生体高分子、それを含むインプラントとその使用
本発明は生体高分子に関し、当該生体高分子は、生理活性があり、全体的に生体適合性であり、周囲温度において非常に流動性が高く、37℃において急激にゲル化可能であり、固体のインプラントを形成し、構造的に一体的かつ連続的であり、高い機械的な特性を有している。上記生体高分子は、固体または半固体のインプラントの形成を正確に導き得る少なくとも1つの生理活性ドメインを含んでいる。本発明は、上記生体高分子のアミノ酸配列をコードしている任意の核酸、それらのインプラント、薬学的に受容可能なビヒクル、それらの合成方法にさらに関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
この発明は生体高分子に関するものであり、生理活性を有し、完全な生体適合性があり、室温での流動性が高く、37℃で急激にゲル化することができ、またそのため構造上、全体が一体で継ぎ目なく、高度な機械的性能を有する、堅固なインプラントを形成する生体高分子である。生体高分子には、固体または半固体インプラントの形成を正確に行うことができる生理活性ドメインが最低一つ含まれる。同様に発明は、生体高分子のアミノ酸配列をコードするあらゆる核酸、インプラント、薬学上の承認が可能な運搬体、その使用および当該材料の合成方法にも関する。
【0002】
〔背景技術〕
マクロ生体医用材料による固体インプラントは、2種類に分類することができる。すなわち、(1)構造的に全体が一体ではない、もしくは継ぎ目のあるインプラント、(2)構造的に全体が一体または継ぎ目なく形成することができる材質、である。最初の手法は、ミクロまたは生体適合性のある運搬体に載せたナノ粒子のインプラントが基本となっている。(Gamisans et al., 1999.Int J Pharm, 79:37-48; Igartua et al., 1998.J Control Rel; 56:63-73; Brannon-Peppas L, 1995.Controlled release of R-estradiol from biodegradable microparticles within silicone matrix; In:Polymer Biomaterials in Solution, as Interfaces and as Solids.1st ed.Utrech (The Netherlands):VSP-Utrecht; Kawaguchi H, 2000.Prog Polym Sci, 25:1171-1210) 機械的特性がないため、これらのインプラントは挿入場所から移動する可能性がある。この課題を克服するため、注入時の低粘性かつ高流動性と、後の機械的特性の顕著な増大を組み合わせた方式が設計され、その結果、堅固でその限界が明白に定義されているインプラントの形成につながっている。
【0003】
既存の注入可能な生体材料の属性は、次のようにまとめることができる。a)熱可塑性ペースト、b)その場の沈殿、c)その場での重合法または架橋法、d)インテリジェント・マテリアル、e)混合手法。
【0004】
粘性の増大を見せる熱可塑性ペーストは、低分子量の物質であり、ガラス転移温度(Tg)が低く、融解温度(Tm)が37℃乃至65℃であることを特徴とする。
このように、ペーストは融解状態(一般に体温より高い温度である)で注入され、体内で次第に結晶化することにより、結果的に固体化し、継ぎ目のないインプラントが形成される。(Hatefi et al.,2002.J Control Rel, 80:9-28)。これらのインプラントの開発で最も重要な高分子には、特に、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリジオキサノン(PDO)およびポリオルトエステル(POEs)が挙げられる。
【0005】
ソスニックとコーンは、ポリエチレングリコールおよびPCLをセグメント化した重合体の合成を用いて、この手法の修正を設計したが、これは注入性向上と、時間を通じた37℃での段階的固体化を組み合わせたものであった(Sosnik et al., 2003.Polymer, 44:7033-7042)。
【0006】
インテリジェント・マテリアルは、その特性のひとつ(例えば粘性)について、環境状態のわずかな変化を受けるだけで激変が見られる材質である。この刺激は、物理的(例えば、温度、イオンの力、磁場もしくは電界、機械的ストレス)、化学的(例えば、pH)または生化学的(例えば、酵素基質または特定のリガンド)刺激でもよい(Hoffman et al., 2000.J Biomed Mater Res Part A, 52:577-586)。
【0007】
インテリジェント・マテリアルの水溶液は、室温では粘性が低く、加熱により粘性の増大を見せ、生理的温度に達すると半固体または固体ゲルとなる。この転移は、通常、小さな温度間隔で観察される。このような性質を示す高分子はいくつか挙げられる。中でも、ポリ-N-イソプロピルアクリルアシダ(PNIPAAm)(Peppas et al., 2000.Eur J Pharm Biopharm, 50:27-46)、ポリ(エチレンオキサイド)-ポリ(プロピレンオキサイド)(PEO-PPO)セグメント化共重合体 (Bromberg et al., 1998.Adv Drug Del Rev, 31:197-221)、ポリ(エチレンオキサイド)-ポリエステル(PEO-PLA, PEO-PCL)セグメント化共重合体(Jeong et al., 1999.J Control Rel, 62:109-114)やその他親水基と疎水基のセグメントを交互に配列させ設計した両親媒性分子(Lee et al., 2002.Macromolecules, 35:3876-3879)を特筆することができる。PEOやPPOの市販されている高分子に見受けられる課題の一つは、生物環境のポリエーテル連鎖の非分解性である。
【0008】
前述の技術の組み合わせにより、先述の2つの材質グループにある特質を示すインプラントがもたらされた。すなわち、(1)温度上昇に伴う粘性の増大、および(2)頑強な機械的特質とより構造上の優れた安定性を得るための共有結合架橋、である。このようにして、インプラントは液体で挿入され、37℃で固まり半固体ゲルが形成され、そして最終的に共有結合架橋により安定することができる。多くの場合、これらの高分子には溶剤と有機試薬が併用されている。もっとも広く知られる逆感熱性ポリマーの一部であるポリ-N-イソプロピルアクリルアミダ(PoliNIPAAm)の最大の限界点は、純粋なマトリクスの非分解性、および加熱中の容積減少や収縮である。
【0009】
生体適合のある高分子として使われるエラスチン型組み換えタンパク質(ELR)は、非常に広い用途があることが知られるが、これは別のタンパク質から抽出された機能ドメインのアミノ酸、または新たなデノボ設計を挿入し、これらの特質の修正や拡大が可能なためである。(Rodriguez-Cabello JC, Prieto S, Reguera J, Arias FJ y Ribeiro A. (2007).J. Biomater.Sci.Polymer Edn, 18(3):269-286) 前述の改訂版では、ELR高分子に関する実証された潜在性は、近年、組み換えDNA技術の利用により拡大されているとの注釈もある。この改訂版は、生物医学の応用について特に力説し、ELR高分子の現在の開発を探求している。
【0010】
また、生理活性ドメインを含むペプチドを生体高分子鎖に挿入できることでも知られる。かかる生理活性ドメインには、例えば、様々な細胞タイプへの高い結合力を生体高分子に付与するRGD(R = L-アルギニン、 G = グリシン および D = L-アスパラギン酸)または、REDV (E = L-グルタミン酸 および V = L-バリン)などが挙げられる。
【0011】
重要性が非常に高い別の物質群には、セグメント化されたPEOおよびPPO高分子が挙げられ、プルロニック(直鎖型および二官能基性)やテトロニック(分枝型および四官能基性)として一般市場で知られる。これらはPoliNIPAAmのような体積の収縮が見受けられないが、その反面、市販の素材がゾルゲル移転を示す場合ですら、到達する粘性は、大部分の臨床応用にとって十分に高い水準であるとはいえない。すなわち、PEOおよびPPO高分子の機械的特質は満足できるものではなく、ゲルは過度の水分透過性を示すため、インプラントが行われる部位に留まる期間は非常に短い。このような理由や類似する状況へ対応するため、混合手法を用いるが、これは、インプラントの埋め込み直後にインプラントが再吸収されるのを防ぐことを目的とし、その粘性の飛躍的増大、および堅固でより高い安定性のある機械的特性を得られるよう後に行われる共有結合架橋を用いた手法である。この方法では、測定基準415kPaのヒドロゲルが得られるが、その結果、求められる粘性に達する所要時間が増加するが、この場合、通常の所要時間を超える生理的条件で架橋反応が生じる必要があるためである。
【0012】
これまでにELRタンパク質を基本とする各種構造による試験が実施されてきたものの、インプラントの目立った溶解を示さない生体高分子の合成に成功していない。これは、この種の重合体のゲル化が未だに遅すぎるためである。このようなインプラントの溶解は、その効能も低下させる。
【0013】
したがって、堅固で効果的なインプラントを生産するために、十分迅速な選択的ゲル化を得るという課題を解決する必要がある。
【0014】
〔発明の目的〕
この発明は生体高分子に関するもので、生理活性を有し、生体適合性があり、室温での流動性が高く、また37℃で急激にゲル化することができ、構造上、全体が一体で継ぎ目なく、高度な機械的性能を有する、堅固なインプラントを形成するこの生体高分子である。生体高分子は、固体または半固体インプラントの形成を正確に制御することができる生理活性ドメインが最低一つ含まれ、そのため、インプラントの形成の他、身体内の細胞との相互作用、または細胞に挿入し細胞治療法として作用するといった、生体機能性を見せる。また薬剤放出制御システムとして作用したり、無機核生成の誘導なども可能である。同様に、発明は、生体高分子のアミノ酸配列をコードするあらゆる核酸、インプラント、薬学上の承認が可能な運搬体、その使用および当該物質の合成方法にも関連している。
【0015】
本発明の生体高分子は、複数のモノマーで構成されていることから共重合体である。共重合体という用語は、ヘテロ重合体の類語である。モノマーは、化学結合により様々な方法で一体化が可能である5つのアミノ酸からなるペプチド(ペンタペプチド)である。
【0016】
本発明では、エラスチン型タンパク質高分子から、高度な有効性、複雑さ、制御および堅固さをもつ自動ゲル化システムが得られた。本発明の生体高分子は、以下に挙げる手段を用いて取得された。すなわち、
−アミノ酸の疎水力および伸縮力に関する知識。これにより、生体高分子の各ペンタペプチドが、どの程度疎水性または親水性であるべきか、正確な量的管理ができる。この知識およびこれらの物質に起こる逆転移現象(Tt)に基づき、疎水性ペンタペプチドと親水性ペンタペプチドを交互に配列する構造を通じ、エラスチン型自動ゲル化生体高分子が構築される。そのため水溶液内の疎水性ペンタペプチド同士の相互作用は、特定の温度以上で望まれる自動ゲル化現象発生に不可欠である。
−核酸配列のクローニングを用いた組み換えDNA技術の使用。かかるクローニングは、該配列を発現することができるベクターで本発明の生体高分子アミノ酸配列をコードする。生体高分子を作り出すための組織を複製、転写および翻訳する仕組みは、この技術を通じて有用である。
−ポリペプチドELP(エラスチン様ポリペプチド)配列に基づく生体高分子の生体適合性。これは、生体組織または特定の流体との接触で機能するシステムの開発に有用な特質である。ELP材料は、免疫システムによる天然エラスチンと区別がつかず、そのためその生体適合性は最大限であると見なすことができる。
【0017】
したがって、組み換え生体高分子(組み換えDNA技術を用いて生成)は、自己集合力を備え、これらの手段を利用したナノメートルシステムの開発ができる。この新たな手段により、現在の記述を明らかに凌ぐ特徴をもつ自己集合方式や特性が得られる。
【0018】
本発明の生体高分子は、最新技術で知られる他の共重合体に関して、いくつかの利点がある。すなわち、
−最低一つの生理活性ドメインを含む配列であるため、生体高分子は設計された特定の細胞に付着し、ゲル化が生じ、縦弾性約105Paの物質が得られる。
−生体高分子が投与(通常は注射による)された後のゲル化所要時間は、濃度150 mg/ml及至200 mg/mlの生体高分子の場合、37℃で1分乃至3分である。
【0019】
急速なゲル化は、生物環境における目立ったインプラントの溶解を避けるために非常に重要で、またインプラント溶解によりインプラントの効能が低下する可能性がある。非常に短時間でゲル化が生じるため、対象となる特定の組織に生体高分子を投与することが大変重要であり、またこのようにして選択的固体インプラントが得られる。
【0020】
生体高分子は、構造上は軽量で、架橋を必要とせずに数分間で高度な機械的性能をもった固体インプラントを形成することができる。高分子は神経組織や脊髄の損傷の治療、軟骨や骨の損傷の治療(無機核生成の誘導が可能な配列を含む)、瘢痕の予防(例えばSEQ ID NO:1のような抗接着配列を含む)、静脈瘤の壊死療法、組織増大、薬剤放出制御による疾病療法(当該高分子を含む)に適用することができる。総括すると、発明の生体高分子は、生体高分子に同時に複数機能をもたせることができ、それ自体の生体適合性に起因する明白な長所がある。
【0021】
この意味で、本発明の先ず最初の側面として、次の構造をもつアミノ酸配列A、B、Cを含む生体高分子であるということが挙げられる。
(An-Bm)s-Cp つまり、
Aは、構造が(Dt1-Ev1-Dt2)または(Dt1-Ev2)構造であり、Dは、SEQ ID NO: 1、E は SEQ ID NO: 2の通り、またt1 および t2 の数値は2乃至4、v1 および v2 の数値は1乃至 5である。
Bは、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4またはSEQ ID NO:26を含む配列表から選択される。同様にBの配列は、SEQ ID NO:27でもよい。
Cは構造が(Gw1-Hx1-Gw2)またはHx2であり、GはSEQ ID NO:5、Hはペプチドを一つ含むアミノ酸配列で、次の配列例を含む配列表から選択する。つまりRGD、LDT、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9またはSEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15またはSEQ ID NO:16、 w1 および w2 の数値は5乃至15、また x1 および x2 の数値は1乃至5、
n の数値は 5乃至15、
m の数値は 10乃至70、
s の数値は 2乃至4、そして
p の数値は 1乃至5である。
【0022】
アミノ酸配列Aは、疎水性ブロックであり、アミノ酸配列Bは、親水性ブロック、またアミノ酸配列Cは生理活性ブロックである。最後に挙げたブロックは、特定の配列を認識し、それらの配列と相互反応することができるドメインを含んでおり、そのため望みの細胞標的へ発明の生体高分子を接近させることが可能である。
【0023】
t1およびt2は、同等または異なる数値でもよい。v1およびv2は、同等または異なる数値でもよい。w1およびw2は、同等または異なる数値でもよい。x1およびx2は、同等または異なる数値でもよい。
【0024】
RGD配列は様々な細胞タイプにより認識され、SEQ ID NO:7の配列は内皮細胞により認識される。LDTはSEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9の配列はラミニン内にあり、また様々な細胞タイプにより認識される。SEQ ID NO:10 は神経突起、すなわち樹状突起または軸索を問わず、神経細胞の細胞体から伸びるいかなる構造部により認識される。これらの配列は、本発明の生体高分子の一部を形成し、それぞれの細胞タイプにより認識され、またその結合を促す。SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:9、またはSEQ ID NO:10を含む生体高分子は、血管、神経組織または骨髄のそれぞれの損傷治療に用いることができる。
【0025】
SEQ ID NO:11の配列は燐酸カルシウムに関し類似性がある。SEQ ID NO:12の配列は金に関し類似性がある。SEQ ID NO:13の配列は銀に関し類似性がある。SEQ ID NO:14の配列はプラチナに関し類似性がある。SEQ ID NO:15の配列は珪素(SiO2)に関し類似性がある。SEQ ID NO:16の配列は炭酸カルシウム(CaCO3)に関し類似性がある。これらの配列により、骨の無機質部分への付着、検出要素の導入、殺菌能力をはじめとする能力の生体高分子内統合ができる。
【0026】
アミノ酸配列Hは、例えばSEQ ID NO:1のような成長要因となる配列、無機質核生成を誘導する配列、抗接着配列に属するペプチドを含むことができるが、これはその一例に過ぎず、これのみ制限されるものではない。配列Hは、活性剤、または治療剤、または化学療法剤、または治療用抗体、また治療用抗体の断片をコードすることができる。
【0027】
成長因子は、通常タンパク質性の物質であるが、それのみに制限するものではない。成長因子の主な機能はいくつかあるが、中でも細胞増殖を刺激することが挙げられる。成長因子の配列は、次の因子を含む配列表から選択される。すなわち、トランスフォーミング成長因子ベータTGF-beta(骨の再生用)、繊維芽細胞増殖因子FGFまたはKFG、上皮成長因子EFGまたはTGF-alfa、血管内非細胞増殖因子VEGF、インスリン様成長因子ILGF、骨形成のBMPといった因子またはソニックヘッジホッグ遺伝子ファミリーに属するTGF-β因子である。
【0028】
無機核生成を誘導する配列は、この配列がない時には核生成や無機質結晶増殖が別の構造を伴って出現しない、もしくは出現し、核生成および無機質結晶増殖を活発かつ効果的に促進する機能をもつペプチドであるが、この機能のみに制限されない。
【0029】
付着防止配列は、これを含む生体高分子と最低1つの細胞タイプの間に生じる特定の相互作用を一時的に停止させるペプチド配列である。
【0030】
この意味では、本発明の生体高分子は、一部の事例では瞬間的、また全事例において短時間でゲル化が見られ、例えば生体高分子Aでは1分乃至12分、生体高分子Bでは21分でゲル化する。この所要時間は、先端技術にて既述の生体高分子の時間よりかなり短く、通常、粘性が増大し、その場共有結合架橋が行われ強固でより高い安定性の機械的特質に達するまでには数時間を要する。この方法では、架橋のみが行われる方法で発生するような生物環境でのインプラントの目立った溶解がない。また、加えて、縦弾性の基準値約105 Paで機械的特質に達し(生体高分子Aおよび生体高分子B)、したがって、最好適な特質に達するまでの所要時間が増大する他、インプラントの生体適合性に影響を及ぼしかねないその他薬剤の導入の短所をもつ混合法を用いる必要がない。
【0031】
