説明

生分解性ブロックコポリマーを含む医学的物品

本発明は、生分解性ブロックコポリマーを含む生侵食性ポリマー領域を有する医学的物品を対象とする。生分解性ブロックコポリマーは、少なくとも1個の第1の生分解性ポリマーブロックと、第1の生分解性ポリマーブロックとは異なる少なくとも1個の第2の生分解性ポリマーブロックとを含む。生侵食性ポリマー領域は、少なくとも1個の第1の生分解性ポリマーブロックから形成される第1の相ドメインと、少なくとも1個の第2の生分解性ポリマーブロックから形成される第2の相ドメインとを含む。第1と第2の相ドメインの少なくとも一方は、分散相要素の形の不連続相ドメインであり、その実質的にすべてが1ミクロン未満である最長断面寸法を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願)
本願は2008年7月31日に出願された米国仮特許出願第61/085,130号からの優先権を主張する。この仮特許出願は、参照によりその全体が本明細書中に援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、医学的物品、より詳細には生分解性ポリマーを含む医学的物品に関する。
【背景技術】
【0003】
種々の最新技術の医療機器を含めて、種々の医学的物品が生分解性ポリマーからなり、又は生分解性ポリマーを含む。多数の生分解性ポリマーに付随する問題は、移植後、断片に分解し得ることである。脈管構造に移植すると、かかる断片は、塞栓形成を引き起こし、及び/又は梗塞をもたらすおそれがある。この断片化は、バルク侵食として知られる周知のプロセスのために生じる。バルク侵食では、強度損失が質量減少よりもはるかに速く起こり、断片化をもたらす。
【0004】
コポリマーは、ポリマーの重要な一クラスであり、多数の商業的応用例がある。その独特の諸性質のために、その使用は多種多様な医学的製品に及ぶ。具体例として、種々の最新技術の医療機器は、1種類以上の治療薬の容器として役立つコポリマー含有被膜を有する医療機器基材からなる。具体例としては、Boston Scientific Corp.(TAXUS)、Johnson&Johnson(CYPHER)などから市販されている薬剤溶出冠動脈ステントが挙げられる。これらの製品は、再狭窄(血管再閉鎖)に付随する平滑筋増殖の抑制に有効なプロファイルで抗再狭窄薬を放出するコポリマー含有被膜を有する金属拡張ステントに基づく。TAXUS薬剤溶出ステントにおけるポリマー担体技術は、薬物送達ステントコーティングに最適な諸性質をもたらす熱可塑性エラストマーであるポリ(スチレン−b−イソブチレン−b−スチレン)(SIBS)からなる。非特許文献1。SIBSなどのブロックコポリマーは、スチレンブロックに対応する硬質相ドメインとイソブチレンブロックに対応する軟質エラストマー相ドメインに相分離する傾向がある。このタイプのポリマーは、高強度エラストマー性を示す能力があるが、同時に溶媒及び/又は溶融に基づく加工技術などの技術を使用して加工することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S.Ranade et al.,”Physical characterization of controlled release of paclitaxel from the TAXUSTMExpress2TMdrug−eluting stent,”Journal of Biomedical Materials Research Part A,71 A(2004)625−634
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
薬剤組成物、並びに移植可能及び挿入可能な医療機器などの医学的物品、とりわけ、特に生分解性コポリマーを含む医学的製品を含めて、新規医学的製品が引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生分解性ブロックコポリマーを含む生侵食性(bioerodible)ポリマー領域を有する医学的物品を対象とする。生分解性ブロックコポリマーは、少なくとも1個の第1の生分解性ポリマーブロックと、第1の生分解性ポリマーブロックとは異なる少なくとも1個の第2の生分解性ポリマーブロックとを含む。生侵食性ポリマー領域は、少なくとも1個の第1の生分解性ポリマーブロックから形成される第1の相ドメインと、少なくとも1個の第2の生分解性ポリマーブロックから形成される第2の相ドメインとを含む。第1と第2の相ドメインの少なくとも一方は、分散相要素の形の不連続相ドメインであり、その実質的にすべてが1ミクロン未満の最長断面寸法を有する。
【0008】
本発明は、かかる医学的物品を製造する方法も対象とする。
【0009】
本発明の効果は、塞栓形成を引き起こし得る及び/又は梗塞をもたらし得る断片に分解しない生侵食性ポリマー領域を有する医学的物品を形成し得ることである。
【0010】
本発明のこれら及び他の態様、実施形態並びに効果は、詳細な説明とそれに続く特許請求の範囲を検討すると当業者にはすぐに明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、とりわけ、例えば、ABジブロック、ABAトリブロックコポリマーなど、2つの非混和相に相分離するブロックコポリマーから形成され得る幾つかの形態を模式的に示す図である。
【図2A】図2Aは、本発明に係る医学的物品の略図である。
