説明

生分解性グリース組成物

【課題】 自然環境下において微生物等により分解されやすく、潤滑寿命や酸化安定性に優れたグリース組成物の提供。
【解決手段】 tert−ブチルアルコールを有機配位子の少なくとも一部として有する複合金属シアン化物錯体触媒の存在下で、1〜12個の水酸基を有する1種以上の開始剤の存在下、1種以上の炭素数3〜9の環状エステル化合物と1種以上の炭素数2〜20のアルキレンオキシドとを共重合して得られるポリエステルエーテルポリオールおよび/またはポリエステルエーテルモノオール(a1)をグリース組成物の生分解性基油(A)として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械や車両の軸受部や金属−金属接触を伴う摩擦部には、摩擦低減や防錆を目的としたグリースが使用されている。このようなグリースは、ベアリング部に封入された状態で使用されることが一般的であるが、河川や土壌に漏出しうる環境下でも使用されるため、環境中に漏出した場合であってもグリース自身が環境を汚染しにくいことが求められ始めている。しかし、従来は鉱物油やポリα−オレフィンに代表される合成炭化水素油がグリース用基油として用いられることが多く、これらが大量に河川や土壌へ漏出した場合は、微生物等による速やかな分解が期待できないために環境中に長期間残留するおそれがあった。
【0003】
環境への負荷の少ないグリースを提供することを目的として、多価アルコールとカルボン酸との反応で得られるポリオールエステル、もしくは脂環族カルボン酸とアルコールとの反応で得られる脂環族エステルを基油としたグリース組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この多価アルコールとカルボン酸との反応で得られるポリオールエステル、および脂環族カルボン酸とアルコールとの反応で得られる脂環族エステルは、水との親和性が乏しいため、屋外で使用される場合に雨水による漏出はかなり防止できるが、その反面、水の存在下で活発に繁殖する微生物による分解は抑制されることになる。したがって、万一これらのエステル類が環境中に漏出した場合には、速やかな分解を期待できない。また、これらのエステル類の製造にはエステル化反応を用いるが、エステル化反応後においてもエステル中に残存する脂肪酸が、このエステル類を基油として含むグリースの潤滑寿命や酸化安定性を低下させ、かつグリースが接触するゴム等のシール材の硬度低下や体積膨張を引き起こす原因となっていた。
【0005】
また、植物由来の、グリセリンと脂肪酸のエステル化合物を基油とするグリース組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。この基油も上記エステル類同様に水との親和性が乏しいために、万一自然環境中に漏出した場合は環境中での速やかな分解があまり期待できず、さらに、この基油は不飽和結合を有する脂肪酸とグリセリンとのエステルを含むため、不飽和結合の存在によって潤滑寿命や酸化安定性が充分満足できるものとはいえなかった。
【特許文献1】特開2004−18725号公報
【特許文献2】特開平11−228983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、特定の複合金属シアン化物錯体触媒を用いて環状エステルとアルキレンオキシドとを共重合して得られる狭分子量分布のポリエステルエーテルポリオールおよび/またはポリエステルエーテルモノオールを基油として用いることにより、生分解性が高く、かつ潤滑寿命や酸化安定性に優れたグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の生分解性グリース組成物は、tert−ブチルアルコールを有機配位子の少なくとも一部として有する複合金属シアン化物錯体触媒の存在下で、1〜12個の水酸基を有する1種以上の開始剤の存在下、1種以上の炭素数3〜9の環状エステル化合物と1種以上の炭素数2〜20のアルキレンオキシドとを共重合して得られるポリエステルエーテルポリオールおよび/またはポリエステルエーテルモノオール(a1)(以下まとめて、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)と記す。)を生分解性基油(A)として含むことを特徴とする。
【0008】
上記生分解性グリース組成物は、上記生分解性基油(A)とともにさらに増ちょう剤を含んでもよい。
【0009】
上記生分解性グリース組成物に用いるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の共重合に用いる環状エステル化合物とアルキレンオキシドの合計質量に対し、環状エステル化合物の質量が5〜90%であり、かつポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の分子量分布(Mw/Mn)が1.02〜1.4であることが好ましい。
【0010】
さらに上記生分解性グリース組成物中にはポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)が10質量%以上含まれていることが好ましい。
【0011】
さらに上記生分解性グリース組成物は、欧州規格諮問委員会規格(CEC規格)のL−33−A−93(1993年)による生分解性試験方法に準拠して測定した生分解率(%)が28日後で60%以上であることが好ましい。
【0012】
また、上記生分解性グリース組成物は、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)以外のグリース組成物用基油(a2)をさらに含んでもよい。
【0013】
上記グリース組成物用基油(a2)は、植物由来の基油、多価アルコールとカルボン酸との反応によって得られるポリオールエステル油、および脂肪族カルボン酸とモノオールとの反応によって得られるエステル化合物からなる群から選ばれることが好ましい。
【0014】
上記複合金属シアン化物錯体触媒は、tert−ブチルアルコール単独、または、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、iso−ペンチルアルコール、N,N−ジメチルアセトアミド、およびエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテルからなる群から選ばれる1種以上とtert−ブチルアルコールとの組み合わせを有機配位子として含むことが好ましい。
【0015】
本発明者らは、上記特定の複合金属シアン化物錯体触媒の存在下で、特定の環状エステル化合物と特定のアルキレンオキシドを開環付加共重合させた分子量分布の狭いポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)を基油に用いることにより、低温での流動性に優れ、グリースとしての潤滑寿命や酸化安定性に悪影響を及ぼす脂肪酸を実質的に含有せず、かつ生分解性に優れたグリース組成物を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0016】
