説明

生体関連物質用物品およびその製造方法、ならびに生体関連物質吸着防止用コーティング組成物およびその使用方法

【課題】医療分野や生化学分析分野において、タンパク質、細胞、核酸等の生体関連物質の分離・精製等に用いられ、前記生体関連物質の吸着を低減することができ、汚染物が付着しにくく、かつ、耐水性および強度に優れた低コストの生体関連物質用物品およびその製造方法、ならびに前記物品に使用される生体関連物質吸着防止用コーティング組成物およびその使用方法を提供する。
【解決手段】生体関連物質用物品は、(A)下記一般式(1)で表されるモノマーA1と、活性水素基含有モノマーA2とを含む原料モノマーから得られた共重合体、(B)活性水素基と反応可能な架橋剤、および(C)溶媒を含む生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を接触させて加熱することにより形成される被膜を表面に有する。
CH=CRCOOROR ・・・・(1)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキレン基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体関連物質の吸着が低減された、生体関連物質用物品およびその製造方法、ならびに前記物品に使用される生体関連物質吸着防止用コーティング組成物およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学分析、タンパク質等の生体関連物質の分離・精製、医療等の分野では、各種反応容器、遠心管、チューブ、シリンジ、ピペット、フィルター、分離用カラム、人工臓器、血液回路、人工心肺回路、注射器、カテーテル、カニューレ、容器、器具、および装置等の種々の物品が用いられている。そして、これらの物品は、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ガラス、ステンレス、アルミニウム等の素材を用いて形成されている。
【0003】
しかしながら、上記のような素材はいずれも、タンパク質等の生体関連物質の吸着が大きいため、医療および生化学分析においては、検出感度の低下や再現性の低下を引き起こすことがある。また、タンパク質等の生体関連物質の分離・精製においては、精製に用いる容器等に生体関連物質が吸着することにより、目的とする生体関連物質の収率の低下や純度の低下等を引き起こすことがある。
【0004】
これの問題を解決する方法として、ポリオキシエチレン系の非イオン性界面活性剤、性状が明らかな別のタンパク質、糖質、または脂質を試験サンプルに添加する方法が知られている。しかしながら、界面活性剤を試験サンプルに添加すると、タンパク質等の生体関連物質が修飾され変性してしまうことがあり、また、タンパク質、糖質、脂質等を多量に添加する必要があるため、分析目的の生体関連物質の純度が低下することがある。
【0005】
タンパク質等の生体関連物質の吸着を防止する別の方法として、ポリメトキシエチルアクリレートを主成分とするポリマーをコーティングする方法が提案されている(特許文献1、2、3)。しかしながら、ポリメトキシエチルメタクリレートを主成分とするポリマーは粘着性が高いために大気中の汚染物が前記ポリマーからなる塗膜に付着しやすく、また、前記塗膜の膜強度や耐水性が不十分であり、さらには、生体関連物質吸着防止効果が不十分である場合がある。
【0006】
また、タンパク質等の生体関連物質の吸着を防止するためのコーティング剤として、リン脂質類似構造を有する共重合体が提案されている(特許文献4、5、6)。しかしながら、これらのリン脂質類似構造を有する共重合体は特殊なモノマーを使用するためコストが高く、また、生体関連物質の吸着防止効果が不十分である。
【特許文献1】特許第2806510号公報
【特許文献2】特開2001−323030号公報
【特許文献3】特開2002−105136号公報
【特許文献4】特開平9−12904号公報
【特許文献5】特開平9−183819号公報
【特許文献6】特開2000−279512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、医療分野や生化学分析分野において、タンパク質、核酸等の生体関連物質の分離・精製等に用いられ、前記生体関連物質の吸着を低減することができ、汚染物が付着しにくく、耐水性および強度に優れ、かつ、低コストである生体関連物質用物品およびその製造方法、ならびに前記物品に使用される生体関連物質吸着防止用コーティング組成物およびその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の生体関連物質用物品は、
(A)下記一般式(1)で表されるモノマーA1と、活性水素基含有モノマーA2とを含む原料モノマーから得られた共重合体、
(B)活性水素基と反応可能な架橋剤、および
(C)溶媒
を含む生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を接触させて加熱することにより形成される被膜を表面に有する。
【0009】
CH=CRCOOROR ・・・・(1)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキレン基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
ここで、上記本発明の生体関連物質用物品において、前記生体関連物質吸着防止用コーティング組成物に含まれる前記モノマーA1はメトキシアルキル(メタ)アクリレートであることができる。
【0010】
ここで、上記本発明の生体関連物質用物品において、前記生体関連物質吸着防止用コーティング組成物に含まれる前記モノマーA2が有する活性水素基が、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、またはメルカプト基であることができる。
【0011】
ここで、上記本発明の生体関連物質用物品において、前記生体関連物質吸着防止用コーティング組成物に含まれる前記モノマーA2はヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートであることができる。
