説明

生分解性を低下又は喪失した生分解性ポリマーの生分解性を回復させる方法

【課題】
従来の生分解性材料は、土壌中に埋めると地中の微生物により分解が進行し、また、使用中の生分解性材料が地中の微生物に接触する場合、徐々に生分解が進み、材料の強度が劣化する。
【解決手段】
生分解性材料に親水性モノマーをグラフト重合することにより、生分解性を低下又は喪失させることが出来る。この材料を熱処理することにより、生分解性が発現し、廃棄後、地中の微生物により分解される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然界における微生物などによる生分解可能な高分子表面部分へのグラフトによる表面改質技術に関するものであり、特に、微生物による分解が起こりやすい環境中で使用される、農業用フィルム、バケツ等の成形品、繊維製品などの分野に利用が可能な生分解性高分子の使用後の生分解性の回復に関する方法である。
【背景技術】
【0002】
従来、PET、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリアミドなどの合成プラスチックが、家庭製品、農業用品の原料として使用されているが、これらは化学的に安定であり、使用後自然界中では分解されないため、これらの廃棄処分が環境問題として社会問題化している。そこで、様々な生分解性ポリマーが提案、研究開発され、汎用プラスチックの代替品としてポリ乳酸など様々なプラスチックが製品化され始めている。また、微生物によって作られる脂肪族ポリエステルは、安価な炭素源によって生合成出来、生分解性にすぐれているプラスチックである。
【0003】
生分解性ポリマーの生分解の制御では、その実用化に不可欠であり、二酸化チタンの配合
(特許文献1)、クラックの導入(特許文献2)、紫外線や電子線などの活性エネルギー線照射(特許文献3)、促進物質や抑制物質の添加(特許文献4)による手法が開発されている。
【0004】
また、生分解性の促進では、廃棄時のアルカリ処理剤の添加(特許文献5)、酸化剤の添加(特許文献6)が行われている。更にまた、生分解性の抑制では、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸の添加(特許文献7)が有効である。
【0005】
即ち、特許文献1には、生分解速度が促進されたポリ乳酸系樹脂組成物に、アナターゼ型二酸化チタンもしくはルチル型二酸化チタンが配合されることにより生分解速度が抑制されたポリ乳酸系樹脂組成物が得られることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、ポリ乳酸からなる繊維の外周部よりも内部のアルカリ溶解速度が速い繊維表面に5〜50箇所/10cmのクラックを存在させることにより、生分解性が実用上使用に耐え得る物性を有しながら、生分解の時期を任意にコントロールできる生分解性繊維が記載されている。
【0007】
特許文献3には、生分解性樹脂、生分解性樹脂組成物またはそれらから得られる成形物に活性エネルギー線を照射することにより、生分解性樹脂、生分解性樹脂組成物またはそれらから得られる成形物の分解速度をコントロールすることが記載されている。
【0008】
特許文献4には、生分解性樹脂に生分解速度の促進物質と生分解速度の抑制物質とをそれぞれ所定の混合比で混合することにより、廃棄後の土壌を汚染することなく、生分解速度を用途に応じて安定的に制御可能にすることが記載されている。
【0009】
特許文献5には、使用済みの生分解性フィルムに、アルカリ性処理剤を散布し鋤き込むかもしくは土壌中に埋設すること、またはアルカリ性処理剤を散布し、放置した後鋤き込むかもしくは土壌に埋設することからなる、生分解性フィルムの処理促進方法が記載されている。
【0010】
特許文献6には、ポリアルキレンオキサイド側鎖を有し、フィルム、プラスチックなどの成型材料、吸湿・吸水性材料、水溶性または無溶剤系の塗料、接着剤、インキ等の被膜形成材料、相溶化剤、界面改質剤、顔料分散剤等として使用できる生分解性ポリマーが記載されている。
【0011】
特許文献7には、グリコール類と脂肪族ジカルボン酸もしくはその誘導体から合成された脂肪族ポリエステル又はポリカプロラクトンに、ポリ−3−ヒドロキシ酪酸を混合することにより、グリコール類と脂肪族ジカルボン酸もしくはその誘導体から合成された脂肪族ポリエステル又はポリカプロラクトンの生分解速度を抑制することが記載されている。
【特許文献1】特願2002−234239号(特開2004−75727号公報)
【特許文献2】特願2002−329280(特開2003−213521号公報)
【特許文献3】特願2001−222216(特開2003−34734号公報)
【特許文献4】特願2000−147610(特開2001−323177号公報)
【特許文献5】特願2002−203429(特開2004−41089号公報)
【特許文献6】特願平7−261084(特開平9−104721号公報)
【特許文献7】特願平10−307295(特開2000−129105号公報)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の生分解性材料は、土壌中に埋めると地中の微生物により分解が進行し、また、使用中の生分解性材料が地中の微生物に接触する場合、徐々に生分解が進み、材料の強度が劣化する欠点があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、生分解性材料に親水性モノマーをグラフト重合することにより、生分解性を低下又は喪失させることが出来、又、この生分解性が低下又は喪失した材料を熱処理することにより、生分解性が発現し、廃棄後に地中の微生物により分解されるものへとその生分解性を回復させる方法である。
【発明の効果】
【0014】
生分解性材料は、生分解が進行する条件では分解が進行するが、本材料では熱処理を行うことにより、生分解性を発現させことができる。そのため、生分解性でない材料として、通常は使用可能であり、廃棄時に熱処理を行うことにより生分解性を有するようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
生分解性の速度を制御できなかったが、本発明の方法で作製した材料では、熱刺激により、生分解性が誘起される。そのため、生分解を受けず長期保存や使用可能であり、熱処理により素早く分解可能な材料が創製できる。その熱処理温度は、生分解生材料の種類によりまちまちであるが、約60℃〜230℃の温度範囲において行われる。以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0016】