本発明の生分解性グリース組成物は、低温での流動性に優れ、潤滑寿命や酸化安定性に優れ、かつ生分解性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本明細書中のポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)および重合体である開始剤の分子量および分子量分布(Mw/Mn)は、分子量既知の標準ポリスチレン試料を用いて作成した検量線を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを測定することによって得られるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mn、ならびにその比(Mw/Mn)として表す。ポリマーおよびオリゴマーと異なり分子量分布を実質的にもたない開始剤またはそのような開始剤の混合物の場合の数平均分子量は、開始剤の分子量に基づいて計算した、開始剤1分子あたり分子量を数平均分子量とする。また、本明細書中に示すポリエステルエーテルポリ(モノ)オールの水酸基価は、JIS K1557 6.4(1970年)に準拠して測定した値である。さらに、本明細書中に示す酸価は、JIS K1557 6.6(1970年)に準拠して測定した値である。
以下に本発明のグリース組成物を構成する各成分について説明する。
【0018】
(ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1))
本発明の生分解性グリース組成物は、生分解性基油(A)としてポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)を含む。このポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)は、tert−ブチルアルコールを有機配位子の少なくとも一部として有する複合金属シアン化物錯体触媒の存在下、水酸基を有する開始剤に、環状エステル化合物とアルキレンオキシドとを共重合して得られる。以下にこれらの各原料について説明する。
【0019】
(複合金属シアン化物錯体触媒)
本発明に用いる、tert−ブチルアルコールを有機配位子の少なくとも一部として有する複合金属シアン化物錯体触媒(以下、DMC(double metal cyanide)触媒と記す。)は、公知の方法で合成することができる(例えば、特開2003−117403号公報参照)。
【0020】
本発明に用いる上記DMC触媒は、代表的には下記式1で表される。
[M(CN)e(M)h(HO)i(R)・・・式1
式1中、Mは、Zn(II)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Ni(II)、Mo(IV)、Mo(VI)、Al(III)、V(V)、Sr(II)、W(IV)、W(VI)、Mn(II)、Cr(III)、Cu(II)、Sn(II)、およびPb(II)から選ばれる金属原子であり、Zn(II)またはFe(II)であることが好ましい。なお金属の原子記号に続くかっこ内のローマ数字は原子価を表し、以下同様である。Mは、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Cr(II)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Ni(II)、V(IV)、およびV(V)から選ばれる金属原子であり、Co(III)またはFe(III)であることが好ましい。Xはハロゲン原子である。Rは、tert−ブチルアルコールのみであるか、または、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、iso−ペンチルアルコール、N,N−ジメチルアセトアミド、およびエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテルからなる群から選択される1種以上とtert−ブチルアルコールとの組み合わせである有機配位子を表す。a、b、c、d、e、f、g、h、iは、金属原子の原子価や有機配位子の配位数などにより変わる正の数である。本発明において特に好ましい有機配位子は、tert−ブチルアルコール単独か、もしくはtert−ブチルアルコールとエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテルの組み合わせである。この有機配位子を有するDMC触媒は、上記特定の水酸基含有開始剤に対する環状エステル化合物とアルキレンオキシドとの共重合反応に特に高い重合活性を示し、しかも重合によって得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の分子量分布を狭くできる。
【0021】
本発明に用いるDMC触媒の製造方法は任意の方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、(i)ハロゲン化金属塩と、シアノメタレート酸および/またはアルカリ金属シアノメタレートとを水溶液中で反応させて得られる反応生成物に有機配位子を配位させる。ついで、得られた固体成分を分離し、分離した固体成分をさらに有機配位子水溶液で洗浄する方法、または(ii)有機配位子水溶液中でハロゲン化金属塩と、シアノメタレート酸および/またはアルカリ金属シアノメタレートとを反応させ、得られる反応生成物(固体成分)を分離し、その分離した固体成分をさらに有機配位子水溶液で洗浄する方法が挙げられる。さらに、上記方法によって得られるケーキ(固体成分)をろ過分離し、さらに乾燥させて使用できる。
【0022】
本発明のDMC触媒を製造する場合に用いる上記アルカリ金属シアノメタレートのシアノメタレートを構成する金属は、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Cr(II)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Ni(II)、V(IV)、およびV(V)から選ばれる1種以上の金属であることが好ましく、Co(III)またはFe(III)であることがさらに好ましく、Co(III)であることが特に好ましい。本発明のDMC触媒(A)の製造原料として用いるシアノメタレート酸およびアルカリ金属シアノメタレートとしては、H[Co(CN)]、Na[Co(CN)]、およびK[Co(CN)]が好ましく、Na[Co(CN)]、およびK[Co(CN)]が最も好ましい。
【0023】
さらに上記DMC触媒の製造方法において、ケーキをろ過分離する前の段階で、有機配位子水溶液中に固体成分を分散させた液にポリエーテルポリオールおよび/またはポリエーテルモノオール(以下、ポリエーテルポリ(モノ)オールと記す。)を混合し、得られた混合液から水及び過剰の有機配位子を留去することによって、DMC触媒がポリエーテルポリ(モノ)オール中に分散したスラリー状のDMC触媒混合物を調製することもできる。
【0024】
上記スラリー状DMC触媒を調製するために用いるポリエーテル(モノ)ポリオールは、アニオン重合触媒やカチオン重合触媒を用い、モノアルコールおよび多価アルコールからなる群から選ばれる1種以上の開始剤にアルキレンオキシドを開環付加重合させて製造することができる。この目的に用いるポリエーテル(モノ)ポリオールは、水酸基数が1〜8であり、数平均分子量が300〜5000のものが、DMC触媒の重合活性が高く、かつスラリー状DMC触媒の粘度も高くならずに取り扱いやすいことから好ましい。
【0025】