【0012】
ここで、上記本発明の生体関連物質用物品において、前記生体関連物質吸着防止用コーティング組成物に含まれる前記(B)架橋剤は非芳香族系ポリイソシアネートであることができる。

本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物は、上記本発明の生体関連物質用物品を製造するために使用され、
(A)下記一般式(1)で表されるモノマーA1と、活性水素基含有モノマーA2とを含む原料モノマーから得られた共重合体、
(B)活性水素基と反応可能な架橋剤、および
(C)溶媒
を含む。
【0013】
CH=CRCOOROR ・・・・(1)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキレン基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
ここで、上記本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物において、前記モノマーA1はメトキシアルキル(メタ)アクリレートであることができる。
【0014】
ここで、上記本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物において、前記モノマーA2が有する活性水素基が、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、またはメルカプト基であることができる。
【0015】
ここで、上記本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物において、前記モノマーA2はヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートであることができる。
【0016】
ここで、上記本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物において、前記(B)架橋剤は非芳香族系ポリイソシアネートであることができる。

本発明の生体関連物質用物品の製造方法は、上記本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を物品の表面に接触させて加熱することにより、該表面に被膜を形成する工程を含む。
【0017】
本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物の使用方法は、上記本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を物品の表面に接触させて加熱することにより、該表面に被膜を形成する工程を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明の生体関連物質用物品によれば、上記本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物から形成された被膜を表面に有するため、タンパク質の吸着性が低く、汚染物が付着しにくく、低コストであり、かつ、強靭で耐水性に優れている。
【0019】
本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物によれば、リン脂質類似構造を有するモノマーのような特殊で高価なモノマーを使用することなく、医療分野や生化学分析分野において、生体関連物質の分離・精製等に用いる各種物品(例えば、部品、容器、器具、機器、装置等)の表面に容易にコーティングすることができ、汚染物が付着しにくく、低コストであり、かつ、強靭で耐水性に優れた低タンパク質吸着性の被膜を形成することができる。
【0020】
本発明の生体関連物質用物品の製造方法によれば、上記本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を物品の表面に接触させて加熱する工程を含むことにより、汚染物が付着しにくく、低コストであり、かつ、生体関連物質の吸着性が低い被膜を簡便な方法にて形成することができる。
【0021】
本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物の使用方法によれば、上記本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を物品の表面に接触させて加熱することにより、該表面に被膜を形成する工程を含むため、汚染物が付着しにくく、低コストであり、強靭で耐水性に優れ、かつ、生体関連物質の吸着性が低い被膜を簡便な方法にて形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の生体関連物質用物品およびその製造方法、ならびに前記物品に使用される生体関連物質吸着防止用コーティング組成物およびその使用方法について具体的に説明する。
【0023】
1.生体関連物質用物品
本発明の生体関連物質用物品は、後述する本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を接触させて加熱することにより形成された被膜を表面に有する。
【0024】
本発明において、「生体関連物質」とは、生体に関わるすべての物質をいう、生体関連物質としては、例えば、生体に含まれる物質、生体に含まれる物質から誘導された物質、生体内で利用可能な物質が挙げられる。
【0025】
本発明において、生体関連物質は特に限定されないが、例えば、タンパク質(例えば、酵素、抗体、アプタマー、受容体等)、ペプチド(例えばグルタチオン等)、核酸(例えば、DNAやRNA等)、糖質、脂質、およびその他の細胞または物質(例えば、血小板、赤血球、白血球等の各種血球細胞を含む各種血液由来物質、各種浮遊細胞等)が挙げられる。
【0026】
本発明において、「生体関連物質用物品」は、生体関連物質と接触しうる物品をいい、より具体的には、生体関連物質と接触しうる表面を有する物品をいう。本発明の生体関連物質用物品は、特に限定されないが、生体適合性が高く、かつ、生体関連物質の非特異的付着性が低いことが好ましい。
