説明

生分解性アマモ苗床シートおよびアマモ場の修復・造成・保全方法

【課題】アマモ藻場の修復・造成・保全を容易に且つ確実に行うことができる生分解性アマモ苗床シートを提供する。
【解決手段】ポリ乳酸繊維80%と竹繊維20%から成る混紡繊維をサーマルボンディンで厚さ40mmのシートにし、神奈川県逗子市小坪海岸の沖合水深1.5mの天然アマモ藻場から採取したアマモの種子50粒を播種し、最低水温20℃の海水を掛けながして水槽で培養・育成し、移植サイズとなる15〜20cmまで生育させ、移植サイズとなった苗が1,500〜1,600本/m2となったものをアマモ苗床シートとして所定の大きさに裁断して、前記浅海域のシルトおよび泥土から成る海底の不陸に合わせて敷設し、竹串で固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生分解性アマモ苗床シートおよび生分解性アマモ苗床シートを使用したアマモ場の修復・造成・保全方法に関する。より詳細には、本発明は、生分解性繊維製のシートに、アマモの種子を播種し、陸上で一定期間培養・育成し、内湾浅海域の海底に移植可能なサイズに成長させた強健なアマモ実生苗と生分解性シートとから成る生分解性アマモ苗床シートおよびこのような生分解性アマモ苗床シートを使用したアマモ場の修復・造成・保全方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アマモ(Zostera marina L.)群落は、日本の沿岸の湾奥の潮間帯下部から低潮線下2〜3mの範囲の海水中に群生する沈水性の、雌雄同株の多年草である。アマモ群の組成はアマモ1種が優先する。底質は泥土や細砂が厚く堆積する。アマモ群集は、いわゆる藻場の主要な海草(水生植物)である。種子や根茎で越冬。水深10メートルぐらいまで生育することができる。根茎は太くて堅く扁平形、長径5〜8cm、短径3〜5cm。海底下数センチの砂泥中を縦横に匍匐する。アマモは春3〜5月に成長し、秋期減退する。種子は夏休眠する。種子は米粒状で長さ3〜5mm、無胚乳種子で、胚軸が貯蔵組織になり、デンプンやタンパク質を多量に含む。染色体数2n=12。別名モシオグサ(藻塩草)、リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ(竜宮の乙姫の元結の切り外し)、モバ、ハマユウがある(出典:大滝末尾他著北隆館刊行「日本水生植物図鑑」、宮脇昭他著至文堂刊行「日本植物群落図説」、牧野富太郎著北隆館刊行「改訂新日本植物図鑑」、中山至大他著東北大学出版局刊行「日本植物種子図鑑」から抜粋)。
【0003】
コアマモ(Zostera japonica Aschers.et Graebn)は、日本の沿岸の湾奥の潮間帯下部から低潮線下5cm〜2mの範囲の海水中に群生する沈水性雌雄同株の多年草である。コアマモ群集の組成はコアマオ1種が優先する。アマモ群集よりも浅い海水中に成立し、底質は細砂が厚く堆積する。アマモ同様、藻場の主要な海草(水生植物)である。種子や根茎で越冬。根茎は細くて堅い。径1〜2.5mm、海底下数センチの細砂中を縦横に匍匐する。花期は3〜6月、最盛期は5〜7月。種子は長さ1.9±0.1mm、幅0.8±0.0mm、厚さ0.8±0.0mm無胚乳種子で、胚軸が貯蔵組織になり、デンプンやタンパク質を多量に含む。染色体数2n=12。近似種にオオアマモ(Z. asiatica Miki)、タチアマモ(Z. caulescens Miki)がある。別名にニラモク、モクがある(出典:同前)。
【0004】
エビアマモ(Phyllospadix japonicus Makino)は、本州の茨城県と新潟県を結ぶ以西から北九州の沿岸までの岩礁地帯で、水深が1〜10mの水域に群生する沈水性の多年草である。温帯性の海草で根茎で越冬。根茎は太くて短く径約2〜3cm。花期は3〜4月、雌雄同株。種子は長さ約3.5mm、無胚乳種子で、胚軸が貯蔵組織になり、デンプンやタンパク質を多量に含む。染色体数2n=20。近似種にスガモ(P. iwatensis Makino)がある。別名にハイスガモ、コモグサ、マクサ、ウミスゲ等がある(出典:同前)。
【0005】
従って、本発明で使用する用語「アマモ」は、アマモ(学名Zostera marina L.)、スゲアマモ(学名Zostera caespitosa)、コアマモ(学名Zostera japonoca Aschers. et Graebn.)、およびタチアマモ(学名Zostera caulescens Miki)を含むアマモ属(学名Zostera L.)、およびスガモ(学名Phyllospadix iwatensis Makino)およびエビアマモ(学名Phyllospadix japonicus Makino)を含むスガモ属(学名Phyllospadix Hook)を主として包含する総称として使用する。なお、分類によっては、リュウキュウアマモやエビアマモをいとくずも科に分類していることもある。また、古来我が国で使用されてきたアジモ、モシオグサ(藻塩草)、リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ(竜宮の乙姫の元結の切り外し)、モバ、ハマユウ、コモグサ、マクサ、ウミスゲ等はそれらの和名(俗用)である。
【0006】
アマモは胞子で殖える藻類ではなく、種子植物である。春先に草体の一部が花枝に変化して種子を形成する。種子の長さ1.9±0.1mm、幅0.8±0.0mm、厚さ0.8±0.0mm、重さ50個36mg、種子は長楕円体、基部は切形、種皮は細い縦線条が並列している。種子は冬に発芽し、冬から春にかけて成長が盛んになり、枝分かれを繰り返す。春から夏にかけて繁茂、成熟し、枯死して海底に堆積するか、流出し、秋になると草丈の短い草体のみとなる。繁殖方法には2通りがあり、種子によって殖える(実生株)方法と、地下茎を分岐・伸張して新しい株を出す(栄養株)方法である。夏季の高水温など何等かの制限要因がある海域では栄養株は見られず、1年で寿命を終える。
【0007】
我が国本来の海岸は、河口→クリーク→泥干潟→葦原→タイドプール→松林→砂浜へと続く河口から1km位までの河口湿地帯、さらに1.5km程度までの干潟、アマモ場、沖合内湾の一連から構成され、それが内湾に豊かな生態系をもたらしていた。
【0008】
アマモは砂浜から約1.6km、水深5cm〜10mの浅海域海底に群生する。アマモ場は、内湾浅海域の生態系と密接な関係がある。干潟と比べた場合の内湾浅海域の特徴は、干潟の生物が、主としてゴカイ、コメツキガニ、ウミニナ、ムロミスナウミナナフシ等小さな動物であるのに比べて、内湾浅海域の特徴は、魚類、アサリ、ハマグリ、カニ、エビなどの比較的大型の動物が生態系の主役となっていることである。魚類、アサリ、ハマグリ、カニ、エビなどの生活を支えているのは、内湾の豊富な栄養塩類を基盤とする植物プランクトンや海藻による盛んな一次生産力である。また、内湾を取り巻く海岸域には、魚類、アサリ、ハマグリ、カニ、エビなどの幼若期の生活場となり、成長してからは満潮時の餌場となる湿地や干潟が存在している。
