糖類)は創傷被覆材(人工皮膚)として医療現場ですでに使用されているが、これらを製造する場合にはキチン・キトサンを溶剤に溶解して紡糸または製膜する工程が必要である。キトサンの場合には酸やアミドで可溶化後に製膜、あるいはエレクトロスピニング等により繊維化し製膜する手法がとられている。しかしながら、これらの先行技術は工程が煩雑で、かつ有機溶剤を使用するため生体への影響が懸念される。これに対し、本発明は、キチンやキトサンを水中で加圧噴射して微細化あるいはナノファイバー化してスラリーとした後に、必要に応じて製膜するものであり、有機溶剤を使用しない生体材料の作製という点で、環境への負荷、生体への危険性がない。
【0011】
本発明のキチン・キトサンのナノファイバーを含むスラリー等は、水を蒸発させることで製膜あるいは、基板とすることができ、従来法よりも体細胞の接着・増殖に優れたものであることが本発明により明らかにされた。特にキチン単体は優れた生体適合素材であるが良溶媒が無く、先行技術での製膜が困難であった。本発明はそれを容易にしている。
【0012】
従来のエレクトロスピニングによるナノファイバー化では有機溶剤に可溶な素材しか用いることができなかったが、本発明ではその制限がなく、たとえば、抗菌性を有するキトサンと細胞接着性に優れるキチンをナノレベルで複合化した生体適用材料の製造が容易である。また、それらに適度な物性を持たせるために他の生分解性高分子との複合も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】細胞播種10日後の細胞接着数。I:キトサン酢酸溶解キャストフィルム(従来法)。II:ウォータージェットで5回処理したキトサンフィルム。III:ウォータージェットで5回処理したキチンフィルム
【図2A】キチンフィルム表面のSEM観察の電子顕微鏡写真。「酢酸」:キチンを酢酸で溶かしたシート、「5pass」:ウォータージェットで5回処理したキチンをシートにしたもの。
【図2B】細胞吸着させたキチンフィルム表面のSEM観察の電子顕微鏡写真。「酢酸」:キチンを酢酸で溶かしたシート、「5pass」:ウォータージェットで5回処理したキチンをシートにしたもの。
【図3】FE-SEMによるキチン・キトサンナノファイバーの観察
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の方法で使用するキチンないしキトサンのナノファイバーの平均径(短径)は、4〜100nm程度、好ましくは4〜50nm程度、より好ましくは4〜40nm程度、さらに好ましくは4〜25nm程度、最も好ましくは20nm程度である。このようなキチンないしキトサンのナノファイバーは、キチンないしキトサンの分散流体を高圧噴射して製造することができる。
【0015】
本発明によれば、キチン、キトサンなどの結晶性ないし水難溶性の天然高分子を水の分散流体とし高圧噴射処理によりナノファイバーとすることができる。ここで、「分散流体」とは、キチン、キトサンを水に分散したものであり、濃度が薄い場合には、流動性の分散液になるが、特にキチン、キトサンが微細化するにしたがって粘性が高くなり、濃度が高くなるとペーストに近い性状となる。キチン/キトサンのナノファイバーの分散流体の濃度は、高濃度ほど処理効率が高まるため好ましいが、特にナノレベルの微細化した繊維の場合、粘度が高くなりすぎペースト状になると高圧噴射が困難になる。本発明では、キチン/キトサンのファイバー(好ましくはキチン/キトサンのナノファイバー)が高濃度であっても高圧噴射することができる装置を開発したため、分散流体中のバイオマスの濃度は例えば1〜20重量%程度、好ましくは5〜20重量%程度、より好ましくは10〜20重量%程度、さらに好ましくは11〜20重量%程度であってもよい。本発明のキチンナノファイバー/キトサンナノファイバーは、スラリーないしペースト状で生体(例えば皮膚、粘膜、臓器、器官、細胞など)に適用することがあり、このような場合、高濃度の分散液を高圧噴射すれば、水を蒸発させる必要はなく、直接スラリーないしペースト状のナノファイバーを得られるので好ましい。
【0016】
