説明

生分解性オリゴマーを利用した土壌浄化方法

【課題】 中間生成物が残留して蓄積することなく、安定的に効率良く汚染物質の分解除去を行なうことを可能とした生分解オリゴマーを利用した土壌浄化方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 有機塩素系化合物或いは石油系炭化水素からなる汚染物質を含有した汚染土壌に水素供給剤を供給し、微生物の作用により分解除去する生分解性オリゴマーを利用した土壌浄化方法において、前記水素供給剤が、ジオールとジカルボン酸から得られた低分子化合物であり、且つ該低分子化合物が嫌気性条件下で生分解する生分解性オリゴマーであり、好適には前記生分解性オリゴマーの繰り返し単位が2以上で且つ20以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機塩素系化合物或いは石油系炭化水素からなる汚染物質を含有した汚染土壌を微生物の浄化作用により浄化する方法に関し、特に水素供給剤として生分解性オリゴマーを土壌中に注入し、微生物による汚染物質の分解を促進するようにした生分解性オリゴマーを利用した土壌浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境破壊の要因又は生物体に対して悪影響を及ぼす要因となる汚染物質が地下水を含む土壌中において検出されており、これらの物質による環境汚染が問題とされている。汚染土壌の浄化には様々な方法が用いられており、従来は汚染土壌を掘削、吸引、或いは揚水して外部で水や溶媒により洗浄又は熱処理して無害化する方法等の物理化学的方法が多く用いられていた。しかし、このような物理化学的方法ではコストが高く、操作性が低いため、高濃度でかつ狭域の汚染帯の浄化に限られていた。
また、汚染土壌の上に操業中の施設がある場合は、土壌を掘削するなどの方法が不可能な場合も多々ある。
汚染地域が広範囲に亘る場合にはオンサイトでの処理が望まれており、近年は汚染物質で汚染された土壌の浄化方法として、安価でかつ簡単に浄化処理が可能である生物処理が提案、実用化されている。
【0003】
生物学的な浄化方法は、微生物の化学物質分解能力を利用して汚染土壌を修復する浄化技術でありバイオレメディエーションと呼ばれる。これは、汚染土壌、地下水中に元々存在する微生物を利用して、科学的な監視の下で汚染物質を自然減衰させるMNA(Monitored Natural Attenuation)、又は水素供給剤等を土壌、地下水中に供給して元々土壌中に存在していた微生物を活性化し、汚染物質の自然減衰を促進させるENA(Enhanced Natural Attenuation)等が知られている。
このバイオレメディエーションは、汚染土壌の掘削や汚染物質の抽出の必要がなく、原位置において土壌を浄化できることから低コストで広範囲に利用できるため汚染土壌の浄化に有効な技術として近年注目されている。
【0004】
バイオレメディエーションでは、土壌中の汚染物質の還元反応に寄与する電子供与体、微生物の増殖及び生存に必要な栄養源などを土壌中に継続的に注入するなどして、汚染土壌に土着している微生物の分解活性を高め汚染土壌を浄化することにより効率良く汚染物質の分解除去を行なえることが判っている。
特に、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレン等の塩素化脂肪族炭化水素(CAHs)による土壌汚染に対しては、水素供給剤を与えて嫌気性微生物の自然浄化機能を高めることが有効である。
【0005】
水素供給剤としては、HRC(Hydrogen Release Compound:水素放出化合物 リジェネシス社製)が広く用いられている(特許文献1参照)。HRCは乳酸を徐放するように構成されたポリラクテートエステルのオリゴマーである。これを利用した土壌浄化は、まず汚染土壌中に供給されたHRCが水和により徐々に乳酸を放出し、土壌中の嫌気性微生物が乳酸を代謝して溶解水素を生成する。この水素が土壌中の微生物の作用によって汚染物質から塩素原子を奪い取り、還元脱塩素化反応が進行する。
HRCは徐々に水素を放出するため、水素供給剤を短期的に繰り返し注入したり連続注入する必要がなく、安価で簡便な土壌浄化方法として汎用されている。
【0006】
【特許文献1】特表2000−511969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来より微生物の分解作用を利用して汚染土壌の浄化を行なう方法において、水素供給剤を土壌中に供給することにより分解反応を促進することが提案されているが、これを実現化するためには以下の問題点がある。