【0009】
干潟による海水浄化作用は周辺浅海部の海水透明度を増加させ、アマモの密生するアマモ場(seagrass bed)を形成する。このアマモ場(seagrass bed)はさまざまな動物の生活場となり、浅海部の生物の多様性と生産力を増加する能力がある。さらには、内湾浅海部は湿地、干潟、および内湾に生息する動物のプランクトン幼生期の生育場としても重要である。このように、湿地、干潟、アマモ場、および沖合内湾の一連の存在が、内湾に豊かな生態系をもたらしており、これらが自然本来の内湾構造である。内湾動物が成長とともにこれらの海域を移動することによって有効に利用し、それが豊かな内湾水産資源のもとになっているのである。
【0010】
アマモの生育には水質や砂泥質の底質が清浄であること、消波ブロック、コンクリート岸壁等人工構造物によって海岸線や浅海域が攪乱されていないことなどが要求されるため、海岸、特に内湾浅海域の環境指標の一つとされている。
【0011】
しかしながら、我が国の内湾をとりまく臨海地のほとんどは都会化が進み、戦後の高度経済成長を経て、沿岸浅海部の大規模は埋め立てにともない、アマモ場もその面積が大幅に減少してきている。このことにより従来アマモ場が担ってきた前述の環境浄化機能が失われ、水産資源の維持や環境保全上深刻な問題が発生している。たとえば、東京湾に限っても、貝類、海苔(養殖)、藻類、魚類、その他の水産動物を総計した総漁獲量が、1955年度約10万トン超あったものが、1990年度には、6万トン以下に低下している。
【0012】
このように、我が国の河口湿地や干潟は、干拓や埋め立てにより生態系の基盤である空間そのものが壊滅的に消失し、僅かに残されている所もさまざまな開発が計画されている。特に、東京湾、伊勢・三河湾、大阪湾のように貧酸素水塊形成や底質の還元化を伴う人為的富栄養化が顕著な海域では、内湾浅海域の広範囲での環境悪化が著しい。
【0013】
このために、近年、全国的にアマモ場を修復・造成・保全を目的とし、各種の研究機関、企業、特定非営利活動法人等が様々な提案を行っている。このアマモ場を修復・造成・保全には、次に述べるような条件を満たす事が必要である。
(1)アマモの種子を単に海に播種する、いわゆる「播種法」は、アマモ場として成立しにくい。これは潮流による種子の流出や播種した環境が発芽や育成に適さないため、発芽が安定しないことが原因と考えられる。
(2)アマモの種子を生育基盤材と一緒に袋に詰めて、海底に設置する方法の場合も(1)と同様の理由から、アマモ種子の発芽率や育成にバラツキがあり、結果の安定性に欠ける。
(3)既存藻場から栄養株を採取して海底に移植する方法、いわゆる「移植法」の場合は、苗の大量確保により既存藻場を傷める懸念があり、移植作業にも時間とコストが掛かる。
(4)アマモ実生苗の移植では波浪や潮流による洗掘により、栄養株移植よりもさらに移植直後に苗が流出しやすい。
(5)アマモ場は、砂浜から約1.5km、水深5cm〜10m程度の内湾浅海域である。この内湾浅海域は、遊泳、スキューバダイビング等マリーンスポーツ、魚介類の漁場と重なっている。従って、アマモ場の修復・造成・保全に使用する資材等が人身に危害を及ぼすようなものであってはならない。
(6)アマモ場の修復・造成・保全に使用する資材等が、内湾浅海域中で長期間形状を維持し、海洋環境、或いは海洋・海中景観を悪化ささるようなものであってはならない。
【0014】
このような観点から従来技術の幾つかを考察する。
【0015】
特許文献1は、概略、多孔質天然素材と、海底土壌と、石膏(硫酸カルシウム2水塩)から成る結合材を混合した人工土壌を、分割した小型パレットの各空間に充填し海水を含ませ、アマモの種子を植え付け、硫酸カルシウムと海水を反応させアマモの種子を植え付けた人工土壌を塊状に結合させた後、パレットを海水中に設置し、水温を変化させてアマモの種子を育成し、発根および発芽させ、アマモの葉および根が生育したところで、船上から人工土壌を海底へ投入する海草類および海藻類の生育方法を記載している。
【0016】
この従来法の場合、人工土壌を形成する石膏が海水と固化体を形成することを利用しているが、この固化体自体が海中での異物となり、アマモ場の浄化、保全、修復という思想とは二律背反する要素を含んでいる。また、アマモは水深2〜6m、コアマモは水深1〜2m、エビアマモは水深1〜10mの干潮線下の人が遊泳或いは魚介類等を採取作業をする浅海域に群生するので、半永久的な構造物があることは危険でもある。
【0017】
特許文献2は、概略、海産種子植物種子と浚渫土とを含む粘性土と、石膏を主体とした固化体と、水溶性ポリマーとを混合した比重が種子の比重である約1.3以上である約2.3の粒状化物を海域に投入することを要旨とする海産種子植物育成材料、海産種子植物育成材料の製造方法及び海産種子植物育成場の造成方法を開示している。
【0018】
この従来法の場合、海産種子植物種子を埋入した海産種子植物育成材料の比重が約2.3であるから理論上は、海域投入後流失しないで、一時的には海底に滞留している。しかしながら、波浪や海底の潮流等により一カ所に安定して育成さず、育成にバラツキがある。従って、アマモ場の計画的浄化、保全、修復が不可能である。
【0019】
特許文献3は、概略、重金属等の有害物質に汚染された沿岸海域にアマモの種子を播種またはアマモを移植してアマモ場を形成する沿岸海域の浄化方法を記載している。
【0020】
この従来法のように、アマモの種子を単に海に播種しただけでは、潮流による種子の流出や播種した環境が発芽や育成に適さないため、発芽が安定しないのでアマモ場として成立しにくく、あるいはアマモの既存藻場からアマモを採取して海底に移植する場合は、苗の大量確保により既存藻場を傷める懸念があり、移植作業にも時間とコストが掛かる。
【0021】
特許文献4は、概略、アマモの種子と、水砕スラグと、重りを麻袋に収納し、開口部を麻紐で閉じた海中植物の育成媒体を記載している。
【0022】
この従来法の場合も、アマモの種子を単に海に播種する方法と大差なく、潮流による種子の流出や播種した環境が発芽や育成に適さないため、発芽が安定しないのでアマモ場として成立しにくく、且つ、水砕スラグは、長期の間に水和硬化するので、海底環境にとって好ましくない。
【0023】
特許文献5は、特許文献4の従来法と同じ欠点を有している。
【0024】
特許文献6は、概略、廃ガラス等のアルカリシリカ反応性鉱物を、骨材、および結合材から成る自己崩壊型ポーラスコンクリートブッロクを使用したアマモの藻場造成を記載している。
【0025】
この従来法の場合、アマモの種子が着床し、育成されるには、あまりにも不確定要素が多く、確実性に欠ける。また、アマモ、コアマモ、エビアマモ等アマモ類が群生する水深1〜10mは、人が遊泳或いは魚介類等を採取作業をする浅海域である。その浅海域に、このポーラスコンクリートブッロクを設置した場合、人体に危険がないほどの大きさに完全に自己崩壊するまでには長期間かかり、その間半永久的な構造物として存在することは危険である。
