説明

生分解可能で耐凍結性の熱媒流体、地表に近い地熱発電プラントにおけるその使用、及びそれを製造するための濃厚物

生物学的に分解可能な、耐凍結性の熱媒流体、地表に近い地熱発電プラントにおけるその使用、及び濃厚物。本発明の対象は、トリアゾール不含の組成物であって、該組成物が水の他に次の成分、a) C〜C−アルキレングリコール、C〜C−ポリアルキレングリコール又はグリセリンの少なくとも一種9.2〜49.5重量%、b) 少なくとも一種の腐食防止剤0.1〜4重量%を、c) 該組成物が、試験法OECD301Aに準拠して生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”)である、d) 該組成物が、試験法OECD311に準拠した少なくとも75%の嫌気性生分解性を有する、e) 該腐食防止剤又は使用される腐食防止剤の全部が、OECD301A(水溶性の腐食防止剤に関して)又はOECD301B(水難溶性の腐食防止剤に関して)に準拠して生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”)である、という条件で含む、地表に近い地熱発電プラントにおける熱媒流体としての、該組成物の使用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地表に近い地熱発電プラント(oberflaechennahen, geothermischen Anlagen)に使用される、凝固点を下回る温度で凍結せず、信頼できる腐食防止性を提供し、そして容易に生分解可能な、熱媒流体に関する。
【背景技術】
【0002】
地表に近い地熱発電プラントは環境上有意義な熱生産のための代替技術であることから、その数は増加している。この技術はそうこうするうちに十分に発達し、そして熱産生のための油、ガスあるいはその他の化石燃料を使用する従来のシステムの良好な代替システムであると経済的にも見なされている。
【0003】
地表に近い地熱発電プラントの数に伴い、システムの漏損の際に熱媒が土壌中へ達し、そしてそこで環境上の損害を引き起こす危険も増加している。熱媒の構成成分としてしばしば使用されているグリコール類(エチレングリコール又はプロピレングリコール)は良好な生分解性を示し、そのことは論文中で明らかにされた(Geothermics 36 (2007) 348 − 361(非特許文献1))。良好な生分解性とは、OECD法に従って測定された分解性であると理解されるべきである。
【0004】
水が熱媒の構成成分である場合、熱媒流体に、例えばグリコールのような凍結防止剤を添加しないと、地表に近い地熱発電プラントの効率は大抵の場合著しく制限されるか、あるいは同じ熱収率を得るために、引き続きより深いボーリングを行わなければならない。土壌中へのより深いボーリングは、環境上及び経済上不確かなものである。その上、この分野で使用されている新しい熱ポンプは、一部は、エネルギーが熱媒から熱ポンプに取り出された後で、熱媒の温度が、土壌中への進入時に零度を下回り、凍結防止が必要とされる程に、効率的である。
【0005】
しかしながら、使用される腐食防止添加剤もまた、益々、環境適合性評価に焦点が当てられるに至っている。良好でかつ十分な腐食防止性及びシステムの申し分のない操業性を保証できるようにするためには、腐食防止添加剤を添加しなければならない。これらの添加剤がないと、漏損の恐れが著しく増大し、そして、例えば金属イオンのような腐食生成物が土壌中へ達する可能性がある。それに加えて、使用された凍結防止剤は腐食の危険性をも増大させる。たびたび使用されるグリコール類は、経時的な酸化によって有機酸を形成し、それらは腐食を著しく促進させる作用を有する。
【0006】
今日の技術水準によれば、生分解性の低い腐食防止添加剤、例えば、ベンゾトリアゾールが頻繁に使用されている。これは、より大規模に環境中へ達する恐れがある航空機及び滑走路の除氷剤中には、今日既に、行政的にもはや許容されていない。
【0007】
腐食防止剤としては、すぐに使用できる状態の熱媒流体には、例えばアミン(しばしば、水質汚染性又は魚介類に対して毒性)も用いられるが、環境に対するその影響も、有害と分類されるべきものである。
【0008】
生物学的に分解可能の腐食防止剤は、例えば、米国特許第5785895B号明細書(特許文献1)から知られており、該明細書には生物学的に分解可能のイミダゾール類が記載されている。
【0009】
米国特許第7060199B号明細書(特許文献2)には、機械駆動、特に蒸気モーターのための生物学的に分解可能の機能性流体が記載されている。
【0010】
ドイツ国特許出願公開第19830493A号(特許文献3)は、グリコール類及び腐食防止剤を含む、太陽光発電プラントのための熱媒を開示している。
【0011】