発明の好ましい実施の一つは、生体高分子に関連するもので、Aは(Dt1-Ev1-Dt2)という構造である。生体高分子の好ましい別の実施では、Cは(Gw1-Hx1-Gw2)という構造である。生体高分子の好ましい別の実施によれば、Hのアミノ酸配列はペプチドRGDを含むものである。生体高分子の好ましい別の実施では、ペプチドRGDを含むアミノ酸配列Hは、SEQ ID NO:6である。
【0032】
好ましい別の実施例では、アミノ酸配列Bは、SEQ ID NO:3である。
【0033】
生体高分子の特に好ましい実施によれば、mの数値は55乃至65である。更に好ましい実施には、構造[(D2-E-D2)10-B60]2-(G10-H-G10)2を有するペプチドB、D、E、G、DおよびHを含む生体高分子が挙げられる。
【0034】
その他の好ましい実施は、アミノ酸配列BがSEQ ID NO:4である生体高分子に関するものである。生体高分子の更に好ましい実施によれば、mの数値は15乃至25である。別の好ましい現実化は、
構造[(D2-E-D2)10-B20]2-(G10-H-G10)2を有するペプチドB、D、E、G、DおよびHを含む生体高分子に関するものである。 SEQ ID NO:4の配列のアミノ酸グリシン(G)とアミノ酸アラニン(A)の間にアミノ酸バリン(V)を挿入する合成ペプチドは、プロテアーゼ標的として機能し、生体高分子の生分解性を調節し、例えば、薬剤放出または再生医療に非常に適している。
【0035】
各応用に必要である機能性を導入することを目的とし、要求されるそれぞれの特質が含まれるように挿入されるドメインを包含する各種ペプチドの結合によって、エラスチン型組み換えタンパク質生体高分子が設計され、これを構築する。そこで、そのドメインは以下の通りとなる。
−生体模倣機能のあるドメイン。ナノ単位やマイクロスケールで自己集合および自己組織化機能を導入する能力があり、温度が上昇する際、その物質的特性の非常に際立った変化を誘導するのに欠かせないドメインが含まれる。この生体高分子の特徴は、可逆性熱ゲル化(Reverse Thermal Gelation, RTG)と称される。これらの生体高分子の水溶液は、室温では粘性が低く、温度上昇に伴いより高い粘性を示し、生理的温度(37℃前後)に達するとき、半固体または固体ゲルを形成するに至る。かかる特質は、自己ゲル化を担う他、薬剤の用量調整法をはじめとするこれらの生体高分子の利用が可能となるが、これはゲル化の過程自体が、薬剤や溶液中の活性成分をカプセルに閉じ込め、後に制御を受け放出されるのに有用となるためである。別の応用タイプは、組織用量の増大である。
−エラスチン型生理活性ではないドメイン。その作用は、物質に適切な生体適合性および機械的特質を付与することである。生理活性配列を含まずこのタイプの配列のみを含む生体高分子は、各種応用のための抗癒着法の他、癒着予防として設計することも可能である。
−生理活性ドメイン。細胞外マトリックスのタンパク質で知られるペプチドを通じ、これらのドメインは生体高分子に特定の細胞接着特性を付与する。
【0036】
既に表記した通り、このタイプのドメインをもつ配列の中には、内皮細胞により認識されるSEQ ID NO:7があり、LDTは、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9は、ラミニンまたは神経突起により認識されるSEQ ID NO:10に由来する。
−生体高分子の生分解性を誘導するその他のドメインで、薬剤放出制御が生じるために好適。
【0037】
以下、前述のいずれの生体高分子も「発明の生体高分子」または「本発明の生体高分子」として言及されるものとする。
【0038】
発明の生体高分子を作製すると記述された構造に従い、アミノ酸配列(アミノ酸配列を言及し区別なく「ペプチド」という用語を用いる)B、D、E、GおよびHは、共有接合、または本発明の生体高分子の特質を維持する構造を作り出すその他のいかなる結合タイプによって結合していてもよい。この結合は、水素ブリッジ、イオンマッチング、疎水会合または包接錯体の形成を含む配列表から選択されるが、それのみに制限されるものではない。
【0039】
本発明の別の側面は、発明のいずれの生体高分子のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸に関する。
【0040】
核酸(以下、「発明の核酸」または「本発明の核酸」とする)には、核酸配列が含まれ、その転写からの産物であるメッセンジャーRNA(mRNA)は、アミノ酸配列(以下、「本発明のアミノ酸配列」または「発明のアミノ酸配列」とする)自体をコードする。また、発明のヌクレオチド配列から変質した変異配列も含まれ、その産物は発明の生体高分子と同じ特質を有する生体高分子である。生体高分子の機能が、発明のヌクレオチド配列に基づき転写されたメッセンジャーRNA配列の翻訳結果と同様となるように、N端末、C端末および内部アミノ酸位置の一部またはそのいずれかに修正があるアミノ酸配列をコードする、ヌクレオチド配列もまた含まれている。アミノ酸配列は、発明のアミノ酸配列のいずれかを作り出す、どのヌクレオチド配列によりコードされてもよい。遺伝子コードは縮重であることから、同一アミノ酸が異なるコドン(3重)によりコードされることも可能で、そのためアミノ酸配列自体が様々なヌクレオチド配列によりコードされることもあり得る。
【0041】
本発明の核酸は、5'末端を、転写イニシエーター配列として有用となるヌクレオチド配列に結合させておくことも可能である。配列は、ヌクレオチド配列のSEQ ID NO:20が可能であるが、それに制限されるものではない。同様に、本発明の核酸は、3'末端を、転写ターミネーター配列に結合させておくことも可能であり、かかる配列の一例として、GTATGA配列が挙げられるが、それに制限されるものではない。
【0042】
本発明の他の側面は、発明の核酸を含む発現ベクターに関する。
【0043】
「発現ベクター」という用語(以下、「発明のベクター」または「本発明のベクター」とする)は、ある特定の宿主において複製能力を有するDNAの断片であり、この用語が示す通り、ベクターに融合した別のDNA断片(インサート)を増殖させるための運搬体としても有用である。インサートとは、ベクターに融合したDNA断片のことである。本発明の場合、ベクターは発明のどの生体高分子をコードするヌクレオチド配列も含むことができ、かかる配列はベクターに融合し、適切な宿主での複製が可能である。ベクターは、プラスミド、コスミド、バクテリオファージまたはウィルスベクターでもよく、ベクターについて行った定義に該当する別のタイプのベクターを除外しない。
【0044】
本発明の他の側面は、発明のベクターと共にトランスフェクションされた分離細胞に関連する。以下、前述の細胞は「発明の細胞」または「本発明の細胞」として言及されるものとする。
【0045】
本発明にて文字通り理解される「細胞」という用語は、原核細胞または真核細胞である。細胞は、例えば大腸菌種の株などに転換した異質DNAを複製することができるバクテリア、または例えばアグロバクテリウムなどの植物内部に関心のあるDNAを移転させることができるバクテリアでもよい。好ましいのは、細胞が植物性の真核細胞、またこの分類群の中でも特に好ましいのは、植物界に属する細胞に関連するものである。そのため、細胞が植物性である場合、細胞という用語には、少なくとも柔組織の細胞、分裂組織細胞またはあらゆるタイプの分化もしくは未分化細胞が含まれる。同様に、またこの定義にはプロトプラスト(細胞壁が除去されている植物の細胞)も含まれる。
【0046】
「トランスフェクション」という用語は、プラスミド、ウィルスベクター(この場合、形質導入も取り上げられる)または移転用のその他手段を通じ、外部の遺伝物質を細胞に形質移入することである。非ウィルス法ではトランスフェクションという用語は、哺乳類の真核細胞に関して用いられ、一方、変質転換という用語は、むしろ、キノコ、海藻または植物のようなバクテリアや非動物性の真核細胞にある遺伝物質の非ウィルス移転を述べるためによく使われる。
【0047】
本発明の別の側面は、インプラントの調製を用意するための発明の生体高分子の利用に関するものである。本発明にて文字通り理解される「インプラント」という用語は、固体または半固体状態の物質で、身体機能の改善または審美目的のために体内に埋め込むことができる。
【0048】
本発明の別の側面は、発明の生体高分子のうちいずれかを含むインプラントである。本発明の好ましい実施には、生体高分子の濃度が30mg/ml乃至300mg/mlであるインプラントがある。インプラントは、生体高分子の濃度が50mg/ml乃至200mg/mlであることが好ましい。他にも本発明の好ましい実施としては、非経口投与に適した形態でのインプラントが挙げられる。非経口投与に適した形態とは、注入式投与が可能な物理的状態、つまり、望ましくは液体状態のことで、そのためには、生体高分子がゲル化温度より低い温度であることが必要である。非経口投与は、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与または骨内投与による方法が可能だが、これらのタイプの非経口投与法のみに制限されるものではない。別の可能性としては、インプラントが局所選択投与に適した形態となっている方法で、その方法には経口投与、経直腸投与、口腔投与、外用、経鼻投与、点眼、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮投与、くも膜下腔投与、関節内注射、動脈内投与、くも膜下投与、吸入、リンパ管、膣内または子宮内投与が挙げられるが、これらのみに制限されるものではない。
【0049】
また別の好ましい実施によれば、インプラントには更に活性物質が含まれる。かかる活性物質が、動物に生じる疾患の予防、診断、緩和、治療または手当てに使われる薬学上の承認が可能な物質であることが好ましい。動物は、哺乳類が好ましい。哺乳類は、ヒトが好ましい。インプラントは、その埋め込みの前に、単独または2種以上の細胞と混合することができる。
【0050】
以下、インプラントは「発明のインプラント」または「本発明のインプラント」として言及されるものとする。
【0051】
本発明の別の側面は、軟骨または骨の治療を対象とした発明のインプラントの利用である。インプラントを使用することにより、損傷ではない障害を治療することができる。治療は、損傷の予防、または単に損傷を伴わない状態の改善でもあり得る。インプラントは、軟骨もしくは骨の損傷を修復、巨視的または微視的を問わず、あらゆる骨折の程度の軟骨または骨構造を接合状態に保つことができる他、痛みの治療または損傷からの回復の一助となる、薬学上の承認が可能な活性物質の放出が可能である。
【0052】
本発明の別の側面は、神経組織または脊髄の治療を対象とした発明のインプラントの利用である。インプラントを使用することにより、損傷ではない障害を治療することができる。治療は、損傷の予防、または単に損傷を伴わない状態の改善としてでもよい。インプラントは、神経組織または脊髄の痛みの治療、または損傷からの回復の一助となる、薬学上の承認が可能な活性物質の放出が可能である。このタイプの治療実施のために、生体高分子は、封入体細胞を有する配列のSEQ ID NO:10を含むことが可能である。封入体細胞は、幹細胞、間葉系幹細胞、またはいかなる分化細胞でもよい。
【0053】
本発明の別の側面は、静脈瘤の壊死療法のための発明のインプラントの利用である。発明の生体高分子は、静脈瘤に血栓を形成させ、静脈瘤を壊死化させる働きがある。インプラントは、医薬品を包含することができる。
【0054】
本発明の別の側面は、薬剤生産のための発明の生体高分子の使用である。好ましい実施は、軟骨や骨の治療用、神経組織や脊髄の治療用、または静脈瘤の壊死化用の薬剤生成のため、本発明の生体高分子の使用に関するものである。
【0055】
本発明の他の側面は、発明の生体高分子のいずれかを含む、薬学上の承認が可能な運搬体に関連している。
【0056】
本発明にて文字通り理解される「薬学上の承認可能な運搬体」とは、薬学分野で認識され、投与される薬剤の形態になって使われる物質、または物資の組み合わせで、固体または液体、溶剤、界面活性剤等が含まれる。本発明の薬学上の承認可能な運搬体は、医薬品に粘性を付与し形状をつける他、制御された特定の用量調整または投与を行うことができる。加えて、運搬体は、薬学上適切である必要があり、すなわち、発明の生体高分子の作用を可能にする運搬体である。
【0057】
好ましい実施のひとつには、生体高分子の濃度が30mg/ml乃至300mg/mlである薬学上の承認可能な運搬体が挙げられる。運搬体は、生体高分子の濃度が50mg/ml乃至200mg/mlであることが好ましい。他にも好ましい実施によれば、薬学上の承認可能な運搬体は、非経口投与に適した形態となっている。さらに、投与の種類は、前項にて述べた種類の中から選択することができる。
【0058】
以下、薬学上の承認可能な運搬体は「発明の運搬体」または「本発明の運搬体」として言及されるものとする。
【0059】
本発明の別の側面は、薬剤放出制御のために発明の運搬体を利用することである。運搬体は、持続的および局部的、またはそのいずれかの方法で、組織または細胞の特定環境に薬剤を投薬することができる。本発明の運搬体は、活性物質を含むことが可能である。本発明にて記述されるように、発明の運搬体に含まれる生体高分子は、特有の局在性をもたらす細胞識別配列をもつことも可能である。発明の運搬体のタイプは、ナノ粒子、超微粒子、微小球またはマイクロカプセルでもよいが、これらに制限されるものではない。薬剤放出制御のための発明の運搬体の利用は、動物での実施が可能である。動物は哺乳類が好ましい。哺乳類はヒトが好ましい。
【0060】
制御された方法で薬剤を放出することが可能な本発明の運搬体は、静脈瘤の治療に取り入れることができるが、それのみに制限されるわけではない。
【0061】
本発明の他の側面は、以下を含む生体高分子を合成するための方法に関する。すなわち、
a.発現ベクターに発明の核酸を挿入する、
b.(a)項の通り得られた発現ベクターと細胞をトランスフェクトする、
c.発明の核酸を含む、(b)項の通りトランスフェクトされた細胞を選択する、
d.(c)項の通り細胞の核酸を発現する、また、
e.(d)項の通り産出された生体高分子を精製する。
【0062】
多機能的設計という必要性から強いられる構造上の複雑度は、高分子合成の通常の技術では達成できない。生体高分子は、組み換えタンパク質と同様、分子生物学およびバイオテクノロジーの応用技術により、微生物または遺伝子操作された植物において得られる。
【0063】
本発明の生体高分子のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、前述で定義される発現ベクターに挿入される。
【0064】
前パラグラフで定義される細胞のトランスフェクションは、最先端技術で知られる技術によって実現され、例えば、エレクトロポレーション、パーティクル・ガン法、アグロバクテリウム、またはゲノムや葉緑体、ミトコンドリアを問わず、発明のどの核酸も宿主細胞のDNAに融合できるいかなる技術も用いられるが、これらの例のみに制限されるものではない。
【0065】
発明の細胞における核酸の発現により、生体高分子が産出され、かかる生体高分子は最先端技術で知られる技術を用いて精製されることが可能である。
【0066】
この記述および請求項の中で使われる「含まれる」という語とその変形は、その他の技術的特徴や添加剤、成分または工程を除外することを意図するものではない。本分野の専門家にとって、発明のその他の目的や利点、特徴は、一つにはこの記述、また一つには発明の実用において推論されるであろう。以下の図および例は例証として示されれるものであり、また本発明の範囲を制限するものではない。
【0067】
〔図の説明〕
図1.生体高分子Aの電気泳動SDS-PAGEの例示。
【0068】
図2.PBS溶液中の生体高分子Aの試料および濃度200mg/mlの試料に対し重合体がもつレオロジー的特性の温度依存性の例示。
縦座標の左軸はG’(白い点)に該当する数値、右軸はG”(黒い点)に該当する数値が示され、いずれの数値も単位はパスカル(Pa)である。
デルタ目盛りは、位相角を度数で測定したものである。
横座標の軸は、温度(T)を摂氏℃で表示している。
【0069】
図3.PBS溶液中の生体高分子Aの試料および濃度200mg/mlの試料に対し37℃の温度で生じる重合体のレオロジー的特性の変化の例示。
縦座標の左軸はG’(白い点)に該当する数値、右軸はG”(黒い点)に該当する数値が示され、いずれの数値も単位はパスカル(Pa)である。
デルタ目盛りは、位相角を度数で測定したものである。
横座標の軸は、時間(t)を分単位で表示している。
【0070】
図4.生体高分子Bの電気泳動SDS-PAGEの例示。
【0071】
図5.PBS溶液中の生体高分子Bの試料および濃度200mg/mlの試料に対する重合体のレオロジー的特性の温度依存性の例示。
縦座標の左軸はG’(白い点)に該当する数値、右軸はG”(黒い点)に該当する数値が示され、いずれの数値も単位はパスカル(Pa)である。
デルタ目盛りは、位相角を度数で測定したものである。
横座標の軸は、温度(T)を摂氏℃で表示している。
【0072】
図6.PBS溶液中の生体高分子Bの試料および濃度200mg/mlの試料に対し温度37℃で生じる重合体のレオロジー的特性の変化の例示。
縦座標の左軸はG’(白い点)に該当する数値、右軸はG”(黒い点)に該当する数値が示され、いずれの数値も単位はパスカル(Pa)である。
デルタ目盛りは、位相角を度数で測定したものである。
横座標の軸は、時間(t)を分単位で表示している。
【0073】
図7.転移温度以下(4℃)および転移温度以上(37℃)でPBS溶液に溶解した発明の生体高分子の例示。
【0074】
図8.フィブロネクチン上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞の画像例示。
【0075】
図9.エラスチン型自己ゲル化共重合体A上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞を画像例示。
【0076】
図10.BSA上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞を画像例示。
【0077】
図11.エラスチン型自己ゲル化制御共重合体上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞を画像例示。
【0078】
図12.各種基層上で24時間、72時間および96時間育成させた培地内細胞の割合の例示。FNはフィブロネクチン、BSAは血清アルブミンに該当する。
【0079】
図13.エラスチン型自己ゲル化共重合体Aを用いて分析したスポットのマススペクトルの例示。
【0080】
図14.エラスチン型自己ゲル化制御共重合体を用いて分析したスポットのマススペクトルの例示。
【0081】
〔実施例〕
引き続き、発明家らが行った試験を通じ、発明の実施例を説明する。発明家は本発明の生体高分子合成およびそのレオロジー特質を述べているが、これらの例はその記述が理解できるよう取り上げられ、本発明の範囲を制限するものではない。
【0082】
(実施例1 エラスチン型組み換えタンパク質重合体の入手)
1.1 発明の生体高分子のアミノ酸配列をコードする合成ヌクレオチド配列の設計と入手