【0026】
特許文献7は、崩壊製ブロックにアマモの苗を移植するアマモの植え付け方法を記載している。
【0027】
この従来法も、特許文献6と同じ欠点を有している。
【0028】
特許文献8は、概略、保水性モルタルまたはコンクリートを部分的に結着させ多数の空洞を成形体中に分散形成してなる多空洞ブロックと、この多空洞ブロクの空洞部に装填された砂泥分とからなるアマモ類などの植栽用基盤を記載している。
【0029】
この従来法の場合も、特許文献6の従来法と同じ欠点、即ち、水深1〜10mの人が遊泳或いは魚介類等を採取作業をする浅海域に、このモルタルまたはコンクリート製植栽用基盤を設置した場合、人体に危険であるという欠点の他に、長期間経過すると表面に各種の原生動物、フジツボ等貝類が着床してアマモが育成する条件が低下する欠点がある。
【0030】
特許文献9は、概略、炭素繊維編物又は炭素繊維不織布から成る炭素シートに保持したアマモ種子とからなるアマモ育苗用炭素繊維シート、又は炭素繊維マット又は炭素繊維不織布の炭素繊維にアマモ苗の根を絡ませて固定されたアマモ苗から成るアマモ苗固定炭素繊維シートを記載している。
【0031】
この従来法で使用している炭素繊維は、耐腐食性、寸法安定性、化学安定性、強度、剛性、疲労強度、耐磨耗製、湿潤性等各種物性に優れているが、それを海中設置材に使用するとなると、逆効果となる。即ち、ほぼ半永久的に海中に残存し、或いは浮遊することになり、海洋環境を悪化させることとなる。
【0032】
特許文献10は、生分解性のポットに砂泥を入れ、その砂泥にアマモの苗を植えて、育成し苗床とする一方、移植しようとする砂地の移植場の表面を石等で被覆して、育成したアマモの苗を生分解性のポットごと移植場の穴に移植するアマモ場の造成方法を記載している。
【0033】
この従来法において、既存藻場から栄養株を採取して海底に移植する場合は、苗の大量確保により既存藻場を傷める懸念があり、移植作業にも時間とコストが掛かる。さらに、生分解性のポットが海中で分解するまでは、アマモの根茎が成長してもポットの外へ出ることができない。従って、根茎が、海底下数センチの砂泥中を縦横に匍匐することにより強固に根付くべきアマモの成長、育成が著しく抑制される。また、海底に穴を空け移植場を作り、その表面を石等で被覆するので、本来アマモの群生場となる浅海域の海底を破壊することになる。
【0034】
特許文献11は、概略、生分解性樹脂製シート部材に、アマモの種子を所定の播種密度となるように固着させて、アマモ場を造成すべき海底に敷設装置を用いて敷設することから成る播種シートおよび播種方法を記載している。
【0035】
この従来法の場合、生分解性樹脂製シート部材に、アマモの種子を播種して、アマモ場を造成すべき海底に敷設するので、アマモの種子が発芽して、確実な活着が期待される葉長15〜20cmに成長する前に、生分解性樹脂製シート部材が海水により膨潤し、分解する恐れがあり、アマモ場の育成に不安定要素が残る。
【0036】
特許文献12は、概略、ヤシマットの上にリュウキュウスガモの種子を配置すると共に、種子の上に生分解性の被覆ネットを配置し、被覆ネットとヤシマットを連結部材で固結して、両者により種子を挟持した海草増殖基盤を海底に敷設することを含む方法を記載している。
【0037】
この従来法の場合も、特許文献11と同じような欠点がある。
【0038】
特許文献13は、概略、ヤシガラマットやヤシ繊維製の植生マットで製造した顕花植物生育場造成用シートに、ヤシガラマットやヤシ繊維製の植生マットで製造したポットをシート面に設け、ポット内にアマモ種子と浚渫土とを含む粘性土と石膏系固化剤と水溶性ポリマーとを混合して粒状化したものを入れて、海底に敷設するための顕花植物生育場造成用シートを開示している。
【0039】
この従来法の場合、ヤシガラマットやヤシ繊維製の植生マットで製造したポット内で成長したアマモの根茎が、海底下数センチの砂泥中を縦横に匍匐して強固に根付くまでに、ポットとシートの両方を貫通しなければならないので、アマモ場が造成するまでの海中での管理に負担が掛かる。
【0040】
特許文献14は、概略、生分解性のポリ乳酸製繊維からなる平織り織布を縫製加工した箱状の容器を家庭に配布し、家庭で、容器に砂を入れ、アマモの種子を播き、その上を砂で覆土し海水を入れて蓋をして、アマモを育苗してから、家庭から回収して海底に掘った穴に容器ごと埋設することを含むアマモ苗育成用兼アマモ場造成用容器およびその使用方法を開示している。
【0041】
この従来法の場合、アマモ場となる浅海域の海底に相当数の竪穴を空けることになり、アマモ場育成用資材を海底に平面設置する方法に比べて、海底環境を悪化させる。また、アマモの種子の育苗には、難しい温度管理、水質管理等が必要であり、一般の家庭で簡単に反復再現性をもってできる作業ではない。
【特許文献1】特開2005−87068号公報
【特許文献2】特開2005−95142号公報
【特許文献3】特開2004−290802号公報
【特許文献4】特開2005−348625号公報
【特許文献5】特開2004−236545号公報
【特許文献6】特開2002−291359号公報
【特許文献7】特開2003−88260号公報
【特許文献8】特開2004−267086号公報
【特許文献9】特開2004−73109号公報
【特許文献10】特開2003−111530号公報
【特許文献11】特開平10−42626号公報
【特許文献12】特開2005−348696号公報
【特許文献13】特開2005−261289号公報
【特許文献14】特開2006−115707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0042】
上述した特許文献に記載されている従来技術は、いずれも、前述したアマモ場を修復・造成・保全に要求される諸条件を満たすものではない。
【0043】
従って、発明が解決しようとする課題は、上記従来技術の欠点を改良し、確実且つ容易にアマモ場の修復・造成・保全に資する方法を確立することである。
【0044】
発明が解決しようとする別の課題は、上記従来技術の欠点を改良し、アマモ場となる内湾浅海域の海洋環境を悪化させることなく、遊泳、スキューバダイビング等マリーンスポーツ、魚介類の採集に障害となる資材を使用せずに、確実且つ容易にアマモ場の修復・造成・保全に資する方法を提供することである。
【0045】
発明が解決しようとするさらに別の課題は、生分解性シートにアマモの種子を播種し、陸上における模擬海中で一定期間培養・育成した強健なアマモ実生苗を生分解性シートと共に海底に移植でき、移動可能で商取引の対象と成り得るアマモ苗床として提供し、アマモ場の修復・造成・保全を確実且つ容易に行う方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0046】