米国特許第7241391B号明細書(特許文献4)には、石灰堆積を防止するための調合物が開示されており、該調合物は、生物学的に分解可能な腐食防止剤及び石灰分散剤を含み、純粋な含水系中で使用するべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5785895B号明細書
【特許文献2】米国特許第7060199B号明細書
【特許文献3】ドイツ国特許出願公開第19830493A号
【特許文献4】米国特許第7241391B号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Geothermics 36 (2007) 348 − 361
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、容易に生分解でき、そしてそれ故、地表に近い地熱発電プラントでの使用に適しており、そして十分な腐食防止を保証する熱媒流体を見出すことであった。
【0015】
そのために、本発明の対象はトリアゾール不含の組成物であって、該組成物が水の他に次の成分、
a) C〜C−アルキレングリコール、C〜C−ポリアルキレングリコール又はグリセリンの少なくとも一種9.2〜49.5重量%、
b) 少なくとも一種の腐食防止剤0.1〜4重量%、
を、
c) 上記の組成物が、試験法OECD301Aに準拠して生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”)である、
d) 上記の組成物が、試験法OECD311に準拠した少なくとも75%の嫌気性生分解性を有する、
e) 上記の腐食防止剤又は使用される腐食防止剤の全部が、OECD301A(水溶性の腐食防止剤に関して)又はOECD301B(水難溶性の腐食防止剤に関して)に準拠して、生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”)である、
という条件で含む、地表に近い地熱発電プラントにおける熱媒流体としての該組成物の使用である。
【0016】
本発明の更なる対象は、地表に近い地熱発電プラントのための、トリアゾール不含の熱媒流体であって、該流体は水及び次の成分、
a) C〜C−アルキレングリコール、C〜C−ポリアルキレングリコール又はグリセリンの少なくとも一種9.2〜49.5重量%、
b) 少なくとも一種の腐食防止剤0.1〜4重量%、
を、
c) 上記の熱媒流体が、試験法OECD301Aに準拠して生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”)である、
d) 上記の熱媒流体が、試験法OECD311に準拠した少なくとも75%の嫌気性生分解性を有する、
e) 上記の腐食防止剤又は使用される腐食防止剤の全部が、OECD301A(水溶性の腐食防止剤に関して)又はOECD301B(水難溶性の腐食防止剤に関して)に準拠して生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”)である、
という条件で含む。
【0017】
本発明の更なる対象は、熱媒流体を製造するためのトリアゾール不含の熱媒濃厚物であって、該濃厚物は次の成分、
a) C〜C−アルキレングリコール、C〜C−ポリアルキレングリコール又はグリセリンの少なくとも一種92.4〜98.9重量%、
b) 少なくとも一種の腐食防止剤1.1〜7.6重量%、
を、
c) 上記の熱媒濃厚物が、試験法OECD301Aに準拠して、生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”)である、
d) 上記の熱媒濃厚物が、試験法OECD311に準拠した少なくとも75%の嫌気性生分解性を有する、
e) 上記の腐食防止剤又は使用される腐食防止剤の全部が、OECD301A(水溶性の腐食防止剤に関して)又はOECD301B(水難溶性の腐食防止剤に関して)に準拠して生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”)である、
という条件で含む。
【0018】
本発明の更なる対象は、地表に近い地熱発電プラントを運転する方法であって、その際、本発明の熱媒流体によって熱エネルギーの伝達が実現される、該方法である。
【0019】
好ましくは、構成成分a)及びb)のいずれもがそれ自体が生物学的に良好に分解可能である。
【0020】
“トリアゾール不含”とは、トリアゾールが検出できる量で存在していないことを意味する。
【0021】
本発明による使用及び本発明による熱媒流体において、好ましい実施形態における水の割合は、合計を100重量%にする量である。
【0022】
本発明の熱媒濃厚物が成分a)及び成分b)以外に他の成分を含む場合、>0.02重量%の濃度で含まれる個々の成分は全て、生分解可能であるという条件を満たす。
【0023】