【0027】
より具体的には、本発明の生体関連物質用物品としては、バイオメディカルまたはライフサイエンスの分野で使用される種々の部品、容器、器具、機器、および装置が挙げられ、例えば、生化学分析,タンパク質の分離または精製,あるいは細胞の培養または分離等に用いられる容器,器具,機器および装置、生体関連物質の保存容器、遠心管、チューブ、シリンジ、ピペット、フィルター、分離用カラム、人工臓器(例えば、人工肺、人工心臓、人工肛門、人工腎臓、人工弁、人工関節、人工血管等)、人工透析装置、血液回路、人工心肺回路、注射針、ステント、カニューレ、カテーテル等が挙げられる。
【0028】
特に、本発明の生体関連物質用物品は、血液、尿などの生体関連物質を含む液体が接触する部分(表面)を有するものであることが好ましい。
【0029】
本発明の生体関連物質用物品には、単独もしくは複数の素材が組み合わせて用いられている。このような素材としては、特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ナイロン、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリエチレン酢酸ビニル樹脂、ポリエチレンビニル樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、AAS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミド、シクロオレフィン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリアリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリイミド、トリアセチルセルロース、セルロースアセテート樹脂、硝酸セルロース樹脂、エポキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化エチレンポリプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルコキシビニルエーテルコポリマー、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、シリコーン樹脂等のプラスチック類、ガラス,セラミックス等の無機材料、鋼鉄,ステンレス,アルミニウム等の金属類を挙げることができる。これら各種素材の表面の性質、状態は多種多様である。
【0030】
本発明のコーティング組成物を用いてこれらの物品の表面に被膜を形成する場合、はじきや剥離等の欠陥が発生しないように、従来公知の前処理、たとえば、洗浄、研磨、ブラスト、脱脂、メッキ、化成処理、コロナ放電処理、プライマー処理等を行なうことも可能である。
【0031】
2.生体関連物質吸着防止用コーティング組成物
本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物は、上記本発明の生体関連物質用物品を製造するために使用される。
【0032】
本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物は、(A)共重合体、(B)活性水素基と反応可能な架橋剤(単に「(B)架橋剤」ともいう)、および(C)溶媒を含む。以下、本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物の各成分について説明する。
【0033】
2−1.(A)共重合体
(A)共重合体は、下記一般式(1)で表されるモノマーA1と、活性水素基含有モノマーA2(以下、単に「モノマーA2」ともいう)とを含む原料モノマーから得られた共重合体である。この活性水素基含有モノマーA2は、活性水素基を含有し、かつ、モノマーA1と共重合可能である。
【0034】
CH=CRCOOROR ・・・・(1)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキレン基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物から(C)溶媒を除いた成分中における(A)共重合体の割合は、50〜99重量%であることが好ましく、70〜97重量%であることがより好ましく、80〜95重量%であることがさらに好ましい。(A)共重合体の割合が50重量%未満であると、形成される被膜の吸着防止効果が不十分になり、一方、99重量%を超えると、形成される被膜の物理的・化学的安定性が不十分になる。
【0035】
2−1−1.モノマーA1
モノマーA1としては、メトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、メトキシプロピルアクリレート、メトキシブチルアクリレート、エトキシメチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、エトキシプロピルアクリレート、エトキシブチルアクリレート、プロポキシメチルアクリレート、プロポキシエチルアクリレート、プロポキシプロピルアクリレート、プロポキシブチルアクリレート、ブトキシメチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、ブトキシプロピルアクリレート、ブトキシブチルアクリレート、メトキシメチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシプロピルメタクリレート、メトキシブチルメタクリレート、エトキシメチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、エトキシプロピルメタクリレート、エトキシブチルメタクリレート、プロポキシメチルメタクリレート、プロポキシエチルメタクリレート、プロポキシプロピルメタクリレート、プロポキシブチルメタクリレート、ブトキシメチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、ブトキシプロピルメタクリレート、ブトキシブチルメタクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレートを挙げることができ、中でも、生体関連物質の吸着性低減効果が優れている点で、メトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、メトキシプロピルアクリレート、メトキシブチルアクリレート、メトキシメチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、メトキシプロピルメタクリレート、メトキシブチルメタクリレート等のメトキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、2−メトキシエチルアクリレート、2−メトキシエチルメタクリレートが特に好ましい。