本発明によると、上記課題は次のようにして解決される。
(1)生分解性シートにアマモの種子を播種し、陸上における模擬海中で一定期間培養・育成し、内湾浅海域の海底に移植可能なサイズに成長させたアマモ実生苗と生分解性シートとから成る生分解性アマモ苗床シートの発明とする。
【0047】
(2)上記(1)において、移植サイズが5〜30cmである。
【0048】
(3)上記(1)において、生分解性シートが、太さが1〜30デシテックス、長さが20〜80mmの生分解性繊維をランダムに交絡させて形成した厚さが5mm〜40mm、空隙率が90%以上である生分解性シートである。
【0049】
(4)上記(3)において、生分解性繊維が、エステル、カーボネート、エーテル、アミド、ウレタン等の酸素原子を含む加水分解性基を有し、構成単位が炭素原子数6以下の脂肪族系で含酸素量が多く、O/C比が0.3〜1.0の範囲である。
【0050】
(5)上記(4)において、生分解性繊維が、ポリL−乳酸、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(ε−カプロラクタム)、およびポリブチレンサクシネートから成る群から選択された少なくとも1種である。
【0051】
(6)上記(1)〜(5)のいずれか1項において、生分解性モシートが、生分解性繊維と天然繊維を混紡したものである。
【0052】
(7)上記(6)において、天然繊維が、綿花、ボンバックス綿、カポック等種子毛繊維、麻、亜麻、黄麻、ラミー、コウゾ、ミツマタ等ジン皮繊維、マニラ麻、ニュージランド麻等葉繊維、針葉樹、広葉樹、および竹の繊維から成る群から選択された少なくとも1種である。
【0053】
(8)上記(6)において、生分解性繊維に対する天然繊維の混紡比が5〜30質量%である。
【0054】
(9)上記(1)に記載した生分解性アマモ苗床シートを、水深5cm〜10m程度の内湾浅海域のアマモ場の修復・造成・保全を行う海底の表面の形状に追随させて敷設し、天然材料の留め具で固定することを含むアマモ場の修復・造成・保全方法の発明とする。
【発明の効果】
【0055】
請求項1記載の発明により、下記の効果を得ることができる。
1.生分解性繊維製シートに、一定のサイズに成長したアマモの実生苗が育成されているので、それ自体が、生分解性アマモ苗床シートとして移動可能で商取引の対象になる。
【0056】
2.生分解性繊維製シートに、一定のサイズに成長したアマモの実生苗が育成されているので、それ自体を、アマモ場の修復・造成・保全の対象になる内湾浅海域の海底に敷設すれば、アマモの苗が潮流等で流失することもなく確実に成長する。
【0057】
3.アマモ苗床シートの基材が生分解性繊維製シートなので、時間の経過とともに海中で分解し、海中環境を悪化させたり、海洋の景観を悪化させない。
【0058】
4.生分解性アマモ苗床シート全体が平面で柔軟性に富んでいて剛体部分がないので、砂浜から約1.5km、水深1〜10m程度の内湾浅海域で、遊泳、スキューバダイビング等マリーンスポーツ、魚介類の漁場と重なっているアマモ場に敷設しても、人身に危害を及ぼすことがない。
【0059】
請求項2に記載した発明により、アマモ苗が長さ5〜30cmにまで予め成長させてあるので、内湾浅海域の海底に移植しても、確実に成長を続けることができる。
【0060】
請求項3に記載した発明により、下記の効果を得ることができる。
1.太さが1〜30デシデックス、長さが20〜80mmの生分解性繊維をランダムに交絡させて形成した、厚さが5mm〜40mm、空隙率が90%以上のシートとしたので、シート内部空隙部を面方向に、アマモの根茎の成長に必用な新鮮な海水が絶えず層流として流れる。
【0061】
2.シートが水や海底と接触する比表面積が大きくなり、海底面の不陸に対する追随性が良好で、シートの下面が、海底の砂泥粒子によく絡まり、シート−海底の砂泥の一体・密着度が大きくなる。
【0062】
請求項4に記載した発明により、加水分解反応が、環境中では酵素により触媒され促進される他に酵素酸化され、分解中間物が生物の代謝経路で分解される幅広い脂肪族生分解性繊維の中から、諸条件に応じて選択することができる。
【0063】
請求項5に記載した発明によると、ポリL−乳酸、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(ε−カオプロラクタム)、ポリブチレンサクシネート、およびそれらの混合物から成る群から本発明で好ましい生分解性繊維を選択することができる。
【0064】
請求項6に記載した発明によると、生分解性繊維と天然繊維を混紡したので、生分解性繊維の欠点である柔軟性に欠け、海底面への追随性が不十分な欠点が、天然繊維で改良され、一方、天然繊維の欠点である高吸湿性により、繊維同士が接着し、ウェブ層の抵抗が大きくなり、アマモの根茎の貫通阻害が、生分解性繊維により改良される。
【0065】
請求項7に記載した発明によると、広範囲の天然繊維から、海底面の状態、潮流、コスト、使用期間等使用態様により選択される。
【0066】
請求項8に記載した発明によると、生分解性繊維に対する天然繊維の混紡比が5〜30質量%であるので、海水による繊維の湿潤による絡みの増大に伴うアマモの根茎の成長が阻害されず、シート全体に柔軟性が付与され海底への密着性が得られる。
【0067】
請求項9に記載した発明によると、下記の効果を得ることができる。
1.アマモの種子の播種および培養・育成は、陸上における模擬海中で行うので、作業環境が良好で、アマモの成長状態を目視により絶えず観察することができる。
【0068】
2.アマモが、強健な苗に成長したら、基材の生分解性シートと一体となった苗床としてアマモ場の修復・造成・保全を行う海底の表面の形状に追随させて敷設し、木、竹等天然材料の留め具で固定するだけでいいので、その後の保守管理が不要であり、ランニングコストが不要である。
【0069】
3.生分解性アマモ苗床シートの基材となる生分解性シートに大面積のシートを使用し、移植する内湾浅海域の海底の面積に合わせて裁断して敷設することもでき、作業効率が向上し、作業計画の幅、多様性が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0070】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0071】
本発明はアマモ苗床シートの基材として生分解性シートを使用することを特徴の一つとするので、以下生分解性シートに関して説明する。従来、生分解性素材として、各種セルロース繊維が使用されてきた。天然セルロース繊維としては、綿花、ボンバックス綿、カポック等種子毛繊維、麻、亜麻、黄麻、ラミー、コウゾ、ミツマタ等ジン皮繊維、マニラ麻、ニュージランド麻等葉繊維、針葉樹、広葉樹の繊維等木材繊維が例示される。また、人造セルロース繊維としては、ビスコース人絹絹糸、銅アンミニヤレーヨン、フォルチザン、硝酸人絹等再生セルロース繊維、アセテート人絹等半合成繊維が例示される。