(実施例1)
ポリー3−ヒドロキシブチレートフィルムへのアクリル酸グラフト
生分解性のポリマーであるポリー3―ヒドロキシブチレート(PHB)を190℃で加熱成型して、厚さ150μmのフィルムを作製した。そのPHBフィルムを、窒素雰囲気中で、電子線を10 kGy照射したのち、窒素置換したアクリル酸モノマー溶液に入れ、40℃で1〜5hグラフト重合反応を行った。反応時間はグラフト反応時間およびアクリル酸の濃度を10〜50%に変えることにより、反応時間により2から25%までのグラフト率のフィルムが得られる。図1には、その反応時間とグラフト率の関係が示されている。
【0017】
アクリル酸をグラフトしたPHBフィルムの酵素による分解性は、36時間後の重量減少から算出した分解率で評価した場合、グラフト率が5%を超えると酵素分解は起こらず、生分解性はグラフト重合により抑制することができる。図2には、グラフト率と分解率との関係が示されている。
【0018】
再度、グラフトしたPHBフィルムを190℃で、5分間プレスして加熱処理を行い、同様に、36時間後の分解率で評価した。その結果、グラフト率が5%で生分解性を示さないPHBフィルムは、グラフト処理をしていないPHBフィルムに比較して、10%程度良好な酵素による分解性が現われた。10%のグラフト率のPHBフィルムではさらに酵素による分解性は向上し、25%のグラフト率のPHBフィルムも生分解性を示した。図3には、グラフトしたPHBフィルムを190℃で加熱処理を行った場合のグラフト率と分解率との関係が示されている。
【0019】
(実施例2)
ポリ乳酸へのアクリル酸グラフト
厚さ150μmのポリ乳酸のフィルムに、実施例1と同様な手順により、アクリル酸のグラフト重合を行った。その結果、グラフト率が5%に達すると生分解性が抑制された。このフィルムを180℃、5分間ホットプレスすることにより、酵素分解性が発現した。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明においては、農業用フィルムなどのこれまで、使用が困難とされてきた分野への生分解性プラスチックの利用、応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ポリ3−ヒドロキシブチレートフィルムへのアクリル酸グラフト率の変化を示した図である。
【図2】アクリル酸表面グラフトポリ3−ヒドロキシブチレートフィルムの酵素分解(36h後)結果を示した図である。
【図3】表面グラフトしたフィルムを熱処理し、グラフト鎖をフィルム全体に混ぜたグラフトフィルムの酵素分解(36h後)結果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリマーに親水性モノマーをグラフト重合させ、そのポリマーの生分解性を低下又は喪失させて使用した後、熱処理してポリマーの生分解性を回復させることにより廃棄後に生分解可能にすることからなる、生分解性を低下又は喪失した生分解性ポリマーの生分解性を回復させる方法。
【請求項2】
生分解性ポリマーが、脂肪族ポリエステル、生分解性セルロース誘導体、ポリペプチド、ポリビニールアルコール又は天然高分子である請求項1記載の方法。
【請求項3】
脂肪族ポリエステルが、ポリプロピレンサクシネート、ポリプロピレンアジペート、ポリプロピレンピメレート、ポリプロピレンズベレート、ポリプロピレンアゼレート、ポリプロピレンマロネート、ポリプロピレンジエチルグルタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンピメレート、ポリエチレンズベレート、ポリエチレンアゼレート、ポリエチレンマロネート、ポリエチレンジエチルグルタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンピメレート、ポリブチレンズベレート、ポリブチレンアゼレート、ポリブチレンマロネート、ポリブチレンジエチルグルタレート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンピメレート、ポリヘキサメチレンズベレート、ポリヘキサメチレンアゼレート、ポリヘキサメチレンマロネート、ポリヘキサメチレンジエチルグルタレート、ポリジエチレンサクシネート、ポリジエチレンアジペート、ポリジエチレンピメレート、ポリジエチレンズベレート、ポリジエチレンアゼレート、ポリジエチレンマロネート、ポリジエチレンジエチルグルタレート、ポリトリエチレンサクシネート、ポリトリエチレンアジペート、ポリトリエチレンピメレート、ポリトリエチレンズベレート、ポリトリエチレンアゼレート、ポリトリエチ レンマロネート、ポリトリエチレンジエチルグルタレート、ポリプロピオネート、ポリピバレート、ポリバリレート、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシピメレート、ポリヒドリキシバリレート、ポリヒドロキシプロピオネート、ポリグリコリド、ポリ乳酸、又はこれらを共重合させたものである請求項2記載の方法。
【請求項4】
生分解性セルロース誘導体が、硝酸セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースである請求項2記載の方法。
【請求項5】
天然高分子が、デンプン、セルロース、紙、パルプ、綿、麻、毛、絹、皮革、カラギーナン、又はキチン・キトサン質である請求項2記載の方法。
【請求項6】
親水性モノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、アクリルアミド及びアクリルアミド誘導体又は酢酸ビニル(重合後鹸化反応によりビニルアルコール)である請求項1記載の方法。
【請求項7】
アクリルアミド誘導体が、アクロイルモホリン、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメリルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドである請求項5記載の方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−225427(P2006−225427A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−37636(P2005−37636)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】