用いるDMC触媒の量は、環状エステル化合物/アルキレンオキシドの開環付加共重合を進行させることができる任意の量でよく、得られるポリエステルエーテル(モノ)ポリオール(a1)に対して1〜500ppmが好ましい。通常は、開始剤に環状エステル化合物およびアルキレンオキシドを反応させた後に、得られたポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)からDMC触媒を除去する操作を行い、DMC触媒に由来する残存金属量を1〜30ppmとすることが好ましい。1〜20ppmとすることがより好ましく、1〜10ppmとすることが特に好ましい。
【0026】
また、共重合反応に用いるDMC触媒の量が少ないほど、生成物であるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)に含まれるDMC触媒の量を少なくでき、それにより、たとえDMC触媒を含んだままのポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)を生分解性グリース組成物の基油(A)として用いた場合でも、潤滑寿命、生分解性および酸化安定性などへ及ぼすDMC触媒の影響を小さくできる。通常は、開始剤に環状エステル化合物およびアルキレンオキシドを反応させた後に、得られたポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)からDMC触媒を除去する操作を行う。しかし、使用するDMC触媒の量の活性が高い場合には、その使用量を少なくできる。使用量を少なくした場合は、最終製品の特性上許容可能であるかぎり、DMC触媒を除去する工程を行わずにポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)をグリース組成物用基油(A)として用いることができる。そのため、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の生産効率を高めることができる。この場合、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)中に残存するDMC触媒由来の金属量(例えばZnやCoなど)の合計量が1〜30ppm、好ましくは1〜20ppm、さらに好ましくは1〜10ppmとなる量のDMC触媒を用いることが好ましい。ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)中に含まれるDMC触媒由来の金属量が30ppm以下となる量でDMC触媒を使用することにより、重合で得られたポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)からの残存触媒の除去工程を不要としやすくなる。
【0027】
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)からのDMC触媒の除去処理および/またはDMC触媒の失活処理を行うこともできる。その方法としては、たとえば、合成珪酸塩(マグネシウムシリケート、アルミニウムシリケートなど)、イオン交換樹脂、および活性白土などから選択される吸着剤を用いた吸着法や、アミン、水酸化アルカリ金属、有機酸、または鉱酸による中和法、中和法と吸着法を併用する方法などを用いることができる。
【0028】
(開始剤)
本発明では、開始剤として、1〜12個の水酸基を有する化合物を使用する。数平均分子量(Mn)は18〜20000であることが好ましい。具体的な化合物としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、2−エチルヘキサノール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデカノール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールなどの1価アルコール類;水;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオールなどの2価アルコール類;グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコール類;グルコース、ソルビトール、デキストロース、フラクトース、蔗糖、メチルグルコシドなどの糖類およびその誘導体;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ノボラック、レゾール、レゾルシンなどのフェノール系化合物、などが挙げられる。これらの開始剤は1種のみ用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0029】
本発明で用いることのできる開始剤には、上記化合物にアルキレンオキシドを公知の方法で開環付加または開環付加重合させて得られるポリエーテルポリオール;ポリカーボネートポリオール;ポリエステルポリオール;およびポリオキシテトラメチレングリコール、などから選択される化合物も含まれ、これらの化合物は数平均分子量(Mn)が300〜20000であり、1分子当たりの水酸基数が1〜12個であることが好ましい。1分子当たりの水酸基数が1である場合、開始剤はモノオールである。
【0030】
本発明で用いる開始剤の好ましい数平均分子量(Mn)は好ましくは300〜10000であり、特に好ましくは、600〜5000である。数平均分子量(Mn)が300以上の開始剤を用いることにより、DMC触媒存在下における環状エステル化合物およびアルキレンオキシドの開環重合反応が開始するまでの時間を短くできる。一方、数平均分子量(Mn)が20000以下の開始剤を用いることにより、開始剤の粘度が高すぎることなく、開始剤に環状エステル化合物およびアルキレンオキシドを均一に共重合することができる。
【0031】
開始剤の1分子当たりの水酸基数は1〜12であり、1〜8が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜2が最も好ましい。水酸基数が12以下の開始剤を用いることにより、得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の分子量分布を狭くすることがより容易になる。開始剤として2種以上の化合物の混合物を用いる場合は、その1分子当たりの平均水酸基数が1〜12であることが好ましく、1〜8であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましい。本発明で製造されるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の水酸基数を少なくすることにより金属への腐食作用を抑制できるため、開始剤の水酸基数は1〜2であることが最も好ましい。なお、本発明で製造されるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の水酸基数は使用する開始剤の水酸基数をいう。
【0032】