【0072】
セルロース繊維は、グルコースがβー1.4−グルコシドと結合した多糖類で、繰り返し単位中に多くの親水基を有し、吸湿性が高い。従って、海水により、繊維同士が接着し、ウェブ層の抵抗が大きくなり植物の貫通阻害となることがある。従って、セルロース系繊維で製造したアマモ苗床シートを、単独使用する場合は、使用期間、使用箇所、使用目的等使用態様によって、適宜選択することが要求される。
【0073】
その他、本発明で使用に適する生分解性プラスチックを構成している結合と、O/C比を表1にまとめた。
【0074】
【表1】

【0075】
生分解性プラスチックは、自然環境に多量に存在している水と反応して、切断される、いわゆる加水分解機構を利用するものが多い。この加水分解反応は、環境中では酵素により触媒され促進される。また、酵素による加水分解の他に酵素酸化されるものが考えられる。加水分解されやすい結合としては、エステル、カーボネート、エーテル、アミド、ウレタン等の酸素原子を含む結合が利用されている。また、分解中間物が生物の代謝経路で分解されるためには、脂肪族系の物質が好ましく、さらには、構成単位が炭素数6以下の含酸素量の多いプラスチックが、酸化を受けやすいので、好ましい。そのために、O/C比が0.3〜1.0の範囲が好ましい。
【0076】
従って、本発明で好ましく使用される生分解性プラスチックは、エステル、カーボネート、エーテル、アミド、ウレタン等の酸素原子を含む加水分解性基を有し、構成単位が炭素原子数6以下の脂肪族系で含酸素量の多く、O/C比が0.3〜1.0の範囲のプラスチックが好ましい。
【0077】
低分子脂肪族化合物は、一般に代謝されやすく、分解中間物の分解性がよく、容易に炭酸ガスと水になる。このように、低分子脂肪族化合物を構成成分とし、酸素分子を結合中に含む含酸素量の多いプラスチックは、本質的に生分解性である。従って、本発明で好ましく使用される生分解性プラスチックは、低分子脂肪族化合物を構成成分とし、酸素分子を結合中に含む含酸素量の多いプラスチックである。
【0078】
脂肪族ポリエステルは、その構成分子により物性が大きく異なる。表2に代表的な脂肪族ポリエステルの熱および機械的物性を示す。
【0079】
【表2】

【0080】
一般的に脂肪族ポリエステルは、融点が低いが、この原因として、エステル結合は、極性が低く、また側鎖に官能基を持たないために分子間相互作用が弱いことが考えられる。しかし、表2に示したPCL, PBS, PHB/V, PLLAは、常温より融点が高い。ここに示した脂肪族ポリエステルは、耐水性および成形性が高く、実用性が高い。特に、PLLA(ポリL−乳酸)のみがガラス転移点が室温以上で、室温でガラス状態なので、他のプラスチックと比較して、強度、透明性が高い。他の脂肪族ポリエステルが、ポリエチレン、ポリプロピレン等に類似した物性を示すのに対し、PLLAは、ポリスチレンやポリエチレンテレフタレート(PET)等の物性に近い。この点からも、PLLAは、生分解性アマモ苗床シートのように幅広い物性が要求される用途にとって、重要な生分解性プラスチックである。
【0081】
従って、本発明で好ましい生分解性プラスチックの具体的な例は、ポリL−乳酸、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(ε−カプロラクタム)、ポリブチレンサクシネートであり、中でもポリL−乳酸が最も好ましい。
【0082】
次に、PLLAの基本物性を、他のプラスチックと比較して、表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
表3から明らかなように、PLLAは、ポリエチレン(LDPE、HDPE)およびポリプロピレン(PP)に比べ、引っ張り、曲げともに、強度、弾性率が高く、伸びの小さな材料であり、ポリスチレン(PS)様の物性でることがわかる。しかし、耐衝撃強度が低く、軟化点も60℃と比較的低い。これらの欠点を改善する方法として延伸加工がある。PLLAは結晶性が高く、延伸による配向結晶化が可能である。配向結晶化したPLLAは、透明性を保持し、軟化点が融点付近となり、強度も未延伸の場合と比較して、約3倍程度増加する。
【0085】
次にPLLAの繊維加工性に付いて説明する。PLLAは、高速溶融紡糸が可能であり、フィラメント(マルチおよびモノフィラメント)、ステイプルおよびその成型品がすでに製造されている。PLLA繊維の引っ張り強度は、5g/d程度であり、PET、ナイロン等の合成繊維並の強度があり、耐熱性にも優れている。また、PLLA繊維は、従来のポリエステル繊維と比較して、弾性率が低く、しなやかな風合いがある。これは、分子鎖中に芳香族成分を含まないためである。従って、通常の繊維と同様、染色、紡績糸、織布、不織布等への加工ができる。特に、不織布に関しては、農業および土木資材分野等の応用が期待されている。土中および水中では、数ケ月程度で強度低下が観測され、レーヨン等の天然繊維に比べ緩やかな分解挙動を示す。このようにポリ乳酸繊維は、合成繊維の紡糸性・加工性と天然繊維の生分解性を併せもった繊維である。このような点から、本発明で最も好ましく使用される生分解性繊維は、ポリ乳酸繊維である。
【0086】
次にPLLAの海水中での加水分解について説明する。PLLAを構成しているエステル結合は、加水分解反応により切断されるが、水中での加水分解はpH7.0,37℃では、30日間で数%以内の分子量および質量が減少する。温度が高くなるにつれて、加水分解反応が進行し、分子量が10%以下になる。
【0087】
以上の結果から、結論として、下記のことが言える。
本発明で好ましく使用される生分解性プラスチックは、低分子脂肪族化合物を構成成分とし、酸素分子を結合中に含む含酸素量の多いプラスチックである。
【0088】
本発明で使用するのにより好ましい生分解性プラスチックは、エステル、カーボネート、エーテル、アミド、ウレタン等の酸素原子を含む加水分解性基を有し、構成単位が炭素原子数6以下の脂肪族系で含酸素量が多く、O/C比が0.3〜1.0の範囲のものである。
【0089】
本発明で使用するのにさらに好ましい生分解性プラスチックの具体例は、ポリL−乳酸、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(ε−カプロラクタム)、ポリブチレンサクシネートである。
【0090】
本発明で使用するのに最も好ましい生分解性プラスチックの具体例は、ポリL−乳酸である。
【0091】
本発明は、生分解性繊維を単独で使用することを基本発明とする。しかしながら、生分解性繊維は、柔軟性に欠け、内湾浅海域の海底面との密着性の面で不十分であり、更に、融点が170℃とポリエステル繊維の255℃に比べて低いため、繊維混紡時の製造条件幅が狭い等単独使用では難しいという間題がある。
【0092】