水素供給剤の注入による土壌、地下水の汚染物質の嫌気分解の工程は、汚染物質が有機塩素化合物である場合を例に採ると、(1)水素供給剤の供給により通性嫌気性細菌又は好気性細菌が活性化し、土壌、地下水中の酸素が消費される、(2)還元環境化によって嫌気性細菌が活性化する、(3)嫌気性細菌である脱塩素化細菌が活性化して還元脱塩素化反応を促進する、という3つのステップが達成される必要がある。さらに、還元脱塩素化反応における汚染物質の分解は、例えばテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン等の塩素化脂肪族炭化水素(CAHs)の場合、テトラクロロエチレン(PCE)→トリクロロエチレン(TCE)→ジクロロエチレン(DCEs)→塩化ビニル(VC)→エチレンの順に分解されていく。
【0008】
高効率で以って汚染物質を分解するためには、上記した各工程が短時間で且つ円滑に行なわれる必要がある。特に、還元脱塩素化反応を始めとする汚染物質の分解反応において、律速となる中間生成物の反応速度を適正に保つことができないと中間生成物が蓄積されてしまい、環境基準を超過してしまうという問題がある。しかし、上記したHRCを利用した汚染土壌の浄化においてはこれらの中間生成物については全く考慮されていないため、TCEの分解速度が速く、DCEsのような中間生成物が蓄積される惧れがあり、またこの中間生成物の蓄積のために微生物環境に悪影響を及ぼし、微生物の活性に阻害を与える惧れがある。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、中間生成物が残留して蓄積することなく、安定的に効率良く汚染物質の分解除去を行なうことを可能とした生分解オリゴマーを利用した土壌浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、汚染土壌の浄化方法として、HRCを用いたバイオバリア(浄化壁)を土壌中に設置し、地下水中のテトラクロロエチレン(PCE)の浄化を行なう試験を行なった。その結果、中間的な分解生成物質であるジクロロエチレン(DCEs)の濃度が上昇し、地下水環境基準を超過してしまうという問題が発生した。この現象は、PCEからトリクロロエチレン(TCE)、TCEからDCEsへの分解速度の速さに比べてDCEsから塩化ビニル(VC)への分解が遅いためにDCEsが蓄積してしまうことに起因している。この結果からも明らかなように、有機塩素系化合物或いは石油炭化水素からなる汚染物質の分解において、段階的に分解反応が進行していくが、その分解速度の差によって中間生成物が蓄積するという問題があった。
従って、このような問題を解決するため、本発明者らは汚染物質の分解速度を制御し、中間生成物質が蓄積することなく最終的な無害化物質まで完全分解できる方法を発案した。
【0010】
そこで本発明は、有機塩素系化合物或いは石油系炭化水素からなる汚染物質を含有した汚染土壌に水素供給剤を供給し、微生物の作用により分解除去する土壌浄化方法において、
前記水素供給剤が、ジオールとジカルボン酸から得られた低分子化合物であり、且つ該低分子化合物が嫌気性条件下で生分解する生分解性オリゴマーであることを特徴とし、好適には前記生分解性オリゴマーの繰り返し単位が2以上で且つ20以下の生分解性オリゴマーとする。
尚、本発明において生分解性オリゴマーとは低分子量の生分解性化合物であり、好適には約1000以下の数平均分子量を有するものとした。
【0011】
本発明における土壌浄化工程において、有機塩素化合物の場合、汚染物質の分解反応としては好気性微生物による酸化的分解と嫌気性微生物による還元的脱塩素化反応とが行なわれる。好気性微生物による酸化的分解は例えば高次の塩素化合物が分解されにくいため、本発明では嫌気性条件下における還元的脱塩素化反応を優先的に行なうようにし、嫌気性条件下で分解する生分解性オリゴマーを用いる。尚、本発明において、嫌気性微生物で脱塩素した後に好気性微生物で完全に分解するという複数段階の反応も含まれることは勿論である。
また、石油系炭化水素に関しては、好気性条件下において好気性微生物により分解され易いことが広く知られているが、嫌気性条件下においても脱硝酸塩、鉄(III)還元、硫酸塩還元、およびメタン生成等、各種電子受容体を利用しながら石油系炭化水素を分解する嫌気性微生物によって分解される。
従って、前記生分解性オリゴマーを水素供給剤・微生物の栄養基質として土壌中に注入することにより、微生物による土壌中の硝酸塩、鉄(III)、硫酸塩等の還元および石油系炭化水素の分解を促進し、中間生成物を蓄積することなく無害化された最終生成物まで分解することが可能である。
このように、本発明では上記した生分解性オリゴマーを用いることにより、生分解性オリゴマー供給後の汚染物質の分解速度が適正に制御され、中間生成物が蓄積することなく最終的な無害化物質まで安定的に反応させることが可能となった。
【0012】