【0036】
(A)共重合体は、上記一般式(1)で表されるモノマーA1がアルコキシアルキル(メタ)アクリレートである場合、生体関連物質吸着性の点で、(A)共重合体を製造するための原料モノマー中に、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートが50重量%以上含有されていることがより好ましい。
【0037】
原料モノマー中におけるモノマーA1の割合は、50〜99重量%であることが好ましく、60〜99重量%であることがより好ましく、70〜98重量%であることがさらに好ましい。原料モノマー中におけるモノマーA1の割合が50重量%未満であると、形成される被膜の吸着防止効果が不十分になり、一方、99重量%を超えると、形成される被膜の物理的・化学的安定性が不十分になる。
【0038】
2−1−2.モノマーA2
モノマーA2が有する活性水素基としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、メルカプト基等が挙げられる。
【0039】
モノマーA2としては、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセリンモノアクリレート、グリセリンモノメタクリレート、グリセリンジアクリレート、グリセリンジメタクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類、ジエチレングリコールモノアクリレート、トリエチレングリコールモノアクリレート、トリエチレングリコールモノアクリレート、テトラエテレングリコールモノアクリレート、ヘキサエチレングリコールモノアクリレート、オクタエチレングリコールモノアクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート、トリエチレングリコールモノメタクリレート、トリエチレングリコールモノメタクリレート、テトラエチレングリコールモノメタクリレート、ヘキサエチレングリコールモノメタクリレート、オクタエチレングリコールモノメタクリレート等のポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボキシル基含有モノマー、アミノエチルアクリレート、アミノエチルメタクリレート、アミノプロピルアクリレート、アミノプロピルメタクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、アミノプロピルアクリルアミド、アミノプロピルメタクリルアミド等のアミノ基含有モノマー等が挙げられる。中でも、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、グリセリンモノアクリレート、グリセリンモノメタクリレート、グリセリンジアクリレート、グリセリンジメタクリレート、ジエチレングリコールモノアクリレート、トリエチレングリコールモノアクリレート、トリエチレングリコールモノアクリレート、テトラエテレングリコールモノアクリレート、ヘキサエチレングリコールモノアクリレート、オクタエチレングリコールモノアクリレート、ジエチレングリコールモノメタクリレート、トリエチレングリコールモノメタクリレート、トリエチレングリコールモノメタクリレート、テトラエチレングリコールモノメタクリレート、ヘキサエチレングリコールモノメタクリレート、オクタエチレングリコールモノメタクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートが、生体関連物質の吸着性低減効果の点で好ましい。
【0040】
モノマーA1とともに、活性水素基含有モノマーA2を使用して(A)共重合体を形成することにより、(B)架橋剤との反応により、得られる塗膜の強靭性、耐水性が向上し、異物の付着性が低減し、生体関連物質の吸着性が低減可能となる。
【0041】
原料モノマー中におけるモノマーA2の割合は、1〜50重量%であることが好ましく、1〜40重量%であることがより好ましく、2〜30重量%であることがさらに好ましい。原料モノマー中におけるモノマーA2の割合が1重量%未満であると、形成される被膜の物理的・化学的安定性が不十分になり、一方、50重量%を超えると、形成される被膜の吸着防止効果が不十分になる。
【0042】
2−1−3.他のモノマー
(A)共重合体は、一般式(1)で表されるモノマーA1および活性水素基含有モノマーA2に加えて、モノマーA1および/またはモノマーA2と共重合可能な他のモノマーを含む原料モノマーを共重合させて得られたものであってもよい。このような他のモノマーとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、グリシジルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、メチルビニルケトン、酢酸ビニル等を挙げることができる。
【0043】
原料モノマー中におけるこのような他モノマーの割合は、モノマーA1およびモノマーA2の割合が上述した好ましい範囲に収まる限り、適宜選択することができる。
【0044】
2−1−4.(A)共重合体の製造方法
(A)共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、およびグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0045】