本発明の生体適合材料において、キチン/キトサンのナノファイバーは、他の生体適合性材料と組み合わせて使用することができる。このような生体適合性材料としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリεカプロラクトンなどの生分解性ポリエステル、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチンなどの生体由来高分子、ポリエチレン、ポリメタクリル酸メチルなどの合成高分子、ハイドロキシアパタイト、二酸化チタン、硫酸バリウムなどの無機化合物が挙げられる。
【0017】
本発明で使用するキチン/キトサンの原料は、繊維状、粒状などの任意の形態であってもよい。キチンはエビ、カニなどの甲殻類の殻などバイオマスを直接原料として使用することができる。キチン・キトサンは、一般的に知られている方法で除タンパク質・脱カルシウム処理された精製キチン・キトサンを原料として使用するのが好ましい。キチン・キトサンは、市販の原料を使用してもよい。本発明の装置でバイオマスを高圧噴射処理すると、キチン・キトサンは繊維の長さを保ったまま繊維同士の絡まりがほどけて細くなるが、噴射圧力や処理回数などの処理条件を変えることで、繊維の切断もしくは分子量を低下させることも可能である。なお、本明細書において「ナノファイバー」とは、繊維の幅がナノサイズになったものを意味する。ナノファイバーの直径(幅)は、電子顕微鏡写真により測定することができる。このような繊維は、長さはナノサイズではないが、直径(幅)がナノサイズであるので、本明細書においてナノファイバーと記載する。
【0018】
本発明の材料は、ペースト、ゲル、スラリー、フィルム、シート、多孔質体、分散液、懸濁液またはエマルジョン(W/O、O/W、W/O/Wなど)などの形態で使用することができる。本発明の材料は、水を含む材料であり、水とナノファイバーの合計量を100重量部としたときの水の含量は、5〜99.5重量部、好ましくは8〜98.5重量部である。例えばペースト、ゲル、スラリーなどの半固形状ないし流動性の低い材料の場合、水の含量は10〜95重量部である。分散液ないし懸濁液の場合、水の含量は95〜98.5重量部である。さらに、フィルム、シート、多孔質体などの場合、水の含量は8〜70重量部である。なお、多孔質体は、凍結乾燥することにより製造でき、フィルム、シートなどはキャストなどの常法に従い作製できる。
【0019】
本発明の方法により処理されて得られたナノファイバーの平均径は4〜100nm程度、好ましくは4〜40nm程度、最も好ましくは4〜25nm程度である。本発明のナノファイバーは、繊維長/繊維幅(アスペクト比)が大きいため、強度を保ちつつ、不織布のようにナノファイバーが絡み合ったフィルム・シート状に成型することが容易であり、各種の生体適合材料として好適に使用できる。本発明のナノファイバーをフィルム・シート状にした不織布を、以下「ナノファイバーフィルム」と称す。本発明のナノファイバーフィルムは、繊維幅が極めて細く、透明性が高い特徴がある。
【0020】
キチン、キトサンの分散流体は、(株)スギノマシンが開発したウォータージェットを用いた超微細化装置を用いてノズルより高圧噴射することができる。高圧噴射の圧力は、30〜245MPa程度である。噴射速度は、242〜700m/s程度である。
【0021】
高圧噴射して衝突用硬質体に衝突させたキチン、キトサンの分散流体は回収し、再度ノズルより衝突用硬質体に向けて高圧噴射され、この操作を必要な回数、例えば1〜50回程度、好ましくは1〜40回程度、より好ましくは1〜30回程度、さらに好ましくは1〜20回程度、特に好ましくは1〜10回程度繰り返す。キチン、キトサンは、衝突用硬質体に衝突することで、繊維の絡まりがほどけ、繊維径が縮小し、ナノサイズに微細化していく。なお、衝突用硬質体としては、ボール状、平板状などの形状が挙げられる。分散流体を高圧噴射するノズルの直径としては、0.1〜0.8mm程度が挙げられる。
【0022】
キチンないしキトサンのナノファイバーは、繊維径(繊維幅)を細くすることで、繊維同士が高密度に絡まり、強度を増加する効果が期待できる。また、繊維間の空隙を増加させることで、細胞の増殖に必要な物質の移動や、細胞が接着する足場の機能を強化することができる。
【0023】
本発明のナノファイバーは、優れた細胞接着性を有することから、縫合部位にシート状ないしフィルム状の生体適用材料を適用して縫合することで、治癒を促進することができる。同様に、本発明のシート/フィルム上で各種幹細胞、繊維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、膵島細胞、肝臓細胞などの細胞を培養し、細胞を有するシート/フィルムを補綴、埋入、組織再生などの目的で生体内もしくは生体表面に適用してもよい。