また、前記生分解性オリゴマーは、15日間での好気性条件下での相対生分解率が30%以上、28日間での好気性条件下での相対性分解率が50%以上、或いは120日間での嫌気性条件下での相対生分解率が50%以上の少なくとも何れか一であることが好適である。
さらに、前記生分解性オリゴマーは、粘性係数が近似した化合物と混合されて用いられることを特徴とする。これにより、生分解性オリゴマーとの混合性が良好となり、所望の性質を有する物質を容易に製造ことができる。さらにまた、前記生分解性オリゴマーは、高成形性化合物と混合されて用いられることを特徴とする。これは、生分解性オリゴマーは流動性が高いため、高分子樹脂等の高成形性化合物と混合することにより、生分解性オリゴマーの成形性が向上し、取り扱い性が良好となる。
さらにまた、上記した土壌浄化方法に用いることを特徴とする生分解性オリゴマーを提供する。
【0013】
また本発明において、前記生分解性オリゴマーが脂肪族ポリエステルであることが好適で、さらに好ましくはこの脂肪族ポリエステルがポリエチレンサクシネートを主体とする化合物である。ポリエチレンサクシネートを主体とする化合物は、嫌気性条件下及び好気性条件下において生分解し、且つ何れの場合でも分解速度が遅いため、本発明に最も適した徐放性を有する生分解性オリゴマーである。
【発明の効果】
【0014】
以上記載のごとく本発明によれば、水素供給剤として徐放性の生分解性オリゴマーを用いているため、微生物周辺の水素供与体の濃度が長時間に亘り十分に維持され、微生物の活性化効率が低下することなく、高効率で以って汚染物質の分解を行なうことができ、また、分解反応のバランスを適正に保つことができるため、無害化された最終生成物まで完全に且つ安定して分解することが可能である。
さらに、生分解率を規定した生分解性オリゴマーを利用しているため、余剰のオリゴマーは確実に二酸化炭素と水に分解され、周囲環境に対する2次汚染の惧れがない。
また、生分解性オリゴマーを高成形性化合物と混合して用いるようにしたため、成形性が良好となり、取り扱い性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成については特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
本実施例では、処理対象を地下水部位を含む土壌とし、汚染の原因となる汚染物質は、例えばテトラクロロエチレン(PCE)、トリクロロエチレン(TCE)、シス-1,2-ジクロロエチレン(trans-1,2-ジクロロエチレン)、1,1-ジクロロエチレン(1,1-DCE)、塩化ビニル(VC)等の塩素化エチレン、1,1,1-トリクロロエタン(MC又は1,1,1-TCA)、1,1,2-トリクロロエタン(1,1,2-TCA)、1,2-ジクロロエタン(EDC)等の塩素化エタン、四塩化エタン、四塩化炭素(CT)、クロロホルム(CF)、ジクロロメタン(DCM)等の有機塩素系化合物、又はナフサ、灯油、LPG、ガソリン等の石油製品に代表される石油系炭化水素とする。
【0016】
本実施例における土壌浄化方法は、水素供給剤として汚染土壌中に生分解性オリゴマーを供給し、土壌中の微生物の浄化作用により前記汚染物質を分解し、除去する。
前記生分解性オリゴマーは、ジオールとジカルボン酸から得られた低分子化合物であり、且つ該低分子化合物が嫌気性条件下で生分解する生分解性オリゴマーとする。尚、本実施例においてオリゴマーとは、好適には約1000以下の数平均分子量を有するものとし、数平均分子量はGPC法により測定した。
また、好適には前記生分解性オリゴマーの繰り返し単位が2以上で且つ20以下である。
【0017】
前記生分解性オリゴマーは、ジカルボン酸成分と、グリコール成分とから得られるものである。その具体的製造方法としては、例えば、
(i)多塩基酸(あるいはそのエステル)とグリコールを重縮合する方法
(ii)環状酸無水物と環状エーテルを開環重合させてから、さらに重縮合する方法
等が挙げられる。従って、本実施例で言う生分解性オリゴマー原料は、例えば(i)の方法の場合、多塩基酸(あるいはそのエステル)とグリコールと触媒とを示し、(ii)の方法の場合、環状酸無水物と環状エーテルと触媒とを示す。
(i)の方法で用いられる多塩基酸は、二官能以上の多価カルボン酸またはその無水物および三官能以上のオキシカルボン酸から選ばれたものであるが、酸成分とアルコール成分とが直線状に結合したポリエステルを生成するためにはカルボキシル基を1分子中に2個有するものが好ましい。