遺伝子の設計から、反復の多いアミノ酸を識別する最も一般的で好適なコドンの使用と、細胞の翻訳システムを過負荷や停滞に至るほど劣化させない必要性との間にある既存の矛盾を避ける試みがされなければならなかった。原核生物の異種系を使用する場合、原核生物の異種系が遺伝子コードに行う限定的使用に由来する課題が考慮されなければならいが、これは種によって異なる。同様に、複数で小さい、またはそのいずれかの人工的な断片による長いコード配列によって形成されている遺伝子の創出における課題も考慮された。最後に、外来性DNAが、高い類似性を有するドメインの反復をする場合、起こりがちな高頻度型組換えを避けなければならない。
【0083】
この段階では、組み換えDNA技術と並んで、DNAの自動合成装置の使用が含まれる。複数の反復を有する重合体の入手は、それをコード化する遺伝子の入手と見なされれ、配列の長さに従い、直線に正しい方向で相互連絡することができるポリヌクレオチド単量体を予め合成させることも可能である。
【0084】
各種ポリペプチドをコードするヌクレオチド反復配列を作り出すため、正しい配列を有する単量体遺伝子の量を十分に入手するためには、適切なクローンとプラスミドの消化物の培養が必要であった。このようにして、制御結合、連鎖または連鎖化反応に必要な大量の単量体が容易に生産された。
【0085】
このタイプの方法は、時間という基準からは費用が割高であるようだが、生体内合成は、正しい配列の大量生産を保証し、さらにオリゴマー化の前に単量体遺伝子を制御することができるという、その後の長所につながり、定方向突然変異誘発でもオリゴマー化以前の共重合体の生成でも、後の配列修正が可能となる。
【0086】
単量体ヌクレオチド配列のポリマー形成は、連鎖法すなわち単量体のランダム結合方法、単量体からオリゴマーを段階的に生成する技術である反復的で再帰的な形成方法、または継ぎ目のないクローン形成方法であるシームレスなクローニング法により実施されるが、ここに挙げた方法に制限されるものではない。なお、このシームレスなクローニング方は、切断点で望みのアミノ酸に翻訳される特定の配列を選択する可能性と定義される。
【0087】
単量体を形成するDNAセグメントの頭尾軸単一方向線状結合を通じ、連鎖によるオリゴマーを合成することができる。この結合は、セグメントの両端が単一鎖で、隆起しセグメント同士の凝集性があるが、それ自体は凝縮性のない場合のみ可能である。このように、単量体頭部にある鎖の末端は補足であり、別の同一単量体の尾部末端とのみ限定的にハイブリッド形成する。したがって、これらの末端は、遺伝子工学で日常用いられる制限エンドヌクレアーゼにより生成される場合に通常発生し、認識と切断の場所が連続的に一致するような回文構造であることはなく、別々でなければならない。
【0088】
連鎖技術に対する様々な修正は、特定の要求に適応しながら、行われていった。単一鎖で凝集性のある末端を有する単量体は、オリゴマーのハイブリッド形成、短鎖オリゴヌクレオチド結合(リンカー)または特定のエンドヌクレアーゼを用いた消化により取得されたものである。
【0089】
反復的で再帰的な方法とは、単量体からオリゴマーを段階的に生成する技術で、添加順序と成長の各段階で連結するブロック数のいずれも制御することができ、アドホック重合体の作成が可能である。かかる方法を実施するには、タンパク質モノマーをコードするセグメントの両端に配列を創出する必要がある。両端は、2つの異なるエンドヌクレアーゼにより認識され、その切断により補足的だが回文構造ではない末端が生成される。この単量体配列はプラスミドでクローニングされ、かかるプラスミドは遺伝子増幅のベクターとして有用で、また単一酵素で消化される場合、クローン作成の次のベクターとなるほか、両方の酵素を切断しクローニングのインサートにもなる。
【0090】
またシームレスクローニング法は、モノマーを生成するエンドヌクレアーゼにより認識される配列のモノマーをコードするインサートの配列設計を独立させる。これは、切断部と一致しない非回文構造の特定配列を認識する、IIs型制限酵素の数が限定されているため、可能な手法である。この特異性により、重合体に異質配列を含めなければならないという課題が排除され、連鎖ができる凝集性のある末端の生成が可能となり、また加えて、たった一回の消化で単一方向に結合する断片が得られる。
【0091】
1.2.重合体の発現と精製
生体高分子すべてをコードするヌクレオチド配列が作成されると、次はその発現となる。そのために、従来から使用される制限酵素を使用して、ヌクレオチド配列は、該当するクローニングベクターから発現専門ベクターへ移転した。移転が正しく行われたことを確認後、一般的な共通知識の範囲内で有効な技術を用いて、かかる配列の発現のため、特定のバクテリア株が変形した。
【0092】
組み換えポリペプチドの発現は、株の一時的耐性抗生物質および発現ベクターで得られた耐性抗生物質を含むLB液体培地に、組み換えベクターを含んだ当該分離コロニーを植菌して始められた。
【0093】
バクテリア培養は、37℃、250rpmで軌道攪拌を行いながら約11時間インキュベートされ、また、この培養液は比率1対30で新鮮な培地の植菌として使用された。三角フラスコ内の培地の量は、培養の酸素との結合を促すため、フラスコ容量の20%乃至25%以下におさえ、光学濃度600nmが0.6nm前後になるまで、同じ条件下でバクテリアの発育が続けられた。その時点で、最終濃度1mMのIPTGを加えながら、組み換え生体高分子の発現が誘導され、培養は、適温で各試験で要求される期間、再度インキュベートされた。
【0094】
誘導終了後、バクテリアの発育および新陳代謝が停止し、4℃に冷却された。その後、4℃、5000xgで10分間遠心させて細胞が沈殿したら、培養上清を別の容器に移し、また培養基の残りを回収するため、遠心分離チューブの壁を乾燥させた。
【0095】
沈殿した培養は、トリス緩衝生理食塩水TBS (Tris-base 20mM, NaCl 150 mMpH=8)培養液100mL/Lで洗浄され、強く攪拌しピペット操作、またはそのいずれかを行い、バクテリアを再び液体内に浮遊させ、再度5000xgで10分間4℃で遠心分離を行った。引き続き、培養上清を別の容器に移し、溶液TE (Tris-base 20mM, EDTA 1mM pH=8)の含まれた培養液25mL/Lで強く攪拌しピペット操作、またはそのいずれかを行い、沈殿物を再び液体内に浮遊させた。4℃に温度を維持し、プロテアーゼ阻害剤PMSF10μg/mLをこれに加えた。
【0096】
バクテリアは、ミソニック社(ニューヨーク)の超音波発生装置Sonicator 3000にて音波分解し溶菌されたが、これは5秒毎に出力約100Wのパルス照射を2秒間行うという3.5分サイクルを6回繰り返し実行された。この工程の間、タンパク質の変質や熱による沈殿を避けるため、試料は氷の中で維持保存された。最後に、4℃で60分間、15000xgの遠心分離が行われた。培養上清は、完全溶解可能な断片、そして沈殿物である全く溶解されていない断片となる。バクテリアの完全溶解可能な断片は、試料を氷で冷却し攪拌を維持しながら、水で希釈した塩酸でpH=3.5まで酸性化した。引き続き、沈殿した物質(基本的に酸性タンパク質とDNA)は、4℃で20分間、15000xgの遠心分離により除去された。当該の重合体次第で、生理食塩水の濃度と培養上清のpH値は修正されたり、されなかったりした。
重合体の精製は、エラスチン型重合体の優れた性能、またその逆転移を利用して実施された。また大腸菌の可溶性断片から組み換え生体高分子を精製する場合、加熱・沈殿段階および冷却・再浮遊段階が連続的に行われる。選択的沈殿は、70℃で2時間試料を過熱して行われた。引き続き、40℃で20分間15000xgの遠心を行い沈殿物を分離し、12時間4℃で攪拌してタイプIの水2mL/Lに溶解した。更に2回、この作業を繰り返した。最後の溶解処理後、解けた重合体は4℃で精製水タイプIによる透析をし、その後フリーズドライにして-20℃で保存された。
【0097】
(実施例2 エラスチンA型組み換えタンパク質生体高分子の入手)
最初の例として、エラスチンA型共重合体について述べる。これは、疎水性と親水性のある交互ブロックを含むため、自己組織化力があり、そのため逆転移温度を超えると、その機能的特質が劇的に変化する。この場合、疎水性ブロックはB型ペプチドに該当し、そのアミノ酸配列はSEQ ID NO:3、また親水性ブロックは[(D)2(E)(D)2]型ペプチドに該当する。加えて、アミノ酸配列Cは、非特定の生理活性RGD配列を含む。すなわち、本実施例の生体高分子は次の構造である。
[(D2-E-D2)10-B60]2-(G10-H-G10)2。
【0098】
2.1.生体高分子Aをコードする合成ヌクレオチド配列の合成
重合体の合成は、実施例1にて述べた通りに行われた。アミノ酸25個からなる親水性ブロック(D2-E-D2)の合成のため、SEQ ID NO:17を有する2つの相補的オリゴヌクレオチドの混合して、人工合成ヌクレオチド配列が作成された。
【0099】
前述の単量体配列が連鎖し、完全配列の形成が可能になることを目的として、単量体配列の両端に、抑制酵素を認識するそれぞれの配列が適切に配置された。かかる配列が使われるため、アミノ酸バリンをコードするコドンGTAのみを凝集性ある末端としておくことになる。これにより、解読フレームで省略や希望する配列と無関係のコドンが混入せず、単量体連鎖を形成することができる。
【0100】
連鎖技術に従い、開始配列が10回反復し、コーディング領域の長さが750塩基対、制御配列および各々の結合コドンGTAを両端に配置し形成した、ヌクレオチド配列が得られた。
【0101】
疎水性ブロックの合成では、より大きな断片が用いられるが、同様に化学合成のオリゴヌクレオチドを基に合成される。この場合、ペプチド単量体の構造は、(B)20であり、BはSEQ ID NO:3で、ヌクレオチド配列のSEQ ID NO:18でコードされる。
【0102】
今回も、同様に、同じ制御酵素が使われたため、遺伝子コードの両端に配置した配列も同じ配列が用いられた。しかし、この場合、再帰反復技術を使用し、記述された遺伝子を3回繰り返し、B型ペンタブロックの60回反復をコードする900塩基対の遺伝子を形成した。
【0103】
記述された親水性ブロック(D2-E-D2)10のヌクレオチド配列および疎水性ブロックに該当する(B)60で、このBはSEQ ID NO:3であるブロックは、前述の制御配列を使って融合され、親水性ブロックをコードする遺伝子を5'末端に配列した。その後、合成された1650塩基対の長さの配列は、再帰技術により複製され、ポリペプチド(D2-E-D2)10-(B)60をコードする3300塩基対の配列を作り出した。
【0104】
生理活性配列の混入は、前述の同じ技術により行われた。
【0105】
この場合、構造(G10-H-G10)をコードする配列は、SEQ ID NO:19である。
【0106】
この場合、1650塩基対から成るテトラブロックに結合する前に、同様に前述と同じ技術で断片の複製が行われた。複製による産物は、672塩基対の長さで、アミノ酸224個からなるポリペプチドをコードした。2つの生理活性配列RGDを有する断片を、3330塩基対の断片の3’末端に加えるためには、既に述べた抑制酵素を使い、反復再帰技術を用いて行われた。
【0107】
これらの断片が加わった結果、次の短縮型ポリペプチドをコードする3972塩基対の配列が得られた。すなわち、
[D2-E-D2]10-[B]60-[ D2-E-D2]10-[B]60-[(G)10-H-(G)10] -[(G)10-H-(G)10]。
【0108】
この配列は、前述の適切な制御酵素を用いた消化から生じる断片を受容するため、予め修正された発現ベクターに加わり、ヌクレオチド配列のSEQ ID NO:20を3972塩基対の断片の5’末端、また配列GTATGAを該断片の3’末端に加えた。
合成されたプラスミドは、3996塩基対のオープンリーディングフレームを有するヌクレオチド配列であるSEQ ID NO:21を含み、かかる配列は、SEQ ID NO:22のアミノ酸1331個をコードする。
【0109】
2.2 組み換え生体高分子Aの発現
発現ベクターは、外来性遺伝子の発現に適した大腸菌の株を変形するために使われ、適切な抗生物質により、変形コロニーを選択した。
【0110】
この変形から合成されたコロニーの一つは、同じ抗生物質とグルコース1%を含むLB培地を注入するために使用された。37℃で、250rpmの軌道攪拌をしながら一晩インキュベーションした後、バクテリア培養は、既に使われた同じ抗生物質およびグリセロール8%(v/v)とα‐ラクトース2%(w/v)とグルコース0.05% (w/v)を含む100倍以上に希釈したTB培地を注入するため使用された。
【0111】
上記と同じ条件下でインキュベーションした後、合成された細胞を遠心分離により分離し、緩衝生理食塩水で2回洗浄を行った。その後、EDTA入り緩衝液に再び浮遊させ、最終濃度1mMであるPMSFが加えられた。細胞の浮遊物は、温度4℃に維持しながら音波処理により粉砕れ、抽出液は遠心分離しバクテリア残物を除去した。
【0112】
バクテリア抽出液の上清は、60℃の加熱、遠心分離、沈殿物の収集、4℃のEDTA入り緩衝液で溶解という繰り返しを数回行った。精製の各段階では、SDS存在下でポリアクリルアミド電気泳動による検査が実施された。重合体が十分に精製されたと見なされたとき、溶解は精製水タイプIによる透析をし、フリーズドライ処理し、その使用まで乾燥した冷温場所にフリーズドライした重合体を保存した。
【0113】
2.3.エラスチンA型生体高分子の特徴づけ
生体高分子Aを特徴付けるため、SDS存在下のアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)が行われたが、この電気泳動法により、精製度を確認できる他、重合体の分子量を概算評価することができる。図1では、左の列は試料、右の列はマーカーに該当する(フェルメンタス社製SM0431)。かかる図では、重合体が、電気泳動上、純粋であると識別できる他、重合体の良好な生成が観察される。重合体のバンドの位置は、マーカーの116 kDaに一致する。したがって生体高分子Aは、この見かけの分子量である。
【0114】
また、重合体の分子量を正確に計算するために、スペクトロメーターのモデルQ-Starで質量分析MALDI-TOFが実施された。前述の分析から、分子量は112292Daであることが推論された。
【0115】
物質の物理的特徴づけは、レオロジー研究により行われた。試験は、応力制御型レオメータAR2000ex (ティー・エイ・インスツルメント社製)で、250μm間隔の並行プレートを利用して実施された。ゲル化のための水溶液は、ペルチエ素子を使ったサーモスタットプレート上に設置された。線状粘弾性レベルは1Hzの周波に設定され、また、このレベル内で時間および温度の走査用歪み0.5%が選択された。
【0116】
PBS溶液中の生体高分子Aの濃度が50、100、150および200mg/mlとなる試料を用意、レオロジー特質を得ることを目的として、速度1℃/minで4℃乃至60℃の温度にこれらの試料を加熱した。ゲル化温度は、「ゲル点」(Tagel)として識別されたが、これはG’がG”に等しい点として定義される(Pilosof 2000)。
【0117】
図2では、弾性モジュールまたは貯蔵弾性モジュール(G’)、粘性モジュールまたは粘性損失(G”)、濃度200mg/m試料用位相差(デルタ)を示している。位相角デルタは、弾性と粘性との関係を示す。該図から、ゲル化温度16℃が得られ、また再構築の開始が10℃で始まり、26℃で機械的特質が最適に達することが見て取れる。その他の濃度では、ゲル化温度は同じである。このことから、体内に産物が導入されると、その機械的特質が最良に達すると結論付けることができる。さらに、表1では、様々な濃度の弾性モジュール、粘性モジュール、位相角の達成値もわかる。かかる数値から、物質の機械的特性は、より濃度の高い試料からより濃度の低い試料へと低下すると推論される。濃度200mg/mlの試料では、G’は3.0x105Pa、濃度50mg/ml はでは、5.7x104である。
【0118】
既に述べた通り、極めて重要なもう一つの特徴として、注入後、体温でゲル化するまでの所要時間が挙げられる。すなわち、自己組織化と機械的特質の変化、また特に、身体内部で分散化が生じないための粘性の変化が生じる時間である。この意味において、ゲル化過程の動力学を理解するため、37℃での等温線法によるレオロジー試験を実施し、PBS溶液に溶かした共重合体Aの溶解につき、時間に関するレオロジー特性の変動を調べた。図3は、濃度200mg/mlの試料用に得られた結果を示したものである。当該図にて見られるように、4分以上の加熱時間は、喪失および保存モジュールの数値に大きな影響を及ぼさず、試料を37℃の温度にして2分経過後、ゲルの形成が観察される。
【0119】
表1では、同様に針の直径が異なる注射を用いた試料の注入性に関するデータも記載される。注射針G20とG26を用いた試験を行ったところ、濃度150mg/mlまでは、直径G26までの針を使って試料が容易に注入できるのに対し、濃度200 mg/mlの試料は、かかる直径の注射針を使うと若干注入しにくく、注射針G20タイプでは容易に注入できたことがわかる。
【0120】
【表1】
【0121】
(実施例3 エラスチンB型組み換えタンパク質生体高分子の入手)
最初の例として、疎水性と親水性のある交互ブロックを含むため、自己組織化の能力を有するエラスチンB型共重合体について述べる。これにより逆転移の温度を超えると、その機能的特質が劇的に変化する。この場合、疎水性ブロックはB型ペプチドに該当し、そのアミノ酸配列はSEQ ID NO:4、また親水性ブロックは[(D)2(E)(D)2]型ペプチドに該当する。加えて、アミノ酸配列Cは、非特定の生理活性RGD配列を含む。すなわち、本実施例の生体高分子は次の構造である。
[(D2-E-D2)10-B20]2-(G10-H-G10)2。
【0122】
3.1.生体高分子Bをコードする合成ヌクレオチド配列の合成
重合体の合成は、実施例1にて述べた通りに行われた。アミノ酸25個からなる親水性ブロック(D2-E-D2)の合成のため、SEQ ID NO:17を有する2つの相補的オリゴヌクレオチドの混合して、人工合成ヌクレオチド配列が作成された。
【0123】
前述の単量体配列が連鎖し、完全配列の形成が可能になることを目的として、単量体配列の両端に、抑制酵素を認識するそれぞれの配列が適切に配置された。かかる配列が使われるため、アミノ酸バリンをコードするコドンGTAのみを凝集性ある末端としておくことになる。これにより、解読フレームで省略や希望する配列と無関係のコドンが混入せず、単量体連鎖を形成することができる。
【0124】
連鎖技術に従い、開始配列が10回反復し、コーディング領域の長さが750塩基対、制御配列および各々の結合コドンGTAを両端に配置し形成した、ヌクレオチド配列が得られた。
【0125】
疎水性ブロックの合成では、より大きな断片が用いられるが、同様に化学合成のオリゴヌクレオチドを基に合成される。この場合、ペプチド単量体の構造は、(B)20であり、Bは、SEQ ID NO:4であり、ヌクレオチド配列のSEQ ID NO:23でコードされている。
【0126】
また、今回も同じ制御酵素が使われ、そのため遺伝子コードの両端に隣接する配列も同じ配列が用いられた。記述された親水性ブロック(D2-E-D2)10のヌクレオチド配列および疎水性ブロックに該当する(B)20で、CがSEQ ID NO:4であるブロックは、前述の制御配列を使って融合され、親水性ブロックをコードする遺伝子を5'末端に配列した。その後、合成された1050塩基対の長さの配列は、再帰技術により複製され、ポリペプチド(D2-E-D2)10-(B)20]2をコードする2100塩基対の配列を作り出した。