【図2B】図2Bは、本発明の別の一実施形態に係る医学的物品の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、生分解性ブロックコポリマーを含む生侵食性ポリマー領域を有する医学的物品を対象とする。生分解性ブロックコポリマーは、少なくとも1個の第1の生分解性ポリマーブロックと、第1の生分解性ポリマーブロックとは異なる少なくともの1個の第2の生分解性ポリマーブロックとを含む。生侵食性ポリマー領域は、少なくとも1個の第1の生分解性ポリマーブロックから形成される第1の相ドメインと、少なくとも1個の第2の生分解性ポリマーブロックから形成される第2の相ドメインとを含む。第1と第2の相ドメインの少なくとも一方は、分散相要素の形態の不連続相ドメインであり(例えば、球、長球、棒など)、そのすべて又は実質的にすべて(数で少なくとも99%)が1ミクロン未満(例えば、1ミクロン未満、500nm未満、250nm未満、100nm未満、50nm未満など)の最長断面寸法(例えば、球の場合は直径、棒の場合は長さなど)を有する。
【0013】
例えば、第1と第2の相ドメインはどちらも不連続であってもよいし、第1の相ドメインは連続であって第2の相ドメインは不連続であってもよいし、又は第1の相ドメインは不連続であって第2の相ドメインは連続であってもよい。
【0014】
一部の実施形態においては、第1と第2の相ドメインの一方は連続相ドメインであり、第1と第2の相ドメインの他方は不連続相ドメインであり、不連続相ドメインの分散相要素は、1ミクロン以下の最長断面長さを有する球形又は他の低アスペクト比粒子(すなわち、5以下のアスペクト比を有する粒子)である。
【0015】
不連続相ドメインの分散相要素は、必要に応じて適切な染料で染色後に、例えば、AFM(原子間力顕微鏡法)、TEM(透過型電子顕微鏡法)又はSEM(走査型電子顕微鏡法)を含めて、ブロックコポリマー技術分野で公知の種々の技術によって可視化することができる。
【0016】
図2Aは、本発明の一実施形態に係る医学的物品の略図である。この医学的物品は、第1の連続相ドメイン110cと第2の不連続相ドメイン110dを含む生侵食性ポリマー領域100からなる。第2の不連続相ドメイン110dは、分散相要素の形態(すなわち、球)であり、そのすべて又は実質的にすべてが1ミクロン未満の最長断面寸法(すなわち、直径)を有する。
【0017】
図2Aは本発明の別の一実施形態に係る医学的物品の略図である。この医学的物品は、基板120を含み、その上に図2Aのような生侵食性ポリマー領域100が配置されている。本発明に係るポリマー領域110が支持され得る基板120としては、生物学的に安定で生侵食性の有機(例えば、ポリマー)基板、並びに生物学的に安定で生侵食性の無機(例えば、金属又は非金属)基板が挙げられる。
【0018】
本明細書では「ポリマー領域」は、ポリマーを含む、例えば、50wt%以下から75wt%、90wt%、95wt%、97.5wt%、99wt%以上までのポリマーを含む、領域(例えば、物品全体、物品成分、物品被膜層など)である。
【0019】
本明細書では「ポリマー」は、モノマーと一般に称される1個以上の構成単位の複数のコピー(例えば、5から10、25、50、100、250、500、1000以上のコピー)を含む分子である。本明細書では「モノマー」とは、遊離モノマーを指すことがあり、ポリマーに組み入れられたモノマーを指すこともある。その区別は、この用語が使用される文脈から明らかである。
【0020】
ポリマーは、例えば、線状、環式及び分枝配置から選択され得る、幾つかの立体配置を取り得る。分枝配置としては、星形配置(例えば、3本以上の鎖が単一の分岐部から発する立体配置)、櫛形配置(例えば、主鎖と複数の側鎖を有する立体配置)、樹状配置(例えば、樹枝状及び超分岐ポリマー)、ネットワーク配置(例えば、架橋ポリマー)などが挙げられる。
【0021】
本明細書では「ホモポリマー」は、単一構成単位の複数のコピーを含むポリマーである。「コポリマー」は、少なくとも2つの異なる構成単位の複数のコピーを含むポリマーであり、その例としては、ランダム、統計、傾斜、周期(例えば、交互)及びブロックコポリマーが挙げられる。
【0022】
本明細書では「ブロックコポリマー」は、例えば、他のポリマーブロックには存在しない構成単位(すなわち、モノマー)が一ポリマーブロックに存在するので、2種類以上の異なるポリマーブロックを含むコポリマーである。本明細書では「ポリマーブロック」は、ポリマーの一部又はすべてを形成する構成単位(例えば、5から10、25、50、100、250、500、1000以上の単位)の一分類である。ブロックは分枝の場合も非分枝の場合もある。ブロックは、(本明細書では「ホモポリマーブロック」とも称する)単一タイプの構成単位、又は例えば、周期(例えば、交互)、ランダム、統計若しくは傾斜分布で提供され得る(本明細書では「コポリマーブロック」とも称する)複数タイプの構成単位を含むことができる。
【0023】
所与のポリマー領域における所与のブロックコポリマーの異なるポリマーブロックは、それらが十分な長さであるとして、典型的には互いに非混和性であり、ポリマー領域内で異なる相(又は「相ドメイン」)を形成する。各相ドメインに付随する要素の形状、サイズ及び間隔は、とりわけ、相ドメインの形成に使用される加工技術、ポリマーブロック全体のサイズ(分子量)、及び(各相ドメインの相対体積に影響を及ぼす)互いに対する異なるポリマーブロックのサイズを含めて、幾つかの因子によって制御することができる。
【0024】