(i)の方法で用いられる多塩基酸としては、例えばコハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、ダイマー酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸あるいはそれらのエステル等が挙げられ、酸無水物としては、例えば無水コハク酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水シトラコン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、二無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、などが挙げられ、三官能以上のオキシカルボン酸としてはリンゴ酸、酒石酸、クエン酸などが挙げられる。
【0018】
(i)の方法で用いられるグリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、デカメチレングリコール等が挙げられる。また、グリコール成分の一部として三官能以上の多価アルコールを使用することも可能であり、例えばグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリットなどが例示される。
また、グリコール成分の一部としてジエポキシドを使用することも可能であり、例えば(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、ο−フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。
これらのうちで、得られるポリエステルの融点、生分解性、経済性を考慮すると、炭素数が2〜6の脂肪族ジカルボン酸成分と、炭素数が2〜4の脂肪族グリコール成分との組合せが好ましく、コハク酸とエチレングリコールとの組合せ、及び/またはコハク酸と1,4−ブタンジオールとの組合せがさらに好ましい。
【0019】
(ii)の方法で用いられる環状酸無水物は、酸無水物基を1分子中に1個有していてもよいし2個以上有していてもよいが、酸成分とアルコール成分とが直線状に結合したポリエステルを生成するためには酸無水物基を1分子中に1個有するものが好ましい。
(ii)の方法で用いられる環状酸無水物としては、例えば無水コハク酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水シトラコン酸、無水フタル酸、無水トリメリット酸、二無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
(ii)の方法で用いられる環状エーテルは、エポキシ基を1分子中に1個有していてもよいし2個以上有していてもよいが、酸成分とアルコール成分とが直線状に結合した脂肪族ポリエステルを生成するためにはエポキシ基を1分子中に1個有するものが好ましい。
【0020】
(ii)の方法で用いられる環状エーテルとしては、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、エピクロロヒドリン、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、テトラヒドロフラン、オキセパン、1,3−ジオキソラン、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、ο−フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、グリセロールトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらのうちで、得られるポリエステルの融点、生分解性、経済性を考慮すると無水コハク酸とエチレンオキシドとの組合せが好ましい。開環重合は公知の開環重合触媒を用い、溶媒中での重合や塊状重合等の方法により行うことができる。
【0021】
一方、生分解性オリゴマーには、加工性や経済性、大量に入手できることなども要求され、これらの点からは上述の生分解性オリゴマーの中でも、脂肪族オリゴマーが好ましく、更に好ましくは、炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸成分と炭素数2〜4の脂肪族グリコール成分から得られる脂肪族オリゴマーである。
尚、本実施例においては、上述のごとき生分解性オリゴマーを2種類以上ブレンドして用いることができる。
本実施例で使用される生分解性オリゴマーは、公知の生分解性ポリマーを熱分解や加水分解により分子量を下げることで得ることが出来る。
【0022】
また、本実施例で使用される生分解性オリゴマーは、公知の生分解性ポリマーの製造過程、たとえば飛散したオリゴマーの捕集や製造途中の抜き取りにより得ることが出来る。
このような生分解性ポリマーとして具体的には、ポリヒドロキシブチレート/バリレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリエステルカーボネート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン及びポリ(2−オキセタノン)、デンプン、変性デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチン及び天然ゴム、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール及びポリリンゴ酸などを用いることができる。