【0127】
生理活性配列の混入は、前述の同じ技術により行われた。
【0128】
構造(G10-H-G10)をコードする配列は、SEQ ID NO:19である。
【0129】
この場合、2100塩基対から成るテトラブロックに結合する前に、同様に前述と同じ技術で断片の複製が行われた。複製による産物は、672塩基対の長さで、アミノ酸224個からなるポリペプチドをコードした。2つの生理活性配列RGDを有する断片を、2100塩基対の断片の3’末端に加えるためには、既に述べた抑制酵素を使い、反復再帰技術を用いて行われた。
【0130】
これらの断片が加わった結果、次の短縮型ポリペプチドをコードする2772塩基対の配列が得られた。すなわち、
[D2-E-D2]10-[B]20-[D2-E-D2]10-[B]20-[(G)10-H-(G)10]-[(G)10-H-(G)10]、またBはSEQ ID NO:4である。
【0131】
この配列は、前述の適切な制御酵素を用いた消化から生じる断片を受容するため、予め修正された発現ベクターに加わり、ヌクレオチド配列のSEQ ID NO:20を2772塩基対の断片の5’末端、また配列GTATGAを該断片の3’末端に加えた。合成されたプラスミドは、2796塩基対のオープンリーディングフレームを有するヌクレオチド配列であるSEQ ID NO:24を含み、かかる配列は、SEQ ID NO:25のアミノ酸931個をコードする。
【0132】
3.2 エラスチンB型生体高分子の特徴づけ
組み換え生体高分子Bの発現は、実施例2.2にて述べた方法と同じ方法で行われた。
【0133】
実施例2と同じ方法で、SDS存在下のアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)が実施された。図4では、右の列は試料、左の列はマーカーに該当する(フェルメンタス社製SM0431)。かかる図では、重合体が、電気泳動上、純粋であると識別できる他、重合体の良好な生成が観察される。生体高分子のバンドの位置により、重合体の見かけの分子量は75kDa乃至85kDaである推定できる。
【0134】
また、重合体の分子量を正確に計算するために、スペクトロメーターのモデルQ-Starでの質量分析MALDI-TOFが実施された。前述の分析から、数値78379 Daが推論された。
【0135】
物質の物理的特徴づけは、前述の事例のようにレオロジー研究により行われた。試験は、応力制御型レオメータAR2000ex (ティー・エイ・インスツルメント社製 スペイン)で、250μm間隔の並行プレートを利用して実施された、ゲル化のための水溶液は、ペルチエ素子を使ったサーモスタットプレート上に設置された。線状粘弾性レベルは1Hzの周波に設定され、また、このレベル内で時間および温度の走査用歪み0.5 %が選択された。
【0136】
PBS溶液中の濃度が200mg/mlである試料を用意し、レオロジー特質を得ることを目的として、速度1℃/minで4℃乃至60℃の温度に試料を加熱した。ゲル化温度は、「ゲル点」(Tagel)として識別されたが、これはG’がG”に等しい点として定義される(Pilosof 2000)。
【0137】
図5にて、弾性モジュールまたは貯蔵弾性モジュール(G')、粘性モジュールまたは粘性損失モジュール(G”)、共重合体Bの融解の温度に関する位相差(デルタ)を示している。該図から、ゲル化温度29℃が得られ、また再構築の開始が25℃で始まり、33℃で機械的特質が最適に達することが見て取れる。該温度は、体温より低いとはいえ体温に非常に近い温度であり、したがって、何らかの理由で温度低下が生じる身体部分では、問題が生じる可能性がある。さらに、表2では、弾性モジュール、粘性モジュールおよび位相角が達する数値が分かる。G’は2,5x105 Paで、共重合体Aの数値3.0x105に類似している。
【0138】
図6では、試料を37℃にし21分経過後ゲルが形成され(tgel)、また最適な特質に達するまでに37分かかることがわかる。すなわち生体高分子Aの運動に比べ、運動がかなり遅いことを意味する。
【0139】
表2では、同様に針の直径が異なる注射を用いた試料の注入性に関するデータも記載される。注射針G20およびG26を用いた試験が行ったところ、試料はいずれのタイプの注射針でも容易に注入ができることがわかる。かかる結果につき、濃度200mg/mlの共重合体Bの溶液は、その粘性が濃度50mg/mlの共重合体Aの溶液に相当するため理に適い、またこれについても共重合体Bの分子量は、共重合体Aの分子量より低いため正当である。
【0140】
【表2】
【0141】
2つの実施例の結果から、共重合体Bの特質は、実施例2で記された共重合体Aの特質に若干劣ると結論付けられる。2つの共重合体では、達する弾性モジュールが非常に類似しているが、実施例3の共重合体Bでは、ゲル化所要時間および温度がかなり大きな値である。
【0142】
図7では、PBS溶液に溶解されたエラスチン型自動ゲル化生体高分子の画像が見られるが、その転移温度以下の4℃では液体状態、転移温度以上の37℃ではゲル化していることがわかる。
【0143】
(実施例4エラスチン型自己ゲル化共重合体と初代細胞との相互作用評価)
細胞接着であるRGDモチーフの挿入により、ヒト初代細胞培養(繊維芽細胞)における細胞と物質との間の相互作用を分析し、エラスチン型自己ゲル化共重合体Aに導入された生物活性の評価を行った。
【0144】
エラスチン型自己ゲル化共重合体Aを伴い取得した基層、類似構造だが生理活性配列を有するブロックを含まないエラスチン型自己ゲル化制御共重合体を伴う基層、およびフィブロネクチン、すなわちインテグリン媒介による細胞接着モチーフを含む細胞外マトリックスの構造タンパク質を陽性制御とし、細胞接着をもたない非特定タンパク質BSA(牛血清アルブミン)を陰性制御とする標準タンパク質基層において、細胞接着試験が実施された。
【0145】
したがって、本実施例の生体高分子は、次の構造である。すなわち、
エラスチン型自己ゲル化共重合体A:実施例2の[(D2-E-D2)10-B60]2-(G10-H-G10)2。アミノ酸配列Aは構造(D2-E-D2)10であり、アミノ酸配列Cは構造(G10-H-G10)2。アミノ酸配列Cは、非特定の生理活性RGD配列を含む。
【0146】
エラスチン型自己ゲル化制御共重合体:[(D2-E-D2)10-B60]2。このタイプの共重合体には、本発明の実施例2にて定義されたように、このタイプの生体高分子を特徴付ける細胞接着ドメインがない。
【0147】
試験対象である重合体は、濃度1mg/mlのPBS緩衝液内の重合体溶解を使用し、ポリスチレン(細胞培養の標準物質)の表面上で吸収された。引続き、PBS溶液でも連続洗浄が行われ、未飽和の表面はタンパク質BSAで阻害された。
【0148】
軽く酵素と機械的処理を行って表面が取り除かれた後、繊維芽細胞(104細胞/cm2)を播種し、37℃に制御された環境で2時間培養し、その質的および量的接着につき研究した。播種から2時間後、細胞が各種基層と様々な形でいかに相互作用するか、観察した。陽性制御であるフィブロネクチン(図8)上およびエラスチン型自己ゲル化共重合体(図9)上に設定された細胞は、いずれの事例も細胞が定着し細胞質が広がり、類似した形態となった。一方、陰性制御BSA(図10)上および生理活性モチーフを有さないエラスチン型自己ゲル化制御共重合体(図11)上に蕃種された細胞は、ほとんど物質との相互作用をせず、いずれの事例でも細胞が浮遊状態でその球状の形状が保たれた。また、生理緩衝液を用いた表面洗浄により、BSAやエラスチン型自己ゲル化制御共重合体の表面を吸収した細胞の大部分が除去されたことが観察された。しかしながら、より強力でインテグリン媒介の相互作用を誘導する生理活性ドメインを有する、エラスチン型自己ゲル化共重合体Aの基層の事例では、このような効果は認められなかった。
【0149】
また、スペクトロメータ機器分析法、またAbD Serot社の“AlamarBlueTM”を使用し、細胞毒性や増殖試験が行われた。図12では、蕃種後24時間、72時間および96時間の推定細胞数(代謝的に活性細胞)を表している。該データに基づき、活性細胞数は実験中に変化がないことから、この試験時間において基層は細胞毒性基層ではないことが推論される。一方、24時間、72時間および96時間での細胞数が、制御重合体に比べ共重合体Aの基層においてかなり多かったことから、制御重合体のエラスチン型自己ゲル化重合体Aへの接着性に関し、既に述べた相違は試験の全段階で現れることも観察された。同様に、生理活性共重合体Aを含む基層上の活性細胞の推定数は、制御共重合体およびBSAを有する基層より著しく多かったため、かかる基層は、陽性制御もしくはフィブロネクチンにより近い反応を示した基層であったことも、特筆しなければならない。
【0150】
また、各時間別および蕃種後数時間に接着した細胞数次第であるとはいえ、繊維芽細胞の培養が、すべての基層にて合流に至ったことを確認しながら、倒立顕微鏡での観察による組織培養の培養制御も行われた。フィブロネクチンとエラスチン型自己ゲル化共重合体Aを有する基層の合流時間は、BSAおよびエラスチン型自己ゲル化制御共重合体に比べ、短かった。
【0151】
4.1.MALDI ToF分析
MALDI Tof分析は、質量範囲0kDa乃至1500kDa用検出器CovalX’s HM2を装備したスペクトロメーターReflex IV MALDI ToF(ブルーカー社製ドイツ・ブレーメン)にて実施された。機器の校正は、インスリン、BSAおよびIgGのクラスターを有する外部校正によって行われた。この試料では、3つのスポット (1スポットあたりレーザを300回照射)が分析された。そのデータは、Complex Trackerソフトウェアを使用し解析された。
【0152】
エラスチン型自己ゲル共重合体Aでは、3つのスポットで検出された主なタンパク質は、分子量(MW)= 112253Da±18に相当し、一方、MWの予想結果は112292Daであったことから、結果的にはその差異は0,03%であり、この技術により完全に許容できるものである。
【0153】
エラスチン型自己ゲル制御共重合体では、3つのスポットで検出された主なタンパク質は、分子量(MW)= 92897Da±19に相当し、一方、MWの予想結果は93176Daであったことから、結果的にはその差異は0,3%であり、この技術により完全に許容できるものである。
【0154】
エラスチン型自己ゲル化共重合体Aおよび制御共重合体のアミノ酸組成は表3に示す。
【0155】
アミノ酸組成分析は、AccQ-Tag Waters法によって行われた。誘導体化アミノ酸は、検出器WATERS2487付き勾配システムWATERS600 HPLCを使用して、UV検出器を用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により分析された。最も代表的アミノ酸の定量化は、1対10の割合の溶液で行われた。
【0156】
アミノ酸組成の結果は、この技術の内因性エラーや試料特有の組成を考慮すると、アミノ酸の予想組成評価と非常に大きな相関関係がある。
【0157】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】生体高分子Aの電気泳動SDS-PAGEを例示する図である。
【図2】PBS溶液中の生体高分子Aの試料および濃度200mg/mlの試料に対し重合体がもつレオロジー的特性の温度依存性を例示する図である。
【図3】PBS溶液中の生体高分子Aの試料および濃度200mg/mlの試料に対し37℃の温度で生じる重合体のレオロジー的特性の変化を例示する図である。
【図4】生体高分子Bの電気泳動SDS-PAGEを例示する図である。
【図5】PBS溶液中の生体高分子Bの試料および濃度200mg/mlの試料に対する重合体のレオロジー的特性の温度依存性を例示する図である。
【図6】PBS溶液中の生体高分子Bの試料および濃度200mg/mlの試料に対し温度37℃で生じる重合体のレオロジー的特性の変化を例示する図である。
【図7】転移温度以下(4℃)および転移温度以上(37℃)でPBS溶液に溶解した発明の生体高分子を例示する図である。
【図8】フィブロネクチン上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞の画像を例示する図である。
【図9】エラスチン型自己ゲル化共重合体A上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞の画像を例示する図である。
【図10】BSA上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞の画像を例示する図である。
【図11】エラスチン型自己ゲル化制御共重合体上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞の画像を例示する図である。
【図12】各種基層上で24時間、72時間および96時間育成させた培地内細胞の割合を例示する図である。
【図13】エラスチン型自己ゲル化共重合体Aを用いて分析したスポットのマススペクトルを例示する図である。
【図14】エラスチン型自己ゲル化制御共重合体を用いて分析したスポットのマススペクトルを例示する図である。
【発明の詳細な説明】
【0001】
この発明は生体高分子に関するものであり、生理活性を有し、完全な生体適合性があり、室温での流動性が高く、37℃で急激にゲル化することができ、またそのため構造上、全体が一体で継ぎ目なく、高度な機械的性能を有する、堅固なインプラントを形成する生体高分子である。生体高分子には、固体または半固体インプラントの形成を正確に行うことができる生理活性ドメインが最低一つ含まれる。同様に発明は、生体高分子のアミノ酸配列をコードするあらゆる核酸、インプラント、薬学上の承認が可能な運搬体、その使用および当該材料の合成方法にも関する。
【0002】
〔背景技術〕
マクロ生体医用材料による固体インプラントは、2種類に分類することができる。すなわち、(1)構造的に全体が一体ではない、もしくは継ぎ目のあるインプラント、(2)構造的に全体が一体または継ぎ目なく形成することができる材質、である。最初の手法は、ミクロまたは生体適合性のある運搬体に載せたナノ粒子のインプラントが基本となっている。(Gamisans et al., 1999.Int J Pharm, 79:37-48; Igartua et al., 1998.J Control Rel; 56:63-73; Brannon-Peppas L, 1995.Controlled release of R-estradiol from biodegradable microparticles within silicone matrix; In:Polymer Biomaterials in Solution, as Interfaces and as Solids.1st ed.Utrech (The Netherlands):VSP-Utrecht; Kawaguchi H, 2000.Prog Polym Sci, 25:1171-1210) 機械的特性がないため、これらのインプラントは挿入場所から移動する可能性がある。この課題を克服するため、注入時の低粘性かつ高流動性と、後の機械的特性の顕著な増大を組み合わせた方式が設計され、その結果、堅固でその限界が明白に定義されているインプラントの形成につながっている。
【0003】
既存の注入可能な生体材料の属性は、次のようにまとめることができる。a)熱可塑性ペースト、b)その場の沈殿、c)その場での重合法または架橋法、d)インテリジェント・マテリアル、e)混合手法。
【0004】
粘性の増大を見せる熱可塑性ペーストは、低分子量の物質であり、ガラス転移温度(Tg)が低く、融解温度(Tm)が37℃乃至65℃であることを特徴とする。
このように、ペーストは融解状態(一般に体温より高い温度である)で注入され、体内で次第に結晶化することにより、結果的に固体化し、継ぎ目のないインプラントが形成される。(Hatefi et al.,2002.J Control Rel, 80:9-28)。これらのインプラントの開発で最も重要な高分子には、特に、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリジオキサノン(PDO)およびポリオルトエステル(POEs)が挙げられる。
【0005】
ソスニックとコーンは、ポリエチレングリコールおよびPCLをセグメント化した重合体の合成を用いて、この手法の修正を設計したが、これは注入性向上と、時間を通じた37℃での段階的固体化を組み合わせたものであった(Sosnik et al., 2003.Polymer, 44:7033-7042)。
【0006】
インテリジェント・マテリアルは、その特性のひとつ(例えば粘性)について、環境状態のわずかな変化を受けるだけで激変が見られる材質である。この刺激は、物理的(例えば、温度、イオンの力、磁場もしくは電界、機械的ストレス)、化学的(例えば、pH)または生化学的(例えば、酵素基質または特定のリガンド)刺激でもよい(Hoffman et al., 2000.J Biomed Mater Res Part A, 52:577-586)。
【0007】
インテリジェント・マテリアルの水溶液は、室温では粘性が低く、加熱により粘性の増大を見せ、生理的温度に達すると半固体または固体ゲルとなる。この転移は、通常、小さな温度間隔で観察される。このような性質を示す高分子はいくつか挙げられる。中でも、ポリ-N-イソプロピルアクリルアシダ(PNIPAAm)(Peppas et al., 2000.Eur J Pharm Biopharm, 50:27-46)、ポリ(エチレンオキサイド)-ポリ(プロピレンオキサイド)(PEO-PPO)セグメント化共重合体 (Bromberg et al., 1998.Adv Drug Del Rev, 31:197-221)、ポリ(エチレンオキサイド)-ポリエステル(PEO-PLA, PEO-PCL)セグメント化共重合体(Jeong et al., 1999.J Control Rel, 62:109-114)やその他親水基と疎水基のセグメントを交互に配列させ設計した両親媒性分子(Lee et al., 2002.Macromolecules, 35:3876-3879)を特筆することができる。PEOやPPOの市販されている高分子に見受けられる課題の一つは、生物環境のポリエーテル連鎖の非分解性である。
【0008】
前述の技術の組み合わせにより、先述の2つの材質グループにある特質を示すインプラントがもたらされた。すなわち、(1)温度上昇に伴う粘性の増大、および(2)頑強な機械的特質とより構造上の優れた安定性を得るための共有結合架橋、である。このようにして、インプラントは液体で挿入され、37℃で固まり半固体ゲルが形成され、そして最終的に共有結合架橋により安定することができる。多くの場合、これらの高分子には溶剤と有機試薬が併用されている。もっとも広く知られる逆感熱性ポリマーの一部であるポリ-N-イソプロピルアクリルアミダ(PoliNIPAAm)の最大の限界点は、純粋なマトリクスの非分解性、および加熱中の容積減少や収縮である。
【0009】
