説明

生分解性フェロモンディスペンサー

【課題】フェロモンの放出制御性に優れた生分解性フェロモンディスペンサーを提供する。
【解決手段】フェロモン液からなる液相と、該液相と外部とを区画する樹脂膜を備える容器と、を備え、前記樹脂膜が、下記一般式(I)[式中、mは2以上の整数であり、nは1以上の整数であり、Nは繰り返し単位数を示し、m/nの平均値は2以下である。]で表される脂肪族ポリエステルから構成され、前記樹脂膜の、前記液相と接する面の少なくとも一部に吸液シートが密着している生分解性フェロモンディスペンサー。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性フェロモンディスペンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農作物の害虫の特定の繁殖期に防除することができる害虫駆除法の一つとして、昆虫フェロモンを利用した害虫防除法がある。昆虫フェロモンは、非常に少ない量で効果を示す、同種類間の害虫にしか効果を示さない、炭素、水素および酸素からなる比較的単純な化合物であり、自然界で容易に水と炭酸ガスに分解するので安全性が高い、などの特徴を有する。
昆虫フェロモンを利用した害虫防除法としては、トラップにフェロモン剤を仕込み、昆虫フェロモンにより誘引された害虫を捕殺する方法や、作物の栽培場所にフェロモン剤を設置して昆虫フェロモンを漂わせることにより昆虫の交信を錯乱させ、交尾を阻害する方法などがある。
このような方法においては、フェロモン剤から昆虫フェロモンが一定量以上、一定期間にわたり放出される徐放性が重要である。現在、報告されているフェロモン剤は、種々の支持体を利用しており、支持体に含浸または分散させる、支持体内部にフェロモン液を封入する等の手法が採用されている。
支持体としては、プラスチック等の樹脂が一般的に用いられている。また、結晶性鉱物を用いることも提案されている(特許文献1)。
フェロモン剤の形態としては、支持体中にフェロモンを分散させたもの、支持体中にフェロモン液を内蔵させたもの等があり、後者の例として、マイクロカプセル(たとえば特許文献2)、フェロモンディスペンサー(たとえば特許文献3〜4)等がある。
これらのうち、支持体として結晶性鉱物を利用したフェロモン剤は、通常その製造過程で高温による焼成が必要であり、コスト高となる。マイクロカプセルは、コスト高であり、また、自然環境での生分解性が遅く環境への負荷が大きい。
【0003】
フェロモンディスペンサーは、バッグ状、チューブ状、ボトル状等のプラスチック容器にフェロモン液を内蔵させたもので、木の枝等に取り付けて用いられる。フェロモンディスペンサーにおいて昆虫フェロモンは、プラスチック容器の壁(放出制御層)を拡散、透過し、蒸気として大気中に放出される。そのため、フェロモンディスペンサーからの昆虫フェロモンの放出性は、主に、プラスチック容器の材質や厚み、表面積等により制御されている。
フェロモンディスペンサーのプラスチック容器には、従来、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルなどが用いられていた。しかしこれらは生分解性を有さないため、そのまま放置すると環境への負荷が大きく、使用後に回収する必要がある。
そこで、プラスチック容器の材質として生分解性プラスチックを用いたフェロモンディスペンサーが提案されている。たとえば特許文献5では、3−ヒドロキシ酪酸を主成分とする特定の重合体からなる厚さ15μm以上の均質膜を放出制御層として用いた徐放性フェロモン製剤が開示されている。特許文献6では、特定の脂肪族ポリエステルを、液相として内蔵するフェロモンの放出制御層として用いた生分解性フェロモンディスペンサーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−97142号公報
【特許文献2】特開2006−273773号公報
【特許文献3】特開平11−225646号公報
【特許文献4】特開2001−120146号公報
【特許文献5】特開平5−163110号公報