(A)共重合体の製造方法には特別の制限はなく、例えば、ラジカル重合、イオン重合、光重合等の公知の方法を用いることができる。また、(A)共重合体を製造する際の温度や反応時間は、モノマーの種類に応じて適宜設定することができる。
【0046】
2−1−5.(A)共重合体の分子量
(A)共重合体の分子量には特に制限はないが、コーティング時の塗布性、密着性等の観点から、重量平均分子量が2,000〜100,000であるのが好ましい。
【0047】
2−2.(B)活性水素基と反応可能な架橋剤
(B)活性水素基と反応可能な架橋剤は、(A)共重合体に含まれる活性水素基と反応することができる。この活性水素基は、モノマーA2由来の活性水素基であることができる。また、活性水素基の具体的な種類は、2−1−2.の欄で説明した通りである。
【0048】
(B)活性水素基と反応可能な架橋剤としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、トリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート等のポリイソシアネート類、これらのポリイソシアネートをブロック剤と反応させたブロックポリイソシアネート類、トリメチロ−ル化メラミン、トリブチロール化メラミン、ヘキサメチロール化メラミン、ヘキサブチロール化メラミン、メチロール化尿素樹脂、ブチロール化尿素樹脂、メチロール化ベンゾグアナミン、ブチロール化ベンゾグアナミン、Al,Ti,Zrの金属アルコキシドおよび/また金属キレート等が挙げられる。中でもヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、モルフォリンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、トリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート等のポリイソシアネート類が架橋温度の範囲が広く好ましい。中でも、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、モルフォリンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の非芳香族系ポリイソシアネート類が生体関連物質(タンパク質)の吸着性が低く、特に好ましい。
【0049】
本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物において、(B)活性水素基と反応可能な架橋剤を含むことにより、(A)共重合体中の活性水素基との反応により、得られる塗膜の強靭性、耐水性が向上し、異物の付着性が低減し、生体関連物質の吸着性が低減可能となる。
【0050】
本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物から(C)溶媒を除いた成分中における(B)活性水素基と反応可能な架橋剤の割合は、1〜50重量%であることが好ましく、3〜30重量%であることがより好ましく、5〜20重量%であることがさらに好ましい。(B)活性水素基と反応可能な架橋剤の割合が1重量%未満であると、形成される被膜の物理的・化学的安定性が不十分になり、一方、50重量%を超えると、形成される被膜の吸着防止効果が不十分になる。
【0051】
2−3.(C)溶媒
(C)溶媒は、(A)共重合体および(B)活性水素基と反応可能な架橋剤を溶解および/または分散することができ、かつ架橋反応を阻害しないものであれば特に制限はなく、スプレー塗装、ディップコート、スピンコート、電着塗装等のコーティング方式に応じて適宜選択することができる。
【0052】
(C)溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエチレングリコール誘導体、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のプロピレングリコール誘導体、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、乳酸エチル、γ―ブチロラクトン等のエステル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族類、ヘキサン、オクタン、シクロヘキサン、ミネラルスピリッツ等の脂肪族溶媒等が挙げられる。
【0053】
(B)架橋剤と活性水素基との反応を促進するために、使用する(B)架橋剤に適した公知の硬化触媒を添加することも可能である。このような硬化触媒としては、例えば、有機スズ化合物、有機チタン化合物、有機アルミニウム化合物、有機ジルコニウム化合物等の有機金属化合物、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、イミダゾ−ル等の塩基性物質、p−トルエンスルホン酸・ピリジニウム塩等の塩類等を挙げることができる。
【0054】
本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物中における(C)溶媒の割合は特に限定されず、所定厚みの被膜が形成されるように、(A)共重合体の組成・分子量、(B)活性水素基と反応可能な架橋剤の種類、(A)共重合体と(B)架橋剤との比率、コーティング方式などに応じて適宜設定することができる。
【0055】
2−4.その他の成分
本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物には、前記組成物を塗布する物品の素材との濡れ性を改善したり、塗膜の欠陥を改善したりするために、公知の界面活性剤、消泡剤等の添加剤を含有することも可能である。
【0056】
2−5.生体関連物質吸着防止用コーティング組成物の使用方法(生体関連物質用物品の製造方法)
本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物の使用方法は、上記本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を物品の表面に接触させて加熱することにより、該表面に被膜を形成する工程を含む。また、上記本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を物品の表面に接触させてから該表面を加熱してもよいし、あるいは、該表面を加熱しながら上記本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を接触させてもよい。