生体適合のある高分子として使われるエラスチン型組み換えタンパク質(ELR)は、非常に広い用途があることが知られるが、これは別のタンパク質から抽出された機能ドメインのアミノ酸、または新たなデノボ設計を挿入し、これらの特質の修正や拡大が可能なためである。(Rodriguez-Cabello JC, Prieto S, Reguera J, Arias FJ y Ribeiro A. (2007).J. Biomater.Sci.Polymer Edn, 18(3):269-286) 前述の改訂版では、ELR高分子に関する実証された潜在性は、近年、組み換えDNA技術の利用により拡大されているとの注釈もある。この改訂版は、生物医学の応用について特に力説し、ELR高分子の現在の開発を探求している。
【0010】
また、生理活性ドメインを含むペプチドを生体高分子鎖に挿入できることでも知られる。かかる生理活性ドメインには、例えば、様々な細胞タイプへの高い結合力を生体高分子に付与するRGD(R = L-アルギニン、 G = グリシン および D = L-アスパラギン酸)または、REDV (E = L-グルタミン酸 および V = L-バリン)などが挙げられる。
【0011】
重要性が非常に高い別の物質群には、セグメント化されたPEOおよびPPO高分子が挙げられ、プルロニック(直鎖型および二官能基性)やテトロニック(分枝型および四官能基性)として一般市場で知られる。これらはPoliNIPAAmのような体積の収縮が見受けられないが、その反面、市販の素材がゾルゲル移転を示す場合ですら、到達する粘性は、大部分の臨床応用にとって十分に高い水準であるとはいえない。すなわち、PEOおよびPPO高分子の機械的特質は満足できるものではなく、ゲルは過度の水分透過性を示すため、インプラントが行われる部位に留まる期間は非常に短い。このような理由や類似する状況へ対応するため、混合手法を用いるが、これは、インプラントの埋め込み直後にインプラントが再吸収されるのを防ぐことを目的とし、その粘性の飛躍的増大、および堅固でより高い安定性のある機械的特性を得られるよう後に行われる共有結合架橋を用いた手法である。この方法では、測定基準415kPaのヒドロゲルが得られるが、その結果、求められる粘性に達する所要時間が増加するが、この場合、通常の所要時間を超える生理的条件で架橋反応が生じる必要があるためである。
【0012】
これまでにELRタンパク質を基本とする各種構造による試験が実施されてきたものの、インプラントの目立った溶解を示さない生体高分子の合成に成功していない。これは、この種の重合体のゲル化が未だに遅すぎるためである。このようなインプラントの溶解は、その効能も低下させる。
【0013】
したがって、堅固で効果的なインプラントを生産するために、十分迅速な選択的ゲル化を得るという課題を解決する必要がある。
【0014】
〔発明の目的〕
この発明は生体高分子に関するもので、生理活性を有し、生体適合性があり、室温での流動性が高く、また37℃で急激にゲル化することができ、構造上、全体が一体で継ぎ目なく、高度な機械的性能を有する、堅固なインプラントを形成するこの生体高分子である。生体高分子は、固体または半固体インプラントの形成を正確に制御することができる生理活性ドメインが最低一つ含まれ、そのため、インプラントの形成の他、身体内の細胞との相互作用、または細胞に挿入し細胞治療法として作用するといった、生体機能性を見せる。また薬剤放出制御システムとして作用したり、無機核生成の誘導なども可能である。同様に、発明は、生体高分子のアミノ酸配列をコードするあらゆる核酸、インプラント、薬学上の承認が可能な運搬体、その使用および当該物質の合成方法にも関連している。
【0015】
本発明の生体高分子は、複数のモノマーで構成されていることから共重合体である。共重合体という用語は、ヘテロ重合体の類語である。モノマーは、化学結合により様々な方法で一体化が可能である5つのアミノ酸からなるペプチド(ペンタペプチド)である。
【0016】
本発明では、エラスチン型タンパク質高分子から、高度な有効性、複雑さ、制御および堅固さをもつ自動ゲル化システムが得られた。本発明の生体高分子は、以下に挙げる手段を用いて取得された。すなわち、
−アミノ酸の疎水力および伸縮力に関する知識。これにより、生体高分子の各ペンタペプチドが、どの程度疎水性または親水性であるべきか、正確な量的管理ができる。この知識およびこれらの物質に起こる逆転移現象(Tt)に基づき、疎水性ペンタペプチドと親水性ペンタペプチドを交互に配列する構造を通じ、エラスチン型自動ゲル化生体高分子が構築される。そのため水溶液内の疎水性ペンタペプチド同士の相互作用は、特定の温度以上で望まれる自動ゲル化現象発生に不可欠である。
−核酸配列のクローニングを用いた組み換えDNA技術の使用。かかるクローニングは、該配列を発現することができるベクターで本発明の生体高分子アミノ酸配列をコードする。生体高分子を作り出すための組織を複製、転写および翻訳する仕組みは、この技術を通じて有用である。
−ポリペプチドELP(エラスチン様ポリペプチド)配列に基づく生体高分子の生体適合性。これは、生体組織または特定の流体との接触で機能するシステムの開発に有用な特質である。ELP材料は、免疫システムによる天然エラスチンと区別がつかず、そのためその生体適合性は最大限であると見なすことができる。
【0017】
したがって、組み換え生体高分子(組み換えDNA技術を用いて生成)は、自己集合力を備え、これらの手段を利用したナノメートルシステムの開発ができる。この新たな手段により、現在の記述を明らかに凌ぐ特徴をもつ自己集合方式や特性が得られる。
【0018】
本発明の生体高分子は、最新技術で知られる他の共重合体に関して、いくつかの利点がある。すなわち、
−最低一つの生理活性ドメインを含む配列であるため、生体高分子は設計された特定の細胞に付着し、ゲル化が生じ、縦弾性約105Paの物質が得られる。
−生体高分子が投与(通常は注射による)された後のゲル化所要時間は、濃度150 mg/ml及至200 mg/mlの生体高分子の場合、37℃で1分乃至3分である。
【0019】
急速なゲル化は、生物環境における目立ったインプラントの溶解を避けるために非常に重要で、またインプラント溶解によりインプラントの効能が低下する可能性がある。非常に短時間でゲル化が生じるため、対象となる特定の組織に生体高分子を投与することが大変重要であり、またこのようにして選択的固体インプラントが得られる。
【0020】
生体高分子は、構造上は軽量で、架橋を必要とせずに数分間で高度な機械的性能をもった固体インプラントを形成することができる。高分子は神経組織や脊髄の損傷の治療、軟骨や骨の損傷の治療(無機核生成の誘導が可能な配列を含む)、瘢痕の予防(例えばSEQ ID NO:1のような抗接着配列を含む)、静脈瘤の壊死療法、組織増大、薬剤放出制御による疾病療法(当該高分子を含む)に適用することができる。総括すると、発明の生体高分子は、生体高分子に同時に複数機能をもたせることができ、それ自体の生体適合性に起因する明白な長所がある。
【0021】
この意味で、本発明の先ず最初の側面として、次の構造をもつアミノ酸配列A、B、Cを含む生体高分子であるということが挙げられる。
(An-Bm)s-Cp つまり、
Aは、構造が(Dt1-Ev1-Dt2)または(Dt1-Ev2)構造であり、Dは、SEQ ID NO: 1、E は SEQ ID NO: 2の通り、またt1 および t2 の数値は2乃至4、v1 および v2 の数値は1乃至 5である。
Bは、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4またはSEQ ID NO:26を含む配列表から選択される。同様にBの配列は、SEQ ID NO:27でもよい。
Cは構造が(Gw1-Hx1-Gw2)またはHx2であり、GはSEQ ID NO:5、Hはペプチドを一つ含むアミノ酸配列で、次の配列例を含む配列表から選択する。つまりRGD、LDT、SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9またはSEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15またはSEQ ID NO:16、 w1 および w2 の数値は5乃至15、また x1 および x2 の数値は1乃至5、
n の数値は 5乃至15、
m の数値は 10乃至70、
s の数値は 2乃至4、そして
p の数値は 1乃至5である。
【0022】
アミノ酸配列Aは、疎水性ブロックであり、アミノ酸配列Bは、親水性ブロック、またアミノ酸配列Cは生理活性ブロックである。最後に挙げたブロックは、特定の配列を認識し、それらの配列と相互反応することができるドメインを含んでおり、そのため望みの細胞標的へ発明の生体高分子を接近させることが可能である。
【0023】
t1およびt2は、同等または異なる数値でもよい。v1およびv2は、同等または異なる数値でもよい。w1およびw2は、同等または異なる数値でもよい。x1およびx2は、同等または異なる数値でもよい。
【0024】
RGD配列は様々な細胞タイプにより認識され、SEQ ID NO:7の配列は内皮細胞により認識される。LDTはSEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9の配列はラミニン内にあり、また様々な細胞タイプにより認識される。SEQ ID NO:10 は神経突起、すなわち樹状突起または軸索を問わず、神経細胞の細胞体から伸びるいかなる構造部により認識される。これらの配列は、本発明の生体高分子の一部を形成し、それぞれの細胞タイプにより認識され、またその結合を促す。SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:9、またはSEQ ID NO:10を含む生体高分子は、血管、神経組織または骨髄のそれぞれの損傷治療に用いることができる。
【0025】
SEQ ID NO:11の配列は燐酸カルシウムに関し類似性がある。SEQ ID NO:12の配列は金に関し類似性がある。SEQ ID NO:13の配列は銀に関し類似性がある。SEQ ID NO:14の配列はプラチナに関し類似性がある。SEQ ID NO:15の配列は珪素(SiO2)に関し類似性がある。SEQ ID NO:16の配列は炭酸カルシウム(CaCO3)に関し類似性がある。これらの配列により、骨の無機質部分への付着、検出要素の導入、殺菌能力をはじめとする能力の生体高分子内統合ができる。
【0026】
アミノ酸配列Hは、例えばSEQ ID NO:1のような成長要因となる配列、無機質核生成を誘導する配列、抗接着配列に属するペプチドを含むことができるが、これはその一例に過ぎず、これのみ制限されるものではない。配列Hは、活性剤、または治療剤、または化学療法剤、または治療用抗体、また治療用抗体の断片をコードすることができる。
【0027】
成長因子は、通常タンパク質性の物質であるが、それのみに制限するものではない。成長因子の主な機能はいくつかあるが、中でも細胞増殖を刺激することが挙げられる。成長因子の配列は、次の因子を含む配列表から選択される。すなわち、トランスフォーミング成長因子ベータTGF-beta(骨の再生用)、繊維芽細胞増殖因子FGFまたはKFG、上皮成長因子EFGまたはTGF-alfa、血管内非細胞増殖因子VEGF、インスリン様成長因子ILGF、骨形成のBMPといった因子またはソニックヘッジホッグ遺伝子ファミリーに属するTGF-β因子である。
【0028】
無機核生成を誘導する配列は、この配列がない時には核生成や無機質結晶増殖が別の構造を伴って出現しない、もしくは出現し、核生成および無機質結晶増殖を活発かつ効果的に促進する機能をもつペプチドであるが、この機能のみに制限されない。
【0029】
付着防止配列は、これを含む生体高分子と最低1つの細胞タイプの間に生じる特定の相互作用を一時的に停止させるペプチド配列である。
【0030】
この意味では、本発明の生体高分子は、一部の事例では瞬間的、また全事例において短時間でゲル化が見られ、例えば生体高分子Aでは1分乃至12分、生体高分子Bでは21分でゲル化する。この所要時間は、先端技術にて既述の生体高分子の時間よりかなり短く、通常、粘性が増大し、その場共有結合架橋が行われ強固でより高い安定性の機械的特質に達するまでには数時間を要する。この方法では、架橋のみが行われる方法で発生するような生物環境でのインプラントの目立った溶解がない。また、加えて、縦弾性の基準値約105 Paで機械的特質に達し(生体高分子Aおよび生体高分子B)、したがって、最好適な特質に達するまでの所要時間が増大する他、インプラントの生体適合性に影響を及ぼしかねないその他薬剤の導入の短所をもつ混合法を用いる必要がない。
【0031】
発明の好ましい実施の一つは、生体高分子に関連するもので、Aは(Dt1-Ev1-Dt2)という構造である。生体高分子の好ましい別の実施では、Cは(Gw1-Hx1-Gw2)という構造である。生体高分子の好ましい別の実施によれば、Hのアミノ酸配列はペプチドRGDを含むものである。生体高分子の好ましい別の実施では、ペプチドRGDを含むアミノ酸配列Hは、SEQ ID NO:6である。
【0032】
好ましい別の実施例では、アミノ酸配列Bは、SEQ ID NO:3である。
【0033】
生体高分子の特に好ましい実施によれば、mの数値は55乃至65である。更に好ましい実施には、構造[(D2-E-D2)10-B60]2-(G10-H-G10)2を有するペプチドB、D、E、G、DおよびHを含む生体高分子が挙げられる。
【0034】
その他の好ましい実施は、アミノ酸配列BがSEQ ID NO:4である生体高分子に関するものである。生体高分子の更に好ましい実施によれば、mの数値は15乃至25である。別の好ましい現実化は、
構造[(D2-E-D2)10-B20]2-(G10-H-G10)2を有するペプチドB、D、E、G、DおよびHを含む生体高分子に関するものである。 SEQ ID NO:4の配列のアミノ酸グリシン(G)とアミノ酸アラニン(A)の間にアミノ酸バリン(V)を挿入する合成ペプチドは、プロテアーゼ標的として機能し、生体高分子の生分解性を調節し、例えば、薬剤放出または再生医療に非常に適している。
【0035】
各応用に必要である機能性を導入することを目的とし、要求されるそれぞれの特質が含まれるように挿入されるドメインを包含する各種ペプチドの結合によって、エラスチン型組み換えタンパク質生体高分子が設計され、これを構築する。そこで、そのドメインは以下の通りとなる。
−生体模倣機能のあるドメイン。ナノ単位やマイクロスケールで自己集合および自己組織化機能を導入する能力があり、温度が上昇する際、その物質的特性の非常に際立った変化を誘導するのに欠かせないドメインが含まれる。この生体高分子の特徴は、可逆性熱ゲル化(Reverse Thermal Gelation, RTG)と称される。これらの生体高分子の水溶液は、室温では粘性が低く、温度上昇に伴いより高い粘性を示し、生理的温度(37℃前後)に達するとき、半固体または固体ゲルを形成するに至る。かかる特質は、自己ゲル化を担う他、薬剤の用量調整法をはじめとするこれらの生体高分子の利用が可能となるが、これはゲル化の過程自体が、薬剤や溶液中の活性成分をカプセルに閉じ込め、後に制御を受け放出されるのに有用となるためである。別の応用タイプは、組織用量の増大である。
−エラスチン型生理活性ではないドメイン。その作用は、物質に適切な生体適合性および機械的特質を付与することである。生理活性配列を含まずこのタイプの配列のみを含む生体高分子は、各種応用のための抗癒着法の他、癒着予防として設計することも可能である。
−生理活性ドメイン。細胞外マトリックスのタンパク質で知られるペプチドを通じ、これらのドメインは生体高分子に特定の細胞接着特性を付与する。
【0036】
既に表記した通り、このタイプのドメインをもつ配列の中には、内皮細胞により認識されるSEQ ID NO:7があり、LDTは、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9は、ラミニンまたは神経突起により認識されるSEQ ID NO:10に由来する。
−生体高分子の生分解性を誘導するその他のドメインで、薬剤放出制御が生じるために好適。
【0037】
以下、前述のいずれの生体高分子も「発明の生体高分子」または「本発明の生体高分子」として言及されるものとする。
【0038】
発明の生体高分子を作製すると記述された構造に従い、アミノ酸配列(アミノ酸配列を言及し区別なく「ペプチド」という用語を用いる)B、D、E、GおよびHは、共有接合、または本発明の生体高分子の特質を維持する構造を作り出すその他のいかなる結合タイプによって結合していてもよい。この結合は、水素ブリッジ、イオンマッチング、疎水会合または包接錯体の形成を含む配列表から選択されるが、それのみに制限されるものではない。
【0039】
本発明の別の側面は、発明のいずれの生体高分子のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸に関する。
【0040】
核酸(以下、「発明の核酸」または「本発明の核酸」とする)には、核酸配列が含まれ、その転写からの産物であるメッセンジャーRNA(mRNA)は、アミノ酸配列(以下、「本発明のアミノ酸配列」または「発明のアミノ酸配列」とする)自体をコードする。また、発明のヌクレオチド配列から変質した変異配列も含まれ、その産物は発明の生体高分子と同じ特質を有する生体高分子である。生体高分子の機能が、発明のヌクレオチド配列に基づき転写されたメッセンジャーRNA配列の翻訳結果と同様となるように、N端末、C端末および内部アミノ酸位置の一部またはそのいずれかに修正があるアミノ酸配列をコードする、ヌクレオチド配列もまた含まれている。アミノ酸配列は、発明のアミノ酸配列のいずれかを作り出す、どのヌクレオチド配列によりコードされてもよい。遺伝子コードは縮重であることから、同一アミノ酸が異なるコドン(3重)によりコードされることも可能で、そのためアミノ酸配列自体が様々なヌクレオチド配列によりコードされることもあり得る。
【0041】
本発明の核酸は、5'末端を、転写イニシエーター配列として有用となるヌクレオチド配列に結合させておくことも可能である。配列は、ヌクレオチド配列のSEQ ID NO:20が可能であるが、それに制限されるものではない。同様に、本発明の核酸は、3'末端を、転写ターミネーター配列に結合させておくことも可能であり、かかる配列の一例として、GTATGA配列が挙げられるが、それに制限されるものではない。
【0042】
本発明の他の側面は、発明の核酸を含む発現ベクターに関する。
【0043】
「発現ベクター」という用語(以下、「発明のベクター」または「本発明のベクター」とする)は、ある特定の宿主において複製能力を有するDNAの断片であり、この用語が示す通り、ベクターに融合した別のDNA断片(インサート)を増殖させるための運搬体としても有用である。インサートとは、ベクターに融合したDNA断片のことである。本発明の場合、ベクターは発明のどの生体高分子をコードするヌクレオチド配列も含むことができ、かかる配列はベクターに融合し、適切な宿主での複製が可能である。ベクターは、プラスミド、コスミド、バクテリオファージまたはウィルスベクターでもよく、ベクターについて行った定義に該当する別のタイプのベクターを除外しない。
【0044】
本発明の他の側面は、発明のベクターと共にトランスフェクションされた分離細胞に関連する。以下、前述の細胞は「発明の細胞」または「本発明の細胞」として言及されるものとする。