【0023】
更に、市販されている生分解性オリゴマーとしては、例えば、昭和高分子社製の商品名「ビオノーレ」、三菱化学社製の商品名「GSPla」、日本合成化学工業社製の商品名「マタービー」、島津製作所社製の商品名「ラクティ」、三菱ガス化学社製の商品名「ユーペック」、カーギルダウ社製の商品名「ネーチャーワークス」、三井東圧化学社製の商品名「レイシア」、ダイセル化学工業社製の商品名「セルグリーン」及び「プラセル」、モンサント社製の商品名「バイオポール」、BASF社製の商品名「エコフレックス」、デュポン社製の商品名「バイオマックス」、イーストマンケミカル社製の商品名「イースターバイオ」、日本触媒社製の商品名「ルナーレ」、チッソ社製の商品名「ノボン」、三菱ガス化学社製の商品名「ビオグリーン」、カネボウ合繊社製の商品名「ラクトロン」、大日本インキ化学工業社製の商品名「プラメート」及び「CPLA」、東洋紡績社製の商品名「バイオエコール」、トヨタ自動車社製の商品名「トヨタエコプラ」、ダウ社製の商品名「TONE」Ire Chemical社製の商品名「Enpol」、クラレ社製の商品名「ポバール」、日本合成化学工業社製の商品名「ゴーセノール」、アイセロ社製の商品名「ドロンVA」、帝人社製の商品名「セルロースアセテート」、アイセロ化学社製の商品名「ドロン」、Novamont社製の商品名「Mater−Bi」、日本食品化工社製の商品名「プラコーン」、日本コーンスターチ社製の商品名「エバーコーン」などが挙げられる。
また、生分解性の点からは、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート/アジペートが更に好ましい。好気下、嫌気下の何れでも分解され、活性汚泥中でも良好な生分解性を示すポリエチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート/アジペートは特に好適である。
【0024】
本実施例に用いる生分解性オリゴマーは、少なくとも嫌気性条件下で生分解し、水素供与源として適度の徐放性を有することが必要である。徐放性の尺度としては、生分解性オリゴマーの分解速度を用いる。
また、生分解性オリゴマーの徐放性は以下の条件のうち少なくとも一を満たすことが好ましい。徐放性の尺度としては、生分解性オリゴマーの分解速度を用いる。
(I)15日間での好気性条件下での相対生分解率が30%以上。
(II)28日間での好気性条件下での相対性分解率が50%以上。
(III)120日間での嫌気性条件下での相対生分解率が50%以上。
詳細には、分解速度とはISO14851、ISO14852及び化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)の生分解性試験(MITI法)の何れかの試験法で試験したとき、標準対象物質であるアニリンの所定時間における生分解率を100としたとき、相対生分解率が、(I)15日の生分解率で30%以上、好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上であり、(II)28日の生分解率で50%以上、好ましくは60%以上、更に好ましくは80%以上である。また、嫌気性条件下での生分解率は、ISO14853、ISO15985及びASTM D.5511−94の何れかの試験法で試験した時、(III)標準対象物質であるセルロースの120日における生分解率を100とした時の相対生分解率が50%以上、好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上である。
【0025】
本実施例に係る土壌中での使用において、これらの生分解性オリゴマーが有すべき好適条件としては、(1)土壌中での嫌気下で分解を受け易いこと、(2)生分解性オリゴマーが余剰となって地下水や河川等に流れ出しても環境中に蓄積されないために好気下でも分解を受け易いこと、を挙げることができる。したがって、上述のごとく、嫌気下または好気下での生分解性に優れていることが好ましい。
【0026】
さらに、生分解性オリゴマーとデンプン、変性デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチンなどの天然物とのブレンド物も好適である。
さらにまた、上述のごとき生分解性オリゴマーの分子量は、好ましくは数平均で1000以下である。
【0027】