【特許文献6】特開平10−017407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献5に記載の重合体を含め、ポリエステルは一般的に、その構造中にあるエステル結合が静電気的結合により分子鎖同士を強固に結びつけあっているため、フェロモン分子がポリマーセグメントの間隙を拡散することが難しく、結果的にポリエステル中のフェロモンの透過性を低いものにしている。そのため、プラスチック容器の壁の厚みを極端に薄くするかあるいは放出表面積を大きくしなければならないなどの制約がある。
特許文献6に記載の脂肪族ポリエステルは、主鎖構造中のエステル結合同士の間隔が開けることでフェロモンの透過性を向上させている。しかし、プラスチック容器の壁の厚みを薄くするかあるいは放出表面積を大きくした場合、初期の段階でフェロモンが多量に放出され、放出量が次第に減少する問題が生じる。
このような事情から、プラスチック容器の制約が少なく、有害生物またはその生息地域に施用した際に、一定量のフェロモンを長期間にわたり徐々に放出する放出制御性と、効果終了後に回収の必要が無い生分解性とを合わせ持つフェロモンディスペンサーが求められる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、フェロモンの放出制御性に優れた生分解性フェロモンディスペンサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明は以下の態様を有する。
[1]フェロモン液からなる液相と、該液相と外部とを区画する樹脂膜を備える容器と、を備え、
前記樹脂膜が、下記一般式(I)で表される脂肪族ポリエステルから構成され、
前記樹脂膜の、前記液相と接する面の少なくとも一部に吸液シートが密着している生分解性フェロモンディスペンサー。
【0007】
【化1】

[式中、mは2以上の整数であり、nは1以上の整数であり、Nは繰り返し単位数を示し、m/nの平均値が2以下である。]
【0008】
[2]前記容器は、開口部を有さない形状である、[1]に記載の生分解性フェロモンディスペンサー。
[3]前記樹脂膜の厚みが10μm以上1000μm以下である、[1]または[2]に記載の生分解性フェロモンディスペンサー。
[4]前記一般式(I)中のmが4である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の生分解性フェロモンディスペンサー。
[5]前記脂肪族ポリエステルが、ポリブチレン・サクシネートおよびポリブチレン・サクシネート・アジペートから選ばれる少なくとも1種を主成分とする、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の生分解性フェロモンディスペンサー。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フェロモンの放出制御性に優れた生分解性フェロモンディスペンサーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態の生分解性フェロモンディスペンサー1の概略断面図である。
【図2】生分解性フェロモンディスペンサー1を構成する第一の樹脂シート3を、該第一の樹脂シート3が有する凹部の開口側から見た正面図である。
【図3】実施例1、比較例1〜2の結果を示すグラフである。
【図4】実施例2〜4の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の生分解性フェロモンディスペンサーについて、実施形態例を示して説明する。ただし本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
[第一の実施形態]
図1に、本実施形態の生分解性フェロモンディスペンサー1を示す。図1は、生分解性フェロモンディスペンサー1の概略断面図である。図2は、生分解性フェロモンディスペンサー1を構成する第一の樹脂シート3を、該第一の樹脂シート3が有する凹部3aの開口側から見た正面図である。
生分解性フェロモンディスペンサー1は、フェロモン液2と、凹部3aを有する第一の樹脂シート3と、凹部3aの開口を封止する第二の樹脂シート4と、凹部3aの底面に密着した吸液シート5と、から構成され、第一の樹脂シート3および第二の樹脂シート4により袋状の容器が形成されている。