図1は、所与のポリマー領域において、第1のモノマー組成を有する少なくとも1個のポリマーブロックAと、異なるモノマー組成を有する少なくとも1個のポリマーブロックBとを含むブロックコポリマー(例えば、ABジブロックコポリマー、ABAトリブロックコポリマーなど)から形成され得る形態を模式的に示す。Aブロックは、図1において暗灰色の陰影で表される第1の相ドメインを形成し、Bブロックは、図1において明灰色/白色の陰影で表される第2の相ドメインを形成する。相Aによって占有される相対体積が高から低になるにつれ、例えば、Bブロック(単数又は複数)の分子量がAブロックよりも増加するにつれ、遭遇し得る形態としては、(a)相Aのマトリックス(連続相)中の相Bの球(不連続相)、(b)相Aのマトリックス(連続相)中の相Bの円柱(不連続相)、(c)共連続系としても知られる、相Bの二重迷路及び相Aのマトリックス中(例えば、ダブルジャイロイド)、(d)相Aと相Bの交互シート(例えば、ラメラ)(「共不連続(bi−discontinuous)」系)、(e)相Bのマトリックス中の相Aの二重迷路、(f)相Bのマトリックス中の相Aの円柱、及び(g)相Bのマトリックス中の相Aの球が挙げられる。より複雑な立体配置が、3つの異なる相A、B及びCを有するポリマーによって示され得る。
【0025】
本明細書では、ポリマー又はポリマーブロックは、結合開裂の機構(例えば、酵素分解、加水分解、酸化など)にかかわらず、ポリマー骨格に沿ってin vivoで結合開裂する場合、「生分解性」である。
【0026】
本明細書では「生侵食(bioerosion)」は、生分解(及び溶解などの別のin vivo崩壊プロセスなど)の結果であり、ポリマー領域の初期質量の経時的減少を特徴とする。ポリマー領域は、(a)主に表面から内側に向かって次第に生侵食され得る(表面侵食)、(b)主にその体積全体にわたって次第に生侵食され得る(バルク侵食)(これは、上述したように、ポリマー領域の断片化をもたらし得る)、又は(c)バルク侵食と表面侵食の組合せを受け得る。
【0027】
背景として、また、理論に拘束されるものではないが、ポリマー生分解は、種々の結合開裂機構(例えば、加水分解、酵素分解など)から生じ得、一般にポリマーが水(場合によっては触媒などの別の種)に曝される必要がある。上述したように、ポリマーは、表面侵食、バルク侵食又はその組合せを受け得る。具体例として、加水分解は、水と接触したときに、とりわけ、ポリ酸無水物、ポリエステル、ポリオルトエステルなどの生分解性ポリマーにおいて起こる。加水分解がポリマーバルクへの水の浸透速度よりも速く進行する場合には、表面侵食が優勢である。加水分解がポリマーバルクへの水の浸透速度よりも遅く進行する場合には、バルク侵食が優勢である。したがって、ポリ酸無水物、ポリオルトエステルなど、水の浸透よりも比較的高い加水分解速度を有するポリマーは、表面侵食性ポリマーと一般に称されるのに対して、ポリエステルなど、水の浸透よりも比較的低い加水分解速度を有するポリマーは、バルク侵食性ポリマーと一般に称される。
【0028】
ある態様においては、本発明の生侵食性ポリマー領域は、少なくとも1種類の低ガラス転移温度(Tg)生分解性ポリマーブロックと少なくとも1種類の高Tg生分解性ポリマーブロックとを含む、生分解性ブロックコポリマーを含む。生侵食性ポリマー領域は、少なくとも1種類の低Tg生分解性ポリマーブロックから形成される第1の相ドメインと、少なくとも1種類の高Tgの生分解性ポリマーブロックから形成される第2の相ドメインとを含む。さらに、第1と第2の相ドメインの少なくとも一方は、不連続相ドメインであり、その分散相要素は最長断面寸法がすべて又は実質的にすべて1ミクロン未満である。
【0029】
本明細書では「低Tポリマーブロック」は、体温(ヒトの場合37℃)未満、より典型的には35℃から20℃、0℃、−25℃、−50℃以下までのTを示すポリマーブロックである。逆に、高い又は「高Tポリマーブロック」は、体温を超える、より典型的には40℃から50℃、75℃、100℃以上までのガラス転移温度を示すポリマーブロックである。Tは、示差走査熱量測定(DSC)を含めた幾つかの技術のいずれかによって測定することができる。一般に、低Tポリマーブロックは体温で軟質かつエラストマー的であるのに対して、高Tポリマーブロックは硬質である。
【0030】
ある実施形態においては、本発明に係るブロックコポリマーは、少なくとも1個の低Tgブロックによって互いに分離された少なくとも2個の高Tgポリマーブロック(換言すれば、高Tgブロックが低Tgブロックを介して相互接続されたブロックコポリマー)を含み得る。
【0031】
例としては、例えば、とりわけ以下の立体配置(式中、「L」は線状低Tgポリマーブロックを示し、「H」は線状高Tgポリマーブロックを示す)、すなわち、(a)HLH、(LH)、L(HL)及びH(LH)型(式中、mは2以上の正の整数である)の交互ブロックを有するブロックコポリマー、(b)X(LH)(式中、Xは中心種(例えば、開始剤分子残基、架橋残基など)であり、mは2以上の正の整数である)などの(星を含めた)複数の腕を有するコポリマー、及び(c)低Tgポリマー骨格と複数の高Tg側鎖を有する櫛形コポリマーが挙げられる。ブロックコポリマー命名法においては、非単量体種は一般に無視されることに留意されたい。例えば、m=2であるコポリマーX(LH)(すなわち、HLXLH)では、中心種は典型的には無視され、ポリマーはHLHトリブロックコポリマーとして識別される。
【0032】