本発明の組成物及びその構成成分の生分解性は、テスティング・オブ・ケミカルズ(Testing of Chemicals)301及び311のOECDガイドラインに従って確認される。
【0024】
本発明の熱媒濃厚物及び本発明の熱媒流体は、試験法OECD301A(1992年7月17日版)に従って、生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”(“ready degradable”))である。この試験法OECD301Aは、本発明の熱媒濃厚物及び本発明の熱媒流体に適用できる。というのも、いずれも水溶性だからである。良好な生分解性は、OECD301Aの第10項に定義されている。
【0025】
本発明の熱媒濃厚物及び本発明の熱媒流体は、試験法OECD311(2006年3月23日版)に従って、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%の、嫌気性生分解性を示す。
【0026】
腐食防止剤、あるいは、一つより多くの腐食防止剤が使用される場合には使用される腐食防止剤の全部が、それぞれ使用できる試験法OECD301A(水溶性の腐食防止剤について)又は試験法OECD301B(水難溶性の腐食防止剤について)(いずれも1992年7月17日版)に従って、生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”(“ready degradable”))である。この良好な生分解性はOECD301の第10項で定義されている。
【0027】
好ましい一実施形態において、本発明の熱媒濃厚物又は本発明の熱媒流体は、7.0〜11.4のpH値を調整するべく水酸化ナトリウム溶液又は水酸化カリウム溶液を含むか、又はその値を本発明の使用時に調整する。これは、例えば、場合によっては存在する有機酸を中和し、そしていわゆるリザーブアルカリ度(Reservealkalitaet)、すなわち、酸化性のグリコール分解生成物に起因するpH値の低下を防ぐ緩衝能として利用される。
【0028】
熱媒濃厚物における構成成分a)の割合は、好ましくは92〜97重量%、特に、93〜95重量%である。
【0029】
熱媒濃厚物における構成成分b)の割合は、好ましくは2〜7重量%、特に5〜7重量%である。
【0030】
本発明の特に好ましい実施形態の一つは、
a) C〜C−アルキレングリコール、C〜C−ポリアルキレングリコール及びグリセリンから選択される少なくとも一種の凍結防止剤20〜40重量%、
b) 少なくとも一種の腐食防止剤0.2〜3.2重量%、及び
c) 水66.8〜78.8重量%
を含む熱媒流体、及び地表に近い地熱発電プラントにおけるその使用である。
【0031】
好ましい腐食防止剤は、次の式で表される化合物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアミン塩である。
【0032】
【化1】

【0033】
(式中、
は、一つ又は二つのC−Cアルキル基で置換されることができる、分岐状のC−C13−アルキル、又はC−シクロアルキルもしくはC−シクロアルキル、又は6〜13個のC原子を有するポリシクロアルキルであり、
は、水素又はC−C−アルキルであり、及び
は、直鎖状又は分岐鎖状のC−C11−アルキレンである。)
【実施例】
【0034】
規格ASTM D 1384に従って、記載されている添加剤の水性混合物の腐食損失を試験した。地表に近い地熱発電プラントにおける熱媒の使用温度が、通常は−20℃〜+20℃であることから、このASTM D 1384試験を修正して、+50℃の試験温度を使用した(ASTM D 1384によれば+88℃が使用される。)。そのほかの点では、試験条件に変更はなかった。
【0035】
その際、六種の異なる金属を対応する熱媒中へ浸し、そして二週間50℃で、腐食性のイオン(例えば塩化物類)及び酸素の存在下で貯蔵した。それら金属の質量損失に基づいて、腐食防止性を評価することができる。
【0036】
次の腐食防止剤が使用された。
防止剤X:
【0037】
【化2】

【0038】
防止剤A: イソノナン酸
防止剤B: 2−エチルヘキサン酸
防止剤C: セバシン酸
防止剤D: トリエタノールアミン
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
腐食性について次のような結果が得られた。
【0042】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリアゾール不含組成物であって、該組成物が水の他に次の成分、
a) C〜C−アルキレングリコール、C〜C−ポリアルキレングリコール又はグリセリンの少なくとも一種9.2〜49.5重量%、
b) 少なくとも一種の腐食防止剤0.1〜4重量%、
を、