従って、本発明の別の態様では、生分解性繊維と天然繊維との混紡繊維とすることが好ましい。そのことにより、天然繊維の親水性の特徴を活用し、成形加工性を向上させ、柔軟性があり、内湾浅海域の海底面との密着性のよいアマモ苗床シートが成形され、かつ製造コストを低減できる。
【0093】
本発明で使用される天然繊維としては、綿花、ボンバックス綿、カポック等種子毛繊維、麻、亜麻、黄麻、ラミー、コウゾ、ミツマタ等ジン皮繊維、マニラ麻、ニュージランド麻等葉繊維、針葉樹、広葉樹の繊維、竹繊維等が例示される。
【0094】
本発明の生分解性アマモ苗床シートは、生分解性繊維単独又は天然繊維との混紡繊維をランダムに絡み合わせて形成したシートであって、該繊維として、太さが1〜30デシデックス、長さが20〜80mmであり、柔軟性を有し厚みが5mm〜40mm、空隙率が90%以上で、内部空間が、面方向の海水導水路を形成していることを特徴とする。
【0095】
この際、天然繊維の混紡比は5〜30wt%が望ましく、更に10〜20wt%が好ましい。天然繊維の混紡比が30wt%を超えると、目的とする侵食防止機能は得られず、更に繊維の湿潤による絡みの増大に伴うアマモの根茎の伸張阻害の要因となる。又、混紡比が5wt%未満の場合には、シート状体の柔軟性付与による海底面での密着性が得られない。
【0096】
本発明は、生分解性繊維製の織布、不織布または織物から成るシートに、アマモの種子を播種し、水槽における陸上模擬海中で一定期間培養・育成し、内湾浅海域の海底に移植可能な、強健なアマモ実生苗を育成することを要旨とするものである。以下、アマモの陸上における播種、育成条件に関して説明する。
【0097】
本明細書において、「水槽における陸上模擬海中」とは、生分解性繊維製の織布、不織布または織物から成るシートを水槽に敷き、アマモの種子を播種し、海水を絶えず微流状態で掛け流すようにした水槽を意味する。
【0098】
本発明を実施するに際しては、アマモの種子を生分解性繊維製の織布、不織布または織物から成るシートに播種するときの播種深度と出芽の関係が重要である。アマモの種子は、ウェントワースの粒径区分φスケ−ルが1〜2、粒径が0.25〜0.5mmの中砂では、覆土60mmまでは出芽、即ち、芽が海底面上に出現し、90〜100mm以上になると全く出芽しないとされている。
【0099】
本発明で使用する生分解性繊維製の織布、不織布または織物から成るシートの開孔度(目開き)は、所望により自由に設定可能であるが、開口径を0.25〜0.5mmに設定して、シートの厚さを5〜40mmにした場合、その最深部の40mmにアマモの種子が播種されたとしても完全に出芽する。シートの厚さが5mm以下の場合、軽量のため潮流等で移動する恐れがあり、40mm以上にすると不要なコストが掛かるので好ましくない。
【0100】
本発明は、生分解性繊維製の織布、不織布または織物から成るシートに、アマモの種子を播種し、陸上における模擬海中で一定期間培養・育成するが、この際の水温管理が花枝形成に大きな影響を与える。
【0101】
アマモの花枝形成率は生育環境によって異なる。アマモが花枝を形成すると、花枝になった株は枯死し、花枝形成時期後にアマモの株数が激減する。従って、アマモの花枝形成現象を防ぐために、花枝の形成を抑制するように水温を設定することが好ましい。
【0102】
水温に関しても、一律に設定するのではなく、アマモ場の修復・造成・保全を計画している内湾浅海域に群生しているアマモから採取した種子を使用して、水槽による陸上模擬海中試験を行って花枝形成を抑制する水温を設定することが必用である。たとえば、岡山県の某内湾浅海域に群生しているアマモの場合は、7月で、自然水温の場合、花枝形成率が80%であるが、20℃にすると7%に低減したとの報告がある。また、神奈川県小田原湾のアマモの場合、冬季に+3℃昇温(最低水温15℃)にすると花枝形成が抑制されたとの報告がある。従って、アマモの花枝成形を抑制するには、アマモ種子を採取したママモ藻場の環境に応じて水温を調整することが好ましいが、夏〜冬通して、15℃以上に水温調整すれば、花枝形成を抑制することができると推断される。
【実施例】
【0103】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0104】
〔実施例1〕
表4に示した諸元により、生分解性繊維としてポリ乳酸繊維であるユニチカファイバー(株)製の「テラマック」(登録商標)と竹繊維をサーマルボンディング法によりシート化した。
アマモの種子として、岡山県備前市片上港沖合の水深1.5〜2.0mの浅海域海底の多年生天然アマモ藻場から採取した種子を使用した。
陸上模擬海中試験を行う水槽中で表4に示した生分解性アマモシート上にアマモ種子50粒を播種し、以下の条件で培養・育成した。
生分解性アマモシート:100×100(mm)
補強ネット:ジュートネット
生育条件:水温10℃、5,000lx
覆土:バーク堆肥30%混入砂
【0105】
【表4】

【0106】
〔実施例2〕
実施例1と同じ生分解性アマモシートを用い、シート下側(試験水槽底砂上)にアマモ種子を播種した。尚、生育条件等は実施例1と同様とした。
【比較例】
【0107】
生分解性アマモシートを用いず、アマモ種子を直播種した。
【0108】
実施例1、実施例2で播種したアマモ種子の発芽生育状況を観察し、その結果を表5、表6に示す。
【0109】
【表5】

【0110】
【表6】

【0111】
実施例1、実施例2で得られた生分解性アマモシート(播種後90日)を用いて水平流負荷によるアマモ苗の流出試験を実施し、その結果を表7に示す。
【0112】
【表7】

【0113】
実施例1、2で示した生分解性アマモシートについて、実用化サイズのシートを試作し、岡山県備前市片上港内の水深1.5〜2.0mのシルトと泥の混合した砂泥状の海底の底面の不陸に合わせて敷設し、移植試験を実施した。
【0114】
現地移植試験には以下に示す仕様の生分解性アマモシートを用いた。尚、播種後水槽でのアマモ苗生育条件は実施例1,2と同様とした。
生分解性アマモシート:500×500(mm)
補強ネット:ジュートネット
アマモ苗:1,500〜1,600本/m2、最大葉長80〜200mm
【0115】
現地移植試験結果を表8に示す。尚、生分解性シートは各5枚移植し、200mmの竹串で海底に固定した。
【0116】
【表8】

【0117】
〔実施例3〕
実施例3では、2004年6月に、神奈川県逗子市小坪海岸の沖合水深1.5mの天然アマモ藻場から採取したアマモの種子50粒を、実施例1と同じ補強ネット(ジュートネット)で補強した生分解性アマモシート(100×100(mm))に播種しバーク堆肥30%混入砂で覆土し、最低水温が20℃以上、5,000lxの培養・育成条件で培養・育成した。
【0118】
播種後30日の成長状態を観察したところ、花枝の形成率は10%、胚軸の出現率は90%、子葉の出現率は92%であった。播種後90日の最大葉長は140mm、平均葉数は6枚であった。その後、さらに培養して、最大葉長が80〜200mmに成長したアマモの苗を1平米当たり1,500〜1,600本活着させた生分解性アマモ苗床シートを5枚製造した。