開始剤としてポリエーテルポリ(モノ)オールを用いる場合、その分子量分布(Mw)/(Mn)は3.0以下であることが好ましい。最終生成物であるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の全質量に占める開始剤の割合は、5〜80質量%であるのが一般的であるが、開始剤部分の質量がポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の質量の50%以上を占めるように重合反応を行う場合には、開始剤として分子量分布(Mw)/(Mn)が3.0以下のポリエーテルポリ(モノ)オールを用いることによって、最終生成物であるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の分子量分布(Mw/Mn)を1.4以下にすることが容易になる。それにより、得られたポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の粘度を低くすることができ、本発明の生分解性基油(A)として用いるために好ましい粘度にできる。
【0033】
(環状エステル化合物)
本発明で用いる環状エステル化合物は、炭素数3〜9の環状エステル化合物、いわゆるラクトン、である。具体的な環状エステル化合物としては、例えば、β−プロピオラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、メチルε−カプロラクトン、α-メチル−β−プロピオラクトン、β-メチル−β−プロピオラクトン、メトキシ−ε−カプロラクトン、およびエトキシε−カプロラクトンを挙げることができ、特にε−カプロラクトンが好ましい。これらの環状エステル化合物は1種類だけを用いることも、2種類以上を併用することもできる。なお、ブチロラクトンなどの5員環の環状エステル化合物は反応性が低いので本発明の方法に用いる環状エステル化合物としてはあまり好ましくない。
【0034】
(アルキレンオキシド)
本発明で用いるアルキレンオキシドは、炭素数2〜20を有するアルキレンオキシドが好ましい。本発明に用いるアルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、スチレンオキシド、オキセタン、シクロペンタンオキシド、シクロヘキセンオキシド、炭素数5〜20のα−オレフィンオキシドなどを挙げることができ、これらから選ばれる1種または2種以上を用いることができる。本発明ではエチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、スチレンオキシド、およびオキセタンから選ばれる1種または2種以上を用いることが好ましい。また、エチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドを少量のテトラヒドロフランとともに用いて重合反応を行うこともできる。本発明ではエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのいずれかを用いるか又は両者を併用することが好ましい。
【0035】
(ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の製造に用いる共重合の態様)
上記開始剤およびDMC触媒の存在下、反応容器内に上記アルキレンオキシドの1種以上と、上記環状エステル化合物の1種以上とを同時に添加して重合を行い、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)のランダム共重合体を得ることができる(ランダム共重合体)。また、アルキレンオキシドの1種以上と、環状エステル化合物の1種以上とを順次添加してポリエーテルエステルポリ(モノ)オール(a1)のブロック共重合体を得ることもできる(ブロック共重合体)。さらには、環状エステル化合物およびアルキレンオキシドの添加順序及び添加量などを調節することより、分子内の一部に環状エステルに由来するポリエステル鎖部分および/またはポリオキシアルキレン鎖部分を導入して、ランダム共重合部位とブロック共重合部位が同一分子中に存在するポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)を得ることができる(ランダム・ブロック共重合体)。ポリエステル鎖部分を分子内に均一に導入することにより、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)を低粘度化でき、かつ生分解性や耐熱性を向上できるため、本発明においてはランダム共重合体、ランダム・ブロック共重合体を用いることが好ましい。
【0036】
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の製造においては、環状エステル化合物とアルキレンオキシドの全質量に対する環状エステル化合物の割合は5〜90質量%が好ましく、5〜70質量%がさらに好ましい。環状エステル化合物の使用量を5質量%以上にすることにより、得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)を用いたグリース組成物の潤滑寿命および/または生分解性を高めることができる。一方、環状エステル化合物の使用量を90質量%以下にすることにより、得られるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の分子量分布(Mw/Mn)を1.4以下にしやすくなり、したがって、粘度の低いポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)が得やすくなる。
【0037】
(重合方法及び重合条件)
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)は、上述のとおり、上記開始剤およびDMC触媒の存在下に、環状エステル化合物およびアルキレンオキシドを共重合反応させる。この反応は一般に、耐圧反応容器を用い、容器中に開始剤とDMC触媒を入れ、所定の反応温度に加熱した後、環状エステル化合物とアルキレンオキシドを同時に、または順次に、あるいは両者を組み合わせて反応容器内に導入し、加熱撹拌下で共重合反応させる。環状エステル化合物とアルキレンオキシドの反応容器内への添加は、連続して行うことも、所定量を順次添加することもできる。
【0038】
環状エステル化合物とアルキレンオキシドの反応容器内への添加方法としては、反応混合物液相部への直接添加もしくは反応容器内気相への添加、または両者の併用、をあげることができる。環状エステル化合物とアルキレンオキシドは個別に、または、混合物として反応容器内に添加することができる。
【0039】
上記共重合反応温度は125〜180℃の範囲が好ましく、125〜160℃の範囲がさらに好ましい。重合温度を125℃以上にすることにより、アルキレンオキシドとともに環状エステル化合物を充分速い速度で反応させることができ、それにより最終生成物であるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)中に含まれる未反応の環状エステル化合物の量を低くでき、しかも目的としたモノマー組成を有するポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)を得ることができる。一方、重合温度を180℃以下にすることにより、DMC触媒の活性を高く保つことができ、未反応のアルキレンオキシドや環状エステル化合物の発生を防止でき、しかもポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の分子量分布を狭くすることができる。