【0057】
本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を表面に接触させる方法としては特に限定されないが、例えば、スピンコートによる塗布、スプレーによる噴霧、気化による蒸着、ディッピング、電着塗装が挙げられる。
【0058】
また、上記本発明の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を接触させた物品の表面を加熱する際の温度および加熱時間は特に限定されず、使用する生体関連物質吸着防止用コーティング組成物の種類に応じて適宜設定することができる。
【0059】
3.実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0060】
3−1.合成例
3−1−1.(A)共重合体の合成例1
200mlフラスコ中で、2−メトキシエチルアクリレート17.6gおよびグリセリンモノメタクリレート2.4gをジメチルホルムアミド60gに溶解させ、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル100mgを加えた。次に、反応系の雰囲気を窒素で置換した後、70℃で6時間重合させ、得られた溶液をアセトン100mlで希釈して大量のヘキサン中へ注ぎ入れた。上層をデカンテーションで除き、残った粘稠な液状物をアセトン150mlに溶解させ、その溶液を大量のヘキサン中へ注いで再沈澱精製を行なった。同様の再沈澱精製操作をもう一度行なった後、50℃で終夜真空乾燥することにより、無色の粘稠な液状ポリマー1((A)共重合体)19.8gを得た。
【0061】
3−1−2.(A)共重合体の合成例2
200mlフラスコ中で、2−メトキシエチルアクリレート16gおよびヒドロキシエチルメタクリレート4gをジメチルホルムアミド60gに溶解させ、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル100mgを加えた。次に、反応系の雰囲気を窒素で置換した後、70℃で6時間重合させ、得られた溶液をアセトン100mlで希釈して大量のヘキサン中へ注ぎ入れた。上層をデカンテーションで除き、残った粘稠な液状物をアセトン150mlに溶解させ、その溶液を大量のヘキサン中へ注いで再沈澱精製を行なった。同様の再沈澱精製操作をもう一度行なった後、50℃で終夜真空乾燥することにより、無色の粘稠な液状ポリマー2((A)共重合体)19.3gを得た。
【0062】
3−1−3.比較例のポリマーの合成例(合成例3)
200mlフラスコ中で、2−メトキシエチルアクリレート20gをシクロヘキサノン60gに溶解させ、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル100mgを加えた。次に、反応系の雰囲気を窒素で置換した後、70℃で6時間重合させ、得られた溶液をアセトン100mlで希釈して大量のヘキサン中へ注ぎ入れた。上層をデカンテーションで除き、残った粘稠な液状物をアセトン150mlに溶解させ、その溶液を大量のヘキサン中へ注いで再沈澱精製を行なった。同様の再沈澱精製操作をもう一度行なった後、50℃で終夜真空乾燥することにより、無色の粘稠な液状ポリマー3(比較例)18.3gを得た。
【0063】
3−2.タンパク質非特異吸着性の評価方法
評価用サンプルの塗布面を向かい合わせにし、間にシリコンゴム製Oリング(内径25mm,太さ3.5mm)を挟んで外側から2箇所クリップで留めることより、体積約600μL、サンプル面積約4.9cmの密閉空間を有するサンプルキットを作成した。次に、BSA(ウシ血清アルブミン)をリン酸緩衝溶液に1重量%となるように溶解させ、0.22ミクロンフィルタを用いてろ過することにより、BSA溶液を得た。次いで、27ゲージの注射針2本をサンプルキットのOリングを貫通させて、一方を空気穴とし、他方に1ccの注射器を接続してBSA溶液を600μL注入した。常温で2時間放置後、注射器でBSA溶液を抜き取り、クリップを外してサンプルキットを解体した。解体後の評価用サンプルウェハを1枚ごとに、洗浄液(10mM HEPES pH=7.4/0.005% Tween20)を1mLずつピペットで滴下しては流し、これを5回繰り返すことで洗浄を行った。
【0064】
次に、スピンコーターで回転乾燥させることにより、評価用サンプルウェハ2枚を乾燥させ、その後再度向かい合わせにし、新しいシリコンゴム製Oリングを間に挟んで外側から2箇所クリップで留めることによりサンプルキットを作成した。27ゲージの注射針2本をサンプルキットのOリングを貫通させて、一方を空気穴とし、他方に1ccの注射器を接続して剥離液(2%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液)を600μL注入した。常温で10分静置後、シリンジで全量抜き取った。Laemniサンプルバッファー(バイオラッド社製)1mLにジチオスレイトール81mgを溶解させた溶液を調製して、この溶液100μLと、先に抜き取った剥離液100μLとを混合し、99℃で2分間加熱して、SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動)用サンプルとした。SDS−PAGEを行なった後、銀染色を行い、BSAの特徴的なバンドである約66kDa近辺のピーク幅と濃さをデンシトメーターGS−800(バイオラッド社製)で測定し、同一のSDS−PAGEゲルで他のレーンに流した既知の濃度のBSAを標準として、本サンプルのタンパク質吸着量を求め、これをタンパク質非特異吸着性の指標とした。すなわち、タンパク質吸着量が多いほどタンパク質非特異吸着性が高いといえる。
【0065】
3−3.実験例および比較例
3−3−1.実験例1