【0119】
この生分解性アマモ苗床シートを、2006年5〜6月にかけて神奈川県逗子市小坪海岸の沖合水深1〜2mの天然アマモ藻場の細砂と泥土から成る海底5ケ所の底面の不陸に合わせて敷設し、200mmの竹串で固定した。移植1年後観察した結果、アマモ苗の平均生存率は98%、最大葉長は670±80mmであった。
【0120】
〔実施例4〕
実施例4では、2004年2月に、福井県若狭湾沖合水深1mの天然アマモ藻場から採取したアマモの種子50粒を、実施例1と同じ補強ネット(ジュートネット)で補強した生分解性アマモシート(100×100(mm))に播種しバーク堆肥30%混入砂で覆土し、最低水温が19℃以上、5,000lxの培養・育成条件で培養・育成した。
【0121】
播種後30日の成長状態を観察したところ、花枝の形成率は10%、胚軸の出現率は90%、子葉の出現率は92%であった。播種後90日の最大葉長は140mm、平均葉数は6枚であった。その後、さらに培養して、最大葉長が80〜200mmに成長したアマモの苗を1平米当たり1,500〜1,600本活着させた生分解性アマモ苗床シートを5枚製造した。
【0122】
この生分解性アマモ苗床シートを、2006年3〜6月にかけて福井県若狭湾沖合水深1mの、泥土と細砂からなる海底5ケ所の底面の不陸に合わせて敷設し、200mmの竹串で固定した。移植1年後観察した結果、アマモ苗の平均生存率は98%、最大葉長は650±90mmであった。
【0123】
〔実施例5〕
実施例5では、2004年8月北海道厚岸海岸沖合水深70cmの天然コアマモ藻場から採取したコアマモ(Zostera japonica. et Graebn.) の種子を使用した。実施例1と同じ補強ネット(ジュートネット)で補強した生分解性アマモシートで実用化試験用として500×500mmの大きさの生分解性シートを製造した。このシートに、アマモ種子50粒を播種し、バーク堆肥30%混入砂で覆土し、最低水温が19℃以上、5,000lxの培養・育成条件で培養・育成し、最大葉長が80〜200mmに成長したアマモの苗を1平米当たり1,500〜1,600本活着させた生分解性アマモ苗床シートを5枚製造した。
【0124】
この生分解性アマモ苗床シートを、2006年5〜6月にかけて、北海道厚岸海岸沖合水深70cmの細砂から成る海底5ケ所の底面の不陸に合わせて敷設し、200mmの竹串で固定した。移植1年後観察した結果、アマモ苗の平均生存率は98%、最大葉長は675±80mmであった。
【0125】
〔実施例6〕
実施例6では、2004年3月千葉県小湊町小湊海岸沖合水深5〜8mの天然エビアマモ藻場から採集したエビアマモ(Phyllospadix japonicus Makino)の種子を使用した。実施例1と同じ補強ネット(ジュートネット)で補強した生分解性アマモシートで実用化試験用として500×500mmの大きさの生分解性シートを製造した。このシートに、アマモ種子50粒を播種し、バーク堆肥30%混入砂で覆土し、最低水温18℃、5,000lxの培養・育成条件で培養・育成し、最大葉長が80〜200mmに成長したアマモの苗を1平米当たり1,500〜1,600本活着させた生分解性アマモ苗床シートを5枚製造した。
【0126】
この生分解性アマモ苗床シートを、千葉県小湊町小湊海岸沖合水深5〜8mのシルトと泥の混合した砂泥状の海底5ケ所の底面の不陸に合わせて敷設し、200mmの竹串で固定した。移植1年後観察した結果、アマモ苗の平均生存率は97%、最大葉長は665±90mmであった。
【0127】
〔実施例7〜11〕
生分解性繊維としてポリ乳酸繊維であるユニチカファイバー(株)製の「テラマック」(登録商標)に対して、竹繊維の混紡率を5%(実施例7)、10%(実施例8)、15%(実施例9)、20%(実施例10)および30%(実施例11)とした混紡繊維をサーマルボンディング法により500mm(長さ)×500mm(幅)×30mm(厚さ)のシートに成形してアマモシートとした。
【0128】
アマモの種子として、岡山県備前市片上港沖合の水深1.5〜2.0mの浅海域海底の多年生天然アマモ藻場から採取した種子を使用した。
陸上模擬海中試験を行う水槽中で上記のアマモシート上にアマモ種子50粒を播種し、バーク堆肥30%混入砂で覆土し、最低温度が20℃の海水を絶えず微流状態で掛け流すようにした水槽での培養・育成した。
【0129】
播種後30日の成長状態を観察したところ、花枝の形成率は10%、胚軸の出現率は90%、子葉の出現率は92%であった。播種後90日の最大葉長は140mm、平均葉数は6枚であった。その後、さらに培養して、最大葉長が80〜200mmに成長したアマモの苗を1平米当たり1,500〜1,600本活着させた生分解性アマモ苗床シートを5枚製造した。
【0130】
このアマモ苗床シートを、アマモの種子を採取した岡山県備前市片上港沖合の水深1.5〜2.0mで、最低20mm、最高100mmの不陸がある浅海域海底に敷設して竹串で固定した。1年後、アマモ苗床シートの海底面から持ち上げて、海底面に対する追随性を観察した。その結果、全てのアマモ苗床シートが、海底の不陸面に追随して、アマモの根茎が海底内に匍匐、成長していた。特に10%(実施例8)、15%(実施例9)および20%(実施例10)は、海底の不陸面に完全に追随していて、アマモの根茎が海底内に匍匐していて海底面とシートとが一体化して、手でシートを持ちあげることに相当の力を要した。この試験結果から、生分解性繊維に対して竹繊維を5〜30%混紡して製造したアマモ苗床シートは、海底面への追随性に優れていることが確認された。特に、竹繊維の混紡率は10〜20%が好ましいことが確認された。
【0131】
〔比較例1〕
生分解性繊維としてポリ乳酸繊維であるユニチカファイバー(株)製の「テラマック」(登録商標)を96%と竹繊維を4%含む混紡繊維をサーマルボンディング法により500mm(長さ)×500mm(幅)×30mm(厚さ)のシートに成形して5枚のアマモシートとした。製造したアマモシートを手で揉んだところ、幾分柔軟性に欠ける感触を得た。
【0132】
さらに、実施例7〜11と同じ手順で、アマモ苗床シートを製造して、実施例7〜11で敷設したと同じ海底面に敷設して海底面に対する追随性を観察した。その結果、5枚とも、海底の不陸から完全に浮き上がりアマモの根茎が露出して一部は枯死していた。この原因は、生分解性繊維であるポリ乳酸繊維に対する竹繊維の混紡率が少ないためにシート全体の柔軟性が欠けていることにあると推断される。
【0133】
実施例7〜11および比較例1を参照することにより、生分解性繊維に対して5〜30%の天然繊維を混紡して製造したシートを使用したアマモ苗床シートは、生分解性繊維100%或いは天然繊維を5%未満混紡した場合に比べて、柔軟性に優れ、10cm以上の高低差がある海底の不陸にも十分に追随することが理解される。
【0134】
〔実施例12〜16〕