上記した生分解性オリゴマーを水素供給剤として利用することにより、土壌中の微生物周辺の水素供与体の濃度が長時間に亘り十分に維持されるため、微生物の活性化効率が低下することなく、高効率で以って汚染物質の分解を行なうことができ、また、水素供給後に二酸化炭素と水に分解されるため2次汚染の惧れがない。
さらに、前記汚染物質の分解速度を制御するようにしたため、分解過程において反応速度の差により中間性生物が蓄積することなく、反応バランスを適正に保つことができ、無害化された最終生成物まで完全に且つ安定して分解することが可能である。
【0028】
ここで、上記した生分解性オリゴマーからなる水素供給剤を用いた場合の汚染土壌浄化設備の具体的構成の一例につき説明する。
図1は本実施例に係る汚染土壌の浄化設備(注入井)の構成を示す概略図、図2は図1に示した浄化設備の平面図、図3は図1の他の実施例に係る汚染土壌の浄化設備(浄化壁)の構成を示す概略図である。
図1及び図2に示されるように、処理対象とする汚染土壌は、上層から盛土層20、粘度層21、玉石混じり砂礫層22、粘土層23の順に堆積した土壌であり、前記玉石混じり砂礫層22が地下水の流れる帯水層となっている。この汚染土壌に、帯水層まで到達する注入井11を複数掘削し形成する。そして、前記注入井11に液体状若しくは固体状の生分解性オリゴマー10を注入/充填する。地下水の流れによって注入井11に注入/充填された生分解性オリゴマーからH12が徐々に放出され、このH12により注入井周辺の汚染物質が微生物の作用によって還元脱塩素化反応により分解、除去される。この構成によれば、生分解性オリゴマーの再充填が可能であり、繰り返し同じ注入井11を利用して生分解性オリゴマーを供給できる。
また、別の構成として、掘削孔(又は掘削坑)を掘削形成し、生分解性オリゴマーを該掘削孔に直接注入/充填するようにしても良い。この場合、簡単に生分解性オリゴマーを土壌中に供給することができ、コストを低減することができる。
【0029】
また図3は、汚染土壌に生分解性オリゴマー粒状体13を埋設し、ブロック状の反応帯を形成した設備となっている。粘土層23の上端まで掘削したエリアに生分解性オリゴマー粒状体13の注入により透過性の浄化壁14を設置した。
生分解性オリゴマーを粒状体として充填すると、粒子間に間隙ができるため透過性となり、注入井11、浄化壁14を地下水が通過することが可能となり、粒子間を地下水が通過する間に汚染物質が分解され浄化される。また、粒状体の粒径の変更や粒径の異なる粒状体の組み合わせにより透水性を制御することが好ましく、これにより周囲の帯水層の透水性の合わせて反応帯の透水性を調整することが可能となる。この構成によれば、浄化壁の形状、配置次第で生分解性オリゴマーの再充填を可能にできる。
【0030】
これらの実施例において、前記生分解性オリゴマーは、粘性係数が近似した化合物と混合されて用いられることが好ましい。これにより、生分解性オリゴマーとの混合性が良好となり、所望の性質を有する物質を容易に製造することができる。粘性係数が近似した化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、脂肪族ポリエステル、糖類等が挙げられる。
さらにまた、前記生分解性オリゴマーは、高成形性化合物と混合されて用いられることが好ましい。生分解性オリゴマーは流動性が高いため、高成形性化合物と混合することにより生分解性オリゴマーの成形性が向上し、取り扱い性が良好となる。高成形性化合物としては、例えば、生分解性樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリスチレン等が挙げられる。
上記したように生分解性オリゴマーを他の化合物と混合して用いることにより、成形加工性が良好となり、生分解性オリゴマーの取り扱い性が向上し、上記した粒状体13を容易に作製することが可能となる。
前記生分解性オリゴマーの供給方法としては、上記した他に、例えば多孔状の担体に含浸させて土壌中に埋設する方法、流動状態で直接注入井等に注入する方法等、特に限定されるものではない。
【0031】
尚、特に石油系炭化水素に関しては、好気性条件下において好気性微生物により分解され易いことが広く知られているが、嫌気性条件下においても脱硝酸塩、鉄(III)還元、硫酸塩還元、およびメタン生成等、各種電子受容体を利用しながら石油系炭化水素を分解する嫌気性微生物によって分解される。
従って、前記生分解性オリゴマーを水素供給剤・微生物の栄養基質として土壌中に注入することにより、微生物による土壌中の硝酸塩、鉄(III)、硫酸塩等の還元および石油系炭化水素の分解を促進することが可能である。
また、前記生分解性オリゴマーの土壌中への注入と合わせて硝酸塩、鉄(III)、硫酸塩等の電子受容体の土壌中への注入を行うことにより、石油系炭化水素の嫌気性微生物による分解を促進する方法も考えられる。
【0032】
次に、本実施例に係る生分解性オリゴマーの有効性を評価するために、水田土壌におけるトリクロロエチレンの分解に伴う塩素化脂肪族炭化水素(CAHs)の濃度変化について実験を行なった。