上記合成例1で得られたポリマー1を10重量部と、イソホロンジイソシアネート1重量部とをシクロヘキサノン200重量部に溶解することにより、生体関連物質吸着防止用コーティング組成物1を得た。これを3cm角のガラス板にスピンコーターを用いて、300rpmで5秒間、続いて1000rpmで20秒間回転塗布した後、150℃で10分間加熱することにより、塗膜が形成された評価用サンプルを得た。得られた塗膜にはごみ等の異物の付着はみられなかった。また、得られた塗膜を爪でこすったが塗膜剥がれ等の外観変化はなく、強靭な塗膜であった。さらに、このサンプルを25℃の純水中に10時間浸漬したが、膜の剥離や膨潤等の変化はなかった。次に、このサンプルについて、タンパク質非特異吸着性を評価した。
【0066】
3−3−2.実験例2
上記合成例1で得られたポリマー1を10重量部と、サイメル303(商品名;三井サイテック社製)1重量部と、p−トルエンスルホン酸・トリエチルアミン0.01重量部とを、シクロヘキサノン200重量部に溶解することにより、生体関連物質吸着防止用コーティング組成物2を得た。これを3cm角のガラス板にスピンコーターを用いて、300rpmで5秒間、続いて1000rpmで20秒間回転塗布した後、150℃で10分間加熱することにより、塗膜が形成された評価用サンプルを得た。得られた塗膜にはごみ等の異物の付着はみられなかった。また、得られた塗膜を爪でこすったが塗膜剥がれ等の外観変化はなく、強靭な塗膜であった。さらに、このサンプルを25℃の純水中に10時間浸漬したが、膜の剥離や膨潤等の変化はなかった。次に、このサンプルについて、上記実験例1と同様の方法によりタンパク質非特異吸着性を評価した。
【0067】
3−3−3.実験例3
上記合成例2で得られたポリマー2を10重量部と、イソホロンジイソシアネート1重量部とをシクロヘキサノン200重量部に溶解することにより、生体関連物質吸着防止用コーティング組成物3を得た。これを3cm角のガラス板にスピンコーターを用いて、300rpmで5秒間、続いて1000rpmで20秒間回転塗布した後、150℃で10分間加熱することにより、塗膜が形成された評価用サンプルを得た。得られた塗膜にはごみ等の異物の付着はみられなかった。また、得られた塗膜を爪でこすったが塗膜剥がれ等の外観変化はなく、強靭な塗膜であった。さらに、このサンプルを25℃の純水中に10時間浸漬したが、膜の剥離や膨潤等の変化はなかった。次に、このサンプルについて、上記実験例1と同様の方法によりタンパク質非特異吸着性を評価した。
【0068】
3−3−4.比較例1
上記合成例3で得られたポリマー3を10重量部、シクロヘキサノン200重量部に溶解することにより、コーティング組成物4を得た。これを3cm角のガラス板にスピンコーターを用いて、300rpmで5秒間、続いて1000rpmで20秒間回転塗布した後、150℃で10分間加熱することにより、塗膜が形成された評価用サンプルを得た。得られた塗膜は粘着性がありごみ等の異物が付着しやすく、爪でこすると簡単に剥離し弱い塗膜であった。また、このサンプルを25℃の純水中に10時間浸漬したが、膜の白化が観察された。次に、このサンプルについて、上記実験例1と同様の方法によりタンパク質非特異吸着性を評価した。
【0069】
3−3−5.比較例2
上記合成例1で得られた10重量部のポリマー1を、シクロヘキサノン200重量部に溶解することにより、コーティング組成物5を得た。これを3cm角のガラス板にスピンコーターを用いて、300rpmで5秒間、続いて1000rpmで20秒間回転塗布した後、150℃で10分間加熱することにより、塗膜が形成された評価用サンプルを得た。得られた塗膜は粘着性がありごみ等の異物が付着しやすく、爪でこすると簡単に剥離し弱い塗膜であった。また、このサンプルを25℃の純水中に10時間浸漬したが、塗膜の膨潤および白化が観察された。次に、このサンプルのタンパク質非特異吸着性を上記実験例1と同様の方法にて評価したが、膜の膨潤が著しく、吸着性が評価できなかった。
【0070】
3−3−6.実験例4
3.5cm角のポリエチレンシートの表面に対してコロナ放電処理を行なうことにより、ポリエチレンシートの表面を親水化した。次に、触媒としてジブチル錫ジラウレート0.01重量部を生体関連物質吸着防止用コーティング組成物1に添加して得られた溶液を、このポリエチレンシートの表面にディップコートし、80℃で3時間加熱することにより、塗膜が形成された評価用サンプルを得た。得られた塗膜にはごみ等の異物の付着はみられなかった。また、得られた塗膜を爪でこすったが塗膜剥がれ等の外観変化はなく、強靭な塗膜であった。さらに、このサンプルを25℃の純水中に10時間浸漬したが、膜の剥離、膨潤等の変化はなかった。次に、このサンプルについて、上記実験例1と同様の方法によりタンパク質非特異吸着性を評価した。
【0071】
3−3−7.実験例5
3.5cm角のポリスチレンシート(SUS304板)に、上記実験例1で得られた生体関連物質吸着防止用コーティング組成物1をディップコートし、150℃で10分間加熱することにより、塗膜が形成された評価用サンプルを得た。得られた塗膜にはごみ等の異物の付着はみられなかった。また、得られた塗膜を爪でこすったが塗膜剥がれ等の外観変化はなく、強靭な塗膜であった。さらに、このサンプルを25℃の純水中に10時間浸漬したが、膜の剥離、膨潤等の変化はなかった。次に、このサンプルについて、上記実験例1と同様の方法によりタンパク質非特異吸着性を評価した。
【0072】
3−3−8.実験例6
3.5cm角のシリコンウェハに対してプラズマ放電処理を行なうことにより、シリコンウェハ表面を親水化した。上記実験例1で得られた生体関連物質吸着防止用コーティング組成物1をディップコートし、150℃で10分間加熱することにより、塗膜が形成された評価用サンプルを得た。得られた塗膜にはごみ等の異物の付着はみられなかった。また、得られた塗膜を爪でこすったが塗膜剥がれ等の外観変化はなく、強靭な塗膜であった。さらに、このサンプルを25℃の純水中に10時間浸漬したが、膜の剥離、膨潤等の変化はなかった。次に、このサンプルについて、上記実験例1と同様の方法によりタンパク質非特異吸着性を評価した。
【0073】
3−3−9.比較例3,4,5,6