上記段落に記載のもののようなブロックコポリマーは、(Hブロックから形成される)硬質相ドメインと(Lブロックから形成される)エラストマー相ドメインに相分離する傾向がある。かかるポリマーは、良好な柔軟性/弾性及び強度を示す能力があるが、同時に溶媒及び/又は溶融に基づく加工技術などの技術を使用して加工することができる。
【0033】
本発明のコポリマーの低及び高Tg生分解性ポリマーブロックの形成に使用し得るポリマーブロックの例としては、ポリエステル、ポリエーテル−エステル、ポリオルトエステル、ポリ酸無水物、ポリカーボネート及びポリアミド−エステルブロックが挙げられる。幾つかの具体例を以下に示す。Tgは可能であれば記述する。Tg情報源としては、I.Engelberg et al,Biomaterials,12(1991)292−304、及びM.Zilberman et al.,Annu.Rev.Biomed.Eng.,8(2006)153−80が挙げられる。
【0034】
生分解性ポリマーブロックとしては、ポリエステルポリマーブロック、例えば、アルファ−ヒドロキシ酸(例えば、グリコール酸、l−乳酸、d−乳酸など)、アルファ−及びベータ−ヒドロキシアルカン酸(例えば、3−ヒドロキシブチラート、3−ヒドロキシバリラート(hydroxyvalyrate)など)、及びラクトン、さらにはこれらのヒドロキシ酸に関連するもの(例えば、イプシロン−カプロラクトン)を含む、ホモポリマー及びコポリマーブロックが挙げられる。具体例としては、ポリ(l−ラクチド)(Tg60〜65℃)、ポリ(d,l−ラクチド)(Tg55〜60℃)、ポリ(d,l−ラクチド−co−グリコリド)(Tg45〜55℃)ブロックなどの高Tg生分解性ポリエステルブロックが挙げられる。そのうち、ポリ(l−ラクチド)は半結晶性であり、それが組み入れられるポリマー領域に更なる強度を付与し得る。具体例としては、さらに、ポリ(イプシロン−カプロラクトン)(Tg−62℃)、ポリ(3−ヒドロキシブチラート)(Tg1℃)、約0℃のTgが報告されたポリ(3−ヒドロキシブチラート−co−3−ヒドロキシバリラート)ブロックなどの低Tg生分解性ポリエステルブロックが挙げられる。ある実施形態においては、ラセミ混合物が好ましいこともある(例えば、ポリ(R,S−3−ヒドロキシブチラート))。
【0035】
生分解性ポリマーブロックとしては、さらに、生分解性ポリエーテル−エステルポリマーブロック、とりわけ、例えば、p−ジオキサノン、(Tg−10℃から0℃)などのエーテル−エステルモノマーを含むホモポリマー及びコポリマーブロック、例えば、ポリ(p−ジオキサノン)が挙げられる。
【0036】
生分解性ポリマーブロックとしては、さらに、イミノカーボネートを含むホモポリマー及びコポリマーブロックが挙げられる。ポリイミノカーボネートの具体例はポリ(デスアミノチロシン−チロシン(tyrosoine)−ヘキシルエステル−イミノカーボネート)(Tg55℃)である。更なる情報については、例えば、I.Engelberg et al,Biomaterials,12(1991)292−304及びその中で引用されている参考文献を参照されたい。
【0037】
生分解性ポリマーブロックとしては、さらに、ポリカーボネート、例えば、炭酸エチレン(1,3−ジオキソラン−2−オン)、炭酸プロピレン(4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン)、炭酸トリメチレン(1,3−ジオキサン−2−オン)、炭酸テトラメチレンなどのアルキレンカーボネートを含むホモポリマー及びコポリマーブロックが挙げられる。具体例としては、ポリ(エチレンカーボネート)(T10℃から30℃)及びポリ(トリメチレンカーボネート)(Tg−15℃)が挙げられる。
【0038】
生分解性ポリマーブロックとしては、ポリ酸無水物、例えば、以下のものなどの1個以上の多価酸を含むホモポリマー及びコポリマーブロックも挙げられる:セバシン酸(SA)、ビス−(p−カルボキシフェノキシルプロパート(carboxyphenoxylpropate))(CPP)、イソフタル酸(ISO)、ヘキサデカン二酸(HDA)、フマル酸(FA)、テレフタル酸(TA)、アジピン酸(AA)及びドデカン二酸(DD)。高Tgポリ酸無水物ブロックの具体例としては、とりわけ、ポリ(CPP−ISO)(20:80)(Tg110℃)、ポリ(CPP−ISO)(50:50)(Tg100℃)、ポリ(CPP−ISO)(75:25)(Tg230℃)、ポリ(CPP−ISO−SA)(15:58:27)(Tg46℃)、ポリ(CPP−ISO−SA)(17:66:16)(Tg83℃)、ポリ(CPP−ISO−TA)(50:40:10)(Tg111.6℃)及びポリ(CPP−ISO−TA)(25:60:15)(Tg105℃)が挙げられる。Domb、米国特許第4,997,904号を参照されたい。低Tgポリ酸無水物ブロックの具体例としては、ポリ(CPP−SA)(46:54)(Tg1.6℃)、ポリ(EAD)(Tg<0℃)、ポリ(EAD−SA)(22:78)(Tg<10℃)及びポリ(EAD−SA)(8:92)(Tg<10℃)が挙げられる。Polymer Data Handbook,James E.Mark,Ed.,Oxford University Press,1999,pp.303−4及び457−8を参照されたい。
【0039】