(実験内容)
50ml密閉ガラスバイヤルに水田土壌5g、各種有機物からなる水素供給剤0.0135g及び滅菌水を天下し、全量を27mlとしたものに終濃度10ppm(mg/l)となるようにトリクロロエチレン(TCE)を添加して培養を行い、一定期間培養後の気相をガスタイトシリンジで一定量引き抜き、GC/MSにてTCE及び分解生成物質の濃度を測定した。
TCEは、実験開始時(0日目)に添加した他、培養74日目に濃度10ppmで添加し、トリクロロエチレン(TCE)、ジクロロエチレン(DCEs)、塩化ビニル(VC)の濃度を測定し、その時系列変化を図4、図5に示す。
比較例1は水素供給剤としてHRC(リジェネシス社製)を用いた場合(図4)であり、実施例1は水素供給剤として低分子量のポリエチレンサクシネート系重合体(日本触媒(株)製、数平均分子量200)を用いた場合(図5)である。
【0033】
(評価結果)
比較例1では、TCE濃度が25日目まで急速に低減した後、DCEs濃度が徐々に増加していき、74日目にTCEを追加した後はDCEs濃度のさらなる上昇がみられた。
これに対して、実施例1では比較例1と同様にTCE濃度の急速な低減の後にDCEs濃度の増加がみられたが、74日目のTCE追加後にはピークを迎えた後にDCEs濃度が低減する傾向にあった。また、実施例1では100日目にDCEs濃度の低減とともに、VC濃度が上昇していることから、DCEsの分解反応が進んでいることがわかる。
この結果から明らかなように、HRCでは中間生成物であるDCEsが徐々に蓄積されていくが、本実施例に係る生分解性オリゴマーは中間生成物の蓄積を防ぎ、汚染物質を無害化された最終生成物まで安定して完全に分解除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施例に係る汚染土壌の浄化設備(注入井)の構成を示す概略図である。
【図2】図1に示した浄化設備の平面図である。
【図3】図1の他の実施例に係る汚染土壌の浄化設備(浄化壁)の構成を示す概略図である。
【図4】比較例1に係り、水素供給剤としてHRCを用いた場合の実験土壌におけるCAHs濃度の変化を示すグラフである。
【図5】本実施例1に係る生分解性オリゴマーを水素供給剤として用いた場合の実験土壌におけるCAHs濃度の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0035】
10 生分解性オリゴマー
11 水素供給剤注入井
12 H
13 生分解性オリゴマー粒状体
14 浄化壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機塩素系化合物或いは石油系炭化水素からなる汚染物質を含有した汚染土壌に水素供給剤を供給し、微生物の作用により汚染物質を分解除去する土壌浄化方法において、
前記水素供給剤が、ジオールとジカルボン酸から得られた低分子化合物であり、且つ該低分子化合物が嫌気性条件下で生分解する生分解性オリゴマーであることを特徴とする生分解性オリゴマーを利用した土壌浄化方法。
【請求項2】
前記生分解性オリゴマーの繰り返し単位が2以上で且つ20以下であることを特徴とする請求項1記載の生分解性オリゴマーを利用した土壌浄化方法。
【請求項3】
前記生分解性オリゴマーは、15日間での好気性条件下における相対生分解率が30%以上、28日間での好気性条件下における相対性分解率が50%以上、或いは120日間での嫌気性条件下における相対生分解率が50%以上の少なくとも何れか一つを満たすことを特徴とする請求項1記載の生分解性オリゴマーを利用した土壌浄化方法。
【請求項4】
前記生分解性オリゴマーは、粘性係数が近似した化合物と混合されて用いられることを特徴とする請求項1記載の生分解性オリゴマーを利用した土壌浄化方法。
【請求項5】
前記生分解性オリゴマーは、高成形性化合物と混合されて用いられることを特徴とする請求項1記載の生分解性オリゴマーを利用した土壌浄化方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一に記載の土壌浄化方法に用いることを特徴とする生分解性オリゴマー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−218457(P2006−218457A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36814(P2005−36814)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(390023249)国際航業株式会社 (55)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】