【0040】
上記共重合反応においては、重合反応に悪影響を及ぼさない溶媒を用いることができる。しかし、溶媒の使用は任意であり、反応溶媒を用いないことが好ましい。反応溶媒を用いないことにより、最終生成物であるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)からの溶媒除去工程も不要となり生産性を高めることができる。また、溶媒に含まれる水分や酸化防止剤の影響によってDMC触媒の重合活性が低下する場合があり、溶媒を用いないことによって、そのような不都合の発生を防止できる。
【0041】
上記共重合反応においては、反応混合物の撹拌条件に制約はないが、反応混合物の良好な撹拌条件下で重合反応を行うことが好ましい。反応容器内を均一に混合できること、対応できる粘度範囲が広いこと、および気相界面から液相へのガス吸収性能が高いことから大型翼が好ましい。具体的な好ましい撹拌翼としては、神鋼パンテック株式会社製フルゾーン(登録商標)翼、住友重機械工業株式会社製マックスブレンド(登録商標)翼などを挙げることができる。
【0042】
具体的な環状エステル化合物およびアルキレンオキシドの反応器への供給速度としては、最終生成物として予定しているポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の全質量に対して0.01〜70質量%/hrの範囲の速度が好ましい。なお、環状エステル化合物とアルキレンオキシドの供給速度は同一でも、異なっていてもよい。また、重合反応途中で、環状エステル化合物および/またはアルキレンオキシドの反応容器への供給速度を変えることも本発明の範囲内である。
【0043】
上記共重合反応はバッチ法で行うことも、また、連続法で行うこともできる。
【0044】
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の分子量分布(Mw/Mn)は1.02〜1.4が好ましい。また、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の数平均分子量(Mn)は200〜100000にすることが好ましく、500〜20000にすることが特に好ましい。ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の数平均分子量(Mn)を200以上にすることによって、重合体に占める環状エステル化合物由来の重合単位数を多くでき、それによって生分解性を向上できる。また、数平均分子量(Mn)を100000以下にすることによって、生分解性グリース組成物の基油として高すぎることのない適度な粘度にすることができる。
【0045】
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の数平均分子量(Mn)を上記好ましい範囲に調節することは、用いる開始剤のモル数に対して、共重合させる環状エステル化合物およびアルキレンオキシドのモル数を調節することによって行うことができる。
【0046】
(生分解性グリース組成物)
上記記載の原料および方法を用いて製造したポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)を基油として用い、さらに必要に応じてその他の添加剤を加えて本発明の生分解性グリース組成物を調製できる。本発明のポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)は、分子内にエステル結合を有し、微生物による生分解を受けやすいという特徴を有する。ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)を基油(A)として用いた本発明の生分解性グリース組成物の生分解性は、欧州規格諮問委員会規格(CEC規格)のL−33−A−93(1993年)のBiodegradability of Two−stroke Cycle Outboard Engine Oils in Water(「水中での2ストロークサイクル船外エンジン用オイルの生分解性試験方法」)に準拠して評価し、生分解率(%)により表わす。自然環境に放出された場合の分解が速いほど環境への負荷が小さくなり、環境保護の観点からは好ましい。したがって、本発明の生分解性グリース組成物は生分解率(%)が高いほうが好ましく、28日試験後の結果が60%以上の生分解率を有することが好ましい。
【0047】
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)を生分解性グリース組成物の基油(A)として用いる場合、増ちょう剤などを含めた生分解性グリース組成物全体に対して、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)が10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上が特に好ましい。生分解性グリース組成物に含まれるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の割合を10質量%以上にすることにより生分解性グリース組成物の生分解性を高くでき、さらに酸化抑制効果を高めることもできる場合が多い。また、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)中に含まれる環状エステル化合物由来単位数を多くしていくと、室温で固体状となって耐水性が高くなることから、添加剤を多量に加えることなく、または実質的に添加剤を加えることなく生分解性グリース組成物として使用することもできるようになる。
【0048】
上述のとおり、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)に含まれる環状エステル化合物由来単位の割合を多くすることによって、生分解性グリース組成物の生分解率を高くすることができる。また、生分解性グリース組成物中に含まれるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の含有量を多くするほど、生分解性グリース組成物の生分解率も高くなる。したがって、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の化学構造の調節、特に環状エステル化合物由来単位の含有量と、生分解性グリース組成物中に含有させるポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の量とを適宜調整することによって、生分解性グリース組成物の生分解率を所望の値にすることができる。
【0049】
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)は、生分解性グリース組成物に対して所望する生分解性を保てる範囲で、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)以外のグリース組成物用基油(a2)と併用することができる。併用する基油(a2)としては、植物由来の基油、多価アルコールとカルボン酸との反応によって得られるポリオールエステル油およびモノオールとカルボン酸との反応によって得られるエステル化合物からなる群から選ばれることが好ましい。植物由来の基油としては、大豆油、ヒマワリ油、サフラワー油、とうもろこし油、メドウフォーム油、菜種油、ヒマシ油、米ぬか油、オリーブ油などの植物油またはそれらを遺伝学的に変性した植物油が挙げられる。多価アルコールとカルボン酸との反応により得られるポリオールエステル油としてはグリセリントリオレエートなどが挙げられる。また、生分解率が所望の値を下回らない範囲で鉱物油、合成炭化水素油、ポリフェニルエーテル、シリコーン油などの合成油を併用することもできる。