フェロモン液2は、第一の樹脂シート3の凹部3aと第二の樹脂シート4とによって形成された空間内に収容され、当該生分解性フェロモンディスペンサー1の外部と区画されている。
【0013】
第一の樹脂シート3および第二の樹脂シート4は、それぞれ、下記一般式(I)で表される脂肪族ポリエステル(以下、脂肪族ポリエステル(I)という。)から構成される樹脂膜からなる。
ここで、脂肪族ポリエステルとは、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、脂肪族ヒドロキシカルボン酸およびそれらの無水物から選ばれる少なくとも1種のカルボン酸類と、脂肪族ジオールおよび脂環式ジオールから選ばれる少なくとも1種のジオールとの重縮合により得られる重合体(重縮合体)を示す。
脂肪族ポリエステル(I)は、カルボン酸類、ジオールとして、それぞれ、炭素数3以上の直鎖状の飽和脂肪族ジカルボン酸およびその無水物から選ばれる少なくとも1種、炭素数2以上の直鎖状の飽和脂肪族ジオールを用いたものである。
【0014】
【化2】

[式中、mは2以上の整数であり、nは1以上の整数であり、Nは繰り返し単位数を示し、m/nの平均値が2以下である。]
【0015】
一般式(I)中、−(CH−はジオールに由来し、−(CH−はカルボン酸類に由来する。
mとしては、2〜6が好ましく、2〜4がより好ましく、生分解性が良好であることから4が特に好ましい。
nとしては、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましく、2が特に好ましい。
前記ジオールとして具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ノナメチレングリコール、デカメチレングリコール等が挙げられ、1,4−ブタンジオールが特に好ましい。
前記カルボン酸類として具体的には、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、無水アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等が挙げられる。これらの中でも、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、無水アジピン酸から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
m/nは3以下が好ましい。
Nの値は、特に限定されず、2の整数が好ましい。
Nが2以上の整数である場合、式(I)中の複数のm、nはそれぞれ同じであっても異なってもよい。すなわち、脂肪族ポリエステル樹脂(I)に用いられるジオール、カルボン酸類は、それぞれ、1種でも2種以上であってもよい。
【0016】
上記構造中のジオールに由来するアルキレン基の炭素原子数mと、カルボン酸類に由来するアルキレン基の炭素原子数nとの比(m/n)の平均値を2以下とすることにより、フェロモンの透過を安定化できる。この比率が2を超えるとフェロモンの透過性が極端に上昇し、フェロモンが初期で多く放出されてしまい、フェロモン製剤として不適である。
m/nの平均値の下限は、特に限定されないが、1以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。1未満ではフェロモンの放出が充分に行われないおそれがある。
ここで、m/nの平均値とは、脂肪族ポリエステル(I)を構成する繰り返し単位(下記一般式(Ia)で表される繰り返し単位)1つあたりの値であり、脂肪族ポリエステル(I)が、m、nのいずれか一方または両方が異なる複数の繰り返し単位を有する場合、各繰り返し単位の割合に応じた加重平均を示す。すなわち、各繰り返し単位のm/nの値に、全体を1としたときの各繰り返し単位の割合(Nに対する当該繰り返し単位の数)を乗じた値の合計を示す。
【0017】
【化3】

【0018】
第一の樹脂シート3および第二の樹脂シート4にそれぞれ含まれる脂肪族ポリエステル(I)は、1種でも2種以上でもよい。
脂肪族ポリエステル(I)としては、特に、ポリブチレン・サクシネートおよびポリブチレン・サクシネート・アジペートから選ばれる少なくとも1種を主成分とするものが好ましい。