生分解性ポリマーブロックとしては、さらに、ポリオルトエステルが挙げられる。ポリオルトエステルの例としては、ジケテンアセタール、例えば、3,9−ジエチリデン−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(DETOSU)とジオールの反応によって形成されるポリオルトエステルが挙げられる。剛直なジオールの使用は、高Tgポリマーを与える。例えば、トランス−シクロヘキサンジメタノール(tCDM)をジオールとして使用すると、Tg120℃のポリ(DETOSU−tCDM)コポリマーが生成する。柔軟なジオールの使用は、低Tgポリマーを与える。例えば、1,6ヘキサンジオール(1,6−HD)を使用すると、Tg約20℃のポリ(DETOSU−1,6−HD)コポリマーが生成する。高級ジオール(例えば、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオールなど)は、ジオール長さの増加に伴いそのTgが減少するポリマーを生成する。例えば、1,12−ドデカンジオールは、Tg約0℃のコポリマーを生成する。剛直なジオールと柔軟なジオールの混合物は中間のTgを与える。例えば、DETOSUと、t−CDMと1,6−HDの混合物とのコポリマーは、55℃(t−CDM:1,6−HD=35:65)、84℃(t−CDM:1,6−HD=70:30)、95℃(t−CDM:1,6−HD=90:10)のTgが報告されている。高級ジオールから形成されるポリ(オルトエステル)は、低級ジオールから形成されるポリ(オルトエステル)よりも疎水性であり、その結果、より低速の分解速度を有する。オルトエステル結合は酸に不安定であるので、分解は、酸性種の導入によって増加し、アルカリ性種の導入によって減少し得る。この目的のために使用されてきた塩基性種の例としては、Mg(OH)が挙げられる。使用されてきた酸性種の例としては、遊離酸、及びポリマー構造に組み入れられる潜在的酸が挙げられる。具体例としてはスベリン酸及びナルトレキソンパモアート(palmoate)が挙げられる。更なる具体例としては、ポリマー鎖に組み入れることができ、分解すると酸性種を生成する、潜在的酸ジオール(例えば、乳酸、グリコール酸などのヒドロキシ酸の単量体、二量体、三量体などに基づくジオール)が挙げられる。かかる潜在的酸種もTgに影響を及ぼすことが知られている。例えば、DETOSUと、乳酸ジオールと、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール及び1,12−ドデカンジオールの一つとから調製されたポリ(オルトエステル)はすべて、潜在的酸ジオール量の増加に伴いTgが低下することが判明した。ポリオルトエステルに関する更なる情報については、例えば、Handbook of Biodegradable Polymers,Abraham J.Domb,Joseph Kost,David M.Wiseman,Eds.,CRC Press,1997,Chapter 6、Scaffolding in Tissue Engineering,Peter X.Ma and Jennifer Elisseeff,Eds.,CRC Press,2005,Chapter 7、及びその中で引用されている参考文献を参照されたい。
【0040】
上述したように、ポリオルトエステル及びポリ酸無水物は、一般に、表面侵食によって侵食される。
【0041】
上述したように、本発明の生侵食性ポリマー領域は、少なくとも1個の低Tg生分解性ポリマーブロックから形成される第1の相ドメインと、少なくとも1個の高Tg生分解性ポリマーブロックから形成される第2の相ドメインとを含む。さらに、第1と第2の相ドメインの少なくとも一方は、不連続相ドメインであり、その分散相要素は最長断面寸法がすべて又は実質的にすべて1ミクロン未満である。
【0042】
ある態様においては、本発明の生侵食性ポリマー領域は、表面侵食性ポリマーから形成される少なくとも1種類のブロック(表面侵食性ポリマーブロック)と少なくとも1種類の追加のポリマーブロックとを含む、生分解性ブロックコポリマーを含む。ポリマー生侵食性領域は、少なくとも1種類の表面侵食性ポリマーブロックから形成される連続相ドメインと、少なくとも1種類の追加のポリマーブロックから形成される不連続相ドメインとを含み、不連続相ドメインの分散相要素(例えば、分散した球、長球、棒など)は、最大断面長さがすべて又は実質的にすべて1ミクロン未満である。表面侵食性ブロック及び追加のポリマーブロックは、連続相ドメインが不連続相ドメインよりも速い速度で生侵食されるように選択される。その結果、連続相ドメインは(表面侵食性ポリマーブロックから形成されるので)、ポリマー領域の外表面から内側に向かって生侵食され、生侵食の進行につれ不連続相ドメインに対応する粒子を放出する。上述したように、多数の生分解性ポリマーに付随する問題は、脈管構造に移植後、断片に分解し、塞栓形成を引き起こし、及び/又は梗塞をもたらすおそれがあることである。本発明の本態様によれば、分解は、1ミクロン未満の粒子を生成する。このサブミクロンサイズでは、特に粒子が制御放出されることを考慮すると、塞栓形成や梗塞のリスクはない。
【0043】
ある実施形態においては、少なくとも1種類の表面侵食性ポリマーブロックは低Tgポリマーブロックであり、少なくとも1種類の追加のポリマーブロックは高Tgポリマーブロックである。ある実施形態においては、少なくとも1種類の表面侵食性ポリマーブロックは高Tgポリマーブロックであり、少なくとも1種類の追加のポリマーブロックは低Tgポリマーブロックである。例えば、高Tgブロックが低Tgブロックを介して相互接続された上記構造の一つを有するコポリマー、とりわけ、例えば、HLHトリブロックコポリマーが形成され得る。
【0044】