【0050】
(a1)と(a2)を併用する場合、これらの合計量が、生分解性グリース組成物全体に対して10重量%以上が好ましく、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。また、(a1)と(a2)の割合は、(a1)/(a2)が5〜100/95〜0が好ましく、15〜100/85〜0がより好ましい。
【0051】
本発明の生分解性グリース組成物は、上記ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)を必須成分として含むほか、所望する本発明の効果が得られる範囲で、本技術分野で公知の各種添加剤を必要に応じて任意に添加することができる。そのような添加剤として、増ちょう剤、油性剤、極圧剤、および酸化防止剤などを挙げることができる。
【0052】
(増ちょう剤)
本発明の生分解性グリース組成物に用いうる増ちょう剤としては、一般にグリース組成物に用いられる公知ものを用いることができ、例えば、各種の金属石鹸(特にリチウム塩およびカルシウム塩)、ウレア、有機化ベントナイト、およびシリカなどが挙げられる。金属石鹸としては、12−ヒドロキシステアリン酸リチウム、リチウムコンプレックスなどが挙げられる。ウレアとしては脂肪族ジウレア、脂環式ジウレア、および芳香族ジウレアなどが挙げられる。有機化ベントナイトとしては、第4級アンモニウム塩で処理したモンモリロナイトなどが挙げられる。シリカとしては超微粒子のシリカ粉またはその表面処理したタイプのものが挙げられる。生分解性グリース組成物へ増ちょう剤を添加する場合、添加量は、通常、生分解性グリース組成物中0.1〜20質量%が好ましく、0.1〜15質量%がより好ましい。
【0053】
(油性剤)
本発明の生分解性グリース組成物に用いる油性剤としては、界面活性剤、有機脂肪酸化合物、および有機脂肪酸誘導体などを挙げることができる。界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系、および両性界面活性剤のいずれを用いることもできる。本発明に用いる具体的な界面活性剤としては、ソルビタンモノオレエートなどのソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、および脂肪酸アミドなどのノニオン系界面活性剤;N−アシルアミノ酸又はその塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩,アルキルスルホカルボン酸塩,アルキルリン酸又はその塩,ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸又はその塩,および芳香族リン酸エステルなどのアニオン系界面活性剤;アルキルアンモニウム塩、およびアルキルベンジルアンモニウム塩などのカチオン系界面活性剤;酢酸ベタイン、イミダゾリニウムベタインなどの両性界面活性剤があげられる。有機脂肪酸化合物としては、オレイン酸、アジピン酸、ナフテン酸、コハク酸、およびアルケニルコハク酸などがあげられる。有機脂肪酸誘導体としては、アルキルコハク酸エステル、およびアルケニルコハク酸エステルなどがあげられる。
本発明の生分解性グリース組成物には必要に応じて油性剤を添加することができるが、添加する場合の添加量は、一般に、生分解性グリース組成物中0.1〜50質量%が好ましく、0.1〜20質量%がより好ましく、0.1〜10質量%が特に好ましい。
【0054】
(極圧剤)
本発明の生分解性グリース組成物に用いる極圧剤としては、有機リン化合物、イオウ−リン系極圧剤(分子中にイオウとリンを含有する化合物)、塩素系化合物、イオウ系化合物、および有機モリブデン化合物などが挙げられる。有機リン化合物としては、リン酸エステル類、亜リン酸エステル類、正リン酸エステル類、および酸性リン酸エステル類などが挙げられ、具体例にはジチオリン酸亜鉛およびトリクレジルフォスフェイトなどがある。本発明の生分解性グリース組成物に極圧剤を添加する場合は、生分解性グリース組成物中0.01〜50質量%が好ましく、0.01〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がさらに好ましい。
【0055】
(酸化防止剤)
本発明の生分解性グリース組成物に用いる酸化防止剤としては、脂肪族アミン系化合物、芳香族アミン系化合物、フェノール系化合物、イオウ系化合物、およびジチオリン酸亜鉛などが挙げられ、具体例にはジオクチルジフェニルアミンなどがある。生分解性グリース組成物に酸化防止剤を添加する場合は、生分解性グリース組成物中、0.001〜10質量%が好ましく、0.001〜5質量%がより好ましい。
【0056】
(その他の添加剤)
本発明の生分解性グリース組成物にはその他の添加剤としてさび止め剤、金属腐食防止剤、および粘度指数向上剤などを任意に添加することもできる。さび止め剤としては石油スルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、およびソルビタンエステルなどが挙げられる。金属腐食防止剤としてはベンゾトリアゾールおよびベンゾチアジアゾールなどが挙げられる。粘度指数向上剤としてはポリメタクリレート、ポリイソブチレン、およびポリスチレンなどが挙げられる。
【0057】
上記の各種添加剤は、単独で用いることも、または2種以上を併用することもできる。本発明の生分解性グリース組成物に含有させる各種添加剤は、所望の効果が得られる量を適宜用いることができる。生分解性グリース組成物に対する各種添加剤の合算した添加量は、一般に0.5〜20質量%であることが好ましく、5〜20質量%が特に好ましい。
【0058】
本発明における生分解性グリース組成物は、JIS K 2220(1993年)に規定されている汎用のグリースの硬さを表す混和ちょう度が、5〜475の範囲であることが好ましい。
【0059】
〔実施例〕
以下に本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。また、試験に用いたポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の組成を表1に示した。また、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の水酸基価はJIS K1557 6.4(1970年)に準拠して測定した値(単位はmgKOH/gであり以下では数値のみ示す。)であり、酸価はJIS K1557 6.6に準拠して測定した値である。
【0060】
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の動粘度は、ガラス製毛管式粘度計であるキャノン−フェンスケ粘度計を用いて測定した値である。測定温度は40℃とした。
【0061】