【0045】
本発明にて文字通り理解される「細胞」という用語は、原核細胞または真核細胞である。細胞は、例えば大腸菌種の株などに転換した異質DNAを複製することができるバクテリア、または例えばアグロバクテリウムなどの植物内部に関心のあるDNAを移転させることができるバクテリアでもよい。好ましいのは、細胞が植物性の真核細胞、またこの分類群の中でも特に好ましいのは、植物界に属する細胞に関連するものである。そのため、細胞が植物性である場合、細胞という用語には、少なくとも柔組織の細胞、分裂組織細胞またはあらゆるタイプの分化もしくは未分化細胞が含まれる。同様に、またこの定義にはプロトプラスト(細胞壁が除去されている植物の細胞)も含まれる。
【0046】
「トランスフェクション」という用語は、プラスミド、ウィルスベクター(この場合、形質導入も取り上げられる)または移転用のその他手段を通じ、外部の遺伝物質を細胞に形質移入することである。非ウィルス法ではトランスフェクションという用語は、哺乳類の真核細胞に関して用いられ、一方、変質転換という用語は、むしろ、キノコ、海藻または植物のようなバクテリアや非動物性の真核細胞にある遺伝物質の非ウィルス移転を述べるためによく使われる。
【0047】
本発明の別の側面は、インプラントの調製を用意するための発明の生体高分子の利用に関するものである。本発明にて文字通り理解される「インプラント」という用語は、固体または半固体状態の物質で、身体機能の改善または審美目的のために体内に埋め込むことができる。
【0048】
本発明の別の側面は、発明の生体高分子のうちいずれかを含むインプラントである。本発明の好ましい実施には、生体高分子の濃度が30mg/ml乃至300mg/mlであるインプラントがある。インプラントは、生体高分子の濃度が50mg/ml乃至200mg/mlであることが好ましい。他にも本発明の好ましい実施としては、非経口投与に適した形態でのインプラントが挙げられる。非経口投与に適した形態とは、注入式投与が可能な物理的状態、つまり、望ましくは液体状態のことで、そのためには、生体高分子がゲル化温度より低い温度であることが必要である。非経口投与は、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与または骨内投与による方法が可能だが、これらのタイプの非経口投与法のみに制限されるものではない。別の可能性としては、インプラントが局所選択投与に適した形態となっている方法で、その方法には経口投与、経直腸投与、口腔投与、外用、経鼻投与、点眼、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮投与、くも膜下腔投与、関節内注射、動脈内投与、くも膜下投与、吸入、リンパ管、膣内または子宮内投与が挙げられるが、これらのみに制限されるものではない。
【0049】
また別の好ましい実施によれば、インプラントには更に活性物質が含まれる。かかる活性物質が、動物に生じる疾患の予防、診断、緩和、治療または手当てに使われる薬学上の承認が可能な物質であることが好ましい。動物は、哺乳類が好ましい。哺乳類は、ヒトが好ましい。インプラントは、その埋め込みの前に、単独または2種以上の細胞と混合することができる。
【0050】
以下、インプラントは「発明のインプラント」または「本発明のインプラント」として言及されるものとする。
【0051】
本発明の別の側面は、軟骨または骨の治療を対象とした発明のインプラントの利用である。インプラントを使用することにより、損傷ではない障害を治療することができる。治療は、損傷の予防、または単に損傷を伴わない状態の改善でもあり得る。インプラントは、軟骨もしくは骨の損傷を修復、巨視的または微視的を問わず、あらゆる骨折の程度の軟骨または骨構造を接合状態に保つことができる他、痛みの治療または損傷からの回復の一助となる、薬学上の承認が可能な活性物質の放出が可能である。
【0052】
本発明の別の側面は、神経組織または脊髄の治療を対象とした発明のインプラントの利用である。インプラントを使用することにより、損傷ではない障害を治療することができる。治療は、損傷の予防、または単に損傷を伴わない状態の改善としてでもよい。インプラントは、神経組織または脊髄の痛みの治療、または損傷からの回復の一助となる、薬学上の承認が可能な活性物質の放出が可能である。このタイプの治療実施のために、生体高分子は、封入体細胞を有する配列のSEQ ID NO:10を含むことが可能である。封入体細胞は、幹細胞、間葉系幹細胞、またはいかなる分化細胞でもよい。
【0053】
本発明の別の側面は、静脈瘤の壊死療法のための発明のインプラントの利用である。発明の生体高分子は、静脈瘤に血栓を形成させ、静脈瘤を壊死化させる働きがある。インプラントは、医薬品を包含することができる。
【0054】
本発明の別の側面は、薬剤生産のための発明の生体高分子の使用である。好ましい実施は、軟骨や骨の治療用、神経組織や脊髄の治療用、または静脈瘤の壊死化用の薬剤生成のため、本発明の生体高分子の使用に関するものである。
【0055】
本発明の他の側面は、発明の生体高分子のいずれかを含む、薬学上の承認が可能な運搬体に関連している。
【0056】
本発明にて文字通り理解される「薬学上の承認可能な運搬体」とは、薬学分野で認識され、投与される薬剤の形態になって使われる物質、または物資の組み合わせで、固体または液体、溶剤、界面活性剤等が含まれる。本発明の薬学上の承認可能な運搬体は、医薬品に粘性を付与し形状をつける他、制御された特定の用量調整または投与を行うことができる。加えて、運搬体は、薬学上適切である必要があり、すなわち、発明の生体高分子の作用を可能にする運搬体である。
【0057】
好ましい実施のひとつには、生体高分子の濃度が30mg/ml乃至300mg/mlである薬学上の承認可能な運搬体が挙げられる。運搬体は、生体高分子の濃度が50mg/ml乃至200mg/mlであることが好ましい。他にも好ましい実施によれば、薬学上の承認可能な運搬体は、非経口投与に適した形態となっている。さらに、投与の種類は、前項にて述べた種類の中から選択することができる。
【0058】
以下、薬学上の承認可能な運搬体は「発明の運搬体」または「本発明の運搬体」として言及されるものとする。
【0059】
本発明の別の側面は、薬剤放出制御のために発明の運搬体を利用することである。運搬体は、持続的および局部的、またはそのいずれかの方法で、組織または細胞の特定環境に薬剤を投薬することができる。本発明の運搬体は、活性物質を含むことが可能である。本発明にて記述されるように、発明の運搬体に含まれる生体高分子は、特有の局在性をもたらす細胞識別配列をもつことも可能である。発明の運搬体のタイプは、ナノ粒子、超微粒子、微小球またはマイクロカプセルでもよいが、これらに制限されるものではない。薬剤放出制御のための発明の運搬体の利用は、動物での実施が可能である。動物は哺乳類が好ましい。哺乳類はヒトが好ましい。
【0060】
制御された方法で薬剤を放出することが可能な本発明の運搬体は、静脈瘤の治療に取り入れることができるが、それのみに制限されるわけではない。
【0061】
本発明の他の側面は、以下を含む生体高分子を合成するための方法に関する。すなわち、
a.発現ベクターに発明の核酸を挿入する、
b.(a)項の通り得られた発現ベクターと細胞をトランスフェクトする、
c.発明の核酸を含む、(b)項の通りトランスフェクトされた細胞を選択する、
d.(c)項の通り細胞の核酸を発現する、また、
e.(d)項の通り産出された生体高分子を精製する。
【0062】
多機能的設計という必要性から強いられる構造上の複雑度は、高分子合成の通常の技術では達成できない。生体高分子は、組み換えタンパク質と同様、分子生物学およびバイオテクノロジーの応用技術により、微生物または遺伝子操作された植物において得られる。
【0063】
本発明の生体高分子のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、前述で定義される発現ベクターに挿入される。
【0064】
前パラグラフで定義される細胞のトランスフェクションは、最先端技術で知られる技術によって実現され、例えば、エレクトロポレーション、パーティクル・ガン法、アグロバクテリウム、またはゲノムや葉緑体、ミトコンドリアを問わず、発明のどの核酸も宿主細胞のDNAに融合できるいかなる技術も用いられるが、これらの例のみに制限されるものではない。
【0065】
発明の細胞における核酸の発現により、生体高分子が産出され、かかる生体高分子は最先端技術で知られる技術を用いて精製されることが可能である。
【0066】
この記述および請求項の中で使われる「含まれる」という語とその変形は、その他の技術的特徴や添加剤、成分または工程を除外することを意図するものではない。本分野の専門家にとって、発明のその他の目的や利点、特徴は、一つにはこの記述、また一つには発明の実用において推論されるであろう。以下の図および例は例証として示されれるものであり、また本発明の範囲を制限するものではない。
【0067】
〔図の説明〕
図1.生体高分子Aの電気泳動SDS-PAGEの例示。
【0068】
図2.PBS溶液中の生体高分子Aの試料および濃度200mg/mlの試料に対し重合体がもつレオロジー的特性の温度依存性の例示。
縦座標の左軸はG’(白い点)に該当する数値、右軸はG”(黒い点)に該当する数値が示され、いずれの数値も単位はパスカル(Pa)である。
デルタ目盛りは、位相角を度数で測定したものである。
横座標の軸は、温度(T)を摂氏℃で表示している。
【0069】
図3.PBS溶液中の生体高分子Aの試料および濃度200mg/mlの試料に対し37℃の温度で生じる重合体のレオロジー的特性の変化の例示。
縦座標の左軸はG’(白い点)に該当する数値、右軸はG”(黒い点)に該当する数値が示され、いずれの数値も単位はパスカル(Pa)である。
デルタ目盛りは、位相角を度数で測定したものである。
横座標の軸は、時間(t)を分単位で表示している。
【0070】
図4.生体高分子Bの電気泳動SDS-PAGEの例示。
【0071】
図5.PBS溶液中の生体高分子Bの試料および濃度200mg/mlの試料に対する重合体のレオロジー的特性の温度依存性の例示。
縦座標の左軸はG’(白い点)に該当する数値、右軸はG”(黒い点)に該当する数値が示され、いずれの数値も単位はパスカル(Pa)である。
デルタ目盛りは、位相角を度数で測定したものである。
横座標の軸は、温度(T)を摂氏℃で表示している。
【0072】
図6.PBS溶液中の生体高分子Bの試料および濃度200mg/mlの試料に対し温度37℃で生じる重合体のレオロジー的特性の変化の例示。
縦座標の左軸はG’(白い点)に該当する数値、右軸はG”(黒い点)に該当する数値が示され、いずれの数値も単位はパスカル(Pa)である。
デルタ目盛りは、位相角を度数で測定したものである。
横座標の軸は、時間(t)を分単位で表示している。
【0073】
図7.転移温度以下(4℃)および転移温度以上(37℃)でPBS溶液に溶解した発明の生体高分子の例示。
【0074】
図8.フィブロネクチン上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞の画像例示。
【0075】
図9.エラスチン型自己ゲル化共重合体A上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞を画像例示。
【0076】
図10.BSA上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞を画像例示。
【0077】
図11.エラスチン型自己ゲル化制御共重合体上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞を画像例示。
【0078】
図12.各種基層上で24時間、72時間および96時間育成させた培地内細胞の割合の例示。FNはフィブロネクチン、BSAは血清アルブミンに該当する。
【0079】
図13.エラスチン型自己ゲル化共重合体Aを用いて分析したスポットのマススペクトルの例示。
【0080】
図14.エラスチン型自己ゲル化制御共重合体を用いて分析したスポットのマススペクトルの例示。
【0081】
〔実施例〕
引き続き、発明家らが行った試験を通じ、発明の実施例を説明する。発明家は本発明の生体高分子合成およびそのレオロジー特質を述べているが、これらの例はその記述が理解できるよう取り上げられ、本発明の範囲を制限するものではない。
【0082】
(実施例1 エラスチン型組み換えタンパク質重合体の入手)
1.1 発明の生体高分子のアミノ酸配列をコードする合成ヌクレオチド配列の設計と入手
遺伝子の設計から、反復の多いアミノ酸を識別する最も一般的で好適なコドンの使用と、細胞の翻訳システムを過負荷や停滞に至るほど劣化させない必要性との間にある既存の矛盾を避ける試みがされなければならなかった。原核生物の異種系を使用する場合、原核生物の異種系が遺伝子コードに行う限定的使用に由来する課題が考慮されなければならいが、これは種によって異なる。同様に、複数で小さい、またはそのいずれかの人工的な断片による長いコード配列によって形成されている遺伝子の創出における課題も考慮された。最後に、外来性DNAが、高い類似性を有するドメインの反復をする場合、起こりがちな高頻度型組換えを避けなければならない。
【0083】
この段階では、組み換えDNA技術と並んで、DNAの自動合成装置の使用が含まれる。複数の反復を有する重合体の入手は、それをコード化する遺伝子の入手と見なされれ、配列の長さに従い、直線に正しい方向で相互連絡することができるポリヌクレオチド単量体を予め合成させることも可能である。
【0084】
各種ポリペプチドをコードするヌクレオチド反復配列を作り出すため、正しい配列を有する単量体遺伝子の量を十分に入手するためには、適切なクローンとプラスミドの消化物の培養が必要であった。このようにして、制御結合、連鎖または連鎖化反応に必要な大量の単量体が容易に生産された。
【0085】
このタイプの方法は、時間という基準からは費用が割高であるようだが、生体内合成は、正しい配列の大量生産を保証し、さらにオリゴマー化の前に単量体遺伝子を制御することができるという、その後の長所につながり、定方向突然変異誘発でもオリゴマー化以前の共重合体の生成でも、後の配列修正が可能となる。
【0086】
単量体ヌクレオチド配列のポリマー形成は、連鎖法すなわち単量体のランダム結合方法、単量体からオリゴマーを段階的に生成する技術である反復的で再帰的な形成方法、または継ぎ目のないクローン形成方法であるシームレスなクローニング法により実施されるが、ここに挙げた方法に制限されるものではない。なお、このシームレスなクローニング方は、切断点で望みのアミノ酸に翻訳される特定の配列を選択する可能性と定義される。
【0087】
単量体を形成するDNAセグメントの頭尾軸単一方向線状結合を通じ、連鎖によるオリゴマーを合成することができる。この結合は、セグメントの両端が単一鎖で、隆起しセグメント同士の凝集性があるが、それ自体は凝縮性のない場合のみ可能である。このように、単量体頭部にある鎖の末端は補足であり、別の同一単量体の尾部末端とのみ限定的にハイブリッド形成する。したがって、これらの末端は、遺伝子工学で日常用いられる制限エンドヌクレアーゼにより生成される場合に通常発生し、認識と切断の場所が連続的に一致するような回文構造であることはなく、別々でなければならない。
【0088】
連鎖技術に対する様々な修正は、特定の要求に適応しながら、行われていった。単一鎖で凝集性のある末端を有する単量体は、オリゴマーのハイブリッド形成、短鎖オリゴヌクレオチド結合(リンカー)または特定のエンドヌクレアーゼを用いた消化により取得されたものである。
【0089】
反復的で再帰的な方法とは、単量体からオリゴマーを段階的に生成する技術で、添加順序と成長の各段階で連結するブロック数のいずれも制御することができ、アドホック重合体の作成が可能である。かかる方法を実施するには、タンパク質モノマーをコードするセグメントの両端に配列を創出する必要がある。両端は、2つの異なるエンドヌクレアーゼにより認識され、その切断により補足的だが回文構造ではない末端が生成される。この単量体配列はプラスミドでクローニングされ、かかるプラスミドは遺伝子増幅のベクターとして有用で、また単一酵素で消化される場合、クローン作成の次のベクターとなるほか、両方の酵素を切断しクローニングのインサートにもなる。
【0090】
またシームレスクローニング法は、モノマーを生成するエンドヌクレアーゼにより認識される配列のモノマーをコードするインサートの配列設計を独立させる。これは、切断部と一致しない非回文構造の特定配列を認識する、IIs型制限酵素の数が限定されているため、可能な手法である。この特異性により、重合体に異質配列を含めなければならないという課題が排除され、連鎖ができる凝集性のある末端の生成が可能となり、また加えて、たった一回の消化で単一方向に結合する断片が得られる。
【0091】
1.2.重合体の発現と精製
生体高分子すべてをコードするヌクレオチド配列が作成されると、次はその発現となる。そのために、従来から使用される制限酵素を使用して、ヌクレオチド配列は、該当するクローニングベクターから発現専門ベクターへ移転した。移転が正しく行われたことを確認後、一般的な共通知識の範囲内で有効な技術を用いて、かかる配列の発現のため、特定のバクテリア株が変形した。
【0092】
組み換えポリペプチドの発現は、株の一時的耐性抗生物質および発現ベクターで得られた耐性抗生物質を含むLB液体培地に、組み換えベクターを含んだ当該分離コロニーを植菌して始められた。
【0093】
バクテリア培養は、37℃、250rpmで軌道攪拌を行いながら約11時間インキュベートされ、また、この培養液は比率1対30で新鮮な培地の植菌として使用された。三角フラスコ内の培地の量は、培養の酸素との結合を促すため、フラスコ容量の20%乃至25%以下におさえ、光学濃度600nmが0.6nm前後になるまで、同じ条件下でバクテリアの発育が続けられた。その時点で、最終濃度1mMのIPTGを加えながら、組み換え生体高分子の発現が誘導され、培養は、適温で各試験で要求される期間、再度インキュベートされた。
【0094】
誘導終了後、バクテリアの発育および新陳代謝が停止し、4℃に冷却された。その後、4℃、5000xgで10分間遠心させて細胞が沈殿したら、培養上清を別の容器に移し、また培養基の残りを回収するため、遠心分離チューブの壁を乾燥させた。
【0095】
沈殿した培養は、トリス緩衝生理食塩水TBS (Tris-base 20mM, NaCl 150 mMpH=8)培養液100mL/Lで洗浄され、強く攪拌しピペット操作、またはそのいずれかを行い、バクテリアを再び液体内に浮遊させ、再度5000xgで10分間4℃で遠心分離を行った。引き続き、培養上清を別の容器に移し、溶液TE (Tris-base 20mM, EDTA 1mM pH=8)の含まれた培養液25mL/Lで強く攪拌しピペット操作、またはそのいずれかを行い、沈殿物を再び液体内に浮遊させた。4℃に温度を維持し、プロテアーゼ阻害剤PMSF10μg/mLをこれに加えた。
【0096】