「主成分」とは、当該脂肪族ポリエステル(I)の全量(100質量%)に対する割合が50質量%以上であることを示す。
ポリブチレン・サクシネートは、コハク酸と1,4−ブタンジオールとの重縮合体であり、たとえば昭和電工(株)から商品名:ビオノーレ1000シリーズとして市販されているもの、三菱化学(株)から商品名:GS Plaシリーズとして市販されているもの等が挙げられる。具体的には、ビオノーレ1001、ビオノーレ1010、GS Pla AX91T、GS Pla AD92W等が挙げられる。
ポリブチレン・サクシネート・アジペートはコハク酸とアジピン酸と1,4−ブタンジオールとの重縮合体であり、たとえば昭和電工(株)から商品名:ビオノーレ3000で市販されているもの等が挙げられる。具体的には、ビオノーレ3001、ビオノーレ3010等が挙げられる。
【0019】
脂肪族ポリエステル(I)には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤、たとえば耐候性を向上させるための顔料や染料、紫外線吸収剤や酸化防止剤などの各種安定剤、を配合しても良い。
【0020】
第一の樹脂シート3、第二の樹脂シート4それぞれの厚みは、安定した放出制御を行うためには、10μm以上とすることが好ましく、100μm以上とすることがより好ましい。フェロモン液2で保持されたフェロモンは、第一の樹脂シート3および第二の樹脂シート4を透過し、外部に放出される。該厚みが10μm未満の場合、フェロモンの過剰放出を引き起こすおそれがある。また、ピンホールが生じるおそれもある。
また、第一の樹脂シート3および第二の樹脂シート4の厚みは、1000μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがより好ましい。1000μmを越えるとフェロモンの放出が過小となり、放出面積を過大にしなければならず実用的でない。
【0021】
吸液シート5は、フェロモン液2を吸収可能であって、その吸液性が、第一の樹脂シート3、第二の樹脂シート4それぞれを構成する樹脂膜の吸液性よりも高いものであればよい。
吸液シート5としては、たとえば不織布、織布等の繊維布帛、多孔質シート等が挙げられる。
吸液シート5を構成する材質は、生分解性を有するものが好ましい。このような材質としては、コットン等の天然繊維、ポリ乳酸、ポリブチレン・サクシネート、ポリブチレン・サクシネート・アジペート等の生分解性プラスチックが挙げられる。
吸液シート5としては、特に、生分解性不織布が好ましい。生分解性不織布としては、コットン由来の不織布、結着樹脂を使用していない天然繊維からなるクレープ紙などが挙げられる。これらの中でも、加工時の耐熱性の点で、コットン由来の不織布が好ましい。
吸液シート5は熱圧着等により第一の樹脂シート3の表面に密着させることができる。
【0022】
本実施形態においては、この吸液シート5により、フェロモンの放出量を制御できる。
本発明者らは、フェロモンの放出量は、フェロモン単体の蒸発量とフェロモンの樹脂膜透過量の関係により決定されていると考えた。つまり、(フェロモン膜透過量)<(フェロモン蒸発量)であれば、常時安定してフェロモンがディスペンサー表面より放出され、ディスペンサー表面にフェロモンが供給される限り、安定した放出が行われる。逆に、(フェロモン膜透過量)>(フェロモン蒸発量)であると、ディスペンサー表面に染み出てくるフェロモンが蒸発できずに滞留する状況になり、初期にはフェロモンが大量に放出されるが、ディスペンサー内部より供給されるフェロモンの減少に伴い、放出量が徐々に減少してしまう。
本実施形態においては、容器3を構成する樹脂膜(第一の樹脂シート3、第二の樹脂シート4)の、フェロモン液2と接する面の一部(第一の樹脂シート3の凹部3aの底面)に吸液シート5を密着させることにより、フェロモンの樹脂膜の透過量を一定にすることができる。これにより、フェロモン蒸発量を一定状態に保ち、フェロモン液2が残り少なくなっても安定した放出状態を保つ事が出来る。
吸液シート5を密着させない場合、ディスペンサー内部のフェロモン液2が減少したとき等にフェロモンの放出量が極端に減少し、フェロモン液2の封入量に対して充分な期間、安定した放出状態が保てない。これは内部のフェロモン液2が減少した際、ディスペンサー内部で偏ってしまう等による、フェロモン液2と樹脂膜との接触面積の減少により起きると考えられる。