低Tg表面侵食性ポリマーブロックの例としては、低Tgポリ酸無水物ブロック及び低Tgポリオルトエステルブロックが挙げられる。低Tgポリ酸無水物ブロックの具体的例としては、上記のものなどの低Tgポリ(EAD)、ポリ(EAD−SA)及びポリ(CPP−SA)が挙げられる。低Tgポリオルトエステルブロックの具体例としては、分解を促進する潜在的酸種などの酸種と場合によっては一緒に、DETOSUと柔軟なジオール、例えば、C6−C12ジオールから形成されるポリオルトエステルブロックが挙げられる。
【0045】
追加の高Tgポリマーブロックの例としては、高Tgポリエステルポリマーブロック及び高Tgポリイミノカーボネートブロックが挙げられる。具体例としては、ポリ(l−ラクチド)、ポリ(d,l−ラクチド)、ポリ(d,l−ラクチド−co−グリコリド)、及びポリ(デスアミノチロシン−チロシン−ヘキシルエステル−イミノカーボネート)が挙げられる。高Tgの追加のポリマーブロックの更なる例としては、S.Brocchini et al,Journal of Biomedical Medical Research,42(1),66−75,(1998)に開示された高Tgポリアリラートが挙げられる。
【0046】
高Tg表面侵食性ポリマーブロックの例としては、高Tgポリ酸無水物ブロック及び高Tgポリオルトエステルブロックが挙げられる。高Tgポリ酸無水物ブロックのより具体的な例としては、とりわけ、上記のものから選択され得る、CPP、ISO、SA、TA、FA、AA、DD及びHDAの1種類以上から形成されるポリ酸無水物ブロックが挙げられる。高Tgポリオルトエステルのより具体的な例としては、分解を促進する潜在的酸種などの酸種と場合によっては一緒に、DETOSUと剛直なジオール、例えば、t−CDMから形成されるポリオルトエステルが挙げられる。
【0047】
追加の低Tgポリマーブロックの例としては、低Tgポリエステルブロック、低Tgポリエーテル−エステルブロック及び低Tgポリアルキレンカーボネートブロックが挙げられる。具体例としては、ポリイプシロン−カプロラクトン、ポリ(3−ヒドロキシブチラート)、ポリ(3−ヒドロキシブチラート−co−3−ヒドロキシバレラート)、ポリ(p−ジオキサノン)及びポリ(トリメチレンカーボネート)が挙げられる。
【0048】
上記のように、本明細書に記載の種々の生分解性ブロックコポリマーは、少なくとも1個の第1の生分解性ポリマーブロックと、第1の生分解性ポリマーブロックとは異なる少なくとも1個の第2の生分解性ポリマーブロックとを含む。ブロックコポリマーは、少なくとも1個の第1の生分解性ポリマーブロックから形成される第1の相ドメイン、及び少なくとも1個の第2の生分解性ポリマーブロック形成される第2の相ドメインを形成する。
【0049】
ある実施形態においては、本発明のブロックコポリマーは、第1と第2の相ドメインがin vivoで互いにより容易に分離するように、第1と第2のポリマーブロックが弱く結合されている。かかる弱い結合の例としては、急速に分解する結合を形成するモノマーで構成される(すなわち、第1及び第2のポリマーブロックよりも高い分解速度を有する)(例えば、1から2、5、10、20までのモノマーの範囲の)短い配列が挙げられる。かかる配列の具体例としては、グリコール酸エステル配列及びコハク酸エステル配列が挙げられる。第1及び第2のポリマーブロックは、典型的には、例えば、ある実施形態においてはブロックの分子量がほぼ10,000ダルトンのオーダー以上であるようなブロック長さを含む、はるかに長い長さである。
【0050】
本発明に係るブロックコポリマーは、逐次重合反応、マクロ開始剤及びマクロモノマーを使用する重合、並びに前もって形成されたポリマーが連結されてブロックコポリマーを形成する技術を含めて、ブロックコポリマー技術分野で公知の種々の技術を用いて形成することができる。例えば、二官能性開始剤Xを使用して、第1の生分解性ポリマー鎖(A)の第1の重合とそれに続く第2の生分解性ポリマー鎖(B)の第2の重合を実施して、上述したようにトリブロックコポリマーBABで表されるブロックコポリマーBAXABを形成することができる。別の例として、二官能性マクロ開始剤(例えば、開始剤基を各末端に有する第1の生分解性ポリマー鎖(A)を含む開始剤)を使用して、第2の生分解性ポリマー鎖(B)の重合を開始して、BABトリブロックコポリマーを生成することができる。更に別の例として、各々が一端に反応性官能基を有する2個の第1の生分解性ポリマー鎖(A)を、両末端に反応性官能基を有する第2の生分解性ポリマー鎖(B)と連結し、それによってABAトリブロックコポリマーを形成することができる。
【0051】
上述したように、本発明の生分解性ブロックコポリマーから形成される生侵食性ポリマー領域は、少なくとも1個の不連続相ドメインを含み、その分散相要素(例えば、分散球、棒など)は最大断面長さ(例えば、球直径、棒長さなど)がすべて又は実質的にすべて1ミクロン未満である。
【0052】
ブロックコポリマーによって生成される相ドメインの形態(例えば、サイズ、形状、間隔など)は、ブロックコポリマー自体の性質(例えば、コポリマー内の種々の生分解性ポリマーブロックの数及び長さ)及びポリマー領域の形成に使用される加工技術を含めて、幾つかの因子に影響され得る。
【0053】
例えば、第2のポリマーブロックに対する第1のポリマーブロックの分子量が大きいほど、第2のポリマーブロックに対応する相の体積分率に対する第1のポリマーブロックに対応する相の体積分率が大きくなる。種々の相ドメインの体積分率をこのように変化させることによって、異なる形態を作成することができる(例えば、他の候補の中でも、上で考察した、図1の球状、円柱状、層状及びダブルジャイロイド形態を参照されたい)。