【0024】
本発明の材料は、水とナノファイバーのみで構成でき、触媒や有害な薬品を一切使用しないので、生体に対する悪影響がない優れた材料である。しかも本発明で得られるナノファイバーは、従来のマイクロオーダーの極細繊維に比較しても格段に大きな比表面積を有するため、細胞接着効率の点で有利である。
【0025】
本発明により得られるナノファイバーは、繊維径が100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下、特に40nm以下である。本発明のナノファイバーは、繊維径が非常に細いため、水に分散させた場合に透明な溶液に近い外観を有し、水の中にナノファイバーが分散していることは肉眼的には認められず、透明な分散液を得ることもできる。本発明のウォータージェットで処理したキチンナノファイバーは遠心後(15,000rpm)も均一に分散することができる。ウォータージェットの処理回数を増加させることで、透明なゲル状態にすることができる。ウォータージェットで同様の処置を施すと、キトサンでも同じようなペースト、ゲルないしスラリー状のものが得られる。こうして得られたバイオナノファイバーのペースト/ゲル/スラリーをシャーレにキャストし乾燥させると半透明もしくは透明なフィルムが得られる。
【0026】
また、本発明のバイオナノファイバーは、可視光は通すが紫外線をカットする性質を有するため、UVケア化粧品に配合される生体適用材料として有用である。バイオナノファイバーは、保湿作用も有するので、化粧品に配合することやフィルム、シートとして肌に適用することができる。特に、キチン・キトサンは、傷んだ毛髪や皮膚に潤いと弾力を与えることが知られており、本発明のキチン・キトサンナノファイバーは化粧品として好適である。
【0027】
生体適用材料が配合される医薬品としては、軟膏剤、ローション剤、貼付剤、硬膏剤、エアゾール剤、液剤、エキス剤、眼軟膏剤、点眼剤、経皮吸収型製剤、創傷被覆剤、懸濁剤などが挙げられ、化粧品としては、ファンデーション、口紅、化粧水、乳液、クリームなどが挙げられ、スキンケア、保湿などの用途に好適に使用できる。
【0028】
キチン・キトサンナノファイバーは、キャストしてシートないしフィルムを作成することができる。これを応用して人工皮膚や手術時の臓器癒着防止シートを作成することができる。また、キチンコンタクトレンズは、キチンをアミド溶媒に溶かして透明で粘調なドープを得た後、特殊な凝固液にて溶媒を除去し、乾燥させて透明なレンズを得るが、本発明のキチンナノファイバーを用いると特殊な溶媒を必要とせず、乾燥だけでレンズ状の透明な成形体を作製することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことは言うまでもない。
【0030】
実施例1
(1)キチンおよびキトサンフィルムに対する正常ヒト皮膚繊維芽細胞の接着・増殖性
真皮層を構成する正常ヒト真皮線維芽細胞(NHDF)(クラボウ(株)製)を用いて、ウォータージェットで5回処理したキチンナノファイバー分散液およびウォータージェットで5回処理したキトサンナノファイバー分散液を各々キャストして得られたフィルム(本実施例において、各々キチンフィルム、キトサンフィルムと称する場合がある)に対する細胞接着数を評価しSEMで接着形態を評価した。
【0031】
(1−1)NHDFを、T-25フラスコ中で培養した後、トリプシンにより剥離し、培地(Medium 106S)(クラボウ(株)製)中に回収し、細胞懸濁液を作製した。その後、細胞密度2.0×104cells/cm2に調整して、キチンおよびキトサンフィルム上に播種した。培養条件は37℃、CO25%下で行い、培地交換は2日毎で行った。10日間培養した後、各フィルム表面への細胞接着数をMTTアッセイ(コスモバイオ(株)製TA5355)により定量した (図1) 。
【0032】
キトサン酢酸溶解キャストフィルムへの細胞接着数とキトサンフィルムへの細胞接着数に大きな相違は見られない。細胞接着数から見ると、同条件で実施した細胞接着性に優れるとされているポリ乳酸への細胞接着数5.8×104cell/cm2、あるいはポリグリコール酸への接着数6.3×104cell/cm2、より明らかに接着数が多く、高い生体適合性を有している、さらに、キチンキャストフィルムにおいては、キトサンフィルムの2倍以上の細胞接着数であり、本発明のキャストフィルムは高い生体適合性を有していると言える。