また、本発明においては、吸液シート5の面積を変化させることで、フェロモンの放出量や持続時間を変化させることができる。たとえば吸液シート5の面積を大きくすることで、フェロモンの放出量を大きくすることができる。また、吸液シート5の面積が小さくするほど、フェロモンが均一に放出されている時間を長くすることができる。
【0023】
フェロモン液2は、フェロモンを含有する液体である。
なお本明細書において「フェロモン」とは、昆虫が様々な交信の手段として体外に放出する化学物質、つまり昆虫フェロモンのことである。
フェロモン液2に含まれるフェロモンは、特に限定されるものではなく、性フェロモン、警報フェロモン、道標フェロモン、階級分化フェロモンなど、どのようなフェロモンを用いても良い。効率よく害虫防除を行うためには性フェロモンが好適である。
性フェロモンとしては、炭素原子数10〜20の不飽和脂肪族の炭化水素、アセテート、アルデヒド、アルコール、ケトン又はエポキシ化合物が知られており、通常、これらのうちの1種を単独で、又は2種以上の混合物として使用する。
具体的には、Z−7−ドデセニルアセテート、Z−8−ドデセニルアセテート、Z−9−ドデセニルアセテート、E,Z−7,9−ドデカジエニルアセテート、Z,Z−7,9−ドデカジエニルアセテート、E,E−8,10−ドデカジエノール、E−4−トリデセニルアセテート、Z−9−テトラデセニルアセテート、Z−9−テトラデセナール、Z−11−テトラデセニルアセテート、Z−11−テトラデセナール、Z−9−ヘキサデセナール、Z−11−ヘキサデセナール、Z,E−9,11−テトラデカジエニルアセテート、Z,E−9,12−テトラデカジエニルアセテート、Z−11−ヘキサデセニルアセテート、Z,Z−7,11−ヘキサデカジエニルアセテート、Z,E−7,11−ヘキサデカジエニルアセテート、E,E,Z−4,6,10−ヘキサデカトリエニルアセテート、E,E−10,12−ヘキサデカジエナール、Z,Z−3,13−オクタデカジエニルアセテート、E,Z−3,13−オクタデカジエニルアセテート、Z−7,8−エポキシ−2−メチル−オクタデセン、Z−13−イコセン−10−オン、E,E,Z−10,12,14−ヘキサデカトリエニルアセテート、E,E,Z−10,12,14−ヘキサデカトリエナール、Z−10−テトラデセニルアセテート、E,Z−4,10−テトラデカジエニルアセテート、14−メチル−1−オクタデセン、(R,Z)−5−(1−オクテニル)オキサシクロペンタン−2−オン、(R,Z)−5−(1−デセニル)オキサシクロペンタン−2−オン等を挙げることができる。
【0024】
上記フェロモンは、いずれかを単独で使用しても複数種を混合して使用してもよい。
生分解性フェロモンディスペンサー1に封入されるフェロモン液2の量は、使用期間、適用範囲等に応じて適宜設定できるが、好ましくは10mg以上、より好ましくは50mg以上である。封入量が10mg未満の場合、安定して充填することが困難である。
【0025】
以上、第一の実施形態を説明したが本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
たとえば、第一の実施形態では、1つの吸液シート5を第一の樹脂シート3の凹部の底面に密着させた例を示したが、たとえば吸液シート5を密着させるのは第二の樹脂シート4であってもよく、両方であってもよい。また、密着させる吸液シート5は複数であってもよい。
袋状の容器の例を示したが、これには限定されず、フェロモンを液相として内蔵するリザーバータイプの容器として公知の形状が採用できる。中でも、フェロモンが直接外気に接しないように、開口部を有さない形状のものが好ましい。このような形状の容器としては、上述した袋状のほか、チューブ状、ボトル状等が挙げられる。
【0026】
本発明の生分解性フェロモンディスペンサーは、作物体などの被処理体へ取り付けて用いられる。取り付けには従来公知の手段を用いることができる。
本発明の生分解性フェロモンディスペンサーは、被処理体への取付けが可能な治具を備えることが好ましい。該治具としては、スティック、フック、環状のフィラメント等が挙げられる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により説明するが、これに限定されるものではない。