【0054】
一部の実施形態においては、少なくとも1個の不連続相ドメインに付随する分散相要素のサイズは、ポリマーブロックが小さすぎて、顕微鏡法でも、認識できるほどに明確な相を生成しないところまで、不連続相ドメインを形成するポリマーブロックの全体サイズ(例えば、分子量)を縮小することによって減少させ得ることに留意されたい。
【0055】
一般的経験則として、平衡条件に近い加工条件は、球、棒などのより規則的な構造を形成する傾向にある。アニーリングプロセスも、相ドメイン形成、特に平衡相ドメイン配置に近似した相ドメイン形成と併せて採用することができる。
【0056】
ある実施形態においては、本発明に係るポリマー領域は、多数の他の候補の中でも、治療薬、例えば、抗再狭窄剤、増殖抑制剤、抗炎症剤又は抗菌剤が供給される。治療薬は、例えば、1個以上の第1のポリマーブロックから形成される第1の相ドメイン(例えば、連続相ドメインなど)と優先的に会合し、1個以上の第2のポリマーブロックから形成される第2の相ドメイン(例えば、不連続相ドメインなど)と優先的に会合し、又は第1と第2の相ドメインの界面を優先的に占有し得る。
【0057】
ある実施形態においては、溶媒ベースの技術を使用して、本発明のポリマー領域を形成する。これらの技術を使用すると、最終的に相ドメインを生成する生分解性ブロックコポリマー(単数又は複数)を含む溶液をまず作製し、続いて溶媒を除去して、相分離させ、相ドメインを生成させることによって、ポリマー領域を形成することができる。選択される溶媒は、1つ以上の溶媒種を含み、ポリマー領域を形成するコポリマー(単数又は複数)を溶解させるその能力、及び乾燥速度、表面張力などを含めた他の因子に基づいて一般に選択される。一般に、幾つかの溶媒を試験して、最適特性を有するポリマー領域を与える溶媒を見分ける。相ドメインの形態に影響を及ぼし得る加工因子としては、選択される具体的溶媒系、溶媒系のコポリマー(単数又は複数)濃度、溶媒蒸発が進行する温度、溶媒系の蒸発速度などが挙げられる。
【0058】
溶媒ベースの技術としては、とりわけ、例えば、溶媒キャスティング技術、スピンコーティング技術、ウェブコーティング技術、溶媒噴霧技術、浸漬技術、ブラシ、ローラー、スポンジなどのアプリケーターを使用したコーティング技術、インクジェット技術、及び空気懸濁を含めた機械的懸濁によるコーティングを含む技術が挙げられる。
【0059】
種々の移植可能又は挿入可能な医療機器を含めた種々の医学的物品に本発明に係るポリマー領域を備えることができる。種々の医学的物品としては、例えば、(冠動脈ステント、末梢血管ステント、大脳ステントなどの血管ステント、尿道ステント、尿管ステント、胆汁ステント、気管ステント、胃腸ステント及び食道ステントを含めた)ステント、ステント外被、ステントグラフト、血管移植片、腹部大動脈りゅう(AAA)装置(例えば、AAAステント、AAAグラフトなど)、血管アクセスポート、透析ポート、カテーテル(例えば、泌尿器カテーテル、又はバルーンカテーテル、種々の中心静脈カテーテルなどの血管カテーテル)、ガイドワイヤ、バルーン、フィルター(例えば、大静脈フィルター、及びディスティル(distil)保護装置用メッシュフィルター)、(Guglielmi離脱コイル及び金属コイルを含めた)脳動脈りゅう充填コイルを含めた塞栓形成装置、塞栓剤、中隔欠損閉鎖装置、装置から遠位の動脈の部分の治療のために動脈中に配置されるようになされた薬物デポー、心筋プラグ、パッチ、ペースメーカー、ペースメーカーリード、除細動リード及びコイル、脊髄刺激リードなどの神経刺激リード、深部脳刺激リード、末梢神経刺激リード、蝸牛移植片リード及び網膜移植片リードを含めたリード、左室補助人工心臓及びポンプを含めた補助人工心臓、完全人工心臓、シャント、心臓弁及び血管弁を含めた弁、血管閉鎖装置(特に、その動脈内部分)、吻合クリップ及びリング、蝸牛移植片、組織膨化装置、中耳腔換気用チューブ、胸部排液チューブ、腎ろうチューブ、軟骨、骨、皮膚、神経(例えば、脊髄を含めた神経路再生用)及び他のin vivo組織再生用組織エンジニアリングスカフォード、外科的部位における縫合糸、縫合糸アンカー、組織ステープル及び結さつクリップ、カニューレ、金属線結さつ糸、尿道スリング、ヘルニア「メッシュ」、人工じん帯、じん帯取付け及び半月板修復用鋲、人工関節、脊髄の椎間板及び核、移植骨、骨板、フィン及び融合装置などの整形外科装具、足首、膝及び手部位における締りばめねじ(interference screw)などの整形外科固定具、骨折固定用棒及びピン、頭蓋顎顔面修復用ねじ及びプレート、歯科インプラント、コンタクトレンズ、眼内レンズ、涙点プラグ、緑内障シャント、又は体に移植若しくは挿入される他の装置が挙げられる。
【0060】
上述したように、本発明に係るポリマー領域としては、医学的物品全体又は医学的物品の単なる一部(例えば、ポリマー被膜層、医療機器の独特な部品など)に対応する領域が挙げられる。例えば、本発明に係るポリマー被膜層を医学的物品の全表面又は医学的物品表面の単なる一部に施すことができる。
【0061】
(例えば、レーザー切断又は機械切断チューブ、1個以上の組まれた、織られた、又は編まれたフィラメントなどを含み得る)ステントなどの管状医療機器の具体例においては、本発明に係るポリマー領域(例えば、コーティング)は、ステントの全表面に施すことができ、又はステントの管腔内面、ステントの管腔外面、及び/又は(末端を含めて)管腔表面と反管腔側表面の間の外側面に施すことができる。ポリマーコーティングは、とりわけ、例えば適切なマスキング技術を使用して、所望のパターンで施すことができる。