ガラス板(比較例3)、ポリエチレンシート(比較例4)、ポリスチレンシートであるSUS304板(比較例5)、およびシリコンウェハ(比較例6)をそれぞれ、被膜を形成せずにそのまま用いて、上記実験例1と同様の方法によりタンパク質非特異吸着性を評価した。
【0074】
実験例1〜6および比較例1〜6により得られた評価結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に示す結果から、実験例1〜6で形成された被膜によれば、被膜が形成されていない場合(比較例3〜6)と比較して、タンパク質の吸着を大幅に低減することができた。
【0077】
実験例1〜6で形成された被膜は、(A)下記一般式(1)で表されるモノマーA1と、活性水素基含有モノマーA2とを含む原料モノマーから得られた共重合体、(B)活性水素基と反応可能な架橋剤、および(C)溶媒を含む生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を塗布した後、加熱することにより得られる。実験例1〜6の結果によれば、この被膜は、タンパク質非特異吸着性が低く、汚染物が付着しにくく、低コストであり、かつ、強靭で耐水性に優れていることが確認された。
【0078】
これに対して、比較例1の被膜は、モノマーA2を使用しないで重合されたポリマー3を含む組成物から形成されたため、粘着性がありごみ等の異物が付着しやすく、強度および耐水性に劣っていた。また、比較例2の被膜は、(B)架橋剤を使用しない組成物から形成されたため、粘着性がありごみ等の異物が付着しやすく、強度および耐水性に劣っていた。
【0079】
上記のように、本発明の特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。したがって、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)で表されるモノマーA1と、活性水素基含有モノマーA2とを含む原料モノマーから得られた共重合体、
(B)活性水素基と反応可能な架橋剤、および
(C)溶媒
を含む生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を接触させて加熱することにより形成される被膜を表面に有する、生体関連物質用物品。
CH=CRCOOROR ・・・・(1)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキレン基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項2】
請求項1において、
前記生体関連物質吸着防止用コーティング組成物に含まれる前記モノマーA1はメトキシアルキル(メタ)アクリレートである、生体関連物質用物品。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記生体関連物質吸着防止用コーティング組成物に含まれる前記モノマーA2が有する活性水素基が、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、またはメルカプト基である、生体関連物質用物品。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記生体関連物質吸着防止用コーティング組成物に含まれる前記モノマーA2はヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートである、生体関連物質用物品。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記生体関連物質吸着防止用コーティング組成物に含まれる前記(B)架橋剤は非芳香族系ポリイソシアネートである、生体関連物質用物品。
【請求項6】
請求項1に記載の生体関連物質用物品を製造するために使用され、
(A)下記一般式(1)で表されるモノマーA1と、活性水素基含有モノマーA2とを含む原料モノマーから得られた共重合体、
(B)活性水素基と反応可能な架橋剤、および
(C)溶媒
を含む、生体関連物質吸着防止用コーティング組成物。
CH=CRCOOROR ・・・・(1)
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキレン基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項7】
請求項6において、
前記モノマーA1はメトキシアルキル(メタ)アクリレートである、生体関連物質吸着防止用コーティング組成物。
【請求項8】
請求項6または7において、
前記モノマーA2が有する活性水素基が、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、またはメルカプト基である、生体関連物質吸着防止用コーティング組成物。
【請求項9】
請求項6ないし8のいずれかにおいて、
前記モノマーA2はヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートである、生体関連物質吸着防止用コーティング組成物。
【請求項10】
請求項6ないし9のいずれかにおいて、
前記(B)架橋剤は非芳香族系ポリイソシアネートである、生体関連物質吸着防止用コーティング組成物。
【請求項11】
請求項6ないし10のいずれかに記載の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を物品の表面に接触させて加熱することにより、該表面に被膜を形成する工程を含む、生体関連物質用物品の製造方法。
【請求項12】
請求項6ないし10のいずれかに記載の生体関連物質吸着防止用コーティング組成物を物品の表面に接触させて加熱することにより、該表面に被膜を形成する工程を含む、生体関連物質吸着防止用コーティング組成物の使用方法。

【公開番号】特開2006−158961(P2006−158961A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323391(P2005−323391)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】