<実施例1>
ポリブチレン・サクシネート(前記式(I)中のmが4、nが2でm/nの平均値が2である脂肪族ポリエステル)を用いて、140℃で2分間プレス成型により厚さ300μmのシートを作製した。このシートを縦横4cmの正方形に切り、第一の樹脂シートを作成した。また、該シートを縦横4cmの正方形に切り、第二の樹脂シートを作成した。
上記第一の樹脂シートの一方の面に3×3cmのコットン不織布を加熱により密着させた。その後、第一の樹脂シートのコットン不織布側の上に第二の樹脂シートを重ね、コットン不織布を挟むように3辺を熱圧着した袋状とした。この中にコナガの性フェロモンであるZ−9−ヘキサデセナール、Z−11−ヘキサデセン−1−オール、Z−11−ヘキサデセナール、Z−11−ヘキサデセニル=アセタートの混合フェロモン液を260mg充填した後、残った一辺を熱圧着により封をしてフェロモンディスペンサーを得た。
【0028】
得られたフェロモンディスペンサーを、25℃の恒温層内に入れ、重量の減少を測定し、その測定値から、一日のフェロモン放出量(mg/day)を求めた。その結果を図3に示す。図3に示すように、実施例1のフェロモンディスペンサーは、約1.8mg/日で約130日間均一に放出を続ける放出性に優れるものであった。
さらに、このディスペンサーを実験後に12ヶ月の間土中に埋蔵したところ、ボロボロとなっており、殆ど原形を留めないものであった。このことから、実施例1のフェロモンディスペンサー生分解性を有することが確認できた。
【0029】
<比較例1>
コットン不織布を使用しなかった以外は実施例1と同様にしてフェロモンディスペンサーを作製し、フェロモン放出性を評価した。
その結果、図3に示すように、一日のフェロモン放出量は、初期に4〜5mg/日で推移して徐々に減少する様子が見られ、長期間に一定量の放出状態を得る事ができなかった。
【0030】
<比較例2>
コットン不織布の加熱による密着を行わず、単に第一の樹脂シートと第一の樹脂シートの間に投入した以外は実施例1と同様にしてフェロモンディスペンサーを作製し、フェロモン放出性を評価した。
その結果、図3に示すように、一日のフェロモン放出量は、初期に2〜4mg/日で推移して徐々に減少する様子が見られ、長期間に一定量の放出状態を得る事ができなかった。
【0031】
<比較例3>
ポリブチレン・サクシネートの代わりに、前記式(I)中のmが1、nが2である脂肪族ポリエステルを用いた以外は実施例1と同様にしてフェロモンディスペンサーを作製し、フェロモン放出性を評価した。
得られたフェロモンディスペンサーを25℃の恒温層内に入れ、重量の減少を測定し、その測定値から、一日のフェロモン放出量(mg/day)を求めたところ、約0.01mg/dayであり、殆ど性フェロモンが放出されず、約90日間観察を続けたが重量変化は見られず、内部の薬液が減少する様子も見られなかった。
【0032】
<実施例2>
ポリブチレン・サクシネートを用いて、140℃で2分間プレス成型により厚さ300μmのシートを作製した。このシートを縦横8cmの正方形に切り、第一の樹脂シートを作成した。また、該シートを縦横8cmの正方形に切り、第二の樹脂シートを作成した。
上記第一の樹脂シートの一方の面に5×5cmのコットン不織布を加熱により密着させた。その後、第一の樹脂シートのコットン不織布側の上に第二の樹脂シートを重ね、コットン不織布を挟むように3辺を熱圧着した袋状とした。この中にコナガの性フェロモンであるZ−9−ヘキサデセナール、Z−11−ヘキサデセン−1−オール、Z−11−ヘキサデセナール、Z−11−ヘキサデセニル=アセタートの混合フェロモン液を400mg充填した後、残った一辺を熱圧着により封をしてフェロモンディスペンサーを得た。
【0033】
得られたフェロモンディスペンサーを、25℃の恒温層内に入れ、重量の減少を測定し、その測定値から、一日のフェロモン放出量(mg/day)を求めた。その結果を図4に示す。図4に示すように、実施例2のフェロモンディスペンサーは、約2.5mg/dayで約150日間均一に放出を続ける放出性に優れるものであった。