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、分子量既知の標準ポリスチレン試料を用いて作成した検量線を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを測定することによって得られたポリスチレン換算分子量である。
【0062】
ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)に含まれるDMC触媒由来の金属量は、以下のように測定した:触媒を含むポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)の所定量を三角フラスコに採取し、イオン交換水100mL、濃塩酸と濃硝酸をそれぞれ20mL加え、さらに沸石を入れて3時間煮沸した。さらに、三角フラスコに濃塩酸を10mL加えて2時間煮沸後、ADVANTEC社製No.5Aのろ紙でろ過し、さらに希釈後、ICP発光分析法により分析した。
基油の酸化安定性は、JIS K2514潤滑油―酸化安定度試験方法(150℃、500h、触媒なし)に準拠して行った。下記の式を用いて、全酸価の増加および粘度比を求めた。
全酸価の増加=試験後酸価(mgKOH/g)−試験前酸価(mgKOH/g)
粘度比=試験後動粘度(mm/s(40℃))/試験前動粘度(mm/s(40℃))
【0063】
(生分解率の測定)
潤滑油組成物の生分解率(%)は、欧州規格諮問委員会規格(CEC規格)のL−33−A−93(1993年)のBiodegradability of Two−stroke Cycle Outboard Engine Oils in Water(水中での2ストロークサイクル船外エンジン用オイルの生分解性試験方法)に準じて測定した。
すなわち2本の500mlの三角フラスコ中に、それぞれ同じ潤滑油組成物サンプル7.5μlと、栄養液150mlとを入れる。一方のフラスコには、微生物液として都市下水処理用の活性汚泥1mlを加え(活性汚泥処理サンプル)、他方のフラスコには上記活性汚泥1mlを加えない(対照サンプル)。活性汚泥処理サンプル1つと対照サンプル1つを1組とし、これを2組準備する。1組は初期油量測定用サンプルとする。他方の1組の2つのフラスコの口をフィルタでふさいだ状態で、両フラスコを25℃で14日間、振とう培養法で好気培養する。初期油量測定用サンプルおよび培養試験後のサンプルから油を25mlの有機溶媒で抽出し、赤外線分光光度計を用いて測定したCH3−CH2 結合の量からフラスコ中の油量を求め、下記式により生分解率(%)を計算した。28日間振とう培養した後の生分解率(%)も同様に測定した。
生分解率(%)=
{(活性汚泥処理サンプル初期油量−活性汚泥処理サンプル培養後油量)
−(対照サンプル初期油量−対照サンプル培養後油量)}÷(活性汚泥処理サンプル初期油量)×100
【0064】
(耐荷重能)
グリース組成物の耐荷重能は、JISK2220 5.16に準拠し、チムケン式極圧試験機により設定の荷重で10分間試験後、試験ブロックの摩耗痕の状態からOK荷重(kg)を求めた。
【0065】
(混和ちょう度の測定)
グリース組成物の混和ちょう度は、JIS K2220 5.3に準拠し、試料を規定混和器で25℃に保ってから、60往復混和した直後に、規定円錐が試料に進入する深さを測定した。数値は、進入深さミリメートルの10倍値である。
【0066】
(水への溶解性試験)
グリース組成物の水への溶解性は、ポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)をイオン交換水に加え、1質量%の希釈液にした時の溶解性を目視により観察し、その状態を記録した。
【0067】
〔複合金属シアン化物錯体触媒の調製〕
500mLのフラスコ中に塩化亜鉛10.2gとイオン交換水10gからなる水溶液を調製する。次に、カリウムヘキサシアノコバルテート(K[Co(CN)])4.2gとイオン交換水75gからなる水溶液を40℃に保温しつつ、毎分300回転で撹拌しながら上記塩化亜鉛水溶液を30分間かけて滴下して加えた。滴下終了後、さらに30分撹拌した後、tert−ブチルアルコール(以下、TBAと記す。)80g、イオン交換水80gおよびジプロピレングリコールにプロピレンオキシドを付加重合して得られた数平均分子量が1000のポリオール(以下、ポリオールXと記す。)0.6gの混合物を添加し、40℃で30分、さらに60℃で60分間撹拌後、直径125mmの円形ろ板と微粒子用の定量ろ紙(ADVANTEC社製、No.5C)を用い、0.25MPaの加圧下でろ過を行い、50分ほどで固体を分離した。
次いで、この複合金属シアン化物錯体を含むケーキにTBA36gおよびイオン交換水84gの混合物を添加してから30分撹拌後、15分間加圧ろ過を行った。この結果得られた複合金属シアン化物錯体を含むケーキに、さらにTBA108gおよびイオン交換水12gの混合物を添加して30分撹拌し、複合金属シアン化物錯体を含むTBAのスラリーを得た。
このスラリーにポリオールXを100g添加混合した後、80℃で3時間、更に115℃で4時間減圧乾燥し、TBAを有機配位子として有する複合金属シアン化物錯体触媒(スラリー触媒c)を得た。スラリー触媒c中の複合金属シアン化物錯体の濃度は4.10質量%であった。
【0068】
〔合成例1〕「ε−カプロラクトンとプロピレンオキシドのランダム共重合体であるポリエステルエーテルジオール(p1)の製造」
撹拌機付きのステンレス製10L耐圧反応器内に、開始剤として数平均分子量(Mn)400のポリエチレングリコール1000gと、スラリー触媒cを6100mg(金属量として25.5mg)を投入した。耐圧反応器内を窒素ガスで置換後、140℃に昇温し、続いて100gのプロピレンオキシドを反応器内に供給して重合反応させた。反応器内の圧力が低下した後、撹拌下、約140℃に反応器内温を保ちながら、1900gのプロピレンオキシドと2000gのε−カプロラクトンをいずれも約250g/hrの速度で同時に反応器内に約8時間にわたって供給し、供給終了後、さらに1時間撹拌を続けて共重合反応を行った。
得られたポリエステルエーテルジオール(p1)の水酸基価は56.0、分子量分布(Mw/Mn)は、1.15であり、外観は常温で微白濁液体であった。
【0069】
〔合成例2〕「ε−カプロラクトンとエチレンオキシドのランダム共重合体であるポリエステルエーテルジオール(p2)の製造」
合成例1と同じポリエチレングリコールを200g、エチレンオキシド2400g、およびε−カプロラクトン2400gを用いた以外は、実施例1と同様に共重合反応を行った。この反応によって得られたポリエステルエーテルジオール(p2)の水酸基価は11.5、分子量分布(Mw/Mn)は、1.32であり、外観は、常温で微白濁粘ちょう固体であった。
【0070】
〔合成例3〕「ε−カプロラクトンとエチレンオキシドのブロック・ランダム共重合体であるポリエステルエーテルジオール(p3)の製造」
反応器に合成例1と同じポリエチレングリコール1000gと、スラリー触媒cを6100mg(金属量として25.5mg)投入した。反応器を窒素ガスで置換後、140℃に昇温した。その後、1000gのエチレンオキシドを約125g/hrの速度で、2000gのε−カプロラクトンを約250g/hrの速度で同時に反応器内に供給して約140℃で共重合させた。反応器内の圧力が低下した後、さらに1000gのエチレンオキシドを約125g/hrで供給し、供給後さらに1時間撹拌を続けて反応させた。