バクテリアは、ミソニック社(ニューヨーク)の超音波発生装置Sonicator 3000にて音波分解し溶菌されたが、これは5秒毎に出力約100Wのパルス照射を2秒間行うという3.5分サイクルを6回繰り返し実行された。この工程の間、タンパク質の変質や熱による沈殿を避けるため、試料は氷の中で維持保存された。最後に、4℃で60分間、15000xgの遠心分離が行われた。培養上清は、完全溶解可能な断片、そして沈殿物である全く溶解されていない断片となる。バクテリアの完全溶解可能な断片は、試料を氷で冷却し攪拌を維持しながら、水で希釈した塩酸でpH=3.5まで酸性化した。引き続き、沈殿した物質(基本的に酸性タンパク質とDNA)は、4℃で20分間、15000xgの遠心分離により除去された。当該の重合体次第で、生理食塩水の濃度と培養上清のpH値は修正されたり、されなかったりした。
重合体の精製は、エラスチン型重合体の優れた性能、またその逆転移を利用して実施された。また大腸菌の可溶性断片から組み換え生体高分子を精製する場合、加熱・沈殿段階および冷却・再浮遊段階が連続的に行われる。選択的沈殿は、70℃で2時間試料を過熱して行われた。引き続き、40℃で20分間15000xgの遠心を行い沈殿物を分離し、12時間4℃で攪拌してタイプIの水2mL/Lに溶解した。更に2回、この作業を繰り返した。最後の溶解処理後、解けた重合体は4℃で精製水タイプIによる透析をし、その後フリーズドライにして-20℃で保存された。
【0097】
(実施例2 エラスチンA型組み換えタンパク質生体高分子の入手)
最初の例として、エラスチンA型共重合体について述べる。これは、疎水性と親水性のある交互ブロックを含むため、自己組織化力があり、そのため逆転移温度を超えると、その機能的特質が劇的に変化する。この場合、疎水性ブロックはB型ペプチドに該当し、そのアミノ酸配列はSEQ ID NO:3、また親水性ブロックは[(D)2(E)(D)2]型ペプチドに該当する。加えて、アミノ酸配列Cは、非特定の生理活性RGD配列を含む。すなわち、本実施例の生体高分子は次の構造である。
[(D2-E-D2)10-B60]2-(G10-H-G10)2。
【0098】
2.1.生体高分子Aをコードする合成ヌクレオチド配列の合成
重合体の合成は、実施例1にて述べた通りに行われた。アミノ酸25個からなる親水性ブロック(D2-E-D2)の合成のため、SEQ ID NO:17を有する2つの相補的オリゴヌクレオチドの混合して、人工合成ヌクレオチド配列が作成された。
【0099】
前述の単量体配列が連鎖し、完全配列の形成が可能になることを目的として、単量体配列の両端に、抑制酵素を認識するそれぞれの配列が適切に配置された。かかる配列が使われるため、アミノ酸バリンをコードするコドンGTAのみを凝集性ある末端としておくことになる。これにより、解読フレームで省略や希望する配列と無関係のコドンが混入せず、単量体連鎖を形成することができる。
【0100】
連鎖技術に従い、開始配列が10回反復し、コーディング領域の長さが750塩基対、制御配列および各々の結合コドンGTAを両端に配置し形成した、ヌクレオチド配列が得られた。
【0101】
疎水性ブロックの合成では、より大きな断片が用いられるが、同様に化学合成のオリゴヌクレオチドを基に合成される。この場合、ペプチド単量体の構造は、(B)20であり、BはSEQ ID NO:3で、ヌクレオチド配列のSEQ ID NO:18でコードされる。
【0102】
今回も、同様に、同じ制御酵素が使われたため、遺伝子コードの両端に配置した配列も同じ配列が用いられた。しかし、この場合、再帰反復技術を使用し、記述された遺伝子を3回繰り返し、B型ペンタブロックの60回反復をコードする900塩基対の遺伝子を形成した。
【0103】
記述された親水性ブロック(D2-E-D2)10のヌクレオチド配列および疎水性ブロックに該当する(B)60で、このBはSEQ ID NO:3であるブロックは、前述の制御配列を使って融合され、親水性ブロックをコードする遺伝子を5'末端に配列した。その後、合成された1650塩基対の長さの配列は、再帰技術により複製され、ポリペプチド(D2-E-D2)10-(B)60をコードする3300塩基対の配列を作り出した。
【0104】
生理活性配列の混入は、前述の同じ技術により行われた。
【0105】
この場合、構造(G10-H-G10)をコードする配列は、SEQ ID NO:19である。
【0106】
この場合、1650塩基対から成るテトラブロックに結合する前に、同様に前述と同じ技術で断片の複製が行われた。複製による産物は、672塩基対の長さで、アミノ酸224個からなるポリペプチドをコードした。2つの生理活性配列RGDを有する断片を、3330塩基対の断片の3’末端に加えるためには、既に述べた抑制酵素を使い、反復再帰技術を用いて行われた。
【0107】
これらの断片が加わった結果、次の短縮型ポリペプチドをコードする3972塩基対の配列が得られた。すなわち、
[D2-E-D2]10-[B]60-[ D2-E-D2]10-[B]60-[(G)10-H-(G)10] -[(G)10-H-(G)10]。
【0108】
この配列は、前述の適切な制御酵素を用いた消化から生じる断片を受容するため、予め修正された発現ベクターに加わり、ヌクレオチド配列のSEQ ID NO:20を3972塩基対の断片の5’末端、また配列GTATGAを該断片の3’末端に加えた。
合成されたプラスミドは、3996塩基対のオープンリーディングフレームを有するヌクレオチド配列であるSEQ ID NO:21を含み、かかる配列は、SEQ ID NO:22のアミノ酸1331個をコードする。
【0109】
2.2 組み換え生体高分子Aの発現
発現ベクターは、外来性遺伝子の発現に適した大腸菌の株を変形するために使われ、適切な抗生物質により、変形コロニーを選択した。
【0110】
この変形から合成されたコロニーの一つは、同じ抗生物質とグルコース1%を含むLB培地を注入するために使用された。37℃で、250rpmの軌道攪拌をしながら一晩インキュベーションした後、バクテリア培養は、既に使われた同じ抗生物質およびグリセロール8%(v/v)とα‐ラクトース2%(w/v)とグルコース0.05% (w/v)を含む100倍以上に希釈したTB培地を注入するため使用された。
【0111】
上記と同じ条件下でインキュベーションした後、合成された細胞を遠心分離により分離し、緩衝生理食塩水で2回洗浄を行った。その後、EDTA入り緩衝液に再び浮遊させ、最終濃度1mMであるPMSFが加えられた。細胞の浮遊物は、温度4℃に維持しながら音波処理により粉砕れ、抽出液は遠心分離しバクテリア残物を除去した。
【0112】
バクテリア抽出液の上清は、60℃の加熱、遠心分離、沈殿物の収集、4℃のEDTA入り緩衝液で溶解という繰り返しを数回行った。精製の各段階では、SDS存在下でポリアクリルアミド電気泳動による検査が実施された。重合体が十分に精製されたと見なされたとき、溶解は精製水タイプIによる透析をし、フリーズドライ処理し、その使用まで乾燥した冷温場所にフリーズドライした重合体を保存した。
【0113】
2.3.エラスチンA型生体高分子の特徴づけ
生体高分子Aを特徴付けるため、SDS存在下のアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)が行われたが、この電気泳動法により、精製度を確認できる他、重合体の分子量を概算評価することができる。図1では、左の列は試料、右の列はマーカーに該当する(フェルメンタス社製SM0431)。かかる図では、重合体が、電気泳動上、純粋であると識別できる他、重合体の良好な生成が観察される。重合体のバンドの位置は、マーカーの116 kDaに一致する。したがって生体高分子Aは、この見かけの分子量である。
【0114】
また、重合体の分子量を正確に計算するために、スペクトロメーターのモデルQ-Starで質量分析MALDI-TOFが実施された。前述の分析から、分子量は112292Daであることが推論された。
【0115】
物質の物理的特徴づけは、レオロジー研究により行われた。試験は、応力制御型レオメータAR2000ex (ティー・エイ・インスツルメント社製)で、250μm間隔の並行プレートを利用して実施された。ゲル化のための水溶液は、ペルチエ素子を使ったサーモスタットプレート上に設置された。線状粘弾性レベルは1Hzの周波に設定され、また、このレベル内で時間および温度の走査用歪み0.5%が選択された。
【0116】
PBS溶液中の生体高分子Aの濃度が50、100、150および200mg/mlとなる試料を用意、レオロジー特質を得ることを目的として、速度1℃/minで4℃乃至60℃の温度にこれらの試料を加熱した。ゲル化温度は、「ゲル点」(Tagel)として識別されたが、これはG’がG”に等しい点として定義される(Pilosof 2000)。
【0117】
図2では、弾性モジュールまたは貯蔵弾性モジュール(G’)、粘性モジュールまたは粘性損失(G”)、濃度200mg/m試料用位相差(デルタ)を示している。位相角デルタは、弾性と粘性との関係を示す。該図から、ゲル化温度16℃が得られ、また再構築の開始が10℃で始まり、26℃で機械的特質が最適に達することが見て取れる。その他の濃度では、ゲル化温度は同じである。このことから、体内に産物が導入されると、その機械的特質が最良に達すると結論付けることができる。さらに、表1では、様々な濃度の弾性モジュール、粘性モジュール、位相角の達成値もわかる。かかる数値から、物質の機械的特性は、より濃度の高い試料からより濃度の低い試料へと低下すると推論される。濃度200mg/mlの試料では、G’は3.0x105Pa、濃度50mg/ml はでは、5.7x104である。
【0118】
既に述べた通り、極めて重要なもう一つの特徴として、注入後、体温でゲル化するまでの所要時間が挙げられる。すなわち、自己組織化と機械的特質の変化、また特に、身体内部で分散化が生じないための粘性の変化が生じる時間である。この意味において、ゲル化過程の動力学を理解するため、37℃での等温線法によるレオロジー試験を実施し、PBS溶液に溶かした共重合体Aの溶解につき、時間に関するレオロジー特性の変動を調べた。図3は、濃度200mg/mlの試料用に得られた結果を示したものである。当該図にて見られるように、4分以上の加熱時間は、喪失および保存モジュールの数値に大きな影響を及ぼさず、試料を37℃の温度にして2分経過後、ゲルの形成が観察される。
【0119】
表1では、同様に針の直径が異なる注射を用いた試料の注入性に関するデータも記載される。注射針G20とG26を用いた試験を行ったところ、濃度150mg/mlまでは、直径G26までの針を使って試料が容易に注入できるのに対し、濃度200 mg/mlの試料は、かかる直径の注射針を使うと若干注入しにくく、注射針G20タイプでは容易に注入できたことがわかる。
【0120】
【表1】
【0121】
(実施例3 エラスチンB型組み換えタンパク質生体高分子の入手)
最初の例として、疎水性と親水性のある交互ブロックを含むため、自己組織化の能力を有するエラスチンB型共重合体について述べる。これにより逆転移の温度を超えると、その機能的特質が劇的に変化する。この場合、疎水性ブロックはB型ペプチドに該当し、そのアミノ酸配列はSEQ ID NO:4、また親水性ブロックは[(D)2(E)(D)2]型ペプチドに該当する。加えて、アミノ酸配列Cは、非特定の生理活性RGD配列を含む。すなわち、本実施例の生体高分子は次の構造である。
[(D2-E-D2)10-B20]2-(G10-H-G10)2。
【0122】
3.1.生体高分子Bをコードする合成ヌクレオチド配列の合成
重合体の合成は、実施例1にて述べた通りに行われた。アミノ酸25個からなる親水性ブロック(D2-E-D2)の合成のため、SEQ ID NO:17を有する2つの相補的オリゴヌクレオチドの混合して、人工合成ヌクレオチド配列が作成された。
【0123】
前述の単量体配列が連鎖し、完全配列の形成が可能になることを目的として、単量体配列の両端に、抑制酵素を認識するそれぞれの配列が適切に配置された。かかる配列が使われるため、アミノ酸バリンをコードするコドンGTAのみを凝集性ある末端としておくことになる。これにより、解読フレームで省略や希望する配列と無関係のコドンが混入せず、単量体連鎖を形成することができる。
【0124】
連鎖技術に従い、開始配列が10回反復し、コーディング領域の長さが750塩基対、制御配列および各々の結合コドンGTAを両端に配置し形成した、ヌクレオチド配列が得られた。
【0125】
疎水性ブロックの合成では、より大きな断片が用いられるが、同様に化学合成のオリゴヌクレオチドを基に合成される。この場合、ペプチド単量体の構造は、(B)20であり、Bは、SEQ ID NO:4であり、ヌクレオチド配列のSEQ ID NO:23でコードされている。
【0126】
また、今回も同じ制御酵素が使われ、そのため遺伝子コードの両端に隣接する配列も同じ配列が用いられた。記述された親水性ブロック(D2-E-D2)10のヌクレオチド配列および疎水性ブロックに該当する(B)20で、CがSEQ ID NO:4であるブロックは、前述の制御配列を使って融合され、親水性ブロックをコードする遺伝子を5'末端に配列した。その後、合成された1050塩基対の長さの配列は、再帰技術により複製され、ポリペプチド(D2-E-D2)10-(B)20]2をコードする2100塩基対の配列を作り出した。
【0127】
生理活性配列の混入は、前述の同じ技術により行われた。
【0128】
構造(G10-H-G10)をコードする配列は、SEQ ID NO:19である。
【0129】
この場合、2100塩基対から成るテトラブロックに結合する前に、同様に前述と同じ技術で断片の複製が行われた。複製による産物は、672塩基対の長さで、アミノ酸224個からなるポリペプチドをコードした。2つの生理活性配列RGDを有する断片を、2100塩基対の断片の3’末端に加えるためには、既に述べた抑制酵素を使い、反復再帰技術を用いて行われた。
【0130】
これらの断片が加わった結果、次の短縮型ポリペプチドをコードする2772塩基対の配列が得られた。すなわち、
[D2-E-D2]10-[B]20-[D2-E-D2]10-[B]20-[(G)10-H-(G)10]-[(G)10-H-(G)10]、またBはSEQ ID NO:4である。
【0131】
この配列は、前述の適切な制御酵素を用いた消化から生じる断片を受容するため、予め修正された発現ベクターに加わり、ヌクレオチド配列のSEQ ID NO:20を2772塩基対の断片の5’末端、また配列GTATGAを該断片の3’末端に加えた。合成されたプラスミドは、2796塩基対のオープンリーディングフレームを有するヌクレオチド配列であるSEQ ID NO:24を含み、かかる配列は、SEQ ID NO:25のアミノ酸931個をコードする。
【0132】
3.2 エラスチンB型生体高分子の特徴づけ
組み換え生体高分子Bの発現は、実施例2.2にて述べた方法と同じ方法で行われた。
【0133】
実施例2と同じ方法で、SDS存在下のアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)が実施された。図4では、右の列は試料、左の列はマーカーに該当する(フェルメンタス社製SM0431)。かかる図では、重合体が、電気泳動上、純粋であると識別できる他、重合体の良好な生成が観察される。生体高分子のバンドの位置により、重合体の見かけの分子量は75kDa乃至85kDaである推定できる。
【0134】
また、重合体の分子量を正確に計算するために、スペクトロメーターのモデルQ-Starでの質量分析MALDI-TOFが実施された。前述の分析から、数値78379 Daが推論された。
【0135】
物質の物理的特徴づけは、前述の事例のようにレオロジー研究により行われた。試験は、応力制御型レオメータAR2000ex (ティー・エイ・インスツルメント社製 スペイン)で、250μm間隔の並行プレートを利用して実施された、ゲル化のための水溶液は、ペルチエ素子を使ったサーモスタットプレート上に設置された。線状粘弾性レベルは1Hzの周波に設定され、また、このレベル内で時間および温度の走査用歪み0.5 %が選択された。
【0136】
PBS溶液中の濃度が200mg/mlである試料を用意し、レオロジー特質を得ることを目的として、速度1℃/minで4℃乃至60℃の温度に試料を加熱した。ゲル化温度は、「ゲル点」(Tagel)として識別されたが、これはG’がG”に等しい点として定義される(Pilosof 2000)。
【0137】
図5にて、弾性モジュールまたは貯蔵弾性モジュール(G')、粘性モジュールまたは粘性損失モジュール(G”)、共重合体Bの融解の温度に関する位相差(デルタ)を示している。該図から、ゲル化温度29℃が得られ、また再構築の開始が25℃で始まり、33℃で機械的特質が最適に達することが見て取れる。該温度は、体温より低いとはいえ体温に非常に近い温度であり、したがって、何らかの理由で温度低下が生じる身体部分では、問題が生じる可能性がある。さらに、表2では、弾性モジュール、粘性モジュールおよび位相角が達する数値が分かる。G’は2,5x105 Paで、共重合体Aの数値3.0x105に類似している。
【0138】
図6では、試料を37℃にし21分経過後ゲルが形成され(tgel)、また最適な特質に達するまでに37分かかることがわかる。すなわち生体高分子Aの運動に比べ、運動がかなり遅いことを意味する。
【0139】
表2では、同様に針の直径が異なる注射を用いた試料の注入性に関するデータも記載される。注射針G20およびG26を用いた試験が行ったところ、試料はいずれのタイプの注射針でも容易に注入ができることがわかる。かかる結果につき、濃度200mg/mlの共重合体Bの溶液は、その粘性が濃度50mg/mlの共重合体Aの溶液に相当するため理に適い、またこれについても共重合体Bの分子量は、共重合体Aの分子量より低いため正当である。
【0140】
【表2】
【0141】
2つの実施例の結果から、共重合体Bの特質は、実施例2で記された共重合体Aの特質に若干劣ると結論付けられる。2つの共重合体では、達する弾性モジュールが非常に類似しているが、実施例3の共重合体Bでは、ゲル化所要時間および温度がかなり大きな値である。
【0142】
図7では、PBS溶液に溶解されたエラスチン型自動ゲル化生体高分子の画像が見られるが、その転移温度以下の4℃では液体状態、転移温度以上の37℃ではゲル化していることがわかる。
【0143】
(実施例4エラスチン型自己ゲル化共重合体と初代細胞との相互作用評価)
細胞接着であるRGDモチーフの挿入により、ヒト初代細胞培養(繊維芽細胞)における細胞と物質との間の相互作用を分析し、エラスチン型自己ゲル化共重合体Aに導入された生物活性の評価を行った。
【0144】
エラスチン型自己ゲル化共重合体Aを伴い取得した基層、類似構造だが生理活性配列を有するブロックを含まないエラスチン型自己ゲル化制御共重合体を伴う基層、およびフィブロネクチン、すなわちインテグリン媒介による細胞接着モチーフを含む細胞外マトリックスの構造タンパク質を陽性制御とし、細胞接着をもたない非特定タンパク質BSA(牛血清アルブミン)を陰性制御とする標準タンパク質基層において、細胞接着試験が実施された。
【0145】
したがって、本実施例の生体高分子は、次の構造である。すなわち、
エラスチン型自己ゲル化共重合体A:実施例2の[(D2-E-D2)10-B60]2-(G10-H-G10)2。アミノ酸配列Aは構造(D2-E-D2)10であり、アミノ酸配列Cは構造(G10-H-G10)2。アミノ酸配列Cは、非特定の生理活性RGD配列を含む。
【0146】
エラスチン型自己ゲル化制御共重合体:[(D2-E-D2)10-B60]2。このタイプの共重合体には、本発明の実施例2にて定義されたように、このタイプの生体高分子を特徴付ける細胞接着ドメインがない。
【0147】