【0062】
ポリマー分解を低減又は防止するために、本発明に係る医療機器を無水状態でパッケージすることができる(例えば、減圧下、乾燥不活性雰囲気中、無水溶媒中でのパッケージなど)。
【0063】
種々の実施形態を本明細書で具体的に説明し、記述したが、本発明の改変及び変形は、上記教示に包含され、本発明の精神及び意図される範囲から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内であることが理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ブロックコポリマーを含むポリマー領域を含む医学的物品であって、該生分解性ブロックコポリマーは、第1の生分解性ポリマーブロックと、該第1の生分解性ポリマーブロックとは異なる第2の生分解性ポリマーブロックとを含み、該ポリマー領域は、該第1のポリマーブロックから形成される第1の相ドメインと、該第2のポリマーブロックから形成される第2の相ドメインとを含み、該第1の相ドメインと第2の相ドメインの少なくとも一方は、分散相要素の形態の不連続相ドメインであり、該分散相要素の実質的にすべてが1ミクロン未満である長さを有する、医学的物品。
【請求項2】
前記医学的物品が移植可能又は挿入可能な医療機器である、請求項1に記載の医学的物品。
【請求項3】
前記医療機器が血管医療機器である、請求項2に記載の医学的物品。
【請求項4】
前記血管医療機器が、ステント、グラフト、ステントグラフト、大静脈フィルター、塞栓コイル、心臓弁、左心室アクセス装置、人工心臓及び血管閉鎖装置から選択される、請求項3に記載の医学的物品。
【請求項5】
前記分散相要素が球状要素を含む、請求項1に記載の医学的物品。
【請求項6】
前記第1の生分解性ポリマーブロックが低Tgポリマーブロックであり、前記第2の生分解性ポリマーブロックが高Tgポリマーブロックである、請求項1に記載の医学的物品。
【請求項7】
前記第1の生分解性ポリマーブロックと第2の生分解性ポリマーブロックの一方が高Tgポリマーブロックであり、該第1の生分解性ポリマーブロックと第2の生分解性ポリマーブロックの他方が低Tgポリマーブロックである、請求項1に記載の医学的物品。
【請求項8】
前記ブロックコポリマーが、低Tg中間ブロックと高Tg末端ブロックを含むトリブロックコポリマーである、請求項7に記載の医学的物品。
【請求項9】
前記低及び高Tgポリマーブロックが生分解性ポリエステルブロックである、請求項8に記載の医学的物品。
【請求項10】
前記低Tgポリマーブロックが、イプシロン−カプロラクトン、3−ヒドロキシブチラート、3−ヒドロキシバレラート及びその組合せから選択されるモノマーを含むホモポリマー及びコポリマーブロックから選択され、前記高Tgブロックが、l−ラクチド、d−ラクチド、グリコリド及びその組合せから選択されるモノマーを含むホモポリマー及びコポリマーブロックから選択される、請求項9に記載の医学的物品。
【請求項11】
前記第1のポリマーブロックと第2のポリマーブロックの間に、該第1のポリマーブロック及び第2のポリマーブロックよりも高い分解速度を有する短いモノマー配列を更に含む、請求項1に記載の医学的物品。
【請求項12】
前記第1の相ドメインが連続表面侵食性相ドメインであり、前記第2の相ドメインが前記分散相要素の形態の不連続相ドメインであり、該第1の相ドメインが該第2の相ドメインより高い生分解速度を有する、請求項1に記載の医学的物品。
【請求項13】
前記分散相要素が5以下のアスペクト比を有する、請求項12に記載の医学的物品。
【請求項14】
前記分散要素が実質的に球状の要素を含む、請求項12に記載の医学的物品。
【請求項15】
前記第1のポリマーブロックが低Tgポリ酸無水物ブロック又は低Tgポリオルトエステルブロックであり、前記第2のポリマーブロックが高Tgポリマーブロックである、請求項12に記載の医学的物品。
【請求項16】
前記第2のポリマーブロックが高Tgポリエステルブロックである、請求項15に記載の医学的物品。
【請求項17】
前記第1のポリマーブロックが高Tgポリ酸無水物ブロック又は高Tgポリオルトエステルブロックであり、前記第2のポリマーブロックが低Tgポリマーブロックである、請求項12に記載の医学的物品。
【請求項18】
前記第2のポリマーブロックが低Tgポリエステルブロックである、請求項17に記載の医学的物品。
【請求項19】
前記ブロックコポリマーが、少なくとも1個の低Tgポリマーブロックによって互いに分離された少なくとも2個の高Tgポリマーブロックを含む、請求項12に記載の医学的物品。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【公表番号】特表2011−529985(P2011−529985A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521281(P2011−521281)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/052097
【国際公開番号】WO2010/014703
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(506192652)ボストン サイエンティフィック サイムド,インコーポレイテッド (172)
【氏名又は名称原語表記】BOSTON SCIENTIFIC SCIMED,INC.
【Fターム(参考)】