この共重合反応によって得られたポリエステルエーテルジオール(p3)の水酸基価は55.8、分子量分布(Mw/Mn)は、1.28であり、外観は、常温で微白濁粘凋状液体であった。
【0071】
〔合成例4〕「ε−カプロラクトンとエチレンオキシドのランダム共重合体であるポリエステルエーテルモノオール(p4)の製造」
開始剤としてラウリルアルコール1000gを用い、エチレンオキシドとε−カプロラクトンの添加量をいずれも2000gに変更した以外は、合成例2と同様の方法にしたがい、共重合反応を行った。
この反応によって得られたポリエステルエーテルモノオール(p4)の水酸基価は55.9であり、分子量分布(Mw/Mn)は、1.08であり、外観は常温で微白濁粘ちょう状液体であった。
【0072】
合成例1〜4で得た(p1)〜(p4)の性状を表1Aに示す。また、(p1)〜(p4)、パラフィン系鉱物油または菜種油100質量部を基油とした場合の動粘度、酸化安定性試験前後での粘度比、全酸価の増加度を表1Bに示す。また、(p4)20質量部とグリセリントリオレエート62.5質量部の混合物を基油とした場合の値も示す。
【0073】
〔実施例1〕
ポリエステルエーテルジオール(p1)82.5質量部を基油として用い、これにリチウム石鹸10質量部とポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル3質量部とを加えて加熱し、撹拌した後、ロールミルを用いて混練処理した。これにさらに表2に記載の添加剤を加えてから、再度撹拌することによりグリース組成物(g1)を調製した。BHTはブチルヒドロキシトルエンである。
このグリース組成物(g1)の生分解率(%)は75%(14日後)、86%(28日後)であり、混和ちょう度は310、耐荷重能は10.9kgであった。また、グリース組成物(g1)の水への溶解試験を行ったところ(イオン交換水に1重量%希釈)、水との混合物はエマルションとなった。
【0074】
〔実施例2〜5〕
表2に示した基油、添加剤を用いて実施例1と同様の方法にしたがい、グリース組成物(g2)〜(g5)を調製した。これらのグリース組成物(g2)〜(g5)の性状を表2に示す。
【0075】
〔実施例6〕
ポリエステルエーテルモノオール(p4)20質量部にグリセリンのトリオレエート(動粘度は56mm/s(40℃)、水酸基価2.6、酸価12)62.5質量部を加えた混合物を基油とした以外は実施例1と同様に添加剤を加え、グリース組成物(g6)を得た。このグリース組成物(g6)の性状を表2に示す。
【0076】
〔比較例1〜2〕
鉱物油(パラフィン系鉱物油;動粘度は28mm/s(40℃))、または、菜種油(動粘度36mm/s(40℃))を基油とした以外は、実施例1と同様の方法を用いて表2に示した添加剤を加え、グリース組成物(gs1)〜(gs2)を得た。これらのグリース組成物(gs1)〜(gs2)性状を表3に示す。
【0077】
表1中の開始剤とアルキレンオキシドの量を示す数値の単位は「g」であり、表2および表3中の原材料の量を示す数値は質量部である。
【0078】
【表1A】

【表1B】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
表2〜3に示すように、実施例1〜6のポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)(p1〜p6)を基油とする、または基油として含むグリース組成物は、鉱物油や菜種油のみを基油とした比較例1〜2のグリース組成物に比べ、生分解率が高く、流動性と酸化安定性にも優れていた。また、本発明のグリース組成物(g1〜g6)は水と混合した場合にはエマルション化するため、微生物に分解されやすい状態になることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のポリエステルエーテルポリ(モノ)オール(a1)を基油として含む生分解性グリース組成物は、屋外で使用する建設機械用や、船舶用の他、任意の用途に用いるためのグリース組成物として好ましい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
tert−ブチルアルコールを有機配位子の少なくとも一部として有する複合金属シアン化物錯体触媒の存在下で、1〜12個の水酸基を有する1種以上の開始剤の存在下、1種以上の炭素数3〜9の環状エステル化合物と1種以上の炭素数2〜20のアルキレンオキシドとを共重合して得られるポリエステルエーテルポリオールおよび/またはポリエステルエーテルモノオール(a1)を生分解性基油(A)として含む、生分解性グリース組成物。
【請求項2】
前記生分解性基油(A)とともに増ちょう剤を含む、請求項1記載の生分解性グリース組成物。
【請求項3】
前記共重合に用いる前記環状エステル化合物と前記アルキレンオキシドの合計質量に対し、前記環状エステル化合物の質量が5〜90%であり、かつ、前記ポリエステルエーテルポリオールおよび/またはポリエステルエーテルモノオール(a1)の分子量分布(Mw/Mn)が1.02〜1.4である、請求項1または2に記載の生分解性グリース組成物。
【請求項4】
生分解性グリース組成物中に前記ポリエステルエーテルポリオールおよび/またはポリエステルエーテルモノオール(a1)が10質量%以上含まれている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の生分解性グリース組成物。
【請求項5】
欧州規格諮問委員会規格(CEC規格)のL−33−A−93(1993年)による生分解性試験方法に準拠して測定した生分解率(%)が28日後で60%以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の生分解性グリース組成物。
【請求項6】
前記ポリエステルエーテルポリオールおよび/またはポリエステルエーテルモノオール(a1)以外のグリース組成物用基油(a2)をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の生分解性グリース組成物。
【請求項7】
前記グリース組成物用基油(a2)が、植物由来の基油、多価アルコールとカルボン酸との反応によって得られるポリオールエステル油およびモノオールとカルボン酸との反応によって得られるエステル化合物からなる群から選ばれる、請求項6に記載の生分解性グリース組成物。
【請求項8】
前記複合金属シアン化物錯体触媒が、tert−ブチルアルコール単独、または、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、tert−ペンチルアルコール、iso−ペンチルアルコール、N,N−ジメチルアセトアミド、およびエチレングリコール−モノ−tert−ブチルエーテルからなる群から選ばれる1種以上とtert−ブチルアルコールとの組み合わせを有機配位子として含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の生分解性グリース組成物。


【公開番号】特開2007−63504(P2007−63504A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254607(P2005−254607)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】