試験対象である重合体は、濃度1mg/mlのPBS緩衝液内の重合体溶解を使用し、ポリスチレン(細胞培養の標準物質)の表面上で吸収された。引続き、PBS溶液でも連続洗浄が行われ、未飽和の表面はタンパク質BSAで阻害された。
【0148】
軽く酵素と機械的処理を行って表面が取り除かれた後、繊維芽細胞(104細胞/cm2)を播種し、37℃に制御された環境で2時間培養し、その質的および量的接着につき研究した。播種から2時間後、細胞が各種基層と様々な形でいかに相互作用するか、観察した。陽性制御であるフィブロネクチン(図8)上およびエラスチン型自己ゲル化共重合体(図9)上に設定された細胞は、いずれの事例も細胞が定着し細胞質が広がり、類似した形態となった。一方、陰性制御BSA(図10)上および生理活性モチーフを有さないエラスチン型自己ゲル化制御共重合体(図11)上に蕃種された細胞は、ほとんど物質との相互作用をせず、いずれの事例でも細胞が浮遊状態でその球状の形状が保たれた。また、生理緩衝液を用いた表面洗浄により、BSAやエラスチン型自己ゲル化制御共重合体の表面を吸収した細胞の大部分が除去されたことが観察された。しかしながら、より強力でインテグリン媒介の相互作用を誘導する生理活性ドメインを有する、エラスチン型自己ゲル化共重合体Aの基層の事例では、このような効果は認められなかった。
【0149】
また、スペクトロメータ機器分析法、またAbD Serot社の“AlamarBlueTM”を使用し、細胞毒性や増殖試験が行われた。図12では、蕃種後24時間、72時間および96時間の推定細胞数(代謝的に活性細胞)を表している。該データに基づき、活性細胞数は実験中に変化がないことから、この試験時間において基層は細胞毒性基層ではないことが推論される。一方、24時間、72時間および96時間での細胞数が、制御重合体に比べ共重合体Aの基層においてかなり多かったことから、制御重合体のエラスチン型自己ゲル化重合体Aへの接着性に関し、既に述べた相違は試験の全段階で現れることも観察された。同様に、生理活性共重合体Aを含む基層上の活性細胞の推定数は、制御共重合体およびBSAを有する基層より著しく多かったため、かかる基層は、陽性制御もしくはフィブロネクチンにより近い反応を示した基層であったことも、特筆しなければならない。
【0150】
また、各時間別および蕃種後数時間に接着した細胞数次第であるとはいえ、繊維芽細胞の培養が、すべての基層にて合流に至ったことを確認しながら、倒立顕微鏡での観察による組織培養の培養制御も行われた。フィブロネクチンとエラスチン型自己ゲル化共重合体Aを有する基層の合流時間は、BSAおよびエラスチン型自己ゲル化制御共重合体に比べ、短かった。
【0151】
4.1.MALDI ToF分析
MALDI Tof分析は、質量範囲0kDa乃至1500kDa用検出器CovalX’s HM2を装備したスペクトロメーターReflex IV MALDI ToF(ブルーカー社製ドイツ・ブレーメン)にて実施された。機器の校正は、インスリン、BSAおよびIgGのクラスターを有する外部校正によって行われた。この試料では、3つのスポット (1スポットあたりレーザを300回照射)が分析された。そのデータは、Complex Trackerソフトウェアを使用し解析された。
【0152】
エラスチン型自己ゲル共重合体Aでは、3つのスポットで検出された主なタンパク質は、分子量(MW)= 112253Da±18に相当し、一方、MWの予想結果は112292Daであったことから、結果的にはその差異は0,03%であり、この技術により完全に許容できるものである。
【0153】
エラスチン型自己ゲル制御共重合体では、3つのスポットで検出された主なタンパク質は、分子量(MW)= 92897Da±19に相当し、一方、MWの予想結果は93176Daであったことから、結果的にはその差異は0,3%であり、この技術により完全に許容できるものである。
【0154】
エラスチン型自己ゲル化共重合体Aおよび制御共重合体のアミノ酸組成は表3に示す。
【0155】
アミノ酸組成分析は、AccQ-Tag Waters法によって行われた。誘導体化アミノ酸は、検出器WATERS2487付き勾配システムWATERS600 HPLCを使用して、UV検出器を用いたHPLC(高速液体クロマトグラフィー)により分析された。最も代表的アミノ酸の定量化は、1対10の割合の溶液で行われた。
【0156】
アミノ酸組成の結果は、この技術の内因性エラーや試料特有の組成を考慮すると、アミノ酸の予想組成評価と非常に大きな相関関係がある。
【0157】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】生体高分子Aの電気泳動SDS-PAGEを例示する図である。
【図2】PBS溶液中の生体高分子Aの試料および濃度200mg/mlの試料に対し重合体がもつレオロジー的特性の温度依存性を例示する図である。
【図3】PBS溶液中の生体高分子Aの試料および濃度200mg/mlの試料に対し37℃の温度で生じる重合体のレオロジー的特性の変化を例示する図である。
【図4】生体高分子Bの電気泳動SDS-PAGEを例示する図である。
【図5】PBS溶液中の生体高分子Bの試料および濃度200mg/mlの試料に対する重合体のレオロジー的特性の温度依存性を例示する図である。
【図6】PBS溶液中の生体高分子Bの試料および濃度200mg/mlの試料に対し温度37℃で生じる重合体のレオロジー的特性の変化を例示する図である。
【図7】転移温度以下(4℃)および転移温度以上(37℃)でPBS溶液に溶解した発明の生体高分子を例示する図である。
【図8】フィブロネクチン上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞の画像を例示する図である。
【図9】エラスチン型自己ゲル化共重合体A上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞の画像を例示する図である。
【図10】BSA上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞の画像を例示する図である。
【図11】エラスチン型自己ゲル化制御共重合体上に播種後、2時間経過した繊維芽細胞の画像を例示する図である。
【図12】各種基層上で24時間、72時間および96時間育成させた培地内細胞の割合を例示する図である。
【図13】エラスチン型自己ゲル化共重合体Aを用いて分析したスポットのマススペクトルを例示する図である。
【図14】エラスチン型自己ゲル化制御共重合体を用いて分析したスポットのマススペクトルを例示する図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造(An-Bm)s-Cpを有するアミノ酸配列A、BおよびCを含む生体高分子。
(Aは構造が(Dt1-Ev1-Dt2)または(Dt1-Ev2)であり、ここではDはSEQ ID NO:1、E は SEQ ID NO: 2、t1 および t2 の数値が2乃至4、v1 および v2 の数値が1乃至5であり、
Bは、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4 または SEQ ID NO: 26を含む配列表から選択され、
Cは 構造が (Gw1-Hx1-Gw2) またはHx2であり、GはSEQ ID NO:5、 H はペプチドを一つ含むアミノ酸配列で、次の配列例を含む配列表から選択する。つまり RGD、 LDT、 SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9 または SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15 または SEQ ID NO:16、 w1 およびw2 の数値は5乃至15、また x1 および x2 の数値は1乃至5であり、
n の数値は 5乃至15、
m の数値は 10乃至70、
s の数値は 2乃至4、そして
p の数値は 1乃至5である)
【請求項2】
Aの構造が(Dt1-Ev1-Dt2)である請求項1に記載の生体高分子。
【請求項3】
Cの構造が(Gw1-Hx1-Gw2)である請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項4】
アミノ酸配列HがペプチドRGDを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項5】
ペプチドRGDを含むアミノ酸配列HがSEQ ID NO:6である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項6】
アミノ酸配列BがSEQ ID NO:3である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項7】
mの数値は55乃至65である、請求項6に記載の生体高分子。
【請求項8】
構造[(D2-E-D2)10-B60]2-(G10-H-G10)2を有するペプチドB、D、E、G、DおよびHを含む請求項6または請求項7のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項9】
ペプチドCがSEQ ID NO:4である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項10】
mの数値が15乃至25である、請求項9に記載の生体高分子。
【請求項11】
構造[(D2-E-D2)10-B20]2-(G10-H-G10)2を有するペプチドB、D、E、G、DおよびHを含む請求項9または請求項10のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項12】
請求項1及至請求項11のいずれか1項に記載の生体高分子のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項13】
請求項12に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項14】
請求項13に記載のベクターを有するトランスフェクションされた分離細胞。
【請求項15】
請求項1及至請求項11のいずれか1項に記載のインプラントの調製のための生体高分子の使用。
【請求項16】
請求1項乃至請求項11のいずれに記載の生体高分子を含むインプラント。
【請求項17】
生体高分子が濃度30mg/ml乃至300mg/mlである請求項16に記載のインプラント。
【請求項18】
非経口投与に適した形態である請求項16または請求項17に記載のインプラント。
【請求項19】
更に活性物質一つを含む請求項16乃至請求項18のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項20】
請求項1及至請求項11のいずれか1項に記載の薬剤の生成用生体高分子の使用。
【請求項21】
請求項1及至請求項11のいずれか1項に記載の、軟骨や骨の治療用薬剤の生成用生体高分子の使用。
【請求項22】
請求項1及至請求項11のいずれか1項に記載の、神経組織や脊髄の治療用生体高分子の使用。
【請求項23】
請求項1及至請求項11のいずれか1項に記載の、静脈瘤の壊疽化治療用生体高分子の使用。
【請求項24】
請求1項乃至請求項11のいずれに記載の生体高分子を含む薬学上の承認可能な運搬体。
【請求項25】
生体高分子の濃度が30mg/ml乃至300mg/mlである、請求項24に記載の薬学上の承認可能な運搬体。
【請求項26】
非経口投与に適した形態である請求項24または請求項25のいずれか1項に記載の薬学上の承認可能な運搬体。
【請求項27】
請求項24及至請求項26のいずれか1項に記載の、薬剤放出制御用の薬学上の承認可能な運搬体の利用。
【請求項28】
請求1項乃至請求項11のいずれか1項に記載の生体高分子の入手方法であって、
a.発現ベクターに請求項12に記載の核酸を挿入する、
b.(a)項の通り得られた発現ベクターと細胞をトランスフェクトする、
c.請求項12に記載の核酸を含む(b)項に従いトランスフェクトされた細胞を選択する、
d.(c)項の通り細胞の核酸を発現する、また
e.(d)項の通り産出された生体高分子を精製する、を含む方法。
【請求項1】
構造(An-Bm)s-Cpを有するアミノ酸配列A、BおよびCを含む生体高分子。
(Aは構造が(Dt1-Ev1-Dt2)または(Dt1-Ev2)であり、ここではDはSEQ ID NO:1、E は SEQ ID NO: 2、t1 および t2 の数値が2乃至4、v1 および v2 の数値が1乃至5であり、
Bは、SEQ ID NO: 3、SEQ ID NO: 4 または SEQ ID NO: 26を含む配列表から選択され、
Cは 構造が (Gw1-Hx1-Gw2) またはHx2であり、GはSEQ ID NO:5、 H はペプチドを一つ含むアミノ酸配列で、次の配列例を含む配列表から選択する。つまり RGD、 LDT、 SEQ ID NO:7、SEQ ID NO:8、SEQ ID NO:9 または SEQ ID NO:10、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15 または SEQ ID NO:16、 w1 およびw2 の数値は5乃至15、また x1 および x2 の数値は1乃至5であり、
n の数値は 5乃至15、
m の数値は 10乃至70、
s の数値は 2乃至4、そして
p の数値は 1乃至5である)
【請求項2】
Aの構造が(Dt1-Ev1-Dt2)である請求項1に記載の生体高分子。
【請求項3】
Cの構造が(Gw1-Hx1-Gw2)である請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項4】
アミノ酸配列HがペプチドRGDを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項5】
ペプチドRGDを含むアミノ酸配列HがSEQ ID NO:6である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項6】
アミノ酸配列BがSEQ ID NO:3である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項7】
mの数値は55乃至65である、請求項6に記載の生体高分子。
【請求項8】
構造[(D2-E-D2)10-B60]2-(G10-H-G10)2を有するペプチドB、D、E、G、DおよびHを含む請求項6または請求項7のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項9】
ペプチドCがSEQ ID NO:4である、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項10】
mの数値が15乃至25である、請求項9に記載の生体高分子。
【請求項11】
構造[(D2-E-D2)10-B20]2-(G10-H-G10)2を有するペプチドB、D、E、G、DおよびHを含む請求項9または請求項10のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項12】
請求項1及至請求項11のいずれか1項に記載の生体高分子のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項13】
請求項12に記載の核酸を含む発現ベクター。
【請求項14】
請求項13に記載のベクターを有するトランスフェクションされた分離細胞。
【請求項15】
請求項1及至請求項11のいずれか1項に記載のインプラントの調製のための生体高分子の使用。
【請求項16】
請求1項乃至請求項11のいずれに記載の生体高分子を含むインプラント。
【請求項17】
生体高分子が濃度30mg/ml乃至300mg/mlである請求項16に記載のインプラント。
【請求項18】
非経口投与に適した形態である請求項16または請求項17に記載のインプラント。
【請求項19】
更に活性物質一つを含む請求項16乃至請求項18のいずれか1項に記載の生体高分子。
【請求項20】
請求項1及至請求項11のいずれか1項に記載の薬剤の生成用生体高分子の使用。
【請求項21】
請求項1及至請求項11のいずれか1項に記載の、軟骨や骨の治療用薬剤の生成用生体高分子の使用。
【請求項22】
請求項1及至請求項11のいずれか1項に記載の、神経組織や脊髄の治療用生体高分子の使用。
【請求項23】
請求項1及至請求項11のいずれか1項に記載の、静脈瘤の壊疽化治療用生体高分子の使用。
【請求項24】
請求1項乃至請求項11のいずれに記載の生体高分子を含む薬学上の承認可能な運搬体。
【請求項25】
生体高分子の濃度が30mg/ml乃至300mg/mlである、請求項24に記載の薬学上の承認可能な運搬体。
【請求項26】
非経口投与に適した形態である請求項24または請求項25のいずれか1項に記載の薬学上の承認可能な運搬体。
【請求項27】
請求項24及至請求項26のいずれか1項に記載の、薬剤放出制御用の薬学上の承認可能な運搬体の利用。
【請求項28】
請求1項乃至請求項11のいずれか1項に記載の生体高分子の入手方法であって、
a.発現ベクターに請求項12に記載の核酸を挿入する、
b.(a)項の通り得られた発現ベクターと細胞をトランスフェクトする、
c.請求項12に記載の核酸を含む(b)項に従いトランスフェクトされた細胞を選択する、
d.(c)項の通り細胞の核酸を発現する、また
e.(d)項の通り産出された生体高分子を精製する、を含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2012−517803(P2012−517803A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549616(P2011−549616)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【国際出願番号】PCT/ES2010/070084
【国際公開番号】WO2010/092224
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(511200591)ウニヴェルシダッド デ ヴァリャドリード (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE VALLADOLID
【住所又は居所原語表記】Plaza de Santa Cruz,5 Bajo,E−47002 Valladolid,SPAIN
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【国際出願番号】PCT/ES2010/070084
【国際公開番号】WO2010/092224
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(511200591)ウニヴェルシダッド デ ヴァリャドリード (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE VALLADOLID
【住所又は居所原語表記】Plaza de Santa Cruz,5 Bajo,E−47002 Valladolid,SPAIN
【Fターム(参考)】
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