c) 前記組成物が、試験法OECD301Aに準拠して生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”)である、
d) 前記組成物が、試験法OECD311に準拠した少なくとも75%の嫌気性生分解性を有する、
e) 前記腐食防止剤又は使用される腐食防止剤の全部が、OECD301A(水溶性の腐食防止剤に関して)又はOECD301B(水難溶性の腐食防止剤に関して)に準拠して生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”)である、
という条件で含む、地表に近い地熱発電プラントにおける熱媒流体としての、該組成物の使用。
【請求項2】
前記腐食防止剤が、シリケート類、硝酸塩類、安息香酸ナトリウム又はモノカルボン酸の塩、ジカルボン酸の塩及びトリカルボン酸の塩から選択される、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
2〜7重量%の前記腐食防止剤の含有量によって特徴付けられる、請求項1及び/又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記腐食防止剤が、次式で表される化合物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアミン塩である、請求項1〜3のいずれか一つに記載の使用。
【化1】

(式中、
は、一つ又は二つのC−Cアルキル基で置換されることができる、分岐状のC−C13−アルキル、又はC−シクロアルキルもしくはC−シクロアルキル、又は6〜13個のC原子を有するポリシクロアルキルであり、
は、水素又はC−C−アルキルであり、及び
は、直鎖状又は分岐鎖状のC−C11−アルキレンである。)
【請求項5】
pH値が7.0〜11.4である、請求項1〜4のいずれか一つに記載の使用。
【請求項6】
地表に近い地熱発電プラントのための、トリアゾール不含の熱媒流体であって、水及び次の成分、
a) C〜C−アルキレングリコール、C〜C−ポリアルキレングリコール又はグリセリンの少なくとも一種9.2〜49.5重量%、
b) 少なくとも一種の腐食防止剤0.1〜4重量%、
を、
c) 前記熱媒流体が、試験法OECD301Aに準拠して生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”)である、
d) 前記熱媒流体が、試験法OECD311に準拠した少なくとも75%の嫌気性生分解性を有する、
e) 前記腐食防止剤又は使用される腐食防止剤の全部が、OECD301A(水溶性の腐食防止剤に関して)又はOECD301B(水難溶性の腐食防止剤に関して)に準拠して生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”)である、
という条件で含む、上記の熱媒流体。
【請求項7】
a) C〜C−アルキレングリコール、C〜C−ポリアルキレングリコール又はグリセリンから選択される少なくとも一種の凍結防止剤を20〜40重量%、
b) 少なくとも一種の腐食防止剤0.2〜3.2重量%、
c) 水を66.8〜78.8重量%、
を含む、請求項6に記載の熱媒流体。
【請求項8】
熱媒流体を製造するための、トリアゾール不含の熱媒濃厚物であって、次の成分、
a) C〜C−アルキレングリコール、C〜C−ポリアルキレングリコール又はグリセリンの少なくとも一種92.4〜98.9重量%、
b) 少なくとも一種の腐食防止剤1.1〜7.6重量%、
を、
c) 前記熱媒濃厚物が、試験法OECD301Aに準拠して生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”)である、
d) 前記熱媒濃厚物が、試験法OECD311に準拠した少なくとも75%の嫌気性生分解性を有する、
e) 前記腐食防止剤又は使用される腐食防止剤の全部が、OECD301A(水溶性の腐食防止剤に関して)又はOECD301B(水難溶性の腐食防止剤に関して)に準拠して生物学的に良好に分解可能(“すぐに分解可能”)である、
という条件で含む、上記の熱媒濃厚物。

【公表番号】特表2013−521352(P2013−521352A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555321(P2012−555321)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【国際出願番号】PCT/EP2011/000790
【国際公開番号】WO2011/107220
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(398056207)クラリアント・ファイナンス・(ビーブイアイ)・リミテッド (182)