実施例12〜16は、生分解性繊維に対して天然繊維を5〜30%混紡した場合のアマモの根茎の貫通試験である。
実施例7〜11と同じようにして、生分解性繊維としてポリ乳酸繊維であるユニチカファイバー(株)製の「テラマック」(登録商標)に対して、竹繊維を5%(実施例12)、10%(実施例13)、15%(実施例14)、20%(実施例15)および30%(実施例16)混紡して500mm(長さ)×500(幅)×30mm(厚さ)のシートをそれぞれ5枚製造した。
【0135】
陸上模擬海中試験を行う水槽中で、上記のアマモシート上に、それぞれ岡山県備前市片上港沖合の水深1.5〜2.0mの浅海域海底の多年生天然アマモ藻場から採取したアマモ種子50粒を、播種し、バーク堆肥30%混入砂で覆土し、最低温度が20℃の海水を絶えず微流状態で掛け流すようにした水槽での培養・育成した。
【0136】
播種後60日後のアマモの根茎の成長状態を観察したところ、すべてのアマモシートからアマモの根茎が貫通していることが確認された。尚、花枝の形成率は10%、胚軸の出現率は90%、子葉の出現率は92%であった。播種後90日の最大葉長は140mm、平均葉数は6枚であった。
【0137】
〔比較例2〕
生分解性繊維に対する天然繊維の混紡率を31%にしてアマモシートを5枚製造したこと以外には実施例7〜11と同じ手順を繰り返した。陸上模擬海中試験を行う水槽中で、上記のアマモシート上に、それぞれ岡山県備前市片上港沖合の水深1.5〜2.0mの浅海域海底の多年生天然アマモ藻場から採取したアマモ種子50粒を、播種し、バーク堆肥30%混入砂で覆土し、最低温度が20℃の海水を絶えず微流状態で掛け流すようにした水槽での培養・育成した。
【0138】
播種後60日後のアマモの根茎の成長状態を観察したところ、すべてのアマモシートからアマモの根茎が貫通していないことが確認された。尚、花枝の形成率は50%、胚軸の出現率は70%、子葉の出現率は70%であった。播種後90日の最大葉長は100mm、平均葉数は4枚であった。
【0139】
比較例2から、生分解性繊維に対する天然繊維の混紡率が31%以上になると、天然繊維が海水を多量に吸水して膨潤し、繊維同士が接着し、ウェブ層の抵抗が大きくなり、アマモの根茎の貫通阻害が生じたものと推断される。さらに、根茎がアマモ苗床シートを貫通しないことが、苗床より上のアマモの成長、即ち、花枝の形成率、胚軸の出現率、子葉の出現率、最大葉長の長さおよび葉数等の成長にも悪影響を与えていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明の生分解性アマモ苗床シートは、下記に例示する産業上の利用可能性がある。
1.生分解性繊維製シートに、移植可能なサイズに成長した強健なアマモの実生苗が活着されているので、それ自体が、生分解性アマモ苗床シートとして移動可能で、稲の苗床のように商取引の対象になるので、施工する海洋建設分野のみならず、農業、水産業等第1次産業分野にも寄与する。
【0141】
2.生分解性繊維製シートに、移植可能なサイズに成長した強健なアマモの実生苗が活着されているので、それ自体を内湾浅海域の海底に単に敷設するだけで、アマモの苗が潮流等で流失することもなく確実にアマモ場の修復・造成・保全に資することができるので、本来保守管理が困難な海中作業の労働力を軽減しトータルコストを大幅に低減することができ、海洋建設分野等の産業に貢献する。
【0142】
3.アマモ苗床シートの基材が生分解性繊維製シートなので、時間の経過とともに海中で分解し、海中環境を悪化させないので海洋観光産業に悪影響を与えない。
【0143】
4.生分解性アマモ苗床シート全体が平面で柔軟性に富んでいて剛体部分がないので、砂浜から約1.5km、水深50cm〜10m程度の内湾浅海域で、遊泳、スキューバダイビング等マリーンスポーツ、魚介類の漁場と重なっているアマモ藻場に敷設しても、人身に危害を及ぼすことがないので、海洋観光産業、水産業に等他の産業分野に悪影響を与えない。
【0144】
5.生分解性プラスチックの海洋資材としての新たな用途の拡大に寄与する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性繊維製の織布、不織布または織物から成るシートと、該シートにアマモの種子を播種し、陸上の水槽における模擬海中で一定期間培養・育成し、内湾浅海域の海底に移植可能なサイズに成長させたアマモ実生苗とから成る生分解性アマモ苗床シート。
【請求項2】
アマモ苗のサイズが5〜30cmである請求項1記載の生分解性アマモ苗床シート。
【請求項3】
生分解性シートが、太さが1〜30デシテックス、長さが20〜80mmの生分解性繊維をランダムに交絡させて形成した厚さが5mm〜40mm、空隙率が90%以上である請求項1または2に記載の生分解性アマモ苗床シート。
【請求項4】
生分解性繊維が、エステル、カーボネート、エーテル、アミド、ウレタン等の酸素原子を含む加水分解性基を有し、構成単位が炭素原子数6以下の脂肪族系で含酸素量が多く、O/C比が0.3〜1.0の範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載した生分解性アマモ苗床シート。
【請求項5】
生分解性繊維が、ポリL−乳酸、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリ(ε−カプロラクタム)、およびポリブチレンサクシネートから成る群から選択された少なくとも1種である請求項4に記載の生分解性アマモ苗床シート。
【請求項6】
生分解性シートが、生分解性繊維と天然繊維を混紡したものである請求項1に記載の生分解性アマモ苗床シート。
【請求項7】
天然繊維が、綿花、ボンバックス綿、カポック等種子毛繊維、麻、亜麻、黄麻、ラミー、コウゾ、ミツマタ等ジン皮繊維、マニラ麻、ニュージランド麻等葉繊維、針葉樹、広葉樹、および竹の繊維から成る群から選択された少なくとも1種である請求項6に記載の生分解性アマモ苗床シート。
【請求項8】
生分解性繊維に対する天然繊維の混紡比が5〜30質量%である請求項7に記載の生分解性アマモ苗床シート。
【請求項9】
請求項1に記載した生分解性アマモ苗床シートを、水深5cm〜10m程度の内湾浅海域のアマモ場の修復・造成・保全を行う海底の表面の形状に追随させて敷設し、天然材料の留め具で固定することを含むアマモ場の修復・造成・保全方法。

【公開番号】特開2008−61568(P2008−61568A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242520(P2006−242520)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(595177095)多機能フィルター株式会社 (9)
【出願人】(399062315)フクヨシエンジニアリング株式会社 (1)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【Fターム(参考)】