さらに、このフェロモンディスペンサーを実験後に12ヶ月の間土中に埋蔵したところ、ボロボロとなっており、殆ど原形を留めないものであった。このことから、実施例2のフェロモンディスペンサー生分解性を有することが確認できた。
【0034】
<実施例3>
第一の樹脂シートに密着させるコットン不織布の大きさを2×2cmとした以外は実施例2と同様にしてフェロモンディスペンサーを作製した。
得られたフェロモンディスペンサーについて、実施例2と同様にしてフェロモン放出性を評価したところ、図4に示すように、約1.1mg/dayで約350日間均一に放出を続ける放出性に優れるものであった。
さらに、このフェロモンディスペンサーを実験後に12ヶ月の間土中に埋蔵したところ、ボロボロとなっており、殆ど原形を留めないものであった。このことから、実施例3のフェロモンディスペンサー生分解性を有することが確認できた。
【0035】
<実施例4>
第一の樹脂シートに密着させるコットン不織布の大きさを3×3cmとした以外は実施例2と同様にしてフェロモンディスペンサーを作製した。
得られたフェロモンディスペンサーについて、実施例2と同様にしてフェロモン放出性を評価したところ、図4に示すように、約1.6mg/dayで約220日間均一に放出を続ける放出性に優れるものであった。
さらに、このフェロモンディスペンサーを実験後に12ヶ月の間土中に埋蔵したところ、ボロボロとなっており、殆ど原形を留めないものであった。このことから、実施例4のフェロモンディスペンサー生分解性を有することが確認できた。
【0036】
実施例2〜4の結果から、樹脂膜に密着させる不織布の大きさを変化させるだけで、一日のフェロモン放出量や、フェロモンが均一に放出されている時間を調節することができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
上記したところから明かである様に、本発明の生分解性フェロモンディスペンサーは、フェロモンを含む液相からフェロモンが安定放出されるため、長期間に渡る害虫防除が可能である。また、該液相と外部とを区画する樹脂膜が生分解性を有していることから、使用後回収する必要が無く省力的である。また、微生物により完全に分解されてしまうため土壌に残留することもなく環境の保護ができる。
【符号の説明】
【0038】
1…生分解性フェロモンディスペンサー、2…フェロモン液、3…第一の樹脂シート、4…第二の樹脂シート、5…吸液シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェロモン液からなる液相と、該液相と外部とを区画する樹脂膜を備える容器と、を備え、
前記樹脂膜が、下記一般式(I)で表される脂肪族ポリエステルから構成され、
前記樹脂膜の、前記液相と接する面の少なくとも一部に吸液シートが密着している生分解性フェロモンディスペンサー。
【化1】

[式中、mは2以上の整数であり、nは1以上の整数であり、Nは繰り返し単位数を示し、m/nの平均値が2以下である。]
【請求項2】
前記容器は、開口部を有さない形状である、請求項1に記載の生分解性フェロモンディスペンサー。
【請求項3】
前記樹脂膜の厚みが10μm以上1000μm以下である、請求項1または2に記載の生分解性フェロモンディスペンサー。
【請求項4】
前記一般式(I)中のmが4である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の生分解性フェロモンディスペンサー。
【請求項5】
前記脂肪族ポリエステルが、ポリブチレン・サクシネートおよびポリブチレン・サクシネート・アジペートから選ばれる少なくとも1種を主成分とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の生分解性フェロモンディスペンサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−250957(P2012−250957A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126560(P2011−126560)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】