【0033】
(1−2)細胞が接着したキトサンフィルムをPBS(-)で洗浄後,2.5%グルタルアルデヒドで2時間固定した後,エタノール上昇系列(20%,50%,75%,90%,95%,100%,100%,100%)で各10分間脱水した.エタノールで脱水したフィルムはt−ブチルアルコール溶液に置換後,凍結乾燥した.尚,乾燥したサンプルを日立製 SEMEDX Type Nを用いて観察した (図2)。
【0034】
キトサン酢酸溶液キャストフィルム面は平滑であり、繊維芽細胞が凝集した状態で接着しているが、完全に表面を覆う状態にはなっていない。一方、キトサンフィルムには微細な凹凸がありそれらを覆うように擬足が伸び、細胞の伸展が見られる。これは、基板となる母材の表面構造の違いに起因するものであるが、細胞の接着伸展性を阻害するものではなく、基板との接着力という観点からはキトサンキャストフィルムが優れていると推察できる。
【0035】
2)電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)観察
ウォータージェット処理したキチンおよびキトサン分散液をt-ブタノールで置換し、凍結乾燥させた。乾燥させた試料に白金とパラジウムの混合物の蒸着を約3ナノメートルの膜厚で行った。JEOL社のJSM-6700を用いて加速電圧2.0kVの条件で電子顕微鏡観察を行った。ウォータージェット処理によりナノファイバー化されたキチンおよびキトサンのFE-SEM写真を図3に示す。
【0036】
実施例2
ウォータージェットで5回処理したキチンナノファイバー又はキトサンナノファイバーを1重量%含む水分散液の適量を13名のパネラーの手の甲に薄く塗布し、塗布液が完全に乾燥した10分後に保湿効果について評価した。結果を以下の表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
上記のように、キチンナノファイバー又はキトサンナノファイバーを含む分散液は強力かつ持続的な保湿効果があり、特にキトサンは乾燥後にもつやがあるため、スキンケア、保湿などの化粧品分野、或いは乾燥肌などの治療用の医薬品として優れていることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キチンナノファイバー及び/又はキトサンナノファイバーを含む生体適用材料。
【請求項2】
ペースト、ゲル、スラリー、フィルム、シート、多孔質体、分散液、懸濁液またはエマルジョンの形態である請求項1に記載の生体適用材料。
【請求項3】
キチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーを含む請求項1に記載の生体適用材料。
【請求項4】
人工皮膚、創傷被覆剤などの医療用材料あるいは各種臓器再生のための足場である細胞培養基材として用いられる、請求項1〜3のいずれかに記載の生体適用材料。
【請求項5】
ナノファイバーの平均繊維幅(短径)が4〜100nm、好ましくは4〜40nmである、請求項1〜4のいずれかに記載の生体適用材料。
【請求項6】
キチンナノファイバー及び/又はキトサンナノファイバー分散体から乾燥処理により水分を除去して得られるフィルム、シートまたは多孔質体。
【請求項7】
酸処理したキチン・キトサンに比べて細胞接着性が2倍以上優れることを特徴とする請求項6に記載のフィルム、シートまたは多孔質体。
【請求項8】
キチンナノファイバー及び/又はキトサンナノファイバーを水に分散させていることを特徴とするキチン・キトサンナノファイバー分散液。
【請求項9】
キチンナノファイバー及び/又はキトサンナノファイバーを含む、化粧料。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−167237(P2011−167237A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31417(P2010−31417)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【出願人】(000132161)株式会社スギノマシン (144)
【Fターム(参考)】